(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】サワードウ製品
(51)【国際特許分類】
A21D 8/04 20060101AFI20220308BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20220308BHJP
【FI】
A21D8/04
A21D13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540074
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(85)【翻訳文提出日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 EP2020050595
(87)【国際公開番号】W WO2020144361
(87)【国際公開日】2020-07-16
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505090469
【氏名又は名称】プラトス ナームローズ フェノートサップ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ベルテ,ファビエンヌ
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK53
4B032DK54
4B032DK59
4B032DP08
4B032DP33
(57)【要約】
本発明は、ベーカリー製品およびパティスリー製品におけるドウの耐性を改善するための製品および方法を提供する。より詳細には、本発明は、細菌の特定の株による穀物の発酵によって得られるサワードウ製品を提供する。前記サワードウ製品を使用することにより得られる製品は、物理特性および味感の改善を伴うベーカリー製品およびパティスリー製品をもたらす、強化されたドウを有することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物または穀物画分を含むサワードウ製品であって、クロストリジウム・サッカロブチリクム(Clostridium saccharobutylicum)の1種または複数の株によって発酵される、サワードウ製品。
【請求項2】
クロストリジウム・サッカロブチリクムの前記株が、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864である、請求項1に記載のサワードウ製品。
【請求項3】
前記サワードウ製品が、乳酸形成性細菌、特に緩徐酸性化乳酸菌および/または酵母株から選択される、1種または複数の追加の微生物によって発酵される、請求項1から2のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項4】
前記追加の微生物が、ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバシラス・クルストルム(Lactobacillus crustorum)またはラクトバシラス・レウテリ(Lactobacillus reuteri)、好ましくはラクトバシラス・サケイまたはラクトバシラス・クルストルムである、請求項3に記載のサワードウ製品。
【請求項5】
液状サワードウ製品、ペースト状サワードウ製品または乾燥サワードウ製品である、請求項1から4のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項6】
活性または不活性サワードウ製品である、請求項1から5のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項7】
4.2~9.0の間、好ましくは4.2~6.0の間、より好ましくは4.2~4.8の間のpHを有することを特徴とする液状サワードウ製品である、請求項1から6のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項8】
液状サワードウ製品を乾燥させることにより得られる乾燥サワードウ製品である、請求項1から7のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項9】
10.0~25.0%の間(塩重量/塩を含まないサワードウ製品の重量)、好ましくは10.0~15.0%の間の量の塩をさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載のサワードウ製品。
【請求項10】
サワードウ製品を得る方法であって、以下:
- 穀物または穀物画分を水と混合するステップと、
- 上記の混合物を25.0℃~50.0℃の間、好ましくは25.0℃~40.0℃の間、より好ましくは25.0℃~35.0℃の間、さらにより好ましくは28.0℃~35.0℃の間の温度で、8時間~1000時間の間、好ましくは10~100時間の間、より好ましくは16~72時間の間、クロストリジウム・サッカロブチリクムの1種または複数の株により発酵させて、これにより液状サワードウ製品を得るステップと
を含む、方法。
【請求項11】
以下のステップ:
- 前記細菌を不活性化させるステップ、
- 追加成分を添加するステップ、
- 前記液状サワードウ製品を乾燥させて、これにより、乾燥サワードウ製品を得るステップ
のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製における成分としての、特に改善剤、プレミックスまたは完成ミックスの一部としての、請求項1から9のいずれかに記載のサワードウ製品の使用。
【請求項13】
サワードウ、ベーカリー製品またはパティスリー製品中の成分としての、クロストリジウム・サッカロブチリクムの使用。
【請求項14】
クロストリジウム・サッカロブチリクムの前記株が、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1から9のいずれかに記載のサワードウ製品を含む、焼成製品。
【請求項16】
ドウまたはバッター製品、好ましくはベーカリードウまたはバッター製品のドウ耐性を改善するための、請求項12から14のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
ドウまたはバッター製品、好ましくはベーカリードウまたはバッター製品のドウ耐性を改善する方法であって、食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製の間に、請求項1から9のいずれかに記載のサワードウ製品を添加するステップを含む、方法。
【請求項18】
請求項1から9のいずれかに記載のサワードウ製品が、改善剤、プレミックスまたは完成ミックスの部分である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品およびパティスリー製品におけるドウの耐性(tolerance)を改善するための製品および方法を提供する。より詳細には、本発明は、細菌の特定の株による穀物の発酵によって得られるサワードウ製品を提供する。前記サワードウ製品を使用することにより得られる製品は、物理特性および味感の改善を伴うベーカリー製品およびパティスリー製品をもたらす、強化されたドウを有することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
過去数十年間に、焼成品における一層長い保存可能期間および一貫性のある品質に対する需要により、パン菓子製造産業における幅広い範囲の添加物が使用されている。パン改善剤とも呼ばれるこれらの添加物は、例えば、乳化剤、酵素、ダイズ紛、酸化剤および還元剤を含み、ドウの機械加工性の改善、静置時間の短縮および焼成品の保存可能期間、体積、パンの耳の焼き色、パンの身の白さ、香りおよび風味の改善にとって必須である。
【0003】
焼成プロセスの重要な態様の1つは、ドウのプルーフィング(proofing)および取り扱いの制御である。実際に、取り扱いの間にドウが過剰プルーフィングされると、またはドウが衝撃を受けると、焼成製品の品質は、深刻に影響を受ける恐れがある。したがって、当業者は、ドウの「耐性」を改善する方法を常に探索している。
【0004】
モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(DATEM)は、パンの改善剤として幅広く使用されている乳化剤である。DATEMは、パンの体積および質感、ならびにドウの安定性を改善する。
【0005】
ドウ安定性の様な焼成品のある特性を改善するために、リパーゼが過去20年間にわたり使用された。リパーゼは、トリグリセリドエステルを加水分解し、モノグリセリドまたはジグリセリド、グリセロールおよび遊離脂肪酸を生成する。リパーゼはドウの安定性を強化し、パンの体積、質感および保存可能期間を向上させる。1990年代に、第1世代のリパーゼ(例えば、サーモマイセス・ラヌギノスス(Thermomyces lanuginosus)というリパーゼ)は、通常、1位および3位のトリグリセリドにおけるグリセリドと脂肪酸との間のエステル結合を加水分解しドウ中に、遊離脂肪酸、モノグリセリドを生成し、極性の高い脂質を生成する。これは、グルテンのネットワークを強化するが、過量は、ドウを固くし、ローフの体積を低下させる。第二世代のリパーゼ(例えば、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)のリパーゼ)は、小麦粉中の極性脂質と非極性脂質の両方に働き、リソレシチンおよびジガラクトシルモノアシルグリセロール(DGMG)などの極性がより高い構成要素を生成する。第三世代のリパーゼは、グルテンのネットワークの拡大およびパンの身の気泡の壁の厚みを増大させて、パンの身の気泡密度を低下させ、これにより、焼成製品の特性を改善する。
【0006】
リパーゼおよび/またはホスホリパーゼは、既に、ドウ耐性を改善することが説明されているが、それらを使用した結果は、それらの異なる特異性、それらの異なる加水分解性生成物、それらの潜在的な相乗作用またはプロセス条件または基質のために、依然として非常に予測不能である。
【0007】
別に分類されるドウ耐性を改善する酵素は、オキシダーゼである。グルコースオキシダーゼは、その触媒反応から放出される過酸化水素による酸化特性を有する酵素である。ドウの強化または増強、およびパン品質の改善は、グルコースオキシダーゼを添加することにより得ることができるが、過度なレベルの酵素が添加されると、悪影響を受ける。
【0008】
食品産業は、消費者が使用される成分に関して一層透明となることによって、現在は推進されている。同様に、消費者は、人工成分を含まない食品が「より健康的である」と考えているので、人工成分を含まない食品を好む。
【0009】
したがって、ドウまたはバッター耐性などの焼成製品の特性をさらに改善するための組成物および方法、または化学物質もしくは酵素などの成分の使用を回避する組成物および方法が依然として必要とされている。
【0010】
サワードウは、場合により、ベーカリー製品を生産するために膨張剤として使用される酵母と組み合わせた、乳酸菌(LAB)により発酵させた、小麦粉と水からなるドウと定義される。通常、サワードウの生産および繁殖に使用される粉は、ライ麦または小麦であるが、キノア、セモリナ、アマランス、ソバまたはチアの粉などの他の種類の粉が使用され得る。サワードウは、粉または他の原料に存在する微生物の自発的発酵から最初に得られる。この自発的な発酵(粉および水だけ)は、ほぼ1週間かかり、その終わりには、最も頻繁に特定される乳酸菌は、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、カザフスタニア・エグジグア(Kazachstania exigua)およびカンジダ・フミリス(Candida humilis)という酵母と連携した、ラクトバチルス・サンフランシセンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)およびウィッセラ・チバリア(Weissella cibaria)である。
【0011】
酵母単独により発酵させた製品に比べると、サワードウの焼成品は、抗真菌化合物およびバクテリオシンの生成および一層高い酸性度のために、より長い保存可能期間、弾性の向上、内部湿度および揮発性化合物の濃度による一層高い官能的品質、およびフィチン酸などの栄養阻害化合物の低下によるより高い栄養価を有する。
【0012】
3つのタイプのサワードウが、一般に、認識されている。従来のサワードウは、既に発酵させたドウの一部を使用して再開始されたサワードウであり、したがって、この従来のサワードウは、特定のレシピおよび成熟条件を使用して、定期的に常に新しくされる。次に、母体ドウは、粉、水、塩および脂肪の残りと混合され、好適な粘度にされ、次に、最終プルーフィングおよび焼成の前に発酵のため短い期間が与えられる。活性なサワードウとは、発酵を開始するための、順応株を使用した改善されたタイプのサワードウまたは液状サワードウのスターターである。これらのサワードウは、ネバネバしているかまたは液体となることができて一般に安定しており、例えば、自動化された製パン所では、加工が容易である。パンのドウを首尾よく発酵させるか、または多段階のサワードウプロセスを開始する程度に十分な、生きている乳酸菌および/または酵母が存在する。最後に、不活性な粉末状サワードウまたは液状サワードウは、品質が一定であり、それらは使用が容易となるので、その利便性のため伝統的または工業的な製パン所によって使用されている。これらは、酸性および従来的なサワードウの風味を直接もたらし、長い発酵ステップを回避している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ドウまたはバッター耐性などの特性が改善されたベーカリー製品、または化学物質もしくは酵素などの成分の使用を回避する組成物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、クロストリジウム・サッカロブチリクム(Clostridium saccharobutylicum)のうちの1種もしくは複数の株によって発酵された穀物または穀物画分の発酵に基づくサワードウ製品を使用することによって、ベーカリー製品におけるドウおよびパティスリー製品におけるバッターの耐性を改善することが可能であることを驚くべきことに見出した。サワードウ製品は、過度なプルーフィングまたは物理的衝撃からドウを保護することを可能とするばかりではなく、他の物理特性(体積および硬度の様な)およびベーカリー製品およびパティスリー製品の味感を改善する。これにより、ドウの強化作用のために、公知の他の化学改善剤または酵素を多量に添加することがさらに回避される。
【0015】
したがって、本発明の第1の目的は、穀物または穀物画分を含むサワードウ製品であって、前記サワードウ製品が、1種または複数の株のクロストリジウム・サッカロブチリクムにより発酵され、特に、クロストリジウム・サッカロブチリクムの前記株が、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864である、サワードウ製品を提供することである。
【0016】
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、乳酸形成細菌、特に緩徐酸性化乳酸菌から選択される1種または複数の追加の微生物により発酵され、かつ/または酵母株、特に前記追加の微生物は、ラクトバシラス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバシラス・クルストルム(Lactobacillus crustorum)またはラクトバシラス・レウテリ(Lactobacillus reuteri)、好ましくはラクトバシラス・サケイまたはラクトバシラス・クルストルムである。
【0017】
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、液状サワードウ製品、ペースト状サワードウ製品または乾燥サワードウ製品である。
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、活性なまたは不活性なサワードウ製品である。
【0018】
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、4.2~9.0の間、好ましくは4.2~6.0の間、より好ましくは4.2~4.8の間のpHを有することを特徴とする、液状サワードウ製品である。
【0019】
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、液状サワードウ製品を乾燥させることにより得られる乾燥サワードウ製品である。
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、10.0~25.0%の間(塩重量/塩を含まないサワードウ製品の重量)、好ましくは10.0~15.0%の間の量の塩をさらに含む。
【0020】
さらなる態様では、本出願は、サワードウ製品を得る方法であって、
- 穀物または穀物画分を水と混合するステップと、
- 上記の混合物を25.0℃~50.0℃の間、好ましくは25.0℃~40.0℃の間、より好ましくは25.0℃~35.0℃の間、さらにより好ましくは28.0℃~35.0℃の間の温度で、8時間~1000時間の間、好ましくは10~100時間の間、より好ましくは16~72時間の間、クロストリジウム・サッカロブチリクムの1種または複数の株により発酵させて、これにより液状サワードウ製品を得るステップと
を含む、方法に関する。
【0021】
特定の実施形態では、本明細書において開示されている方法は、以下のステップ:
- 前記細菌を不活性化させるステップ、
- 追加成分を添加するステップ、
- 前記液状サワードウ製品を乾燥させて、これにより、乾燥サワードウ製品を得るステップ
のうちの1つまたは複数をさらに含む。
【0022】
さらなる態様では、本出願は、食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製における成分として、特に改善剤、プレミックスまたは完成ミックスの一部として、本明細書において開示されているサワードウ製品の使用に関する。
【0023】
さらなる態様では、本出願は、サワードウ、ベーカリー製品またはパティスリー製品中の成分として、クロストリジウム・サッカロブチリクムの使用に関する。特に、クロストリジウム・サッカロブチリクムの前記株は、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864である。
【0024】
さらなる態様では、本出願は、本明細書において開示されているサワードウ製品を含む焼成製品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において使用される方法およびデバイスを説明する前に、本発明は、このような方法、構成要素およびデバイスとして記載されている特定の方法、構成要素またはデバイスに限定されず、当然ながら様々となり得ることを理解すべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってしか限定されないので、本明細書において使用される専門用語は限定を意図するものではないことをやはり理解すべきである。
【0026】
特に定義されない限り、本明細書において使用される技術的および科学的用語はすべて、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
本明細書に記載されているものに類似または等価な任意の方法および物質が、本開示の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および物質をこれから記載する。
【0027】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」、「the」は、特に文脈が明白に示さない限り、単数と複数の両方を含む。
用語「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」および「を含む(comprised of)」とは、本明細書で使用する場合、「含むこと(including)」、「含む(includes)」または「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的であるかまたはオープンエンドであり、追加的な列挙されていないメンバー、要素もしくは方法ステップを除外しない。本記載は、製品、または特定の特徴、部分またはステップを「含む」方法を指すが、これは、他の特徴、部分またはステップもまた存在することがあるが、列挙されている特徴、部分またはステップしか含まない実施形態も指すことがある可能性を指す。用語「含むこと」、「含む」および「を含む」はまた、用語「からなる」を含む。
【0028】
数字の範囲による数値の列挙は、すべての値およびこれらの範囲の一部、ならびに列挙されている端点を含む。
パラメーター、量、期間などの測定可能な値を言及する場合に使用される用語「約」および「およそ」は、変動が本明細書に開示されている発明に適用される限り、指定した値のおよび指定した値から、+/10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動を含むことが意図されている。用語「約」または「およそ」がそれ自体、指す値も、やはり開示されていることを理解すべきである。
【0029】
本発明の発明者は、クロストリジウム・サッカロブチリクム(Clostridium saccharobutylicum)のうちの1種もしくは複数の株によって発酵された穀物または穀物画分の発酵に基づくサワードウ製品を使用することによって、ベーカリー製品におけるドウおよびパティスリー製品におけるバッターの耐性を改善することが可能であることを驚くべきことに見出した。サワードウ製品は、過度なプルーフィングまたは物理的衝撃からドウを保護することを可能とするばかりではなく、他の物理特性(体積および硬度の様な)およびベーカリー製品およびパティスリー製品の味感を改善する。これにより、ドウの強化作用のために、公知の他の化学改善剤または酵素を多量に添加することがさらに回避される。
【0030】
本文脈では、ドウ耐性とは、プルーフィング時間の延長、またはプルーフィング中もしくはその後の機械的衝撃などの応力状態においてその形状を維持する、および焼成後に、応力のないドウまたはバッターを用いて得られる焼成製品と同等の特性(例えば、体積)を有する焼成製品をもたらす、ドウまたはバッター、好ましくはベーカリードウの能力を指す。
【0031】
他の物理特性は、有利には、本発明のサワードウの使用により改善される。所望の焼成製品のタイプに応じて、このような特性の改善は、体積の増加、硬度の低下、凝集性の増大、復元力の向上、弾力性の増大、粘性の低下、接着性の低下、粘着性の低下および/または噛み応えの低下とすることができる。好ましくは、特性の改善は、体積の増加、硬度の低下および弾性の改善である。
【0032】
したがって、本発明の第1の目的は、ドウおよびバッターの耐性を改善し、かつベーカリー製品およびパティスリー製品の他の物理特性および味感を改善するサワードウ製品を提供することである。本明細書において開示されているサワードウ製品は、サワードウ製品が穀物または穀物画分を含むという点を特徴とし、前記サワードウ製品は、クロストリジウム・サッカロブチリクムの1種または複数の株によって発酵される。特に、穀物または穀物画分は、クロストリジウム・サッカロブチリクムの1種または複数の株によって発酵される。
【0033】
特定の実施形態では、クロストリジウム・サッカロブチリクムの株は、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864である。
用語「穀物」とは、本発明の文脈では、以下に限定されないが、小麦、大麦、オート麦、スペルト小麦、ライ麦、モロコシ、トウモロコシ、ライ小麦、雑穀、テフ粉および/または米などの種を含めた、イネ科(Poaceae)の植物科の植物の可食構成成分を指す。好ましくは、穀物は、小麦、トウモロコシ(コーン)、米またはライ麦の中から選択される。より好ましい穀物は、ライ麦、米および小麦である。さらにより好ましい穀物は小麦である。
【0034】
用語「穀物画分」とは、本発明の文脈では、以下に限定されないが、例として、ふるいがけ、スクリーニング、選別、吹き、吸引、遠心選別、風篩、静電的分離または電場分離による分別を伴うまたは伴わない、例として、以下に限定されないが、裁断、回転、粉砕、破壊またはミル粉砕による、穀粉のサイズの機械的低下から得られる画分のすべてまたは一部を指す。好ましい穀物画分は、粉、全粒粉、ぬかおよび/またはそれらの任意の組合せである。
【0035】
クロストリジウム・サッカロブチリクムは、偏性嫌気性胞子形成性細菌であり、様々な炭水化物を発酵してアセトンおよびブタノールを生成することができる、溶媒生成性クロストリジウム綱(clostridia)の4つ個別の種の1つである。クロストリジウム綱は、細胞のファミリーの特徴的な「外見」に基づいて、伝統的に一緒にグループ化される大きなクラスの微生物である。顕微鏡で検査すると、これらの細菌細胞は、ロッド(または「紡錘体」)形状をしている。クロストリジウム綱は、土壌、水、汚水中に、またはヒトおよび動物の腸内にさえ見出され得る。クロストリジウム・サッカロブチリクムの説明は、Keis S.ら(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(2001年)、51巻、2095~2103頁)に見出すことができる。この種のタイプの株は、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864であり、米国ではダイズから単離されている。
【0036】
クロストリジウム・サッカロブチリクムの株はまた、有利には、そのDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)プロファイルにより特定され得る/特徴付けられ得る。
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、前記サワードウ製品がクロストリジウム・サッカロブチリクム、特にクロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864、ならびに乳酸形成性細菌および/または酵母株から選択される1種または複数の追加の微生物によって発酵されることを特徴とする。より特には、乳酸菌の1種または複数の株は緩徐酸性化乳酸菌から選択される。本発明によれば、緩徐酸性化細菌は、サワードウ発酵の最初の12時間の間に4.8未満のpHへと低下させることはなく、発酵の終了時に、4.2より高いpHを有するサワードウを生成する細菌である。さらにより好ましくは、乳酸菌の1種または複数の株は、ラクトバシラス・サケイ、ラクトバシラス・クルストルムおよびラクトバシラス・レウテリの群から好ましくは選択される、ラクトバシラス属の株である。特に、前記追加の微生物は、ラクトバシラス・サケイまたはラクトバシラス・クルストルムである。
【0037】
特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、前記サワードウ製品が、液状サワードウ製品、ペースト状サワードウ製品または乾燥サワードウ製品であることを特徴とする。
【0038】
本明細書において開示されているサワードウ製品は、多くの形態で提供されてもよい。液状サワードウ製品は、最も一般に使用されるタイプである。しかし、ペースト状、乾燥させたまたは乾燥サワードウ製品を含めた、やはり他のタイプのサワードウ製品も入手可能である。乾燥形態にあるサワードウ製品は、液状サワードウ製品を乾燥させることによって通常、得られる。好ましくは、固体/粉末組成物の乾燥物質は、85%(w/w)超、好ましくは90%超、より好ましくは92%以上である。したがって、前記範囲はまた、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の乾燥物質をもたらす。特定の実施形態では、本明細書において開示されているサワードウ製品は、液状サワードウ製品を乾燥させることにより得られる乾燥されたサワードウ製品である。
【0039】
液状サワードウ製品の乾燥は、当業者に利用可能な典型的な乾燥技法を使用して行うことができる。好ましくは、乾燥サワードウ製品は、液状サワードウ製品の噴霧乾燥によって得られる。好ましくは、固体/粉末組成物の乾燥物質は、85%超、好ましくは90%超、より好ましくは92%以上である。この範囲は、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100%となる乾燥物質の値を含む。
【0040】
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されているサワードウ製品は、液状サワードウ製品であり、前記液状サワードウ製品は、5%(w/w)~50%の間、好ましくは10%~40%の間、より好ましくは10%~35%の間の乾燥物質を有することを特徴とする。したがって、前記範囲はまた、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48および49%の乾燥物質のいずれかをもたらす。
【0041】
本明細書において開示されている液状サワードウ製品は、そのpHを特徴とすることがある。好ましくは、液状サワードウのpHは、4.2~9.0の間、より好ましくは4.2~6.0の間、さらにより好ましくは4.2~4.8の間である。
【0042】
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されているサワードウ製品は、活性なまたは不活性なサワードウ製品である。本発明によるサワードウ製品は、活性なサワードウ製品であってもよい。これは、サワードウ製品は、活性なおよび/または生きている微生物を含有することを意味する。活性なサワードウ製品は、スターターとして使用されて、上記と同じ規格および特性を有するペースト状または他のサワードウ製品を生成することができる。従来の活性なサワードウのように、活性な液状サワードウ製品は、品質および加工の均一性を保証する。
【0043】
より詳細には、本発明は、活性なまたは不活性な液状サワードウ製品である、液状サワードウ製品を提供する。代替的に、本発明は、活性なまたは不活性な乾燥サワードウ製品とすることができる、乾燥サワードウ製品を提供する。
【0044】
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されているサワードウ製品は、以下に限定されないが、酵母、酵母抽出物、塩、糖、酸化剤、還元剤(reducer)、酵素、タンパク質、脂肪およびそれらの組合せなどの、追加成分をさらに含む。好ましい追加成分は、酵母および/または塩である。
【0045】
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されているサワードウ製品は、10.0~25.0%(塩重量/塩を含まないサワードウ製品の重量)の間、好ましくは10.0~15.0%の間の量の塩(例えば、NaCl)をさらに含む。
【0046】
さらなる態様では、本出願は、本明細書に記載されている組成物またはサワードウ製品を得る方法、特に、サワードウ製品を得る方法であって、
- 穀物または穀物画分を水と混合するステップと、
- 上記の混合物を25.0℃~50.0℃の間、好ましくは25.0℃~40.0℃の間、より好ましくは25.0℃~35.0℃の間、さらにより好ましくは28.0℃~35.0℃の間の温度で、8時間~1000時間の間、好ましくは10~100時間の間、より好ましくは16~72時間の間、クロストリジウム・サッカロブチリクムの1種または複数の株、特にクロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864により発酵させて、これにより液状サワードウ製品を得るステップと
を含む、方法に関する。
【0047】
特定の実施形態では、本明細書において開示されている方法は、前記サワードウ製品がクロストリジウム・サッカロブチリクム、特にクロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864、ならびに乳酸形成性細菌および/または酵母株から選択される1種または複数の追加の微生物によって発酵されることを特徴とする。より特には、乳酸菌の1種または複数の株は、緩徐酸性化乳酸菌から選択される。さらにより好ましくは、乳酸菌の1種または複数の株は、ラクトバシラス・サケイ、ラクトバシラス・クルストルムおよびラクトバシラス・レウテリの群から好ましくは選択される、ラクトバシラス属の株である。特に、前記追加の微生物は、ラクトバシラス・サケイまたはラクトバシラス・クルストルムである。
【0048】
本明細書において開示されている方法では、穀物および/または穀物画分は、最初に、好適な液体、好ましくは水中に懸濁され、それにより、(液状)混合物を得る。この(液状)混合物の乾燥物質は、好ましくは、35~75%(w/w)の間である。
【0049】
前記(液状)混合物は、クロストリジウム・サッカロブチリクム、特に、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864またはクロストリジウム・サッカロブチリクム、特に、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864を含む、またはこれらからなる生細胞、ならびに乳酸形成性細菌および/または酵母株から選択される1種または複数の追加の微生物を、好ましくは(液状)混合物の105~109細胞/gの量で添加することによって発酵される。発酵/インキュベーションは、25~40℃の間、好ましくは25℃~35℃の間、より好ましくは28℃~35℃の間の温度で、8~1000時間の間、好ましくは10~100時間の間、より好ましくは16~72時間の間、行われる。この範囲は、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃および35℃の温度を含む。
【0050】
好ましい実施形態では、生細胞は、種培養物を得るための別の培養培地中で最初に培養された細胞の形態で添加される。2種以上の細菌種が使用される場合、これらの株は、好ましくは、種培養物を得るために、別の培養培地中で個別に培養される。
【0051】
本明細書において開示されている方法の特定の実施形態では、培養物は、撹拌または通気なし(または、培養物への空気/酸素添加の非存在下で)に行われる。
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されている方法は、4.2~9.0の間、好ましくは4.2~6.0の間、より好ましくは4.2~4.8の間のpHを有することを特徴とする、発酵ステップの最終製品である液状サワードウ製品を提供する。一部の実施形態では、当業者に公知の好適な化合物が使用されて、pHを所望の値に調節することができる。
【0052】
特定の実施形態では、本明細書において開示されている方法では、最初の12時間の間の発酵のpHは、好ましくは4.8より高い(維持される)。
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されている方法は、サワードウ製品を提供し、発酵の終了時に乾燥物質であることを特徴とする発酵ステップの最終製品は、上で定義されている通り、25%~75%(w/w)の間、好ましくは35%~75%の間、より好ましくは50%~75%の間で含まれる。
【0053】
特定の実施形態によれば、本明細書において開示されている方法は、2ステップの発酵システムを提供する。したがって、クロストリジウム・サッカロブチリクムの株は、穀物または穀物画分を含まない発酵媒体中の第1のステップで予備発酵され、次に、穀物または穀物画分、および場合により乳酸菌を含有する第2の発酵ステップのための活性なスターターとして使用される。
【0054】
別の実施形態では、クロストリジウム・サッカロブチリクムが、穀物または穀物画分に最初に添加され、乳酸菌が、発酵を開始して約20時間後に添加される、2ステップ発酵システムが使用され得る。
【0055】
特定の実施形態では、本明細書において提供されている方法は、以下のステップ:
- 前記細菌を不活性化させるステップ、
- 追加成分を添加するステップ、
- 前記液状サワードウ製品を乾燥させて、これにより、乾燥サワードウ製品を得るステップ
のうち1つ又は複数をさらに含む。
【0056】
本明細書において言及されている通り、細菌の不活性化は、以下に限定されないが、熱による不活性化または塩による不活性化などの、当分野において公知の慣用的な方法を使用して行われ得る。不活性化の好適な好ましい例は、10.0%~25.0%の間(塩の重量/液状サワードウの重量)、好ましくは10.0%~15.0%の間の濃度の塩、好ましくはNaClの添加である。
【0057】
乾燥サワードウ製品の場合、不活性化ステップが、省略されてもよい。
本明細書において開示されている方法の特定の実施形態では、サワードウ製品に添加される追加成分は、酵母、酵母抽出物、塩、糖、酸化剤、還元剤、酵素、タンパク質、脂肪およびそれらの組合せからなる非限定的なリストから選択されてもよい。好ましい追加成分は、酵母および/または塩である。好ましくは、追加成分は、細菌を不活性化するために使用される塩である。追加成分は、任意選択の乾燥ステップの前または後に添加されてもよい。
【0058】
本明細書において開示されている方法の特定の実施形態では、液状サワードウ製品の乾燥は、当業者に利用可能な典型的な乾燥技法を使用して行うことができる。好ましくは、液状サワードウ製品は、噴霧乾燥によって乾燥される。好ましくは、乾燥ステップの終了時に、固体/粉末組成物の乾燥物質は、85%超、好ましくは90%超、より好ましくは92%以上である。この範囲は、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100%となる乾燥物質の値を含む。
【0059】
さらなる実施形態では、本出願は、ベーカリードウまたはパティスリーバッターの耐性を改善するための方法であって、
- 本明細書に記載されているサワードウ製品を調製するステップと、
- 前記サワードウをドウまたはバッターに添加するステップと、
- 場合により、ドウまたはバッターにホスホリパーゼを添加するステップと
を含む、方法を提供する。
【0060】
本明細書において開示されている方法は、特に、ベーカリー製品およびパティスリー製品、好ましくはベーカリー製品(の品質)を改善する。より詳細には、本明細書において開示されている方法は、ベーカリードウおよびパティスリーバッターの耐性を改善する。
【0061】
さらなる実施形態では、本出願は、焼成製品の特徴を改善するための方法であって、
- 本明細書に記載されているサワードウ製品を調製するステップと、
- 前記サワードウをドウまたはバッターに添加するステップと、
- 場合により、ドウまたはバッターにホスホリパーゼを添加するステップと、
- 前記ドウまたはバッターを焼成することにより、焼成製品を調製するステップと
を含む、方法を提供する。
【0062】
有利には、本明細書において開示されている組成物はまた、体積、柔らかさ、凝集性、復元力、弾力性、粘性、接着性、粘着性および噛み応えなどの焼成製品の物理特性をさらに改善する。好ましくは、焼成製品は、体積の改善、および/または硬度の低下、および/または弾性の改善を有する。
【0063】
さらなる態様では、本出願は、食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製における成分として、特に改善剤、プレミックスまたは完成ミックスの一部として、本明細書において開示されているサワードウ製品の使用に関する。
【0064】
「改善剤」とは、本明細書で使用する場合、焼成製品の調製の間、および/または焼成後に、その有益な特性のために使用される成分および/または技術的補助剤をさらに含む、本発明の組成物を指す。これらの特性は、以下に限定されないが、焼成製品の外観、体積、フレッシュ感、保存性、色調、構造または短時間の噛みを含む。
【0065】
用語「プレミックス」とは、本明細書で使用する場合、通常、改善剤組成物であって、「活性な」構成成分中での濃度が、ベーカリー改善剤中よりも低い、改善剤組成物を指す。通常、プレミックスは、改善剤より多い用量で使用される(重量/粉の重量)。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「完成ミックス」は、通常、一般に水を除き、焼成製品を得るために焼殺され得る、ドウを調製するための必要な成分のすべてを含む組成物を指す。特に、膨張剤が、生物剤、より詳細にはベーキング酵母である場合、膨張剤は、完成ミックスからやはり除外され得る。本発明による完成ミックスは、本発明によるサワードウ製品、および焼成製品を得るために称され得るドウを調製するために必要な成分のすべてを含む。
【0067】
本出願のさらなる目的は、ベーカリー製品またはパティスリー製品を調製するための、本発明によるサワードウ製品、改善剤、ミックスまたは完成ミックスの使用を提供することである。発明者らは、ベーカリーまたはパティスリー用途における、本明細書において開示されているサワードウのためのスターターとしての特定の株の使用により、ドウまたはバッター耐性に及ぼす効果が改善されることを実際に見出した。
【0068】
さらなる態様では、本出願は、サワードウ、ベーカリー製品またはパティスリー製品中の成分としての、クロストリジウム・サッカロブチリクムの使用に関する。
本明細書において開示されている組成物は、特に、ベーカリー製品およびパティスリー製品、好ましくはベーカリー製品(の品質)を改善する。より詳細には、本明細書において開示されている組成物は、ベーカリードウおよびパティスリーバッターの耐性を改善する。有利には、本明細書において開示されている組成物はまた、体積、柔らかさ、凝集性、復元力、弾力性、粘性、接着性、粘着性および噛み応えなどの焼成製品の物理特性をさらに改善する。好ましくは、前記組成物は、体積(体積の増大)、柔らかさ(硬度の低下)および/または弾性を改善する。
【0069】
さらなる態様では、本出願は、本明細書において開示されているサワードウ製品を含む焼成製品に関する。特に、焼成製品は、本明細書において開示されている組成物を含むドウまたはバッターから調製される。
【0070】
本文脈では、焼成製品は、例えば、パン、ソフトロール、ベーグル、ドーナツ、デニッシュペストリー、ハンバーガーロール、ピザ、ピタパン、チャバタ、スポンジケーキ、クリームケーキ、パウンドケーキ、マフィン、カップケーキ、蒸しケーキ、ワッフル、ブラウニー、ケーキドーナツ、イーストレイズドドーナツ、バゲット、ロール、クラッカー、クッキー、パイクラスト、ラスクおよび/または他の焼成製品を含む群から選択されるものなどの当分野で公知のベーカリー製品またはパティスリー製品である。さらに特には、焼成製品は、パン、バゲットおよび/またはロールである。
【0071】
さらなる態様では、本出願は、ドウまたはバッター製品、好ましくはベーカリードウまたはバッター製品のドウ耐性を改善するための、本明細書において開示されているサワードウ製品の使用に関する。本文脈では、ドウ耐性とは、プルーフィング時間の延長、またはプルーフィング中もしくはその後の機械的衝撃などの応力状態においてその形状を維持する、および焼成後に、応力を受けていないドウまたはバッターを用いて得られる焼成製品と同等の特性(例えば、体積)を有する焼成製品をもたらす、ドウまたはバッター、好ましくはベーカリードウの能力を指す。
【0072】
さらなる態様では、本出願は、ドウまたはバッター製品、好ましくはベーカリードウまたはバッター製品のドウ耐性を改善する方法であって、食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製の間に、本明細書において開示されているサワードウ製品を添加するステップを含む、方法に関する。特に、前記サワードウ製品は、食品、好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の調製の間の成分として、好ましくは改善剤、プレミックスまたは完成ミックスの部分として添加される。
【実施例】
【0073】
実施例1
株および培地
株:
- クロストリジウム・サッカロブチリクムDSM13864は、DSMZ(Leibniz-Institut - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、ドイツ)から得た。
- クロストリジウム・ブチリクム(Clostridium butyricum)LMG1212は、LMG(BCCM/LMG細菌コレクション(ベルギー微生物保存機関(Belgian Co-ordinated collections of micro-organisms))- Laboratory of Microbiology;University of Genth;ベルギー)から得た。
- ラクトバシラス・サケイLMG9486は、LMG(BCCM/LMG細菌コレクション(ベルギー微生物保存機関)- Laboratory of Microbiology;University of Genth;ベルギー)から得た。
- ラクトバシラス・クルストルムLMG P-29154は、LMG(BCCM/LMG細菌コレクション(ベルギー微生物保存機関)- Laboratory of Microbiology;University of Genth;ベルギー)から得た。
- レウコノストック・シトレウムは、サワードウから単離した。
培地:
- RCM(強化クロストリジウム媒体):10g/lの肉抽出物、5g/lのペプトン、3g/lの酵母抽出物、1g/lのデンプン、5g/lのNaCl、3g/lの酢酸Na、5g/lのグルコース
- MRS:10g/lのペプトン、8g/lの肉抽出物、4g/lの酵母抽出物、20g/lのグルコース、1g/lのTween80、2g/lのK2HPO4、5g/lの酢酸Na.3H2O、2g/lのクエン酸トリアンモニウム、0.2g/lのMgSO4.7H2O、0.05g/lのMnSO4.4H2O、pH6.5。
種培養物
菌株は、撹拌なし(微好気条件)に、30℃でそれぞれ48時間~72時間、および24時間、RCM(クロストリジウム株の場合)またはMRS(L.サケイ、L.クルストルムおよびL.シトレウムの場合)中でインキュベートした。CFU/ml(コロニー形成単位)は、生理水(0.9% NaCl)中での段階希釈し、寒天プレートでのプレート培養により得た。2つの希釈度を計数し、平均値を計算した。
【0074】
実施例2
クロストリジウム・サッカロブチリクムを用いるサワードウ製品のパンのドウ耐性に及ぼす影響
サワードウ
サワードウ製品(サワードウ製品A)は、受容器中で1000g小麦粉(Pur8、Ceres、ベルギー)および1000gの水を混合することによって調製した。クロストリジウム・サッカロブチリクムDSMZ13864を、106CFU/gとなる混合物の濃度で接種し、この混合物をいかなる撹拌もなしに、30℃で24時間の間、発酵させた。発酵後のサワードウは、4.92のpHを有していた。
パン
パンは、表1の成分を使用して調製した。ドウ耐性の製品に及ぼすそれらの効果に関する公知の成分を2つの試験に含ませた。第1の対照試験は、乳化剤(MD HP20、Puratos、ベルギー)の添加に基づき、第2の試験は、酵素(Lipopan Xtra BG、Novozymes、デンマーク)の添加に基づいた。Lipopan Xtra BGは、ドウ耐性に対して陽性効果を示すリパーゼである。
【0075】
【0076】
成分は、Diosna SP24ミキサで低速で2分間、および高速で6分間、混合した。最終ドウ温度は29℃であった。このドウは、ベーカリー試験室で、手作業で成形し(600gのドウ片)、50~55%の相対湿度において、21℃で20分間の中間プルーフィングを受けた。600gのドウ片を、R6/L16で設定したQuality & Ethics - Jac Unicラインを使用して作製し、成形した。衝撃のないドウ片は、Koma SunRiserにおいて、95%相対湿度で50分間、35℃での最終プルーフィングを得た。衝撃を伴うドウ片は、Koma SunRiserにおいて、95%相対湿度で70分間、35℃で最終プルーフィングを受けた。これらのドウは、高さ5.5cmから焼き型を落とすことによって衝撃を受けた。次に、これらのパンをMiwe Condoオーブン2(Michael Wenz- Arnstein -ドイツ)で、蒸気(パンをオーブン調理する前に0.1L、およびその後に0.2L)と共に35分間、230℃で焼成した。パンを180分間、冷却した後、体積を測定した。
パン分析
パンの体積は、一般に使用されるナタネ置換法(rapeseed displacement method)を使用して測定した。4本のパンの平均体積を求めた。結果が、表2に示されている。
【0077】
【0078】
Cl.サッカロブチリクムにより発酵させたサワードウ製品の使用は、ドウ耐性に陽性効果を示す。サワードウ製品およびリパーゼの組合せ物の使用は、ドウ耐性にさらに良好な効果を示す。
【0079】
実施例3
他のクロストリジウム種
サワードウ
サワードウ製品を実施例2と同様であるが、熱処理した小麦粉(Flamingo、Meneba、オランダ)および滅菌水を用いて滅菌条件下で調製した。サワードウ製品に、サワードウ1gあたり106CFUの濃度で、クロストリジウム・サッカロブチリクムDSMZ13864(サワードウ製品B)またはクロストリジウムファミリーに属する別の株であるクロストリジウム・ブチリクムLMG1212(サワードウ製品C)を接種し、30℃で24時間、インキュベートした。発酵後、サワードウ製品Bは、pH4.9を有し、サワードウ製品Cは、pH5.06を有していた。
パン
パンは、参照の場合、同じレシピで、および試験3の場合、260gのサワードウ製品Bまたは試験4の場合、260gのサワードウ製品Cのどちらかで、試験1と同じレシピで、実施例2と同様に調製した。
【0080】
パンを実施例2と同様に分析した。結果が、表3に示されている。
【0081】
【0082】
Cl.サッカロブチリクムにより発酵させたサワードウ製品の使用だけが、ドウ耐性に陽性効果を示す。
実施例4
乳酸菌との組合せ
サワードウのスターターとしてクロストリジウム・サッカロブチリクムと組み合わせて様々な乳酸菌を使用した。ラクトバシラス・サケイLMG9486、ラクトバシラス・クルストルムLMG P-29154(緩徐酸性化乳酸菌)およびレウコノストック・シトレウム(サワードウから単離)(迅速酸化性乳酸菌)の種培養物を、MRS媒体中、各株の単一コロニーを接種することによって得た。これらの培養物を、撹拌しないで(微好気性条件)、30℃で24時間、インキュベートした。
【0083】
サワードウ製品は、1000gの小麦粉(Ceres、ベルギー)、1000gの水道水、および対応する種培養物(クロストリジウム株の場合、106CFU/g、およびラクトバシラスまたはレウコノストックの株の場合、107CFU/g)を用いて調製した。サワードウ製品Dは、種培養物としてCl.サッカロブチリクムを用いて発酵させ、サワードウ製品Eは、Cl.サッカロブチリクムとL.クルストルム種培養物の混合物で発酵させ、サワードウ製品Fは、Cl.サッカロブチリクムおよびL.サケイ種培養物の混合物で発酵させ、サワードウGは、Cl.サッカロブチリクムおよびLc.シトレウムの混合物で発酵させた。これらの混合物を混合し、振とうしないで20時間、30℃でインキュベートした。
【0084】
【0085】
パン
パンは、参照の場合、同じレシピで、および試験5の場合260gのサワードウ製品D、試験6の場合、260gのサワードウ製品E、試験7の場合、260gのサワードウF、または試験8の場合、260gのサワードウ製品Gのどちらかで試験1と同じレシピで、実施例2と同様に調製した。
【0086】
パンを実施例2と同様に分析した。結果が、表5に示されている。パンの体積は、100に設定した参照に対するものである。
【0087】
【0088】
Cl.サッカロブチリクムを用いて接種したサワードウは、ドウ耐性の何ら喪失なしに、L.クルストルムおよびL.サケイのような緩徐酸性化乳酸菌と組み合わせることができる。それどころか、L.シトレウムのような迅速酸性化乳酸菌との組合せは、ドウ耐性の喪失をもたらした。
【0089】
実施例5
パンの他の特徴に及ぼす影響
実施例4の130g(試験9)および260g(試験10)のサワードウ製品Fを使用して、実施例2と同様にパンを調製した。
【0090】
パンの柔らかさは、TA-XT2クスチャ分析器(Stable Micro Systems、英国)を用いて測定した。パンをスライスし、1cmのスライス4枚の25%変形を得るための力を測定した。この力を硬度と呼ぶ。焼成後1日目および7日目に、この硬度を測定する。2つの測定した力の間の差異は、「柔らかさの喪失」(柔らかさの喪失=7日目の変形力-1日目の変形力)である。
【0091】
それは相対尺度である。絶対値は、このままでは意味がないが、解釈のために参照値を比較すべきである。
弾性は、前述の力と20秒間の緩和後の力との間の差異である。弾性が、参照パンよりも小さい場合、これは、パンの身がそれほどの弾力性がないことを意味する。パンの身は、圧縮された場合、その元の形状を回復しない。これは、パンの身のスライスまたは取り扱いの間に、構造が、非可逆的に失われ得ることを意味する。
【0092】
この結果が、表6に表されている。
【0093】
【0094】
Cl.サッカロブチリクムおよびL.サケイを用いて発酵させたサワードウの添加は、参照と比べると、パンの硬度および弾性に影響を及ぼす。
実施例6
クリームケーキの特徴に及ぼすサワードウの効果
クリームケーキは、以下の基本レシピおよびプロセス(参照5)を使用して調製した。
【0095】
レシピ:Satin Cremeケーキミックス(Puratos、ベルギー):1000g
卵:350g
油:300g
水:225g
方法:ミキサ:Hobart
機器:パドル
速度:スピード1で1分間、およびスピード2で2分間
油および水をスピード1で1分間で加え、こそげ落としてスピード1で2分間
バッター重量:300g
温度:180℃
時間:45分間
試験11のケーキは、実施例4のサワードウ製品Fの50を基本レシピに加えることによって得た。
【0096】
このケーキの体積は、一般に使用されるナタネ置換法(rapeseed displacement method)を使用して測定した。4つのケーキの平均体積を求めた。
【0097】
ケーキの身の硬度(柔らかさの反対)、凝集性、復元力、弾力性、粘性、粘着性および噛み応えを、テクスチャ分析器(TAXT2、Stable Micro Systems、英国)を用い、ケーキの身の試料に対してテクスチャプロファイル分析(TPA)を行うことによって評価した。円筒形プローブ(直径=100mm)を有する円筒形ケーキの身の試料(直径=45mm、高さ40mm)の、製品の最初の高さの最大変形50%を伴う2つの連続的な変形を、2mm/秒の変形速度、および3秒間の2つの連続変形の間の待ち時間で行った。テクスチャ分析器の負荷セルによって測定される力は、時間の関数として記録した。
【0098】
硬度は、ケーキ試料の初期高さの50%の固定変形を適用するのに必要な最大力である。
凝集性は、第2の変形曲線(下方向+上方向)下面積(surface)と第1の変形曲線(下方向+上方向)下での比の間の比(%で表す)として計算する。
【0099】
復元力は、プローブが上方向に移動した場合の第1の変形曲線下面積と、プローブが下方向に移動した場合の第1の変形曲線下面積と間の比(%)として計算する。
粘性は、変形後のケーキ表面からプローブを緩めるために必要とする負の力である。
【0100】
粘着性は、硬度および凝集性の数学的な積として計算する。
噛み応えは、硬度、凝集性および弾力性の数学的な積として計算する。
【0101】
【0102】
結論:クリームケーキの調製の間のCl.サッカロブチリクムおよびL.サケイにより発酵させたサワードウを使用すると、ケーキの体積の増加、ならびに硬度、粘着性および噛み応えの低下を主にもたらした。他のパラメーターは、参照と同等であった。
【国際調査報告】