(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-11
(54)【発明の名称】遺伝子発現およびタンパク質産生を活性化する核酸
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220304BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220304BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220304BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220304BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220304BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220304BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021545346
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(85)【翻訳文提出日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 PT2019050035
(87)【国際公開番号】W WO2020076174
(87)【国際公開日】2020-04-16
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521151496
【氏名又は名称】イーベーエメセー-インシュティトュート デ ビオロジア モレキュラー エー セルラー
【氏名又は名称原語表記】IBMC-INSTITUTO DE BIOLOGIA MOLECULAR E CELULAR
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】オリベイラ、マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ジェズス、アナ
(72)【発明者】
【氏名】フレイタス、ジャイメ
(72)【発明者】
【氏名】モレイラ、アレシャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】リベイロ ベッサ、ジョゼ カルロス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
(57)【要約】
本発明は、タンパク質産生の効率を高める方法に関する。言及される方法は、タンパク質発現を増大させるために、特異的非コードヌクレオチド配列を有する核酸を含む組成物を用いる。本発明の別の態様は、いくつかの真核細胞系においてタンパク質産生を強力に増加させる、配列番号1として識別される配列、または配列番号1のトランケートされた配列を有する、前述の方法を実施する際に使用される核酸、ならびにこの核酸配列を含む組成物に関する。本発明はさらに、配列番号1の核酸を含む遺伝子構築物または遺伝子発現ベクター、ならびに配列番号1の核酸を組み入れた当該遺伝子構築物またはベクターを含む宿主細胞株にも関する。本発明はさらに、本発明の方法を実施することによりタンパク質発現を増大させるための、上記において言及したヌクレオチド配列、組成物、ベクター、または宿主細胞株を含むキットにも関する。本発明の方法、核酸配列、組成物、ベクター、宿主細胞株、およびキットは、有利には、ゼブラフィッシュ、ミバエまたは他のモデル生物において、ならびに哺乳類またはヒト細胞において、遺伝子構築物、遺伝子発現、またはリポーターベクターに由来してタンパク質産生を高めるその能力により、バイオテクノロジーおよび/または生物薬剤学的用途においてタンパク質産生を促進する新規のツールとして使用することができる。したがって、本発明は、化学、生化学、分子生物学、微生物の遺伝子工学、および組換えDNA技術の技術分野に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列を有する28オリゴヌクレオチドの少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるための核酸。
【請求項2】
4から27ヌクレオチド、最も好ましくは22ヌクレオチドの、配列番号1のヌクレオチド塩基配列のトランケートされた配列の少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の目的タンパク質の発現を増大させるための核酸。
【請求項3】
請求項1に記載の配列番号1の配列を有する核酸の少なくとも1つのコピー、または請求項2に記載の配列番号1のトランケートされた形態の少なくとも1つのコピー、Tris-HClなどの緩衝剤、EDTAなどの二価イオンキレート化剤、およびそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるための組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の配列番号1、または請求項2に記載の配列番号1のトランケートされた形態の上流、下流、または両末端に、制限酵素認識配列をさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の目的タンパク質の発現を増大させるための組成物。
【請求項5】
目的コード領域の遺伝子の下流または上流、最も好ましくは下流に、請求項1に記載の配列番号1を有する核酸の少なくとも1つのコピー、または請求項2に記載の配列番号1のトランケートされた形態の少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるための遺伝子構築物。
【請求項6】
組換えタンパク質の発現を増大させるための前記遺伝子構築物が発現ベクターである、請求項5に記載の目的タンパク質の前記発現を増大させるための遺伝子構築物。
【請求項7】
前記発現ベクターが、組換え真核細胞プラスミド発現ベクター、組換え原核細胞発現ベクター、組換えウイルス発現ベクター、組換えバクテリオファージ発現ベクター、組換え酵母ミニ染色体発現ベクター、組換え植物ベクター、組換え細菌人工染色体発現ベクター、および組換え酵母発現プラスミドベクターからなる群から選択される、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項8】
例えば、遺伝子編集によって導入された、請求項1または2に記載の核酸の少なくとも1つの外因性コピーを含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるための宿主細胞株。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子構築物または発現ベクターを安定的にまたは一時的に含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるための宿主細胞株。
【請求項10】
前記宿主細胞が、哺乳動物宿主細胞(その非限定的な例としては、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、ヒトB細胞、JurkatヒトT細胞、ノイロン細胞、CV-I/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、およびMDCK細胞が挙げられる)、昆虫宿主細胞(そのようなものの非限定的な例としては、ショウジョウバエ細胞が挙げられる)、魚宿主細胞(非限定的な例としては、ゼブラフィッシュが挙げられる)、植物宿主細胞(非限定的な例としては、タバコ(Nicotania tabacum)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、レタス(Lactuca sativa)、プロトプラスト、浮遊細胞が挙げられる)、真菌宿主細胞(その非限定的な例としては、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、およびカンジダ属(Candida)細胞が挙げられる)、藻宿主細胞(その非限定的な例としては、シネコシスティス属(Synechocystis)および他のシアノバクテリア細胞が挙げられる)、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および原核生物宿主細胞(その非限定的な例としては、大腸菌(Escherichia coli)、黒脚病菌(Erwinia chrysanthemi)、およびクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)細胞が挙げられる)からなる群から選択される、請求項8または9に記載の宿主細胞株。
【請求項11】
宿主細胞における目的タンパク質の発現を増大させる方法であって、当該方法が下記工程:
a)請求項1または2に記載のオリゴヌクレオチド配列を有する核酸挿入体を合成し、請求項3または4に記載の組成物を作製する工程と、
b)前記挿入核酸組成物を、目的タンパク質をコードする線状化された発現ベクターに接触させ、適切な緩衝剤および温度条件において、DNAリガーゼを用いるインキュベーションによって前記挿入体をライゲートし、請求項5~7のいずれか一項に記載の発現ベクターなどを得る工程と、
c)請求項5~7のいずれか一項に記載の発現ベクター、または請求項1または2に記載の核酸を、一時的または安定的な形質転換、形質導入、トランスフェクションによって、または遺伝子編集プロトコルによって、宿主細胞に導入し、請求項8~10のいずれか一項に記載の宿主細胞株などの宿主細胞株を作製する工程と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記挿入体が、3’非翻訳領域(3’UTR)での転写のために、遺伝子コード配列の下流においてライゲートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記挿入体が、5’非翻訳領域(5’UTR)での転写のために、遺伝子コード配列の上流においてライゲートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記挿入体が、5’UTRおよび3’UTRの両方での転写のために、遺伝子コード配列の上流および下流の両方においてライゲートされる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記目的タンパク質が、キナーゼ、例えば、ポロキナーゼタンパク質または他の酵素タンパク質、レポータータンパク質(例えば、GFPおよびルシフェラーゼタンパク質など)、抗体または抗体断片タンパク質、ホルモンタンパク質、成長因子タンパク質、サイトカインタンパク質、受容体タンパク質、構造タンパク質、およびウイルスタンパク質からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記形質転換、形質導入、トランスフェクション、または遺伝子編集プロトコルが、塩化カルシウムおよびヒートショック、ウイルス粒子、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、電気穿孔法、リポソーム、非リポソーム脂質、デンドリマー、ガイドRNAおよびCRISPR/CAS9酵素または胚マイクロインジェクションを用いる公知のプロトコルを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
請求項1または2に記載の核酸を用いて作製された請求項3または4に記載の組成物、または請求項5~7のいずれか一項に記載の遺伝子構築物発現ベクター、または請求項8~10のいずれか一項に記載の宿主細胞株を含むことを特徴とする、目的タンパク質の発現を増大させるためのキット。
【請求項18】
前記核酸を宿主細胞に導入し、目的タンパク質の発現を増大させるための遺伝子編集方法により、疾患、例えば、下記に限定されるわけではないが、癌、遺伝性障害または神経性障害など、の治療を提供する方法における、配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有する核酸の少なくとも1つのコピーの使用。
【請求項19】
配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有する核酸を欠失させる工程、または前記核酸を用いて干渉する工程を含む、宿主細胞における目的タンパク質の発現を低下させる、発現を実質的に抑制する、または発現を実質的に遮断する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質産生を増強し、有利には、バイオテクノロジーおよび/または生物薬剤学的用途においてタンパク質収量を高める新規のツールとして使用するために、ゼブラフィッシュ、ミバエ、または他のモデル生物において、ならびに哺乳動物細胞またはヒト細胞において、遺伝子構築物または遺伝子発現ベクターの配列に組み入れるために使用される特異的ヌクレオチド配列を有する核酸を含む組成物を用いることによって組換えタンパク質産生の効率を高める方法に関する。したがって、本発明は、化学、生化学、分子生物学、微生物の遺伝子工学、組換えDNA技術の技術分野に含まれる。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質産生の効率は、ほとんどの生物製剤およびバイオテクノロジー産業において、生産性を高めるための重要なボトルネックであり、戦略は、通常、誘導または増強(それぞれ、文献米国特許第5089397号および米国特許出願公開第2018135008号に記載されるような);または培養をスケールアップするための段階的プロセスによる、宿主細胞培養培地組成物の改良(文献米国特許出願公開第2017218328号および国際公開第9429435号において開示されている)または当該細胞培養プロセスの制御を頼りにしている。この問題に取り組むための別の戦略は、例えば、文献中国特許出願公開第107090441号、中国特許出願公告第107653266号、韓国登録特許第20170140925号、および中国特許出願公告第104975018号において説明されるように、いくつかのタイプの発現エンハンサーエレメントの追加による、より効率的な発現ベクターを考慮している。当該発現ベクターは、宿主細胞における遺伝子の導入および目的のタンパク質の発現のための、遺伝子操作された構築物である。発現ベクターは、目的の遺伝子のより効率的な発現が生じるように、遺伝子コード配列の上流および/または下流に、様々なタイプのプロモーター(例えば、米国特許出願公開第2019055580号において開示されている)ならびに調節エレメント(regulatory element)を含有し得る。例えば、文献米国特許出願公開第2008241883号では、宿主細胞における組換えタンパク質の発現を促進するための組換え発現ベクターに対するエンハンサーエレメントについて開示されている。しかしながら、これらのエレメントは、2329および2422の塩基対を有して非常に長く、このことが、それらのサブクローンを困難にしており、かなりのサイズをバックボーン発現ベクターに追加するという欠点をもたらし、よって、増幅、操作、およびトランスフェクトするのをより困難にしている。昆虫細胞のみに対し設計された、文献中国特許出願公告第107653266号または中国特許出願公告第105238816号に記載のエンハンサー、または動物細胞のみに対して設計された、米国特許出願公開第20110195451号において開示されているベクターによって例示されるように、ある特定のエンハンサーは、特異的な宿主細胞においてのみ機能する。他のエンハンサー配列は、文献米国特許出願公開第2010151520号および米国特許出願公開第2003013867号において例示されているように、所定の遺伝子に対して特異的である。したがって、様々な配列および組換えタンパク質の発現に影響を与えることができる他の因子についての理解における進歩にもかかわらず、依然として、組換えタンパク質、特に、治療的用途または他の専門的バイオテクノロジー用途向けの組換えタンパク質の収量を向上させることが必要とされている。望ましくは、このことは、遺伝子コード領域に干渉することなく様々なタイプの宿主細胞および異なる標的遺伝子において「ユニバーサル」効果を有する、化学的に合成することができ、容易にサブクローンすることができる、小さいエンハンサー配列によって解決することができた。全てのこれらの特徴を有する配列は、まだ先行技術にはない。
【0003】
これらの事実は、本開示によって対処される技術問題を説明するために開示される。
【発明の概要】
【0004】
発明者らは、ミバエ、ゼブラフィッシュ、およびヒト細胞株を含むいくつかのモデル系において、インビボでのタンパク質産生を強力に増加させる、新規の短い28ヌクレオチド配列を見出し、特徴付け、本明細書においてiPLUS(increase in Protein Levels Universal Sequence)と命名し、配列番号1で特定した。この配列は、インビトロにおいて合成することができ、組成物、ベクター、組換え細胞株、またはキットにおいて使用することができ、それらは、例えば、ポロタンパク質または緑蛍光タンパク質(GFP)タンパク質のタンパク質産生を劇的に増加させる。特異的な方法によって、当該28ヌクレオチド配列、またはこの配列のより小さい機能性断片は、タンパク質産生を増強するために、遺伝子、発現ベクター、またはリポーターベクターの配列に挿入することができる。
【0005】
そのため、本発明は、請求項1に記載されるように、配列番号1の塩基配列を伴う28オリゴヌクレオチドの少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする目的のタンパク質の発現を増大させるための核酸の使用に関する。
【0006】
本発明の別の実施形態において、目的のタンパク質の発現を増大させるための核酸は、請求項2に記載されるように、4ヌクレオチドから27ヌクレオチド、最も好ましくは22ヌクレオチドの、配列番号1の当該ヌクレオチド塩基配列のトランケートされた配列の少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様は、請求項3に記載されるように、配列番号1の配列を有する核酸の少なくとも1つのコピー、または配列番号1のトランケートされた形態、Tris-HClなどの緩衝剤、EDTAなどの二価イオンキレート化剤、およびそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、目的のタンパク質の発現を増大させるための組成物に関する。
【0008】
本発明の別の実施形態において、目的のタンパク質の発現を増大させるための上記組成物は、請求項4に記載されるように、配列番号1、または配列番号2に記載のトランケートされた形態の上流、下流、または両末端に制限酵素認識配列をさらに含むことを特徴とする。
【0009】
本発明はさらに、請求項5に記載されるように、目的のコード領域の遺伝子の下流または上流、最も好ましくは下流に、配列番号1を有する核酸の少なくとも1つのコピー、または配列番号1のトランケートされた形態の少なくとも1つのコピーを含むことを特徴とする、目的のタンパク質の発現を増大させるための遺伝子構築物にも関する。
【0010】
本発明の別の実施形態において、目的のタンパク質の発現を増大させるための上記遺伝子構築物は、請求項6に記載されるように、発現ベクターである。
【0011】
本発明の別の実施形態において、上記発現ベクターは、請求項7に記載されるように、組換え真核細胞プラスミド発現ベクター、組換え原核細胞発現ベクター、組換えウイルス発現ベクター、組換えバクテリオファージ発現ベクター、組換え酵母ミニ染色体発現ベクター、組換え細菌人工染色体発現ベクター、および組換え酵母発現プラスミドベクターからなる群から選択される。
【0012】
本発明はさらに、請求項8に記載されるように、例えば、遺伝子遺伝子編集によって導入された、配列番号1に記載の核酸の少なくとも1つの外因性コピーを含むことを特徴とする、目的のタンパク質の発現を増大させるための宿主細胞株にも関する。
【0013】
本発明の別の実施形態において、目的のタンパク質の発現を増大させるための宿主細胞株は、請求項9に記載されるように、遺伝子構築物または発現ベクターを安定的にまたは一時的に含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の別の実施形態において、当該宿主細胞株は、請求項10に記載されるように、哺乳動物宿主細胞(その非限定的な例としては、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、ヒトB細胞、JurkatヒトT細胞、神経細胞、膵臓細胞、CV-I/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、およびMDCK細胞が挙げられる)、昆虫宿主細胞(その非限定的な例としては、ショウジョウバエ細胞が挙げられる)、脊椎動物宿主細胞(非限定的な例としては、ゼブラフィッシュおよびゼブラフィッシュ細胞株が挙げられる)、植物宿主細胞(非限定的な例としては、タバコ(Nicotania tabacum)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、レタス(Lactuca sativa)、プロトプラスト、浮遊細胞が挙げられる)、真菌宿主細胞(その非限定的な例としては、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、およびカンジダ属(Candida)細胞が挙げられる)、藻宿主細胞(その非限定的な例としては、シネコシスティス属(Synechocystis)および他のシアノバクテリア細胞が挙げられる)、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および原核生物宿主細胞(その非限定的な例としては、大腸菌(Escherichia coli)、黒脚病菌(Erwinia chrysanthemi )、およびクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)細胞が挙げられる)、からなる群から選択される。
【0015】
本発明の別の態様は、請求項11に記載されるように、宿主細胞における目的のタンパク質の発現を増大させる方法であって、下記工程:
a)上記において説明したオリゴヌクレオチド配列を有する核酸挿入体を合成し、上記組成物を調製する工程と;
b)当該挿入核酸組成物を、目的のタンパク質をコードする線状化された発現ベクターに接触させ、適切な緩衝剤および温度条件において、DNAリガーゼを用いるインキュベーションによって当該挿入体をライゲートし、上記において言及した発現ベクターを得る工程と;
c)一時的または安定な形質転換、形質導入、トランスフェクションによって、または遺伝子編集プロトコルによって、上記発現ベクターまたは上記核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞株を作製する工程と
を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0016】
本発明の方法の別の実施形態において、上記挿入体は、請求項12に記載されるように、3’非翻訳領域(3’UTR)での転写のために、遺伝子コード配列の下流においてライゲートされる。
【0017】
本発明の方法の別の実施形態において、上記挿入体は、請求項13に記載されるように、5’非翻訳領域(5’UTR)での転写のために、遺伝子コード配列の上流においてライゲートされる。
【0018】
本発明の方法の別の実施形態において、上記挿入体は、請求項14に記載されるように、5’UTRおよび3’UTRの両方での転写のために、遺伝子コード配列の上流および下流の両方においてライゲートされる。
【0019】
本発明の方法の別の実施形態において、目的の上記タンパク質は、請求項15に記載されるように、ポロキナーゼタンパク質または他の酵素タンパク質などのキナーゼ、レポータータンパク質(例えば、GFPおよびルシフェラーゼタンパク質など)、抗体または抗体断片タンパク質、ホルモンタンパク質、成長因子タンパク質、サイトカインタンパク質、受容体タンパク質、構造タンパク質、およびウイルスタンパク質からなる群から選択される。
【0020】
本発明の方法の別の実施形態において、上記形質転換、形質導入、トランスフェクション、または遺伝子編集プロトコルは、請求項16に記載されるように、塩化カルシウムおよびヒートショック、ウイルス粒子、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、電気穿孔法、リポソーム、非リポソーム脂質、デンドリマー、ガイドRNAおよびCRISPR/CAS9酵素、または胚マイクロインジェクションを用いる公知のプロトコルを含む。
【0021】
本発明はさらに、請求項17に記載されるように、上記核酸、または上記遺伝子構築物発現ベクター、または上記宿主細胞株によって調製された上記組成物を含むことを特徴とする、目的のタンパク質の発現を増大させるためのキットにも関する。
【0022】
本発明はさらに、請求項18に記載されるように、上記核酸を宿主細胞に導入し、目的のタンパク質の発現を増大させるための遺伝子編集方法により、疾患、例えば、下記に限定されるわけではないが、癌、遺伝性障害、膵臓障害、または神経性障害など、のための治療を提供する方法における、配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有する核酸の少なくとも1つのコピーの使用にも関する。
【0023】
本発明の別の態様は、請求項19に記載されるように、配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有するノンコーディング核酸を欠失させる工程、または当該核酸を用いて干渉する工程を含む、宿主細胞における目的のタンパク質の発現を低下させる、発現を実質的に抑制する、または発現を実質的に遮断する方法に関する。
【0024】
本発明の方法、核酸配列、組成物、ベクター、細胞株、およびキットは、有利には、ゼブラフィッシュ、ミバエまたは他のモデル生物において、ならびに哺乳類またはヒト細胞において、遺伝子構築物、遺伝子発現、またはリポーターベクターに由来してタンパク質産生を高めるその能力により、バイオテクノロジー用途および/または生物薬剤学的用途においてタンパク質産生を促進する新規のツールとして使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明者らは、インビトロおよびインビボでのタンパク質産生を強力に増加させる新規の短いノンコーディング28ヌクレオチド配列を見出し、特徴付け、本明細書においてiPLUS(increase in Protein Levels Universal Sequence)と命名し、配列番号1で特定した。
【0026】
この配列は短いため、化学合成によって得ることができ、ならびに発現ベクターまたは宿主細胞のゲノムに容易に挿入することができる。驚くべきことに、それは、様々なタイプの宿主細胞および異なるタイプの目的のタンパク質において有効である「ユニバーサル」タンパク質発現エンハンサー効果を示した。その上、それはノンコーディングであるため、その効果は、遺伝子コード領域および産生されるタンパク質に干渉することなく実現される。
【0027】
上記iPLUS配列(配列番号1)は、刊行物:Beaucage, SL; Iyer, RP (1992). 「Advances in the Synthesis of Oligonucleotides by the Phosphoramidite Approach」. Tetrahedron 48 (12): 2223に記載されるような固相ホスホルアミダイトヌクレオシドを使用するヌクレオチド合成法によって調製することができる。当該合成は、各オリゴヌクレオチドの3’末端の第一塩基によって機能化された固体支持体(制御された細孔ガラスまたはポリスチレン)を有するカラムにおいて実施することができる。当該オリゴヌクレオチドの調製は、それぞれが、化学反応、典型的には4つの化学反応:i)脱離(脱トリチル化)、ii)カップリング、iii)保護、およびiv)酸化、からなる、いくつかの合成サイクルの後に行われる。それぞれのサイクルにおいて、成長鎖の5’末端に、所望の配列に対応するヌクレオチド残基が加えられる。
【0028】
当該ヌクレオチドは、相補的ヌクレオチドと塩基対合することによるハイブリダイゼーション能力(hybridization capacity)を有する、天然または合成起源のヌクレオチドを意味し、ならびに、これらに限定されるわけではないが、DNA、RNA、およびヌクレオチド類似体(例えば、「ロックド核酸」(LNA)として知られる、閉じた立体配置を有する核酸など)、またはヌクレオチド間ホスホジエステルタイプの結合を有さないヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸(PNA))およびチオジエステル(tiodiester)結合を有する核酸、または同じ目的の同様のものを含み得る。
【0029】
本発明の別の実施形態において、タンパク質産生を高めるために、4ヌクレオチドから27ヌクレオチド、最も好ましくは22ヌクレオチドの、この配列(配列番号1)のより小さいトランケートされた機能性断片を、遺伝子、発現ベクター、またはリポーターベクターの配列に挿入することができる。
【0030】
本発明の別の実施形態において、タンパク質産生におけるより高い倍率変化を達成するために、配列番号1の核酸またはこの配列のより小さいトランケートされた機能性断片の2つ以上のコピーを、縦列反復において使用することができる。
【0031】
本発明の別の実施形態において、当該配列を発現ベクターまたは宿主細胞に挿入するため、Tris-HClなどの緩衝剤、EDTAなどの二価イオンのキレート化剤、またはそれらの組み合わせをさらに含む組成物を作製するために、配列番号1の核酸またはこの配列のより小さい機能性断片が使用される。
【0032】
発現ベクターまたはリポーターベクターへのタンパク質産生を増加させる配列の挿入は、「平滑末端」を有するDNA断片の間におけるDNAリガーゼ媒介リン酸ジエステル結合によって実施することができる。
【0033】
本発明の実施形態において、リポーター酵素ルシフェラーゼを発現するベクター(本発明者らは、ベクターpmirGLO(Promega製)と同様の特徴を有するpLucと名付けた)が、SmaI消化(37℃において1時間)によってライゲートされ、37℃において10分かけて、2μlのFastAPによって脱リン酸化される。挿入体iPLUSヌクレオチド配列(配列番号1)またはコントロールとして使用される変異体型(iPLUS変異体)、および線状化されたpLucが、100ngのpLucおよび19ngのiPLUSもしくはiPLUS変異体(5:1)を使用して、5ユニットのT4 DNAリガーゼの存在下において、22℃で2時間かけて、ライゲートされる。
【0034】
ある実施形態において、GFP-iPLUSおよびGFP-iPLUS変異配列が、28ヌクレオチド増強配列(enhancing sequence)を含む組成物を用いた分子生物学的方法によって、pUC19miniTOL発現ベクターのSalIおよびKpnI制限酵素部位内へとサブクローンされる。
【0035】
したがって、本発明の別の実施形態において、挿入体組成物における当該核酸配列(配列番号1)は、より効率的で指向的な挿入体ライゲーションのための「粘着末端(sticky-end)」を提供するために、配列番号1の上流、下流、または両端に認識配列制限酵素をさらに含むことができる。
【0036】
本発明の別の実施形態において、当該iPLUSは、GFPの下流においてサブクローンされ、結果として得られる構築物(puc19 miniTOL-GFP-iPLUS、
図1A)は、ゼブラフィッシュの1細胞期胚中にマイクロインジェクションされる。当該iPLUS配列が変異されるコントロール構築物も作製される(puc19 miniTOL-GFP-iPLUSmt)。とりわけ、GFPタンパク質産生は、蛍光顕微鏡によって視覚化することによりiPLUS変異体コントロールと比較した場合、iPLUSをマイクロインジェクションされたゼブラフィッシュ胚において増加される(
図1B)。タンパク質レベルの定量化は、コントロールとは対照的に当該iPLUSがGFP産生を高めることを明確に示している(
図1C)。GFP-iPLUSおよびGFP-iPLUS変異体がゲノム中にランダムに挿入されたゼブラフィッシュは、当該iPLUSが、タンパク質産生のためのアクティベーターとして機能することを確証する(
図1D)。
【0037】
本発明の別の実施形態において、当該iPLUS配列(配列番号1)は、ルシフェラーゼ遺伝子の下流においてサブクローンされ、結果として得られる構築物(pLucDelSV40.iPLUS)は、HeLa細胞へとトランスフェクトされる。当該iPLUSを変異させたコントロール構築物も設計した(pLucDelSV40.iPLUSmutant)。ルシフェラーゼタンパク質活性のレベルが定量化され、結果は、コントロールと比較して、当該iPLUSでトランスフェクトされた細胞において8倍の増加を示している(
図2)。
【0038】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、iPLUS(配列番号1)が目的のコードされた遺伝子(前者の場合はLUCまたはGFP)の下流に挿入された発現ベクターを含む。
【0039】
当該遺伝子構築物、例えば、上記において言及した方式において作製された発現ベクターなど、は、配列番号1、縦列反復、またはより小さいトランケートされた機能性断片が取り入れられた遺伝子構築物および発現ベクターに関する本発明の別の実施形態を構成する。
【0040】
iPLUSを挿入することができる発現ベクターは、組換え真核細胞プラスミド発現ベクター、組換え原核細胞発現ベクター、組換えウイルス発現ベクター、組換えバクテリオファージ発現ベクター、組換え植物発現ベクター、組換え酵母ミニ染色体発現ベクター、組換え細菌人工染色体発現ベクター、および組換え酵母発現プラスミドベクターを含み得る。
【0041】
別の実施形態において、28オリゴヌクレオチド塩基配列(配列番号1)を有する核酸の少なくとも1つのコピーを有する上記において言及した遺伝子構築物またはベクターは、他の遺伝子、化学化合物、または宿主細胞内の遺伝子改変など、その効率のモジュレーターを見出すための、当該28ヌクレオチド配列またはこの配列のより小さい機能性断片の活性を試験するためのレポーターとして使用することができる。
【0042】
別の実施形態において、形質転換受容性細菌が、42℃で1分間のヒートショックにより、iPLUS(配列番号1)を取り入れたプラスミド発現ベクターを含むライゲーション産物によって形質転換される。iPLUSおよびiPLUS変異体を含むコロニーが選択され、プラスミドDNAが得られる。次いで、発現ベクタープラスミドが、製造元のプロトコルに従い、Lipofectamine 3000試薬(Thermo Fisher Scientific製)を用いて、10%(v/v)のウシ胎児血清(GBS)(Gibco)を補ったダルベッコ変法イーグル培地(DMEM 1xGlutaMAX、Gibco)において培養されたHeLa細胞へとトランスフェクトされる。
【0043】
別の実施形態において、混合物が、50ngのpUC19miniTOL-GFP-iPLUSおよびpUC19miniTOL-GFP-iPLUS変異体コントロールと、50ngのTol2および0.1μLのPhenolRed(マイクロインジェクションを成功へと導く染料として使用される)とを含有する1細胞期ゼブラフィッシュ胚中にマイクロインジェクションされる。マイクロインジェクション後、当該胚が、E3培地(28,67gのNaCl、1,26gのKCl、4,83gのCaCl2・2H2O、8,17gのMgSO4・7H2O、1,5mLのメチレンブルー0,1%、1Lまで満たすH2O)に位置される。施肥後(hpf)2時間において、当該胚は、PTU培地(200mLのH2Oに溶解させた600mgのN-フェニルチオ尿素)へと移される。24hpf後、当該胚は、脱色され、次の最初の5日間、28℃においてインキュベートされ、次いで、当該胚は、少量の水の入った小さいタンクへと移され、液滴機構によって1日3回供給される。次いで、胚は、アガロースおよびPTU培地の入ったペトリ皿に入れられ、絨毛膜が除去される。良好な倫理的実践(good ethic practice)に従って当該胚を麻酔するために、0,168mg/mlの濃度のトリカインMS222(Sigma製)が使用される。立体顕微鏡Leica M205を使用して、GFPを発現した胚をスクリーニングし、mCherryおよびpUC19-GFP-iPLUSもしくはpUC19-GFP-iPLUS変異体コントロールをマイクロインジェクションされた当該胚を分析する。
【0044】
したがって、いくつかのタイプの宿主細胞が、タンパク質発現を増大させるために、iPLUSを含む発現ベクターによってトランスフェクトされ得、そのため、本発明の他の実施形態は、iPLUS(配列番号1)を統合する発現ベクターを安定してまたは一時的に含む目的のタンパク質の発現を増大するための宿主細胞株に関する。
【0045】
全体的に、当該iPLUS配列(配列番号1)をトランスフェクトすることによって作製される宿主細胞株の範囲は、哺乳動物宿主細胞(その非限定的な例としては、HeLa細胞だけでなく、チャイニーズハムスター卵巣細胞、COS細胞、ベロ細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、ヒトB細胞、JurkatヒトT細胞、ノイロン細胞、CV-I/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、およびMDCK細胞も挙げられる)、昆虫宿主細胞(そのようなものの非限定的な例としては、ショウジョウバエ細胞が挙げられる)、魚宿主細胞(非限定的な例としては、ゼブラフィッシュ1細胞胚が挙げられる)、植物宿主細胞(非限定的な例としては、タバコ(Nicotania tabacum)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、レタス(Lactuca sativa)、プロトプラスト、浮遊細胞が挙げられる)、真菌宿主細胞(その非限定的な例としては、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、およびカンジダ属(Candida)細胞が挙げられる)、藻宿主細胞(その非限定的な例としては、シネコシスティス属(Synechocystis)および他のシアノバクテリア細胞が挙げられる)、線虫宿主細胞、原生動物宿主細胞、および原核生物宿主細胞(その非限定的な例としては、大腸菌(Escherichia coli)、黒脚病菌(Erwinia chrysanthemi)、およびクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)細胞が挙げられる)を含み得る。
【0046】
iPLUS(配列番号1)を含む発現ベクターを取り入れた宿主細胞株以外に、本発明の別の実施形態は、例えば、公知の遺伝子編集プロトコルによって目的の遺伝子の下流に導入され、依然として天然遺伝子調節エレメントの制御下にある、発現ベクターに必ずしも統合される必要のない、配列番号1の配列を有する核酸の少なくとも1つの外因性コピーを含む宿主細胞株に関する。
【0047】
上記において言及した実施形態により、本発明の別の態様は、宿主細胞における目的のタンパク質の発現を増大させる方法であって、下記工程:
a)上記において説明したオリゴヌクレオチド配列を有する核酸挿入体を合成し、上記組成物を調製する工程と;
b)当該挿入核酸組成物を、目的のタンパク質をコードする線状化された発現ベクターに接触させ、適切な緩衝剤および温度条件において、DNAリガーゼを用いるインキュベーションによって当該挿入体をライゲートし、上記において言及した発現ベクターを得る工程と;
c)一時的または安定な形質転換、形質導入、トランスフェクションによって、または遺伝子編集プロトコルによって、上記発現ベクターまたは上記核酸を宿主細胞に導入し、宿主細胞株を作製する工程と
を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0048】
さらに、本明細書において説明される実施形態により、目的の上記タンパク質は、ポロキナーゼタンパク質または他の酵素タンパク質などのキナーゼ、レポータータンパク質(例えば、GFPおよびルシフェラーゼタンパク質など)、ならびに、抗体または抗体断片タンパク質、ホルモンタンパク質、成長因子タンパク質、サイトカインタンパク質、受容体タンパク質、構造タンパク質、およびウイルスタンパク質などの他の一般的な組換えタンパク質からなる群から選択される。
【0049】
本明細書において説明される実施形態により、本発明の方法において、上記形質転換、形質導入、トランスフェクション、または遺伝子編集プロトコルは、塩化カルシウム形質転換受容性細菌およびヒートショック、リポソーム、例えば、リポフェクタミン3000試薬など、を用いる、当技術分野において既知のプロトコル、ダイレクト、ならびにウイルス粒子、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、電気穿孔法、非リポソーム脂質、デンドリマー、ならびにガイドRNAおよびCRISPR/CAS9酵素を含む当技術分野において既知の他のプロトコルを含む。
【0050】
本明細書において説明される実施形態により、本発明はさらに、本発明の方法を実施するための実施形態、すなわち、配列番号1を有するiPULS核酸を用いて調製された上記において言及した組成物、または上記において言及した発現ベクター、またはこれらのベクターを取り入れた宿主細胞株、の少なくとも1つを含む、目的のタンパク質の発現を増大させるためのキットにも関する。
【0051】
iPULSが短い配列であるという事実に起因して、それは、当技術分野において既知の遺伝子編集プロトコルによる、胚細胞などの宿主細胞株への統合に適しており、したがって、本発明はさらに、当該外因性核酸を宿主細胞に導入して目的のタンパク質の発現を増大させるための遺伝子編集方法により、疾患、例えば、下記に限定されるわけではないが、癌、遺伝性障害、膵臓障害、または神経性障害など、の治療法を提供する方法における、配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有する核酸の少なくとも1つのコピーの使用にも関する。
【0052】
本発明の一実施形態において、ポロキナーゼタンパク質レベルを、共焦点顕微鏡によって、遺伝子組換えハエにおいて定量化した。それぞれの導入遺伝子を有するww1118胚の注入によって、iPLUSまたは削除されたiPLUS配列(gfp-polo-Del-iPLUS)のいずれかを有するpW8-gfp-poloキナーゼタンパク質を有する遺伝子組換えハエが得られる(
図3A)。第遺伝子組換えハエを優性マーカーおよびバランサー染色体w1118; Sco/SM6を有する系統と交配させることによって、第二染色体上に導入遺伝子を有する遺伝子組換え株の選択を実施した。次いで、これらを、w1118; If/CyO; MKRS/TM6Bおよびw1118; If/CyO; polo9/TM6Cと交配させることにより、w1118; gfp-polo-Del-iPLUS; polo9/TM6B株(本明細書において、Del-iPLUS遺伝子組換えハエ株と呼ぶ)を作製した。各系統から解剖した幼虫脳を、25℃において、PBS中における新鮮な50μMのコルヒチンに1時間30分入れ、次いで、1.8%のホルムアルデヒドおよび45%の酢酸によって5分間かけて固定させた。脳スカッシュを、無水エタノールと共に10分間、次いでPBS0.1%TritonX-100と共に10分間インキュベートし、PBSで10分間洗浄する。固定させた脳を、室温において1時間かけて、PBS-T0.05%中における10%FBSによってブロックし、次いで、以下の抗体:ラット抗Spc105(1:150)、マウス抗Polo(1:10、MA294)、ウサギ抗P-P-Aurora(1:500、ロックランド、リメリック、PA)、ウサギ抗のThr676-P-Mps1(1:10000)、およびモルモット抗-総Mps1(1:250、Gp15 RRID:AB_2567774)と共に4℃において一晩インキュベートする。この後、PBS0.05%Tween20における5分間の洗浄を3回行い、PBS0.05%Tween20で1:250に希釈した以下の二次抗体(Thermo Fischer)と共に、室温で2時間インキュベートする:ヤギ抗ラットAlexaFluor 647、ヤギ抗マウスAlexaFluor 488、ヤギ抗ウサギAlexaFluor 568、およびヤギ抗モルモットAlexaFluor 568。レーザースキャニング共焦点顕微鏡Leica TCS SP5 IIおよびLAS 2.6ソフトウェア(Leica Microsystems、ドイツ)を使用して、画像取得を実施する。インビボでのポロタンパク質発現の結果は、iPULSを伴わない遺伝子組換えハエにおけるタンパク質産生の強力な減少を明確に示している(
図3Bおよび3C)。
【0053】
したがって、本発明の別の態様は、配列番号1の28オリゴヌクレオチド塩基配列を有する核酸を欠失させる工程、または当該核酸を用いて干渉する工程を含む、宿主細胞における目的のタンパク質の発現を低下させる、発現を実質的に抑制する、または発現を実質的に遮断する方法に関する。
【0054】
本発明の核酸配列、組成物、ベクター、宿主細胞株、方法、キット、および使用は、有利には、ゼブラフィッシュ、ミバエまたは他のモデル生物、ならびに哺乳類またはヒト細胞において、遺伝子構築物、遺伝子発現、またはリポーターベクターに由来するタンパク質産生を高めるその能力に起因する、バイオテクノロジーおよび/または生物薬剤学的用途においてタンパク質産生を促進する新規のツールとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】iPLUS(配列番号1)がゼブラフィッシュにおけるGFP発現を増大させる実施形態。A)GFPの3’UTRに挿入されたiPLUSを有する遺伝子組換え魚(puc19 miniTOL-GFP-iPLUS))を作製するために使用した構築物の概略図。B)変異させたiPLUSと比較して、当該iPLUSはGFP発現を活性化する。1細胞期の胚へのmylzプロモーターmCherryを有するpuc19 miniTOL-GFP-iPLUSおよびpuc19 miniTOL-GFP-iPLUSmtのマイクロインジェクション。画像は、24時間期において取得した。C)iPLUS対iPLUS変異体のGFP発現の定量化。各条件下での24時間期における30の胚のGFP強度の分析。D)iPLUS変異体創始者Zelyaと比較した場合のiPLUS創始者Spotにおける強いGFP発現。画像は、背側および腹側において48時間期に取得した。
【
図2】iPLUS(配列番号1)を用いてトランスフェクトされたHeLa細胞においてルシフェラーゼ活性が増加する実施形態。HeLa細胞における異なるプラスミド(pLucDelSV40,pLucDelSV40.iPLUSおよびpLucDelSV40.iPLUSmutant)を有するルシフェラーゼ/ウミシイタケ(RLU)の割合。ウミシイタケおよびルシフェラーゼの発現は、プレートリーダーにおいてDual Luciferase Reporter Assay(Promega)によって測定される(相乗作用2)。
【
図3】遺伝子発現を減少させるためにiPLUS(配列番号1)が削除された実施形態。A)ポロ遺伝子の下流において3’UTRにiPLUS配列が含まれる遺伝子組換えハエを作製するために構築された導入遺伝子の概略図。導入遺伝子から始まる矢印は、内因性ポロプロモーターを表しており、灰色のボックスは、5つのポロエキソンを表しており、黒色のボックスは、5’および3’UTRを表しており、GFPのボックスは、ポロ開始コドンによってフレームに挿入されたGFPコード配列を表している。3’UTRにおける斜線のボックスは、3’UTR配列から削除されたiPLUS配列を表している。B)Spc105が動原体マーカーとして使用した、分割神経芽細胞におけるGPF-ポロの免疫蛍光の定量化によって評価した場合、GFP-ポロ発現は、iPLUS欠失を有するハエにおいて減少する。
【0056】
結論として、28ヌクレオチド核酸配列であるiPLUSは、ミバエ、ゼブラフィッシュを含む様々なモデル生物においておよびヒト細胞において、インビボおよびインビトロでのタンパク質産生の新規のアクティベーターである。iPLUSは、バイオテクノロジーおよび/または生物薬剤学的用途においてタンパク質の産生を促進する有効なツールとして使用される組成物、方法、およびキットの使用により、容易に操作することができる。
【0057】
上記の文章において引用された全ての特許、出願、および刊行物は、参照により本明細書に含まれる。本明細書において説明される本発明の他の変形例および実施形態は、当業者にとって明らかであろうし、本発明のそのような変形例および代替実施形態は、先述の説明および後述の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【0058】
配列番号1:5’-AATTTATTTGTTTTTGCCCCTTCCCCTT-3’
【配列表】
【国際調査報告】