(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ゼオライトによる体液中のイオン低減
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20220304BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220304BHJP
B01D 61/30 20060101ALI20220304BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20220304BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20220304BHJP
A61M 1/28 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
A61M1/16 101
B01D69/02
B01D61/30
B01D63/02
B01J20/18
A61M1/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543162
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(85)【翻訳文提出日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2020051594
(87)【国際公開番号】W WO2020152254
(87)【国際公開日】2020-07-30
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519324329
【氏名又は名称】プリビファーマ・コンサルティング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】モーリス・マンダゴ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ティー・キーシッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】リカルダ・ヴェルツ
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
4G066
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077AA06
4C077BB01
4C077EE01
4C077KK02
4C077KK13
4C077LL17
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4C077PP24
4D006GA13
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4D006KB12
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4G066BA09
4G066BA23
4G066CA21
4G066DA12
4G066DA13
4G066EA20
(57)【要約】
【課題】
体液中の無機イオンの濃度を低減すること。
【解決手段】
ゼオライトを用いれば、血漿などの体液からカルシウムイオンなどの無機イオンの濃度を十分に低下させることができることが判明した。このようなカルシウムイオンなどの無機イオンの濃度低下は、凝固の抑制を含む止血の抑制、特に第VII因子の活性化やフィブリンの形成の抑制につながることが判明した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の1種またはそれ以上の無機イオンの濃度を低減する方法であって、以下の工程を含む、前記の方法。
(i)準備
(A)体液
(B)1種またはそれ以上の無機イオンは透過するが、40kDa以上の分子量を有するポリペプチドは本質的に透過しない半透膜層と、
(C)無機イオンを吸着するのに適したゼオライトであって、水または水性緩衝液に懸濁しているゼオライト
(ii)体液がゼオライトと直接接触しないように、体液とゼオライトの間に半透膜層を配置する工程、および
(iii)1種またはそれ以上の無機イオンが膜を介して移動することおよびゼオライトへの吸着を可能にする条件で、ステップ(ii)で得られた配置によりインキュベートする工程。
【請求項2】
1種またはそれ以上の無機イオンが2価、3価または多価の無機イオンであり、好ましくは、1種またはそれ以上の無機イオンが2価または3価の無機イオンであり、特に、1種またはそれ以上の無機イオンが、カルシウムイオン、亜鉛イオン、およびカルシウムと亜鉛のイオンからなる群から選択されたイオンを含むか、またはそれらのイオンからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種またはそれ以上の無機イオンが、カルシウムイオンを含むか、またはカルシウムイオンからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
体液が、血液、血漿またはその分画、および血リンパまたはその分画からなる群から選択され、特に、体液が貯蔵された血液または血漿のユニットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
体液が凝固可能な体液であり、特に、哺乳類の血液、哺乳類の血漿、および哺乳類の血漿の凝固可能な画分からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
体液がアフェレーシスにかけられたものであり、特に、血液、血漿またはその分画、および血リンパまたはその分画がアフェレーシスにかけられたものからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ゼオライトが以下の少なくとも1つである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
粉末、粒子状、またはペーストとして提供されること
140~600pm、特に300~500pmの範囲の細孔径を有すること
水性緩衝液に懸濁されていること
【請求項8】
半透膜層が、2から45kDa、20から40kDa、または25から35kDaの範囲のポリペプチドに対するカットオフ機能を有し、および/または、半透膜層が浸透膜である場合には、潜在的に特定のイオンに対しても選択的である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
半透膜層が、フィルター、特に、遠心分離フィルター、標準圧、高圧または真空下でのデッドエンド濾過用フィルター、およびクロスフロー濾過フィルターからなる群から選択されるフィルターと、透析デバイス、特に、透析膜、透析チューブ、および透析バッグからなる群から選択される透析デバイス、および中空糸からなる群から選択されるデバイスの一部を形成する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
オンライン連続処理で実施される方法であって、好ましくは体液が半透膜層と一緒に流れ、特に該方法がアフェレーシスまたは献血の操作中にオンライン連続処理で実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
インキュベートする工程(iii)が、少なくとも5分間、少なくとも10分間、または少なくとも20分間実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法であって、体液中の1種またはそれ以上の無機イオンの濃度が、前記方法を実施する前の体液に含まれる濃度と比較して、少なくとも25%(mol/mol)減少するまで、インキュベートする工程(iii)を実施する、上記の方法。
【請求項13】
前記1種またはそれ以上の無機イオンを錯化させる1種以上の錯化剤をさらに添加する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法で得られた、1種またはそれ以上の無機イオンの濃度が低減された体液。
【請求項15】
体液の凝固防止方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載された体液中の1種またはそれ以上の無機イオンの濃度を低下させる方法により、前記方法を実施することを特徴とする体液の凝固防止方法。
【請求項16】
中毒後に体液中の1種または複数種の無機イオン濃度を低減する方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって実施され、好ましくは、前記方法が、解毒のために透析処置、特に腹膜透析処置を使用することをさらに含む、前記の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
驚くべきことに、ゼオライトを用いることで、血漿などの体液からカルシウムイオンなどの無機イオンの濃度を十分に低下させることができることがわかった。このようなカルシウムイオンなどの無機イオン濃度の低下は、凝固の抑制を含む止血の抑制、特に第VII因子の活性化やフィブリンの形成の抑制につながる。
【背景技術】
【0002】
体液には、1価、2価、3価、多価の無機イオンが多量に含まれている。これらのイオンは、動物や人間の体内で有益な、あるいは必須の機能を持っているが、体から採取した体液中の特定のイオン、特に2価および3価のイオンを低濃度にすることがしばしば望まれる。イオン、特に2価および3価のイオンの濃度を下げることは、体液のin vitroでの保存性および使用性に有益である。
【0003】
例えば、血液や血漿は、凝固しやすい性質を持っている。これは、特に、凝固の因子として知られているカルシウムイオンの存在によって促進される。
【0004】
したがって、例えば、血液または血漿サンプル中のカルシウムおよび/または亜鉛のレベルを下げることは、血液または血漿の望ましくない凝固(clotting)を減少させるため、および/または酵素活性を減少させるために望まれるであろう。
【0005】
血液や血漿などの体液中に含まれるカルシウムや亜鉛などの2価および3価のイオンの低減は、錯化剤の添加によって達成される。そのような錯化剤の一例はクエン酸塩である。
【0006】
クエン酸塩は、止血現象を引き起こす遊離カルシウムイオンを捕捉し、血液や血漿の質を維持することで、採取した血液や血漿サンプルの抗凝固に使用される。遊離カルシウム濃度を0.2-0.3mmol/Lの濃度まで下げることで、望ましい止血機能の低下が得られる。そのためにクエン酸塩が必要であるが、低濃度のクエン酸塩(~6%)の方が高濃度のクエン酸塩(~8%)よりも凝固因子の収率が高くなる。
【0007】
採取した血液や血漿の量が変動することによりクエン酸塩の濃度が変化して、クエン酸塩濃度が、カルシウムの十分な減少に必要な15~24mmol/Lを下回ることがある。一方で、高濃度のクエン酸塩は、保存された血液または血漿が患者の体内に戻される際に、望ましくない毒性の副作用をもたらす可能性がある(非特許文献1;非特許文献2)。
【0008】
抗凝固剤であるクエン酸塩の濃度は、血液や血漿だけで低下することが多く、血液中の細胞成分の量では低下しない。そのため、最終的なクエン酸塩の濃度は、ドナーのヘマトクリット(HCT)(全血中の細胞成分の量を示す指標)に依存することがあり、個人差が大きい。
【0009】
そのため、ヘマトクリットが低いドナーの1部は抗凝固以下となる。クエン酸濃度が高い血液や血漿で希釈されるため、クエン酸濃度が低くなる。ヘマトクリットの高いドナーでは、逆に血漿タンパク質が不必要に多く希釈されてしまう。凝固不足は深刻な問題である。これは、錯化可能なイオンよりも錯化剤の添加量が多いことが原因である。
【0010】
カルシウムイオンの遮断が不完全であるため、アフェレーシスセット(apheresis set)などの装置のプラスチック材料での表面活性に基づく凝固が開始されることがある。凝固因子の多くがプロテアーゼであり、これらのプロテアーゼが他の血漿タンパク質も消費することが問題となることがある。
【0011】
そのため、多くの血漿タンパク質の収量と安定性がさらに低下する。患者の体内に戻されると、通常、カルシウムレベルが回復する。これは、血液または血漿サンプル中のクエン酸塩の過剰によって妨げられることが多い。
【0012】
要約すると、クエン酸塩などの高濃度の錯化剤は、血液や血漿サンプルなどの体液の処理(血漿交換/アフェレーシスを含む)や保存中に有害事象を増加させることが多い。したがって、高濃度の錯化剤を必要とせずに、体液中の1種または複数種の無機イオンの濃度を低減することが望まれる。
【0013】
当該技術分野において、例えばゼオライトのような多孔質材料には、他の難点があることが知られている。そのような多孔質材料は、液体溶液からカルシウムイオンを除去することができ、容易かつ効率的に液体から除去することができる。
【0014】
ゼオライトなどのような粗い表面を持つ材料は、固有の表面活性により凝固を増加させる。したがって、ゼオライトなどのような粗い表面を有する材料は、凝固促進剤として使用することができる(非特許文献3;非特許文献4)。
【0015】
しかしながら、例えば保存された血液または血漿サンプルのような凝固が望ましくないものについては、望ましくない凝固を促進する傾向があるため、ゼオライトの使用が避けられる。
【0016】
特許文献1は、尿毒症物質を除去するために、カルシウム負荷されたゼオライトイオン交換体を含む透析方法を示している。特許文献2は、ゼオライトおよび交換可能なカルシウム負荷を含む血液透析組成物を示している。したがって、特許文献1および特許文献2のゼオライト組成物は、体液のカルシウム濃度を増加させているのかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP A 0064393
【特許文献2】EP A 0046971
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Lee et al., J Clin Apher., 2012, 27(3):117-125
【非特許文献2】Bialkowski et al., Clin Apher., 2016, 31(5):459-463
【非特許文献3】Alam et al., Military Medicine, 2005, 170:63-69
【非特許文献4】Li et al., Acta Pharmacologica Sinica, 2013, 34:367-372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のことから、体液中の1種または2種以上の無機イオンの濃度を低減する手段が求められている。
【発明の効果】
【0020】
驚くべきことに、イオンは通過させるがポリペプチドは通過させない半透膜層によって体液から分離するイオン吸着性ゼオライトを用いると、体液中の1種または複数種の無機イオン濃度の低減が得られることが判明した。
【0021】
これにより、驚くべきことに、抗凝固に必要なクエン酸塩などの錯化剤の量を最小限に抑えることができ、あるいは錯化剤を置き換えることもできる。保存されている血液や血漿の質が改善されることがわかった。さらに、驚くべきことに、本発明の方法は、有毒なイオンにさらされたり、取り込まれたりした際の解毒にも使用できることがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
したがって、本発明の第1の側面は、体液中の1種または複数種の無機イオンの濃度を低減する方法に関し、この方法は以下の工程を含む。
(i)準備
(A)体液
(B)1種以上の無機イオンは透過するが、40kDa以上、特に10kDa以上の分子量を有するポリペプチドは(本質的に)透過しない半透膜層、および
(C)無機イオンを吸着するのに適したゼオライトであって、水または水性緩衝液に懸濁しているもの。
(ii)体液がゼオライトに直接接触しないように、体液とゼオライトの間に半透膜層を配置し、さらに、
(iii)1つまたはそれ以上の無機イオンが膜を介して移動することおよびゼオライトへの吸着を可能にする条件で、ステップ(ii)で得られた配置によりインキュベートする。
【0023】
好ましい実施形態では、この方法はin vitroでの方法で、すなわち、ヒトや動物の体外で行われる方法である。
【0024】
体液はどのような方法で提供してもよい。保存されている体液でもよいし、人や動物の体(ドナー)から新鮮な体液を採取してもよい。
【0025】
保存は、例えば、室温(RT)での保存、冷蔵環境での保存(例えば、1℃から10℃の範囲の温度の冷蔵庫での保存)、冷凍状態での保存(例えば、-25℃から-1℃の範囲の温度の冷凍庫での保存、-90℃から-60℃の範囲の温度の液体窒素での保存、約-196℃の温度の液体窒素での保存)、または任意の温度、好ましくは30℃以下での凍結乾燥状態の保存など、どのような保存であってもよい。したがって、15℃~30℃、1℃~10℃、-25℃~25℃、-70℃~-15℃、-90℃~-60℃、-200℃~-80℃、-196℃前後または-196℃以下の温度範囲での保存であってもよい。
【0026】
保存は、少なくとも1分以上(min)、少なくとも1時間(h)、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも1日(d)、少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも6ヶ月、または少なくとも1年の間、保存することができる。
【0027】
ヒトまたは動物の体(ドナー)から得られた新鮮な体液の提供は、どのような手段で行ってもよい。好ましくは、提供はヒトまたは動物に(深刻な)健康上のリスクを伴わない手段で行われる。例えば、そのような提供は、血液分画による血液サンプリングであってもよい。血液サンプリングは、例えば、静脈血サンプリングまたは動脈血サンプリングであってもよい。
【0028】
1種以上の無機イオンは、体液中に構成される可能性のある当業界で知られている任意の無機イオンであってよい。無機イオンは、自然に体液中に構成されていてもよいし、中毒によって取り込まれた毒性イオンを含む異生物であってもよい。好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、200Da以下、特に100Da以下または50Da以下のイオン重量を有する。好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、1種または複数種のカチオンである。
【0029】
好ましい実施形態では、無機イオンは、カチオン性金属イオンの1種または複数種である。
【0030】
本発明では、無機イオンは任意の原子価を有していてもよい。無機イオンは、1価、2価、3価または多価の無機イオンであってもよい。好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、2以上の価数を有する。好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、2価、3価または多価の無機イオンである。より好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、2価または3価の無機イオンである。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、アルカリ土類金属(元素の周期表の第2族)、土類金属(元素の周期表の第13族)、および遷移金属カチオンからなる群から選択された1種または複数種であり、それぞれがIIまたはIIIの価数を有する。
【0032】
特に好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、カルシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉛イオン、クロムイオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、イリジウムイオン、および銅イオンからなる群から選択される1種または2種である。
【0033】
特に好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、生体異物の影響を受けずに体液中に自然に見出される1種または複数種である。
【0034】
特に好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、カルシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ニッケルイオン、鉄イオン、および銅イオンからなる群から選択される1種または2種以上である。
【0035】
特に好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、カルシウムイオン、亜鉛イオン、およびカルシウムイオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択されるイオンである。非常に好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、カルシウムイオンを含んでいるか、またはカルシウムイオンからなる。
【0036】
好ましい実施形態では、無機イオンは、カルシウムイオンからなる。好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、亜鉛イオンからなるか、または亜鉛イオンである。好ましい実施形態では、無機イオンは、亜鉛イオンである。好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、カルシウムイオンおよび亜鉛イオンからなるか、またはそれらで構成されている。好ましい実施形態では、無機イオンは、カルシウムイオンおよび亜鉛イオンからなる。
【0037】
代替的な好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、1種または複数種のアニオンである。代替的な好ましい実施形態では、本発明の無機イオンは、炭酸塩(CO3
2-)、および硫酸塩(SO4
2-)からなる群から選択される1種または複数種のアニオンである。
【0038】
体液は、どのような種類の体液であってもよい。体液は、ヒトを含む任意の動物種から得られた体液であってもよい。脊椎動物(例えば、ヒトを含む哺乳類、鳥類、魚類、両生類、爬虫類など)から得られたものであってもよいし、無脊椎動物(例えば、節足動物(例えば、昆虫、クモ、甲殻類など)、軟体動物など)から得られたものであってもよい。
【0039】
好ましい実施形態で、体液は、脊椎動物または昆虫から得られる。好ましい実施形態では、体液は、脊椎動物、特に哺乳類の体液である。好ましい実施形態では、体液はヒトの体液である。
【0040】
好ましい実施形態では、体液は、血液、血漿またはその画分、および血球リンパまたはその画分からなる群から選択される。好ましい実施形態では、体液は、哺乳類の血液、哺乳類の血漿またはその分画からなる群から選択される。好ましい実施形態では、体液は、ヒトの血液、ヒトの血漿、またはそれらの分画からなる群から選択される。好ましい実施形態では、体液はヒトの血液である。好ましい実施形態では、体液はヒトの血漿またはその分画である。
【0041】
好ましい実施形態では、体液は、貯蔵された血液または血漿のユニットである。好ましい実施形態では、体液は、哺乳類の貯蔵血液または血漿のユニットである。好ましい実施形態では、体液は、ヒトの貯蔵された血液または血漿のユニットである。
【0042】
上記のように、本発明の方法を用いて、体液の凝固および/または酵素活性を少なくとも部分的に阻害することは、特に興味深いことである。
【0043】
好ましい実施形態では、体液は、凝固可能な体液である。好ましい実施形態では、体液は、哺乳類の血液、哺乳類の血漿、および哺乳類の血漿の凝固可能な画分からなる群から選択される凝固可能な体液である。好ましい実施形態では、体液は、ヒトの血液、ヒトの血漿、およびヒトの血漿の凝固可能な画分からなる群から選択される凝固可能な体液である。
【0044】
上記のとおり、体液は、アフェレーシスを含むさらなるプロセスを受けても受けなくてもよい。したがって、好ましい実施形態では、体液はアフェレーシスに付される。好ましい実施形態では、体液は、アフェレーシスにかけられた血液、血漿またはその分画、および血球リンパまたはその分画からなる群から選択される。好ましい実施形態では、体液は、哺乳類の血液、哺乳類の血漿またはアフェレーシスに供されたそれらの画分からなる群から選択される。好ましい実施形態では、体液は、ヒトの血液、ヒトの血漿、またはアフェレーシスに供されたその画分からなる群から選択される。
【0045】
ゼオライトは、1種以上の無機イオンと相互作用することができる任意のゼオライトであってよい。好ましい実施形態では、ゼオライトは、1種または複数種の無機イオンの少なくとも一部を吸着する。好ましい実施形態では、ゼオライトは、アルミノケイ酸塩ゼオライトである。
【0046】
ゼオライトは、任意の形態を有していてもよい。典型的には、ゼオライトは、モノリスであってもよいし、断片化されていてもよい。
【0047】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、粉末、微粒子の形態、またはペーストとして提供される。
【0048】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、粉末として提供される。好ましい実施形態では、ゼオライトは微粒子の形で提供される。本明細書で使用する場合、「粉末」という用語は、10μm未満などの平均小径(例えば、Malvern Metasizerなどのレーザー回折分析によって決定される)を有する任意の固体粒子として、最も広い意味で理解することができる。
【0049】
本明細書では、「粒子状」という用語は、0.01mm~10mm、0.1~5mm、または0.5~2mmの平均直径を有する任意の固体粒子として広義に理解することができる(例えば、ふるい分析または顕微鏡もしくは巨視的な測定によって決定される)。粒子状の形態は、任意の形状を有していてもよい。本質的に)球状であっても、壊れていても、結晶であってもよい。好ましい実施形態では、ゼオライト粒子は(本質的に)球形である。好ましい実施形態では、ゼオライト粒子は(本質的に)球状であり、0.1~5mmの平均粒径を有する(例えば、ふるい分析または顕微鏡もしくは巨視的な測定によって決定される)。
【0050】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、目的の1種または複数種の無機イオンを取り込み、少なくとも部分的に捕捉することができる細孔を有する。
【0051】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、140~600pmの範囲内の細孔径を有する。好ましい実施形態では、ゼオライトは、300~500pmの範囲内の細孔径を有する。好ましい実施形態では、ゼオライトは、350~450pm、375~425pm、380~420pm、390~410pm、または(約)400pmの範囲内の細孔径を有している。
【0052】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、一価のイオンを担持した形態で提供される。好ましい実施形態では、ゼオライトは、例えば、ナトリウムおよび/またはカリウムを担持したゼオライトのような、アルカリ金属を担持した形態で提供される。
【0053】
当業者であれば、1種以上の無機イオンに細孔径を採用することができることが理解されるであろう。イオンの直径が大きい場合は、細孔径も大きくすることができる。また、イオンの直径が小さい場合は、ポアサイズを小さくすることもできる。
【0054】
ゼオライトは、懸濁液で使用してもよいし、乾燥状態で使用してもよい。好ましい実施形態では、ゼオライトは水性緩衝液に懸濁される。本発明全体で使用されるように、緩衝液は、好ましくは、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような薬学的に許容される緩衝液である。
【0055】
本明細書では、薬学的に許容されるとは、薬学的に使用できる、すなわち、使用される濃度範囲で(本質的に)非毒性である任意の化合物として、最も広い意味で理解することができる。これは、緩衝剤が医薬品として正式に承認されていることを意味するが、必ずしもそうではない(例えば、米国および/または欧州の薬局方、特に出願日の実際のバージョンの各薬局方による)。
【0056】
ゼオライトは、使用する前に、水性緩衝液に懸濁させてもよい。
【0057】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、粉末、粒子状、またはペーストとして提供され、140~600pm、特に300~500pmの範囲の細孔径を有する。好ましい実施形態では、ゼオライトは、粉末または粒子状の形態で提供され、300~500pmの範囲の細孔径を有する。
【0058】
ゼオライトは、明確な構造を有しているので細孔径も明確である。細孔径は、平均細孔径と呼ばれることもある。本明細書で使用されるように、細孔径は、当該技術分野における常識的な手段によって決定される。ゼオライトは好ましくは明確に定義された構造を有するので、細孔径は化学構造から直接得てもよい。細孔径は流体力学的半径を参照してもよい。
【0059】
好ましい実施形態では、ゼオライトの細孔は(本質的に)放射状の開口部を有する。好ましい実施形態では、ゼオライトの細孔は円筒形の細孔を有する。ゼオライトの細孔が放射状の開口部を有していない場合、細孔サイズは好ましくは細孔の開口部の最小直径を指す。
【0060】
別の好ましい実施形態では、細孔径は、比表面積(SSA)として決定することもできる。代わりに、また、サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography)が、細孔径を決定するために使用されてもよい。細孔径は、Espinal in “Characterization of Materials”, edited by Elton N. Kaufmann, 2012, John Wiley & Sons, Inc.の「Porosity and its Measurement」の章に記載されているように決定してもよい。
【0061】
好ましい実施形態では、ゼオライトは、粉末、粒子状、または水性緩衝液に懸濁したペーストとして提供される。好ましい実施形態では、ゼオライトは、140~600pm、特に300~500pmの範囲の細孔径を有し、水性緩衝液に懸濁されている。好ましい実施形態では、ゼオライトは、水性緩衝液に懸濁した粉末、粒子状、またはペーストとして提供され、140~600pm、特に300~500pmの範囲の細孔径を有する。
【0062】
半透膜層は、40kDa(キロダルトン)以上の分子量を有するポリペプチドに対して(本質的に)不透水性である。本明細書で使用されるように、40kDa以上の分子量を有するポリペプチドにおける「本質的に不浸透性」という用語は、40kDa以上の分子量を有するポリペプチドが半透膜層を通過しないか、ほぼ通過しないという意味である。
【0063】
従って、このようなポリペプチドを含む一定量の体液を半透膜層の片面に付着させ、さらにポリペプチドを含まない同量の緩衝液を半透膜層の片面にそれぞれ付着させ、室温で24時間インキュベートした場合、緩衝液は、好ましくは25%(mol/mol)以上、より好ましくは10%(mol/mol)または5%(mol/mol)以上、特に体液の初期濃度の1%(mol/mol)以上の分子量を有するポリペプチドの濃度を含まないこととなる。
【0064】
好ましい実施形態では、半透膜層は、30kDa以上、20kDa以上、10kDa以上、5kDa以上、または2kDa以上の分子量を有するポリペプチドに対して(本質的に)不透過性である。
【0065】
半透膜層は、1種または複数種の無機イオンに対して透過性を有する。本明細書では、「透過性」という用語は、無機イオンが半透膜層を効率的に通過することができるという広い意味で理解することができる。したがって、イオンを含む一定量の体液を、半透膜層の片面とイオンを含まない同等量の緩衝液とに、室温で24時間インキュベートした場合、緩衝液は、体液の初期濃度の1種以上の無機イオンの濃度の25%(mol/mol)以上、50%(mol/mol)以上、または75%(mol/mol)以上を含むことが好ましい。
【0066】
好ましい実施形態では、半透膜層は、1kDa以下、2kDa以下、5kDa以下、10kDa以下、20kDa以下、30kDa以下、40kDa以下、または45kDa以下の範囲のポリペプチドに対するカットオフ機能を有する。好ましい実施形態では、半透膜層は、1kDa以上、2kDa以上、5kDa以上、10kDa以上、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、または45kDa以上の範囲のポリペプチドに対するカットオフ機能を有する。
【0067】
好ましい実施形態では、半透膜層は、2~45kDa、20~40kDa、または25~35kDaの範囲のポリペプチドに対するカットオフ機能を有する。好ましい実施形態では、半透膜層は浸透膜であり、潜在的には特定のイオンに対しても選択的である。好ましい実施形態では、半透膜層は、2~45kDa、20~40kDa、または25~35kDaの範囲のポリペプチドに対するカットオフ機能を有し、特定のイオンに対して潜在的に選択的な浸透膜である。
【0068】
半透膜は、膜であってもよいし、より強固な材料であってもよい。また、本発明の方法に適した任意の厚さを有していてもよい。例えば、1~50μm、25~100μm、50~1000μm、または0.5~2mmの範囲の厚さを有していてもよい。半透膜層は、本発明の文脈で使用可能なデバイスの一部を形成してもよい。
【0069】
好ましい実施形態では、半透膜層は、以下の群から選択されるデバイスの一部を形成する。
【0070】
フィルター、特に、遠心分離フィルター、標準圧力、高圧または真空下でのデッドエンド濾過用フィルター、およびクロスフロー濾過フィルターからなる群から選択されるフィルターと、
透析デバイス、特に、透析膜、透析チューブ、および透析バッグからなる群から選択される透析デバイス、ならびに中空糸。
【0071】
このような装置は、市販されている。本発明の方法は、体液が半透膜層を通過し、さらにゼオライトを通過するオンライン連続処理(on-line procedure)で実施してもよいし、バッチの体液を半透膜層に接触させ、さらに所定時間ゼオライトに接触させるバッチ処理(dead-end procedure)で実施してもよい。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、オンライン連続処理(インラインとも指定可能)で実施され、好ましくは、体液が半透膜層に沿って流れ、特に、アフェレーシスまたは献血操作の中でオンライン連続処理により実施されることが好ましい。
【0073】
好ましい実施形態では、特にオンライン連続処理として実施する場合、インキュベートのステップ(iii)を少なくとも1秒(秒)、少なくとも10秒、または少なくとも20秒実施する。好ましい実施形態では、特にデッドエンド(すなわちバッチ)処理として実施する場合、インキュベートのステップ(iii)を少なくとも5分、少なくとも10分、または少なくとも20分実施する。
【0074】
当業者は、目的とする1種または複数種の無機イオンの濃度の減少を図るための処置をすることができる。
【0075】
好ましい実施形態では、インキュベートするステップ(iii)は、体液中の1種以上の無機イオンの 濃度が、前記方法を実施する前に体液に含まれていた濃度と比較して、少なくとも25%(mol/mol)減少するまで実施される。
【0076】
好ましい実施形態では、インキュベートするステップ(iii)は、体液中の1種以上の無機イオンの濃度が、前記方法を実施する前の体液に含まれる濃度と比較して、少なくとも50%(mol/mol)または少なくとも75%(mol/mol)減少するまで実施される。
【0077】
本発明の方法は、体液中の1種または複数種の無機イオンの濃度を低減するための唯一の方法として実施してもよいし、この目的のために使用可能な1つまたは複数のさらなる手段と組み合わせてもよい。
【0078】
好ましい実施形態で、本方法は、1種以上の無機イオンを錯化する1種以上の錯化剤を添加することを含む。
【0079】
このような錯化剤は、対象となる1種以上の無機イオンを錯化するのに適した任意の錯化剤であってよい。
【0080】
好ましい実施形態で、錯化剤は、薬学的に許容されるものである。好ましい実施形態で、錯化剤はキレート剤である。例えば、錯化剤は、クエン酸塩およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる群から選択することができる。
【0081】
好ましい実施形態で、本方法は、1種または複数種の無機イオンと沈殿物を形成する1種または複数種の薬剤を添加することをさらに含む。例えば、高濃度の炭酸塩および/またはリン酸イオンは、カルシウムカチオンなどのカチオンと共に沈殿する。
【0082】
上記のとおり、本発明の方法で得られる体液は、特に有益な特性を有している。この体液は、目的とする1種以上の無機イオンの濃度が低減されており、また多量の錯化剤を含んでいない。
【0083】
したがって、本発明は、本発明の方法から得られる、1種または複数種の無機イオンの濃度が低減された体液に関する。
【0084】
本明細書の方法で述べられている定義および好ましい実施形態も、得られる体液に準用されることが理解されるであろう。本発明の方法はまた、体液の凝固を抑制または防止するために使用することができ、この方法は本発明に従って実施される。したがって、本発明のさらなる態様は、体液の凝固を防止するための方法であって、この方法が本発明に従って行われ体液中の1種または複数種の無機イオンの濃度を低減することになる。
【0085】
本明細書に記載されている定義および好ましい実施形態は、本発明のすべての方法にも準用される。
【0086】
本発明の方法は、有毒なイオンにさらされたり、取り込まれたりした際の解毒にも用いることができる。したがって、本発明のさらなる態様は、体液から有毒な無機イオンを除去する方法であって、前記方法が本発明に従って実施される方法に関する。
【0087】
したがって、本発明は、中毒後の体液中の1種以上の無機イオンの濃度を低減する方法であって、前記方法が本発明に従って実施される方法に関する。
【0088】
好ましい実施形態では、1種以上の無機イオンは、例えば、鉛、クロム、ニッケル、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、およびイリジウムイオンからなる群から選択されるイオンのような1種以上の毒性無機イオンである。しかし、当業者であれば、毒性は取り込まれた量にも依存する可能性があることに留意するだろう。したがって、原則として、すべてのイオン、特に無機の2価、3価、および多価のイオンが中毒を引き起こす可能性がある。本発明の一態様は、体液中の(前記1種以上の有毒無機イオンの中毒後の)1種以上の有毒無機イオンの濃度を低減する方法に関し、前記方法は本発明に従って実施される。好ましい実施形態で、本方法は、解毒のために、透析手順、特に腹膜透析手順を使用することをさらに含む。
【0089】
以下の実施例および図面は、本明細書に記載および請求された本発明の例示的な実施形態を提供するものである。これらの実施例は、本発明の主題の範囲にいかなる制限も与えることを意図していない。本発明は、図面、実施例および請求項によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1】
図1は、無処理のサンプル(
図1A)と、0.75g/100mLのゼオライトで長期インキュベーションしたサンプル(
図1B)を比較したトロンボダイナミクスアッセイ(thrombodynamics assay)の結果を示すバイアルである。
【
図2】
図2は、無処理のサンプル(
図2A)と、0.75g/100mLのゼオライトで短期間インキュベーションしたサンプル(
図2B)のトロンボダイナミクスアッセイで得られたバイアルである。
【
図3】
図3は、ゼオライトを使用してヒト血漿からカルシウムイオンを除去するためのデバイスのスキームを示しており、半透膜層によってヒト血漿から分離される。ここでは、懸濁したゼオライトビーズ(3)を含む水またはPBS緩衝液の懸濁液(2)を含む内側バイアル(1)が 、ウルトラ濾過半透層(4)を有している。この内部バイアル(1)は、体液(6)(血漿など)を含むメインカラム(5)に配置される。
【
図4A】
図4は、無処理のサンプル(
図4A)と,半透膜層の背後にゼオライトを配置したサンプル(
図4B)とを比較した,トロンボダイナミクスアッセイの結果を示すバイアルである。第1日目に測定した血漿サンプル(上段)と、7日間保存したサンプル(中段)、14日間保存したサンプル(下段)のトロンボダイナミクスアッセイの結果を示している。
【
図4B】
図4は、無処理のサンプル(
図4A)と,半透膜層の背後にゼオライトを配置したサンプル(
図4B)とを比較した,トロンボダイナミクスアッセイの結果を示すバイアルである。第1日目に測定した血漿サンプル(上段)と、7日間保存したサンプル(中段)、14日間保存したサンプル(下段)のトロンボダイナミクスアッセイの結果を示している。
【
図5】
図5は、無処理のサンプル(黒点)と、半透膜層の背後にゼオライトを配置したサンプル(白四角)を比較して、数日間インキュベートした後の第VII因子レベルを示している。第VII因子レベルは、クロマトグラフィーアッセイ(
図5A)および血液凝固アッセイ(
図5B)によって測定された。
【実施例】
【0091】
前記の通り、カルシウムは(ヒトの)血液中に約2~2.5mmol/Lの濃度で存在している。旧来の分析でのカルシウムの検出限界は、約1.25mmol/L(低濃度の場合は検出レベル(BDL)以下)である。これは通常の状態では致命的であるため、ゼオライトの低減能力の事前テストは、より高いカルシウム濃度で行われた。
カルシウム濃度が凝固に及ぼす影響の高感度マーカーとして、凝固第VII因子(F.VII)を用いた。
F.VIIは、低濃度で存在する凝固因子で活性化される。
F.VIIの活性が低下すると、凝固が抑制されたことを示す強力なマーカーとなるので血漿の取り扱い時に分画の過程で製品の品質が損なわれることが少なくなる。
【0092】
材料
塩化カルシウム(CaCl2)
ゼオライト: 吸着剤 UOP 4A-AP MolSiv ゼオライト(ナトリウム型)、その孔径が約400pmのアルミノシリケートゼオライト粉末
蒸留水(H2O dest.)
【0093】
分析
HPLC-FID
F.VII 血栓溶解アッセイ
F.VII クロモゲンアッセイ(chromogenic assay)
F.VIIa クロモゲンアッセイ
【0094】
ゼオライトの調製
乾燥したゼオライトにH2Oを滴下して水和させた。実験に使用する前に、ゼオライトを遠心分離した。
【0095】
実施例1 - ゼオライトによる人工溶液中のカルシウムイオンの吸着
ゼオライトが、CaCl2濃度が10mmol/L(血漿濃度の約5倍)の溶液からカルシウムイオンを吸着する能力について試験した。活性化した水和ゼオライトを様々な濃度で懸濁し,CaCl2溶液と混合した。30分後、1時間後、3時間後、4時間後、24時間後にカルシウム濃度を測定した。その結果、100mLあたり5種類の所定濃度のゼオライトの3時間後に測定したカルシウム濃度は、以下の表1に記載されている。
【0096】
【0097】
ゼオライトは、試験したすべての濃度で、無機イオン(カルシウムイオン)を検出限界以下に効果的に減少させることができた。フィード中のカルシウム濃度が低下したのは、容器の壁に付着したためと考えられる。
【0098】
実施例2- ゼオライトによるヒトの血漿中のカルシウムイオンの吸着
血漿を使って3つのサンプルをテストした。最初のサンプル(B0)は、ゼオライトを含まない血漿である。第2の試料(B1)は、ゼオライトを1.5g/100mL添加した血漿である。第3の試料(B2)は,カルシウムイオン濃度が低下したサンプルB1が含まれており、凍結前にCaCl2溶液を添加して再カルシウム化がされている。すべてのサンプルは、サンプリング前に遠心分離してゼオライトを除去した。3つの血漿サンプルはすべて、室温で24時間インキュベートされた後、凍結され、その後測定された。結果は以下の表2に示されている。
【0099】
【0100】
これらの結果から、未処理の血漿(B0)は、両アッセイにおいて低い値を示し、要素の劣化を示した。ゼオライトの添加(B1)は、カルシウムイオンの濃度を効果的に低減させた。その後、カルシウムイオンを添加(再カルシウム化、B2)すると、カルシウムイオン濃度が回復した。ゼオライトが血漿に直接触れることで、凝固が起こることが明らかになった。本実施例は、ゼオライトによるカルシウムイオン濃度の低下が、血漿中でも有効であることを示している。
【0101】
実施例3-ヒト血漿中の低濃度ゼオライトによるカルシウムイオンの吸着
実施例2を繰り返したが、一方でゼオライトの濃度は0.75g/100mLに減少させ、インキュベーション時間は室温で48時間に延長した。サンプルは、24時間後と48時間後に分析された。その結果は、以下の表3に示す。
【0102】
【0103】
実施例4 - 血栓症のアッセイ(Thrombodynamics Assay)
はじめに
血栓症のアッセイthrombodynamics assay(HemaCore社製)は、リアルタイムでの血栓形成を視覚化することができ、in vivo条件での実際の凝固に最も近い比較可能なアッセイの一つである。サンプルを37℃に加熱したチャンバー(キュベット)に導入し,カルシウムを添加した。凝固は、固定化された組織で覆われた活性因子の挿入によって開始され、外因性凝固を引き起こした。血栓の形成は,625nmの赤色光による光散乱で測定した。血栓の形成はCCDカメラでモニターされ、ソフトウェアによって以下の比較可能な変数に変換された。
- Tlag[min] - ラグタイム、すなわち活性剤が血漿サンプルに接触してから血栓の成長が始まるまでの時間。
- V[μm/min] - 平均的な血栓の成長速度(15分から25分まで)。
- Tsp[min] - 自発的な血栓形成の時間。
- Vi[μm/min] - 平均的な初期血栓成長率(2分から6分まで)。自発的な血栓形成により通常のV計算ができない場合は、V=Viとする。
- D[a.u.] - 血餅の密度。
- CS[μm] - 30分後の血栓の大きさ(標準測定長)。
以下の実験では、次のような疑問に取り組んだ。
- カルシウムの除去は、凝固にどのような影響(阻害)を与えるか?
- カルシウムの減少は、アッセイで自然に血栓が形成される時間となる時間経過(24時間)で、活性化された凝固因子(特に第VII因子)の量を減少させるか?
【0104】
実施例5-ヒト血漿中のゼオライトの効果
ヒトの血漿の2つのサンプルを解凍し、サンプルの1つにゼオライトを0.75g/100mLの濃度で加えてカルシウム量を減少させた。両サンプルを室温で2.5時間インキュベートした後,標準プロトコールのようにカルシウムと阻害剤を添加せずに,血栓症のアッセイを行った。その後、固定化された組織因子を用いて凝固を開始し、1時間かけて測定した。
【0105】
テストは、カルシウムイオンがない状態で行った。両サンプル(D1:未処理、D2:カルシウム減少)ともに、アッセイ中に血栓の形成は見られなかった。
【0106】
実施例6-ヒトの血漿と長期間直接接触したゼオライトの効果
ヒトの血漿2サンプルを解凍し,そのうちの1サンプルにゼオライトを0.75g/100mLの濃度で添加してカルシウムイオンの濃度を低下させた(サンプルE2)。もう1つのサンプルは処理しなかった(サンプルE1)。少なくとも24時間後の実験1のサンプルは、標準的なアッセイ手順(上記参照)で塩化カルシウムを通常通り添加して血栓症のアッセイによって測定した。
【0107】
カルシウムを減らしたサンプルでは、自発的な活性化のレベルが低くなり、T(sp)時間が長くなった。この結果は
図1にも示されている。この実験では、さらに予想外の結果が得られた。未処理のサンプルでは、自然発生的な血栓の形成は見られず、Tsp値は存在しなかった。カルシウムを減らしたサンプルでは、かなりのレベルの自然発生的な血栓が見られ、その結果、Tsp値が低くなり、したがって、自然発生的な血栓が素早く形成されることになった。
【0108】
【0109】
理論に縛られることなく、インキュベート中に除去されなかったゼオライトの表面との長時間の接触が、第VII因子の活性化を引き起こしたと考えられる。
【0110】
実施例7-ヒトの血漿と短時間直接接触させたゼオライトの効果
実施例6を繰り返したが,24時間の代わりに,サンプルE1およびE2を単に5~10分間インキュベートし,その後,因子のさらなる表面での活性化を防ぐために遠心分離によって除去した。サンプルE3では、再び自然発生的な血栓の形成が見られ、表面の活性化が完全には避けられなかったことが示された。しかし、ゼオライトとの接触時間が短くなったことで軽減されていることがわかった。
【0111】
【0112】
計測された値を分析すると、完全には回避できないものの、自発的な血栓形成が大幅に減少したことがわかった。T(sp)の値は5.9分(実験6参照)から11.6分に変化した。サンプルE2の誘発された血栓は、VおよびV(i)の値が高く、T(lag)の値が短く、血栓密度Dが高かった。そのため、カルシウム濃度は示されていたが、すでに低カルシウム血症の範囲に入っていた。おそらく、測定されたカルシウム濃度は、主に結合カルシウムと非イオン化カルシウムで構成されており、凝固には関与していないと思われる。
【0113】
次に、サンプルの長期的な安定性の指標として、すでに活性化された因子から誤って高い結果が出ることが少ないクロモゲンアッセイ(chromogenic assays)を用いて、第VII因子の残存量を調べた。サンプルは、室温で8日間インキュベートした後に測定された。
【0114】
室温で8日間インキュベートした結果,サンプルE1では第VII因子の活性化が48.8IU/dL,サンプルE2では第VII因子の活性化が58.2IU/dLとなった。サンプルE2では,カルシウム除去により、活性化がわずかに見られたものの,第VII因子の残存量は無処理のサンプルE1と比較して約20%高かった。したがって、カルシウムの除去は、第VII因子のような不安定な凝固因子の半減期を延長するのに適していると考えられる。
【0115】
実施例8- ヒトの血漿とフロースルー(direct flow-through)で接触させたゼオライトの効果
カルシウム除去の効果をさらに高めるために、望ましくない作用(目に見える自然凝結)を減らすためのさらなるアプローチが試みられた。小さなビーズの形をしたゼオライトをクロマトグラフィーカラムに充填した。血漿は、活性化されたゼオライトカラムを流れフロースルーすることで、可能な限り短い接触時間でカルシウムが除去された。血漿1体積あたりのゼオライトの量を増やし、反応のための接触時間を1分にまで大幅に短縮した。
【0116】
材料と方法
MiniVarioFlash(R) Flash-Kartuschen 2.5g (Goetec)
NGC Quest HPLCシステム
【0117】
結果
凝集因子をカラムに流したところ、ビーズが最適に充填されていなかったためか、強い圧力変動が生じた。最後に、この実験では、ゼオライトとの表面接触は凝固因子に影響を及ぼし、目に見える強い活性化をもたらすという凝固因子に与える負の影響が再び証明された。
【0118】
実施例9- 半透膜層によりヒト血漿から分離するゼオライトの効果
ゼオライトに直接触れると凝固因子が活性化されてしまうため、ゼオライトとヒトの血漿を半透膜層で分離したシステムを用いて、ゼオライトに直接触れることなく血漿からカルシウムを除去する試験を行った。半透膜層によって接触が制限され、イオンの拡散のみが可能となり、新鮮な冷凍・解凍血漿中のカルシウムレベルを、供給された血漿の品質に影響を与えることなく低下させることができた。
図3は、そのセットアップを示したものである。
【0119】
材料
ゼオライトビーズ(4A MOLSIV(R), Co.Obermeier)
CentriPrep YM-30
1x PBSバッファ
水 (H2O dest.)
凍結融解した新鮮な血漿
【0120】
方法-トロンボダイナミクス(Thrombodynamic)血行動態、FVII凝固、血栓症のアッセイ
2~3g(グラム)のビーズをセントリプレップ(CentriPrep)のインナーチャンバーに充填し、水を加えてビーズを活性化させ、室温で1時間インキュベートした。水分を除去した後、PBSを加えて塩基性pHを中和した。血漿30mLを融解し、15mLをメインカラムに充填した後、インナーバイアルをメインカラムに挿入した。内側のバイアルは20分間血漿と接触した後、取り外された。
【0121】
測定
カルシウム カルシウム除去1回測定(20分)
トロンボダイナミクス 時間間隔:1日、1週間、2週間
F.VII凝固 時間間隔:1日、1週間、2週間、3週間
F.VIIクロモゲン 時間間隔:1日、1週間、2週間、3週間
【0122】
結果
未処理のサンプルF1と、半透膜層の背後にゼオライトを配置してカルシウムイオンの低減を行ったサンプルF2を比較した。20分後、初期の総カルシウム値(3.69mmol/L)は1.97mmol/Lに減少した。これは、結合していないすべての遊離カルシウムがほぼ完全に減少したことを意味する。トロンボダイナミクス血栓動態(すなわち血液凝固)に関する結果を
図4に示す。両サンプルのトロンボダイナミクスアッセイの結果、表6に示す計算値が得られた。
【0123】
【0124】
未処理の対照試料(F1)とカルシウムを低減した試料(F2)の両方とも、すべての試料で自然凝結は見られなかった(すなわち、T(sp)値は検出限界以下)。
【0125】
ゼオライトのカルシウム濃度低減効果を維持しつつ、因子の活性化による望ましくない表面相互作用を防ぐために、半透膜層が非常に有効であることがわかった。
【0126】
第VII因子レベルは、凝結アッセイと発色アッセイの両方で測定された。第VII因子レベルは、凝結アッセイ(
図5A)およびクロマトグラフィアッセイ(
図5B)によって測定された。その結果は
図5に描かれている。
【0127】
血漿サンプルF1とF2を3週間保存しても、両アッセイとも因子レベルの著しい低下は見られなかった。カルシウムを減らした血漿のレベルは、凝固アッセイではやや高めであったが、発色アッセイでは有意に高いサンプルはなかった。
【0128】
考察
カルシウムイオンを除去するためのデバイスへの半透層の追加は、表面接触による因子の活性化を防ぎ、血漿の品質を損なうことがないので予想外に有益であることがわかった。また、ゼオライトによるカルシウムの追加除去は、カルシウム除去された血漿に望ましくない損傷を与えないことがわかった。
【0129】
したがって、ゼオライトはカルシウム除去を完了するための有効な選択肢となり、 例えば、保存された血漿バッチのカルシウム除去を完了するための、あるいは、 体液中の不要なイオン、特に2価と3価のイオンのレベルを調整するための有効な選択肢である。
【国際調査報告】