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特表2022-517987ケイ素アノード用の局在化超高濃度電解質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ケイ素アノード用の局在化超高濃度電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20220304BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/48
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540304
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 US2020013363
(87)【国際公開番号】W WO2020150154
(87)【国際公開日】2020-07-23
(31)【優先権主張番号】16/247,143
(32)【優先日】2019-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510300991
【氏名又は名称】バテル メモリアル インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ジー-グアン
(72)【発明者】
【氏名】ジア, ハイピン
(72)【発明者】
【氏名】リー, シャオリン
(72)【発明者】
【氏名】シュー, ウー
(72)【発明者】
【氏名】クァク, ウォン-ジン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H032AA01
5H050AA07
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA14
5H050CA17
5H050CA29
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA11
5H050EA23
(57)【要約】
ケイ素系または炭素/ケイ素複合体系のアノードを有するシステムにおいて使用されるための局在化超高濃度電解質(LSE)が開示される。LSEは、活性塩と、活性塩が可溶性である非水性溶媒と、活性塩が、非水性溶媒における活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である溶解度を有する希釈剤とを含む。LSEを含むシステムもまた開示される。本発明は、ケイ素系または炭素/ケイ素複合体系のアノードを含むシステムの安定な繰り返し使用のための局在化超高濃度電解質であって、活性塩と、活性塩が可溶性である溶媒と、活性塩が不溶性または難溶性である希釈剤とを含む局在化超高濃度電解質に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、アノードとを含むシステムであって、
前記電解質が、
リチウムカチオンを含む活性塩、
(i)炭酸フルオロエチレン(FEC)以外の炭酸エステル、(ii)難燃剤化合物、または(iii)(i)および(ii)の両方を含む非水性溶媒(ここで、前記活性塩は前記非水性溶媒に可溶性である)、および
フルオロアルキルエーテル、フッ素化オルトギ酸エステル、またはそれらの組み合わせを含む希釈剤(ここで、前記活性塩は、前記非水性溶媒における前記活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である前記希釈剤における溶解度を有する)
を含み、
前記アノードがケイ素を含む、システム。
【請求項2】
前記電解質がさらに0.1~30wt%のFECを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記活性塩は前記電解質において0.5M~6Mの範囲内のモル濃度を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記活性塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、LiPF、LiAsF、LiBF、LiCFSO、LiClO、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(LiDFOB)、LiI、LiBr、LiCl、LiSCN、LiNO、LiNO、LiSO、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記非水性溶媒が、有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステル、有機ホスホン酸エステル、有機ホスホルアミド、ホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む難燃剤化合物を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記難燃剤化合物が、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル);メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル);ヘキサメチルホスホルアミド;ヘキサメトキシホスファゼン、ヘキサフルオロホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記非水性溶媒が炭酸エチレン(EC)および炭酸エチル(EMC)、またはECおよび炭酸ジエチル(DEC)、またはECおよび炭酸ジメチル(DMC)、またはECと、EMC、DEC、DMC、炭酸プロピレン(PC)の組み合わせとを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記希釈剤が、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(OTE)、メトキシノナフルオロブタン(MOFB)、エトキシノナフルオロブタン(EOFB)、オルトギ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEO)、オルトギ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)(THFiPO)、オルトギ酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)(TDFEO)、オルトギ酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル(BTFEMO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)(TPFPO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(TTPO)、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記電解質が、
1~3MのLiFSIと、
比率が重量比で4:6~2:8であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、
前記希釈剤とを含み、ここで、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~4の範囲内である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記電解質が、
1~3MのLiFSIと、
リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、
前記希釈剤とを含み、ここで、TEPa対前記希釈剤のモル比が1~4の範囲内である、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記アノードが黒鉛/ケイ素複合体を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記アノードがさらにポリアクリル酸リチウムバインダーまたはポリイミドバインダーを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項14】
前記ケイ素が炭素被覆のナノケイ素である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記バインダーがポリイミドを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記電解質が、
1~3MのLiFSIと、
リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、
前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、TEPa対前記希釈剤のモル比が2~4の範囲内である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
カソードをさらに含み、ここで、前記アノードがプレリチウム化され、そして、前記システムが、100サイクル後において80%以上の容量保持率を有する、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記バインダーがポリアクリル酸リチウムを含み、そして、前記電解質が、
1~3MのLiFSIと、
比率が重量比で3:7であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、
前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~3の範囲内である、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
カソードをさらに含み、ここで、前記システムが、100サイクル後において70%以上の容量保持率を有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
カソードをさらに含み、前記カソードが、Li1+wNiMnCo(x+y+z+w=1、0≦w≦0.25)、LiNiMnCo(x+y+z=1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiCoO、LiNi0.5Mn1.5スピネル、LiMn、LiFePO、Li4-xTi12(M=Mg、Al、Ba、SrまたはTa;0≦x≦1)、MnO、V、V13、LiV、LiMC1 C2 1-xPO(MC1またはMC2=Fe、Mn、Ni、Co、CrまたはTi;0≦x≦1)、Li2-x (PO(M=Cr、Co、Fe、Mg、Y、Ti、NbまたはCe;0≦x≦1)、LiVPOF、LiMC1 C2 1-x((MC1およびMC2は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1)、LiMC1 C2 C3 1-x-y((MC1、MC2およびMC3は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1;0≦y≦1、0≦x+y≦1)、LiMn2-y(X=Cr、AlまたはFe、0≦y≦1)、LiNi0.5-yMn1.5(X=Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Ga、VまたはCu;0≦y<0.5)、xLiMnO・(1-x)LiMC1 C2 C3 1-y-z(MC1、MC2およびMC3は独立して、Mn、Ni、Co、Cr、Fe、またはそれらの混合である;x=0.3~0.5;y≦0.5;z≦0.5)、LiSiO(M=Mn、FeまたはCo)、LiSO(M=Mn、FeまたはCo)、LiMSOF(M=Fe、MnまたはCo)、Li2-x(Fe1-yMn)P(0≦x≦1;0≦y≦1)、Cr、Cr、炭素/イオウ複合体、または空気電極を含む、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は米国特許出願第16/247,143号(2019年1月14日出願、これはその全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)の一部継続出願である。
【0002】
政府支援の謝辞
本発明は、米国エネルギー省によって認められる契約番号DE-AC05-76RL01830のもとでの政府支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
分野
本発明は、ケイ素系または炭素/ケイ素複合体系のアノードを含むシステムの安定な繰り返し使用のための局在化超高濃度電解質であって、活性塩と、活性塩が可溶性である溶媒と、活性塩が不溶性または難溶性である希釈剤とを含む局在化超高濃度電解質に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
ケイ素系または炭素/ケイ素複合体系のアノードを有するリチウムイオンバッテリーにおいて使用されるための局在化超高濃度電解質(LSE)(これはまた局在化高濃度電解質(LHCE)として示される)が開示される。そのようなLSEを含むシステムもまた開示される。
【0005】
開示されたシステムのいくつかの実施形態では、ケイ素を含むアノード、および(a)リチウムカチオンを含む活性塩と、(b)(i)炭酸フルオロエチレン(FEC)以外の炭酸エステル、(ii)難燃剤化合物、または(iii)(i)および(ii)の両方を含む非水性溶媒(ここで、活性塩は非水性溶媒に可溶性である)と、(c)フルオロアルキルエーテル、フッ素化オルトギ酸エステル、またはそれらの組み合わせを含む希釈剤(ここで、活性塩は非水性溶媒における活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である希釈剤における溶解度を有する)とを含む電解質が含まれる。いくつかの実施形態において、電解質はさらに、0.1~30wt%のFECを含む。システムはさらにカソードを含み得る。
【0006】
上記実施形態のいずれにおいても、活性塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、LiPF、LiAsF、LiBF、LiCFSO、LiClO、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(LiDFOB)、LiI、LiBr、LiCl、LiSCN、LiNO、LiNO、LiSO、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、活性塩は電解質において0.5~6Mの範囲内のモル濃度を有する。
【0007】
いくつかの実施形態において、非水性溶媒はFEC以外の炭酸エステルを含む。ある特定の実施形態において、炭酸エステルは、炭酸エチレン(EC)と炭酸エチル(EMC)との混合物である。いくつかの実施形態において、非水性溶媒は、有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステル、有機ホスホン酸エステル、有機ホスホルアミド、ホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む難燃剤化合物を含む。ある特定の実施形態において、難燃剤化合物は、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル);メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル);ヘキサメチルホスホルアミド;ヘキサメトキシホスファゼン、ヘキサフルオロホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0008】
上記実施形態のいずれにおいても、希釈剤は、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)、メトキシノナフルオロブタン(MOFB、エトキシノナフルオロブタン(EOFB)、オルトギ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEO)、オルトギ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)(THFiPO)、オルトギ酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)(TDFEO)、オルトギ酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル(BTFEMO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)(TPFPO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(TTPO)、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(OTE)、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、希釈剤は、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、電解質は、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で4:6~2:8であるEC-EMCまたはTEPaと、0~30wt%のFEC(例えば、0wt%のFEC、5~30wt%のFEC、または5~10wt%のFEC)と、希釈剤とを含み、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせを含む。1つの実施形態において、電解質はEC-EMCを含み、EC-EMC対希釈剤のモル比が1~4の範囲の範囲内であり、例えば、1~3などの範囲の範囲内である。別の実施形態において、電解質はTEPaを含み、TEPa対希釈剤のモル比が1~4の範囲の範囲内であり、例えば、2~4などの範囲の範囲内である。
【0010】
上記実施形態のいずれにおいても、アノードは黒鉛/ケイ素複合体を含み得る。いくつかの実施形態において、アノードはさらに、ポリアクリル酸リチウムバインダー、ポリイミドバインダーまたはカルボキシメチルセルロースバインダーを含む。ある特定の実施形態において、ケイ素は炭素被覆のナノケイ素である。
【0011】
いくつかの実施形態において、アノードは、ポリイミドバインダーを有する黒鉛/ケイ素複合体を含み、ケイ素は炭素被覆のナノケイ素であり、電解質は、1~3MのLiFSIと、TEPaと、0~30wt%のFECと、希釈剤とを含み、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、TEPa対希釈剤のモル比が1~4の範囲の範囲内であり、例えば、2~4などの範囲の範囲内である。ある特定の実施形態において、アノードはプレリチウム化され、システムはさらにカソードを含み、システムは100サイクル後において80%以上の容量保持率を有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、アノードは、ポリアクリル酸リチウムバインダーを有する黒鉛/ケイ素複合体を含み、電解質は、1~3MのLiFSIと、EC-EMC(3:7、重量比)と、0~30wt%のFECと、希釈剤とを含み、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、EC-EMC対希釈剤のモル比が1~4の範囲の範囲内であり、例えば、1~3などの範囲の範囲内である。ある特定の実施形態において、システムはさらにカソードを含み、100サイクル後において70%以上の容量保持率を有する。
【0013】
本発明の上記の目的、特徴および利点、ならびに他の目的、特徴および利点が、添付された図面を参照して進められる下記の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、リチウム塩と、溶媒とを含む超高濃度電解質(SE)の概略的例示である。
【0015】
図2図2は、リチウム塩と、リチウム塩が可溶性である溶媒と、希釈剤、すなわち、前記溶媒と比較してリチウム塩が不溶性または難溶性である成分とを含む例示的な局在化超高濃度電解質(LSE)の概略的例示である。
【0016】
図3図3は、溶媒分子と希釈剤分子との間における例示的な「架橋」溶媒分子の概略的例示である。
【0017】
図4図4は、例示的なバッテリーの概略図である。
【0018】
図5図5は、LiPAAバインダーを含むケイ素/黒鉛(Si/Gr)アノードと、NMC532カソードと、1.2MのLiPFを、10wt%のFECを有するEC/EMC(3:7、重量比)において含むベースライン電解質とを用いることによる100サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0019】
図6図6は、LiPAAバインダーを含むSi/Grアノードと、NMC532カソードと、図5のベースライン電解質、超高濃度電解質、および本明細書中に開示されるようないくつかのLSEを含む様々な電解質とを用いることによる100サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0020】
図7図7は、LiPAAバインダーを含むSi/Grアノードと、NMC532カソードと、1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFEにおいて含むLSE(E-313)とを用いるコイン電池の、1回目、2回目および4回目のサイクルについての電圧対比容量のグラフである。
【0021】
図8図8は、100サイクルにわたる図7のコイン電池のサイクル性能を示す。
【0022】
図9図9は、ポリイミドバインダーを含むSi/Grアノードと、NMC532カソードと、ベースライン電解質とを用いるコイン電池の、1回目、2回目および3回目のサイクルについての電圧対比容量のグラフである。
【0023】
図10図10は、ベースライン電解質と、NMC532カソードと、様々なアノード、すなわち、LiPAAバインダーを含むSi/Grアノード、PIバインダーを含むSi/Grアノード、およびPIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノードとを用いることによる100サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0024】
図11図11は、NMCカソードと、PIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノードと、ベースライン電解質、2.5MのLiFSIをEC-EMC(3:7、重量比)-1.5BTFE(モル比、対EC-EMC)+5wt%のFECにおいて含むLSE(E-103)、および1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFE(モル比、対TEPa)において含むLSE(E-313)とを用いることによる100サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0025】
図12図12は、NMCカソードと、1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFE(モル比、対TEPa)において含むLSE(E-313)と、プレリチウム化を伴う、PIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノード、およびプレリチウム化を伴わない、PIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノードとを用いるコイン電池の1回目および4回目のサイクルについての電圧対比容量のグラフである。
【0026】
図13図13は、NMCカソードと、プレリチウム化を伴う、PIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノードと、プレリチウム化を伴わない、PIバインダーを含む炭素被覆Si/Grアノードと、1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFE(モル比、対TEPa)において、または1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFE(モル比、対TEPa)+1.2wt%のFECにおいて含むLSEとを用いることによる100サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0027】
図14図14は、NMCカソードと、LiPAAバインダーを有するSi/Grアノード、またはPIバインダーを有する炭素被覆Si/Grアノードと、本明細書中に開示されるような例示的LSEとを用いることによる80サイクルにわたるコイン電池のサイクル性能を示す。
【0028】
図15図15は、1.8MのLiFSIをEC-EMC(3:7、重量比)+5wt%のFEC、およびBTFE、TTEまたはTFEO(モル比がEC/EMCに対して2である)において含むLSEにおけるSi/Gr||NMC532のサイクル性能を示す。
【0029】
図16図16は、EC-EMC(3:7、重量比)-2BTFE(モル比、対EC/EMC)+5wt%のFECにおける1.8MのLiFSI(E-104)のサイクリックボルタンメトリー曲線を示す。走査速度が0.1mV/sであった。
【0030】
図17図17は、異なる上部電圧プラトー部でのLSE E-104またはベースライン電解質におけるLi||NMC532のサイクル性能を示す。
【0031】
図18図18は、2つの不燃性電解質、すなわち、LiFSI-1.33TEPa-4BTFEおよびLiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFE、ならびに3つの対照電解質、EC-EMC(3:7、重量比)+2wt%のFECにおける1MのLiPF、EC-EMC(3:7、重量比)+5wt%のFECにおける1MのLiPF、およびEC-EMC(3:7、重量比)+10wt%のFECにおける1MのLiPFを使用するLi||Si/Grバッテリーのサイクル性能を示すグラフである。
【0032】
図19図19は、2つの不燃性電解質、すなわち、LiFSI-1.33TEPa-4BTFEおよびLiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFEを使用するSi/Gr||NMC333バッテリーのサイクル性能を示すグラフである。
【0033】
図20図20は、不燃性電解質、すなわち、LiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFE、および対照電解質、すなわち、EC-EMC(3:7、重量比)+10wt%のFECにおける1MのLiPFを使用するSi/Gr||NMC333バッテリーのサイクル性能を示すグラフである。
【0034】
図21図21は、LiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFEを使用するSi/Gr||NMC333バッテリーの140サイクルにわたる面積容量、比容量およびクーロン効率を示すグラフである。
【0035】
図22図22は、LiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFEを使用する高面積容量Si/Gr||NMC333バッテリーの100サイクルにわたる比容量およびクーロン効率を示すグラフである。
【0036】
図23図23は、LiFSI-1.33TEPa-4BTFEおよびLiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFEを使用するSi/Gr||NMC333バッテリーの25℃での600サイクルにわたる比容量およびクーロン効率を示すグラフである。
【0037】
図24図24は、図23のバッテリーの45℃での比容量およびクーロン効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
本開示は、リチウムイオンバッテリーシステムなどの様々なシステムにおいて使用されるための局在化超高濃度電解質(LSE)の様々な実施形態に関する。LSEを含むシステムもまた開示される。開示されたLSEのいくつかの実施形態は、ケイ素系、炭素/ケイ素系、炭素系(例えば、黒鉛系および/または硬質炭素系)、スズ系またはアンチモン系のアノードと、様々なカソード材料とを有する電気化学的電池において安定である。LSEは、活性塩と、活性塩が可溶性である溶媒と、活性塩が不溶性または難溶性である希釈剤とを含む。
【0039】
I.定義および略号
用語および略語の下記の説明は、本開示をよりよく説明するために、また、本開示の実施において当業者を導くために提供される。本明細書中で使用される場合、「comprising」(含む)は「including」(含む)を意味し、単数形態である「a」または「an」または「the」は、文脈から別途明確に示される場合を除き、複数である参照物を包含する。用語「or」(または/あるいは/もしくは)は、文脈から別途明確に示される場合を除き、明記された代替要素のただ1つの要素、または2もしくはそれを超える要素の組み合わせを示す。
【0040】
別途説明される場合を除き、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に対して一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似するまたは同等である方法および材料を本開示の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記において記載される。これらの材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。本開示の他の特徴が、下記の詳細な説明と、請求項とから明らかである。
【0041】
別途示されている場合を除き、成分量、分子量、容量モル濃度、電圧および容量などを表すすべての数字は、本明細書または請求項において使用される場合、用語「約」によって修飾されるとして理解されなければならない。したがって、暗示的または明示的に別途示されている場合を除き、あるいは文脈から、より明確な構成を有すると当業者によって適切に理解される場合を除き、示される数値パラメーターは、当業者には知られているような標準的な試験条件/方法のもとで探られる所望の特性および/またはそのような標準的な試験条件/方法のもとでの検出限界に依存することがある近似値である。実施形態を議論された先行技術から直接的および明示的に区別するときには、実施形態の数字は、単語「約」が記載される場合を除き、近似値ではない。
【0042】
様々な代替が、本明細書中に示される様々な成分、パラメーター、動作条件などについて存在するが、そのことは、それらの代替が必ずしも同等であることおよび/または等しく申し分なく機能することを意味していない。そしてまた、そのことは、これらの代替が、別途明記される場合を除き、好ましい順序で列挙されることも意味していない。
【0043】
化学における様々な一般的用語の定義が、Richard J.Lewis,Sr.(編)、Hawley’s Condensed Chemical Dictionary(John Wiley&Sons,Inc.発行、2016年)(ISBN978-1-118-13515-0)に見出されることがある。
本開示の様々な実施形態の再検討を容易にするために、特定の用語の下記の説明が提供される。
【0044】
活性塩:本明細書中で使用される場合、用語「活性塩」は、初充電の後におけるバッテリーの繰り返し使用の期間中のレドックス反応に関与するレドックス活物質の少なくとも5%を構成する塩を示す。
AN:アセトニトリル
【0045】
アノード:電荷が有極性の電気デバイスに流入する電極。電気化学的観点からは、負荷電のアニオンがアノードに向かって移動し、そして/または正荷電のカチオンが、外部回路を通って出て行く電子と釣り合うためにアノードから離れる。放電するバッテリーまたはガルバニ電池において、アノードは、電子が流出する負端子である。アノードが金属から構成されるならば、アノードが外部回路に渡す電子には、電極から離れ、電解質内に移動する金属カチオンが付随する。バッテリーが再充電されるときには、アノードは、電子が流入し、金属カチオンが還元される正端子となる。
【0046】
会合した(する):ここで使用される場合、用語「会合した(する)」は、~に配位した(する)、または、~によって溶媒和された(される)を意味する。例えば、溶媒分子と会合するカチオンは溶媒分子に配位し、または溶媒分子によって溶媒和される。溶媒和は、溶媒分子が溶質の分子またはイオンにより引き付けられることである。会合は、カチオンと溶媒分子との間における電子的相互作用(例えば、イオン-双極子相互作用および/またはファンデルワールス力)に起因し得る。配位は、1またはそれを超える配位結合がカチオンと溶媒原子の電子孤立対との間で形成されることを示す。配位結合はまた、カチオンと溶質のアニオンとの間で生じ得る。
【0047】
架橋溶媒:極性の末端または部分および非極性の末端または部分を有する両親媒性分子を有する溶媒。
BTFE:ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル
【0048】
容量:バッテリーの容量は、バッテリーが送達することができる電荷の量である。容量は典型的にはmAhまたはAhの単位で表され、バッテリーが1時間の期間にわたってもたらすことができる最大定電流を示している。例えば、100mAhの容量を有するバッテリーは100mAの電流を1時間にわたって、または5mAの電流を20時間にわたって送達することができる。面積容量または比面積容量は電極(または活物質)表面の単位面積あたりの容量であり、典型的にはmAhcm-2の単位で表される。
【0049】
カーボンブラック:炭素の微細分割形態、これは典型的には、気化した重油留分の不完全燃焼によって作製されるものである。カーボンブラックはまた、クラッキングまたは燃焼によってメタンまたは天然ガスから作製することができる。
【0050】
炭素/ケイ素複合体:本明細書中で使用される場合、炭素/ケイ素複合体の用語は、炭素(例えば、黒鉛および/または硬質炭素など)とケイ素との両方を含む材料を示す。複合体が、組み合わされたときには個々の成分の特徴とは異なる特徴を有する物質をもたらす2またはそれを超える構成材料から作製される。炭素/ケイ素複合体が、例えば、黒鉛およびケイ素の粉末が埋め込まれるピッチの熱分解によって調製され得る(例えば、Wenら、Electrochem Comm 2003,5(2):165-168を参照のこと)。
【0051】
カソード:電荷が有極性の電気デバイスから流出する電極。電気化学的観点からは、正荷電のカチオンが常にカソードに向かって移動し、そして/または負荷電のアニオンが、外部回路から到達する電子と釣り合うためにカソードから離れる。放電するバッテリーまたはガルバニ電池において、カソードは、規約電流の方向に対して正端子である。この外向きの電荷が、正イオンが還元され得る高電位のカソードに電解質から移動する正イオンによって内部では運ばれる。バッテリーが再充電されるとき、カソードは、電子が流出し、金属原子(またはカチオン)が酸化される負端子になる。
【0052】
電池(セル):本明細書中で使用される場合、電池(セル)は、電圧または電流を化学反応から生じさせるために、または化学反応が電流によって誘発される逆のことを生じさせるために使用される電気化学的デバイスを示す。例には、とりわけ、ボルタ電池、電解セルおよび燃料電池が含まれる。バッテリーは1またはそれを超える電池を含む。用語「電池」および用語「バッテリー」は、ただ1つのみの電池を含有するバッテリーを示すときには交換可能に使用される。
【0053】
コイン電池:小さい、典型的には円形状のバッテリー。コイン電池は、その直径および厚さによって特徴づけられる。
【0054】
転換化合物:バッテリーが放電するときに別の金属によって入れ替わる1またはそれを超えるカチオンを含む化合物。例えば、セレン化鉄(II)(FeSe)がカソード材料として使用されるときには、Feが、Naバッテリーの放電時にはNaによって置き換えられる。
2Na+2e+FeSe ←→ NaSe+Fe
【0055】
クーロン効率(CE):電気化学反応を容易にするシステムにおいて電荷が伝達される効率。CEが、放電サイクル期間中にバッテリーから出る電荷量を充電サイクル期間中にバッテリーに入る電荷量によって除したものとして定義され得る。Li||Cu電池またはNa||Cu電池のCEが、剥奪プロセス期間中にバッテリーから流出する電荷量をめっきプロセス期間中にバッテリーに入る電荷量によって除したものとして定義され得る。
DEC:炭酸ジエチル
DMC:炭酸ジメチル
DME:1,2-ジメトキシエタン
DMSO:ジメチルスルホキシド
DOL:1,3-ジオキソラン
【0056】
ドナー数:ルイス塩基性の定量的尺度、例えば、カチオンを溶媒和する溶媒能力など。ドナー数が、ドナー数が0である1,2-ジクロロエタンでの希薄溶液におけるルイス塩基とSbClとの間での1:1の付加物形成についての負のエンタルピー値として定義される。ドナー数は典型的にはkcal/molの単位で報告される。例えば、アセトニトリルはドナー数が14.1kcal/molである。別の一例として、ジメチルスルホキシドはドナー数が29.8kcal/molである。
EC:炭酸エチレン
【0057】
電解質:電気伝導性媒体として挙動する、遊離イオンを含有する物質。電解質は一般には、溶液においてイオンを含み、しかし、溶融電解質および固体電解質もまた知られている。
EMC:炭酸エチルメチル
EMS:エチルメチルスルホン
EOFB:エトキシノナフルオロブタン
EVS:エチルビニルスルホン
FEC:炭酸フルオロエチレン
FCE:初回クーロン効率
【0058】
難燃剤:本明細書中で使用される場合、用語「難燃剤」は、電解質に十分な量で組み込まれたとき、電解質を本明細書中で定義されるように不燃性または難燃性にする作用因を示す。
【0059】
可燃性(の):用語「可燃性(の)」は、容易に発火し、急速に燃えることになる材料を示す。本明細書中で使用される場合、用語「不燃性(の)」は、電解質を含む電気化学的デバイスの動作期間中に電解質が発火することまたは燃えることがないことを意味する。本明細書中で使用される場合、用語「難燃性(の)」および用語「低可燃性」は交換可能であり、電解質の一部がいくつかの条件のもとで発火することがあること、しかし、生じた発火が電解質全体に伝播することがないことを意味する。可燃性は、電解質の自己消火時間(SET)を求めることによって見積もることができる。SETは、修正されたUnderwriters Laboratories試験規格94HBによって求められる。電解質が、0.05~0.10gの電解質を吸収することが可能である不活性な球状の灯心(例えば、直径が約0.3~0.5cmである球状の灯芯など)に固定化される。その後、灯心に点火され、炎が消える時間が記録される。時間はサンプル重量に対して正規化される。電解質が着火しないならば、SETは0であり、電解質は不燃性である。SETが6s/g未満である(例えば、炎が約0.5秒以内に消える)電解質もまた、不燃性であると見なされる。SETが20s/gを超えるならば、電解質は可燃性であると見なされる。SETが6~20s/gの間であるならば、電解質は難燃性であると見なされ、または低い可燃性を有すると見なされる。
【0060】
フッ素化オルトギ酸エステル:下記の一般式を有するフッ素化化合物:
【化1】
(式中、R、R’およびR”の少なくとも1つがフルオロアルキルであり、それ以外の2つの置換基が独立して、フルオロアルキルまたはアルキルである)。アルキル鎖は直鎖または分枝状であり得る。R、R’およびR”は互いに同じであり得、または互いに異なり得る。R、R’およびR”の1つまたは複数がペルフルオロ化され得る。
【0061】
フルオロアルキル:少なくとも1つのH原子がF原子によって置き換えられているアルキル基。ペルフルオロアルキル基は、すべてのH原子がF原子によって置き換えられているアルキル基である。
【0062】
フルオロアルキルエーテル(ヒドロフルオロエーテル、HFE):本明細書中で使用される場合、フルオロアルキルエーテルおよびHFEの用語は、一般式R-O-R’(式中、RおよびR’の一方がフルオロアルキルであり、RおよびR’の他方がフルオロアルキルまたはアルキルである)を有するフッ素化エーテルを示す。アルキル鎖は直鎖または分枝状であり得る。本エーテルはペルフルオロ化され得、この場合、RおよびR’のそれぞれがペルフルオロアルキルである。RおよびR’は互いに同じであり得、または互いに異なり得る。
【0063】
硬質炭素:難黒鉛化性の炭素材料。高温(例えば、1500℃超)において、硬質炭素は実質的に非晶質のままであり、これに対して、「軟質」炭素は、結晶化を受け、黒鉛状になるであろう。
【0064】
非混和性(の):この用語は、均一に混合され得ないまたはブレンドされ得ない同じ物質状態の2つの物質を表す。油および水が、2つの非混和性液体の一般的な一例である。
【0065】
層間侵入:物質(例えば、イオンまたは分子)が別の物質の微細構造の中に入ることを示す用語。例えば、リチウムイオンは黒鉛(C)に入り込み、すなわち、層間侵入して、リチウム化黒鉛(LiC)を形成することができる。
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
LiBOB:ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム
LiDFOB:ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム
LiPAA:ポリアクリル酸リチウム
LSE:局在化超高濃度電解質
MEC:メチレンエチレンカーボネート(methylene ethylene carbonate)
MOFB:メトキシノナフルオロブタン
OTE:1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル
PC:炭酸プロピレン
【0066】
リン酸エステル:本明細書中で使用される場合、リン酸エステルは、一般式P(=O)(OR)(式中、それぞれのRは独立してアルキル(例えば、C~C10アルキル)またはアリールである)を有するオルガノリン酸エステルを示す。それぞれのアルキル基またはアリール基は置換または非置換であり得る。
【0067】
亜リン酸エステル:本明細書中で使用される場合、亜リン酸エステルは、P(OR)またはHP(O)(OR)の一般式(式中、それぞれのRは独立してアルキル(例えば、C~C10アルキル)またはアリールである)を有するオルガノ亜リン酸エステルを示す。それぞれのアルキル基またはアリール基は置換または非置換であり得る。
【0068】
ホスホン酸エステル:一般式P(=O)(OR)(R’)(式中、それぞれのRおよびR’は独立してアルキル(例えば、C~C10アルキル)またはアリールである)を有する化合物。それぞれのアルキル基またはアリール基は置換または非置換であり得る。
【0069】
ホスホルアミド:一般式P(=O)(NR(式中、それぞれのRは独立して、水素、アルキル(例えば、C~C10アルキル)またはアルコキシ(例えば、C~C10アルコキシ)である)を有する化合物。少なくとも1つのRが水素でない。それぞれのアルキル基またはアリール基は置換または非置換であり得る。
【0070】
ホスファゼン:リン原子が窒素原子または窒素含有基に二重結合によって共有結合で連結され、および3つの他の原子または基に単結合によって共有結合で連結される化合物。
PI:ポリイミド
【0071】
セパレーター:バッテリーセパレーターは、アノードとカソードとの間に置かれる多孔質のシートまたはフィルムである。セパレーターは、イオン輸送を容易にしながら、アノードとカソードとの間での物理的接触を防止する。
【0072】
可溶性(の):溶媒に分子的またはイオン的に分散されて、均一な溶液を形成することが可能である。本明細書中で使用される場合、用語「可溶性(の)」は、活性塩が少なくとも1mol/L(M、容量モル濃度)または少なくとも1mol/kg(m、質量モル濃度)の所与溶媒における溶解度を有することを意味する。
【0073】
溶液:2またはそれを超える物質から構成される均一な混合物。溶質(微量成分)が溶媒(主成分)に溶解される。複数の溶質および/または複数の溶媒が溶液に存在し得る。
【0074】
超高濃度(の):本明細書中で使用される場合、用語「超高濃度電解質」は、塩濃度が少なくとも3Mである電解質を示す。
TDFEO:オルトギ酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)
TEPa:リン酸トリエチル
TFEO:オルトギ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)
TFTFE:1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル
THFiPO:オルトギ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)
TMPa:リン酸トリメチル
TMTS:テトラメチレンスルホンまたはテトラメチレンスルホラン
TPFPO:オルトギ酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)
TTE:1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル
TTPO:オルトギ酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)
VC:炭酸ビニレン
VEC:4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン
【0075】
II.局在化超高濃度電解質
超高濃度電解質は、溶媒と、塩濃度が少なくとも3Mである塩とを含む。いくつかの超高濃度電解質は塩濃度が少なくとも4Mまたは少なくとも5Mである。ある特定の事例において、塩の質量モル濃度が最大で20mまたはそれを超え得る(例えば、水性LiTFSI)。図1は、溶媒と、リチウム塩とを含む従来の超高濃度電解質の概略的例示である。望ましくは、溶媒分子のすべてまたは大部分が超高濃度電解質におけるリチウムカチオンと会合する。遊離している非会合溶媒分子の低下した存在は、リチウム金属アノードのクーロン効率(CE)、ならびに/あるいは炭素(例えば、黒鉛および/または硬質炭素)系および/またはケイ素系のアノードの中へのLiイオンの可逆的挿入を増大させること、安定化された固体電解質界面(SEI)層の形成を容易にすること、ならびに/あるいは電解質を含むバッテリーのサイクル安定性を増大させることをもたらし得る。しかしながら、超高濃度電解質は、例えば、材料コストが大きい、粘度が大きい、ならびに/あるいはバッテリーセパレーターおよび/または電極の濡れが不良であるなどの短所を有する。さらなる溶媒による希釈により、これらの短所の1つまたは複数を解決することができるが、希釈は遊離の溶媒分子をもたらし、多くの場合にはCEを低下させ、安定化SEI層の形成を妨げ、および/またはバッテリーのサイクル安定性を低下させる。
【0076】
図2は、例示的な「局在化超高濃度電解質」(LSE)の概略的例示である。LSEは、リチウム塩と、リチウム塩が可溶性である溶媒と、リチウム塩が不溶性または難溶性である希釈剤とを含む。図2に示されるように、リチウムイオンは、希釈剤添加後も溶媒分子と会合したままである。アニオンもまた、リチウムイオンに近接して存在するか、またはリチウムイオンと会合する。したがって、溶媒-カチオン-アニオン凝集体の局在化領域が形成される。対照的に、リチウムイオンおよびアニオンは希釈剤分子と会合しておらず、そのため、これらは溶液において遊離したままである。局所的高濃度塩/溶媒の領域と、遊離希釈剤分子の領域とを有するこの電解質構造の証拠が、ラマン分光法(例えば、米国特許出願公開第2018/0251681号(A1)(これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に示されるように)、NMR特徴づけおよび分子動力学(MD)シミュレーションによって示される。したがって、全体としての溶液は図1の溶液よりも高濃度ではないが、リチウムカチオンが溶媒分子と会合する高濃度の局在化領域が存在する。希釈された電解質には遊離の溶媒分子がほとんどまたは全く存在しておらず、それにより、超高濃度電解質の利点が、関連した短所を伴うことなくもたらされる。
【0077】
従来の電解質および従来の超高濃度電解質は多くの場合、ケイ素を含むアノードを有するバッテリーシステムにおいて、ほんの限られたサイクル寿命をもたらすにすぎない。LSEの中にもまた、ケイ素を含むアノードに関して、不良な結果をもたらすものがある。いくつかの事例において、電解質とケイ素含有アノードとの適合性が少なくとも部分的には、アノードに存在するバインダーの組成に依存する。しかしながら、開示されたLSEのある特定の実施形態では、上記で議論される問題の一部またはすべてを解決することができる。炭素/ケイ素複合体系のアノードを含めてケイ素含有アノードとの適合性を有することに加えて、開示されたLSEのいくつかの実施形態はまた、炭素系、スズ系および/またはアンチモン系のアノードとの適合性を有する。
【0078】
開示されたLSEの様々な実施形態が、活性塩と、溶媒A(ここで、活性塩は溶媒Aに可溶性である)と、希釈剤(ここで、活性塩は希釈剤に不溶性または難溶性である)とを含む。本明細書中で使用される場合、「難溶性(の)」は、活性塩が、溶媒Aにおける活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である希釈剤における溶解度を有することを意味する。
【0079】
溶媒Aにおける活性塩の溶解度は(希釈剤の非存在下では)、3Mを超え得、例えば、少なくとも4Mまたは少なくとも5Mなどであり得る。いくつかの実施形態において、溶媒Aにおける活性塩の溶解度および/または濃度は3M~10Mの範囲内であり、例えば、3M~8M、4M~8M、または5M~8Mなどの範囲内である。ある特定の実施形態において、例えば、溶媒Aが水を含むときなどでは、濃度は、質量モル濃度に換算して表され得、溶媒Aにおける活性塩の濃度が(希釈剤の非存在では)、3m~25mの範囲内であり得、例えば、5m~21m、または10m~21mなどの範囲内であり得る。対照的に、全体としての電解質(塩、溶媒Aおよび希釈剤)における活性塩のモル濃度またはモラル濃度は、溶媒Aにおける活性塩のモル濃度またはモラル濃度よりも少なくとも20%小さくあり得、例えば、溶媒Aにおける活性塩のモル濃度またはモル濃度よりも少なくとも30%小さく、少なくとも40%小さく、少なくとも50%小さく、少なくとも60%小さく、またはさらに少なくとも70%小さくあり得る。例えば、電解質における活性塩のモル濃度またはモラル濃度は、溶媒Aにおける活性塩のモル濃度またはモラル濃度よりも20~80%小さく、20~70%小さく、30~70%小さく、または30~50%小さくあり得る。いくつかの実施形態において、電解質における活性塩のモル濃度は、0.5M~6M、0.5M~3M、0.5M~2M、0.75M~2M、または0.75M~1.5Mの範囲内である。
【0080】
活性塩は、電解質を含む電池の充電プロセスおよび放電プロセスに関与する塩または塩の組み合わせである。活性塩は、異なる酸化状態および還元状態を有するレドックス対を形成することが可能であるカチオン、例えば、酸化状態が異なるイオン種、または金属カチオンおよびその対応する中性金属原子などを含む。いくつかの実施形態において、活性塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、またはそれらの任意の組み合わせである。活性塩はリチウム塩またはリチウム塩の混合物であり得る。例示的な塩には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、LiPF、LiAsF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiCFSO、LiClO、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(LiDFOB)、LiI、LiBr、LiCl、LiOH、LiNO、LiSO、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、塩は、LiFSI、LiTFSI、またはそれらの組み合わせである。ある特定の実例において、塩はLiFSIである。
【0081】
溶媒は活性塩または活性塩混合物のカチオンと会合する(例えば、活性塩または活性塩混合物のカチオンを溶媒和する、あるいは活性塩または活性塩混合物のカチオンに配位する)。活性塩と、溶媒とを含む超高濃度電解質として調製されるとき、溶媒-カチオン-アニオン凝集体が生じる。開示された超高濃度電解質のいくつかの実施形態は、より低濃度の電解質が使用されるとき、および/または他の溶媒が使用されるときには不安定であることがあるアノード(例えば、炭素系および/またはケイ素系、スズ系、あるいはアンチモン系のアノード)、カソード(イオン層間化合物および転換化合物を含むカソード)、および/または集電体(例えば、Cu、Al)に対して安定である。
【0082】
溶媒Aとして使用されるための好適な溶媒には、ある特定の炭酸エステル溶媒、エーテル溶媒、リン含有溶媒およびそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、溶媒Aは、炭酸エステル溶媒、難燃剤化合物またはそれらの組み合わせを含む、あるいは炭酸エステル溶媒、難燃剤化合物またはそれらの組み合わせから本質的になる、あるいは炭酸エステル溶媒、難燃剤化合物またはそれらの組み合わせからなる。用語「から本質的になる」は、当該溶媒が他の溶媒を、例えば、エーテルおよび水などを、任意の感知され得る量(例えば、1wt%を超える量)で含まないことを意味する。好適な炭酸エステル溶媒には、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ジフルオロエチレン(DFEC)、炭酸トリフルオロエチレン(TFEC)、4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(VEC)、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-メチレンエチレンカーボネート(4-methylene ethylene carbonate)(MEC)、炭酸メチル2,2,2-トリフルオロエチル(MFEC)、4,5-ジメチレン-1,3-ジオキソラン-2-オンおよびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
好適な難燃剤化合物には、リン含有化合物が含まれるが、これらに限定されない。溶媒Aにおける難燃剤の量は、電解質の低い可燃性または不燃性を維持するために十分である。いくつかの実施形態において、難燃剤化合物は、1またはそれを超える有機リン化合物(例えば、有機のリン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスホルアミド)、ホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む。有機のリン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスホルアミドには、置換および非置換の脂肪族およびアリールのリン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステルおよびホスホルアミドが含まれる。ホスファゼンは有機または無機であり得る。例示的な難燃剤化合物には、例えば、TMPa、TEPa、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメトキシホスファゼン(cyclo-トリス(ジメトキシホスホニトリル)、ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン)、ヘキサフルオロホスファゼン(ヘキサフルオロシクロホスファゼン)、およびそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態において、低可燃性または不燃性のLSEは、少なくとも5wt%または少なくとも10wt%の難燃剤化合物を含む。ある特定の実施形態において、低可燃性または不燃性のLSEは5~75wt%の難燃剤化合物を含み、例えば、5~60wt%、5~50wt%、5~40wt%もしくは5~30wt%、10~60wt%、10~50wt%、10~40wt%、または10~30wt%などの難燃剤化合物を含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、溶媒Aは、FEC以外の炭酸エステル、難燃剤化合物、またはそれらの組み合わせを含む。ある特定の実施形態において、FEC以外の炭酸エステル、難燃剤化合物、またはそれらの組み合わせは、溶媒Aの少なくとも50wt%、少なくとも60wt%、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、または少なくとも90wt%を構成する。いくつかの実施形態において、溶媒Aは、EC、EMC、TEPa、またはそれらの組み合わせである。1つの実施形態において、溶媒AはECおよびEMCを含み、またはこれらから本質的になり、またはこれらからなり、ここで、ECおよびEMCが2:8~4:6の重量比で存在する。いくつかの実例において、溶媒Aは、比率が3:7の重量比であるEC-EMCを含む、またはそのようなEC-EMCから本質的になる、またはそのようなEC-EMCからなる。1つの独立した実施形態において、溶媒AはTEPaを含む、またはTEPaから本質的になる、またはTEPaからなる。
【0085】
上記実施形態のいずれにおいても、溶媒AはさらにFECを含み得る。いくつかの実施形態において、電解質はさらに、0超~30wt%のFECを含み、例えば、0超~20wt%、0超~10wt%、0.1~30wt%のFEC、0.5~30wt%のFEC、2~30wt%のFEC、5~30wt%のFEC、2~10wt%のFEC、または5~10wt%のFECを含む。別の実施形態において、電解質は0超~10mol%のFECを含み、例えば、0.2~10mol%のFECを含む。1つの実施形態において、溶媒Aは、EC、EMCおよびFECを含み、またはこれらから本質的になり、またはこれらからなり、ここで、ECおよびEMCが2:8~4:6の重量比で存在する。いくつかの実例において、溶媒Aは、比率が重量比で3:7であるEC-EMCと、FECとを含む、またはそれらから本質的になる、またはそれらからなる。1つの独立した実施形態において、溶媒AはTEPaおよびFECを含む、またはそれらから本質的になる、またはそれらからなる。
【0086】
活性塩の濃度は、電解質における遊離の溶媒A分子の数を最小限にするように選択され得る。1を超える分子の溶媒Aが活性塩の各カチオンと会合することがあるので、および/または活性塩の1を超えるカチオンが溶媒Aの各分子と会合することがあるので、活性塩対溶媒Aのモル比は1:1でない可能性がある。いくつかの実施形態において、活性塩対溶媒Aのモル比(塩モル数/溶媒Aモル数)が0.33~1.5の範囲内であり、例えば、0.5~1.5、0.67~1.5、0.8~1.2、または0.9~1.1などの範囲内である。
【0087】
希釈剤は、活性塩が不溶性である成分、または不良な溶解度、すなわち、溶媒Aにおける活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である溶解度を有する成分である。例えば、塩が溶媒Aにおいて5Mの溶解度を有するならば、希釈剤は、塩が希釈剤において0.5M未満の溶解度を有するように選択される。いくつかの実施形態において、活性塩は、希釈剤における活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である、少なくとも15分の1である、少なくとも20分の1である、少なくとも25分の1である、少なくとも30分の1である、少なくとも40分の1である、または少なくとも50分の1である溶媒Aにおける溶解度を有する。希釈剤は、低い活性塩濃度(例えば、3M以下)において、または活性塩を伴わない場合でさえ、アノード、カソードおよび集電体に関して安定であるように選択される。いくつかの実施形態において、希釈剤は、低い誘電率(例えば、7以下の比誘電率)および/または低いドナー数(例えば、10以下のドナー数)を有するように選択される。好都合なことに、希釈剤は活性塩と相互作用していないので、溶媒A-カチオン-アニオン凝集体の溶媒和構造を乱さず、不活性であると見なされる。言い換えれば、有意な配位または会合が希釈剤分子と活性塩カチオンとの間にない。活性塩カチオンは溶媒A分子と会合したままである。したがって、電解質が希釈されるにもかかわらず、電解質には遊離の溶媒A分子がほとんどまたは全く存在しない。
【0088】
いくつかの実施形態において、希釈剤は非プロトン性有機溶媒を含む。ある特定の実施形態において、希釈剤は、広い電気化学的安定性域(例えば、4.5Vを超える)を有するフッ素化溶媒であり、例えば、ヒドロフルオロエーテル(HFE)(これはまたフルオロアルキルエーテルとして示される)またはフッ素化オルトギ酸エステルなどである。HFEは好都合なことに、低い誘電率、低いドナー数、活性塩の金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよび/またはマグネシウム)に関しての還元安定性、および/または電子吸引性フッ素原子に起因する酸化に対する高い安定性を有する。例示的なフッ素化溶媒には、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、メトキシノナフルオロブタン(MOFB)、エトキシノナフルオロブタン(EOFB)、オルトギ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEO)、オルトギ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)(THFiPO)、オルトギ酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)(TDFEO)、オルトギ酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル(BTFEMO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)(TPFPO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(TTPO)、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【化2】
【0089】
希釈剤は可燃性または不燃性であり得る。いくつかの実施形態において、不燃性のフルオロアルキルエーテルまたはフッ素化オルトギ酸エステルを選択することにより、実用的充電式バッテリーの安全性が著しく改善される。例えば、MOFBおよびEOFBは不燃性の直鎖フルオロアルキルエーテルである。フッ素化オルトギ酸エステルのいくつかの実施形態は、他のフルオロアルキルエーテルよりも高い沸点、高い引火点および低い蒸気圧を有する。例えば、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)は62~63℃の沸点および1℃の引火点を有し、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)は92℃の沸点および27.5℃の引火点を有する。これらの特性はそれらの用途を高温において制限することがあり、また、熱的問題に関連づけられるいくつかの安全上の懸念をもたらすことがある。対照的に、フッ素化オルトギ酸エステルのより高い沸点、より高い引火点およびより低い蒸気圧は、希釈剤の蒸発を低減させ、このことは、電解質組成物を管理することをより容易にする。加えて、このようなより高い沸点は、バッテリーが高温で、例えば、55℃までの温度で動作しているときにおいて、増大した安定性を電解質にもたらし得る。例えば、TFEOは144~146℃の沸点および60℃の引火点を有する。開示されたフッ素化オルトギ酸エステルの実施形態はまた、融点が低く、電気化学的安定性域が広い。ある特定の実施形態において、溶媒Aが、電解質を難燃性または不燃性にするために十分な量で難燃剤化合物を含むときには、可燃性の希釈剤が使用され得る。他の実施形態において、システムの予想された動作条件が比較的危険でないとき(例えば、比較的低い動作温度であるとき)には、可燃性の希釈剤が使用され得る。
【0090】
開示されたLSEのいくつかの実施形態において、溶媒Aの分子の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%が、活性塩のカチオンと会合する(例えば、溶媒和する、または配位する)。ある特定の実施形態において、希釈剤分子の10%未満が、例えば、希釈剤分子の5%未満、4%未満、3%未満または2%未満などが、活性塩のカチオンと会合する。会合度は、任意の好適な手段によって、例えば、カチオンと会合する溶媒分子と、遊離溶媒とのピーク強度比をラマンスペクトルにおいて計算することによって、またはNMRスペクトルを使用することによってなどで定量化することができる。
【0091】
溶媒Aと希釈剤との相対量が、電解質のための材料コストを低下させるために、電解質の粘度を低下させるために、高電圧のカソードでの酸化に対する電解質の安定性を維持するために、電解質のイオン伝導率を改善するために、電解質のぬれ能を改善するために、安定な固体電解質界面(SEI)層の形成を容易にするために、またはそれらの任意の組み合わせのために選択される。1つの実施形態において、電解質における溶媒A対希釈剤のモル比(溶媒Aモル数/希釈剤モル数)が0.2~5の範囲内であり、例えば、0.2~4、0.2~3、または0.2~2などの範囲内である。独立した実施形態において、電解質における溶媒A対希釈剤の体積比(L溶媒/L希釈剤)が0.2~5の範囲内であり、例えば、0.25~4、または0.33~3などの範囲内である。別の独立した実施形態において、電解質における溶媒A対希釈剤の質量比(g溶媒/g希釈剤)が0.2~5の範囲内であり、例えば、0.25~4、または0.33~3などの範囲内である。
【0092】
好都合なことに、開示されたLSEのある特定の実施形態は、活性塩の著しい希釈を、電解質の性能を犠牲にすることなく可能にする。活性塩のカチオンと溶媒Aの分子との間における相互作用のために、電解質の挙動が溶媒Aにおける活性塩の濃度に対してより密接に対応する。しかしながら、希釈剤が存在するので、活性塩は、溶媒Aにおける活性塩のモル濃度よりも少なくとも20%小さい電解質中のモル濃度を有し得る。ある特定の実施形態において、電解質における活性塩のモル濃度は、溶媒Aにおける活性塩のモル濃度よりも少なくとも25%小さい、少なくとも30%小さい、少なくとも40%小さい、少なくとも50%小さい、少なくとも60%小さい、少なくとも70%小さい、またはさらに少なくとも80%小さい。希釈剤を含むことにより、電解質コストが低減され(より少ない塩が使用され)、電解質の粘度が低下し、その一方で、高濃度電解質の特異な機能性および利点が保たれる。
【0093】
いくつかの実施形態において、カチオン-アニオン-溶媒凝集体の形成はまた、活性塩のアニオン(例えば、FSIなど)の最低空分子軌道(LUMO)エネルギーを低下させ、その結果、カチオン-アニオン-溶媒凝集体は安定なSEIを形成することができる。例えば、伝導帯のLUMOが溶媒分子(例えば、DMCなど)に位置するときには、溶媒分子が最初にアノードにおいて還元的に分解され、これにより、有機成分またはポリマー成分に富み、機械的にあまり安定でない、したがって、急速な容量劣化を繰り返し使用のときに引き起こすSEI層をもたらす。対照的に、開示されたLSEのある特定の実施形態における活性塩のアニオン(例えば、FSIなど)の伝導帯の最低エネルギーレベルが溶媒(例えば、DMCなど)の伝導帯の最低エネルギーレベルよりも低いときには、溶媒分子の代わりに活性塩のアニオンが分解されることになり、これにより、機械的に堅牢であり、および、アノードをその後のサイクルプロセスの期間中における劣化から保護することができる無機成分(例えば、LiF、LiCO、LiOなど)に富む安定なSEIが形成されることを示している。
【0094】
いくつかの実施形態において、希釈剤は溶媒Aと混和性である。他の実施形態において、例えば、溶媒Aが水を含み、希釈剤が本明細書中に開示されるようなフッ素化有機溶媒であるときには、希釈剤は溶媒Aと非混和性である。溶媒Aと希釈剤とが非混和性であるときには、電解質が希釈剤により効果的に希釈されないことがある。
【0095】
したがって、いくつかの実施形態において、希釈剤が溶媒Aと非混和性であるときには、電解質はさらに架橋溶媒を含む。架橋溶媒は、溶媒Aまたは希釈剤のどちらとも異なる化学的組成を有する。架橋溶媒は、溶媒Aおよび希釈剤の両方と混和性であるように選択され、それにより、溶媒Aと、希釈剤との実際の混和性を高める。いくつかの実施形態において、架橋溶媒の分子は、極性の末端または部分と、非極性の末端または部分との両方を含んで両親媒性であり、その結果、架橋溶媒の分子は、図3に示されるように溶媒Aの分子および希釈剤の分子の両方と会合することになり、それにより、溶媒Aと、希釈剤との間における混和性を改善する。例示的な架橋溶媒には、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2-メトキシエチル)エーテル)、トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグリム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0096】
いくつかの実施形態において、電解質は、活性塩と、非水性溶媒と、希釈剤とから本質的になる、またはそれらからなる。ある特定の実施形態において、電解質は、活性塩と、非水性溶媒と、0~30wt%のFECと、希釈剤とから本質的になる、またはそれらからなる。いくつかの実例において、電解質は、活性塩と、非水性溶媒と、2~30wt%のFECと、希釈剤とから本質的になる、またはそれらからなる。「から本質的になる」によって、電解質の特性に単独で、または電解質を含む系において実質的な影響を及ぼす他の成分を電解質が含まないことが意味される。例えば、電解質は、活性塩以外のいかなる電気化学的活性成分(すなわち、異なる酸化状態および還元状態を有するレドックス対を形成することが可能である成分(元素、イオンまたは化合物)、例えば、異なる酸化状態を有するイオン種、または金属カチオンおよびその対応する中性金属原子)を、電解質の性能に影響を及ぼすには十分な量で含まない、あるいは炭酸エステルまたは難燃剤化合物とは異なるさらなる溶媒を含まない、あるいは活性塩が可溶性である希釈剤を含まない、あるいは他の添加剤を有意な量(例えば、1wt%を超える量)で含まない。例示的な電解質には、LiFSI/EC-EMC-BTFE、LiFSI/EC-EMC-FEC-BTFE、LiFSI/TEPa-BTFE、LiFSI/TEPa-FEC-BTFE、LiFSI/EC-EMC-TTE、LiFSI/EC-EMC-FEC-TTE、LiFSI/TEPa-TTE、LiFSI/TEPa-FEC-TTE、LiFSI/EC-EMC-TFEO、LiFSI/EC-EMC-FEC-TFEO、LiFSI/TEPa-TFEO、LiFSI/TEPa-FEC-TFEO、LiFSI/TEPa-EC-BTFE、LiFSI/TEPa-EC-TTE、LiFSI/TEPa-EC-TFEO、LiFSI/TEPa-EC-FEC-BTFE、LiFSI/TEPa-EC-FEC-TTE、LiFSI/TEPa-EC-FEC-TFEO、LiFSI/TEPa-EC-VC-BTFE、LiFSI/TEPa-EC-VC-TTE、LiFSI/TEPa-EC-VC-TFEO、LiFSI/TEPa-EC-LiDFOB-BTFE、LiFSI/TEPa-EC-LiDFOB-TTE、LiFSI/TEPa-EC-LiDFOB-TFEO、LiFSI/TEPa-VC-DMC-BTFE、LiFSI/TEPa-VC-DMC-TTE、LiFSI/DMC-TTE、LiFSI/DMC-FCE-TTE、LiFSI/DMC-VC-FEC-TTE、およびLiFSI/TEPa-VC-DMC-TFEOが含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
ある特定の実施形態において、電解質は、LiFSIと、EC-EMCまたはTEPaと、0~30wt%のFECと、希釈剤とを含み、あるいはそれらから本質的になり、あるいはそれらからなり、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、OTE、TFEOまたはそれらの組み合わせである。活性塩は、電解質において0.5M~3Mの範囲内のモル濃度を有し得る。1つの実施形態において、電解質は、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で4:6~2:8であるEC-EMCと、0~30wt%のFEC(例えば、0wt%のFEC、0.5~30wt%のFEC、2~30wt%のFEC、2~10wt%のFEC、または5~10wt%のFECなど)と、希釈剤とを含み、あるいはそれらから本質的になり、あるいはそれからなり、ここで、EC-EMC(ECモル数+EMCモル数)の希釈剤に対するモル比が1~4の範囲内であり、例えば、1~3などの範囲内である。別の実施形態において、電解質は、1~3MのLiFSIと、TEPaと、0~30wt%のFEC(例えば、0wt%のFEC、0.5~30wt%のFEC、または5~10wt%のFECなど)と、希釈剤とを含み、あるいはこれらから本質的になり、またはこれらからなり、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、TEPa対希釈剤のモル比が1~4の範囲内であり、例えば、2~4などの範囲内である。いくつかの実例において、希釈剤はBTFEである。
【0098】
III.システム
開示されたLSEの様々な実施形態が様々なシステムにおいて、例えば、バッテリー(例えば、充電式バッテリー)などにおいて有用である。いくつかの実施形態において、開示されたLSEはリチウムイオンバッテリーにおいて有用である。いくつかの実施形態において、システムは、本明細書中に開示されるようなLSEと、アノードとを含む。システムはさらに、カソード、セパレーター、アノード集電体、カソード集電体、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。ある特定の実施形態において、アノードはケイ素を含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、充電式バッテリーは、本明細書中に開示されるようなLSEと、カソードと、アノードと、必要に応じてセパレーターとを含む。図4は、カソード120と、電解質(すなわち、LSE)が注入されるセパレーター130と、アノード140とを含む充電式バッテリー100の1つの例示的実施形態の概略図である。いくつかの実施形態において、バッテリー100はまた、カソード集電体110および/またはアノード集電体150を含む。
【0100】
集電体は、金属または別の導電性材料、例えば、限定されないが、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ステンレス鋼、または導電性炭素材料などであることが可能である。集電体は、導電性材料により被覆される箔、発泡体またはポリマー基材であり得る。好都合なことに、集電体は、バッテリーの動作電圧域においてアノードまたはカソードおよび電解質と接触しているときにおいて安定である(すなわち、腐食も反応もしない)。アノードまたはカソードがそれぞれ自立型であるならば、例えば、アノードが金属であるとき、または層間侵入物もしくは転換化合物を含む自立型フィルムであるとき、ならびに/あるいはカソードが自立型フィルムであるときには、アノード集電体およびカソード集電体は省かれ得る。「自立型」によって、フィルムそのものが、フィルムが支持材料を伴うことなくバッテリーに配置されることが可能である十分な構造的一体性を有することが意味される。
【0101】
充電式リチウムイオンバッテリーのいくつかの実施形態を含めていくつかの実施形態において、アノードは、ケイ素系、炭素系(例えば、黒鉛系および/または硬質炭素系)、炭素・ケイ素系(例えば、炭素/ケイ素複合体)、スズ系またはアンチモン系のアノードである。「炭素系アノード」によって、総アノード質量の大部分が、活性化された炭素材であること、例えば、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、または少なくとも90wt%などが、活性化された炭素材、例えば、黒鉛、硬質炭素またはそれらの混合物であることが意味される。「ケイ素系アノード」によって、アノードが、ある特定の最小量のケイ素を含有すること、例えば、少なくとも30%、少なくとも50wt%、少なくとも60wt%、または少なくとも70wt%などのケイ素を含有することが意味される。「炭素/ケイ素系アノード」によって、総アノード質量の大部分が、活性化された炭素およびケイ素であること、例えば、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、または少なくとも90wt%などが、活性化された炭素およびケイ素の組み合わせであることが意味される。「スズ系アノード」または「アンチモン系アノード」によって、総アノード質量の大部分がそれぞれスズまたはアンチモンであること、例えば、少なくとも70wt%、少なくとも80wt%、または少なくとも90wt%などがそれぞれスズまたはアンチモンであることが意味される。いくつかの実施形態において、アノードは、黒鉛系および/またはケイ素系のアノード、あるいはスズ系アノードである。ある特定の実施形態において、アノードはケイ素を含む:例えば、ケイ素系アノードまたは炭素/ケイ素系(例えば、ケイ素-黒鉛複合体)アノードなど。いくつかの実例において、ケイ素はナノケイ素であり、および/または炭素被覆される。例えば、ケイ素は、ケイ素が化学気相成長(CVD)または他の手法によって炭素被覆される炭素被覆のナノケイ素であり得る。1つの実施形態において、ケイ素は、10wt%のCVD炭素を含むC/Si複合体である。
【0102】
アノードはさらに、1またはそれを超えるバインダーおよび/または導電性添加剤を含み得る。好適なバインダーには、ポリアクリレート(例えば、ポリアクリル酸リチウム、LiPAA)、ポリイミド(PI)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン、およびカルボキシメチルセルロースなどが含まれるが、これらに限定されない。好適な導電性添加剤には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維(例えば、気相成長炭素繊維)、金属粉末または金属繊維(例えば、Cu、Ni、Al)、および導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、アノードは、容量の少なくとも5%にまで、容量の少なくとも10%にまで、容量の少なくとも20%にまで、容量の少なくとも50%にまで、または最大で100%の容量にまでプレリチウム化される。プレリチウム化は、リチウム源を全く有しないカソードが使用されるときには特に有用である。
【0103】
いくつかの実施形態において、アノードは、70~75wt%の黒鉛と、10~20wt%のケイ素と、0~5wt%の導電性カーボンブラックと、8~12wt%のバインダーとを含むケイ素/黒鉛複合アノードである。ケイ素は炭素被覆のナノケイ素であり得、例えば、5~15wt%のCVD炭素を含むC/Si複合体などであり得る。ある特定の実施形態において、バインダーはLiPAAまたはPIを含む。一例において、アノードは、70~75wt%の黒鉛と、12~18wt%のケイ素と、0超~5wt%の導電性カーボンブラックと、8~12wt%のLiPAAとを含む。別の一例において、アノードは、70~75wt%の黒鉛と、12~18wt%の炭素被覆ナノケイ素(20wt%の炭素)と、0超~5wt%の導電性カーボンブラックと、5~15wt%のPIとを含む。
【0104】
リチウムイオンバッテリーのための例示的なカソードには、Liに富むLi1+wNiMnCo(x+y+z+w=1、0≦w≦0.25)、LiNiMnCo(NMC、x+y+z=1)、LiCoO、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)、LiNi0.5Mn1.5スピネル、LiMn(LMO)、LiFePO(LFP)、Li4-xTi12(M=Mg、Al、Ba、SrまたはTa;0≦x≦1)、MnO、V、V13、LiV、LiMC1 C2 1-xPO(MC1またはMC2=Fe、Mn、Ni、Co、CrまたはTi;0≦x≦1)、Li2-x (PO(M=Cr、Co、Fe、Mg、Y、Ti、NbまたはCe;0≦x≦1)、LiVPOF、LiMC1 C2 1-x((MC1およびMC2は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1)、LiMC1 C2 C3 1-x-y((MC1、MC2およびMC3は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1;0≦y≦1、0≦x+y≦1)、LiMn2-y(X=Cr、AlまたはFe、0≦y≦1)、LiNi0.5-yMn1.5(X=Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Ga、VまたはCu;0≦y<0.5)、xLiMnO・(1-x)LiMC1 C2 C3 1-y-z(MC1、MC2およびMC3は独立して、Mn、Ni、Co、Cr、Fe、またはそれらの混合である;x=0.3~0.5;y≦0.5;z≦0.5)、LiSiO(M=Mn、FeまたはCo)、LiSO(M=Mn、FeまたはCo)、LiMSOF(M=Fe、MnまたはCo)、Li2-x(Fe1-yMn)P(0≦x≦1;0≦y≦1)、Cr、Cr、炭素/イオウ複合体、または空気電極(例えば、黒鉛状炭素および必要に応じて金属触媒(例えば、Ir、Ru、Pt、AgまたはAg/Pdなど)を含む炭素系電極)が含まれるが、これらに限定されない。独立した実施形態において、カソードはリチウム転換化合物であり得、例えば、Li、LiSまたはLiFなどであり得る。いくつかの実例において、カソードはNMCカソードである。
【0105】
セパレーターは、ガラス繊維、セラミック被覆を有するまたは有しない多孔質ポリマーフィルム(例えば、ポリエチレン系材料またはポリプロピレン系材料)、あるいは複合体(例えば、無機粒子とバインダーとの多孔質フィルム)であり得る。1つの例示的なポリマーセパレーターが、Celgard(登録商標)K1640ポリエチレン(PE)膜である。別の例示的なポリマーセパレーターが、Celgard(登録商標)2500ポリプロピレン膜である。別の例示的なポリマーセパレーターが、Celgard(登録商標)3501界面活性剤被覆ポリプロピレン膜である。セパレーターには、本明細書中に開示されるように、電解質が注入され得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、バッテリーは、炭素系、ケイ素系、炭素・ケイ素系、スズ系またはアンチモン系のアノード、リチウムイオンバッテリーのために好適であるカソード、セパレーター、および(a)リチウムカチオンを含む活性塩と、(b)(i)炭酸フルオロエチレン(FEC)以外の炭酸エステル、(ii)難燃剤化合物、または(iii)(i)および(ii)の両方を含む非水性溶媒(ここで、活性塩は非水性溶媒に可溶性である)と、(c)フルオロアルキルエーテル、フッ素化オルトギ酸エステルまたはそれらの組み合わせを含む希釈剤(ここで、活性塩は、非水性溶媒における活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である希釈剤における溶解度を有する)とを含むLSEを含む。電解質はさらに、最大で30wt%のFECを含み得、例えば、5~30wt%のFECまたは5~10wt%のFECを含み得る。ある特定の実施形態において、アノードはケイ素を含んでおり、すなわち、アノードはケイ素系または炭素/ケイ素複合体系のアノードである。いくつかの実施形態において、カソードは、LiNiMnCo(NMC)、LiNi0.85Co0.15Al0.05(NCA)、またはLiCoO(LCO)を含む。ある特定の実施形態において、カソードはLiNiMnCo(NMC)を含む。いくつかの実例において、電解質は、LiFSIと、EC-EMCまたはTEPaと、0~30wt%のFEC(例えば、0wt%のFEC、5~30wt%のFEC、5~10wt%のFEC)と、希釈剤とを含み、あるいはそれらから本質的になり、あるいはそれらからなり、ここで、希釈剤は、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの組み合わせからなる。いくつかの実例において、希釈剤は、BFTE、TTE、TFEO、またはそれらの組み合わせからなる。1つの実施形態において、アノードが、LiPAAをバインダーとして含む炭素-ケイ素複合体であるとき、電解質はEC-EMCを含む。別の実施形態において、アノードが、PIをバインダーとして含む炭素-ケイ素複合体であるとき、電解質はTEPaを含む。
【0107】
好都合なことに、LSEを含む開示されたリチウムイオンバッテリーのいくつかの実施形態は、高電圧において、例えば、4.2Vまたはそれを超える電圧において、例えば、4.3V以上の電圧などにおいて動作可能である。ある特定の実施形態において、バッテリーは、最大で4.5Vの電圧で動作可能である。
【0108】
いくつかの実施形態において、本明細書中に開示されるようなLSEを含むリチウムイオンバッテリーは、同じアノードおよびカソードを従来型電解質または超高濃度電解質とともに含む比較可能なリチウムバッテリーと同等であるまたはそれよりも良好である性能を有する。例えば、開示されたLSEを有するリチウムイオンバッテリーは、従来型電解質または超高濃度電解質を有する比較可能なバッテリーと同等であるまたはそれを超える比容量、クーロン効率および/または容量保持率を有し得る。開示されたLSEを有するリチウムイオンバッテリーはまた、同じアノードおよびカソードを従来型電解質または超高濃度電解質とともに含む比較可能なリチウムイオンバッテリーと同等であるパーセント容量保持率によって示されるようなサイクル安定性、またはそのような比較可能なリチウムイオンバッテリーのサイクル安定性よりも良好であるサイクル安定性を示し得る。例えば、ケイ素/黒鉛複合体アノードと、開示されたLSEとを有するリチウムイオンバッテリーは、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、またはさらに少なくとも90%の容量保持率を100サイクルで有し得る。このリチウムイオンバッテリーは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも75%の初回クーロン効率を有し得る。いくつかの実例において、初回クーロン効率が、本明細書中に開示されるようなプレリチウム化アノードを使用することによって改善される。
【0109】
IV.代表的実施形態
ある特定の代表的な実施形態が以下の番号付き項において例示される。
【0110】
1.電解質と、アノードとを含むシステムであって、前記電解質が、(a)リチウムカチオンを含む活性塩と、(b)(i)炭酸フルオロエチレン(FEC)以外の炭酸エステル、(ii)難燃剤化合物、または(iii)(i)および(ii)の両方を含む非水性溶媒(ここで、前記活性塩は前記非水性溶媒に可溶性である)と、(c)フルオロアルキルエーテル、フッ素化オルトギ酸エステル、またはそれらの組み合わせを含む希釈剤(ここで、前記活性塩は、前記非水性溶媒における前記活性塩の溶解度の少なくとも10分の1である前記希釈剤における溶解度を有する)とを含み、前記アノードがケイ素を含む、システム。
【0111】
2.前記電解質がさらに0.1~30wt%のFECを含む、項1に記載のシステム。
【0112】
3.前記電解質がさらに2~30wt%のFECを含む、項1に記載のシステム。
【0113】
4.前記活性塩は前記電解質において0.5M~6Mの範囲内のモル濃度を有する、項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【0114】
5.前記活性塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、LiPF、LiAsF、LiBF、LiCFSO、LiClO、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(LiDFOB)、LiI、LiBr、LiCl、LiSCN、LiNO、LiNO、LiSO、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【0115】
6.前記非水性溶媒が、有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステル、有機ホスホン酸エステル、有機ホスホルアミド、ホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む難燃剤化合物を含む、項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【0116】
7.前記難燃剤化合物が、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル);メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル);ヘキサメチルホスホルアミド;ヘキサメトキシホスファゼン、ヘキサフルオロホスファゼン、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項6に記載のシステム。
【0117】
8.前記非水性溶媒が炭酸エチレン(EC)および炭酸エチル(EMC)、またはECおよび炭酸ジエチル(DEC)、またはECおよび炭酸ジメチル(DMC)、またはECと、EMC、DEC、DMC、炭酸プロピレン(PC)の組み合わせとを含む、項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【0118】
9.前記希釈剤が、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(OTE)、メトキシノナフルオロブタン(MOFB)、エトキシノナフルオロブタン(EOFB)、オルトギ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEO)、オルトギ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)(THFiPO)、オルトギ酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)(TDFEO)、オルトギ酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル(BTFEMO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)(TPFPO)、オルトギ酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)(TTPO)、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【0119】
10.前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【0120】
11.前記希釈剤が、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【0121】
12.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で4:6~2:8であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~4の範囲内である、項10または項11に記載のシステム。
【0122】
13.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で4:6~2:8であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~3の範囲内である、項10または項11に記載のシステム。
【0123】
14.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、TEPa対前記希釈剤のモル比が1~4の範囲内である、項10または項11に記載のシステム。
【0124】
15.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、TEPa対前記希釈剤のモル比が2~4の範囲内である、項10または項11に記載のシステム。
【0125】
16.前記アノードが黒鉛/ケイ素複合体を含む、項1~15のいずれか一項に記載のシステム。
【0126】
17.前記アノードがさらにポリアクリル酸リチウムバインダーまたはポリイミドバインダーを含む、項16に記載のシステム。
【0127】
18.前記ケイ素が炭素被覆のナノケイ素である、項16に記載のシステム。
【0128】
19.前記バインダーがポリイミドを含む、項18に記載のシステム。
【0129】
20.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、TEPa対前記希釈剤のモル比が2~4の範囲内である、項19に記載のシステム。
【0130】
21.前記電解質が、1~3MのLiFSIと、リン酸トリエチル(TEPa)および0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、TEPa対前記希釈剤のモル比が2~4の範囲内である、項19に記載のシステム。
【0131】
22.カソードをさらに含み、前記アノードがプレリチウム化され、そして前記システムが、100サイクル後において80%以上の容量保持率を有する、項19に記載のシステム。
【0132】
23.前記バインダーがポリアクリル酸リチウムを含み、前記電解質が、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で3:7であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、OTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~3の範囲内である、項17に記載のシステム。
【0133】
24.前記バインダーがポリアクリル酸リチウムを含み、前記電解質が、1~3MのLiFSIと、比率が重量比で3:7であるEC-EMCおよび0~30wt%のFECと、前記希釈剤とを含み、ここで、前記希釈剤が、BTFE、TTE、TFEO、またはそれらの任意の組み合わせであり、そして、EC-EMC対前記希釈剤のモル比が1~3の範囲内である、項17に記載のシステム。
【0134】
25.カソードをさらに含み、100サイクル後において70%以上の容量保持率を有する、項23または項24に記載のシステム。
【0135】
26.カソードをさらに含み、前記カソードが、Li1+wNiMnCo(x+y+z+w=1、0≦w≦0.25)、LiNiMnCo(x+y+z=1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiCoO、LiNi0.5Mn1.5スピネル、LiMn、LiFePO、Li4-xTi12(M=Mg、Al、Ba、SrまたはTa;0≦x≦1)、MnO、V、V13、LiV、LiMC1 C2 1-xPO(MC1またはMC2=Fe、Mn、Ni、Co、CrまたはTi;0≦x≦1)、Li2-x (PO(M=Cr、Co、Fe、Mg、Y、Ti、NbまたはCe;0≦x≦1)、LiVPOF、LiMC1 C2 1-x((MC1およびMC2は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1)、LiMC1 C2 C3 1-x-y((MC1、MC2およびMC3は独立して、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、Ti、MgまたはAlである;0≦x≦1;0≦y≦1、0≦x+y≦1)、LiMn2-y(X=Cr、AlまたはFe、0≦y≦1)、LiNi0.5-yMn1.5(X=Fe、Cr、Zn、Al、Mg、Ga、VまたはCu;0≦y<0.5)、xLiMnO・(1-x)LiMC1 C2 C3 1-y-z(MC1、MC2およびMC3は独立して、Mn、Ni、Co、Cr、Fe、またはそれらの混合である;x=0.3~0.5;y≦0.5;z≦0.5)、LiSiO(M=Mn、FeまたはCo)、LiSO(M=Mn、FeまたはCo)、LiMSOF(M=Fe、MnまたはCo)、Li2-x(Fe1-yMn)P(0≦x≦1;0≦y≦1)、Cr、Cr、炭素/イオウ複合体、または空気電極を含む、項1~25のいずれか一項に記載のシステム。
【実施例
【0136】
V.実施例
実施例1
BTFE希釈剤を含むLSEを使用するSi/Gr||NMC532電池
コイン電池を、直径が15mmのケイ素/黒鉛アノードと、直径が14mmのNMC532(Li(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O)カソードと、45μLの電解質とを用いて調製した。このコイン電池はn/p比が約1.2であった:この場合、n/p比は負電極対正電極の面積容量比である。アノード組成が、73wt%のMagE3黒鉛(Hitachi Chemical Co.America,Ltd.、San Jose、CA)、15wt%のケイ素(Paraclete Energy、Chelsea、MI)、2wt%のTimcal C45炭素(Imerys Graphite&Carbon USA Inc.、Westlake、OH)、および10wt%のLiPAA(HO)であり、LiOH滴定された。電極面積が1.77cmであり、被覆厚さが27μmであり、総被覆塗布量が3.00mg/cmであった。カソード組成が、90wt%のNMC532(Toda America、Battle Creek、MI)、5wt%のTimcal C45炭素、および5wt%のSolef(登録商標)5130 PVDF(Solvay、Brussels、ベルギー)であった;電極面積が1.54cmであり、被覆厚さが42μmであり、総被覆塗布量が11.40mg/cmであった。カソードおよびアノードがアルゴンヌ国立研究所のCAMP施設によって提供された。完全電池容量が2mAhであった。
【0137】
バッテリー規格のLiPF、EC、EMCおよびFECをBASF Corporationから購入し、受領時のまま使用した。バッテリー規格のLiFSIをNippon Shokubai Co.,Ltd.から得た。ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE、99+%)をSynQuest Laboratoriesから購入した。ベースライン電解質が、10wt%のFECを含むEC/EMC(3:7、重量比)における1.2MのLiPFであった。100サイクルにわたる電池性能が図5に示される。初回クーロン効率(FCE)が60~65%であり、50サイクルでの比容量保持率が71.2%であり、100サイクルでの比容量保持率が53.4%であった。
【0138】
さらなる電解質を調製し、3~4.1Vの動作電圧域で評価した。サイクリックボルタンメトリーは、電解質が5Vまで安定であることを示す。結果が表1にまとめられ、図6に示される。結果から、LiFSIと、炭酸エステル系溶媒と、希釈剤と、FECとを含むLSEは、LiPAAバインダーを含むSi/Grアノードとの適合性を有することが明らかにされる。E-104は最良の結果をもたらし、FCEが75%であり、4サイクル目での比容量が117.6mAh/gであり、100サイクルでの比容量保持率が71%であった。
【表1】
【0139】
1.2MのLiFSIをTEPa-3BTFEにおいて含む不燃性電解質を調製し、コイン電池において評価した。結果が表2および図7~8に示される。このTEPA系LSEは、初回クーロンエネルギーがほんの37.87%にすぎないこと、および80サイクル後における容量保持率がゼロであることによって立証されるようにアノードとの適合性がなかった。
【表2】
【0140】
アノードを改変して、LiPAAバインダーをポリイミドバインダーに置き換え、そして、炭素が化学蒸着(CVD)によって被覆されたナノケイ素を含むようにした。アノード組成が次の通りであった:73wt%のHitachi MagE3黒鉛、15wt%のParaclete Energy C/Si(C/Si複合体における10%のCVD炭素、2wt%のTimcal C45炭素、および10wt%のポリイミド(PI);被覆厚さが26μmであり、総被覆塗布量が3mg/cmであった。
【0141】
コイン電池を、改変されたアノードと、実施例1のカソードと、ベースライン電解質(1.2M LiPF/EC/EMC(3:7、重量比)+10wt% FEC-「Gen2+10% FEC」)とを用いて調製した。図9は、1回目、2回目および3回目のサイクルについての電圧対面積容量のグラフである。
【0142】
バインダーおよび炭素被覆ナノケイ素の効果を、(i)実施例1のアノード(ベースラインアノード)と、(ii)非被覆のケイ素およびPIバインダーを有するアノードと、(iii)炭素被覆のナノケイ素およびPIバインダーを有するアノードとを用いてベースライン電解質を有するコイン電池において評価した。結果が表3および図10に示される。
【表3】
【0143】
PIバインダーはベースラインアノードよりも低い比容量をもたらし、このことは、不可逆容量と、PIからの低いFCEとに関連づけられ得る。炭素被覆Siと、PIバインダーとの組み合わせは、非被覆のSiを伴うPIバインダーと比較して、改善されたサイクル安定性を有した。
【0144】
PIバインダーを有する炭素被覆Si/Grアノードを、ベースライン電解質ならびにE-103およびE-313の電解質を用いてコイン電池においてさらに評価した。結果が表4および図11に示される。改変されたアノードは、著しく改善されたサイクル安定性をE-313電解質において示した。しかしながら、容量は、不可逆容量と、PIバインダーに起因し得る低いFCEとのために、依然としてより低い。
【表4】
【0145】
アノードプレリチウム化の効果を、PIバインダーを有する炭素被覆Si/Grアノードと、NMCカソードと、電解質E-313、または電解質E-313+1.2wt%のFECとを含むコイン電池において評価した。プレリチウム化を半電池構成でのアノードの3回の形成サイクルにより行った。結果が表5ならびに図12および13に示される。結果から、E-313はプレリチウム化アノードとの組み合わせで、著しい利点を、4サイクル目での比容量と、容量保持率との両方に関してもたらすことが明らかにされる。FECを含むことにより、4サイクル目での比容量が高くなり、しかし、保持率が低くなっていた。結果は、電池比容量がプレリチウム化処理により90mAh/g超となり得ること、および低い比容量がPIバインダーの低いFCEに起因し得ることを裏づけている。
【表5】
【0146】
図14には、効果的なLSE電解質の結果が、LiPAAバインダーを有するSi/Grアノードと、PIバインダーを有するプレリチウム化炭素被覆Si/Grアノードとについてまとめられる。電解質は、ベースライン「Gen2,FEC」(1.2 M LiPF/EC/EMC(3:7、重量比)+10 wt% FEC)、E-104(表1)、E-313(表5)、およびE-313+FEC(表5)である。結果は、LiFSIをEC-EMCにおいて含むLSEにより、容量およびサイクル安定性が、LiPAAバインダーを有するSi/Grアノードについては効果的に高まることを示す。LiFSIをTEPaにおいて含むLSEにより、サイクル安定性が、PIバインダーを有する炭素被覆Si/Grアノードについては効果的に改善される;容量が、ベースライン「Gen2,FEC」電解質を有するSi/Gr-LiPAAアノードを含む電池の容量よりも大きく、しかし、Si/Gr-LiPAAアノードと、LiFSIをEC-EMCにおいて含むLSEとを有する電池よりも低いままである。
【0147】
実施例2
希釈剤が異なるLSEを使用するSi/Gr||NMC532電池
異なる希釈剤を同様に調べ、LiFSi-EC:EMC系のLSE(LHCE)と比較した。これら3つの電解質についての塩濃度は同じであった。図15および表6における結果は、3つすべての希釈剤(BTFE、TTEおよびTFEO)がサイクル安定性およびFCEを改善したことを示す。TTE系LHCEは、BTFE系LHCEと比較して、比容量が高くなっていること、しかし、サイクル安定性がわずかに劣っていることを明らかにした。TFEO系LHCEは、TTE系LHCEおよびBTFE系LHCEの両方と比較してより低い比容量を示したが、このことは、これらの3つの電解質の粘度および電気伝導率の差に起因し得る。TTE系LHCEおよびTFEO系LHCEの両方が、類似したサイクル安定性(80%)を80サイクル後において示した。これらの3つの電解質の中で、BTFE系LHCEが、サイクル安定性および比容量に関して最も良い電気化学的挙動を示した。
【表6】
【0148】
E-104 LSEの電圧域を、図16に示されるようにサイクリックボルタンメトリー(CV)測定によって調べた。結果は、E-104が5Vまで安定であることを示す。異なる上限電圧におけるE-104の電気化学的性能もまた、図17に示されるように、Li||NMC532電池構成を用いて調べた。Li||NMC532電池は、E-104を用いて4.5Vまでの安定なサイクル安定性を明らかにした。対照的に、ベースライン電解質(Gen2、10wt%のFEC)を有する電池は、電池が4.3Vに充電されたときには急速な容量低下を示した。
【0149】
実施例3
LSEを有するSi/Gr||NMC333電池
不燃性電解質を、ケイ素(Si)系アノードを用いて評価した。理論的容量が1000mAh/gであるSi/黒鉛(Si/Gr)複合体を、BTR New Energy Materials Inc.(中国)から得た。このSi/Gr電極は、活物質としての80wt%のBTR-1000と、導電剤としての10wt%のSuper-P(登録商標)カーボンと、バインダーとしての10wt%のポリイミド(PI)とから構成された。直径が1.27cmであり、平均質量塗布量が2.15mgcm-2である電極ディスクを打ち抜き、精製アルゴンが満たされるグローブボックスにおいて乾燥し、保存した。バッテリー規格のLiPF、EC、EMCおよびFECをBASF Corporationから購入し、受領時のまま使用した。バッテリー規格でのLiFSIをNippon Shokubai Co.,Ltd.から得た。ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE、99+%)をSynQuest Laboratoriesから購入した。TEPaをSigma-Aldrichから購入した。2つのBTFE希釈された不燃性電解質を調製した:NFE-1は、LiFSI、TEPaおよびBTFEを0.75:1:3のモル比により含み、NFE-2はLiFSI-1.2TEPa-0.13FEC-4BTFEを含んだ(モル比;FECの量が1.2wt%である)。NFE-2におけるLiFSIの容量モル濃度が1.2Mであった。表7にまとめられるように、3つの対照電解質、すなわち、異なる量のFEC(2wt%、5wt%および10wt%)を含むEC-EMC(3:7、重量比)における1.15MのLiPF(これらを、E-対照1、E-対照2およびE-対照3とそれぞれ名付けた)を比較のために調製し、評価した。
【表7】
【0150】
図18は、BTFE希釈電解質(NFE-1、四角;NFE-2、丸)および3つの対照電解質を用いてのLi||Si/Gr半電池のサイクル性能を示す。NFE-1電解質におけるSi/Gr電極は770mAh/gの初期可逆容量をもたらし、容量保持率が300サイクル後において66.2%であり、一方、FEC含有の不燃性電解質(NFE-2)を有するSi/Gr電極は762mAh/gの初期可逆容量を有し、容量保持率が300サイクル後において73%であった。NFE-2と同様のFEC量を有する従来の電解質(E-対照-3)に関しては、容量が40サイクル後において急速に低下した。FECの量を5および10wt%に増大させたときには、サイクル性能が60サイクルおよび140サイクルにまでそれぞれ伸びた。
【0151】
Si/Grアノードと、NMC333の市販のカソード材料とを使用する完全電池もまた調べた。2.8~4.2Vの動作電圧域において0.5mAcm-2で充電され、0.75mAcm-2で放電されたとき、NMC333カソードの比容量が約150mAhg-1であり、面積容量が約1.5mAhcm-2であった。アノード部分を、SEI形成から生じる難題を軽減するために半電池においてLi金属に対してプレサイクルし、完全電池に再組み立てした。1:1.1のカソードおよびアノードの容量比を一致させて、良好な完全電池性能を得た。わずかにより高いSi含有量が、アノードが完全電池の充電の期間中に過度にリチウム化されることを防止するために有利である。図19は、2つのBTFE希釈電解質を用いてのSi/Gr||NMC333完全電池のサイクル性能を示す。NFE-2を有する完全電池は、より良好なサイクル性能を示し、容量保持率が300サイクル後において86%であった(NFE-1電解質については81%であった)。
【0152】
NFE-2およびE-対照3を用いるSi/Gr||NMC333電池の第2のバッチを調製した。NMCカソードに基づく最初の放電容量が147.9mAhg-1であり、初期クーロン効率が、Li||NMC333半電池において得られる値に非常に近い89%であった(図20~21)。面積容量が1.5mAh/cm付近であり(図21)、すべての電池が140サイクル後において依然として作動していた。E-対照3に基づく完全電池の場合には、電池は同等の比容量を示し、しかし、比容量が90サイクル後において急速に低下し始めた。加えて、NFE-2に基づく半電池のサイクルクーロン効率が、E-対照3に基づく電池のサイクルクーロン効率よりも高かった。
【0153】
面積容量がより大きいSi/Gr(3.2mAh/cm)およびNMC333(2.8mAh/cm)を有する電池を、NFE-2およびE-対照3を用いて調製し、評価した。0.15mAcm-2での極端な繰り返し使用の後では、可逆面積容量が3.1mAcm-2に達した(図22)。充電のための0.75mAcm-2および放電のための0.3mAcm-2の大きい割合において4サイクル目から100サイクル目まで、NFE-2に関しての容量保持率が100サイクル後において最大で95.0%にまで達した。
【0154】
図23は、NFE-1、NFE-2およびE-対照3の電解質を用いるSi/Gr||NMC333電池の25℃での長期サイクル安定性を明らかにする。3つすべての電解質における電池は、0.15mAcm-2の電流密度での最初の3回の形成サイクルについて(カソードに基づいて)150mAhg-1の類似した可逆容量を示した。電流密度をその後の600サイクルにおいて充電のためには0.3mAcm-2に増大させ、放電のためには0.75mAcm-2に増大させたとき、サイクル安定性が、NFE-2>NFE-1>E-対照3の順で変化した。126.5および112.5mAhg-1の可逆容量が、NFE-2およびNFE-1により5C割合でそれぞれ得られた。完全電池の長期サイクル安定性を注意深く分析したとき、E-対照3は速い容量減衰をもたらし、容量保持率が500サイクル後において50.3%であった。NFE-1に関しては、容量保持率が500サイクルにわたって65.7%であった。対照的に、NFE-2を有する電池は優れた長期サイクル性能を示し、容量保持率が600サイクル後において89.8%であった。CEが100%に近かった。
【0155】
そのうえ、NFE-2を有する完全電池はまた、より良好なサイクル安定性を45℃の高い温度で示した(図24)。NFE-2を有する完全電池の45℃での平均CEが99.6%であり、25℃で繰り返し使用される完全電池の平均CE(約100%)よりもほんのわずかに低かったが、これは、電解質が高温での電極/電解質界面でより多く分解することから生じるより厚い副生成物薄膜の形成に起因し得る可能性がある。より厚いSEIおよびCEIの両方の形成が伴う副生成物はバッテリーのインピーダンス増加および容量低下をもたらした。しかしながら、NFE-2は、電池が45℃で繰り返し使用されたとき、容量保持率が200サイクルにわたって90.2%であることを依然として可能にした。
【0156】
開示された発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮すると、例示された実施形態は本発明の単に好ましい実例にすぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈してはならないことが認識されなければならない。むしろ、本発明の範囲は以下の請求項によって定義される。したがって、本発明者らは、これらの請求項の範囲および趣旨内であるすべてのものを本発明者らの発明として主張する。
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【国際調査報告】