(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ネフローゼ症候群を処置するためのAAV遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20220301BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220301BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220301BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220301BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20220301BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220301BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61P13/12
A61K35/76
A61K38/16
C12N15/864 100Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541198
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 GB2020050097
(87)【国際公開番号】W WO2020148548
(87)【国際公開日】2020-07-23
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】300002942
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ブリストル
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サレーム-ウディン,モイン アーソン
(72)【発明者】
【氏名】ウェルシュ,ギャビン イアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA811
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
本発明は、単一遺伝子型のネフローゼ症候群の処置に使用するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子療法であって、AAVベクターが、NS関連トランスジーン及び最小ネフリンプロモーターNPHS1又はポドシンプロモーターNPHS2を含む、AAVベクター遺伝子療法を提供する。
【選択図】
図1-1~
図1-3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一遺伝子型のネフローゼ症候群の処置に使用するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子療法であって、AAVベクターが:
NS関連トランスジーン、及び
最小ネフリンプロモーターNPHS1若しくはポドシンプロモーターNPHS2
を含む、AAVベクター遺伝子療法。
【請求項2】
AAVベクターがAAV血清型2/9、LK03、又は3Bである、請求項1に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項3】
NS関連トランスジーンがNPHS2;ADCK4;ALG1;ARHGAP24;ARGHDIA;CD151;CD2AP;COQ2;COQ6;DGKE;E2F3;EMP2;KANK2;LAGE3;LMNA;LMX1B;MAFB;NUP85;NUP93;NXF5;OSGEP;PAX2;PDSS2;PMM2;PODXL;SCARB2;SGPL1;Smad7;TP53RK;TPRKB;VDR;WDR73;WT1;ZMPSTE24;又はAPOL1である、請求項1又は2に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項4】
AAVベクターが、ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項5】
NS関連トランスジーンがヒトであり、且つ/又はヘマグルチニン(HA)タグを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項6】
AAVベクターがさらに、プロモーターとポドシントランスジーンとの間にコザック配列を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項7】
AAVベクターがさらに、ポリアデニル化シグナル、例えばウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項8】
ヒト患者に投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項9】
患者が小児患者である、請求項8に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項10】
単一遺伝子型のNSが単一遺伝子型のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項11】
全身投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項12】
静脈内注射によって投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【請求項13】
腎動脈への注射によって投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのAAVベクター遺伝子療法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一遺伝子型のネフローゼ症候群の処置に使用するための遺伝子療法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネフローゼ症候群(NS)は、顕著なタンパク尿症、低アルブミン血症、浮腫、及び高脂血症によって特徴付けられる慢性腎疾患であり、小児における最も一般的な原発性糸球体疾患であり、ヨーロッパ及び米国における16歳未満の小児100,000人あたり2人に罹患する。NSは、診断時3カ月齢未満から成人初期までの異なる発症年齢に関連し、コルチコイドに対するその感受性に応じて異なる患者群に分類され、NSを有する小児の約80%は、ステロイド感受性ネフローゼ症候群(SSNS)を有すると分類され、コルチコステロイド治療によって首尾よく処置することができる。当初SSNSと分類された患者のある割合は再発してさらなるステロイド処置を必要とし、NS患者のさらに10~15%はコルチコステロイドによる数週間の治療後に寛解が得られず、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)を有すると分類される。これらのSRNS患者の最大50%が10年以内に末期腎疾患へと進行し、共通して腎移植後の再発リスクの上昇に直面し、これらの患者にとって適切且つ効率的な処置がないことを強調している。
【0003】
ポドサイトの機能障害及びその結果としての糸球体濾過障壁の破壊は、NSの発病の中心である。ポドサイトは、足突起と呼ばれる細胞の突起を広げて糸球体毛細管外部を覆い、隣接する足突起との嵌合により、糸球体濾過障壁の効率及び血流中のタンパク質の保持にとって極めて重要な糸球体スリット膜を形成する。NSの遺伝子型において、重要なポドサイトのプロセス、例えばポドサイトの発達、遊走、基底膜相互作用、又は再生をコードする遺伝子の突然変異は、糸球体スリット膜の完全性の喪失及びネフローゼ症候群の表現型をもたらす。小児におけるSRNS症例のおよそ30%が遺伝性であり、小児における最も一般的な突然変異は、NPHS2コードポドシンにあり、これは散発性の遺伝的症例の10~30%を占める。
【0004】
ポドシンは、スリット隔膜における、すなわち隣接するポドサイト足突起間の細胞間接合部のタンパク質複合体の重要な構成要素である42kDaのヘアピン様膜関連ポドサイト特異的タンパク質である。ポドシンは脂質ラフトに局在化し、他の重要なスリット隔膜タンパク質、例えばネフリン、CD2AP、及びTRPC6と相互作用する。ポドシンはスリット隔膜の維持において必須であり、したがって、糸球体濾過障壁の完全性にとって必須である。今日まで126の突然変異が報告されているが、最も一般的な突然変異はR138Qであり、これはポドシンの小胞体への誤った局在化を引き起こす。
【0005】
単一遺伝子型のNSを有する患者にとって現在有効な処置がないため、疾患状態のポドサイトに機能的遺伝子コピーを移入するために遺伝子療法を使用することは、単一遺伝子型のNSに対処し、NS表現型を逆転し、腎機能障害を修正するための有望な新規戦略を構成し得る。実際、US2003/0152954は全般的に、ポドシン活性を有するポリペプチドをコードする核酸を送達するためにウイルスベクターの使用を提案したが、特定の遺伝子療法構築物を何ら開示又は試験しなかった。これは、腎臓が、糸球体、尿細管、血管系、及び間質で構成される特殊な区画を有する複雑な解剖学的構造を有し、そのために遺伝子療法ベクターにとって難しい標的となることが理由である可能性がある。今日まで、腎標的化遺伝子療法は、腎臓の高度に分化した部分構造をウイルスベクターアプローチによって標的化して特異的に形質導入することが難しい場合があるために主に成功していない(van der Wouden et al., 2004)。
【0006】
最近の研究は、rAAVベクターをCMVプロモーター及びGFP又はルシフェラーゼ遺伝子と組み合わせて使用して腎臓を標的化することを試み、これらは尾静脈注射又は腎静脈注射を介して投与された(Rocca et al 2014)。しかし、尾静脈注射は、腎臓の形質導入にとって不適切であることが示されており、ポドサイトにおいて低レベルの遺伝子発現が観察された一方、腎特異的であるとされるプロモーターを使用したにもかかわらず、広範な発現が肝臓においても観察された。この研究はさらに、NS関連トランスジーン、例えばポドシンの形質導入の成功を実証することができず、そのような遺伝子の長期間の機能的発現を実証することができなかった。この研究はまた、ヒト腎細胞形質導入に適したAAV血清型を探索しなかった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ポドサイト特異的プロモーターの制御下でNS関連トランスジーンを発現するAAV遺伝子療法を投与することによって、単一遺伝子型のNSを有する患者におけるNS表現型を逆転させ、ポドサイト関連腎機能障害を修正することをねらいとする。
【0008】
本発明は、単一遺伝子型のネフローゼ症候群の処置に使用するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子療法であって、AAVベクターが、NS関連トランスジーン及び最小ネフリンプロモーターNPHS1又はポドシンプロモーターNPHS2を含む、アデノ随伴ウイルスベクター遺伝子療法を提供する。遺伝子療法ベクターは、単一遺伝子型のNSを有する患者においてNS表現型を逆転させ、ポドサイト関連腎機能障害を修正することができる。
【0009】
ベクターにおいて使用するために適したAAV血清型は、2/9、LK03、及び3Bを含む。
【0010】
AAV 2/9血清型は、新生児及び成体マウス腎臓に対して有意な指向性を示し、糸球体及び尿細管に局在化し(Luo et al., 2011、Picconi et al., 2014、Schievenbusch et al., 2010)、腎静脈注射と組み合わせたAAV2/9ベクターは、腎標的化遺伝子送達に適していることが示されている(Rocca at al., 2014)。したがってAAV 2/9は、本発明の遺伝子療法に使用するための1つの適したベクターである。
【0011】
合成AAVカプシド、例えばLK03もまた、本発明の遺伝子療法に使用するために適したベクターであり得る。このベクターは、ヒト初代肝細胞をin vitro及びin vivoで高い効率で形質導入することが示されている。しかしこれまで、これは腎標的化遺伝子送達に利用されていない。本発明者らは本明細書において、AAV-LK03ベクターがin vitroでヒトポドサイトにおいて100%に近い高い形質導入を達成できること、及びin vitroでポドサイトを特異的に形質導入するために使用することができることを実証している。
【0012】
AAV-LK03キャップ配列は、7つの異なる野生型血清型(AAV1、2、3B、4、6、8、9)からの断片からなるが、AAV-3Bは、キャップ遺伝子配列の97.7%を占め、アミノ酸配列の98.9%を占める。AAV-3Bはまた、そのヒト肝細胞指向性に関しても知られ、本発明の遺伝子療法に使用するための別の適したベクターである。今日まで、これは腎標的化遺伝子送達に利用されていない。
【0013】
遺伝子療法に使用されるNS関連トランスジーンは、単一遺伝子型のNSに関連し、ポドサイトにおいて発現される遺伝子であり、これは約833アミノ酸以下のタンパク質をコードする。このサイズの制限により、NS関連トランスジーンは本発明の遺伝子療法ベクターに適合することができる。
【0014】
適したNS関連トランスジーンとしてはNPHS2;ADCK4;ALG1;ARHGAP24;ARGHDIA;CD151;CD2AP;COQ2;COQ6;DGKE;E2F3;EMP2;KANK2;LAGE3;LMNA;LMX1B;MAFB;NUP85;NUP93;NXF5;OSGEP;PAX2;PDSS2;PMM2;PODXL;SCARB2;SGPL1;Smad7;TP53RK;TPRKB;VDR;WDR73;WT1;ZMPSTE24;及びAPOL1が挙げられる。
【0015】
本発明の実施形態では、NS関連トランスジーンは、SRNS関連トランスジーン、例えばADCK4、CD2AP、DGKE、EMP2、NPHS2、NUP86、NUP93、SGPL1、WDR73、又はWT1であり得る。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、NS関連トランスジーンはポドシンをコードするNPHS2である。適したヒトNPHS2トランスジーンcDNA配列の一例を
図6に示す。
【0017】
トランスジーン種は、好ましくは患者の種と一致する。例えば、ヒト患者を処置する場合、典型的にはヒトトランスジーンを使用する。トランスジーンは、天然に存在してもよく、例えば野生型であってもよく、又は組換えであってもよい。トランスジーンは典型的に、cDNA配列として遺伝子療法ベクターに含まれる。
【0018】
最小ネフリンプロモーター、例えばNPHS1又はポドシンプロモーターNPHS2の使用により、遺伝子療法ベクターをポドサイトに特異的に標的化することが可能となる(Moeller et al., 2002、Picconi et al., 2014)。これによって、トランスジーン発現を腎臓の糸球体基底膜におけるポドサイトに特異的に標的化することが可能となり、オフターゲット発現が最小限となる。ポドサイトは最終分化した非分裂細胞であることから、それらをトランスジーンの安定な発現のために標的化することができ、ベクター希釈効果のいかなるリスクも低減又は回避することができる。本発明の好ましい実施形態では、プロモーターはNPHS1である。NPHS1プロモーターの適したDNA配列の一例を
図5に示す。トランスジーンと同様に、プロモーターの種は好ましくは患者の種と一致する。例えば、ヒト患者を処置する場合、典型的にはヒトNHPS1又はヒトNPHS2を使用する。
【0019】
AAVベクターはさらに、ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)を含み得る。WPREは、転写されると発現を増強する三次構造を作製するDNA配列である。WPREを含めることにより、ベクターによって送達されるトランスジーンの発現が増加し得る。WPRE配列を突然変異させて、RNA増強活性を有意に失うことなく発がん性を低減させてもよい(Schambach et al., 2005、参照により本明細書に組み込まれる)。適したWPRE配列の一例を
図7に示す。
【0020】
NS関連トランスジーンは、ヘマグルチニン(HA)タグを含み得る。HAは、エピトープタグとして使用することができ、それが付加されているタンパク質の生物活性又は生体分布に干渉しないことが示されている。HAタグは、トランスジーンの検出、単離、及び精製を容易にすることができる。
【0021】
AAVベクターはさらに、プロモーターとポドシントランスジーンとの間にコザック配列を含み得る。コザック配列は、翻訳プロセスの開始において主要な役割を果たすことが知られており、したがってポドシントランスジーンの発現を増強することができる。
【0022】
AAVベクターはさらに、ポリアデニル化シグナル、例えば
図8に示されるように、例えばウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを含み得る。ポリアデニル化は、メッセンジャーRNAへのポリ(A)テールの付加である。ポリ(A)テールは、複数のアデノシン一リン酸からなり、言い換えれば、これはアデニン塩基のみを有する一連のRNAのストレッチである。ポリ(A)テールは、mRNAの核輸送、翻訳、及び安定性にとって重要である。したがって、ポリアデニル化シグナルを含めることは、ポドシントランスジーンの発現を増強することができる。
【0023】
AAVベクター遺伝子療法はさらに典型的に、ベクターのいずれかの末端に末端逆位配列(ITR)を含む。例えば、ベクター構造は以下の順に、ITR-プロモーター-トランスジーン(必要に応じてHAタグを有する)-必要に応じてWRPE-ポリアデニル化シグナル-ITRであり得る。
【0024】
したがって、本発明の遺伝子療法ベクターは、患者における単一遺伝子型のNSを処置又は管理するために使用することができる。用語「患者」は、本明細書で使用される場合、ヒトを含む任意の哺乳動物を含み得る。患者は成人又は小児患者、例えば新生児又は幼児であり得る。本発明の実施形態では、患者は、年齢約1歳から約16歳の間の小児患者であり得る。
【0025】
患者は単一遺伝子型のNSに罹患している。言い換えればNSは、1つの遺伝子の突然変異によって引き起こされる。好ましくは、突然変異はポドサイトにおいて発現される遺伝子にある。例えばNSは、ポドシンをコードするNPHS2における突然変異によって引き起こされるSRNSであり得る。或いは、単一遺伝子型のNSは、ADCK4、ALG1、ARHGAP24、ARGHDIA、CD151、CD2AP、COQ2、COQ6、DGKE、E2F3、EMP2、KANK2、LAGE3、LMNA、LMX1B、MAFB、NUP85、NUP93、NXF5、OSGEP、PAX2、PDSS2、PMM2、PODXL、SCARB2、SGPL1、Smad7、TP53RK、TPRKB、VDR、WDR73、WT1、ZMPSTE24、又はAPOL1のいずれか1つにおける1つ以上の突然変異によって引き起こされ得る。本発明の実施形態では、単一遺伝子型のNSは、ADCK4、CD2AP、DGKE、EMP2、NPHS2、NUP86、NUP93、SGPL1、WDR73、又はWT1のいずれか1つにおける1つ以上の突然変異によって引き起こされる単一遺伝子型のSRNSであり得る。
【0026】
SRNSを引き起こす遺伝子突然変異は、ポドシン発現に影響を及ぼすNPHS2突然変異、例えば以下の表Aに記載される突然変異の1つ以上であり得る。
【0027】
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、遺伝子突然変異は、R138Qとしても知られるp.Arg138Glnであり得る。R138Qは、白人集団においてSRNSを有する小児における最も一般的なポドシン突然変異である。突然変異は、ポドシンの小胞体残留を引き起こし、これはポドシンがスリット隔膜に達するのを防止し、他の重要なスリット隔膜タンパク質と相互作用して機能的な濾過障壁を形成するのを防止する。
【0029】
NPHS2突然変異は全て、同じ遺伝子に影響を及ぼすことから、これらの突然変異の任意の組合せを、NPHS2トランスジーンを含む本発明のAAV遺伝子療法ベクターによって処置することができる。言い換えれば、患者は、p.Arg138Gln突然変異を有し得、上記の表Aにおいて同定された他の突然変異の1つ以上も有し得る。
【0030】
単一遺伝子型のNSの存在又は非存在は、研究所での試験、例えばBristol Genetics Laboratories、Bristol、UKから入手可能な試験によって決定することができる。典型的には、遺伝子試験は、患者から得た血液試料の分析によって実施することができる。
【0031】
AAVベクター遺伝子療法は、全身投与、例えば静脈内注射によって投与され得る。本発明の実施形態では、AAVベクター遺伝子療法は、腎動脈への注射によって投与され得る。本発明の代替の実施形態では、AAVベクター遺伝子療法は、逆行性投与によって、例えば尿路カテーテルを使用して尿管を介して投与され得る。
【0032】
遺伝子療法は、1回用量で投与することができ、言い換えればベクターのその後の投与は必要ではないことがある。反復投与が必要である場合、異なるAAV血清型をベクターにおいて使用することができる。例えば、初回用量で使用されるベクターはAAV-LK03又はAAV-3Bを含み得るが、その後の用量で使用されるベクターはAAV 2/9を含み得る。
【0033】
任意選択で、遺伝子療法は、患者の一時的免疫抑制と組み合わせて、例えば遺伝子療法を経口ステロイドによる処置と同時に又は経口ステロイドによる処置後に投与することによって投与され得る。免疫抑制は、ベクターに対する患者の免疫応答を抑制するために遺伝子療法処置の前及び/又はその間であることが望ましいことがある。しかし、AAVカプシドはベクターによってコードされないため形質導入細胞に一過性に存在するに過ぎない。したがって、カプシドは徐々に分解して消失し、このことは、カプシド配列が形質導入細胞から消失するまでカプシドに対する免疫応答を遮断する短期間の免疫調節レジメンが、トランスジーンの長期間の発現を可能にし得ることを意味する。したがって、免疫抑制は、遺伝子療法の投与後約6週間の期間であることが望ましい場合がある。
【0034】
AAVベクター遺伝子療法は、医薬組成物の形態で投与され得る。言い換えれば、AAVベクター遺伝子療法を、1つ以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤と組み合わせてもよい。適した医薬組成物は好ましくは無菌的である。
【0035】
本発明を、単なる例として図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1-1】尾静脈注射によって投与されたAAV 2/9が腎臓に形質導入し、ポドサイトにおいてHAタグ付きポドシンを発現することを示す図である。A)マウス又はヒトのポドシン又はGFPを発現させるために使用したAAVベクター。全てのベクターは、プロモーターとトランスジーンとの間にコザック配列、並びにWPRE(ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント)及びウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを含有した。B)ベクター又は食塩水を、8週齢のiPod NPHS2
fl/flマウスの尾静脈を介して注射し、ドキシサイクリンによる誘導を10~14日後に開始した。C)ウイルスベクターを注射したマウスのマウス腎皮質におけるAAV ITRの存在を示すqPCR。D)AAV 2/9を注射したiPod NPHS2
fl/flマウスにおけるポドサイト特異的タンパク質ネフリン及びポドシンと共にHAタグ付きポドシンの発現を示す代表的な免疫蛍光。疾患状態の糸球体を有するマウスはポドサイトマーカーの喪失を示したことから、対照(食塩水)画像は、完全なiPod NPHS2
fl/fl遺伝子型を注射せず、したがってタンパク尿症又は疾患状態の糸球体を発症しなかったマウスの画像である。
【
図2-1】ポドサイト特異的プロモーターの下で野生型ポドシンを発現するAAV 2/9の尾静脈注射が、条件的ポドシンノックアウトマウスモデル(iPod NPHS2
fl/fl)におけるタンパク尿症を改善することを示す図である。A)AAV 2/9 mNPHS1.mpod、AAV 2/9 hNPHS1.mpod、及び食塩水を注射したマウスの尿中アルブミン:クレアチニン比の比較(各群n=9、
**p<0.01、
***p<0.001)。B)各実験群からのマウス1匹におけるアルブミン尿症の程度に関する代表的な画像を示すクマシー染色。食塩水群は14日目以降タンパク質尿症を示し、大量のアルブミンを示したが、ベクター処置群はアルブミン尿症の遅延発症及びより軽度のアルブミン尿症を示した。C)AAV 2/9 hNPHS1.mpod又はAAV 2/9 mNPHS1.mpodのいずれかを注射したマウスにおける生存の改善を示す生存曲線(ログランク(マンテル-コックス)検定、p=0.049、各ウイルス群に関してn=3、及び食塩水群に関してn=4)。D)総DNA 50ngあたりのウイルスDNAのコピー数は、42日目で尿中アルブミン:クレアチニン比と逆相関する(スピアマンr=-0.4596、p=0.0477)。E)ドキシサイクリン後6週目でのコレステロール、アルブミン、尿素、及びクレアチニンを含む血液検査結果(各群最低n=2のコレステロールを除き、各群最低n=3のマウス)。F)各群からの光学顕微鏡法の代表的な画像を示す組織学。食塩水注射群は、糸球体の肥大、コラーゲン沈着の増加及び分節性糸球体硬化症(segmental sclerosis)と共に、尿細管拡張を示し、これはFSGSと一貫した。マウスポドシンを発現するAAV 2/9を注射したマウスは、広範囲の組織学的知見を示し、これは死亡時の尿アルブミン:クレアチニン比とほぼ相関した。一部のマウスは健康で正常な糸球体を有したが、他のマウスは、AAV 2/9 mNPHS1.mpodHAを注射したマウスにおいて認められる疑似半月体形成(矢印)のような疾患の軽度の証拠を示した。G)食塩水を注射したiPod NPHS2
fl/flマウスは、ポドシンの喪失を示したが、ポドシンの喪失を示したが、ネフリン発現は、主に膜の染色から拡散パターンへの変化を示した。
【
図3-1】AAV LK03が、最小ヒトネフリンプロモーターと共にin vitroでヒトポドサイトの効率的な形質導入を示す図である。A、C、E)ヒトポドサイト(Pod)、糸球体内皮細胞(GEnC)及び近位尿細管上皮細胞(PTEC)のAAV LK03 CMV GFPによる形質導入を実証する免疫蛍光であり、最小ネフリンプロモーターAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用した場合に限ってポドサイトにおいてGFP発現が得られた。B)AAV LK03を使用して最小ヒトネフリンプロモーターを使用した場合に限ってポドサイトにおけるGFP発現を実証するウェスタンブロット。D)AAV LK03 CMV GFPを使用した場合のポドサイトの非常に効率的な形質導入を実証し、最小ネフリンプロモーターを使用した場合のGFP発現がポドサイトに限って認められたことを裏付ける、フローサイトメトリー。比較すると、AAV 2/9 CMV GFPは、ポドサイトにおいて低い形質導入効率を示した(n=3)。F)棒グラフは、AAV LK03を形質導入したポドサイトにおける蛍光強度の中央値を示し、ヒストグラムは、AAV LK03 CMV GFP(右側のピーク)、AAV LK03 hNPHS1 GFP(中央のピーク)、及び非形質導入細胞(左側のピーク)を形質導入したポドサイトにおける緑色蛍光の程度を示す。
【
図4-1】野生型ヒトポドシンを発現するAAV LK03が、突然変異体ポドシンR138Qポドサイト細胞株において機能の救出を示す図である。A)AAV LK03.CMV.hpodocinHA及びAAV LK03.hNPHS1.hpodocinHAがR138Qポドサイトを形質導入し、HAタグ付きポドシンを発現することを示すウェスタンブロット。B)突然変異体ポドシンR138QポドサイトにおけるHAタグ付き野生型ポドシンの発現を実証する免疫蛍光。C)突然変異体ポドシンR138Qポドサイトにおける接着の減少を示す接着アッセイであり、AAV LK03.hNPHS1.hpodHA.WPRE.bGHによって処置したR138Qポドサイトにおいて接着の救出を示した。D)HAタグ付きポドシンが、小胞体マーカーであるカルネキシンと共局在しないことを示す共焦点顕微鏡法。E)脂質ラフトマーカーであるカベオリンとの一部の共局在を示す、細胞膜の100nm以内のHAタグ付きポドシンの発現を実証するTIRF顕微鏡法。
【
図5】最小ヒトネフリンプロモーター(NPHS1)の例としてのDNA配列を示す図である。
【
図6】ヒトポドシントランスジーンの例としてのcDNA配列を示す図である。
【
図7】WPRE配列の例としてのDNA配列を示す図である。
【
図8】bGHポリ(A)シグナル配列の例としてのDNA配列を示す図である。
【
図9】最小ヒトネフリンプロモーターと共にAAV LK03を使用してHAVDR(A)又はHASmad7(B)のいずれかを形質導入したヒトポドサイトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[実施例]
方法
ベクターの産生
本発明者らは、本発明者らの研究所においてヒト(
図6)及びマウス(配列を示していない)ポドシンcDNA(Origene、Herford、Germany)並びにヒトVDR及びSmad7 cDNAを使用して、CMV eGFP L22Y pUC-AV2構築物(Amit Nathwani氏からの寄贈)からpAV.hNPHS1.mpodHA.WPRE.bGH、pAV.mNPHS1.mpodHA.WPRE.bGH、及びpAV.hNPHS1.hpodHA.WPRE.bGH(
図1A)、pAV.mNPHS1.hHAVDR.WPRE.bGH、及びpAV.mNPHS1.hHASmad7.WPRE.bGHを調製した。ヒト胎児腎293T細胞に、ポリエチレンイミンを使用してカプシドプラスミド(Penn Vector CoreからのpAAV9、pAAV LK03はMark Kay氏により寄贈された)、アデノウイルス遺伝子を有するヘルパープラスミド、及びトランスジーンプラスミドをトランスフェクトした。細胞及び上清を、トランスフェクション後72時間目に回収した。細胞に5回の凍結-融解サイクルを行い、上清にPEG沈殿(8% PEG 0.5N NaCl)を行った。これらを組み合わせて、0.25%デオキシコール酸ナトリウム及び70単位/mlベンゾナーゼと共に37℃で30分間インキュベートした。ベクターを、イオジキサノール勾配超遠心分離によって精製し、次にPBS中で濃縮した。ベクターを、以下のプライマーを使用して検量線法を使用してqPCRによって滴定した:
ITR F GGAACCCCTAGTGATGGAGTT、
ITR R CGGCCTCAGTGAGCGA、
ITRプローブFAM-5'-CACTCCCTCTCTGCGCGCTCG-3'-TAMRA。
【0038】
動物
全ての動物実験及び手順は、動物(科学的手順)法1986に従って英国内務省によって承認され、実験中、実験動物のケア及び使用に関する指針に従った。NPHS2
flox/floxマウス(Corinne Antignac氏による寄贈、INSERM U983、Paris)をNPHS2-rtTA/Tet-On Creマウスと交配させ、NPHS2-rtTA/Tet-On Cre/NPHS2
flox/floxを有する子孫を生成した。これらのマウスは、ドキシサイクリンに曝露されるとポドシンのポドサイト特異的ノックアウトを生じる。これらを、以下iPod NPHS2
fl/flと呼ぶ。マウスは、混血のバックグラウンドを有し、各性別を同数使用した。8週齢のマウスに、AAVを、尾静脈注射を介して投与した(
図1B)。10~14日後、マウスに2mg/mlドキシサイクリン及び5%スクロースを補充した飲料水を3週間提供した。尿を毎週採取した。マウスを、ドキシサイクリンの開始後6週目にスケジュール1の方法によって殺処分した。少数のマウスは、生存に及ぼす効果を試験するために6週間を超えて維持した。全てのマウスを、死亡時に採取した組織から再度遺伝子型を判定した。
【0039】
細胞培養
条件的に不死化したヒトポドサイト(Pod)を、L-グルタミン及びNaHCO3と共に10%ウシ胎児血清(Sigma Aldrich、Gillingham、UK)を有するRPMI中で培養した。条件的に不死化したヒト糸球体内皮細胞(GEnC)を、EGMTM-2内皮細胞増殖培地-2 BulletKit(商標)(Lonza、Basel、Switzerland)を補充したEBMTM-2内皮細胞増殖基本培地-2中で培養した。不死化した近位尿細管上皮細胞(ATCC、Teddington、UK)(PTEC)を、インスリン、トランスフェリン、及びセレン、ヒドロコルチゾン及び10%FBSを補充したDMEM/F12中で培養した。
【0040】
細胞に、AAVを5×105のMOIで形質導入した。GFP発現に関して、細胞を形質導入後5~7日目で使用して、異なる細胞株との間の比較を可能にした。ポドシン、VDR、及びSmad7発現に関して、細胞をポドサイトが最大に分化した形質導入後10~14日目に使用した。
【0041】
定量的PCR
DNAを、DNeasy Blood and Tissue Kit(Qiagen、Manchester、UK)を使用してマウス腎皮質から抽出した。AAV DNAをウイルス滴定のために上記のプライマーを使用して検出し、マウスベータアクチンに対して正規化した。
【0042】
RNAを、RNeasy Mini Kit with RNase-Free DNase set(Qiagen、Manchester、UK)を使用して抽出した。
【0043】
免疫蛍光
5μm切片を、4%PFAを使用して固定し、3%BSA 0.3%Triton X-100及び5%のヤギ又はロバ血清によってブロックした。一次抗体は、ラットIgG1からの高親和性抗HA(Roche、Basel、Switzerland)、モルモット抗ネフリン(1243-1256)抗体(Origene、Herford、Germany)、及びウサギ抗NPHS2抗体(Proteintech、Manchester、UK)であった。
【0044】
細胞を4% PFA及び/又は氷冷メタノールのいずれかによって固定し、0.03Mグリシンと共に5分間インキュベートし、0.3%Tritonによって透過化した後、3%BSAによってブロックした。一次抗体は、マウスHA.11エピトープタグ抗体(Biolegend、San Diego、USA)、マウス抗GFP(Roche、Basel、Switzerland)、ウサギ抗カルネキシン(Merck Millipore、Darmstadt、Germany)、及びウサギ抗カベオリン1(Cell Signaling、Danvers、USA)であった。
【0045】
二次抗体は、AlexaFluor 488ロバ抗マウス、AlexaFluor 488ロバ抗ウサギ、AlexaFluor 488ヤギ抗モルモット、AlexaFluor 555ヤギ抗ウサギ、及びAlexaFluor 633ヤギ抗ラット、並びにAlexaFluor 633ファロイジン(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)であった。切片をDAPIによって対比染色し、Mowiolと共にマウントした。画像は、Leica DMi8倒立型落射蛍光顕微鏡に接続したLeica SPE単チャネル共焦点レーザー走査型顕微鏡、又はLeica DMI 6000倒立型落射蛍光顕微鏡に接続したLeica SP5-II共焦点レーザー走査型顕微鏡、又はLeica DMI 6000倒立型落射蛍光顕微鏡に接続したLeica AM TIRF MC(マルチカラー)システムにおいて、LAS(Leica Application Suite)Xソフトウェアを使用して取得した。
【0046】
ウェスタンブロッティング
細胞をSDS溶解緩衝液中で抽出した。試料を、12.5%ゲル上で泳動させ、PVDFメンブレンに転写した。メンブレンを0.1%TBST中の5%ミルク中でブロックした。使用した一次抗体は、マウスHA.11エピトープタグ抗体(Biolegend、San Diego、USA)、0.1%TBST中の3%BSA中のマウス抗GFP(Roche、Basel、Switzerland)、又はウサギ抗NPHS2抗体(Proteintech、Manchester、UK)であった。二次抗体は、0.1%TBST中の3%BSA中の抗ウサギ又は抗マウスIgGペルオキシダーゼ(Sigma Aldrich、Gillingham、UK)であった。メンブレンをAmersham Imager 600においてイメージングした。
【0047】
フローサイトメトリー
生存細胞をヨウ化プロピジウムによって染色し、生存単細胞のみを分析に含めた。フローサイトメトリーは、NovoCyteフローサイトメーターにおいて実施した。
【0048】
接着アッセイ
細胞をトリプシン処理し、105個/mlで再浮遊させ、10分間回復させた後、96ウェルプレートにPBSによって2倍希釈した細胞50μlを播種した。テクニカルトリプリケートを使用した。細胞を37℃で約1時間接着させたままにした。細胞をPBSによって洗浄して非接着細胞を洗い流した後、4%PFAによって20分間固定した。細胞を蒸留水で洗浄後、2%エタノール中の0.1%クリスタルバイオレットによって室温で60分間染色した。細胞を洗浄し、10%酢酸と共にシェーカー上で5分間インキュベートした。570nmでの吸光度を測定し、結果を、AAV LK03 CMV GFPを形質導入した野生型細胞株に対して正規化した。
【0049】
尿
アルブミンレベルを、マウスアルブミンELISAキット(Bethyl Laboratories Inc、Montgomery、USA)を使用して測定し、クレアチニンレベルを、Konelab Prime 60iアナライザーにおいて測定した。
【0050】
血液検査
マウス血漿を、Konelab Prime 60iアナライザー又はRoche Cobasシステムのいずれかを使用して、製造元によって供給された試薬及びプロトコールを使用して処理した。
【0051】
統計分析
データは全て、他に明記していない限り平均値±SEMとして表記する。統計分析を、GraphPad Prism(Graphpad softward、La Jolla、USA)において実施した。使用した統計学的検定は、生存解析に関して、両側のt検定、テューキーの多重比較事後解析を伴う一元配置ANOVA、テューキーの多重比較事後解析を伴う二元配置ANOVA、及びログランク(マンテル-コックス)検定を含んだ。
【0052】
結果
AAV血清型9の尾静脈注射は腎細胞の形質導入及びポドサイトにおける発現を実証する
8週齢時に、マウスに1.5×10
12vgのAAV2/9 hNPHS1.mpod、又はAAV2/9 mNPHS1.mpod、又は食塩水のいずれかを、尾静脈を介して投与した。6週間後、AAV ITRは、AAVを注射したマウスの腎皮質に検出された(AAV 2/9 hNPHS1.mpod=39,067±13,285コピーssDNA、AAV 2/9 mNPHS1mpod=76,533.33±32047コピーssDNA、n=5~6/群)(
図1C)。HAタグ付きポドシンは、ポドサイトマーカーであるネフリン及びポドシンと共局在することが示された(
図1D)。
【0053】
AAV2/9発現野生型ポドシンはiPod NPHS2
fl/flマウスにおいてアルブミン尿症を低減する
ベクター処置群は、尿中アルブミン:クレアチニン比(ACR)の低減を示した(
図2A、2B)。AAV 2/9発現ポドシンの尾静脈注射が尿中ACRに及ぼす効果は、F(2, 24)=9.61のF比、p<0.001(n=9/群)を生じた。ドキシサイクリン後14日目では、尿中ACRは、食塩水群においていずれのベクター処置群よりも高かったが、これは有意ではなかった(AAV 2/9 hNPHS1.mpod=758.1±488.1mg/mmol、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=59.8±28.0mg/mmol、食塩水=3,770.1±1337.6mg/mmol、AAV 2/9 hNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp=0.40、AAV 2/9 mNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp=0.25)。28日目(AAV 2/9 hNPHS1.mpod=3,083.0±932.8mg/mmol、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=2,195.1±778.9mg/mmol、食塩水=10,198±3,189.5mg/mmol、AAV 2/9 hNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp=0.008、AAV 2/9 mNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp=0.002)及び42日目(AAV 2/9 hNPHS1.mpod=3,266.8±1,212.2mg/mmol、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=3,553.3±1,477.87mg/mmol、食塩水=13,488.8±3,877.3mg/mmol、AAV 2/9 hNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp<0.001、AAV 2/9 mNPHS1.mpodと食塩水との比較に関してp<0.001)ではベクター処置群において尿中ACRに有意な低減があった。ベクター処置群において、AAV 2/9 hNPHS1.mpod群ではマウス9匹中2匹、及びAAV 2/9 mNPHS1.mpod群ではマウス9匹中1匹が42日目で30mg/mmol未満の尿中ACRを有した。
【0054】
ベクター処置群のマウスは改善を示したが、群の間で大きな変動が認められ、これを本発明者らは、全身注射後に腎臓に到達したベクターの量に起因し得るという仮設を立てた。腎皮質において検出されたウイルスDNAの量は、42日目でのアルブミン尿症の程度と逆相関を示した(スピアマンr=-0.4596、p=0.0477)(
図2D)。
【0055】
AAV2/9発現野生型ポドシンはiPod NPHS2
fl/flマウスにおける表現型を部分的に救出する
ベクター処置マウスは、クレアチニンの低減(食塩水=39.0±8.5μmol/L、AAV 2/9 hNPHS1.mpod=27.3±7.9μmol/L、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=18.6±4.4mmol/L、p=0.1622)、尿素の低減(食塩水=39.4±17.6mmol/L、AAV 2/9 hNPHS1.mpod=12.0±2.0mmol/L、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=11.6±1.6mmol/L、p=0.058)、アルブミンの増加(食塩水=10.5±5.4g/L、AAV 2/9 hNPHS1.mpod 17.1=4.8±g/L、AAV 2/9 mNPHS1.mpod=17.1±3.6g/L、p=0.5602)、及びコレステロールの有意な低減(食塩水=15.76±1.75mmol/L、AAV 2/9 hNPHS1.mpod=2.64±0.60mmol/L、AAV 2/9 mNPHS2.mpod=4.86±0.76mmol/L、p=0009)を示した(
図2E)。
【0056】
食塩水処置マウスは、6週間までにFSGSの組織学的特色を示した。ベクター処置マウスは光学顕微鏡法においてFSGSの組織学的特色を示さなかったが、完全に正常な糸球体から疑似半月体又はメサンギウム細胞増多までの広範囲の組織学的知見を実証した(
図2F)。
【0057】
これらのマウスはまた、生存期間の延長(n=3~4/群)も示し、食塩水群における生存期間の中央値は75.5日(範囲38~111日)であり、これに対しAAV 2/9 hNPHS1.mpodでは生存期間の中央値は192日(範囲74~206日でなおも生存)であり、AAV 2/9 mNPHS1.mpodでは生存期間の中央値は192日(範囲131~206日でなおも生存)(p=0.049)であった。
【0058】
無処置マウスは、ポドシンの発現の喪失を示し、ネフリンの発現パターンは拡散パターンへと変化する(
図2G)。これはベクター処置マウスにおいて認められるネフリン及びポドシンの主に膜発現パターンとは著しい対比をなす(
図1D)。
【0059】
AAV LK03は最小ヒトネフリンプロモーターによってin vitroでヒトポドサイトを効率的に形質導入する
CMV GFPを有するAAV LK03及びAAV LK03 hNPHS1 GFPを使用して、ヒトポドサイト、糸球体内皮細胞、及び近位尿細管上皮細胞に5×10
5のMOIで形質導入した。フローサイトメトリー(n=3)により、AAV LK03 CMV GFPがポドサイトの非常に効率的な形質導入を有し(%GFP発現=98.83±0.84)、AAV LK03 hNPHS1 GFPは、良好な形質導入を有し(%GFP発現=71.3±3.39)、非形質導入細胞は顕著でない発現を有する(%GFP発現=0.89±0.36)ことが示された(
図3D)。これは、免疫蛍光(
図3A、3C、3E)及びウェスタンブロット(
図3B)において反映された。GFP発現陽性の細胞の割合は、AAV LK03 hNPHS1 GFPを形質導入したポドサイトにおいて高いが、細胞はAAV LK03 CMV GFPを形質導入した細胞より低い蛍光強度を有する(
図3F)。
【0060】
興味深いことに、AAV LK03 CMV GFPは、糸球体内皮細胞においてかなり低い形質導入を示した(%GFP発現=7.35±0.19)。AAV LK03 hNPHS1 GFPは、糸球体内皮細胞において最少の形質導入を示し(%GFP発現=0.59±0.10)、これは非形質導入糸球体内皮細胞と類似のレベルであった(%GFP発現=0.23±0.02)。AAV 2/9は、齧歯類の腎臓においてin vivoで腎細胞における最善の形質導入が認められた血清型であったことから、本発明者らは、ヒト腎細胞株におけるAAV 2/9 CMV GFPの発現を調べた。AAV 2/9 CMV GFPは、ポドサイト(%GFP発現=13.9±1.98)及び糸球体内皮細胞(%GFP発現=21.99±4.35)の両方において低い形質導入効率を示した(
図3D)。AAV LK03 hNPHS1 HAVDR及びAAV LK03 hNPHS1 hSmad7を有するAAV LK03を使用してヒトポドサイトを形質導入したところ、両方のタンパク質の良好な発現を示した(
図9)。
【0061】
最小ネフリンプロモーター下でのAAV LK03発現ヒトポドシンは突然変異体ポドシンR138Qポドサイト細胞株における機能の救出を示す
R138Qポドシン突然変異体は、細胞膜から小胞体へのポドシンの誤った局在化をもたらす。突然変異体ポドシンR138Qポドサイト細胞株を患者の腎臓から取得し、温度感受性SV40 T抗原を使用して条件的に不死化した。AAV LK03 hNPHS1 hpodは、R138Qポドサイトを形質導入し、HAタグ付きポドシンを発現する(
図4A、4B)。HAタグ付きポドシンは、共焦点顕微鏡法において細胞膜に認められ、TIRF顕微鏡法において認められるように脂質ラフトタンパク質であるカベオリン-1と共局在する(
図4B、4E)。非形質導入R138Qポドサイトは、細胞膜においていかなるポドシン発現も示さない(
図4B)。HAタグ付きポドシンは、小胞体マーカーであるカルネキシンと共局在しない(
図4D)。
【0062】
ポドサイトは、疾患状態で接着の減少又は増加を示す。本発明者らの研究所でのこれまでの研究から、R138Q突然変異が、ポドサイト接着の減少を引き起こすことが示されている。AAV形質導入は、ポドサイト接着の減少を引き起こすが、R138Qポドサイトはなおも野生型ポドサイトと比較して接着の低減を示し、AAV LK03 hNPHS1 hpodの形質導入は、R138Qポドサイトの接着機能の救出をもたらす(
図4C)。
【0063】
考察
本明細書において、本発明者らは、条件的マウスノックアウトモデルにおいて、最小ネフリンプロモーターを使用してAAV 2/9によりポドサイトを標的化してマウスポドシンを発現させることに成功し、ベクター処置マウスにおいて表現型の部分的救出及びアルブミン尿症の改善が認められた。最初の原理実証研究として、本発明者らは、ポドシンがノックアウトされた場合にベクターによる有効な救出が起こるよう、ドキシサイクリン誘導前にベクターを注射することを選択した。ドキシサイクリン誘導の効果は急速であり、重度のネフローゼへの進行(8~14日)及びFSGSは比較的急速である(約6週間)。本発明者らは、本明細書において、in vitroで野生型ヒトポドシンをR138Qポドサイトに導入すると、細胞膜に達するポドシンの発現が可能となり、ポドサイト接着が救出されることを示した。
【0064】
本発明者らは、ベクターがこれらのマウスにおけるアルブミン尿症及び生存を改善することを示しているが、処置マウス及び無処置マウスの両方におけるアルブミン尿症の程度には大きい程度の変動が存在する。処置マウス内の変動は少なくとも部分的に腎臓におけるウイルス形質導入の量によって説明され得る(
図2D)。
【0065】
AAV LK03は、in vitroでヒトポドサイトにおいて100%に近い高い形質導入を示し、最小ヒトネフリンプロモーターを使用した場合、これは72.3%に低減される。本発明者らは、本発明者らがこの血清型を使用してポドサイトをin vitroで特異的に形質導入することができること、及びR138Q突然変異体ポドサイトにおける野生型ポドシンの発現が機能の救出を示すことを示した。AAV LK03を使用することは、ヒトポドサイトのそのような有効な形質導入がヒトにおける有効な用量の有意な低減を可能にすることから、翻訳に対して意味を有する。最近の英国での研究では、23%という低い抗AAV LK03中和抗体の血清陽性率が示され、小児後期で最底であることが示されているが(Perocheau, D. P. et al.)、これによってこの特定の血清型は、翻訳研究の有望な候補体となる。
【0066】
本発明者らは、ポドサイト特異的プロモーターによるポドサイトのAAV形質導入がiPod NPHS2fl/flマウスモデルにおいてアルブミン尿症を改善することを実証する最初の原理実証研究を記載する。本発明者らはまた、合成カプシドであるAAV LK03がヒトポドサイトの非常に効率的な形質導入を示すことも示す。組み合わせると、本研究は、ポドサイトの単一遺伝子性疾患を標的化するAAV遺伝子療法の翻訳に対する最初のステップである。
【0067】
【0068】
配列表フリーテキスト
[配列番号1]はITRフォワードプライマーを示す。
【0069】
[配列番号2]はITRリバースプライマーを示す。
【0070】
[配列番号3]はITRプローブFAM-5'-CACTCCCTCTCTGCGCGCTCG-3'-TAMRAのDNA配列を示す。
【0071】
[配列番号4]は、
図5に示される最小ヒトネフリンプロモーター(NPHS1)の例としてのDNA配列を示す。
【0072】
[配列番号5]は、
図6に示されるヒトポドシントランスジーンの例としてのcDNA配列を示す。
【0073】
[配列番号6]は、
図7に示されるWPRE配列の例としてのDNA配列を示す。
【0074】
[配列番号7]は、
図8に示されるbGHポリ(A)シグナル配列の例としてのDNA配列を示す。
【配列表】
【国際調査報告】