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特表2022-517743アセチルサリチル酸誘導体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(54)【発明の名称】アセチルサリチル酸誘導体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 235/06 20060101AFI20220303BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 31/621 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220303BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C07C235/06 CSP
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P35/00
A61P3/10
A61P25/28
A61P9/00
A61P7/02
A61K31/621
A61K9/70 401
A61K9/02
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/12
A61K9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538409
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(85)【翻訳文提出日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 CN2019128617
(87)【国際公開番号】W WO2020135560
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】201811653721.7
(32)【優先日】2018-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521285137
【氏名又は名称】ジャン,ジン
【氏名又は名称原語表記】ZHANG, Jing
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA01
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA72
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC09
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC21
4C076CC27
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086DA17
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA32
4C086MA43
4C086MA56
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA07
4C086ZA08
4C086ZA15
4C086ZA36
4C086ZA54
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZB26
4C086ZC35
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB24
4H006BJ50
4H006BT16
4H006BT32
4H006BV22
(57)【要約】
アセチルサリチル酸誘導体およびその使用。本発明は化学製薬分野に関し、具体的には、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を開示した。
(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【化1】
ただし、RとRはそれぞれ独立に、H、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、または置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基を表し、或いはRとRはそれらが結合するNと共に4-、5-、6-若しくは7-員ヘテロ環を形成する;
は置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基を表す;
nは0~20の整数を表す。
【請求項2】
とRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルキル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基(例えばメチル基またはエチル基)を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルコキシ基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルコキシ基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルコキシ基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルコキシ基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルケニル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルケニル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルケニル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルケニル基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アリール基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アリール基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アリール基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アラルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アラルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アラルキル基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20シクロアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10シクロアルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cシクロアルキル基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
は置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、最も好ましくはメチル基を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
nは、好ましくは1~20の整数、より好ましくは2~15の整数、さらに好ましくは2~10、最も好ましくは1、2、3、4、5、6であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記置換された基における置換基は、重水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、(C-C30)アルキル基(好ましくは(C-C)アルキル基)、(C-C30)アルケニル基(好ましくは(C-C)アルケニル基)、(C-C30)アルコキシ基(好ましくは(C-C)アルコキシ基)、(C-C30)アルキルチオ基(好ましくは(C-C)アルキルチオ基)、(C-C30)シクロアルキル基(好ましくは(C-C)シクロアルキル基)、(C-C30)アリール基(好ましくは(C-C14)アリール基またはCアリール基またはフェニル基)またはアミノ基を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
式(1)で表される化合物は、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルアセトアミド、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N-エチルアセトアミド、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N-メチルアセトアミド、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-アセチルシクロエチルアミン、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-アセチルピペリジン、3-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルプロピオンアミド、4-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルブタンアミド、4-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルブタンアミド、5-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルバレルアミド、5-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルバレルアミド、からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶であって、前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、下記の2θ角:12.2°±0.2°、18.1°±0.2°、21.8°±0.2°、24.4°±0.2°、29.4°±0.2°、30.6°±0.2°、31.9°±0.2°、36.6°±0.2°に特徴的ピークを有する;或いは、前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、下記の2θ角:9.4°±0.2°、10.3°±0.2°、12.2°±0.2°、18.1°±0.2°、21.8°±0.2°、24.4°±0.2°、29.4°±0.2°、30.6°±0.2°、31.9°±0.2°、36.6°±0.2°に特徴的ピークを有することを特徴とする、結晶。
【請求項8】
前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、さらに下記の2θ角:20.4°±0.2°、25.8°±0.2°、27.0°±0.2°、28.4°±0.2°、28.8°±0.2°、32.9°±0.2°に特徴的ピークを有することを特徴とする、請求項7に記載の結晶。
【請求項9】
治療有効量の請求項1~6のいずれかに記載の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは請求項7または8に記載の結晶と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物であって、好ましくは、前記医薬組成物は、治療有効量の請求項1~6のいずれかに記載の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは請求項7または8に記載の結晶と、薬学的に許容される担体とからなる;或いは、前記医薬組成物の剤型は、経皮投与剤型または経粘膜投与剤型である;或いは、前記医薬組成物の剤型は、貼付剤、坐剤、点滴剤、擦剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、またはドライパウダー吸入剤からなる群から選ばれることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物は、アセチルサリチル酸の適応症の治療に適用される;好ましくは、前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患である;或いは、前記医薬組成物は、抗血小板凝集に適用される;或いは、前記医薬組成物は、心脳血管疾患の予防に適用されることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは請求項7または8に記載の結晶の、アセチルサリチル酸の適応症を治療するための薬物の調製における使用であって、好ましくは、前記薬物の剤型は、経皮投与剤型または経粘膜投与剤型である;或いは、前記薬物の剤型は、貼付剤、坐剤、点滴剤、擦剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、またはドライパウダー吸入剤からなる群から選ばれることを特徴とする、使用。
【請求項12】
前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患を含む;或いは、前記薬物は抗血小板凝集薬である;或いは、前記薬物は、心脳血管疾患の予防に適用される;或いは、前記使用の対象は霊長類動物(例えばサル又はヒト)、好ましくはヒトであることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学製薬分野に関し、特にアセチルサリチル酸誘導体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
早くも1853年、チャールズ・フレデリック・ジェラールはサリチル酸と無水酢酸でアセチルサリチル酸を合成したが、人々の注目を集めることはできなかった。1897年、ドイツの化学者のフェリックス・ホフマンはまた合成を行い、その父親の関節リウマチの治療に適用し、極めて優れた治療効果を出した。1899年、ドライサーにより臨床に紹介され、アスピリン(Aspirin)と名付けられた。アスピリンは100年以上も使用されてきて、医学史上の3つの薬物の傑作の1つになり、現在でも、世界中で最も広く使用されている解熱剤、鎮痛剤、抗炎症剤でありながら、他の薬物を比較・評価するための標準的な製剤でもある。それは、生体内で抗血栓作用を有し、血小板の凝集を抑制し、血栓症の発症リスクを低下させることができ、心血管疾患の患者に広く使用されていおり、特に冠状動脈性心疾患、脳梗塞、血栓性病変に対して治療効果が確実である。
【0003】
胃腸管症状は、アスピリンの最も一般的な有害反応でり、よく見られる症状は、吐き気、嘔吐、上腹部の不快感や痛みなどである。アスピリンの経口投与は、胃粘膜を直接刺激し、上腹部の不快感や吐き気、嘔吐を引き起こすことができ、その長期使用は、胃粘膜の損傷を引き起こし、胃潰瘍や胃出血を引き起こしやすい。したがって、アスピリンを長期経口投与する場合は、血液像の監視、便潜血検査、および必要な胃内視鏡検査を定期的にする必要がある。
【0004】
また、アスピリンの適用方法とスケジュールについて、多くの人は誤解を持っている。アスピリン腸溶錠の登場以来、該薬剤による胃粘膜の損傷という問題はしばしば無視されてきた。一部の医師は、アスピリンが長期投与されるが、投与される使用量が非常に少なく、胃粘膜に損傷を与える程には至らないと考えている。しかし実際には、問題はそれほど単純ではない。最終的に有害反応が引き起こされた患者は多かった。腸溶性アスピリンの薬理学的原理は、錠剤の外層における耐酸性コーティングにより、胃の酸性環境で崩壊させないが、腸管の弱アルカリ性の腸液に到達すると崩壊させて吸収させることで、アスピリンの効果を発揮させることである。しかし、人々の食生活と食事構造が完全に同じではないため、胃の内容物が弱アルカリ性である場合、アスピリン腸溶錠が崩壊しないことは保証できなくなる。そして、仮に完全に腸管で崩壊されて吸収されたとしても、腸管にも刺激的な効果を引き起こす。
【0005】
中国特許CN101484415Bでは、一種のアスピリンプロドラッグ(アセチルサリチル酸誘導体)が開示された。このようなプロドラッグは、経皮投与により生体内に入り、非ステロイド性抗炎症剤であるその原薬(アスピリン)の効能を発揮し、普通の非ステロイド性抗炎症剤の経口投与による胃腸管有害反応を回避することができる。このようなアスピリンプロドラッグ分子には、2つのエステル結合が含まれ、1つ(アセチル基)はサリチル酸自体から由来するもので、もう1つは変性基から由来するものである。前記アスピリンプロドラッグの2つのエステル基は両方とも、ヒト血漿中の酵素によって迅速に切断されることができる。したがって、前記アスピリンプロドラッグは、血漿中に2つの酵素的切断産物、即ち、対応するサリチル酸プロドラッグと、アセチルサリチル酸とがあり得る。上記の特許は、該プロドラッグが血液に入った後に、サリチル酸誘導体(即ちアセチル基が脱離した化合物)ではなく、親薬物であるアセチルサリチル酸に戻ることができると主張したからといって、実際に適用する過程において、事実はそうではない。したがって、このような化合物は、その使用に大きな制限がある。
【0006】
したがって、当技術分野において、既存の化合物の制限を克服するように、アセチルサリチル酸の新規なプロドラッグを見つけることは切望されている。
【発明の概要】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の一つは、式1で表される化合物を提供する。
【化1】
ただし、RとRはそれぞれ独立に、H、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、または置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基を表し、或いはRとRはそれらが結合するNと共に4-、5-、6-若しくは7-員ヘテロ環を形成する;
は置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基を表す;
nは0~20の整数を表す。
【0008】
本願の一つの好ましい実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルキル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基(例えばメチル基またはエチル基)を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルコキシ基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルコキシ基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルコキシ基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルコキシ基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルケニル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルケニル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルケニル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルケニル基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アリール基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アリール基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アリール基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アラルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アラルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アラルキル基を表す;或いは、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20シクロアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10シクロアルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cシクロアルキル基を表す。
【0009】
本願の一つの好ましい実例において、Rは置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、最も好ましくはメチル基を表す。
本願の一つの好ましい実例において、nは、好ましくは1~20の整数、より好ましくは2~15の整数、さらに好ましくは2~10、最も好ましくは1、2、3、4、5、6である。
【0010】
本願の一つの好ましい実例において、前記置換された基における置換基は、重水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、(C-C30)アルキル基(好ましくは(C-C)アルキル基)、(C-C30)アルケニル基(好ましくは(C-C)アルケニル基)、(C-C30)アルコキシ基(好ましくは(C-C)アルコキシ基)、(C-C30)アルキルチオ基(好ましくは(C-C)アルキルチオ基)、(C-C30)シクロアルキル基(好ましくは(C-C)シクロアルキル基)、(C-C30)アリール基(好ましくは(C-C14)アリール基またはCアリール基またはフェニル基)またはアミノ基を含む。
【0011】
本願の一つの好ましい実例において、式(1)で表される化合物は:
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド、
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルアセトアミド、
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N-エチルアセトアミド、
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N-メチルアセトアミド、
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-アセチルシクロエチルアミン、
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-アセチルピペリジン、
3-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルプロピオンアミド、
3-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルプロピオンアミド、
4-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルブタンアミド、
4-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルブタンアミド、
5-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルバレルアミド、
5-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジメチルバレルアミド、
からなる群から選ばれる。
【0012】
本発明のもう一つは、本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N、N-ジエチルアセトアミド)の結晶であって、前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、下記の2θ角:12.2°±0.2°、18.1°±0.2°、21.8°±0.2°、24.4°±0.2°、29.4°±0.2°、30.6°±0.2°、31.9°±0.2°、36.6°±0.2°に特徴的ピークを有する結晶を提供する。或いは、前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、下記の2θ角:9.4°±0.2°、10.3°±0.2°、12.2°±0.2°、18.1°±0.2°、21.8°±0.2°、24.4°±0.2°、29.4°±0.2°、30.6°±0.2°、31.9°±0.2°、36.6°±0.2°に特徴的ピークを有する。
【0013】
好ましくは、前記結晶の粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて、下記の2θ角:20.4°±0.2°、25.8°±0.2°、27.0°±0.2°、28.4°±0.2°、28.8°±0.2°、32.9°±0.2°に特徴的ピークを有する。
本発明の一つの実施形態において、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドの結晶を提供し、その粉末X線回折の結果は下表5に示す。
【0014】
一つの実施形態において、、本発明にかかる前記粉末X線回折の計測条件は下記のものを含む:Cu-Kα、計測温度:25℃;より好ましくは、前記粉末X線回折の条件はさらに下記のものを含む:管電圧/管電流:40kV~45kV/40mA;スキャン角度:3°~60°;さらに好ましくは、前記粉末X線回折に用いられる計測デバイスは:Panalytical X’Pert Powder粉末X線回折装置である。
【0015】
本発明のさらにもう一つは、治療有効量の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。一つの好ましい実施形態において、前記医薬組成物は、治療有効量の式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶と、薬学的に許容される担体とからなる。好ましくは、前記医薬組成物の剤型は、経皮投与剤型または経粘膜投与剤型である;或いは、前記医薬組成物の剤型は、貼付剤、坐剤、点滴剤、擦剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、またはドライパウダー吸入剤からなる群から選ばれる。
【0016】
本願の一つの好ましい実例において、前記医薬組成物は、アセチルサリチル酸の適応症の治療に適用される;好ましくは、前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患である;或いは、前記医薬組成物は、抗血小板凝集に適用される;或いは、前記医薬組成物は、心脳血管疾患の予防に適用される。
【0017】
本発明のもう一つは、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶の、アセチルサリチル酸の適応症を治療するための薬物の調製における使用。好ましくは、前記薬物の剤型は、経皮投与剤型または経粘膜投与剤型である;或いは、前記薬物の剤型は、貼付剤、坐剤、点滴剤、擦剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、またはドライパウダー吸入剤からなる群から選ばれる。
【0018】
本願の一つの好ましい実例において、前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患を含む;或いは、前記薬物は抗血小板凝集薬である;或いは、前記薬物は、心脳血管疾患の予防に適用される;或いは、前記使用の対象は霊長類動物(例えばサル又はヒト)、好ましくはヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドとアセチルサリチル酸をラットの生体内に経皮投与した後の血漿中濃度を説明するものである。
図2図2は、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドと2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩の、サル血小板凝集に対する抑制作用を説明するものである。
図3図3は、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶の赤外吸収スペクトルを説明するものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、特に断らない限り、関わる各成分またはそれらの好ましい成分は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
本明細書において、特に断らない限り、本文に記載の全ての実施形態および好ましい実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
本明細書において、特に断らない限り、本文に記載の全ての技術特徴および好ましい技術特徴は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
本明細書において、反対の説明がない限り、組成物の各成分の含有量の合計は100%である。
【0021】
本明細書において、反対の説明がない限り、組成物の各成分の部数の合計は100%重量部である。
本明細書において、特に断らない限り、数値範囲の「a~b」とは、aからbまでの任意の実数の組み合わせを省略に示す(ただし、aとbはいずれも実数である)。例えば、数値範囲の「0~5」とは、本文では「0~5」の間の実数が全て列記されていることを意味し、「0~5」はただそれらの数値の組み合わせを省略に示した。
【0022】
本明細書において、特に断らない限り、整数の数値範囲の「a~b」とは、aからbまでの任意の実数の組み合わせを省略に示す(ただし、aとbはいずれも実数である)。例えば、整数の数値範囲の「1~N」とは、1、2……Nを示し、ただし、Nは整数である。
本明細書において、特に断らない限り、「その組み合わせ」は、前記各要件の複数成分の混合物、例えば2種類、3種類、4種類から最大限までの可能な複数成分の混合物を示す。
特に断らない限り、本明細書に用いられる用語の「1種」とは、「少なくとも1種」を意味する。
【0023】
特に断らない限り、本明細書に記載の百分率(重量百分率を含む)の基準はいずれも、前記組成物の全重量である。
本明細書において、特に断らない限り、用語の「C-C」とは、1種の有機基を意味し、前記nとmはいずれも整数であり、各基はそれぞれn~m個の炭素原子を含んでも良い。
本明細書において、特に断らない限り、用語の「アルキル基」とは、1種の飽和炭化水素基を意味し、それは、直鎖または分岐鎖のもの、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基およびn-ヘキシル基であっても良い。
【0024】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「シクロアルキル基」とは、一つまたは複数のシクロアルキル環を含む飽和炭化水素基、例えばシクロペンチル基、シクロオクチル基およびアダマンタニル基を意味する。
本明細書において、特に断らない限り、用語の「アルコキシ基」とは、アルキル基に酸素原子を追加してなる一価基-RO(例えばメトキシ基)を意味する。
【0025】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「アリール基」とは、一つまたは複数の6員炭素環を含む一価不飽和炭化水素基を意味し、ただし、不飽和度は3つの共役酸・塩素で表されることができ、前記アリール基中の一つまたは複数の環における炭素原子は、ヒドロキシ基、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン、ハロアルキル基、単環アリール基またはアミノ基によって置換されても良く、前記アリール基は、例えばフェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、クロロフェニル基、トリクロロメチルフェニル基、トリイソブチルフェニル基、トリスチリルフェニル基、およびアミノフェニル基があるが、それらに限定されない。
【0026】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「アラルキル基」とは、一つまたは複数のアリール基に置換されたアルキル基を意味し、例えばフェニルメチル基、フェニルエチル基およびトリフェニルメチル基のような、一つまたは複数の(C-C14)アリール基に置換された(C-C18)アルキル基がある。
本明細書において、特に断らない限り、用語の「アルケニル基」とは、一つまたは複数の炭素-炭素二重結合を含む不飽和直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味し、例えばビニル基、n-プロペニル基およびイソプロペニル基のような、不飽和直鎖または分岐鎖の(C-C22)炭化水素基がある。
【0027】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「置換」または「置換された」または類似の表現とは、基に一つまたは複数の置換基が含まれることを意味し、前記置換基は、重水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、(C-C30)アルキル基(好ましくは(C-C)アルキル基)、(C-C30)アルケニル基(好ましくは(C-C)アルケニル基)、(C-C30)アルコキシ基(好ましくは(C-C)アルコキシ基)、(C-C30)アルキルチオ基(好ましくは(C-C)アルキルチオ基)、(C-C30)シクロアルキル基(好ましくは(C-C)シクロアルキル基)、(C-C30)アリール基(好ましくは(C-C14)アリール基またはCアリール基またはフェニル基)またはアミノ基を含むが、それらに限定されない。
【0028】
本文において、「範囲」は下限と上限の形式で開示される。下限と上限はそれぞれ、一つまたは複数であってもよい。所定範囲は一つの下限と一つの上限を決定することによって限定される。決定された下限と上限によっては、特定の範囲の境界が限定される。この方式によって限定できる範囲は全て、含むことも、組み合わせることもでき、即ち、いずれかの下限はいずれかの上限と組み合わせて一つの範囲を形成することができる。例えば、特定のパラメータに対して60~120と80~110の範囲が列記されると、60~110と80~120の範囲と理解されることも予測がつく。また、列記された最小範囲値は1と2で、列記された最大範囲値は3、4と5であると、以下の範囲は全て予測がつく:1~3、1~4、1~5、2~3、2~4および2~5。
【0029】
具体的には、本発明は、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【化2】
ただし、RとRはそれぞれ独立に、H、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、または置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基を表し、或いはRとRはそれらが結合するNと共に4-、5-、6-若しくは7-員ヘテロ環を形成する;
は置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基を表す;
nは0~20の整数を表す。
【0030】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルキル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基またはt-ブチル基を表す。
【0031】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルコキシ基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルコキシ基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルコキシ基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルコキシ基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルコキシ基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基またはt-ブトキシ基を表す。
【0032】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アルケニル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アルケニル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アルケニル基、さらに好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アルケニル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルケニル基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、ビニル基、プロペニル基またはブテニル基を表す。
【0033】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アリール基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アリール基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アリール基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アリール基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、フェニル基またはナフチル基を表す。
【0034】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30アラルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20アラルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C15アラルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10アラルキル基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、フェニルメチル基、フェニルエチル基またはナフチルメチル基を表す。
【0035】
本明細書の一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、置換された若しくは置換されていないC-C30シクロアルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C20シクロアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-C10シクロアルキル基、最も好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cシクロアルキル基を表す。本明細書のもう一つの実例において、RとRはそれぞれ独立に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基を表す。
【0036】
本明細書の一つの実例において、Rは置換された若しくは置換されていないC-C12アルキル基、好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、より好ましくは置換された若しくは置換されていないC-Cアルキル基、最も好ましくはメチル基を表す。
本明細書の一つの実例において、nは0~20の整数、好ましくは1~20の整数、より好ましくは2~15の整数、さらに好ましくは2~10、最も好ましくは2~6の整数を表す。本明細書のもう一つの実例において、nは1、2、3、4、5および6を表す。
【0037】
本明細書の一つの実例において、前記置換された基における置換基は、重水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、(C-C30)アルキル基(好ましくは(C-C)アルキル基)、(C-C30)アルケニル基(好ましくは(C-C)アルケニル基)、(C-C30)アルコキシ基(好ましくは(C-C)アルコキシ基)、(C-C30)アルキルチオ基(好ましくは(C-C)アルキルチオ基)、(C-C30)シクロアルキル基(好ましくは(C-C)シクロアルキル基)、(C-C30)アリール基(好ましくは(C-C14)アリール基またはCアリール基またはフェニル基)またはアミノ基を含むが、それらに限定されない。本明細書のもう一つの実例において、前記置換された基における置換基は、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基、(C-C)アルコキシ基、または好ましくは(C-C)アルキル基を含むが、それらに限定されない。
【0038】
本明細書の一つの実例において、式(1)で表される化合物は:
【表1】
からなる群から選ばれる。
【0039】
本明細書において、特に断らない限り、式(1)で表される化合物は一般的に、その薬学的に許容される塩を含み、薬学的に許容される塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩または硝酸塩を含むが、それらに限定されない。
アセチルサリチル酸には、抗炎症、鎮痛、解熱、抗リウマチ作用、血小板凝集抑制などの作用が証明されているが、サリチル酸には、抗炎症、鎮痛および解熱の作用しかない。
【0040】
上記のように、本願にかかるアスピリン誘導体(即ちアスピリンプロドラッグ)には、2つのエステル結合が含まれ、1つ(アセチル基)はサリチル酸自体から由来するもので、もう1つは変性基から由来するものである。前記アスピリンプロドラッグの2つのエステル基は両方とも、ヒト血漿中の酵素によって迅速に切断されることができる。下記の実施例によって実証されたように、本願にかかるアスピリン誘導体は、血漿中でまず酵素により変性基が脱離してから、アセチル基が脱離することで、血漿中にアセチルサリチル酸(アスピリン)が存在するようになる。一方、CN101484415Bに開示されたアスピリンプロドラッグは、結晶中でまずアセチル基が脱離し、それから変性基が脱離することから、血漿中にアセチルサリチル酸(アスピリン)が存在しない、或いは存在量が極めて少ない。したがって、本願にかかるアスピリン誘導体は、アスピリンの治療効果を全て保有することができるが、CN101484415Bに開示されたアスピリンプロドラッグは、サリチル酸の治療効果しか保有できない。
【0041】
中国特許CN101484415Bでは、該アスピリンプロドラッグが血液に入った後に、サリチル酸誘導体(即ちアセチル基が脱離した化合物)ではなく、親薬物であるアセチルサリチル酸に戻ることができると主張したからといって、該特許に用いられる計測方法は、全血を20倍に希釈することであり、血漿中の酵素の活性はこれで低下してしまう。希釈の倍数が低い(例えば本願のように10倍、具体的には下記の実施例に参照する)場合、およびインビボ試験(即ち希釈せず、具体的には下記の実施例に参照する)の場合、CN101484415Bに記載のアスピリンプロドラッグは血液に入ると、アスピリンが大量に存在しない、或いは抗血小板凝集の作用を有しない。
【0042】
本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶は、経皮投与または経粘膜投与により血液に入り、霊長類(例えばサル、ヒト)の血漿中でアセチルサリチル酸に代謝することができる。したがって、本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩こそが、非ステロイド性抗炎症剤であるその原薬(アスピリン)の効能(例えば抗炎症、鎮痛、解熱、抗血小板凝集)を発揮すると共に、普通の非ステロイド性抗炎症剤の経口投与による胃腸管有害反応を回避することができる。
【0043】
本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患を含むアセチルサリチル酸の適応症を治療できる。特に、抗血小板凝集はサリチル酸の薬効的効能ではなく、アセチルサリチル酸の薬効的効能であることから、一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶は、抗血小板凝集薬とすることができる。しかも、抗血小板凝集は、心脳血管疾患の治療または予防にとって肝心なものでもある。
【0044】
本明細書の一つの実施形態において、前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患からなる群から選ばれる。もう一つの実施形態において、前記治療しようとするアセチルサリチル酸の適応症は抗血小板凝集である。
【0045】
本発明のもう一つは、治療有効量の前記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、前記医薬組成物は、治療有効量の前記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶と、薬学的に許容される担体とからなる。
【0046】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「含む」とは、前記医薬組成物には他の成分が何でも含有しても良いことを意味し、これらの成分は、そのような含有量で存在する該成分が人体にとって許容され、且つ本発明にかかる医薬組成物における活性成分の活性に悪影響を及ぼさない含有量であれば、任意の含有量で存在しても良い。
【0047】
本明細書において、特に断らない限り、用語の「薬学的に許容される担体」は、本発明にかかる医薬組成物における活性成分(式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩)と相溶するべき、即ち、一般的には薬物の治療効果を大幅に低減させることなくそれと共に混合できるべきである。「薬学的に許容される担体」として用いられるものは、ラクトース、グルコース、スクロース、トレハロースのような糖類;コーンスターチ、ポテトスターチのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロースのようなセルロースまたはその誘導体;トラガカント粉末;ゼラチン;タルク;ワセリン;ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムのような固体潤滑剤;硫酸カルシウム;ピーナッツオイル、綿実油、ゴマ油、オリーブオイル、コーンオイル、ココアバターのような植物油;エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールのようなアルコール;アミノカプロン酸、アルギン酸;トゥイーンのような乳化剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤;着色剤;香味剤;打錠剤;酸化防止剤;医薬品防腐剤;パイロジェンフリー水;等張食塩溶液;緩衝液など、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0048】
一つの実施形態において、前記医薬組成物は、アセチルサリチル酸の適応症の治療に適用される。もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患の治療に適用される。さらにもう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、抗血小板凝集に適用される。或いは、前記医薬組成物は、心脳血管疾患の予防に適用される。
【0049】
好ましくは、前記医薬組成物の投与方式は、経皮投与または経粘膜投与である。前記医薬組成物の投与対象は、霊長類動物であり、より好ましくはヒトである。前記医薬組成物の剤型は、経皮投与剤型または経粘膜投与剤型である;より好ましくは、前記医薬組成物の剤型は、貼付剤、坐剤、点滴剤、擦剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、またはドライパウダー吸入剤からなる群から選ばれる。
【0050】
一つの具体的な実施形態において、前記医薬組成物は、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶を、50%エタノールに溶解させて形成される5%の擦剤を含む。使用時、患者は、心脳血管疾患の発生を予防するために、1日2回、毎回0.5~2mlの使用量で、該擦剤を体幹または四肢の皮膚に塗布することができる(抗血小板凝集の作用)。本願のさらにもう一つは、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶の、アセチルサリチル酸の適応症を治療するための薬物の調製における使用を提供する;或いは、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶の、アセチルサリチル酸の適応症の治療における使用を提供する;或いは、アセチルサリチル酸の適応症の治療に適用される、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶を提供する;或いは、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶により、アセチルサリチル酸の適応症を治療する方法を提供する。
【0051】
一つの実施形態において、アセチルサリチル酸(アスピリン)の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患を含むが、それらに限定されない。特に、抗血小板凝集はサリチル酸の薬効的効能ではなく、アセチルサリチル酸の薬効的効能であることから、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、或いは本願にかかる式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶は、抗血小板凝集薬とすることができる。
【0052】
一つの実施形態において、前記アセチルサリチル酸の適応症は、疼痛、発熱、炎症、リウマチ、関節炎、癌、糖尿病またはその合併症、認知症、心血管疾患、脳血管疾患からなる群から選ばれる。もう一つの実施形態において、前記治療しようとするアセチルサリチル酸の適応症は抗血小板凝集である。さらにもう一つの実施形態において、前記薬物は、心脳血管疾患の予防に適用される。
本願の一つの実施形態において、前記使用または方法の対象は霊長類動物(例えばサル又はヒト)、好ましくはヒトである。
【0053】
本願はさらに、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の結晶型を提供する。好ましくは、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドの結晶型を提供する。該結晶型の具体的な調製方法は実施例1に示す。本願の一つの好ましい実例において、前記結晶型は、式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を、有機溶媒(好ましくは酢酸エチル/石油エーテル)で再結晶して得られるものである。
【0054】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、これらの実施例は、単に説明するためのものだけであり、本発明の範囲を限定するためのものではないことが理解されるべきである。
【0055】
実施例1:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドの調製
アセチルサリチル酸(360.23 g,2.0 mol,1.0 eq)と2-クロロ-ジエチルアセトアミド(299.89 g,2.0 mol,1.0 eq)を3Lの三つ口フラスコに入れ、酢酸エチル(1.5 L)に溶解させ、トリエチルアミン(202.34 g,2.0 mol,1.0 eq)とヨウ化ナトリウム(30.21 g,0.2 mol,0.1 eq)を加え、攪拌して昇温し、80℃の油浴で還流を開始し、引き続き4時間攪拌した;室温まで冷却し、濾過し、濾液を2M HCl(800 mL)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(800 mL)と飽和塩化ナトリウム溶液(800 mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥した。濾過し、濾液を濃縮し、黄色い固体として、標的化合物の粗製品を得た。
加熱還流条件下で、標的化合物の粗製品に連続的に酢酸エチル/石油エーテル(1/1,V/V)混合液を加え、完全に溶解するまで攪拌して混合した。ただし、標的化合物の粗製品と酢酸エチル/石油エーテル(1/1,V/V)混合液の最終的な質量・体積比は1:3であった。25℃にゆっくり冷却し、白色結晶を析出させ、吸引濾過後、固体の真空回転乾燥を行った。
HPLC:99.8% (271 nm),収率:37.2%;融点:76.0-77.0℃。
HNMR (CDCl3):δ(ppm):8.15 (dd, J = 8.0, 2.0 Hz, 1 H), 7.58-7.54 (m, 1 H), 7.31 (td, J = 7.5, 1.0 Hz, 1 H), 7.11 (dd, J = 6.0, 2.0 Hz, 1 H), 4.80 (s, 2 H), 3.41 (q, J = 7.0 Hz, 2 H), 3.29 (q, J = 7.0 Hz, 2 H), 2.34 (s, 3 H), 1.24 (t, J = 7.0 Hz, 3 H), 1.15 (t, J = 7.0 Hz, 3 H)。
CNMR (CDCl3):δ(ppm):169.7, 165.2, 164.0, 150.8, 134.0, 132.1, 126.0, 123.7, 122.8, 61.8, 41.0, 40.4, 19.0, 14.2, 12.9。
【0056】
実施例2:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドのラットでの生体内経皮試験
12匹のSDラットを2つの群に分け、それぞれ、アセチルサリチル酸経皮投与群と、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド経皮投与群とにした。群分けと投与の情報は表1に示す:
【0057】
表1
【表2】
備考1:ラットの体重は200gとした。
備考2:NMP:N-メチルピロリドン。
備考3:2つの化合物は、等モル量で投与された。
【0058】
試験プロセスは下記のようであった:
1)脱毛と群分け:ラットを適応させるように餌を与えた後、ペットシェーバーでラットの背中の毛を剃った。体重を秤量した後、体重によってランダムに2つの群に分けた。
2)投与:ピペットを使用して2つの化合物の溶液をそれぞれ1.2mL吸引し、剃った領域に均等に塗布した。投与後、ラットを単独のケージで育てた。
2)採血:投与後の1、2、4、6、8、10および24時間に、それぞれ0.3mlの血液を抗凝固処理したEPチューブに採取し、8000rpmで5分間遠心して血漿を分離した。
4)HPLCによる計測:50μlの血漿を300μlのアセトニトリルを含む遠心チューブに移し、ボルテックスで均一に混合してから、12000rpm、4℃で10分間遠心し、上澄を0.22μmの有機相フィルターに通した後、HPLCで計測分析し、血漿におけるサリチル酸濃度を計測した(生体内の血漿中のアセチルサリチル酸の半減期は非常に短く、測定が難しいため、血漿中のサリチル酸濃度を計測することにした)。
5)HPLC移動相条件:0.1%トリフルオロ酢酸水相(1000ml水+1mlトリフルオロ酢酸):アセトニトリル=55:54アイソクラティック溶出。
【0059】
試験結果は図1に示す。結果に示されたように、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドをSDラットに経皮投与した後、血漿中のサリチル酸Cmaxは44.37μg/mLであったが、等モル投与量でアセチルサリチル酸を経皮投与した後、血漿中のサリチル酸Cmaxは1.06μg/mLであった。したがって、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドのラット生体内への経皮能力は、アセチルサリチル酸よりも遥かに強い。
【0060】
実施例3:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドと、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩の血漿代謝安定性試験
優れたアセチルサリチル酸誘導体は、血漿中でアセチルサリチル酸に素早く戻ることができるはず。2種類の誘導体のアセチルサリチル酸への転換率を判明するために、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドを、中国特許CN101484415Bで開示されたもう一つのアセチルサリチル酸誘導体である2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩と比較した。
【0061】
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド粉末を29.30mg秤量し、1mLのアセトニトリル溶液に溶解させ、濃度100μM/mLの母液に調製し、使用に備えた。2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩粉末を31.58mg秤量し、1mLのddHOに溶解させ、濃度100μM/mLの母液に調製し、使用に備えた。2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド母液と2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩母液(濃度が両方とも100μM/mL)をそれぞれ50μl秤量し、5mLの10%のサル血漿希釈液に移した。希釈後の薬物の濃度は両方とも1μM/mLであり、37℃でインキュベートして反応させた。血漿希釈液を2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドと均一に混合した後の0分間、5分間、15分間、30分間、60分間、120分間、240分間に、HPLCによる計測を行った。血漿希釈液を2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩と均一に混合した後の0分間、10分間、30分間、60分間、120分間、240分間、360分間、480分間に、HPLCによる計測を行った。HPLC移動相条件:0.1%トリフルオロ酢酸水相(1000ml水+1mlトリフルオロ酢酸):アセトニトリル=55:54アイソクラティック溶出。
【0062】
計算によると、結果に示されたように、親薬物である2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドは、開始濃度が221.81μg/mLで、5分間に179.97μg/mLまで低下し、15分間後に検出できなくなった。代謝物であるアセチルサリチル酸の最大濃度は141.83μg/ml(0.7872μM/mlに相当する)、30分間に現れ、転換率は78.72%であった。具体的には表2に示す。
アセチルサリチル酸転換率=(アセチルサリチル酸のモル濃度/薬物の開始モル濃度)×100%
備考:ここでの薬物の開始モル濃度は1μM/mLにした。
【0063】
表2
【表3】
【0064】
計算によると、結果に示されたように、親薬物である2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩は、開始濃度が261.90μg/mLで、10分間後に含有量が3.09μg/mLまでに低下し、30分間に検出できなくなった。代謝物であるアセチルサリチル酸の最大濃度は8.09μg/ml(0.0449μM/mlに相当する)、10分間に現れ、転換率は4.49%しかなかった。具体的には表3に示す。
【0065】
表3
【表4】
【0066】
2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドと2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩のサル血漿中での代謝状況を調査したことの他に、発明者らはさらに、2つの化合物の他の種の10%希釈血漿中での代謝も計測したが、具体的な結果は表4に示す。結果に示されたように、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドは、齧歯類動物(ラット、マウス)やイヌなどに比べて、霊長類動物(ヒトを含む)の血漿中でのアセチルサリチル酸への転換率が非常に高く、その代謝が種特異性を有する。一方、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩は、テストされた全ての種の血漿中でのアセチルサリチル酸への転換率が6%未満であり、いずれも主にサリチル酸へ代謝される。
【0067】
表4 2つの化合物の異なる種の血漿での代謝状況の比較
【表5】
備考:BLOQとは、定量下限を下回ることを意味する。
【0068】
かくして、霊長類動物(ヒトを含む)の血漿中で、本発明にかかる式(1)で表される化合物(例えば2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド)は、主にアセチルサリチル酸へ代謝され、つまり、それこそが本当の意味でアスピリンプロドラッグである。一方、2-(ジエチルアミノ)エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩は、主にサリチル酸へ代謝され、サリチル酸のプロドラッグに過ぎない。
【0069】
実施例4:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドと2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩の、サル血小板凝集に対する抑制作用
12匹のオスのカニクイザルを3つの群(各群に4つずつ)に分け、それぞれ、ブランク群と、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩処理群と、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド処理群とにした。2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩をddHOに溶解させ、200mg/mlの溶液に調製し、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドを50%エタノール溶液に溶解させ、50mg/mlの溶液に調製した。2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩処理群の投与量は60mg/kg、即ち0.3ml/kgにした;2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド処理群の投与量は70mg/kg、即ち1.4ml/kgにした。サルの体重に従って、投与体積を算出した。サルの背中の毛を剃り、薬物を素肌に均一に塗布し、4週間連続的に毎日投与した。投与前にブランク血液を採取し、投与後に週に1回血液を採取し、それぞれ血小板凝集能を計測した(誘導剤は1mMアラキドン酸であった)。
【0070】
血小板凝集能の結果は図2に示す。結果に示されたように、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドを投与して処理した後、2週目以降、血液中での血小板凝集率は大幅に低下し、且つ実験が終了するまで続いていたことから、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N、N-ジエチルアセトアミドが経皮投与されると、血小板凝集に対する明らかな抑制作用を示すことは分かった。一方、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩で処理した後、血小板凝集率は50%程度に保持し、ブランク群に近かったことから、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩が血小板の凝集を有効に抑制できないことは分かった。
【0071】
この結果は実施例3の結果と一致しており、つまり、2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミドのサル血漿中でのアセチルサリチル酸への転換率は78.72%も高く、該化合物は血漿中で、エステル基を優先に加水分解してアセチルサリチル酸を生成し、それからアセチル基を脱離してサリチル酸へ代謝し、それは、アセチルサリチル酸の代謝順番と同様である(本当の意味でアセチルサリチル酸プロドラッグである)ので、該化合物は血小板の凝集を有効に抑制できる。一方、2-(ジエチルアミノ)-エチル-2-アセトキシ安息香酸エステル塩酸塩は血漿中で、アセチル基を優先に加水分解して脱離し(サリチル酸プロドラッグを形成するようにし)、それから経皮基を脱離してサリチル酸へ代謝するので、それは抗血小板凝集の作用を有しない(サリチル酸は抗血小板凝集の作用を有しない)。
【0072】
実施例5:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶の粉末X線回折による計測
実施例1で得られた2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶を取り、粉末X線回折を行い、使用した計測デバイスは:Panalytical X’Pert Powder粉末X線回折装置;計測条件:Cu-Kα;管電圧/管電流:40kV/40mA;スキャン角度:3.0131°~59.9791°;スキャンステップ幅:0.0260°;射出スリット:0.2177;テスト温度:25℃。得られたデータは表5に示す。
【0073】
表5
【表6】
【表7】
【0074】
実施例6:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶の赤外吸収スペクトルの測定
実施例1で得られた2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶を取り、赤外吸収スペクトルの測定を行い、使用したデバイスはNicolet iZ10フーリエ変換赤外スペクトロメーターであった。臭化カリウム錠剤法を使用した;サンプルスキャン回数:32;バックグランドスキャン回数:32;解像度:4.000;サンプリングゲイン:1.0;移動鏡速度:0.4747;ダイヤフラム:150.00。得られた赤外吸収スペクトルは図3に示す。
【0075】
実施例7:2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶の安定性研究
実施例1で得られた2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶を取り、25℃±2℃条件下で置き、それぞれ0ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月にサンプリングし、関連物質と含有量を検出した。関連物質と含有量はいずれも高速液体クロマトグラフィーによって検出した(外部標準法)。結果に示されたように、本発明にかかる結晶は25℃±2℃条件下で12ヶ月置いても、その安定性がとても優れた。具体的なデータは表6に示す。
【0076】
ただし、高速液体クロマトグラフィーによる検出の条件は:
クロマトグラフィーカラム:Inertsil ODS C18,4.6×250mm,5μm
検出波長:276nm、303nm
カラム温度:33℃
流速:1.0mL/min
ローディング量:10μL
移動相:0.1%テトラヒドロフラン水溶液:アセトニトリル=55:45
実行時間:15分間
【0077】
表6 2-[2-(アセトキシ)ベンゾオキシ]-N,N-ジエチルアセトアミド結晶の安定性データ
【表8】
【0078】
本発明では具体的な例を説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱しない限り、本発明に対する各種の変更や修正が可能である点は、当業者にとって明らかである。よって、添付される請求の範囲には、本発明の範囲内に入るそれらの変更が全て含まれる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】