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特表2022-518270金属カチオンと標的分子の共抽出のためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(54)【発明の名称】金属カチオンと標的分子の共抽出のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220307BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61M 1/14 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A61M1/16 160
A61P3/00
A61P9/00
A61P13/12
A61P3/10
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/00
A61M1/14
A61M1/16
A61M1/16 183
A61M1/16 109
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542492
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(85)【翻訳文提出日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 FR2020050104
(87)【国際公開番号】W WO2020152426
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】1900699
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520223974
【氏名又は名称】メクスブレン
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ティルメント
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ルクス
(72)【発明者】
【氏名】マリー・ヴィクター
(72)【発明者】
【氏名】デニス・ベシェ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ナツッジ
(72)【発明者】
【氏名】ジュール・ティルメント
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ブリシャル
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077BB01
4C077KK11
4C077KK13
4C077MM03
4C077NN04
(57)【要約】
本発明は、医療デバイスの分野、より詳細には生物内の少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の共抽出のためのデバイスに関する。これを行うために、デバイスは、a)標的分子に対して特異的親和性を有する少なくとも1種のリガンド、b)金属カチオンの抽出を可能にする少なくとも1種の手段であり、前記手段が少なくとも1種のキレート剤を含む灌流流体であり、灌流流体が透析又は微量透析システムに含有される手段を含む。これらのデバイスの使用により、例えば生物内の金属及び/又は標的分子の恒常性の調節不全に関連する病態、例えば神経学的疾患及び/又はタンパク質症を予防する及び/又は処置することが可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断又は治療目的のための少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の、生物学的流体、生物学的凝集物、臓器又は組織からの共抽出のためのデバイスであって、
a.標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンド、
b.金属カチオンの抽出のための少なくとも1種の手段であり、前記手段が少なくとも1種のキレート剤を含む灌流流体であり、前記灌流流体が透析又は微量透析システムに含有される手段
を含むことを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
金属カチオンの抽出のための前記手段が、透析又は微量透析システムに使用される灌流流体であり、前記灌流流体が標的分子に対して特異的親和性を示す前記リガンドを更に含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
- 少なくとも1種の金属カチオンに対するキレート剤の錯化定数log(KC1)が10より大きい、好ましくは15以上であり、
- 前記少なくとも1種のカチオンが、単独で又は組合せで金属Cu、Fe、Zn、Hg、Cd、Pb、Mn、Co、Gd及びAl、より詳細には単独又は組合せでCu、Fe及びZnのカチオンから選択される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記手段が、前記金属カチオンの含有量が1ppm未満、好ましくは0.1ppm未満、より好ましくは0.01ppm未満、更により好ましくは1ppb未満である場合、カチオンを生物学的流体、生物学的凝集物、臓器又は組織から抽出することを可能にする、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記手段が、その質量の少なくとも1%、好ましくはその質量の10%より多くに相当する分量の金属カチオンを抽出することを可能にする、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
透析膜及び灌流流体を含むリザーバを含む透析システムを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイスであって、前記灌流流体が、
- 活性成分として少なくとも1種のキレート剤を含むナノ粒子の溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であり、前記ナノ粒子及びリガンドの平均直径が透析膜の細孔より大きい溶液、
- キレート剤である少なくとも1種の活性成分がグラフトされているポリマーの溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であり、平均直径が前記透析膜の細孔より大きい溶液
の中から選択される、デバイス。
【請求項7】
キレート剤が、ナノ粒子又はポリマー上に以下の錯化分子:DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、DFO、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM、TETP及びDTPABA又はこれらの混合物のうちの1種をグラフトすることによって得られる、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、3~50nmの間の平均直径を有するポリシロキサンベースであり、DOTA、DOTAGA、EDTA又はDTPAをナノ粒子にグラフトすることによって得られるキレート剤を含むナノ粒子である、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
キレート剤が、少なくとも1種のアルカリ土類カチオン、好ましくはCa及びMgの中から選択される金属のカチオンを含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスのキレート剤の少なくとも10%がアルカリ土類カチオンと予備錯化され、前記デバイスのキレート剤の好ましくは20%、より好ましくは30%、更により好ましくは50%より多くがアルカリ土類カチオンと予備錯化される、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ナノ粒子がポリシロキサンベースである、又は前記ポリマーがキトサン若しくはポリエチレングリコール若しくはポリビニルアルコールベースである、請求項6から8及び10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
標的分子がタンパク質、ペプチド、糖タンパク質の中から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
標的分子がアミロイド形成タンパク質及びアミロイド構造体の成分の中から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
標的分子が、アミロイドーシス、タウオパシー又は1種若しくは複数のタンパク質ベースの沈着物を呈す任意の病態に関与する分子の中から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
標的分子が、タンパク質及び/又はそれらの前駆体、例えば免疫グロブリン軽鎖及び重鎖、血清アミロイドAタンパク質、トランスサイレチン、アポリポタンパク質AI、AII、AVI、CII又はCIII、ベータ2ミクログロブリン、ゲルゾリン、リゾチーム、フィブリノーゲン、シスタチンC、心房性ナトリウム利尿因子、カルシトニン、アミリン、インスリン、プロラクチン、ラクトフェリン、カドヘリン、ABri、ADan、アミロイドベータペプチド、プリオンタンパク質、アルファ-シヌクレイン、タウタンパク質、スーパーオキシドジスムターゼ、ハンチンチン、ニューロセルピン、アクチン、フェリチン又はこれらの混合物の中から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
リガンドが標的分子の抗体又は操作されたタンパク質リガンドである、請求項1から15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
リガンドが、
- アミロイドベータタンパク質を標的化する抗体、好ましくはソラネズマブ、アデュカヌマブ、クレネズマブ、ポネズマブ、GSK933776、ガンテネルマブ、AAB-003、AAB-001、BAN2401、LY2599666、LY3002813、LY33887299322、SARI1014、
- アルファ-シヌクレインを標的化する抗体、好ましくはBII054又はPRX002、
- タウタンパク質を標的化する抗体、好ましくはBII076、BII092、ABBV-8E12、JNJ-63733657、LY3303560、RG7345、RO7105705、UCB0107、
- 血清アミロイドAタンパク質を標的化する抗体、好ましくはデザミズマブ又はGSK2398852、ミリデサプ又はGSK2315698、GSK3039294、
- トランスサイレチンを標的化する抗体、好ましくはPRX004、
- アプタマー、
- 必要に応じてABD、アドヒロン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質、アトリマー/テトラネクチン、アビマー/マキシボディ、センチリン、DARPin1の中から選択される、分子のうちの少なくとも1種に対して特異的親和性を示す操作されたタンパク質リガンド、
- 流体力学直径が5nmより大きい、好ましくは100kDaより大きいナノ粒子又はポリマーにグラフトされた50kDa未満、好ましくは30kDa未満、より好ましくは5kDa未満の操作されたタンパク質リガンド、又は
- これらの混合物
の中から選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
以下の病態:
- 全身性及び/又は限局性アミロイドーシス、好ましくは
AL型アミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖)、AH型アミロイドーシス(免疫グロブリン重鎖)、AAアミロイドーシス(血清アミロイドAタンパク質)、ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン)、アミロイド心疾患、腎アミロイドーシス、II型糖尿病、プリオン病又はアミロイドタンパク質に関連する疾患の中から選択されるアミロイドーシス、
- 好ましくはアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、前頭側頭型認知症の中から選択されるタウオパシー、
- 少なくとも1種のタンパク質ベースの沈着物を呈す病態、
- 金属の恒常性不全を呈す疾患、好ましくはウィルソン病又は自閉症若しくは統合失調症等のアミロイド特性を有さない神経学的障害、又は中枢及び/若しくは末梢神経系に影響を及ぼす又は及ぼさないアミロイドーシス等のアミロイド特性を有する神経学的障害
のうちの1つを呈す患者に使用するための、請求項1から17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
微量透析システムであって、請求項1から18のいずれか一項に記載の抽出のためのデバイスを含み、少なくとも
- 灌流流体(11)を含む灌流リザーバ(7)と、抽出された化合物(12)を含む灌流流体を含む収集リザーバ(8)、又は灌流流体(11、12)を含む複合リザーバ(22)、
- 微量透析プローブ(1)を灌流リザーバ(7)と収集リザーバ(8)に、又は複合リザーバ(22)に接続させる二方向カテーテル(3)、
- 灌流流体(11)の第2の管腔(5)への通過を可能にする第1の管腔(4)であり、前記第2の管腔(5)が、抽出された化合物(12)を含む灌流流体の排出を可能にする第1の管腔(4)、及び生物学的流体に接触する、第2の管腔(5)と微量透析プローブ(1)の外部との間の微量透析膜(2)を含む微量透析プローブ(1)
を含む、微量透析システム。
【請求項20】
透析システムであって、請求項1から19のいずれか一項に記載の抽出のためのデバイスを含み、少なくとも
- 生物学的流体が透析システムに入ることを可能にする第2のカテーテル(5a)、及び生物学的流体が透析システムを出ることを可能にする第1のカテーテル(4a)を含む、分離した管腔(17)を備えたプローブ、
- i)灌流流体(11)、ii)灌流流体(11)を生物学的流体から分離する透析膜(18)を含む透析区画であり、生物学的流体が第2のカテーテル(5a)を介して前記透析区画に入り、第1のカテーテル(4a)を介して出る、透析区画を含むリザーバ(23)
を含む、透析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスの分野、より詳細には少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の、生物からの共抽出を可能にするデバイスに関する。これらのデバイスの使用により、例えば体内の金属及び/又は標的分子の恒常性の脱調節に関連する病態、例えば神経学的疾患及び/又はタンパク質症を予防する及び/又は処置することが可能になる。
【背景技術】
【0002】
生物の体内環境、つまり生物のすべての生物学的流体又は液体の恒常性の維持は、生物が適正に機能するために必要である。金属及び/又はペプチド若しくはタンパク質の恒常性の全身性又は局所的調節不全は、多くの疾患で示されている。
【0003】
金属に関して、急性中毒の場合に金属イオンの濃度を低減させることを目的としたキレート療法が既に長年にわたって使用されている。したがって、それぞれ金属の特定の群に関連付けられる多数のキレート剤がヒトに使用するために既に承認されている(G. Crisponiら, Coordination Chemistry Reviews, 2015)。
【0004】
ますます多くの科学研究により、金属、特に鉄だけでなく銅、亜鉛、マンガン、更にはアルミニウム及び鉛が多数の神経学的損傷に有しうる重要な役割が強調されている(E. J. McAllumら, J. Mol. Neurosci., 2016)。これは、脳の特定の領域における鉄の蓄積に関連した遺伝的異常に関連付けられる希少疾患であり、これまで対症的にしか処置されてこなかった鉄過剰症による神経変性に特に当てはまる(S. Wiethoffら, Handb. Clin. Neurol., 2017)。更に、多くの研究により、鉄は加齢とともに脳に蓄積しやすくなることが示されている(J. Acosta-Cabroneroら, Journal of Neuroscience, 2016)。ウィルソン病もまた遺伝的疾患であり、体内への銅の蓄積を引き起こし、特に肝臓の及び/又は神経学的な種々の問題をもたらす(Anna Czlonkowskalら, Nature Rev., 2018)。
【0005】
アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン病等の複数の神経学的疾患も、細胞損傷及び酸化ストレスをもたらす特定の領域における鉄の量の増加を伴う(A. A. Belaidiら, Journal of Neurochemistry, 2016)。例えば、ハンチントン病は、運動障害、認知機能の低下及び精神医学的問題を引き起こす神経変性疾患である。この疾患では、脳内で多くの酸化ストレスマーカーが観察され、これらが鉄の恒常性の脱調節に関連している可能性がある(S. J. A. van den Bogaardら, International Review of Neurobiology, 2013)。したがって、脳の複数の領域(被殻、尾状核及び淡蒼球)における鉄のレベルの上昇は、Bartzorkis(G. Bartzorkisら, Archives of Neurology, 1999)のものを含む複数のMRI研究によって検証されている。
【0006】
前述のこれらの病態では、他の生物学的化合物の恒常性も撹乱される。例えばアルツハイマー病では、約42個のアミノ酸(39~43個)のペプチドであるA-β(アミロイドベータ)ペプチドが蓄積し、アミロイドベータ凝集物を形成する。したがって、生物学的流体からAβペプチドを抽出することによるアミロイド疾患の処置が提案されている(米国特許出願公開第2013/0045216 A1号; M. Menendez-Gonzalezら, Hypothesis and Theory, 2018)。また、アルツハイマー病を処置する又は発症を緩徐化することを目的として、脳脊髄液を置き換えて濾過することによりこの流体を希釈し、Aβペプチド及び異常リン酸化タウタンパク質(ホスホタウ)のレベルを減少させることも提案されている(M.M. Gonzalez, Cureus, 2017)。
アルツハイマー病に加え、パーキンソン病及びプリオン病等の多くの他のアミロイド病態では、アミロイド線維又はプラークの形成をもたらす、正常な可溶性タンパク質の不溶性タンパク質への立体構造的変換が示されている。したがって、これらの異常タンパク質の凝集プロセスの重要な段階を阻害し、タンパク質のそれらの病理学的立体構造への変換を低減させ、病理学的タンパク質の毒性を低減させる、又は異常なタンパク質の選択的排除を増加させる目的で、これらのタンパク質を特異的に標的化する抗体又は小分子が研究されている(N. Cremadesら, Neurobiol Dis., 2018)。
【0007】
更に、特にアルツハイマー病では、Aβペプチドと特定の金属イオン、特に亜鉛、鉄又は銅等の金属からのイオンとの間の相互作用が示されており、これがタンパク質凝集の増加をもたらす可能性がある(Touguら, Metallomics, 2010)。
【0008】
したがって、多くのタンパク質症において、金属カチオンが特定のタンパク質の異常な構造の形成に重要な役割を果たすことが認識されている。特に、一部は凝集物、線維又は他の固体沈着物の形成を促進する。このため、タンパク質症では、特定の金属の恒常性の脱調節及びタンパク質型標的分子の恒常性の脱調節の二重の恒常性の脱調節が局所的に生じ、凝集物及び他の固体沈着物が生じる。
【0009】
これらの種々の病態に関する科学知識は進化しているが(Pfaender S.ら, 2014; Boland B.ら, 2018; Iadanza M.G.ら, 2018)、今日までアルツハイマー病又はパーキンソン病、より一般的には神経変性疾患、より包括的には恒常性不全を引き起こす複数の脱調節が関与する疾患に対する有効な処置は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0045216 A1号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G. Crisponiら, Coordination Chemistry Reviews, 2015
【非特許文献2】E. J. McAllumら, J. Mol. Neurosci., 2016
【非特許文献3】S. Wiethoffら, Handb. Clin. Neurol., 2017
【非特許文献4】J. Acosta-Cabroneroら, Journal of Neuroscience, 2016
【非特許文献5】Anna Czlonkowskalら, Nature Rev., 2018
【非特許文献6】A. A. Belaidiら, Journal of Neurochemistry, 2016
【非特許文献7】S. J. A. van den Bogaardら, International Review of Neurobiology, 2013
【非特許文献8】G. Bartzorkisら, Archives of Neurology, 1999
【非特許文献9】M. Menendez-Gonzalezら, Hypothesis and Theory, 2018
【非特許文献10】M.M. Gonzalez, Cureus, 2017
【非特許文献11】N. Cremadesら, Neurobiol Dis., 2018
【非特許文献12】Touguら. Metallomics, 2010
【非特許文献13】Pfaender S.ら, 2014
【非特許文献14】Boland B.ら, 2018
【非特許文献15】Iadanza M.G.ら, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、現在のところ、恒常性不全及び異常なタンパク質の立体構造の形成を引き起こし、前記タンパク質を含む沈着物、凝集物、線維又はプラークの形成をもたらす複数の脱調節が関与する病態の予防及び/又は処置を可能にする新規の手段を開発する必要性が存在する。したがって、これらの手段は、以下の利点のうちの1つ又は複数を有する:
- それらが高い分量で存在するか低い分量で存在するかにかかわらず、体内におけるこれらの化合物(標的タンパク質及び金属)の標的化された複合抽出、
- 毒性の非存在、
- これらの化合物が体内で共凝集している場合、抽出プロセス中に生じる可能性がある化合物のいずれかの単独での放出が生じない、
- 投与される薬物の生体内分布に関連しない、所定の継続時間の局所的有効性、
- 神経学的疾患の処置の場合、血液脳関門さえも超えて到達可能な局所的作用、
- 標的化合物、特に共凝集可能な会合している金属及び標的分子の恒常性の脱調節に関連する任意の病態の予防及び/又は処置に好適な用途。
【0013】
これらの利点及びその他多くが本開示に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
診断又は治療目的のための少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の、生物学的流体、生物学的凝集物、臓器又は組織からの共抽出のためのデバイスであって、
a.標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンド、
b.金属カチオンの抽出のための少なくとも1種の手段であり、前記手段が少なくとも1種のキレート剤を含む灌流流体であり、前記灌流流体が透析又は微量透析システムに含有される手段
を含むことを特徴とする、デバイスが提案される。
【0015】
更に、微量透析システムであって、抽出のための前記デバイスを含み、少なくとも
- 灌流流体11を含む灌流リザーバ7と、抽出された化合物12を含む灌流流体を含む収集リザーバ8、又は灌流流体11、12を含む複合リザーバ22、
- 微量透析プローブ1を灌流リザーバ7と収集リザーバ8に、又は複合リザーバ22に接続させる二方向カテーテル3、
- 灌流流体11の第2の管腔5への通過を可能にする第1の管腔4であり、前記第2の管腔5が、抽出された化合物12を含む灌流流体の排出を可能にする第1の管腔4、及び生物学的流体に接触する、第2の管腔5と微量透析プローブ1の外部との間の微量透析膜2を含む微量透析プローブ1
を含む微量透析システムが提案される。
【0016】
代替的実施形態によると、透析システムであって、抽出のための前記デバイスを含み、少なくとも
- 生物学的流体が透析システムに入ることを可能にする第2のカテーテル5a、及び生物学的流体が透析システムを出ることを可能にする第1のカテーテル4aを含む、分離した管腔17を備えたプローブ、
- i)灌流流体11、ii)灌流流体11を生物学的流体から分離する透析膜18を含む透析区画であり、生物学的流体が第2のカテーテル5aを介して前記透析区画に入り、第1のカテーテル4aを介して出る、透析区画を含むリザーバ23
を含む透析システムが提供される。
【0017】
以下の段落に記載される特色が必要に応じて実装されてもよい。これらは互いに独立に実装されてもよく、互いと組み合わせて実装されてもよい。
【0018】
金属カチオンの抽出のための手段は、透析又は微量透析システムに使用される灌流流体であってもよく、前記灌流流体は、標的分子に対して特異的親和性を示す前記リガンドを更に含む。
【0019】
有利には、少なくとも1種の金属カチオンに対するキレート剤の錯化定数log(KC1)は10より大きい、好ましくは15以上であり、前記少なくとも1種のカチオンは、単独で又は組合せで金属Cu、Fe、Zn、Hg、Cd、Pb、Mn、Co、Gd及びAl、より詳細には単独又は組合せでCu、Fe及びZnのカチオンから選択される。
【0020】
好ましい実施形態によると、抽出のための手段は、前記金属カチオンの含有量が1ppm未満、好ましくは0.1ppm未満、より好ましくは0.01ppm未満、更により好ましくは1ppb未満である場合、カチオンを生物学的流体、生物学的凝集物、臓器又は組織から抽出することを可能にする。
【0021】
抽出のための手段は、その質量の少なくとも1%、好ましくはその質量の10%より多くに相当する分量の金属カチオンを抽出することを可能にしてもよい。
【0022】
デバイスは、有利には透析膜及び灌流流体を含むリザーバを含む透析システムに含まれる灌流流体であり、前記灌流流体は、
- 活性成分として少なくとも1種のキレート剤を含むナノ粒子の溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、前記ナノ粒子及びリガンドの平均直径が透析又は微量透析膜の細孔より大きい溶液、
- キレート剤である少なくとも1種の活性成分がグラフトされているポリマーの溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、平均直径が前記透析又は微量透析膜の細孔より大きい溶液
の中から選択される。
【0023】
好ましくは、デバイスは、透析膜及び灌流流体を含むリザーバを含む透析システムを含み、前記灌流流体は、
- 活性成分として少なくとも1種のキレート剤を含むナノ粒子の溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、前記ナノ粒子及びリガンドの平均直径が透析膜の細孔より大きい溶液、
- キレート剤である少なくとも1種の活性成分がグラフトされているポリマーの溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、平均直径が前記透析膜の細孔より大きい溶液
の中から選択される。
【0024】
有利な実施形態によると、キレート剤は、ナノ粒子又はポリマー上に以下の錯化分子:DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、DFO、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM、TETP及びDTPABA又はこれらの誘導体又はこれらの混合物のうちの1種をグラフトすることによって得られる。
【0025】
好ましくは、ナノ粒子は、3~50nmの間の平均直径を有するポリシロキサンベースであり、DOTA、DOTAGA、EDTA又はDTPAをナノ粒子にグラフトすることによって得られるキレート剤を含むナノ粒子である。
【0026】
1つの特定の実施形態によると、キレート剤は、少なくとも1種のアルカリ土類カチオン、好ましくはCa及びMgの中から選択される金属のカチオンを含有する。
【0027】
有利には、前記デバイスのキレート剤の少なくとも10%がアルカリ土類カチオンと予備錯化され、前記デバイスのキレート剤の好ましくは20%、より好ましくは30%、更により好ましくは50%より多くがアルカリ土類カチオンと予備錯化される。
【0028】
一実施形態によると、DOTA、DOTAGA、EDTA又はDTPAをグラフトすることによって得られるキレート剤を含むナノ粒子又はポリマーは、20kDaより大きく1MDa未満の平均直径を有する。
【0029】
有利には、ナノ粒子はポリシロキサンベースである、又はポリマーはキトサン若しくはポリエチレングリコール若しくはポリビニルアルコールベースである。
【0030】
一実施形態によると、標的分子はタンパク質、ペプチド及び糖タンパク質の中から選択される。有利には、標的分子は、アミロイド形成タンパク質及びアミロイド構造体の成分(天然のモノマー形態又はオリゴマー若しくは線維若しくは凝集物、若しくはそれらの形成又はそれらの蓄積の原因となる分子の形態)の中から選択される。
【0031】
好ましい実施形態によると、標的分子は、アミロイドーシス、タウオパシー又は1種若しくは複数のタンパク質ベースの沈着物が関与する任意の病態に関与する分子の中から選択される。有利には、標的分子は、タンパク質及び/又はそれらの前駆体、例えば免疫グロブリン軽鎖及び重鎖、血清アミロイドAタンパク質、トランスサイレチン、アポリポタンパク質AI、AII、AVI、CII又はCIII、ベータ2ミクログロブリン、ゲルゾリン、リゾチーム、フィブリノーゲン、シスタチンC、心房性ナトリウム利尿因子、カルシトニン、アミリン、インスリン、プロラクチン、ラクトフェリン、カドヘリン、ABri、ADan、アミロイドベータペプチド、プリオンタンパク質、アルファ-シヌクレイン、タウタンパク質、スーパーオキシドジスムターゼ、ハンチンチン、ニューロセルピン、アクチン、フェリチン又はこれらの混合物の中から選択される。
【0032】
好ましくは、リガンドは、標的分子の抗体又は操作されたタンパク質リガンドである。有利には、リガンドは
- アミロイドベータタンパク質を標的化する抗体、好ましくはソラネズマブ、アデュカヌマブ、クレネズマブ、ポネズマブ、GSK933776、ガンテネルマブ、AAB-003、AAB-001、BAN2401、LY2599666、LY3002813、LY33887299322、SARI1014、
- アルファ-シヌクレインを標的化する抗体、好ましくはBII054又はPRX002、
- タウタンパク質を標的化する抗体、好ましくはBII076、BII092、ABBV-8E12、JNJ-63733657、LY3303560、RG7345、RO7105705、UCB0107、
- 血清アミロイドAタンパク質を標的化する抗体、好ましくはデザミズマブ又はGSK2398852、ミリデサプ又はGSK2315698、GSK3039294、
- トランスサイレチンを標的化する抗体、好ましくはPRX004、
- アプタマー、
- 必要に応じてABD、アドヒロン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質、アトリマー/テトラネクチン、アビマー/マキシボディ、センチリン、DARPin1の中から選択される、分子の少なくとも1種に対して特異的親和性を示す操作されたタンパク質リガンド、
- 流体力学直径が5nmより大きい、好ましくは100kDaより大きいナノ粒子又はポリマーにグラフトされた50kDa未満、好ましくは30kDa未満、より好ましくは5kDa未満の操作されたタンパク質リガンド、又は
- これらの混合物
の中から選択される。
【0033】
好ましい実施形態によると、デバイスは
- 全身性及び/又は限局性アミロイドーシス、特にAL型アミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖)、AH型アミロイドーシス(免疫グロブリン重鎖)、AAアミロイドーシス(血清アミロイドAタンパク質)、ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン)、アミロイド心疾患、腎アミロイドーシス、II型糖尿病、プリオン病又はアミロイドタンパク質に関連する疾患の中から選択されるアミロイドーシス、
- タウオパシー、特にアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、前頭側頭型認知症の中から選択されるタウオパシー、
- 少なくとも1種のタンパク質ベースの沈着物を呈す病態、
- 金属の恒常性不全を呈す疾患、特にウィルソン病又は自閉症若しくは統合失調症等のアミロイド特性を有さない神経学的障害、又は中枢及び/若しくは末梢神経系に影響を及ぼす又は及ぼさないアミロイドーシス等のアミロイド特性を有する神経学的障害
の処置に使用される。
【0034】
本発明の他の特色、詳細及び利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を検討することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態による、脳に配置された透析プローブ1、17を含む透析システムを示す。そのような実施形態では、生物学的流体は脳脊髄液である。
図2】本発明の別の実施形態による、脊髄の脳脊髄液中に配置された透析又は微量透析プローブ1、17を含む透析システムを示す。そのような実施形態では、生物学的流体は有利には脊髄液である。
図3】本発明の一実施形態による微量透析システムであって、i)第1の管腔4、第2の管腔5及び生物学的流体に接触する、第2の管腔5と微量透析プローブ1の外部との間の微量透析膜2を含む微量透析プローブ1、ii)灌流流体11を含む灌流リザーバ7、及び抽出された化合物12を含む灌流流体を含む収集リザーバ8、iii)微量透析プローブ1を、微量透析ハウジング6に含有される灌流リザーバ7と収集リザーバ8に接続させる二方向カテーテル3を含むシステムを示す。
図4】本発明の第2の実施形態によるシステムであって、微量透析プローブ1、二方向カテーテル3及び複合リザーバ22を含むシステムを示す。前記複合リザーバ22は、抽出された化合物(金属カチオン及び標的分子)中のその組成が、システムを通る流体のサイクルとともに増加する所与の体積の灌流流体を含有する機能を有する。
図5】第3の実施形態による透析システムであって、少なくとも- 生物学的流体がシステムに入ることを可能にする第2のカテーテル5a、及び生物学的流体がシステムを出ることを可能にする第1のカテーテル4aを含む、分離した管腔17を備えたプローブ、- i)灌流流体11、ii)生物学的流体から灌流流体11を分離する透析膜18を含む透析区画であり、生物学的流体が第2のカテーテル5aを介して前記透析区画に入り、第1のカテーテル4aを介して出る、透析区画を含む抽出流体リザーバ23を含むシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図面及び以下の記載の大部分は、特定の性質の要素を含有する。したがって、それらは本発明の理解を促すだけでなく、適切な場合はその定義に寄与するように機能してもよい。
【0037】
本発明者らは、診断又は治療目的のための少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子、好ましくは少なくとも2種の標的分子の、流体、生物学的凝集物、臓器又は組織からの共抽出を可能にする医療デバイスを開発した。
【0038】
「少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の共抽出」という用語は、前記金属カチオンと前記標的分子の同時抽出、又は前記金属カチオンと前記標的分子の全く任意の順序での連続抽出を意味すると理解され、これら2種の化合物の抽出は、2回の抽出の間隔が短期間で、つまり好ましくは24時間未満、より好ましくは12時間未満、更により好ましくは1時間未満で実行される。
【0039】
「金属カチオン」という用語は、少なくとも1種の金属カチオンを意味すると理解される。複数の金属カチオンが関与する場合、それらは同じ種類の金属カチオンであっても異なる種類の金属カチオンであってもよい。
【0040】
「標的分子」という用語は、少なくとも1種の標的分子を意味すると理解される。複数の標的分子が関与する場合、それらは同じ種類の標的分子であっても異なる種類の標的分子であってもよい。
【0041】
「リガンド」という用語は、好ましくは可逆的に特異的に標的分子に結合する分子を意味すると理解される。有利には、リガンド-標的分子の特異的結合は、イオン結合、水素結合、疎水性相互作用及びファンデルワールス力等の分子間力によって達成される。したがって、リガンド-標的分子の相互作用は可逆的であり、形成される結合の数及び性質に応じてより強力であるか、あまり強力ではない。この相互作用の強度は、解離定数に関連する標的分子への親和性によって定義される。
【0042】
前記生物学的化合物、つまり前記金属カチオンと前記標的分子の抽出は、治療又は診断目的のために前記化合物の恒常性を維持することを目標とする。恒常性を維持するとは、特に病態の原因となりうる過剰量の前記化合物を抽出することを目的として、生物内における前記化合物の含有量を調節することを意味する。前記化合物は、生物学的流体内又は生物学的凝集物内で過剰量である場合がある。成分のうちの1つの抽出はまた、生物学的化合物の少なくとも1種の濃度を、病態に関連する生物学的凝集物の溶解度の閾値より低くし、それによりそれらの形成を低減する及び/又はそれらの溶解をもたらすことを目的としてもよい。
【0043】
「生物学的流体」という用語は、それが関する生物によって生成される任意の流体を意味すると理解される。生物学的流体は、循環流体であってもなくてもよい。より詳細には、生物学的流体は血液、リンパ液、骨髄、乳糜、任意の間質液、脳脊髄液(CSF)、又はより具体的には脳脊髄液若しくは脊髄液、滑液、腹水であってもよい。
【0044】
「生物学的凝集物」という用語は、線維、マトリックス化合物又はプラークの形態の標的分子及び/又は金属の蓄積を意味すると理解される。例として、それらは例えば線維又はプラークの形態のアミロイド成分、タウタンパク質の蓄積、特にアテローム性プラークの脂肪性プラーク等であってもよい。
【0045】
本発明によると、「臓器」という用語は、本発明のデバイスと接触されてもよい、又はその中に前記デバイスが埋め込まれるか挿入されてもよいすべての臓器を意味する。好ましくは、臓器は脳、肝臓、膵臓、腸及び肺の中から選択される。
【0046】
本発明によると、「組織」という用語は、本発明のデバイスと接触されてもよい、又はその中に前記デバイスが埋め込まれるか挿入されてもよいすべての組織を意味する。好ましくは、1つ又は複数の組織は、腹膜及び腫瘍組織(適切な場合は腫瘍から)の中から選択される。例えば、前記デバイスは接触して、挿入され、又は内視鏡法によって特に腫瘍内に埋め込まれて配置されてもよい。
【0047】
「少なくとも1種」は、同じ種類又は異なる種類の当該の化合物の1種又は複数を意味すると理解される。
【0048】
「透析」という用語はまた、例えば微量透析等の特定の透析をも意味すると理解される。
【0049】
抽出デバイスは、標的分子に対して特異的親和性を示すリガンドを含む。したがって、前記化合物は、前記標的分子に特異的に結合することができる。リガンドは、抗体、ナノボディ、ペプチド、タンパク質、又は標的分子に特異的に結合できる任意の他のリガンドであってもよい。
【0050】
「抗体」という用語は、2つの重鎖H及び2つの軽鎖Lの4つのポリペプチド鎖から形成され、本発明の文脈で標的分子とも呼ばれる抗原に特異的に結合することができる免疫グロブリンを意味すると理解される。
【0051】
「ナノボディ」という用語は、抗原又は本発明の文脈における標的分子に特異的に結合することができる抗体要素を意味すると理解される。
【0052】
「操作されたタンパク質リガンド」(「足場タンパク質」又は「操作されたタンパク質」)は、特定の標的分子に対するそれらの親和性のために選択される化合物又はタンパク質断片を意味すると理解される。これらは典型的に抗体より軽く、多くの場合生成もより容易であり、かつ化学的に安定である。有利には、操作されたタンパク質リガンドは、50kDa未満、好ましくは30kDa未満、より好ましくは3kDa未満である。そのようなリガンドは、良好な比表面積を有する。これらの操作されたタンパク質リガンドは、ABD、アドヒロン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質、アトリマー/テトラネクチン、アビマー/マキシボディ、センチリン、DARPin1の中から選択されてもよい。
【0053】
抽出デバイスは、少なくとも1種の金属カチオンを抽出するための手段を更に含み、前記手段は、少なくとも1種のキレート剤を含む灌流流体であり、前記灌流流体は透析システムに含有される。
【0054】
本発明によると、「キレート剤」という用語は、少なくとも1種の金属カチオンと錯化できる有機基を意味する。錯化反応は、トランスメタル化、つまり2種の金属カチオンの交換であってもよい。そのような場合、キレート剤は、その後標的金属カチオンと交換される第1の金属カチオンと予備錯化されてもよい。
【0055】
有利な実施形態では、前記デバイスのキレート剤の少なくとも10%がアルカリ土類カチオンと予備錯化され、前記デバイスのキレート剤の好ましくは20%、より好ましくは30%、更により好ましくは50%より多くがアルカリ土類カチオンと予備錯化される。
【0056】
好ましい実施形態によると、前記金属カチオンの少なくとも1種に対する前記キレート剤の錯化定数log(KC1)は10より大きい、特に11、12、13、14、15であり、好ましくは15以上である。キレート剤が第1の金属カチオンと予備錯化される場合、第1の金属カチオンに対する錯化定数log(KC1')は、標的金属カチオンの錯化定数log(KC1)未満である。
【0057】
有利には、少なくとも10以上、好ましくは15以上の定数を有するキレート剤は、単独で又は組合せで、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ヒ素(As)、水銀(Hg)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテシウム(Lu)、アクチニウム(Ac)、ウラニウム(U)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)の金属のカチオンの少なくとも1種と錯化する。更により有利には、キレート剤は、銅、鉄、亜鉛、水銀、カドミウム、鉛、アルミニウム、マンガン及びガドリニウム、特にマンガン及びガドリニウムの金属のカチオンの少なくとも1種と錯化する。更により有利には、キレート剤は、単独で又は組合せで銅、鉄及び亜鉛の金属のカチオンの少なくとも1種と錯化する。
【0058】
有利には、抽出される前記金属カチオンに対するキレート剤の特異性は、他のカチオン性微量元素と比べて高く、特に錯化定数の差は好ましくは3より大きく、より詳細にはカルシウム及びマグネシウムとの錯化定数の差は、好ましくは3より大きい、更には5より大きい。
【0059】
好ましい実施形態によると、前記デバイス、又はより詳細には少なくとも1種の金属カチオンを抽出するための手段はまた、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛及びマンガンの中から選択される微量元素を、灌流流体内又は更には前記キレート剤上に直接含有する。後者の場合、これはトランスメタル化反応を伴い、カチオンはそのような反応を可能にするために詳細に選択される。そのような実施形態は、例えば、必須金属の恒常性の調節を可能にする。キレート剤は、少なくとも1種のアルカリ土類カチオン、好ましくはCa及びMgの中から選択される金属のカチオンを含有する。
【0060】
本発明の一実施形態によると、金属カチオンを抽出するための手段は、前記金属カチオンの含有量が1ppm、特に0.1ppm、0.01ppm未満、好ましくは1ppb未満である場合、前記金属カチオンを生物学的流体、生物学的凝集物、臓器又は組織から抽出することを可能にする。
【0061】
有利な実施形態によると、金属カチオンを抽出するための前記手段は、その質量の少なくとも1%、好ましくはその質量の10%より多くに相当する分量の金属カチオンの抽出を可能にする。
【0062】
更に、抽出デバイスは、標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドを含む。前記標的分子は、好ましくはタンパク質、ペプチド及び糖タンパク質の中から選択され、より好ましくはアミロイド構造体の成分の中から選択される。有利な実施形態によると、標的分子は、リガンドによって認識される特異的なペプチド配列を含む。
【0063】
本発明の一実施形態によると、標的分子は、タンパク質、ペプチド及び糖タンパク質の中から選択される。
【0064】
有利には、標的分子は、アミロイド形成タンパク質及び特に天然のモノマー形態、又はオリゴマー、線維若しくは生物学的凝集物の形態のアミロイド構造体の成分の中から選択される。標的分子はまた、前記オリゴマー、線維又は生物学的凝集物の形成又は蓄積の原因となる1種又は複数の分子であってもよい。
【0065】
好ましい実施形態によると、標的分子はアミロイドーシス、タウオパシー又は1種若しくは複数のタンパク質ベースの沈着物を呈す任意の病態に関与する分子の中から選択される。
【0066】
先行する実施形態と適合する一実施形態によると、標的分子は、タンパク質及び/又はそれらの前駆体、例えば免疫グロブリン軽鎖及び重鎖、血清アミロイドAタンパク質、トランスサイレチン、アポリポタンパク質AI、AII、AVI、CII又はCIII、ベータ2ミクログロブリン、ゲルゾリン、リゾチーム、フィブリノーゲン、シスタチンC、心房性ナトリウム利尿因子、カルシトニン、アミリン、インスリン、プロラクチン、ラクトフェリン、カドヘリン、ABri、ADan、アミロイドベータペプチド、プリオンタンパク質、アルファ-シヌクレイン、タウタンパク質、スーパーオキシドジスムターゼ、ハンチンチン、ニューロセルピン、アクチン、フェリチン又はこれらの混合物の中から選択される。
【0067】
好ましくは、リガンドは、標的分子の抗体又は操作されたタンパク質リガンドである。有利には、リガンドは
- アミロイドベータタンパク質を標的化する抗体、好ましくはアデュカヌマブ、クレネズマブ、ポネズマブ、GSK933776、ガンテネルマブ、AAB-003、AAB-001、BAN2401、LY2599666、LY3002813、LY3372993、MEDI1814、SAR228810、
- アルファ-シヌクレインを標的化する抗体、好ましくはBII054又はPRX002、
- タウタンパク質を標的化する抗体、好ましくはBII076、BII092、ABBV-8E12、JNJ-63733657、LY3303560、RG7345、RO7105705、UCB0107、
- 血清アミロイドAタンパク質を標的化する抗体、好ましくはデザミズマブ又はGSK2398852、ミリデサプ又はGSK2315698、GSK3039294、
- トランスサイレチンを標的化する抗体、好ましくはPRX004、
- アプタマー、
- アミロイドーシス、タウオパシー、又はすべてタンパク質及びそれらの前駆体であるタンパク質ベースの沈着物を呈す任意の病態に関与する分子、特にタンパク質、ペプチド及び/又はそれらの前駆体を標的化する抗体、
- 流体力学直径が5nmより大きい、好ましくは100kDaより大きく、有利には流体力学直径が1μm未満、又は1MDa未満であるナノ粒子、好ましくはポリシロキサンナノ粒子又はポリマーにグラフトされた、有利には50kDa未満、好ましくは30kDa未満、より好ましくは3kDa未満の操作されたタンパク質リガンド。そのようなリガンドは、良好な比表面積を有する。この実施形態では、ナノ粒子あたり又はポリマーあたり1つ又は複数のタンパク質が存在してもよい。更に、1種又は複数のキレート剤をナノ粒子又はポリマーにグラフトすることが想定可能である。これらの操作されたタンパク質リガンドは、ABD、アドヒロン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アルマジロリピートタンパク質、アトリマー/テトラネクチン、アビマー/マキシボディ、センチリン、DARPin1の中から選択されてもよい、又は
- これらの混合物
の中から選択される。
【0068】
一実施形態によると、抽出デバイスは、少なくとも1種のキレート剤を含む灌流流体を含み、前記灌流流体は、透析若しくは微量透析システム、又は特に一定の交換リザーバを含む任意の小型化透析デバイスに含有される。
【0069】
有利には、かつ好ましい実施形態によると、透析又は微量透析システムは、
a.半透過性透析膜18又は微量透析膜2、
b.灌流流体を含む1つ又は複数のリザーバ7/8又は22又は23
を含む。
【0070】
一実施形態によると、金属カチオンを抽出するための前記手段は、標的分子に対して特異的親和性を示すリガンドを更に含む、透析又は微量透析システムに使用される灌流流体である。
【0071】
本発明によると、「透析システム」という用語は、抽出デバイスからの目的の金属カチオン及び/又は少なくとも1種の標的分子を、水並びに前述のカチオン及び/又は分子に半透過性の透析膜18又は微量透析膜2に通すことを可能にする任意のシステムを意味する。
【0072】
「微量透析システム」という用語は、非常に小規模の透析システムを意味すると理解される。例えば、微量透析技術は、微量透析プローブ1とも呼ばれる小さい微量透析カテーテルの組織への挿入を必要とする。微量透析プローブは毛細血管を模倣するように設計され、入口及び出口管系に接続された、その末端に中空繊維膜等の半透過性膜を備えた管からなる。微量透析は、そのカットオフ閾値が所期の用途に応じて選択される半透過性膜を通ることが可能な化合物のみを抽出又は送達することができる。透析の場合、これは多くの場合、透析膜の両側の拡散種の濃度の差によって導かれる動的拡散現象である。
【0073】
透析システムを低濃度の化合物(金属カチオン及び/又は標的分子)の抽出に使用すると、駆動力が多くの場合急速に制限されるか飽和され、平衡濃度によって関係する化合物の捕捉が制限される。有利には、微量透析システムは、少なくとも1種の標的金属カチオン及び/又は1種の標的分子のための錯化化学種(キレート剤及び/又はリガンド)を透析膜の内部に維持することにより、従来のキレート剤又はリガンドの問題を回避し、局所的に又はより全体的に、非常に高い割合の標的化金属カチオン(又は金属カチオン及び標的分子)の抽出を可能にする。キレート剤は、錯化種が透析膜の片側で灌流流体内に残存するように、有利には膜のカットオフ閾値より大きい質量を有する高分子又はナノ粒子にグラフトされる。同様に、リガンドは、有利には膜のカットオフ閾値より大きい質量を有する、又は本質的に有する高分子又はナノ粒子内に存在するか、又はその上にグラフトされる。錯化種を含有する透析システムは、目的の領域、例えば神経変性疾患の処置の場合は脳(図1)、又は脊髄付近(図2)に配置される。金属カチオン及び/又は標的分子は透析膜のカットオフ閾値より小さいため、膜を通ってキレート剤及び/又はリガンドを含む灌流流体に拡散することができる。使用されるキレート剤及び/又はリガンドの強力な錯化特性により、それらが生物学的流体中に非常に少量で存在する場合でも、標的金属及び/又は標的分子のキレート化が可能になる。例として、標的化合物(金属カチオン及び/又は分子)は生物学的凝集物の形態にあるため、少量で生物学的流体中に存在する場合がある。したがって、金属カチオンのキレート化及び/又は標的分子との結合により、灌流流体を含むリザーバ内部の溶液中の抽出される化合物の濃度が減少し、抽出される化合物の濃度の、透析膜18又は微量透析膜2を横切る強力な勾配の維持が可能になり、それにより抽出を長引かせ、標的化合物の流れを維持することができる。生物学的流体中に存在する他の金属カチオン及び他の分子等の他の化合物の恒常性を妨害しないように、これらの要素は、生物学的流体のものと同等の濃度で灌流流体に含まれてもよい。
【0074】
当業者に公知の透析又は微量透析デバイスを、それらが半透過性透析膜、及び前述の少なくとも1種のキレート剤及び/又はリガンドを含有する灌流流体を含むリザーバを含有することを条件として使用することができる。例として、使用することができるデバイスは、特に微量透析カテーテル(参照番号8010509、P000049、8010337、このリストは排他的ではない)等のM Dialysis AB社、スウェーデン; Integra Life Sciences社開発の医療デバイスである。
【0075】
透析システム、有利には小型透析又は微量透析システムは、一定容量の交換リザーバ22又は23とともに使用することができる。抽出されるカチオンのキレート剤による、及び標的分子のリガンドによる特異的な捕獲により、循環しないわずかな体積の流体であっても、精製される生物学的流体と灌流流体の間の精製勾配を維持することができる。そのような実施形態では、精製しようとする生物学的流体の成分が保存される。
【0076】
一実施形態によると、透析システムは、透析膜18、及び好ましくは流体が循環しない一定容量のリザーバ23を含む。有利には、リザーバは100ml未満、好ましくは20ml未満、より好ましくは10ml未満の容量を有する。そのような透析システムは、脳脊髄液等の生物学的流体に特に好適である。
【0077】
有利には、かつ好ましい実施形態によると、透析又は微量透析システムは、周囲の生物学的流体の組成(イオン及び/又は分子の)に類似する水溶液(灌流液)の形態の灌流流体が1mL/分未満、好ましくは0.1mL/分未満の低流量で常に灌流する微量透析プローブ1を含む。別の実施形態によると、抽出のための手段は、灌流流体が10mL/分未満、好ましくは1~5mL/分の間の流量で常に灌流する透析プローブ1を含む。
【0078】
図3に例示される一実施形態では、システムは少なくとも
- 灌流流体11を含む灌流リザーバ7と、抽出された化合物12(金属カチオン及び標的分子)を含む灌流流体を含む収集リザーバ8、
- 微量透析プローブ1を灌流リザーバ7と収集リザーバ8に接続させる二方向カテーテル3、
- i)灌流流体11の第2の管腔5への通過を可能にする第1の管腔4であって、前記第2の管腔5が、抽出された化合物1を含む灌流流体の収集リザーバ8への排出を可能にする第1の管腔4、及びii)生物学的流体に接触する、第2の管腔5と微量透析プローブ1の外部との間の微量透析膜2を含む微量透析プローブ1
を含む。
【0079】
微量透析プローブは、好ましくは線形又は同心プローブである。図3に例示される一実施形態によると、微量透析プローブは同心プローブであり、第1の管腔4は、有利には第2の管腔5の内部に含まれる。そのような透析又は微量透析システムは、金属カチオンと標的分子の抽出だけでなく、生物学的流体の定量及び/又は定性分析の実施も可能にする。
【0080】
図4に例示される別の実施形態では、システムは、先の実施形態にあるように、微量透析プローブ1及び二方向カテーテル3を含む。システムは、灌流リザーバ及び収集リザーバではなく、複合リザーバ22と呼ばれる単一のリザーバを更に含む。前記複合リザーバ22の機能は、抽出された化合物(遊離及び/又は結合された又は/及びキレート化された金属カチオン及び標的分子)の濃度が、デバイスを通る流体のサイクルとともに増加する所与の体積の灌流流体を含有することである。有利には、透析又は微量透析システムには、複合リザーバ22中の灌流流体を置き換えるためのシステムが設けられる。数サイクルの流体が通った後、化合物で飽和された流体は、抽出される化合物を有さない灌流流体によって置き換えられてもよい。
【0081】
図5に例示される別の実施形態では、透析システムは、
- 生物学的流体がシステムに入る(図5で「未精製生物学的流体19」と標識される)ことを可能にする第2のカテーテル5a、及び生物学的流体がシステムを出る(図5で「精製生物学的流体20」と標識される)ことを可能にする第1のカテーテル4aを含む、分離した管腔17を備えたプローブ、
- i)灌流流体11、ii)灌流流体11を生物学的流体19、20から分離する透析膜18を含む透析区画であって、生物学的流体が第2のカテーテル5aを介して前記透析区画に入り、第1のカテーテル4aを介して出る透析区画を含むリザーバ23
を含む。二方向カテーテル3は、分離した管腔17を備えたプローブと、小型透析ハウジング6に含有されるリザーバ23との間の接続を可能にする。有利には、灌流流体11は循環しない。デバイスは、有利には金属カチオン及び/又は標的分子の遊離濃度が生物学的流体のものと平衡状態にある又は平衡状態に近い場合、前記灌流流体11の時折の、つまり所与の時間間隔での置換を可能にする。一実施形態によると、透析区画は灌流流体内に配置される。
【0082】
先の実施形態のいずれか1つと適合する有利な実施形態によると、リザーバ7/8、22又は23は、以下の要素の少なくとも1つを更に含むハウジング6に含まれる:
- 小型化ポンプ9、
- カテーテル3における流体の循環を可能にする又は循環を停止することができるロック式接続システム10であって、必要に応じてハウジング6とプローブ1又は17の解離を可能にし、例えば2つのうちの1つを独立に置換可能にすることができるロック式接続システム10、
- 透析又は微量透析システム内の流体の速度、前記システム内部の圧力、又は流体に関する任意の他のパラメータ、例えばその温度及び/又はその組成の測定を可能にすることができる少なくとも1つのセンサー16、
- 例えば回路板14、及び透析又は微量透析システム内で測定されたパラメータを表示することができる制御スクリーン13を含む、流量又は灌流の継続時間のパラメータを較正し、例えば1つ又は複数のポンプ9への動作を可能にすることができる電子制御/記録システム15、
- システム内部で灌流流体11を循環させるための、好ましくは灌流リザーバ7に含まれるシリンジポンプ21、
- 場合により、調節及び外部との通信のためのデバイス。
【0083】
好ましい実施形態によると、灌流流体は、i)活性成分として少なくとも1種のキレート剤を含むナノ粒子の溶液、及びii)標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、前記ナノ粒子及びリガンドの平均直径が透析膜18又は微量透析膜2の細孔より大きい溶液を含む。一態様では、多孔質透析膜18又は微量透析膜2のカットオフ閾値は、キレート剤の質量、すなわち少なくとも1種のキレート剤を含むナノ粒子の質量未満である。
【0084】
代替的に、灌流流体は、キレート剤である少なくとも1種の活性成分がグラフトされているポリマーの溶液、及び標的分子に対して特異的親和性を示す少なくとも1種のリガンドの溶液であって、平均直径が前記透析又は微量透析膜の細孔より大きい溶液を含む。この態様では、透析膜18又は微量透析膜2のカットオフ閾値は、キレート剤の質量、すなわち少なくとも1種のキレート剤がグラフトされるポリマーの質量未満である。
【0085】
本発明によると、「溶液」という用語は、液体と均等に分散されたままの固体粒子との混合物を意味し、粒子は多くの場合、安定かつ均質であり続けるために混合物に対して十分小さい(マイクロスケール又はナノスケール)。
【0086】
1つの有利な実施形態によると、灌流流体は、ポリシロキサン及び/又はキトサンベースのキレート剤を含む「人工脳脊髄液」型の液体である。有利には、灌流流体は、1リットルあたり約1~10ミリモルのEDTA、DTPA及びDOTA型のキレート剤を含有する。好ましい実施形態によると、灌流流体は、Mexbrain社から市販のMetAEx(登録商標)又はproMetAEx(登録商標)溶液のうちの1つであってもよい。
【0087】
一実施形態によると、前記平均直径は、前記透析又は微量透析膜の細孔より少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%大きい。
【0088】
本発明によると、「平均直径」という用語は、化合物、特にナノ粒子又はポリマー、リガンドの直径の調和平均を意味する。化合物のサイズ分布は、例えば平均流体力学直径によって特徴づけられるPCS(光子相関分光分析)に基づくMalvern社のZetasizer Nano-S粒径分析器等の、市販の粒径分析器を使用して測定される。このパラメータを測定する方法は、1996 ISO 13321規格にも記載される。
【0089】
一実施形態では、溶液は1質量%より多い、特に2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%より多い、好ましくは10質量%より多いナノ粒子又はポリマーを含有する。
【0090】
一実施形態によると、キレート剤は、標的分子に特異的な前記リガンドにグラフトされてもよい。したがって、キレート剤は、例えば共有原子価及び共有結合によって、より詳細にはペプチド結合によってリガンドに直接付着してもよい。
【0091】
抽出デバイスで使用されてもよいナノ粒子は、有利には
- ポリシロキサン又は炭素ベースである、
- 3nmより大きく、好ましくは50nm未満の平均流体力学直径を有する
の2つの特性を含む。
【0092】
一実施形態では、ナノ粒子は、活性成分として金属カチオンを錯化できる少なくとも1種のキレート剤を含み、前記キレート剤は、前記金属カチオンの少なくとも1種に対して10より大きい、好ましくは15以上の錯化定数log(KC1)を有する。
【0093】
本発明によると、「シリカベースのナノ粒子」という用語は、ケイ素の質量パーセンテージが少なくとも8%であることによって特徴付けられるナノ粒子を意味する。
【0094】
本発明によると、「ポリシロキサンベースのナノ粒子」という用語は、ケイ素の質量パーセンテージが少なくとも8%であることによって特徴付けられるナノ粒子を意味する。
【0095】
本発明によると、「ポリシロキサン」という用語は、シロキサン鎖からなる架橋された無機ポリマーを意味する。
【0096】
同一である又は異なるポリシロキサンの構造単位は、以下の式:
Si(OSi)nR4-n
(式中、
- RはSi-Cの共有結合によってケイ素に連結した有機分子であり、
- nは1~4の整数である)
のものである。
【0097】
好ましい例として、「ポリシロキサン」という用語は、特にゾル-ゲルプロセスによるオルトケイ酸テトラエチル (TEOS)とアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の縮合によって生じるポリマーを含む。
【0098】
したがって、有利には前記ナノ粒子は、
a.ナノ粒子の全質量の少なくとも8%、好ましくはナノ粒子の全質量の8%~50%の間のケイ素質量比を有するポリシロキサン、
b.ナノ粒子あたり5~1000、好ましくは50~500の間の割合のキレート剤、
c.適切な場合、ナノ粒子あたり50~500の間、好ましくは100~200の間の割合の金属元素であって、キレート剤と錯化される金属元素
を含む。
【0099】
一実施形態では、本発明によって使用できるナノ粒子は、金属元素を含まない。言い換えると、上記の定義において、前記ナノ粒子は要素a.(ポリシロキサン又はケイ素)及びb.(キレート剤)のみを含む。
【0100】
一実施形態では、キレート剤は、金属Cu、Fe、Zn、Hg、Cd、Pb、Mn、Al、Ca、Mg、Gdのカチオンを錯化する。
【0101】
一実施形態では、キレート剤は、以下の錯化分子又はその誘導体、例えば特に:DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、以下の式(I):
【0102】
【化1】
【0103】
のD03A-ピリジン、EDTA(2,2',2'',2'''-(エタン-1,2-ジイルジニトリロ)四酢酸)、EGTA(エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸)、BAPTA(1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、DOTAGA((2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタン二酸)、DFO(デフェロキサミン)、例えばDOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10テトラアザシクロドデカン)又はNOTAM(1,4,7-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7-トリアザシクロノナン)等のアミド誘導体及び混合カルボン酸/アミド誘導体、例えばDOTP(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンホスホン酸))又はNOTP(1,4,7-テトラキス(メチレンホスホン酸)-1,4,7-トリアザシクロノナン)等のホスホン酸誘導体、例えばTETA(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸)、TETAM(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N'''-テトラキス(カルバモイルメチル))、TETP(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N'''-テトラキス(メチレンホスホン酸))等のシクラム誘導体、又はこれらの混合物の中から選択されるアミノポリカルボン酸及びその誘導体のうちの1つをナノ粒子にグラフト(共有結合)することによって得られる。
【0104】
好ましくは、上記の前記キレート剤は、ナノ粒子のポリシロキサンのケイ素に共有結合によって直接又は間接的に連結される。「間接的」結合という用語は、ナノ粒子とキレート剤との間の分子「リンカー」又は「スペーサー」の存在を意味し、前記リンカー又はスペーサーは、ナノ粒子の成分の1種に共有結合されている。
【0105】
好ましい実施形態によると、前記ナノ粒子は、平均流体力学直径が3~100nmの間であり、DOTA、DOTAGA、EDTA又はDTPAをナノ粒子にグラフトすることによって得られるキレート剤を含む、ポリシロキサンベースのナノ粒子である。
【0106】
好ましい実施形態によると、前記ナノ粒子は、平均直径が20kDaより大きく1MDa未満であり、DOTA、DOTAGA、EDTA又はDTPAをナノ粒子にグラフトすることによって得られるキレート剤を含むナノ粒子である。
【0107】
好ましい実施形態によると、前記ナノ粒子を含む前記溶液はまた、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛又はマンガンの中から選択される微量元素を含有する。
【0108】
本発明の別の実施形態では、前述のナノ粒子に替えてポリマーが使用されてもよい。そのような場合、前記ポリマーは少なくとも1種のキレート剤がグラフトされる。
【0109】
「ポリマー」という用語は、1つ又は複数のモノマーに由来する極めて多数の繰り返し単位の共有結合連鎖から形成される任意の高分子を意味すると理解される。好ましく使用されるポリマーは、例えばキトサン、ポリアクリルアミド、ポリアミン又はポリカルボン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)のファミリーからのものである。例えば、それらはキトサン等のアミノ基を含有するポリマーであってもよい。好ましい実施形態によると、前記ポリマーは生体適合性である。
【0110】
一実施形態では、前記ポリマーにグラフトされる前記キレート剤又はそれらの誘導体は、特にDOTA、DTPA、上記式(I)のDO3A-ピリジン、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、DFO、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM及びTETP又はこれらの混合物の中から選択されるアミノポリカルボン酸及びそれらの誘導体である。
【0111】
好ましくは、上記の前記キレート剤は、10kDaより大きい、好ましくは100kDaより大きいポリマー又はポリマー鎖に共有結合によって直接又は間接的に連結される。「間接的」結合という用語は、ポリマーとキレート剤との間の分子「リンカー」又は「スペーサー」の存在を意味し、前記リンカー又はスペーサーは、前記ポリマーの成分の1種に共有結合されている。
【0112】
一実施形態では、前記ポリマーにグラフトされるキレート剤又はそれらの誘導体は、ジチオカルバメート官能基を含む。
【0113】
好ましい実施形態によると、キレート剤がグラフトされる前記ポリマーは、DPTA-BAがグラフトされたキトサン、又はDFOがグラフトされたキトサン、又はEDTA-BAがグラフトされたキトサン、又はDOTAGA-Aがグラフトされたキトサンの中から選択される。
【0114】
好ましい実施形態によると、前記ポリマーを含む前記溶液はまた、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛又はマンガンの中から選択される微量元素を含有する。
【0115】
代替的に、灌流流体はキレート化分子の溶液である。前記キレート化分子は、透析膜の液体内に保持されるように、前記透析又は微量透析膜の細孔より大きい、すなわち膜のカットオフ閾値より大きい平均直径を有してもよい。別の実施形態では、キレート化分子は前記透析又は微量透析膜の細孔より小さい平均直径を有してもよく、この場合、キレート化分子は膜の細孔を通り、その後体内へと通って腎臓又は肝臓によって自然に排出されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、特に恒常性の維持、特に金属カチオン及び標的分子等の2種の標的化合物の恒常性の維持に適用されてもよい。
【0117】
好ましい実施形態によると、上述の生物学的流体又は生物学的凝集物の少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の共抽出のためのデバイスは、
- 全身性及び/又は限局性アミロイドーシス、特にAL型アミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖)、AH型アミロイドーシス(免疫グロブリン重鎖)、AAアミロイドーシス(血清アミロイドAタンパク質)、ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン)、アミロイド心疾患、腎アミロイドーシス、II型糖尿病、プリオン病又はアミロイドタンパク質に関連する疾患の中から選択されるアミロイドーシス。アミロイドーシスはまた、神経変性疾患、特にアルツハイマー病(アミロイドベータ)、パーキンソン病(アルファ-シヌクレイン)、筋萎縮性側索硬化症(スーパーオキシドジスムターゼ)、ハンチントン病(ハンチンチン)に関与する。
- タウオパシー、特にアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、前頭側頭型認知症の中から選択されるタウオパシー、
- 少なくとも1種のタンパク質ベースの沈着物を呈す病態、
- 金属の恒常性不全を呈す疾患、特にウィルソン病又は自閉症若しくは統合失調症等のアミロイド特性を有さない神経学的障害、又は中枢及び/若しくは末梢神経系に影響を及ぼす又は及ぼさない上述のアミロイドーシス等のアミロイド特性を有する神経学的障害
の中から選択される疾患の処置に使用される。
【0118】
好ましい実施形態によると、上述の生物学的凝集物の少なくとも1種の金属カチオンと少なくとも1種の標的分子の共抽出のためのデバイスは、好ましくは少なくとも標的分子を含むオリゴマー、線維又はプラークの形態の生物学的凝集物の形成を減速させる、解離する又は溶解するために使用される。デバイスは、診断、予防及び/又は治療に使用される。
【0119】
本発明はまた、少なくとも1種のキレート剤がグラフトされたインプラントの投与を含む、対象における金属カチオン及び標的分子を抽出するための方法、又は上述のもの等のデバイス内における少なくとも1種のキレート剤を含有する灌流流体の使用に関する。
【0120】
本発明によると、前記「対象」は、予防又は処置が行われるヒト又は動物を意味すると理解される。
【0121】
本発明は先の記載に限定されず、求められる保護の範囲内で当業者に想到されるすべての変形を包含する。
【符号の説明】
【0122】
参照記号の列挙
1 微量透析プローブ
2 微量透析膜
3 二方向カテーテル
4 第1の管腔
4a 第1のカテーテル
5 第2の管腔
5a 第2のカテーテル
6 小型ハウジング
7 灌流リザーバ
8 収集リザーバ
9 ポンプ
10 ロック式接続システム
11 灌流流体
12 抽出された化合物(金属カチオン及び標的分子)を含む灌流流体
13 制御スクリーン(パラメータの表示)
14 回路板
15 パラメータの制御
16 センサー
17 二重管腔プローブ
18 透析膜
19 未精製生物学的流体
20 精製生物学的流体
21 シリンジポンプ
22 複合リザーバ
23 リザーバ
【0123】
引用文献の列挙
特許文献
すべての適切な目的のために、以下の特許文献が引用される:
- 米国特許出願公開第2013/0045216 A1号(出願第13/655,234号)
【0124】
非特許文献
すべての適切な目的のために、以下の非特許要素が引用される:
[参考文献]
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】