(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(54)【発明の名称】電磁波照射を用いた、カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/15 20170101AFI20220307BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220307BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220307BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220307BHJP
【FI】
C01B32/15 ZNM
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/013
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525749
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 US2019061383
(87)【国際公開番号】W WO2020102483
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】309003131
【氏名又は名称】エデン イノベーションズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EDEN INNOVATIONS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス,バイロン スタンリー,ヴィラコルタ
(72)【発明者】
【氏名】ズー,ヂォンフゥア
(72)【発明者】
【氏名】トラス,ローワン,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】アラン ゴック,ラーセン
(72)【発明者】
【氏名】ソロモン,グレゴリー エイチ.
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA07
4G146AA11
4G146AB01
4G146AB07
4G146BA12
4G146BC03
4G146CB10
4G146CB16
4G146CB19
4G146CB35
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB121
4J002DA016
4J002FD016
4J002GJ01
(57)【要約】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法であって、カーボンナノ粒子(CNPs)を含有するナノ粒子混合物を提供する工程と、前記ナノ粒子混合物およびプラスチック基材を混合して前記カーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合ネットワークを有する均質なCNP/高分子混合物とする工程と、高分子複合材料を形成し、前記カーボンナノ粒子(CNPs)を高分子マトリックスに均一に固結および/または界面接合させるように制御された電磁放射線を、前記CNP/高分子混合物に照射する工程と、を備える作成方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法であって、
電磁波照射を促進するよう選択された特徴を有するカーボンナノ粒子(CNPs)を高い比率で含有するナノ粒子混合物を提供する工程と、
高分子マトリックスとなるよう選択された組成および特性を有するプラスチック基材を提供する工程と、
前記ナノ粒子混合物および前記プラスチック基材を混合し、前記カーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合ネットワークを有する均質なCNP/高分子混合物とする工程と、
高分子複合材料を形成し、前記カーボンナノ粒子(CNPs)を前記高分子マトリックスに均一に固結および/または界面接合させるよう制御された電磁放射線を、前記CNP/高分子混合物に照射する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記照射する工程の前に、前記CNP/高分子混合物をコンパクト化する、または熱伝達を制限し得る望ましくない物質相を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ粒子(CNPs)は、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)、グラフェン、カーボンブラック、非晶質炭素およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カーボンナノ粒子(CNPs)の提供工程は、非炭素のナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)を前記カーボンナノ粒子(CNPs)と混合する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プラスチック基材は、熱可塑性群および/または熱硬化性群からなる高分子または高分子の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記カーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合ネットワークは、前記電磁放射線と効果的に相互作用可能な、誘電損失の大きなネットワークである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
相互結合した前記カーボンナノ粒子(CNPs)は、前記高分子マトリックスを包含する微細構造を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
未加熱材料中の相互結合した前記カーボンナノ粒子(CNPs)の電気長が、前記電磁放射線の波長と一致または対応している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記照射する工程の後に、前記高分子マトリックスを再溶融する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法であって、
未処理または処理済のカーボンナノ粒子(CNPs)を含有する、第一基材であるナノ粒子混合物を提供する工程と、
高分子マトリックスとなるよう構成された組成および特性を有する、第二基材であるプラスチック高分子を提供する工程と、
前記第一基材および前記第二基材を混合し、前記カーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合ネットワークを有する均質なCNP/高分子混合物とする工程と、
前記CNP/高分子混合物をコンパクト化する、または前記CNP/高分子混合物から他の相を除去する工程と、
高分子複合材料を形成し、前記カーボンナノ粒子(CNPs)を前記高分子マトリックスに均一に固結および/または界面接合させるよう制御された電磁放射線を、前記CNP/高分子混合物に照射する工程と、
を含む方法。
【請求項11】
前記電磁放射線は、ラジオ波またはマイクロ波もしくはそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カーボンナノ粒子(CNPs)は、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)、グラフェン、カーボンブラック、非晶質炭素およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プラスチック基材は、熱可塑性物質および熱硬化性物質からなる群から選択される高分子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記コンパクト化する工程は、前記CNP/高分子混合物を圧縮する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記照射する工程は、20kHzから300GHzの間の電磁波長で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記照射する工程の後に、前記高分子マトリックスを再溶融する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料であって、
電磁波照射されたカーボンプラスチック基材を含む高分子マトリックスと、
前記高分子マトリックスに界面接合され相互結合し、前記高分子複合材料を包含する微細構造を形成する、電磁波照射され相互結合した複数のカーボンナノ粒子(CNPs)と
を含む複合材料。
【請求項18】
前記カーボンナノ粒子は、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)、グラフェン、カーボンブラック、非晶質炭素およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項17に記載のカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料。
【請求項19】
前記高分子マトリックスは、照射された前記カーボンナノ粒子(CNPs)、および非炭素のナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)を含む、請求項17に記載のカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料。
【請求項20】
前記プラスチック基材は、熱可塑性物質および熱硬化性物質からなる群から選択される高分子を含む、請求項17に記載のカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波照射を用いた、カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法、およびその方法を用いて作製される高分子複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ粒子(CNPs)は、高分子マトリックス複合材料など様々な材料の作製に用いられている。高分子複合材料の性能は、カーボンナノ粒子(CNPs)および高分子マトリックス間の界面接合に依存する。複合材料を作製する方法には、炉による従来からの加熱、または押出成形機による熱生成、等を利用して高分子マトリックスを溶融する工程が存在するものがある。一般的に、カーボンナノ粒子、高分子マトリックス間の界面接合を強化するためにカップリング材が添加される。
【0003】
マイクロ波(MW)またはラジオ波(RF)による加熱は、電磁放射線との相互作用により材料を迅速に加熱することができるため、従来の加熱方法に比べて多くの利点がある。しかし、高分子基材の大半は、ラジオ波またはマイクロ波の周波数帯域における誘電損失が非常に小さく、マイクロ波に対してほぼ透過的であるため、この方法により高分子基材を効率的に加熱することは難しい。
【0004】
これに対し、カーボンナノ粒子(CNP)の具体的な一種であるカーボンナノチューブ(CNTs)に関しては、マイクロ波にさらされると、その大きな誘電損失(拘束電荷)および導電性(自由電子)により、強いエネルギー吸収が認められ、強度の加熱、ガス放出、発光が生じることが複数の研究で示されている。ある研究では、マイクロ波にさらされた単層カーボンナノチューブ(CNT)の局部温度は、最高2000℃に達した。
【0005】
また、マイクロ波照射によるCNTと高分子との結合に関する課題についても研究されている。これらの研究により、多層カーボンナノチューブ(CNTs)薄層へマイクロ波を照射することでプラスチック部品が溶着可能であることが証明されている。また、研究では、カーボンナノチューブ(CNTs)、マイクロ波照射を用いて熱可塑性物質を溶着させる簡単な方法を活用し、溶着の強度、質を評価した。さらに、研究者らは、マイクロ波照射は、高分子、複合材料処理以外の分野でも多くの望ましい特性をもたらすことができることを示した。望ましい特性としては、フリーラジカル誘導による架橋結合の誘導を含む熱硬化性樹脂の重合速度、ガラス転移温度の促進、ならびに、従来のカーボンファイバーおよび熱硬化性マトリックス間の接着強化などの効果が挙げられる。
【0006】
本開示は、高分子基材と混合したカーボンナノ粒子(CNPs)への電磁波照射によって発生する熱を利用した、高分子マトリックス複合材料の作製方法に関する。さらに、本方法では、放出熱を制御することにより、高分子粉末/カーボンナノ粒子(CNPs)の混合物を均一に固結し、優れた電気的、機械的特性を持つナノ複合材料を提供する。
【0007】
しかし、上記に例示した関連技術およびそれに関係する限定は、例示目的であり、これらに限定されるものではない。当業者であれば、明細書を読み、図面を研究することにより、関連技術に関するその他の限定が明らかになるだろう。
【発明の概要】
【0008】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法は、電磁波照射を促進するよう選択された特徴を有するカーボンナノ粒子(CNPs)を含有するナノ粒子混合物を提供する工程と、高分子マトリックスとなるよう選択された組成および特性を有するプラスチック基材を提供する工程と、前記カーボンナノ粒子混合物および前記プラスチック基材を混合して前記カーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合ネットワークを有する均質なCNP/高分子混合物とする工程と、前記カーボンナノ粒子(CNPs)を前記高分子マトリックスに均一に固結および/または界面接合させるよう制御された電磁放射線を、前記CNP/高分子混合物に照射する工程と、を備える。本方法は、前記照射する工程の前に、前記CNP/高分子混合物をコンパクト化する、または熱伝達を制限し得る望ましくない物質相を除去する工程を備えていてもよい。
【0009】
本方法の例示的な実施形態では、電磁放射線は、選択された波長、強度のラジオ波またはマイクロ波のうち少なくとも一方を含む。また、カーボンナノ粒子には、選択された割合の範囲内で前記ナノ粒子混合物中に含有される、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)、グラファイトナノ粒子、カーボンブラック、非晶質炭素、および様々なカーボンナノ粒子の混合物が含まれてもよい。ナノ粒子混合物には、他のノンカーボン粒子が含まれてもよい。ノンカーボン材料には、例えばシリカ、クレイ、金属、有機繊維、無機繊維などの、ナノ材料またはマイクロ材料が含まれる。
【0010】
本方法の様々な実施形態では、異なる処理により作成された異なる種類のナノ粒子を配合または混合して、特定のナノ粒子混合物を提供することができる。一つの実施形態では、ラジオ波またはマイクロ波もしくはその両方の照射に対して影響を受けやすいカーボンナノ粒子(CNPs)と、ラジオ波またはマイクロ波もしくはその両方の照射に対して影響の少ない、または影響を受けることのない別の非炭素のナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)との混合物を用いて、様々なナノ粒子高分子マトリックス複合材料を作製することができる。ナノ粒子混合物中に異なるナノ粒子を使用することで、得られる高分子マトリックスに、より広範な化学的および物理的機能を与えることができる。カーボンナノ粒子(CNPs)およびナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)の特徴には、例えば、粒子径、粒子分布、粒子凝集、粒子アスペクト比、導電率、熱伝導率、容積密度、結晶化度などが挙げられる。
【0011】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料は、プラスチック基材からなる高分子マトリックス、および電磁波照射され相互結合した複数のカーボンナノ粒子(CNPs)を含み、それら複数のカーボンナノ粒子は、前記高分子マトリックスに界面接合され相互結合して、前記高分子マトリックスを包含する微細構造を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
例示的な実施形態を、図面の参照図を用いて説明する。本明細書で開示する実施形態および図面は、制限ではなく例示とみなされることを意図している。
【0013】
【
図1】
図1は、(a)カーボンナノチューブおよび(b)カーボンナノファイバーの透過電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、カーボンナノチューブ(CNTs)の初期凝集状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、含有率0.5重量%のカーボンナノ粒子(CNP)と高分子との均質な混合物の圧密ペレット(しら地)の断面の走査電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、マイクロ波を照射した、含有率0.5重量%のCNTとPPとのナノ複合材料の断面の走査電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、純粋なPPと、熱加熱処理およびマイクロ波加熱処理をそれぞれ施した、含有率1.5重量%のCNTとPPとのナノ複合材料のX線ディフラクトグラムである。
【
図6】
図6は、高いメルトフローインデックス(MFI)を有する超微細な粒子径(100um未満)のポリプロピレンマトリックスにCNTを1.5重量%含有したナノ複合材料に、熱処理またはマイクロ波処理を施したものの、純粋なPPを基準とした、代表的な応力-ひずみ曲線、弾性率および引張強度の平均値を示すグラフである。
【
図7】
図7は、熱加熱処理、またはマイクロ波加熱処理を用いて作製した、中程度のMFIを有する中程度の粒子径(250um未満)のポリプロピレンマトリックスにCNTをわずか0.5重量%含有したナノ複合材料の、弾性率および引張強度の平均値を示すグラフである。
【
図8】
図8は、熱加熱処理、またはマイクロ波加熱処理を用いて作製した、高いMFIを有する微細な粒子径(150um未満)のポリエチレン(PE)マトリックスにCNTをわずか0.5重量%含有したナノ複合材料の、弾性率および引張強度の平均値を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2の透過電子顕微鏡写真(TEM)画像であり、CNTsおよびHNTsの混合物(CNT対HNTの比=3:1)の透過電子顕微鏡写真(TEM)画像を示す。
【
図10】
図10は、熱加熱処理、またはマイクロ波加熱処理を用いて作製した、高いMFIを有する微細な粒子径(150um未満)のポリエチレン(PE)マトリックスに、混合比3:1のCNTおよびHNTs混合物をわずか0.5重量%含有したナノ複合材料の、弾性率および引張強度の平均値を示すグラフである。
【
図11】
図11は、純粋なPEと、熱加熱処理またはマイクロ波加熱処理をそれぞれ施した、0.5重量%のCNT-HNT(混合比3:1)/PEナノ複合材料のX線ディフラクトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使われる「カーボンナノ粒子(CNPs)」という用語は、一種類の炭素同素体または二種類以上の炭素同素体混合物からなる粒子であって、一種類または複数の粒子寸法が約500ナノメートル(nm)以下であるものを意味する。このような同素体は、例えばカーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)およびグラフェンである。「ナノチューブ」という用語は、長さ対直径の比が大きい一つまたは複数の円筒管状の原子より構成された円筒状のナノ構造を意味する。ナノチューブは、単層ナノチューブ(SWNTs)または多層ナノチューブ(MWNTs)に分類できる。「ナノチューブ粒子」は、ナノチューブからなる個々の分子、粒子、または粒子の凝集を含む。「ナノファイバー」という用語は、長さ対直径の比が大きい円筒状のナノ構造で、積層されたプレート、カップまたはコーン状の構造をした原子の層を持つものを意味する。「ナノファイバー粒子」は、ナノファイバーからなる個々の分子、粒子、または粒子の凝集を含む。「グラフェン」は、炭素原子の二次元六角格子の小粒子である。グラフェンは、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトおよびその他のフラーレンなどの、他の多くの炭素同素体の基本構造体である。
【0015】
カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の作製方法は、最初の工程として、電磁波照射を促進するために選択された特徴を有するカーボンナノ粒子(CNPs)を高い比率で含有するナノ粒子混合物を提供する工程を備える。カーボンナノ粒子(CNPs)の選択には、粒子の種類、粒子固有の性能の選択が含まれる。好適なカーボンナノ粒子(CNPs)混合物には、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー(CNFs)、グラフェン、カーボンブラック、非晶質炭素、およびこれらの混合物が含まれる。下記に記載する請求の範囲の一部では、ナノ粒子混合物を「第一基材」と称する。
【0016】
前記方法は、さらに、選択された組成および特性を有するプラスチック基材を提供する工程を備える。好適な基材には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどが含まれるが、あらゆる熱可塑性高分子、熱硬化性高分子およびそれらの組み合わせを用いてもよい。下記に記載する請求の範囲の一部では、ナノ粒子混合物を「第二基材」と称する。
【0017】
ナノ粒子混合物およびプラスチック基材の提供工程に続き、本方法は、ナノ粒子混合物およびプラスチック基材を混合し、均質なCNP/高分子混合物を提供する工程を備える。この混合工程は、高分子基材の種類(固体、液体または懸濁液など)に応じて、乾式法または湿式法のいずれかにより実施されてもよいし、あるいは他の分散技法により補完のうえ実施されてもよい。さらに、カーボンナノ粒子(CNPs)は、他の改質剤を用いて化学的または物理的に改質、予備処理あるいは化合させてから、プラスチック基材と混合してもよい。混合工程において、CNP/高分子混合物を、オーブン乾燥、真空乾燥、脱水、加圧、その他同様の方法を含むがこれらに限定されない適切な方法により、処理または乾燥し固結させてもよい。
【0018】
前記混合工程の後、CNP/高分子混合物の外表面および内表面は、カーボンナノ粒子(CNP)により被覆され、その分散により分布したカーボンナノ粒子(CNPs)は相互に結合したままである。これにより、CNP/高分子混合物全体に広がる電気的なネットワークが形成され、未加熱の材料に、一種の「複合材料」的な誘導損失性をもたらす。さらに、未加熱材料の電気長が照射波の電気長と対応するため、CNP/高分子混合物全体が放射線加熱により加熱されやすくなる。濃度、カーボンナノ粒子(CNP)の初期凝集、カーボンナノ粒子(CNP)およびナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)の固有特性等、カーボンナノ粒子(CNPs)、高分子基材、配合する可能性のあるナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)の特性を適正に選択することにより、後続の照射工程において十分且つ迅速な反応(数秒から4分)が得られ、ナノ複合材料は所望の最終特性を得ることができる。
【0019】
前記混合工程の後、CNP/高分子混合物は、ラジオ波、マイクロ波などの電磁放射線に照射され、その照射は、高分子複合材料を形成し、カーボンナノ粒子(CNPs)および別のナノ材料またはマイクロ材料(NMMs)を高分子マトリックスに均一に固結および/または界面接合させるよう制御される。この照射工程は、加熱速度、パルス、停止時間、環境チャンバ制御、なまし/冷却/焼き入れ工程、マイクロ波出力の調整および適正な照射時間などを含む適切な処理条件で行うことにより、カーボンナノ粒子(CNPs)から高分子マトリックスへの熱転移を最も効果的に進め、ナノ粒子高分子複合材料を完全かつ効果的に固結することができる。
【0020】
前記カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料は、熱可塑性基材が用いられている場合、従来のいずれかの高分子処理工程により後処理することができる。さらに、カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料は、後の照射による再溶融により、複数回、後処理することができるため、複合材料に従来からの加熱方法を直接適用できない場合、例えば、構造的な複合材料とハイブリッド材料を結合させる接着用途などに有用である。
【0021】
本作製方法により、従来の高分子処理方法で製造された材料に競合可能なカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料を作製することができる。理由は、電磁波照射法の高エネルギー効率、高い選択性、迅速性、カップリング剤を添加せずにカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料を作製することができること、そして本方法により優れた性能を得られること、による。このように作製されたカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料は、潜在的な用途として、試作造形、ポリマーグレードの回転成形、電磁誘導加熱接着、自動車用の複合材料プラスチック部品、材料および部品溶接、圧縮成形製品、航空宇宙用の高性能ナノ複合材料、帯電防止および電磁遮蔽用の導電性ナノ複合材料、およびマスターバッチ(7.5%より大きなCNP濃度)において利用可能である。
【0022】
マイクロ波照射を用いる本作製方法は、分子から発生する熱を利用して高分子マトリックスを溶融し固体の複合材料へと固結させるだけでなく、カーボンナノ粒子(CNPs)および高分子マトリックス間の分子の相互作用を強めて界面接合を強化する。この誘導された界面接合は、複合材料内の機械的な負荷移動性を低下させる界面の非互換性を解消する目的で一般的に添加される、カップリング剤の使用を回避するために重要である。このような界面の課題は、多くの複合材料に存在するが、ポリオレフィンなどの非極性マトリックスを基材とする複合材料に特に顕著である。したがって、このような代替的な複合材料処理は、迅速、低価格、高エネルギー効率、添加物不要、環境配慮型であるだけでなく、従来の熱的加熱により処理された競合製品よりも機械的および電気的に優れた特性を持つナノ複合材料を提供する。これらの予期せぬ結果は、本方法の非自明性を示唆している。
【0023】
具体的には、均一な複合材料は、均質なCNP/高分子混合物に、マイクロ波またはラジオ波を照射することにより作製することができる。前記CNP/高分子混合物は、初期凝集状態、高分子粒子径、分布、粘度、コンパクト度、混合状態の程度、等のカーボンナノ粒子(CNPs)の固有特性に依存しており、マイクロ波、ラジオ波と効果的に相互作用できる、誘電損失の大きなネットワークを形成する。これらの電磁的な相互作用の結果、一体構造のナノ複合材料のブロックは完全に溶融、固結し、CNP-高分子間の界面接合、ならびにカーボンナノ粒子(CNPs)の相互結合が強化される。
【0024】
さらに、相互結合したカーボンナノ粒子(CNPs)は、櫓状の微細構造として、カーボンナノ粒子(CNP)高分子マトリックス複合材料全体を包含するネットワークを形成する。以下に詳細を説明する通り、この微細構造は好ましい電磁現象を起こし、集積した「骨格構造」を形成して、カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料に、さらなる独特な機械的および電気的特性を付与する。さらに、マイクロ波誘電、カーボンナノ粒子(CNPs)から放出される高熱は、カーボンナノ粒子(CNPs)を包囲する高分子鎖の部分的架橋結合や酸化を生じさせ、結晶性を高める。これらの特徴は、複合材料の剛性、界面接合を強化する。さらに、本方法で形成されるナノ複合材料は、従来の熱処理により作製された、同じ濃度のカーボンナノ粒子(CNPs)を含有するナノ複合材料と比べて、導電率が10倍以上高く、弾性率が20%高く、強度が10%高い値を示す(実際の値は、以下に説明する実施例に表示する)。この方法を用いることで、CNT/高分子マトリックス複合材料を、マイクロ波(MW)照射処理を利用して作製することができる。大型の複合材料部品を製造、溶着する場合や、人間、電子機器への悪影響を理由にマイクロ波の利用が制限される場合には、ラジオ波を同じ目的で用いることができる。
【実施例1】
【0025】
本実施例において、カーボンナノ粒子(CNPs)は、熱反応器および炭化水素供系ガスの分解を用いて製造することができる。製造工程を進める際に、反応器内の触媒および反応条件を選択することにより、選択された質量パーセントの範囲内の様々なカーボンナノ粒子を提供することができる。例えば、反応条件および触媒を選択および制御して、カーボンナノ粒子(CNPs)が、主としてカーボンナノチューブ(CNTs)またはカーボンナノファイバー(CNFs)、もしくはそれらの混合物を含むようにすることができる。カーボンナノ粒子(CNPs)を製造する適切な工程の一つが、Zhuらによる米国特許第8,092,778B2号公報に開示されており、これを参照することにより本明細書に組み込む。
【0026】
図1は、本方法の実施に使用可能な、高グラファイト状のカーボンナノチューブ(CNTs)を示す。
図2は、本方法の実施に使用可能な、カーボンナノファイバー(CNFs)を示す。カーボンナノチューブ(CNTs)およびカーボンナノファイバー(CNFs)はいずれも、熱反応器、炭化水素系ガスの分解を用いて製造された。
図1(a)に示す通り、カーボンナノ粒子(CNPs)は、欠陥を含むカーボンナノチューブ(CNTs)、他の無定形のナノカーボン、触媒粒子を含む。一般的に、カーボンナノチューブ(CNTs)は多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)からなるが、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)を含有してもよい。さらに、カーボンナノチューブ(CNTs)は、非晶質炭素構造の束状のカーボンナノチューブ(CNTs)であってもよい。バルクカーボンナノチューブ(CNTs)は粉末状であるが、カーボンナノチューブ(CNTs)および非晶質炭素を含む束のような、カーボン材料の大きな塊および集積を含んでもよい。
図1(b)では、ナノカーボン粒子の混合物は、欠陥を含むカーボンナノファイバー(CNFs)、他の無定形のナノカーボン、触媒粒子を含む。
【0027】
カーボンナノ粒子(CNPs)は、熱反応器で製造するのではなく、混合により所望の組成を有するナノカーボン粒子を得ることができる。例えば、工業製品市場において、特定のナノカーボン材料が製造元により大量生産され、入手可能である。好ましい製造元の一つが、オーストラリア、パースのEden I社である。ナノカーボン混合物を製造するか購入するかを問わず、様々な工程により製造された様々な種類のナノカーボン粒子を配合または混合することにより、特定のナノカーボン粒子(例えばCNT、CNF)を所望の質量パーセントで含有するなどの、所望の特徴を持つ特定のナノカーボン粒子混合物を提供することができる。
【0028】
本方法は、ポリオレフィンマトリックス(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)グレード)等の様々な熱可塑性粒子を利用して実施することが可能であるが、この種の熱可塑性粒子に限定するものではない。例えば、本方法は、ナイロン、ポリスチレン、ポリカーボネートを用いて実施することが可能である。以下、例として、マイクロ波照射されたPPナノ複合材料、PEナノ複合材料を得る方法を説明する。この方法は、以下のa)混合、b)コンパクト化、およびc)照射工程を備える。
【0029】
a) 混合
粉末の混合は、ボールミル内で10mmのステンレス鋼ボール14個を用い、200rpmの回転数で1時間混合することで実施した。混合により、濃度が0.3重量%から15重量%の混合物が調製された。本具体例では、混合は、粉砕効果を得るためではなく、粒子を均質化する目的で行われた。したがって、粉砕条件は、粒子を混合する際の圧縮、破砕および衝撃応力を最適化するよう設定された。これらの条件下で、カーボンナノチューブ(CNTs)は、熱可塑性粒子と良好に混合し、非常に均一な粒度組成が得られた。
【0030】
熱可塑性高分子粉末は、その粒子径が、カーボンナノチューブ(CNT)の濃度、混合程度、高分子の種類、カーボンナノチューブ(CNT)グレードの種類、粒子の形状、に応じて異なるものとなる。粒子径の影響に関する発明者らによる調査では、粒子径が500um未満の熱可塑性高分子粉末は、カーボンナノチューブ(CNTs)粉末と相互作用するのに十分な表面積を有するため、照射工程に適した均質性を備える均一な混合物を得られることが実証されている。しかしながら、本技術は、いかなる粒子径にも限定されるものではない。したがって、本実施例では、様々な粒子径を持つ2種類のPPグレード、PEグレードが使用された。
【0031】
さらなる発明者らによる研究により、ナノ複合材料処理における、高分子基材の熱可塑性高分子の粘度の影響が示されている。メルトフローインデックス(MFI、230℃および2.16kg)値が10g/10分から200g/10分の範囲のPPおよびPEグレードを用いて調整されたものが好適なナノ複合材料であった。MFI値がこれより低いと、照射後の固結が不完全となる可能性がある。しかしながら、電磁放射線技術による照射は、溶融粘度によっても限定されるものではない。
【0032】
b) コンパクト化
混合の後、0.5gのCNP/高分子混合物を、約600MPa(18トン)で2分間圧縮し、20mmの円盤形状のペレットにした。気相を効果的に除去するため、真空を用いた圧縮を利用してもよい。形成されたペレットは、取り扱いに十分なグリーン強度を示した。
図3の、CNTを0.5重量%添加した圧縮ペレット(しら地)断面の電子顕微鏡写真は、高分子粒子が緊密にコンパクト化され、カーボンナノチューブ(CNTs)がネットワーク状に分布して熱可塑性粒子表面の大部分を覆っている様子を示している。粒子の界面は、カーボンナノチューブ(CNTs)の層では「ひび割れ」のように見えるため、顕微鏡写真で容易に認識できる(熱可塑性粒子間ではより薄いコントラストとなる)。
【0033】
c) 照射
各圧密ペレットを、2.45GHzのマイクロ波でそれぞれ照射した。実際の周波数の要件は、全体のインピーダンスの大きさや、未処理混合物、ペレット内に展開するカーボンナノチューブ(CNT)ネットワークの電気長に応じて(ラジオ波の20kHzから、300GHzまでの範囲で)変えることができ、エネルギー吸収を最大にする周波数が好適な照射周波数となる。照射条件は、照射時間および出力の最適なパラメータを決定するためのトライアルを一通り行った後に決定した。カーボンナノチューブ(CNTs)が高濃度の場合、通常、数秒の照射時間が効果的である。一方、カーボンナノチューブが低濃度で混合状態が良くない場合、数分、典型的には4分未満、を要する。急速すぎる加熱を防止するために出力も調整する必要がある。本実施例では、カーボンナノチューブ(CNTs)が低濃度の試料では出力を1200Wとし、カーボンナノチューブ(CNTs)が高濃度の試料では100Wと低くした。照射は、好適な特性が得られるよう、ペレットを2枚のスライドガラスの間に設置し複合材料を平らなシート状にして行った。別の方法として、IR温度センサと組み合わせて出力を制御するフィードバック調節器を用いて、しら地の急加熱を防止してもよい。
【0034】
図4は、照射後に凍結粉砕された、0.5重量%の高分子マトリックス複合材料の断面の顕微鏡写真である。得られた高分子マトリックス複合材料は、完全に溶融、固結した形態を示し、微細組織が十分に分散、分布している。カーボンナノチューブ(CNT)のクラスターは最小限で、カーボンナノチューブ(CNTs)が高分子マトリックスに良好に取り込まれ、0.5重量%で非常に均質である。いくつかの試料では微小な空隙が生じたが、それらは照射時の環境管理または処理後の工程によって解決した。興味深いことに、ナノ複合材料は、作製後も引き続き非常に高い導電性およびマイクロ波への反応を示すため、照射後の溶融と凍結の複数のサイクルにおいて、迅速な再溶融が可能となる。
【0035】
PPマトリックスおよびPEマトリックスは準結晶性高分子である為、無定形領域と結晶性領域が組み合わされた微細構造を有する。一般的に、強化は、高分子の結晶相、結晶寸法および相対的な結晶含有量に影響を及ぼす。
図5では、熱処理されたポリプロピレン複合材料とマイクロ波照射されたポリプロピレン複合材料の代表的なX線ディフラクトグラムを比較している。純粋なPPマトリックスではアルファおよびベータ結晶相の混合が見られたのに対し、複合材料ではより安定的なアルファ結晶相のみが生じたが、マイクロ波照射された複合材料がより高い結晶度を有していることが判明した。別のポリエチレンマトリックス、ポリプロピレンマトリックスで作製されたマイクロ波照射複合材料においても、同様に高い結晶度が見られた。このことは、微細構造および界面の違いが、マイクロ波照射されたナノ複合材料の性能の向上に寄与した可能性があることを意味する。複合材料の作製にマイクロ波を用いる本方法は、準結晶性の熱可塑性マトリックスに限定されるのではなく、あらゆる種類の無定形熱可塑性材料にも用いることができるということが重要である。さらに、熱硬化性高分子マトリックスも、カーボンナノチューブ(CNTs)からの放出熱により界面接合が促進するため、電磁波照射処理や処理工程の利を十分に受けることができる。こうした理由から、本方法には熱硬化性樹脂の利用も含まれる。
【0036】
図6に示されるように、この代替的な複合材料処理方法により得られた、PP系(低粘度)高分子マトリックス複合材料は、CNTsがわずか1.5重量%で、弾性率最大2.5GPa、強度35MPa以上、導電率約10
-2S/mの値を示した。熱圧縮により作成された同等の熱処理複合材料についても示している。
【0037】
本発明者らによる発見は、カーボンナノチューブ(CNT)の濃度範囲、カーボンナノ粒子(CNP)の種類および形態、高分子マトリックスの種類等によって制限を受けるものではないということが重要である。あらゆる濃度(CNTsが0から100重量%)のカーボンナノ粒子(CNP)、あらゆる種類の高分子を用いて、本方法により複合材料を作製することができる。
図7では、中粘度のPP樹脂で調製した、CNTsがわずか0.5重量%のナノ複合材料の弾性率および強度値を示す。マイクロ波処理により得られた複合材料の方が高性能なことは明らかである。さらに、この特定グレードの高分子マトリックス複合材料は、マイクロ波加熱に対する反応性が非常に高いため、一旦作製されると、カーボンナノチューブ(CNT)濃度がこれほど低いにも関わらず高い導電性を保ち続け、マイクロ波に対する感受性を損なうことなく、また、高分子マトリックスの著しい劣化を見せることなく、後の照射によって何度も再溶融と凍結を繰り返すことができる。同様に、
図8では、低粘度のポリエチレン(PE)マトリックスにわずか0.5重量%のCNTを含有し、マイクロ波加熱で作製された複合材料の優れた性能を示す。実際、マイクロ波照射された複合材料は、純粋なPEおよび熱処理された複合材料より弾性率がそれぞれ34%、21%高かった。このことは、本件のマイクロ波処理によって様々な高分子マトリックスの改質が可能であることを示す。
【実施例2】
【0038】
Eden Innovations LTD社は、エンジニアリング・プラスチックの強化に効果的であるとされ、費用効果が高く、高黒鉛性のカーボンナノチューブ(CNTs)およびカーボンナノファイバー(CNFs)グレードのシリーズを生産している。EDENPLASTは、そのEden Innovations LTD社のカーボンナノ粒子を用いて開発された、ナノ粒子系高分子ナノ複合材料グレードのシリーズの銘柄である。EDENPLASTは、カーボンナノ粒子(CNPs)に各種の予備処理法を施し、カーボンナノ粒子を他のノンカーボン系ナノ・マイクロ粒子と組み合わせて用いている。
【0039】
複合材料のマイクロ波処理の多用性を示す第2の実施例として、CNTsとハロイサイトナノ粒子(HNTs、クレイの一種)との組み合わせにより調製される複合材料を提示する(
図9)。本実施例では、予備処理においてHNTs(直線状および中空構造)がCNTsの分散を補助し、照射法により発生する高熱を拡散、供給することで、マトリックスの溶融をさらに制御する。0.5重量%のポリエチレン(PE)マトリックス複合材料を、単一の粒子と高分子マトリックスとの複合材料について前に説明したのと同じ処理工程を用いて、2.45GHzのマイクロ波を照射することにより調製した。粒子の混合は、CNTとHNTとの比を3対1の割合で、高エネルギー混合法により行った。その後、別のマイクロ波照射複合材料グレードについて実施例1と同様に、PE粒子およびナノ粒子(NPs)をボールミル法により混合し、コンパクト化してペレットにした。
【0040】
図10に、この複合材料グレードの機械的特性を示し、純粋なPE樹脂と、対応の熱処理された複合材料とを比較している。照射法の弾性率が優れていることは明白である(熱処理による複合材料よりも11%高い)。この時、引張強度に大きな改善は見られなかったが、ほぼ同程度の強度が保たれた。興味深いもう一つの現象は、
図11に示す通り、照射法は、複合材料中のマトリックスの結晶化度に、高効果を示すことである。弾性率と結晶化度(熱処理による複合材料よりも5%高い)には強い関連性がある。
【0041】
本実施例は、CNPsを他の材料によって予備結合、改質させることにより、マイクロ波照射処理で作製される複合材料に異なる特性をもたらすことができることを示す。
【0042】
さらに、15重量%のCNTのマスターバッチの作製にも成功しており、そのために基材により強力な乾式混合法を用い、また、照射には、加熱ランプを十分に制御することができるよう、約0~500Wを正確に印加できるマグネトロンを利用した。
【0043】
総括すると、環境に優しく、効率的、迅速、添加物不要、そして低コストである本方法は、以下の特徴を有している。
1) 様々な材料の電磁波による加熱は公知の技術であるが、現在の用途および調査研究は、高誘電性材料の加熱およびプラスチック部品の溶着ならびにそれらに関連する課題に限定されている。しかし、現時点では、カーボンナノ粒子から生じる熱をプラスチックマトリックスに利用し、高分子ナノ複合材料を作成できた者はいない。したがって、本明細書において、新規で代替的な作製、処理方法を開示している。
2) さらに、カーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の本作製方法には、多くの利点がある。
a) この方法は迅速で、基材の濃度および予備混合の状態により、数秒から数分(通常4分未満)で複合材料を作製することができる。
b) 大容量で加熱されるため、本方法は従来の熱的加熱よりもエネルギー効率が高く、より経済的であり、環境に優しい。
c) 本方法により、上記の通り、異なる物理特性を持つ数種の高分子より、強度、硬度の高い複合材料を得られる。
d) 本方法により、導電率のより高い複合材料が得られるため、複合材料に複数の機能性(物理的および電気的)が与えられる。
e) 照射前の混合工程において、複数のカーボンナノチューブ(CNT)予備分散方を適用できるため、ナノ複合材料は、従来の溶融処理による複合材料よりも高い分散性と均一性が得られる(
図4)。
f) 従来の処理では、一般的に、粒子および高分子間の界面接合を強化するために、数種のカップリング剤、相溶化剤が添加され、それにより複合材料の特性の一部(特に弾性率)が損なわれる。その点、マイクロ波処理の主な利点は、そのような添加剤を一切必要とせず、それらの望ましくない影響を回避しながら性能を向上できることである。コストの大幅削減にもつながる。
【0044】
別の発見としては、マイクロ波処理されたカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料が、後の照射により何度も再溶融できることである。そのため、電磁接着剤としても使用可能である。構造的なファイバー高分子複合材料を非接触式加熱により接合するための接着剤の開発を試みているが、現時点では成功していない。しかし、本方法は「ナノ複合材料接着剤」という形で、既にこの種の接着を生み出している。
【0045】
本件のカーボンナノ粒子高分子マトリックス複合材料の大規模生産に関しては、人体および電子機器への有害な影響、適正な制限要件はあるものの、現在、非常に大きなマイクロ波機器(電子レンジの10倍の大きさ)が入手可能である。しかし、その他にも、危険性の無い直接接触式ラジオ波を代わりに用いてCNT/高分子混合物を加熱し、大きな部品および大量生産に適用することができる。
【0046】
このように、新規、迅速かつ費用効果の高い、効率性のよい代替的な、電磁エネルギーを用いた処理方法を開示したが、これにより、多くの産業、技術において適用可能性を有する、硬度、導電率、強度の高い、多機能性のカーボンナノ粒子(CNP)高分子複合材料を作製することができる。
【0047】
以上、多くの例示的様態および実施例を説明してきたが、当業者であれば、それらの一定の改変、置換、追加および部分的組み合わせを認識するであろう。したがって、当該全ての改変、置換、追加および部分的組み合わせは、以下に添付する請求の範囲および今後導入される請求の範囲に、それらの真の目的および範囲内にあるものとして包含されると解釈されることを意図する。
【国際調査報告】