(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(54)【発明の名称】癌を患っている被験者における、CD8陽性T細胞依存性免疫応答を増強させるための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220301BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220301BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220301BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220301BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220301BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220301BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220301BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220301BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220301BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220301BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220301BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220301BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220301BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220301BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220301BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220301BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20220301BHJP
【FI】
A61K45/00
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K35/17 Z
A61P37/04
A61P35/00
G01N33/53 Y
G01N33/574 A
C07K19/00
C07K14/725
C12N15/09 110
C12N15/62 Z
C07K16/00
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021539056
(86)(22)【出願日】2020-01-02
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020050039
(87)【国際公開番号】W WO2020141199
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2019-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】エルミーヌ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ロシニョール,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ベレイド-シューケア,ザキア
(72)【発明者】
【氏名】フーケ,ギュメット
(72)【発明者】
【氏名】クロヌ,ルシル
(72)【発明者】
【氏名】デュシオ,ミッシェル
(72)【発明者】
【氏名】リグノー-ブリカール,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】コマン,テレザ
(72)【発明者】
【氏名】ギエム,フラヴィア
(72)【発明者】
【氏名】ルペルティエ,イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ルナン,アメデ
(72)【発明者】
【氏名】ミルピエ,ピエール
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QQ96
4B063QR77
4B063QS05
4B063QS12
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB021
4C084ZB022
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB12
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
プログラム化細胞死1(PD1)などの免疫チェックポイントの標的化は、疲弊したCD8陽性T細胞の制御を解き、これにより、抗腫瘍免疫応答を回復することによって、癌患者における生存率を改善した。しかしながら、大半の患者は再発するか、又は、免疫チェックポイント遮断療法に対して難治性である。ここで、本発明者らは、NRP1が、PD1陽性CD8陽性T細胞の細胞溶解シナプスに動員され、PD-1と相互作用してPD-1の活性を増強することを示す。マウスでは、Nrp1のCD8陽性T細胞特異的な欠失は、自発的抗腫瘍免疫応答及び抗PD1抗体による抗腫瘍免疫応答を改善させる。同様に、ヒト転移性黒色腫でも、腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞におけるNRP1の発現は、抗PD1抗体(例えばペンブロリズマブ)で処置された患者の悪い予後を予測する。最後に、抗NRP1抗体と抗PD1抗体との組合せは、ヒトにおいて、特にCD8陽性T細胞の抗腫瘍応答において、相乗的である。したがって、NRP1のみの阻害又は免疫チェックポイント阻害剤(例えば抗PD1抗体)との組合せによる治療的阻害は、ヒト癌における腫瘍増殖を効率的に抑制することができた。本発明はまた、免疫チェックポイント分子(例えばPD-1)に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位と、NRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、多重特異的抗体に関する。本発明はまた、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように設計された細胞集団に関し、ここで、該細胞におけるNRP-1の発現は抑制されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、癌を患っている患者における腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞の量を増加させる方法。
【請求項2】
前記NRP-1阻害剤が、NRP-1に対する結合親和性を有する抗体、特にNRP-1のドメインcに結合する抗体、セマフォリン3Aに結合するNRP-1の領域に対する結合親和性を有する抗体、又は配列番号1の1位のアミノ酸残基から280位のアミノ酸残基の範囲のアミノ酸配列に対する結合親和性を有する抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が、NRP-1に対するVEGFの結合を阻害しない、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗NRP-1抗体が、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記抗NRP-1抗体が、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列及び/又は配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記抗NRP-1抗体が、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む抗体と、NRP-1アイソフォームに対する結合に関して交差競合する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記NRP-1阻害剤が、NRP-1のドメインcを含むポリペプチド;NRP-1の膜貫通ドメインを含むポリペプチド;又は、配列番号1の1位のアミノ酸残基から280位のアミノ酸残基の範囲のアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記NRP-1阻害剤が、NRP-1発現阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法。
【請求項10】
i)患者から得られた腫瘍組織試料中のCD8陽性T細胞の密度を定量すること、ii)工程i)で定量された密度を、所定の基準値と比較すること、及びiii)治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
処置レジメンの一部として患者に投与される免疫チェックポイント阻害剤の効力を増強させるための方法であって、該免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて、薬学的有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、方法。
【請求項12】
免疫チェックポイント阻害剤とNRP-1阻害剤の治療に有効な組合せを患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法であって、該組合せの投与により、該免疫チェックポイント阻害剤の単独投与と比較して増強された治療有効性が得られる、方法。
【請求項13】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、及び抗B7H6抗体からなる群より選択された抗体である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記抗PD-1抗体が、ニボルマブ又はペンブロリズマブである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
PD-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とNRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、多重特異的抗体の治療有効量を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法。
【請求項16】
前記多重特異的抗体が二重特異的抗体である、請求項11記載の方法。
【請求項17】
癌ワクチンと組み合わせて治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法。
【請求項18】
癌を患っている患者が、免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成するかどうかを予測する方法であって、i)患者由来の腫瘍試料中のNRP-1又はセマフォリン3Aの発現レベルを決定すること、及びii)工程i)で決定された発現レベルを、所定の基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定された発現レベルが、所定の基準値より低い場合、患者は、該免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成すると結論付けること、又は、工程i)で決定された発現レベルが、所定の基準値より高い場合、患者は、該免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成しないと結論付けることを含む、方法。
【請求項19】
CD8の発現レベルを決定することを更に含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
i)患者から得られた腫瘍組織試料中のNRP-1又はセマフォリン3Aの発現レベルを決定すること、及びii)工程i)で決定された発現レベルを、所定の基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定された発現レベルが、所定の基準値より低い場合、患者に免疫チェックポイント阻害剤を投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法。
【請求項21】
PD-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とNRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、多重特異的抗体。
【請求項22】
二重特異的抗体である、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項23】
以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)と、
以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)と
を含む、NRP-1に特異的に結合する第一結合部位を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項24】
配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列と配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列とを含む、NRP-1に特異的に結合する第一結合部位を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項25】
PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号11のVHドメインと配列番号12のVLドメインとを含む、第二結合部位を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項26】
PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号15のVHドメインと配列番号16のVLドメインとを含む、第二の結合部位を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項27】
- NRP-1に特異的に結合し、かつ配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列と配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列とを含む、第一結合部位、及び
- PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号11のVHドメインと配列番号12のVLドメインとを含む、第二結合部位
を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項28】
- NRP-1に特異的に結合し、かつ配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列と配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列とを含む、第一結合部位、及び
- PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号15のVHドメインと配列番号16のVLドメインとを含む、第二結合部位
を含む、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項29】
癌の処置に使用するための、請求項17記載の多重特異的抗体。
【請求項30】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように設計されている細胞集団であって、該細胞におけるNRP-1の発現が抑制されている、細胞集団。
【請求項31】
前記細胞が、腫瘍浸潤性細胞(TIL)、CD4陽性T細胞、又はCD8陽性T細胞などのT細胞、及び幹細胞からなる群より選択される、請求項21記載の細胞集団。
【請求項32】
少なくとも1つの免疫チェックポイントタンパク質の発現も抑制されている、請求項21記載の細胞集団。
【請求項33】
i)CARをコードする核酸を細胞内に導入すること、及びii)該細胞を、エンドヌクレアーゼ系と接触させて、NRP-1の発現を抑制させることからなる工程を含む、CARを発現する細胞を製造する方法。
【請求項34】
i)CARをコードする核酸を細胞内に導入すること、並びにii)該細胞を、Casタンパク質と、及びNRP-1遺伝子に標的化する配列とCasタンパク質に結合することのできる配列とを含む少なくとも1つのガイドRNA分子(gRNA)とに接触させることからなる工程を含む、請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記細胞を、免疫チェックポイントタンパク質(例えばPD-1、CTLA-4など)をコードする遺伝子に標的化する配列を含む、少なくとも1つのガイドRNA分子に接触させることを更に含む、請求項25記載の方法。
【請求項36】
治療有効量の請求項21記載のT細胞集団を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、癌を患っている患者における、CD8陽性T細胞依存性免疫応答を増強させるための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
免疫系が癌を検出し排除できることが初めて100年以上前に提唱された。それ以来、腫瘍関連抗原に対して反応性であるT細胞が、多くの様々な種類の癌を有する患者の血液中に検出され、このことは、癌と戦う上での免疫系の役割を示唆する。自然免疫及び獲得免疫は、腫瘍細胞の場合のように「改変された」細胞と正常な細胞を区別する、リンパ球及びナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞を維持する。しかしながら、殆どの場合、腫瘍細胞は免疫による認識及び破壊を回避することができる。腫瘍の回避機序は、数多くあるが、共抑制分子の免疫抑制作用が、新規な癌の処置を想像するのに最も魅力的な機序として、ここ十年の間に出現した。リンパ球の活性化は実際に、B7/CD28スーパーファミリー(免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーとしても知られる)及びTNF(腫瘍壊死因子)/TNFR(腫瘍壊死因子受容体)スーパーファミリーに属している、共刺激分子及び共抑制分子の両方によって調節されている。これらのシグナル間のバランスが、リンパ球の活性化を決定し、結果として免疫応答を調節する。これらの共刺激分子及び共抑制分子は、「免疫チェックポイント」と呼ばれる。近年最も注目を集めている免疫チェックポイントは、プログラム化細胞死タンパク質1(PD-1)である。PD-1を阻害するモノクロール抗体、例えばニボルマブ及びペンブロリズマブは実際に、有意な有効性を実証し、すでに承認され、将来、大ヒットすると予想される。しかしながら、これらの薬物によって提唱されるかなりの進歩にも関わらず、幾人かの患者は応答せず、したがって、新規な治療選択肢を提供するために、前記の耐性の機序を同定する必要がある。
【0003】
ニューロフィリン-1(NRP-1)は、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの様々なメンバーに対する共受容体として作用する、膜貫通糖タンパク質である。クラス3セマフォリン、形質転換増殖因子-β(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、及び血管内皮細胞増殖因子(PDGF)などの多くの他の細胞外リガンドに結合しその活性を調節する能力は、様々な生理学的及び病理学的プロセスにおけるNRP-1の関与を示唆している。実際に、この共受容体は、軸索誘導、血管新生、腫瘍進行に関与している。本発明者ら及び他者らは、自然免疫及び獲得免疫の両方におけるNrp1の関与を示したが、抗腫瘍性細胞障害性T細胞におけるNRP-1の影響は、これまで研究されてこなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の概要:
特許請求の範囲によって定義されているように、本発明は、癌を患っている患者における、CD8陽性T細胞依存性免疫応答を増強させるための方法及び医薬組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の詳細な説明:
本発明者らは、今回、NRP-1が、細胞障害性T細胞(CD8陽性T細胞又は細胞障害性T細胞)によって発現され、PD-1と共局在し、該細胞上でPD-1と複合体を形成することを実証した。細胞障害性T細胞におけるNRP-1の発現の欠失により、動物においてより顕著な抗腫瘍応答がもたらされた。更に、動物におけるCD8陽性T細胞上でのNRP1の欠失と抗PD1阻害剤の組合せにより、相乗的な抗腫瘍効果がもたらされた。最後に、コンピューター分析は、患者におけるNRP-1の発現低下は、抗PD1阻害剤を用いて処置された患者におけるより良好な応答に関連することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
腫瘍浸潤性テトラマーH2kb/SIINFEKLマウスのCD8陽性T細胞におけるNrp1の発現。B16F10-オボアルブミン腫瘍細胞を、野生型C57BL/6マウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍の注射から7日後及び14日後、マウスを、ポリIC/オボアルブミンの組合せを用いて皮下に免疫化した。腫瘍を、注射から21日後に収集し、腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞を、テトラマーH2kb-SIINFEKL、抗CD8抗体、及び抗Nrp1抗体を使用して染色し、フローサイトメトリーによって分析した。データは、フローサイトメトリーグラフに、抗CD8抗体及びテトラマーH2kb-オボアルブミンを用いて提示されている。テトラマーH2kb-オボアルブミン陽性集団が、最頻値に正規化されたNrp1発現に関してヒストグラムに提示されている。データは、3回の独立した実験の代表である。
【
図2】6日目、8日目、15日目及び30日目における、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)アームストロング株(n=16)、LCMVクローン13株(n=16)、又は対照のナイーブCD44
lowCD8陽性T細胞(n=4)を用いたインビボでのマウスの感染による、H2-Db GP33特異的CD8陽性T細胞におけるNRP1の発現プロファイル。トランスクリプトミクス分析のデータは、Doering et al. Immunity, 2012から入手可能であった。P値は、二次元分散分析(p=0.0008)によって決定された。
【
図3】
抗腫瘍免疫応答モデルにおける、B16F10腫瘍体積の追跡。CD8陽性Nrp1ノックアウト(KO)マウス又はCD8CRE(野生型)マウスは、0日目に右脇腹に100万個のB16F10の投与を受け、続いて、マウス1匹あたり40μgのポリIC及び400μgのオボアルブミンを皮下注射される、ポリIC/オボアルブミンを用いての免疫化を7日目及び14日目に行なった。データは、注射から0日目、8日目、11日目、14日目、18日目、21日目に腫瘍体積の平均値+/-平均値の標準誤差として提示される。データは、3回の独立した実験の代表である。
【
図4】オボアルブミン及びポリICを用いて免疫化された又は免疫化されていない(対照)、CD8Nrp1ノックアウト(KO)マウス及び対照(野生型、WT)マウスから、フローサイトメトリーによって免疫化後14日目に評価された、4つの異なるマウス群のB16-オボアルブミン腫瘍における、テトラマー/PE-H2KbオボアルブミンCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球の比率。データは、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球テトラマー陽性の比率の平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値は、スチューデントT検定によって決定された。
**p<0.01、
*p<0.05。データは、3回の独立した実験の代表である。
【
図5】活性化CD8陽性T細胞と、細胞トレーサーバイオレットで標識されたA20細胞との間の同種異系シナプスモデルにおける、NRP1の発現(ピクセル強度の平均値/MPI)のImageStreamによる定量。NRP1の発現を、シナプス接合部(ファロイジンで高度に標識される帯域)における活性化CD8陽性T細胞において分析した。データは、MPIの平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値(p<0.0001)は、ウィルコクソンの符号付き順位検定によって決定された。データは、2つのシナプスモデルに由来する4回の独立した実験の代表である。
【
図6】PD1は、活性化CD8陽性T細胞と腫瘍細胞との間のシナプス内に動員される。活性化CD8陽性T細胞と同種異系A20腫瘍細胞との間のシナプスモデルにおけるPD1発現(ピクセル強度の平均値/MPI)のImagestreamによる分析:PD1の発現は、活性化CD8陽性T細胞と腫瘍細胞(A20)との間のファロイジンの高い領域において分析された。データは、MPIの平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値は、スチューデントT検定によって決定された。データは、5回の実験の代表である。
【
図7】ヒトCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球におけるNRP1及びPD1の発現のフローサイトメトリーによる分析。データは、ヒト子宮癌、腎臓癌、及び卵巣癌における3回の独立した実験の代表である。
【
図8】CD8Nrp1ノックアウトマウス(KO)又は対照(WT)に由来する活性化CD8陽性T細胞と、同種異系A20腫瘍細胞との間の、シナプス接合部(ファロイジンで高度に標識される帯域)におけるPD1発現(MPI)のImageStreamによる定量。データは、MPIの平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値(p<0.0001)は、マンホイットニー検定によって決定された。データは、2回の独立した実験の代表である。
【
図9】CD8Nrp1ノックアウトマウス(KO)又は対照マウス(WT)に由来する活性化CD8陽性T細胞と、細胞トレーサーバイオレットで標識されたA20腫瘍細胞との間の、シナプス接合部(ファロイジンで高度に標識される帯域)におけるリン酸化ZAP70の量(ピクセル強度の平均値/MPI)のImageStreamによる定量。データは、MPIの平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値(p<0.0001)は、マンホイットニー検定によって決定された。データは、3回の独立した実験の代表である。
【
図10】NRP1発現による、ヒトPD1陽性CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球における、リン酸化ZAP70のフローサイトメトリーによる分析。データは、ヒト子宮癌における1回の実験の代表である。
【
図11】抗PD1抗体の存在下又は非存在下における、ブドウ球菌腸毒素B(SEB)スーパー抗原の濃度(0、1、10、又は100ng/mL)に対する、NRP1ハプロ不全を有する患者(患者)又は対照(N=5)に由来するCD8陽性T細胞における、CD25の発現のフローサイトメトリー分析。活性化は、72時間の間に行なわれた。データは、CD25の発現の平均値%±平均値の標準誤差として提示される。ヒト抗PD1抗体(ペンブロリズマブ、メルク社)。
【
図12】抗PD1抗体の存在下又は非存在下における、ブドウ球菌腸毒素Bスーパー抗原の濃度(0、1、10、又は100ng/mL)に対する、NRP1ハプロ不全を有する患者(患者)又は対照(N=5)に由来する分裂したCD8陽性T細胞の比率のフローサイトメトリー分析。活性化は、72時間の間に行なわれた。データは、平均値±平均値の標準誤差として提示される。ヒト抗PD1抗体(ペンブロリズマブ、メルク社)。
【
図13】CD8Nrp1ノックアウト(KO)マウス及び対照(WT)マウスに、オボアルブミン及びポリICを用いて事前に免疫化し、そしてインビボで抗PD1抗体を用いて処置したか又は処置しなかった。免疫化後50日目までの、全生存率を評価した。データは、平均値±平均値の標準誤差として、及びカプランマイヤー曲線として提示される。P値はログランク検定によって決定された。データは、5回の実験の代表である。バイオXセル社のマウス抗PD1抗体(J43クローン)。
【
図14】抗PD1抗体による処置前に、腫瘍において評価されたNRP1のRNAの発現(低い又は高い発現)に従って、抗PD1抗体を用いて処置された転移性黒色腫患者の全生存率の分析。転移性黒色腫の腫瘍のトランスクリプトーム分析のデータは、Hugo et al. Cell, 2016から入手可能であった。データは、カプランマイヤー曲線として提示される。P値(p=0.03)は、ログランク検定によって決定された(n=25人の患者)。
【
図15】治療を開始する前に免疫組織化学的検査によって評価された、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球におけるNRP1の発現(NRP1
-/lowをNRP1
+/highと比較)に従って、抗PD-1抗体を用いて処置され、少なくとも部分的な応答を達成した、転移性黒色腫患者の無再発生存率の分析。ブラインド分析を実施することにより、NRP1の発現を評価した。データは、カプランマイヤー曲線として提示される。P値(P=0.042)は、ログランク検定(n=15人の患者)によって決定された。
【
図16】腫瘍細胞(ラージ細胞)を含むシナプスにおける、ヒト活性化CD8陽性T細胞におけるリン酸化ZAP70の量(ピクセル強度の平均値/MPI)のImagestreamによる定量。データは、MPIの平均値±平均値の標準誤差として提示される。P値は、マンホイットニー検定によって決定された。ヒト抗NRP1抗体(AF3870、R&Dシステムズ社)、ヒト抗PD-1抗体(ペンブロリズマブ、メルク社)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
主な定義:
本明細書において使用する「T細胞」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、細胞性免疫において中心的な役割を果たす免疫系の重要な成分を示す。T細胞は、通常のリンパ球として知られている。なぜなら、それらは、主要組織適合性複合体分子による提示又は拘束により、それらのTCR(抗原に対するT細胞受容体)を用いて抗原を認識するからである。CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、γδT細胞、及び制御性T細胞(Treg)などの、各々明確に異なる機能を有するT細胞のいくつかのサブセットが存在する。
【0008】
本明細書において使用する「CD8陽性T細胞」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、それらの表面上にCD8を発現するT細胞のサブセットを指す。それらはMHCクラスI拘束性であり、細胞障害性T細胞として機能する。「CD8陽性T細胞」はまた、細胞障害性Tリンパ球(CTL)、Tキラー細胞、細胞障害性T細胞、又はキラーT細胞とも呼ばれる。CD8抗原は、免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーのメンバーであり、主要組織適合性複合体クラスI拘束性相互作用に関連した認識要素である。本明細書において使用する「腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞」という用語は、血流から去り、腫瘍内に遊走した、患者のCD8陽性T細胞のプールを指す。
【0009】
本明細書において使用する「CD4陽性T細胞」(ヘルパーT細胞又はTH細胞とも呼ばれる)という用語は、それらの表面上にCD4糖タンパク質を発現し、B細胞から形質細胞及びメモリーB細胞への成熟、並びに細胞障害性T細胞及びマクロファージの活性化をはじめとする、免疫学的プロセスにおける他の白血球を補助するT細胞を指す。CD4陽性T細胞は、それらが、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現されるペプチド抗原を、MHCクラスII分子によって提示された場合に活性化状態となる。一旦活性化されると、それらは急速に分裂し、活発な免疫応答を調節又は補助するサイトカインを分泌する。これらの細胞は、異なるサイトカインを分泌する、TH1、TH2、TH3、TH17、TH9、TFH(濾胞性ヘルパーT細胞)、又はTreg(制御性T細胞)をはじめとする、いくつかのサブタイプの中の1つへと分化して、異なる種類の免疫応答を促進することができる。抗原提示細胞からのシグナル伝達は、T細胞を特定のサブタイプへと方向づける。CD4の他に、当技術分野において公知であるヘルパーT細胞の表面バイオマーカーとしては、CXCR3(Th1)、CCR4、Crth2(Th2)、CCR6(Th17)、CXCR5(Tfh)並びにサブタイプ特異的なサイトカインの発現及び転写因子(T-bet、GATA3、EOMES、RORγT、BCL6、及びFoxP3を含む)が挙げられる。
【0010】
本明細書において使用する「ガンマデルタT細胞」という用語は当技術分野においけるその一般的な意味を有する。ガンマデルタT細胞は通常、健康な個体(ヒト、サル)における末梢血リンパ球の1~5%を占める。それらは、防御性免疫応答の開始に関与し、それらは、抗原提示細胞のMHC分子による提示を全く受けることなく、抗原との直接的な相互作用によってそれらの抗原性リガンドを認識することが示された。ガンマ9デルタ2T細胞(時に、ガンマ2デルタ2T細胞とも呼ばれる)は、可変ドメインVγ9とVδ2とを有するT細胞受容体を有するガンマデルタT細胞である。それらはヒト血液中のガンマデルタT細胞の大半を形成する。活性化されると、ガンマデルタT細胞は、強力でMHC拘束性ではない細胞障害活性を発揮し、特に、様々な種類の細胞、特に病原細胞の死滅に効果的である。これらは、ウイルス(Poccia et al., J. Leukocyte Biology, 1997, 62: 1-5)に、又は他の細胞内寄生虫、例えばマイコバクテリア(Constant et al., Infection and Immunity, December 1995, vol. 63, no. 12: 4628-4633)若しくは原虫(Behr et al., Infection and Immunity, 1996, vol. 64, no. 8: 2892-2896)に感染した細胞であってもよい。それらはまた、癌細胞(Poccia et al., J. Immunol., 159: 6009-6015; Fournie and Bonneville, Res. Immunol., 66th Forum in Immunology, 147: 338-347)であってもよい。それ故、インビトロ、エクスビボ、又はインビボで該細胞の活性を調節できることは、感染症(特にウイルス性疾患又は寄生虫性疾患)、癌、アレルギー、及び更には自己免疫障害及び/又は炎症障害などの様々な病態の処置における、新規で有効な治療アプローチを提供する。
【0011】
本明細書において使用する「CAR-T細胞」という用語は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作されたTリンパ球を指す。CAR T細胞の定義は、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、ガンマデルタT細胞、並びに、エフェクターT細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞などをはじめとする全てのクラス及びサブクラスのTリンパ球を包含する。遺伝子的に改変されたTリンパ球は、遺伝子的に改変されたT細胞を使用した処置を受けるであろう被験者「に由来」若しくは「から得られ」ても、又は、それらは異なる被験者「に由来」若しくは「から得られ」てもよい。
【0012】
本明細書において使用する「キメラ抗原受容体」又は代替的には「CAR」という用語は、1セットのポリペプチド、典型的には最も簡単な実施態様では2セットのポリペプチドを指し、これは免疫エフェクター細胞にある場合、該細胞に標的細胞、典型的には癌細胞に対する特異性、及び細胞内シグナルの発生をもたらす。いくつかの実施態様では、CARは、少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメイン、1つの膜貫通ドメイン、並びに、以下に定義されているような刺激分子及び/又は共刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含んでいる細胞質内シグナル伝達ドメイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも称される)を含む。いくつかの態様では、ポリペプチドのセットは、互いに連続している。いくつかの実施態様では、ポリペプチドのセットは、二量体化スイッチを含み、これは二量体化分子が存在すると、ポリペプチドを互いに結合させることができ、例えば、抗原結合ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに結合させることができる。いくつかの実施態様では、刺激分子は、T細胞受容体複合体に会合したゼータ鎖である。いくつかの実施態様では、細胞質内シグナル伝達ドメインは更に、以下に定義されているような少なくとも1つの共刺激分子に由来する1つ以上の機能的なシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施態様では、共刺激分子は、本明細書に記載の共刺激分子、例えば、4-1BB(すなわちCD137)、CD27及び/又はCD28から選択される。いくつかの実施態様では、CARは、1つの細胞外抗原結合ドメイン、1つの膜貫通ドメイン、及び、1つの刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含んでいる細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいる、キメラ融合タンパク質を含む。いくつかの実施態様では、CARは、1つの細胞外抗原結合ドメイン、1つの膜貫通ドメイン、及び、1つの共刺激分子に由来する1つの機能的シグナル伝達ドメインと1つの刺激分子に由来する1つの機能的シグナル伝達ドメインとを含んでいる細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいる、キメラ融合タンパク質を含む。いくつかの実施態様では、CARは、1つの細胞外抗原結合ドメイン、1つの膜貫通ドメイン、及び1つ以上の共刺激分子に由来する2つの機能的シグナル伝達ドメインと1つの刺激分子に由来する1つの機能的シグナル伝達ドメインとを含んでいる細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいる、キメラ融合タンパク質を含む。いくつかの実施態様では、CARは、1つの細胞外抗原結合ドメイン、1つの膜貫通ドメイン、及び1つ以上の共刺激分子に由来する少なくとも2つの機能的シグナル伝達ドメインと1つの刺激分子に由来する1つの機能的シグナル伝達ドメインとを含んでいる細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいる、キメラ融合タンパク質を含む。いくつかの実施態様では、CARは、CAR融合タンパク質のアミノ末端(N末端)に任意選択のリーダー配列を含む。いくつかの実施態様では、CARは更に、細胞外抗原結合ドメインのN末端にリーダー配列を含み、ここでのリーダー配列は、細胞プロセシング及び細胞膜へのCARの局在化の最中に、抗原結合ドメイン(例えばscFv)から場合により切断される。特定の態様では、CARは、CD3ゼータに融合したモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)と膜貫通ドメインとエンドドメインの融合物を含む。いくつかの実施態様では、CARは、CD3ゼータ、FcR、CD27、CD28、CD137、DAP10、及び/又はOX40などの更なる共刺激シグナル伝達用のドメインを含む。いくつかの実施態様では、共刺激分子、イメージング用(例えば、陽電子放出断層撮影用)のレポーター遺伝子、プロドラッグが添加されるとT細胞を条件付きで切除する遺伝子産物、ホーミング受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、及びサイトカイン受容体をはじめとする、分子を、CARと共発現させてもよい。
【0013】
本明細書において使用する「NRP-1」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ニューロフィリン-1を指す。NRP-1の例示的なヒト核酸配列は、NCBI参照配列NM_001024628.2によって示され、ヒトアミノ酸配列は、NCBI参照配列NP_001019799.1によって示される。特に、NRP-1のヒトアミノ酸配列は、配列番号1によって示される。NRP-1の基本構造は、5つのドメイン、すなわち、3つの細胞外ドメイン(a1a2、b1、b2及びc)、1つの膜貫通ドメイン、及び1つの細胞質内ドメイン(配列番号1)を含む。セマフォリン3Aに結合するa1a2ドメインは、配列番号1の1位のアミノ酸残基から280位のアミノ酸残基の範囲である。
【0014】
【0015】
本明細書において使用する「NRP-1の機能的等価体」は、セマフォリン3Aに結合し、それにより、NRP-1とセマフォリン3Aの相互作用を妨げることのできる、ポリペプチドである。「機能的等価体」という用語は、NRP-1の断片、突然変異体、及びムテインを含む。したがって、「機能的に等価」という用語は、タンパク質類似体が例えば、セマフォリン3Aに対する結合能を保持するように、アミノ酸配列を改変させることによって、例えば、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換、又は付加によって、得られたNRP-1の任意の等価体を含む。アミノ酸の置換は、例えば、アミノ酸配列をコードするDNAの点突然変異によってなされ得る。本明細書において使用する「機能的に等価な断片」という用語はまた、NRP-1の任意の断片又は断片の集合体も意味し得る。
【0016】
本明細書において使用する「NRP-1阻害剤」という用語は、NRP-1の機能及び/又は発現を阻害することのできる、化合物、物質、又は組成物を指す。例えば、該阻害剤は、NRP-1の発現若しくは活性を阻害することができるか、NRP-1を調節若しくは遮断することができるか、又はシグナル伝達経路を遮断することができる。特に、NRP-1阻害剤は、NRP-1とその対、特にセマフォリン-3Aとの間の相互作用を阻害する。特に、NRP-1の阻害剤は、NRP-1とVEGF(血管内皮増殖因子)との間の相互作用を阻害しない。
【0017】
本明細書において使用する「セマフォリン-3A」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヒトにおいてSEMA3A遺伝子によってコードされているタンパク質であるセマフォリン-3Aを指す。該用語はまた、COLL1、HH16、Hsema-1、Hsema-III、SEMA1、SEMAD、SEMAIII、SEMAL、SemD、及びcoll-1としても知られている。SEMA3A遺伝子は、セマフォリンファミリーのメンバーであり、免疫グロブリン様C2型(免疫グロブリン様)ドメイン、PSIドメイン、及びSemaドメインを有するタンパク質をコードしている。NRP-1の例示的なヒト核酸配列は、NCBI参照配列NM_006080.2によって示され、ヒトアミノ酸配列は、NCBI参照配列NP_006071.1によって示される。特に、セマフォリン3Aのヒトアミノ酸配列は、配列番号2によって示される。
【0018】
【0019】
本明細書において使用する「リンカー」という用語は、本発明のポリペプチドと免疫グロブリン配列部分とを連結する、少なくとも1アミノ酸の配列を指す。このようなリンカーは、立体障害を防ぐのに有用であり得る。いくつかの実施態様では、該リンカーは、4;5;6;7;8;9;10;11;12;13;14;15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30アミノ酸残基を有する。1つの有用なリンカー配列群は、国際公開公報第96/34103号及び国際公開公報第94/04678号に記載のような重鎖抗体のヒンジ領域に由来するリンカーである。他の例は、ポリ-アラニンリンカー配列である。
【0020】
本明細書において使用する「免疫チェックポイントタンパク質」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、シグナルを上昇させるか(刺激性チェックポイント分子)又はシグナルを低下させる(抑制性チェックポイント分子)のいずれかである、T細胞によって発現される分子を指す。免疫チェックポイント分子は、当技術分野において、CTLA-4及びPD-1依存性経路に類似した免疫チェックポイント経路を構成すると認識されている(例えば、Pardoll, 2012. Nature Rev Cancer 12:252-264; Mellman et al., 2011. Nature 480:480- 489参照)。抑制性チェックポイント分子の例としては、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CD277、IDO、KIR、PD-1、LAG-3、TIM-3及びVISTAが挙げられる。アデノシンA2A受容体(A2AR)は、癌療法における重要なチェックポイントとして捉えられる。なぜなら、腫瘍微小環境は、比較的高いレベルのアデノシンを有し、これにより、A2ARの活性化を通した、負の免疫フィードバックループに至るからである。B7-H3は、CD276とも呼ばれているが、これは当初、共刺激分子であると理解されていたが、現在では共抑制性であると捉えられている。B7-H4は、VTCN1とも呼ばれているが、これは腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージによって発現され、腫瘍回避において役割を果たしている。B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)は、CD272とも呼ばれているが、これはHVEM(ヘルペスウイルス侵入メディエーター)のリガンドである。BTLAの細胞表面発現は、ヒトCD8陽性T細胞のナイーブ細胞表現型からエフェクター細胞表現型への分化中に次第にダウンレギュレートされるが、腫瘍特異的CD8陽性T細胞は、高いレベルのBTLAを発現している。CTLA-4(細胞障害性Tリンパ球関連タンパク質4)は、CD152とも呼ばれているが、これは、制御性T細胞上に過剰発現され、T細胞の増殖を制御するように作用する。IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)は、関連した免疫抑制性酵素であるトリプトファン異化酵素である。別の重要な分子は、TDO(トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ)である。IDOは、T細胞及びNK細胞を抑制し、制御性T細胞及び骨髄由来サプレッサー細胞を生成及び活性化し、腫瘍の血管新生を促進することが知られている。KIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)は、ナチュラルキラー細胞上のMHCクラスI分子に対する受容体である。LAG3(リンパ球活性化遺伝子-3)は、制御性T細胞に対する作用並びにCD8陽性T細胞に対する直接作用によって、免疫応答を抑制するように働く。TIM-3(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3の略)は、活性化されたヒトCD4陽性T細胞上に発現し、Th1及びTh17サイトカインを調節する。TIM-3は、そのリガンドであるガレクチン-9と相互作用する時に細胞死をトリガーすることによって、Th1/Tc1の機能の負の調節因子として作用する。VISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサーの略)は主に、造血細胞上に発現し、よって、腫瘍内の白血球上におけるVISTAの一貫した発現は、VISTAによる遮断が、幅広い固形腫瘍に対して有効となることを可能にし得る。本明細書において使用する「PD-1」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、プログラム化細胞死タンパク質1(CD279としても知られる)を指す。PD-1は、免疫チェックポイントとして作用し、そのリガンドの1つであるPD-L1又はPD-L2と結合すると、T細胞の活性化を阻害する。
【0021】
本明細書において使用する「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、免疫抑制チェックポイントタンパク質の機能を阻害する任意の化合物を指す。阻害は、機能の低減及び完全な遮断を含む。好ましい免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質を特異的に認識する抗体である。多くの免疫チェックポイント阻害剤が公知であり、これらの公知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤から類推して、代替的な免疫チェックポイント阻害剤を(近い)将来開発することができる。免疫チェックポイント阻害剤は、ペプチド、抗体、核酸分子、及び低分子を含む。特に、本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、患者におけるCD8陽性T細胞、特に患者の腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞の増殖、遊走、存続性、及び/又は細胞障害活性を増強させるために投与される。免疫チェックポイント阻害剤がCD8陽性T細胞の殺滅活性を増強する能力は、当技術分野において周知である任意のアッセイによって決定され得る。典型的には、該アッセイは、CD8陽性T細胞を、標的細胞(例えば、CD8陽性T細胞によって認識及び/又は溶解される標的細胞)と接触させる、インビトロアッセイである。例えば、本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、同じエフェクター細胞:標的細胞の比で、CD8陽性T細胞又はCD8陽性T細胞株を、本発明の免疫チェックポイント阻害剤と接触させて得られた、CD8陽性T細胞による比溶解を、20%超、好ましくは少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、又はそれ以上の比溶解だけ増加させる能力について選択され得る。古典的な細胞障害活性アッセイについてのプロトコールの例は慣用的である。したがって、「免疫チェックポイントの効力を増強させること」という表現は、NRP-1阻害剤が、免疫チェックポイント阻害剤の能力を高めて、CD8陽性T細胞の増殖、遊走、存続性、及び/又は細胞障害活性を増強させることができることを指す。
【0022】
したがって、本明細書において使用する「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指すために使用され、この用語は、抗原結合ドメイン、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、タンデム抗体ダイマー、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv(二本鎖Fv)、ds-scFv、Fd、鎖状抗体、ミニ抗体、ディアボディーズ、二重特異的抗体断片、ビボディ、トリボディ(それぞれ二重特異的又は三重特異的なscFv-Fab融合物);sc-ディアボディ;κ(λ)ボディーズ(scFv-CL融合物);BiTE抗体(二重特異的T細胞誘導抗体、T細胞を誘引するscFv-scFv);DVD-Ig(デュアル可変ドメイン抗体、二重特異的フォーマット);SIP(小型免疫タンパク質、一種のミニ抗体);SMIP(「小型モジュラー免疫医薬」scFv-Fcダイマー);DART(二本鎖安定化ディアボディ「デュアル親和性再標的化」);1つ以上のCDRを含む小型抗体模倣体などを含む、抗体断片を含む。様々な抗体をベースとした構築物及び断片を調製及び使用するための技術は当技術分野において周知である(Kabat et al., 1991参照、参照により本明細書に具体的に援用される)。ディアボディーズは特に、欧州特許第404,097号及び国際公開公報第93/11161号に更に記載され;一方、鎖状抗体は、Zapata et al. (1995)に更に記載されている。抗体は、慣用的な技術を使用して断片化され得る。例えば、F(ab’)2断片は、抗体をペプシンで処理することによって生成され得る。結果として得られたF(ab’)2断片を処理して、ジスルフィド橋を還元することにより、Fab’断片を生成することができる。パパインによる消化により、Fab断片が形成され得る。Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、ドメイン抗体、タンデム抗体、ds-scFv、ダイマー、ミニ抗体、ディアボディーズ、二重特異的抗体断片、及び他の断片も、組換え技術によって合成されても、又は、化学合成されてもよい。抗体断片を生成するための技術は、当技術分野において周知であり、記載されている。例えば、Beckman et al., 2006; Holliger & Hudson, 2005; Le Gall et al., 2004; Reff & Heard, 2001 ; Reiter et al., 1996;及びYoung et al., 1995はそれぞれ、有効な抗体断片の生成を更に記載及び可能としている。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、一本鎖抗体である。本明細書において使用する「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、天然的には軽鎖を欠失しているラクダ科哺乳動物に見られ得る種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体は、「ナノボディ(登録商標)」とも呼ばれる。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明のために、上記に引用されている先行技術、並びに、欧州特許第0368684号、Ward et al.(Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、 Holt et al.、Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490;及び国際公開公報第06/030220号、国際公開公報第06/003388号も参照されたい。
【0023】
げっ歯類及び霊長類の天然抗体では、2本の重鎖が互いにジスルフィド結合によって連結され、各々の重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に連結されている。軽鎖には2種類存在する:ラムダ(λ)及びカッパ(κ)。抗体分子の機能的活性を決定する、主に5つの重鎖のクラス(又はアイソタイプ)が存在する:IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgE。各々の鎖は、個別の配列ドメインを含有している。典型的なIgG抗体では、軽鎖は、2つのドメイン、すなわち1つの可変ドメイン(VL)及び1つの定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、すなわち1つの可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、まとめてCHと称される)を含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原に対する結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(CL)及び重鎖(CH)の定常領域ドメインは、抗体鎖の会合、分泌、経胎盤移動、補体との結合、及びFc受容体(FcR)への結合などの重要な生物学的特性を付与する。Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部分であり、1本の軽鎖と1本の重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性に存する。抗体結合部位は、主に超可変領域又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基から作られる。時に、非超可変領域又はフレームワーク領域(FR)由来の残基が、抗体結合部位に関与し得るか、又は、全体的なドメイン構造に影響を及ぼし得、したがって結合部位に影響を及ぼし得る。相補性決定領域すなわちCDRは、天然免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を一緒に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖は各々、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、及びH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と称される3つのCDRを有する。それ故、抗原結合部位は、典型的には、重鎖及び軽鎖の各々のV領域に由来するCDRセットを含む、6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列を指す。したがって、軽鎖及び重鎖の可変領域は典型的には、以下の配列の4つのフレームワーク領域及び3つのCDRを含む:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。抗体可変ドメイン内の残基は、通常、Kabat et al.によって考案されたシステムに従って番号付けされる。このシステムは、Kabat et al., 1987、Sequences of Proteins of Immunological Interest、米国保健福祉省、国立衛生研究所、米国(Kabat et al., 1992、本明細書において以後は「Kabat et al.」)に示されている。Kabat残基の呼称は常に、配列番号の配列のアミノ酸残基の直線的な番号付けに直接対応するとは限らない。実際の直線的なアミノ酸配列は、厳密なKabatの番号付けにおけるよりも、構造成分(フレームワーク領域であれ、又は基本的な可変ドメイン構造の相補性決定領域(CDR)であれ)の短縮又はそれへの挿入に対応する、より少ない又は追加されたアミノ酸を含有し得る。所与の抗体についての残基の正しいKabat番号付けは、抗体の配列内の相同性残基を、「標準的な」Kabatで番号付けされた配列とアラインさせることによって決定され得る。重鎖可変ドメインのCDRは、Kabatの番号付けシステムによると、残基31~35(H-CDR1)、残基50~65(H-CDR2)、及び残基95~102(H-CDR3)に位置する。軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabatの番号付けシステムによると、残基24~34(L-CDR1)、残基50~56(L-CDR2)、及び残基89~97(L-CDR3)に位置する。本明細書において以後記載されている抗体についてのCDRは、www.bioinf.org.ukのCDR発見アルゴリズムを使用して決定されている。抗体のページ内の「配列を見つけるためにどのようにしてCDRを決定するか(How to identify the CDRs by looking at a sequence)」と題した章を参照されたい。
【0024】
本明細書において使用する「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、天然的には軽鎖を欠失しているラクダ科哺乳動物に見られ得る種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体は、「ナノボディ(登録商標)」でもある。
【0025】
本明細書において使用する「scFv」という用語は、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片と、重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片とを含む、融合タンパク質を指し、ここで、軽鎖及び重鎖の可変領域は、例えば合成リンカー、例えば短い可動性ポリペプチドリンカーを介して連続的に連結され、一本鎖ポリペプチドとして発現されることができ、ここでのscFvは、それが由来するインタクトな抗体の特異性を保持している。特記されない限り、本明細書において使用するscFvは、例えばポリペプチドのN末端及びC末端について、いずれかの順序で、VL可変領域及びVH可変領域を有し得、scFvは、VL-リンカー-VHを含み得るか、又はVH-リンカー-VLを含み得る。
【0026】
本明細書において使用する「二重特異的抗体」という用語は、2つの標的分子に対して特異性を含む抗体、すなわち、少なくとも2つの異なるエピトープ、典型的には重なっていないエピトープに対して特異性を有する抗体を意味する。本明細書において使用する「完全なヒト」という用語は、免疫グロブリン、例えば抗体又は抗体断片を指し、ここでの完全分子は、ヒト起源であるか、又は、ヒト形態の抗体若しくは免疫グロブリンに対して同一であるアミノ酸配列からなる。
【0027】
本明細書において使用する「ヒト化」は、CDR領域外のいくつかの、大半の、又は全てのアミノ酸が、ヒト免疫グロブリン分子に由来する対応するアミノ酸で置換されている、抗体を説明する。
【0028】
本明細書において使用する「交差競合」という用語は、抗原の特定の領域に結合する能力を共有しているモノクローナル抗体を指す。本開示では、「交差競合」するモノクローナル抗体は、標準的な競合結合アッセイにおいて、抗原に対する別のモノクローナル抗体の結合を妨害する能力を有する。このようなモノクローナル抗体は、限定しない理論によると、それが競合する抗体と同じ、又は関連した、又は近くの(例えば構造的に類似した又は空間的に近い)エピトープに結合し得る。抗体Aが、抗体Bの結合を、該抗体の1つを欠失した陽性対照と比較して、少なくとも60%、特に少なくとも70%、より特定すると少なくとも80%減少させる場合(及びその逆の場合も同様に)に、交差競合が存在する。当業者は理解しているように、競合は、様々なアッセイの設定で評価され得る。1つの適切なアッセイは、ビアコア技術の使用(例えば、ビアコア3000機器(ビアコア、ウプサラ、スウェーデン)を使用することによる)を含み、これは、表面プラズモン共鳴技術を使用して、相互作用の程度を測定することができる。交差競合を測定するための別のアッセイは、ELISAに基づいたアプローチを使用する。更に、それらの交差競合に基づいて抗体を「ビニングする」ためのハイスループットプロセスが、国際特許出願第WO2003/48731号に記載されている。
【0029】
「発現の阻害剤」は、遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する、天然化合物又は合成化合物を指す。
【0030】
「エンドヌクレアーゼ」という用語は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素を指す。いくつかの、例えばデオキシリボヌクレアーゼIは、DNAを比較的非特異的に(配列に関係なく)切断し、一方、多くの、典型的には制限エンドヌクレアーゼ又は制限酵素と呼ばれるものは、非常に特定のヌクレオチド配列でしか切断しない。エンドヌクレアーゼに基づいたゲノム不活化の背後にある機序は一般的に、DNAの一本鎖又は二本鎖の切断という第一工程を必要とし、これはその後、DNA修復のための2つの明確に異なる細胞性機序(エラーを起こしがちな非相同末端結合(NHEJ)及び高忠実度の相同組換え修復(HDR))をトリガーし得、これがDNAの不活化に活用され得る。DNA標的化エンドヌクレアーゼは、天然に存在するエンドヌクレアーゼ(例えば細菌メガヌクレアーゼ)であっても、又は、それは人工的に作製されてもよい(例えば、遺伝子操作されたメガヌクレアーゼ、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又は、とりわけジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN))。
【0031】
いくつかの実施態様では、本発明のDNA標的化エンドヌクレアーゼは、TALENである。本明細書において使用する「TALEN」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、これは、標的遺伝子を編集するために使用することのできる人工的なヌクレアーゼである、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼを指す。TALENは、TALエフェクター(「TALE」)DNA結合ドメイン、例えば1つ以上のTALE、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のTALEをDNA修飾ドメイン、例えばFokIヌクレアーゼドメインに融合することによって人工的に作製される。転写活性化様エフェクター(TALE)は、任意の所望のDNA配列に結合するように設計されていてもよい(Zhang (2011), Nature Biotech. 29: 149-153)。操作されたTALEをDNA切断ドメインと組み合わせることによって、任意の所望のDNA配列に特異的である制限酵素を作製することができる。その後、これらを細胞内に導入することができ、ここでそれらはゲノム編集のために使用することができる(Boch (2011) Nature Biotech. 29: 135-6; and Boch et al. (2009) Science 326: 1509-12; Moscou et al. (2009) Science 326: 3501)。TALEは、キサントモナス属(Xanthomonas)によって分泌されるタンパク質である。DNA結合ドメインは、12番目と13番目のアミノ酸を除いて、反復している高度に保存された33~34アミノ酸配列を含有している。これらの2つの位置は非常に変動し、特定のヌクレオチドの認識と強い相関を示す。したがって、それらは、所望のDNA配列に結合するように設計されていてもよい(Zhang (2011), Nature Biotech. 29: 149-153)。TALENを作製するために、TALEタンパク質を、ヌクレアーゼ(N)、例えば野生型又は突然変異型のFokIエンドヌクレアーゼに融合させる。TALENにおいてそれを使用するために、FokIに対していくつかの突然変異が行なわれた;これらは、例えば、切断特異性又は活性を向上させる(Cermak et al. (2011) Nucl. Acids Res. 39: e82; Miller et al. (2011) Nature Biotech. 29: 143-8; Hockemeyer et al. (2011) Nature Biotech. 29: 731-734; Wood et al. (2011) Science 333: 307; Doyon et al. (2010) Nature Methods 8: 74-79; Szczepek et al. (2007) Nature Biotech. 25: 786-793; and Guo et al. (2010) J. Mol. Biol. 200: 96)。FokIドメインは、適切な方向及び間隔で、標的ゲノム内の部位に結合する独特なDNAドメインを有する2つの構築物を必要とする、二量体として機能する。TALEのDNA結合ドメインとFokI切断ドメインとの間のアミノ酸残基の数と、2つの個々のTALEN結合部位間の塩基の数の両方が、高いレベルの活性を達成するための重要なパラメーターであるようである(Miller et al. (2011) Nature Biotech. 29: 143-8)。TALENは、細胞内の、標的核酸に、例えば遺伝子内の部位に二本鎖切断を生じるために使用され得る。修復機序が非相同末端結合を介して切断を不適切に修復すると、突然変異が切断部位に導入される場合がある(Huertas, P., Nat. Struct. Mol. Biol. (2010) 17: 11-16)。例えば、不適切な修復は、フレームシフト突然変異を導入する場合がある。あるいは、外来DNAが、外来DNA配列及び染色体配列に応じて、TALENと共に細胞内に導入される場合があり;このプロセスを使用して、相同組換え修復経路を介して標的遺伝子を改変することができ、例えば、標的遺伝子内の欠陥を修正し、よって、修復された標的遺伝子の発現を引き起こすことができるか、又は例えば、このような欠陥を野生型遺伝子に導入して、よって標的遺伝子の発現を低減させることができる。
【0032】
いくつかの実施態様では、本発明のDNA標的化エンドヌクレアーゼは、ZFNである。本明細書において使用する「ZFN」すなわち「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、標的遺伝子を編集するために使用することのできる人工的ヌクレアーゼであるジンクフィンガーヌクレアーゼを指す。TALENと同様に、ZFNは、DNA結合ドメインに融合した、DNA改変ドメイン、例えばヌクレアーゼドメイン、例えばFokIヌクレアーゼドメイン(又はその誘導体)を含む。ZFNの場合、DNA結合ドメインは、1つ以上のジンクフィンガー、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のジンクフィンガーを含む(Carroll et al. (2011) Genetics Society of America 188: 773-782;及びKim et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1156-1160)。ジンクフィンガーは、1つ以上の亜鉛イオンによって安定化された小さなタンパク質構造モチーフである。ジンクフィンガーは、例えば、Cys2His2を含み得、約3bpの配列を認識することができる。特異性が既知である様々なジンクフィンガーを組み合わせて、多重フィンガーポリペプチドを作製することができ、これは約6、9、12、15、又は18bpの配列を認識する。ファージディスプレイ、酵母ワンハイブリッドシステム、細菌ワンハイブリッドシステム及びツーハイブリッドシステム、並びに哺乳動物細胞をはじめとする、様々な選択技術及びモジュラーアセンブリ技術を、特定の配列を認識するジンクフィンガー(及びその組合せ)を作製するために利用可能である。ジンクフィンガーは、予め決定された核酸配列に結合するように設計されていてもよい。予め決定された核酸配列に結合するようにジンクフィンガーを操作する基準は、当技術分野において公知である(Sera (2002), Biochemistry, 41:7074-7081; Liu (2008) Bioinformatics, 24:1850-1857)。FokIヌクレアーゼドメイン又は他の二量体ヌクレアーゼドメインを使用したZFNは、二量体として機能する。したがって、非回文構造のDNA部位に標的化するために、一対のZFNが必要とされる。2つの個々のZFNは、DNAの反対の鎖に結合しなければならず、それらのヌクレアーゼは適切な間隔を空けていなければならない(Bitinaite et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10570-5)。また、TALENと同様に、ZFNは、DNA内の二本鎖切断を引き起こすことができ、これは不適切に修復された場合、例えば非相同末端結合を介して、フレームシフト突然変異を引き起こす場合があり、これにより、細胞内の標的遺伝子の発現は低減する。
【0033】
いくつかの実施態様では、本発明のDNA標的化エンドヌクレアーゼは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼである。本明細書において使用する「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、短い反復塩基配列を含有している原核生物DNAのセグメントである、関連しているクラスター化して規則的な配置の短い回文反復配列を指す。細菌ではCRISPR/Cas遺伝子座は、可動遺伝因子(ウイルス、転位因子、及び接合性プラスミド)に対する、RNA誘導型適応免疫系をコードしている。3種類(I~VI)のCRISPR系が同定されている。CRISPRクラスターは、先行する可動因子に対して相補的な配列であるスペーサーを含有している。CRISPRクラスターは、転写及びプロセシングされて、成熟CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文反復配列)RNA(crRNA)となる。CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9及びCpf1は、II型及びV型CRISPR/Cas系に属し、標的DNAを切断する強力なエンドヌクレアーゼ活性を有する。Cas9は、約20ヌクレオチドの独特な標的配列(スペーサーと呼ばれる)を含む成熟crRNA(クリスパーRNA)、及び、リボヌクレアーゼIIIによって補助されるcrRNA前駆体のプロセシングのためのガイドとしての役目を果たすトランス活性化低分子RNA(tracrRNA)によって誘導される。crRNA:tracrRNA二本鎖は、crRNA上のスペーサーと標的DNA上の相補的配列(プロトスペーサーと呼ばれる)との間の相補的塩基対形成を介して、DNAに標的化するようにCas9に指令する。Cas9は、切断部位(PAMから3番目又は4番目のヌクレオチド)を特定するために、トリヌクレオチド(NGG)プロトスペーサーモチーフ(PAM)を認識する。crRNA及びtracrRNAは、別々に発現させても、又は合成ステムループを介して、人工的に融合させたスモールガイドRNA(sgRNA)へと操作して、天然crRNA/tracrRNA二本鎖を模倣してもよい。このようなsgRNA、例えば小ヘアピンRNA(shRNA)は、合成されても、又は直接的なRNAのトランスフェクションのためにインビトロで転写されても、又は、U6若しくはH1により促進されるRNA発現ベクターから発現させてもよい。
【0034】
いくつかの実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼである。Cas9ヌクレアーゼは、野生型化膿性連鎖球菌(ストレプトコッカス・ピオゲネス、Streptococcus pyrogenes)配列と同一なヌクレオチド配列を有していてもよい。いくつかの実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、他の種、例えば他のストレプトコッカス種、例えばサーモフィルス;緑膿菌、大腸菌(Escherichia coli)、又は他のシークエンスされた細菌ゲノム及び古細菌、又は他の原核微生物に由来する配列であってもよい。あるいは、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネスのCas9配列は改変されていてもよい。核酸配列は、哺乳動物細胞における効率的な発現のためにコドンが最適化されていてもよく、すなわち「ヒト化」されていてもよい。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761;又はKM099233.1 GL669193765に列挙されている発現ベクターのいずれかによってコードされているCas9ヌクレアーゼ配列であってもよい。あるいは、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、市販されているベクター、例えばアドジーン社(ケンブリッジ、MA州)のpX330、pX260、又はpMJ920内に含まれている配列であってもよい。いくつかの実施態様では、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1;GL669193761;若しくはKM099233.1 GL669193765のCas9エンドヌクレアーゼ配列のいずれかの変異体若しくは断片であるアミノ酸配列、又はpX330、pX260、若しくはpMJ920(アドジーン社、ケンブリッジ、MA州)のCas9アミノ酸配列を有していてもよい。
【0035】
いくつかの実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼはCpf1ヌクレアーゼである。本明細書において使用する「Cpf1タンパク質」という用語は、V型CRISPR-Cpf1系に由来するCpf1野生型タンパク質、Cpf1タンパク質の改変形、Cpf1タンパク質の変異体、Cpf1のオルソログ、及びその組合せを指す。cpf1遺伝子は、Cas9のそれぞれのドメインに対して相同であるが、Cas9タンパク質に存在しているHNHヌクレアーゼドメインを欠失している、RuvC様ヌクレアーゼドメインを有する、Cpf1タンパク質をコードしている。V型系は、パルキュバクテリア(Parcubacteria)細菌GWC2011_GWC2_44_17(PbCpf1)、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)細菌MC2017(Lb3 Cpf1)、ブチリビブリオ・プロテオクラスティカス(Butyrivibrio proteoclasticus)(BpCpf1)、ペレグリニバクテリア(Peregrinibacteria)細菌GW2011_GWA33_10(PeCpf1)、アシダミノコッカス(Acidaminococcus)属BV3L6(AsCpf1)、ポルフィロモナス・マカカエ(Porphyromonas macacae)(PmCpf1)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌ND2006(LbCpf1)、ポルフィロモナス・クレビオリカニス(Porphyromonas crevioricanis)(PcCpf1)、プレボテラ・ディシエンス(Prevotella disiens)(PdCpf1)、モラクセラ・ボボクリ(Moraxella bovoculi)237(MbCpf1)、スミセラ(Smithella)属SC_K08D17(SsCpf1)、レプトスピラ・イナダイ(Leptospira inadai)(LiCpf1)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌MA2020(Lb2Cpf1)、フランシセラ・ノビシダ(Franciscella novicida)U112(FnCpf1)、カンジダツス・メタノプラスマ・テルミツム(Candidatus methanoplasma termitum)(CMtCpf1)、及びユーバクテリウム・エリジェンス(Eubacterium eligens)(EeCpf1)をはじめとする、いくつかの細菌において同定されている。近年、Cpf1はまた、リボヌクレアーゼ活性も有し、かつクリスパーRNA(crRNA)前駆体のプロセシングにも関与することが実証された(Fonfara, I., et al., “The CRISPR-associated DNA-cleaving enzyme Cpf1 also processes precursor CRISPR RNA,” Nature 28; 532(7600):517-21 (2016))。
【0036】
本明細書において使用する「処置」又は「処置する」という用語は、疾患に罹患するリスクがあるか又は疾患に罹患していることが疑われる患者、並びに病気であるか又は疾患若しくは医学的状態を患っていると診断された患者の処置を含む、予防的処置又は防止的処置並びに治癒的処置又は疾患修飾処置の両方を指し、これは臨床的再発の抑制も含む。処置は、医学的障害を有するか又は最終的に障害を獲得する可能性がある患者に、障害又は再発している障害の1つ以上の症状を予防、治癒、その発症を遅延、その重症度を低減、又は寛解するために、あるいはこのような処置を行なわなかった場合に予想される生存期間を超えて患者の生存期間を延長するために投与され得る。「治療レジメン」は病気の処置のパターン、例えば療法中に使用される投薬パターンを意味する。治療レジメンは、誘導レジメン及び維持レジメンを含み得る。「誘導レジメン」又は「誘導期間」という語句は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。誘導レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間中に高いレベルの薬物を患者に提供することである。誘導レジメンは、医師が維持レジメン中に使用するであろう用量よりも高い用量の薬物を投与すること、医師が維持レジメン中に薬物を投与するであろう頻度よりも高い頻度で薬物を投与すること、又はその両方を含み得る、「負荷レジメン」を(部分的に又は全体的に)使用し得る。「維持レジメン」又は「維持期間」という語句は、病気の処置中の患者の維持のために、例えば患者を長い期間にわたり(数か月間又は数年間)寛解状態に保つために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、薬物を規則的な間隔で、例えば週1回、月1回、年1回などで投与)又は間欠的な療法(例えば断続的な処置、間欠的な処置、再発時の処置、又は特定の予め決定された基準[例えば、疼痛、疾患の徴候など]の達成時の処置)を使用し得る。
【0037】
本明細書において使用する「癌」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有するが、固形腫瘍及び血液由来の腫瘍に限定されない。癌という用語は、皮膚、組織、器官、骨、軟骨、血液、及び脈管の疾患を含む。「癌」という用語は更に、原発性癌及び転移性癌の両方を包含する。本発明の方法及び組成物によって処置され得る癌の例としては、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、大腸、食道、消化管、歯茎、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、又は子宮の癌細胞が挙げられるがこれらに限定されない。更に、癌は、特に以下の組織学的型であり得るが、これらに限定されない:悪性腫瘍;癌;未分化癌;巨細胞紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平細胞癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;悪性ガストリノーマ;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌と胆管癌の混合型;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫様ポリープの腺癌;家族性大腸ポリポーシスの腺癌;固形癌;悪性カルチノイド腫瘍;気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;色素嫌性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;塩基好性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭型及び濾胞型腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性乳管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;乳腺ページェット病;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生随伴腺癌;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質性腫瘍;悪性莢膜腫;悪性顆粒膜細胞腫;及び悪性セルトリ間質細胞腫瘍;セルトリ細胞癌;悪性ライディッヒ細胞腫;悪性脂質細胞腫瘍;悪性傍神経節腫;悪性乳房外傍神経節腫;褐色細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性悪性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑における悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫;悪性線維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;包巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;悪性混合腫瘍;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;悪性間葉腫;悪性ブレンナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胚性癌腫;悪性奇形種;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛癌;悪性中腎腫;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管外皮腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽細胞腫;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル上皮腫;エナメル上皮線維肉腫;悪性松果体腫;脊索腫;悪性神経膠腫;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;神経膠芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起神経膠芽細胞腫;原始神経外胚葉性腫瘍;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経髄腫;悪性顆粒細胞腫;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキンリンパ腫;側肉芽腫;小リンパ球性悪性リンパ腫;びまん性大細胞性悪性リンパ腫;濾胞性悪性リンパ腫;菌状息肉症;他の特定されていない非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;及び有毛細胞白血病。
【0038】
本明細書において使用する「腫瘍組織試料」という用語は、患者に由来する任意の組織腫瘍試料を意味する。該組織試料は、インビトロでの評価の目的のために得られる。いくつかの実施態様では、腫瘍試料は、患者から切除された腫瘍から得られてもよい。いくつかの実施態様では、腫瘍試料は、患者の原発性腫瘍で行なわれた生検から得られても、又は、患者の原発性腫瘍から遠い転移性腫瘍において行なわれた生検から得られてもよい。例えば、結腸直腸癌に罹患した患者の腸で行なわれた内視鏡生検。いくつかの実施態様では、腫瘍組織試料は、(i)全体の原発性腫瘍(まるごと)、(ii)腫瘍の中心の組織試料、(iii)腫瘍を直接囲んでいる組織の組織試料(この組織は、より具体的には腫瘍の「浸潤マージン」と命名され得る)、(iv)腫瘍と近接しているリンパ島、(v)腫瘍の最も近くに位置するリンパ節、(vi)(例えば、処置後の患者の経過観察のために)手術前に収集された腫瘍組織試料、及び(vii)遠隔転移を包含する。本明細書において使用する「浸潤マージン」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍を囲んでいる細胞環境を指す。いくつかの実施態様では、腫瘍組織試料は、それが腫瘍の中心に由来するか、腫瘍の浸潤マージンに由来するか、又は最も近いリンパ節に由来するかに関係なく、1つ又はいくつかの生物学的マーカーの更なる定量のための、特に組織学的方法又は免疫組織化学的方法を通した、フローサイトメトリー法を通した、及び、ゲノム分析及びプロテオミクス分析をはじめとする遺伝子又はタンパク質の発現分析法を通した定量のための、手術による腫瘍切除後又は生検のための組織試料の収集後を含む、腫瘍中心から取り出されたか、又は腫瘍を囲んでいる浸潤マージンから取り出された、組織片又は組織薄片を包含する。腫瘍組織試料を、勿論、様々な周知の収集後の分取技術及び保存技術(例えば、固定、保存、凍結など)にかけることができる。試料は、新鮮であっても、凍結されていても、固定されていても(例えば、ホルマリン固定)、又は包埋されていてもよい(例えばパラフィン包埋)。
【0039】
本明細書において使用する、癌に関する「増強された治療有効性」という表現は、癌細胞又は固形腫瘍の増殖の緩徐化又は縮小、癌細胞の総数又は全腫瘍量の減少を指す。それ故、「改善された治療転帰」又は「増強された治療有効性」は、例えば、減少した腫瘍サイズ、腫瘍進行までの時間の延長、延長された無進行生存期間、延長された全生存期間、延長された寿命、又は生活の質の向上をはじめとする、任意の臨床的に許容される基準に従って、患者の状態の改善があることを意味する。特に、「改善された」又は「増強された」は、治療転帰又は有効性の任意の臨床的に許容される指標の1%、5%、10%、25%、50%、75%、100%、又は100%を超える改善又は増強を指す。本明細書において使用する、免疫チェックポイント阻害剤をNRP-1阻害剤と共に含む組合せ組成物の活性及び/又は有効性を、免疫チェックポイント阻害剤のみの活性及び/又は有効性と比較する状況で使用される場合の「と比較して」という表現は、当業者によると同等であることが知られている量を使用した比較を指す。
【0040】
本明細書において使用するように、本明細書において使用する「共投与」という用語は、NRP-1阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の組合せを、同じ患者に投与するプロセスを意味する。NRP-1阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤は、同時に投与されても、実質的に同時に投与されても、又は順次投与されてもよい。投与が順次行なわれる場合、NRP-1阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤より前に投与される。NRP-1阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤は、同じビヒクルを用いて投与される必要はない。NRP-1阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤は、1回以上投与されてもよく、組合せの各成分の投与回数は、同じであっても異なっていてもよい。更に、NRP-1阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤は、同時に投与される必要はない。
【0041】
使用されているような「組合せ」及び「併用療法」という用語は同義語であり、同時に、別々に、又は順次投与される、少なくとも2つの化合物の投与を含む、処置を指す。本明細書において使用するように、本明細書において使用する「共投与」という用語は、少なくとも2つの化合物の組合せが同じ患者に投与されるプロセスを意味する。少なくとも2つの化合物は、同時に投与されても、実質的に同時に投与されても、又は順次投与されてもよい。少なくとも2つの化合物は、異なるビヒクル又は組成物を用いて、別々に投与されてもよい。少なくとも2つの化合物はまた、同じビヒクル又は組成物(例えば医薬組成物)で投与されてもよい。少なくとも2つの化合物は、1回以上投与されてもよく、組合せの各成分の投与回数は同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
本明細書において使用する「治療有効量」という用語は、所望の治療結果を達成するのに必要とされる用量及び期間において、有効な量を指す。治療有効量の活性物質は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を活性物質が惹起する能力などの、要因に応じて変更され得る。治療有効量はまた、抗体又は抗体部分の任意の毒性作用又は有害作用より、治療的に有益な効果の方が上回る量である。活性物質についての有効な用量及び用量レジメンは、処置される予定の疾患又は容態に依存し、これは当業者によって決定され得る。当技術分野における通常の技能を有する医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方し得る。例えば、医師は、所望の治療効果を達成するに必要とされるよりも低いレベルで、医薬組成物に使用される活性物質の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで次第に用量を増加させることができる。一般的に、本発明の組成物の適切な用量は、特定の用量レジメンに従って治療効果を生じるに有効である最も低い用量である、化合物の量であろう。このような有効な用量は一般的に、上記の要因に依存するだろう。例えば、治療に使用するための治療有効量は、疾患の進行を安定化させるその能力によって測定され得る。典型的には、化合物の癌抑制能は、例えば、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデル系において評価され得る。治療有効量の治療用化合物は、患者において腫瘍サイズを低減させ得るか、又はさもなくば症状を寛解し得る。当業者は、患者の体格、患者の症状の重症度、及び選択される具体的な組成物又は投与経路などのこのような要因に基づいて、このような量を決定することができるだろう。本発明の阻害剤の治療有効量の例示的な非制限的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば約0.1~50mg/kg、例えば約0.1~20mg/kg、例えば約0.1~10mg/kg、例えば約0.5、例えば約0.3、約1、約3mg/kg、約5mg/kg、又は約8mg/kgである。本発明の阻害剤の治療有効量の例示的な非制限的な範囲は、0.02~100mg/kg、例えば約0.02~30mg/kg、例えば約0.05~10mg/kg、又は0.1~3mg/kg、例えば約0.5~2mg/kgである。投与は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下であり得、例えば、標的部位の近くに投与され得る。上記の処置法及び使用法における用量レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応答)を与えるように調整される。例えば、1回のボーラスが投与されても、数回に分割された用量が経時的に投与されても、又は、用量は、治療状況の緊急性によって指示される通りに、比例的に減少若しくは増加させてもよい。いくつかの実施態様では、処置の有効性は、治療中に、例えば所定の時点にモニタリングされる。いくつかの実施態様では、有効性は、疾患領域の可視化によって、又は本明細書に更に記載されている他の診断法によって、例えば、標識された本発明の阻害剤、断片、又は本発明の阻害剤に由来するミニ抗体を使用した、例えば1回以上のPET-CT(陽電子放射断層撮影・コンピューター断層撮影)走査を実施することによって、モニタリングされてもよい。所望であれば、医薬組成物の有効な1日量が、1日を通して適切な間隔で、場合により単位用量剤形で、2回、3回、4回、5回、6回、又はそれ以上の分割用量として投与されてもよい。いくつかの実施態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体は、長い期間にわたる、例えば24時間以上にわたる、緩徐な連続注入によって投与されることにより、あらゆる望ましくない副作用を最小限とする。本発明の阻害剤の有効用量はまた、週1回、2週間に1回、又は3週間に1回の投薬期間を使用して投与されてもよい。投薬期間は、例えば8週間、12週間、又は臨床的進展が確立されるまでに限定され得る。非制限的な例として、本発明による処置は、本発明の阻害剤の1日量として、約0.1~100mg/kgの量で、例えば、1日あたり0.2、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90又は100mg/kgの量で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、若しくは40日目の少なくとも1日に、又は代替的には、処置開始後の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、若しくは20週目の中の少なくとも1週に、又はその任意の組合せに、24、12、8、6、4、若しくは2時間毎に1回量若しくは分割用量を、又はその任意の組合せを使用して、提供され得る。
【0043】
本明細書において使用する「癌ワクチン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、少なくとも1つの癌抗原に対する能動免疫を誘導することのできる組成物を指す。癌ワクチンにより、抗体が産生され得るか、又は単に特定の細胞、特に抗原提示細胞、Tリンパ球(特にCD8陽性T細胞)及びBリンパ球が活性化され得る。癌ワクチンは、予防目的又は治療目的又はその両方のための組成物であり得る。
【0044】
本明細書において使用する「抗原」という用語は、処理されMHC分子によって提示されると、抗体と、又はT細胞受容体(TCR)と、特異的に結合することのできる分子を指す。本明細書において使用する「抗原」という用語はまた、T細胞エピトープも包含する。抗原は更に、免疫系によって認識されることができるか、並びに/あるいは、体液性免疫応答及び/又は細胞性免疫応答を誘導することができ、これにより、Bリンパ球及び/又はTリンパ球は活性化される。抗原は、1つ以上のエピトープ又は抗原性部位(Bエピトープ及びTエピトープ)を有していてもよい。本明細書において使用する「癌抗原」という用語は、腫瘍組織に特徴的である抗原を指す。癌抗原の例としては、癌胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSA)、HER-2/neu、BAGE、GAGE、MAGE1~4、6及び12、MUC関連タンパク質(ムチン)(MUC-1、MUC-2など)、GM2及びGD2ガングリオシド、ras、myc、チロシナーゼ、MART(黒色腫抗原)、MARCO-MART、サイクリンB1、サイクリンD、Pmel 17(gpl00)、GnT-VイントロンV配列(N-アセチルグルコアミニルトランスフェラーゼVイントロンV配列)、前立腺Capsm、前立腺血清抗原(PSA)、PRAME(黒色腫抗原)、β-カテニン、MUM-1-B(黒色腫の遍在性突然変異遺伝子産物)、GAGE(黒色腫抗原)1、BAGE(黒色腫抗原)2~10、C-ERB2(Her2/neu)、EBNA(エプシュタインバーウイルス核抗原)1~6、gp75、ヒトパピローマウイルス(HPV)E6及びE7、p53、肺抵抗性タンパク質(LRP)、Bcl-2、並びにKi-67が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施態様では、該抗原は、白血病及びリンパ腫、神経学的腫瘍、例えば星状細胞腫又は神経膠芽腫、黒色腫、乳癌、肺癌、頭頸部癌、消化管腫瘍、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、泌尿生殖器腫瘍、例えば子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、膣癌、精巣癌、前立腺癌、又は陰茎癌、骨腫瘍、血管腫瘍、又は、口唇癌、鼻咽頭癌、咽頭癌及び口腔癌、食道癌、直腸癌、膀胱癌、胆道系癌、喉頭癌、肺癌及び気管支癌、膀胱癌、腎臓癌、脳癌、及び神経系の他の部分の癌、甲状腺癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、及び白血病に由来する抗原を含んでいる、腫瘍関連抗原から選択される。
【0045】
本明細書において使用する「免疫アジュバント」とう用語は、被験者又は動物に投与されると、抗原に対する免疫応答を誘導及び/又は増強することのできる化合物を指す。それはまた、特定の抗原に対する特定の免疫応答の質を加速、延長、又は増強するように一般的に作用する、物質を意味するものである。
【0046】
本明細書において使用する本開示の文脈における「応答者」という用語は、応答を達成するであろう患者、すなわち、癌が根治、退縮、又は改善される患者を指す。本発明によると、「非応答者」という用語はまた、安定化した癌を有する患者も含む。
【0047】
腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞の量を増加させる方法:
本発明の第一の目的は、治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、癌を患っている患者における腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞の量を増加させる方法に関する。
【0048】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、NRP-1に対する結合親和性を有する抗体である。
【0049】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、NRP-1の細胞外ドメインに対する抗体である。
【0050】
いくつかの実施態様では、前記抗体により、細胞障害性T細胞にNRRP-1が内部移行する。
【0051】
いくつかの実施態様では、前記抗体は、NRP-1のドメインcに結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、セマフォリン3Aに対するNRP-1の結合を阻害することができる。
【0052】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、セマフォリン3Aに結合するNRP-1の領域に対する結合親和性を有する抗体である。
【0053】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、配列番号1の1位のアミノ酸残基から280位のアミノ酸残基までの範囲のアミノ酸配列に対する結合親和性を有する抗体である。
【0054】
いくつかの実施態様では、前記抗体は、NRP-1に対するVEGFの結合を阻害しない。
【0055】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、セマフォリン3Aに対する結合親和性を有する抗体である。
【0056】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、NRP-1に結合するセマフォリン3Aのドメインに対する結合親和性を有する抗体である。
【0057】
いくつかの実施態様では、前記抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化法としては、米国特許第4,816,567号、第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,762号、及び第5,859,205号に記載されている方法が挙げられるがこれらに限定されず、これらは参照によりここに援用される。
【0058】
いくつかの実施態様では、前記抗体は完全ヒト抗体である。完全ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝子座の大部分について遺伝子組換えされたマウスを免疫化することによって調製され得る。例えば、米国特許第5,591,669号、第5,598,369号、第5,545,806号、第5,545,807号、第6,150,584号、及びその中に引用されている参考文献を参照されたい(これらの内容は参照により本明細書に援用される)。
【0059】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、一本鎖抗体である。
【0060】
いくつかの実施態様では、前記抗体は、Mol. Biol. (2007) 366, 815-829及び米国特許出願第8378080B1号に記載の抗NRP1抗体YW64.3から誘導される。特に、本発明に記載の抗NRP-1抗体は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む。
【0061】
いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。
【0062】
【0063】
いくつかの実施態様では、本発明の抗NRP-1抗体は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む抗体と、NRP-1アイソフォームに対する結合に関して交差競合する。
【0064】
いくつかの実施態様では、前記抗体は、ヒト重鎖定常領域配列を含むが、抗体依存性細胞障害活性(ADCC)を誘導しないだろう。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、FcgRIIIA(CD16)ポリペプチドに実質的に結合することのできるFcドメインを含まない。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、Fcドメインを欠失している(例えばCH2ドメイン及び/又はCH3ドメインを欠失している)か、又は、IgG2若しくはIgG4アイソタイプのFcドメインを含む。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、ディアボディ、一本鎖抗体断片、又は複数の異なる抗体断片を含んでいる多重特異的抗体からなるか又は含む。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、毒性部分に連結されていない。いくつかの実施態様では、該抗体が、C2qへの結合の変化、及び/又は低減若しくは消失した補体依存性細胞障害活性(CDC)を示すように、アミノ酸残基から選択された1つ以上のアミノ酸を、異なるアミノ酸残基で置換してもよい。このアプローチは、dusogie et al.による米国特許第6,194,551号に更に詳述されている。
【0065】
いくつかの実施態様では、NRP-1阻害剤は、それぞれNRFP-1の機能的等価体を含んでいるポリペプチドである。例えば、機能的等価体は、セマフォリン3Aに結合し、かつNRP-1の細胞外ドメインの全部又は一部を含むことにより、セマフォリン3Aを捕捉することができる可溶性受容体を形成する、分子を含む。典型的には、機能的等価体は、対応するタンパク質に対して少なくとも80%相同である。
【0066】
いくつかの実施態様では、機能的等価体は、任意の慣用的な分析アルゴリズムによって評価したところ、少なくとも90%相同である。したがって、本発明は、セマフォリン3Aに対するNRP-1の結合を阻害することのできるポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは、NRP-1の細胞外ドメインの少なくとも一部(この部分はセマフォリン3Aに結合する)の配列に相当する配列を有する連続的アミノ酸を含む。
【0067】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチドは、NRP-1の細胞外ドメインを含む。いくつかの実施態様では、該ポリペプチドは、NRP-1のドメインcを含むアミノ酸配列を含む。
【0068】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチドは、NRP-1の膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列を含む。
【0069】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチドは、配列番号1の1位のアミノ酸残基から280位のアミノ酸残基の範囲のアミノ酸配列を含む。
【0070】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチドは、VEGFに結合する部分は含まない。
【0071】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチドは、NRP-1の機能的等価体を含み、これは免疫グロブリン定常ドメイン(Fc領域)と融合することによりイムノアドヘシンを形成する。イムノアドヘシンは、ヒト抗体の価値ある化学的及び生物学的特性の多くを有し得る。イムノアドヘシンは、適切なヒト免疫グロブリンヒンジドメイン及び定常ドメイン(Fc)配列に連結された、所望の特異性を有するヒトタンパク質配列から構築されることができるので、目的の結合特異性は、完全なヒト成分を使用して達成され得る。免疫グロブリン配列は、典型的にであって必ずしもではないが、免疫グロブリン定常ドメインである。本発明のキメラにおける免疫グロブリン部分は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、又はIgMから得ることができるが、典型的にはIgG1又はIgG3から得ることができる。いくつかの実施態様では、イムノアドヘシンのPD-1又はNRP-1の機能的等価体と免疫グロブリン配列部分は、最小リンカーによって連結されている。
【0072】
いくつかの実施態様では、NRP-1阻害剤は、NRP-1発現阻害剤である。
【0073】
いくつかの実施態様では、前記の遺伝子発現阻害剤は、低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はリボザイムである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含む)は、NRP-1mRNAに結合し、よって、タンパク質の翻訳を妨げるか、又はmRNAの分解を増加させ、よって細胞内のNRP-1のレベルを減少させ、よって活性を減少させることによって、NRP-1mRNAの翻訳を直接遮断するように作用するだろう。例えば、少なくとも約15塩基であり、NRP-1をコードしているmRNA転写物配列の特有の領域に対して相補的である、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、慣用的なホスホジエステル技術によって合成することができる。その配列が既知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術を使用するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,566,135号;第6,566,131号;第6,365,354号;第6,410,323号;第6,107,091号;第6,046,321号;及び第5,981,732号参照)。低分子阻害RNA(siRNA)はまた、本発明に使用するための発現阻害剤としても機能し得る。NRP-1の遺伝子発現は、患者又は細胞を、低分子二本鎖RNA(dsRNA)、又は低分子二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくは構築物と接触させ、これによりNRP-1の遺伝子発現は特異的に阻害される(すなわちRNA干渉すなわちRNAi)ことによって、低減させることができる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、及びリボザイムは、インビボで単独で送達されても、又はベクターと併用して送達されてもよい。その最も広義な意味において、「ベクター」は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸の、細胞への、典型的にはNRP-1を発現している細胞への導入を促進することのできる、任意のビヒクルである。典型的には、該ベクターは、ベクターの非存在下において生じるであろう分解の程度と比較して、低減した分解度で、核酸を細胞に輸送する。一般的には、本発明において有用なベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチドの挿入若しくは組込みによって操作されたウイルス源又は細菌源に由来する他のビヒクル、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸配列が挙げられるがこれらに限定されない。ウイルスベクターが、好ましい種類のベクターであり、これは以下のウイルスに由来する核酸配列を含むがこれらに限定されない:レトロウイルス、例えばモロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプシュタインバーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びRNAウイルス、例えばレトロウイルス。命名されていないが当技術分野において公知である他のベクターも容易に使用することができる。
【0074】
いくつかの実施態様では、発現阻害剤はエンドヌクレアーゼである。
【0075】
特定の実施態様では、前記エンドヌクレアーゼはCRISPR-casである。
【0076】
いくつかの実施態様では、前記エンドヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(ストレプトコッカス・ピオゲネス)に由来する、CRISPR-cas9である。CRISPR/cas9系は、米国特許出願第8697359B1号及び米国特許出願第2014/0068797号に記載されている。いくつかの実施態様では、該エンドヌクレアーゼは、CRISPR-Cpf1であり、これは、Zetsche et al.(“Cpf1 is a Single RNA-guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (2015); Cell; 163, 1-13)においてつい最近特徴付けられたプレボテラ及びフランシセラに由来するCRISPR1(Cpf1)である。
【0077】
治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法:
本発明の更なる目的は、薬学的有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関する。
【0078】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、Mol. Biol. (2007) 366, 815-829及び米国特許出願第8378080B1号に記載の抗NRP1抗体YW64.3に由来する、抗NRP-1抗体である。特に、該抗NRP-1抗体は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む。
【0079】
いくつかの実施態様では、前記抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、該抗NRP-1抗体は、配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、該抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。
【0080】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む抗体と、NRP-1アイソフォームに対する結合に関して交差競合する、抗NRP-1抗体である。
【0081】
特に、本発明の方法は、CD8陽性T細胞の低度の腫瘍浸潤によって特徴付けられる癌の処置に特に適している。典型的には、前記のCD8陽性T細胞の腫瘍浸潤は、当技術分野における任意の慣用的な方法によって決定される。例えば、前記の決定は、患者から得られた腫瘍試料中のCD8陽性T細胞の密度を定量することを含む。
【0082】
いくつかの実施態様では、CD8陽性T細胞の密度の定量は、免疫組織化学的検査(IHC)によって決定される。例えば、CD8陽性T細胞の密度の定量は、腫瘍組織試料を、該細胞の細胞表面マーカーに特異的な結合対(例えば抗体)と接触させることによって行なわれる。典型的には、CD8陽性T細胞の密度の定量は、腫瘍組織試料を、CD8に特異的な結合対(例えば抗体)と接触させることによって行なわれる。典型的には、CD8陽性T細胞の密度は、組織試料の表面積1単位あたりに計数される、これらの細胞の数として、例えば、腫瘍組織試料の表面積1cm2又は1mm2あたりに計数される細胞数として表現される。いくつかの実施態様では、細胞密度はまた、試料1容量単位あたりの細胞数として、例えば、腫瘍組織試料1cm3あたりの細胞数として表現されてもよい。いくつかの実施態様では、細胞密度はまた、全細胞(100%と設定)あたりの特定の細胞の比率からなり得る。免疫組織化学的検査は典型的には、以下の工程:i)腫瘍組織試料をホルマリンで固定すること、ii)該腫瘍組織試料をパラフィンに包埋すること、iii)該腫瘍組織試料を染色のために切片に切断すること、iv)該切片を、マーカーに特異的な結合対と共にインキュベートすること、v)該切片を濯ぐこと、vi)該切片を、典型的にはビオチニル化されている二次抗体と共にインキュベートすること、及びvii)抗原-抗体複合体を典型的にはアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体を用いて顕現させること、を含む。したがって、腫瘍組織試料をまず、結合対と共にインキュベートする。洗浄後、目的のマーカーに結合した標識された抗体を、標識された抗体によって生じる標識の種類(例えば放射性標識、蛍光標識、又は酵素標識)に応じて、適切な技術によって顕現させる。あるいは、本発明の方法は、増幅系(染色シグナルを強化するための)と酵素分子とに結合させた、二次抗体を使用してもよい。このような結合した二次抗体は、例えばダコ社、EnVisionシステムから市販されている。対比染色、例えばヘマトキシリン及びエオシン、DAPI、ヘキストなどを使用してもよい。他の染色法も、自動化、半自動化、又は手動のシステムをはじめとする、当業者には明らかであろうような、任意の適切な方法又はシステムを使用して成し遂げられ得る。例えば、1つ以上の標識を、抗体に付着させることができ、これにより、標的タンパク質(すなわちマーカー)の検出が可能となる。例示的な標識としては、放射性同位体、フルオロフォア、リガンド、化学発光剤、酵素、及びその組合せが挙げられる。いくつかの実施態様では、標識は、量子ドットである。一次及び/又は二次アフィニティリガンドにコンジュゲートさせることのできる標識の非限定的な例としては、蛍光色素又は金属(例えばフルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレサミン)、発色団色素(例えばロドプシン)、化学発光化合物(例えばルミナール、イミダゾール)及び生物発光タンパク質(例えばルシフェリン、ルシフェラーゼ)、ハプテン(例えばビオチン)が挙げられる。多種多様な他の有用な蛍光剤及び発色団が、Stryer L (1968) Science 162:526-533及びBrand L and Gohlke J R (1972) Annu. Rev. Biochem. 41:843-868に記載されている。アフィニティリガンドもまた、酵素(例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ラクタマーゼ)、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、又は125I)及び粒子(例えば金)を用いて標識することができる。様々な種類の標識を、様々な化学反応、例えばアミン反応又はチオール反応を使用して、アフィニティリガンドにコンジュゲートさせることができる。しかしながら、アミン及びチオール以外の他の反応性基、例えば、アルデヒド、カルボン酸、及びグルタミンも使用することができる。目的のタンパク質を検出するための、様々な酵素染色法が、当技術分野において公知である。例えば、酵素相互作用を、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又は異なる色素原、例えばジアミノベンジジン(DAB)、アミノエチルカルバゾール(AEC)、又はファーストレッドを使用して可視化することができる。他の例では、抗体をペプチド又はタンパク質にコンジュゲートさせることができ、これを標識された結合対又は抗体を介して検出することができる。間接的免疫組織化学的アッセイでは、第一の結合対の結合を検出するのに、それは標識されていないので、二次抗体又は二次結合対が必要である。結果として得られた染色された標本を各々、検出可能なシグナルを見て、染色デジタル画像などの画像を取得するためのシステムを使用して、イメージングする。画像取得のための方法は、当業者には周知である。例えば、一旦試料が染色されると、任意の光学的又は非光学的イメージング装置、例えば直立又は倒立光学顕微鏡、走査型共焦点顕微鏡、カメラ、走査型又はトンネル型電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡、及び赤外線画像検出器を使用して、染色又はバイオマーカー標識を検出することができる。いくつかの例では、画像はデジタルで取得することができる。その後、得られた画像は、試料中のマーカーの量を定量的に又は半定量的に決定するために使用することができる。免疫組織化学的検査に使用するのに適した、様々な自動化試料処理、走査、及び分析システムが、当技術分野において利用可能である。このようなシステムは、自動化染色及び顕微鏡走査、コンピューター計算された画像分析、連続切片の比較(試料の方向及びサイズの変動について、制御するために)、デジタルレポートの作成、並びに試料のアーカイビング及び追跡(組織切片が上に置かれているスライドなど)を含み得る。従来の光学顕微鏡をデジタル画像処理システムと組み合わせて、免疫染色された試料をはじめとする細胞及び組織上での定量分析を行なう、細胞イメージングシステムは市販されている。例えば、CAS-200システム(ベクトン・ディッキンソン社)を参照。特に、検出は、手作業で行なわれても、又は、コンピュータープロセッサ及びソフトウェアを含む画像処理技術によって行なわれてもよい。例えば、このようなソフトウェアを使用して、画像を、当業者には公知の手順(例えば、公開されている米国特許公開公報第20100136549号参照)を使用して、構成し、校正し、正規化し、及び/又は、例えば染色の質若しくは染色の強度を含む要因に基づいて検証し得る。画像を、定量的に又は半定量的に分析することができ、試料の染色強度に基づいてスコア化することができる。定量的又は半定量的組織化学検査法は、組織化学検査を受けた試料を走査及びスコア化して、特定のバイオマーカー(すなわちマーカー)の存在を同定及び定量する方法を指す。定量的又は半定量的方法は、染色密度若しくは染色の量を検出するためのイメージングソフトウェア、又はヒト裸眼によって染色を検出する方法(ここでは訓練された操作者が結果を数値で順位付けする)を使用し得る。例えば、画像を、ピクセルカウントアルゴリズム(例えば、Aperioスペクトルソフトウェア、自動定量分析プラットフォーム(AQUA(登録商標)プラットフォーム)、及び染色度を測定又は定量又は半定量する他の標準的な方法を使用して、定量分析することができる;例えば、米国特許第8,023,714号;米国特許第7,257,268号;米国特許第7,219,016号;米国特許第7,646,905号;公開されている米国特許公開公報第20100136549号及び第20110111435号;Camp et al. (2002) Nature Medicine, 8:1323-1327; Bacus et al. (1997) Analyt Quant Cytol Histol, 19:316-328を参照されたい。全染色領域の合計に対する強力な陽性の染色(例えば茶色の染色)の比を計算し、スコア化することができる。検出されたバイオマーカー(すなわちマーカー)の量を定量し、陽性ピクセル及び/又はスコアの比率として示す。例えば、量は、陽性ピクセルの比率として定量してもよい。いくつかの例では、量は、染色された面積の比率、例えば、陽性ピクセルの比率として定量される。例えば、試料は、全染色面積と比較して、少なくとも、又はおよそ少なくとも、又はおよそ0、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくはそれ以上の陽性ピクセルを有し得る。いくつかの実施態様では、試料の組織化学的染色の強度又は量の数値による表示であり、そして試料中に存在する標的バイオマーカー(例えばマーカー)の量を示す、スコアが試料に付けられる。吸光度又は面積率の数値に、例えば整数の尺度の、換算されたスコアが与えられ得る。したがって、いくつかの実施態様では、本発明の方法は、i)マーカーと選択的に相互作用することのできる結合対(例えば上記のような抗体)を使用することによって、自動スライド染色システムによって得られた1つ以上の免疫染色された組織切片の薄片を準備すること、ii)高解像度スキャンキャプチャーによって工程a.のスライドのデジタル化を進めること、iii)デジタル写真上で組織切片の薄片を検出すること、iv)同じ表面積を有する均一に分布した単位を有する、サイズ参照グリッドを準備すること(該グリッドは、分析しようとする組織切片のサイズに合わせている)、及びv)各単位内の染色された細胞の強度を検出、定量、及び測定すること(これにより、各単位の染色された細胞の数又は密度が評価される)からなる工程を含む。
【0083】
いくつかの実施態様では、全腫瘍組織試料中のCD8陽性T細胞の細胞密度が決定されるか、腫瘍組織試料の浸潤マージン若しくは中心におけるCD8陽性T細胞の細胞密度が決定されるか、又は、腫瘍組織試料の中心及び浸潤マージンの両方におけるCD8陽性T細胞の細胞密度が決定される。
【0084】
したがって、本発明の更なる目的は、i)患者から得られた腫瘍組織試料中のCD8陽性T細胞の密度を定量すること、ii)工程i)で定量された密度を、所定の基準値と比較すること、及びiii)治療有効量のNRP-1阻害剤を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関する。
【0085】
典型的には、所定の基準値は、患者の生存期間と相関する。当業者は、全生存期間が一般的に、特定の期間の間、特定の種類の癌を生き延びた人々の比率に基づき、かつ該比率として表現されることを認識しているだろう。癌の統計は、5年全生存率を使用することが多い。一般的には、全生存率は、癌生存者が5年目に依然として処置を受けているか、又は癌がなくなっているか(寛解を達成したか)は明記しない。無病生存率(DFS)は、より具体的な情報を与え、寛解を達成した特定の癌を有する人々の数である。また、無進行生存(PFS)率(依然として癌を有しているが、それらの疾患は進行していない人々の数)は、処置を用いて幾分かの成功を収めた可能性があるが、癌は完全には消失していない人々を含む。本明細書において使用する「短い生存期間」という表現は、患者が、前記の癌を患っている患者の一般集団において観察される中央値(又は平均値)よりも短いであろう生存期間を有するであろうことを示す。患者が短い生存期間を有するであろう場合、患者は「悪い予後」を有するであろうことを意味する。逆に、「長い生存期間」という表現は、患者が、前記の癌を患っている患者の一般集団において観察される中央値(又は平均値)よりも長いであろう生存期間を有するであろうことを示す。患者が長い生存期間を有するであろう場合、患者は「良好な予後」を有するであろうことを意味する。
【0086】
いくつかの実施態様では、所定の数値は、閾値又はカットオフ値である。典型的には、「閾値」又は「カットオフ値」は、実験的に、経験的に、又は理論的に決定され得る。閾値はまた、当業者によって認識されているであろうように、既存の実験条件及び/又は臨床条件に基づいて自由に選択されてもよい。例えば、適切に寄託された歴史的患者試料の細胞密度の遡及的測定を、所定の基準値の確立に使用してもよい。試験の関数及びベネフィット/リスクのバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床結果)に従って、最適な感度及び特異度が得られるように、閾値は決定されなければならない。典型的には、最適な感度及び特異度(及びまた閾値)は、実験データに基づいた受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic)(ROC)曲線を使用して決定され得る。例えば、リファレンス群におけるCD8陽性T細胞の密度を定量した後、試験される予定の試料において測定された密度の統計学的処理のためのアルゴリズム分析を使用し、これにより、試料の分類について有意性を有する分類標準を得ることができる。ROC曲線の正式名は、受信者動作特性(receiver operator characteristic)曲線であり、これは、受信者操作特性(receiver operation characteristic)曲線としても知られている。それは主に、生化学的臨床診断試験のために使用される。ROC曲線は、真の陽性率(感度)及び偽の陽性率(1-特異度)の連続変数を反映する総合的な指標である。ROC曲線は、画像合成法を用いて感度と特異度の間の関係を明らかとする。一連の様々なカットオフ値(閾値又は臨界値、すなわち、診断試験の正常な結果と異常な結果との間の境界値)が、一連の感度及び特異度の数値を計算するための連続変数として設定される。次いで、曲線を描くために、感度は縦軸座標として使用され、特異度は横軸座標として使用される。曲線下面積(AUC)が大きくなればなるほど、診断の正確度は高くなる。ROC曲線上で、座標図の左端上に最も近い点は、高い感度と高い特異度の数値の両方を有する、臨界点である。ROC曲線のAUC値は、1.0~0.5である。AUC>0.5の場合、診断結果は、AUCが1に近づくにつれてより良好となる。AUCが0.5~0.7の場合、正確度は低い。AUCが0.7~0.9の場合、正確度は中等度である。AUCが0.9より高い場合、正確度は極めて高い。このアルゴリズム法は、好ましくはコンピューターを用いて実施される。当技術分野における既存のソフトウェア又はシステムをROC曲線の描写のために使用し得る:例えば、MedCalc9.2.0.1医学統計ソフトウェア、SPSS9.0、ROCPOWER.SAS、DESIGNROC.FOR、MULTIREADER POWER.SAS、CREATE-ROC.AS、GB STAT VI0.0(ダイナミック・マイクロシステムズ社、シルバースプリング、メリーランド州、米国)など。
【0087】
いくつかの実施態様では、所定の基準値は、a)目的の癌を患っている患者から腫瘍組織試料の収集物を準備する工程;b)工程a)で準備された各腫瘍組織試料について、対応する患者についての実際の臨床転帰に関する情報(すなわち、無病生存期間(DFS)及び/又は全生存期間(OS))を提供する工程;c)一連の任意の定量値を提供する工程;d)工程a)で準備された収集物に含有されている各腫瘍組織試料について、CD8陽性T細胞の密度を定量する工程;e)工程c)で提供された1つの具体的な任意の定量値で、該腫瘍組織試料を、それぞれ2つの群に分類する工程;(i)第一の群は、前記の一連の定量値に含まれる前記の任意の定量値よりも低いレベルの定量値を示す、腫瘍組織試料を含んでいる;(ii)第二の群は、前記の一連の定量値に含まれる前記の任意の定量値よりも高いレベルの定量値を示す、腫瘍組織試料を含んでいる;それによって、前記の具体的な定量値に関して、2つの群の腫瘍組織試料が得られ、ここでの各群の腫瘍組織試料は、別々に数えられる;f)(i)工程e)で得られた定量値と、(ii)工程f)で提供された第一の群及び第二の群に含まれる腫瘍組織試料の由来する患者の実際の臨床転帰との間の、統計学的有意性を計算する工程;g)工程d)で提供されたあらゆる任意の定量値が試験されるまで、工程f)及びg)を反復する工程;h)前記の所定の基準値を、任意の定量値(最も高い統計学的有意性(最も有意)は工程g)で計算されている)からなるとして設定する工程を含む、方法を実施することによって決定される。例えば、100人の患者の100個の腫瘍組織試料について、CD8陽性T細胞の密度が評価された。100個の試料は、CD8陽性T細胞の密度に従って順位付けされる。試料1は最も高い密度を有し、試料100は最も低い密度を有する。最初のグループ分けは2つの部分集合を与える:片方の側には試料番号1、他方の側には99個の他の試料。次のグループ分けは片方の側に試料1及び2、他方の側に98個の残りの試料を与えるなど、最後のグループ分けまで続く:片方の側には試料1~99、他方の側では試料番号100である。対応する癌患者についての実際の臨床転帰に関する情報に従って、2つの部分集合の99個のグループのそれぞれについてカプランマイヤー曲線を作成する。また、99個のグループのそれぞれについて、両方の部分集合間のp値を計算した。最小p値の基準に基づいた識別が最強となるように所定の基準値を選択する。換言すれば、p値が最小である両方の部分集合間の境界に対応するCD8陽性T細胞の密度を、所定の基準値と考える。所定の基準値は、細胞密度の中央値では必ずしもないことを留意すべきである。したがって、いくつかの実施態様では、所定の基準値はこのように、患者についての無病生存期間と全生存期間に関して、悪い予後と良い予後との識別を可能とする。実際に、たった1つの任意の定量値についてだけでなく、一連の連続的な任意の定量値について、高い統計学的有意性の数値(例えば低いP値)が一般的に得られる。したがって、本発明の1つの代替的な実施態様において、確定した所定の基準値を使用する代わりに、一連の数値が提供される。それ故、最小の統計学的に有意な数値(有意な最小の閾値、例えばP値の最大閾値)が任意に設定され、工程g)で計算された統計学的に有意な数値がより高い(より有意、例えばより低いP値)、一連の複数の任意の定量値が保持され、よって一連の定量値が提供される。この定量値の範囲は、上記のような「カットオフ」値を含む。例えば、「カットオフ」値のこの特定の実施態様によると、転帰は、CD8陽性T細胞の密度を、同定された数値の範囲と比較することによって決定され得る。いくつかの実施態様では、カットオフ値はこのように、例えば、最も高い統計学的に有意な数値が見られる(例えば、一般的に最小p値が見られる)定量値に中心が置かれている、一連の定量値からなる。
【0088】
処置レジメンの一部として患者に投与された、免疫チェックポイント阻害剤の効力を増強させるための方法:
本発明の更なる目的は、処置レジメンの一部として患者に投与された、免疫チェックポイント阻害剤の効力を増強させるための方法に関し、該方法は、薬学的に有効な量のNRP-1阻害剤を免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて患者に投与することを含む。
【0089】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、Mol. Biol. (2007) 366, 815-829及び米国特許出願第8378080B1号に記載の抗NRP1抗体YW64.3に由来する抗NRP-1抗体である。特に、該抗NRP-1抗体は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む。
【0090】
いくつかの実施態様では、前記抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、該抗NRP-1抗体は、配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、該抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。
【0091】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む抗体と、NRP-1アイソフォームに対する結合に関して交差競合する、抗NRP-1抗体である。
【0092】
いくつかの実施態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、及び抗B7H6抗体からなる群より選択された抗体である。
【0093】
抗CTLA-4抗体の例は、米国特許第5,811,097号;第5,811,097号;第5,855,887号;第6,051,227号;第6,207,157号;第6,682,736号;第6,984,720号;及び第7,605,238号に記載されている。1つの抗CTLA-4抗体は、トレメリムマブ(チシリムマブ、CP-675,206)である。いくつかの実施態様では、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-D010としても知られる)であり、これはCTLA-4に結合する完全ヒトモノクローナルIgG抗体である。
【0094】
他の免疫チェックポイント阻害剤としては、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)阻害剤、例えばIMP321、可溶性免疫グロブリン融合タンパク質(Brignone et al., 2007, J. Immunol. 179:4202-4211)が挙げられる。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、B7阻害剤、例えばB7-H3阻害剤及びB7-H4阻害剤が挙げられる。特に、抗B7-H3抗体であるMGA271(Loo et al., 2012, Clin. Cancer Res. July 15 (18) 3834)。TIM(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3)阻害剤も含まれる(Fourcade et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2175-86 and Sakuishi et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2187-94)。本明細書において使用する「TIM-3」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子3を指す。TIM-3の天然リガンドはガレクチン9(Gal9)である。したがって、本明細書において使用する「TIM-3阻害剤」という用語は、TIM-3の機能を阻害することのできる化合物、物質、又は組成物を指す。例えば、該阻害剤は、TIM-3の発現若しくは活性を阻害することができ、TIM-3のシグナル伝達経路を調節若しくは遮断することができ、及び/又は、ガレクチン-9に対するTIM-3の結合を遮断することができる。TIM-3に対する特異性を有する抗体は当技術分野において周知であり、典型的には、国際公開公報第2011155607号、第2013006490号及び第2010117057号に記載の抗体である。
【0095】
いくつかの実施態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)阻害剤である。IDO阻害剤の例は、国際公開公報第2014150677号に記載されている。IDO阻害剤の例としては、1-メチル-トリプトファン(IMT)、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、β-(3-ベンゾ(b)チエニル)-アラニン)、6-ニトロ-トリプトファン、6-フルオロ-トリプトファン、4-メチル-トリプトファン、5-メチルトリプトファン、6-メチル-トリプトファン、5-メトキシ-トリプトファン、5-ヒドロキシ-トリプトファン、インドール3-カルビノール、3,3’-ジインドリルメタン、没食子酸エピガロカテキン、5-ブロモ-4-クロロ-インドキシル1,3-ジアセタート、9-ビニルカルバゾール、アセメタシン、5-ブロモ-トリプトファン、5-ブロモインドキシルジアセタート、3-アミノ-ナフトエ酸、ピロリジンジチオカルバメート、4-フェニルイミダゾール、ブラシニン誘導体、チオヒダントイン誘導体、β-カルボリン誘導体又はブラシレキシン誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、IDO阻害剤は、1-メチル-トリプトファン、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、6-ニトロ-L-トリプトファン、3-アミノ-ナフトエ酸、及びβ-[3-ベンゾ(b)チエニル]-アラニン、又はその誘導体若しくはプロドラッグから選択される。
【0096】
いくつかの実施態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤である。したがって、本明細書において使用する「PD-1阻害剤」という用語は、PD-1の機能を阻害することができる化合物、物質、又は組成物を指す。例えば、該阻害剤は、PD-1の発現若しくは活性を阻害することができ、PD-1のシグナル伝達経路を調節若しくは遮断することができ、及び/又は、PD-L1若しくはPD-L2に対するPD-1の結合を遮断することができる。
【0097】
いくつかの実施態様では、PD-1阻害剤は、PD-1の細胞外ドメインに対する抗体である。いくつかの実施態様では、PD-1阻害剤は、PD-L1の細胞外ドメインに対する抗体である。PD-1抗体及びPD-L1抗体の例は、米国特許第7,488,802号;第7,943,743号;第8,008,449号;第8,168,757号;第8,217,149号、及びPCT公開特許出願番号:国際公開公報第03042402号、国際公開公報第2008156712号、国際公開公報第2010089411号、国際公開公報第2010036959号、国際公開公報第2011066342号、国際公開公報第02011159877号、国際公開公報第2011082400号、及び国際公開公報第2011161699号に記載されている。いくつかの実施態様では、PD-1遮断剤としては、抗PD-L1抗体が挙げられる。いくつかの実施態様では、PD-1遮断剤としては、抗PD-1抗体及び類似した結合タンパク質、例えばニボルマブ(MDX1106、BMS936558、ONO4538)、PD-1に結合し、その活性化を、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2によって遮断する、完全ヒトIgG4抗体;ペンブロリズマブ(MK-3475又はSCH900475)、PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体;PD-1に結合するCT-011ヒト化抗体;AMP-224はB7-DCの融合タンパク質である;抗体Fc部分;PD-L1(B7-H1)の遮断のためのBMS-936559(MDX-1105-01)が挙げられる。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、国際公開公報第2016020856号及びFenwick, Craig, et al. 「Tumor suppression of novel anti-PD-1 antibodies mediated through CD28 costimulatory pathway.」 Journal of Experimental Medicine (2019): jem-20182359に開示されているような抗PD1抗体Gepi135cである。
【0098】
いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、ペンブロリズマブのVHドメイン及びVLドメインを含む。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、配列番号11のVHドメイン及び配列番号12のVLドメインを含む。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、配列番号13の重鎖及び/又は配列番号14の軽鎖を含む。
【0099】
【0100】
いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、ニボルマブのVHドメイン及びVLドメインを含む。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、配列番号15のVHドメイン及び配列番号16のVLドメインを含む。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、配列番号17の重鎖及び/又は配列番号18の軽鎖を含む。
【0101】
【0102】
いくつかの実施態様では、PD-1阻害剤は、低分子又はペプチド又はペプチド誘導体、例えば米国特許第8,907,053号;第9,096,642号;及び第9,044,442号、及び米国特許出願公開公報第2015/0087581号に記載のもの;1,2,4オキサジアゾール化合物及び誘導体、例えば米国特許出願公開公報第2015/0073024号に記載のもの;環式ペプチド模倣化合物及び誘導体、例えば米国特許出願公開公報第2015/0073042号に記載のもの;環式化合物及び誘導体、例えば米国特許出願公開公報第2015/0125491号に記載のもの;1,3,4オキサジアゾール及び1,3,4チアジアゾール化合物及び誘導体、例えば国際特許出願公開公報の国際公開公報第2015/033301号に記載のもの;ペプチド系化合物及び誘導体、例えば国際特許出願公開公報の国際公開公報第2015/036927号及び国際公開公報第2015/04490号に記載のもの;又は大環状ペプチド系化合物及び誘導体、例えば米国特許出願公開公報第2014/0294898号に記載のものであり;これらの各々の開示は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0103】
NRP-1阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の治療に有効な組合せを患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法:
本発明の更なる目的は、NRP-1阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の治療に有効な組合せを患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関し、ここで、組合せの投与により、免疫チェックポイント阻害剤単独の投与と比べて増強した治療有効性が得られる。
【0104】
免疫チェックポイント分子に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位と、NRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、多重特異的抗体:
本発明の更なる目的は、免疫チェックポイント分子に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位と、NRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、多重特異的抗体に関する。
【0105】
多重特異的抗体は典型的には、国際公開公報第2011159877号に記載されている。本発明によると、本発明の多重特異的抗体は、免疫チェックポイント分子(例えばPD-1)の細胞外ドメイン及びNRP-1の細胞外ドメインに結合する。本発明の多重特異的抗体分子のための例示的な型式としては、(i)化学的ヘテロコンジュゲーションによって架橋された2つの抗体、一方はPD-1に対する特異性を有し、他方はNRP-1に対する特異性を有する;(ii)2つの異なる抗原結合領域を含む単一抗体;(iii)2つの異なる抗原結合領域、例えば、エキストラペプチドリンカーによって直列に連結された2つのscFvを含む、一本鎖抗体;(iv)デュアル可変ドメイン抗体(DVD-Ig)、ここでの各々の軽鎖及び重鎖は、短いペプチド結合を通して直列に2つの可変ドメインを含有している(Wu et al., Generation and Characterization of a Dual Variable Domain Immunoglobulin (DVD-IgTM) Molecule, In : Antibody Engineering, Springer Berlin Heidelberg (2010));(v)化学的に連結された二重特異的(Fab’)2断片;(vi)2つの一本鎖ディアボディの融合により、各標的抗原に対する2つの結合部位を有する四価の二重特異的抗体を生じる、Tandab;(vii)scFvとディアボディの組合せにより、多価分子を生じる、フレキシボディ(flexibody);(viii)プロテインキナーゼAの「二量体化及びドッキングドメイン」に基づく、いわゆる「ドック及びロック」分子、これはFabに適用されると、1つの異なるFab断片に連結された2つの同一なFab断片からなる三価の二重特異的な結合タンパク質を生じることができる;(ix)例えば、ヒトFabアームの両端に融合した2つのscFvを含む、いわゆるスコーピオン分子;並びに(x)ディアボディが挙げられるがこれらに限定されない。二重特異的抗体の別の例示的な型式は、ヘテロ二量体化を強制する相補的CH3ドメインを有するIgG様分子である。このような分子は、公知の技術、例えば、トリオマブ(Triomab)/クアドローマ(Quadroma)(トリオンファーマ社/フレゼニウス・バイオテク社)、ノブ・イントゥ・ホール(Knob-into-Hole)(ジェネンテック社)、CrossMAb(ロシュ社)及びエレクトロスタティカリー・マッチド(electrostatically-matched)(アムジェン社)、LUZ-Y(ジェネンテック社)、鎖交換操作されたドメインボディ(SEEDボディ)(EMDセローノ社)、Biclonic(メルス社)、及びデュオボディ(ジェンマブ社)の技術として知られている技術を使用して調製することができる。いくつかの実施態様では、二重特異的抗体は、制御されたFabアームの交換を介して、典型的にはデュオボディ技術を使用して得られるか又は得ることができる。制御されたFabアーム交換によって二重特異的抗体をインビトロで生成するための方法が、国際公開公報第2008119353号及び国際公開公報第2011131746号(両方共にジェンマブ社による)に記載されている。国際公開公報第2008119353号に記載された1つの例示的な方法では、二重特異的抗体は、還元条件下でのインキュベーション時に、IgG4様のCH3領域を両方共が含む2つの単一特異的抗体間の「Fabアーム」又は「分子の半分」の交換(重鎖と付着した軽鎖の取り替え)によって形成される。生じた生成物は、異なる配列を含み得る2つのFabアームを有する二重特異的抗体である。国際公開公報第2011131746号に記載の別の例示的な方法では、本発明の二重特異的抗体は、以下の工程を含む方法によって調製され、ここで第一及び第二の抗体の少なくとも一方は本発明の抗体である:a)免疫グロブリンのFc領域を含む第一抗体を準備する工程、該Fc領域は第一のCH3領域を含む;b)免疫グロブリンのFc領域を含む第二の抗体を準備する工程、該Fc領域は第二のCH3領域を含み;ここで第一及び第二のCH3領域の配列は異なり、前記の第一のCH3領域と第二のCH3領域の間のヘテロ二量体相互作用は、前記の第一及び第二のCH3領域の各々のホモ二量体相互作用よりも強力なものである;c)前記の第一の抗体を、還元条件下で前記の第二の抗体と一緒にインキュベートする工程;及びd)前記の二重特異的抗体を得る工程、ここで第一の抗体は本発明の抗体であり、第二の抗体は異なる結合特異性を有するか、又はその逆である。還元条件は、例えば、2-メルカプトエチルアミン、ジチオトレイトール及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンから例えば選択された還元剤を加えることによって提供され得る。工程d)は更に、例えば還元剤の除去によって、例えば、脱塩によって、非還元性又はより低い還元性となるように条件を回復することを含み得る。好ましくは、第一及び第二のCH3領域の配列は異なり、ほんの僅かのかなり保存的な非対称的な突然変異を含み、よって前記の第一のCH3領域と第二のCH3領域との間のヘテロ二量体相互作用は、前記の第一及び第二のCH3領域の各々のホモ二量体相互作用より強力である。これらの相互作用に関するより多くの詳細及びどのようにして成し遂げられ得るかは、国際公開公報第2011131746号に提供され、これはその全体が参照により本明細書に援用される。いくつかの他の実施態様では、本発明の二重特異的抗体は、各々が可変ドメイン、CH1ドメイン及びヒンジ領域を含む2本の重鎖を含んでいる、クラスIgG4の対称な二重特異的抗体であり、ここで、各々の重鎖において:軽鎖内のシステインと鎖間ジスルフィド結合を形成しているCH1ドメイン内のシステインは、別のアミノ酸で置換され;場合により、ヒンジ領域上部に位置するアミノ酸の1つ以上が、システインで置換され、ここでの各重鎖の定常領域の配列は、類似しているか又は同一であり、各々の重鎖における可変領域は異なる。前記の二重特異的型式の抗体は、国際特許出願の国際公開公報第2013124450号に記載されている。いくつかの実施態様では、本発明の二重特異的抗体は、各々が少なくとも1つの可変領域、1つのヒンジ領域及び1つのCH1ドメインを含んでいる、2本の重鎖又は重鎖断片を含んでいる非対称な抗体であり、ここでの第一の重鎖又はその断片はクラスIgG4であり、かつa)CH1ドメイン内の、Kabatによる番号付け体系に従って番号付けされた、127位の鎖間システインが、別のアミノ酸で置換され;及びb)場合によりヒンジ領域上部に位置するアミノ酸の1つ以上がシステインで置換され、ここでの第二の重鎖又はその断片は、鎖の一部又は全部が、可変領域外の少なくとも領域(例えば定常領域)内に前記の第一の重鎖とは異なるアミノ酸配列を有することを特徴とする。前記の二重特異的型式の抗体は、国際特許出願の国際公開公報第第2013124451号に記載されている。
【0106】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、NRP-1に特異的に結合し、かつ以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに、以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)を含む、第一の結合部位を含む。
【0107】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、NRP-1に特異的に結合し、かつ、配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む、第一の結合部位を含む。
【0108】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号11のVHドメイン及び配列番号12のVLドメインを含む、第二の結合部位を含む。
【0109】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号15のVHドメイン及び配列番号16のVLドメインを含む、第二の結合部位を含む。
【0110】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、
-NRP-1に特異的に結合し、かつ配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む、第一の結合部位、並びに
-PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号11のVHドメイン及び配列番号12のVLドメインを含む、第二の結合部位
を含む。
【0111】
いくつかの実施態様では、本発明の多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)は、
-NRP-1に特異的に結合し、かつ配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む、第一の結合部位、並びに
-PD-1に特異的に結合し、かつ配列番号15のVHドメイン及び配列番号16のVLドメインを含む、第二の結合部位
を含む。
【0112】
本発明の更なる目的は、免疫チェックポイント分子に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位と、NRP-1に特異的に結合する少なくとも1つの結合部位とを含む、本発明の多重特異的抗体の治療有効量を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関する。
【0113】
NRP-1の発現が抑制されているCAR-T細胞:
本発明の更なる目的は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように設計されている細胞集団に関し、ここで、該細胞におけるNRP-1の発現は抑制されている。
【0114】
いくつかの実施態様では、前記細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)、及び他の血球サブセット、例えばであって以下に限定されないが、T細胞、例えば腫瘍浸潤性細胞(TIL)、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞が挙げられる。適切な細胞としては、幹細胞、例えば、例を挙げると、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、及び間葉系幹細胞も挙げられる。いくつかの実施態様では、幹細胞は、細胞トランスフェクション及び遺伝子療法用のエクスビボでの手順に使用される。幹細胞を使用する利点は、それらがインビトロで他の細胞型に分化することができることであるか、又は哺乳動物(例えば細胞のドナー)に導入することができ、そこでそれらは骨髄に生着するであろうことである。インビトロでGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、IFN-γ(インターフェロン-γ)及びTNF-α(腫瘍壊死因子-α)などのサイトカインを使用して、CD34陽性細胞をインビトロで臨床的に重要な免疫細胞型へと分化させるための方法は公知である(Inaba et al., J. Exp. Med. 176:1693-1702(1992)参照)。
【0115】
いくつかの実施態様では、抗体又はその抗体断片を含んでいる本発明のCAR(キメラ抗原受容体)の部分は、様々な形態で存在し得、ここで抗原結合ドメインは、例えば、単一ドメイン抗体断片(sdAb)、一本鎖抗体(scFv)、ヒト化抗体、又は二重特異的抗体を含む、連続したポリペプチド鎖の一部として発現される(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, N.Y.; Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。いくつかの実施態様では、本発明のCAR組成物の抗原結合ドメインは、抗体断片を含む。更なる態様では、CARは、scFvを含む抗体断片を含む。
【0116】
いくつかの実施態様では、本発明は、腫瘍抗原、例えば本明細書に記載の腫瘍抗原に対する特異的結合のために設計された抗原結合ドメイン(例えば抗体又は抗体断片、T細胞受容体又はT細胞受容体断片)を含んでいる、多くのキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0117】
いくつかの実施態様では、前記細胞(例えばT細胞)に、CARをコードするウイルスベクターを用いて形質導入する。いくつかの実施態様では、該ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。いくつかの実施態様では、該ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。いくつかの実施態様では、該細胞は、CARを安定に発現し得る。いくつかの実施態様では、該細胞(例えばT細胞)は、CARをコードする、核酸、例えばmRNA、cDNA、DNAを用いてトランスフェクトされる。
【0118】
いくつかの実施態様では、本発明のCARの抗原結合ドメイン(例えばscFv)は、その配列が哺乳動物細胞における発現のために最適化されている、核酸分子によってコードされている。いくつかの実施態様では、本発明の全CAR構築物は、その全配列が哺乳動物細胞における発現のために最適化されている、核酸分子によってコードされている。コドン最適化は、コーディングDNAにおける同義コドン(すなわち、同じアミノ酸をコードしているコドン)の発生頻度は、異なる種において偏りがあるという発見を指す。このようなコドンの縮重は、様々なヌクレオチド配列によって同一のポリペプチドがコードされることを可能とする。様々なコドン最適化法が、当技術分野において公知であり、これには例えば、少なくとも米国特許第5,786,464号及び第6,114,148号に開示されている方法が挙げられる。
【0119】
いくつかの実施態様では、NRP-1の発現は、エンドヌクレアーゼを使用することによって抑制される。いくつかの実施態様では、NRP-1の発現は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼを使用することによって抑制される。真核細胞における遺伝子編集のためのCRISPR/Cas系は典型的には、(1)標的化配列(これはゲノムDNAの標的配列にハイブリダイズすることができる)と、Cas、例えばCas9酵素に結合することのできる配列とを含む、ガイドRNA分子(gRNA)、及び(2)Cas、例えばCas9タンパク質を含む。標的化配列、及び、Cas、例えばCas9酵素に結合することのできる配列は、同じ分子上に配置されても、異なる分子上に配置されてもよい。異なる分子上に配置された場合、各々は、分子が例えばハイブリダイゼーションを通して会合することを可能とするハイブリダイゼーションドメインを含む。NRP-1を阻害する人工CRISPR/Cas系は、当技術分野において公知の技術、例えば、米国公開公報第20140068797号、国際公開公報第015/048577号、及びCong (2013) Science 339: 819-823に記載されている技術を使用して作成され得る。NRP-1を阻害する、当技術分野において公知である、例えば、Tsai (2014) Nature Biotechnol., 32:6 569-576、米国特許第8,871,445号;第8,865,406号;第8,795,965号;第8,771,945号;及び第8,697,359号に記載されている(その内容はその全体が参照によりここに援用される)、他の人工CRISPR/Cas系も作成され得る。NRP-1を阻害するこのような系は、例えば、NRP-1遺伝子配列にハイブリダイズする標的化配列を含んでいるgRNA分子を含むようにCRISPR/Cas系を設計することによって作成され得る。いくつかの実施態様では、gRNAは、NRP-1遺伝子の15~25ヌクレオチド、例えば20ヌクレオチドに対して完全に相補的である標的化配列を含む。いくつかの実施態様では、NRP-1遺伝子の15~25ヌクレオチド、例えば20ヌクレオチドが、CRISPR/Cas系(例えば、ここでの系は、化膿性連鎖球菌のCas9タンパク質を含み、PAM配列はNGGを含み、ここでのNはA、T、G、又はCのいずれかであり得る)のCasタンパク質によって認識されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の5’のすぐ近くに配置されている。
【0120】
いくつかの実施態様では、外来DNA(例えば、CARをコードするDNA)を、細胞内にCRISPR/Cas系と共に導入することができる。
【0121】
いくつかの実施態様では、細胞をエンドヌクレアーゼ系と接触させることは、エクスビボで行なわれる。実施態様では、該細胞を、CAR、例えば本明細書に記載のようなCARを発現するように改変する前、改変と同時に、又は改変した後に、接触させる。
【0122】
いくつかの実施態様では、少なくとも1つの免疫チェックポイントタンパク質(例えばPD-1、CTLA-4)の発現も細胞内において抑制される。
【0123】
本発明の更なる目的は、i)CARをコードする核酸を細胞内に導入すること、及びii)該細胞をエンドヌクレアーゼ系と接触させることにより、NRP-1の発現を抑制することからなる工程を含む、CARを発現する細胞を製造する方法に関する。
【0124】
いくつかの実施態様では、前記方法は、i)CARをコードする核酸を細胞内に導入すること、及びii)該細胞をCasタンパク質と、及び、NRP-1遺伝子に標的化する配列とCasタンパク質に結合することのできる配列とを含んでいる少なくとも1つのガイドRNA分子(gRNA)とに接触させることからなる工程を含む。いくつかの実施態様では、該細胞をまた、免疫チェックポイントタンパク質(例えばPD-1、CTLA-4など)をコードする遺伝子に標的化する配列を含んでいる少なくとも1つのガイドRNA分子とも接触させる。
【0125】
一旦、T細胞集団が得られたら、細胞の機能を、細胞障害活性アッセイを典型的には含む、任意の標準的な方法に従って評価し得る。適切な結合対を用いて、細胞の細胞表面表現型も確認することができる。様々なサイトカインの分泌の定量も行なってもよい。試料中のサイトカインの分泌を定量するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、任意の免疫学的方法、例えばであって以下に限定されないが、ELISA、多重戦略、ELISPOT、イムノクロマトグラフィー技術、プロテオミクス法、ウェスタンブロット、FACS、又はラジオイムノアッセイを、本発明に適用可能であり得る。
【0126】
本発明の方法によって得られたT細胞集団は、様々な適用を見出し得る。より特定すると、T細胞集団は、養子免疫療法に適している。養子免疫療法は、感染した細胞又は形質転換した細胞の排除が、特定のT細胞集団によって達成されることが実証されている、任意の疾患又は疾患状態にとって適切な処置である。本発明に従って調製されるようなT細胞集団を用いて処置され得る、例示的な疾患、障害、又は容態としては、例えば、感染、例えばウイルス感染、細菌感染、マイコプラズマ感染、真菌感染、及び寄生虫感染;並びに癌が挙げられる。
【0127】
本発明の更なる目的は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように設計されたT細胞集団の治療有効量を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関し、ここで該細胞におけるNRP-1の発現は抑制されている。
【0128】
治療有効量のNRP-1阻害剤を癌ワクチンと組み合わせて患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法:
本発明の更なる目的は、治療有効量のNRP-1阻害剤を癌ワクチンと組み合わせて患者に投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関する。
【0129】
いくつかの実施態様では、NRP-1阻害剤は、Mol. Biol. (2007) 366, 815-829及び米国特許出願第8378080B1号に記載の抗NRP1抗体YW64.3から誘導された、抗NRP-1抗体である。特に、該抗NRP-1抗体は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む。
【0130】
いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。いくつかの実施態様では、抗NRP-1抗体は、配列番号9の軽鎖可変ドメイン配列及び配列番号10の重鎖可変ドメイン配列を含む。
【0131】
いくつかの実施態様では、前記NRP-1阻害剤は、
- 以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン:VL-CDR1(RASQSISSYLA;配列番号3)、VL-CDR2(GASSRAS;配列番号4)、及びVL-CDR3(QQYMSVPIT;配列番号5)、並びに
- 以下のCDRアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン:VH-CDR1(GFSFSSEPIS;配列番号6)、VH-CDR2(SSITGKNGYTYYADSVKG;配列番号7)、及びVH-CDR3(WGKKVYGMDV;配列番号8)
を含む抗体と、NRP-1アイソフォームに対する結合に関して交差競合する抗NRP-1抗体である。
【0132】
様々な物質を、免疫原性型又はワクチン型の化合物又は製剤中の抗原として使用することができる。例えば、弱毒化及び不活化されたウイルス及び細菌の病原体、精製された巨大分子、多糖、トキソイド、組換え抗原、病原体由来の外来遺伝子を含有している生物、合成ペプチド、ポリ核酸、抗体、及び腫瘍細胞を使用して、本発明の癌ワクチンを調製することができる。いくつかの実施態様では、該抗原は、トランスフェクション、レンチウイルス若しくはレトロウイルスによる形質導入、ミニ遺伝子の導入、又は他の適切な手順によって細胞内に導入された、DNA又は他の適切な核酸配列によってコードされる、タンパク質又はペプチドである。いくつかの実施態様では、該抗原は、組換えDNA技術によって、又は異なる組織若しくは細胞源からの精製によって得ることのできる、タンパク質である。典型的には、該タンパク質は、10アミノ酸より長い、好ましくは15アミノ酸より長い、更により好ましくは20アミノ酸より長い長さを有し、理論的上限はない。このようなタンパク質は、天然タンパク質に限定されないが、例えば、選択されたアミノ酸配列を変化させることによって、又は異なるタンパク質の一部を融合させることによって得られた、修飾されたタンパク質又はキメラ構築物も含まれる。いくつかの実施態様では、該抗原は、合成ペプチドである。典型的には、該合成ペプチドは、3~40アミノ酸長、好ましくは5~30アミノ酸長、更により好ましくは8~20アミノ酸長である。合成ペプチドは、Fmoc生化学手順、大規模な複数のペプチドの合成、組換えDNA技術、又は他の適切な手順によって得ることができる。このようなペプチドは、天然ペプチドに限定されないが、例えば選択されたアミノ酸配列を変化若しくは修飾することによって、又は異なるタンパク質の一部を融合させることによって得られた、修飾されたペプチド、翻訳後修飾されたペプチド、若しくはキメラペプチドも含まれる。
【0133】
いくつかの実施態様では、ワクチン組成物は、選択された抗原を提示する、少なくとも1つの抗原提示細胞集団を含む。抗原提示細胞(又は刺激細胞)は典型的には、MHCクラスI分子又はクラスII分子をその表面上に有し、いくつかの実施態様では、抗原提示細胞それ自体は、MHCクラスI分子又はクラスII分子に、選択された抗原を実質的に載せることはできない。好ましくは、抗原提示細胞は樹状細胞である。適切には、樹状細胞は、目的の抗原(例えばペプチド)を瞬間適用された自己樹状細胞である。腫瘍関連抗原に由来するペプチドを瞬間適用された自己樹状細胞を使用したT細胞療法は、Murphy et al. (1996) The Prostate 29, 371-380及びTjua et al. (1997) The Prostate 32, 272-278に開示されている。したがって、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの抗原提示細胞を含有しているワクチン組成物に、1つ以上の抗原性ペプチドを瞬間適用するか又はそれを積載する。代替選択肢として、抗原提示細胞は、抗原性ペプチドをコードしている発現構築物を含む。ポリヌクレオチドは、任意の適切なポリヌクレオチドであり得、それを樹状細胞に形質導入することができ、それにより、ペプチドが提示され、免疫応答が誘導されることが好ましい。
【0134】
本発明の更なる目的は、1つ以上の癌抗原に対する免疫応答を誘導するために、免疫アジュバント(ここでの免疫アジュバントはNRP-1阻害剤である)を1つ以上の該癌抗原と一緒に含んでいる、癌ワクチンに関する。
【0135】
医薬組成物:
本発明によると、活性物質は、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で患者に投与される。これらの組成物に使用され得る薬学的に許容される担体としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えばホスフェート、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、又は電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、トリケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースを基剤とした物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂が挙げられるがこれらに限定されない。患者への投与に使用するために、該組成物は患者への投与用に製剤化されるだろう。本発明の組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、直腸内に、経鼻的に、頬側に、膣内に、又は埋め込まれたレザバーを介して投与され得る。本明細書における使用としては、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下腔内、肝内、病巣内、及び頭蓋内への注射又は注入技術が挙げられる。本発明の組成物の無菌注射剤形は、水性又は油性懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して当技術分野において公知の技術に従って製剤化され得る。無菌注射調製物はまた、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射溶液又は懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中溶液であり得る。使用され得る許容されるビヒクル及び溶媒には、水、リンガー液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌の不揮発性油が、溶媒又は懸濁化媒体として慣用的に使用される。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドをはじめとするあらゆる配合不揮発性油が使用され得る。脂肪酸、例えばオレイン酸、及びそのグリセリド誘導体は、天然の薬学的に許容される油、例えばオリーブ油又はヒマシ油、特にそれらのポリオキシエチレン化形と同様に、注射剤の調製に有用である。これらの油性溶液又は懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤若しくは分散剤(例えばカルボキシメチルセルロース)、又は薬学的に許容される剤形(例えばエマルション及び懸濁液)の製剤化に一般的に使用される類似の分散剤を含有していてもよい。薬学的に許容される固形剤、液剤、又は他の剤形の製造に一般的に使用される、他の一般的に使用される界面活性剤(例えばTween、Span)及び他の乳化剤又はバイオアベイラビリティ増強剤も、製剤化の目的に使用され得る。本発明の組成物は、カプセル、錠剤、水性懸濁剤、又は液剤を含むがこれらに限定されない、任意の経口的に許容される剤形で経口投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体は、乳糖及びコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も典型的には添加される。カプセル剤形での経口投与のために有用な希釈剤としては、例えば乳糖が挙げられる。水性懸濁液が経口使用のために必要とされる場合、活性成分を乳化剤及び懸濁化剤と配合する。所望であれば、特定の甘味剤、芳香剤、又は着色剤も添加してもよい。あるいは、本発明の組成物は、直腸投与用の坐剤の剤形で投与されてもよい。これらは、室温では固体であるが直腸温度では液体であり、それ故、直腸内で融解して薬物を放出する、適切な非刺激性の賦形剤と該薬剤を混合することによって調製され得る。このような材料としては、ココアバター、蜜蝋、及びポリエチレングリコールが挙げられる。本発明の組成物はまた、特に処置の標的が、局所適用によって容易に近づける領域又は器官を含む場合(眼、皮膚、又は下部腸管の疾患を含む)、局所的に投与されてもよい。これらの各領域又は器官のための適切な局所的製剤は容易に調製される。局所適用のために、該組成物は、1つ以上の担体に懸濁又は溶解された活性成分を含有している適切な軟膏中で製剤化され得る。本発明の化合物の局所投与用の担体としては、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化蝋、及び水が挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、該組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体中に懸濁又は溶解された活性成分を含有している適切なローション又はクリームで製剤化され得る。適切な担体としては、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステル蝋、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水が挙げられるがこれらに限定されない。下部腸管への局所適用は、直腸坐剤製剤(上記参照)又は適切な浣腸製剤で行なわれ得る。パッチを使用してもよい。本発明の組成物はまた、鼻腔内へのエアゾール又は吸入によって投与され得る。このような組成物は、医薬製剤の分野において周知である技術に従って調製され、これは、ベンジルアルコール若しくは他の適切な保存剤、バイオアベイラビリティを増強するための吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/又は他の慣用的な可溶化剤若しくは分散剤を使用して、食塩水中溶液として調製され得る。例えば、本発明の医薬組成物中に存在する抗体は、100mg(10mL)又は500mg(50mL)のいずれかの1回使用のバイアル中に10mg/mLの濃度で供給され得る。製品は、静脈内投与用に、9.0mg/mLの塩化ナトリウム、7.35mg/mLのクエン酸ナトリウム二水和物、0.7mg/mLのポリソルベート80、及び滅菌注射用水中で製剤化される。pHは6.5に調整される。本発明の医薬組成物における抗体の例示的な適切な用量範囲は、約1mg/m2から500mg/m2の間であり得る。しかしながら、これらの計画は例であり、最適な計画及びレジメンは、臨床試験で決定されなければならない医薬組成物中の特定の抗体の親和性及び耐容性を考慮しながら適応させることができる。注射用(例えば筋肉内、静脈内)の本発明の医薬組成物は、滅菌緩衝水(例えば筋肉内用では1ml)及び1ngから約100mg、例えば約50ngから約30mg、又はより好ましくは約5mgから約25mgの本発明の阻害剤を含有するように調製され得る。
【0136】
癌を患っている患者が、免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成するであろうかどうかを予測する方法:
本発明の更なる目的は、癌を患っている患者が、免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成するであろうかどうかを予測する方法であって、i)患者由来の腫瘍試料中のNRP-1又はセマフォリン3Aの発現レベルを決定すること、及びii)工程i)で決定された発現レベルを、所定の基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定された発現レベルが所定の基準値よりも低い場合、患者は該免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成すると結論付けること、又は、工程i)で決定された発現レベルが所定の基準値よりも高い場合、患者は該免疫チェックポイント阻害剤を用いて応答を達成しないと結論付けることを含む、方法に関する。
【0137】
したがって、前記方法は、応答者と非応答者を識別するのに特に適している。本発明によると、応答者は、客観的な応答を示し、それ故、該用語は、安定化した癌を有し、よって該疾患は免疫チェックポイント阻害剤を用いての処置後に進行していない患者を包含しない。非応答者又は難治性患者は、癌が、免疫チェックポイント阻害剤を用いての処置後に退縮又は改善を示さない患者を含む。典型的には、応答者又は非応答者としての患者の特徴付けは、標準又は訓練セットへの参照によって行なわれ得る。標準は、応答者若しくは非応答者であることが知られている患者のプロファイルであり得るか、又は代替的には数値であり得る。このような予め決定された標準は、任意の適切な形態で、例えば印刷されたリスト若しくは図、コンピューターソフトウェアプログラム、又は他の媒体で提供され得る。
【0138】
いくつかの実施態様では、腫瘍組織試料中のNRP-1又はセマフォリン3Aの発現レベルは、免疫組織化学的検査によって決定される。例えば、決定は、腫瘍組織試料を、NRP-1又はセマフォリン3Aに特異的な結合対(例えば抗体)と接触させることによって行なわれる。
【0139】
免疫組織化学的検査は典型的には、以下の工程、すなわちi)腫瘍組織試料をホルマリンで固定する工程、ii)該腫瘍組織試料をパラフィンに包埋する工程、iii)該腫瘍組織試料を染色のために切片に切断する工程、iv)該切片を、NRP-1タンパク質に特異的な結合対と共にインキュベートする工程、v)該切片を濯ぐ工程、vi)該切片を、典型的にはビオチニル化されている二次抗体と共にインキュベートする工程、及びvii)典型的にはアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体を用いて該抗原-抗体複合体を顕現させる工程を含む。したがって、腫瘍組織試料をまず、NRP-1タンパク質に対して特異性を有する結合対と共にインキュベートする。洗浄後、NRP-1タンパク質に結合した標識された抗体を、標識された抗体によって生じる標識(例えば放射性標識、蛍光標識、又は酵素標識)の種類に応じて、適切な技術によって顕現させる。複数の標識を同時に行なってもよい。あるいは、本発明の方法は、増幅系(染色シグナルを強化するための)及び酵素分子に結合させた二次抗体を使用してもよい。このような結合した二次抗体は、例えばダコ社、EnVisionシステムから市販されている。対比染色、例えばヘマトキシリン及びエオシン、DAPI(ジアミジノフェニルインドール)、ヘキストなどを使用してもよい。他の染色法も、自動化システム、半自動化システム、又は手動システムを含む、当業者には明らかであろうような、任意の適切な方法又はシステムを使用して成し遂げられ得る。
【0140】
したがって、いくつかの実施態様では、本発明の方法は、i)NRP-1と選択的に相互作用することのできる結合対を使用することによって、自動スライド染色システムによって得られた1つ以上の免疫染色された組織切片の薄片を準備すること、ii)高解像度スキャンキャプチャーによって、工程i)のスライドのデジタル化を進めること、iii)デジタル写真上で組織切片の薄片を検出すること、iv)同じ表面積を有する均一に分布した単位を有する、サイズ参照グリッドを準備すること(該グリッドは、分析しようとする組織切片のサイズに合わせている)、並びにv)各単位内の染色された細胞の強度又は絶対数を検出、定量、及び測定することからなる工程を含む。
【0141】
いくつかの実施態様では、前記方法は更に、CD8の発現レベルを決定することを含む。いくつかの実施態様では、該方法は、腫瘍組織試料中のCD8陽性NRP-1陽性細胞の密度を決定することを含む。
【0142】
多重組織分析技術が、腫瘍組織試料中のいくつかのタンパク質(例えばNRP-1及びCD8)を定量するのに特に有用である。このような技術は、たった1つの腫瘍組織試料から、少なくとも5個、又は少なくとも10個、又はそれ以上のバイオマーカーの測定を可能とするはずである。更に、該技術にとって、バイオマーカーの場所を保存し、癌細胞内のバイオマーカーと非癌細胞内のバイオマーカーの存在を識別することができることは有利である。このような方法としては、例えば、米国特許第6,602,661号;第6,969,615号、第7,214,477号及び第7,838,222号;米国公開公報第2011/0306514号(参照により本明細書に援用される);及びChung & Hewitt, Meth Mol Biol, Prot Blotting Detect, Kurlen & Scofield, eds. 536: 139-148, 2009に教義された、層状免疫組織化学的検査(L-IHC)、層状発現走査(LES)、又は多重組織イムノブロット(MTI)が挙げられ、各参考文献は、層状でブロットされた膜、紙、フィルターなどの上に8個まで、9個まで、10個まで、11個まで、又はそれ以上の組織切片の画像の作成が使用され得ることを教義する。L-IHC/MTIプロセスを実施するのに有用なコーティングされた膜は、20/20ジーンシステムズ社(ロックビル、MD州)から入手可能である。
【0143】
いくつかの実施態様では、L-IHC法は、新鮮であれ保存されたものであれ、様々な組織試料の中のいずれに対しても実施され得る。試料は、針生検材料を含み、これは10%の通常の緩衝ホルマリンで固定され、病理部門で処理された。標準的な5μm厚の組織切片を、組織塊から切断して帯電スライド上に置き、これをL-IHCに使用した。したがって、L-IHCは、組織切片から複数の生物親和性でコーティングされた膜へと移された分子のコピーを得て、組織「画像」のコピーを実質的に作成することによって、組織切片内の複数のマーカーの試験を可能とする。パラフィン切片の場合、組織切片を、例えば、該切片をキシレン又はキシレン代替品、例えばネオクリア(登録商標)及び等級エタノール溶液に曝して、当技術分野において公知のように脱パラフィン化する。切片を、パパイン、トリプシン、プロテイナーゼKなどのプロテイナーゼを用いて処理することができる。その後、例えば、タンパク質などの組織分子を積層を通って透過させるための直径0.4μmの孔を有する、10μm厚のコーティングされたポリマー骨格の複数のシートを含んでいる、積層膜基質を、その後、組織切片上に置く。液体及び組織の分子の移動が、膜表面に対して実質的に垂直になるように構成されている。切片、膜、間隔紙、吸収紙、おもしなどのサンドイッチ状のものを熱に曝すことにより、組織から積層膜への分子の移動を促進することができる。該組織のタンパク質の一部は、各々の生物親和性でコーティングされた積層膜(20/20ジーンシステムズ社、ロックビル、MD州から入手可能)上に捕捉される。したがって、各膜は1コピーの組織を含み、これに標準的なイムノブロット技術を使用して、様々なバイオマーカーに対するプローブを付けることができ、これにより、たった1つの組織切片で実施されるのと同様の1つのマーカープロファイルの無制限の増幅が可能となる。タンパク質の量は、組織からより離れている積層内の膜上ではより少ない場合があり、これは、例えば、組織試料中の分子の量が異なること、組織試料から放出される分子の移動度が異なること、膜に対する分子の結合親和性が異なること、転写時間の長さなどで生じ得るので、数値の正規化、対照の実行、組織分子の転写レベルの評価などを手順に含めることにより、膜内で、膜間(2者間)で、及び膜間(3者以上の間)で起こる変化について修正することができ、そして、膜内で、膜間(2者間)で、及び膜間(3者以上の間)で情報を直接比較することが可能となる。したがって、1つの膜あたりの全タンパク質は、例えば、タンパク質、例えばビオチニル化している入手可能な分子、例えばタンパク質を、標準的な試薬及び方法を使用して定量し、その後、膜を、当技術分野において公知であるような、標識されたアビジン又はストレプトアビジン;タンパク質染色液、例えばBlot fastStain、ポンソー赤色、ブリリアントブルー染色液などに曝すことによって、結合したビオチンを顕現させるための任意の手段を使用して決定され得る。
【0144】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、バイオマーカーを測定するための多重組織インプリンティング(MTI)技術を使用し、ここで、該方法は、複数のバイオマーカー、場合によっては少なくとも6つのバイオマーカーを可能とすることによって、貴重な生検組織を節約する。
【0145】
いくつかの実施態様では、代替的な多重組織分析システムが存在し、これも本発明の一部として使用され得る。1つのこのような技術は、質量分析に基づいた選択反応モニタリング(SRM)アッセイシステムである(OncoPlexDx社(ロックビル、MD州)から入手可能な「Liquid Tissue」)。その技術は、米国特許第7,473,532号に記載されている。
【0146】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、GEグローバルリサーチ社(ニスカユナ、NY州)によって開発された多重免疫組織化学技術を利用した。その技術は、米国特許公開公報第2008/0118916号及び第2008/0118934号に記載されている。そこでは、複数の標的を含有している生物学的試料について連続分析が行なわれ、これは、蛍光プローブを試料に結合させ、その後、シグナルを検出し、次いで、プローブを不活化させ、続いてプローブを別の標的に結合させ、検出し、不活化させ、そして全ての標的が検出されるまでこのプロセスを継続する工程を含む。
【0147】
いくつかの実施態様では、多重組織イメージングを行なうことができ、蛍光(例えばフルオロフォア又は量子ドット)を使用する場合、ここではシグナルをマルチスペクトルイメージングシステムを用いて測定することができる。マルチスペクトルイメージングは、画像の各ピクセルにおける分光学的な情報が集められ、結果として得られたデータを、スペクトルイメージ処理ソフトウェアを用いて分析する技術である。例えば、該システムは、電子的に連続的に選択することのできる様々な波長で一連の画像を撮影することができ、その後、このようなデータを取り扱うために設計された分析プログラムと共に利用され得る。したがって、該システムは、色素のスペクトルが高度に重複している場合でさえ、又はそれらが同じ場所に局在している、すなわち試料中の同じ点に存在している場合でさえも、複数の色素から同時に量的情報を得ることができ、ただし、スペクトル曲線は異なる。多くの生物学的物質は自己蛍光を発するか、又は、より高いエネルギーの光によって励起された場合、より低いエネルギーの光を放出する。このシグナルは、よりコントラストの低い画像及びデータをもたらす場合がある。マルチスペクトルのイメージング能を有さない高感度カメラは、蛍光シグナルと共に自己蛍光シグナルも増加させるだけである。マルチスペクトルイメージングは、組織に由来する自己蛍光を分離、すなわち分別することができ、これにより、到達可能な信号対雑音比を高めることができる。簡潔に言えば、定量は、以下の工程によって実施され得る:i)患者から得られた腫瘍組織マイクロアレイ(TMA)を準備する工程、ii)その後、TMA試料を、目的のNRP-1タンパク質(群)に特異性を有する抗抗体で染色する工程、iii)TMAスライドを更に、上皮細胞マーカーで染色して、腫瘍及び間質の自動セグメンテーションを補助する工程、iv)その後、TMAスライドを、マルチスペクトルイメージングシステムを使用して走査する工程、v)走査された画像を、強力なパターン認識アルゴリズムを通した特定の組織の検出、定量、及びセグメンテーションを可能とする、自動画像解析ソフトウェア(例えばパーキンエルマーテクノロジー社)を使用して処理する工程。機械学習アルゴリズムは、典型的には、間質から腫瘍をセグメント化し、標識された細胞を同定するために事前に訓練された。
【0148】
いくつかの実施態様では、NRP-1の発現レベルは、NRP-1をコードしているmRNAの量を決定することによって決定される。mRNAの量を決定するための方法は当技術分野において周知である。例えば、試料(例えば患者から調製された細胞又は組織)中に含有される核酸をまず標準的な方法に従って、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を使用して抽出するか、又は、製造業者の説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出する。次いで、抽出されたmRNAをハイブリダイゼーション(例えばノザンブロット分析、インサイツハイブリダイゼーション)及び/又は増幅(例えば逆転写PCR)によって検出する。他の増幅法としては、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅法(TMA)、鎖置換増幅法(SDA)及び核酸配列ベース増幅法(NASBA)が挙げられる。
【0149】
少なくとも10個のヌクレオチドを有しかつ本明細書の目的のmRNAに対して配列相補性又は相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブ又は増幅プライマーとしての有用性を見出す。このような核酸は同一である必要はないが、典型的には同等なサイズの相同領域に対して少なくとも約80%同一、より好ましくは85%同一、更により好ましくは90~95%同一であると理解される。いくつかの実施態様では、ハイブリダイゼーションの検出のために、適切な手段、例えば検出可能な標識と組み合わせて核酸を使用することが有利であろう。
【0150】
典型的には、核酸プローブは、例えば、開示されたプローブを使用した標的核酸分子の検出を可能とするための、1つ以上の標識を含む。インサイツハイブリダイゼーション手順などの様々な適用において、核酸プローブは標識(例えば検出可能な標識)を含む。「検出可能な標識」は、試料中のプローブ(特に結合した又はハイブリダイズしたプローブ)の存在又は濃度を示す、検出可能なシグナルを発生させるために使用することのできる、分子又は材料である。したがって、標識された核酸分子は、試料中の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)(これに、標識された独特な特異的な核酸分子が結合又はハイブリダイズしている)の存在又は濃度の指標を提供する。1つ以上の核酸分子(例えば開示された方法によって生成されたプローブ)に結合した標識は、直接的に又は間接的にのいずれかで検出され得る。標識は、光子(ラジオ波周波数、マイクロ波周波数、赤外線周波数、可視周波数、及び紫外線周波数の光子を含む)の吸収、放出及び/又は散乱をはじめとする任意の公知の機序又は依然として発見されていない機序によって検出することができる。検出可能な標識としては、着色した、蛍光の、リン光の、及び発光の分子及び材料、ある物質を別の物質へと変換して検出可能な差をもたらす触媒(例えば酵素)(例えば、無色物質を着色物質へと若しくはその逆へと変換することによって、又は沈降物を生成するか若しくは試料の濁度を増加させることによって)、抗体結合相互作用によって検出することのできるハプテン、並びに常磁性及び磁性の分子又は材料が挙げられる。
【0151】
検出可能な標識の特定の例としては、蛍光分子(又は蛍光色素)が挙げられる。数多くの蛍光色素が当業者には公知であり、例えばライフ・テクノロジーズ社(以前はインビトロジェン社)から選択することができ、例えばThe Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologiesを参照されたい。核酸分子(例えば独特な特異的な結合領域)に付着(例えば化学的にコンジュゲート)することのできる特定のフルオロフォアの例が、Nazarenko et al.の米国特許第5,866,366号に提供され、例えば4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’ジスルホン酸、アクリジン及び誘導体、例えばアクリジン及びアクリジンイソチオシアネート、5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)、4-アミノ-N-[3ビニルスルホニル]フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート(ルシファーイエローVS)、N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド、アントラニルアミド、ブリリアントイエロー、クマリン及び誘導体、例えばクマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(クマリン151);シアノシン;4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI);5’,5’’ジブロモピロガロール-スルホネフタレイン(ブロモピロガロールレッド);7-ジエチルアミノ-3-(4’-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン;ジエチレントリアミンペンタアセテート;4,4’-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸;4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸(disulfor1ic acid);5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド);4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL);4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4’-イソチオシアネート(DABITC);エオシン及び誘導体、例えばエオシン及びエオシンイソチオシアネート;エリスロシン及び誘導体、例えばエリスロシンB及びエリスロシンイソチオシアネート;エチジウム;フルオレセイン及び誘導体、例えば5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、5-(4,6-ジクロロトリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’7’ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、及びQFITC Q(RITC);2’,7’-ジフルオロフルオレセイン(オレゴングリーン(登録商標));フルオレスカミン;IR144;IR1446;マラカイトグリーンイソチオシアネート;4-メチルウンベリフェロン;オルトクレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラローザニリン;フェノールレッド;B-フィコエリトリン;o-フタルジアルデヒド;ピレン及び誘導体、例えばピレン、ピレンブチレート、及びスクシンイミジル1-ピレンブチレート;リアクティブレッド4(チバクロンブリリアントレッド3B-A);ローダミン及び誘導体、例えば6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシローダミン(R6G)、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、ローダミングリーン、スルホローダミンB、スルホローダミン101及びスルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(テキサスレッド);N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA);テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC);リボフラビン;ロソール酸及びテルビウムキレート誘導体である。他の適切なフルオロフォアとしては、約617nmで発光するチオール反応性ユーロピウムキレート(Heyduk and Heyduk, Analyt. Biochem. 248:216-27, 1997; J. Biol. Chem. 274:3315-22, 1999)、並びに、GFP、リサミン(商標)、ジエチルアミノクマリン、フルオレセインクロロトリアジニル、ナフトフルオレセイン、4,7-ジクロロローダミン、及びキサンテン(Lee et al.の米国特許第5,800,996号に開示されているような)及びその誘導体が挙げられる。当業者に公知である他のフルオロフォア、例えば、ライフ・テクノロジーズ社(インビトロフェン社;モレキュラープローブ(ユージーン、オレゴン州))から入手できるもの、例えばALEXA FLUOR(登録商標)シリーズの色素(例えば、米国特許第5,696,157号、第6,130,101号、及び第6,716,979号に記載)、BODIPYシリーズの色素(ジピロメテンボロンジフルオリド色素、例えば米国特許第4,774,339号、第5,187,288号、第5,248,782号、第5,274,113号、第5,338,854号、第5,451,663号、及び第5,433,896号に記載のような)、カスケードブルー(米国特許第5,132,432号に記載のスルホン化ピレンのアミン反応性誘導体)及びマリーナブルー(米国特許第5,830,912号)も使用することができる。
【0152】
上記の蛍光色素に加えて、蛍光標識は、蛍光ナノ粒子、例えば半導体ナノ結晶、例えばQUANTUM DOT(商標)(例えばライフ・テクノロジーズ社(QuantumDot社、インビトロジェン社のナノクリスタルテクノロジー、ユージーン、オレゴン州)から得られた;米国特許第6,815,064号;第6,682,596号;及び第6,649,138号も参照)であり得る。半導体ナノ結晶は、サイズ依存性の光学的及び/又は電気的特性を有する顕微粒子である。半導体ナノ結晶を第一のエネルギー源を用いて照射すると、半導体ナノ結晶に使用された半導体材料のハンドギャップに相当する周波数の第二のエネルギーの放出が起こる。この放出は、特定の波長の色光又は蛍光として検出することができる。様々なスペクトル特徴を有する半導体ナノ結晶が、例えば、米国特許第6,602,671号に記載されている。例えば、Bruchez et al., Science 281 :20132016, 1998; Chan et al., Science 281:2016-2018, 1998;及び米国特許第6,274,323号に記載の技術によって様々な生物学的分子(例えばdNTP及び/又は核酸)又は基質に結合させることのできる半導体ナノ結晶。様々な組成の半導体ナノ結晶の形成が、例えば、米国特許第6,927,069号;第6,914,256号;第6,855,202号;第6,709,929号;第6,689,338号;第6,500,622号;第6,306,736号;第6,225,198号;第6,207,392号;第6,114,038号;第6,048,616号;第5,990,479号;第5,690,807号;第5,571,018号;第5,505,928号;第5,262,357号、及び米国特許公開公報第2003/0165951号並びにPCT公開公報第99/26299号(1999年5月27日に公開)に開示されている。その異なるスペクトル特徴に基づいて同定可能である別の集団の半導体ナノ結晶を生成することができる。例えば、その組成、サイズ、又はサイズと組成に基づいて異なる色の光を放出する半導体ナノ結晶を生成することができる。例えば、本明細書に開示されたプローブにおける蛍光標識として適切である、サイズに基づいて異なる波長(565nm、655nm、705nm、又は800nmの発光波長)で発光する量子ドットは、ライフ・テクノロジーズ社(カールスバッド、カリフォルニア州)から入手可能である。追加の標識としては、例えば、放射性同位体(例えば3H)、金属キレート、例えばGd3+のような放射性又は常磁性金属イオンのDOTA及びDPTAキレート、並びにリポソームが挙げられる。核酸分子と共に使用することのできる検出可能な標識としては、酵素、例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、又はβ-ラクタマーゼも挙げられる。あるいは、酵素を、金属組織検出スキームに使用することができる。例えば、銀インサイツハイブリダイゼーション(SISH)手順は、ハイブリダイズしたゲノム標的核酸配列の同定及び場所決定のための金属組織検出スキームを含む。金属組織検出法は、アルカリホスファターゼなどの酵素を、水溶性金属イオン及び酸化還元不活性な酵素の基質と組み合わせて使用することを含む。基質は、酵素によって酸化還元活性な物質へと変換され、酸化還元活性物質は金属イオンを還元し、それが検出可能な沈降物を形成することを引き起こす(例えば、米国特許出願公開公報第2005/0100976号、PCT公開公報第2005/003777号及び米国特許出願公開公報第2004/0265922号を参照)。金属組織検出法はまた、酸化還元酵素(例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ)を、水溶性金属イオン、酸化剤及び還元剤と共に使用して、ここでも検出可能な沈降物を形成することを含む。(例えば、米国特許第6,670,113号参照)。
【0153】
開示された方法を使用して作製されたプローブを、核酸の検出のために、例えばインサイツハイブリダイゼーション手順に(例えば蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)、発色インサイツハイブリダイゼーション(CISH)、及び銀インサイツハイブリダイゼーション(SISH))又は比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)に使用することができる。
【0154】
インサイツハイブリダイゼーション(ISH)は、中期又は間期染色体調製物の状況の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)を含有している試料(例えばスライド上に積載されている細胞試料又は組織試料)を、標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)に特異的にハイブリダイズすることができるか又は特異的である標識されたプローブと接触させることを含む。スライドに場合により前処理をして、例えば、パラフィン、又は均一なハイブリダイゼーションを妨害する可能性のある他の材料を除去する。試料及びプローブは両方共に、二本鎖核酸を変性させるために、例えば加熱することによって処理される。プローブ(適切なハイブリダイゼーション緩衝液中で調合される)及び試料を、ハイブリダイゼーションが起こる(典型的には平衡に到達する)ことを許容する条件下及び十分な時間かけて合わせる。染色体調製物を洗浄して過剰なプローブを除去し、染色体標的の特異的標識の検出は、標準的な技術を使用して実施される。
【0155】
例えば、ビオチニル化プローブは、フルオレセインで標識されたアビジン又はアビジン-アルカリホスファターゼを使用して検出することができる。蛍光色素の検出のために、蛍光色素を直接検出しても、又は、試料を、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)にコンジュゲートさせたアビジンと共にインキュベートしてもよい。FITCシグナルの増幅は、必要であれば、ビオチンにコンジュゲートさせたヤギ抗アビジン抗体と共にインキュベーション、洗浄、及びFITCにコンジュゲートさせたアビジンと共に2回目のインキュベーションによって行なわれ得る。酵素活性による検出のために、試料を、例えば、ストレプトアビジンと共にインキュベートし、洗浄し、ビオチンにコンジュゲートさせたアルカリホスファターゼと共にインキュベートし、再度洗浄し、そして事前に平衡化(例えばアルカリホスファターゼ(AP)緩衝液中で)させることができる。インサイツハイブリダイゼーション手順の一般的な説明については、例えば、米国特許第4,888,278号を参照されたい。
【0156】
FISH、CISH、及びSISHのための数多くの手順が当技術分野において公知である。例えば、FISHを実施するための手順は、米国特許第5,447,841号;第5,472,842号;及び第5,427,932号;及び例えばPir1kel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 83:2934-2938, 1986;Pinkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85:9138-9142, 1988;及びLichter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85:9664-9668, 1988に記載されている。CISHは、例えばTanner et al., Am. .1. Pathol. 157:1467-1472, 2000及び米国特許第6,942,970号に記載されている。追加の検出法は米国特許第6,280,929号に提供されている。
【0157】
数多くの試薬及び検出スキームを、FISH、CISH及びSISH手順と併せて使用して、感度、分解能、又は他の所望の特性を改善させることができる。上記に考察されているように、フルオロフォア(蛍光色素及びQUANTUM DOTS(登録商標)を含む)で標識されたプローブは、FISHを実施した場合、直接光学的に検出することができる。あるいは、プローブを、非蛍光分子、例えばハプテン(例えば以下の非制限的な例;ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、及び様々なオキサゾール、ピラゾール、チアゾール、ニトロアリール、ベンゾフラザン、トリテルペン、尿素、チオ尿素、ロテノン、クマリン、クマリン系化合物、ポドフィロトキシン、ポドフィロトキシン系化合物、及びその組合せ)、リガンド又は他の間接的に検出可能な部分を用いて標識してもよい。次いで、このような非蛍光分子で標識されたプローブ(及びそれらが結合する標的核酸配列)を、試料(例えばプローブが結合する細胞試料又は組織試料)を、選択されたハプテン又はリガンドに対して特異的である標識された検出試薬、例えば抗体(又は受容体、又は他の特異的な結合対)と接触させることによって検出することができる。検出試薬は、フルオロフォア(例えばQUANTUM DOTS(登録商標))で又は別の間接的に検出可能な部分で標識されても、あるいは、フルオロフォアで標識されていてもよい1つ以上の追加の特異的な結合物質(例えば二次抗体又は特異的抗体)と接触させてもよい。
【0158】
他の例では、プローブ又は特異的結合物質(例えば抗体、例えば一次抗体、受容体、又は他の結合物質)を、蛍光発生組成物又は発色性組成物を検出可能な蛍光シグナル、着色シグナル、又は別様に検出可能なシグナル(例えば、SISHにおいて検出可能な金属粒子の沈着におけるように)へと変換することができる酵素を用いて標識する。上記に示されているように、酵素を、関連したプローブ又は検出試薬へと直接的に又はリンカーを介して間接的に付着させることができる。適切な試薬(例えば結合試薬)及び化学反応(例えばリンカー及び付着化学反応)の例は、米国特許出願公開公報第2006/0246524号;第2006/0246523号及び第2007/0117153号に記載されている。
【0159】
標識されたプローブ-特異的結合物質の対を適切に選択することによって、1回のアッセイ(例えば1つの細胞試料若しくは組織試料上での、又は、1つを超える細胞試料若しくは組織試料上での)で複数の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)の検出を容易にする多重検出スキームを作成することができることが当業者によって理解されるだろう。例えば、第一標的配列に対応する第一プローブを、ビオチンなどの第一のハプテンで標識し、一方で、第二標的配列に対応する第二のプローブをジニトロフェノールなどの第二のハプテンで標識してもよい。プローブに試料を曝露した後、試料を、第一の特異的な結合物質(この場合、第一のフルオロフォアで標識されたアビジン、例えば585nmで発光する、例えば第一のスペクトル的に明確に異なるQUANTUM DOTS(登録商標))及び第二の特異的な結合物質(この場合、第二のフルオロフォア(例えば、705nmで発光する、例えば第二のスペクトル的に明確に異なるQUANTUM DOTS(登録商標))で標識された抗ジニトロフェノール抗体、又は抗体断片)と接触させることによって、結合したプローブを検出することができる。追加のプローブ/結合物質の対を、他のスペクトル的に明確に異なるフルオロフォアを使用して多重検出スキームに加えることができる。直接的及び間接的(1工程、2工程、又はそれ以上)な数多くの変法を想定することができ、その中の全てが、開示されたプローブ及びアッセイの脈絡において適切である。
【0160】
プローブは典型的には、10~1000、例えば10~800、より好ましくは15~700、典型的には20~500ヌクレオチド長の一本鎖核酸を含む。プライマーは典型的には、増幅しようとする目的の核酸と完全に又はほぼ完全に一致するように設計された、10~25ヌクレオチド長のより短い一本鎖核酸である。プローブ及びプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に対して「特異的」であり、すなわち、それらは好ましくは高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする(最も高い融解温度Tm、例えば50%ホルムアミド、5×又は6×SCCに相当する。SCCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン塩ナトリウムである)。
【0161】
上記の増幅法及び検出法に使用された核酸プライマー又はプローブは、キットとして構築されてもよい。このようなキットは、共通プライマー及び分子プローブを含む。好ましいキットはまた、増幅が起こったかどうかを決定するのに必要とされる成分を含む。キットはまた、例えば、PCR緩衝液及び酵素;正の対照配列、反応制御プライマー;並びに、特定の配列を増幅及び検出するための説明書も含み得る。
【0162】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、卵丘細胞から抽出された全RNAを準備する工程、及び、より特定すると定量又は半定量逆転写PCRを用いてRNAを増幅及び特異的なプローブに対するハイブリダイゼーションにかける工程を含む。
【0163】
いくつかの実施態様では、レベルは、DNAチップ分析によって決定される。このようなDNAチップ又は核酸マイクロアレイは、マイクロチップ、スライドガラス、又はマイクロスフィアのサイズのビーズであり得る、基材に化学的に付着させた様々な核酸プローブからなる。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖、シリカ、又はシリカ系材料、炭素、金属、無機ガラス、又はニトロセルロースから構成され得る。プローブは、約10~約60塩基対であり得る、核酸、例えばcDNA又はオリゴヌクレオチドを含む。レベルを決定するために、場合によりまず逆転写にかけた試験患者の試料を、標識し、そして、ハイブリダイゼーション条件でマイクロアレイと接触させ、マイクロアレイ表面に付着させたプローブ配列に対して相補的である標的核酸との間で複合体を形成するに至る。次いで、標識されたハイブリダイズした複合体を検出し、定量又は半定量することができる。標識は、様々な方法によって、例えば放射能標識又は蛍光標識を使用することによって成し遂げることができる。マイクロアレイハイブリダイゼーション技術の多くの変法が、当業者には利用可能である(例えば、Hoheisel, Nature Reviews, Genetics, 2006, 7:200-210による総説を参照)。
【0164】
いくつかの実施態様では、nCounter(登録商標)分析システムを使用して、内因性遺伝子発現を検出する。nCounter(登録商標)分析システムの基本は、アッセイしようとする各々の核酸標的に割り当てられた独特なコードである(国際特許出願公開公報第WO08/124847号、米国特許第8,415,102号及びGeiss et al. Nature Biotechnology. 2008. 26(3): 317-325;その内容は各々その全体が参照により本明細書に援用される)。コードは、アッセイしようとする各標的に対して独特なバーコードを作成する規則正しい一連の有色蛍光スポットから構成される。各々のDNA標的又はRNA標的のための1対のプローブ、すなわちビオチニル化捕捉プローブと蛍光バーコードを有するレポータープローブとを設計する。このシステムは本明細書においてナノレポーターコードシステムとも称される。各標的に対して特異的なレポーター及び捕捉プローブを合成する。レポータープローブは、第一シグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーが付着する少なくとも1つの第一標識付着領域;第二のシグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーが付着する、第一の標識付着領域と重複していない、少なくとも1つの第二の標識付着領域;及び、第一の標的特異的配列を含み得る。好ましくは、各々の配列特異的レポータープローブは、1つ以下の遺伝子にハイブリダイズすることができる標的特異的配列を含み、かつ少なくとも3つ、又は少なくとも4つの標識付着領域を場合により含み、該付着領域は、それぞれ少なくとも1つの第三のシグナル又は少なくとも1つの第四のシグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーを含む。捕捉プローブは、第二の標的特異的配列;及び第一の親和性タグを含み得る。いくつかの実施態様では、捕捉プローブはまた、1つ以上の標識付着領域を含み得る。好ましくは、レポータープローブの第一の標的特異的配列及び捕捉プローブの第二の標的特異的配列は、検出しようとする同じ遺伝子の異なる領域にハイブリダイズする。レポータープローブ及び捕捉プローブは全て、1つのハイブリダイゼーション混合物、すなわち「プローブライブラリー」にプールされる。1回の多重ハイブリダイゼーション反応における各標的の相対量を測定する。該方法は、腫瘍組織試料をプローブライブラリーと接触させることを含み、よって、試料中の標的の存在は、プローブ対-標的の複合体を作る。次いで、複合体を精製する。より具体的には、試料をプローブライブラリーと合わせ、溶液中でハイブリダイゼーションが起こる。ハイブリダイゼーション後、三者間のハイブリダイズした複合体(プローブ対及び標的)を、捕捉プローブ及びレポータープローブ上に存在する普遍的な配列に対して相補的なオリゴヌクレオチドに連結させた磁気ビーズを使用して2工程手順で精製する。この二重精製過程は、大過剰の標的特異的プローブを用いてハイブリダイゼーション反応を完了に導くことが可能である。なぜなら、それらは最終的に除去され、したがって、試料の結合及びイメージングに干渉しないからである。全てのハイブリダイゼーション後の工程は、カスタムリキッドハンドリングロボット(プレップステーション、ナノストリング・テクノロジー社)でロボット操作される。精製された反応液を典型的には、捕捉プローブを介して、ストレプトアビジンでコーティングされた表面に結合した、試料カートリッジの個々のフローセルにプレップステーションによって沈着させ、電気泳動にかけてレポータープローブを伸長し、そして固定する。加工後、試料カートリッジを、完全自動化イメージング装置及びデータ収集装置(デジタルアナライザ、ナノストリング・テクノロジー社)に移す。各試料をイメージングし、その標的に対するコードが検出された回数を計数することによって標的のレベルを測定する。各試料について、約10mm2の結合表面を示す典型的には600個の視野(FOV)がイメージングされる(1376×1024ピクセル)。典型的な画像密度は、多重化度、試料投入量、及び標的の総量に依存して、1視野あたり100~1200個であると計数されたレポーターである。データは、1つの標的あたり、1つの試料あたりの計数を列挙した簡単なスプレッドシート形式に出力する。このシステムをナノレポーターと共に使用することができる。ナノレポーターに関する追加の開示は、国際公開公報第07/076129号及び国際公開公報第07/076132号、及び米国特許公開公報第2010/0015607号及び第2010/0261026号に見出すことができ、その内容はその全体が本明細書に援用される。更に、核酸プローブ及びナノレポーターという用語は、国際公開公報第2010/019826号及び米国特許公報第2010/0047924号(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載の合理的に設計された(例えば合成配列)を含み得る。
【0165】
遺伝子の発現レベルは、絶対レベル又は正規化レベルとして表現され得る。典型的には、レベルは、その発現を、患者の癌段階を決定するのに関連のない遺伝子、例えば構成的に発現されているハウスキーピング遺伝子の発現と比較することによって、遺伝子の絶対レベルを修正することによって正規化される。正規化のための適切な遺伝子としては、ハウスキーピング遺伝子、例えばアクチン遺伝子ACTB、リボソーム18S遺伝子、GUSB、PGK1及びTFRCが挙げられる。この正規化により、1つの試料中のレベルの比較、例えば、患者の試料と別の試料、又は異なる入手源に由来する試料間の比較が可能となる。
【0166】
本発明の更なる目的は、i)患者から得られた腫瘍組織試料中のNRP-1又はセマフォリン3Aの発現レベルを決定すること、ii)工程i)で決定された発現レベルを、所定の基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定された発現レベルが、所定の基準値より低い場合、患者に免疫チェックポイント阻害剤を投与することを含む、それを必要とする患者における癌を処置する方法に関する。
【0167】
本発明は更に、以下の図面及び実施例によって説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例及び図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0168】
概要:
プログラム化細胞死1(PD1)などの免疫チェックポイントの標的化は、疲弊したCD8陽性T細胞の制御を解き、これにより、抗腫瘍免疫応答を回復することによって、癌患者における生存率を改善した1、2。しかしながら、大半の患者は再発するか、又は、免疫チェックポイント遮断療法に対して難治性である。ニューロフィリン-1(NRP1)は、神経系及び血管新生性胚発達に必要とされる、膜貫通糖タンパク質である3、4。NRP1はまた、数種類の免疫細胞にも発現され、免疫学的なシナプスの形成、活性化、及び終結に関与している5~7。NRP1は、マクロファージ及び制御性T細胞の活性を調節することによって、抗腫瘍免疫応答を損なう8~10。ここで、本発明者らは、NRP1が、PD1陽性CD8陽性T細胞の細胞溶解性シナプスに動員され、PD-1と相互作用してPD-1の活性を増強することを示す。マウスでは、CD8陽性T細胞のNrp1の特異的な欠失は、自発的抗腫瘍免疫応答及び抗PD1抗体による抗腫瘍免疫応答を改善させる。同様に、ヒト転移性黒色腫でも、腫瘍浸潤性CD8陽性T細胞におけるNRP1の発現は、抗PD1抗体で処置された患者の悪い予後を予測する。最後に、抗NRP1抗体と抗PD1抗体の組合せは、ヒトにおいて、特にCD8陽性T細胞の抗腫瘍応答において、腫瘍細胞を含むシナプスにおけるCD8陽性T細胞におけるT細胞受容体のシグナル伝達を増加させることによって、相乗的である。
【0169】
結果:
PD1は、疲弊の重要な要因であるが、その発現は、CD8陽性T細胞における疲弊プロファイルを誘発するのに十分ではない。例えば、LCMVクローン13株のマウス感染モデルの、抗原の中止後にもPD1の発現を維持しつつ誘導された大半の抗原特異的CD8陽性T細胞において、これらの中のごく一部のCD8陽性T細胞が、新規なLCMV抗原によるチャレンジ時に、サイトカイン産生能を保持している
11。この観察は、更に他の対の候補の関与を示唆する。NRP1は、自律的にシグナルを発することはできず
12、また活性化T細胞においてシナプスレベルで発現されているので、本発明者らは、NRP1が、PD1の抑制活性に関与している可能性があると仮説を立てた。インビトロでNRP1を、オボアルブミンペプチドによって駆動される活性化後に、マウスCD8陽性T細胞上に発現させ、その発現強度は、抗原の利用可能性と正に相関していた。インビボでのCD8陽性T細胞上でのNRP1の発現を調べるために、本発明者らは、急性又は持続的な3つの抗原特異的な免疫化モデルを研究した。以前に報告されているように
13、14、NRP1は、ナイーブCD8陽性T細胞上には発現されなかった(データは示されていない)。対照的に、活性化された特異的CD8陽性T細胞は、筋肉内へのアデノ随伴ウイルス-オボアルブミン(AAV-OVA)による免疫化後にNRP1を発現し、発現のピークは免疫化後21日目であった。NRP1は、マウスのB16-オボアルブミン腫瘍進行モデルにおいて特異的な抗OVA
257CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球によって(
図1)、及び、LCMVアームストロング株による感染と比較して、LCMVクローン13株によるウイルス感染の疲弊モデルにおいて、特異的CD8陽性T細胞によって(
図2)、高度に発現されていた。
【0170】
インビボでCD8陽性T細胞におけるNRP1の発現の役割を更に研究するために、本発明者らは、Nrp1flox/floxマウスをCD8Cre遺伝子組換えマウスと交配することによって、CD8陽性T細胞が、Nrp1について特異的に無効化されたマウスモデル(CD8Nrp1KO)を作製した。定常状態では、CD8Nrp1ノックアウトマウスは、免疫学的表現型を全く有さず、予想された通り、CD8陽性T細胞は、活性化された時にNRP1を発現しなかった。抗原特異的抗腫瘍免疫応答では、腫瘍の増殖は、対照と比較して、CD8Nrp1ノックアウトマウスの方が有意に減少していた(
図3)。したがって、CD8Nrp1ノックアウトマウス及び対照マウスにおける腫瘍免疫微小環境の分析は、CD8Nrp1ノックアウトマウスにおけるCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球の出現頻度の増加を示した(
図4)。これらの結果は、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球上のNRP1の発現が、抗腫瘍免疫応答の負の調節に関与している可能性があることを示唆する。
【0171】
本発明者らは以前に、NRP1が、T細胞と樹状細胞との間の免疫学的シナプスに関与していたと報告したので
5、その後、本発明者らは、NRP1が、T細胞と腫瘍細胞との間のシナプスに局在し得るかどうか、そしてこれにより、この特殊な状況においてCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球のエフェクター機能に関与し得るかどうかを調べた。この問題に対処するために、本発明者らは、遺伝子組み換えT細胞受容体OT1 T細胞と、同族抗原(OVA
257)を有する腫瘍細胞(EL4-CFP細胞)との間、及び、CD8Nrp1ノックアウトマウス又は同腹仔由来の活性化CD8陽性T細胞と、同種異系腫瘍細胞(A20細胞)との間の、シナプスモデルを開発した。これらのモデルにおける、細胞コンジュゲートのイメージングフローサイトメトリー分析は、NRP1及びPD1が、活性化されたCD8陽性T細胞と腫瘍細胞との間のシナプスに一緒に動員されたことを示した(
図5~6)。
【0172】
PD1及びT細胞受容体のクラスター化及び同じ場所への局在化が、疲弊シナプスを特徴付ける、PD1に対するPD-L1の結合に応答した
15、16、シナプス接合部における、低レベルのリン酸化ZAP70の誘導に重要であることが以前に報告されているので、その後、本発明者らは、NRP1が、シナプスにおけるPD1の動員及び機能に関与しているかどうかを調べた。まず、免疫蛍光法により、インビボにおいて本発明者らは、PD1及びNRP1が、マウス由来のCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球において同じ場所に局在し(データは示されていない)、NRP1が、ヒトPD1陽性CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球上に特異的に発現されていたことを示した(
図7)。NRP1とPD1との間の相互作用が、インビトロで近接ライゲーションアッセイ(デュオリンク)によって、活性化されたマウスCD8陽性T細胞上に実証された(データは示されていない)。共免疫沈降実験を実施して、本発明者らは、タンパク質複合体におけるこの相互作用の追加の証拠を提供した(データは示されていない)。CD8Nrp1ノックアウトCD8陽性T細胞では、PD1は発現されていたが、腫瘍細胞を含むシナプス内のその局在は、野生型マウスに由来するCD8陽性T細胞と比較して有意に減少していた(
図8)。したがって、リン酸化ZAP70は、対照と比較して、腫瘍細胞を含むシナプスにおいて、CD8Nrp1ノックアウトに由来するCD8陽性T細胞の方が増加していた(
図9)。要するに、本発明者らのデータは、NRP1が、CD8陽性T細胞と腫瘍細胞との間のシナプスにおいて、PD1の動員及び活性を増強するPD1の対であることを示唆する。
【0173】
本発明者らは次に、マウスの疲弊におけるNRP1の役割は、ヒトCD8陽性T細胞においても当てはまるかどうかを調べた。ヒト腫瘍微小環境内で、NRP1の発現は、CD8腫瘍浸潤リンパ球上に、特に、PD1陽性CD8陽性T細胞上に見られ、低いリン酸化ZAP70の発現を有するPD1陽性CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球のサブセットを同定した(リン酸化ZAP70
lowNRP1陽性PD1陽性CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球)(
図10)。おそらく、子宮内におけるホモ接合型NRP1の欠失の致死性により、ホモ接合型NRP1の突然変異を有する患者はこれまで記載されてこなかった
17。しかしながら、本発明者らは、NRP1遺伝子を含む染色体領域(10p11.22)のヘテロ接合型欠失によって引き起こされる、NRP1ハプロ不全を有する特有な患者を同定することができた
18。NRP1
+/-患者のCD8陽性T細胞は、ブドウ球菌腸毒素b(SEB)スーパー抗原によるインビトロでの活性化後に、増加した増殖能及びCD25発現能を有する(
図11~12)。更に、患者のCD8陽性T細胞の活性化の増加は、抗PD1抗体と組み合わせると相乗的であった。
【0174】
PD1とNRP1の間のこの相乗効果に対処するために、本発明者らは、B16-オボアルブミン腫瘍増殖マウスモデルにおいて、抗PD1抗体のインビボでの有効性を評価した。以前にこのモデルにおいて報告されているように、抗PD1抗体による処置は、野生型マウスにおいては全生存率に対する作用を全く及ぼさなかった。対照的に、マウス生存率の有意な増加が、CD8Nrp1ノックアウトにおいて観察され、これは、抗PD1抗体による処置時により顕著であり、このことは強力な相乗効果を示す(
図13)。
【0175】
ヒト癌におけるNRP1の役割を評価するために、本発明者らは次に、抗PD1抗体による治療を用いた臨床試験において処置された転移性黒色腫癌からのマイクロアレイデータを分析するコンピューターでの研究を実施した
19(
図14)。本発明者らの仮説によると、治療前の腫瘍におけるNRP1の低い発現は、改善された患者の全生存率に関連していた(p=0.040)。NRP1は、CD8陽性T細胞以外の他の細胞にも発現されている可能性があるので、その後、本発明者らは、治療開始前のCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球上のNRP1の発現に応じて、抗PD1抗体療法で処置された、28人の転移性黒色腫患者の転帰を調べた。本発明者の仮説に従って、本発明者らは、NRP1
+/highCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球患者と比較して、NRP1
-/lowCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球を有する患者において、最も高い完全奏効率(データは示されていない)及び無再発生存率の有意な増加という傾向を発見した(p=0.042、
図15)。要するに、本発明者らのデータは、NRP1が、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球上のPD1活性を増強することによる、新規な疲弊作用因子として考えられるべきであることを実証する。
【0176】
最後に、本発明者らは、抗NRP1抗体と抗PD1抗体の組合せが、ヒト抗腫瘍免疫応答において相乗的であることを示した。実際に、ヒト活性化CD8陽性T細胞と腫瘍細胞(ラージ細胞)との間のインビボでのシナプスモデルでは、該組合せは、抗PD1抗体のみと比較して、CD8陽性T細胞において、リン酸化ZAP70の発現(及びそれによりT細胞受容体のシグナル伝達)の増加を誘導した(
図16)。
【0177】
考察:
NRP1はすでに、自然免疫及び獲得免疫の両方におけるブレーキとして作用することによって、腫瘍に対する免疫応答に関与していた8~10。免疫チェックポイント療法により、癌患者において多数の成功がもたらされた1、2。残念なことには、大半の患者は、免疫チェックポイント阻害剤の組合せを用いてさえも、再発するか又は難治性である20。ヒトにおける本発明者らの観察のデータは、NRP1の阻害が、抗PD1抗体の有効性を改善する治療戦略候補であり得ることを示唆する。安全性に関して、抗PD1抗体療法との関連を評価する、マウスにおける実験において副作用は全く報告されなかった(データは示されていない)。更に、抗PD1抗体を用いてB16-オボアルブミン腫瘍細胞の治癒されたCD8Nrp1ノックアウトマウスは、自己免疫表現型又は炎症性表現型を全く示さなかった。この観察は、NRP1の発現を減少させることのできる薬物、又は、CD8陽性T細胞上のNRP1及びPD1の両方を遮断する抗体のいずれかを使用することが、安全である可能性を示す。
【0178】
ここで、本発明者らは、CD8陽性T細胞上のNrp1の特異的欠失が、B16-オボアルブミン腫瘍を有するマウスの生存率を劇的に増強し、抗PD1抗体療法の追加による治癒の可能性を報告する。更に、本発明者らは、抗NRP1抗体と抗PD1抗体の組合せが、ヒトCD8陽性T細胞の抗腫瘍免疫応答において相乗的であることを示した。したがって、本発明者らのデータは、NRP1の欠失したCD8陽性CAR-T細胞のみを使用して又は免疫チェックポイント阻害剤(例えば抗PD1抗体)との組合せを使用した戦略が、CAR-T細胞の有効性を向上させる方法であり得ることを示唆する。更に、本発明者らのデータは、二重特異的抗NRP1/PD1抗体が、免疫チェックポイント阻害剤(例えば抗PD1抗体)の有効性を向上させる方法であり得ることを示唆する。
【0179】
結論付けると、本発明者らは、NRP1を、新規な免疫チェックポイントとして同定し、これは、シナプスレベルでPD-1の抑制作用を増強することによって元来の機序を通して作用し、本発明者らのデータは、治療によるNRP1のみの阻害又は免疫チェックポイント阻害剤(例えば抗PD1抗体)との組合せによる阻害が、ヒト癌における腫瘍増殖を効率的に抑制することができたことを強く示唆する。
【0180】
参考文献:
本出願全体にわたり、様々な参考文献が、本発明が属する技術分野の技術状況を記載している。これらの参考文献の開示は、本開示への参照により本明細書により援用される。
【0181】
【配列表】
【国際調査報告】