IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ コート ダジュールの特許一覧 ▶ インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)の特許一覧 ▶ センター ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィックの特許一覧 ▶ シーエイチユー ド ニースの特許一覧

特表2022-518159ヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(54)【発明の名称】ヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20220307BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20220307BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220307BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20220307BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C12N5/074
C12N5/077
A61P43/00 105
A61K35/35
A61K35/28
A61K35/32
A61P17/02
A61P17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021539468
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2020050720
(87)【国際公開番号】W WO2020144381
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】1900287
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521296052
【氏名又は名称】ユニバーシティ コート ダジュール
(71)【出願人】
【識別番号】504006489
【氏名又は名称】インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】518369442
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィック(シーエヌアールエス)
(71)【出願人】
【識別番号】521296063
【氏名又は名称】シーエイチユー ド ニース
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ダニ,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ドグリオ,アライン
(72)【発明者】
【氏名】ダニ-デイブスン,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】レタートレ,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BA24
4B065BC01
4B065BC41
4B065CA44
4C087AA01
4C087BB63
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明の主題は、ヒト脂肪組織幹細胞胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法に関する。この方法は、以下のステップ:ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと、先行するステップで得た混合物を、培養培地において浮遊液で培養するステップと
を含む。
【選択図】図1A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法であって、以下のステップ:
ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、培養培地中で浮遊培養するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法であって、以下のステップ:
ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、培養培地中で浮遊培養するステップと、
脂肪組織幹細胞の分化を誘導して分化した細胞を得るステップと
を含む、方法。
【請求項3】
分化した細胞が脂肪細胞または骨芽細胞であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
分化した細胞が脂肪細胞であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞外マトリックスの抽出が、非酵素的分離のステップを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
非酵素的分離のステップを含む細胞外マトリックスの抽出が、コラゲナーゼを含まないことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞外マトリックスの抽出が、機械的分離のステップを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出が、以下のステップ:
ヒト脂肪組織を遠心分離して少なくとも2つの個別の分画、すなわち遠心分離された細胞外マトリックスを含む分画A、および間質血管分画を得るステップと、
分画Aを機械的に分離して、細胞外マトリックスを得るステップと
を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
細胞外マトリックスのコラーゲンが、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスの混合物の培養が、以下のステップ:
前記混合物を、培養培地を含む浮遊培養のバッグに無菌的に移すステップと、
前記混合物を増幅させて細胞凝集体を形成するステップと、
前記細胞凝集体を機械的に分離するステップと
を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む単離された細胞外マトリックス。
【請求項12】
コラーゲンが、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンであることを特徴とする、請求項11に記載のマトリックス。
【請求項13】
IV型コラーゲンおよび/またはエラスチンおよび/またはフィブロネクチンおよび/またはラミニンをさらに含むことを特徴とする、請求項11または12のうちの1項に記載のマトリックス。
【請求項14】
請求項11、12、または13のうちの1項に記載の細胞外マトリックスと、脂肪組織血管網の内皮細胞および脂肪組織幹細胞を含む間質血管分画とを含む組成物。
【請求項15】
薬理学的な有効な物質をスクリーニングするための、請求項11、12、もしくは13に記載の細胞外マトリックスまたは請求項14に記載の組成物のin vitroまたはex vivoでの使用。
【請求項16】
特に形成外科手術および修復手術での細胞療法でそれらを使用するため、より具体的にはリポフィリングのための、請求項14に記載の組成物の分化した細胞。
【請求項17】
特に形成外科手術および修復手術での細胞療法でそれらを使用するため、より具体的にはリポフィリングのための、請求項14に記載の組成物の分化した脂肪細胞または骨芽細胞。
【請求項18】
特に形成外科手術および修復手術での細胞療法でそれらを使用するため、より具体的にはリポフィリングのための、請求項14に記載の組成物の分化した脂肪細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト脂肪組織幹細胞胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法に関する。さらに本発明は、分化した細胞、細胞外マトリックス、細胞外マトリックスおよび間質血管分画の混合物を含む組成物のin vitroまたはex vivoでの増幅方法、細胞外マトリックスの使用または細胞外マトリックスおよび間質血管分画の混合物を含む組成物の使用、ならびにそれらを使用するための本発明の方法により得られた分化した細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞療法は、組織または臓器が事故、疾患、または老化により損なわれる場合に、これらの機能を回復させることを目的とする細胞グラフトからなる。これは、いわゆる「治療用」細胞の単回注射により長期間の患者の処置を可能にする。これら細胞は、特に患者自身に由来する多能性幹細胞から得られる。
【0003】
リポフィリングは、身体または顔を再構築するために、身体の一領域から別の領域へ脂肪細胞(fat cellsまたはadipocyte)を移動させるための特定の細胞療法技術である。
【0004】
今日までに、特定の脂肪部位に存在する脂肪細胞のみが、細胞療法、特にリポフィリングに使用されている。しかしながら、状況に応じて、患者から入手可能な脂肪細胞の量は、限定的であり得る。たとえば、患者が低すぎるボディマス指数を有するか化学療法を経験したことがある場合、患者は、リポフィリングを行うために十分な脂肪組織を有さない場合がある。
【0005】
この状況では、自家脂肪細胞を産生させる必要があり、よって、特にリポフィリングのために大量の治療グレードの脂肪細胞を得るための細胞増幅方法が必要である。
【0006】
脂肪組織サンプルから脂肪細胞前駆細胞を単離し増幅させるための標準的な手法は、酵素による分離、次いで培養ディッシュのプラスチックに結合させることによりそれを2次元(2D)で増幅させることを含む。この手法は費用が高く、時間がかかり、コンタミネーションのリスクを増加させる多くの取り扱い作業を必要とする。さらにこれは、組織の三次元構造の破壊、ならびに、グラフトの血管形成および脂肪細胞の生理機能の両方にとって重要な役割を果たす内皮細胞などの目的の細胞型の喪失を誘導する。
【0007】
機械的なプロセスに基づくことが最も多い脂肪組織の非酵素的分離は、脂肪細胞前駆細胞の単離を可能にする。この種の分離は、コストがはるかに少なく、より迅速な代替方法として出現しつつあり、治療グレードの生産基準に従う製品の製造にとって明白な利点を有する(外部の生成物への曝露または夾雑物の低減)。他方で、今日までに記載された非酵素的な分離方法は、得られた脂肪細胞前駆細胞の数が酵素による分離と比較して少ないため、満足のいくものではない。その上これは、培養ディッシュ上でのそれらの2D増幅を必要とする。さらに、内皮細胞、細胞外マトリックス、および脂肪組織の三次元構造は、プロセスの終了時に失われる。
【0008】
その中に脂肪細胞前駆細胞を播種し、よって、脂肪組織の構造を最良に再構成する試みにおいて、異なる合成マトリックスが提案されている。またこのマトリックスは、移植の前にin vitroで脂肪細胞前駆細胞を非脂肪(本質的に骨または軟骨性の)細胞種へと方向付けるように作用する。また脱細胞された脂肪組織もまた、前駆細胞の分化を増大させ、脂肪組織の構造をより良好に模倣するために提案されている。これら全ての種のマトリックスの製造は、酵素反応または長期間の化学的処置を含む多くのステップを必要とする。さらに、脱細胞された組織は、定義により、これらの内因性細胞を失い、同様に、ネイティブマトリックスに固定される治療上重要な因子を失い、これによりこの種のマトリックスの臨床上の価値を低減する。(以前に酵素的分離により単離された)脂肪細胞前駆細胞に関して濃縮され、次に2D増幅を行った脱細胞されていない脂肪組織は、近年、良好な骨の再構築のためのマトリックスとして提案されている。この生体マトリックスの生成に要する時間は長く、3週間のin vitroでの培養を必要とし、脂肪細胞前駆細胞を増幅させない。著者らは、単に、骨修復に関する利点を強調していた。
【0009】
3次元(3D)の浮遊培養は、組織の構造および内因的な品質を保持することを本質的に可能にするため、標準的な2D方法に対して選択される代替方法を表す。この利点は、たとえばin vitroで脂肪組織を最良に模倣する関連のヒトモデルがないことが、2型糖尿病および心血管疾患などの肥満および関連する代謝性疾患を対処するために有効な新規医療品の開発のための前臨床試験における主要な制限であるため、重要である。さらに3D培養は、取り扱い作業およびコンタミネーションのリスクを減少させる閉鎖的な系において実現可能である。
【発明の概要】
【0010】
上記の観点から、本発明により対処される技術的問題は、治療グレードの大量のヒト脂肪組織幹細胞または分化した細胞をin vitroまたはex vivoで得ることである。
【0011】
この技術的問題に対する本発明の解決策の第1の目的は、ヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法であって、以下のステップ:
ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、培養培地中で浮遊培養するステップと
を含む、方法である。
【0012】
よって細胞外マトリックスの存在により可能となった間質血管分画の浮遊培養は、3D増幅が可能であり、大量の細胞に対するアクセスを与え、夾雑物のリスクを増加させる取り扱い作業を制限する。
【0013】
好適には、細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的分離のステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的分離のステップを含み;-間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの別個の分画、すなわち遠心分離された細胞外マトリックスを含む分画A、および間質血管分画を得るステップと;分画Aを機械的に分離して細胞外マトリックスを得るステップとを含み;細胞外マトリックスのコラーゲンはI型コラーゲンまたはIII型コラーゲンであり;ならびに前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下のステップ:前記混合物を、培養培地を含む浮遊培養のバッグに無菌的に移すステップと;前記混合物を増幅させて細胞凝集体を形成するステップと;前記細胞凝集体を機械的に分離するステップとを含む。
【0014】
第2の目的によれば、本発明は、分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法であって、以下のステップ:ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含むステップと;前記血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと;先行するステップで得た混合物を、培養培地において浮遊培養するステップと;脂肪組織幹細胞の分化を誘導して分化した細胞を得るステップとを含む、方法に関する。
【0015】
好適には、分化した細胞は、脂肪細胞または骨芽細胞、好ましくは脂肪細胞であり;細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的分離のステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的分離のステップを含み;間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して少なくとも2つの別個の分画、すなわち遠心分離された細胞外マトリックスを含む分画A、および間質血管分画を得るステップと;分画Aを機械的に分離して細胞外マトリックスを得るステップとを含み;細胞外マトリックスのコラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンであり;ならびに間質血管分画および前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下のステップ:前記混合物を、培養培地を含む浮遊培養のバッグに無菌的に移すステップと;前記混合物を増幅させて細胞凝集体を形成するステップと;前記細胞凝集体を機械的に分離するステップとを含む。
【0016】
第3の目的によれば、本発明は、上記に定義した方法により得ることができる単離された細胞外マトリックスであって、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、単離された細胞外マトリックスに関する。
【0017】
好適には、コラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンであり;細胞外マトリックスは、フィブロネクチンをさらに含む。
【0018】
第4の目的によれば、本発明は、上記に定義される細胞外マトリックスおよび間質血管分画の混合物を含む組成物であって、細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含み、間質血管分画が脂肪組織血管網の内皮細胞および脂肪組織幹細胞を含む、組成物に関する。
【0019】
好適には、コラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンであり;細胞外マトリックスは、フィブロネクチンをさらに含む。
【0020】
第5の目的によれば、本発明は、肥満および関連する代謝性疾患に対して薬理学的な有効な物質をスクリーニングするための上記に定義される細胞外マトリックスのin vitroでの使用または上記に定義される組成物のin vitroでの使用に関する。
【0021】
第5の目的によれば、本発明は、細胞療法、特に形成外科手術および修復手術での細胞療法でそれらを使用するため、より具体的にはリポフィリングのために意図された上記に定義される方法により得られた分化した細胞に関する。
【0022】
本発明は、添付の図面を参照して起草されたた以下の非限定的な説明を読むことにより、より良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A図1Aは、本発明に係る、細胞外マトリックスおよび間質血管分画を抽出し(ステップ1~3)、それらを共培養する(ステップ4)ための必要かつ十分なステップを概略的に表す。
図1B図1Bは、本発明に係る、細胞外マトリックス(M1~M4)および間質血管分画細胞集団(C1~C3)を順次抽出し(ステップ1~5)、それらを共培養する(ステップ6)ための方法のより詳細な略図を表す。
図2図2は、大部分が内皮型細胞からなる、増殖因子を補充した内皮細胞増殖培地培養培地(EGM+)中の浮遊培養での細胞集団C1を表す。
図3A図3Aは、接着培養での細胞集団C1のCD31+(内皮細胞マーカー)免疫蛍光標識を示す。
図3B図3Bは、接着培養での細胞集団C1のPDGFRa+(脂肪細胞幹細胞マーカー)免疫蛍光標識を示す。
図4図4は、CD31+内皮細胞からなる毛細管型血管網の形成およびPDGFRa+脂肪組織幹細胞からなる凝集体の存在を示すEGM+培養培地中の浮遊培養での細胞集団C2を示す。
図5図5は、PDGFRa+脂肪組織幹細胞からなる凝集体の存在を示す、EGM+培養培地中の浮遊培養での細胞集団C3の顕微鏡画像である。
図6A図6Aは、CD31+内皮細胞およびPDGFRa+脂肪組織幹細胞の相対的な比率を決定することを可能にする、細胞集団C2およびC3の定量的PCRを表す。
図6B図6Bは、細胞集団C2の脂肪細胞の分化能を示す蛍光顕微鏡画像である;核(濃灰色)脂肪滴(薄灰色)。
図6C図6Cは、蛍光顕微鏡画像を介して、細胞集団C3の脂肪細胞の分化能を示す;核(濃灰色)脂肪滴(薄灰色)。
図7図7は、マトリックスM1の線維状の型を、顕微鏡において特徴付ける。
図8図8は、マトリックスM2が、マトリックスの型;線維状の型およびコラーゲンを多く含む型の観点から不均一であることを顕微鏡により示す。
図9図9は、マトリックスM3の線維状の型を示す顕微鏡画像である。
図10A図10Aは、マトリックスM2が、コラーゲンを多く含む型であることを蛍光顕微鏡により示す;ピクロシリウスレッドで標識したコラーゲン(薄灰色)および核の標識(白色)。
図10B図10Bは、マトリックスM3が、線維状の型であることを蛍光顕微鏡により示す;ピクロシリウスレッドで標識したコラーゲン(薄灰色および白色の線維)および核の標識(白色)。
図11A図11Aは、マトリックスM4を含む機械的分離後の分画Aの遠心分離した脂肪組織の写真である。
図11B図11Bは、マトリックスM4における、オイルレッドO染色による成熟脂肪細胞(薄灰色)およびI型コラーゲン標識によるコラーゲンを多く含むマトリックス(非常に薄い灰色)を、蛍光顕微鏡により明らかにする。
図11C図11Cは、CD31免疫標識により、マトリックスM4におけるCD31+内皮細胞により形成される毛細管構造を示す;核標識(濃灰色)。
図11D図11Dは、マトリックスM4におけるPDGFRa+脂肪組織幹細胞血管網(薄灰色のドット)の存在を示す;核標識(濃灰色)。
図12図12は、増殖細胞の核において、Edu、すなわち5-エチニル(ethylnyl)-2’-デオキシウリジンを組み込むことにより、本発明に係る細胞外マトリックスにおいて内因性細胞が、EGM+培地中の浮遊培養で増殖し続けていることを示す;核(濃灰色)、増殖細胞(白色) マトリックス自家蛍光(薄灰色)。
図13図13は、本発明の細胞外マトリックスと共培養した外因性脂肪組織幹細胞が、これら脂肪組織幹細胞およびマトリックスに存在する内因性細胞から構成される構造を形成することを示す;3日間の共培養後に撮影された画像、核(濃灰色)、コラーゲン(薄灰色)、外因性脂肪組織幹細胞(薄灰色/白色)。
図14A図14Aは、細胞外マトリックスを含まない脂肪組織幹細胞および内皮細胞の浮遊液での細胞培養の間の細胞増殖を伴わない細胞凝集体の形成を示す;10日間の共培養の後に撮影された画像;核(濃灰色)、増殖細胞の核(非常に薄い灰色)。
図14B図14Bは、本発明の細胞外マトリックスと共培養した浮遊液での脂肪組織幹細胞および内皮細胞の増殖能を示す;10日間の共培養後に撮影された画像;Edu標識による核(濃灰色)、コラーゲンマトリックス(薄灰色)、増殖細胞の核(白色);
図15A図15Aは、本発明の細胞外マトリックスの存在下(右)及び非存在下(左)での浮遊培養により得られた分化した細胞集団におけるCD31内皮細胞マーカーの発現のレベルを示す。
図15B図15Bは、本発明の細胞外マトリックスの存在下(右)及び非存在下(左)での浮遊培養により得られた分化した細胞集団におけるPDGFRa脂肪細胞幹細胞の発現のレベルを示す。
図15C図15Cは、本発明の細胞外マトリックスの存在下(右)及び非存在下(左)での浮遊培養により得られた分化した細胞集団におけるPLN1成熟脂肪細胞マーカーの発現のレベルを示す。
図15D図15Dは、本発明の細胞外マトリックスの存在下(右)及び非存在下(左)での浮遊培養により得られた分化した細胞集団におけるアディポネクチン成熟脂肪細胞マーカーの発現のレベルを示す。
図16図16は、本発明の細胞外マトリックスの存在下での増幅および分化後の間質血管分画の蛍光顕微鏡による画像を表す;核(濃灰色)、成熟脂肪細胞(薄灰色)、コラーゲン性マトリックス(中程度の灰色)。
図17図17Aおよび17Bは、本発明による増殖能の活性化を示す画像である。図17Aでは、分離されていない脂肪組織は、増殖細胞を示していない。図17Bでは、組成は増殖細胞を示しており、増殖細胞の核は、この図面では白色で表されている。
図18図18A、18B、18C、および18Dは、単離された間質血管分画(SVF)において濃縮されたジペプチジルペプチダーゼー4の発現、および単離されたマトリックスにおいて濃縮されたICAM1の発現を示す。
図19図19Aおよび19Bはそれぞれ、本発明に係る増幅された組成物におけるM1型およびM2型のマクロファージの存在を示す。
図20図20は、本発明に係る細胞外マトリックスにおける特定のタンパク質の存在、および毛細管血管網の保存を示す写真のセットを含む。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を行うために、脂肪組織が供給される。
【0025】
本発明の第1の目的は、ヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法であって、以下のステップ:ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画と、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスとを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、培養培地中の浮遊培養で培養するステップと
を含む、方法である。またこの方法は、本明細書中以下で(ex vivoでの脂肪細胞の増殖のための:for Ex vivo Adipocytes Expansion)「ExAdEx法」とも呼ばれる。
【0026】
本発明によれば、「間質血管分画」は、ヒト脂肪組織サンプルに存在する細胞を表す。この間質血管分画は、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含む。
【0027】
本発明によれば、「細胞外マトリックス」は、生物活性マトリックス、すなわち脂肪組織の異なるタンパク質および内因性細胞を含むマトリックスを表す。この細胞外マトリックスは3D細胞増幅、すなわち、3次元での細胞の増殖を可能にする。また本発明の細胞外マトリックスは、本明細書中以下で「EndoStem-Matrix」または「EndoStem matrix」とも呼ばれる。
【0028】
脂肪組織の細胞外マトリックスのタンパク質は、コラーゲンを含む。このコラーゲンは、I型およびIII型である。脂肪組織の細胞外マトリックスのタンパク質は、フィブロネクチンをさらに含む。
【0029】
細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的分離のステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的分離のステップを含む。本発明の「機械的分離」は、細胞外マトリックスの構造をインタクトなまま保つことを可能にするが、対して酵素的消化は、一般的に、これを破壊するコラゲナーゼを含む。よって機械的分離は、細胞外マトリックスの「脈管構造」およびマイクロ構造を維持するのを助け、よって、細胞外マトリックスはin vivoでの脂肪組織の機構と同様の機構を有する。
【0030】
間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して少なくとも2つの個別の分画、すなわち遠心分離された細胞外マトリックスを含む分画A、および間質血管分画を得るステップと;分画Aを機械的に分離して細胞外マトリックスを得るステップとを含む。
【0031】
ヒト脂肪組織を遠心分離するステップはさらに、供給されるヒト脂肪組織に含まれる油、血液、および麻酔液を除去することを可能にする。またこのステップは、供給されるヒト脂肪組織の事前の洗浄から得られる生理食塩水を除去することも可能にする。
【0032】
特定の実施形態では、間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの個別の分画を得るステップであって、分画Aが、遠心分離した細胞外マトリックスを含み、分画Bが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含む、ステップと;分画Aを機械的に分離して、分離された細胞外マトリックスを含む分画A’を得るステップと;分画A’を遠心分離して少なくとも細胞外マトリックス、ならびにヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含む分画B’を得るステップと;分画BおよびB’を混合して間質血管分画を得るステップとを含む。
【0033】
この実施形態では、ヒト脂肪組織を遠心分離するステップは、供給されるヒト脂肪組織に含まれる油、血液、および麻酔液を除去することをさらに可能にする。またこのステップは、供給されるヒト脂肪組織の事前の洗浄から得られる生理食塩水を除去することを可能にする。分画A’を遠心分離することはさらに、全ての油および生理食塩水の残渣を除去することを可能にする。この分画A’を遠心分離するステップは任意である。
【0034】
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下のステップ;前記混合物を、培養培地を含む浮遊培養のバッグに無菌的に移すステップと;前記混合物を増幅させて細胞凝集体を形成するステップと;前記細胞凝集体を機械的に分離するステップとを含む。
【0035】
本発明に係る、「無菌的」に移すことは、好ましくは閉鎖的な系で行われる移動である。この無菌的移動は、細胞培養の間の混入物質の数を制限することを可能にする。増幅の間形成される凝集体の機械的分離は、系を開口することを必要とせず、よって、環境由来のエレメントによる培養の潜在的夾雑物に対する細胞性生成物の曝露を制限する。
【0036】
一実施形態では、浮遊培養のバッグの中の培養培地は、EGM+培地である。この培養培地は、上皮増殖因子(EGF)、塩基性増殖因子(Basic Growth Factor)(FGF2)、インスリン様増殖因子、血管内皮増殖因子165、アスコルビン酸、ヘパリン、およびヒドロコルチゾンによって強化された、内皮細胞(EGM)を増殖させるための基本培地(EGM+)を含む。EGM+培地はまた、脂肪細胞幹細胞を、それらの脂肪細胞への分化能を変化させることなく、増幅させることを可能にする。
【0037】
本発明の方法は、10超、好適には20超、特に30超、好ましくは35超の増幅係数での脂肪組織幹細胞の数の増幅を可能にする。増幅係数は、前記細胞外マトリックスの存在下で単離されたSVFを培養した後に得られた細胞の数と、本発明の前の細胞の数との間の比率である。実施例2に記載される特定の実施形態では、本発明の方法は、8日間で36の増幅係数を有する。
【0038】
第2の目的によれば、本発明は、分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法であって、以下のステップ;上記に定義されるヒト脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のステップと;脂肪組織幹細胞の分化を誘導して分化した細胞を得るステップとを含む。
【0039】
したがって、より具体的には、分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法は、以下のステップ:ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含むヒト脂肪組織の間質血管分画、および前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと;前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスを混合するステップと;先行するステップで得た混合物を、培養培地中で浮遊培養するステップと;脂肪組織幹細胞の分化を誘導して分化した細胞を得るステップとを含む。
【0040】
本発明によれば、分化した細胞は、脂肪細胞または骨芽細胞である。好ましくは、分化した細胞は、脂肪細胞である。
【0041】
分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法は、脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅に関連するステップを含み、脂肪組織幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法の上記に提供した詳細は、同様に、分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅方法にも当てはまる。
【0042】
特に、細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的分離のステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的分離のステップを含む。
【0043】
一実施形態では、間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して少なくとも2つの個別の分画、すなわち遠心分離された細胞外マトリックスを含む分画A、および間質血管分画を得るステップと:分画Aを機械的に分離して細胞外マトリックスを得るステップとを含む。
【0044】
さらなる実施形態では、間質血管分画および細胞外マトリックスの抽出は、以下のステップ:ヒト脂肪組織を遠心分離して少なくとも2つの個別の分画を得るステップであって、分画Aが、遠心分離した細胞外マトリックスを含み、分画Bが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含む、ステップと;分画Aを機械的に分離して、分離された細胞外マトリックスを含む分画A’を得るステップと;分画A’を遠心分離して少なくとも細胞外マトリックス、ならびにヒト脂肪組織血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織幹細胞を含む分画B’を得るステップと;分画BおよびB’を混合して間質血管分画を得るステップとを含む。
【0045】
細胞外マトリックスのコラーゲンは、ピクロシリウスレッド染色により検出されるI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンを含む。
【0046】
前記間質血管分画および前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下のステップ:前記混合物を、培養培地を含む浮遊培養のバッグに無菌的に移すステップと;前記混合物を増幅させて細胞凝集体を形成するステップと;前記細胞凝集体を機械的に分離するステップとを含む。
【0047】
第3の目的によれば、本発明は、上記に定義される方法により得ることができる単離された細胞外マトリックスであって、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含む、単離された細胞外マトリックスに関する。
【0048】
コラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンである。細胞外マトリックスは、フィブロネクチンをさらに含む。
【0049】
第4の目的によれば、本発明は、上記に定義される細胞外マトリックスおよび間質血管分画の混合物を含む組成物であって、細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織幹細胞、およびコラーゲンを含み、間質血管分画が、脂肪組織血管網の内皮細胞および脂肪組織幹細胞を含む、組成物に関する。
【0050】
コラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンである。細胞外マトリックスは、フィブロネクチンをさらに含む。
【0051】
第5の目的によれば、本発明は、肥満および2型糖尿病および心血管疾患などの関連する代謝性疾患に対して薬理学的な有効な物質をスクリーニングするための、上記に定義される細胞外マトリックスのin vitroでの使用または上記に定義される組成物のin vitroでの使用に関する。
【0052】
第5の目的によれば、本発明は、細胞療法、特に形成外科手術および修復手術での細胞療法でそれらを使用するため、より具体的にはリポフィリングのために意図された上記に定義される方法により得られた分化した細胞、またはそれらの使用に関する。
【0053】
形成外科手術および修復手術での使用の場合、細胞外マトリックスは、定義により、脂肪組織を得る患者に特異的な細胞を含む自家マトリックスである。
【0054】
リポフィリングでの使用では、本発明の方法で得られる分化した細胞は、脂肪細胞である。
【0055】
実施例
実施例1.機械的抽出
a)プロセスの間に細胞およびマトリックスの集団を特徴付けるための機械的抽出
ヒトのドナー由来の脂肪組織のサンプルからの、間質血管分画および細胞外マトリックスの機械的抽出は、以下のステップにより行うことができる(図1B):
1.-20kPaの陰圧下での2mmのColemanカニューレを備えた10ccの無菌性シリンジでの吸引による脂肪組織のサンプリング
2.異なる相を分離するために、シリンジを、回収チューブにおいて1600rcf(相対的な遠心分離の力)で3分間遠心分離する。油の分画および血液および麻酔液の分画を除去する。ペレット状の分画を保持する。
3.1単位の生理食塩水を、シリンジに注射した後、撹拌しながら37℃で30分間インキュベートする。シリンジを、回収チューブにおいて1600rcfで3分間遠心分離する。生理食塩水の分画および油の分画を除去する。ペレット状の分画を保持する。
4.シリンジを、Tulip(登録商標)型のコネクターにより別のメーカーのルアーロック型のシリンジに接続して、乳化による組織の分離を行う。3つの種類のTulip(登録商標)コネクター、2.4mm、1.4mm、および1.2mmを、30の経路に連続して使用する。
5.1単位の生理食塩水をシリンジに注射した後、撹拌しながら37℃で30分間インキュベーションする。シリンジを、回収チューブにおいて1600rcfで3分間遠心分離する。生理食塩水の分画および油の分画を除去する。ペレット状の分画を保持する。
6.事前に血液細胞を除去したシリンジの中身および回収チューブの中身を、増殖期のため37℃のEGM+培養培地を含む培養バッグに無菌性の接続を介して移す。
【0056】
組織を分離する上記のステップ4において、Tulip(登録商標)のブランド以外のブランドのコネクターを使用することができる。使用されるコネクターの数は、1~5である。使用されるこれらコネクターを介した経路の数は、10~50である。
【0057】
b)得られた細胞集団の特徴付け
上述の方法は、間質血管分画を3つの細胞集団へと順次抽出することを可能にする。これらの細胞集団は、特に光学顕微鏡および蛍光顕微鏡により特徴付けられる。
【0058】
本明細書においてC1と呼ばれるステップ2で得られた細胞集団は、大部分がCD31+内皮型細胞から構成される(図2および図3
【0059】
本明細書においてC2と呼ばれるステップ3で得られた細胞集団は、3Dで維持される際に毛細血管型の血管網を形成するCD31+内皮型細胞およびPDGFRa+脂肪組織幹細胞から構成される(図4および図6A)。細胞集団C2は、成熟脂肪細胞への分化能を有する(図6B)。
【0060】
本明細書においてC3と呼ばれるステップ5で得られた細胞集団は、浮遊液において球体を形成できるPDGFRa+脂肪組織幹細胞から構成される(図5および図6A)。細胞集団C3は、成熟脂肪細胞への分化能を有する(図6C)。
【0061】
c)本方法の異なるステップの間に得たマトリックスM1~M4の特徴付け
本明細書においてM1と呼ばれるステップ2で得られたマトリックスは、線維状の型である(図7)。
【0062】
本明細書においてM2と呼ばれるステップ3で得られたマトリックスは、線維状の型およびコラーゲンを多く含む型である(図8)。コラーゲンは、ピクロシリウスレッドで検出され、これによってコラーゲンの杆状構造を見ることが可能となる(図10A)。このマトリックスは、内因性細胞を含む。
【0063】
本明細書においてM3と呼ばれる、ステップ5で得られ、回収チューブで単離されたマトリックスは、線維状の型である(図9および図10B)。このマトリックスはまた、内因性細胞も含む。単離したマトリックス由来のコラーゲンは、図10Bにおいて、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンの線維を染色するピクロシリウスレッドで検出される。得られた赤い染色(図10Bではグレイスケール)は、コラーゲンが組織化されたままであること、すなわちコラーゲンが常にαヘリックス二次構造およびトリプルヘリックス4次構造を有することを表している。これは、分解されない。実際に、組織化されていないコラーゲンは、ピクロシリウスレッドにより緑色に染色される。
【0064】
本明細書においてM4と呼ばれる、ステップ5で得られシリンジに含まれるマトリックスは、大部分が成熟脂肪細胞およびI型コラーゲンフレームワークから構成される(図11B)。マトリックスM4はまた、CD31+内皮細胞(図11C)およびPDGFRa+脂肪組織幹細胞ネットワーク(図11D)により形成される毛細血管構造から構成される。
【0065】
図1Aは、ステップ2で集団C1およびC2ならびにマトリックスM1およびM2を回収するための方法を示す。ステップ3では、集団C3ならびにマトリックスM3およびM4が、まとめてグループ化されている。
【0066】
実施例2:細胞の増殖および分化
脂肪組織幹細胞をex vivoで増大させ、および脂肪組織を模倣する環境で分化させる方法は、以下のステップを含む:
1.集団C1~C3ならびにいわゆるEndoStem-MatrixのマトリックスM1~M4を含む実施例1で得られた最終生成物を、バッグ中で浮遊培養し、EGM+増殖培地において、5%COにて、37℃で24時間撹拌しながら維持し、次に、好ましくは撹拌しながら、同じ条件下で維持する。
2.EGM+増殖培地を、2日ごとに50%交換する。
3.5日目および10日目に、チューリップアセンブリにおける2つのシリンジまたは2つのバッグの中を通過させることによる閉鎖的な系での培養物の機械的分離を行う。
4.14日目に、EGM+増殖培地を、250μMのデキサメタゾン;500μMのIBMX;1μMのロシグリタゾン;2μMのT3および2.5μg/mlのインスリンで強化されたEGM+で構成される分化混合物Iと交換する。
5.17日目に、分化培地Iを、1μMのロシグリタゾン;2μMのT3および2.5μlのインスリンで強化されたEGM+で構成される分化培地IIと交換する。
【0067】
実施例3.マトリックスの増殖能の特徴付け
本発明のいわゆるEndoStem-Matrix細胞外マトリックスを、異なる特異的マーカーの存在下で、特に蛍光顕微鏡により特徴付ける。よって、増殖細胞を、生物活性であることを条件として、DNA複製期の間、図12に示されるように、本発明のEndoStem-Matrixマトリックスに蛍光Edu(5-エチニル(ethylnyl)-2’-デオキシウリジン)を組み込むことにより検出した。実際に、図12は、マトリックス中の内因性細胞が、増幅期の間増殖し続けていることを示している。
【0068】
さらに、図13は、本発明の細胞外マトリックスとの3日間の共培養後の脂肪組織幹細胞の存在を示している。よって細胞外マトリックスは、間質血管分画を増殖させるための物質を供給することを可能にし;添加される脂肪組織幹細胞は、浮遊液においてEndoStem-Matrixに結合し得る。
【0069】
図14Bを参照すると、間質血管分画は、本発明のEndoStem Matrix上でのその培養により増幅される。反対に、図14Aを参照すると、間質血管分画が細胞外マトリックスを含まない浮遊液で培養される場合、増殖を伴わない細胞凝集体が観察される。よって本発明の細胞外マトリックスは、添加される脂肪組織幹細胞の増幅能を有する。
【0070】
実施例1のステップで得られた異なるマトリックスM1~M4の細胞増幅能を検証した。その結果、約10個の脂肪組織幹細胞が、超低接着表面(Ultra-Low Attachment:ULA)ウェルにおいて異なるマトリックスM1~M4の存在下で浮遊し続けた。8日後に、細胞を、トリプシン/EDAを用いてマトリックスから剥がした後、計測した。得られた値を、以下の表1に示す。
【表1】
【0071】
上記の表において、個々のマトリックスM1~M4の特定の例での増幅係数は、細胞外マトリックスの存在下での培養後に得られた細胞の数と、細胞外マトリックスの非存在下で得られた細胞の数との間の比率である。
【0072】
マトリックスM2およびM4は、高い脂肪組織幹細胞の増幅能を有する。得られたマトリックスM2の体積は、M4の体積と比較して非常に小さい(図11A)。マトリックスM4は、本発明で定義される細胞外マトリックスを示す。
【0073】
異なる細胞マーカー(CD31内皮細胞マーカー、PDGFRa+脂肪細胞幹細胞マーカー、および2つのPLN1およびアディポネクチン成熟脂肪細胞のマーカー)の発現レベルを、本発明の細胞外マトリックス上での間質血管分画の浮遊培養後に分析した。図15は、本発明の細胞外マトリックスを含まない間質血管分画の浮遊培養から得られた細胞のこれらの発現レベルの比較を示す。この試験は、ヒト脂肪組織血管網の内皮細胞(図15A)およびヒト脂肪組織幹細胞(図15B)の増幅を示す。この試験はまた、本発明の細胞外マトリックスにより誘導される優れた分化能を証明することを可能にする(図15Cおよび15D)。よって、本発明の細胞外マトリックス上で3Dにて増幅された脂肪組織幹細胞は、脂肪細胞へのその分化能を保持している。
【0074】
図16は、本発明の細胞外マトリックスの存在下での間質血管分画の増幅および分化の後の核、成熟脂肪細胞、およびコラーゲン性マトリックスの存在を証明する。よって、本発明の細胞外マトリックスの存在下での分化は、脂肪組織のin vivoでの構造的な組織機構を保持することを可能にする。
【0075】
分離されていない脂肪組織は、外植片と等価であり得て、ex vivoで短期間生存し続けることに留意されたい。よって特に図12に示されるように、分離により単離されたマトリックスは、分離されていない組織とは異なるように、増殖細胞を含む。図17Aおよび17Bは、分離されていない組織(図17A)および単離されたマトリックス(図17B)での細胞増殖を比較することを可能にする。図17Aでは、分離されていない脂肪組織は、増殖細胞を示さない。図17Bでは、組成は、増殖細胞を示す。実際に、この図面は、増殖細胞の核を白色で示す。
【0076】
洗浄(wash)により液体を遠心分離することによって本発明により単離された細胞は、マーカーDPP4により分子的に特徴付けられることに留意されたい。DPP4は、高い増殖能を有し、脂肪組織の間質性細網に位置するプレ脂肪細胞前駆細胞を標識するマーカーである。これら細胞は、本発明に係る組成物において増殖能を有する。これら細胞が従来技術の方法により行われる洗浄後に除去されることに留意することは重要である。図18Aおよび18Bに示されるように、DPP4の発現は、単離されたSVF分画において濃縮される。マトリックスは、少量発現する。他方で、図18Cおよび18Dに示されるように、ICAM1の発現は、単離されたマトリックスで濃縮される。本組成物において増幅を有する細胞は、添加されたDPP4を発現する細胞である。
【0077】
さらに、in vivoで脂肪組織がマクロファージを含むこと、および本発明に係る増幅された組成物が、図19Aに示されるようにM1型のマクロファージの存在を維持し、図19Bに示されるようにM2型のマクロファージの存在を維持することに留意されたい。図19Aでは、M1型のマクロファージは、マーカーIL-1bにより検出され、図19Bでは、M2型のマクロファージは、MRC1により検出される。
【0078】
最後に、図20に示されるように、本発明に係る単離されたマトリックスは、細胞外マトリックスのタンパク質、すなわち、特にI型コラーゲン、IV型コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニンを含む。CD31内皮細胞の標識は、毛細血管網が保持されていることを示している。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図15D
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20
【国際調査報告】