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特表2022-517827生物学的サンプル中の分子効果に関連する分子変化を評価するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(54)【発明の名称】生物学的サンプル中の分子効果に関連する分子変化を評価するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/483 20060101AFI20220303BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220303BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220303BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220303BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20220303BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALN20220303BHJP
【FI】
G01N33/483 C
G01N33/53 N
G01N33/53 Y
G01N27/62 V
G01N27/62 D
C12Q1/02
C12Q1/68
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542097
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(85)【翻訳文提出日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2020051388
(87)【国際公開番号】W WO2020152151
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】19305081.2
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】513237803
【氏名又は名称】イマビオテク
【氏名又は名称原語表記】IMABIOTECH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】スタウバー,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】アイト-ベルカセム,リマ
(72)【発明者】
【氏名】ボネル,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】パムラール,ファビアン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041FA12
2G041HA01
2G041LA08
2G045AA24
2G045CB01
2G045DA37
2G045FA13
2G045FA16
2G045FB03
2G045FB07
2G045GB01
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ15
4B063QQ22
4B063QQ42
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4B063QQ61
4B063QQ79
4B063QQ95
4B063QR45
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS33
4B063QS39
4B063QX01
4B063QX10
(57)【要約】
本発明は、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの分子マーカーに対する関心対象の分子の効果のエクスビボ又はインビトロ評価のための方法に関する。本発明の方法は、関心対象の分子の濃度に基づく生物学的サンプルのセグメンテーション、ならびに同じ生物学的サンプルの異なる部分/セグメント内の又は、異なる量の前記の関心対象の分子及び/又は異なる関心対象の分子を含みうる、異なる生物学的サンプル間の、関心対象の分子の存在に関連付けられる分子変化の比較に基づく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの分子マーカーに対する、少なくとも1つの関心対象の分子の効果のエクスビボ又はインビトロ評価のための方法:
- 少なくとも1つの関心対象の分子に以前に曝露されている、投与された生物学的サンプルを選択すること;
- 分子イメージング方法を用いて、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの関心対象の分子の存在を検出し、少なくとも1つの関心対象の分子について、投与された生物学的サンプルの分子マップを得ること;
- スペクトル情報の関数として、投与された生物学的サンプルの分子マップを空間的にセグメント化し、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの関心対象の分子のセグメンテーションマップを得ること;
- セグメンテーションマップから第1の関心領域(ROI)を選択すること、ここで、前記の第1のROIは、少なくとも1つの関心対象の分子について第1の強度を有する;
- 前記の第1のROIにおける少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量を測定すること;
- 第1のROI中の少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量を、第2のROI中の少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量と比較すること、ここで、第2のROIは、投与された生物学的サンプルより又は別の生物学的サンプルより選択される。
【請求項2】
生物学的サンプルが、組織サンプル、オルガノイド、生物学的体液サンプル、例えば尿サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液など、及び細胞懸濁液などからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与された生物学的サンプルが、関心対象の分子により以前に投与されている動物を以前にサンプリングすることにより得られた組織切片である、又は投与された生物学的サンプルが、インビトロで関心対象の分子と接触している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
分子イメージング方法が、MRIイメージング、PETイメージング、CTイメージング、IF、ISH、IHC、及び質量分析イメージング又はサイトメトリーイメージングより選択される、好ましくは、MALDI、DESI、LESA、LA-ICP-MS、及びSIMSより選択される質量分析イメージングである、請求項1~3にいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
関心対象の分子が候補分子であり、投与された生物学的サンプルが、候補分子を用いて以前に投与されている動物におけるサンプリングにより以前に得られている、請求項1~4にいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第2のROIが、投与された生物学的サンプルのセグメンテーションマップより選択され、前記の第2のROIが、第1のROIから物理的に異なり、関心対象の分子についての第2の強度を有する、請求項1~5にいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第2のROIが、以前に関心対象の分子に曝露されていない第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルが、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からであり、ここで、場合により第1のROI及び第2のROIの間での比較によって、関心対象の分子に特異的な少なくとも1つの生物学的マーカーを同定することが可能になる、請求項1~5にいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第2のROIが、投与された生物学的サンプルについての用量濃度とは異なる用量濃度で関心対象の分子に以前に曝露された第2の生物学的サンプルより選択され、前記第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである、請求項1~5にいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第2のROIが、関心対象の第2の分子に以前に曝露されている第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルが、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである、請求項1~5にいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
関心対象の分子が2つの別個の候補分子であり、第1のROI及び第2のROIの間での比較によって、前記の候補分子の間で区別することが可能になる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの分子マーカーに対する少なくとも2つの異なる関心対象の分子の効果を評価及び比較するための、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
第1のROI及び/又は第2のROIにおける生物学的マーカーの量又は強度の測定を、好ましくはMSI、ISH、IF、IHC、MRI、イメージングマスサイトメトリー、CT及びPETイメージングより選択される分子イメージング方法を用いて実施し、ならびに/あるいは第1のROI及び/又は第2のROIにおける生物学的マーカーの量又は強度の測定を、好ましくは質量分析、電気泳動、リガンド結合アッセイ、核磁気共鳴、マイクロダイアリシス及びクロマトグラフィー、磁気ビーズマルチプレックスイムノアッセイ及びELISAより選択される生物分析により実施する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ROIを、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションにより生物学的サンプルから抽出し、ROIを、場合により、生物分析を実施する前に培養培地中で培養する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
関心対象の分子の効果を、遺伝子もしくは転写産物の発現、リピドミクス、ペプチドミクス、プロテオミクス、及び/又は代謝の変化を第1のROI及び第2のROIの間で比較することにより評価する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
関心対象の分子が治療用抗体であり、前記の治療用抗体の存在を、生物学的サンプルを、治療用抗体に対する標識された抗体と接触させることにより検出する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的サンプル内の少なくとも1つの関心対象の分子の濃度又は強度にわたる分子変化を手動で又は自動で評価する方法に関する。特に、本発明は、イメージング技術が、関心対象の分子(例、活性化合物)の存在との関連において、生物学的サンプル内の分子バイオマーカーに関する変化を検出するために使用される方法に関する。本発明は、関心対象の分子の濃度にわたる分子変化のスコア、比率、又は任意の値を算出するために、活性化合物の位置に関する領域を定義することを可能にする。
【0002】
本発明の方法は、生物学的サンプル中の関心対象の分子の挙動の試験を含む、全ての領域におけるその適用を見出す。本発明の方法は、候補分子をスクリーニングし、それらの治療的又は診断的な可能性を評価するために、プロテオミクス、ペプチドミクス、リピドミクス、メタボロミクス、グリコミクス、又は薬剤学の研究において有利に使用することができる。
【0003】
発明の背景
【0004】
医薬品業界、栄養補助食品業界、農業化学品業界、又は化粧品業界における活性化合物の開発は、インビトロ細胞モデル又はその後のインビボ動物モデルにおける前臨床初期段階における作用機序(MoA)、有効性、及び毒性の特定を必要とする。その後、これらのアッセイが開発され、臨床段階に転換されて、ヒトへの薬物の有効性及び毒性が検証される。質量分析(MS)、免疫組織化学(IHC)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、異なる段階での分子変化の評価及び定量化のためのゴールドスタンダードの方法である。全てのこれらの方法は、サンプル中の分子を定量化し、薬物の有効性又は毒性におけるそれらの役割を特定するために開発されてきた。
【0005】
全てのこれらの方法は、診断、予後、有効性、又は処置への応答のバイオマーカーを評価及び定量化することにより、組織の応答を調べるために一般に使用される。対照サンプル及び投与(活性化合物を伴う)サンプルを用いて研究する場合、質量分析は、定量化される関心対象の分子にタグを付ける必要がないため、最も高度な方法の1つである。質量分析は、生体系における脂質、代謝物、ペプチド、又はタンパク質の濃度の増加又は減少として、活性化合物の生物学的影響に関する分子情報を提供する。他の技術(例、IF、IHC、ELISA、ISH、分光光度法、又はUV蛍光)は、標的に結合するタグ付き抗体又は核酸配列を使用して標的化されるペプチド、タンパク質、RNA(リボ核酸)、及びDNA(デオキシリボ核酸)を評価及び定量化することを可能にする。
【0006】
医薬品業界では、薬力学は、科学者が、標的分子(バイオマーカー)変化又は(より大きなスケールで薬物応答を調べるため、及び潜在的な未知の化合物を特定するための)非標的分子変化の評価を伴う、薬物投与後の特定の時間での薬物の影響を調べる領域である。
【0007】
組織レベルでは、今までに記載された全ての使用方法によって組織を全体として比較し、これは、多くの情報が欠落していることを意味する。これらの実際の方法では、組織全体における又は組織切片における分子変化の相対的又は絶対的な定量化が使用され、関連する活性化合物濃度が組織、細胞、又は他の特定の関心領域のどこに位置付けられるかは考慮されない。この方法では、薬物の、その近隣への局在化の影響は考慮されない。
【0008】
細胞レベルでは、現在の細胞生存率ベースの測定によって、細胞に浸透又は侵入する薬物又は活性化合物の相対的又は絶対的な濃度との関連を伴わず、全ての細胞への分析に起因する、偏った応答推定にしばしば導かれる。
【0009】
このように、活性化合物への細胞応答を調べるために、より多くの正確性及び精度を伴って、活性化合物濃度及び有効性のバイオマーカーを相関させることを可能にする方法についての必要性がある。
【0010】
発明の要約
【0011】
この状況において、本発明者らは、標的組織中への関心対象の化合物(例、薬物候補)の同定及び局在化を、関心対象の化合物が局在化される領域中での分子変化の画像分析と組み合わせる方法をここで提案する。関心対象の化合物の局在化を見て、それが特に局在化している、及び/又はそれが種々の濃度を提示する領域を選択することによって、前記化合物への応答及び関連付けられるバイオマーカーの変化を非常に細かいスケールで調べることが可能になる。本発明によると、異なるサンプル間、又は同じサンプルの異なる領域間の比較によって、関心対象の化合物の存在及び/又は濃度に関連付けられうる分子環境の知識に導かれる。本発明の方法はまた、関心対象の化合物の分子的影響を調べ、関心対象の化合物と関連付けられるバイオマーカー(例、有効性又は毒性のマーカー)の間での異なる算出比率を比較することによりそれをスコア化することを可能にし、近隣レベルでの関心対象の化合物の影響(例、有効性又は毒性)の理解へ導く。
【0012】
このように、本発明の目的は、以下を含む、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの分子マーカーに対する、少なくとも1つの関心対象の分子の効果のエクスビボ又はインビトロ評価のための方法を提供することである:
- 少なくとも1つの関心対象の分子に以前に曝露されている、投与された生物学的サンプルを選択すること;
- 分子イメージング方法を用いて、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの関心対象の分子の存在を検出し、少なくとも1つの関心対象の分子について、投与された生物学的サンプルの分子マップを得ること;
- スペクトル情報の関数として、投与された生物学的サンプルの分子マップを空間的にセグメント化し、投与された生物学的サンプル中の少なくとも1つの関心対象の分子のセグメンテーションマップを得ること;
- セグメンテーションマップから第1の関心領域(ROI)を選択すること、ここで、前記の第1のROIは、少なくとも1つの関心対象の分子について第1の強度を有する;
- 前記の第1のROIにおける少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量を測定すること;
- 第1のROI中の少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量を、第2のROI中の少なくとも1つの分子マーカーの強度又は量と比較すること、ここで、第2のROIは、投与された生物学的サンプルより又は別の生物学的サンプルより選択される。
【0013】
この方法は、分子イメージング方法を用いて分析されうる任意の種類の生物学的サンプル(組織サンプル、オルガノイド、及び生物学的体液サンプル、例えば尿サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液など、ならびに細胞懸濁液などを含む)を用いて実施してもよい。
【0014】
特定の実施形態では、投与された生物学的サンプルは、関心対象の分子により以前に投与されている動物を以前にサンプリングすることにより得られた組織切片である。代替的に又は、これにくわえて、投与された生物学的サンプルは、インビトロで関心対象の分子と接触している。
【0015】
特定の実施形態では、関心対象の分子は候補分子であり、投与された生物学的サンプルは、候補分子を用いて以前に投与されている動物におけるサンプリングにより以前に得られている。
【0016】
特定の実施形態では、第2のROIは、投与された生物学的サンプルのセグメンテーションマップより選択され、前記の第2のROIは、第1のROIから物理的に異なり、関心対象の分子についての第2の強度を有する。別の実施形態では、第2のROIは、投与された生物学的サンプルについての用量濃度とは異なる用量濃度で関心対象の分子に以前に曝露された第2の生物学的サンプルより選択され、前記第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである。あるいは、第2のROIは、以前に関心対象の分子に曝露されていない第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである。別の実施形態では、第2のROIは、第2の関心対象の分子に以前に曝露されている第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである。
【0017】
特定の実施形態では、第1のROI及び第2のROIの間での比較によって、関心対象の分子の生物学的効果及び応答に特異的な少なくとも1つの生物学的マーカーを同定することが可能になる。
【0018】
特定の実施形態では、第1のROI及び第2のROIは、2つの別個の候補分子に対応する2つの関心対象の分子と接触しており、第1のROI及び第2のROIの間での比較によって、前記の候補分子の間で区別することが可能になる。そのような実施形態では、第1のROI及び第2のROIにおいて比較される生物学的マーカーは、同じでありうる、又は異なりうる。
【0019】
別の実施形態では、第1のROI及び第2のROIは、ROI間で同一又は別個でありうる、いくつかの(即ち、1を上回る)関心対象の分子と接触している。特定の実施形態では、両方のROIは、同じ2つ又はそれ以上の関心対象の分子と接触している。
【0020】
特定の実施形態では、第1のROI及び第2のROIにおいて比較される生物学的マーカーは、第2のROIの関心対象の分子が第1のROIの関心対象の分子と異なる場合でさえ同一である。本発明の方法は、このように、少なくとも1つの分子マーカーに対する少なくとも2つの異なる関心対象の分子の効果を評価及び比較するために使用されうる。
【0021】
本発明の方法は、MRIイメージング、PETイメージング、CTイメージング、IF、ISH、IHC、及び質量分析イメージング又はサイトメトリーイメージングより選択される分子イメージング方法の使用により実施されうる。本発明の方法は、生物学的サンプル内の関心対象の分子の存在を検出し、それにより、前記検出に基づいて前記生物学的サンプルをマッピングするための、質量分析イメージング、例えばMALDI、DESI、LESA、LA-ICP-MS、及びSIMSなどに特に適している。
【0022】
選択されたROIにおける生物学的マーカーの量又は強度の測定は、分子イメージング方法を用いて、又は他の生物分析技術(HPLC、LC-MS/MS、GC/MS、磁気ビーズ多重免疫測定法、ELISA)により実施しうる。
【0023】
特定の実施形態では、この方法は、1つ又は異なる関心対象の分子及び分子マーカーの間に用量効果曲線を確立することからなる工程を含み、それにおいて、ROIにおける1つ以上の関心対象の分子の各々の強度又は量を、同じROIにおける分子マーカーの強度又は量に従って表す。
【0024】
特定の実施形態では、ROIは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションにより生物学的サンプルから抽出する。次に、例えば、遺伝子もしくは転写産物の発現、リピドミクス、ペプチドミクス、プロテオミクス、及び/又は代謝の変化を第1のROI及び第2のROIの間で比較することにより、関心対象の分子の効果を評価する生物分析を実施する前に培養培地中でROIを培養することが可能である。
【0025】
特定の実施形態では、関心対象の分子は治療用抗体であり、それにおいて前記の治療用抗体の存在を、生物学的サンプルを、治療用抗体に対する標識された抗体と接触させることにより検出する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1:薬物に曝露された、投与された生物学的サンプルの分子マップ(図1A)ならびに薬物が低い強度を有する(図1Bの左側)、及び薬物が高い強度を有する(図1Bの右側)、2つのROIへの前記分子マップのセグメンテーション。セグメンテーションによって、薬物により異なって影響を受ける領域の間での区別が可能になる。2つのROIは、薬物に関連付けられるバイオマーカーの異なる濃度を示し(図1C)、それは、LCMSのような網羅的な方法(図1D)とは逆に、薬物についての濃度の差と相関しうる。
図2図2:薬物に曝露されていない組織サンプルの分子マップ(図2A-CTRL:対照)及び薬物に曝露されている組織サンプルの分子マップ(図2B-TRT:処置済み)。第1の分子マップ全体をROIとして使用するのに対し、第2の分子マップはセグメント化され、薬物についての高い濃度を伴うROIが選択される。両方の組織サンプルが同じ起源(腫瘍組織)を有する。対照からのROIは、薬物の非存在に関連付けられるバイオマーカーについての高い濃度を示すのに対し、処置されたサンプルからのROIは、前記バイオマーカーについての低い濃度及び薬物についての高い濃度を示す(図2C)。
図3図3:薬物に曝露されていない組織サンプルの分子マップ及び3つの生物学的トリプリケートからの組織サンプルの分子マップ(図3A-CTRL、TRT腫瘍1、TRT腫瘍2、及びTRT腫瘍3)。分子マップ全体を、対応するサンプルについてのROIとして使用する。全ての組織サンプルは同じ起源(腫瘍組織)を有する。対照からのROIは、薬物の非存在に関連付けられるバイオマーカーについて高い濃度を示すのに対し、処置されたサンプルからのROIは、薬物についてのそれらのそれぞれの濃度と相関しうる、前記バイオマーカーについての低い濃度を示す(図3B)。
図4図4:第1の薬物に曝露されている組織サンプルの分子マップ(図4A-薬物A)、第2の薬物に曝露されている組織サンプルの分子マップ(図4B-薬物B)、及び同じバイオマーカーの分子マップ(バイオマーカー、図4A及び4B)。薬物A及び薬物Bの有効性を、薬物の濃度と比較し、以前に特定された2つ又は3つのROI内のバイオマーカーの濃度への参照により評価する(図4C及び4D)。
図5図5:高いレベルの画像セグメンテーションによって、マルチセグメントマップ(ピクセルマップ)を得ることが可能になる。各々のピクセルには、μg/g組織のC1からC11までの濃度の薬物(薬物A又はB)及びバイオマーカー関連情報が含まれている(図5A)。薬物の生物学的効果は、このように、薬物の異なる濃度又は強度レベルに基づく、バイオマーカーの異なる濃度又は強度レベルに対応するセグメント(ピクセル)あたりで得られる(図5B)。単一組織において薬物用量効果を与えうる、異なる曲線を次に描写することができうる。ED50:半有効量、即ち、望ましい応答の50%を達成するために要求される用量。
図6図6:薬物に曝露されている組織サンプルの分子マップ(図6A)、分子マップの自動セグメンテーション及びROIの特定(図6B)。レーザーキャプチャーマイクロダイセクションによるROI抽出の概略図(図6C)。
図7図7:エパカドスタット(EPA)検量線/QMSI(A)、EPA検量線/LC-MSMS(B)、QMSI及びLC-MS/MSによるEPA定量化(C)。
図8図8:エパカドスタット薬物検出、定量化、及び組織学的局在化。厚さ10μmのCT26対照及び処置済み腫瘍切片を、1,5-DANマトリックス沈着後にMALDI MSIにより二通り分析した。エパカドスタット薬物の組織学的局在化は、処置された腫瘍中に存在し、対照腫瘍中には存在しないことが示されている。EPA絶対定量化(μg/g)を実施し、両方のデュプリケート(1及び2)について下表において示した(A)。LC-MS/MS及びQMSI EPA定量化を、処置されたCT26腫瘍において比較し、両方の技術間で17%の変動が示された(B)。スケールの色及びバーを全ての切片について示す。
図9図9:標的曝露分析。異なるEPA量を示す3つの関心領域(1、2、及び3)を選択した。ROI 1及び2は、腫瘍表面全体の38%及び62%を表す。特定のEPA局在化が見出され、61%が表面の38%において集中し、39%が62%の左腫瘍表面にわたり集中していることを示していた(A)。半定量的IDO1免疫染色を連続組織切片上で実施したが、インサート1及び2は、両方の領域にわたり、IDO1酵素の異なる発現レベルを示す(B)。これらのオーバーレイの全てを、ImaBiotechのマルチモーダルプラットフォーム:Multimagingソフトウェアを使用して実施した。
図10図10:組織学的局在化及び絶対定量化。EPA、Trp、及びKynの組織学的局在化が、対照及び処置されたCT26腫瘍切片の両方で示された(A)。Trp及びKynのQMSI及びLC-MS/MS分析を次に実施し、Kyn/Trp比率を次に、対照及び処置されたCT26腫瘍から得た。Kyn/Trp比率のレベルの6倍の減少が、QMSI分析及びLC-MS/MS分析の両方を使用して認められた(B)。
図11図11:標準化されたTrp及びKynの検量線:x=濃度(mg/g単位);y=強度(図11A)。血漿サンプル及び血液サンプルについてのKyn/Trp比率(図11B)。
図12図12:曝露に対する応答及び応答有効性分析。EPAの領域性の薬理学的効果及び応答有効性を、3つのセグメント化されたROIにおけるKyn量に続いて強調した;それにおいて、Kynの15%は腫瘍全体の38%(ROI 1)に、85%はROI 2(A)に集中している。EPA、Kyn、及び乳酸の相対強度も、EPAが高く又は低く存在した場合での応答効果を示すために(C)、分子画像から抽出した(B)。領域性のセグメンテーション、相対的及び絶対的な定量化を、ImaBiotechのマルチモーダルプラットフォーム:Multimagingソフトウェアを使用して実施した。
【0027】
発明の詳細な説明
【0028】
本発明の方法は、関心対象の分子の濃度に基づく生物学的サンプルのセグメンテーション、ならびに同じ生物学的サンプルの異なる部分/セグメント内の、あるいは異なる量の前記の関心対象の分子及び/又は異なる関心対象の分子を含みうる異なる生物学的サンプル間の、関心対象の分子の存在に関連付けられる分子変化の比較に基づく。特に、本発明によれば、イメージング技術を使用し、以前に前記化合物に曝露された生物学的サンプル中の関心対象の化合物を検出及び局在化する。生物学的サンプルを次に、サンプル内の前記化合物の強度に基づいてセグメント化し、分子変化を、サンプルセグメントを比較することにより分析する。この方法によって、標的分子の存在に起因する、及び/又は前記標的分子の異なる用量に起因する、増加又は減少する分子(即ち、バイオマーカー)を細胞レベルでさえ同定することが可能になる。本発明の方法はまた、同じ生物学的サンプルの2つ以上の領域間で関心対象の化合物の分子的影響を比較し、標的の生物学的サンプル内の前記化合物の治療的及び/又は予防的及び/又は毒性の影響を、正確性を伴って決定することが可能になりうる。次に、それらの用量効果及び最終的に関連付けられるバイオマーカーと一緒に、新たな潜在的な薬物を特定することが可能である。
【0029】
本発明によれば、イメージング技術を使用し、関心対象の分子を局在化させ、次に画像セグメンテーションを使用し、前記の生物学的サンプル全体の関心対象の分子の相対量又は絶対量に基づいて生物学的サンプルの分子画像を分析する。選択されたセグメントの分析によって、関心対象の分子の存在又は特定の用量に起因しうる分子変化を決定することが可能になり、それにより、前記の関心対象の分子のための価値のあるバイオマーカーを選択し、及び/又は価値のある薬物などについてスクリーニングする。
【0030】
先行技術の方法とは逆に、本発明の方法によって、同じ生物学的組織の異なる細胞間を含む、生物学的サンプルの異なる部分内の、関心対象の分子に相関する分子有効性情報が提供されうる。このように、標的の生物学的サンプル内の分子の本当の影響を評価することが可能である。画像ピクセルあたりの活性化合物/生物学的マーカーの比率を算出することができ、それによって、生物学的サンプルの1つの分子マップが化合物の濃度範囲を表すと仮定すると、単一組織において薬物投与効果が与えられうる。
【0031】
生物学的サンプルの調製
【0032】
本発明の方法によれば、以前に関心対象の分子に曝露された全ての種類の生物学的サンプルを分析することが可能である。より一般的には、生物学的サンプルは、細胞活性を発現する全ての系を包含する。これは、例えば、細胞培養、3Dインビトロモデル、例えばスフェロイド又はミニ臓器など、動物モデル、植物、異種移植組織、腫瘍及び動物生検、生物学的体液などのようなインビボ系を含む。有利には、生物学的サンプルは、組織サンプル(例、生検)、生物学的体液サンプル(例、尿サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液として)、及び細胞懸濁液より選択される。
【0033】
本発明の文脈において、用語「組織」は、機能的にグループ化された細胞のセットを指す。標的組織は、同じ起源を伴う一組の類似の又は異なる細胞、臓器、臓器の一部、場合により複数細胞の集合体を伴う臓器の特定の領域でありうる。例えば、標的組織は、臓器内に局在化する腫瘍でありうる。別の実施形態では、組織サンプルは植物組織サンプルである。より一般的には、組織サンプルは、イメージング方法により分析されうる形態における生物学的起源の任意の種類の組織を指す。
【0034】
生物学的体液は、細胞を含む、及び/又は動物又は植物から得られた生物学的起源からの全ての体液を包含する。
【0035】
本発明の文脈において、関心対象の分子に「曝露された」は、生物学的サンプルが前記分子と接触していることを意味する。本発明の文脈において、標的分子に曝露されている生物学的サンプルは、「投与又は処置された生物学的サンプル」として言及する。逆に、「対照サンプル」は、標的分子に曝露されていない生物学的サンプルを指す。本発明によれば、対照サンプルは、それが比較される、投与されたサンプルと同じ生物学的起源を有する。例えば、投与された組織サンプルが、標的分子に曝露されているマウスにおいてサンプリングされた肝臓の組織切片からなる場合、対照サンプルは、標的分子に曝露されていないマウスにおいてサンプリングされた肝臓の組織切片からなる。
【0036】
特定の実施形態では、関心対象の分子は、動物モデル、好ましくは哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む)へ以前に投与されており、前記動物は、方法の実施形態より以前にサンプリングされている。特定の実施形態では、動物モデルは非ヒト哺乳動物である。別の特定の実施形態では、動物モデルはヒト哺乳動物である。
【0037】
所望の試験に依存して、動物モデルは変化しうる。当業者は、標的組織、関心対象の分子、評価する生物学的特性などに依存して、いずれの動物モデルが十分に適合されるかを知っている。例えば、動物の屠殺を要求する候補分子に関する前臨床治験の場合では、非ヒト哺乳動物、例えばげっ歯類(マウス、ラット、ウサギ、ハムスターなど)などが優先的に使用される。他の非ヒト哺乳動物、特にサル、イヌなどを使用することができる。生物学的サンプルを、動物について有害な副作用を伴うことなくサンプリングすることができる特定の場合では、動物モデルとしてヒトを使用することが可能である(例、臨床治験の第1~4相について)。他の動物モデル、例えば魚、昆虫などを使用し、例えば環境又は特定の生態学的媒体に対する分子の影響を試験することも可能である。
【0038】
本発明によれば、及び一般的な用語では、標的分子の全ての投与経路、例えば経腸経路(即ち、胃腸管の消化過程による薬物投与)又は非経口経路(即ち、胃腸管による以外の投与経路)などを使用することができる。例えば、分子は、種々の経路、例えば皮膚内、硬膜外、動脈内、静脈内、皮下(特定の局在化を伴う)、心臓内、海綿体内注射、脳内、皮内、筋肉内、骨内注入、腹腔内、髄腔内、膀胱内、硝子体内、経鼻、経口、直腸、膣内などにより、又は局所投与により投与することができる。
【0039】
投与経路は、関心対象の分子、この方法により標的化される組織などに依存して選ぶことができる。本発明の方法はまた、最も適合した投与経路を選択することを可能にすることができる。実際に、本発明の方法によって、関心対象の分子が、生物学的障壁を横断して標的組織に達する能力を評価することが可能になる。
【0040】
本発明によれば、この方法は、好ましくは、エクスビボ及び/又はインビトロで実施する。一部の場合では、生きている動物全体に関するインビボ分析を実施することも可能である。
【0041】
特定の実施形態では、本発明の方法は、例えば、組織切片でのエクスビボ分析である。その場合では、組織サンプルを投与後の所与の時間(t1)にサンプリングする。サンプリングは、特にそれがヒト哺乳動物である場合、生検でありうる。一実施形態では、非ヒト動物への関心対象の分子の投与後、前記非ヒト動物を屠殺し、関心対象の組織サンプルをサンプリングする。
【0042】
特定の実施形態では、組織サンプルは、新鮮な組織、凍結組織、又は固定/包埋組織から、例えば、パラフィンを用いて得る。数マイクロメートルの厚さで薄い組織切片を得るために適した全ての手段を使用することができる。
【0043】
必要な場合、組織切片は、特に検出される分子、分析技術などに依存して、前処理を受けることができる。このように、組織切片に化学的又は生化学的薬剤を使用し、関心対象の分子及びバイオマーカーの検出を最適化することが可能である。例えば、溶媒及び/又は界面活性剤を使用し、定義されたクラスの分子の検出を可能にする、又は組織からの分子の直接抽出を改善することが可能である。同様に、例えば、親分子と同じ組織上の局在化及び/又は量を有する消化フラグメントを標的化するために、ペプチド又はタンパク質を切断することが可能な特定の酵素を使用することが可能である。関心対象の分子の化学的誘導体化のために、組織上又は組織内に一部の分析物を加えることも可能である。なぜなら、それによって、組織上の分布及び定量化試験を増加させることを可能にする、一部の感度の問題に対処するためである。組織切片上で抗体標識(タグと結合している、又はしていない)を実施する、又は蛍光標識分子もしくは放射能を使用して関心対象の分子及びバイオマーカーの検出を可能にすることも可能である。
【0044】
関心対象の分子に結合する、又はそれを組み入れる能力を改変するために、使用される動物モデル及び/又は標的組織及び/又は組織切片を変化させることも可能である。このように、この処置は、動物モデル及び/又は標的組織及び/又は組織切片の化学的又は生物学的改変を含みうるが、それによって、所与の標的組織についての関心対象の分子の浸透又は標的化能力を増加又は阻害することが可能になる。この処置は、関心対象の分子の投与の前に、その後に、又は同時に実施することができる。例えば、血液脳関門(BBB)を通過しなければならない分子の場合では、BBBを通過する分子を駆出できる一部の排出トランスポーターがバリア中にある。これらのトランスポーターの効果は、前記トランスポーターの遺伝子又は遺伝子発現に対する阻害剤又は遺伝子改変(「ノックアウト」として)を使用して、調節(減少又は抑制)することができる。
【0045】
液体サンプルの場合では、乾燥サンプルのMS画像を産生するために、表面上で乾燥させて、次にこのサンプルをMSIで特徴付けることが可能である。
【0046】
マトリックスを要求する質量分析イメージングを使用して生物学的サンプル、及び、とくにMALDI又はME-SIMS(マトリックス増強二次イオン質量分析)を試験する場合、前記マトリックスは関心対象の分子に有利に適合される。例えば、選択では、対象となる質量範囲を考慮に入れることができる。当業者は、既存の液体又は固体マトリックスから、試験された分子及び/又は標的組織に依存していずれを使用することができるかを知っている。同様に、マトリックスの全ての沈着方法、特に手動噴霧、自動噴霧、昇華、ふるい分け、及びマイクロスポッティングを使用することができる。
【0047】
別の実施形態では、関心対象の分子を、インビトロ又はエクスビボで、生物学的サンプル、例えば組織サンプル、生物学的体液、細胞懸濁液などと接触させる。例えば、生物学的サンプルは細胞懸濁液であり、関心対象の分子を、分析を実施する前に、懸濁液に加える。あるいは、生物学的サンプルを支持体上に沈着させることができ(及び、体液サンプルの場合では、それを、場合により、乾燥させてもよい)、関心対象の分子を、分析を実施する前に、サンプル上に噴霧する。関心対象の分子の検出
【0048】
生物学的サンプルを、前記生物学的サンプル内の関心対象の分子の存在及び、場合により、濃度を検出するために分析する。
【0049】
この工程は、生物学的サンプル内の分子のインビボ、インビトロ、又はエクスビボでの正確な特定及び視覚化を可能にする任意の技術を使用して実施することができる。
【0050】
注目すべきことに、インビボ分析の場合では、断層撮影技術、例えば磁気共鳴画像法(MRI)、オートラジオグラフィー、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、単光子放出断層撮影法、CT画像法などを使用することが可能である。
【0051】
インビトロ/エクスビボ分析の場合では、IF、IHC、ISH、及び質量分析イメージング(MSI)を使用することが可能である。技術、例えばMALDIイメージング(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)、LDI(レーザー脱離/イオン化)、DESI(エレクトロスプレーによる脱離)、LESA(液体抽出表面分析)、LAESI(レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化)、DART(リアルタイムでの直接分析)、SIMS(二次イオン質量分析)、JEDI(ジェット脱離エレクトロスプレーイオン化)などを、場合により、TOF(飛行時間)、Orbitrap、FTICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)、四重極(シンプル又はトリプル)などのような異なる種類の質量分析計との組み合わせにおいて使用することができる。好ましくは、質量分析イメージングは、MALDI、DESI、ICP-MS、及びSIMSより選択する。
【0052】
実験パラメーター、例えば質量範囲、レーザー流量、レーザー焦点などを固定し、強度、感度、解像度の点において標的検出を最適化する。このように、質量スペクトルの取得を実施してシグナルを得る。マススペクトルから、標的分子試験のための有用なデータへのアクセスを有することが可能である。データ処理のために、種々のスペクトル特性を、マススペクトル上のピーク強度、信号対雑音比(S/N)、ピーク面積などとして使用することができる。
【0053】
一般的な規則として、生物学的サンプル内の分子の視覚化を可能にする全ての技術を使用することができる。
【0054】
関心領域(ROI)の選択
【0055】
生物学的サンプルの分析によって、少なくとも関心対象の分子についての生物学的サンプルの分子マップが提供される。すなわち、生物学的サンプル全体にわたる関心対象の分子の画像が得られる。この画像によって、生物学的サンプル内の関心対象の分子の分布及び濃度を直接的に視覚化することが可能になる。このように、生物学的サンプルの異なる領域内の分子の非存在及び/又は存在が視覚化され、しかし、また、生物学的サンプルの1つの分子マップが濃度の範囲を表すと仮定すると、前記の異なる領域間の濃度の差が視覚化されうる。生物学的サンプルの分子マップを次に、異なる領域中にセグメント化する。
【0056】
生物学的サンプルのセグメンテーションは、ピクセルからセグメント(複数のピクセルを含む)まで、種々の次元の領域に導きうる。セグメンテーションは、関心対象の分子の存在/非存在/強度/量(即ち、関心対象の分子のスペクトル情報)により特徴付けられる異なる領域を得るために、手動又は自動で実施してもよい。例えば、セグメンテーションは、領域ベースのセグメンテーション、エッジ検出セグメンテーション、クラスタリングに基づくセグメンテーション、CNNにおける弱教師付き学習に基づくセグメンテーションなどより選択された画像セグメンテーション技術を用いて自動的に実施してもよい。
【0057】
ROIのサイズは互いに異なりうる。ROIは、多くの画像ピクセル又はセグメントの平均でありうる。各々の画像ピクセル又はセグメントはまた、関心対象の分子について異なる強度又は濃度を有するROIを表しうる。
【0058】
特定の実施形態では、生物学的サンプルは、MSIにより分析されている組織切片である。得られた画像は、関心対象の分子のオーバーレイ分布を示す。セグメンテーションは、このように、関心対象の分子のピーク強度、ピーク面積、又は信号対雑音比に基づいて実施される。
【0059】
例えば、関心対象の分子は候補分子であり、投与された生物学的サンプルは、以前に候補分子が投与されている動物におけるサンプリングにより以前に得られている。
【0060】
一実施形態では、第2のROIは、投与された生物学的サンプルのセグメンテーションマップより選択され、前記第2のROIは、第1のROIとは物理的に異なり、関心対象の分子について第2の強度を有する。有利には、選択された第1のROIは最も重要な信号(及び、それにより最も重要な濃度)を示し、選択された第2のROIは関心対象の分子についての任意の信号を示さない(即ち、関心対象の分子が欠乏している)。あるいは、投与された生物学的サンプルの第2のROIは、関心対象の分子について低い信号(及び、それにより低い濃度)を示す。
【0061】
図1は、MSIで得られた薬物の組織切片の分子マップを示す。組織切片は、以前に薬物が投与されている動物においてサンプリングされている。分子マップ(図1A)は、分子に関連付けられる強度に基づく。組織切片上で視覚化されたスペクトルデータから、同じ組織切片内の2つのROIを区切ることが可能である(図1B)。第1のROIは、分子について高い信号を示す組織サンプルの領域に対応しているのに対し、第2のROIは、分子について低い信号を示す組織サンプルの領域に対応する。
【0062】
別の実施形態では、第2のROIは、以前に関心対象の分子に曝露されていない第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ起源からである(即ち、対照サンプル)。
【0063】
本発明の文脈では、「同じ起源」は、生物学的サンプルが同じ動物モデル(例、2匹のマウス)でサンプリングされ、サンプルが同一である(例、両方の生検が同じ腫瘍細胞系統組織から、両方の液体サンプルが尿など)ことを意味する。
【0064】
図2は、MSIで得られた薬物について同じ起源(腫瘍組織)の2つの組織切片の分子マップを示す。第1の組織切片(図2A)は、薬物と接触していない動物においてサンプリングされている(対照、CTRL)。第2の組織切片(図2B)は、以前に薬物が投与された動物(処置済み、TRT)においてサンプリングされている。全体としての第1の組織切片を第1のROIとして使用する。第2のROIを、第2の組織切片において選択し、分子が高度に検出される第2の組織切片の領域に対応する。
【0065】
別の実施形態では、第2のROIは、投与された生物学的サンプルについての用量濃度とは異なる用量濃度で関心対象の分子に以前に曝露されている、第2の生物学的サンプルより選択し、前記の第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ生物学的起源からである。
【0066】
図3は、MSIで得られた薬物についての同じ起源(腫瘍組織)の4つの組織切片の分子マップを示す。第1の組織切片は、薬物と接触していない動物においてサンプリングされている(対照、CTRL)。全ての他の組織切片は、以前に同じ濃度の薬物を投与されている動物においてサンプリングされているが(TRT1、TRT2、TRT3)、しかし、サンプル内の濃度は異なる。各々の生物学的サンプルについてのROIは、対応する組織切片全体である。無論、ROIを各々の組織切片の特定の領域に限定することは可能である(例えば、薬物について最も重要な濃度を示すROIなど)。
【0067】
別の実施形態では、第2のROIは、同じ又は第2の関心対象の分子に以前に曝露されている第2の生物学的サンプルより選択され、前記の第2の生物学的サンプルは、投与された生物学的サンプルと同じ起源からである。
【0068】
図4は、MSIで得られた2つの異なる薬物(図4A:薬物A;図4B:薬物B)についての同じ起源(腫瘍組織)の2つの組織切片の分子マップを示す。組織切片は、以前に薬物A及び薬物Bのいずれかを投与されている動物においてサンプリングされている。ROI1及びROI2は、各々の生物学的サンプル上で、手動でセグメント化された。薬物A及びBがバイオマーカーに対して有しうる薬物効果を知るために、次にその強度/濃度を各々のROI(1及び2)において算出し、各々の対応するROIについて描写した(図4C及び4D)。
【0069】
特定の実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の関心対象の分子と分子マーカーの間の用量効果曲線を確立するために使用されうるが、それにおいて、ROI(単一ピクセル又はいくつかのピクセル)における関心対象の分子の各々の強度又は量は、同じROIにおける分子マーカーの強度又は量に従って表される。
【0070】
図5は、関心対象の化合物の濃度範囲を表す生物学的サンプルの分子マップを示す。より高いレベルの画像セグメンテーションによって、マルチセグメントマップ(ピクセルマップ)を得ることが可能になる。各々のピクセルは、μg/g組織のC1からC11までの濃度の薬物及びバイオマーカー関連情報を含む(図5A)。薬物の生物学的効果は、このように、薬物の異なる濃度又は強度レベルに基づくバイオマーカーの異なる濃度又は強度レベルに対応し、セグメント(ピクセル)あたりで得られる(図5B)。異なる曲線を次に得ることができうるが、それは単一組織における薬物用量効果を与えうる。ED50:半有効量、即ち、望ましい応答の50%を達成するために要求される用量。
【0071】
バイオマーカー分析
【0072】
対応する生物学的サンプルのROI内の1つ以上の生物学的マーカーの量又は強度を測定するために、分子分析を各々の選択されたROIに対して実施する。
【0073】
分子分析は、分子レベルでのROIの組成の理解ならびに/あるいは1つ以上の生物学的マーカーの検出及び、場合により、定量化に導く。有利なことに、全てのROIを同じ方法で分析する。
【0074】
一実施形態では、ROIにおける生物学的マーカーの量又は強度の測定を、分子イメージング方法を用いて実施する。好ましくは、MSI、ISH、IF、IHC、MRI、イメージング質量サイトメトリー、CT及びPETイメージングより選択される分子イメージング方法。
【0075】
特定の実施形態では、両方のROIをMSIにより分析する。MSIは、ICP-MS、LA-ICPMS、LAESI、MALDI、DESI、SIMS、LESA、及び同様の表面抽出戦略、SIMSなどを指す。基本的に、質量分析イメージング(MSI)によって、標識を伴わず、及び事前の知識を伴わず、組織サンプル又は体液サンプルからの数百の生体分子の分布を同時に直接的に記録することができる。種々の組織/体液調製手順を適用したマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)に基づくMSIを使用し、タンパク質、ペプチド、グリカン、脂質、代謝物、及び薬物を分析することができる。
【0076】
別の実施形態では、ROIにおける生物学的マーカーの量又は強度の測定を、生物分析により実施する。好ましくは、生物分析は、質量分析、電気泳動、リガンド結合アッセイ、核磁気共鳴、マイクロダイアリシス、及びクロマトグラフィーより選択する。
【0077】
特定の実施形態では、ROIを、生物学的マーカーを分析する前に、生物学的サンプルから抽出する。本発明の文脈では、「ROIの抽出」は、ROIがサンプルの残りから物理的に分離されていることを意味する。物理的抽出は、顕微解剖、手動で、又はレーザーにより実施してもよい。図6Cは、組織切片上で実施されたレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を例証する。関心対象のROIが、それにより、サンプリングされ、組織切片の残りから分離される。この抽出によって、考慮しなければならない組織切片の部分だけで生物分析を実施し、より多くの正確性を伴って、同じ組織切片の異なる部分間で区別することが可能になる。
【0078】
図6は、薬物に曝露されている組織サンプルの分子マップ(図6A)、次に分子マップの手動又は自動セグメンテーション及びROIの特定(図6B)、それに続くレーザーキャプチャーマイクロダイセクションによるROI抽出(図6C)を示す。
【0079】
特定の実施形態によれば、抽出されたROIを、生物分析を実施する前に培養培地中で培養する。
【0080】
特定の実施形態では、生物分析を両方のROIで実施し、関心対象の分子の効果を、遺伝子及び転写物の発現、リピドミクス、ペプチドミクス、プロテオミクス、ならびに/あるいは代謝変化を第1及び第2のROI(又は他)の間で比較することにより評価する。
【0081】
ROIの分子分析及び結果の比較試験によって、種々の理解に導かれうる。
【0082】
本発明によれば、分子分析のために実施される方法は、直接的な方法又は間接的な方法(例、抗体又はRNA配列のようなタグ分子を使用する)でありうる。例えば、分子分析は、関心領域のIHC、ISH、又はFISHイメージング、組織上の金属を検出するための、タグ付き抗体を使用した又は単独でのLA-ICPイメージング、ゲノム分析、SNIPS、LC-MS分析の使用により実施してもよい。
【0083】
特定の実施形態では、関心対象の分子に関連付けられるバイオマーカーは既に公知であり、分析工程は、前記バイオマーカーの検出及び/又は定量化に焦点を合わせている。本発明の方法を使用し、標的組織を非常に微細なレベルで特定することができる。本発明の方法はまた、標的組織内での薬物の予想される効果の最良の用量を決定するために、及び/又は薬物をスクリーニングするために使用されうる。
【0084】
図1は、薬物に関連付けられるバイオマーカー(BM)が既に公知である実施形態を例証する。腫瘍組織の分子マップは、薬物が組織の特定の部分上に局在化していることを示す(図1B)。対応するROI内のバイオマーカーの濃度の分析は、薬物がほとんど存在しないROIと比較し、薬物が濃縮されているROIにおけるBMの濃度の減少を示す(図1C)。本発明の方法によって、同じ組織切片の異なる部分間を区別することが可能になるのに対し、標準的な方法(LCMS)を用いた網羅的分析は、組織切片全体における薬物の網羅的な影響だけを示す。
【0085】
図4は、本発明の方法が薬物をスクリーニングするために使用される実施形態を例証する。2つの異なる候補(薬物A対薬物B)に関連付けられる、予想される効果を、ROI1及びROI2における薬物レベルに従って分析する(即ち、バイオマーカーの濃度の減少)。
【0086】
図5は、薬物に関連付けられるバイオマーカー(BM)が既に公知である実施形態を例証する。本発明の方法は、分析的複製を含み、生物学的バイアスを回避する1つのサンプルからの薬物の用量効果を決定するために実施する。異なるピクセル内のバイオマーカーの濃度の分析は、バイオマーカーの濃度に対する、組織内の薬物の濃度の影響を示す(図5B)。本発明の方法によって、所望の効果を得るために要求される薬物の用量、又は半有効量(所望の応答の50%を達成するために要求される用量)さえ決定することが可能になる。図5Bにおいて例証するように、有効性の50%について、薬物Bは薬物Aよりも強力である。逆に、25%の有効性について、薬物Aは薬物Bよりも強力である。
【0087】
別の実施形態によれば、ROIの分析は、関心対象の分子に関連付けられるバイオマーカーを同定するために実施される。
【0088】
質量分析によって、生体系における脂質、代謝物、ペプチド、又はタンパク質濃度の増加又は減少として、関心対象の分子の生物学的影響に関する分子情報が送達される。他の技術(IF、IHC、ELISA、ISH、分光光度法、又はUV蛍光)によって、標的に結合するタグ付けされた抗体又は核酸配列を使用して、標的化されるペプチド、タンパク質、RNA(リボ核酸)、及びDNA(デオキシリボ核酸)を評価及び定量化することが可能になる。これらの実施形態の全て又は一部を組み合わせて、同じ生物学的サンプルに対する異なる関心対象の分子の影響、及び/又は異なる濃度での関心対象の分子の影響、及び/又は異なる関心対象の生物学的サンプルに対する分子の影響などを示してもよい。
【0089】
本発明によれば、関心対象の分子に関連する画像をセグメント化するために、多重イメージング技術(例、質量分析イメージング)を用いて内因性化合物の使用により分子情報を標準化することが可能である。これは、変動性を最小化するのに役立ちうる。この場合では、外部又は内部の標準化合物を参照化合物として使用する。
【0090】
適用
【0091】
以下の実施例では、本発明の方法についての種々の適用を簡単に公開する。少なくとも1つの生物学的サンプル(例、インビトロテスト、インビボ動物)への薬物の投与後、イメージング技術を使用して薬物を検出及び局在化する。薬物についてのサンプルの分子マップが得られる。分子マップは強度に基づいてセグメント化され、2つの関心領域(ROI)が選択される。
【0092】
1-種々の分析方法を使用し、分子変化を特定する(例、代謝物、DNA、RNA、タンパク質、脂質、ペプチド、金属を標的化する質量分析又は質量分析イメージングの方法、あるいは2つの関心領域を比較するための他のイメージングの技術、ISH、IHC、MRI、PETイメージング)。次に、薬物が局在化した場合に増加又は減少する分子を特定する。薬物に関する結果をスコア化し、特定の細胞又は臓器の下部構造への薬物の影響を実証することが可能である。
【0093】
2-ROIは手動又は自動で(レーザーマイクロダイセクション機器を用いて)抽出され、分析方法を使用し、分子変化を特定する。生物分析の方法、例えば質量分析など又はPCRのような他の技術を使用し、2つの関心領域の内容を比較する。薬物に関する結果をスコア化し、特定の細胞又は臓器の下部構造への薬物の影響を実証することが可能である。
【0094】
3-種々の分析方法(例えば代謝物、DNA、RNA、タンパク質、脂質、ペプチド、金属を標的化する質量分析又は質量分析イメージング、あるいは2つの関心領域を比較するための他のイメージングの技術、ISH、IHC、MRI、PETイメージング)を使用し、分子変化を特定する。薬物が局在化した場合に増加又は減少する分子を特定する。非標的化合物についての結果をスコア化し、特定の細胞又は臓器の下部構造への薬物の影響を実証することが可能である。
【0095】
4-2つの生物学的サンプル中において2つの異なる薬物を使用する。2つのROIを、対応する生物学的サンプル内の対応する化合物の局在化に対応して選択する。種々の分析方法(例えばプロテオミクス、メタロミクス、トランスクリプトミクス、ゲノミクス、及びメタボロミクス(2つの関心領域を比較するためのリピドミクスを含む)の方法など)を使用して分子変化を特定する。次に、薬物が局在化する場所で増加又は減少する分子を特定する。標的化合物又は非標的化合物についての結果をスコア化し、薬物が位置付けられる特定の領域における用量反応(有効性又は毒性)を評価することが可能である。
【0096】
5-同じ生物学的サンプル中において2つの異なる薬物を使用する。ROI選択及び分析ツールとの比較の同じ工程で、2つのROIを選択する。異なる分析方法を使用して分子発現における差を試験する。両方の薬物が位置付けられるROIを選択し、分子変化に対するそれらの影響及び可能な相乗効果を試験することも可能である。
【0097】
6-より多くのROIを画像ピクセルとして作成し、分析的複製を含み、生物学的バイアスを回避する1つのサンプルからの薬物濃度範囲に基づいて薬物の用量効果を決定することができる。異なるピクセル内のバイオマーカーの濃度の分析は、バイオマーカーの濃度に対する組織内の薬物の濃度の影響を示す。本発明の方法は、所望の効果を得るために要求される薬物の用量、又は半有効量(所望の応答の50%を達成するために要求される用量)さえ決定することが可能になる。
【0098】
7-生物学的サンプルを、細胞中に浸透して分子相互作用及び生理学的変化を誘発する薬物とインビトロで接触させる。ROI選択及び分析ツールでの比較の同じ工程を使用し、潜在的に異なるROIを、異なる細胞表現型に対応して選択し、薬物への対応する応答を分析する(変異誘発、毒性など)。
【0099】
実施例
【0100】
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO1)は、トリプトファン(Trp)をキヌレニン(Kyn)に変換する酵素である。微小環境においてTrpを減少させ、Kynレベルを増加させることにより、腫瘍の免疫回避において決定的な役割を果たし、IDO1は、免疫腫瘍学(I-O)の分野における小分子創薬のための第1の標的の1つであった。強力で選択的なIDO1阻害剤、例えばエパカドスタット(EPA)などは、免疫系の適応度を回復することにより抗腫瘍活性を増強することが示された。
【0101】
本試験では、定量的質量分析イメージング(QMSI)を使用し、目的は、代謝物及び薬物を定量化すること、しかし、また、それらの組織学的局在化及び定量化によりより高い情報レベルに達することであった。本明細書では、定量的エクスビボ試験を報告し、それによって腫瘍の特定領域におけるエパカドスタット(EPA)の標的曝露及び薬理学的効果の有効性を強調することが可能になった。作用部位での及びその特定の標的への曝露が、創薬における成功のための最も重要な要因として特定されているため、本試験の目的は、腫瘍代謝に対するIDO1阻害剤の標的曝露及び腫瘍内薬力学効果を探索することであった。
【0102】
1.材料及び方法
【0103】
1.1.化学薬品及び試薬
【0104】
全ての化学物質(1,5-ジアミノナフタレン(1,5-DAN)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)、キヌレニン-d4;トリプトファン-d5、ギ酸、及びトリフルオロ酢酸を含む)をSigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から購入した。キヌレニン-13CをAlsachimから購入した。メタノール、アセトニトリル、及びOptima LC-MS水をFisher Scientific(マサチューセッツ州ウォルサム)から購入した。インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたスライドガラスをBruker Daltonics(ドイツ、ブレーメン)から購入した。
【0105】
一次ウサギ抗マウスIgGIDO[#106134]及び二次ヤギ抗ウサギIgG H&L(HRP)二次抗体[#205718]、及び西洋ワサビペルオキシダーゼ、それに続くSteady DAB/plus(茶色の色原体)を通る検出システムは全てAbCam(英国ケンブリッジ)から購入した。
【0106】
1.2.サンプル収集及び組織調製
【0107】
結腸癌CT26細胞株をBALB/cマウス(Charles River Laboratories、フランス)中に皮下移植した。マウスを無作為化し、処置を、腫瘍が70~120mm3の平均サイズを有した際に開始した。マウスは、100mg/kgでのIDO1阻害剤エパカドスタット(Syngene、インド)を用いた経口強制飼養により処置し、次に2時間後に屠殺した。腫瘍をサンプリングし、液体窒素で15秒間にわたり急速凍結した。サンプルを使用まで-80℃に保った。10マイクロメートルの厚さの組織切片を、ミクロトームチャンバー及び-23℃で冷却した検体ホルダーを伴うクリオスタットミクロトーム(CM-3050S、ライカ、ドイツ)を使用して得た。組織切片を、下流のMALDIイメージングのためにITOコーティングされたスライド上に解凍マウントし、連続切片を、組織学及び免疫組織化学(IHC)分析のためにSuperFrostスライド上にマウントした。二通りの生物学的複製(離れた連続切片)を、分析の再現性のために実施した。LC-MS/MS分析のために、10μmの厚さの5つの組織切片を回収し、検量線ならびにEPA、Kyn、及びTrpの定量化を実施した。全ての動物実験が、実験動物福祉に関する2010/63/UE欧州指令に準拠しており、倫理委員会によって承認された。
【0108】
1.3.エパカドスタット薬の定性的及び定量的MALDI分析
【0109】
EPA検量線を、2つの工程(大きく、次に制限された範囲)に従って測定した。次に、検出の下限(LOD)、定量化の下限(LLOQ)、及び直線性パラメーターの限界を、10μmの厚さの対照腫瘍組織切片上で少なくとも10のスポット濃度を使用して実施されている検量線について定義した。濃度範囲は、EPAについて125から1pmolまでで、それを線形回帰モデルとして検証した。同じITOスライド上に、検量線及び関心対象の組織切片(二通りの1つの対照及び3つの処置済み)を沈着させて分析した。次に、50/50 ACN/HOマトリックスを伴う10mg/mLで調製された、ろ過された1,5-ジアミノナフタレン(1,5-DAN)の均一層を、HTX-TM噴霧器デバイス(HTX Technologies、LLC、ノースカロライナ州カーボロ)を使用して腫瘍組織切片上に沈着させた。MALDI MSI分析を、SmartBeam IIレーザーを伴う7T MALDI-FTICR(SolariX XR、Bruker Daltonics、ドイツ、ブレーメン)を使用して実施した。エパカドスタットについてのMSIデータを、オンラインキャリブレーションを使用し、120μmの空間分解能で、CASI負イオンモード(m/z範囲436.0 +/- 30)において記録した。データ取得は、Bruker DaltonicsからのFlexソフトウェア(FtmsControl 2.1.0)を使用して実施した。次に、Multimagingソフトウェア(ImaBiotech SAS)を使用し、計算式を得て、異なる量(pmol/mm2)を抽出した。組織のμg/gへの量変換を、作成された関心領域(ROI)において得た。
【0110】
1.4.Trp及びKynの定性的及び定量的MALDI分析
【0111】
Kynは検出可能ではなく、Trpが、CT26腫瘍モデルにおいて古典的な方法を使用してわずかに見られたため、誘導体化戦略が必要であった。誘導体化反応は、中性分析物にC1116N+(Xとして)ユニットを加えることを意味する。薬剤を、自動噴霧器(Suncollect、Sunchrom)を使用して適用し、室温でのインキュベーションのために30分間静置した。次に、Kyn-d4誘導体化内部標準を0.5μmで混合した50/50 MeOH/HO+1%TFAマトリックスを伴い、40mg/mLで2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)の均一層を調製し、HTX-TM噴霧器装置(HTX Technologies、LLC、ノースカロライナ州カーボロ)を使用し、腫瘍組織切片及び検量線上に噴霧した。同位体修飾化合物を使用しており、組織抑制効果は、組織内に存在する場合、同じ抑制効果を得ることを可能にするはずである。重水素化標準(Trp-d5及びKyn-13C)を使用して検量線を実施し、内因性化合物との内部干渉を回避したことに注意すること。次に、MALDI MSI分析を、SmartBeam IIレーザーを伴う7T MALDI-FTICR(SolariX XR、Bruker Daltonics、ドイツ、ブレーメン)を使用して実施した。キヌレニン及びトリプトファンについてのMSIデータを、オンラインキャリブレーションを使用し、120μmの空間分解能での正イオンモード(CASI、m/z範囲350.0 +/- 150)において記録した。データ取得は、Bruker DaltonicsからのFlexソフトウェア(FtmsControl 2.1.0)を使用して実施した。
【0112】
1.5.他の代謝物のMALDI-FTICRイメージング
【0113】
他の代謝物のMALDI MSIについて、50/50 ACN/HOマトリックスを伴う、10mg/mLで調製された、ろ過された1,5-ジアミノナフタレン(1,5-DAN)の均一層を、HTX-TM噴霧器装置(HTX Technologies、LLC、ノースカロライナ州カーボロ)を使用して腫瘍組織切片上に沈着させた。次に、MALDI MSI分析を、SmartBeam IIレーザーを伴う7T MALDI-FTICR(SolariX XR、Bruker Daltonics、ドイツ、ブレーメン)を使用して実施した。代謝物についてのMSIデータを、オンラインキャリブレーションを使用し、120μmの空間分解能で、フルスキャン負イオンモード(m/z範囲100~1000)において記録した。データ取得を、Bruker DaltonicsからのFlexソフトウェア(FtmsControl 2.1.0)を使用して実施した。
【0114】
1.6.LC-MS/MS分析
【0115】
検量線(0から500nM)を、5nMの内部標準(Kyn-d4及びTrp-d5)を含む水中で調製した。その後、0.5と2mgの間の連続腫瘍切片を、10nMの内部標準を含むメタノール/水抽出溶液中に収集した。一晩撹拌抽出を4℃で実施し、次に3000×g、4℃/15分での遠心分離によって、Kyn及びTrpの両方の検量線及びLC-MS/MS分析のために使用した全ての切片から上清を回収することが可能であった。腫瘍については、水中での1/2の希釈を分析前に実施した。合計5μLをLC-MS/MSシステム中に注入した。追加のろ過工程は必要ではなかった。LC-MS/MSシステムは、RSカラムコンパートメント、RSポンプ、及びTSQ Quantiva Thermo Scientific(Thermo Fisher Scientific)に結合されたWatersカラム(Cortecs C18 75×3mm、粒子サイズ=2.7μ)を含むRSオートサンプラー(Dionex Ultimate 3000、Thermo Fisher Scientific)で構成される、超高速液体クロマトグラフィー焦点+LCシステムからなった。データの取得及び処理を、TSQ Quantivaソフトウェアバージョン2.0 1292及びXcalibur 3.0ソフトウェアを使用して行った。
【0116】
1.7.MSIデータの処理及び分析
【0117】
1.2ソフトウェア(ImaBiotech SAS)。このマルチモーダルイメージングプラットフォームは、細胞レベルでのOmics情報の理解のために、定量的質量分析イメージング(QMSI)及び顕微鏡プラットフォームを統計分析と組み合わせる。MSIデータは、各々の組織切片ならびに組織切片に隣接するマトリックス対照領域から取得され、サンプル調製の間での分析物の分散/非局在化をチェックした。従って、EPA及び/又はKynの存在に関連するROIは、画像セグメンテーションアルゴリズムにより与えられた。最初に、アルゴリズムによって、分子信号閾値に基づいてサンプルを異なるクラス中にセグメント化した(EPA及びKynの両方について、この試験の場合において2つのクラス又はROI)。次に、アルゴリズムによって2つのROIが平滑化し、それらを連結空間中に変換した。最後に、曝露スコアを、Multimagingソフトウェアを使用し、以下の式を使用して算出した:
濃度(ROI)*NROI/濃度(合計)*NTotal
ROIはROI内のピクセル数及びNTotalはサンプル全体内のピクセル数。
【0118】
1.8.免疫組織化学分析、デジタルスキャン画像、及び高解像度オーバーレイ
【0119】
連続切片を、Abcam(英国ケンブリッジ)から購入し、新鮮な凍結組織切片に適合させたウサギポリクローナル抗体を使用し、IDO1の組織学的局在化について染色した。切片を最初に0.5% Triton-Xに室温で15分間にわたり曝露させ、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、一次抗IDO1抗体(1:50希釈)を添加し、そしてヤギ抗ウサギIgG H&L(HRP)二次抗体(1:2000)で処理した。検出システムは、西洋ワサビペルオキシダーゼ、それに続くSteady DAB/plus(茶色の色原体)を通った。
【0120】
MSIデータ取得後、任意の残留マトリックスを100%メタノール洗浄で除去し、組織サンプルを次に、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)溶液で染色した。H&E染色又はIHCの高解像度の組織学的画像を次に、デジタルスライドスキャナー(3D Histech Pannoramic)を使用して記録し、次にMultimaging技術へ負荷し、畳み込み分子画像を伴った高解像度のオーバーレイを実施した。
【0121】
2.結果
【0122】
2.1.エパカドスタット薬物の検出、定量化、及び組織学的局在化
【0123】
QMSI及びLC-MS/MS分析を実施し、CT26組織、血漿、及び血液サンプル中の絶対エパカドスタットレベルを定量化した。最初に、サンプル調製及び開発方法がEPAQMSI分析のために行われた。検量線を対照CT26組織切片上にスポットし、12μg/gでの検出の限度(LOD)及び15μg/gでの定量化の下限(LLOQ)を伴う12~870μg/gの直線性範囲を示す検量線(R=0.996)を得ることが可能になった(図7A)。次に、最初のEPA同位体(m/z 435.9844)の組織学的局在を示す分子画像を、1つの対照及び3つの処置切片において、各々二通りに示した。QMSIを次に、得られた検量線を使用して実施し、(3つの生物学的トリプリケートについて38~53μg/g)の間の量を与えた(図8A)。LC-MS/MSの定量化も連続CT26組織切片で実施した。図7Bは、nMで得られたEPA検量線を示す。平均EPA量は、LC-MS/MS対QMSIを使用した場合にそれぞれ38.5μg/g対46μg/gであり(図8B)、両方の技術の間で17%の変動を示した。EPA定量化を、血漿及び血液でも実施した(図8C)。
【0124】
2.2.標的曝露分析
【0125】
標的曝露分析では、最初にEPA信号の自動セグメンテーションによって2つのROI(1及び2)が強調された。次に、EPAの絶対定量化を評価し(QMSIを使用)、3つの領域(高EPAについてのROI 1、低EPAについてのROI 2、及び処置された腫瘍全体についてのROI 3)から自動的に抽出した。結果は、ROI 1において68μg/g、ROI 2において25μg/g、及び切片全体(ROI 3)において42μg/gの量を示した;これは、EPA信号のほぼ61%(26μg/g)が組織切片全体の38%(ROI 1)内に集中し、39%(15μg/g)が62%の左腫瘍領域(ROI 2)中にあったことを意味する(図9A)。その後、IDO1酵素発現の強度を免疫染色により強調した。このように、半定量分析によって、最高レベル(1)から最低レベル(2)に移動するIDO1発現の異なるレベルを示す2つの領域を区別することが可能であった(図9B)。IDO1発現レベル(組織学による半定量的評価)及びEPAレベルの間の正の相関も興味深く注目された。
【0126】
2.3.Kyn及びTrp代謝物の薬力学試験
【0127】
内因性代謝物に関しては、検出の感度を改善させる場合、最適化された誘導体化工程によって、Trp及びKynの両方の検出及び定量化が可能になった。エパカドスタット、Trp、及びKynの組織学的局在化を、MSI分析を使用してCT26腫瘍上に示した(図10A)。分子画像によって、処置された組織と比較し、対照CT26組織でより高いKynレベル及びより低いTrpレベルが示された。その後、QMSIについて、同じ誘導体化戦略を使用し、標準化されたTrp及びKynの両方の検量線を実施した(図11A)。対照及び処置されたCT26組織切片でのKyn及びTrpの両方のQMSI及びLC-MS/MS分析を使用した絶対定量化、それに続いてKyn/Trp比率の算出を図9Bにプロットし、それは両方の技術間で良好な相関関係を示した。Kyn/Trp比率の減少がEPA処置後に認められ、6倍の減少が、使用された技術を問わず見出された。血漿サンプル及び血液サンプルも分析し、結果は、処置された場合、Kyn/Trp比率の3倍の減少を示した(図11B)。
【0128】
2.4.標的曝露から応答有効性分析まで:CT26腫瘍マウスモデルに対するEPAの領域性/薬理学的効果
【0129】
EPA薬物の薬理学的有効性を、IDO1酵素の直接的な酵素産物としてのKyn代謝物の絶対定量化を通じて追跡した。3つのROIにおける絶対Kyn量は、腫瘍全体の38%(ROI 1)における15%及びROI 2における85%のKynの存在を示した(図12A)。最後に、EPA及びKynとしての乳酸代謝物の組織学的分布を図12B中に示し、全ての分子の相対強度を高及び低EPA領域(それぞれ1及び2)のすべてのx及びy位置から抽出したプロットが続いた。負の相関がEPA、Kyn、及び乳酸代謝物の間にそのように見出されたが、なぜなら、ROI 1での高いEPAレベルが、Kyn及び乳酸の両方の低い発現レベルに対応するためである(図12C)。
【0130】
結果の分析
【0131】
試験の結果は、血漿及び血液中でそれぞれ6.6 +/- 1μg/g及び7.3 +/- 2μg/gの間の量を示した(図7C)。次に、処置されたCT26腫瘍のLC-MS/MS及びQMSIを使用したところ、組織上の利用可能なEPA量は血漿よりも3倍又は4倍高く(35~48μg/g)、両方の技術間での20%未満の変動を伴った。EPA阻害効果に関連して、キヌレニンレベルの減少が用量依存的な様式で、血漿中で認められた。この実験では、1日の経過にわたり、100mg/Kg用量で、>50%抑制が約24時間にわたり見られた。
【0132】
本発明者らの最後の試験では、25~34μg/g(P815高IDO1)から<60ng/g(P815低IDO1)までのP815マウスモデルでのKynレベルの減少が示された。
【0133】
この試験では、CT26マウス結腸癌細胞が、IDO1を発現することが周知であり、このために腫瘍成長に対するIDO1阻害の効果を決定するために使用された。実際に、CT26モデルはIDO1阻害剤の薬理学的評価のために既に十分に使用されていた。歴史的には、薬物の存在量及び分布は、十分に確立された技術、例えば定量的全身オートラジオグラフィー(QWBA)又はLC-MS/MS分析を用いた組織均質化などにより評価されてきた。しかし、QWBAは活性薬物をその代謝物から区別せず、及びLC-MS/MSは高感度であるが、空間分布を報告しない。質量分析イメージング(MSI)は、薬物及びその代謝物ならびに内因性化合物を識別し、同時にそれらの分布を報告することができる。MSIデータは薬物開発に影響を及ぼしており、現在、例えばDMPK、PD、及び毒性などの分野における研究試験において使用されている。
【0134】
本試験では、標的曝露研究の目的のためにQMSI技術を使用することの高い影響が示された。対照及び処置されたCT26腫瘍を比較する場合、特定の領域を、内部に含まれるEPA量に関してセグメント化した。EPAへの腫瘍曝露はそのように確認され、2つの識別可能な領域が抽出された(高EPAについて1及び低EPAについて2)。ほぼ、68μg/gに相当するEPA薬物の61%が、腫瘍全体の38%において局在化していた。IDO1酵素の半定量分析では、ROI 2と比較し、ROI 1におけるIDO1の高発現が示されたが、それは、そのIDO1標的へのEPA曝露を裏付けた。
【0135】
Kyn及びTrpの基礎レベルはかなり低かったため、誘導体化工程を開始し、内因性代謝物の組織上での局在化を可能にした。MALDI MSIは、幅広い質量範囲にわたる多様な分析物の多重検出に使用されるため、分析物の対象は、より豊富な化合物に高度に限定される。組織上又は組織内の分析物の化学的誘導体化は、分析物のクラスに特異的な官能基に選択的にタグを付け、同時にそれらの分子量を変化させ、それらのイオン化効率を改善させ、そうして、それらの感度を改善させることにより、これらの問題に対処する。このため、Trp及びKynの感度が増加し、組織上の分布及び定量化の試験が可能になった。いくつかの試験によって、癌患者からの血清が、正常なボランティアからの血清よりも高いKyn/Trp比率を有することが示されたが、これは増加したIDO1活性と一致している。QMSI及びLC-MS/MSの両方を使用し、本発明者らのデータによって、対照を、処置されたCT26組織、血漿、及び血液と比較した場合、それぞれ6倍及び3倍のKyn/Trp比率の減少が示された(図11B)。
【0136】
同様に、Kyn/Trp比率は、LC-MS/MSが代謝物の定量化のために使用された、多くの癌:子宮頸癌、膠芽腫、及び肺癌などにおける予後診断ツールとして最近検証された。次に、EPAが存在しない領域(対照腫瘍)と比較し、Kyn発現が抽出され、EPAの存在及びKynに対するその薬理学的効果の間での領域性の相関関係が示された。
【0137】
最後に、IDO1酵素免疫染色を実現し、EPA標的の組織学的局在化を見ることが可能になった。IDO1阻害に関連づけられる基質及び産物の変化以上に、癌細胞は、健康な組織から区別され、代謝過程を薬理学的標的化に感受性にする代謝変化を示した。細胞代謝物は非常に多様な物理化学的特性を有し、それらの検出及び定量化のための種々の分析方法の組み合わせを必要とする。特定の代謝物の存在によって、腫瘍の代謝状態が知らされうる;しかし、代謝物の存在量のみの測定から特定の代謝経路の活性を推測することは必ずしも簡単ではない。
【0138】
本試験の結果によって、乳酸分子及びEPA分子の間での組織学的な抗局在化が示された。乳酸は解糖経路の最終産物であるため、その減少は、EPAが高度に濃縮された同じ組織学的領域での顕著な解糖の減少に対応した。代謝物、例えば乳酸及びブドウ糖などの領域レベルを評価することを、脳の急速凍結生検における虚血についての定量的生物発光イメージングを使用して実施した。
【0139】
多種多様な腫瘍及び種類の癌にわたり、乳酸は予後指標であることが実証されたが、なぜなら、その上昇レベルが、より不良な患者の予後、不良な無病又は無転移生存率、ならびにヒト子宮頸癌、頭頸部及び頸部癌、高悪性度神経膠腫、及び非小細胞肺癌における不良な全生存率と相関したからである。この特色によって、乳酸代謝は生物学的マーカーとしてだけでなく、しかし、また、潜在的な治療用エンドポイント又は標的としての、さらなる研究のための目的となる。
【0140】
その後、腫瘍細胞においてIDO1を阻害し、Kynを減少させることにより、EPAは種々の細胞の増殖、活性化、及び調節を回復させた。実際に、これはEPAの薬理学的効果を裏付けうる。さらに、TCA回路及びエネルギー経路代謝も、MALDI MSIを使用することで強調され、異なる組織学的局在化及び相対強度を示す(データは示さず)。代謝物の特定の群の存在によって、腫瘍の代謝状態が知らされうる。細胞外腫瘍微小環境の特徴付けが実現され、解糖系の特性、例えば乳酸、グルコース、リンゴ酸、クエン酸、グルタミン、及びプロリンなどを示した。一般的な状況は、腫瘍において、より高い割合のグルコース炭素がミトコンドリアから転用され、乳酸に変換されたということであった。また、プロリン合成に関連するグルタミン代謝及び機能を示す。最後に、プリンヌクレオチドの分解も示した。
【0141】
3.結論
【0142】
結論づけると、これらの結果によって、EPAのインサイチュPK/PD試験を強調することを可能にする定量的な超高質量分解能試験が報告された。実際に、種々の試験が実現された。
・生体内分布及びバイオアベイラビリティ試験を、組織上の薬物定量化を通じて実施した。
・標的組織曝露試験を、バイオマーカー及び/又は薬物の組織学的局在化に基づく組織セグメンテーション後に行った。
・薬力学試験も実施し、応答効果への領域性の薬物曝露が示され、それによって有効性分析が可能になった。
【0143】
実際に、作用部位での及びその特定の標的への曝露が、創薬及び化学プローブの設計における成功のための最も重要な要因として特定され、これらの結果によって、標的占有率及び薬物有効性の間の関係を試験するための、QMSI、より一般的にはMSIの高い寄与が示され、確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】