(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-09
(54)【発明の名称】微生物培養のための三次元基質
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220302BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20220302BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536114
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 IB2019061120
(87)【国際公開番号】W WO2020128965
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】102018000020242
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(71)【出願人】
【識別番号】521268509
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ・デッリ・ストゥーディ・ディ・パヴィア
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI PAVIA
(71)【出願人】
【識別番号】508014198
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ・デッリ・ストゥーディ・ディ・トリノ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI TORINO
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ペトリーニ,パオラ
(72)【発明者】
【氏名】ペネダ パチェコ,ダニエラ パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】スアレス バルガス,ナタリア アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ベルトリオ,フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィセンティン,ソーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィサイ,リヴィア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA03
4B029AA21
4B029BB02
4B029CC07
4B029EA16
4B065AA01X
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB18
4B065BB19
4B065BC46
(57)【要約】
本発明は、微生物培養および共培養のための構造的および組成的勾配を有する三次元基質およびその調製方法に関し、ここで、該三次元基質は、
- 第一区画(2)および第二区画(3)を含む拡散系(1)であって、ここで、該第一区画(2)が該第二区画(3)の上に置かれ、該第一および第二区画(2、3)が半透膜(4)により分離されている拡散系(1);
- 多糖、タンパク質および塩または多糖、タンパク質および塩を含む予形成ヒドロゲルを含む基材溶液;
- 塩、培地および蒸留水を含む架橋媒体
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一頂端側区画(2)および第二基底側区画(3)を含む、モジュール架橋勾配を有する微生物増殖基質を調製するための拡散系(1)であって、該第一区画(2)が該第二区画(3)の上に置かれ、多糖、タンパク質および塩を含む基材溶液が該第一頂端側区画(2)に含まれ、塩、培地および蒸留水を含む架橋媒体が該第二基底側区画(3)に含まれ、該第一および第二区画(2,3)が塩を透過させるが、多糖およびタンパク質は透過させない半透膜(4)により分離されている、拡散系(1)。
【請求項2】
半透膜がポリカーボネート、ポリスチロール、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリエチレンテレフタラートまたはポリアミド(ナイロン)から成る、請求項1の拡散系(1)。
【請求項3】
該基材溶液における該多糖が種々の分子量のアルギン酸ナトリウム、種々の分子量および種々のエステル化およびアミド化度のペクチン、種々の分子量のヒアルロン酸、種々の分子量のゲラン、種々の分子量のデキストランから選択される、請求項1または2の拡散系(1)。
【請求項4】
該溶液が0.05~100Pa.s、または0.2~10Pa.sの粘度を有する、請求項1~3の何れかの拡散系(1)。
【請求項5】
該基材溶液中、該タンパク質がムチン、血清アルブミン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、コラーゲン、エラスチン、インスリン、トランスフェリンから選択される、請求項1~4の何れかの拡散系(1)。
【請求項6】
該基材溶液中、該塩が塩化ナトリウム、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二カリウム三水和物、塩化マグネシウム六水和物、硫酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀、硝酸アンモニウム、亜硝酸カルシウム、重硫酸カリウム、硫酸カリウム、重硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウムおよび/または硫酸銅(I)から選択される、請求項1~5の何れかの拡散系(1)。
【請求項7】
該基材溶液中、該塩が酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ヒドロキシアパタイト、炭酸ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸オクタカルシウム、硝酸カリウム、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、硝酸チタン、硝酸鉄(III)、硝酸銅、硝酸ガリウム、亜硝酸カルシウム、硫酸アルミニウム、スルホ酢酸アルミニウム、硫酸亜鉛、テトラアンミン銅(II)スルファート、硫酸銅、硫酸鉄(III)水和物、硫酸鉄、硫酸カルシウムおよび/または硫酸マグネシウムから選択される、請求項1~6の何れかの拡散系(1)。
【請求項8】
多糖、タンパク質および塩を含む予形成ヒドロゲルが基材溶液の代わりに第一頂端側区画(2)に挿入される、請求項1~7の何れかの拡散系(1)。
【請求項9】
微生物培養のための三次元基質を製造する方法であって、
- 第一区画(2)および第二区画(3)を含む拡散系(1)であって、ここで、該第一区画(2)が該第二区画(3)の上に置かれ、該第一および第二区画(2、3)が塩を透過させるが、多糖およびタンパク質は透過させない半透膜(4)により分離されている拡散系(1)を提供し;
- 該第一区画(2)に基材溶液または多糖、タンパク質および塩を含む予形成ヒドロゲルを充填し;
- 該第二区画(3)に塩、培地および蒸留水を含む架橋媒体を充填し;
- 塩を第二基底側区画(3)から半透膜(4)をとおって第一頂端側区画に拡散させ、かつ架橋させるのに十分な時間インキュベートする
ことを含む、方法。
【請求項10】
該基材溶液がアルギネートにより代表される多糖およびムチンにより代表されるタンパク質を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
該架橋媒体がグルコン酸カルシウムにより代表される塩を含む、請求項9または10の方法。
【請求項12】
該架橋媒体がミューラー・ヒントンおよびルリア・ベルターニから選択される培養培地を含む、請求項9~11の何れかの方法。
【請求項13】
該インキュベーションが2分間~20時間の時間、4~25℃の温度で継続され、好ましくは20時間、4℃で継続される、請求項9~12の何れかの方法。
【請求項14】
請求項13の方法により得られる、モジュール架橋、ガス濃度および組成勾配により特徴づけられる、純粋培養または共培養において微生物を増殖するための三次元基質。
【請求項15】
請求項9~14の何れかの方法により得た三次元基質の使用を含む、微生物培養物を培養する方法。
【請求項16】
該微生物培養物が種々の株を含む可能性のある細菌培養である、請求項15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養および共培養のための三次元勾配基質ならびに基質および同基質で勾配を同時に調製する方法に関する。
【0002】
ある実施態様において、本発明は、微生物培養および共培養のための三次元基質ならびにその調製方法に関し、ここで、該三次元基質は、
- 第一区画(2)および第二区画(3)を含む拡散系(1)であって、ここで、該第一区画(2)が該第二区画(3)の上に置かれ、該第一および第二区画(2、3)が半透膜(4)により分離されている拡散系(1);
- 多糖、タンパク質および塩または多糖、タンパク質および塩を含む予形成ヒドロゲルを含む基材溶液;
- 塩、培地および蒸留水を含む架橋媒体
を含む。
【背景技術】
【0003】
背景技術
現在、細菌培養物は一般に寒天で得られ、それに付随する制限がある。数ある中で、軟寒天ゲルは、その中への物質の拡散に加えて、ある程度の細菌可動性を可能とすることは注目に価する。しかしながら、該ゲルは必然的に硬寒天基材(1.5~2.0%w/v)上に置かれ、該基材により制限されるため、三次元移動は部分的に限られる。
【0004】
さらに、ハイスループットスクリーニングのための細胞培養プレートまたは多ウェルプレートなどの高強度支持体への軟寒天ゲルの注加および結果解釈は、幾分かの手技および複雑な構造を必要とし、そうしてスクリーニング能を制限し、汚染のリスクを高める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粘液で見られる条件および生理病理学的培養条件両者を模倣できる、微生物培養および共培養のための別の方法の必要性が強く感じられている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の目的
本発明の最初の目的を形成するのは、細菌および/または微生物培養および共培養の研究に適合させた三次元基質である。
【0007】
第二の目的において、本発明は、三次元基質およびその中の勾配を同時に調製する方法を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【0009】
【
図2】ヒト血清アルブミンを加えた本発明の三次元勾配基質の流動学的性質。
【0010】
【
図3】本発明の実施態様による三次元基質の粘弾性(viscoelastic)の変化の可能性を示す(ムチン-基質)。
【0011】
【
図4】活性成分およびナノ粒子の拡散に対するバリア効果。
【0012】
【
図5】A)内部架橋勾配を表すためにアリザリンレッドで染色した本発明の三次元基質;B)種々の架橋時間により制御した粘弾性の変動。
【0013】
【
図6】本発明の三次元基質で評価した緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の培養可能性(CFU/mL)をプランクトン培養と同等の生存能で示す。
【0014】
【
図7】本発明の三次元基質で評価した大腸菌(Escherichia coli)の培養可能性(CFU/mL)をプランクトン培養と同等の生存能で示す。
【0015】
【
図8】慢性同時感染(実施例7の結果)の場合に類似し、液体(プランクトン)培地の懸濁液の場合と異なり、数細菌株の同時存在を再現する能力を示す。
【0016】
【
図9】本発明の基質の酸素分圧プロファイルを制御する可能性を示す。
【0017】
【
図10】プロファイルの修飾により、細菌がどのように酸素勾配の変化に対応できるかを示す(実施例9の結果)。
【0018】
【
図11】慢性感染での観察に類似する集合体の存在を示す(実施例10の結果、バーは10μmに対応)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な記載
第一の目的において、本発明は三次元基質を記載する。
【0020】
次の記載において、用語「基質」について、基質の例を記載する。
【0021】
本発明の三次元基質は、拡散過程により種々の架橋剤を用いてゲルを形成し得る、複数成分の混合物を含む。該拡散過程は、勾配の形成過程を制御する。
【0022】
本発明者らは、本基質の流動学的性質を、架橋パラメータを変化させることにより、正確に修飾し得ることを、驚くべきことに示した。
【0023】
「基質」は、微生物微小環境における栄養素および分子の典型的拡散を模倣および再現をするための架橋勾配を形成する2区画系(2架橋点間の距離で形成)である、拡散系を含む。
【0024】
図1に示すように、該拡散系1は、第一区画2(頂端側とも称する)および第二区画3(基底側とも称する)を含む。本発明の好ましい実施態様において、該第一区画2は該第二区画3の上に置かれる。該第一および第二区画は、半透膜4により分離されている。本発明の目的において、該半透膜4は塩を透過させるが、多糖およびタンパク質を透過させない。例えば、この膜はアルギネートおよび/またはムチン溶液を透過させない。好ましい態様において、該半透膜4は、例えば、ポリカーボネート、ポリスチロール、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリエチレンテレフタラートまたはポリアミド(ナイロン)などと称される材料で形成される。
【0025】
好ましい実施態様において、該拡散系1はデザインソフトウェアによりデザインされ、三次元印刷により製造されるか、あるいは、ラピッドプロトタイピング、増減法で加工され、射出成形で製造される。
【0026】
基材溶液とされる溶液は、該第一頂端側区画2に堆積させる。本発明の目的で、該基材溶液は、多糖、タンパク質および塩を含む。ある実施態様において、該基材溶液は、0.05~100Pa.s、好ましくは0.2~10Pa.sの粘度を有する。
【0027】
別の実施態様において、多糖、タンパク質および塩を含む予形成ゲルを、溶液の代わりに第一頂端側区画2に導入し得る。
【0028】
好ましい態様において、基材溶液の多糖は、種々の分子量のアルギン酸ナトリウム、種々の分子量ならびに種々のエステル化およびアミド化度のペクチン、種々の分子量のヒアルロン酸、種々の分子量のゲラン、種々の分子量のデキストランから選択される。
【0029】
特に好ましい態様において、基材溶液は、多糖としてアルギネートを含む。
【0030】
アルギネートは、約0.2~8%、好ましくは約5%(w/v)の量で存在する。
【0031】
好ましい態様において、基材溶液のタンパク質は、ムチン、血清アルブミン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、コラーゲン、エラスチン、インスリン、トランスフェリンから選択される。
【0032】
特に好ましい態様において、基材溶液はムチンを含む。
【0033】
さらにより好ましくは、ムチンは約25mg/mL濃度である。
【0034】
さらにより好ましい態様において、基材溶液中、ムチンおよびアルギネートは次の比率(重量/重量)で含まれる。
【表1】
【0035】
好ましい態様において、基材溶液の塩は、塩化ナトリウム、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二カリウム三水和物、塩化マグネシウム六水和物、硫酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀、硝酸アンモニウム、亜硝酸カルシウム、重硫酸カリウム、硫酸カリウム、重硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウムおよび/または硫酸銅(I)から選択される。
【0036】
好ましい態様において、基材溶液の塩はNaClが代表的であり、これは、さらにより好ましい態様において、約0.007~9mg/mL、好ましくは約7mg/mLの量で存在する。
【0037】
第二基底側区画3に関して、架橋媒体をそこに堆積させる。本発明の目的で、このような架橋媒体は、塩、培地および蒸留水を含む。
【0038】
ある実施態様において、架橋媒体に含まれる塩は、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ヒドロキシアパタイト、炭酸ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸オクタカルシウム、硝酸カリウム、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、硝酸チタン、硝酸鉄(III)、硝酸銅、硝酸ガリウム、亜硝酸カルシウム、硫酸アルミニウム、スルホ酢酸アルミニウム、硫酸亜鉛、テトラアンミン銅(II)スルファート、硫酸銅、硫酸鉄(III)水和物、硫酸鉄、硫酸カルシウムおよび/または硫酸マグネシウムから選択される。
【0039】
好ましい態様において、塩はグルコン酸カルシウムが代表的であり、これは、さらにより好ましい態様において、約0.05~1.2%(w/v)、好ましくは約0.16%(w/v)の量で存在する。
【0040】
好ましい態様において、培養培地は、ミューラー・ヒントンおよびルリア・ベルターニ培養培地が代表的である。
【0041】
ある実施態様において、「基質」の成分を、本目的に適する細菌培地または水溶液に溶解する。
【0042】
当業者は、導入する溶液体積および該第一区画2の直径を変えることにより、「基質」の厚さを調節する方法を知っている。
【0043】
上記のとおり、他の実施態様において、溶液について記載したのと同じ成分を含む予形成ヒドロゲルが該第一頂端側区画(2)に導入される。
【0044】
第二の目的において、実際、本発明の「基質」を調製する方法が記載される。
【0045】
特に、このような方法は、
- 第一区画(2)および第二区画(3)を含む拡散系(1)であって、ここで、該第一区画(2)が該第二区画(3)の上に置かれ、該第一および第二区画(2、3)が塩を透過させるが、多糖およびタンパク質は透過させない半透膜(4)により分離されている拡散系(1)を提供し;
- 該第一区画(2)に基材溶液または多糖、タンパク質および塩を含む予形成ヒドロゲルを充填し;
- 該第二区画(3)に塩、培地および蒸留水を含む架橋媒体を充填し、
- インキュベートする
工程を含む。
【0046】
特に、基材溶液および架橋媒体は上記のものである。
【0047】
特に、インキュベーションは、塩が第二基底側区画(3)から半透膜(4)を通過して第一頂端側区画へ拡散するのを可能にし、かつ架橋を可能にするのに十分な時間継続する。時間はまた勾配の同時形成を制御する。
【0048】
例えば、インキュベーションは、4~25℃の温度で、2分間~20時間の時間にわたり継続され得る。
【0049】
好ましい態様において、インキュベーションは、4℃の温度で20時間継続される。
【0050】
好ましい態様において、「基質」を、塩化ナトリウム7.07mg/mL溶液中で調製した5%(w/v)アルギネート溶液および架橋剤として働くミューラー・ヒントン培養培地中で調製した0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを使用して、調製する。溶液が調製されたら、500μLのアルギネート溶液を拡散デバイスの上部チャンバーに導入し、一方6mLの0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを下部チャンバーに導入する。最後に、2区画拡散チャンバーを、約4℃の温度に20時間静置する。
【0051】
有利には、調製過程は、「基質」を、真核生物もしくは原核生物細胞、タンパク質または熱不安定性物質の充填で、高温またはそれらに不適合な試薬に曝さない。
【0052】
また有利には、純粋培養または共培養における微生物の増殖のために得られた本三次元基質は、モジュール架橋、ガス濃度および組成勾配により特徴づけられる。
【0053】
本発明者らは、「基質」へのヒト血清アルブミンの添加により、その粘弾性が増加することを驚くべきことに示した。この観察は、タンパク質が「基質」により変性されるだけでなく、「基質」が粘液中のアルブミンの生理学的相互作用も再現できるとの事実を示す。
【0054】
この観察により、「基質」は、粘液の模倣または再現に特に有利となる。実際、現在利用可能なムチンは、抽出および精製過程中、架橋部位を失うため、架橋できない。ムチンのゲル化は、微生物培養と不適合である強酸性条件下でのみ可能である。「基質」は、市販のムチンからヒドロゲルを調製することを可能とし、「ムチン-基質」として定義される。
【0055】
故に、「ムチン-基質」は、粘液バリアを介する活性成分の拡散の評価のために使用された。「基質」は、ムチン存在下および非存在下いずれでも活性成分の拡散に対するバリアとして作用することが示された。「基質」はまたナノ粒子の拡散に対するバリアとしても作用する。
【0056】
「基質」を製造するためのテクノロジーは、先に記載した過程の予形成ヒドロゲルへの適用を、故に特定の適用について興味ある粘弾性を提供することを可能とする勾配をもたらすことを可能とする。
【0057】
アンチバイオグラムにおける「基質」の使用は、単一株培養および複合培養(種々の属、種または株を含む微生物培養)両者の最小発育阻止濃度(MIC)計算のために、現行法で達成されるよりも信頼できる結果を得ることを可能とする。事実、「基質」は、集合体またはバイオフィルムを形成させるかまたは媒体の空間不均一性に関連する現象を再現するために粘液などの三次元マトリックスを模倣するのに適する状況で細菌を提供することを可能とする材料を製造する。これは、背景技術に見られる培地で一般に調整不可能である因子である、栄養素、酸素および水の勾配に加えて、「基質」の三次元構造により可能とする。
【0058】
ある実施態様において、「基質」は、それが製造された拡散系から分離され、支持体、例えば、ハイスループットスクリーニングのための細胞培養プレートまたは多ウェルプレートなどの高強度支持体内に設置され、短時間分析および簡易操作で、交叉汚染を回避して、有意義なデータを得ることが可能となる。
【0059】
ある実施態様において、「基質」を、所望のサイズの多ウェルプレートに分割できる。
【0060】
次の実施例は本発明の説明と解釈されるべきであり、それを限定せず、その範囲は添付する特許請求の範囲により定義される。
【実施例】
【0061】
実施例1:ヒト血清アルブミンを加えた「基質」
ヒト血清アルブミン(HSA)を架橋前にアルギネート溶液およびムチンアルギネート溶液に、二重シリンジ方法を使用して加えた。10μLの56.2mg/mL HSA溶液をアルギネートまたはムチン/アルギネート溶液と混合して、HSAの最終濃度を1.182mg/mLとした。こうして得たヒドロゲルの粘弾性を
図2に示す。
【0062】
実施例2:「ムチン-基質」の製造および特徴づけ
ムチンを表1に示す量で「基質」に加え、ここで、ムチン濃度は、最終製品に対して示している。
【表2】
市販のブタ胃ムチンをNaCl水溶液(16.33mg/mL)に25mg/mL濃度で溶解した。一夜、4℃で撹拌後、アルギネート粉末を、表1に示す所望の濃度が達成されるまで加え、完全に溶解するまで撹拌した。
ヒドロゲルを2区画拡散系を使用して形成させた。簡潔には、200μLのムチン/アルギネート溶液を拡散系(直径=1.5cm、厚さ≒120μm)の頂端側チャンバーに導入し、4℃で20時間静置して、下部チャンバーに充填したグルコン酸カルシウム溶液からのCa
2+イオンを拡散させた。「基質」の厚さを、導入した溶液体積および該第一区画2の直径を変えることにより、必要に応じて調節できる。
粘弾性を測定し、得られたデータを
図3に示す。
得られたデータは、架橋時間および架橋剤濃度ならびに多糖の濃度およびその分子量などの架橋度の制御により、ムチンベースのヒドロゲルの粘弾性を最適化する可能性が、本発明の系によりもたらされることを示す。アルギネート濃度を変えることによる性質変動の例を
図3に示す。
【0063】
実施例3:粘液バリアモデルなどの「基質」および「ムチン-基質2」(Mus
3SUB)
実施例2に記載する性質を有する「基質」およびMus
3SUBを、粘液バリアを模倣する能力について試験した。
金ナノ粒子に加えて、活性成分セファレキシンおよびエピルビシンを試験した。
金ナノ粒子は約25nm、セファレキシンは約3nm、およびエピルビシンは約4nmの立体障害を有する。
図4のチャートは、該分子が、透過性支持体、「基質」またはMus
3SUBからなるバリアを通過する能力を示す。
結果は、薬物がエピルビシン(pKa=8.01、logD7.4=0.03)の場合のようにムチンと強い相互作用を有するとき、薬物の移行が減速されることを示す。これと異なり、セファレキシン(pKa=3.26および7.23、logD7.4=-2.5)の場合のようにムチンとの相互作用が低い場合、移行は極めて速い。これは、相互作用バリアとして作用する能力を示しており、「基質」中のムチンが分子と相互作用する能力を維持することを示す。
相互作用が等しければ、立体障害効果を、金ナノ粒子(25nm)とセファレキシン(3nm)間での比較により示すことができ、より大きい金ナノ粒子が「基質」の存在により減速されることが認められる。
【0064】
実施例4:粘弾性および差次的勾配を有する「基質」の製造
予め架橋したヒドロゲルから製造した「基質」を「ダブル」をつけて示す。
いくつかの「基質」は、二重架橋構造を形成させるために、種々の架橋時間を用いて、2区画拡散系内で製造した。アルギン酸ナトリウムを、ゆっくりした磁気撹拌下、12時間を要して、NaCl溶液(16.33mg/mL)に2.8%(w/v)で溶解した。アルギネート溶液および蒸留水を二重シリンジ方法を使用して1:4比で混合した(工程1)。NaCl溶液(16.33mg/mL)中の炭酸カルシウム(7mg/mL)の懸濁液を5分間超音波処理(UP200S、超音波処理装置、Hielscher, Ultrasound Technology)に付し、3500rpmで1分間遠心分離し(Vortex IKA MS3 100-240 Vオービタルスターラー)、工程1で調製した溶液と1:5比でさらに混合した(工程2)。最後に、GDL溶液(10mg/mL)をNaCl(16.33mg/mL)中で調製し、工程2で調製した溶液と1:6比で混合した。約706μLの最終混合物を第一頂端側区画に挿入し、この混合物を一夜反応させた(「基質」-シングル)。一夜架橋後、0.2%グルコン酸カルシウムまたは塩化カルシウムを、40mMのアリザリンレッドに溶解し、6mLのこの溶液を第二基底側区画に導入し、勾配の生成を可能とするため、種々の時間、例えば5分間、30分間および60分間ならびに20時間反応させた(「基質」-ダブル)。アリザリンレッドは、明確に定義された染色プロトコールで細胞培養のカルシウム沈着の同定に使用する、有機レッドステインである。
図5Aに見られるとおり、グルコン酸カルシウムの拡散は「基質」内の、深紅または混合領域(それぞれサンプルの下部および上部)を有するカルシウム勾配の形成をもたらし、一方「基質」-シングルは透明であり、第二架橋20時間後の「基質」-ダブルは、一様な赤色(図では黒色)を示した。
「基質」の第二架橋により誘導した粘弾性変化も分析した(
図5B)。保存的および消散的両者のモジュールは第二架橋の時間と共に増加し、60分~20時間でより顕著であった。実際、保存的モジュールの最大値は、20時間の拡散に曝したサンプルで検出され、30分と60分の拡散で有意差は見られなかった。
【0065】
実施例5:「基質」は生理学的または病理学的状況を模倣する
細菌スターター培養を適切な培地に接種し、一夜培養した。スターター培養、この場合緑膿菌を接種するために、小量の凍結細菌培養物を、-80℃で保存した原凍結バイアルから機械的に取り出し、10mLのミューラー・ヒントン(MH)培地に懸濁し、次いで200rpmで撹拌しながら一夜37℃に維持した。
翌日、細菌数の推定を、λ=600nm(光学密度600;OD600)で分光光学的に実施した。吸光度試験用にサンプルを調製するために、懸濁液を、新鮮MH培地で1:10比で流しだした。同じ培地をブランクとして使用した。希釈サンプルの吸光度が測定されたら、細菌数を、OD600値での細菌数を示す較正曲線を使用して、推定した。この濃度を、次いで、非希釈培地濃度に変換した。
「基質」内での細菌生存能を試験するために、各「基質」を、24時間および48時間のインキュベーションで500、1000および5000細菌で感染させた。この目的で、1mLの懸濁液を初期スターター培養から採り、必要濃度で希釈した。次いで、「基質」を100μLの細菌懸濁液を導入することにより感染させ、静止条件下、37℃でインキュベートした。
CFUカウントを使用して、プランクトン条件(planktonic conditions)下で培養した細菌と比較して、「基質」内の細菌、すなわち、「基質」内に移動し、有効に増殖した細菌の存在を試験した。この場合、無菌培養がプランクトン条件下および「基質」の両者で実施された。
「基質」内部に移動し、増殖した細菌数を推定するために、「基質」上部およびウェル壁に見られる残留細菌を、新鮮MH培地での2回洗浄の手段により除去した。次いで、「基質」をpH7.4の50mM クエン酸ナトリウム溶液を使用して、溶解した。溶解後、懸濁液を、流しだし、CFUカウント後播種した。簡潔には、1.5mL遠心管に培地を導入し、次いで0.9%塩化ナトリウム水溶液、pH7.4で[10
-6~10
-10]倍希釈で希釈した。次いで10μlの希釈懸濁液をMH寒天プレートに均一に分配した。
MH寒天プレートを一夜インキュベーターに静置した。感染「基質」内の実際のコロニーを、希釈係数を乗ずることにより計算した。「基質」の場合、CFU/mLを計算するために、150μLの溶解剤が考慮された。結果を
図6Aに示す。
さらなる実験において、「基質」を、24時間後10
8細菌を得るのに必要な10
4細菌/mLで播種した。この時間の後、「基質」の上清を除去し、「基質」を新鮮培養培地で2回洗浄した。次いで、0.1 MIC、1 MICおよび10 MICである3濃度での100μLの抗生物質を加えた。抗生物質を、37℃で静的インキュベーション下、24時間作用させた。
有効な抗生物質作用時間後、生存可能CFUカウントを実施した。種々の対照を実施した:(I)各濃度の抗生物質でのプランクトン様細菌;(II)何ら処置しないプランクトン様細菌;(III)未処置感染「基質」;および(IV)「基質」形成のための溶液。抗生物質を用いて試験した感染「基質」について、後者の場合でさえ、溶解「基質」のCFUのみを考慮に入れた。得られたデータを
図6Bに示す。
【0066】
実施例6:大腸菌を実施例5で調製した「基質」(「基質」-シングル)に加える
細菌スターター培養を、ルリア・ベルターニ(LB)ブロスに接種し、一夜培養した。スターター培養、この場合大腸菌を接種するために、小量の凍結細菌培養物を、-80℃で保存した原冷凍バイアルから機械的に取り出し、10mLのルリア・ベルターニ(LB)ブロス培地に懸濁し、次いで200rpmで撹拌しながら一夜37℃に維持した。
翌日、細菌数の推定を、λ=600nm(光学密度600;OD600)で分光光学的に実施した。吸光度試験用にサンプルを調製するために、懸濁液を、1:10比で新鮮培地で流しだした。同じ培地をブランクとして使用した。希釈サンプルの吸光度が測定されたら、細菌数を、OD600値での細菌数を示す較正曲線を使用して、推定した。この濃度を、次いで、非希釈培地濃度に変換した。
「基質」内での細菌生存能を試験するために、各「基質」を、24時間のインキュベーションで500、1000および5000細菌で感染させた。この目的で、1mLの懸濁液を初期スターター培養から採り、必要濃度で希釈した。次いで、「基質」を100μLの細菌懸濁液を導入することにより感染させ、静止条件下、37℃でインキュベートした。
CFUカウントを使用して、プランクトン条件下で培養した細菌と比較して、「基質」内の細菌、すなわち、「基質」内に移動し、有効に増殖した細菌の存在を試験した。この場合、無菌培養がプランクトン条件下および「基質」の両者で実施された。
「基質」内部に移動し、増殖した細菌数を推定するために、「基質」上部およびウェル壁に見られる残留細菌を、新鮮培地での2回洗浄の手段により除去した。次いで、「基質」をpH7.4の50mM クエン酸ナトリウム溶液を使用して、溶解した。溶解後、懸濁液を、流しだし、CFUカウント後播種した。簡潔には、1.5mL遠心管に培地を導入し、次いで0.9%塩化ナトリウム水溶液、pH7.4で[10
-6~10
-10]倍希釈で希釈した。次いで、10μlの希釈懸濁液をLB寒天プレートに均一に分配した。
LB寒天プレートを一夜インキュベーターに静置した。感染「基質」内の実際のコロニーを、希釈係数を乗ずることにより計算した。「基質」の場合、CFU/mLを計算するために、150μLの溶解剤が考慮された。結果を
図7に示す。
種々の対照を実施した:(I)各濃度の抗生物質でのプランクトン様細菌;(II)感染なしの「基質」;および(III)「基質」形成のための溶液。
【0067】
実施例7:
本発明の「基質」を、塩化ナトリウム(7.07mg/mL)の溶液中に調製した5%(w/v)アルギネート溶液および架橋剤としてミューラー・ヒントン培養培地中に調製した0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを使用して、製造した。溶液が調製されたら、500μLのアルギネート溶液を拡散デバイスの上部チャンバーに入れ、一方6mLの0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを下部チャンバーに導入した。最後に、2区画拡散チャンバーを、4℃で一夜、20時間保管した。
並行して、細菌培養を接種し、一夜培養した。培養物を接種するために、小量の凍結細菌培養物を、10mLのミューラー・ヒントン培養培地に懸濁させた元のクライオバイアル(-80℃で保管)から機械的に取り、37℃および200rpmに維持した。一晩接種後、細菌数を、λ=600nm(OD600)で分光光学的に定量した。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC 25923および緑膿菌PAO1 ATCC 15692を基質およびプランクトン条件下1:1比で培養し、基質内での細菌増殖の評価のために37℃でインキュベートした。「基質」を100μL 103黄色ブドウ球菌および緑膿菌で1:1比で感染させた。24時間の培養後、150μLの50mMクエン酸三ナトリウム二水和物、pH7.4を、基質を溶解するために使用した。2分間の反応後、新規懸濁液を、0.9%NaCl溶液、pH7.4で[10
-6~10
-10]倍希釈で流しだした。次いで、10μLの希釈懸濁液をミューラー・ヒントン培地寒天プレートに均一に分配し、一夜、37℃でインキュベートした。次いで、コロニー形成単位(CFU)を希釈計数を考慮に入れて計算した。結果を
図8に示す。
培養培地(プランクトン様条件)の懸濁液で、黄色ブドウ球菌は緑膿菌の共存在下で培養できなかった。緑膿菌のみがカウントされ(黒色棒)、一方黄色ブドウ球菌は検出不可能である(
図8のND)。共培養が本発明の基質上で実施されたならば(灰色棒)、両細菌とも生存可能であり、コロニーを形成できる。この結果は、標準培養条件下ではなく、本発明の基質を使用した場合のみ、慢性感染における2種の細菌の感染の同時存在の状態を表し、競合的影響を試験する可能性を示す。
【0068】
実施例8:
本発明の「基質」を、塩化ナトリウム7.07mg/mL溶液中に調製した5%(w/v)アルギネート溶液および架橋剤として作用するミューラー・ヒントン培養培地中に調製した0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを使用して調製した。溶液が調製されたら、250または500μLのアルギネート溶液を拡散デバイスの上部チャンバーに導入し、一方6mLの0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを下部チャンバーに導入した。250μLのアルギネート溶液を使用して調製した「基質」を「薄い」と指定し、一方500μLを使用して調製したものを「厚い」と称する。最後に、2区画拡散チャンバーを、4℃で一夜、20時間保管した。
「基質」内のO
2張力を、Microsensor Multimeter S/N 8678(Unisense)と称する高感度ピコアンペア4チャネル増幅器に接続したClark型酸素センサー(OX-25; Unisense, Aarhus N, Denmark)を使用して測定した。O
2はセンサーチップを伴うシリコーン膜を介して環境に拡散し、金カソード表面で還元され、そうして電流を発生させる。ピコ電流計は、得られた還元電流をシグナルに変換する。酸素センサーからのシグナルは、ピコアンペアで調製される。それ故に、酸素センサーは、測定中ピコアンペア増幅器に接続される必要がある。次いで、Unisense SensorTraceソフトウェアが分圧(酸素分圧)からのシグナルを同等の酸素濃度(μmol/L)に自動的に変換する。
測定開始前、電極、すなわち対照アノードおよび保護的カソードを一夜分極させ、さらに空気-飽和水(陽性対照)および2%w/v亜ジチオン酸ナトリウム(陰性対照)で較正する。測定前、7.07mg/mL NaCl中2%(w/v)アガロースからなる低融点アガロースをペトリ皿に入れた。新たに調製した「基質」をアガロース層に乗せた。微小電極を電動マイクロマニピュレータ(MXU2; PyroScience, Aquisgrana, Germany)を使用して設置した。「基質」の中心で、その表面(0mm)から、その厚みをとおしてチップが構造に完全に浸透するまで測定を実施した。「基質」の側から拡散する酸素を避けるために、「基質」直径に対応する内径のOリングを用いた。最終深さと称するチップが到達した最大深さは、それぞれ、「薄い」および「厚い」「基質」で約2200μmおよび3200μmであった。連続的点は100μm離してとった。各点3回実施した。
結果を
図9に示す。
酸素分圧の連続的減少が、両タイプの「基質」の厚さを通して観察され、「薄い」および「厚い」「基質」でそれぞれ83.0μmol/Lおよび70.3μmol/Lの変動であった。酸素分圧の大きな減少が薄い「基質」で見られた。この結果は、同じ基質内部で酸素勾配が得られる可能性を示す。
【0069】
実施例9:
本発明の「基質」を、塩化ナトリウム7.07mg/mL溶液中に調製した5%(w/v)アルギネート溶液および架橋剤として作用するミューラー・ヒントン培養培地中に調製した0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを使用して調製した。溶液が調製されたら、500μLのアルギネート溶液を拡散デバイスの上部チャンバーに導入し、一方6mLの0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを下部チャンバーに導入した。最後に、2区画拡散チャンバーを、4℃で一夜、20時間保管した。
並行して、細菌培養を接種し、一夜培養した。培養物を接種するために、小量の凍結細菌培養物を10mLのミューラー・ヒントン培養培地に懸濁した元の冷凍バイアル(-80℃で保管)から機械的に取り、37℃および200rpmに維持した。一晩接種後、細菌数を、λ=600nm(OD600)で分光光学的に定量した。
100μL 緑膿菌PAO1 ATCC 15692を103に等しい細菌数で「基質」で培養し、12時間、24時間および48時間の感染後、酸素分圧を実施例2に記載のとおり測定した。
結果を
図10に示す。
「基質」内部の酸素分圧プロファイルはインキュベーション時間と共に減少し続け、48時間後、約300μmの深さで無酸素条件を達成した。培養時間が12時間から24時間など増えるに連れて、例えば、最浅層と最内層の酸素分圧差は徐々により顕著となった。この結果は、特定のタイプの細菌により適する培養条件の再構築における、細菌と「基質」のマトリックスの相乗性を示す。
【0070】
実施例10:
本発明の「基質」を、塩化ナトリウム7.07mg/mL溶液中に調製した5%(w/v)アルギネート溶液および架橋剤として作用するミューラー・ヒントン培養培地中に調製した0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを使用して調製した。溶液が調製されたら、500μLのアルギネート溶液を拡散デバイスの上部チャンバーに導入し、一方6mLの0.16%(w/v)グルコン酸カルシウムを下部チャンバーに導入した。最後に、2区画拡散チャンバーを、4℃で一夜、20時間保管した。
蛍光タンパク質を発現するために、緑膿菌PA01を、Cadoret et al. (2014)に示唆される過程によりプラスミドで形質転換した。簡潔には、エレクトロコンピテント緑膿菌および蛍光プラスミドpMF440のエレクトロポレーション。緑膿菌をルリア・ベルターニ(LB)における一夜培養からエレクトロポレーション緩衝液(スクロース溶液300mM)での一連の希釈工程の手段によりエレクトロポレーションに付した。一夜培養物をペレット化し、エレクトロポレーション緩衝液に再懸濁した。次いで、懸濁液を再遠心分離し、初期培養の半分の体積で新鮮エレクトロポレーション緩衝液に再懸濁した。この過程を体積が初期体積の0.01に減るまで繰り返した。これらの工程は、エレクトロポレーション過程で電弧を作り得るイオンが存在しなくても、増殖のための高栄養素環境を細菌に提供することを目的とする。プラスミドpMF440を、データベースAddgene(ID code: 62550)から大腸菌DH5αの細菌形質転換として獲得した。プラスミドDNA抽出のために、大腸菌を100μg/mLアンピシリン含有LBで培養した。プラスミドDNAを製造業者の指示によりQIAprep Spin Miniprep(Quiagen)キットを使用して抽出した。抽出後、DNAをMilliQ水で溶出し、必要となるまで-20℃で保管した。DNAを脱イオン水で抽出して、0,1~1μg/mLの濃度を達成した。80mLのコンピテント緑膿菌細胞懸濁液を10mLのDNA懸濁液と混合し、この懸濁液を、エレクトロポレーション前30分間氷上に置いた。
エレクトロポレーション過程を伝導性キュベットを使用するgene pulserエレクトロポレーション系で実施した。電子インパルスを5ミリ秒間、2.5kV、200Ω、25μFで与えた。このショック後、キュベット内容物を2mL最適グルコース富化ブロスを含むFalconチューブに移し、撹拌条件下、2時間、37℃でインキュベートした。2時間の回復後、懸濁液を300μg/mLカルベニシリンを含む選択的寒天プレートに入れた。形質転換細菌のさらなる培養および拡大を、カルベニシリン含有培地で実施した。
細菌培養を接種し、一夜培養した。培養物を接種するために、小量の凍結細菌材料を10mLのミューラー・ヒントン培養培地に懸濁した元のクライオバイアル(-80℃で保管)から機械的に取り、37℃および200rpmに維持した。一晩接種後、細菌数を、λ=600nm(OD600)で分光光度的に定量した。
緑を発現する103の緑膿菌PACC 1 ATCC 15692中100μLを、「基質」で培養し、37℃でインキュベートした。細菌組織を共焦点顕微鏡法により評価した。24時間のインキュベーション後、サンプルを共焦点レーザー顕微鏡下に観察した。587nmの波長および約50μmの最大深さを有する励起を用いて、走査を実施した。加増をLeicaにより提供されたLasXソフトウェアを使用して分析した。
結果を
図11に示す。
「基質」は、ヒト感染で観察されるものに類似する細菌集合体の形成を可能にし、一方、これら集合体は懸濁液培養条件下では得られない。細菌は、それら自体嚢胞性線維症痰および慢性創傷で先に観察されたものに類似する形態学およびサイズで多細胞集合体に組織化することにより、勾配に応答する。これらの細菌集合体は、酸素勾配と相関し、次いで、緑膿菌によるアルギネートの調製をもたらし、後者はこの病原体による慢性感染の根元と考えられる。
【0071】
上記から、本発明の利点は当業者にはすぐに明らかとなる。
【0072】
本発明の「基質」は、食品、環境および健康分野における適用に有益となるような特性を有する。「基質」はまた例として、セルロース、ポリエステル、インスリン、抗細菌、抗真菌、抗ウイルス、抗血栓剤、免疫修飾物質、抗癌剤、酵素阻害剤、殺虫剤、除草剤、殺菌剤(例えばアルカロイドおよびフラボノイド)ならびに動物および植物の成長を促進する物質などの、細菌に関連する製品の分野でも使用される。例として、「基質」は、細菌増殖、微生物群落間の相互作用および/または薬物およびマイクロ/ナノ粒子の抗菌能、汚染物質、プロバイオティクス、プロバイオティクス放出のモニタリングを目的とした分析に有益に使用される。さらに、該三次元基質は、有効な抗菌処置剤選択のスクリーニング法および新規薬物のサーチにおける初期工程に加えて、微弱重力および高放射レベルなどの宇宙環境への微生物適応を理解するための気圏研究に適する。例えばある食事療法および/またはプロバイオティクスならびに栄養補助食品としてのプロバイオティク担持剤がどのように細菌行動および微生物群落に影響するかを理解するため食品産業および、例えば微生物群落に関連する洗浄剤における汚染物質または殺生剤を評価するための環境科学、農業生産増加のための製品または環境汚染再浄化がさらなる適用である。他の例は、皮膚に影響する微生物を放出する化粧品などのような化粧品分野を含む。「基質」はまた水を処理し、汚染を低減するための微生物パッド内の微生物の微小環境を再現する方法としても利用され得る。三次元基質内の異なる微生物の同時培養は、バイオ燃料の製造および生体エネルギー変換においても利用できる。これらの適応のためには微生物の物理的および空間的構成を必要とするからである。最終的に、三次元基質は、微生物燃料細胞としても利用され得る。
【0073】
ここに記載する三次元基質の使用は直ちに理解可能であり、何ら技術的経験または特別な装置を必要としない。さらに、本発明の三次元基質は、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェルまたは384ウェルの多ウェルプレート、Transwell(登録商標)系およびマイクロ流体デバイスなどの一般に使用されるプラットフォームと互換的である。該三次元基質は絶対的競合コストであり、その製造は、粘弾性および勾配が研究目的に従って容易に修飾され得るし、スケール拡大可能であり、かつモジュール交換可能である。
【0074】
本発明の三次元基質を使用した実験は、高い再現性を備えた、現実的な結果を与えている。
【0075】
「基質」は、合成または寒天ベースの材料と比較して、以下に要約するさらなる利点を有する。
- 成分は細菌の炭素源であり、ある場合、細菌自体により生産され、例えば緑膿菌はアルギネートを分泌する。
- 「基質」は、現行法では実現されない三次元勾配構造で細菌を培養する。
- 「基質」で培養した微生物は、高強度支持体(例えばハイスループットスクリーニングプレート)に支持され、短時間の分析および最小限の手作業で、交叉汚染を回避しながら、有意義なデータを得ることが可能となる。
- 調製過程では、微生物(例えば細菌細胞)の封入または細胞の単層化と不適合である高温または試薬の使用を回避する。
- 調製過程は真核生物もしくは原核生物細胞、タンパク質または熱不安定性物質の添加と不適合である高温または試薬の使用を回避する。
- 「基質」の反応速度制御は、後に「基質」をサイズの異なる6~96または384ウェルの多ウェルプレートに有効に分割することを可能とする。
【0076】
先行技術で利用可能な寒天ゲル、特に0.2~0.8%w/v寒天ゲルは、3次元での微生物培養の可能性があるが、いくつかの限界がある。
- 勾配を示さず、2次元硬寒天プレート上での配置にとどまる;
- 軟寒天ゲルでは、細菌の可動性および物質のゲル内への拡散の可能性を示す。しかしながら、それらは硬寒天基材(1.5~2.0%w/v)上に置かれる。これにより、細胞は、基部レベルにより阻止されるため、三次元において部分的に移動し得る。
- 軟寒天ゲルの高強度支持体(ハイスループットスクリーニングプレート)への注加および結果解釈には手作業および複雑な構成を必要とし、汚染の可能性が増大し、費用効率と関連したスクリーニング能は、本発明の「基質」と比較して限定的である。
- 寒天は完全に溶解するために沸騰させ、接種および平板化の前まで液体形態を維持するために50~55℃に維持することが必要である。これらの温度は、多くの微生物に不利であり、培地の熱不安定性成分に影響し、培養構成(例えばタンパク質およびビタミン)を富化する必要があり得る。「基質」は熱不安定性成分または微生物(例えば細菌細胞)の封入または細胞単層上の層化に影響しない条件下での合成および重合を考慮した。
【0077】
最後に、天然起源の水可溶性ポリマーからなり、毒性溶媒を使用せず調製される本発明の三次元基質は、環境にやさしい装置である。
【国際調査報告】