(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(54)【発明の名称】複合硫化物電極及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20220303BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20220303BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/36 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562771
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 KR2019016015
(87)【国際公開番号】W WO2020145504
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0001587
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521300898
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレーション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION GYEONGSANG NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】501 Jinju-daero Jinju-si Gyeongsangnam-do 52828 REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100137903
【氏名又は名称】菅野 亨
(72)【発明者】
【氏名】アン ジュヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リ ヨンキ
(72)【発明者】
【氏名】チョ ギュボン
(72)【発明者】
【氏名】チョ クォン-クー
(72)【発明者】
【氏名】アン ヒョジュン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
複合硫化物電極及び製造方法が開示される。複合硫化物電極の製造方法は、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)及び金属酸化物を混合した混合溶液を生成するステップと、生成された混合溶液を撹拌させるステップと、撹拌された混合溶液を電界紡糸(Electrospinning)させ、PAN内に金属酸化物を含むワイヤ型前駆体を生成するステップと、生成されたワイヤ型前駆体を乾燥させるステップと、乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合するステップと、混合されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とにガスを注入し、ワイヤ型前駆体を硫化処理するステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)及び金属酸化物を混合した混合溶液を生成するステップと、
前記生成された混合溶液を撹拌させるステップと、
前記撹拌された混合溶液を電界紡糸(Electrospinning)させ、PAN内に金属酸化物を含むワイヤ型前駆体を生成するステップと、
前記生成されたワイヤ型前駆体を乾燥させるステップと、
前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合するステップと、
前記混合されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを熱処理し、前記ワイヤ型前駆体を硫化処理するステップと
を含む複合硫化物電極の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶液を生成するステップは、
前記PANと前記金属酸化物とを、5:1ないし1:5の割合で混合することを特徴とする請求項1に記載の複合硫化物電極の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合するステップは、
前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを、1:1ないし1:9の割合で混合することを特徴とする請求項1に記載の複合硫化物電極の製造方法。
【請求項4】
前記硫化処理するステップは、
500度ないし700度の温度で5時間ないし7時間をかけて、アルゴン雰囲気下で前記ワイヤ型前駆体を硫化処理することを特徴とする請求項1に記載の複合硫化物電極の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、
Fe、Ni、Co又はCuの金属成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合硫化物電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で製造される複合硫化物電極。
【請求項7】
前記複合硫化物電極は、
繊維状の活物質を含み、
前記繊維状の活物質は、
硫化ポリアクリロニトリル(Sulfurized Polyacrylonitrile:SPAN)及び前記SPAN内部に粒子状で含まれた金属硫化物を含むことを特徴とする請求項6に記載の複合硫化物電極。
【請求項8】
前記金属硫化物は、
Fe、Ni、Co又はCuの金属成分と硫黄成分とが組み合わせられたことを特徴とする請求項7に記載の複合硫化物電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合硫化物電極及び製造方法に関し、より詳細には、合成された異種硫化物を含む複合硫化物電極及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車及びエネルギー保存システム(ESS)のような高エネルギー密度アプリケーションに対するエネルギーの需要が増加するにつれ、先端のエネルギー保存装置に対する関心が高まっている。このような観点から、近来、リチウム及びナトリウムベースエネルギー保存装置に対する研究が盛んに行われている。高エネルギー密度アプリケーションを商用化するために、リチウムイオンバッテリ(Lithium-ion battery:LIB)及びナトリウムイオンバッテリ(Sodium-ion battery:SIB)のいずれにおいて、高性能電極物質を開発することが必須である。理論上高い容量を有する遷移金属硫化物は、リチウム及びナトリウムイオン保存のための電極物質として脚光を浴びている。しかし、広く研究されている二次電池用電極物質であるFeS2の場合のように、ナノFe0の形成と凝集作業及びサイクリング過程で生成された多硫化物生成物による非可逆的な容量の損失のために、実際の応用は制限される。なお、大きな体積の変化による大きな変形(huge strain)は電極構造を破壊し、サイクル寿命(cycle life)を制限する。
【0003】
そのため、エネルギー密度を損なわずに、硫化物ベース電極の容量とサイクル性(cyclability)を向上させることができる複合物質硫化物電極に対する必要性が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、特性に優れており、工程を簡素化できる複合硫化物電極及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような目的を達成するための本発明の一実施形態によると、複合硫化物電極の製造方法は、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)及び金属酸化物を混合した混合溶液を生成するステップと、前記生成された混合溶液を撹拌させるステップと、前記撹拌された混合溶液を電界紡糸(Electrospinning)させ、PAN内に金属酸化物を含むワイヤ型前駆体を生成するステップと、前記生成されたワイヤ型前駆体を乾燥させるステップと、前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合するステップと、前記混合されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを熱処理し、前記ワイヤ型前駆体を硫化処理するステップとを含む。
【0006】
そして、前記混合溶液を生成するステップは、前記PANと前記金属酸化物とを、5:1ないし1:5の割合で混合してよい。
【0007】
なお、前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合するステップは、前記乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを、1:1ないし1:9の割合で混合してよい。
【0008】
なお、前記硫化処理するステップは、500度ないし700度の温度で5時間ないし7時間をかけて、アルゴン雰囲気下で前記ワイヤ型前駆体を硫化処理してよい。
【0009】
一方、前記金属酸化物は、Fe、Ni、Co又はCuの金属成分を含んでよい。
【0010】
以上のような目的を達成するための本発明の一実施形態によると、複合硫化物電極は上述の製造方法で製造される。
【0011】
そして、前記複合硫化物電極は、繊維状の活物質を含み、前記繊維状の活物質は、硫化ポリアクリロニトリル(Sulfurized Polyacrylonitrile:SPAN)及び前記SPAN内部に粒子状で含まれた金属硫化物を含んでよい。
【0012】
一方、前記金属硫化物は、Fe、Ni、Co又はCuの金属成分と硫黄成分とが組み合わせられてよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、複合硫化物電極及び製造方法は、金属硫化物とSPANとのいずれもを含む複合活物質電極を提供することができるようになる。
【0014】
そして、複合硫化物電極及び製造方法は、高い理論的容量と安定性とを備えたSPANにより、金属硫化物の容量と寿命を向上させることができるようになる。
【0015】
なお、複合硫化物電極及び製造方法は、金属硫化物により、SPANの伝導性の問題を補うことで、高エネルギー密度アプリケーションのための相乗効果のある二重活物質電極を提供することができるようになる。
【0016】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限らず、言及していない更に別の効果は、以下の記載から通常の技術者に明確に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極を製造する過程を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極を説明する図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る電極物質の走査電子顕微鏡イメージを示す図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係る電極物質の走査電子顕微鏡イメージを示す図である。
【
図4C】本発明の一実施形態に係るX線回折パターンを示す図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係るTEMイメージを示す図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係るTEMイメージを示す図である。
【
図5C】本発明の一実施形態に係るEDSマッピングイメージを示す図である。
【
図5D】本発明の一実施形態に係るEDSマッピングイメージを示す図である。
【
図6A】本発明の一実施形態に係るラマンスペクトルイメージを示す図である。
【
図6B】本発明の一実施形態に係るFTIRスペクトルイメージを示す図である。
【
図6C】本発明の一実施形態に係るTGA曲線を示す図である。
【
図7A】本発明の一実施形態に係るリチウムセルの複合硫化物電極の充放電曲線を示す図である。
【
図7B】本発明の一実施形態に係るリチウムセルの複合硫化物電極のサイクル性能を示す図である。
【
図8A】本発明の一実施形態に係るナトリウムセルの複合硫化物電極の充放電曲線を示す図である。
【
図8B】本発明の一実施形態に係るナトリウムセルの複合硫化物電極のサイクル性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、添付図面を参照し、多様な実施形態を更に詳細に説明する。本明細書に記載された実施形態は、多種多様に変形されてよい。特定の実施形態が図面に示され、詳細な説明で詳しく説明されてよい。しかし、添付の図に示された特定の実施形態は、多様な実施形態を簡単に理解できるようにするためのものである。従って、添付の図面に示された特定の実施形態によって技術的思想が制限されるものではなく、発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての均等物又は代替物を含むものとして理解されるべきである。
【0019】
第2などのような序数を含む用語は、多様な構成要素を説明するのに使われてよいが、このような構成要素は、上述の用語によって限定されることはない。上述の用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみで使用される。
【0020】
本発明において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたことが存在することを指定するためのものであって、一つ又はそれ以上の他の特徴や、数字、ステップ、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性を予め排除しないものとして理解されるべきである。ある構成要素が他の構成要素に「連結されている」か「接続されている」と言及された際には、その他の構成要素に直接接続されているか、又は接続されていることもあるが、中間で他の構成要素が存在することもあると理解されるべきである。一方で、ある構成要素が他の構成要素に「直接連結されている」か「直接接続されている」と言及される際には、中間で他の構成要素が存在しないと理解されるべきである。
【0021】
その他にも、本発明を説明するうえで、関連の公知の機能或いは構成に対する具体的な説明が、本発明の要旨を不要に曖昧にするおそれがあると判断される場合、それに関する詳しい説明は省略する。一方、各実施形態は、独立的に実現されるか動作されることもあるが、各実施形態は組み合わせられて実現されるか動作されてよい。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極の製造方法を示すフローチャートであり、
図2は、本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極を製造する過程を説明する図である。
図1及び
図2を参照し、複合硫化物電極の製造過程について説明する。
【0023】
複合硫化物電極は、硫化金属(MwSz)を含むポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)を含む。硫化金属を含むポリアクリロニトリルは、繊維状に形成されてよい。硫化金属を含むポリアクリロニトリル繊維は、電界紡糸法に続く硫化処理工程で合成されてよい。
【0024】
複合硫化物電極を製造するためには、まず、複合硫化物電極の製造工程は、ポリアクリロニトリル及び金属酸化物(MxOy)を混合した混合溶液の生成過程を行う(S110)。金属酸化物は、Fe、Ni、Co又はCuの金属成分を含んでよい。例えば、金属酸化物がFe2O3である場合、PAN及びFe2O3ナノ粒子は、約5:1ないし1:5の割合でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10ml溶液に均一に分散されてよい。即ち、混合溶液は、PANと金属酸化物とを約5:1ないし1:5の割合で混合して生成されてよい。
【0025】
複合硫化物電極の製造工程は、生成された混合溶液を撹拌する過程を行う(S120)。例えば、混合溶液は、均一に撹拌できるように約6時間ないし12時間撹拌されてよい。
【0026】
複合硫化物電極の製造工程は、撹拌された混合溶液を電界紡糸させ、PAN内に金属酸化物を含むワイヤ型前駆体の生成過程を行う(S130)。例えば、複合硫化物電極の製造工程は、混合溶液を脱気させる脱気過程を行ってよい。そして、複合硫化物電極の製造工程は、混合溶液を注射器のポンプに備えられた注射器11に入れ(loaded)、電界紡糸過程を施して金属酸化物/PANナノ繊維を生成してよい。電界紡糸過程は、高電圧電源装置12を介して電圧を印加し、グラウンドと接続された集電装置(current collector)13を回転させ、集電装置13の表面から金属硫化物/PANナノ繊維を獲得する過程を意味する。一実施形態として、作動電圧は20kV、流速は0.3ml h
-1、ニードルチップと集電装置との間の距離は15cm、湿度は26~28%で維持されてよい。獲得された金属硫化物/PANナノ繊維は、繊維質マット状であってよい。金属酸化物/PANナノ繊維がワイヤ型前駆体であり、金属酸化物がFe
2O
3である場合、Fe
2O
3/PANナノ繊維が生成されてよい。即ち、
図2に示すように、Fe
2O
3/PANナノ繊維は、ワイヤ状のPAN51の内部にFe
2O
3(52)ナノ粒子の分布された形態であってよい。
【0027】
複合硫化物電極の製造工程は、生成されたワイヤ型前駆体を乾燥する過程を行う(S140)。生成された繊維質マット状のワイヤ型前駆体は、残留溶媒を除去するために乾燥されてよい。例えば、生成された繊維質マット状のワイヤ型前駆体は、約6時間真空状態で乾燥されてよい。
【0028】
複合硫化物電極の製造工程は、乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合する過程を行う(S150)。例えば、ワイヤ型前駆体と硫黄粉末とは、約1:1ないし1:9の割合で混合されてよい。
【0029】
複合硫化物電極の製造工程は、混合されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とにガスを注入し、ワイヤ型前駆体を硫化処理する過程を行う(S160)。例えば、ワイヤ型前駆体と硫黄粉末との混合物は、約500度ないし700度の温度で、約5時間ないし7時間アルゴン雰囲気下でランプ速度約5度(5℃)/分の速度で硫化処理されてよい。上述の過程により、金属硫化物の混入された硫化ポリアクリロニトリルナノ繊維(metal sulfide incorporated sulfurized polyacrylonitrile nanofiber)が獲得されてよい。上述のように、複合硫化物の製造工程で金属酸化物がFe2O3である場合、硫化鉄(FeS)又は二硫化鉄(FeS2)の混入された硫化ポリアクリロニトリル(sulfurized polyacrylonitrile:SPAN)ナノ繊維が獲得されてよい。ワイヤ型前駆体と硫黄粉末との混合割合に応じて、硫化ポリアクリロニトリルナノ繊維に硫化鉄又は二硫化鉄が混入されてよい。
【0030】
なお、金属酸化物がFe、Ni、Co又はCuの金属成分を含む場合、金属硫化物はそれぞれFe、Ni、Co又はCuの金属成分を含んでよい。獲得された金属硫化物の混入された硫化ポリアクリロニトリルナノ繊維は、複合硫化物電極として使用されてよい。即ち、
図2に示すように、複合硫化物電極は、硫化ポリアクリロニトリルナノ繊維110の内部に硫化鉄120を含んでよい。
【0031】
図3は、本発明の一実施形態に係る複合硫化物電極を説明する図である。
【0032】
図3を参照すると、ワイヤ型前駆体が示されている。ワイヤ型前駆体は、金属酸化物(MxOy)52粒子が内部に分布されたPAN51であってよい。上述のように、ワイヤ型前駆体は、PANと金属酸化物とを混合した混合溶液を電界紡糸させて獲得されてよい。金属酸化物52は、Fe、Ni、Co又はCuの金属成分を含んでよい。ワイヤ型前駆体は、硫化処理されてよい。硫化処理は、乾燥されたワイヤ型前駆体と硫黄粉末とを混合した後、アルゴン雰囲気下で行われてよい。ワイヤ型前駆体が硫化処理されると、金属硫化物(MwSz)120の混入されたSPAN110ナノ繊維が獲得されてよい。例えば、金属酸化物がFe
2O
3である場合、金属硫化物はFeSであってよい。硫化処理されたナノ繊維は、SPAN110の内部に金属硫化物120粒子を含んでよい。SPAN110及び金属硫化物120は、いずれも正極活物質の役割を行ってよい。
【0033】
従来の技術の場合、正極活物質としてSPAN又はFeSのみを使用する。SPANを活物質として使用する電極は、安定性の長所を有するが、容量や伝導性が劣るという短所を有し、FeSを活物質として使用する電極は、容量や伝導性の長所を有するが、安定性が劣るという短所を有する。しかし、本発明の複合硫化物電極は、SPANの内部にFeS(又は、金属硫化物)粒子が含まれているため、FeSを活物質として使用する電極と、SPANを活物質として使用する電極の長所を全て備え持つことができる。なお、本発明の複合硫化物電極のSPANは、硫化処理されたグラファイト(graphite)であってよい。従って、従来の電極は、活物質の他に、導電材とバインダとが追加で必要になるが、本発明の複合硫化物電極のSPANは、導電材の役割を行うことができるため、別途の導電材が必要でなくなる。なお、本発明の複合硫化物電極は、SPANの内部にFeS(又は、金属硫化物)粒子の混入された構造であるため、別途のバインダを必要としないという長所がある。
【0034】
以下では、一実施形態として、金属酸化物はFe2O3であり、金属硫化物はFeSであるサンプルを分析した結果について説明する。硫化処理前の電界紡糸されたナノ繊維(Fe2O3/PAN繊維)及び複合硫化ナノ繊維(FeS/SPAN繊維)の形態学的分析は、電界放出走査電子顕微鏡(Field emission scanning electron microscopy:FE-SEM)で行われ、構造的特徴は、Cu Ka X線ソースを有するX線回折計を使って、サンプルの回折パターンを記録して決定されている。高解像度透過電子顕微鏡(High-resolution transmission electron microscopy:HR-TEM)イメージは、複合硫化ナノ繊維の構造的及び形態学的側面から確認するために、300kVの加速電圧で作動する透過電子顕微鏡を使って、記録されて分析されている。FeS/SPANの特性ピークは、FT-IR分光器及びHRマイクロラマン分光計で分析されている。活性物質含量(FeS/SPAN)(amount of active material content)は、大気圧下の常温で800度まで10度/分のランプ速度でサンプルの熱重量分析によって測定されている。X線光電子分光スペクトル(X-ray photoelectron spectroscopy spectrum, XPS)は、単色Al Ka X線ソースを使って収集されている。
【0035】
図4A及び
図4Bは、本発明の一実施形態に係る電極物質の走査電子顕微鏡イメージを示す図である。
【0036】
図4Aは、電界紡糸されたFe
2O
3/PAN繊維のFE-SEMイメージであり、
図4Bは、硫化処理されたFeS/SPAN繊維のFE-SEMイメージである。
図4Aに示すように、電界紡糸されたFe
2O
3/PAN繊維の平均直径は約200nm程度であってよい。そして、硫化処理前と後との繊維は、FE-SEMイメージ上で大きな変化はないことが分かった。
【0037】
図4Cは、本発明の一実施形態に係るX線回折パターンを示す図である。
【0038】
FeS/SPAN繊維の主要X線回折ピークは、六角形の鉄硫化物に対応するICCDカード番号01-089-6926に割り当ててよい。しかし、広い(broad)グラファイト型ピーク(graphite-like peak)は、脱水素(dehydrogenation)、環化(cyclization)及び無秩序なカーボンと類似するPANと硫黄との共有結合構造(covalent bond formation)の結果として、(002)面に対応する24-28°で見られてよく、PAN繊維の硫化によって合成された純粋なSPAN合成物と一致する。なお、元素硫黄の結晶質ピークは、複合体から観察されておらず、元素硫黄がFe2O3及びPANと完全に反応し、FeSがエンベデッドされたSPAN繊維マトリクスが形成されることを意味する。
【0039】
図5Aないし
図5Bは、本発明の一実施形態に係るTEMイメージを示す図である。
【0040】
図5Aは、FeSナノ粒子の含まれた繊維マトリクスのTEMイメージである。
図5Aを参照すると、様々な大きさ(約≦70nm)のFeSが硫化処理された繊維マトリクスに含まれていることが分かる。
図5Bは、FeS/SPAN繊維の高解像度TEMイメージである。
図5Bを参照すると、(101)平面に対応するFeSの面間距離(約0.26nm)が確認される。
【0041】
図5Cないし
図5Dは、本発明の一実施形態に係るEDSマッピングイメージを示す図である。
【0042】
図5Cは、硫黄元素に対する合成物(複合硫化繊維)のEDSマッピングイメージであり、
図5Dは、鉄元素に対する合成物のEDSマッピングイメージである。
図5C及び
図5Dを参照すると、鉄元素と硫黄元素とが共存していることを確認することができる。
【0043】
図6Aは、本発明の一実施形態に係るラマンスペクトルイメージを示す図であり、
図6Bは、本発明の一実施形態に係るFTIRスペクトルイメージを示す図であり、
図6Cは、本発明の一実施形態に係るTGA曲線を示す図である。
【0044】
図6Aを参照すると、FeS商用粉末、SPAN繊維及び合成されたFeS/SPAN複合繊維のラマンスペクトルが示されている。FeSで対称及び非対称モードに寄与する217、283及び401cm
-1の特性振動バンドは、FeS/SPAN複合繊維及び商用FeSサンプルから観察されてよい。SPANから観測された一般のC-S及びS-S結合は、FeS/SPAN複合繊維でも、309、378及び930cm
-1で現れてよい。なお、それぞれPANの熱分解を示すグラファイト平面のGモードsp2カーボン結合ストレッチング(G mode sp2 carbon-bond stretching)及び無秩序なカーボンのDモードsp3カーボン結合ブレーシング(D mode sp3 carbon-bond breathing)に寄与する高強度吸収バンドは、1325及び1513cm
-1の周辺でSPAN及びFeS/SPAN複合繊維全てから獲得されてよい。一般的に、ID/IGの割合で材料の無秩序/欠陥のレベルを示し、およそ合成温度が1000度以下のときに増加することが分かった。
【0045】
図6Bを参照すると、FeS/SPAN複合繊維のFT-IRスペクトルは、商用FeSの特性ピークである3416、1606、1124及び617cm
-1と一致する。六角環構造の形状を示すC-C及びC-N対称ストレッチング振動は、1500-1000、801cm
-1で明らかに現れる。
【0046】
図6Cを参照すると、大気圧で熱重量分析(Thermogravimetric analysis:TGA)を介して合成されたFeS/SPAN複合繊維の活性物質の含量の測定結果が示されている。合成繊維は、FeSがFe
2O
3で酸化されることで、200-350度で漸進的に重量が増加している。350-550度で観察された重量損失は合成繊維内の硫黄及び炭素の酸化に起因してよい。しかし、純粋なSPAN繊維は、450度で急激に重さが減少する。TGA曲線を分析することで、複合繊維に含まれたFeSとSPANの含量は、それぞれ約51.61%及び48.38%で推定されてよい。複合繊維の活性物質の含量は、FeSの量とSPANの活性硫黄の含量のパーセンテージを考慮し、約~79%で計算される。
【0047】
図7Aは、本発明の一実施形態に係るリチウムセルの複合硫化物電極の充放電曲線を示す図であり、
図7Bは、本発明の一実施形態に係るリチウムセルの複合硫化物電極のサイクル性能を示す図である。
【0048】
FeS/SPAN複合電極の電気化学的な性質は、リチウムに関連して分析されている。
図7Aには、0.2A g
-1の低い電流密度でFeS/SPAN複合電極の充放電曲線が示されている。第1のサイクルは、SPAN及びFeSに対応する二つの典型的な放電プラトー(plateau)を示し、前方は2.1Vから始まって1.3V、後方は1.3Vから1Vに商用FeSと本来のSPANの充放電プロファイルを組み合わせたものと類似している。第2のサイクルは、電極の活性物質として存在するFeSとSPANのいずれも確認するFeSの転換反応に対応する第1のサイクルより更に高いポテンシャル(~1.45V)でプラット電圧プラトーが続くSPANと類似する初期スロッピー(sloppy)放電プロファイルを示す。
【0049】
図7Bは、100サイクル後にも、716mAh g
-1の高容量を示す0.2 ag
-1におけるFeS/SPAN複合繊維のサイクリング性能を示す。
【0050】
図8Aは、本発明の一実施形態に係るナトリウムセルの複合硫化物電極の充放電曲線を示す図であり、
図8Bは、本発明の一実施形態に係るナトリウムセルの複合硫化物電極のサイクル性能を示す図である。
【0051】
FeS/SPAN複合電極の電気化学的性質は、ナトリウムに関連して分析されている。
図8Aを参照すると、初期サイクルで負極ピークは1.4Vで現れ、負極ピークは後続サイクルでより低い電位で僅か移動する。2回目のサイクル以後からは、1.89Vで現れる主要正極ピークを除くと、容量性動作が支配的である。ナトリウムを使った電気化学的特徴は、主に100mA g
-1の低い電流密度で試行されている。初期で910mAh g
-1の非常に高い放電容量が得られており、放電プラトーは約1V傾いている。2回目のサイクル以後からは、充放電プロファイルがSPANと似たように緩慢に現れた。
【0052】
図8Bを参照すると、合成硫化物繊維は、約83.5%の容量(759.4mAh g
-1)を維持してよく、その後、40サイクル間維持されてよい。
【0053】
上述のように、本発明に係る複合硫化物電極は、リチウム及びナトリウムイオン保存のための二重活物質電極の役割を行うことができるため、1A g-1だけ高い電流速度で優れた容量を示し、複合硫化物電極は多硫化物の吸着を促すFeSの優れた触媒吸着力のために、電池のサイクル寿命を延長することができる。そして、複合硫化物電極は、FeSの放電過程で形成されたFeナノ粒子によりLi2Sの酸化を促してシステムの電荷移動速度を向上させることができる。なお、複合硫化物電極は、ナノサイズのFeS及び一次元繊維状によってリチウム/ナトリウムイオン拡散の障壁だけでなく、界面抵抗性を大幅に減少させ、システムの動力学的な能力を向上させ、複合硫化物電極の構造の安定性のために、可逆容量及び速度を維持することができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的趣旨の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
複合硫化物電極は、硫化金属(MwSz)を含む硫化ポリアクリロニトリル(Sulfurized Polyacrylonitrile:SPAN)を含む。硫化金属を含む硫化ポリアクリロニトリルは、繊維状に形成されてよい。硫化金属を含む硫化ポリアクリロニトリル繊維は、電界紡糸法に続く硫化処理工程で合成されてよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
複合硫化物電極の製造工程は、撹拌された混合溶液を電界紡糸させ、PAN内に金属酸化物を含むワイヤ型前駆体の生成過程を行う(S130)。例えば、複合硫化物電極の製造工程は、混合溶液を脱気させる脱気過程を行ってよい。そして、複合硫化物電極の製造工程は、混合溶液を注射器のポンプに備えられた注射器11に入れ(loaded)、電界紡糸過程を施して金属酸化物/PANナノ繊維を生成してよい。電界紡糸過程は、高電圧電源装置12を介して電圧を印加し、グラウンドと接続された集電装置(current collector)13を回転させ、集電装置13の表面から金属
酸化物/PANナノ繊維を獲得する過程を意味する。一実施形態として、作動電圧は20kV、流速は0.3ml h
-1、ニードルチップと集電装置との間の距離は15cm、湿度は26~28%で維持されてよい。獲得された金属
酸化物/PANナノ繊維は、繊維質マット状であってよい。金属酸化物/PANナノ繊維がワイヤ型前駆体であり、金属酸化物がFe
2O
3である場合、Fe
2O
3/PANナノ繊維が生成されてよい。即ち、
図2に示すように、Fe
2O
3/PANナノ繊維は、ワイヤ状のPAN51の内部にFe
2O
3(52)ナノ粒子の分布された形態であってよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】