(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-09
(54)【発明の名称】アルロースエピマー化酵素変異体、その製造方法及びこれを用いたアルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/61 20060101AFI20220302BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20220302BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220302BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220302BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220302BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220302BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220302BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C12N15/61 ZNA
C12N9/90
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P19/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526648
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 KR2020013138
(87)【国際公開番号】W WO2021125514
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170993
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516298272
【氏名又は名称】テサン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】DAESANG CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヒョンソプ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウンソク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジハ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソクス
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050EE10
4B050FF03E
4B050FF14E
4B050LL05
4B064AF02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA10
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA20
4B065CA27
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素のアミノ酸配列のうち、216番目の位置に存在するアミノ酸残基であるグリシン(Gly)がセリン(Ser)に置換された新規なアルロースエピマー化酵素変異体及びこれの様々な用途を提供する。本発明による新規なアルロースエピマー化酵素変異体は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロースへの変換活性が高く、特に60℃以上の高温条件で熱安定性に非常に優れているため、アルロースの大量生産のための産業化レベルの酵素変換反応時、汚染を防止することができ、生産時間を短縮させることができ、生産コストを節減させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号11の塩基配列からなることを特徴とする請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項2に記載のポリヌクレオチド、請求項3に記載のポリヌクレオチド又は請求項4に記載の組換えベクターのいずれかによって形質転換された組換え菌株。
【請求項6】
請求項5に記載の組換え菌株を培養してアルロースエピマー化酵素変異体を発現させる段階、および
前記アルロースエピマー化酵素変異体が発現された組換え菌株の破砕物からアルロースエピマー化酵素変異体を分離する段階、
を含むアルロースエピマー化酵素変異体の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のアルロースエピマー化酵素変異体を含むアルロースの生産用組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の組換え菌株、前記組換え菌株の培養物又は前記組換え菌株の破砕物を含むアルロースの生産用組成物。
【請求項9】
果糖を請求項1に記載のアルロースエピマー化酵素変異体又は前記アルロースエピマー化酵素変異体を含む組成物と反応させる段階を含むアルロースの製造方法。
【請求項10】
果糖を請求項5に記載の組換え菌株、前記組換え菌株の培養物、前記組換え菌株の破砕物又はこれらのいずれか一つ以上を含む組成物と反応させる段階を含むアルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルロースエピマー化酵素変異体等に関するものであって、より詳しくは、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロース変換率及び熱安定性が向上されたアルロースエピマー化酵素変異体、及びこれより派生する様々な発明に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アルロース(D-allulose)は、果糖(fructose)の3番目の炭素のエピマー(epimer)であって、D-プシコース(D-psicose)とも呼ばれる。D-アルロース(D-allulose)は、砂糖と比較したとき、70%の甘味度を有するが(Oshima 2006)、エネルギーは0.3%しかないので、ダイエット食品の低カロリー甘味料に適用可能な機能性単糖類である(Matsuo et al.、2002)。また、D-アルロース(D-allulose)は、ブドウ糖の吸収及び血糖を抑制する機能があり、糖尿病患者用飲食品、健康用飲食品などに応用することができ、肝臓における脂質合成に関与する酵素活性の阻害により腹部の脂肪蓄積を抑制することができるので、健康食品などの様々な機能性食品などに用いることができる(Matsuo et al.、2001;Iida et al.、2008;Hayashi et al.、2010;Hossain et al.、2011)。
【0003】
前記のような特徴により、アルロースは、砂糖に代替できる良いソースであるが、自然界にごく稀に存在する単糖類である希少糖に属するため、食品産業に適用するためには、アルロースを効率的に生産する方法が必要である。既存のアルロースの生産方法としては、主に化学的過程を経て生産された。ビリック(Bilik)らは、モリブデン酸イオンの触媒作用を利用して果糖からアルロースに変換する方法を提案した。マクドナルド(McDonald)は、1,2:4,5-ジ-δ-イソプロピリデン-ベータ-D-フラクトピラノース(1,2:4,5-di-δ-isopropylidene-beta-D-fructopyranose)から3段階にわたる化学的処理過程でアルロースを生産した。また、ドナー(Doner)は、エタノールとトリメチルアミンと共に果糖を加熱してアルロースを生産した。しかし、これらの化学的製造方法は、コストがかかるのに対し、その効率は低く、かなりの量の副産物が発生する短所がある。
【0004】
アルロースを生産する生物学的方法としては、微生物の細胞反応を利用してガラクチトール(galactitol)、D-タガトース又はD-タリトールなどからアルロースを生産する方法が提案された(Ken Izumori)。しかし、この方法は、基質が希少糖に属するため、産業的生産に応用するのが難しい。産業化に最も効率的な方法としては、D-ケトース3-エピマー化酵素群中で果糖をアルロースに変換する酵素を見出す方法である。既存に発表された内容は、クロストリジウム・セルロリチクムH(10)(Mu et al.、2011)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Kim et al.、2006)、シュードモナス・チコリ(Itoh at al.1994)、リゾビウム・スペロイデス(Zhang et al.、2009)に由来するD-タガトース3-エピマー化酵素を大腸菌に挿入して形質転換させた後、形質転換された大腸菌で発現されたD-タガトース3-エピマー化酵素を用いて果糖からアルロースを生産した。
【0005】
酵素を用いて果糖からアルロースを生産する技術に関連して、大韓民国登録特許公報第10-0744479号には、アグロバクテリウム・ツメファシエンスに由来するアルロースエピマー化酵素によるアルロースの生産方法が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-0832339号には、果糖をアルロースに変換する活性を有するシノリゾビウム属(Sinorhizobium)YB-58 KCTC 10983BPと、これを用いて果糖をアルロースに変換する方法が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-1106253号には、果糖のアルロースへの変換を触媒する活性を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスC58のアルロース3-エピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドを含む大腸菌及びこれを用いて果糖からアルロースを生産する方法が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-1339443号には、リゾビウム属(genus Rhizobium)に属する微生物に由来するケトース3-エピメラーゼ(ketose 3-epimerase)及びこれを用いて果糖をアルロースに変換する方法が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-1318422号には、クロストリジウム・シンデンス(Clostridiuim scindens)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素及びこれを用いて果糖からアルロースを生産する方法が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-1473918号には、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素及びこれを用いて果糖からアルロースを生産する方法が開示されている。
【0006】
しかし、微生物に由来する野生型(Wild type)のD-アルロース3-エピマー化酵素は、果糖のアルロースへの変換率が高くなく、特に最適活性温度条件で熱安定性が劣り、産業化に適していない。したがって、微生物に由来する野生型(Wild type)のD-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロースへの変換率又は熱安定性が向上された新規なD-アルロース3-エピマー化酵素変異体の開発が必要である。D-アルロース3-エピマー化酵素変異体に関連し、大韓民国公開特許公報第10-2014-0021974号には、遺伝子レベルで突然変異を誘導し、高い温度での速やかなアルロースへの変換速度と安定性を示すトレポネーマ・プリミティアZAS-1に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素が開示されており、大韓民国登録特許公報第10-1203856号には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に由来する野生型アルロースエピマー化酵素の変異により収得した熱安定性が向上されたアルロースエピマー化酵素変異体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の背景下で見出されたものであり、本発明の第一の目的は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性が向上された新規なD-アルロース3-エピマー化酵素変異体を提供することにある。
【0008】
本発明の第二の目的は、新規なD-アルロース3-エピマー化酵素変異体を製造する方法又は新規なD-アルロース3-エピマー化酵素変異体を製造するために必要なさまざまな要素を提供することにある。
【0009】
本発明の第三の目的は、果糖からアルロースを製造する方法又は果糖からアルロースを製造するために必要なさまざまな要素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の出願人は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素及びこれを用いて果糖からアルロースを製造する発明について特許出願をして登録を受けている[大韓民国登録特許第10-1473918号(2014.12.11)]。前記フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素は、約6.5~7.0のpHの範囲及び約62~66℃の温度条件で果糖のアルロースへの変換に対する最大活性を示すが、最適温度条件で反応時間が経つにつれて酵素の活性が急激に低下するため、アルロースを大量生産する産業化の段階でその活用度に限界がある。また、一般的にアルロースを大量生産するための酵素変換反応は、汚染防止のため高温で行われるので、フラボニフラクター・プラウティ(Flavoni fractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素を産業化に適用するためには、熱安定性を大幅に向上させる必要がある。本発明の出願人は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素の内在的な問題を認識し、タンパク質構造予測技術を使って、野生型D-アルロース3-エピマー化酵素のアミノ酸配列のうち、所定位置のアミノ酸配列を置換させた場合、果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性が向上するという点を確認し、本発明を完成した。
【0011】
(空白)
【0012】
前記第一の目的を解決するために、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体を提供する。
【0013】
前記第二の目的を解決するために、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。また、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。また、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド又は配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株を提供する。また、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド又は配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えベクターによって形質転換された組換え菌株を培養し、アルロースエピマー化酵素変異体を発現させる段階と、前記アルロースエピマー化酵素変異体が発現された組換え菌株の破砕物からアルロースエピマー化酵素変異体を分離する段階と、を含むアルロースエピマー化酵素変異体の製造方法を提供する。
【0014】
前記第三の目的を解決するために、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体を含むアルロース生産用組成物を提供する。また、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド又は配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株、前記組換え菌株の培養物又は前記組換え菌株の破砕物を含むアルロース生産用組成物を提供する。また、本発明は、果糖を配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体又は前記アルロースエピマー化酵素変異体を含む組成物と反応させる段階を含むアルロースの製造方法を提供する。また、本発明は、果糖を配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド又は配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株、前記組換え菌株の培養物、前記組換え菌株の破砕物又はこれらのうち、いずれか一つ以上を含む組成物と反応させる段階を含むアルロースの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による新規なアルロースエピマー化酵素変異体は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロースへの変換活性が高く、特に60℃以上の高温条件で熱安定性に非常に優れているため、アルロースを大量生産するための産業化レベルの酵素変換反応時の汚染を防止することができ、生産時間を短縮させることができ、生産コストを節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の発明者等がフラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を向上させるために、置換候補として選定した計5個のアミノ酸残基の位置を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0018】
(空白)
【0019】
本発明の一側面は、果糖をアルロースへ変換させることができる新規なD-アルロース3-エピマー化酵素変異体(以下、「アルロースエピマー化酵素変異体」という。)に関するものである。前記アルロースエピマー化酵素変異体は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素のアミノ酸配列のうち、216番目の位置に存在するアミノ酸残基であるグリシン(Gly)がセリン(Ser)に置換されたものであり、野生型D-アルロース3-エピマー化酵素に比べて果糖のアルロースへの変換活性が高く、特に60℃以上の高温条件で熱安定性に非常に優れている。前記アルロースエピマー化酵素変異体は、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来する野生型D-アルロース3-エピマー化酵素をコードするポリヌクレオチド(配列番号7の塩基配列からなる)を鋳型にし、所定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマー対にしてPCRを行い、その後に増幅された変異体断片の対を鋳型にし、制限酵素認識部位の配列が導入されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、overlap extentention PCRを行い、アルロースエピマー化酵素変異体のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を発現ベクターに挿入して組換え発現ベクターを製造した後、前記組換え発現ベクターで宿主菌株を形質転換させ、組換え菌株を製造した後、前記組換え菌株を培養して発現させる方法で得ることができる。本発明によるアルロースエピマー化酵素変異体は、配列番号5のアミノ酸配列からなるが、本発明によるアルロースエピマー化酵素変異体の均等範囲は、これに限定されない。例えば、本発明によるアルロースエピマー化酵素変異体の均等範囲は、果糖をアルロースに変換する活性及び60℃以上の高温で熱安定性が維持される限り、配列番号5のアミノ酸のうちの一部が置換、挿入及び/又は欠失されたものであることができる。前記アミノ酸の置換は、好ましくは、タンパク質の特性が変わらない保存的アミノ酸置換(conservative amino acid replacement)によってなることが好ましい。また、前記アミノ酸の変形は、グリコシル化、アセチル化、ホルホリル化等によりなることができる。また、本発明によるアルロースエピマー化酵素変異体の均等範囲は、アミノ酸配列上の変異又は数式によって熱、pHなどに対する構造的安定性が増加したり、果糖のアルロースへの変換に対する活性が増加したタンパク質を含むことができる。また、本発明によるアルロースエピマー化酵素変異体の均等範囲は、配列番号5のアミノ酸配列と70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものであることができる。
【0020】
(空白)
【0021】
本発明の他の側面は、新規なアルロースエピマー化酵素変異体を製造する方法又は新規なアルロースエピマー化酵素変異体を製造するために必要なさまざまな要素に関するものである。前記新規なアルロースエピマー化酵素変異体を製造するために必要な様々な要素としては、ポリヌクレオチド、プライマー対、組換えベクター、組換え菌株などがある。
【0022】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドであり、好ましくは、配列番号11の塩基配列からなる。本発明で使用される用語「ポリヌクレオチド」は、非変形(non-modified)又は変形された(modified)すべてのポリリボヌクレオチド(RNA)又はポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)を意味する。前記ポリヌクレオチドは、単一鎖又は二本鎖DNA、単一鎖及び二本鎖領域の混合物であるDNA、単一鎖及び二本鎖RNA、単一鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA又はこれらのハイブリッド分子を含むが、これに限定されるものではない。また、前記アルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドの均等範囲は、配列番号11の塩基配列に対して実質的同一性を有する配列を含む。前記の実質的な同一性は、配列番号11の塩基配列と、任意の他の配列を最大限に対応できるように整列し、その配列を解析して、前記の任意の他の配列が配列番号11の塩基配列と70%以上、90%以上、又は98%以上の配列相同性を有することを意味する。当該分野における通常の知識を有する技術者は、当該分野に公知された遺伝子組換え技術等を利用して、前記ポリヌクレオチドの塩基配列のいずれか又はそれ以上の塩基を置換、付加又は欠失させることにより、前記実質的相同性を有する範囲で同じ活性を有するアルロースエピマー化酵素変異体を暗号化するポリヌクレオチドを製造することができることを容易に理解することができる。このような相同性の比較は、市販のコンピュータプログラムを用いて、2つ以上の配列間の相同性の百分率(%)で計算し、実行することができる。
【0023】
また、前記プライマー対は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを合成するためのものであって、好ましくは、次のような塩基配列を有する順方向プライマーと逆方向プライマーからなる。
【0024】
*順方向プライマーの塩基配列(5’→3’)
【0025】
GCTGGGGCATTTCCACGTGAGCGAGAACAACCGCCGCCCCG
【0026】
*逆方向プライマーの塩基配列(5’→3’)
【0027】
CGGGGCGGCGGTTGTTCTCGCTCACGTGGAAATGCCCCAGC
【0028】
また、前記組換えベクターは、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む。前記組換えベクターは、アルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを公知の標準的な方法を使ってクローニングベクターや発現ベクター内に挿入された形態で提供されることができる。本発明で使用される用語「クローニングベクター」は、宿主細胞内にDNA断片を運び、これを再生産することができる物質として定義される。本発明においてクローニングベクターは、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)、転写終結配列(transcription termination sequence)及びマルチクローニングサイト(multiple cloning site)をさらに含むことができる。このとき、前記マルチクローニングサイト(multiple cloning site)は、少なくとも一つのエンドヌクレアーゼ(endonuclease)制限酵素切断サイト(restriction site)を含む。また、クローニングベクターは、プロモーターをさらに含むことができる。一例として、本発明においてアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドは、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)及び転写終結配列(transcription termination sequence)の上流(upstream)に位置することができる。また、本発明にて使用される用語「発現ベクター」は、適切な宿主内でクローニングされたDNAの転写と翻訳のために必要なDNA配列として定義される。また、本発明にて使用される用語「発現ベクター」は、個体の細胞内に存在する場合、挿入物が発現されるように、挿入物に作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物を意味する。前記発現ベクターは、標準的な組換えDNA技術を利用して製造し、精製することができる。前記発現ベクターの種類は、原核細胞及び真核細胞の各種宿主細胞から所望する遺伝子を発現し、所望するタンパク質を生産する機能をする限り、特に限定されないが、強力な活性を示すプロモーターと強い発現力を保有しながら、自然状態と類似した形態の外来タンパク質を大量に生産することができるベクターが好ましい。発現ベクターは、少なくとも、プロモーター、開始コドン、所望するタンパク質をコードする遺伝子及び終止コドンターミネーターが含まれていることが好ましい。そのほかにシグナルペプチドをコードするDNA、追加発現調節配列、所望する遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、選択マーカー領域、又は複製可能単位などを適宜含むこともできる。「プロモーター」は、転写を指示するのに十分な最小配列を意味する。また、前記プロモーターには、細胞種特異的又は外部の信号又は製剤によって誘導される調節可能なプロモーター依存遺伝子を発現するようにするのに十分なプロモーター構成が含まれることができ、このような構成は、遺伝子の5’又は3’部分に位置することができる。前記プロモーターには、保存的プロモーター及び誘導性プロモーターの両方を含む。プロモーター配列は、原核生物、真核生物、又はウイルスに由来することができる。本発明にて使用される用語「作動可能に連結された」は、単一ポリヌクレオチド上のポリヌクレオチド配列の関連性で一つの機能が他のものによって調節されることを意味する。例えば、プロモーターがコーディング配列の発現を制御することができる場合(すなわち、コーディング配列がプロモーターの転写調節下にある場合)プロモーターは、コーディング配列と連結されて動作するか、リボソーム結合部位が翻訳を促進させるように位置されていれば、リボソーム結合部位は、コーディング配列に連結されて動作されるものである。コーディング配列は、センス方向又はアンチセンス方向で調節配列に連結されて動作することができる。本発明による組換えベクターは、好ましくは発現ベクターである。
【0029】
また、前記組換え菌株は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドによって形質転換されるか、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えベクターによって形質転換されるものである。本発明にて使用される用語「組換え菌株」は、一つ以上の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド又はこれを有する発現ベクターが宿主細胞に導入され、形質転換された細胞を意味する。前記発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を製造するための方法としては、一時的な形質転換による感染(transient transfection)、微細注射、形質導入(transduction)、細胞融合、カルシウムホスフェート沈殿法、リポソーム媒介性トランスフェクション(liposome mediated transfection)、DEAEデキストラン-媒介性トランスフェクション(DEAE Dextran-mediated transfection)、ポリブレン-媒介性トランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、電気注入法(electroinjection)、PEGなどの化学的処理方法、遺伝子銃(gene gun)などを用いる方法、熱衝撃(heat shock)方法などがあるが、これに限定されるものではない。本発明にて発現ベクターに形質転換することができる宿主細胞としては、原核細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞など、当業界に公知されたものであれば、その種類が大きく制限されず、好ましくは、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主が通常使用される。例えば、前記宿主細胞は、大腸菌であることができる。前記大腸菌としてBL21、JM109、K-12、LE392、RR1、DH5α又はW3110などであることができるが、これに限定されるものではない。このほかにも、前記の宿主細胞としてバチルスサブチルス、バチルス・チューリンゲンシスのようなバチルス属菌株、コリネバクテリウムグルタミクムのようなコリネバクテリア属菌株、サルモネラテイフィムリウムなどのサルモネラ属菌株、その他のセラチア・マルセッセンスと様々なシュードモナス属のような腸内菌と菌株などからなる群から選択された菌株を使用してもよい。
【0030】
また、前記アルロースエピマー化酵素変異体の製造方法は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドによって形質転換されるか、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株を培養してアルロースエピマー化酵素変異体を発現させる段階と、前記アルロースエピマー化酵素変異体が発現された組換え菌株の破砕物からスピコースエピマー化酵素を分離する段階とを含む。宿主細胞によるタンパク質の発現は、ラクトース(Lactose)、誘導因子であるIPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)等を使用して発現を誘導することができ、誘導時間は、タンパク質の量が最大化となるように調節することができる。本発明にてアルロースエピマー化酵素変異体は、遺伝子組換え菌株の破砕物から回収することができる。タンパク質発現に使用された細胞は、凍結-解凍の繰り返し、超音波処理、機械的破壊、又は細胞分解剤など、さまざまな物質的又は化学的手段によって破壊されることができ、通常の生化学的分離技術によって分離したり、精製したりすることが可能である(Sambrook et al.、Molecular Cloning:A laboratory Manual 、2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989;Deuscher、M.、Guide to Protein Purification Methods Enzymology、Vol。182 Academic Press.Inc.、San Diego、CA 、1990)。例えば、宿主細胞によって発現されたタンパク質の分離又は精製方法としては、電気泳動、遠心分離、ゲルろ過、沈殿、透析、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、免疫吸着親和性クロマトグラフィー、逆相HPLC、ゲル浸透HPLC)など、等電性フォーカス及びこれの様々な変化又は複合方法を含むが、これに限定されない。一方、本発明にて組換え菌株の破砕物からアルロースエピマー化酵素変異体を分離する段階は、好ましくは、ペプチドタグを利用したアフィニティー・クロマトグラフィー(affinity chromatography)によって実行されることができる。前記ペプチドタグとしては、HAタグ、FLAGタグ、Hisタグ、BCCP(biotin carboxyl carrier protein)、c-mycタグ、V5タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)又はMBP(maltose binding protein)などのように公知の様々なタグを利用することができ、このうち、Hisタグであることが好ましい。His-タグタンパク質は、Ni-NTA(ニッケル-ニトリルトリ酢酸)樹脂のカラム上に特異的にトラップされ、EDTA又はイミダゾールにより溶出されることができる。
【0031】
(空白)
【0032】
本発明のもう一つの側面は、果糖からアルロースを製造する方法又は果糖からアルロースを製造するために必要なさまざまな要素に関するものである。前記果糖からアルロースを製造するために必要な様々な要素としては、アルロース生産用組成物がある。
【0033】
前記アルロース生産用組成物の一例は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体を含む。また、前記アルロース生産用組成物の他の例は、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドに形質転換されるか、配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株、前記組換え菌株の培養物、又は前記組換え菌株の破砕物を含む。この時、前記アルロース生産用組成物は、好ましくは、マンガンイオン、ニッケルイオン及びコバルトイオンからなる群から選択される1種以上をさらに含むことができ、より好ましくは、ニッケルイオン又はコバルトイオンをさらに含むことができる。本発明による新規なアルロースエピマー化酵素変異体は、金属イオンにより活性化が調節される金属酵素(metalloenzyme)特性を示し、前記酵素による反応をニッケルイオン又はコバルトイオンのような特定の金属イオンの存在下で行うことにより、アルロースの生産収率を増加させることができる。
【0034】
また、前記果糖からアルロースを製造する方法の一例は、果糖を配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチド又は配列番号5のアミノ酸配列からなるアルロースエピマー化酵素変異体をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換された組換え菌株、前記組換え菌株の培養物、前記組換え菌株の破砕物又はこれらのいずれか一つ以上を含む組成物と反応させる段階を含む。また、前記果糖からアルロースを製造する方法は、金属イオンを添加する段階をさらに含むことができ、金属イオンの種類は、前述した通りである。一例として、前記金属イオンは、基質である果糖に添加されるか、酵素変異体と果糖の混合物に添加されることができる。また、他の例として、前記金属イオンは、酵素変異体が固定化された担体に添加されるか(果糖添加前)、前記酵素変異体が固定化された担体と果糖の混合物に添加されるか(果糖添加後)、若しくは果糖添加時に果糖と混合物の形態で添加されることができる。組み換え菌株を用いる場合、前記金属イオンが培養物に添加されるか、金属イオンが添加された培養培地で培養することもできる。また、前記果糖からアルロースを製造する方法において、前記アルロースエピマー化酵素変異体又は前記組換え菌株は、好ましくは、担体に固定化される。前記担体は、固定された酵素の活性が長期間維持することができる環境を造成することができるものであって、酵素固定化の用途で使用することができる公知のすべての担体から選択することができる。例えば、前記担体としてアルギン酸ナトリウム(soduim alginate)を用いることができる。アルギン酸ナトリウムは、海藻の細胞壁に豊富に存在する天然コロイド性多糖類であり、マンヌロン酸(β-D-mannuronic acid)とグルロン酸(α-L-gluronic acid)が組成されており、含有量の面では、ランダムにベータ-1,4結合をなして形成されており、菌株又は酵素を安定的に固定することができ、アルロース収率の面で有利であることができる。一例として、アルロースの収率をより向上させるために1.5~4.0%(w/v)濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液)、好ましくは約2.5%の(w/v)濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を組換え菌株の固定化に使用することができる。また、前記果糖からアルロースを製造する方法で反応温度は60~70℃、好ましくは60~67℃、酵素変異体の安定性及び最大活性を考慮したとき、より好ましくは62~65℃の範囲であり、反応pHは6.5~8、好ましくは6.5~7.5、より好ましくは6.5~7の範囲である。また、前記果糖からアルロースを製造する方法で果糖の濃度は、特に制限されないが、生産性ないし経済性を考慮したとき、全体の反応物を基準に1~75%(w/w)であることが好ましく、4~35%(w/w)であることがより好ましい。また、前記果糖からアルロースを製造する方法で使用される酵素変異体の濃度は、全体の反応物基準で0.001~0.1mg/ml、好ましくは0.01~0.1mg/ml、より好ましくは0.02~0.05mg/mlであることができる。また、遺伝子組換え菌株を用いて、果糖からアルロースを製造する場合、前記組換え菌株の宿主菌株は、食品学的に安全な菌株であることが好ましい。前記食品学的に安全な菌株は、一般的に安全と認められるGRAS(generally accepted as safe)級菌株を意味し、例えば、サッカロマイセス属菌株(Saccharomyces sp.)、バシラス属菌株(Bacillus sp.)、コリネバクテリウム属菌株(Corynebacterium sp.)などから選択されることができる。前記菌株は、飼料、医薬品及び食品などの分野で多様な用途を有する化学物質を生産する産業用微生物である。これらの菌株は、遺伝子操作及び大量培養に容易であったり、様々な工程条件で高い安定性を有する菌株である。さらに、これらの菌株は、他の細菌に比べて相対的に堅い細胞膜構造を保有しているので、高い糖濃度などによる浸透圧の影響下でも菌体が安定した状態で存在する生物学的特性を示す。前記GRAS(generally accepted as safe)級菌株の具体的な例としては、サッカロマイセスセレブシエ(Saccharomyces cerevisiae)、パチルスサブチルス(bacillus subtilis)、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)などがある。
【0035】
(空白)
【0036】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明の技術的特徴を明確に例示するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【0037】
(空白)
【実施例】
【0038】
実施例1:D-アルロース3-エピマー化酵素変換率及び熱安定性向上のためのアミノ酸置換位置探索
【0039】
フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を向上させるために、タンパク質構造予測に基づいてアミノ酸置換位置を選定した。前記フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素(又はD-プシコース3-エピマー化酵素)は、本願発明の出願人が以前に出願して登録を受けた大韓民国登録特許第10-1473918号(2014.12.11)に開示されている。前記フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素は、配列番号1のアミノ酸配列からなり、中性以下のpH条件で果糖のアルロースへの変換について最大活性を有し、短い時間高収率で果糖からアルロースの大量生産が可能であるが、汚染防止などのために高温条件で酵素反応を進行させる場合、活性が急激に減少する問題がある。本発明の発明者らは、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を向上させるために、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素のアミノ酸配列に基づいてホモロジーモデリング手法を用いてタンパク質構造を予測し、アミノ酸置換の位置を探索した。前記ホモロジーモデリングは、Robettaサーバーを利用して行われ、タンパク質構造予測及び解析は、Coot、PyMol、UCSF Chimeraなどのソフトウェアプログラムを用いて行われた。D-アルロース3-エピマー化酵素の3次元構造モデルの解析を通じて化学結合変化時の変換率及び熱安定性の向上と関連すると予想される計5個のアミノ酸残基の位置及び前記位置に置換されるアミノ酸残基を選定した。
図1は、本発明の発明者らがフラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を向上させるために、置換候補として選定した計5個のアミノ酸残基の位置を示すものである。
図1における「I21」は、配列番号1のアミノ酸配列のうち、21番目の位置に存在するイソロイシン(Ile)を示し、「A82」は、配列番号1のアミノ酸配列のうち、82番目の位置に存在するアラニン(Ala)を示し、「L133」は、配列番号1のアミノ酸配列のうち、133番目の位置に存在するロイシン(Leu)を示し、「G216」は、配列番号1のアミノ酸配列のうち、216番目の位置に存在するグリシン(Gly)を示し、「A276」は、配列番号1のアミノ酸配列のうち、276番目の位置に存在するアラニン(Ala)を示す。また、後述するように、配列番号1のアミノ酸配列のうち、21番目の位置に存在するイソロイシン(Ile)をシステイン(Cys)に置換し、配列番号2のアミノ酸配列からなる酵素変異体I21Cを作製し、配列番号1のアミノ酸配列のうち、82番目の位置に存在するアラニン(Ala)をアルギニン(Arg)に置換し、配列番号3のアミノ酸配列からなる酵素変異体A82Rを作製し、配列番号1のアミノ酸配列のうち、133番目の位置に存在するロイシン(Leu)をアスパラギン酸(Asp)に置換し、配列番号4のアミノ酸配列からなる酵素変異体L133Dを作製し、配列番号1のアミノ酸配列のうち、216番目の位置に存在するグリシン(Gly)をセリン(Ser)に置換して、配列番号5のアミノ酸配列からなる酵素変異体G216Sを作製し、配列番号1のアミノ酸配列のうち、276番目の位置に存在するアラニン(Ala)をアルギン酸(Arg)に置換して、配列番号6のアミノ酸配列からなる酵素変異体A276Rを作製した。
【0040】
(空白)
【0041】
実施例2:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素変異体の過発現のための組換えベクター及び組換え菌株の作製
【0042】
フラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素の野生型ポリヌクレオチドを基盤とするoverlap extension polymerase chain reaction方法を用いて、酵素変異体5種(I21C、A82R、L133D、G216S、A276R)のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を作製した。
【0043】
まず、フラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素変異体をコードする遺伝子を作製するために、下記表1に示すプライマーを用いてPCR反応を行った。具体的には、100μMのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)が添加された反応液に、表1のプライマーであるオリゴヌクレオチド1pM、テンプレート(鋳型)として利用されるフラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素の野生型ポリヌクレオチド(配列番号7)100ngを混合し、Thermocycler(TP600、TAKARA BIO Inc.、JAPAN)を用いて、pfu-X DNAポリメラーゼ混合物(Binoneer)1ユニットの存在下に25~30周期でPCR反応を行った。
【0044】
【0045】
プライマーの組み合わせを通じて変異体断片を増幅させた後、それぞれの対を鋳型にし、NdeIとXhoI制限酵素認識部位の配列が導入されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、overlap extention PCRを通じて最終的に酵素変異体5種(I21C、A82R、L133D、G216S、A276R)のアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を作製した。下記表2に制限酵素認識部位の配列を導入するために用いられたプライマーの塩基配列を示した。
【0046】
【0047】
配列番号8の塩基配列は、酵素変異体I21Cのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を示し、配列番号9の塩基配列は、酵素変異体A82Rのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を示し、配列番号10の塩基配列は酵素変異体L133Dのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を示し、配列番号11の塩基配列は、酵素変異体G216Sのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を示し、配列番号12の塩基配列は、酵素変異体A276Rのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を示す。配列番号8~12の塩基配列は、酵素変異体のアミノ酸配列に直接対応する塩基配列で構成されており、便宜上、制限酵素認識部位の配列は省略した。
【0048】
それから、作製されたポリヌクレオチド断片を制限酵素NdeIとXhoIを用いて、発現ベクターであるpET28a(Novagen)の同じ制限酵素部位に挿入して組換え発現ベクターの5種を作製した。また、熱衝撃(heat shock)方法(Sambrook and Russell:Molecular Cloning参照)を用い、大腸菌BL21(DE3)(invitrogen)に組換え発現ベクターを導入させて形質転換し、組換え大腸菌5種を作製した。作製した組換え大腸菌に60%グリセリン溶液を添加し、酵素発現のための培養を行う前に-70℃で凍結保存した。
【0049】
(空白)
【0050】
実施例3:フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来するD-アルロース3-エピマー化酵素変異体の発現及び精製
【0051】
下記表3の組成(培地1L基準)を有するタンパク質発現用培地150mlが収容された1L容量のフラスコに実施例2で作製した組換え大腸菌1mlを接種し、振とう培養機で32℃の温度条件及び140rpmの振とう条件を維持しながら、24hrの間培養した。培地に含まれた1%ラクトース(Lactose)でアルロースエピマー化酵素変異体の過発現を誘導した。
【0052】
【0053】
その後、過発現されたアルロースエピマー化酵素変異体を、以下のような方法で分離した。まず、組換え大腸菌の培養液を4100×g及び4℃の条件で約15分間遠心分離して上澄み液を除去し、組換え大腸菌の菌体を回収した。それから、回収された組換え大腸菌の菌体をlysis buffer(50mM第一リン酸カリウム、300mM塩化カリウム、5mMイミダゾール含有)に懸濁させた後、超音波破砕機(Sonicator)で処理して細胞を破砕した。次いで、細胞破砕液を15,814×g及び4℃の条件で約10分間遠心分離して細胞ペレットを除去し、上澄み液のみを回収した。その後、ヒスチジンタグ(His-tag)アフィニティークロマトグラフィカラム及び脱塩(desalting)カラムを用いて回収した上澄み液からアルロースエピマー化酵素変異体を含有した精製酵素液を分離した。
【0054】
(空白)
【0055】
実施例4:D-アルロース3-エピマー化酵素変異体の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を確認
【0056】
フラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素の野生型及び変異体の果糖のアルロースへの変換率及び熱安定性を確認するために、酵素を高温に一定時間の間露出させた後、果糖のアルロースへの変換活性が減少する程度を分析した。具体的には、実施例3で収得した精製酵素液(酵素濃度1mg/ml)を62℃の恒温水槽で0hr、1hr及び2hrの間保管して熱処理した。その後、4%(w/w)果糖及び1mM硫酸ニッケル(NiSO4)の金属イオンが含まれた50mM PIPES緩衝溶液(pH7.0)に熱処理された精製酵素液を酵素濃度が25ug/mlになるように添加し、振とう恒温水槽(VS-1205SW1、ビジョン科学)を用いて、70℃の温度条件及び120rpmの振とう条件で25分間反応させた。それから、反応生成液の温度を4℃に下げて反応を停止させ、16,600×g及び4℃の条件で遠心分離して上澄み液を回収した。その後、糖分析カラム(Benson、アメリカ)が取り付けられた高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(SP930D pump、ヨングリン機器製;MIDASオートサンプラ、Spark Holland社製)及び屈折率検出器(2414 refractive index detector、Waters社製)を用いて、上澄み液内のアルロース濃度及び果糖濃度を測定し、測定された結果から果糖のアルロースへの変換率を計算した後、変換率を酵素活性の指標として使用した。
【0057】
以下の表4にフラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素の野生型及び変異体を熱処理したときの熱処理条件別、果糖のアルロースへの変換率を示した。
【0058】
【0059】
前記表4に示すようにフラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素変異体のうち、I21C、A82R、L133Dは、フラボニフラクター・プラウティに由来するアルロースエピマー化酵素の野生型(Wild type)と比較したとき、熱処理の可否にかかわらず、果糖のアルロースへの変換活性がより低かった。また、アルロースエピマー化酵素変異体A276Rは、アルロースエピマー化酵素の野生型(Wild type)と比較したとき、熱処理をしていない場合には、果糖のアルロースへの変換活性が少し高かったが、熱処理によって果糖のアルロースへの変換活性が著しく減少した。その反面、アルロースエピマー化酵素変異体G216Sは、アルロースエピマー化酵素の野生型(Wild type)と比較したとき、熱処理と関係なしに果糖のアルロースへの変換活性がより高く、特に顕著に向上された熱安定性を示した。
【0060】
(空白)
【0061】
以上のように、本発明を前記の実施例を通じて説明したが、本発明が必ずしもこれのみに限定されるものではなく、本発明の範疇と思想を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能であることはもちろんである。したがって、本発明の保護範囲は、本発明に添付された特許請求の範囲に属するすべての実施形態を含むものと解釈されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】