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特表2022-517518妊婦用ベータ-クリプトキサンチンは、小児に利益をもたらす
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-09
(54)【発明の名称】妊婦用ベータ-クリプトキサンチンは、小児に利益をもたらす
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/155 20160101AFI20220302BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20220302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220302BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A23L33/155
A61K31/045
A61P43/00 101
A61P25/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534778
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(85)【翻訳文提出日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 SG2020050036
(87)【国際公開番号】W WO2020153908
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】10201900604T
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】509034605
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】チョン, メアリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】オン, チュン ナム
(72)【発明者】
【氏名】ライ, ジュン シ
(72)【発明者】
【氏名】リフキン-グラボイ, アン エリス
(72)【発明者】
【氏名】ブロークマン, ビリット
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD24
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA13
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZC01
(57)【要約】
妊婦に投与されたベータ-クリプトキサンチンは、多くの利益を有する。それは、不安を低減し、且つ妊婦がその妊娠中に不安を生じるリスクを減らすことができる。さらに、それは、妊婦の小児に様々な利益:高められた認知、高められた受容性言語技能、微細運動技能及び粗大運動技能をもたらすことができる。また、妊婦に投与されたリコピンは、小児の表出性言語を高めることができる。妊婦用栄養補助剤も本発明に含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児の認知、受容性言語能力、表出性言語能力、微細運動技能及び/又は粗大運動技能を向上させる方法であって、その妊娠中の母親に有効量のベータ-クリプトキサンチンをその妊娠中に投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記向上は、24カ月時に測定可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量のベータクリプトキサンチンを含む妊婦用組成物。
【請求項4】
不安関連の症状を経験している妊婦の気分を改善するか、又は妊婦が不安を経験するリスクを減らす方法であって、前記妊婦に有効量のベータ-クリプトキサンチンを投与するステップを含む方法。
【請求項5】
小児の表出性言語能力を向上させる方法であって、その妊娠中の母親に有効量のリコピンを投与するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年1月23日に出願されたシンガポール国内特許出願第10201900604T号明細書の出願日の利益を主張するものであり、その開示は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
[発明の概要]
本発明は、妊娠中の母親への、その小児への有益な効果のためのベータ-クリプトキサンチンの投与に関する。例えば、ベータ-クリプトキサンチンは、小児の認知スコア並びに微細運動技能及び粗大運動技能を高めた。本発明は、リコピンの出生前使用にも関し、これは、小児の表出性言語技能を高めた。
【0003】
[発明の背景]
ベータ-クリプトキサンチンは、母乳並びに一部の果物及び野菜中に存在する既知のカロテノイドであるが、栄養補給剤中に使用されることは多くない。
【0004】
国際公開第05/110122号パンフレット(DSM IP Assets,B.V.)は、個体におけるタンパク質合成の促進に使用するためのベータ-クリプトキサンチンの使用を開示している。任意選択により、この目的のため、他のカロテノイドが併用される場合がある。
【0005】
また、B-クリプトキサンチンによる骨形成の刺激に関連する若干の調査もある。
【0006】
一般的な抗酸化剤と認知の増強との間の関係の報告がある。しかしながら、ベータ-クリプトキサンチンが小児期の認知に及ぼす影響を扱ったものはない。小児の認知及び他の発達技能を増強するであろう栄養補助剤を妊娠中の母親に提供することは、望ましいであろう。
[発明の詳細な説明]
【0007】
本発明者らは、本発明により、妊娠中の母親の血漿中のベータ-クリプトキサンチンのレベルと、その小児の認知の複数の指標及び発達の指標との間に相関性があることを見出した。より高い母体のβ-クリプトキサンチンは、出生から24カ月後に測定される出生児のより高い認知スコア、より高い受容性言語スコア、微細運動スコア及び粗大運動スコアに正に且つ統計的に有意に関連していた。加えて、リコピンが小児の表出性言語技能を高めることが分かった。
【0008】
したがって、本発明の一態様は、小児の認知、受容性言語能力、微細運動技能及び/又は粗大運動技能を向上させる方法であって、その妊娠中の母親に有効量のベータ-クリプトキサンチンを母親の妊娠中に投与するステップを含む方法である。別の態様は、健常な小児の認知、受容性言語能力、微細運動技能及び/又は粗大運動技能を非治療的に向上させるための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンである。別の態様は、健常な小児の認知、受容性言語能力、微細運動技能及び/又は粗大運動技能を向上させるための妊婦用薬剤又は機能性食品の製造のためのベータ-クリプトキサンチンである。
【0009】
本発明の別の態様は、有効量のベータ-クリプトキサンチンを含む妊婦用組成物である。一部の実施形態では、ベータ-クリプトキサンチンは、ベータカロテン、ルテイン、ゼアキサンチン及びリコピンからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるカロテノイドと組み合わされる。
【0010】
本発明の別の実施形態は、妊娠中に投与される、ベータクリプトキサンチンと、鉄、葉酸、ビタミンB6及びB12などのビタミンB、カルシウム並びにビタミンDからなる群から選択される少なくとも1つのさらなる栄養補助剤とを含む妊婦用栄養補助剤である。
【0011】
[定義]
本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、以下の定義が適用される。
【0012】
「ベイリースケール」は、ベイリー乳幼児発達検査第3版(BSID-III)2006年を意味し、広く使用されている乳児の技能の包括的な検証評価である。これは、以下を含む、発達の側面を評価する様々な「スケール」を有する。
・認知スケール、これは、遊びの技能、情報処理(新規なものへの関心、習慣、記憶)及び問題解決を評価する。
・言語スケール、これは、言語及び身振りを含むコミュニケーション技能を評価するための受容性及び表出性言語の下位検査を含む。
・運動スケール、これは、微細運動の発達及び粗大運動の発達を評価する。
【0013】
「向上した」とは、小児がベイリースケールで到達するスコアが、母親の血漿中ベータ-クリプトキサンチン濃度がより低かった小児のスコアと比較してより高度に発達した技能を反映していることを意味する。
【0014】
「β-クリプトキサンチン」には、天然源由来又は合成により調製されたβ-クリプトキサンチンのいずれかのβ-クリプトキサンチンが含まれる。天然源由来のβ-クリプトキサンチン(より特定すると(全てE)β-クリプトキサンチン)は、飽和及び不飽和の脂肪酸とのβ-クリプトキサンチンエステル(主にラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リノール酸エステル)及び異性体(好ましくは7’、9’、11’及び13’β-クリプトキサンチン)を含有し得、これらも本発明における使用のために含まれる。好ましい態様において、合成により調製された(全てE)-β-クリプトキサンチンが本発明の目的のために使用される。
【0015】
ベイリー乳幼児発達検査、第3版(BSID-III)2006年を、24(±1)カ月の乳児に対して、自宅で乳児が敏活でありそうなときに行った。これは、1~42カ月齢の小児の発達を以下の領域:認知、受容性及び表出性の言語並びに微細及び粗大運動技能において評価する標準検査である。この検査は、小児の母語に応じて英語、中国語、マレー語又はタミル語で行った。
【0016】
本発明者らは、本発明により、β-クリプトキサンチンの濃度がより低い女性は、不安を有することが起こり得る傾向があることを見出した。したがって、本発明の一実施形態は、不安関連の症状を経験している妊婦の気分を改善するか、又は妊婦が不安を経験するリスクを減らす方法であって、妊婦に有効量のベータ-クリプトキサンチンを投与するステップを含む方法である。本発明の別の実施形態は、不安を感じることに関連する気分を改善するための、妊婦におけるベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の実施形態は、妊婦が不安を経験するリスクを減らすための機能性食品又は医薬剤の製造におけるベータクリプトキサンチンの使用である。
【0017】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のベータ-クリプトキサンチンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、認知におけるものである、方法である。本発明の別の実施形態は、小児の認知の向上のための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の認知の向上のための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるベータ-クリプトキサンチンの使用である。
【0018】
母親への出生前投与は、小児の思考、学習及び記憶する能力を支援することができる。加えて、その投与は、小児の認知発達を支援することができる。
【0019】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のベータ-クリプトキサンチンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、受容性言語におけるものである、方法である。受容性言語は、言語を理解する能力であり、単語、文章及び他の人が言うこと又は読まれるものの意味を理解する能力を含む。本発明の別の実施形態は、小児の受容性言語技能を向上させるための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の受容性言語を向上させるための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるベータ-クリプトキサンチンの使用である。
【0020】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のリコピンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、表出性言語におけるものである、方法である。本発明の別の実施形態は、小児の表出性言語技能を向上させるための妊婦用リコピンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の表出性言語を向上させるための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるリコピンの使用である。リコピンは、ベータ-クリプトキサンチンと併用で投与され得るか、又は単独で投与され得る。好ましくは、リコピンは、母親及び小児への追加の利益も発生するように、ベータ-クリプトキサンチンと併用で投与される。
【0021】
ベータ-クリプトキサンチン及び/又はリコピンの出生前投与は、小児の聞き取り及び理解の技能を支援することができ、小児の表出コミュニケーションを支援することができる。
【0022】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のベータ-クリプトキサンチンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、表出性言語におけるものである、方法である。表出性言語とは、意味をなすように且つ文法的に正確に考えを単語及び文にする能力を含む。本発明の別の実施形態は、小児の表出性言語技能を非治療的に向上させるための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の表出する言語を向上させるための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるベータ-クリプトキサンチンの使用である。
【0023】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のベータ-クリプトキサンチンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、小児の微細運動技能におけるものである、方法である。微細運動技能は、手首、手、指、足及び足指に起こる微小運動の協調に関連する。本発明の別の実施形態は、小児の微細運動技能の向上のための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の微細運動技能の向上のための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるベータ-クリプトキサンチンの使用である。
【0024】
ベータクリプトキサンチンの出生前投与は、小児の協調及び筋肉の微細運動の発達を支援することができる。
【0025】
したがって、本発明の別の実施形態は、小児の発達を向上させる方法であって、有効量のベータ-クリプトキサンチンをその小児の母親に出産前に投与するステップを含み、その向上は、粗大運動技能におけるものである、方法である。粗大運動技能は、腕、脚及び他の大きい体部位の運動及び協調に関連する。これは、走る、這う及び泳ぐなどの動作を含むであろう。本発明の別の実施形態は、小児の粗大運動技能の向上のための妊婦用ベータ-クリプトキサンチンの非治療的使用である。本発明の別の態様は、小児の粗大運動技能の向上のための妊婦用栄養補給剤又は薬剤の製造におけるベータ-クリプトキサンチンの使用である。
【0026】
ベータ-クリプトキサンチンの出生前投与は、小児の粗大運動技能の発達を支援することができ、小児のバランス、協調、体力、身体意識及び反応時間などの粗大運動技能の発達を支援することができる。
【0027】
[投与量]
本発明によれば、β-クリプトキサンチンは、体重約70kgのヒト成人について約50mg/日まで、より特定すると約100μg/日~約30mg/日、特に約1mg/日~約10mg/日の投与量で投与されるのが適している。好ましい実施形態では、ベータ-クリプトキサンチンは、少なくとも妊娠第二期から出産時まで毎日投与され、より好ましい実施形態では、投与は、第一期中に開始され、より一層好ましくは、投与は、妊娠する前に開始される。好ましい実施形態では、投与は、授乳中にわたって持続される。
【0028】
リコピンについて、投与量は、ベータ-クリプトキサンチンについて上記に概述したものと同じである。
【0029】
ベータ-クリプトキサンチン及びリコピンは、単一剤形で摂取され得るか、又は別々に投与され得る。本発明の別の実施形態は、ベータ-クリプトキサンチン及びリコピンを唯一の活性成分として含む組成物である。
【0030】
本発明の目的では、β-クリプトキサンチン及び/又はリコピンは、固体又は液体の、ガレヌス製剤、食品組成物、医薬品又は食品であり得る、経口投与のための組成物で提供されるのが適している。固体のガレヌス製剤の例には、活性成分を従来のガレヌス製剤の担体とともに含有する錠剤、カプセル剤(例えば、硬殻ゼラチン又は軟殻ゼラチンのカプセル剤)、丸剤、サシェ剤、散剤及び顆粒剤などがある。任意の従来の担体材料を使用することができる。担体材料は、経口投与に適した有機又は無機の不活性担体材料であり得る。好適な担体には、水、ゼラチン、アラビアガム、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク及び植物油などが含まれる。さらに、香味剤、防腐剤、安定化剤、乳化剤及び緩衝剤などの添加剤を医薬の調合の慣例に従って添加し得る。β-クリプトキサンチン及び/又はリコピンと併用投与するための追加の活性成分は、単一の組成物中でβ-クリプトキサンチン及び/若しくはリコピンと一緒に投与され得るか、又は個々の投与量単位で投与され得る。β-クリプトキサンチン及び/又はリコピンを含む食品組成物は、飲料、インスタント飲料又は栄養補助食品であり得る。
【0031】
以下の非限定的な実施例は、本発明をより詳細に説明するために提示される。
【0032】
[実施例]
[方法]
[対象]
本解析のためのデータは、健康転帰に関するシンガポールにおける成長(Growing Up in Singapore Towards healthy Outcomes)(GUSTO)研究 - シンガポールの母親-出生児の前向きコホート(34)によるものであった。GUSTO研究の詳細な説明は、Soh,et al 2014 Int.J Epidemiology 43(5):1401-9に発表されており、これは、参照により本明細書に援用される。簡単に説明すれば、妊娠第一期(<14週)の妊婦(≧18歳)を2009年6月から2010年9月にわたって国立大学病院(National University Hospital)(NUH)及びKK Women’s and Children’s Hospital(KKH)から募集した。研究に適格とするには、妊婦は、1)親としての民族的背景が均質である、中国系、マレー系若しくはインド系の民族のシンガポール国民又は永住者であること;2)この2つの病院で出産し、次の5年間シンガポールに居住する意思があること;及び3)出産時に妊娠組織を提供することに同意することを満たさなければならないものとした。化学療法、向精神薬を受けているか又は1型糖尿病と診断されている女性は、参加に不適格とした。GUSTO研究は、NUH及びKKHの治験審査委員会から倫理審査による承認を受け、全ての手順は、ヘルシンキ宣言に規定されているガイドラインに従って行われた。研究の募集時、参加者全員から書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0033】
ベースライン時に合計1247名の妊婦が参加した。本解析には、単生児出産をした妊婦(n=1237)を含め、その血漿カロテノイド濃度を解析し(n=701)、その出生児は、24カ月時に神経認知評価を終えた(n=361)。
【0034】
[母体の血漿カロテノイド濃度]
非絶食時の血液サンプルを、出産時に静脈穿刺法を使用して母親から採取した。血液サンプルを4時間以内に処理し、-80℃で保管し、解析前に解凍した。超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)法を使用して個々のカロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、リコピン及びゼアキサンチン)の血漿濃度を決定し、フォトダイオードアレイ検出を使用して定量化した。方法の精度を、プールし、スパイクした血漿サンプルを使用して検証し、その結果は、過去に公表されたものと類似しており、その日内アッセイ及び日間アッセイのRSD(n=6)は、概して、それぞれ<10%及び<15%である(Lee et al 2009 J.Chromatog.A 1216(15):3131-7)。
【0035】
超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)法を使用して、レチノール及び個々のカロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、リコピン及びゼアキサンチン)の血漿濃度を決定した。UPLCは、過去に確立されたHPLC法の特定の変型であるが(Lee BL,et al J Chromatogr A.2009;1216(15):3131-7)、粒径2.6μm未満を用いるカラムを使用して、より良好な分離及びより迅速な解析を可能にする。
【0036】
UPLC法は、以下のとおりである。アンバー微量遠心管内において、血漿の30μLアリコートを等体積のEB溶液(エタノール-tert-ブタノール、4:1、v/v)及びI.S.(エキネノン、0.4mg/L)でタンパク質除去した。次いで、これをn-ヘキサン100μLで2分間抽出した。遠心分離(15000g/1分)した後、上清160μLを別のアンバー微量遠心管に移し、窒素流下で乾燥させた。乾燥した残渣をEB溶液60μL中で再構成し、5μLをKinetex C18コアシェル(2.6μm、100mm×4.6mm ID;Phenomenex)に注入した。勾配分離に使用した4つの移動相溶液は、A、純アセトニトリル;B、純メタノール;及びC、エタノールとtert-ブタノールとの混合物(8:2、v/v)及びD、純水であった。ウォーターズ(Waters)Acquity H-class UPLCシステムを使用して、勾配分離を0.6ml/分の一定流速で100%Dから開始し、0.1分以内に100%Bに、0.1~6分で10%A及び90%Bに、6~8分で40%A及び60%Cに、10~14分で100%Cに線形に変化させた。次いで、次のサンプル注入前にカラムを水(100%D)で5分間再平衡化した。
【0037】
[乳児の認知転帰]
ベイリー乳幼児発達検査、第3版(BSID-III)2006年を、24(±1)カ月の乳児に対して、自宅で乳児が敏活でありそうなときに行った。これは、1~42カ月齢の小児の発達を以下の領域:認知、受容性及び表出性の言語並びに微細及び粗大運動技能において評価する標準検査である。この検査は、小児の母語に応じて英語、中国語、マレー語又はタミル語で行った。
【0038】
実施及びスコア付けは、マニュアルに従い、KKHの主席心理学者により訓練された調査コーディネーターが行った。この集団には、年齢別の基準が利用不可であったため、検査の生スコアを使用した。
【0039】
[共変量]
母体年齢並びに自己申告による民族及び達成した最終教育歴に関する情報を参加者募集来院中(<妊娠14週)に収集した。妊娠26~28週の来診時、出産前の精神健康状態を、エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale)(EPDS)(Cox et al 1987 The British J.Psychiatry:J Mental Sci 150:782-6)及び状態-特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory)(STAI)(Spielberger.State-trait Anxiety Inventory:A comprehensive Bibliography:Consulting Psychologists Press,1984)を用いて評価した。母体の妊娠前のBMIは、自己申告による妊娠前の体重及び妊娠26~28週の来診時に身長計(SECAモデル213)で測定した身長に基づき、体重を身長の二乗で除したもの(kg/m)として計算した。母体の出産歴、乳児の在胎齢(第一期での胎齢測定超音波スキャンにより決定)及び出生時体重(出産後72時間以内に助産師が測定)を施設分娩記録から取得した。母親の母乳による育児の実行については、出生後の来院時、訓練を受けた面接者が聞き取り、いずれの母乳による育児の期間も、以下:母乳による育児をしていない、<1カ月、1~<3カ月、3~<6カ月、6~<12カ月及び≧12カ月のように分類した。
【0040】
[統計的解析]
母体の個々のカロテノイドの血漿濃度を、419組の母親-出生児について、認知検査のデータとともに母体及び乳児の特性によって集計した。データが正規分布していなかったため、群間の濃度の差を、ノンパラメトリック解析 - ウィルコクソン順位和検定及びクラスカル・ウォリス検定を使用して比較した。クラスカル・ウォリス検定が有意であった場合、異なっていた群を同定するために、ボンフェローニ事後解析を行った。
【0041】
個々の母体の血漿カロテノイドの値を対数変換し、次いで理解をさらに容易にするために標準偏差スコア(SDS)に換算した。BSID-IIIの生スコアも、認知検査及び領域別スケールにわたる比較を容易にするためにSDSに変換した。
【0042】
各母体の血漿カロテノイドと小児の各BSID-IIIスケールとの関連を、線形回帰を使用して調査した。幾つかの統計モデルを使用した:モデル1 - 認知検査時の乳児の正確な年齢について補正した基本モデル;モデル2 - 母体年齢、民族、教育歴、妊娠前のBMI、出産前うつ病及び不安のレベル(潜在的交絡因子)について追加補正。本発明者らは、モデル2を主要なモデルと考えた。乳児の在胎齢、出生時体重及び母乳による育児期間についてさらなる補正を行い、見出された何らかの関連がこれらの因子によって作用していたかどうかを調査した(モデル3)。
【0043】
共変量の欠測データを、連鎖方程式による多重代入法(20回)を使用して、以下の交絡変数:n=3 母体の教育歴、n=7 EPDS、n=21 STAI、n=40 母体の妊娠前のBMI、n=5 乳児の出生時体重及びn=10 母乳による育児期間について補完した。すべての解析は、ステータ(Stata)バージョン14(StataCorp LP,College Station,TX,USA)を使用して行った。多重検定を説明するために、P<0.01を統計的に有意とみなした。
【0044】
[結果]
[母親-出生児の組の特性]
マレー系民族の妊婦は、α-カロテン及びルテインの濃度がより低い傾向にある一方、インド系民族の女性は、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン及びリコピンの濃度がより低い傾向が大きかった。α-カロテン、β-カロテン及びルテインの濃度がより低い人は、教育レベルの達成度が低い傾向にあり、より肥満になりやすく、うつ病及び不安になることが起こりやすく、母乳による育児の期間が短い傾向にもあった。加えて、α-カロテンの濃度がより低い女性は、より若年である傾向にあり;β-クリプトキサンチンの濃度がより低い女性は、不安を有することが起こり得る傾向にあり;ゼアキサンチンの濃度がより低い女性は、より年齢が高い傾向にあり、教育レベルの達成度が高かった。他方では、リコピンの濃度がより低い妊婦は、うつ病になることが起こり得、初産であり、且つ1~3カ月間母乳による育児をした傾向にあった。
【0045】
[母体の血漿カロテノイド及び24カ月の乳児のBSID-IIIの結果]
母体の血漿カロテノイド濃度と、24カ月の乳児のBSID-IIIスケールの各々のスコアとの関係を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
より高い母体のβ-カロテン濃度(対数変換した濃度のSDの増分又は0.841mg/Lによる)は、重要な交絡因子について補正した後(モデル2)、0.16SD(95%CI:0.04、0.28)だけ高い認知スコアと関連していた。この関連は、母乳による育児期間、乳児の在胎齢及び出生時体重について補正した後(モデル3)に弱くなった。ここでは、段階的な補正において、母乳による育児期間は、関連を弱める主な因子であると認められた。対照的に、母体のβ-カロテン濃度がより高いことと、受容性及び表出性の言語並びに微細及び粗大運動におけるより高いスコアとの間の有意な関連は、交絡因子について補正した後に弱くなった。
【0048】
加えて、交絡因子について補正した後、より高い母体のβ-クリプトキサンチン(対数変換した濃度のSDの増分又は0.675mg/Lによる)は、0.18SD(95%CI:0.08、0.28)だけ高い認知スコア、0.17SD(95%CI:0.07、0.27)だけ高い受容性言語スコア、0.16SD(95%CI:0.06、0.26)だけ高い微細運動スコア及び0.16SD(95%CI:0.06、0.27)だけ高い粗大運動スコア(モデル2)と関連していた。これらの関連は、潜在的媒介因子について補正した後(モデル3)にも統計的に有意なままであった。しかしながら、母体のβ-クリプトキサンチンと表出性言語スコアとの間の関係は、交絡因子について補正した後に弱くなった。
【0049】
交絡因子について補正した後、より高い母体のリコピン(対数変換した濃度のSDの増分又は0.522mg/Lによる)は、0.15SD(95%CI:0.05、0.25)だけ高い表出性言語のスコアと関連していることが認められ、その関係は、潜在的媒介因子について補正した後にも統計的に有意なままであった。母体のリコピンと認知スコアとの間の関係は、交絡因子について補正した後に弱くなった。
【0050】
[まとめ]
より高い母体のβ-クリプトキサンチン濃度は、交絡因子について補正した後に全てのBSID-IIIスケールと有意な関連(表出性言語について有意性の傾向)が認められたため、24カ月の乳児の認知発達がより良好であることと最も一貫して関連していた。
1.リコピンについての所見
・より高い母体のリコピン濃度は、24カ月時点の表出性言語の成績がより良好であることと関連していたが、受容性言語とは関連していなかった。
2.強み
・母体のカロテノイドと小児の認知発達との間の関連を調査する初の研究。
・本発明者らは、ビタミンA又はレチノールより、特定のカロテノイドがむしろ初期の神経認知の発達に重要な役割を果たすこと;特に十分に研究がなされていない、神経発達におけるβ-クリプトキサンチンの潜在的な役割を示した。
【国際調査報告】