(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(54)【発明の名称】医療用チャンバシステム、導入システム及びキット
(51)【国際特許分類】
A61M 60/187 20210101AFI20220303BHJP
A61M 60/289 20210101ALI20220303BHJP
A61M 60/468 20210101ALI20220303BHJP
A61M 60/865 20210101ALI20220303BHJP
【FI】
A61M60/187
A61M60/289
A61M60/468
A61M60/865
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564904
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(85)【翻訳文提出日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2020051633
(87)【国際公開番号】W WO2020152273
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】102019101771.8
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521322410
【氏名又は名称】アートラクト メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ、ヴォルフガング
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD10
(57)【要約】
本発明は、好ましくは心尖(105)を変位させることによって、心臓の活動を補助するために、患者の胸部に埋め込むための医療用チャンバシステム(700)に関し、該チャンバシステムは、少なくとも、心膜(300)の内部に配置するための第1のチャンバ(702)と、前記心膜(300)の外部に配置するための第2のチャンバ(701)とを備え、前記チャンバ(701、702)は、前記2つのチャンバ(701、702)を互いに結合する少なくとも1つの結合部又は結合チャネル(703)を有し、前記チャンバ(701、702)と前記結合チャネル(703)とは、流体(705)を充填されるように更に具体化され、好ましくは埋め込まれた状態で、前記心臓の活動が前記第1のチャンバ(702)に作用し、前記第2のチャンバ(701)が、前記流体(705)用の容積貯蔵容器且つ/又はエネルギー貯蔵容器として作用するように配置される。さらに、本発明は、医療用チャンバシステム(700)用の導入システム、及び医療用チャンバシステム(700)と導入システムとを包含するキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは心尖(105)を変位させることによって、心臓の活動を補助するために、患者の胸部に埋め込むための医療用チャンバシステム(700)であって、少なくとも、心膜(300)の内部に配置するための第1のチャンバ(702)と、前記心膜(300)の外部に配置するための第2のチャンバ(701)とを備え、
前記チャンバ(701、702)は、前記2つのチャンバ(701、702)を互いに結合する少なくとも1つの結合部又は結合チャネル(703)を有し、
前記チャンバ(701、702)と前記結合チャネル(703)とは、流体(705)を充填されるように更に具体化され、好ましくは埋め込まれた状態で、前記心臓の活動が前記第1のチャンバ(702)に作用し、前記第2のチャンバ(701)が、前記流体(705)用の容積貯蔵容器且つ/又はエネルギー貯蔵容器として作用するように配置される、医療用チャンバシステム(700)。
【請求項2】
前記チャンバシステム(700)のチャンバ壁(706)が、少なくとも部分的に、柔軟に変形可能な、請求項1に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項3】
支持装置(810)を備え、
前記チャンバ(701、702)が前記結合チャネル(703)と共に単一の閉じたバッグを完全に形成し、前記支持装置(810)が少なくとも部分的に前記結合チャネル(703)を形成する、請求項1又は2に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項4】
前記支持装置(810)が、柔軟に変形可能な支持装置(810)であり、具体的にはステント(810)、或いはリング又はシリンダである、請求項3に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項5】
前記チャンバ(701、702)が、共通の流体空間を形成するように直接的又は間接的に結合された少なくとも2つの個別のバッグを備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項6】
前記結合チャネル(703)がスリーブであり、2つのバッグがそれぞれバッグ開口部を有し、
前記バッグ開口部が前記スリーブに結合され得る又は結合される、請求項5に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項7】
前記チャンバ(701、702)の総充填容積が、合計で0.1mL~100mL、特に1mL~50mLである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項8】
前記チャンバシステム(700)が、センサ、特に圧力センサ及び/又は位置センサを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用チャンバシステム(700)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用チャンバシステム(700)用の導入システムであって、前記導入システムは、挿入カテーテル(800)、ガイドカテーテル、ガイドワイヤ、及び/又は少なくとも1つの送達又は供給カテーテルを備える、導入システム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用チャンバシステム(700)と、請求項9に記載の導入システムとを包含する、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チャンバシステム、導入システム及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全を有する患者の手当てとして、例えば、米国特許出願公開第2017/0368246号明細書、欧州特許第2482865号明細書、又は米国特許出願公開第2018/0193147号明細書に基づく、心臓の補助又は心臓の活動の補助のための様々なシステムが知られている。例えば、能動的に駆動され得る左室及び/又は右室心臓補助システムがある。システムは完全に埋め込まれてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0368246号明細書
【特許文献2】欧州特許第2482865号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0193147号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、別のシステムを提供することであり、本システムのための導入システム、並びにシステムと導入システムとを包含するキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、請求項1に記載の医療用チャンバシステムと、請求項9に記載の導入システムと、請求項10に記載のキットとによって達成され得る。
【0006】
本発明の目的は、心臓の活動を補助するために患者の胸部に埋め込む医療用チャンバシステム(以後、省略してチャンバシステムとも呼ぶ)を提供することによって達成されてもよく、これによって、好ましくは患者の心尖が変位又は移動され得る。
【0007】
医療用チャンバシステムは、少なくとも、患者の心膜の内部に配置されるように設けられた第1のチャンバと、心膜の外部に配置されるように設けられた第2のチャンバとを包含する。これらの2つのチャンバは、2つのチャンバのルーメン又は内部を互いに結合する少なくとも1つの結合部又は1つの結合チャネルを備える。チャンバは、流体で充填されるように設計される。
【0008】
2つのチャンバは、好ましくは、チャンバシステムが埋め込まれた状態で配置されるように提供され且つ設計され、その結果、心臓の活動が、圧力を印加することによって第1のチャンバから流体を動かし、これによって流体を第2のチャンバの中に移す。したがって第2のチャンバは、好ましくはチャンバシステム内で、流体又は流体の一部の容積貯蔵容器且つ/又はエネルギー貯蔵容器として作用する。
【0009】
チャンバは、そのチャンバ壁への圧力によって作用されるときに、2つのチャンバの一方と、これらのチャンバのもう一方との間で、且つ/又はチャンバシステムを埋め込んだ後では、心膜内の空間と心膜外の空間との間で、部品によって能動的に補助されることなく又は引き起こされることなく、容積を移動できるように提供され得る。このようにして、心尖の移動、従って心室の軸線方向への短縮が達成又は補助され得る。
【0010】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心膜内の空間と心膜外の空間との間で容積の移動が可能なように設計され、これは、心室の容積の変化によって駆動される。
【0011】
本発明は更に、チャンバシステム用の導入システムに関する。導入システムは、本発明に係るチャンバシステムを患者に埋め込む働きをする。導入システムは、挿入カテーテル、ガイドカテーテル、ガイドワイヤ、拡張器及び送達又は供給カテーテルのうちの1つ又はいくつかの部品と、本発明に係るチャンバシステムとを備えてもよい。挿入カテーテル且つ/又はルーメンの断面は円形、楕円形、又は多角形であってもよい。この点において、いくつかの実施形態では、導入システムが、各カテーテル及び/又は前記ガイドワイヤのいくつかの例示も含み得る。
【0012】
本発明はまた、本発明に係るチャンバシステムと、本発明に係る導入システムとを備えるキットに関する。
【0013】
本発明との関連において、患者はヒト又は動物であってもよい。
【0014】
以下の記述の全てにおいて、「~することができる、~してもよい、~され得る、~する場合がある(kann sein)」又は「有することができる、有し得る、有してもよい、有する場合がある(kann haben)」等の表現の使用は、「好ましくは~である(ist vorzugsweise)」又は「好ましくは~を有する(hat vorzugsweise)」等の同意語としてそれぞれ理解されるべきであり、且つ本発明に係る実施形態を示すことが意図される。
【0015】
本明細書で数値を表す語が示されている場合は常に、当業者はこれを数値の下限の表示として認識又は理解するものとする。当業者にとって明らかな矛盾につながらない限り、当業者は、例えば、「1つの」という表示は常に「少なくとも1つ」を包含すると理解するものとする。この理解もまた、当業者にとってこれが明らかに技術的に可能であれば、数値を表す語は、例えば「1つの」は代替的に「正確に1つの」を意味し得るという解釈として、本発明に等しく包含される。この両方の理解が本発明に包含され、且つ、本明細書で使用される全ての数値を表す語に当てはまる。
【0016】
以下、特に断りのない限り、近位とは本体の中心に向かうこと、遠位とは本体の中心から離れることを意味する。
【0017】
本発明の好適な展開が、従属するクレーム及び実施形態の各主題である。
【0018】
本明細書で実施形態が記述されるときは常に、本発明に係る例示的な実施形態として理解されるべきであり、限定的なものとして理解されるべきではない。
【0019】
本発明に係る実施形態は、当業者がそのような組み合わせは技術的に実現不可能であると考えない限り、上述した且つ/又は以下に述べる特徴の1つ以上を任意の組み合わせで備えていてもよい。
【0020】
先述した心臓機能を能動的に補助するためのシステムは、例えば、上述した米国特許出願公開第2017/0368246号明細書、欧州特許第2482865号明細書、又は米国特許出願公開第2018/0193147号明細書を参照すると、機械部品等の能動部品によって心臓の活動を補助し、心室を圧迫するものである。この部品は、例えば液圧式、電気式、磁気式、電磁式、機械式等の方式で直接的又は間接的に心筋に作用するモータである場合があり、又は当該モータを備えている場合があり、且つ/又は当該モータと接触する。
【0021】
これとは対照的に、本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、能動的な機械部品で、心臓の活動の能動的な機械的補助を行うことはなく、且つ/又は心室を圧迫せず、且つ/又は、特にこの目的のための装置、具体的には、例えば液圧式、電気式、磁気式、電磁式、機械式などの方式で直接的又は間接的に心筋に作用するモータを有せず、且つ/又はポンプ効果を有し、且つ/又はモータに作用するように設定された制御を行わない又は制御装置を有せず、且つ/又はそのようなモータにも、そのような制御又は制御装置にも信号送信で接続されない。
【0022】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心臓の周期において、心室の長軸の生理的な短縮を回復する又は当該短縮に寄与でき、自然な心臓の活動によって、チャンバシステムに収容されている流体が第1のチャンバから第2のチャンバに移動して再び戻り、これによって心尖が心底に向かって移動し、再び戻ることを可能にする又は補助する。
【0023】
第1のチャンバ及び第2のチャンバ(本明細書では、共に省略してチャンバとも呼ぶ)は、任意で圧力チャンバ、均圧チャンバ、或いはバランスチャンバ又は補償チャンバ等であってもよく、且つ/又はこれらを意味する場合がある。
【0024】
チャンバは、容積、直径、且つ/又は長軸及び短軸を有し得る。チャンバは、互いに類似するように又は互いに相違するように設計されてもよい。
【0025】
チャンバは、使用時の形状が異なるものと想定され、任意で周囲の解剖学的構造に、且つ/又は変化する圧力条件に適合され得る。この場合、チャンバは、特にその大きさ、形状、且つ/又は容積に関して、より大きい又はより充満した状態から、より小さい又はより充満していない状態に意図的に変更され、再びより大きい状態に戻されてもよい。これは好ましくは周期的に生じ、特に好ましくは心臓の活動と同期して、且つ/又は心臓の活動に影響を受けて生じる。
【0026】
チャンバシステムは、少なくとも1つのチャンバ壁を備え、各チャンバにつき、任意で1つ又は正確に1つの別のチャンバ壁を備える。したがって、第1のチャンバのチャンバ壁は、第2のチャンバのチャンバ壁と一体化して存在する又は作られてもよく、或いは第1のチャンバのチャンバ壁は、例えば、以下で更に詳しく説明する支持装置を介して又は含めることで、第2のチャンバのチャンバ壁に結合されてもよい。
【0027】
本発明に係るいくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバ壁は、完全に又は少なくとも部分的に、柔軟に変形可能である。
【0028】
チャンバは、チャンバシステムが埋め込まれた状態で、第1のチャンバは心膜内に配置され、第2のチャンバは心膜外に配置され得るように設計される。心膜内にある第1のチャンバは、チャネルを介して、好ましくは結合チャネルを介して、心膜外にある第2のチャンバに結合されることが好ましく、その結果、流体は心膜内の第1のチャンバから心膜外の第2のチャンバの中に流れ、再び戻ってもよい。チャンバ間の流れを調整又は制御する弁又はその他の手段は必要とされず、いくつかの実施形態では提供されない。しかしながら他の実施形態では、チャンバ間の流れに影響を与える弁、その他調節可能な手段が提供される。
【0029】
一方のチャンバから他方への容積の移動は、心膜内の心臓の活動によって駆動される。心臓が満たされていると、心膜内の心臓の容積の増加によって、好ましくは心膜内にある第1のチャンバから、心膜外にある第2のチャンバの中へ流体が移動する。心臓が収縮すると、心膜内の心臓の容積の減少又は低下によって、好ましくは心膜外にある第2のチャンバから、心膜内にある第1のチャンバへ流体が移動する。心膜内の第1のチャンバの容積の変化により、心尖は、心膜内の第1のチャンバの容積が増加したとき、心臓の活動に同期して移動し、心膜内の第1のチャンバが減少したとき、心底から離れて移動し得る。心尖の移動によって、心室の長軸は、収縮期の間は短縮され、拡張期の間は伸ばされる。
【0030】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは2つ以上のチャンバを備える。例えば、第1のチャンバは心膜内に配置されてもよく、1つ以上の追加のチャンバが、右胸腔内に、且つ/又は左胸腔内に、且つ/又は腹腔内に配置されてもよい。別のチャンバは、皮下などの他の身体構造内に配置されてもよい。別のチャンバは、体外に配置されてもよい。別のチャンバは、大気であってもよい。この場合、心膜内に配置されたチャンバと、心膜外に配置されたこれらのチャンバとの間に、長さの異なる結合チャネルが存在してもよい。
【0031】
好ましくは、チャンバは使用時に、心臓の収縮期の間は、流体が心膜外にある第2のチャンバから心膜内の第1のチャンバの中へ流れるように、そして拡張期の間は、流体が心膜内にある第1のチャンバから心膜外の第2の又は別のチャンバの中へ流れるように埋め込まれる。心膜内の第1のチャンバの容積又は大きさの変化により、心尖が、好ましくは軸線方向に移動され、従って心室の長軸を短縮することが可能になる。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、胸腔且つ/又は腹腔の開口部を介して、且つ/又は開心術によって外科的に完全に埋め込まれてもよく、この目的のために設計されてもよい。場合によっては、チャンバシステムは、カテーテルを介して挿入され、これに従って構成されてもよい。あるいは、切開術とカテーテルに基づく手技との組み合わせも考えられる。
【0033】
チャンバシステムの使用時にチャンバ内に存在する流体は、必要な流れ特性を示す任意の流体であってもよい。
【0034】
第1のチャンバを第2のチャンバに結合する結合チャネルは、好ましくは直径が0.5cm~5cm、特に好ましくは直径が15mm~20mmである。これらのチャンバを互いに結合する結合チャネルは、好ましくは長さが1mm~500mm、特に好ましくは長さが1mm~100mm、最も好ましくは長さが2mm~10mmである。
【0035】
チャンバは、チャンバシステムを埋め込む前に、既に流体で満たされていてもよい。流体は、好ましくは低粘度の流体からなり、好ましくは液体の混合物であり、特に好ましくは、水(H2O)を含み、且つ/又は等張性を有する。さらに、流体は、特に好ましくは、空気であってもよく、又は空気を含んでいてもよく、より好ましくは、規定のガス混合物からなっていてもよい。ガス又はガス混合物は、特に好ましくは、ヘリウムであってもよく、又はヘリウムを含んでいてもよい。
【0036】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバは、埋め込み後に、即ちこれらが既に体内に位置決めされ配置されているときに、流体で充填され得る。これらに、例えば開口部、好ましくは閉鎖装置によって閉鎖可能である開口部が適切に備えられ又は設計されることが可能である。体内におけるこの配置は、体内におけるチャンバの予備的な位置又は最終位置であってもよい。配置又は埋め込み後に、チャンバに収容される流体を充填したり、充填度又は流体容積を修正したりすることで、好適には、チャンバシステムを特定の患者のニーズに適合させることが可能になる場合があり、これはいくつかの実施形態では、埋め込み後著しく時間が経過した時点でも行われ得る。
【0037】
本発明に係るいくつかの実施形態では、1つのチャンバから、結合された他のチャンバへの流体の変位は、心膜内の心臓の容積を変えることによってのみ行われる又は生じる。
【0038】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバシステムは、支持装置を包含する。第1及び第2のチャンバの少なくとも2つのチャンバは、結合チャネルと共に、単一の閉じたバッグを正確に形成し得、支持装置は、少なくとも部分的に、結合チャネルを形成し得るか、又は結合チャネルに構造を与え得る。支持装置は、例えば柔軟で変形可能な中空体などの支持装置であってもよく、具体的には、ステント、リング、又はシリンダであってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、チャンバ間にある結合チャネルの直径は、結合チャネルの壁に結合され得る(好ましくはその埋め込み後に拡張する)装置によって一定に維持される。好ましくは、この装置はステントである。特に好ましくは、ステントは、心膜の開口部を任意の所定の大きさまで開いたまま維持する。特に好ましくは、ステントは、記憶材料(ニチノール又はポリマー)で作られるか、又は当該記憶材料を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、チャンバを結合する結合チャネルは、弾性ポリマー又はポリマーフィルム製であり、該弾性ポリマー又はポリマーフィルムは、好ましくはチャネルの直径に適合する。
【0041】
いくつかの実施形態では、複数のチャンバ壁(1つのチャンバ壁の場合もある)は、チャンバに存在する様々な流体の容積に適合する弾性ポリマーフィルム製であるか、又は当該弾性ポリマーフィルムを含む。
【0042】
チャンバシステムは、好ましくは、少なくとも部分的に、心膜、並びに胸腔及び/又は腹腔内に埋め込まれるように設計される。本装置は、好ましくは、少なくとも部分的に心膜内に埋め込まれるように設計される。
【0043】
いくつかの実施形態では、装置は、一部が心膜内に、且つ/又は胸腔内に、且つ/又は腹腔の別の部分に埋め込まれるように設計される。
【0044】
本発明に係るチャンバシステムのいくつかの実施形態では、心膜内に、胸腔内に、且つ/又は腹腔内に、且つ/又は体外に、同時にいくつかのチャンバが配置され得るように設計される。
【0045】
好ましくは、第1のチャンバは心膜内に配置され、結合チャネルを介して第2のチャンバと流体連通している。
【0046】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、大気であるか、又は大気との流体連通を有する。いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は患者の体外に配置されることが意図される。
【0047】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は体内に配置されることが意図される。
【0048】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は腹腔に配置されることが意図される。いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は右胸腔に配置されることが意図される。
【0049】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は左胸腔に配置されることが意図される。
【0050】
いくつかの実施形態では、いくつかの第2のチャンバは、埋め込み後は体内且つ/又は体外に配置されることが意図される。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、チャンバを結合するチャネルの一部内に又は一部上にステントを備える。
【0052】
いくつかの実施形態では、このようなステントは、チャンバシステムの、金属又は合金を含む唯一の部分であってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは、チャンバと、それらの結合チャネルとからなり、任意で、チャンバの形状を支持するための支持装置及び/又は支持フレームワークを更に備える。
【0054】
いくつかの実施形態では、チャンバは、密封された流体システムを集合的に形成する。これは、少なくとも使用中は、好ましくは入口又は出口を有せず、且つ/又は好ましくは、チャンバ且つ/又は患者の外部に流体結合されない。
【0055】
いくつかの実施形態では、チャンバは所定の形状を有し、他の実施形態では、所定の形状を有しない。
【0056】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、フレーム又はラックによって支持される。
【0057】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、記憶特性又は形状記憶特性を有するフレームによって支持される。
【0058】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、ステントによって支持される。
【0059】
いくつかの実施形態では、チャンバは、それ自体の弾性力によって、チャンバ内又はチャンバ間で、流体の流れる方向を支持してもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムの少なくとも2つのチャンバ、例えば、第1のチャンバ及び第2のチャンバ、若しくは別の複数のチャンバ、又はそれらのチャンバ壁は、弾性、弾性率(E率、歪み率、又はヤング率)、及び/又は内部容積(例えば、液体のない状態、及び/又は外的作用のない状態、或いは弛緩した状態)が互いに異なる。
【0061】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心尖が心臓の基部に向かって変位するのを補助する。したがって本装置は、心臓の長軸の短縮を補助する。したがって本装置は、長軸を短縮することによって、心臓から駆出される血液の体積を増加させる。
【0062】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは、センサを備えるか、又はセンサに結合される。センサは、圧力センサ及び/又は位置センサであってもよい。センサは、従って好ましくは、チャンバの充填に関する又は関連する生理学的なパラメータ、チャンバ内の圧力、流体の流れ、及び/又は心臓の活動を測定するために提供され適合される。この場合、センサは、好ましくは、患者の体内且つ/又は患者の体外にある少なくとも1つの装置に例えば無線又は有線で送信されるセンサ信号を提供するように設計される。信号に対応するエミッタ及び/又は受信機が提供されてもよい。
【0063】
このようなセンサ信号を受信する装置は、チャンバ間の流体の流れ又は流量を制御又は調整する少なくとも1つの装置に結合された、チャンバシステムの制御ユニットであってもよい。チャンバ間の流体の流れを制御又は調整するこのような装置において、このような装置はチャンバシステムの一部であってもよく、弁、スロットル、その他オリフィス等の調整可能な流れ又はフローリミッタを備えてもよい。
【0064】
したがって本発明に係るチャンバシステムは、チャンバ間の流体の流れを制御又は調整するために例えば装置上で作動するアクチュエータを有してもよく、このような装置が、例えば、結合チャネル内に又は支持装置内に提供されてもよい。しかしながらこのような装置は、該装置を作動させるためにチャンバシステムに駆動ユニットが設けられてもよく、これには例えば、バッテリから、その他何らかの方法でエネルギーが供給されてもよく、このような装置は、好ましくは心筋に作用しないため、本発明の観点から、心機能に作用するモータではなく、心臓の活動を補助せず、且つ/又は心室を補助せず、或いはこれらを能動的に補助しない。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、電気的な心臓の活動を測定するセンサ、(例えば、血管内及び/又は1つ以上の心室内の血圧を測定する)圧力センサ、力、電圧及び/又は電流、圧力、及び/又は少なくとも1つのチャンバの形状変化の程度を測定するセンサを備えるか、或いはそれらのセンサに接続される。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、ECG(心電図)信号を取得する装置及び/又はセンサを備える。
【0067】
いくつかの実施形態では、チャンバ間の流体の流れを制御又は調整する装置は、心臓の活動と同期して制御されると規定されている。チャンバシステムは、これに従ってプログラムされてもよい。
【0068】
心臓周期の全期間にわたって心尖はほぼ静止したままであり、これは特に心膜に起因する。心膜は、約10mLの液体を収容し、心臓全体を囲む閉じた嚢である。閉じた心膜は液密であり、従って周囲の体腔との液体の交換を許容しない。心臓が収縮すると、胸部内で部分的に露出自在な心膜は、心臓の周囲の縮小に従うことができる。しかしながら、心膜は、胸骨心膜靭帯によって心尖の領域内で胸骨及び剣状突起に結合され、横隔膜にしっかりと結合されている。心臓の収縮中は、心膜及び閉じた心膜内にある心尖は、胸壁から心底に向かって移動することはできない。このため、心筋の収縮及び心臓の短縮によって心臓の基部及び弾性を有する大動脈基部は、引っ張られ、したがって収縮期には伸展される。拡張期に心筋が弛緩するとすぐに、伸展された大動脈基部が、その内部に蓄積された張力エネルギーによって心底を引っ張って、静止している心尖から離す。心臓に関してヒトと比較可能な解剖学的構造を有するヒツジを使った研究によれば、安静時には、張力によって大動脈基部と心底との間に1.8±0.2Nの力が存在することを示している。大動脈基部を心尖に向かって10mm動かすには、1.8±0.1Nの力Fが印加される必要がある。大動脈基部の変位の通常の偏向は、健常な人の場合は12±2mmである。したがって、心拍毎に、大動脈基部を偏向させるには、約W=F*s=1,8N*0,012m=0,0216Jの仕事Wが必要であり、対応するエネルギーは、大動脈基部の弾性的な伸展に部分的に蓄積される。
【0069】
心臓の衰弱、具体的には心不全は、心臓が心室容積の45%未満しか駆出できないときに生じる。駆出率が35%未満の場合は、深刻な機能障害とみなされる。
【0070】
心不全の症状は、息切れ(労作性呼吸困難、安静時呼吸困難、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難)、疲労、労作後の過度な疲労困憊、衰弱、嗜眠、液体のうっ滞(脚又は腹部の膨張、体重増加)、夜間排尿(夜間多尿)、乾咳(特に夜間)、めまい、失神、食欲不振、悪心、膨満、鼓腸、便秘、腹痛、体重減少傾向、記憶障害、錯乱状態、及び認知障害を含む。
【0071】
心不全は重症度に応じて、NYHA I(心疾患と診断され、無症状且つ運動許容量に制限がない)、NYHA II(運動許容量に緩やかな制限があり、運動量が多いときのみ症状が出るが安静時は無症状)、NYHA III(重度の運動許容量の制限があり、安静時は無症状だが運動量が少ないときでも症状あり)、及びNYHA IV(安静時にも持続的に症状がある)で分類される。心不全の診断には、心エコー法が特に重要であり、心エコー法によって心機能の部分的且つ全体的な制限が評価され得る。
【0072】
左室に駆出率(EF)45%未満の心不全を有する患者は、収縮期中の大動脈基部の変位が8mm未満に低下する。心臓の長軸の短縮は、心機能を測定するための特に敏感なパラメータである。
【0073】
駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、心エコー法で、駆出率が45%未満に低下した心臓の壁運動の低下が測定される。心尖から心底までの長軸と、該長軸に直交する短軸との両方を短縮する力が低下していることがわかる。駆出量の低下は、断層心エコー図法(シンプソン法)で判定され得る。
【0074】
心不全の症状を有する患者の少なくとも半数が、従来の心エコー法で測定すると正常な心機能を有しており、心室に直交する直径の短縮が正常とされる。ここから算出された駆出率は正常に見える。この形態の心不全は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と呼ばれる。心筋の硬化及び心臓の拡張機能の障害は、心不全の原因とされている。しかし、このような患者の心機能の詳細な心エコー法検査では、左心室のねじれ及びほどけ(Ver‐ und Entwindung)の変化、並びに左心室の拡張期吸引及び早期拡張期充満の低下が見られることが多い。
【0075】
心底が心尖に向かうのに伴った大動脈基部の正常な移動は12±2mmであるが、これが8mm未満に著しく低下する。収縮期及び早期拡張期における大動脈基部の拍動速度は、収縮期では1.54±0.51cm/sに対して0.64±0.51cm/s、拡張期開始時では2.32±1.24cm/sに対して1.49±0.77cm/sと非常に有意に低下する。このような患者の機能不全及び心不全の症状は、弾性レベルの低下、特に、大動脈基部の硬化と相関関係がある。同時に、このような患者には心筋の肥厚が見られ、ウインドケッセル機能の低下及び大動脈基部の拍動が小さくなっていることに対する代償を示している。心臓の力はまだ正常に見え、又は心エコー法では改善しているようにさえ見えるが、もはや大動脈基部を心尖の方へ引っ張るのに充分な力はなく、これは弾性が低くなったためであり、大動脈基部を充分に拍動させるためには力の増強が必要とされている。心臓の長軸を短縮する力の低下は、拍出量の低下につながる。
【0076】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)に使用するものであり、この場合は収縮期の心筋の機能の大部分が維持されるが、様々な疾病又は加齢の過程によって硬化した大動脈基部を伸展するのに充分なほどの心臓の強さは失われており、このことに関連して、心底の充分な拍動を生成する、或いは大動脈基部を伸展させるものである。
【0077】
本発明に係るいくつかの実施形態では、医療用チャンバシステムのチャンバは、少なくとも2つの個別のバッグを備え、該バッグは、共通の流体空間を形成するように、直接的又は間接的に結合される。2つの個別のバッグの結合部はスリーブであってもよく、これは2つのバッグ間の結合チャネルと呼ばれる場合がある。2つのバッグは、アダプタの形状の結合開口部によって、スリーブ(特に、スリーブの2つの端部)に押し入れられてもよいし、又は滑り込ませられてもよい。また、バッグの開口部は、例えば縫合、接着等によってスリーブに固定されてもよい。
【0078】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバの総容量は、0.1mL~100mL、特に1mL~50mLである。
【0079】
本発明に係るいくつかの実施形態では、医療用チャンバシステムは、完全に又は部分的に無菌である。
【0080】
本発明に係る実施形態のいくつかは、後述する利点を有し得る。
【0081】
本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心臓の活動を補助するために、心尖が心底に向かって変位できるようにする。
【0082】
心底が心尖に向かって変位することによる、収縮期における心臓長軸の通常の短縮とは異なり、本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心尖が心底に向かって変位できるようにする。
【0083】
収縮期中の心臓長軸の短縮を回復させることによって、心臓からの血液の駆出量が、本発明に係るチャンバシステムによって有利に増加され得る。
【0084】
本発明に係るチャンバシステムによって心臓長軸の短縮が回復すると、好適には、心室が良好に空にされ、心臓の収縮末期容量が低下する。心室は、したがって拡張期により容積が大きくなり、収縮期により多くの血液を駆出し、心機能の効率を向上させ、左心房の圧力を低下させる。
【0085】
HFpEFを有する患者では、硬化した大動脈基部の伸展及び拍動は低下する。このような患者は、心臓の強度は正常であるか、又は代償的に拡張される。収縮期中に心室の短縮が不足すると、心室の直径を更に小さくすることで補うことができず、駆出量の低下を引き起こす。本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心尖の変位を補助し、これによってもはやできなくなった心底の変位を心尖の変位に置換する。これが心臓の縦軸の短縮につながり、従って心臓の駆出能力又は機能の向上につながる。
【0086】
本発明に係るチャンバシステムの、2つの心室及び2つの心房の筋収縮に対する有益且つ有利な効果は、副作用になり得る。
【0087】
以下、本発明に係る装置は、添付の図面を参照しながら、その好ましい実施形態に基づいて説明される。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1A】4つの心室及び心底を有する心臓を表す図である。
【
図1B】心底及び心臓骨格を有する心臓を表す図である。
【
図4A】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す図である。
【
図4B】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す別の図である。
【
図4C】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す更に別の図である。
【
図5A】左心室の通常のポンプ機能を表す概略図である。
【
図5B】左心室の通常のポンプ機能を表す別の概略図である。
【
図6A】心底が静止した状態での左心室のポンプ機能を表す概略図である。
【
図6B】心底が静止した状態での左心室のポンプ機能を表す別の概略図である。
【
図7A】心底が静止した状態で心尖の変位を可能にする本発明に係るチャンバシステムの概略的な実施形態である。
【
図7B】心底が静止した状態で心尖の変位を可能にする本発明に係るチャンバシステムの別の概略的な実施形態である。
【
図8A】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す図である。
【
図8B】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す別の図である。
【
図8C】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す更に別の図である。
【
図8D】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す更に別の図である。
【
図9】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを示す。
【
図10A】本発明に係るチャンバシステムの機能を概略的に示す図である。
【
図10B】本発明に係るチャンバシステムの機能を概略的に示す別の図である。
【
図11A】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを心臓と共に示した図である。
【
図11B】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを心臓と共に示した別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
図1A及び
図1Bは、4つの心室と心底とを有するヒトの心臓100を示す。
【0090】
図1Aは、間に僧帽弁111が配置された左心室101(左下の心室)及び左心房102(左上の心室)と、間に三尖弁112が配置された右心室103(右下の心室)及び右心房104(右上の心室)とを示す。2つの心房の間には心房中隔124が配置され、2つの心室101と103との間には心室中隔125が配置されている。
【0091】
図1Bには、心底110が示されている。心底は、ほぼ平坦な心臓の解剖学的構造であり、該心臓内又は該心臓上には2つの房室弁、即ち僧帽弁111及び三尖弁112と、2つの半月弁、即ち大動脈弁113及び肺動脈弁114とが配置されている。心臓骨格120は軟骨組織からなり、心臓の唯一の剛体構造である。心臓骨格120は、大動脈基部201と、僧帽弁輪131及び三尖弁輪132の中心部とを完全に包含する。心臓骨格120の最も強健に形成される部分は、左繊維三角121及び右繊維三角122である。右繊維三角122では、僧帽弁111と三尖弁112とが互いに近接している。心室中隔125の心筋123は、僧帽弁111と三尖弁112との間の右繊維三角122の領域内で、心臓骨格120に結合される。この点において、心筋123、とりわけ心室中隔125の収縮によって、心臓骨格120と、そこに結合された大動脈弁113とが、心尖に向かって引っ張られる又は牽引される。
【0092】
僧帽弁111及び三尖弁112は拡張期の終わりに閉じ、心室101及び103が収縮したときに、血液が心房102及び104の中に逆流することなく前方へ送り出され、右側は肺内に、左側は体循環内に確実に入るようにする。大動脈弁113及び肺動脈弁114は、収縮期の終わりに閉じ、2つの心室101及び103の収縮後に、血液が心室101及び103の中に逆流することなく、むしろ右側の肺動脈及び肺内で拡張期血圧が維持され、且つ左側の大動脈及び体循環内で拡張期血圧が維持されることを確実にする。
【0093】
【0094】
図2Aは、心筋123が弛緩した、拡張期の心臓を示す。この収縮周期では縦軸220が最も長く、心室101、103の外周210と、直交する直径とが最も大きい。2つの心室101及び103は満たされており、僧帽弁111及び三尖弁112は、心室に血液が流入できるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0095】
図2Bは、正常な弾性を有する大動脈基部201による、収縮期における心臓の収縮を概略的に示す。心筋123が収縮され、心臓は心臓周期において外周210が最小になり、直交する直径が最小になる。心尖105は静止状態のままで、心底110は(心底の移動方向221へ)心尖に向かって移動し、縦軸220は最短になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。大動脈基部201は最大に伸展される。
【0096】
図3は、ヒトの胸部の概略図を示す。心膜300は、横隔膜302の上に載っており、縦隔306を有する大動脈基部201と、胸骨心膜靭帯301との間で伸展されている。胸骨心膜靭帯301は、心尖105の領域にある心膜300から、剣状突起304及び肋骨305の領域にある胸骨303の端部へ延びている。
【0097】
心臓が収縮すると、心膜300は、収縮期の間は心臓外周210の縮小に従い得る。しかしながら、閉じた心膜は、比較的固定された胸骨303と縦隔306との間で、胸骨心膜靭帯301を介して伸展されているために、心尖105は、心底110の方向へ、胸骨303から離れるように移動することはできない。このため、心臓の収縮及び心臓の縦軸220の短縮によって、心底110及び弾性を有する大動脈基部201が牽引され、従って収縮期には大動脈基部201が伸展され、大動脈基部201を伴う心底101が心尖105に向かって引っ張られる。
【0098】
図4Aから
図4Cは、同様に収縮期の心臓の収縮を概略的に示しているが、該心臓は、硬化して弾性を有しない大動脈基部201と、静止状態の心底110とを有している。
【0099】
図4Aは、心筋123が弛緩した、拡張期の心臓を示す。この収縮周期では縦軸220が最も長く、心室101、103の外周210と、直交する直径とが最も大きい。2つの心室101及び103は満たされており、僧帽弁111及び三尖弁112は、心室に血液が流入できるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。
【0100】
図4Bは、心筋123が収縮した心臓を示し、心臓では、心臓周期において外周210が最小になり、直交する直径が最小になる。心尖105は静止状態のままで、硬化した大動脈基部201が伸展されることができないために、心底110の位置に、拡張期に関連した変化はなく、そのため心底110は心尖105に向かって引っ張られることができない。縦軸220は、
図4Aの拡張期における弛緩した心臓のものと同じである。しかしながら、筋肉の収縮によって、心臓周期における外周210及び直交する直径は最小になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0101】
図4Cは、本発明に係るチャンバシステム使用時の心筋123が収縮した心臓を示す。心底110は、
図4Bのように静止状態のままである。本発明に係るチャンバシステムによって、心尖105が心底110に向かって(心尖の移動方向402へ)移動できるようになるため、縦軸220は、
図2Bのように最短になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0102】
図5Aは、拡張期の左心室101を模式的に示したものである。心筋123は弛緩され、心臓周期において縦軸220が最も長く、心室101の外周210と、直交する直径とが最も大きい。心室101は満たされており、僧帽弁111は、心室に血流401が入れるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室101へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0103】
図5Bは、正常な弾性を有する大動脈基部201による、心臓の収縮を概略的に示す。心筋123が収縮され、心臓の外周210又は直交する直径は最小になる。心膜300が胸骨心膜靭帯301を介して胸骨303に結合されているために、心尖105は静止状態のままになっている。心筋123の収縮によって、心底110は移動方向221に沿って心尖105に向かって移動し、縦軸220は心臓周期において最短になる。血液が逆流して心房102に入るのを防ぐために、僧帽弁111は閉じられる。大動脈弁113は、血液401を体循環内に駆出できるように開いている。大動脈基部201は最大に伸展される。
【0104】
図6Aは、拡張期の左心室101を概略的に示しているが、硬化して弾性を有しない大動脈基部201を有している。状況は
図5Aに示すものとほぼ同じである。心筋123は弛緩され、心臓周期において縦軸220が最も長く、心室101の外周210と、直交する直径とが最も大きい。心室101は満たされており、僧帽弁111は、心室に血流401が入れるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室101へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0105】
図6Bは、硬化して弾性を有しない大動脈基部201を有する左心室101の収縮を概略的に示す。心筋123は収縮されている。心膜300が胸骨心膜靭帯301を介して胸骨303に結合されているために、心尖105は静止状態のままになっている。硬化した大動脈基部201が伸展されることができないために、心底110の位置に変化はなく、そのため心底110は心尖105に向かって引っ張られることができない。縦軸220は、
図4Aの拡張期における弛緩した心臓のものと同じである。しかしながら、筋肉の収縮によって外周210及び直交する直径は最小になり、これは心臓周期全体に当てはまる。血液が逆流して左心房102に入るのを防ぐために、僧帽弁111は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0106】
図7A及び
図7Bは、図式的に簡略化した心臓100の図式的に簡略化した心膜300を参照しながら、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を示す。
【0107】
図7Aは、拡張期の心臓100の概略図を示す。本発明に係るチャンバシステム700は、心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702と、チャンバ701と702との間にある結合チャネル703とを備える、又はこれらからなり、結合チャネル703は、心膜300の開口部704を通過する。
【0108】
第1のチャンバ702は収縮しているので、拡張期の間は、心臓100は最大に膨張し、心室101を最大に充填することが可能である。チャンバシステム700に供給された流体はほぼ全て、第2のチャンバ701内に存在する。
【0109】
図7Bは、心膜300内にある、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態を心臓100と共に示す。この場合、
図7Bは、収縮期の心臓100、及び心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702と、チャンバ701と702との間にある結合チャネル703とを有する本発明に係るチャンバシステム700の概略図を示す。結合チャネル703は、心膜にある穴又は開口部704を通過する。第1のチャンバ702は、心尖105が心底110に向かって移動方向402へ変位できるように拡張される。このため、心室101の長軸220を最大限短縮することが可能になり、従って心室101を最大限空にすることが可能になる。チャンバシステム700の流体は、ほぼ全てが第1のチャンバ702内に存在し、第2のチャンバ701は、収縮している又は小さくなっている。
【0110】
図8A~
図8Dは、本発明に係るチャンバシステム700の挿入を示す。
【0111】
図8Aは、挿入カテーテル800内に完全に受け入れられた本発明に係るチャンバシステム700を示す。挿入カテーテル800の先端801は、開口部704によって心膜壁805を乗り越えて、心膜内に存在する。
【0112】
図8Bは、挿入カテーテル800の先端801の方向へ進んだチャンバシステム700を示し、第1のチャンバ702は、その終端側ルーメンを通って挿入カテーテル800から出て、心膜300内で膨張している。
【0113】
結合チャネル703は、弾性的又は膨張可能に設計されてもよく、
図8bに示す埋め込み段階では、まだ挿入カテーテル800のルーメン内に存在し、挿入カテーテル800の内壁によって半径方向に広がることが防止される。
【0114】
図8Cは、更に引っ込められた挿入カテーテル800の先端801を示す。結合チャネル703及びステント810は、挿入カテーテル800のルーメンの外部にあって、ステント810の形状記憶等によって広がっており、心膜300の開口部704を半径方向に拡大している。ステント810は、例えば半径方向の力によって、心膜壁805に固定される又は癒着している。
【0115】
図8Dは、第2のチャンバ701もまた膨張している、即ち心膜300の外側に出ているように更に引っ込められた挿入カテーテル800を示す。
【0116】
この実施形態に関しては、チャンバシステム700は、従って完全に挿入カテーテル800の外部にある。カテーテル800は、もう必要なく、廃棄されてもよい。
【0117】
チャンバシステム700を挿入カテーテル800から除去するために、ここには図示されていない器具、例えば、いわゆるプッシャが使用されてもよい。
【0118】
図9は、心膜壁805の開口部内で展開され固定されたステント810の三次元斜視図を示す。チャンバ701及び702は両方とも拡張されている。
【0119】
チャンバ701及び702は、0mL~500mLの容積を有し、特に好ましくは容積が0.01mL~300mL、より好ましくは容積が0.10mL~200mL、特に非常に好ましくは容積が1.00mL~100mLである。
【0120】
チャンバ701と702との間を移動される流体の比率は、流体の総容積の0.1%~20%の比率を有し、特に好ましくは流体の総容積の1%~50%の比率、特に好ましくは流体の総容積の10%~90%の比率を有する。
【0121】
結合チャネル703は、チャンバ701と702とを互いに結合し、好ましくは直径が0.5cm~5cmである。特に好ましくは、直径が15mm~20mmである。
【0122】
結合チャネル703は、チャンバ701と702とを互いに結合し、好ましくは長さが1mm~500mmである。特に好ましくは、長さが1mm~100mmである。特に好ましくは、長さが2mm~10mmである。
【0123】
チャンバ701、702内の流体は、必要な流れ特性を有する任意の流体であってもよい。好ましくは、心膜300内の第1のチャンバ702を心膜300外の第2のチャンバ701に結合する結合チャネル703は、充分に大きい直径を有し、且つ流体は、充分に低い粘度を有するので、2つのチャンバ間で流体が移動されるときは、最小限のエネルギー損失のみが生じる。
【0124】
先の図で示したチャンバ701、702のサイズ比は、純粋に例示のためのものである。チャンバ容積間に見られる比率は、特に重要な意味を有しない。
【0125】
図10A及び
図10Bは、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を、心膜300及び心臓100と共に概略的に示す。
【0126】
図10Aは、拡張期の終わりの心臓100、並びに、心膜300外にあるチャンバ701、心膜300内にあるチャンバ702、及びチャンバ701と702との間にある結合チャネル703を有する、本発明に係るチャンバシステム700の図を概略的に示す。結合チャネルは、心膜壁805の開口部704を通過する。拡張期に心室101が充満した結果、心尖105は、矢印402で示すように第2のチャンバ702に作用し、第2のチャンバ702は、これによって小さくなって、心室101の縦軸が最大に伸展し、且つ心室101が最大に充満することが可能になる。これによって流体705が、矢印820で示すように、第1のチャンバ702から第2のチャンバ701の中に移動する。
【0127】
図10Bは、収縮期の終わりの心臓100の図を概略的に示し、本発明に係るチャンバシステム700は、心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702とが共に存在し、結合チャネル703は、チャンバ701と702との間にあり、結合チャネル703は、心膜壁805の開口部704を通過する。
【0128】
収縮期に心室101が収縮した結果、心尖105は、矢印402で示すように、チャンバ702から離れるように移動し、これによって拡大して、心室101の縦軸を最大限短縮し、且つ心室101を最大限空にすることが可能になる。これによって流体705が、矢印820で示すように、第2のチャンバ701から第1のチャンバ702の中に移動する。
【0129】
図11A及び
図11Bは、心膜300又は心臓100内にそれぞれ埋め込まれた、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を示す。心底110は、全心臓周期を通して静止したままである。本発明に係るチャンバシステム700をその第1のチャンバ702と共に心膜300内に埋め込むことによって、心尖は、移動可能になり、収縮期に心底110に向かって移動することができ、拡張期に心底110から離れることができる。
【0130】
図11Aは、拡張期の終わりの心臓100の図を示す。心臓の長軸はここでは最長であり、心室101及び103は、心膜300をほぼ完全に満たしている。本発明に係るチャンバシステム700は、その第2のチャンバ701が心膜300外にあり、その第1のチャンバ702が心膜300内にある状態で配置される。結合チャネル703は、心膜300の開口部704を通過する。拡張期に心室101及び103が充満することによって、第1のチャンバ702は収縮し、従って心室101及び103を最大に充満させることが可能になる。流体705は、主に第2のチャンバ701内に存在する。第1のチャンバ702は、心膜300内の解剖学的条件、及び心尖105の解剖学的形状に適合している。第2のチャンバ701は、この実施形態では左胸腔に配置され、横隔膜(図示せず)及び肺(図示せず)の解剖学的条件に適合している。
【0131】
図11Bは、収縮期の終わりに向かう心臓100の図を示す。心室中隔125を伴って心筋123が収縮され、ここでは心臓の長軸が最短になる。心尖105は、心底110に向かって移動している。心室101及び103は、最大限空にされている。本発明に係るチャンバシステム700は、第2のチャンバ701が心臓300の外側にあり、第1のチャンバ702が心膜300内にある状態から変えられることはない。収縮期における心室101及び103の収縮によって第1のチャンバ702が拡張されて、心尖105が心底110に向かって変位されることが可能になり、これによって、心室101及び103を最大限空にすることが可能になる。流体705は、主に第1のチャンバ702内に存在する。第1のチャンバ702は、心膜300内の解剖学的条件、及び心尖105の解剖学的形状に適合している。第2のチャンバ701は、この実施形態では左胸腔に配置され、横隔膜(図示せず)及び肺(図示せず)の解剖学的条件に適合している。
【0132】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、開心術又は胸部の横方向切開によって、或いは腹腔の切開によって、外科的に完全に埋め込まれてもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、カテーテル及び外科手術を使用した組み合わせ手順によって埋め込まれてもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、心臓領域、両方の胸腔領域又は腹腔領域において、カテーテル及び低侵襲性の手順によって完全に挿入することもできる。
【0133】
本発明に係るチャンバシステム700は、好ましくは挿入カテーテル800を使用して、カテーテルによって導入される。挿入カテーテル800の先端801は、必要に応じて心腔、胸腔又は腹腔に挿入される。開口部704は、一般的に使用されているカテーテル及びトロカールによって心膜に作成され、拡張器及び拡張バルーンによって拡大される。挿入カテーテル800の先端801は、心膜300の中へ進められ、第1のチャンバ702が挿入カテーテル800から出て、心膜300内で拡張できるようにする。その後すぐに、挿入カテーテル800の先端801は、ステント810を有する結合チャネル703が、心膜300の開口部704内で展開し、これを拡大し、安定させるように引っ込められる。したがってステント810が心膜壁805に固定される。第2のチャンバ701も拡張できるように、挿入カテーテル800は更に引っ込められる。
【符号の説明】
【0134】
100 心臓
101 左心室、左下の心室
102 左心房、左上の心室
103 右心室、右下の心室
104 右心房、右上の心室
105 心尖
110 心底
111 僧帽弁
112 三尖弁
113 大動脈弁
114 肺動脈弁
120 心臓骨格
121 左繊維三角
122 右繊維三角
123 心筋
124 心房性中隔壁、心房中隔
125 心室間中隔、心室中隔
131 僧帽弁輪
132 三尖弁輪
201 大動脈基部
210 拡張期の心室の外周、直交する直径
220 心室の縦軸
221 心底の移動方向
300 心嚢、心膜
301 胸骨心膜靭帯
302 隔壁、横隔膜
303 胸骨
304 剣状突起
305 肋骨
306 縦隔、縦隔部
401 血流又は血液流入
402 心尖の移動方向
700 医療用チャンバシステム
701 心膜外にある第2のチャンバ
702 心膜内にある第1のチャンバ
703 チャンバ間の結合チャネル
704 開口部(心膜の穴)
705 流体
706 チャンバ壁
800 挿入カテーテル
801 挿入カテーテルの先端
805 心膜の壁
810 支持装置(ステント)
820 流体の流れる方向
【手続補正書】
【提出日】2021-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チャンバシステム、導入システム及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全を有する患者の手当てとして、例えば、米国特許出願公開第2017/0368246号明細書、欧州特許第2482865号明細書、又は米国特許出願公開第2018/0193147号明細書に基づく、心臓の補助又は心臓の活動の補助のための様々なシステムが知られている。例えば、能動的に駆動され得る左室及び/又は右室心臓補助システムがある。システムは完全に埋め込まれてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0368246号明細書
【特許文献2】欧州特許第2482865号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0193147号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、別のシステムを提供することであり、本システムのための導入システム、並びにシステムと導入システムとを包含するキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、請求項1に記載の医療用チャンバシステムと、請求項9に記載の導入システムと、請求項10に記載のキットとによって達成され得る。
【0006】
本発明の目的は、心臓の活動を補助するために患者の胸部に埋め込む医療用チャンバシステム(以後、省略してチャンバシステムとも呼ぶ)を提供することによって達成されてもよく、これによって、好ましくは患者の心尖が変位又は移動され得る。
【0007】
医療用チャンバシステムは、少なくとも、患者の心膜の内部に配置されるように設けられた第1のチャンバと、心膜の外部に配置されるように設けられた第2のチャンバとを包含する。これらの2つのチャンバは、2つのチャンバのルーメン又は内部を互いに結合する少なくとも1つの結合部又は1つの結合チャネルを備える。チャンバは、流体で充填されるように設計される。
【0008】
2つのチャンバは、好ましくは、チャンバシステムが埋め込まれた状態で配置されるように提供され且つ設計され、その結果、心臓の活動が、圧力を印加することによって第1のチャンバから流体を動かし、これによって流体を第2のチャンバの中に移す。したがって第2のチャンバは、好ましくはチャンバシステム内で、流体又は流体の一部の容積貯蔵容器且つ/又はエネルギー貯蔵容器として作用する。
【0009】
チャンバは、そのチャンバ壁への圧力によって作用されるときに、2つのチャンバの一方と、これらのチャンバのもう一方との間で、且つ/又はチャンバシステムを埋め込んだ後では、心膜内の空間と心膜外の空間との間で、部品によって能動的に補助されることなく又は引き起こされることなく、容積を移動できるように提供され得る。このようにして、心尖の移動、従って心室の軸線方向への短縮が達成又は補助され得る。
【0010】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心膜内の空間と心膜外の空間との間で容積の移動が可能なように設計され、これは、心室の容積の変化によって駆動される。
【0011】
本発明は更に、チャンバシステム用の導入システムに関する。導入システムは、本発明に係るチャンバシステムを患者に埋め込む働きをする。導入システムは、挿入カテーテル、ガイドカテーテル、ガイドワイヤ、拡張器及び送達又は供給カテーテルのうちの1つ又はいくつかの部品と、本発明に係るチャンバシステムとを備えてもよい。挿入カテーテル且つ/又はルーメンの断面は円形、楕円形、又は多角形であってもよい。この点において、いくつかの実施形態では、導入システムが、各カテーテル及び/又は前記ガイドワイヤのいくつかの例示も含み得る。
【0012】
本発明はまた、本発明に係るチャンバシステムと、本発明に係る導入システムとを備えるキットに関する。
【0013】
本発明との関連において、患者はヒト又は動物であってもよい。
【0014】
以下の記述の全てにおいて、「~することができる、~してもよい、~され得る、~する場合がある(kann sein)」又は「有することができる、有し得る、有してもよい、有する場合がある(kann haben)」等の表現の使用は、「好ましくは~である(ist vorzugsweise)」又は「好ましくは~を有する(hat vorzugsweise)」等の同意語としてそれぞれ理解されるべきであり、且つ本発明に係る実施形態を示すことが意図される。
【0015】
本明細書で数値を表す語が示されている場合は常に、当業者はこれを数値の下限の表示として認識又は理解するものとする。当業者にとって明らかな矛盾につながらない限り、当業者は、例えば、「1つの」という表示は常に「少なくとも1つ」を包含すると理解するものとする。この理解もまた、当業者にとってこれが明らかに技術的に可能であれば、数値を表す語は、例えば「1つの」は代替的に「正確に1つの」を意味し得るという解釈として、本発明に等しく包含される。この両方の理解が本発明に包含され、且つ、本明細書で使用される全ての数値を表す語に当てはまる。
【0016】
以下、特に断りのない限り、近位とは本体の中心に向かうこと、遠位とは本体の中心から離れることを意味する。
【0017】
本発明の好適な展開が、従属するクレーム及び実施形態の各主題である。
【0018】
本明細書で実施形態が記述されるときは常に、本発明に係る例示的な実施形態として理解されるべきであり、限定的なものとして理解されるべきではない。
【0019】
本発明に係る実施形態は、当業者がそのような組み合わせは技術的に実現不可能であると考えない限り、上述した且つ/又は以下に述べる特徴の1つ以上を任意の組み合わせで備えていてもよい。
【0020】
先述した心臓機能を能動的に補助するためのシステムは、例えば、上述した米国特許出願公開第2017/0368246号明細書、欧州特許第2482865号明細書、又は米国特許出願公開第2018/0193147号明細書を参照すると、機械部品等の能動部品によって心臓の活動を補助し、心室を圧迫するものである。この部品は、例えば液圧式、電気式、磁気式、電磁式、機械式等の方式で直接的又は間接的に心筋に作用するモータである場合があり、又は当該モータを備えている場合があり、且つ/又は当該モータと接触する。
【0021】
これとは対照的に、本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、能動的な機械部品で、心臓の活動の能動的な機械的補助を行うことはなく、且つ/又は心室を圧迫せず、且つ/又は、特にこの目的のための装置、具体的には、例えば液圧式、電気式、磁気式、電磁式、機械式などの方式で直接的又は間接的に心筋に作用するモータを有せず、且つ/又はポンプ効果を有し、且つ/又はモータに作用するように設定された制御を行わない又は制御装置を有せず、且つ/又はそのようなモータにも、そのような制御又は制御装置にも信号送信で接続されない。
【0022】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心臓の周期において、心室の長軸の生理的な短縮を回復する又は当該短縮に寄与でき、自然な心臓の活動によって、チャンバシステムに収容されている流体が第1のチャンバから第2のチャンバに移動して再び戻り、これによって心尖が心底に向かって移動し、再び戻ることを可能にする又は補助する。
【0023】
第1のチャンバ及び第2のチャンバ(本明細書では、共に省略してチャンバとも呼ぶ)は、任意で圧力チャンバ、均圧チャンバ、或いはバランスチャンバ又は補償チャンバ等であってもよく、且つ/又はこれらを意味する場合がある。
【0024】
チャンバは、容積、直径、且つ/又は長軸及び短軸を有し得る。チャンバは、互いに類似するように又は互いに相違するように設計されてもよい。
【0025】
チャンバは、使用時の形状が異なるものと想定され、任意で周囲の解剖学的構造に、且つ/又は変化する圧力条件に適合され得る。この場合、チャンバは、特にその大きさ、形状、且つ/又は容積に関して、より大きい又はより充満した状態から、より小さい又はより充満していない状態に意図的に変更され、再びより大きい状態に戻されてもよい。これは好ましくは周期的に生じ、特に好ましくは心臓の活動と同期して、且つ/又は心臓の活動に影響を受けて生じる。
【0026】
チャンバシステムは、少なくとも1つのチャンバ壁を備え、各チャンバにつき、任意で1つ又は正確に1つの別のチャンバ壁を備える。したがって、第1のチャンバのチャンバ壁は、第2のチャンバのチャンバ壁と一体化して存在する又は作られてもよく、或いは第1のチャンバのチャンバ壁は、例えば、以下で更に詳しく説明する支持装置を介して又は含めることで、第2のチャンバのチャンバ壁に結合されてもよい。
【0027】
本発明に係るいくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバ壁は、完全に又は少なくとも部分的に、柔軟に変形可能である。
【0028】
チャンバは、チャンバシステムが埋め込まれた状態で、第1のチャンバは心膜内に配置され、第2のチャンバは心膜外に配置され得るように設計される。心膜内にある第1のチャンバは、チャネルを介して、好ましくは結合チャネルを介して、心膜外にある第2のチャンバに結合されることが好ましく、その結果、流体は心膜内の第1のチャンバから心膜外の第2のチャンバの中に流れ、再び戻ってもよい。チャンバ間の流れを調整又は制御する弁又はその他の手段は必要とされず、いくつかの実施形態では提供されない。しかしながら他の実施形態では、チャンバ間の流れに影響を与える弁、その他調節可能な手段が提供される。
【0029】
一方のチャンバから他方への容積の移動は、心膜内の心臓の活動によって駆動される。心臓が満たされていると、心膜内の心臓の容積の増加によって、好ましくは心膜内にある第1のチャンバから、心膜外にある第2のチャンバの中へ流体が移動する。心臓が収縮すると、心膜内の心臓の容積の減少又は低下によって、好ましくは心膜外にある第2のチャンバから、心膜内にある第1のチャンバへ流体が移動する。心膜内の第1のチャンバの容積の変化により、心尖は、心膜内の第1のチャンバの容積が増加したとき、心臓の活動に同期して移動し、心膜内の第1のチャンバが減少したとき、心底から離れて移動し得る。心尖の移動によって、心室の長軸は、収縮期の間は短縮され、拡張期の間は伸ばされる。
【0030】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは2つ以上のチャンバを備える。例えば、第1のチャンバは心膜内に配置されてもよく、1つ以上の追加のチャンバが、右胸腔内に、且つ/又は左胸腔内に、且つ/又は腹腔内に配置されてもよい。別のチャンバは、皮下などの他の身体構造内に配置されてもよい。別のチャンバは、体外に配置されてもよい。別のチャンバは、大気であってもよい。この場合、心膜内に配置されたチャンバと、心膜外に配置されたこれらのチャンバとの間に、長さの異なる結合チャネルが存在してもよい。
【0031】
好ましくは、チャンバは使用時に、心臓の収縮期の間は、流体が心膜外にある第2のチャンバから心膜内の第1のチャンバの中へ流れるように、そして拡張期の間は、流体が心膜内にある第1のチャンバから心膜外の第2の又は別のチャンバの中へ流れるように埋め込まれる。心膜内の第1のチャンバの容積又は大きさの変化により、心尖が、好ましくは軸線方向に移動され、従って心室の長軸を短縮することが可能になる。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、胸腔且つ/又は腹腔の開口部を介して、且つ/又は開心術によって外科的に完全に埋め込まれてもよく、この目的のために設計されてもよい。場合によっては、チャンバシステムは、カテーテルを介して挿入され、これに従って構成されてもよい。あるいは、切開術とカテーテルに基づく手技との組み合わせも考えられる。
【0033】
チャンバシステムの使用時にチャンバ内に存在する流体は、必要な流れ特性を示す任意の流体であってもよい。
【0034】
第1のチャンバを第2のチャンバに結合する結合チャネルは、好ましくは直径が0.5cm~5cm、特に好ましくは直径が15mm~20mmである。これらのチャンバを互いに結合する結合チャネルは、好ましくは長さが1mm~500mm、特に好ましくは長さが1mm~100mm、最も好ましくは長さが2mm~10mmである。
【0035】
チャンバは、チャンバシステムを埋め込む前に、既に流体で満たされていてもよい。流体は、好ましくは低粘度の流体からなり、好ましくは液体の混合物であり、特に好ましくは、水(H2O)を含み、且つ/又は等張性を有する。さらに、流体は、特に好ましくは、空気であってもよく、又は空気を含んでいてもよく、より好ましくは、規定のガス混合物からなっていてもよい。ガス又はガス混合物は、特に好ましくは、ヘリウムであってもよく、又はヘリウムを含んでいてもよい。
【0036】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバは、埋め込み後に、即ちこれらが既に体内に位置決めされ配置されているときに、流体で充填され得る。これらに、例えば開口部、好ましくは閉鎖装置によって閉鎖可能である開口部が適切に備えられ又は設計されることが可能である。体内におけるこの配置は、体内におけるチャンバの予備的な位置又は最終位置であってもよい。配置又は埋め込み後に、チャンバに収容される流体を充填したり、充填度又は流体容積を修正したりすることで、好適には、チャンバシステムを特定の患者のニーズに適合させることが可能になる場合があり、これはいくつかの実施形態では、埋め込み後著しく時間が経過した時点でも行われ得る。
【0037】
本発明に係るいくつかの実施形態では、1つのチャンバから、結合された他のチャンバへの流体の変位は、心膜内の心臓の容積を変えることによってのみ行われる又は生じる。
【0038】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバシステムは、支持装置を包含する。第1及び第2のチャンバの少なくとも2つのチャンバは、結合チャネルと共に、単一の閉じたバッグを正確に形成し得、支持装置は、少なくとも部分的に、結合チャネルを形成し得るか、又は結合チャネルに構造を与え得る。支持装置は、例えば柔軟で変形可能な中空体などの支持装置であってもよく、具体的には、ステント、リング、又はシリンダであってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、チャンバ間にある結合チャネルの直径は、結合チャネルの壁に結合され得る(好ましくはその埋め込み後に拡張する)装置によって一定に維持される。好ましくは、この装置はステントである。特に好ましくは、ステントは、心膜の開口部を任意の所定の大きさまで開いたまま維持する。特に好ましくは、ステントは、記憶材料(ニチノール又はポリマー)で作られるか、又は当該記憶材料を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、チャンバを結合する結合チャネルは、弾性ポリマー又はポリマーフィルム製であり、該弾性ポリマー又はポリマーフィルムは、好ましくはチャネルの直径に適合する。
【0041】
いくつかの実施形態では、複数のチャンバ壁(1つのチャンバ壁の場合もある)は、チャンバに存在する様々な流体の容積に適合する弾性ポリマーフィルム製であるか、又は当該弾性ポリマーフィルムを含む。
【0042】
チャンバシステムは、好ましくは、少なくとも部分的に、心膜、並びに胸腔及び/又は腹腔内に埋め込まれるように設計される。本装置は、好ましくは、少なくとも部分的に心膜内に埋め込まれるように設計される。
【0043】
いくつかの実施形態では、装置は、一部が心膜内に、且つ/又は胸腔内に、且つ/又は腹腔の別の部分に埋め込まれるように設計される。
【0044】
本発明に係るチャンバシステムのいくつかの実施形態では、心膜内に、胸腔内に、且つ/又は腹腔内に、且つ/又は体外に、同時にいくつかのチャンバが配置され得るように設計される。
【0045】
好ましくは、第1のチャンバは心膜内に配置され、結合チャネルを介して第2のチャンバと流体連通している。
【0046】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、大気であるか、又は大気との流体連通を有する。いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は患者の体外に配置されることが意図される。
【0047】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は体内に配置されることが意図される。
【0048】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は腹腔に配置されることが意図される。いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は右胸腔に配置されることが意図される。
【0049】
いくつかの実施形態では、第2のチャンバは、埋め込み後は左胸腔に配置されることが意図される。
【0050】
いくつかの実施形態では、いくつかの第2のチャンバは、埋め込み後は体内且つ/又は体外に配置されることが意図される。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、チャンバを結合するチャネルの一部内に又は一部上にステントを備える。
【0052】
いくつかの実施形態では、このようなステントは、チャンバシステムの、金属又は合金を含む唯一の部分であってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは、チャンバと、それらの結合チャネルとからなり、任意で、チャンバの形状を支持するための支持装置及び/又は支持フレームワークを更に備える。
【0054】
いくつかの実施形態では、チャンバは、密封された流体システムを集合的に形成する。これは、少なくとも使用中は、好ましくは入口又は出口を有せず、且つ/又は好ましくは、チャンバ且つ/又は患者の外部に流体結合されない。
【0055】
いくつかの実施形態では、チャンバは所定の形状を有し、他の実施形態では、所定の形状を有しない。
【0056】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、フレーム又はラックによって支持される。
【0057】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、記憶特性又は形状記憶特性を有するフレームによって支持される。
【0058】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのチャンバの形状は、ステントによって支持される。
【0059】
いくつかの実施形態では、チャンバは、それ自体の弾性力によって、チャンバ内又はチャンバ間で、流体の流れる方向を支持してもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムの少なくとも2つのチャンバ、例えば、第1のチャンバ及び第2のチャンバ、若しくは別の複数のチャンバ、又はそれらのチャンバ壁は、弾性、弾性率(E率、歪み率、又はヤング率)、及び/又は内部容積(例えば、液体のない状態、及び/又は外的作用のない状態、或いは弛緩した状態)が互いに異なる。
【0061】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、心尖が心臓の基部に向かって変位するのを補助する。したがって本装置は、心臓の長軸の短縮を補助する。したがって本装置は、長軸を短縮することによって、心臓から駆出される血液の体積を増加させる。
【0062】
いくつかの実施形態では、チャンバシステムは、センサを備えるか、又はセンサに結合される。センサは、圧力センサ及び/又は位置センサであってもよい。センサは、従って好ましくは、チャンバの充填に関する又は関連する生理学的なパラメータ、チャンバ内の圧力、流体の流れ、及び/又は心臓の活動を測定するために提供され適合される。この場合、センサは、好ましくは、患者の体内且つ/又は患者の体外にある少なくとも1つの装置に例えば無線又は有線で送信されるセンサ信号を提供するように設計される。信号に対応するエミッタ及び/又は受信機が提供されてもよい。
【0063】
このようなセンサ信号を受信する装置は、チャンバ間の流体の流れ又は流量を制御又は調整する少なくとも1つの装置に結合された、チャンバシステムの制御ユニットであってもよい。チャンバ間の流体の流れを制御又は調整するこのような装置において、このような装置はチャンバシステムの一部であってもよく、弁、スロットル、その他オリフィス等の調整可能な流れ又はフローリミッタを備えてもよい。
【0064】
したがって本発明に係るチャンバシステムは、チャンバ間の流体の流れを制御又は調整するために例えば装置上で作動するアクチュエータを有してもよく、このような装置が、例えば、結合チャネル内に又は支持装置内に提供されてもよい。しかしながらこのような装置は、該装置を作動させるためにチャンバシステムに駆動ユニットが設けられてもよく、これには例えば、バッテリから、その他何らかの方法でエネルギーが供給されてもよく、このような装置は、好ましくは心筋に作用しないため、本発明の観点から、心機能に作用するモータではなく、心臓の活動を補助せず、且つ/又は心室を補助せず、或いはこれらを能動的に補助しない。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、電気的な心臓の活動を測定するセンサ、(例えば、血管内及び/又は1つ以上の心室内の血圧を測定する)圧力センサ、力、電圧及び/又は電流、圧力、及び/又は少なくとも1つのチャンバの形状変化の程度を測定するセンサを備えるか、或いはそれらのセンサに接続される。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステムは、ECG(心電図)信号を取得する装置及び/又はセンサを備える。
【0067】
いくつかの実施形態では、チャンバ間の流体の流れを制御又は調整する装置は、心臓の活動と同期して制御されると規定されている。チャンバシステムは、これに従ってプログラムされてもよい。
【0068】
心臓周期の全期間にわたって心尖はほぼ静止したままであり、これは特に心膜に起因する。心膜は、約10mLの液体を収容し、心臓全体を囲む閉じた嚢である。閉じた心膜は液密であり、従って周囲の体腔との液体の交換を許容しない。心臓が収縮すると、胸部内で部分的に露出自在な心膜は、心臓の周囲の縮小に従うことができる。しかしながら、心膜は、胸骨心膜靭帯によって心尖の領域内で胸骨及び剣状突起に結合され、横隔膜にしっかりと結合されている。心臓の収縮中は、心膜及び閉じた心膜内にある心尖は、胸壁から心底に向かって移動することはできない。このため、心筋の収縮及び心臓の短縮によって心臓の基部及び弾性を有する大動脈基部は、引っ張られ、したがって収縮期には伸展される。拡張期に心筋が弛緩するとすぐに、伸展された大動脈基部が、その内部に蓄積された張力エネルギーによって心底を引っ張って、静止している心尖から離す。心臓に関してヒトと比較可能な解剖学的構造を有するヒツジを使った研究によれば、安静時には、張力によって大動脈基部と心底との間に1.8±0.2Nの力が存在することを示している。大動脈基部を心尖に向かって10mm動かすには、1.8±0.1Nの力Fが印加される必要がある。大動脈基部の変位の通常の偏向は、健常な人の場合は12±2mmである。したがって、心拍毎に、大動脈基部を偏向させるには、約W=F*s=1,8N*0,012m=0,0216Jの仕事Wが必要であり、対応するエネルギーは、大動脈基部の弾性的な伸展に部分的に蓄積される。
【0069】
心臓の衰弱、具体的には心不全は、心臓が心室容積の45%未満しか駆出できないときに生じる。駆出率が35%未満の場合は、深刻な機能障害とみなされる。
【0070】
心不全の症状は、息切れ(労作性呼吸困難、安静時呼吸困難、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難)、疲労、労作後の過度な疲労困憊、衰弱、嗜眠、液体のうっ滞(脚又は腹部の膨張、体重増加)、夜間排尿(夜間多尿)、乾咳(特に夜間)、めまい、失神、食欲不振、悪心、膨満、鼓腸、便秘、腹痛、体重減少傾向、記憶障害、錯乱状態、及び認知障害を含む。
【0071】
心不全は重症度に応じて、NYHA I(心疾患と診断され、無症状且つ運動許容量に制限がない)、NYHA II(運動許容量に緩やかな制限があり、運動量が多いときのみ症状が出るが安静時は無症状)、NYHA III(重度の運動許容量の制限があり、安静時は無症状だが運動量が少ないときでも症状あり)、及びNYHA IV(安静時にも持続的に症状がある)で分類される。心不全の診断には、心エコー法が特に重要であり、心エコー法によって心機能の部分的且つ全体的な制限が評価され得る。
【0072】
左室に駆出率(EF)45%未満の心不全を有する患者は、収縮期中の大動脈基部の変位が8mm未満に低下する。心臓の長軸の短縮は、心機能を測定するための特に敏感なパラメータである。
【0073】
駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、心エコー法で、駆出率が45%未満に低下した心臓の壁運動の低下が測定される。心尖から心底までの長軸と、該長軸に直交する短軸との両方を短縮する力が低下していることがわかる。駆出量の低下は、断層心エコー図法(シンプソン法)で判定され得る。
【0074】
心不全の症状を有する患者の少なくとも半数が、従来の心エコー法で測定すると正常な心機能を有しており、心室に直交する直径の短縮が正常とされる。ここから算出された駆出率は正常に見える。この形態の心不全は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と呼ばれる。心筋の硬化及び心臓の拡張機能の障害は、心不全の原因とされている。しかし、このような患者の心機能の詳細な心エコー法検査では、左心室のねじれ及びほどけ(Ver‐ und Entwindung)の変化、並びに左心室の拡張期吸引及び早期拡張期充満の低下が見られることが多い。
【0075】
心底が心尖に向かうのに伴った大動脈基部の正常な移動は12±2mmであるが、これが8mm未満に著しく低下する。収縮期及び早期拡張期における大動脈基部の拍動速度は、収縮期では1.54±0.51cm/sに対して0.64±0.51cm/s、拡張期開始時では2.32±1.24cm/sに対して1.49±0.77cm/sと非常に有意に低下する。このような患者の機能不全及び心不全の症状は、弾性レベルの低下、特に、大動脈基部の硬化と相関関係がある。同時に、このような患者には心筋の肥厚が見られ、ウインドケッセル機能の低下及び大動脈基部の拍動が小さくなっていることに対する代償を示している。心臓の力はまだ正常に見え、又は心エコー法では改善しているようにさえ見えるが、もはや大動脈基部を心尖の方へ引っ張るのに充分な力はなく、これは弾性が低くなったためであり、大動脈基部を充分に拍動させるためには力の増強が必要とされている。心臓の長軸を短縮する力の低下は、拍出量の低下につながる。
【0076】
本発明に係るチャンバシステムは、好ましくは、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)に使用するものであり、この場合は収縮期の心筋の機能の大部分が維持されるが、様々な疾病又は加齢の過程によって硬化した大動脈基部を伸展するのに充分なほどの心臓の強さは失われており、このことに関連して、心底の充分な拍動を生成する、或いは大動脈基部を伸展させるものである。
【0077】
本発明に係るいくつかの実施形態では、医療用チャンバシステムのチャンバは、少なくとも2つの個別のバッグを備え、該バッグは、共通の流体空間を形成するように、直接的又は間接的に結合される。2つの個別のバッグの結合部はスリーブであってもよく、これは2つのバッグ間の結合チャネルと呼ばれる場合がある。2つのバッグは、アダプタの形状の結合開口部によって、スリーブ(特に、スリーブの2つの端部)に押し入れられてもよいし、又は滑り込ませられてもよい。また、バッグの開口部は、例えば縫合、接着等によってスリーブに固定されてもよい。
【0078】
本発明に係るいくつかの実施形態では、チャンバの総容量は、0.1mL~100mL、特に1mL~50mLである。
【0079】
本発明に係るいくつかの実施形態では、医療用チャンバシステムは、完全に又は部分的に無菌である。
【0080】
本発明に係る実施形態のいくつかは、後述する利点を有し得る。
【0081】
本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心臓の活動を補助するために、心尖が心底に向かって変位できるようにする。
【0082】
心底が心尖に向かって変位することによる、収縮期における心臓長軸の通常の短縮とは異なり、本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心尖が心底に向かって変位できるようにする。
【0083】
収縮期中の心臓長軸の短縮を回復させることによって、心臓からの血液の駆出量が、本発明に係るチャンバシステムによって有利に増加され得る。
【0084】
本発明に係るチャンバシステムによって心臓長軸の短縮が回復すると、好適には、心室が良好に空にされ、心臓の収縮末期容量が低下する。心室は、したがって拡張期により容積が大きくなり、収縮期により多くの血液を駆出し、心機能の効率を向上させ、左心房の圧力を低下させる。
【0085】
HFpEFを有する患者では、硬化した大動脈基部の伸展及び拍動は低下する。このような患者は、心臓の強度は正常であるか、又は代償的に拡張される。収縮期中に心室の短縮が不足すると、心室の直径を更に小さくすることで補うことができず、駆出量の低下を引き起こす。本発明に係るチャンバシステムは、好適には、心尖の変位を補助し、これによってもはやできなくなった心底の変位を心尖の変位に置換する。これが心臓の縦軸の短縮につながり、従って心臓の駆出能力又は機能の向上につながる。
【0086】
本発明に係るチャンバシステムの、2つの心室及び2つの心房の筋収縮に対する有益且つ有利な効果は、副作用になり得る。
【0087】
以下、本発明に係る装置は、添付の図面を参照しながら、その好ましい実施形態に基づいて説明される。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1A】4つの心室及び心底を有する心臓を表す図である。
【
図1B】心底及び心臓骨格を有する心臓を表す図である。
【
図4A】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す図である。
【
図4B】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す別の図である。
【
図4C】心底が静止した状態での心臓のポンプ機能を表す更に別の図である。
【
図5A】左心室の通常のポンプ機能を表す概略図である。
【
図5B】左心室の通常のポンプ機能を表す別の概略図である。
【
図6A】心底が静止した状態での左心室のポンプ機能を表す概略図である。
【
図6B】心底が静止した状態での左心室のポンプ機能を表す別の概略図である。
【
図7A】心底が静止した状態で心尖の変位を可能にする本発明に係るチャンバシステムの概略的な実施形態である。
【
図7B】心底が静止した状態で心尖の変位を可能にする本発明に係るチャンバシステムの別の概略的な実施形態である。
【
図8A】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す図である。
【
図8B】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す別の図である。
【
図8C】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す更に別の図である。
【
図8D】本発明に係るチャンバシステムを配置するための挿入カテーテルを示す更に別の図である。
【
図9】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを示す。
【
図10A】本発明に係るチャンバシステムの機能を概略的に示す図である。
【
図10B】本発明に係るチャンバシステムの機能を概略的に示す別の図である。
【
図11A】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを心臓と共に示した図である。
【
図11B】心膜内にある本発明に係るチャンバシステムを心臓と共に示した別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
図1A及び
図1Bは、4つの心室と心底とを有するヒトの心臓100を示す。
【0090】
図1Aは、間に僧帽弁111が配置された左心室101(左下の心室)及び左心房102(左上の心室)と、間に三尖弁112が配置された右心室103(右下の心室)及び右心房104(右上の心室)とを示す。2つの心房の間には心房中隔124が配置され、2つの心室101と103との間には心室中隔125が配置されている。
【0091】
図1Bには、心底110が示されている。心底は、ほぼ平坦な心臓の解剖学的構造であり、該心臓内又は該心臓上には2つの房室弁、即ち僧帽弁111及び三尖弁112と、2つの半月弁、即ち大動脈弁113及び肺動脈弁114とが配置されている。心臓骨格120は軟骨組織からなり、心臓の唯一の剛体構造である。心臓骨格120は、大動脈基部201と、僧帽弁輪131及び三尖弁輪132の中心部とを完全に包含する。心臓骨格120の最も強健に形成される部分は、左繊維三角121及び右繊維三角122である。右繊維三角122では、僧帽弁111と三尖弁112とが互いに近接している。心室中隔125の心筋123は、僧帽弁111と三尖弁112との間の右繊維三角122の領域内で、心臓骨格120に結合される。この点において、心筋123、とりわけ心室中隔125の収縮によって、心臓骨格120と、そこに結合された大動脈弁113とが、心尖に向かって引っ張られる又は牽引される。
【0092】
僧帽弁111及び三尖弁112は拡張期の終わりに閉じ、心室101及び103が収縮したときに、血液が心房102及び104の中に逆流することなく前方へ送り出され、右側は肺内に、左側は体循環内に確実に入るようにする。大動脈弁113及び肺動脈弁114は、収縮期の終わりに閉じ、2つの心室101及び103の収縮後に、血液が心室101及び103の中に逆流することなく、むしろ右側の肺動脈及び肺内で拡張期血圧が維持され、且つ左側の大動脈及び体循環内で拡張期血圧が維持されることを確実にする。
【0093】
【0094】
図2Aは、心筋123が弛緩した、拡張期の心臓を示す。この収縮周期では縦軸220が最も長く、心室101、103の外周210と、直交する直径とが最も大きい。2つの心室101及び103は満たされており、僧帽弁111及び三尖弁112は、心室に血液が流入できるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0095】
図2Bは、正常な弾性を有する大動脈基部201による、収縮期における心臓の収縮を概略的に示す。心筋123が収縮され、心臓は心臓周期において外周210が最小になり、直交する直径が最小になる。心尖105は静止状態のままで、心底110は(心底の移動方向221へ)心尖に向かって移動し、縦軸220は最短になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。大動脈基部201は最大に伸展される。
【0096】
図3は、ヒトの胸部の概略図を示す。心膜300は、横隔膜302の上に載っており、縦隔306を有する大動脈基部201と、胸骨心膜靭帯301との間で伸展されている。胸骨心膜靭帯301は、心尖105の領域にある心膜300から、剣状突起304及び肋骨305の領域にある胸骨303の端部へ延びている。
【0097】
心臓が収縮すると、心膜300は、収縮期の間は心臓外周210の縮小に従い得る。しかしながら、閉じた心膜は、比較的固定された胸骨303と縦隔306との間で、胸骨心膜靭帯301を介して伸展されているために、心尖105は、心底110の方向へ、胸骨303から離れるように移動することはできない。このため、心臓の収縮及び心臓の縦軸220の短縮によって、心底110及び弾性を有する大動脈基部201が牽引され、従って収縮期には大動脈基部201が伸展され、大動脈基部201を伴う心底101が心尖105に向かって引っ張られる。
【0098】
図4Aから
図4Cは、同様に収縮期の心臓の収縮を概略的に示しているが、該心臓は、硬化して弾性を有しない大動脈基部201と、静止状態の心底110とを有している。
【0099】
図4Aは、心筋123が弛緩した、拡張期の心臓を示す。この収縮周期では縦軸220が最も長く、心室101、103の外周210と、直交する直径とが最も大きい。2つの心室101及び103は満たされており、僧帽弁111及び三尖弁112は、心室に血液が流入できるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。
【0100】
図4Bは、心筋123が収縮した心臓を示し、心臓では、心臓周期において外周210が最小になり、直交する直径が最小になる。心尖105は静止状態のままで、硬化した大動脈基部201が伸展されることができないために、心底110の位置に、拡張期に関連した変化はなく、そのため心底110は心尖105に向かって引っ張られることができない。縦軸220は、
図4Aの拡張期における弛緩した心臓のものと同じである。しかしながら、筋肉の収縮によって、心臓周期における外周210及び直交する直径は最小になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0101】
図4Cは、本発明に係るチャンバシステム使用時の心筋123が収縮した心臓を示す。心底110は、
図4Bのように静止状態のままである。本発明に係るチャンバシステムによって、心尖105が心底110に向かって(心尖の移動方向402へ)移動できるようになるため、縦軸220は、
図2Bのように最短になる。血液が逆流して2つの心房102及び104に入るのを防ぐために、房室弁111及び112は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0102】
図5Aは、拡張期の左心室101を模式的に示したものである。心筋123は弛緩され、心臓周期において縦軸220が最も長く、心室101の外周210と、直交する直径とが最も大きい。心室101は満たされており、僧帽弁111は、心室に血流401が入れるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室101へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0103】
図5Bは、正常な弾性を有する大動脈基部201による、心臓の収縮を概略的に示す。心筋123が収縮され、心臓の外周210又は直交する直径は最小になる。心膜300が胸骨心膜靭帯301を介して胸骨303に結合されているために、心尖105は静止状態のままになっている。心筋123の収縮によって、心底110は移動方向221に沿って心尖105に向かって移動し、縦軸220は心臓周期において最短になる。血液が逆流して心房102に入るのを防ぐために、僧帽弁111は閉じられる。大動脈弁113は、血液401を体循環内に駆出できるように開いている。大動脈基部201は最大に伸展される。
【0104】
図6Aは、拡張期の左心室101を概略的に示しているが、硬化して弾性を有しない大動脈基部201を有している。状況は
図5Aに示すものとほぼ同じである。心筋123は弛緩され、心臓周期において縦軸220が最も長く、心室101の外周210と、直交する直径とが最も大きい。心室101は満たされており、僧帽弁111は、心室に血流401が入れるように開いている。大動脈弁113は閉じられて、体循環から左心室101へ血液が逆流するのを防ぎ、体内の拡張期血圧を維持する。大動脈基部201は、拡張期の終わりに最大に収縮される。
【0105】
図6Bは、硬化して弾性を有しない大動脈基部201を有する左心室101の収縮を概略的に示す。心筋123は収縮されている。心膜300が胸骨心膜靭帯301を介して胸骨303に結合されているために、心尖105は静止状態のままになっている。硬化した大動脈基部201が伸展されることができないために、心底110の位置に変化はなく、そのため心底110は心尖105に向かって引っ張られることができない。縦軸220は、
図4Aの拡張期における弛緩した心臓のものと同じである。しかしながら、筋肉の収縮によって外周210及び直交する直径は最小になり、これは心臓周期全体に当てはまる。血液が逆流して左心房102に入るのを防ぐために、僧帽弁111は閉じられる。大動脈弁113は、血液を体循環内に駆出できるように開いている。
【0106】
図7A及び
図7Bは、図式的に簡略化した心臓100の図式的に簡略化した心膜300を参照しながら、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を示す。
【0107】
図7Aは、拡張期の心臓100の概略図を示す。本発明に係るチャンバシステム700は、心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702と、チャンバ701と702との間にある結合チャネル703とを備える、又はこれらからなり、結合チャネル703は、心膜300の開口部704を通過する。
【0108】
第1のチャンバ702は収縮しているので、拡張期の間は、心臓100は最大に膨張し、心室101を最大に充填することが可能である。チャンバシステム700に供給された流体はほぼ全て、第2のチャンバ701内に存在する。
【0109】
図7Bは、心膜300内にある、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態を心臓100と共に示す。この場合、
図7Bは、収縮期の心臓100、及び心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702と、チャンバ701と702との間にある結合チャネル703とを有する本発明に係るチャンバシステム700の概略図を示す。結合チャネル703は、心膜にある穴又は開口部704を通過する。第1のチャンバ702は、心尖105が心底110に向かって移動方向402へ変位できるように拡張される。このため、心室101の長軸220を最大限短縮することが可能になり、従って心室101を最大限空にすることが可能になる。チャンバシステム700の流体は、ほぼ全てが第1のチャンバ702内に存在し、第2のチャンバ701は、収縮している又は小さくなっている。
【0110】
図8A~
図8Dは、本発明に係るチャンバシステム700の挿入を示す。
【0111】
図8Aは、挿入カテーテル800内に完全に受け入れられた本発明に係るチャンバシステム700を示す。挿入カテーテル800の先端801は、開口部704によって心膜壁805を乗り越えて、心膜内に存在する。
【0112】
図8Bは、挿入カテーテル800の先端801の方向へ進んだチャンバシステム700を示し、第1のチャンバ702は、その終端側ルーメンを通って挿入カテーテル800から出て、心膜300内で膨張している。
【0113】
結合チャネル703は、弾性的又は膨張可能に設計されてもよく、
図8bに示す埋め込み段階では、まだ挿入カテーテル800のルーメン内に存在し、挿入カテーテル800の内壁によって半径方向に広がることが防止される。
【0114】
図8Cは、更に引っ込められた挿入カテーテル800の先端801を示す。結合チャネル703及びステント810は、挿入カテーテル800のルーメンの外部にあって、ステント810の形状記憶等によって広がっており、心膜300の開口部704を半径方向に拡大している。ステント810は、例えば半径方向の力によって、心膜壁805に固定される又は癒着している。
【0115】
図8Dは、第2のチャンバ701もまた膨張している、即ち心膜300の外側に出ているように更に引っ込められた挿入カテーテル800を示す。
【0116】
この実施形態に関しては、チャンバシステム700は、従って完全に挿入カテーテル800の外部にある。カテーテル800は、もう必要なく、廃棄されてもよい。
【0117】
チャンバシステム700を挿入カテーテル800から除去するために、ここには図示されていない器具、例えば、いわゆるプッシャが使用されてもよい。
【0118】
図9は、心膜壁805の開口部内で展開され固定されたステント810の三次元斜視図を示す。チャンバ701及び702は両方とも拡張されている。
【0119】
チャンバ701及び702は、0mL~500mLの容積を有し、特に好ましくは容積が0.01mL~300mL、より好ましくは容積が0.10mL~200mL、特に非常に好ましくは容積が1.00mL~100mLである。
【0120】
チャンバ701と702との間を移動される流体の比率は、流体の総容積の0.1%~20%の比率を有し、特に好ましくは流体の総容積の1%~50%の比率、特に好ましくは流体の総容積の10%~90%の比率を有する。
【0121】
結合チャネル703は、チャンバ701と702とを互いに結合し、好ましくは直径が0.5cm~5cmである。特に好ましくは、直径が15mm~20mmである。
【0122】
結合チャネル703は、チャンバ701と702とを互いに結合し、好ましくは長さが1mm~500mmである。特に好ましくは、長さが1mm~100mmである。特に好ましくは、長さが2mm~10mmである。
【0123】
チャンバ701、702内の流体は、必要な流れ特性を有する任意の流体であってもよい。好ましくは、心膜300内の第1のチャンバ702を心膜300外の第2のチャンバ701に結合する結合チャネル703は、充分に大きい直径を有し、且つ流体は、充分に低い粘度を有するので、2つのチャンバ間で流体が移動されるときは、最小限のエネルギー損失のみが生じる。
【0124】
先の図で示したチャンバ701、702のサイズ比は、純粋に例示のためのものである。チャンバ容積間に見られる比率は、特に重要な意味を有しない。
【0125】
図10A及び
図10Bは、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を、心膜300及び心臓100と共に概略的に示す。
【0126】
図10Aは、拡張期の終わりの心臓100、並びに、心膜300外にあるチャンバ701、心膜300内にあるチャンバ702、及びチャンバ701と702との間にある結合チャネル703を有する、本発明に係るチャンバシステム700の図を概略的に示す。結合チャネルは、心膜壁805の開口部704を通過する。拡張期に心室101が充満した結果、心尖105は、矢印402で示すように
第1のチャンバ702に作用し、
第1のチャンバ702は、これによって小さくなって、心室101の縦軸が最大に伸展し、且つ心室101が最大に充満することが可能になる。これによって流体705が、矢印820で示すように、第1のチャンバ702から第2のチャンバ701の中に移動する。
【0127】
図10Bは、収縮期の終わりの心臓100の図を概略的に示し、本発明に係るチャンバシステム700は、心膜300の外側にある第2のチャンバ701と、心膜300の内側にある第1のチャンバ702とが共に存在し、結合チャネル703は、チャンバ701と702との間にあり、結合チャネル703は、心膜壁805の開口部704を通過する。
【0128】
収縮期に心室101が収縮した結果、心尖105は、矢印402で示すように、チャンバ702から離れるように移動し、これによって拡大して、心室101の縦軸を最大限短縮し、且つ心室101を最大限空にすることが可能になる。これによって流体705が、矢印820で示すように、第2のチャンバ701から第1のチャンバ702の中に移動する。
【0129】
図11A及び
図11Bは、心膜300又は心臓100内にそれぞれ埋め込まれた、本発明に係るチャンバシステム700の実施形態の機能を示す。心底110は、全心臓周期を通して静止したままである。本発明に係るチャンバシステム700をその第1のチャンバ702と共に心膜300内に埋め込むことによって、心尖は、移動可能になり、収縮期に心底110に向かって移動することができ、拡張期に心底110から離れることができる。
【0130】
図11Aは、拡張期の終わりの心臓100の図を示す。心臓の長軸はここでは最長であり、心室101及び103は、心膜300をほぼ完全に満たしている。本発明に係るチャンバシステム700は、その第2のチャンバ701が心膜300外にあり、その第1のチャンバ702が心膜300内にある状態で配置される。結合チャネル703は、心膜300の開口部704を通過する。拡張期に心室101及び103が充満することによって、第1のチャンバ702は収縮し、従って心室101及び103を最大に充満させることが可能になる。流体705は、主に第2のチャンバ701内に存在する。第1のチャンバ702は、心膜300内の解剖学的条件、及び心尖105の解剖学的形状に適合している。第2のチャンバ701は、この実施形態では左胸腔に配置され、横隔膜(図示せず)及び肺(図示せず)の解剖学的条件に適合している。
【0131】
図11Bは、収縮期の終わりに向かう心臓100の図を示す。心室中隔125を伴って心筋123が収縮され、ここでは心臓の長軸が最短になる。心尖105は、心底110に向かって移動している。心室101及び103は、最大限空にされている。本発明に係るチャンバシステム700は、第2のチャンバ701が心臓300の外側にあり、第1のチャンバ702が心膜300内にある状態から変えられることはない。収縮期における心室101及び103の収縮によって第1のチャンバ702が拡張されて、心尖105が心底110に向かって変位されることが可能になり、これによって、心室101及び103を最大限空にすることが可能になる。流体705は、主に第1のチャンバ702内に存在する。第1のチャンバ702は、心膜300内の解剖学的条件、及び心尖105の解剖学的形状に適合している。第2のチャンバ701は、この実施形態では左胸腔に配置され、横隔膜(図示せず)及び肺(図示せず)の解剖学的条件に適合している。
【0132】
いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、開心術又は胸部の横方向切開によって、或いは腹腔の切開によって、外科的に完全に埋め込まれてもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、カテーテル及び外科手術を使用した組み合わせ手順によって埋め込まれてもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、本発明に係るチャンバシステム700は、心臓領域、両方の胸腔領域又は腹腔領域において、カテーテル及び低侵襲性の手順によって完全に挿入することもできる。
【0133】
本発明に係るチャンバシステム700は、好ましくは挿入カテーテル800を使用して、カテーテルによって導入される。挿入カテーテル800の先端801は、必要に応じて心腔、胸腔又は腹腔に挿入される。開口部704は、一般的に使用されているカテーテル及びトロカールによって心膜に作成され、拡張器及び拡張バルーンによって拡大される。挿入カテーテル800の先端801は、心膜300の中へ進められ、第1のチャンバ702が挿入カテーテル800から出て、心膜300内で拡張できるようにする。その後すぐに、挿入カテーテル800の先端801は、ステント810を有する結合チャネル703が、心膜300の開口部704内で展開し、これを拡大し、安定させるように引っ込められる。したがってステント810が心膜壁805に固定される。第2のチャンバ701も拡張できるように、挿入カテーテル800は更に引っ込められる。
【符号の説明】
【0134】
100 心臓
101 左心室、左下の心室
102 左心房、左上の心室
103 右心室、右下の心室
104 右心房、右上の心室
105 心尖
110 心底
111 僧帽弁
112 三尖弁
113 大動脈弁
114 肺動脈弁
120 心臓骨格
121 左繊維三角
122 右繊維三角
123 心筋
124 心房性中隔壁、心房中隔
125 心室間中隔、心室中隔
131 僧帽弁輪
132 三尖弁輪
201 大動脈基部
210 拡張期の心室の外周、直交する直径
220 心室の縦軸
221 心底の移動方向
300 心嚢、心膜
301 胸骨心膜靭帯
302 隔壁、横隔膜
303 胸骨
304 剣状突起
305 肋骨
306 縦隔、縦隔部
401 血流又は血液流入
402 心尖の移動方向
700 医療用チャンバシステム
701 心膜外にある第2のチャンバ
702 心膜内にある第1のチャンバ
703 チャンバ間の結合チャネル
704 開口部(心膜の穴)
705 流体
706 チャンバ壁
800 挿入カテーテル
801 挿入カテーテルの先端
805 心膜の壁
810 支持装置(ステント)
820 流体の流れる方向
【国際調査報告】