(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(54)【発明の名称】E3ユビキチンリガーゼ(UBE3A)のタンパク質標的
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220303BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220303BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220303BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220303BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220303BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541248
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2020050861
(87)【国際公開番号】W WO2020148310
(87)【国際公開日】2020-07-23
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヤーガジア,ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】パンディア,ニクヒル・ヤナーク
(72)【発明者】
【氏名】ダンクリー,トーマス・ピーター・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コスタ,ヴェロニカ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
本発明は、UBE3Aタンパク質標的およびube3a発現を調節する化合物に対する標的関与のバイオマーカーとしてのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織試料中のUBE3Aタンパク質の発現調節を測定するための方法であって、
a)UBE3A調節因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質の発現調節を示している、ステップと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップb)で測定された前記タンパク質のタンパク質発現レベルが、前記UBE3Aタンパク質発現レベルと逆相関する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織試料中のUBE3Aタンパク質の発現誘導を測定するための請求項1または2に記載の方法であって、
a)UBE3A誘導因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の減少したタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質の発現誘導を示している、ステップと、を含む、方法。
【請求項4】
UBE3A調節因子のUBE3A標的への関与を判定するための方法であって、
a)UBE3A調節因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、前記UBE3A調節因子のUBE3A標的への関与を示している、ステップと、を含む、方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、TCAF1およびPEG10から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組織試料が、血液試料、血漿試料、またはCSF試料である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質発現レベルが、ウエスタンブロッティング、MS、またはイムノアッセイを使用して測定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記UBE3A調節因子が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にLNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記UBE3A調節因子が、自閉症スペクトラム障害、アンジェルマン症候群、または15qdup症候群の処置のためのUBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
UBE3Aタンパク質発現調節因子を同定するためのスクリーニング方法であって、
a)試験化合物で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質発現調節因子を示している、ステップと、を含む、方法。
【請求項11】
UBE3Aタンパク質発現レベル調節のためのバイオマーカーとしての、CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、およびTCAF1からなる群から選択されるタンパク質の使用。
【請求項12】
前記タンパク質が、TCAF1およびPEG10から選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記UBE3Aの調節が、UBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子によるものである、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記UBE3Aバイオマーカーのタンパク質発現レベルが、前記UBE3Aタンパク質発現レベルと逆相関する、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子のUBE3A標的への関与を判定するための、請求項11から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にLNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項11から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子が、自閉症スペクトラム障害、アンジェルマン症候群、または15qdup症候群の処置のためのUBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子である、請求項11から15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキチン-タンパク質リガーゼE3A(UBE3A)のタンパク質レベルが増加または減少すると、タンパク質発現レベルが調節される新規バイオマーカー、および薬物開発におけるその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アンジェルマン症候群は、重度の知的および発達障害、睡眠障害、てんかん発作、ぎくしゃくした動き、EEG異常、頻繁な笑いまたは笑顔、および深刻な言語障害を特徴とする。アンジェルマン症候群は、UBE3A遺伝子、ひいては母性遺伝染色体15q11.2上のタンパク質の欠失または不活性化によって引き起こされる神経遺伝学的障害である。一方、Dup15q症候群は、染色体15q11-13.1の重複に起因する臨床的に同定可能な症候群である。Dup15q症候群では、UBE3Aの過剰発現がある。アンジェルマン症候群(AS)では、E3ユビキチンリガーゼUBE3Aのニューロン喪失が、過剰な重度の神経障害をもたらす。
【0003】
UBE3Aのニューロン喪失はASを引き起こすが、下流の分子および細胞機能障害の知識は不足している。関連するUBE3A基質の同定は、健康および疾患におけるUbe3a機能の役割のより良い理解をもたらし、UBE3A機能をモニターするための薬物およびバイオマーカーの両方の発見を支援する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ユビキチン-タンパク質リガーゼE3A(UBE3A)のタンパク質レベルが増加または減少し、さらに一部がUBE3Aとタンパク質複合体を形成している場合に、タンパク質発現が調節される新規バイオマーカーに関する。これらには、タンパク質CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDが含まれる。FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10は、GAGカプシドドメインを含むLTRレトロトランスポゾン由来遺伝子であり、PEG10はエキソソーム中に見出される。本発明はさらに、アンジェルマン症候群、15qdup症候群、および他の自閉症スペクトラム障害を含む、UBE3Aを標的とする疾患のための医薬処置のための、これらのタンパク質に基づくUBE3A活性の検出のための医薬バイオマーカーおよび方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】タンパク質CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDを含む新規Ube3a標的の同定。
【
図1A】対照(対照1)およびAS株(患者1、3)から出発し、対照株ではUBE3AセンスターゲティングLNA(センス)処理を行い、AS株ではUBE3A ATSターゲティングLNA処理を行い、神経分化の過程にわたって2週間または6週間処理を行った神経分化の実験計画の概略図。
【
図1B】TMT-MS3実験のために使用した細胞溶解物に対するUBE3Aのウエスタンブロッティング(上)。2週間および6週間のLNA処理を伴い、Proteome Discovererから得られたUBE3Aの、スケール化された存在量のプロットは、LNA処理のUBE3Aノックダウンおよび回復を明らかにする。
【
図1C】対照およびAS株におけるUBE3Aレベルに関して逆調節されたタンパク質の、スケール化された存在量のヒートマップ(AS del、AS pt)。
【
図2】SRMによるUBE3A標的としてのPEG10およびTCAF1の確認 対照およびAS細胞におけるUBE3A、PEG10 RF1/2特異的ペプチド、PEG10-RF1ペプチド、およびTCAF1のSRM定量化。NAは無処理を指し、NTは非標的LNA処理、センス:UBE3AセンスLNA処理、およびATS:UBE3A ATS LNA処理を指す。(対照用の株n=2、AS用n=3、それぞれ3つの分化)
【
図3】ウエスタンによるUBE3A標的としてのPEG10の確認。処理なし(NA)、非標的化LNA処理(NT)、およびセンス/ATS処理のいずれかを伴う、対照およびASニューロンの溶解物におけるUBE3A、PEG10、およびACTBについてのウエスタンブロッティングはそれぞれ、PEG10 RF1/2アイソタイプについての堅固なUBE3A依存的逆関係を示す。
【
図4A】対照およびASニューロンにおけるPEG10 RF1/2、対照ニューロンにおけるUBE3Aノックダウン(Sense)、ならびにASニューロンにおけるUBE3A回復(ATS)の代表的な免疫染色。
【
図4B】対照におけるPEG10強度、ならびに対照およびASニューロンにおけるAS HuCD陽性ニューロンの定量化(データ点は、対照およびAS細胞の2つの独立した神経分化からの個々のニューロンであり、P値は、Dunnの多重比較検定に基づいて多重比較のために調整される)。
【
図5A】左:UBE3Aノックダウン(センス)ありおよびなしにおいて、プロテアソーム阻害(MG132、10mM)の時間経過(0、4、および8時間)でのUBE3AおよびPEG10発現のウエスタンブロッティング分析。右:プロテアソーム阻害によるUBE3AおよびPEG10 RF1/2発現の定量化。(n=3の独立した実験、P値:Dunnの多重比較検定、多重検定用に調整)
【
図5B】対照、AS、およびAS+ATS処理におけるプロテアソーム阻害(MG132、10mM、6時間)処理下でのUBE3A IPのウエスタンブロッティング分析。赤色の点は、MG132処理によって安定化されたPEG10-UBE3A複合体を表す。
【
図5C】左:プロテアソーム阻害(MG132、10mM、6時間)を伴う、対照、AS、AS+ATS処理におけるPEG10 IPによるPEG10ユビキチン化のウエスタンブロッティング分析。右:PEG10ユビキチン化の定量化。(n=3の独立した実験、P値:Dunnの多重比較検定、多重検定用に調整、)
【
図6A】IPSCニューロンからの細胞外小胞(EV)の単離のためのスキーム。
【
図6B】AS細胞由来のEvにおけるPEG10 RF1/2およびTSG101の代表的な免疫EM測定(倍率:15,000倍、インサート4倍ズーム、スケールバー:200nm)。
【
図6C】対照およびAS細胞からのPEG10 RF1/2陽性Evの定量化(n=3の独立したEV調製物、p値:マン・ホイットニー検定)。
【
図6D】対照およびAS溶解物におけるPEG10およびその結合タンパク質ならびに選択されたEVマーカーのLC-MSヒートマップ(値は、Spectronautから得られた遺伝子レベル強度であり、3つの独立した溶解物およびEV調製物の平均である)。
【
図6E】溶解物およびEvについて等しい総タンパク質を負荷した、PEG10 RF1/2およびATXN10、ならびにEVマーカーの免疫ブロッティング分析。
【発明を実施するための形態】
【0006】
第1の態様では、本発明は、組織試料中のUBE3Aタンパク質の発現調節を測定するための方法であって、
a)UBE3A調節因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、およびTCAF1、PPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照試料中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照試料中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質の発現調節を示している、ステップと、を含む、方法を提供する。
【0007】
本発明の方法のある実施形態では、ステップb)で測定されたタンパク質のタンパク質発現レベルは、UBE3Aタンパク質発現レベルと逆相関する。
【0008】
特定の実施形態では、方法は、組織試料中のUBE3Aタンパク質の発現誘導を測定するための方法であって、
a)UBE3A誘導因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の減少したタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質の発現誘導を示している、ステップと、を含む、方法に関する。
【0009】
特定の実施形態では、方法は、UBE3A調節因子のUBE3A標的への関与を判定するための方法であって、
a)UBE3A調節因子で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、UBE3A調節因子のUBE3A標的への関与を示している、ステップと、を含む、方法に関する。
【0010】
特定の実施形態では、タンパク質は、TCAF1およびPEG10から選択される。
【0011】
特定の実施形態では、組織試料は、血液試料、血漿試料、またはCSF試料である。
【0012】
特定の実施形態では、タンパク質発現レベルは、ウエスタンブロッティング、MS、またはイムノアッセイを使用して測定される。
【0013】
特定の実施形態では、UBE3A調節因子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にLNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0014】
特定の実施形態では、UBE3A調節因子は、自閉症スペクトラム障害、アンジェルマン症候群、または15qdup症候群の処置のためのUBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子である。
【0015】
第2の態様では、本発明は、UBE3Aタンパク質発現調節因子を同定するためのスクリーニング方法であって、
a)試験化合物で処理された、動物または細胞培養物の組織試料を提供するステップと、
b)CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の、ステップa)の試料中のタンパク質発現レベルを測定するステップと、
c)ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルを、対照中の前記少なくとも1種のタンパク質のタンパク質発現レベルと比較するステップであって、前記対照中の前記少なくとも1種のタンパク質の前記タンパク質発現レベルと比較した、ステップb)で測定された前記少なくとも1種のタンパク質の調節されたタンパク質発現レベルが、UBE3Aタンパク質発現調節因子を示している、ステップと、を含む、方法に関する。
【0016】
第3の態様では、本発明は、UBE3Aタンパク質発現レベル調節のためのバイオマーカーとしての、CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、TCAF1、およびPPIDからなる群から選択されるタンパク質の使用に関する。
【0017】
本発明の使用の特定の実施形態では、タンパク質は、TCAF1およびPEG10から選択される。
【0018】
本発明の使用の特定の実施形態では、UBE3Aの調節は、UBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子によるものである。
【0019】
本発明の使用の特定の実施形態では、UBE3Aバイオマーカーのタンパク質発現レベルは、UBE3Aタンパク質発現レベルと逆相関する。
【0020】
本発明の使用の特定の実施形態では、本発明は、UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子のUBE3A標的への関与を判定するための方法を提供する。
【0021】
本発明の使用の特定の実施形態では、UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にLNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0022】
本発明の使用の特定の実施形態では、UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子は、自閉症スペクトラム障害、アンジェルマン症候群、または15qdup症候群の処置のためのUBE3Aタンパク質発現レベルの誘導因子である。
【0023】
定義
「タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、別段示されない限り、霊長類(例えば、ヒト)および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意の天然タンパク質を指す。この用語は、「全長」、未処理のタンパク質、および細胞中での処理から生じるタンパク質の任意の形態、ならびに天然タンパク質に由来するペプチドを包含する。この用語はまた、天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアントまたはアレルバリアントを包含する。表2に示すアミノ酸配列は、本発明のバイオマーカータンパク質の例示的なアミノ酸配列である。
【0024】
本発明では、UBE3Aタンパク質発現レベル調節因子とは、UBE3Aのタンパク質発現レベルを低下または増強することができる分子を指す。UBE3Aのタンパク質発現レベルを低下させることができる調節因子をUBE3A阻害剤と称し、UBE3Aのタンパク質発現レベルを増強することができる調節因子をUBE3Aエンハンサーと称する。UBE3A調節因子は、mRNA干渉RNA分子であり得る。別の実施形態では、UBE3A調節因子は、二本鎖RNA(dsRNA)、例えば、短鎖干渉RNA(siRNA)または短鎖ヘアピンRNA(shRNA)である。二本鎖RNAは、mRNA、snRNA、マイクロRNA、およびtRNAを含むが、これらに限定されない、任意の種類のRNAであり得る。RNA干渉(RNAi)は、特定のRNAおよび/またはタンパク質の産生を特異的に阻害するために特に有用である。本発明に適したdsRNA分子の設計および作出は、特にWO99/32619、WO99/53050、WO99/49029、およびWO01/34815を参照して、当業者の技術の範囲内である。好ましくは、siRNA分子は、標的mRNAと同一の約19~23個の連続したヌクレオチドを有するヌクレオチド配列を含む。「shRNA」という用語は、同じRNA分子上の相補的配列と約50ヌクレオチド未満が対合し、その配列および相補的配列が少なくとも約4~15ヌクレオチドの不対合領域(2つの塩基相補的領域によって生成されるステム構造上で一本鎖ループを形成)によって分離されているsiRNA分子を指す。十分に確立されたsiRNA設計基準がある(例えば、Elbashireら、2001を参照されたい)。
【0025】
UBE3A調節因子は、標的核酸、特に標的核酸上の連続する配列にハイブリダイズすることによって、標的遺伝子の発現を調節することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、基本的に二本鎖ではなく、したがってsiRNAまたはshRNAではない。好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖である。一本鎖オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの全長にわたって内部(intra)または相互(inter)の自己相補性の程度が50%未満である限り、ヘアピンまたは分子間デュプレックス構造(同じオリゴヌクレオチドの2分子間のデュプレックス)を形成できることが理解される。
【0026】
「対照試料」という用語は、UBE3A調節因子で処理されていない試料を指す。例えば、対照試料は、UBE3A調節因子で処理されていない細胞培養物の試料であるか、または細胞培養物が、UBE3A調節因子でない化合物で処理されている(陰性対照)。
【0027】
結果
AS患者および健常対照のヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来ニューロンに対して、タンパク質プロファイリングを行った。UBE3Aおよびタンパク質ならびに経路を、患者株にわたって脱調節した。ASOを使用して、センス転写物またはアンチセンス転写物をそれぞれノックダウンすることによって、対照株のUBE3Aタンパク質を減少させるか、または患者株のUBE3Aタンパク質を回復させることにより、これらのタンパク質のサブセットを相互に調節した。これらのUBE3A依存性タンパク質には、CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、PPID、およびTCAF1が含まれる。FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10は、エキソソームの生理学において機能を有し得る、GAGカプシドドメインを含むLTRレトロトランスポゾン由来遺伝子のLTRである。
【0028】
図1:タンパク質CCDC88A、DST、FAM127A、FAM127B、FAM127C、PEG10、PPID、およびTCAF1を含む新規Ube3a標的の同定
【0029】
Ube3aタンパク質レベルの変化に応答して調節されるタンパク質を同定するために、本発明者らは、Ube3a ATS標的配列をノックダウンすることによって、対照IPSC由来ニューロンにおけるUbe3aノックダウンおよびAS株におけるUbe3a発現の増加を行った。細胞ペレットを、TMT-SPS-MS3定量を使用して、タンパク質発現プロファイリングにさらに供した。TMT-MS3データをproteome discoverer 2.1で分析し、結果の表をさらに統計分析に供し、対照ニューロンにおけるUbe3aノックダウン時に上方制御されるタンパク質およびAS細胞におけるUbe3aの回復時に下方制御されるタンパク質についてフィルタにかけることによって、Ube3aレベルの変化時に調節されるタンパク質を得た(
図1)。
【0030】
図2:SRMによるUBE3A標的としてのPEG10およびTCAF1の確認
【0031】
選択的反応モニタリング(SRM)アッセイ(Dunkleyら)を、以下のタンパク質のそれぞれにマッピングする固有のペプチド(各タンパク質について少なくとも1つのペプチド)を使用して、ショートリストに挙げられたタンパク質、CCDC88A、DST、HERC2、UCHL5、HERC1、MCF2L、PEG10、TCAF1、UBE3Aに対して設定した。SRMは、上と同じ処理(対照細胞におけるUbe3aノックダウンおよびAS細胞におけるUbe3aの回復)の後、2つの対照株および3つのAS株を使用して行った。
図2は、UBE3Aレベルの変化に対して逆調節を示す、UBE3A、PEG10、TCAF1の棒グラフを示す。
【0032】
図3:WBによるUBE3A標的としてのPEG10およびTCAF1の確認
【0033】
PEG10が、UBE3Aによる制御に関して何らかのアイソフォーム特異性を示すかどうかを判定するために、本発明者らは、対照およびAS細胞におけるPEG10およびUBE3Aに対して、ウエスタンブロッティングを行った。PEG10アイソフォームRF1/2は、UBE3A依存的様式で最も劇的に制御されることが観察されたが、PEG10 RF1は、UBE3Aレベルの変化時にほとんど変化しなかった(
図3)。
【0034】
図4:免疫細胞化学を使用して、PEG10がUBE3Aによって制御されることの実証
【0035】
図4A:RF 1/2を特異的に認識する抗体を使用して、本発明者らは、PEG10発現がニューロン特異的(HuCDと共局在)であり、UBE3Aノックダウン時に上昇し、ASニューロンにおいて上昇し、UBE3Aの回復によって復活することを確認した。PEG10 RF1/2は、神経細胞体における大部分が拡散した染色を示す。
【0036】
図4B:対照におけるPEG10強度、ならびに対照およびASニューロンにおけるAS HuCD陽性ニューロンの定量化(データ点は、対照およびAS細胞の2つの独立した神経分化からの個々のニューロンであり、P値は、Dunnの多重比較検定に基づいて多重比較のために調整される)。
【0037】
図5:PEG10およびUBE3Aは、タンパク質複合体を形成することができ、PEG10は、ユビキチン化依存的にUBE3Aによって制御されることの実証。
【0038】
UBE3A下方制御時のPEG10の過剰発現が、プロテアソーム依存性であるかどうかを評価するために、本発明者らは、対照ニューロンおよびUBE3Aノックダウン(センス)時において、プロテアソーム阻害(MG132)時間の増加の下で、PEG10の免疫ブロッティングを行った(
図5A)。抗K48 Ubによる免疫ブロッティングにより、MG132処理によるポリユビキチン化タンパク質の確実な増加が明らかになった(
図5A、上)。MG132処理は、MG132処理の8時間以内にUBE3A発現を有意には変化させなかった。予想通り、PEG10 RF1/2の発現は、UBE3Aノックダウンで増加した。MG132の4および8時間では、PEG10 RF1/2発現の確実な増加が観察されたが、UBE3Aノックダウン下では、PEG10 RF1/2の大幅な増加は観察されなかった(
図5A、右側の定量)。次に、本発明者らは、標準(DMSO)またはMG132処理下の、対照、AS、およびUBE3Aを回復させた(AS+ATS)細胞におけるUB3Aに対して、免疫沈降を行い、続いて、UBE3AおよびPEG10に対してウエスタンブロッティングを行った。対照細胞ではUBE3AのPEG10濃縮は見られなかったが、AS細胞の残留UBE3Aは、PEG10への結合を示し、これはATS処理で減少した。プロテアソーム阻害下において、本発明者らは、すべての条件下でPEG10-UBE3A複合体の濃縮を観察した(
図5B、赤色の星印)。これに一致して、PEG10 IP-WBは、MG132処理の対照ニューロンにおいてPEG10ポリユビキチン化スメアを示し、これは、高いPEG10レベルにもかかわらずASニューロンにおいて減少し、UBE3A復活(ATS LNA)によって復活した(
図5C)。
【0039】
図6:PEG10は、アンジェルマンニューロンから細胞外小胞に分泌される。
【0040】
ウイルスと同様に、PEG10を細胞外小胞(EV)中に分泌することができるかどうかを試験するために、本発明者らは、対照およびASニューロンから細胞外小胞を単離した(
図6A)。
図6B:免疫電子顕微鏡(免疫EM)を使用して、本発明者らは、ASニューロン由来のEVにおいて、標準的なEVマーカーTSG101およびPEG10 RF1/2の存在を確認した。
図6C:免疫EMを使用して、対照およびASニューロン由来のEVの定量化により、対照の6.26(±1.68s.e.m)とは対照的に、AS EVの20.73(±1.27s.e.m)パーセントが、PEG10に対して陽性であることが明らかになった。
図6D:次に、対照およびAS細胞溶解物ならびに対応するEV画分に対して、データ非依存的取得(DIA)質量分析を行った。DIA分析により、AS細胞溶解物およびEVにおけるPEG10の有意な上方制御(Log2 FC=0.99および0.80、Adj.P=0)が確認されたが、PEG10は、主要EVメーカー(TSG101、Alix、CD81、およびCD63)のように、溶解物よりもEVにおいて選好的には濃縮されなかった。PEG10結合パートナーであることが確認されたタンパク質のうち、TCAF1はAS溶解物およびEVにおいて上昇し、ATXN10はASニューロン由来のEVにおいて選択的に上昇した一方、RTL8CはAS溶解物において上昇を示したが、EVでは上昇を示さなかった。
図6E:次に、本発明者らは、WBを使用してEVにおけるPEG10 RF1/2の発現および濃縮を確認した。PEG10 RF1/2はEV中に分泌され、EV中で断片化を示す(
図4M)。DIAの結果と一致して、TSG101およびAlix(PDCD6IP)はEVにおいて濃縮され、ATXN10はAS EVにおいて選択的に濃縮された。したがって、PEG10は、その結合パートナーである、ATXN10、TCAF1、およびFAM127A/RTL8CをEVに動員する。
【0041】
材料および方法
IPSCから得られたNSCを、Costaら、2016に従ってニューロンに分化させた。
【0042】
TMT-MS3-SPS分析のためのLNA処理および試料調製:
対照試料から得られたニューロンを、1および5μMのUBE3Aセンス配列ターゲティングLNA5’-TTTAcacctacttcttaaCA-3’(配列番号35)で処理し、AS細胞を、特許(WO2017081223A1)に基づいて、UBE3Aアンチセンスターゲティング配列5’-CTttccatttatttccATTT-3’(配列番号36)で処理した。神経分化の42日目の細胞を収集し、Gygiの論文に従って試料調製に供した。条件を6回のTMTx10 plexの実行に無作為化し、各TMTx10 plexの実行は2つのプール試料を含んだ。標識化後、試料をプールし、YMC-Triart C18カラム(0.5mm×250mm、S-3μm粒径、12nm細孔径)のAgilent 1260infinityシリーズHPLC(Agilent Technologies、Waldbronn、Germany)で、塩基性逆相分画に供した。試料の分画は、以下の勾配を使用して、12μl/分で行った。2~23%の緩衝液Bで5分間、23~33%の緩衝液Bで25分間、33~53%の緩衝液Bで30分間、53~100%の緩衝液Bで5分間、および100%の緩衝液Bで5分間。1分間で100%の緩衝液Bから2%の緩衝液Bに交換し、続いて14分間、2%の緩衝液Bによってカラムを平衡化する。それぞれ約26μlの体積からなる4分~84分の合計36個の画分を、96ウェルサンプルプレートに収集する。
【0043】
分画後、試料を乾燥させ、酸性化し、Orbitrap Fusion Lumos Tribrid(Thermo Fisher Scientific)質量分析計でデータを取得した。装置をデータ依存型取得モードで動作させて、最大注入時間(IT)50msで2E5の自動ゲインコントロール(AGC)目標値を用いて、分解能120,000(m/z200において)で350~1400m/zの質量範囲にわたってOrbitrap MS1スキャンを収集する。m/z445.12002で周囲空気ヘキサシクロジメチルシロキサンを使用して、データをその場で較正した。各MS1スキャンの間に、3秒間、m/z0.7の四重極型単離、AGCターゲット1E4、最大IT 50ms、35%の衝突エネルギー、およびターボスキャン速度でのイオントラップ読み出しを使用して、最小強度5E3を有する、2~6の電荷状態を有するN個の最も強い前駆イオンを、衝突誘起解離(CID)のためにモノアイソトープで選択した。10ppmの低および高質量許容度を使用して、75秒間の1回の出現後に前駆イオンを除外する。従属スキャンは、前駆体ごとに単一の電荷状態で実行された。TMTレポーターイオンは、同期前駆体選択(SPS)、m/z2のMS四重極型単離ウィンドウ、65%の正規化された衝突エネルギーでの高エネルギー衝突解離(HCD)、および分解能50k(m/z200において)、スキャン範囲m/z100~500、AGCターゲット5E4、および最大IT 105msを有するOrbitrapでの読み出しを使用して、生成される。SPS前駆体を選択するための質量範囲は、m/z40(低)および5(高)の許容誤差を有するMS2前駆体、およびそれからの任意のTMT中性損失を除いて、m/z400~2000であった。SPS前駆体の数は、10に設定される。
【0044】
Proteome discoverer上でのデータ分析:
1.取得後、Mascotサーバー2.6.1(Matrix Science、London、UK)に接続したProteome Discoverer 2.1を使用して、生データを処理した。
2.処理ワークフローは、酵素としてトリプシン/Pを使用してUniProtヒトタンパク質データベースに対してMS2データを検索し、それぞれ最大2回の切断ミスならびに10ppmおよび0.5Daの前駆体および断片イオンの許容を可能にする。
3.カルバミドメチル化システイン(+57.02146Da)、TMT10標識リジン、およびペプチドN末端(+229.16293Da)を静的修飾として設定する。
4.酸化メチオニン(+15.99492Da)およびアセチル化タンパク質N末端(+42.01057Da)を動的修飾として設定する。
5.q値閾値に基づいて標的FDRを0.01に設定したPercolatorを使用して、デコイデータベース検索を実行した。
6.HCD-MS3データに対して、3mmuのピーク積分を用い、最も信頼できるセントロイドの許容を使用して、レポーターイオンの定量を行った。
7.レポーターイオン強度は、製造業者の仕様を使用して、異なるTMT試薬の同位体不純物を補正するように調整される。
8.PSMをペプチドおよびタンパク質にグループ化するためのコンセンサスワークフローを定義した。
9.ペプチドFDRは、0.01のq値閾値を設定し、ソフトウェアがグループ化のためにPSM q値を自動的に選択することを可能にすることによって制御される。
10.最小6アミノ酸長の高信頼性の固有ペプチドをタンパク質にグループ分けし、タンパク質FDRも0.01に設定した。
11.ペプチドおよびタンパク質の定量は、各チャネルのS/Nを合計し、各値を最も高いTMTチャネルの総強度で正規化することによって行った。個々のペプチドおよびタンパク質S/Nを平均100にスケール化し、統計分析のために高いFDR信頼性タンパク質定量強度のみを保持する。
【0045】
統計分析:
各plexに2つのプールされた試料を用いて、6回の10plexTMT実行で試料を分析した。データに注釈を付け、Proteome Discoverer(バージョン2.1、Thermo Fisher Scientific)で正規化した。各チャネルの合計強度の最大値に対し、ペプチドレベルで正規化を行った。共通のプールされた試料を使用して、IRS法で6回のTMT-plexにわたって正規化した:各タンパク質についてスケーリングファクターを計算して、それらの参照値をプール試料の幾何平均に調整した。次いで、これらを使用して、Plubellら、2017に従って、各TMT実験の残りの試料中の各タンパク質の存在量をスケール化した。各タンパク質に対し、線形モデルにフィッティングさせ、分散を緩和するために経験ベイズ法を適用(Phipsonら、2016)することによって、limma(Ritchieら、2015)を使用してタンパク質の示差的存在量を計算した。異なる条件を、multcomp(Hothornら、2008)およびlsmeans(RusselおよびLengthら2016)で差異を計算することによって比較した。偽発見率(Benjamini、およびHochberg1995)を制御することによって、複数の試験のために、計算されたp値を調整した。全ての計算は、R(R Core team、2018)で行った。
【0046】
UBE3A標的の選択的反応モニタリング(SRM)
表1に示す26種の標的ペプチドに対応する、L‐[U‐13C,U‐15N]RまたはL‐[U‐13C,U‐15N]Kのいずれかを含む同位体標識ペプチド(未精製)を合成し(JPT Peptide Technologies)、それらの配列をLC-MS/MSで確認した。2つの対照および3つのASニューロンからの細胞ペレットを、3つの独立した分化においてLNA処理に供し、プレオミクスキット(Preomics GmBH)を使用して溶液中での消化に供した。50fmolのプールされたペプチドミックスを各試料に添加し、Dunkleyら、2015に従ってQ-Exactive質量分析計(Thermo)で測定および分析した。データをSkyline上で処理し、内因性ペプチド存在量を、ACTBに対して正規化された重質参照標準を使用して補正した。
図2は、選択されたタンパク質、PEG10、TCAF1、およびUBE3Aの存在量を表す。
【0047】
【0048】
PEG10およびUBE3Aのウエスタンブロッティング.
ニューロン細胞に対するウエスタンブロッティングのために、ペレットをRIPA溶解緩衝液と4℃で20分間インキュベートすることによって、RIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号89900)中で変性させ、超音波処理し、還元(10×NuPAGE(商標)試料還元剤、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号NP0004)および4×Laemmli試料溶解緩衝液(Biorad、カタログ番号1610747)を使用した変性に供し、95℃で煮沸した。
【0049】
試料を4~15%Criterion(商標)TGX Stain-Free(商標)プレキャストゲル(Biorad、カタログ番号5678084)で分離し、Criterion(商標)ブロッターを使用してPVDF膜上にBiorad湿式転写を使用して湿式転写に供した。転写後、PVDF膜をトリス緩衝食塩水-0.1% Tween20(TBS-T)中の5%ミルクを使用してブロッキングし、1:500希釈でUBE3A(E6AP抗体、A300-352A-Bethyl Laboratories)/PEG10(抗PEG10抗体[1E2-F12-C12](ab131194)|Abcam)抗体とインキュベートし、Gel Doc(商標)XR+(Biorad)システムを使用してHRPコンジュゲート二次抗体(DAKO)を用いて検出した。
【0050】
【0051】
参考文献
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【配列表】
【国際調査報告】