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特表2022-518139pH依存的膜透過性ペプチドを用いた薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体
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  • 特表-pH依存的膜透過性ペプチドを用いた薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(54)【発明の名称】pH依存的膜透過性ペプチドを用いた薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20220307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220307BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220307BHJP
   C07K 16/32 20060101ALN20220307BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20220307BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220307BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20220307BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220307BHJP
【FI】
A61K47/64 ZNA
A61P43/00 105
A61P35/00
C07K19/00
C07K16/32
C07K14/00
C12N15/13
C12N15/11 Z
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538954
(86)(22)【出願日】2020-01-03
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 KR2020000116
(87)【国際公開番号】W WO2020141930
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0000836
(32)【優先日】2019-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0099364
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516120445
【氏名又は名称】キム・ソンチョン
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】キム・ソンチョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC50
4C076EE59
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、pH依存的膜透過性ペプチドを用いた薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体を提供する。本発明の薬物運搬体は、特定の標的細胞にのみ選択的に(または特異的に)作用することにより、薬物の副作用は軽減させ、薬物の薬効は増大させることができる効果を有し、抗がん剤、免疫抑制剤、造影剤などの薬物運搬体として有用に使用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)標的細胞の標的分子と特異的に結合する領域である細胞標的化領域と、
(b)pH依存的膜透過性ペプチドと、
が結合して構成される薬物運搬体。
【請求項2】
前記標的分子は、前記標的細胞の表面に存在する抗原または受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項3】
前記標的細胞はがん細胞、非正常細胞または正常細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項4】
前記細胞標的化領域は、前記標的分子と特異的に結合することができる能力を保有している、抗体、抗体断片、アプタマー、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、サイトカインの一部領域であるペプチド、またはリガンドの一部領域であるペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項5】
前記pH依存的膜透過性ペプチドは、GALAペプチド、MelP5ペプチドの変異体であるpHD15ペプチド、MelP5ペプチドの変異体であるpHD24ペプチド、MelP5ペプチドの変異体であるpHD108ペプチド、LPペプチド変異体であるLPE3-1、LPペプチド変異体であるLPH4ペプチド、またはATRAMペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項6】
前記細胞標的化領域と前記pH依存的膜透過性ペプチドは、(i)直接互いに共有的に結合するか、(ii)非共有的に結合するか、(iii)リンカーを介して結合するか、或いは(iv)生体適合性高分子を介して結合することを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項7】
前記細胞標的化領域と前記pH依存的膜透過性ペプチドとはリンカーを介して結合し、
前記リンカーは、イソチオシアネート(isothiocyanate)、イソシアネート(isocyanates)、アシルアジド(acyl azide)、NHSエステル(NHS ester)、塩化スルホニル(sulfonyl chloride)、アルデヒド(aldehyde)、グリオキサール(glyoxal)、エポキシド(epoxide)、オキシラン(oxirane)、炭酸塩(carbonate)、アリールハライド(aryl halide)、イミドエステル(imidoester)、カルボジイミド(carbodiimide)、無水物(anhydride)、フルオロフェニルエステル(fluorophenyl ester)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethyl phosphine)、マレイミド(maleimide)、ハロアセチル(haloacetyl)、ピリジルジスルフィド(pyridyldisulfide)、チオ硫酸塩(thiosulfonate)、またはビニルスルホン(vinylsulfone)の官能基を有することを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項8】
前記細胞標的化領域と前記pH依存的膜透過性ペプチドとはリンカーを介して結合し、
前記リンカーは、切断可能なリンカーまたは切断可能でないリンカーである、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項9】
前記切断可能なリンカーは、プロテアーゼによって切断可能なリンカー、酸または塩基条件で切断可能なリンカー、あるいは還元または酸化条件で切断可能なリンカーであり、
前記切断可能でないリンカーは、MCC(Maleimidomethyl cyclohexane-1-carboxylate)とMC(maleimidocaproyl)を含むリンカーであることを特徴とする、請求項8に記載の薬物運搬体。
【請求項10】
前記細胞標的化領域と前記pH依存的膜透過性ペプチドとはリンカーを介して結合し、
前記リンカーは、2つ以上の官能基を有するリンカーであることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項11】
前記2つ以上の官能基を有するリンカーは、同種二機能性リンカー、異種二機能性リンカー、又は樹枝型のリンカーであることを特徴とする、請求項10に記載の薬物運搬体。
【請求項12】
前記細胞標的化領域と前記pH依存的膜透過性ペプチドとは生体適合性高分子を介して結合することを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項13】
生体適合性高分子は合成高分子または天然高分子であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物運搬体。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の薬物運搬体に薬物が結合した、薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項15】
前記薬物は、薬物運搬体の細胞標的化領域またはpH依存的膜透過性ペプチドと、(i)直接互いに共有的に結合するか、(ii)非共有的に結合するか、或いは(iii)リンカーを介して結合することを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項16】
前記薬物は、薬物運搬体に、(i)薬物、細胞標的化領域、pH依存的細胞透過性ペプチドの順に連結されるか、(ii)細胞標的化領域、薬物、pH依存的細胞透過性ペプチドの順に連結されるか、或いは(iii)細胞標的化領域-pH依存的細胞透過性ペプチド-薬物の順に連結されることを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項17】
前記薬物は生体適合性高分子を介して薬物運搬体と結合することを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項18】
前記薬物は、細胞内の細胞質に移動して薬効を発揮する薬物であることを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項19】
前記薬物は、低分子化合物からなる薬物、遺伝子、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ペプチド、リボザイム、ウイルス粒子、免疫調節剤、タンパク質または造影剤であることを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【請求項20】
前記薬物は、細胞毒性抗がん剤であり、
前記細胞毒性抗がん剤は、代謝拮抗剤(Antimetabolites)、微細管(microtubulin)標的化剤(Tubulin polymerase inhibitor及びTubulin depolymerisation)、アルキル化剤(Alkylating agents)、有糸分裂阻害剤(Antimitotic Agents)、DNA切断剤(DNA cleavage agent)、DNA架橋剤(DNA cross-linker agent)、DNAインターカレート剤(DNA intercalator agents)、又はDNAトポイソメラーゼ阻害剤(DNA topoisomerase inhibitor)であることを特徴とする、請求項14に記載の薬物運搬体と薬物の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH依存的膜透過性ペプチドを用いた薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の臓器、組織、細胞に様々な薬物(低分子細胞毒性抗がん剤、組み換えタンパク質、遺伝子、造影剤など)を伝達するための効果的な薬物送達システム(Drug Delivery System)の開発への関心が高まっている。一般的に、このようなシステムは、特定の細胞に特異的に存在する分子に特異的に強力に結合する物質を使用する。伝統的な剤形とは異なり、標的特異的治療剤は、標的部位に送達された治療剤の生物学的利用能(bioavailability)を最大化するように考案されており、低い副作用で病気を治療しながら治療効果を高めることができることが知られている。このような薬物送達技術は、高付加価値技術であって、全体薬物開発過程でますます重要な部門を占めており、患者の薬物順応度と服用の利便性を向上させる方法としてその活用度が増加している。
【0003】
最近では、様々な薬物(例えば、DNA、siRNA、ペプチド、タンパク質)を細胞内に効率よく送達するために膜透過性ペプチド(cell penetrating peptide、CPP)、グリコシル化トリテルペノイド(glycosylated triterpenoids)などを利用しようとする試みがある(非特許文献1)。非浸透性薬物送達において薬物として使用し難かった治療用ペプチド、タンパク質及び遺伝子などの巨大分子の体内送達効率を高めることができるため、CPPペプチドを用いた薬物送達が非常に大きな関心を呼び起こしている。
【0004】
一方、ナノ粒子薬物送達システム(Nanoparticle drug delivery system、NDD)は、過去数十年の間に広範囲に研究されてきたとともに、がん標的治療剤の開発における重要な関心事となった。NDDは、副作用を改善し且つ治療効果を向上させるために、薬物の生体分布及び薬物動態特性を変更させる。このような肯定的効果は、腫瘍または血管細胞に特異的な結合、向上したEPR(Enhanced Permeability and Retention effect)効果、腫瘍の固有な病態生理、及び微細環境(例えば、pH、酸化還元、酵素、または他の刺激などに敏感なナノ粒子)が使用できるNDDの性質に起因する。
【0005】
本発明の薬物は、特定の標的細胞に特異的に薬物を運搬することができる薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Morris et al., Nat. Biotechnol. 19(2001) 1173-1176; Jarver et al., Drug Discov.Today 9(2004) 395-402; Pharmaceuticals 2012, 5, 1177-1209)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、標的細胞にのみ選択的に(または特異的に)作用することにより、薬物の副作用は軽減させ、薬物の効果は増大させることができる薬物運搬体を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記薬物運搬体と薬物との複合体を提供することにある。
本発明の別の目的やその他の目的は、以下に提示されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の薬物運搬体は、特定の標的細胞の表面に発現される標的分子を特異的に認識して結合する細胞標的化領域(cell targeting domain)と、細胞外から細胞内へまたは細胞内エンドソームから細胞質への薬物放出効率(または薬物の送達効率)を高めることができる膜透過性ペプチド(cell penetrating peptide、CPP)とが結合された構成を持つ。
【0009】
本発明者らは、以下の実施例から確認されるように、このような構成の薬物運搬体が意図した効果、すなわち、特定の標的細胞にのみ選択的に(または特異的に)作用することにより、薬物の副作用は軽減させ、薬物の放出効率を高めて薬物の有効性は増大させる効果を有するかを評価するために、細胞標的化領域を、標的であるHER2(human epidermal growth factor receptor 2)を特異的に認識して結合するアプタマーまたは抗体で構成し、膜透過性ペプチドを、pH非依存的膜透過活性を有するペプチド(pH非依存的膜透過性ペプチド)であるメリチン(Melittin)、LP、ハイリンa1(Hylin a1)とpH依存的膜透過活性を有するペプチド(pH依存的膜透過性ペプチド)であるLPE3-1、pHD24それぞれで構成して薬物運搬体を製造するとともに、この薬物運搬体を例えばPLK1 siRNAまたはパクリタキセル(Paclitaxel)など、アポトーシス効果を有する薬物に結合させた薬物運搬体の薬物との複合体を製造して、様々なpH条件でHER2を過剰発現するBT-474細胞とHER2を発現しないMDA-MB-231細胞に処理し、薬物の選択的作用性と薬物効果の増大程度を評価した。
【0010】
ここで、HER2は、ヒト上皮細胞成長因子受容体(HER/EGFR/ErbB)系のメンバーであって、乳がん患者の重要なバイオマーカー及び治療標的として知られており(Nature Clinical Practice Oncology, 2006, 3:269-280; World J Clin Oncol. 2017, 8(2):120-134)、PLK1は、細胞分裂において中心的な役割を果たす調節者であって(Cell Rep. 2013, 3(6):2021-32)、様々なヒト腫瘍細胞で過剰発現されるので、抗がん治療の重要な標的となっている因子であり(Transl Oncol. 2017, 10(1):22-32)、パクリタキセルは、乳がん、子宮がんなどの抗がん治療剤として広く使用されているジテルペノイド(Diterpenoid)系抗がん剤である。
【0011】
前記評価の結果、膜透過性ペプチドとしてpH非依存的膜透過性ペプチドであるメリチン(Melittin)、LP、ハイリンa1(Hylin a1)を用いた薬物運搬体は、細胞質や血液などの生体主要組織、及び細胞外環境のpHに近いpH7.0でHER2を過剰発現するBT-474細胞とHER2を発現しないMDA-MB-231細胞の両方ともで薬物が作用してアポトーシス効果を誘導することにより、標的であるHER2の発現有無による薬物の選択的作用性を示さなかったが、膜透過性ペプチドとしてpH依存的膜透過性ペプチドLPE3-1、pHD24を用いた薬物運搬体は、HER2を過剰発現するBT-474細胞にのみ選択的に作用してアポトーシス効果を誘導し、HER2を発現しないMDA-MB-231細胞ではアポトーシス効果をほとんど誘導しなかった。
【0012】
一方、対照群として、pH依存的膜透過性ペプチド(LPE3-1)を除いて単にHER2特異的アプタマーまたは抗体を薬物としてのPLK1 siRNAまたはパクリタキセル(Paclitaxel)に結合させて構成した薬物運搬体と薬物の複合体も、HER2を過剰発現するBT-474細胞にのみ選択的に作用してアポトーシス効果を誘導したが、そのアポトーシス効果においては、pH依存的膜透過性ペプチド(LPE3-1)まで含んでいる前記薬物運搬体と薬物の複合体に比べて著しく低かった。これに対し、以下の実施例が示すように、pH依存的膜透過性ペプチドと薬物としてのPLK1 siRNAまたはパクリタキセルとの複合体は、pH7で薬物の選択的作用性もなく、また、薬物のアポトーシス効果も殆ど示さなかった。
【0013】
前述した実験結果は、細胞標的化領域(cell targeting domain)とpH非依存的膜透過性ペプチドで構成された薬物運搬体は、pH7でそのペプチドが細胞膜に作用して薬物を細胞内に直接送達するのに対し、細胞標的化領域とpH依存的膜透過性ペプチドで構成された薬物運搬体は、そのペプチドがpH7では細胞膜に作用せず、その代わりに細胞標的化領域が標的細胞の標的分子と結合してエンドソームとして細胞内に内在化した後に低いpH(約pH4~6)のエンドソームまたはリソソームで活性化されて薬物を細胞質に放出するものであることを示唆するといえる。これは、以下の実施例から確認されるように、pH5.5ではpH依存的膜透過性ペプチドとpH非依存的膜透過性ペプチドの両方とも、このペプチドと細胞標的化領域を含む薬物運搬体を、薬物との複合体の形態で標的細胞に処理されるとき、標的分子であるHER2の過剰発現の有無を問わず、BT-474細胞とMDA-MB-231細胞の両方ともで類似な程度のアポトーシス効果を示すことによって裏付けられる。
【0014】
本発明は、前述した内容を総合すると、ある態様において、細胞標的化領域とpH依存的膜透過性ペプチドとが結合された薬物運搬体として把握することができ、他の態様においては、前記薬物運搬体が薬物と結合された薬物運搬体と薬物の複合体として把握することができる。
【0015】
本明細書において、pH依存的膜透過性ペプチドは、約pH7では膜透過性を示さないが、酸性条件、具体的にはpH4~6.5の間で膜透過性を示すペプチドを意味する。別に定義すれば、約pH7の細胞外環境条件では細胞膜透過活性を示さないが、酸性条件のエンドソームまたはリソソームでは膜透過活性を示すペプチドを意味する。
【0016】
また、本発明において、細胞標的化領域が選択的に認識して結合する標的細胞の標的分子は、特定の標的細胞の表面に存在する任意の抗原または任意の受容体である。
【0017】
前記特定の細胞は、薬物がその細胞内部に送達される必要のある任意の標的細胞を意味する。この標的細胞は、通常、がん細胞(またはがん幹細胞)である。がん細胞であれば、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、肺がん、結腸がん、乳がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、膀胱がん、腎臓がん、肝臓がん、膵臓がん、骨がん、結合組織がん、皮膚がん、脳腫瘍、甲状腺がん、白血病、ホジキン(Hodgkin)疾患、リンパ腫、多発性骨髄腫(血液がん)など、癌腫を問わない。また、がん細胞以外にも、薬物が標的細胞内に送達される必要がある任意の非正常細胞も標的細胞になることができる。このような非正常細胞としては、前立腺肥大症細胞、及び過免疫活性を有する甲状腺細胞、自己免疫疾患に関連する細胞(例えば、関節リウマチ、ループス、重症筋無力症などに伴って抗体を生産するB細胞)などを挙げることができる。また、標的細胞は、正常細胞であってよい。例えば樹枝状細胞、血管の内皮細胞、肺細胞、乳房細胞、骨髄細胞、脾臓細胞、胸腺細胞、肝細胞、卵巣細胞などの任意の正常細胞が標的細胞になることができる。このような正常細胞が標的細胞として使用される場合、がん細胞や非正常細胞における薬物効果有無の判断又は確認のための対照群として有用に使用できる。標的細胞は、生きている動物やヒトの組織を構成する体内細胞であるか、或いは培養された動物細胞、培養されたヒト細胞、微生物などの体外細胞であることができる。
【0018】
細胞標的化領域が選択的に認識して結合する標的分子は、標的細胞の表面に存在する任意の抗原または任意の受容体である。この抗原は、好ましくは、標的細胞で非標的細胞に比べて過剰発現される抗原を意味し、特に正常細胞に比べてがん細胞で過剰発現される任意の細胞表面受容体を含む意味である。甲状腺未分化がんや乳がん、肺がんなどに過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR、Epidermal growth factor receptor)、甲状腺乳頭がん(papillary thyroid cancer)で過剰発現されるメタスチン(metastin)受容体(Metastin receptor)、乳がんで過剰発現されるErbB系の受容体チロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinases)、乳がんで過剰発現されるヒト上皮成長因子受容体2(Human epidermal growth factor receptor 2、HER2)、腎乳頭がんで過剰発現されるチロシンキナーゼ-18-受容体(c-Kit)、食道腺がんで過剰発現れるHGF受容体c-Met、乳がんなどで過剰発現されるCXCR4またはCCR7、前立腺がんで過剰発現されるエンドセリン-A受容体、直腸がんで過剰発現されるPPAR-δ(peroxisome proliferator activated receptor δ)、卵巣がんで過剰発現されるPDGFR-α(Platelet-derived growth factor receptor α)などが標的分子であることができる。また、がん幹細胞の表面抗原であるCD44、CD133、CD166などが標的分子であることができ(Cancer Res, 2005, 65(23):10946-51; Cancer Res, 2007, 67(3): 1030-7)、その他にも、CEA(carcinoembryonic antigen)、PSMA(prostate specific membrane antigen)、TAG-72(tumor-associated glycoprotein 72)、GD2ガングリオシド、GD3ガングリオシド、HLA-DR10(human leukocyte antigen-DR)、TAL6(tumor-associated antigen L6)、TRAILR2(tumor-necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand receptor)、VEGFR2(vascular endothelial growth factor receptor 2)、HGFR(hepatocyte growth factor receptor)などがまた標的分子であることができる。
【0019】
本発明において、細胞標的化領域は、標的細胞への選択的な結合を可能にすることにより標的機能を提供する。この細胞標的化領域は、標的細胞の表面に存在する抗原または受容体と特異的に結合してエンドサイトーシス(endocytosis)を誘導することにより、これと結合する薬物の細胞内への移動を可能にする。
【0020】
抗体、アプタマー、特定の細胞から分泌されて標的細胞である他の細胞の表面受容体に作用することにより、細胞間シグナル伝達の役割を果たすホルモン(例えばエリスロポエチンホルモン(erythropoietin hormone))、サイトカインまたはケモカイン(例えばIL13)、標的細胞の表面受容体に結合するVEGF(Vascular endothelial growth factor)、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)などの生体分子であるリガンド、受容体との特異的結合能力を保有したそれらの因子の一部領域であるペプチドなどが、このような細胞標的化領域として利用できる。
代表的に、本発明の薬物運搬体における細胞標的化領域は、抗体またはアプタマーである。
【0021】
細胞標的化領域としての抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体だけでなく、多重特異的抗体(すなわち、2つ以上の抗原または2つ以上のエピトープを認識する抗体であって、二特異的抗体などをいう)であるか、標的抗原と特異的に結合することが可能な能力を保有する限り、抗体の断片、化学的に修飾された抗体、キメラ抗体(ヒトとマウスのキメラ抗体、ヒトとサルのキメラ抗体など)、免疫原性を低下させたヒト化抗体やヒト抗体などの任意の抗体であることができる。また、抗体断片、化学的に修飾された抗体の様々な形態が当業分野に公知になっており、例えば、Fab、F(ab’)2、scFv(重鎖及び軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させた抗体)、Fv、Fab/c(1つのFabと完全なFcを有する抗体)などや、抗体をタンパク質切断酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理して得られた抗体断片などを挙げることができる。
【0022】
細胞標的化領域としての抗体は、従来開発されて販売されている抗体、例えば、セツキシマブ(Cetuximab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、オレゴボマブ(Oregovomab)、エドレコロマブ(Edrecolomab)、アレムツズマブ(Alemtuzumab)、ラベツズマブ(Labetuzumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、イブリツモマブ(Ibritumomab)、オファツムマブ(Ofatumumab)、パニツムマブ(Panitumumab)、リツキシマブ(Rituximab)、トシツモマブ(Tositumomab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ゲムツズマブ(Gemtuzumab)、ブレンツキシマブ(Brentuximab)、バダツキシマブ(Vadastuximab)、グレンバツムマブ(Glembatumumab)、デパツキシズマブ(Depatuxizumab)、ポラツズマブ(Polatuzumab)、デニンツズマブ(Denintuzumab)などを使用することもできる。
【0023】
抗体の製造方法、天然抗体に人為的変形を加えて標的抗原に対する特異性を向上させるか或いは免疫原性を改善させた抗体などに関しては、当業分野に公知になっている様々な文献、例えば、米国特許第4,444,887号、米国特許第4,716,111号、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,814,318号、国際公開特許WO98/46645号、国際公開特許WO98/50433号、国際公開特許WO98/24893号、国際公開特許WO98/16654号、国際公開特許WO96/34096号、国際公開特許WO96/33735号、文献[Protein Eng 1994, 7(6):805-814]、文献[Proc Natl Acad Sci U S A 1994, 91:969-973]などを参照することができる。
【0024】
細胞標的化領域としてのアプタマーは、一本鎖DNAアプタマーまたは一本鎖RNAアプタマーであることができる。アプタマーは、抗体と同様に、標的抗原などの標的分子に特異的に結合することができる核酸リガンドを意味するが、標的分子と特異的に結合することができれば、アプタマーは、二本鎖DNAまたはRNAアプタマーであってもよい。このような標的分子と特異的に結合することが可能なアプタマーの製造、選別方法などは、すべて当業分野に公知になっており、特にSELEX技術を利用することができる。このSELEX技術は、「Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment」の略語と名付けられた技術であって、当該技術については、文献[Science 249 (4968):505-510, 1990]、米国特許第5,475,096号、米国特許第5,270,163号、国際特許公開WO91/19813などを参照することができ、アプタマーの選別のための具体的な方法や適切な試薬、材料などの使用については、文献[Methods Enzymol 267:275-301, 1996]、文献[Methods Enzymol 318:193-214, 2000]などを参照することができる。アプタマーは、生体内半減期の向上のために糖、リン酸塩及び/又は塩基で変形したものであることができる。このような糖、リン酸塩及び/又は塩基で変形したヌクレオチドは、当業分野にその製造方法を含めて具体的に公知になっている。例えば、糖で変形したヌクレオチドは、その糖のヒドロキシル基(OH group)がハロゲン基、脂肪族基、エーテル基、アミン基などで修飾されたもの、糖としてのリボースまたはデオキシリボース自体がこれに代わることができる糖類似体α-アノマー糖(α-anomeric sugars)、アラビノース(arabinose)、キシロース(xyloses)またはリキソース(lyxoses)などのエピマー糖(epimeric sugars)、ピラノース糖(pyranose sugars)、フラノース糖(furanose sugars)などで置換されたものを挙げることができる。また、例えば、リン酸塩での変形は、リン酸塩がP(O)S(thioate)、P(S)S(dithioate)、P(O)NR2(amidate)、P(O)R、P(O)OR’、COまたはCH2(formacetal)に変形したものなどを挙げることができる。ここで、前記RまたはR’は、Hまたは置換もしくは無置換のアルキルなどであり、リン酸塩で変形する場合、その連結基は-O-、-N-、-S-または-C-となり、このような連結基を介して隣接ヌクレオチドが互いに結合する。
【0025】
本発明の薬物運搬体において、細胞標的化領域は、pH依存的膜透過性ペプチドに連結されている。このpH依存的膜透過性ペプチドは、約pH7条件の細胞膜には膜透過活性を示さず、細胞標的化領域が標的細胞の標的分子と結合してエンドソームとして細胞に内在化した後に低いpH(pH4~6)のエンドソームまたはリソソームで活性化されて膜透過活性を示すことにより、薬物を細胞質へ放出する機能を行う。そうすることにより、pH依存的膜透過性ペプチドを有する本発明の薬物運搬体は、pH非依存的膜透過性ペプチドを有する薬物運搬体において標的分子を発現しない非標的細胞に対しても、そのペプチドの膜透過活性によって薬物効果が非選択的に現れる副作用なしに、標的分子が発現される標的細胞に対してのみ選択的に薬物効果が現れることを可能にする。
【0026】
本発明の薬物運搬体において、細胞標的化ドメインと結合することが可能なpH依存的膜透過性ペプチドは、当業分野に幾つかが公知になっている。例えば、GALAペプチド、MelP5ペプチドの変異体であるpHD15、pHD24、pHD108と、LPペプチド変異体であるLPE3-1、LPH4及びATRAMペプチドなどがそのようなペプチドである。
【0027】
GALAペプチドに関連しては、文献[J. Am. Chem. Soc., 2015, 137:12199-12202, 2015]を参照することができ、MelP5ペプチドの変異体であるpHD15、pHD24、pHD108に関連しては、文献[J Am Chem Soc 2017, 139(2): 937-945]を参照することができ、LPペプチド変異体であるLPE3-1、LPH4に関連しては、文献[Org Biomol Chem. 2016, 14(26):6281-8]を参照することができる。また、ATRAMペプチドに関連しては、文献[Biochemistry 2015, 54:6567-6575]を参照することができる。これらの文献はいずれも、本明細書に引用された他のすべての文献と同様に、本明細書の一部としてみなされる。
【0028】
文献[J. Am. Chem. Soc., 2015, 137:12199-12202, 2015]は、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(hemagglutinin)のHA-2サブユニットのN末端領域に由来するペプチドであって、Glu-Ala-Leu-Alaの反復配列で構成されているGALAペプチドが、酸性pHではα-ヘリックス構造を形成して細胞膜を透過するが、中性pHでは細胞膜を透過しないことを示す。
【0029】
文献[J. Am. Chem. Soc., 2015, 137:12199-12202, 2015]は、MelP5ペプチドの変異体であるpHD15、pHD24、pHD108は酸性条件、すなわちpH5前後で高い膜透過活性を示すが、中性条件、すなわちpH7前後では膜透過活性を示さないことを示し、文献[Org Biomol Chem. 2016, 14(26):6281-8]は、LPペプチドの変異体であるLPE3-1、LPH4がpH5前後で高い膜透過活性を示すが、pH7.4では膜透過活性を殆ど示さないことを示す。
【0030】
文献[Biochemistry 2015, 54:6567-6575]は、ATRAMペプチドが固形がんの細胞外環境のpHと類似する弱酸性pHでのみ膜透過性を示すことを開示する。
【0031】
前記例示されたpH依存的細胞透過性ペプチドのアミノ酸配列は、下記から確認することができる。
LPE3-1:H2N-GWWLALAEAEAEALALASWIKRKRQQ-COOH(配列番号1)
LPH4:GWWLALALALALALALASWIHHHHQQ-COOH(配列番号2)
pHD15:H2H-GIGEVLHELADDLPDLQEWIHAAQQL-COOH(配列番号3)
pHD24:H2N-GIGDVLHELAADLPELQEWIHAAQQL-COOH(配列番号4)
pHD108:H2N-GIGEVLHELAEGLPELQEWIHAAQQL-COOH(配列番号5)
ATRAM:GLAGLAGLLGLEGLLGLPLGLLEGLWLGLELEGN-COOH(配列番号6)
【0032】
本発明の薬物運搬体において、細胞標的化領域とpH依存的膜透過性ペプチドは、リンカーの媒介なしに直接互いに共有的に結合するか、或いはリンカーを介して共有的に結合することができる。
【0033】
細胞標的化領域が抗体、リガンド、ペプチド、サイトカインなどのタンパク質である場合、pH依存的膜透過性ペプチドとの直接的な共有結合は、タンパク質である細胞標的化領域の末端アミノ酸のカルボキシ基(またはアミノ基)とpH依存的ペプチド末端アミノ酸のアミノ基(またはカルボキシ基)を、当業分野に公知になっている方式で化学的に結合させることにより行われることができる。また、このような結合は、これらの結合体を暗号化する組み換え核酸を、適切な発現ベクターに挿入し、その発現ベクターを適切な宿主微生物(大腸菌やHO細胞、NSO細胞、Sp2/O細胞、COS細胞、HEK細胞などの動物細胞など)に形質転換させて融合タンパク質の形態で発現させ、分離、精製することにより行われることができる。当業分野では、遺伝子組み換え核酸技術、発現ベクターの構成、選別マーカー遺伝子、形質転換方法、宿主微生物、宿主微生物の培養(培養培地の組成、培養方法、高収率の培養方法、目的タンパク質の分離方法など)はすべて公知になっており、相当な量の文献が蓄積されているため、これらの文献を参照することができる。例えば、文献[Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)]、文献[Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (2001)]、文献[F M Ausubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley amp; Sons, Inc. (1994)]、文献[Marston, F (1987) DNA Cloning Techniques]などを参照することができる。
【0034】
細胞標的化領域がタンパク質であって、pH依存的ペプチドとの直接的な共有結合を形成する場合、細胞標的化領域の標的との特異的結合性やpH依存的ペプチドの細胞透過性に影響を及ぼさないように、数個または数十個のアミノ酸からなるスペーサー(spacer)を介在させることができる。このようなスペーサーが介在した本発明の薬物運搬体は、化学反応によって、または前述した組み換え融合タンパク質の製造方法と同様の方法によって製造できる。
【0035】
細胞標的化領域が抗体、リガンド、ペプチド、サイトカインなどのタンパク質である場合、そのタンパク質は、pH依存的膜透過性ペプチドと、リンカーの媒介なしに直接水素結合などの静電気的相互作用(charge interaction)、疎水性相互作用などを介して非共有的に結合することができる。例えば、タンパク質である細胞標的化領域が陰電荷を帯びる表面を有する場合には、陽イオン性を帯びるpH依存的膜透過性ペプチドと静電気的相互作用を介して互いに結合することができる。同様に、タンパク質である細胞標的化領域が疎水性領域を含む場合、疎水性を帯びるpH依存的膜透過性ペプチドと静電気的相互作用を介して結合することができる。
【0036】
細胞標的化領域がアプタマーである場合も、pH依存的膜透過性ペプチドと、リンカーの媒介なしに静電気的相互作用(charge interaction)、疎水性相互作用などを介して非共有的に結合することができる。核酸であるアプタマーは、陰電荷を帯びるため、例えば陽イオン性を帯びるpH依存的ペプチドと静電気的相互作用を介して結合する。
【0037】
本発明の薬物運搬体において、細胞標的化領域とpH依存的ペプチドは、リンカーを介して共有的に結合することもできる。
【0038】
本発明において、リンカーは、ペプチドやリガンド、抗体、抗体断片などのタンパク質のアミン基(amine group)、カルボキシ基(carboxyl group)またはスルフヒドリル基(sulfhydryl group)や、アプタマーなどの核酸のリン酸基(phosphate group)、ヒドロキシ基(hydroxyl group)を介して結合することができる官能基を有する任意のリンカーを使用することができる。
【0039】
このようなリンカーの官能基は、イソチオシアネート(isothiocyanate)、イソシアネート(isocyanates)、アシルアジド(acyl azide)、NHSエステル(NHS ester)、塩化スルホニル(sulfonyl chloride)、アルデヒド(aldehyde)、グリオキサール(glyoxal)、エポキシド(epoxide)、オキシラン(oxirane)、炭酸塩(carbonate)、アリールハライド(aryl halide)、イミドエステル(imidoester)、カルボジイミド(carbodiimide)、無水物(anhydride)、フルオロフェニルエステル(fluorophenyl ester)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethyl phosphine)、マレイミド(maleimide)、ハロアセチル(haloacetyl)、ピリジルジスルフィド(pyridyldisulfide)、チオ硫酸塩(thiosulfonate)、またはビニルスルホン(vinylsulfone)などであることができる。
【0040】
リンカーは、プロテアーゼによって切断可能であるか、酸または塩基条件で切断可能であるか、高温又は光照射によって切断可能であるか、或いは還元または酸化条件で切断可能なリンカーであってもよく、これらの条件で切断可能でないリンカーであってもよい。
【0041】
切断可能なリンカーとしては、例えば、酸性条件で切断されるヒドラゾン(hydrazone)リンカー、プロテアーゼによって切断されるペプチドリンカー、還元条件で切断されるジスルフィド(disulfide)官能基を有するリンカーなどを挙げることができ、切断可能でないリンカーとしては、MCC(Maleimidomethyl cyclohexane-1-carboxylate)リンカー、MC(maleimidocaproyl)リンカー、またはその誘導体としてのスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sMCC)リンカーやスルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sulfo-sMCC)を挙げることができる。
【0042】
また、リンカーは、自壊的リンカー(self-immolative linker)またはトレースレスリンカー(traceless linker)であることができる。自壊的リンカーは、例えば、発明の名称が「Hydrophilic self-immolative linkers and conjugates thereof」である米国特許第9,089,614号に開示されたリンカー、名称が「SELF-IMMOLATIVE LINKERS CONTAINING MANDELIC ACID DERIVATIVES、DRUG-LIGAND CONJUGATES FOR TARGETED THERAPIES AND USES THEREOF」である国際公開第2015/038426号に開示されたリンカーを挙げることができ、トレースレスリンカーとしては、フェニルヒドラジドリンカー、アリール-トリアゼンリンカー、文献[Blaney, et al., "Traceless solid-phase organic synthesis," Chem Rev. 102: 2607-2024 (2002)]に開示されたリンカーなどであることができる。
【0043】
また、リンカーは、同種二機能性リンカー(2以上の同じ反応性官能基を有するリンカー)または異種二機能性リンカー(2以上の異なる反応性官能基を有するリンカー)であってもよい。
【0044】
同種二機能性リンカーは、例えば、3’,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート(DTSSP)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)、ジスクシンイミジルタルトレート(DST)、ジスルホスクシンイミジルタルトレート(スルホDST)、エチレングリコビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、ジスクシンイミジルグルタレート(DSG)、N,N-ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)、ジメチルアジピミデート(DMA)、ジメチルピメリミデート(DMP)、ジメチルスベルイミデート(DMS)、ジメチル-3,3’-ジチオビスプロピオンイミデート(DTBP)、1,4-ジ-3’-(2’-ピリジルジチオ)プロピオンアミド)ブタン(DPDPB)、ビス-[β-(4-アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド(BASED)、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、o-トルイジン、3,3’-ジメチルベンジジン、ベンジジン、α,α’-p-ジアミノジフェニル、ジヨード-p-キシレンスルホン酸、N,N’-エチレン-ビス(ヨードアセトアミド)、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(ヨードアセトアミド)などを挙げることができる。
【0045】
異種二機能性リンカーは、アミン反応性及びスルフヒドリル反応性クロスリンカー、カルボニル反応性及びスルフヒドリル反応性クロスリンカー、アミン反応性及び光反応性クロスリンカー、スルフヒドリル反応性及び光反応性クロスリンカーなどを挙げることができるが、アミン反応性及びスルフヒドリル反応性クロスリンカーとしては、例えば、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(sPDP)、長鎖N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(LC-sPDP)、水溶性-長鎖N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(スルホ-LC-sPDP)、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン(sMPT)、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート(スルホ-LC-sMPT)、スクシンイミジル-4-(N-マレイイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sMCC)、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-sMCC)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBs)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(スルホ-MBs)、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(sIAB)などを挙げることができ、カルボニル反応性及びスルフヒドリル反応性クロスリンカーとしては、例えば、4-(4-N-マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド(MPBH)、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシル-ヒドラジド-8(MH)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド(PDPH)などを挙げることができ、アミン反応性及び光反応性クロスリンカーとしては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸(NHs-AsA)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸(スルホ-NHs-AsA)、スルホスクシンイミジル-(4-アジドサリチルアミド)ヘキサノエート(スルホ-NHs-LC-AsA)、スルホスクシンイミジル-2-(ρ-アジドサリチルアミド)エチル-1,3’-ジチオプロピオネート(sAsD)、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート(HsAB)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート(スルホ-HsAB)、N-スクシンイミジル-6-(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート(sANPAH)、スルホスクシンイミジル-6-(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート(スルホ-sANPAH)、N-5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド(ANB-NOs)などを挙げることができ、スルフヒドリル反応性及び光反応性クロスリンカーとしては、例えば、1-(ρ-アジドサリチルアミド)-4-(ヨードアセトアミド)ブタン(AsIB)、N-[4-(ρ-アジドサリチルアミド)ブチル]-3’-(2’-ピリジルジチオ)プロピオンアミド(APDP)、ベンゾフェノン-4-ヨードアセトアミド、ベンゾフェノン-4-マレイミドなどを挙げることができる。
【0046】
一部の態様において、リンカーは、樹枝型(dendritic type)のリンカーである。樹脂型のリンカーは、分枝状、多機能性連結部を有し、そのようなリンカーとしては、例えばPAMAMデンドリマーを挙げることができる。
【0047】
当業分野では、上記に例示したリンカー以外にも、本発明に適用可能な数多くのリンカーが相当な数の文献を通じて公知になっている。それらの文献として、具体的には、文献[Castaneda, et al, "Acid-cleavable thiomaleamic acid linker for homogeneous antibodydrug conjugation," Chem Commun. 49: 8187-8189 (2013)]、文献[Lyon, et al, "Self-hydrolyzing maleimides improve the stability and pharmacological properties of antibody-drug conjugates," Nat Biotechnol. 32(10):1059-1062 (2014)]、文献[Dawson, et al "Synthesis of proteins by native chemical ligation," Science 1994, 266, 776-779]、文献[Dawson, et al "Modulation of Reactivity in Native Chemical Ligation through the Use of Thiol Additives," J Am Chem Soc. 1997, 119, 4325-4329]文献[Hackeng, et al "Protein synthesis by native chemical ligation: Expanded scope by using straightforward methodology," Proc Natl Acad Sci USA 1999, 96, 10068-10073]、文献[Wu, et al "Building complex glycopeptides: Development of a cysteine-free native chemical ligation protocol," Angew Chem Int Ed 2006, 45, 4116-4125]、文献[Geiser et al "Automation of solid-phase peptide synthesis" in Macromolecular Sequencing and Synthesis, Alan R Liss, Inc, 1988, pp 199-218]、文献[Fields, G and Noble, R (1990) "Solid phase peptide synthesis utilizing 9-fluoroenylmethoxycarbonyl amino acids", Int J Peptide Protein Res 35:161-214]などや、米国特許第6,884,869号、米国特許第7,498,298号、米国特許第8,288,352号、米国特許第8,609,105号、米国特許第8,697,688号、米国特許公開第2014/0127239号、米国特許公開第2013/028919号、米国特許公開第2014/286970号、米国特許公開第2013/0309256号、米国特許公開第2015/037360号、米国特許公開第2014/0294851号、国際特許公開WO2015/057699号、国際特許公開WO2014/080251号、国際特許公開WO2014/197854号、国際特許公開WO2014/145090号、国際特許公開WO2014/177042号などを参照することができる。
【0048】
本発明の薬物運搬体は、他の態様において、細胞標的化領域とpH依存的膜透過性ペプチドが、生体適合性高分子を介してまたはキャリアにして結合されることもできる。
生体適合性高分子は、生体組織又は血液と接触して組織を壊死させるか或いは血液を凝固させない組織適合性(tissue compatibility)及び血液適合性(blood compatibility)を持っている高分子を意味する。
好ましくは、本発明に適した生体適合性高分子キャリアは、合成ポリマーまたは天然ポリマーである。
【0049】
本発明の好適な具現例によれば、前記生体適合性高分子としての合成ポリマーは、ポリエステル、ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(β-ヒドロキシ酸)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バリレート、PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシプロプリオネート、PHP)、ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート、PHH)、ポリ(4-ヒドロキシ酸)、ポリ(4-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4-水酸化吉草酸)、ポリ(4-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(エステルアミド)、ポリカプロラクトン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-co-グリコリド、PLGA)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(チロシンカーボネート)、ポリカーボネート、ポリ(チロシンアリレート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、PHA-PEG、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンとエチレン-アルファオレフィンコポリマー、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロックコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ビニルハライドポリマー及びコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニリデンハライド、ポリビニリデンフルオリド、ポリビニリデンクロリド、ポリフルオロアルケン、ポリペルフルオロアルケン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族、ポリスチレン、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、エチレン-メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ABS樹脂とエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリアミド、アルキド樹脂、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸-co-マレイン酸またはポリアミノアミンである。
【0050】
好ましくは、前記生体適合性ポリマーとしての天然ポリマーは、キトサン、デキストラン、セルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、イヌリン、澱粉またはグリコーゲンである。また、好ましくは、本発明に適した生体適合性高分子は、デンドリマー構造を有するポリマーである。例えば、ポリアミノアミンのデンドリマーが、本発明で生体適合性高分子として使用できる。
【0051】
生体適合性高分子を、本発明でのように薬物などのキャリアとして使用するのと関連しては、当業分野にかなりの文献が公知になっており、さらに具体的なものは、これらの文献を参照することができる。これらの文献としては、文献[Kiran Dhaliwal, "Biodegradable Polymers and their Role in Drug Delivery Systems" Biomedical Journal of Scientific & Technical Research, 2018, 11(1):8315-8320]、文献[Avnesh Kumari, et al., "Biodegradable polymeric nanoparticles based drug delivery systems" Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2010, 75(1):1-18]、文献[Kumaresh S Soppimath, et al., "Biodegradable polymeric nanoparticles as drug delivery devices" Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2001, 70(1):1-20]などを例示することができる。
【0052】
本発明は、他の態様において、前述した薬物運搬体と薬物とが結合された、薬物運搬体と薬物の複合体に関する。本発明の薬物運搬体と薬物の複合体において、薬物は、薬物運搬体の細胞標的化領域又はpH依存的細胞透過性ペプチドとリンカーを介して共有的に結合するか、或いはリンカーを介さずに非共有的に結合することができる。
【0053】
本発明の薬物運搬体と薬物の複合体は、具体的に、図1に示すように、薬物-細胞標的化領域-pH依存的細胞透過性ペプチドの順に連結されるか、或いは細胞標的化領域-薬物-pH依存的細胞透過性ペプチドの順に連結されるか、或いは細胞標的化領域-pH依存的細胞透過性ペプチド-薬物の順に連結された形態であることができる。また、図1に示すように、生体適合性高分子を介して薬物、細胞標的化領域及びpH依存的細胞透過性ペプチドが任意の順に結合されることもできる。
【0054】
本発明の薬物運搬体と薬物の複合体において、薬物を薬物運搬体に結合させるためのリンカーは、本発明の薬物運搬体に関連して例示したリンカーを、薬物に応じて適切なものを選択して使用することができる。例えば、薬物に、アルデヒド反応基を有するリンカーを連結し、薬物運搬体の抗体(細胞標的化領域)のN末端のアミノ基に結合させることができる。
【0055】
薬物運搬体と薬物の結合に使用されるリンカーは、標的細胞の外で安定的であって切断されず、標的細胞内の酸性条件であるエンドソームまたはリソソームでも切断されないリンカーであることが好ましい。このようなリンカーは、標的細胞の外で安定的であって切断されないことにより、薬物が細胞内に移動するようにし、酸性条件であるエンドソームまたはリソソームで切断されないことにより、エンドソームまたはリソソームから細胞質へ移動することができるようにする。
【0056】
本発明の薬物運搬体と薬物の複合体において、薬物は、薬物運搬体に非共有的に結合することもできる。例えば、核酸にインターカレーション(intercalation)されて効果を発揮する、抗がん剤の一種であるドキソルビシンなどのインターカレート剤(intercalator agents)は、薬物運搬体の細胞標的化領域としてアプタマーを使用する場合にアプタマーに非共有的にインターカレーション(intercalation)方式で結合することができる。アプタマーは、オリゴヌクレオチド分子であるので、ヌクレオチド塩基の塩基スタッキング(base stacking)があり、この塩基スタッキングの間に薬物がインターカレーション(intercalation)方式で結合することができる。
【0057】
本発明の薬物運搬体と薬物の複合体において、薬物は、それが細胞内に移動して効果を発揮することができる薬物であれば、特別な制限はない。そのような薬物は、細胞毒性抗がん剤などの任意の低分子化合物からなる薬物、組み換えタンパク質、siRNAなどの任意のバイオ医薬品であることができる。また、薬物は、効能の面で抗炎症剤、鎮痛剤、抗関節炎剤、鎮痙剤、抗うつ剤、抗精神病薬物、精神安定剤、抗不安剤、麻薬拮抗剤、抗パーキンス病薬、コリン作動性アゴニスト、抗がん剤、血管新生阻害剤、免疫抑制剤、免疫促進剤、抗ウイルス剤、抗生剤、食欲抑制剤、鎮痛剤、抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、抗片頭痛剤、ホルモン剤、冠状血管、血管拡張剤、避妊薬、抗血栓剤、利尿剤、抗高血圧剤、心血管疾患治療剤、造影剤などの診断剤などであることができる。
【0058】
本発明において、薬物は、好ましくは、細胞毒性抗ガン剤である。細胞毒性抗がん剤は、代謝拮抗剤(Antimetabolites)、微細管(microtubulin)標的化剤(Tubulin polymerase inhibitor及びTubulin depolymerisation)、アルキル化剤(Alkylating agents)、有糸分裂阻害剤(Antimitotic Agents)、DNA切断剤(DNA cleavage agent)、DNA架橋剤(DNA cross-linker agent)、DNAインターカレート剤(DNA intercalator agents)、DNAトポイソメラーゼ阻害剤(DNA topoisomerase inhibitor)などに大別できるが、代謝拮抗剤としては、メトトレキサート(Methotrexate)などの葉酸(Folic acid)誘導体、クラドリビン(Cladribine)などのプリン(Purine)誘導体、アザシチジン(Azacitidine)などのピリミジン(pyrimidine)誘導体、ドキシフルリジン(Doxifluridine)、フルオロウラシル(Fluorouracil)などが当業分野に公知になっており、微細管標的化剤としては、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、ドラスタチンなどのアウリススタチン系の薬物、メイタンシン(Maytansines)などが当業分野に公知になっており、アルキル化剤としては、ブスルファン(Busulfan)、トレオスルファン(Treosulfan)などのアルキルスルホネート(Alkyl Sulfonate)製剤、ベンダムスチン(Bendamustine)などのナイトロジェンマスタード(Nitrogen Mustard)誘導体、シスプラチン(Cisplatin)、ヘプタプラチン(Heptaplatin)などの白金(Platinum)製剤などが当業分野に公知になっている。また、有糸分裂阻害剤(Antimitotic Agents)としては、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)などのタキサン(Taxane)製剤、ビンフルニン(Vinflunine)などのビンカアルカリド(Vinca alkalids)、エトポシド(Etoposide)などのポドフィロトキシン(Podophyllotoxin)誘導体などが当業分野に公知になっており、DNA切断剤(DNA cleavage agent)としては、カリケミシン(Calicheamicins)などが公知になっており、DNA架橋剤(DNA cross-linker agent)としては、PBD二量体などが公知になっている。また、DNAインターカレート剤としては、ドキソルビシンなどが当業分野に公知になっており、DNAトポイソメラーゼ阻害剤としては、SN-28などが当業分野に公知になっている。
【0059】
また、薬物は、遺伝子、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ペプチド、リボザイム、ウイルス粒子、免疫調節剤、タンパク質、造影剤などであってもよい。より具体的には、薬物は、網膜芽細胞腫の腫瘍サプレッサ遺伝子の変異体であるRb94をコードする遺伝子、腫瘍細胞でのみアポトーシスを誘導するアポプチンをコードする遺伝子であることができ、治療標的となるHER-2などに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列:5’-TCC ATG GTG CTC ACT-3’)であることができ、MRI造影剤であるGd-DTPA物質などの診断造影剤であることもできる。
【0060】
本発明の薬物運搬体と薬物との複合体は、薬学的に許容される担体を含むことにより、当業分野に公知になっている通常の方法で投与経路に応じて経口用剤形または非経口用剤形の薬学的組成物に製造できる。ここで、「薬学的に許容される担体」は、生物体を刺激せずに投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体または希釈剤をいう。液状溶液に製剤化される組成物において許容される薬学的担体としては、滅菌及び生体に適したものであって、生理食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びこれらの成分のうちの1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。
【0061】
前記担体は、特にこれに限定されないが、経口投与の場合には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。
【0062】
本発明の組成物の剤形は、上述したような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造できる。例えば、経口投与の場合には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ、ウェーハなどの形態で製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多数回投薬の形態で製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0063】
製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含むことができる。
【0064】
また、本発明の薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤よりなる群から選ばれるいずれかの剤形を持つことができる。
【0065】
また、前記組成物は、薬学的分野で通常の方法によって、患者の身体内投与に適した単位投与型の製剤、好ましくはペプチド医薬品の投与に有用な製剤に剤形化させ、当業分野における通常使用される投与方法を用いて経口、または皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内または直腸経路を含む非経口投与経路によって投与できるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
また、前記結合体は、生理食塩水または有機溶媒のように薬学的に許容される様々なキャリア(carrier)と混合して使用でき、安定性又は吸水性を増加させるためにグルコース、スクロースまたはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)またはグルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート物質(chelating agents)、低分子タンパク質または他の安定化剤(stabilizers)が薬剤として使用できる。
【0067】
薬学的組成物の製剤化に関連しては、当業分野に公知になっており、具体的に文献[Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed., 1995)]などを参照することができる。前記文献は、本明細書の一部としてみなされる。
【0068】
本発明の薬学的組成物の好ましい投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢、患者の重症度、投与経路に応じて1日0.001mg/kg~10g/kgの範囲、好ましくは0.001mg/kg~1g/kgの範囲であることができる。投与は、1日1回または数回に分けて行われることができる。このような投与量は、いずれの側面であれ、本発明の範囲を制限するものと解釈されてはならない。
【発明の効果】
【0069】
前述したように、本発明によれば、特定の標的細胞にのみ選択的に(または特異的に)作用することにより、薬物の副作用は軽減させ、薬物の薬効は増大させることができる薬物運搬体、及びそれと薬物の複合体を提供することができる。本発明の薬物運搬体は、抗がん剤、免疫抑制剤、造影剤などの薬物運搬体として有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】本発明によって製造される薬剤運搬体と薬物の複合体の構成を図式化して示すものである。CTDは細胞標的化ドメインを意味し、DRDは膜透過性ペプチドであって薬物放出ドメインを意味し、Drugは薬物を意味する。
図2】LPE3-1ペプチドを使用したときのHPLC分析結果とポリアクリルアミドゲル(PAGE)電気泳動画像である。
図3】HER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体、及びそれらの結合体のポリアクリルアミドゲル(PAGE)電気泳動画像である。
図4】HER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に、薬物運搬体と薬物の複合体としてHER2 Ap、PLK1 siRNA及びLPE3-1からなる複合体を処理した結果の画像である。
図5】HER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に対する、5種の薬物運搬体と薬物の複合体の処理によるアポトーシスを調査した結果である。
図6】それぞれHER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に対する、HER2 Ap、PLK1 siRNA及びLPE3-1からなる薬物運搬体と薬物の複合体の処理時間によるアポトーシス誘導効果を示す結果である。
図7】それぞれHER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に対する、HER2 Ap、PLK1 siRNA及びLPE3-1からなる薬物運搬体と薬物の複合体の処理濃度によるアポトーシス誘導効果を示す結果である。
図8】pH7.0の条件で、HER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に対する、5種の薬物運搬体と薬物の複合体の処理によるアポトーシス程度をミトコンドリア膜電位変化測定によって得た結果である。
図9】pH5.5の条件で、HER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に対する、5種の薬物運搬体と薬物の複合体の処理によるアポトーシス程度をミトコンドリア膜電位変化測定によって得た結果である。
図10】HER2が過剰発現するBT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞株に様々な対照群の薬物運搬体を処理したときのアポトーシス程度を示す結果である。
図11】HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に試験群薬物運搬体を処理したときの処理時間別のアポトーシス程度を示す結果である。
図12】HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に試験群薬物運搬体を処理したときの処理時間別のアポトーシス程度を示す結果である。
図13】HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に試験群の薬物運搬体を処理したときの処理濃度別のアポトーシス程度を示す結果である。
図14】HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に試験群の薬物運搬体を処理したときの処理濃度別のアポトーシス程度を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明を実施例を参照して説明する。しかし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
<実施例1>薬物放出性に優れたペプチドの選定のための薬物運搬体の製造
<実施例1-1>薬物運搬体の製造のための材料の準備
本実施例で製造される薬物運搬体は、細胞標的化ドメイン(cell targeting domain、CTD)と薬物(drug)と薬物放出誘導性を有するペプチド(drug release domain、DRD)とが結合された構造(CTD/薬物/DRD)を持つ。
【0073】
CTDはHER2(human epidermal growth factor receptor 2)特異的アプタマー(HER2_Ap)を使用し、薬物はPLK1(Polo-like kinase 1)に特異的なsiRNAを使用し、薬物放出誘導性を有するペプチドは下記表1の5種のペプチドを使用した。
【0074】
【表1】
【0075】
前記HER2は、ヒト上皮細胞成長因子受容体(HER/EGFR/ErbB)系のメンバーであって、乳がん患者の重要なバイオマーカー及び治療標的として知られている(Nature Clinical Practice Oncology, 2006, 3:269-280; World J Clin Oncol. 2017, 8(2):120-134)。本実施例では、HER2を標的分子にして製作されたHER2に特異的なアプタマー(Varmira K. et al., Nucl Med Biol. 2013, 40(8):980-6)をCTDとして使用した。また、前記PLK1は、細胞分裂において中心的な役割をする調節者であって(Cell Rep. 2013, 3(6):2021-32)、様々なヒト腫瘍細胞で過剰発現されるため、抗がん治療の重要な標的となっている因子である(Transl Oncol. 2017, 10(1):22-32)。本実施例では、PLK1を治療の標的とするPLK1 siRNA(Song WJ. et al.,Small, 2010, 6(2):239-246)を薬物として使用した。
【0076】
本実施例の薬物運搬体を製造するために、まず、HER2特異的アプタマー(HER2-specific aptamer、HER2 Ap)配列、スペーサー(spacer)配列(下記配列番号10における下線付きの塩基配列)、及びPLK1 siRNAのセンス鎖(PLK1 siRNA SS)を指示する配列を有する、下記配列番号10の一本鎖核酸DNA(HER2 Ap/PLK1 siRNA SS;韓国、バイオニア社製)、また、PLK1 siRNAのセンス鎖(PLK1 siRNA SS)を指示する下記配列番号11の一本鎖核酸DNA(韓国、バイオニア社製)をそれぞれ注文製作する一方、また、PLK1 siRNAのアンチセンス鎖(PLK1 siRNA AS)を指示する下記配列番号12の一本鎖核酸DNA(米国、BioSynhesis社製)と前記表1のペプチド(米国、Biocompare社製)をそれぞれ注文製作した。
【0077】
HER2 Ap-スペーサー-PLK1 siRNA SS:AGC CGC GAG GGG AGG GAA GGG TAG GGC GCG GCT-TTTT-TGA AGA AGA TCA CCC TCC TTA TT(配列番号10)
PLK1_siRNA_SS:TGA AGA AGA TCA CCC TCC TTA TT(配列番号11)
PLK1_siRNA_AS:TAA GGA GGG TGA TCT TTC TTC A(配列番号12)
【0078】
<実施例1-2>HER2特異的アプタマーとPLK1 siRNAセンス鎖との接合体の製造
HER2特異的アプタマーとPLK1 siRNAセンス鎖との接合体であるHER2 Ap/PLK1 siRNA SSの製造のために、まず、前記注文製作した配列番号10のDNA一本鎖核酸を鋳型として、T7プロモーター配列(下記配列番号13における下線付きの塩基配列)がある下記配列番号13の順方向プライマーと配列番号14の逆方向プライマーを用いてPCRを行うことによりPCR産物を得、次にこれを鋳型として2’-F-置換ピリミジンを用いてDuraScribe(登録商標)T7 Transcription Kit(米国、Lucigen社製)で体外転写を行うことにより、HER2 Ap-スペーサー-PLK1 siRNA SS接合体を製造した。前記接合体は、2’-F-置換ピリミジンを含んでいるRNA転写体であって、自然状態のRNAよりも生体内安定性が高い。
【0079】
T7プロモーターがある順方向プライマー:TAA TAC GAC TCA CTA TAG GGA GA AGC CGC GAG GGG AGG GAA(配列番号13)
逆方向プライマー:AAT AAG GAG GGT GAT CTT(配列番号14)
上記において、PCRは、1,000pmolesの一本鎖核酸DNA(配列番号10)、2500pmoles PCRのプライマー対、50mM KCl、10mM Tris-Cl(pH8.3)、3mM MgCl、0.5mM dNTP(dATP、dCTP、dGTP、及びdTTP)、0.1U Taq DNAポリメラーゼ(米国、Perkin-Elmer製)を用いて行い、PCR増幅物をQIAquick-spin PCR精製カラム(米国、QIAGEN Inc.製)で精製した。
【0080】
また、上記において、2’-F-置換ピリミジンを含むRNAの製造は、DuraScribe(登録商標)T7 Transcription Kit(米国、Lucigen社製)を用いて体外転写で合成し、精製して準備した。具体的には、200pmolesの二本鎖DNA PCR増幅物、40mM Tris-Cl(pH8.0)、12mM MgCl、5mM DTT、1mMスペルミジン、0.002%Triton X-100、4%PEG 8000、5U T7 RNAポリメラーゼ、及びヌクレオチドである1mM ATP、1mM GTP、3mM 2’F-CTP、3mM 2’F-UTPを37℃で6~12時間反応させて行った。結果物をBio-Spin 6クロマトグラフィーカラム(米国、Bio-Rad Laboratories製)で精製した。
【0081】
<実施例1-3>PLK1 siRNAのアンチセンス鎖とペプチドの接合体(PLK1 siRNA AS/ペプチド)の製造
本実施例において、オリゴヌクレオチドであるPLK1 siRNAのアンチセンス鎖と、表1の5種の各ペプチドとを接合させてPLK1 siRNAのアンチセンス鎖とペプチドとの接合体であるPLK1 siRNA AS/ペプチドを製造した。このために、アミノ官能基を反応性の高いアルデヒド官能基に転換させる試薬である、化学式1のS-4FBリンカーまたは化学式2のS-SS-4FBリンカーを含む抗体オリゴヌクレオチドオールインワン接合キット(Antibody-Oligonucleotide All-in-One Conjugation Kit、米国、Solulink社製)を使用した。
【0082】
【化1】
化学式1
【化2】
化学式2
【0083】
まず、PLK1 siRNAのアンチセンス鎖(PLK1 siRNA AS)を指示する前記配列番号12の一本鎖核酸DNAを鋳型として用いて、5’末端にアミノ基が付着し且つ2’-F-置換ピリミジンを含むPLK1 siRNAのアンチセンス鎖(PLK1 siRNA AS)を注文製作した(韓国、バイオニア社製)。
【0084】
次に、前記PLK1 siRNA ASの凍結乾燥物に抗体オリゴヌクレオチドオールインワン接合キット(米国、Solulink社製)の100μlのOligoResuspension Solutionを添加して0.5 OD260/μlのPLK1 siRNA AS溶液を準備した。このPLK1 siRNA AS溶液に対して、オリゴ脱塩用スピンカラムで脱塩工程を行った。この脱塩されたPLK1_siRNA_AS溶液に、DMFに溶けたS-4FB溶液を添加して、0.5 OD260/μlのPLK1 siRNA AS溶液となるようにして、室温で2時間反応させてPLK1 siRNA ASのアミノ官能基に、アルデヒド官能基を持つS-4FBリンカーが連結されるように誘導した。この反応が終結すると、上述のように脱塩工程を行い、結果物を収集した。
【0085】
その後、前記表1のペプチド(米国、Biocompare社製)を、100mMリン酸カリウム(pH5.49)緩衝溶液を用いて7.1mg/mlに濃縮した。また、前記S-4FBリンカーで変形したPLK1 siRNA ASを50%DMSO(Dimethyl sulfoxide)溶媒に溶かして2.5mg/mlとなるようにした。その後、前記二つの溶液を、ペプチドとS-4FBリンカーで変形したPLK1_siRNA ASとのモル比が1:9となるように混合した。
【0086】
前記混合反応溶液にNaCNBH(Sigma社製、米国)を最終20mMとなるように添加した後、4℃で12時間徐々に攪拌させながら反応させた。反応していないペプチド、S-4FBリンカー、及び変形したPLK1 siRNA ASを分離するために、セファデックスG-25カラム(米国、GE Healthcare社製)またはリソースフェニルカラム(米国、GEヘルスケア社製)を使用した。このような過程でPLK1 siRNA ASがLPE3-1などのペプチドのアミノ末端に選択的に結合された形態を製造した。このように製造されたPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体を、HPLC分析し、非変性(15%)ポリアクリルアミドゲル(PAGE)電気泳動法とSYBR Gold染色によって確認した(図2)。ちなみに、図2はペプチドとしてLPE3-1ペプチドを使用したときの結果であって、図2のAはPLK1 siRNA ASとLPE3-1ペプチドとの反応混合物のHPLC分析結果であり、図2のBは精製された接合体のHPLC分析結果であり、図2のCはPLK1 siRNAのAS(1)、PLK1 siRNAのASとLPE3-1ペプチドとの反応混合物(2)、及び精製された接合体(3)のポリアクリルアミドゲル(PAGE)電気泳動画像である。
【0087】
<実施例1-4>薬物運搬体の製造
HER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体との間に二本鎖を形成して本発明の薬物運搬体を製造した。
HER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体との間に二本鎖結合体を形成するために、アニーリング緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.4、50mM NaCl、及び1mMエチレンジアミン四酢酸)で、前記製造した50μM HER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体と50μM PLK1 siRNA AS/ペプチド接合体を95℃で3分間熱変性させ、20℃で徐々に冷却させてHER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体との結合体の形成を誘導した。
【0088】
このように形成されたHER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体との結合体を、上述のようにオリゴ脱塩用スピンカラムで脱塩させ、0.22μmの滅菌ろ過膜でミリポア(Millipore)遠心分離を行って精製した後、前記結合体の形成を、非変性(15%)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法と臭化エチジウム染色によって確認した(図3)。
【0089】
図3において、一番目のカラムは分子量マーカーであり、二番目のカラムはPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体試料、三番目のカラムはHER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体の未精製反応混合物としてPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体を含む試料、四番目のカラムはHER2 Ap/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体との反応混合物を精製してPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体が除去された試料を分析した結果である。
【0090】
<実施例2>薬物放出性に優れたペプチドの選定
<実施例2-1>アポトーシスの測定
【0091】
前記実施例1において、前記表1の5種類のペプチドを用いて製造された薬物運搬体のアポトーシス効能は、PI(Propidium Iodide)染色法、phospho-H2AX分析法及びAnnexin V FITC Apoptosis detection kit(米国、BD社製)を用いて調査した。
【0092】
HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞とHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞を、12ウェルプレートにウェル当り10個で接種し、培養して37℃の細胞培養器で24時間安定化過程を予め行った。その後、アポトーシスを誘導するために、実施例1で製造した5種類の薬物運搬体を添加して培養した。72時間培養が終わる40分前に、PIとHoechstをそれぞれ1μg/mLの最終濃度で細胞に処理した。サンプルプレートは、HCS(High-Content Screening)システム(米国、ThermoFisher Scientific社製)でリアルタイムにて分析した。アポトーシスの初期指標であるphospho-H2AXに対して、処理された細胞を、2%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)とHoechst染料で30分間固定させた後、Triton X-100で透過性に作り、ウシ血清アルブミン(米国、Sigma-Aldrich製)とマウス抗-ヒトphospho-H2AX(米国、Abcom;1:100の希釈)を添加して室温で1時間反応させた後、ウサギ抗マウスAlexa Fluor 488抗体(米国、Invitrogen製;1:100の希釈)を添加した。各過程の後に、細胞をPBSで穏やかに洗浄した。最後に、サンプルプレートを分析し、イメージをHCSシステムで分析した。
【0093】
正常的に生きている細胞は、phospho-H2AXとPIに対して陰性であるが、初期死滅過程の細胞は、phospho-H2AXに対しては陽性であり、PIに対しては陰性である。後期死滅過程の細胞は、PIに対して陽性反応を示す(図4参照)。
【0094】
図4はHER2が過剰発現する細胞BT-474とHER2が発現しないMDA-MB-231細胞の培養溶液に、前記製造したHER2標的化薬物運搬体を処理して確認した結果であり、HER2標的化薬物運搬体を処理した場合、HER2が過剰発現される細胞株であるBT-474は、PIに対して陽性であって後期死滅過程であり、HER2が発現しない細胞株であるMDA-MB-231は、phospho-H2AXに対しては陽性であって死滅初期段階であることが分かる。このような結果は、本発明のHER2標的化薬物運搬体が、HER2陰性細胞株であるMDA-MB-231細胞よりはHER2陽性細胞株BT-474にさらに多く流入してアポトーシスを誘導することを示す。
【0095】
一方、Annexin V FITC Apoptosis Detection Kitを用いた分析のために、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞とHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞を、96well培養容器に準備した後、37℃の細胞培養器で24時間安定化過程を前もって行った。その後、72時間の間、実施例1で製造した5種類の薬物運搬体を50nM処理してアポトーシスを誘導した。前記処理した細胞を冷たいPBSで2回洗浄した後、1×10細胞/mlの濃度で1X結合緩衝液に懸濁し、その後、100μlの溶液(1×10細胞/ml)を5mlの培養チューブに移し、5μlのFITC Annexin Vと5μlのPI(Propidium Iodide)を添加した。溶液を柔らかくボルデキシング(vortexing)し、室温(25℃)の暗所で15分間培養した。その後、400μlの1X結合バッファを各チューブに添加し、1時間以内にフローサイトメトリー分析で分析した。細胞の二重蛍光シグナルは、マイクロキャピラリーフローサイトメトリー計測器(米国、BD社製)を用いて分析した。
【0096】
このように50nMの処理濃度とpH7.0で5種類の薬物運搬体の抗腫瘍能力(アポトーシス効果)を調べて図5に示した。図5を参照すると、5種類の薬物運搬体のうち、pH非依存的膜透過性ペプチドであるメリチン、LPまたはHylin a1で構成された薬物運搬体は、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞とHER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞の両方ともで高いアポトーシス効果を誘導し、pH依存的膜透過性ペプチドであるLPE3-1とpHD24で構成された薬物運搬体はいずれも、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞に対しては殆どアポトーシス効果を誘導しないのに対し、過剰発現するBT-474細胞では高いアポトーシス効果を誘導した。
【0097】
pH7.0でHER2 Ap、PLK1 siRNA及びLPE3-1からなる薬物運搬体の処理時間及び処理濃度によるアポトーシス誘導効果を図6及び図7に示したが、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞のアポトーシスには殆ど影響がないが、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株には、処理時間及び処理濃度に応じて増加することを観察することができた。
【0098】
これらの結果は、特定の細胞の標的に特異的なアプタマーなどのドメインを、pH依存的膜透過活性を有するpHD24、LPE3-1などのペプチドと一緒に薬物運搬体として使用する場合、生体環境である約pH7で標的分子を発現する細胞に対してのみ薬物が特異的に効果を示すことにより、薬物副作用を軽減させる効果を出すことができることを示すといえる。
【0099】
<実施例2-2>ミトコンドリア膜電位変化の測定
Flow Cytometry Mitochondrial Membrane Potential Detection Kit(米国、BD社製)を用いてミトコンドリア膜電位の変化を検知するのに使用した。細胞サンプルの準備は、前記アポトーシス分析の場合と同様である。1mlの細胞溶液(1x10cells/ml)を15mlの培養チューブに移し、800rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を除去した後、0.5mlのJC-1溶液を添加し、室温(25℃)の暗所で15分間培養した。沈殿物を1mlの1xアッセイバッファで800rpmにて5分間洗浄した後、再遠心分離した。この過程を2回繰り返し行った後、0.5mlの1xアッセイバッファを加えて沈殿物を再懸濁した。最後に、0.5mL溶液の二重蛍光シグナルは、マイクロキャピラリーフローサイトメトリー(micro capillary flow cytometer)(米国、BD社製)を用いて分析した。また、細胞培養培地のpHは、必要に応じて酸又はアルカリ溶液で調整した。
【0100】
Flow Cytometry Mitochondrial Membrane Potential Detection Kitは、細胞のミトコンドリア膜電位の変化を測定し、その結果をアポトーシスと表示し、アポトーシスは、しばしばΔΨの脱分極に関連して、FL-2チャンネルでJC-1蛍光が減少した細胞数が増加する。つまり、アポトーシス集団は、しばしば陰性対照群よりも低い赤色蛍光シグナル強度(FL-2軸)を示す。一部のアポトーシスシステムにおいて、FL-1で測定された緑色蛍光のレベルの変化がまた観察された。
【0101】
pH依存的放出を確認するために、5種類の薬物運搬体を処理した後、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞とHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞のミトコンドリア膜電位の変化測定によって得られたアポトーシス程度を調査した結果を、図8及び図9に示した。
【0102】
50nMの処理濃度とpH7.0で24時間の間に、メリチン、LP、Hylin a1、LPE3-1及びpHD24を用いた薬物運搬体の処理で、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞におけるミトコンドリア膜電位の変化から確認したアポトーシス効果は、メリチン、Hylin a1及びLP運搬体の場合には平均22.0%、LPE3-1とpHD24運搬体の場合には平均6.0%であった(図8参照)。HER2遺伝子を過剰発現するBT-474細胞におけるミトコンドリア膜電位の変化から確認したアポトーシス効果は、メリチン、Hylin a1及びLP運搬体の場合には平均23.0%であり、LPE3-1及びpHD24運搬体の場合には平均28.0%であった(図8参照)。
【0103】
50nMの処理濃度とpH5.5でHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞のミトコンドリア膜電位の変化から確認したアポトーシス効果は、メリチン、Hylin a1及びLP運搬体の場合には平均25.0%であり、LPE3-1及びpHD24運搬体の場合には平均27.0%であり、HER2遺伝子を過剰発現するBT-474細胞のミトコンドリア膜電位の変化から確認したアポトーシス効果は、メリチン、Hylin a1及びLP運搬体の場合には平均25.0%であり、LPE3-1及びpHD24運搬体の場合には平均28.0%であった(図9参照)。
【0104】
このようなFlow Cytometry Mitochondrial Membrane Potential Detection Kitによるアポトーシス分析の結果は、前記実施例2-1のAnnexin V FITC Apoptosis Detection Kitで分析した結果と類似の様相であることが分かった。
【0105】
前記実施例の結果は、pH依存的膜透過活性を有するペプチドを、特定の細胞の標的を認識するドメインと共に使用する場合、標的を発現する細胞にのみ作用することにより、標的を発現しない細胞に作用することによる副作用軽減などの効果を出すことができることを示唆するといえる。
【0106】
<実施例3>パクリタキセルなどを含む薬物運搬体の製造
<実施例3-1>試験群薬物運搬体の製造
本実施例で製造された薬物運搬体は、(1)HER2 Ap/PLK1 siRNA/LPE3-1、(2)HER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1、(3)HER2 Ap/PAX/LPE3-1、及び(4)HER2 Ab/PAX/LPE3-1である。
【0107】
ここで、HER2 AbはHER2に特異的な抗体を意味し、PAXはパクリタキセル(Paclitaxel)を意味する。パクリタキセルは、乳がん、子宮がんなどの抗がん治療剤として広く使用されているジテルペノイド(Diterpenoid)系抗がん剤である。
【0108】
3.1.1 HER2 Ap/PLK1 siRNA/LPE3-1の製造
HER2 Ap/PLK1 siRNA/LPE3-1薬物運搬体は、CTDである、HER2に対する特異的結合力を有し且つ2’-F-置換ピリミジンを含むRNAアプタマー、薬物であるPLK1 siRNA、及びDRDであるLPE3-1ペプチドから構成された薬物運搬体であり、前記実施例1と同様の方法で製造した。
【0109】
3.1.2 HER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1の製造
HER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1は、CTDである、HER2に対する特異的抗体(米国、ABCAM社製)、薬物であるPLK1 siRNA、及びDRDであるLPE3-1ペプチドから構成された薬物運搬体である。
まず、HER2 Ab/PLK1 siRNA SSの接合体を製作するために、2’-F-置換ピリミジンを含み且つ5’末端にアミノ基が導入された、下記配列番号15の配列を有するPLK1 siRNA SSを注文製作した(米国、BioSynhesis社製)。
UGA AGA AGA UCA CCC UCC UUA UU(配列番号15)
【0110】
次に、凍結乾燥させた前記PLK1 siRNA SSに、抗体オリゴヌクレオチドオールインワン接合キット(Antibody-Oligonucleotide All-in-One Conjugation Kit、米国、Solulink社製)のオリゴ再懸濁溶液(Oligo Resuspension Solution)を添加して0.5 OD260/μlの溶液を準備した。前記製造したPLK1 siRNA SS溶液を、オリゴ脱塩用スピンカラム(赤キャップ)で脱塩工程を行った。前記脱塩されたPLK1 siRNA SS溶液に、DMFに溶けたS-SS-4FB溶液を添加して0.5 OD260/μlのオリゴ溶液となるようにして、室温で2時間反応させてPLK1 siRNA SSのアミノ官能基にS-SS-4FBリンカーが連結されるように誘導した。この変形反応が終結すると、脱塩工程を実行し、収集した。
【0111】
その次に、HER2 Abを100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH5.49)で約7.1mg/mlに濃縮した。前記S-SS-4FBリンカーで変形したPLK1_siRNA_SSを50%DMSO(Dimethyl sulfoxide)溶媒に溶かして2.5mg/mlとなるようにした。
その後、前記二つの溶液を、HER2 AbとS-SS-4FBリンカーで変形したPLK1 siRNA SSとのモル比が1:9となるように混合した。
【0112】
前記反応溶液にNaCNBH(Sigma社製、米国)を最終20mMとなるように添加した後、4℃で12時間ゆっくりと攪拌させながら反応させた。反応していないHER2_Ab、S-SS-4FBリンカーと変形したPLK1 siRNA SSを分離するために、セファデックスG-25カラム(米国、GE Healthcare社製)またはリソースフェニルカラム(米国、GE Healthcare社製)を使用した。このような過程でPLK1 siRNA SSがHER2 Abのアミノ末端に選択的に結合された形態を製造した。
【0113】
PLK1 siRNA AS/LPE3-1の接合体は、前記実施例1に記載された方法で製造した。
HER2 Ab/PLK1 siRNA SSの接合体とPLK1 siRNA AS/LPE3-1の接合体とを結合させて二本鎖結合体を生成するために、アニーリング緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.4、50mM NaCl、及び1mMのエチレンジアミン四酢酸)で前記製造した50μMのHER2 Ab/PLK1 siRNA SSの接合体と50μMのPLK1 siRNA AS/LPE3-1の接合体を95℃で3分間熱変性させ、20℃で徐々に冷却してHER2 Ab/PLK1 siRNA_SSの接合体とPLK1 siRNA AS/LPE3-1の接合体との結合体を形成することを誘導した。
【0114】
こうして得られた二本鎖結合体を脱塩させ、0.22μmの滅菌ろ過膜でミリポア(Millipore)遠心分離を行って精製した後、前記結合体の形成を、非変性(15%)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法と臭化エチジウム染色によって確認した(結果図面を提示せず)。二本鎖結合体の量は、λ=260nmで計算されたモル吸収係数に基づいて分光光度計で測定し、RPHPLCによるHER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1構造である薬物運搬体の純度分析を行った。
【0115】
3.1.3 HER2 Ap/PAX/LPE3-1の製造
HER2 Ap/PAX/LPE3-1薬物運搬体は、CTDである、HER2に対する特異的結合力を有し且つ2’-F-置換ピリミジンを含むRNAアプタマー(HER2 Ap)、パクリタキセル(PAX)(Sigma-Aldrich Inc.、USA St Louis)、及びDRDであるLPE3-1ペプチドから構成された薬物運搬体である。
【0116】
本実施例では、まず、HER2 ApとLPE3-1ペプチドとを接合させ、ここにPAXを結合させて製造した。
【0117】
1) HER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体の製造
まず、HER2 Apは、スペーサー(下線付きの塩基配列)と2’-F-置換ピリミジンを含む配列番号16のRNAであって、実施例1と同様の方法で製造した。
AGC CGC GAG GGG AGG GAA GGG UAG GGC GCG GCU-UUUU(塩基配列16)
次いで、HER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体は、実施例1のPLK1 siRNA AS/LPE3-1ペプチド接合体の製造方法と同様の製造方法で製造するが、PLK1 siRNA ASの代わりにHER2 Apを用いて製造した。
【0118】
その後、下記PAXに導入されるマレイミド(Maleimide)と反応性を有するチオール(thiol)官能基をHER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体に導入するために、まず、2mgのSPDP(米国、Pierce Biotechnology社製)を320μLのDMSOに溶かして20mM SPDP試薬溶液を準備した。1.0mLのPBS-EDTAに溶けた2~5mgのAp-Pに25μLの20mM SPDP溶液を添加して、常温で30分間反応させた。脱塩カラムをPBS-EDTAで平衡化し、緩衝液を交換して反応副産物及び過量の非反応SPDP試薬を除去した。
【0119】
23mgのDTTをPBS-EDTAに溶解させて150mM DTT溶液を作った。SPDPで改質されたタンパク質1mLあたり0.5mLのDTT溶液を添加して(最終濃度50mM DTT)30分間反応させた。脱塩カラムをPBS-EDTAで平衡化し、DTTを除去するために、タンパク質を脱塩した。
【0120】
2)マレイミド(Maleimide)が導入されたPAXの合成
HER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体とPAXとの接合(conjugation)のために、リンカー(4-Maleimidobutyric acid)を用いて、チオール(Thiol)官能基と反応性がある(reactive)マレイミド官能基をPAXに導入した。
【0121】
PAX1g(1.17mmol、1eq)、4-マレイミド酪酸210mg(1.17mmol、1eq)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)140mg(2.34mmol、2eq)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)480mg(1.17mmol、1eq)を100mlの丸底フラスコ(Round flask)に仕込み、塩化メチレン(Methylene chloride)50mlを入れた後、常温で攪拌して反応させた。
【0122】
反応の進行は、TLC(Thin Layer Chromatography)法を用いて観察し、反応が終わると、蒸留水(DW)50mlを加えて振とうした(Work up)。(Rf Value=0.43、ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
【0123】
有機溶媒層を集めて硫化マグネシウム(Magnesium sulfide)で水分を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel column chromatography)を用いて分離した。ヘキサン:酢酸エチル=1:1のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを介して得た物質を濃縮して、マレイミドが導入されたPAXの化合物を620mg得た。
【0124】
3)マレイミドが導入されたPAXとチオール(Thiol)官能基が導入されたHER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体との結合体の製造
前記合成したマレイミドが導入されたPAX100mg(98mol、1eq)と、前記合成したチオール(Thiol)官能基が導入されたHER2 Ap/LPE3-1ペプチド接合体100mg(48mol、2eq)をそれぞれ1ml DMSOに溶かした後、二つの溶液を混合した。ここにDIPEA(Diisopropyl ethyl amine)2~3滴を入れた後、Vortexで5分間反応させた。反応の終結は、Elman試薬で確認し、黄色が消えると、得られた混合物に冷却ジエチルエーテル(Cooling diethyl ether)を加えた後、遠心分離して得られた化合物を沈殿させた。Prep-HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認し、凍結して粉末(powder)にした。
【0125】
3.1.4 HER2 Ab/PAX/LPE3-1の製造
HER2 Ab/PAX/LPE3-1薬物運搬体は、CTDである、HER2に特異的な抗体(HER2 Ab)、薬物であるパクリタキセル(PAX)、及びDRDであるLPE3-1ペプチドから構成された薬物運搬体である。
本実施例においても、まず、HER2 AbとLPE3-1ペプチドとを接合させ、ここにPAXを結合させて製造した。
【0126】
HER2 AbとLPE3-1ペプチドとを接合させるために、10mg/mlのHER2 Abと10mg/ml LPE3-1ペプチドを0.1M MES(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝液(pH5)にそれぞれ溶かした。また、EDAC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を10mg/mlで蒸留水に溶かした。前記LPE3-1ペプチド溶液と前記HER2 Ab溶液とを混合し、ここに前記EDAC溶液を添加した。次に、室温で2~3時間反応させてHER2 AbとLPE3-1ペプチドとの接合を誘導した。脱塩(すなわち、Cellu Sep透析を使用)及び適切な緩衝液の交換(一般的にはPBS#UP30715)をして保存した。
HER2 Ab/LPE3-1接合体のチオール(thiol)官能基化は、前記実施例3.1.3と同様の方法でSPDP試薬などを用いて行った。
次に、前記実施例3.1.3で製造したマレイミド(Maleimide)が導入されたPAXと、前記チオール官能基が導入されたHER2 Ab/LPE3-1接合体とを、前記実施例3.1.3と同様に反応させて、最終的にHER2_Ab/PAX/LPE3-1薬物運搬体を製造した。
【0127】
<実施例3-2>対照群薬物運搬体の製造
本実施例で製造された薬物運搬体は、前記実施例3-1で製造された試験群薬物運搬体の対照群薬物運搬体として製造されたものであり、具体的に、(1)HER2 Ap/LPE3-1、(2)HER2 Ab/LPE3-1、(3)HER2 Ap/PLK1 siRNA、(4)HER2 Ap/PAX、(5)HER2 Ab/PLK1_siRNA、(6)HER2 Ab/PAX、(7)LPE3-1/PLK1 siRNA、及び(8)LPE3-1/PAXを製造した。
【0128】
(1)HER2 Ap/LPE3-1の製造
前記実施例3.1.3と同様の方法で製造した。
【0129】
(2)HER2 Ab/LPE3-1の製造
前記実施例3.1.4と同様の方法で製造した。
【0130】
(3)HER2 Ap/PLK1 siRNAの製造
HER2 Ap/PLK1 siRNAは、HER2 Ap/PLK1 siRNA SSとPLK1 siRNA ASの二本鎖結合体であって、前記実施例1と同様の方法で製造するが、ただし、二本鎖結合体の形成反応でPLK1 siRNA AS/ペプチド接合体の代わりにPLK1 siRNA ASを使用した。
【0131】
(4)HER2 Ap/PAXの製造
チオール官能基が導入され、HER2に対する2’-F-置換ピリミジンを含むSH-HER2 Apを注文製作した(米国、BioSynhesis社製)。
マレイミド官能基が導入されたPAXの製造は、前記実施例3.1.3と同様の方法で行った。
前記マレイミド官能基が導入されたPAXと前記SH-HER2_Apとの接合は、前記実施例3.1.3と同様の方法で行った。
【0132】
(5)HER2 Ab/PLK1 siRNAの製造
HER2 Ab/PLK1 siRNAは、HER2 Ab/PLK1 siRNA SS接合体とPLK1 siRNA ASとの二本鎖結合体であり、前記実施例3.1.2と同様の方法で製造するが、ただし、二本鎖結合体の形成反応でPLK1 siRNA AS/LPE3-1接合体の代わりにPLK1 siRNA ASを使用した。
【0133】
(6)HER2 Ab/PAXの製造
HER2 Abのチオール官能基の導入は、前記実施例3.1.3と同様の方法で行うが、ただし、HER2 Ap/LPE3-1接合体の代わりにHER2_Abを用いて行った。
次に、マレイミド官能基が導入されたPAXと前記チオール官能基が導入されたHER2 Abとの接合は、前記実施例3.1.3と同様の方法で行った。
【0134】
(7)LPE3-1/PLK1 siRNAの製造
LPE3-1/PLK1 siRNAは、LPE3-1/PLK2_siRNA_SS接合体とPLK1 siRNA_ASとの二本鎖結合体であって、まず、LPE3-1/PLK2 siRNA_SSの接合体は、購入したLPE3-1ペプチドと注文製作した5’にアミノ基があるPLK1 siRNA SS(米国、BioSynhesis社製)を用いて、実施例3.1.3で提示したHER2-Ap/LPE3-1接合体の製造方法と同様の方法で行った。次に、PLK1 siRNA ASと前記実施例1と同様の方法で二本鎖結合体を形成させた。
【0135】
(8)LPE3-1/PAXの製造
LPE3-1のチオール官能基の導入は、前記実施例3.1.3と同様の方法で行うが、ただし、HER2 Ap/LPE3-1接合体の代わりにLPE3-1ペプチドを用いて行った。その後、前記実施例3.1.3と同様の方法で、マレイミド官能基が導入されたPAXと前記チオール官能基が導入されたLPE3-1ペプチドとを接合させた。
【0136】
<実施例4>パクリタキセルを含む薬物運搬体の抗がん活性
【0137】
抗がんの活性を確認するための細胞株は、前記実施例2と同様にBT-474とMDA-MB-231細胞株を使用した。
抗がん活性の確認に使用された薬物運搬体は、前記実施例3-1で製造された4種の試験群薬物運搬体である(1)HER2 Ap/PLK1 siRNA/LPE3-1、(2)HER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1、(3)HER2 Ap/PAX/LPE3-1及び(4)HER2 Ab/PAX/LPE3-1と、前記実施例3-2で製造した8種の対照群薬物運搬体である(1)HER2 Ap/LPE3-1、(2)HER2 Ab/LPE3-1、(3)HER2 Ap/PLK1 siRNA、(4)HER2 Ap/PAX、(5)HER2 Ab/PLK1 siRNA、(6)HER2 Ab/PAX、(7)LPE3-1/PLK1 siRNA及び(8)LPE3-1/PAXである。
【0138】
抗がん活性の確認は、前記薬物運搬体の処理濃度によるがん細胞株でのアポトーシス程度を、Annexin V FITC Apoptosis detection kit(米国、BD社製)で測定して確認した。
【0139】
BT-474細胞株とMDA-MB-231細胞株を、96ウェル培養容器に準備した後、37℃の細胞培養器で24時間安定化過程を予め行った。その後、72時間の間に試験群の薬物運搬体と対照群の薬物運搬体を濃度別に処理し、実施例2と同様の方法でアポトーシス程度を測定した。
【0140】
50nMの処理濃度とpH7.0で72時間培養する場合、対照群薬物運搬体のBT-474細胞株とMDA-MB-231細胞株に対するアポトーシス程度を無処理群対比百分率で図10に示し、50nMまたは1μMの処理濃度とpH7.0で試験群薬物運搬体の処理時間別のHER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に対するアポトーシス程度を無処理群対比百分率で図11及び図12に示し、pH7で72時間培養する場合、試験群薬物運搬体の処理濃度別のHER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に対するアポトーシス程度を無処理群対比百分率で図13及び図14に示した。
【0141】
図10を参照すると、対照群薬物運搬体のうち、HER2 Ap/LPE3-1、HER2 Ab/LPE3-1は、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株とHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞株の両方ともで抗がん効果がなかったのに対し、HER2 Ap/PLK1 siRNA、HER2 Ap/PAX、HER2 Ab/PLK1 siRNA、HER2 Ab/PAXはいずれも、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株でのみ抗がん効果があった。また、LPE3-1/PLK1 siRNA、LPE3-1/PAXは、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474及びHER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞の両方ともに抗がん効果がなかった。このような対照群薬物運搬体のアポトーシスに対する結果は、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474細胞株に、HER2に特異的なアプタマーまたは抗体が結合してエンドソームとして細胞に内在化し、エンドソームが酸化して一部の薬物運搬体が細胞質へ放出されて45~62%のアポトーシスを示すことを示唆する。
【0142】
また、図11乃至図14から確認されるように、4種の試験群薬物運搬体はいずれも、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞株には抗がん効能が殆どなかった(資料を提示せず)、BT-474細胞株に4種の試験群薬物運搬体に対する抗がん活性を確認した結果、薬物がPLK1 siRNAで構成されたHER2 Ap/PLK1 siRNA/LPE3-1とHER2 Ab/PLK1 siRNA/LPE3-1薬物運搬体は、培養時間に比例してがん細胞アポトーシス効果が高くなったが(図11)、また、EC50(50%アポトーシスに該当する濃度)が10nM以上投与区間では最大78%のアポトーシスを示した(図13)。薬物がPAXで構成されたHER2 Ap/PAX/LPE3-1とHER2 Ab/PAX/LPE3-1薬物運搬体も、培養時間に比例してがん細胞アポトーシス効果が高くなり(図12)、EC50が100nM以上投与区間で現れ、最大77%、75%アポトーシスを観察した(図14)。
【0143】
前記実施例で提示された抗がん活性確認実験の結果は、細胞標的化ドメインがある試験群薬物運搬体が、HER2遺伝子が過剰発現するBT-474に大きな抗がん効果があり、HER2遺伝子が発現しないMDA-MB-231細胞株に抗がん効果が殆どないため、少量の抗がん剤(PLK1 siRNA、パクリタキセル)で、特定の標的分子がある細胞に制限的に大きな抗がん効果を出すことができることを意味し、これにより、抗がん剤治療の副作用の軽減及び抗がん剤の効果増大を達成することができることを示唆するといえる。
【0144】
また、これらの結果は、細胞標的化ドメイン(CTD)、薬物及び薬物放出ドメイン(DRD)で構成された試験群薬物運搬体の投与の場合は、対照群薬物運搬体の投与と比較して少ない濃度でも薬物の効果を示すことができることを意味するといえる。
【0145】
本発明は、その一部の特別な具体例を参照して説明及び例示され、当業者は、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく、方法またはプロトコルの様々な改造(adaption)、変化、変形、置換、削除または付加が行われ得るものと理解するだろう。よって、本発明は、下記の請求の範囲によって定義され、それらの請求項は、合理的な範囲で広く解釈されるべきものと意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2022518139000001.app
【国際調査報告】