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特表2022-517352マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法
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  • 特表-マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法 図1
  • 特表-マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法 図2
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  • 特表-マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法 図4
  • 特表-マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法 図5
  • 特表-マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(54)【発明の名称】マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグを含むリポソーム組成物および製造法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20220228BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220228BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220228BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220228BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220228BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220228BHJP
   A61K 47/51 20170101ALI20220228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K9/127
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/34
A61K47/51
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021540186
(86)(22)【出願日】2020-01-11
(85)【翻訳文提出日】2021-09-06
(86)【国際出願番号】 IB2020050205
(87)【国際公開番号】W WO2020144657
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】62/791,718
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517326763
【氏名又は名称】リポメディックス・ファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Lipomedix Pharmaceuticals Ltd.
(71)【出願人】
【識別番号】518129938
【氏名又は名称】シャーレ・ゼデック・サイエンティフィック・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHAARE ZEDEK SCIENTIFIC LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ガビゾン,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】オハナ,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】シュミーダ,ヒラリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC42
4C076DD37
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE59
4C076FF16
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA55
4C086NA12
4C086NA15
4C086ZB26
(57)【要約】
薬物動態プロファイルが改善されたマイトマイシンCの親油性プロドラッグを含むリポソーム組成物が記載される。適切な比で混合されたエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒系を用いて組成物を調製する方法も記載される。ある実施態様において、リポソーム組成物は、脂質ナノ粒子の集団および薬学的に許容される媒体であり、ここで、脂質ナノ粒子の集団が球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二の画分が該脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質ナノ粒子の集団および
薬学的に許容される媒体
を含む組成物であって、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は脂質ナノ粒子の集団の約15%未満であり、ここで、球状リポソームは、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分からなる、組成物。
【請求項2】
マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量が、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である、請求項1の組成物。
【請求項3】
マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量が、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約10モル%である、請求項2の組成物。
【請求項4】
第二画分の脂質ナノ粒子の集団が約5%未満である、請求項1~3の何れかの組成物。
【請求項5】
第二画分の脂質ナノ粒子の集団が約0.1~5%である、請求項4の組成物。
【請求項6】
脂質ナノ粒子の集団が、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解することを含む、方法により製造される、請求項1~6の何れかの組成物。
【請求項7】
エタノール/第三級ブタノール比(v/v)が約5:1~20:1である、請求項6の組成物。
【請求項8】
エタノール/第三級ブタノール比(v/v)が約9:1である、請求項7の組成物。
【請求項9】
組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグが、マウスで少なくとも約15時間のIV血液循環半減期を有する、請求項1~8の何れかの組成物。
【請求項10】
約15%以上の棒状脂質ナノ粒子を含む組成のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグと比較して、組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグが、ペグ化リポソームドキソルビシンのマウスにおけるIV血液循環半減期に近い値であるマウスにおけるIV血液循環半減期を有する、請求項1~9の何れかの組成物。
【請求項11】
該小胞形成リポソームがHSPCである、請求項1~10の何れかの組成物。
【請求項12】
場合により存在する脂質成分がmPEG2000-DSPEおよびコレステロールから選択される、請求項11の組成物。
【請求項13】
リポソームがHSPC、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み、55/30/5/10のモル比でHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCが存在する、請求項1~12の何れかの組成物。
【請求項14】
組成物のマウスへの静脈内注射約24時間後、マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグが、マウス血漿におけるマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグのCmaxの20%を超えるマウス血漿における濃度を有する、請求項1~13の何れかの組成物。
【請求項15】
リポソームの製造方法であって、
約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび三級ブタノールからなる溶媒混合物に小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を溶解した脂質溶液を形成し、そして脂質ナノ粒子の集団を形成し、ここで、脂質ナノ粒子の集団が球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分が脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である、方法。
【請求項16】
脂質ナノ粒子の集団の形成が、脂質が溶解した溶液と水性緩衝液を混合して懸濁液を形成し、懸濁液をフィルターを通して押出成形し、エタノールと第三級ブタノールの混合物を除去することを含む、請求項15の方法。
【請求項17】
脂質ナノ粒子の集団の形成が滅菌濾過をさらに含む、請求項16の方法。
【請求項18】
マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量が、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である、請求項145~17の何れかの方法。
【請求項19】
マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量が、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約10モル%である、請求項18の方法。
【請求項20】
場合により存在する脂質成分が、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される、請求項15~19の何れかの方法。
【請求項21】
エタノール/第三級ブタノール比(v/v)が約5:1~20:1である、請求項15~20の何れかの方法。
【請求項22】
エタノール/第三級ブタノール比(v/v)が約7:1~15:1である、請求項21の方法。
【請求項23】
エタノール/第三級ブタノール比(v/v)が約9:1である、請求項22の方法。
【請求項24】
第二画分の脂質ナノ粒子の集団が約5%未満である、請求項15~20の何れかの方法。
【請求項25】
第二の画分の脂質ナノ粒子の集団が約0.1~5%である、請求項24の方法。
【請求項26】
マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートがパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCである、請求項15~25の何れかの方法。
【請求項27】
小胞形成リポソームがHSPCである、請求項15~26の何れかの方法。
【請求項28】
場合により存在する脂質成分がコレステロールおよびmPEG2000-DSPEから選択される、請求項15~27の何れかの方法。
【請求項29】
リポソームがHSPC、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み、HSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCが55/30/5/10のモル比で存在する、請求項15~28の何れかの方法。
【請求項30】
小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解して、脂質が溶解した溶液を形成し;そして
脂質が溶解した溶液と水性緩衝液を混合して脂質ナノ粒子の集団を形成することを含み、ここで、脂質ナノ粒子の集団が球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、該第二の画分が脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である、方法により調製された脂質ナノ粒子の集団。
【請求項31】
癌を処置する方法であって、
請求項1~14の何れかのリポソーム組成物を提供し;そして癌処置のための治療有効量のマイトマイシンCを提供する量で、それを必要とする患者にリポソームを投与することを含む、方法。
【請求項32】
リポソームをそれを必要とする患者に投与することが、(第二の)化学療法剤と組み合わせてリポソームを投与することを含む、請求項31の方法。
【請求項33】
リポソームをそれを必要とする患者に投与することが、放射線療法と組み合わせてリポソームを投与することを含む、請求項31の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
ここに記載される内容は、マイトマイシンCの親油性プロドラッグを含むリポソーム組成物、その製造およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
癌は米国で主たる死亡原因であり、世界中の人々に影響を与える。手術、放射線および化学療法が最も広く使用されている治療モダリティである。化学療法剤は、細胞内に細胞増殖および複製を制限する状態を作り、癌化学療法はここ数年で劇的に進歩している。化学療法剤は、一般に新生物ならびに骨髄、毛包および腸上皮などの正常組織の急速に増殖している細胞の両方に影響する。摂食障害、悪心、嘔吐、下痢、骨髄機能抑制および脱毛は、一般に化学療法に付随する負の影響の一部である。最小の毒性で有効な抗腫瘍治療を提供する化学療法剤の開発は有利である。
【0003】
5モルパーセントのマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグコンジュゲートを含むリポソーム製剤およびその製造は、US6,365,179に開示された。十分量のマイトマイシンCプロドラッグを送達するための脂質添加物の量を減らすために、約10モルパーセントなど、5モルパーセントを超えるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグを含むリポソーム製剤が望まれる。リポソーム製剤の調製のための5モルパーセントのマイトマイシンCプロドラッグを含むリポソーム成分の溶解に使用された溶媒であるエタノールは、約10モルパーセントのマイトマイシンCプロドラッグを含むリポソーム成分を適切に溶解できないことが判明した。三級ブタノールを用いずには、マイトマイシンCプロドラッグの可溶化は、沈殿および小胞サイズ成長に終わる困難かつ不完全な処理である。エタノール/第三級ブタノール(50/50、v/v)の溶媒混合物は、約10モルパーセントのマイトマイシンCプロドラッグを含むリポソーム成分を溶解できる。
【0004】
エタノール/第三級ブタノール(50/50、v/v)の溶媒混合物にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム製剤は、棒状粒子(崩壊しやすく円盤状となる)の形成および速い血漿クリアランスなどの欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願は、マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートを含むリポソーム製剤を製造する新規方法を開示する。ここに開示するリポソーム製剤は、棒状脂質ナノ粒子を本質的に含まず、先のマイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートを含むリポソーム組成物と比較して、改善されたマイトマイシンCプロドラッグの血中濃度およびマイトマイシンCプロドラッグの血液循環時間を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
ここに記載し、説明する実施態様は、その範囲を限定するものではなく、例示的および説明的であることを意図する。
【0007】
ある態様において、組成物が提供される。該組成物は脂質ナノ粒子の集団および薬学的に許容される媒体を含み、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は脂質ナノ粒子の集団の約15%未満であり、ここで、球状リポソームは、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分からなる。
【0008】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが、30モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である。
【0009】
ある実施態様において、棒状脂質ナノ粒子の第二画分は、該脂質ナノ粒子の集団が約5%未満である。
【0010】
別の実施態様において、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団が約0.1~5%である。
【0011】
さらに他の実施態様において、脂質ナノ粒子の集団は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解することを含む、方法により製造される。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約5:1~20:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0012】
さらに別の実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される。
【0013】
なおさらに別の実施態様において、ここに開示する組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスで少なくとも約15時間のIV血液循環半減期を有する。
【0014】
なおさらに別の実施態様において、ここに開示する組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスに静脈内投与後、マウスにおけるドキシル(登録商標)として知られるもののようなペグ化リポソームドキソルビシン組成物の静脈内投与後の血液循環半減期と同じまたは短縮が約10%、15%または20%以内である、血液循環半減期を有する。対照的に、約15%以上の棒状脂質ナノ粒子を含む組成のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスに静脈内投与後、マウスにおけるドキシル(登録商標)として知られるもののようなペグ化リポソームドキソルビシン組成物の静脈内投与後の血液循環半減期より25%、35%または45%短い血液循環半減期を有する。
【0015】
ある実施態様において、マウスへのここに開示する組成物の静脈内注射約24時間後、該マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグのマウス血漿における濃度は、静脈内注射後のマウス血漿におけるマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグのCmaxの20%を超える。
【0016】
別の態様において、脂質ナノ粒子の製造法が提供される。該方法は、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を溶解した脂質溶液を形成し、そして脂質ナノ粒子の集団を形成することを含み、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である。
【0017】
ある実施態様において、脂質ナノ粒子の集団の形成は、脂質を溶解した溶液と水性緩衝液を混合して懸濁液を形成し、懸濁液をフィルターを通して押出成形し、エタノールと第三級ブタノールの混合物を除去することを含む。ある実施態様において、脂質ナノ粒子の集団の形成は、滅菌濾過をさらに含む。
【0018】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが、30モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である。
【0019】
さらに別の実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される。
【0020】
ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は約5:1~20:1または約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0021】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は、約5%未満である。
【0022】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は約0.1~5%である。
【0023】
さらに別の態様において、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解して、脂質が溶解された溶液を形成し;そして、脂質が溶解された溶液と水性緩衝液を混合して、脂質ナノ粒子の集団を形成させることを含む方法であって、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分が脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である、方法により製造された脂質ナノ粒子の集団が提供される。
【0024】
さらに別の態様において、癌を処置する方法が提供される。該方法は、薬学的に許容される媒体に懸濁された脂質ナノ粒子の集団からなるリポソーム組成物であって、脂質ナノ粒子の集団が球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分が脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である、リポソーム組成物を
提供し;そしてリポソームを、それを必要とする患者に、癌処置のために治療有効量のマイトマイシンCプロドラッグを提供する量で投与することを含む。
【0025】
上記例示的態様および実施態様に加えて、さらなる態様および実施態様は、図面を引用する以下の記載から、明らかとなる。
【0026】
態様の各々のさらなる実施態様は、次の記載、図面、実施例および特許請求の範囲から明らかである。上記および下記の記載から、ここに記載するそれぞれおよびすべての特性および複数の特性の各それぞれおよびすべての組み合わせが、このような組み合わせに含まれる特性が相互に矛盾しない限り、本開示の範囲内に含まれることは明らかである。さらに、何らかの特性または特性の組み合わせは、本発明の何れかの実施態様から特に除外され得る。特に添付する実施例および図面と組み合わせて考慮したときの、本発明のさらなる態様および利点を、次の説明および特許請求の範囲に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1A~1Dは、それぞれ50:50(図1D)、75:25(図1C)、90:1(図1A)および100:0(図1B)比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製した、リポソームの低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)画像である。
【0028】
図2図2Aは、50:50比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒またはエタノールにリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソームプロドラッグのインビトロでのジチオトレイトール(DTT)開裂を示すグラフである。図2Bは、50:50または90:10比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのインビトロでのジチオトレイトール(DTT)開裂を示すグラフである。
【0029】
図3図3A~3Cは、マウスにおける、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソームの静脈内投与後の、時間(時間)の関数としてのマイトマイシンCプロドラッグの血漿レベル(μg/mL)を示すグラフである。
【0030】
図4図4は、マウスにおける、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒に小胞形成脂質およびマイトマイシンCプロドラッグを溶解することを含む方法により調製したリポソームの静脈内投与24時間後のCmaxのパーセンテージとして、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの血漿レベルを示す棒グラフである。
【0031】
図5図5Aおよび5Bは、50:50(図5A)または90:10(図5B)比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのインビトロでの血漿安定性を示すグラフである。
【0032】
図6図6は、90/10または50/50比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのIV注射24時間後の時点での、各腫瘍におけるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ(MLP)の濃度(MLPのμg/腫瘍のg)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な記載
I. 定義
次に、種々の態様をより詳細に以下に記載する。しかしながら、このような態様は、多くの異なる形態で具体化され得て、下記実施態様に限定されると解釈されてはならない;むしろ、これら実施態様は、本開示が徹底的かつ完全であり、当業者にその範囲を十分伝えるように、提供される。
【0034】
ここで使用する「投与する」または「投与」は、細胞または宿主への外来分子の導入を意味する。該用語は、用語「送達」または「送達する」と同義であることが意図される。適当な投与経路は、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、胸膜内、髄腔内、膀胱内または腫瘍内、滑液嚢内、注入、舌下、経皮、経口または局所であるが、これらに限定されない。
【0035】
ここで使用するCmaxは、薬物(例えばリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ)が、対象(例えばマウスなどの動物または例えばヒト)に投与された後に、対象の血漿で達成される薬物の最大濃度をいう。薬物動態試験で使用される標準的測定である。
【0036】
ここで使用する用語「化学療法剤」は、「抗新生物剤」または「抗増殖剤」と同義であり、癌または過増殖性細胞の増殖を阻止する化合物をいう。一般に、抗新生物剤は、(1)細胞がDNAを複製させる能力を妨害するおよび(2)癌細胞で細胞死および/またはアポトーシスを誘導することにより、癌細胞の増殖を阻止し得る。
【0037】
投与後治療有効量のマイトマイシンCを生じるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの量は、単回または複数回用量で、新生物の臨床的機能障害または症状を改善または最小化するのに有効である、マイトマイシンCプロドラッグの量である。
【0038】
「静脈内血液循環半減期」または「IV血液循環半減期」は、言及されている対象(例えばマウス)に静脈内注射を介して投与された、言及されている薬物(例えばリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ)の血液循環半減期をいう。
【0039】
ここで使用する「腫瘍」または「新生物」は、細胞の異常増殖により特徴づけられる増殖性疾患を意味する。一般に、新生物は、癌および腫瘍形成と関連する。ここで使用する「固形腫瘍」は、乳房または結腸などの臓器に生じるものである。
【0040】
用語「患者」は、新生物により特徴づけられる疾患を有する個体をいう。特に、患者(すなわち、宿主)は、動物(すなわち、哺乳動物)またはヒトである。
【0041】
ここで使用する「医薬製剤」は、顕著な有害作用がない、ヒトおよび動物における使用のための製剤を含む。ここで使用する「薬学的に許容される担体」は、所望の活性に最も適する身体的位置への本発明の薬物の有効な分布を可能にする組成物または製剤をいい、「薬学的に許容される担体」は、緩衝液、安定化剤または当業者に周知のその他の材料をいう。このような材料は非毒性であり、活性成分の有効性を妨害してはならない。担体または他の材料の厳密な性質は、投与経路に依存し得る。
【0042】
ここで使用する「プロドラッグ」は、対象への投与後、プロドラッグが腫瘍の細胞に毒性である生成物に変換されるように、いくつかの化学的または生理学的過程を経て、インビボで薬物を放出する、薬物前駆体である化合物を意味する。
【0043】
「治療有効量」の使用は、個体が利益を示すのに十分である化合物の量を意図する。この量は、腫瘍量もしくは体積の減少または腫瘍増殖速度の減速などの、患者における新生物と関連する症状を予防する、軽減する、低減するまたは他に重症度を低減する。
【0044】
ここで使用する用語「処置する」、「処置」および「治療効果」は、細胞増殖速度の低減または停止(例えば、腫瘍増殖減速または停止)または増殖している癌細胞数の低減をいう。
【0045】
脂質ナノ粒子の集団に対する棒状脂質ナノ粒子の第二画分のパーセンテージは、集団における脂質ナノ粒子数に対する棒状脂質ナノ粒子数のパーセンテージをいう。
【0046】
値の範囲が提供されるとき、該範囲の上限と下限の間の各値およびその記載される範囲内の何らかの他の記載されるまたは間の値は、本開示に包含される。例えば、1μm~8μmの範囲が記載されているならば、2μm、3μm、4μm、5μm、6μmおよび7μmならびに1μm以上の値の範囲かつ8μm以下の値の範囲も明白に開示される。
【0047】
単数表現は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数を含む。故に、例えば、「リポソーム」の記載は、単一リポソームならびに2以上の同一または異なるリポソームを含み、「添加物」の記載は、単一添加物ならびに2以上の同一または異なる添加物を含むなどである。
【0048】
特にある量に関して、用語「約」は、±5%、10%、15%または20%の偏差を包含することを意味する。
【0049】
II. リポソーム組成物
ある態様において、組成物が提供される。組成物は、脂質ナノ粒子の集団および薬学的に許容される媒体を含み、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は脂質ナノ粒子集団の約15%未満であり、ここで、球状リポソームは小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分からなる。
【0050】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満、例えば5モル%を超えるが20モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%、例えば10%である。
【0051】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は、約5%未満である。
【0052】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は約0.1~5%である。
【0053】
ある実施態様において、脂質ナノ粒子の集団は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解することを含む、方法により製造される。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約5:1~20:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0054】
ある実施態様において、ここに開示する組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスで少なくとも約15時間のIV血液循環半減期を有する。
【0055】
ある実施態様において、約15%以上の棒状脂質ナノ粒子を含む組成のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグと比較して、ここに開示する組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスにおけるペグ化リポソームドキソルビシンのIV血液循環半減期に近い、マウスにおけるIV血液循環半減期を有する。
【0056】
ある実施態様において、ここに開示する組成物のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスにおけるペグ化リポソームドキソルビシン組成物の静脈内投与後の血液循環半減期と実質的に同じまたは短縮が約10%、15%または20%以内である、マウスにおける静脈内投与後の血液循環半減期を有する。対照的に、約15%以上の棒状脂質ナノ粒子を含む組成のマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグは、マウスに静脈内投与後、マウスにおけるドキシル(登録商標)として知られるもののようなペグ化リポソームドキソルビシン組成物の静脈内投与後の血液循環半減期より25%、35%または45%短い血液循環半減期を有する。
【0057】
ある実施態様において、マウスへのここに開示する組成物の静脈内注射約24時間後、マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグのマウス血漿における濃度は、静脈内注射後のマウス血漿におけるマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグのCmaxの20%を超える。
【0058】
A. リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ
ここに記載する組成物および方法において使用するために提供されるマイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグコンジュゲートまたはリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートは、リポソーム送達プラットフォームに組み込まれたマイトマイシンCのプロドラッグコンジュゲートをいい、ある実施態様において、マイトマイシンCのプロドラッグコンジュゲートは親油性または疎水性部分に放出可能に結合されたマイトマイシンCからなり、一般に次の形態のものである。
【0059】
【化1】
〔式中、Lは疎水性部分であり、Rはジチオベンジル部分に共有結合したマイトマイシンC残基を表す。〕。CH基の配向は、オルト位およびパラ位から選択される。これらのコンジュゲートの合成は、各々引用により本明細書に包含させる米国特許6,365,179;6,984,396;および7,303,760に記載される。
【0060】
疎水性部分Lは、一般にジアシルグリセロール、ステロール、リン脂質、これら脂質の誘導体、他の天然に存在する脂質およびそれらの合成アナログなどの脂質である。疎水性部分は、マイトマイシンCコンジュゲートをリポソーム送達媒体に固定するために、リポソーム二重層への組み込みに適する。
【0061】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートは、次の構造を有する。
【化2】
パラ-ジアシルジグリセロールジチオベンジル-マイトマイシンC(パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンC)
【0062】
リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートは、還元条件、すなわち、システインまたはグルタチオンなどの還元剤に暴露された後、分解してマイトマイシンCを生ずる。すなわち、コンジュゲートのチオール開裂はマイトマイシンCならびに疎水性部分およびジチオベンジル部分の非毒性副生成物をもたらす。認識され得るとおり、プロドラッグコンジュゲートは、対象へのインビボ投与のためにリポソームに容易に組み込まれる。プロドラッグコンジュゲートは毒性ではなく、投与後および内因性還元剤への暴露または外因性還元剤への暴露により、コンジュゲートは分解して、天然に存在している状態であって、かつ生物学的活性を有するマイトマイシンCを生ずる。
【0063】
B. リポソーム
リポソームは、多様な治療目的で、特に、リポソームの全身投与により治療剤を標的領域または細胞に送達するために使用される、密閉脂質小胞である。特に、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソームは、これらリポソームが、ポリマーコーティングを欠くリポソームより長い血液循環存続期間を提供するため、薬物運搬体として望ましい。ポリマーは、血液タンパク質に対するバリアとして作用し、それによりタンパク質の結合ならびに網内系のマクロファージおよび他の細胞による組み込みおよび除去のためのリポソームの認識を阻止する。限外濾過可能サイズ範囲(直径200nm未満)のリポソームは、脂質性脂質ナノ粒子または単に脂質ナノ粒子と考えられ、しばしばそう称される。
【0064】
本開示の範囲内のリポソームは、ある実施態様において小胞形成脂質であり、場合により、少なくとも1つの脂質成分である脂質と組み合わせたコンジュゲートを含み得る。本開示において使用する少なくとも1つの場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび脂質二重層安定化脂質、例えば、メトキシ-ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)などの親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択され得る。
【0065】
「小胞形成脂質」は、水中で二重層小胞を自発的に形成する脂質である。該小胞形成脂質は、好ましくは2個の炭化水素鎖、一般にアシル鎖および極性頭部基を有する。2個の炭化水素鎖が一般に約12~約24炭素原子長であり、種々の不飽和度を有する、当分野で知られる多様な合成小胞形成脂質および天然に存在する小胞形成脂質がある。例は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)などのリン脂質を含む。本発明で使用するために好ましい脂質は、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)である。他の好ましい脂質のファミリーは、ジアシルグリセロール類である。これらの脂質は購入可能であるかまたは公開された方法により調製され得る。
【0066】
小胞形成脂質は、一定の流動性または剛性を達成するように、血清中のリポソームの安定性を制御するようにおよびリポソームに封入された薬物の放出速度を制御するように選択され得る。より硬い脂質二重層または液晶二重層を有するリポソームは、比較的硬い脂質、例えば、比較的高い、例えば、約65℃までの相転移温度を有する脂質の組み込みにより調製され得る。硬い脂質、すなわち、飽和された脂質は、脂質二重層におけるより大きな膜剛性に寄与する。コレステロールなどの他の脂質成分も、脂質二重層構造の膜剛性に寄与することが知られる。
【0067】
脂質流動性は、比較的流動性の脂質、一般に比較的低い、例えば、室温(約20~25℃)以下の液体から液晶相転移温度の脂質相を有する脂質の組み込みにより達成される。
【0068】
リポソームは、ステロールなどの脂質二重層に組み込まれ得る他の脂質成分も含み得る。これら他の脂質成分は、一般に二重層膜の内側の疎水性領域と接触した疎水性部分および該膜の外側の極性表面に向けた極性頭部基部分を有する。
【0069】
リポソームにおける他の脂質成分は、親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成脂質であり得る。この脂質成分において、誘導体化脂質は、内部および外部両方の脂質二重層表面の親水性ポリマー鎖の表面コーティングの形成をもたらす。一般に、約1~20モルパーセントの誘導体化脂質が脂質組成物に含まれる。
【0070】
小胞形成脂質での誘導体化に適する親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびポリアスパルトアミドを含む。ポリマーは、ホモポリマーとしてまたはブロックもしくはランダムコポリマーとして使用され得る。
【0071】
好ましい親水性ポリマー鎖は、好ましくは分子量約500~約10,000ダルトン、好ましくは約1,000~約5,000ダルトンを有するポリエチレングリコール(PEG)鎖としての、PEGである。PEGのメトキシまたはエトキシキャップアナログも好ましい親水性ポリマーである。これらのポリマーは、例えば、約12~約220,000ダルトンの多様なポリマーサイズで、購入可能である。
【0072】
リポソームは、一般に脂質-マイトマイシンCプロドラッグコンジュゲートを約1~約30モルパーセント、好ましくは約5~約30モルパーセント、より好ましくは約5~約20モルパーセント、例えば、5モルパーセントを超えるが30モルパーセント未満、5モルパーセントを超えるが20モルパーセント未満または約8モルパーセント、9モルパーセント、10モルパーセント、11モルパーセントおよび12モルパーセント含む。
【0073】
ある実施態様において、小胞形成リポソームはHSPCであり得る。ある実施態様において、場合により存在する脂質成分はmPEG2000-DSPEおよびコレステロールから選択される。
【0074】
ある実施態様において、リポソームは、HSCP、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み得て、HSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCは55/30/5/10のモル比で存在する。
【0075】
C. 製造法
リポソーム成分をエタノール/第三級ブタノール(50/50、v/v)の溶媒混合物に溶解することを含む方法により製造されたリポソーム製剤は、速い薬物動態クリアランスなどの欠点がある。溶媒混合物中の第三級ブタノールの量を減らしたとき、親油性マイトマイシンCプロドラッグの薬物動態クリアランス速度は予想外に低下し、棒状リポソームの量も減少した。
【0076】
故に、リポソームの新規製造法が提供される。該方法は、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を溶解して脂質溶液を形成し、そして脂質ナノ粒子の集団を形成することを含み、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である。
【0077】
ある実施態様において、脂質ナノ粒子集団の形成は、脂質が溶解された溶液と水性緩衝液を混合して懸濁液を形成し、懸濁液をフィルターを通して押出成形し、エタノールと第三級ブタノールの混合物を除去することを含む。ある実施態様において、脂質ナノ粒子の集団の形成は、滅菌濾過をさらに含む。
【0078】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満、例えば、5モル%を超えるが20モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である。
【0079】
さらに別の実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される。
【0080】
ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は約5:1~20:1または約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0081】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は、約5%未満である。
【0082】
ある実施態様において、第二の画分は、脂質ナノ粒子の集団の約0.1~5%である。
【0083】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートは、パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCである。
【0084】
ある実施態様において、小胞形成リポソームはHSPCである。
【0085】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、mPEG2000-DSPEを含む。
【0086】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよびmPEG2000-DSPEを含む。
【0087】
ある実施態様において、リポソームはHSCP、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み、HSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCは55/30/5/10のモル比で存在する。
【0088】
また提供されるのは、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解して、脂質が溶解された溶液を形成し;そして、脂質が溶解された溶液と水性緩衝液を混合して、脂質ナノ粒子の集団を形成させることを含む方法により製造された脂質ナノ粒子の集団であり、ここで、脂質ナノ粒子の集団は球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である。
【0089】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、モルで、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満、例えば5モル%を超えるが20モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である。
【0090】
さらに別の実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される。
【0091】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、脂質の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、リポソームの総モルの約10モル%である。
【0092】
ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は約5:1~20:1または約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0093】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は、約5%未満である。
【0094】
ある実施態様において、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団の約0.1~5%である
【0095】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートは、パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCである。
【0096】
ある実施態様において、小胞形成リポソームはHSPCである。
【0097】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、mPEG2000-DSPEを含む。
【0098】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよびmPEG2000-DSPEを含む。
【0099】
ある実施態様において、リポソームはHSCP、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み、HSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCは55/30/5/10のモル比で存在する。
【0100】
III. 処置方法
ある態様において、癌を処置する方法が提供される。方法は、薬学的に許容される媒体に懸濁された脂質ナノ粒子の集団からなるリポソーム組成物であって、脂質ナノ粒子の集団が球状リポソームの第一画分および棒状脂質ナノ粒子の第二画分からなり、ここで、第二画分が該脂質ナノ粒子の集団の約15%未満である、リポソーム組成物を準備し;そして癌処置のための治療有効量のマイトマイシンCを提供する量で、それを必要とする患者にリポソームを投与することを含む。
【0101】
ある実施態様において、球状リポソームは、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を含む。
【0102】
ある実施態様において、脂質ナノ粒子の集団は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分を、約2:1~20:1のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)のエタノールおよび第三級ブタノールからなる溶媒混合物に溶解することを含む、方法により製造される。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約5:1~20:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約5:1~20:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は約9:1である。
【0103】
ある実施態様において、組成物中のマイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満、例えば5モル%を超えるが20モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、小胞形成脂質、マイトマイシンCの親油性プロドラッグおよび場合により存在する脂質成分の総モルの約8モル%、9モル%、10モル%、11モル%または12モル%である。
【0104】
さらに別の実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよび親油性部分に結合したポリエチレングリコールのコンジュゲートから選択される。
【0105】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、脂質の総モルの5モル%を超えるが30モル%未満である。ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグの量は、リポソームの総モルの約10モル%である
【0106】
ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は約5:1~20:1または約7:1~15:1である。ある実施態様において、エタノール/第三級ブタノール比(v/v)は、約9:1である。
【0107】
ある実施態様において、第二画分の脂質ナノ粒子の集団は、約5%未満である。
【0108】
ある実施態様において、第二画分は、脂質ナノ粒子の集団の約0.1~5%である。
【0109】
ある実施態様において、マイトマイシンCの親油性プロドラッグコンジュゲートは、パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCである。
【0110】
ある実施態様において、小胞形成リポソームはHSPCである。
【0111】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、mPEG2000-DSPEを含む。
【0112】
ある実施態様において、場合により存在する脂質成分は、コレステロールおよびmPEG2000-DSPEを含む。
【0113】
ある実施態様において、リポソームはHSCP、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを含み、HSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCは55/30/5/10のモル比で存在する。
【0114】
ある実施態様において、リポソームをそれを必要とする患者に投与することは、(第二の)化学療法剤と組み合わせてリポソームを投与することを含む。第二の化学療法剤は、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグまたはマイトマイシンCまたは非リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグではない。リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせた使用が意図される化学療法剤は、如何なる特定の化合物または化合物群にも限定されない。本明細書で後記の試験に基づいて、ある化学療法剤と組み合わせて投与したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグが相乗的効果を生じることが判明した。
【0115】
ある実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与される化学療法剤はゲムシタビンである。ゲムシタビンは、2’-デオキシ-2’,2’-ジフルオロ-シチジンに付された一般名である。一塩酸塩およびベータ-異性体として市販されている。化学名では1-(4-アミノ-2-オキソ-1H-ピリミジン-1-イル)-2-デスオキシ-2,2-ジフルオロリボースとして知られる。ゲムシタビンは、米国特許4,808,614および5,464,826に開示され、これらのゲムシタビンの合成、製剤および感受性腫瘍の処置のための使用法の教示は、引用により本明細書に包含させる。ゲムシタビン塩酸塩の市販製剤は、膵臓の局所進行(切除不能ステージIIまたはステージIII)または転移(ステージIV)腺癌を有する患者の、そしてシスプラチンまたはカルボプラチンと組み合わせて、非小細胞肺癌および膀胱癌を有する患者の第一選択処置として使用されている。
【0116】
別の実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与される化学療法剤は、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチンまたはビンデシンなどのビンカアルカロイドである。
【0117】
別の実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与される化学療法剤は、ドキソルビシンまたはダウノルビシンなどのアントラサイクリン抗生物質である。これらのアントラサイクリン薬物はヒト癌化学療法において広く使用されている。そして、断片化および一本鎖切断などのDNA損傷を引き起こす。アントラサイクリンの作用機序は、RNAおよびDNA合成の阻害に関与する。ある実施態様において、ドキソルビシンまたはダウノルビシンは、リポソーム封入形態で提供される。ペグ化リポソーム封入ドキソルビシンは、ドキシル(登録商標)、CAELYX(登録商標)およびLIPODOX(登録商標)の商品名で知られ、リポソーム封入ダウノルビシンは商品名DAUNOXOME(登録商標)で知られる。
【0118】
別の実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与される化学療法剤はタキサンである。タキサンは、イチイ属(イチイ)の植物により産生され、化学療法剤として広く使用されているジテルペンである。タキサン剤はパクリタキセル(タキソール(登録商標))およびドセタキセル(タキソテール(登録商標))を含む。
【0119】
別の実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与される化学療法剤はフルオロピリミジンである。フルオロピリミジンは、結腸直腸癌および乳癌ならびに気道・消化器の癌を含む癌の処置に広く使用される代謝拮抗薬物である。フルオロピリミジンは、薬物5-フルオロウラシル(5-FU)および5-FUのプロドラッグ、例えば、カペシタビンおよびテガフールを含む。ある実施態様において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと組み合わせて投与されるフルオロピリミジン化学療法剤は、カペシタビンなどの5-FUのプロドラッグである。カペシタビンは、抗新生物活性を有するフルオロピリミジンカルバメートである。5-フルオロウラシルに変換される、5’-デオキシ-5-フルオロウリジン(5’-DFUR)の経口投与される全身用プロドラッグである。カペシタビンの化学名は5’-デオキシ-5-フルオロ-N-[(ペンチルオキシ)カルボニル]-シチジンである。米国ではゼローダ(登録商標)(Roche Laboratories)として市販されている。経口経路での転移乳癌および結腸直腸腫瘍を有する患者の処置に適応される。カペシタビンは、米国特許5,472,949に記載される。
【0120】
これら化学療法剤の安全かつ有効な投与のための方法は、当業者に知られる。さらに、その投与は、標準的な文献に記載される。例えば、多くの化学療法剤の投与は、例えば、1996年版の"Physicians' Desk Reference" (PDR)(Medical Economics Company, Montvale, N.J.)に記載される。
【0121】
リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグを少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて投与するとき、少なくとも1つの他の薬剤を同じ製剤で共投与できる。あるいは、種々の薬剤を、別々の製剤で同時に(一緒に)投与し得る。さらに、これら薬剤を別々の製剤で投与でき、ここで、別々の製剤は同時には投与せず、投与間に僅かに時間を置くかまたは即時に連続的に投与され、または同じ処置期間の間、例えば、1日または1週間の処置期間の間に逐次投与される。
【0122】
従って、本発明の方法において、第二の化学療法剤「と組み合わせた」リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの投与は、同時、逐次または交互の投与が意図され得る共投与をいう。同時投与は、本質的に同じ時間にリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグおよび第二の化学療法剤両者を投与することをいう。同時投与は、互いに物理的結合した、有効量のマイトマイシンCを生じる量のリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグおよび一定量の第二の化学療法剤の両者を含む、単一組み合わせ製剤をいう。単一組み合わせ製剤は、対象に注射し得る、一定量のリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグおよび第二の化学療法剤両者を含む液体混合物からなり得る。対象に別々の個々の製剤から一定量のリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグおよび一定量の第二の化学療法剤を同時に投与するのもまた本方法の範囲内である。例えば、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグは注射により投与され得て、一定量の第二の化学療法剤は経口でまたはリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの注射に使用したのと異なるまたは同じ経路の注射により投与され得る。
【0123】
ここに記載する方法において、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグおよび第二の化学療法剤は、該組み合わせの最大有効性を得るために、一定時間離れて別々の個々の製剤で対象に投与され得る。各薬物の投与は、短期の迅速な投与から、連続点滴の期間の範囲であり得る。一定時間離れるとき、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグと第二の化学療法剤の共投与は逐次的または交互であり得る。逐次的共投与について、これら薬剤の一方を、続いて他方を別に投与する。例えば、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグでの処置の全治療単位が終了し得て、その後、第二の化学療法剤での処置の全治療単位が続き得る。あるいは、逐次的共投与について、第二の化学療法剤での処置の全治療単位が終了し得て、その後、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグでの処置の全治療単位が続き得る。交互共投与について、各薬物の全治療単位が投与されるまで、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグでの処置の一部治療単位が第二の化学療法剤での処置の一部治療単位と交互であり得る。
【0124】
ある実施態様において、リポソームをそれを必要とする患者に投与することは、放射線療法と組み合わせて該リポソームを投与することを含む。放射線療法は、癌細胞を損傷および/または致死させるおよび腫瘍を縮小するための高エネルギー放射線を使用する。該高エネルギー放射線は、x線、ガンマ線または荷電粒子を含み得る。該放射線療法は、体外に位置する機器から送達され得て(外部ビーム放射線療法)または体内の癌細胞近くに設置した放射性物質に由来し得る(内部放射線療法、近接照射療法とも称される)。全身放射線療法は、癌細胞を殺傷するように血中を移動する放射性ヨウ素などの放射性物質を使用する。
【0125】
従って、ある実施態様において、放射線療法は、放射線が体外の装置に由来する外部放射線療法を意図する。外部放射線療法は、通常数日または数週間にわたる数回の処置コースとして適用され、処置中、機器は高エネルギー放射線、通常X線を癌部位およびその周囲の正常組織の小領域に照射する。
【0126】
別の実施態様において、放射線療法は、放射線が体内に設置されたインプラントまたは物質(液体、固体、半固体または他の物質)に由来する内部放射線療法を意図する。ある実施態様において、内部放射線療法は、固形放射線源が体腔内に設置されたまたは針が腫瘍に設置された近接照射療法である。別の実施態様において、内部放射線療法は、放射線、一般に放射性核種(放射性同位体または非密封線源)の液体線源を投与することを含む。放射線源は経口投与され得るかまたは静脈に注入され得る。
【0127】
IV. 試験例
第一の試験において、マイトマイシンCのプロドラッグコンジュゲートを、実施例1に記載するリポソーム送達プラットフォームに組み込んだ。リポソームを、種々の比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒混合物にHSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製した。リポソームサンプルを、cryo-TEMを使用して造影した。特に断らない限り、HSCP/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCは55/30/5/10のモル比(75.5mg/ml脂質および12.5mg/mlプロドラッグ)で使用した。
【0128】
図1A~1Dは、50:50(図1D)、75:25(図1C)、90:10(図1A)または100:0(図1B)の比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製したリポソームのcryo-TEM画像である。Cryo-TEM画像解析は、第三級ブタノールの含量が高いほど、形成される棒状粒子が多いことを示した。第三級ブタノールが溶媒混合物中50%であるとき、第三級ブタノールが25%であるときより多い棒状粒子が形成された。溶媒混合物中に第三級ブタノールが10%であるとき、実質的に棒状粒子は検出されなかった。
【0129】
他の試験において、インビトロDTT誘導放出/活性化アッセイを、マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグコンジュゲートで実施した。図2A~2Bは、50:50のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒にHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製したリポソームが、100%(図2A)または90%エタノール(図2B)にHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製したリポソームよりDTT誘導開裂に感受性であったことを示す。
【0130】
他の試験において、マウスでの薬物動態試験を実施した。この試験は、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製したリポソームをマウスに静脈内投与することによる、パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCの血漿レベルの測定を目的とした。図3A~3Cは、マイトマイシンCプロドラッグの血漿レベルが、注射3時間後同等であったが、24時間後、低含量の第三級ブタノールを使用して調製したバッチに有利に差が開き(>3倍)、低含量の第三級ブタノールを使用してまたは第三級ブタノールを含まず調製したリポソームにより送達されるマイトマイシンCプロドラッグの高い血漿レベルおよび長い循環時間が示された。
【0131】
図4は、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒にHSPC/コレステロール/mPEG2000-DSPE/パラ-ジステアロイル-DTB-マイトマイシンCを溶解することを含む方法により調製したリポソームをマウスに静脈内投与後の、静脈内投与24時間後の該マウスにおけるリポソーム化マイトマイシンC(MLP)プロドラッグの、Cmax(Cmaxは、通常、MLPを含むリポソーム製剤の静脈内注射後最初の1時間以内に達成される)のパーセンテージとしての血漿レベルを示す棒グラフである。90:10のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒から調製したリポソームは、24時間でCmaxの最高のパーセンテージを示した。
【0132】
図5Aおよび5Bは、50:50のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒(図5A)または90:10(図5B)にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの製剤のインビトロ血漿安定性を示すグラフである。このインビトロ血漿安定性アッセイは、tBuOH-highとtBuOH-low間で差がなく、棒状脂質ナノ粒子の存在は、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの血漿安定性に影響しないことが示される。
【0133】
図6は、90/10または50/50のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒にリポソーム成分を溶解することを含む方法により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのIV注射24時間後の時点の、各腫瘍におけるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ(MLP)の濃度(MLPのμg/腫瘍のg)を示す。リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの調製に使用したエタノール/t-ブタノール(v/v)比は、腫瘍へのリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグの組み込みに影響し得る。90/10または50/50比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒の使用により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのIV注射24時間後、腫瘍におけるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ濃度は、90/10のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒の使用により調製したリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグが統計的に有意に高い。50:50比のエタノール/第三級ブタノールで調製したリポソームについて、MLPの中央濃度は1.63μg/g腫瘍であり、1.20~9.76μg/g腫瘍の範囲であった。90:10比のエタノール/第三級ブタノールで調製したリポソームについて、MLPの中央濃度は6.51μg/g腫瘍であり、4.23~9.71μg/g腫瘍の範囲であった。故に、棒状脂質ナノ粒子の集団が減少したリポソーム組成物の投与後、腫瘍におけるMLP濃度は高かった。
【0134】
棒状リポソームがインビトロでの開裂への高い感受性およびインビボでの速いクリアランスに寄与することを証明するために他の試験を実施した。この試験で、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ(MLP)の2種の組成物を調製した。2種の組成物は、一方の組成物が5%PEG-脂質ではなく、20%PEG-脂質を有した以外、等しく調製した。PEG-脂質量の増加は、円盤状ミセルおよび棒状ミセルの形成を促進する(Sandstrom, M.C. et al., Langmuir, 23(8):4192 (2007); Zhang, W. et al., European Journal of Pharmaceutical Sciences, 125:74-85 (2018))。2種の組成物のTEM検査は、25%PEG-脂質を有する組成物が棒状リポソームに富むことを確認した。2種の組成物を実施例2に記載する放出アッセイを使用して、インビトロで試験した。棒状リポソームを相当割合有する組成物(すなわち、25%PEG-脂質の組成物)が、ジチオトレイトールでの開裂により感受性であった。2種の組成物を、実施例3の方法により、血漿クリアランスを評価するため、インビボで試験した。棒状リポソームを相当割合有する組成物(すなわち、25%PEG-脂質の組成物)は、ここに記載する方法で棒状リポソームの割合が小さい(例えば、約15%未満)ように調製されたリポソームよりも迅速に循環から除去された。
【実施例
【0135】
V. 実施例
次の実施例は、本来説明的であり、決して限定を意図しない。
【0136】
実施例1
リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ調製
親油性部分、パラ-ジアシルジグリセロールジチオベンジル-マイトマイシンCに放出可能に結合したマイトマイシンCのプロドラッグコンジュゲートを、引用により本明細書に包含させる米国特許6,365,179の実施例2に記載する方法により調製した。
【0137】
それぞれ55:30:5:10モル比のHSPC、コレステロール、mPEG2000-DSPEおよびパラ-ジアシルジグリセロールジチオベンジル-マイトマイシンCの混合物をエタノール/第三級ブタノール(50:50、75:25、90:10または100:0)に溶解し、5%デキストロース/リン酸ナトリウム緩衝液20mM、pH7.0と、20:80v/v比で混合した。リポソーム懸濁液を、0.08μmまたは0.10μm孔径の積層ポリカーボネート膜を、65℃で高圧下に篩過させて押出成型した。有機溶媒を、該緩衝液に対する透析またはダイアフィルトレーションにより除去した。該リポソーム製剤を、5mg/mLの最終プロドラッグ濃度に調製し、0.22μm膜を通して滅菌濾過した。
【0138】
cryo-TEMを使用して、リポソームの画像を得た。(図1B)は、50:50(図1D)、75:25(図1C)、90:10(図1A)または100:0(図1B)のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒を使用して調製したリポソームのcryo-TEM画像である。
【0139】
実施例2
リポソームからのマイトマイシンCのDTT誘導開裂
リポソーム製剤からの活性マイトマイシンC(MMC)の放出は、MLP(マイトマイシンCのリポソーム化プロドラッグ)の還元を介して起こる。MLPのバッチ(100%、90%または50%EtOHを使用して調製)で、強力な還元剤であるジチオトレイトール(DTT)での処理により試験し、MLPの残存量および放出された遊離マイトマイシンCを測定した。
【0140】
DTTとのインキュベーションによるMLPからのMMCの放出を示すアッセイは、プロドラッグからの一貫した薬物放出を確認するために開発された。500μgのMLP(0.1ml)を、種々の濃度のDTTと、37℃で1時間振盪しながらインキュベートした。イソプロパノール(1:10)での希釈および薬物抽出により反応を停止させた。MLPおよびMMCをHPLCで定量した。薬物抽出後、上清を濾過し、Phenomenex Hypersil BDS C18カラム;130Å 150×4.60mm 5μmのLaChrom Merck Hitachi HPLCシステムで、メタノール:イソプロパノール70/30からなる移動相で、1ml/分の流速で流し、360nmでUV検出した。これら条件下のMLP保持時間は5.5分であった。MMC保持時間は1.5分で先端に近かった。ピーク面積を定量し、MLPの標準曲線と比較した。
【0141】
図2Aおよび2Bは、50:50、90:10および100:0のエタノール/第三級ブタノール比(v/v)の溶媒を使用して調製したリポソームからのマイトマイシンCのDTT誘導開裂を示す。
【0142】
実施例3
インビボ薬物動態試験
50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒を使用して調製したMLPリポソームの薬物動態を試験した。3~4匹のSabraマウス(図3A~3C)またはBalbCマウス(図4)に、これらバッチの各々の35mg/kgリポソームMLPをIV注射した。リポソーム注射3時間または24時間後、マウスをイソフルランで麻酔し、後眼窩静脈洞からヘパリン含有チューブに採血し、その後屠殺した。3000rpmで15分間の遠心分離により血漿を単離し、IPA中1:10で単離し、その後遠心分離してタンパク質を除去した。上清を、上記のとおりHPLCによりMLP含量について分析した。
【0143】
図3A~3Dは、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒を使用して調製したリポソームの静脈内投与後の時間の関数として、マウスにおけるマイトマイシンCプロドラッグの血漿レベルを示す。
【0144】
図4は、50:50、90:10または100:0比(v/v)のエタノール/第三級ブタノールの溶媒を使用して調製したリポソームのマウスへの静脈内投与24時間後のCmaxのパーセンテージとして、マイトマイシンCプロドラッグのマウス血漿レベルを示す。
【0145】
実施例4
インビトロ血漿安定性
エタノール/t-ブタノール(90/10、v/v)で調製したバッチのインキュベーションは、リポソーム化マイトマイシンCプロドラッグ(「MLP」)の血漿安定性プロファイルに影響しなかった。MLPのHPLC測定は、両バッチにおいて、24時間、37℃で80%ヒト血漿に暴露中、約100%インタクトで残ることを確認する。37℃で24時間、血漿中でインキュベートしたMLPの両バッチのゲルクロマトグラフィー溶出プロファイル。リポソームはフラクション5~7に溶出する;血漿タンパク質は大部分フラクション8~13に溶出する。タンパク質および低分子量フラクションに対するMLPの顕著な漏出は、いずれの製剤でも見られなかった。図5Aおよび図5B参照。
【0146】
実施例5
腫瘍におけるリポソーム化マイトマイシンCプロドラッグのインビボ取り込み
MLP含有リポソームの2種の製剤を、脂質(HSPCおよびMLP(HSPC:コレステロール:mPEG-DSPE:MLP、モル比55:30:510))で、エタノール/第三級ブタノール50:50v/v比またはエタノール/第三級ブタノール90:10v/v比の溶媒混合物に溶解することにより調製した。次いで、これら製剤を処理して、5mg/mL濃度のMLPを有するリポソーム懸濁液を産生した。
【0147】
8~10週齢BALB/c雌マウスに、M109腫瘍細胞(100万細胞/マウス)を皮下接種した。腫瘍接種20日後、触知可能腫瘍を担持するマウスを2群に分け、各群、リポソーム組成物(エタノール/第三級ブタノール50:50およびエタノール/第三級ブタノール90:10)の30mg/kgリポソームMLPをIV注射した。リポソーム注射24時間後、マウスを屠殺した。MLPの組織抽出のために、約140~200mg重量の組織サンプル(腫瘍を含む)を0.5mL(最終体積)のイソプロパノール中で均質化し、3000rpmで15分間遠心分離した。上清を濾過し、HPLC系で流して、各腫瘍におけるMLP濃度(MLPのμg/腫瘍のg)を測定した。結果を図6に示す。
【0148】
いくつかの例示的態様および実施態様が上に記載されているが、そのある種の修飾、変形、付加および下位の組み合わせを当業者は認識する。それ故に、次に添付する特許請求の範囲および今後導入される請求項は、全てのこのような修飾、変形、付加および下位の組み合わせを、真の精神および範囲の範囲内であるとして、含むと解釈される。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
【国際調査報告】