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特表2022-518496微小血栓症を処置及び予防するためのプラスミノーゲン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】微小血栓症を処置及び予防するためのプラスミノーゲン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20220308BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A61P7/06
A61P9/00
A61P9/10
A61P7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542366
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2020051733
(87)【国際公開番号】W WO2020152322
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】19153572.3
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519324329
【氏名又は名称】プリビファーマ・コンサルティング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・テー・キーシク
(72)【発明者】
【氏名】リカルダ・ヴェルツ
(72)【発明者】
【氏名】ハンネ・リーケ・ゲルディンク
(72)【発明者】
【氏名】マルク・メイザー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヨアヒム・アンデルス
(72)【発明者】
【氏名】チョンスー・シー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シンメルプフェニッヒ
(72)【発明者】
【氏名】サティシュ・クマール・デヴァラプ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA36
4C084DC06
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA55
(57)【要約】
本発明は、患者において血栓性事象を予防又は処置する方法における使用のためのプラスミノーゲンに関し、ここで該患者は、微小血栓を発症するリスクがあるか又は微小血栓に罹患している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において血栓性事象を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲンであって、ここで該患者は、1mm未満の直径を有する微小血栓を発症するリスクがあるか又は該微小血栓に罹患している、上記プラスミノーゲン。
【請求項2】
Glu-プラスミノーゲンである、請求項1に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項3】
患者は、増加したGlu-プラスミノーゲン消費、Glu-プラスミノーゲンの減少した生合成、又は両方の組み合わせにより引き起こされる後天性Glu-プラスミノーゲン欠乏症を有する、請求項2に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項4】
プラスミノーゲンはGlu-プラスミノーゲンであり、そして患者は、Glu-プラスミノーゲンが該患者に投与されなければ組織の少なくとも一部の壊死をもたらす少なくとも1つの虚血領域に罹患している、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項5】
プラスミノーゲンはタンパク質分解活性を有していない、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項6】
患者は後天性プラスミノーゲン欠乏症を有する、請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項7】
後天性プラスミノーゲン欠乏症は、増加したプラスミノーゲン消費により引き起こされる、請求項6に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項8】
プラスミノーゲンは、Lys-プラスミノーゲン又はGlu-プラスミノーゲンとLys-プラスミノーゲンとの組み合わせ又はGlu-プラスミノーゲン及びLys-プラスミノーゲン及び1つもしくはそれ以上の他のプラスミノーゲン誘導体の組み合わせである、請求項1及び5~7のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項9】
患者は、大血管の血栓症又は塞栓形成を生じる微小血栓を発症するリスクがあるか又は該微小血栓に罹患している、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項10】
患者は、リポタンパク質(a)-貧血、鉄欠乏症、ビタミンD欠乏症、ビタミンK欠乏症、ビタミンH欠乏症、貧血、ホモシステイン血症、プロテインZ欠乏症、陥入、脳卒中、心筋梗塞、鼻出血、月経過多、フォン・ヴィルブランド症候群、ジルベール症候群、肝機能障害、抗リン脂質症候群、片頭痛、甲状腺機能障害、流産、プラスミノーゲンの活性化因子を使用した溶解療法における治療失敗及びその2つ又はそれ以上の組み合わせのような疾患を生じる、動脈、静脈、細動脈、細静脈、毛細血管の狭窄からなる群から又は動脈、静脈、細動脈、細静脈、毛細血における痙攣から選択される病的状態を発症するリスクがあるか又は該病的状態に罹患している、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項11】
患者は、同じ種の集団全体で見られるプラスミノーゲンの血中レベルよりも低いプラスミノーゲンの血中レベルを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項12】
より低いプラスミノーゲン血中レベルは、プラスミノーゲンの高い生理的消費又は病的消費、プラスミノーゲンの高い排出速度、プラスミノーゲンの低い発現速度、及び高レベルのプラスミノーゲンの1つ又はそれ以上の阻害剤の存在からなる群から選択される1つ又はそれ以上の理由により引き起こされる、請求項11に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項13】
より低いプラスミノーゲン血中レベルは、プラスミノーゲンの高い生理的消費又は病的消費により引き起こされる、請求項12に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項14】
患者の血液におけるプラスミノーゲンのレベルが決定され、そしてプラスミノーゲンの決定されたレベルが、同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い場合には、血栓性事象を予防又は処置するために、十分な量のプラスミノーゲンが患者に投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項15】
微小血栓は毛細血管の微小血栓である、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項16】
患者は、プラスミノーゲンが該患者に投与されなければ組織の少なくとも一部の壊死をもたらす少なくとも1つの虚血領域に罹患している、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項17】
患者は1つより多くの血栓性事象に罹患している、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項18】
患者は、プラスミノーゲンが該患者に投与されなければ組織の少なくとも一部の壊死をもたらす少なくとも1つの虚血領域、及び1つより多くの血栓性事象に罹患している、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項19】
血栓性事象は、梗塞の病理発生において典型的な任意の理由により引き起こされる梗塞により引き起こされる、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項20】
血栓事象は、高コレステロール血症により引き起こされるコレステロール結晶を含有する動脈硬化プラークの破裂により引き起こされる、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項21】
血栓性事象は、梗塞の病理発生において典型的な任意の理由により引き起こされる梗塞により、及び高コレステロール血症により引き起こされるコレステロール結晶を含有する動脈硬化プラークの破裂により引き起こされる、請求項1~20のいずれかに記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項22】
血栓性事象は梗塞を引き起こす、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項23】
患者は、0.01~100mg/体重kg又は0.01~1mg/体重kgの範囲のプラスミノーゲン用量で少なくとも1回プラスミノーゲンを投与される、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項24】
患者は、血栓性事象の発生後24時間以内に、外科的介入のような血栓性事象を発症するリスクが高い事象を受ける前1週間以内に、又は血栓性事象を発症するリスクがある場合に定期的に、少なくとも1回プラスミノーゲンを投与される、請求項1~23のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項25】
以下の投与スキーム:
(A) 患者は、3日もしくはそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲンを投与され、好ましくはここで投与は静脈内投与であり、特に各々0.01~1mg/体重kgの範囲の単回用量の静脈内投与である;
(B)患者は、3日もしくはそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲンを投与され、好ましくはここで投与は動脈内投与であり、特に各々0.01~1mg/体重kgの範囲の単回用量の動脈内投与である;
(C)患者は、3日もしくはそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲンを投与され、好ましくはここで投与は頭蓋内投与であり、特に各々0.01~1mg/体重kgの範囲の単回用量の頭蓋内投与である;
(D)患者は、3日もしくはそれ以上の期間の間、2日に1回プラスミノーゲンを投与され、好ましくはここで投与は筋肉内投与であり、特に各々0.05~10mg/体重kgの範囲の単回用量の筋肉内投与である;
(E)患者は、3週もしくはそれ以上の期間の間、週に1回プラスミノーゲンを投与され、好ましくはここで投与は皮下投与であり、特に各々0.1~100mg/体重kgの範囲の単回用量の皮下投与である;又は
(F)患者は、3~7日の期間の間、1日に1回プラスミノーゲンを投与され、そしてその後、3日もしくはそれ以上の期間の間2日に1回、もしくは3週もしくはそれ以上の期間の間週に1回投与される;
の1つに従って患者にプラスミノーゲンが投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項26】
患者は、血漿コンパートメントにおいて正常プラスミノーゲン量の15%以下、10%以下、又は5%以下を置き換えるために適切な用量を投与される、請求項1~25のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項27】
患者は:
(a) 処置期間の間に0.01~100mg/体重kgの範囲のプラスミノーゲン用量で少なくとも1回プラスミノーゲンを投与され;そしてその後、
(b)患者の血液中のプラスミノーゲンのレベルが工程(i)において決定され、そして決定されたプラスミノーゲンレベルが同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い場合に、患者はさらなる工程(ii)において血栓性事象を予防又は処置するために十分な量のプラスミノーゲンを投与され、そして場合により、
(c) 工程(i)及び(ii)は、工程(i)において決定されたプラスミノーゲンレベルが同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い限り繰り返し行われる、
請求項1~26のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項28】
患者は、深部静脈血栓症、骨盤静脈血栓症、肺塞栓症、任意の器官の梗塞、網膜静脈閉塞症、播種性血管内凝固(DIC)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、毛細血管流路における血栓性事象と同時に起こる血管障害、特に糖尿病性血管障害、血栓性静脈炎、又はその2つもしくはそれ以上の組み合わせに罹患している、請求項1~27のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項29】
患者がアテローム性動脈硬化もしくは動脈の狭窄に罹患しているか、外科手術、特にバイパス手術を受けたことがあるか、又は血管内部プロテーゼを有しているという点において、患者は血栓性事象を発症するリスクがある、請求項1~28のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【請求項30】
患者は、播種性血管内凝固(DIC)、急性腎損傷(AKI)、敗血症、又はその2つもしくはそれ以上の組み合わせに罹患している、請求項1~29のいずれか1項に記載の使用のためのプラスミノーゲン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者において血栓性事象を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関し、ここで患者は、微小血栓を発症するリスクがあるか又は微小血栓に罹患している。本発明はまた、微小血栓の溶解のための方法及び先天性又は後天性のプラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有する患者における微小血栓の予防における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に言及する。
【背景技術】
【0002】
血栓性事象、特に微小血栓は深刻な健康問題を引き起こす場合がある。例えば、冠動脈梗塞、脳卒中及び肺塞栓症は、先進国世界における主要な死亡原因のうちのいくつかである。したがって、血栓性事象を処置及び予防する強い必要性が存在している。特に、微小血栓、すなわち、特に毛細血管系で発生する小さいサイズの血栓性事象は、患者において容易に処置できない。
【0003】
微小血栓性(microthrombotic)事象の形成は、例えば、血管手術(例えば、冠動脈バイパス手術)のような外科的介入、内部プロテーゼの存在(すなわち、異物/インプラント又は移植片の挿入、例えば、血管/脈管内部プロテーゼ)、又は狭窄外傷のような様々な理由を有し得る。様々なさらなる原因が公知である。
【0004】
血栓症の処置は通常は薬物投与による。血栓が拡大するのを防止するために、抗凝固阻害が探し求められる。ヘパリン製剤又は第Xa因子阻害剤が使用される。血餅の成長が止まる場合、身体は損傷を浄化し始めることができる。身体は典型的には血餅を破壊して、静脈を再び自由にしようとする(再び血管豊富にする(re-vasculated))。これは典型的には数日、数週間又は数ヶ月もかかり、静脈系のより多くの領域が影響を受けるほど長くなる。血餅の破壊及び静脈の再生において、血液の凝固能を増加させる物質が放出される。
【0005】
この期間の間、再発した/繰り返される血栓性事象のリスクが特に高い。したがって、さらなる抗凝固薬はしばしば避けられる。フェンプロクモン(phenprocoumone)、ワルファリン又はエチルビスクマアセタート(ethylbiscoumacetat)のような4-ヒドロキシクマリン類は約3~6か月間使用される。これらの薬物は血栓症を予防するが、出血する意向も増加させるので、クマリン類の使用は典型的には定期的な血液検査及び特別な注意を必要とする。とりわけ、抗凝固治療に起因するこの出血リスクは、日常的な診療における未だ未解決の問題である。抗血栓治療にもかかわらず、上述の疾患における凝固の残留量がなお必要である。第一に、全ての手術後に、創傷中への出血を止めるために創傷治癒にはこれが必要である。血餅自体は、組織修復に必要な細胞(線維芽細胞)の進入の基礎である。これらは創傷を固定し、新しいコラーゲン線維を構築し、新しい組織を再構築するためにフィブリンネットワークを使用している。創傷治癒は典型的には4つの段階を有する:
第I期 - 止血期: 創傷が凝固により閉じられるプロセスである。血液が身体から漏出するときに止血が始まる。止血の第一段階は、血流を制限するために血管が収縮するときである。次に、血管壁の破損を塞ぐために血小板が固着し合う。最後に、凝固が起こって、分子結合剤のようなフィブリンの糸で血小板血栓を強化する。創傷治癒の止血段階は非常に速く起こる。血小板は血管の上皮壁の破壊の数秒以内に内皮下層に付着する。その後、最初のフィブリン鎖が約60秒で接着し始める。フィブリン網が始まるにつれて、凝結原及びプロトロンビン放出により血液が液体からゲルに変形する。血栓又は血餅の形成は、血小板及び血液細胞を創傷領域に捕捉したままにする。血栓は一般的に創傷治癒の段階において重要であるが、それが血管壁から脱離して循環系に入る場合は問題になり、脳卒中、肺塞栓症又は心臓発作を引き起こす可能性がある。より早いフィブリン血栓分解が、再発性抹消塞栓症のリスクが低い中枢肺塞栓症を有する患者の特徴であるということが知られている(非特許文献1を参照のこと)。
【0006】
第II期 - 炎症期: 炎症は創傷治癒の第二段階であり、そして損傷直後に始まって、損傷した血管が滲出物(水、塩、及びタンパク質から構成される)を漏出して局在化した膨潤を引き起こす。炎症は出血の制御及び感染の防止の両方を行う。流体充血は、治癒及び収縮細胞が創傷部位に移動することを可能にする。
【0007】
炎症期の間、損傷した細胞、病原体、及び細菌は創傷領域から除去される。これらの白血球、増殖因子、栄養素及び酵素は、膨潤、熱、痛み、及び発赤を生じ、これらは創傷治癒のこの段階の間よく見られる。炎症は創傷治癒プロセスで自然なことであり、長引いた場合又は過度な場合のみ問題となる。
【0008】
第III期 - 増殖期: 創傷治癒の増殖期では、創傷がコラーゲン及び細胞外マトリックスで構成された新しい組織で再構築される。増殖期において、新しい組織が構築されるにつれて創傷は縮小する。さらに、肉芽組織が健常でかつ十分な酸素及び栄養素を受容することができるように血管の新しいネットワーク構築されなければならない。筋線維芽細胞は、創傷の縁部をとらえて、平滑筋細胞と同様の機序を使用してそれらを一緒に引っ張ることにより創傷を縮小させる。創傷治癒の健常段階において、肉芽組織は薄赤色又は赤色であり、構造は不均一である。さらに、健常肉芽組織は容易に出血しない。色の濃い肉芽組織は、感染、虚血、又は不十分な灌流の徴候であり得る。創傷治癒の増殖期の最終段階において、上皮細胞は創傷の表面を直す。創傷が湿って水和したままにされた場合に上皮化がより速く起こるということに留意するのは重要である。一般に、密封包帯又は半密封包帯が傷害の後48時間以内に適用される場合、それらは正しい組織湿度を維持して上皮化を最適化するだろう。
【0009】
第IV期 - 成熟期: 創傷治癒のリモデリング段階とも呼ばれ、成熟期ではコラーゲンがIII型からI型に再構築され、そして創傷は完全に閉じる。創傷の修復に使用されたがもはや必要でない細胞はアポトーシス又はプログラム細胞死により除去される。コラーゲンが増殖期の間に沈着する場合、これは無秩序であり、創傷は厚くなる。成熟期の間に、コラーゲンは張力の線にそって整列し、そして水は再吸収され、コラーゲンは近くに一緒に存在し、そして架橋し得る。コラーゲンの架橋は瘢痕の厚みを減少させ、そしてまた創傷の皮膚領域をより強くする。一般に、リモデリングは創傷の約21日後に始まり、そして1年又はそれ以上継続し得る。架橋があっても、治癒された創傷領域は未損傷皮膚よりも弱いままであり続け、一般に未損傷皮膚の引張強度の80%しかない。
【0010】
創傷治癒の段階は複雑かつ不安定なプロセスである。創傷治癒の段階において進行に不具合があると慢性創傷に至る場合がある。慢性創傷に至る要因は、静脈疾患、感染、糖尿病及び高齢者の代謝欠損である。抗凝固治療にもかかわらず、残留凝固活性は創傷治癒プロセス、さらには増殖期及び成熟期と並行して起こる線維素溶解に必要である。
【0011】
当該分野で公知の抗凝固薬は、重大な欠点を有しており、しばしば重大な健康リスクを引き起こす。凝固に関する問題は、例えば、未知の肝不全により、又は抗凝固薬の過剰投与により引き起こされる場合がある。線維素溶解部位は現在では明らかでない。両方の側面の観察が処置結果の改善に役立ち得る。改善された処置が望まれる。
【0012】
現在使用されるtPA(組織プラスミノーゲン活性化因子uPA(ウロキナーゼ))は、少なくとも正常プラスミノーゲン(PLG)レベルを必要とする間接的療法として適用される。tPAは典型的にプラスミノーゲン(PLG)を活性化してプラスミンにする。これは既に形成された血栓を溶解するために使用され、これは連続してさらなる組織損傷を引き起こし得る。十分な量のプラスミノーゲン(PLG)が利用可能でなければ治療は失敗する場合がある。これは「溶解療法」を受ける全ての患者の約3分の1において見られた(非特許文献2;非特許文献3)。
【0013】
異なる種類のプラスミノーゲン(PLG)の混合物もまた、患者に投与される場合に重大な欠点を有する。
【0014】
特許文献1は、Glu-プラスミノーゲンを血漿及び血漿分画、特にクリオ除去(cryo-poor)血漿、1つ又は2つの吸収工程により減少されたクリオ除去血漿(F IX/PCC又はC1-エステラーゼ阻害剤)、ペーストI-II-III又はオクタン酸ペーストから得ることができ、そしてこれが器官梗塞に罹患しているか又は器官梗塞を発症するリスクのある患者を処置するために有効な薬剤として役立ち得ることを教示する。
【0015】
特許文献2は、Lys-プラスミノーゲンを用いた脳浮腫の処置を教示する。また、プラスミノーゲン(PLG)の投与の一般的な補充療法が記載される(非特許文献4;非特許文献5を参照のこと)。
【0016】
特許文献3は、プラスミン(プラスミノーゲン)の補給療法を教示する。この文書は、1mm未満の直径を有する微小血栓の予防も処置も教示しない。さらに、特許文献3は、特許文献3の文脈において使用されるようなプラスミン(プラスミノーゲン)は有意なタンパク質分解活性を有するので、本発明の意味でのGlu-プラスミノーゲンには言及していないと思われる。この文脈において、特許文献3は、そこで使用されるプラスミノーゲンがフィブリンを分解するということを教示する(特許文献3、25頁、24及び25行、並びに30頁、24行)。対照的に、本発明の意味でのGlu-プラスミノーゲンは、プラスミン及びLys-プラスミノーゲンと対照的に、(本質的に)タンパク質分解活性を有していない。
【0017】
特許文献4は、対象における動脈及び静脈の血栓症を予防及び/又は排除するための方法を教示する。また、この文書は、1mm未満の直径を有する微小血栓の予防も処置も教示しない。さらに、特許文献4はGlu-プラスミノーゲンに言及しない。対照的に、特許文献4において教示されるプラスミノーゲン(PLG)はタンパク質分解活性を有するが、本発明の意味でのGlu-プラスミノーゲンは、(本質的に)タンパク質活性を有していない。特許文献4は、プラスミノーゲン(PLG)として810アミノ酸長のタンパク質に注目しており、したがってGlu-プラスミノーゲンとは異なるタンパク質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2018/162754
【特許文献2】US 5,597,800
【特許文献3】WO2017/077380
【特許文献4】EP-A3395359
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Kupis et al, Scientific Reports, 2019, 9:72
【非特許文献2】Stubblefield WB, Alves NJ, Rondina MT, Kline JA: Variable Resistance to Plasminogen (PLG) Activator Initiated Fibrinolysis for Intermediate-Risk Pulmonary Embolism.PLoS One.2016 Feb 11;11(2):e0148747.doi: 10.1371/journal.pone.0148747.eCollection 2016.
【非特許文献3】Cullis JO, Chisholm M, Ackery DM: Unresolved pulmonary embolism: the role of fibrinolysis.Nucl Med Commun.1993 Jan;14(1):4-7
【非特許文献4】Shapiro et al., Blood, 2018, 131:1301-1310
【非特許文献5】Schott et al., The New England Journal of Medicine, 1998, 339:1679-1686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、微小血栓、すなわち、1mm未満の直径という小さいサイズの血栓性事象を処置及び予防することはなお特に困難である。血栓を処置するための手段は、主にこれらが発生した後の大きいサイズの血栓の処置に焦点を当てている。しかし、血栓性事象の予防に加えて、患者において微小血栓性事象を処置及び予防する要望も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
驚くべきことに、プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンを、患者において血栓性事象、特に微小血栓の形成を予防又は処置するための方法として非常に有効に使用することができるということが実験に基づいて見いだされた。
【0022】
本発明は、患者において血栓性事象を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンに関する。より詳細には、本発明は、患者において血栓性事象を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関し、ここで該患者は、1mm未満の直径を有する微小血栓を発症するリスクがあるか又は該微小血栓に罹患している。
【0023】
言い換えれば、本発明は、患者における血栓性事象を予防又は処置するための方法に関し、ここで該患者は、十分な量のプラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンを投与される。より詳細には、本発明は、患者における血栓性事象を予防又は処置するための方法に関し、ここで該患者は十分な量のプラスミノーゲン(PLG)を投与され、そして該患者は、1mm未満の直径を有する微小血栓を発症するリスクがあるか又は該微小血栓を罹患している。
【0024】
本発明の局面は、患者において微小血栓性事象を予防するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関し、ここで該患者は、1mm未満の直径を有する微小血栓を発症するリスクがある。
【0025】
本発明の別の局面は、患者における微小血栓性事象を処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関し、ここで該患者は、1mm未満の直径を有する微小血栓に罹患している。
【0026】
典型的には、患者は、多数の微小血栓に罹患しているか又は多数の微小血栓を発症するリスクがある。患者は、血栓性事象において、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100の微小血栓に罹患しているか又は該微小血栓を発症するリスクがある。
【0027】
本発明によれば、血栓性事象は微小血栓である。本明細書において使用されるように、用語微小血栓(microthrombus)(複数「microthrombi」)は、空間方向の1つにおいて1mm(ミリメートル)未満、好ましくは0.9mm未満、0.8mm未満、0.7mm未満、0.6mm未満、0.5mm未満、0.4mm未満、0.3mm未満、0.2mm未満又は0.1mm未満の最大直径を有する任意の血栓として最も広い意味で理解され得る。当然のことながら、残りの空間方向の直径は、場合により互いに独立してより大きくてもより小さくてもよい。最大直径は、その方向に最も広い空間的広がりを有する場所で微小血栓を理論的に切り裂いた場合の理論的な切断長であるということは一般的に理解されるだろう。微小血栓は、微小凝固異常(micro-coagulation disorder)であってもよい。
【0028】
したがって、好ましい実施形態において、本発明はまた、患者において微小血栓症(microthrombosis)を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関する。
【0029】
好ましくは、微小血栓は、3つの空間方向のうちの2つにおいて1mm未満、好ましくは0.9mm未満、0.8mm未満、0.7mm未満、0.6mm未満、0.5mm未満、0.4mm未満、0.3mm未満、0.2mm未満又は0.1mm未満の最大直径を有する。当然のことながら、残りの空間方向の直径は場合によりより大きくてもより小さくてもよい。
【0030】
好ましくは、特に3つの空間方向のうち2つにおいて、1mm未満、好ましくは0.9mm未満、0.8mm未満、0.7mm未満、0.6mm未満、0.5mm未満、0.4mm未満、0.3mm未満、0.2mm未満又は0.1mm未満の最大直径を付随して有する場合、微小血栓は、3つの空間方向の全てにおいて、3mm未満、好ましくは2.5mm未満、2mm未満、1.5mm未満、1mm未満又は0.5mmの最大直径を有しする。
【0031】
好ましくは、微小血栓は、2mm(平方ミリメートル)未満、好ましくは1.5mm未満、1mm未満、0.9mm未満、0.8mm未満、0.7mm未満、0.6mm未満、0.5mm未満、0.4mm未満、0.3mm未満、0.2mm未満、又は0.1mm未満の最大スライス面を有する。一般に、最大スライス面は、その最も広い空間的広がりを有する場所で微小血栓を理論的に切り裂いた場合の理論的切断表面積であると理解されるだろう。
【0032】
上記を考慮して、好ましい実施形態において、血栓性事象は、1mm未満の直径を有する血管の血栓である。好ましい実施形態において、血栓性事象は、0.9mm未満、0.8mm未満、0.7mm未満、0.6mm未満、0.5mm未満、0.4mm未満、0.3mm未満、0.2mm未満又は0.1mm未満の直径を有する血管の血栓である。
【0033】
好ましい実施形態において、血栓性事象は毛細血管の血栓である。好ましい実施形態において、微小血栓は毛細血管の微小血栓である。
【0034】
一般的には、本発明は、プラスミノーゲン(PLG)及びその誘導体又は組み合わせ(Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン及び/又はプラスミン)に関する。プラスミノーゲン(PLG)/プラスミン系の構造及び機能は一般に知られている(Aisina and Mukhametova、Russian Journal of Bioorganic Chemistry、2014、40:590-605を参照のこと)。
【0035】
特に好ましい実施形態において、本発明の状況において使用されるプラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンである。したがって、本発明全体を通して、プラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンであると特定され得る。代替の好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)はLys-プラスミノーゲンである。代替の好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンとLys-プラスミノーゲンとの組み合わせである。ここで、Lys-プラスミノーゲン及びGlu-プラスミノーゲンは任意の変異で組み合わせられ得る。代替の好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)は、Glu-プラスミノーゲン及びLys-プラスミノーゲン及び1つ又はそれ以上の他のプラスミノーゲン(PLG)誘導体の組み合わせである。ここで、Lys-プラスミノーゲン及びGlu-プラスミノーゲン及び1つ又はそれ以上の他のプラスミノーゲン(PLG)誘導体は任意の変異で組み合わせられ得る。
【0036】
Glu-プラスミノーゲンは血漿由来の酵素前駆体である。Glu-プラスミノーゲンは(本質的に)タンパク質分解活性を有していないことが知られている。
【0037】
好ましくは、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、(本質的に)タンパク質分解活性を有していない。
【0038】
このような(本質的に)タンパク質分解活性が存在しないことは、当業者により一般的に理解されるように最も広い意味で理解され得る。好ましくは、患者に投与されるGlu-プラスミノーゲン及び/又はプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)の酵素活性は、総タンパク質含有量1.0g/Lあたり70ユニット(U、すなわち、μmol/分)、又は総タンパク質含有量1.0g/Lあたり10未満、9未満、8未満、7未満、6未満、5未満、2未満、1未満、0.5未満、0.1未満、もしくは0.01U未満である。この文脈において、タンパク質分解活性は任意の手段により決定され得る。例えば、S-2288(Chromogenix)タンパク質分解活性アッセイにより決定される活性であり得る、あるいは、フィブリンのD-ダイマーへの分解として決定されてもよい。プラスミンの特異的酵素活性は、フィブリンのD-ダイマーへの分解として決定することができる。好ましくは、患者に投与されるGlu-プラスミノーゲン及び/又はプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)のタンパク質分解活性は、アッセイの検出限界より低い。
【0039】
好ましい実施形態において、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物は、総タンパク質含有量に基づいて、少なくとも90%(質量/質量)、少なくとも95%(質量/質量)、少なくとも97%(質量/質量)、少なくとも98%(質量/質量)、少なくとも99%(質量/質量)、少なくとも99.5%(質量/質量)、少なくとも99.7%(質量/質量)、少なくとも99.8%(質量/質量)、又は少なくとも99.9%(質量/質量)の純度でGlu-プラスミノーゲンを含有する
好ましい実施形態において、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、エンドトキシンを全く含有しないか、又は(欧州薬局方(バージョン5.0) 2.6.14章に従うリムルスアメボサイトライセート(Limulus Amebocyte Lysate)(LAL) endosafe denochromeアッセイにおいて決定して)1EU/mL未満、0.5EU/mL未満、0.1EU/mL未満、0.05EU/mL未満、もしくは0.01EU/mLの非常に低いエンドトキシン含有量しか含有しない。
【0040】
好ましい実施形態において、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、(比濁分析アッセイにおいて決定して)免疫グロブリンを全く含有しないか、又は免疫グロブリン5g/L未満、2g/L未満、1g/L未満、0.5g/L、又は0.1g/L未満の非常に低い免疫グロブリン含有量しか含有しない。
【0041】
好ましい実施形態において、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、Lys-プラスミノーゲンを全く含有しないか、又は非常に低いLys-プラスミノーゲン含有量しか含有しない。好ましい実施形態において、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、アルブミンを全く含有しないか、又は非常に低いアルブミン含有量しか含有しない。
【0042】
好ましい実施形態において、患者は、増加したプラスミノーゲン(PLG)消費、Glu-プラスミノーゲンの減少した生合成、又は両方の組み合わせにより引き起こされる後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有する。好ましい実施形態において、患者は、増加したGlu-プラスミノーゲン消費、Glu-プラスミノーゲンの減少した生合成、又は両方の組み合わせにより引き起こされる後天性Glu-プラスミノーゲン欠乏症を有する。
【0043】
好ましい実施形態において、患者は後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有する。好ましい実施形態において、患者は、増加したプラスミノーゲン(PLG)消費(消費線溶低下(consumption hypofibrinolysis))により引き起こされる後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有する。プラスミノーゲン(PLG)消費は、プラスミノーゲン(PLG)のプラスミンへの変換に起因し得る。これは、例えば、1つ又はそれ以上の血管の内側、内膜の血餅形成及び/又は損傷に起因するような線維素溶解系の長期活性化による、任意の原因を有し得る。
【0044】
好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンであり、そして患者は後天性Glu-プラスミノーゲン欠乏症を有する。好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンであり、そして患者は、増加したGlu-プラスミノーゲン消費により引き起こされる後天性Glu-プラスミノーゲン欠乏症を有する。
【0045】
好ましい実施形態において、患者はプラスミノーゲン(PLG)の減少した生合成を有する。好ましい実施形態において、患者は、Glu-プラスミノーゲンの減少した生合成を有する。例えば、このような減少した生合成は、プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンをコードするメッセンジャーリボ核酸(mRNA)の減少した発現、上記mRNAの誤ったスプライシング、mRNAのそれぞれのポリペプチドへの減少した翻訳、mRNA及び/もしくはそれぞれのポリペプチドの加速した細胞内分解、又はそれらの2つもしくはそれ以上の組み合わせにより引き起こされ得る。
【0046】
本明細書で使用される用語「増加した」及び「減少した」は、健常集団の平均との比較を指す。好ましくは、「増加した」は、健常集団における平均よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%又は少なくとも2倍高い値であり得る。好ましくは、「減少した」は、健常集団における平均より少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、又は少なくとも50%低い値であり得る。
【0047】
本明細書で使用される後天性(Glu-)プラスミノーゲン欠乏症は、例えば患者が生きている間に獲得されるような、(Glu-)プラスミノーゲンの不足として最も広い意味で理解され得る。したがって、このような(Glu-)プラスミノーゲン欠乏症は、生まれつきの(Glu-)プラスミノーゲン欠乏症とは異なる。好ましくは、後天性(Glu-)プラスミノーゲン欠乏症は、増加したプラスミノーゲン(PLG)消費により引き起こされる。このようなプラスミノーゲン(PLG)消費は、本明細書に記載されるような患者の体内の事象により引き起こされ得る。
【0048】
好ましい実施形態において、本発明の文脈において使用されるプラスミノーゲン(PLG)は、プラスミンよりも低いタンパク質分解活性を有する。好ましい実施形態において、本発明の文脈において使用されるプラスミノーゲン(PLG)は、低いタンパク質分解活性を有するか又はタンパク質活性を有していない。好ましい実施形態において、本発明の文脈において使用されるプラスミノーゲン(PLG)は、(本質的に)タンパク質分解活性を有していない。高いタンパク質分解活性は、tPA、プラスミン又は精製プロセスの間に好ましくは捕捉される他の活性プロテアーゼのような活性酵素により誘発される場合がある。言い換えれば、本発明の文脈において使用されるプラスミノーゲン(PLG)は、好ましくはタンパク質分解成分を(本質的に)含有しない。本発明の文脈において使用されるプラスミノーゲン(PLG)は、好ましくはtPA、プラスミン又は他の活性プロテアーゼを(本質的に)含有しない。
【0049】
Glu-プラスミノーゲンの選択的使用は、本発明の状況において特に有益である。血液凝固は、2つの阻害剤、アンチトロンビンIII及びヘパリン補因子IIによりバランスがとられる。形成されたフィブリン血栓は、線溶系の活性化によってのみ除去される。線溶系の活性化はプラスミン活性化に依存する。ヒト血漿は、その活性化形態で、Glu-プラスミノーゲン(天然)、Lys-プラスミノーゲン(わずかに活性化)及びプラスミンから開始する活性化のいくつかの形態のプラスミノーゲン(PLG)を含有する。健常個体における天然Glu-プラスミノーゲンからuPA、tPAを経てGlu-プラスミンへの活性化は鍵となる機序である(Stricker、R.B.; Wong、Activation of Plasminogen (PLG) by tissue Plasminogen (PLG) activator on normal and thrombasthenic platelets: effects on surface proteins and platelet aggregation.Blood 1986、S.275-280)。
【0050】
ストレプトキナーゼ又はウロキナーゼは、様々な血栓形成性事象において血栓溶解を達成するために治療状況で使用される(Kunamneni、A.; Durvasula、R.Streptokinase-A Drug for Thrombolytic Therapy: A Patent Review.Recent advances in cardiovascular drug discovery 2014、S.106-121; Takada、Akikazu; Takada、Yumiko、Activation pathway of Glu-Plasminogen to Lys-plasmin by urokinase.Thrombosis research 1982、S.671-677)。繊維素溶解は、プラスミノーゲン(PLG)の活性化に起因して開始され、プラスミノーゲン(PLG)からプラスミンへの切断をもたらす[Wohl、R.C.; Kinetics of activation of human Plasminogen (PLG) by different activator species at pH 7.4 and 37 degrees C、The Journal of Biological Chemistry 1980、S.2005-2013]。それにより、3つの異なる活性化機序が公知である[Fredenburgh、J.C.; Nesheim、M.E.Lys-Plasminogen is a significant intermediate in the activation of Glu-Plasminogen during fibrinolysis in vitro.The Journal of Biological Chemistry 1992、S.26150-26156]。プラスミノーゲン(PLG)は内皮細胞及びフィブリン血栓に対して高い結合親和性を有する。組織プラスミノーゲン(PLG)活性化因子(tPA)のさらなる結合は、活性化及びプラスミン形成をもたらす。後者の機序は、細胞表面上のプラスミノーゲン(PLG)の結合により説明され、これはtPAにより活性化されてプラスミンになる[Stricker、R.B.; Wong、Activation of Plasminogen (PLG) by tissue Plasminogen (PLG) activator on normal and thrombasthenic platelets: effects on surface proteins and platelet aggregation.Blood 1986、S.275-280]。この治療は、薬物標的プラスミノーゲン(PLG)が血液循環中で十分に利用可能であり、そして血栓部位で十分な量である場合にのみ成功し得る。
【0051】
プラスミノーゲン(PLG)は酵素前駆体であり、これは、組織型プラスミノーゲン(PLG)活性化因子[tPA]又はウロキナーゼプラスミノーゲン(PLG)活性化因子[uPA]のようなプラスミノーゲン(PLG)活性化因子による部分的切断後に、タンパク質分解的に活性な形態であるプラスミン[PM]に変換される。これはフィブリン血栓中に存在する凝固の生成物のフィブリンを、可溶性フィブリン分解産物/フラグメントに分解して血栓の溶解をもたらし得るので、PMは線溶系の鍵となるタンパク質である。プラスミンの生成は、プラスミノーゲン(PLG)及びtPAの結合部位を提供するフィブリン表面で優先的に起こる。この結合がプラスミノーゲン(PLG)活性化を刺激するが、これがまた、有効な血栓溶解を促進するフィブリン形成部位へプラスミンの作用を局在化する。活性化プラスミンは、線溶系における鍵となる酵素である。したがって、プラスミンがフィブリン血栓マトリックスに結合している限り、これは対照阻害剤アルファ-2-抗プラスミン(A2AP)により阻害されないが、放出されたプラスミンは即座に阻害される。遊離プラスミンは血漿中で0.1秒と非常に短い半減期を有する。Glu-プラスミノーゲン及びアルファ-2-抗プラスミン(A2AP)の半減期は50時間である。対照的に、Lys78-プラスミノーゲン(PLG)は20時間の半減期しか有していない[Fredenburgh、J.C.; Nesheim、M.E.Lys-plasminogen is a significant intermediate in the activation of Glu-plasminogen during fibrinolysis in vitro.The Journal of Biological Chemistry 1992、S.26150-26156]。プラスミンは、トリプシンよりも高い選択性で、リジン及びアルギニン残基のカルボキシル側で優先的な切断を示す。これは重合したフィブリンを可溶性産物に変換する[Castellino、Francis J.; Ploplis、Victoria A.Structure and function of the Plasminogen (PLG)/plasmin system.Thrombosis and Haemostasis 2005、S.647-654]。
【0052】
本発明の文脈において使用されるように、用語「患者」は、任意の生物として最も広い意味で理解され得、これは好ましくは任意の動物、より好ましくはヒトを含む哺乳動物、特にヒトである。当然のことながら、望ましくない免疫原性副作用を避けるために、プラスミノーゲン(PLG)は典型的には処置しようとする患者と同じ種のものである。場合により、患者は、臓器不全(例えば、腎臓の臓器不全(例えば、急性腎損傷/機能不全(AKI)、心臓、肺、脳及び静脈)、動脈閉塞疾患、微小循環における障害、播種性血管内凝固(DIC)、及び特定の臓器不全の最終結果におけるその2つ又はそれ以上の組み合わせからなる群から選択される障害に罹患していても、又は該障害を発症するリスクがあってもよい。
【0053】
本発明全体をとおして使用されるように、播種性血管内凝固(DIC)は微小循環であってもよい。その結果、これは播種性血管内微小凝固と呼ばれてもよい。
【0054】
患者は全身性疾患に罹患していても罹患していなくてもよい。本発明全体をとおして、本明細書で使用される用語「に罹患している」は、患者が血栓性事象に関連する障害に関連する病的状態を発症したというように最も広い意味で理解され得る。この患者は好ましくはプラスミノーゲン(PLG)で処置される。場合により、患者は、臓器不全、血栓性事象、動脈閉塞疾患、微小循環、播種性血管内凝固(DIC)、及びその2つ又はそれ以上の組み合わせ、特に臓器不全からなる群から選択される状態に罹患していてもよく、すなわち、このような状態が患者に存在している。好ましい実施形態において、本明細書で使用される用語「に罹患している」は、患者が血栓性事象に関連する病的状態を発症したというように最も広い意味で理解され得る。障害に罹患している患者は、例えば、酸-塩基平衡異常(例えば、呼吸性アルカローシス又は乳酸アシドーシス)、乏尿症(無尿も)、高血糖症、増加したインスリン要求性、頻呼吸、低炭酸症、低酸素血症、肝機能障害、血液異常、高窒素血症、凝固異常、及び虚血性大腸炎からなる群から選択される1つ又はそれ異常の症状のような医薬的症状を、必ず有していなくともよいが、場合により有し得る。
【0055】
上記のように、本発明は血栓性事象の予防にも言及する。(微小)血栓症を発症するリスクが有るような患者は、好ましくはプラスミノーゲン(PLG)で減少され得る。用語「を発症するリスクがある」は、その患者が同じ種の集団全体での平均の可能性と比較して血栓性事象を獲得する増加した可能性を有するということを意味する。より好ましくは、リスクは少なくとも5倍増加しており、なおより好ましくはリスクは少なくとも10倍増加しており、なおより好ましくはリスクは少なくとも100倍増加しており、なおより好ましくはリスクは少なくとも1000倍増加している。
【0056】
好ましい実施形態において、本発明は、患者において血栓性事象を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関し、ここで該患者は、臓器不全、血栓性事象、動脈閉塞疾患、微小循環、播種性血管内凝固(DIC)、及びその2つ又はそれ以上の組み合わせ、特に臓器不全からなる群から選択される状態に罹患している。
【0057】
本明細書において使用されるように、血栓性事象は、血管の内側での血餅の形成であってもよい。このような血栓性事象は、循環系を通る血液の流れを閉塞し得る。これはこの血管により供給される組織の壊死をもたらし得る(梗塞とも呼ばれ得る)。好ましい実施形態において、血栓性事象は、深部静脈血栓症(DVT、例えば、脚におけるもの、骨盤静脈血栓症)、塞栓症における血栓症(例えば、慢性又は急性の臓器塞栓症(例えば、肺塞栓症))、梗塞における血栓症(例えば、心筋梗塞、腎臓、脳卒中、網膜静脈閉塞)、播種性静脈内凝固(DIC)における血栓症、及び血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)からなる群から選択され得る。
【0058】
好ましい実施形態において、血栓性事象は後天性の血栓性事象である。好ましい実施形態において、血栓性事象は、プラスミノーゲン(PLG)欠乏症(例えば、後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症、一過性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症又は慢性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症)に関連する。このようなプラスミノーゲン(PLG)欠乏症は、(部分的に)閉鎖された動脈硬化プラーク又は動脈もしくは他の血管の狭窄に閉じられた血流におけるプラスミノーゲン(PLG)の持続的な消費に起因して場合により引き起こされ得る。このようなプラスミノーゲン(PLG)欠乏症は、プラスミンの活性を測定することにより(例えばウロキナーゼを用いた活性化後に)又はプラスミノーゲン(PLG)の免疫測定検出のいずれかにより簡単に観測され得る。
【0059】
プラスミノーゲン(PLG)は、直接的な処置機会として使用され得る。現在使用されるtPA(組織プラスミノーゲン(PLG)活性化因子又はuPA(ウロキナーゼ))は、少なくとも正常プラスミノーゲン(PLG)レベルを必要とする間接的治療として使用される。tPAはプラスミノーゲン(PLG)を活性化してプラスミンにし得る。これは、結果的にさらなる組織損傷を生じ得る既に形成された血栓を溶解するために使用され得る。それらの場合における低いプラスミノーゲン(PLG)レベルは、プラスミノーゲン(PLG)タンパク質、特にGlu-プラスミノーゲンタンパク質のインビボでの消費により引き起こされ得る。微小血栓性事象を有する患者が、(微小)血栓性事象の後、決定的な最初の48時間以内に血漿中の低いプラスミノーゲン(PLG)濃度をしばしば有するということが見いだされた。プラスミノーゲン(PLG)の注射後、プラスミノーゲン(PLG)の合計レベルは、マウス実験設定において一定期間にわたって増加した。これはヒトを含めて他の哺乳動物において同じ程度に作用し得るのが妥当である。さらに、プラスミノーゲン(PLG)の測定だけでなく、アルファ-2-抗プラスミンの量も決定的であり得る。アルファ-2-抗プラスミンの増加した量は、利用可能なプラスミノーゲン(PLG)分子を阻害し得る。また、この場合、プラスミノーゲン(PLG)の注射は、高濃度のアルファ-2-抗プラスミンとの平衡を保ち、決定的な最初の48時間以内に改善をもたらし得る。
【0060】
好ましい実施形態において、血栓性事象は、1mm未満の直径を有する腎臓血管の血栓である。好ましい実施形態において、血栓性事象は、腎臓毛細血管である1mm未満の直径を有する血管の血栓である。したがって、好ましい実施形態において、本発明はまた、患者の腎臓における微小血栓を予防又は処置するための方法における使用のためのプラスミノーゲン(PLG)に関する。
【0061】
好ましい実施形態において、患者は微小血栓を発症するリスクが有る。好ましい実施形態において、患者は、血栓症を生じる微小血栓を発症するリスクがある。好ましい実施形態において、患者は、大血管の血栓症を生じる微小血栓を発症するリスクがある。好ましい実施形態において、患者は、塞栓症を生じる微小血栓を発症するリスクがある。好ましい実施形態において、患者は、大血管の塞栓症を生じる微小血栓を発症するリスクがある。好ましい実施形態において、患者は、大血管の血栓症又は塞栓症を生じる微小血栓を発症するリスクがある。
【0062】
好ましい実施形態において、患者は、リポタンパク質(a)-貧血、鉄欠乏症、ビタミンD欠乏症、ビタミンK欠乏症、ビタミンH欠乏症、貧血、ホモシステイン血症、プロテインZ欠乏症、陥入(emboly)、脳卒中、心筋梗塞、鼻出血、月経過多、フォン・ヴィルブランド症候群、ジルベール症候群(Morbus Meulengracht)、肝機能障害、抗リン脂質症候群、片頭痛、甲状腺機能障害、流産、プラスミノーゲン(PLG)の活性化因子を使用した溶解療法における治療失敗及びその2つ又はそれ以上の組み合わせのような疾患を生じる、動脈、静脈、細動脈、細静脈、毛細血管の狭窄からなる群から、又は動脈、静脈、細動脈、細静脈、毛細血管におけるけいれんから選択される病的状態を発症するリスクがあるか又は該病的状態に罹患している。
【0063】
好ましい実施形態において、患者は、同じ種の集団全体で見られるプラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンの血中レベルよりも低いプラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンの血中レベルを有する。
【0064】
プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンのこのようなより低い血中レベルは、任意の原因により引き起こされ得る。好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンのより低い血中レベルは、プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンの高い生理的消費又は病的消費、プラスミノーゲン(PLG)の高い排出速度、プラスミノーゲン(PLG)の低い発現速度、及びプラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンの1つ又はそれ以上の阻害剤の高レベルの存在からなる群から選択される1つ又はそれ以上の理由により引き起こされる。
【0065】
場合により、微小血栓の形成は、プラスミノーゲン(PLG)(特にプラスミノーゲン(PLG))の消費を生じる一定期間存在する凝固性亢進状態により引き起こされ得、又は場合によりプラスミノーゲン(PLG)の消費を生じる、微小血栓及び/もしくは大(macro)血栓の継続的な発生もしくは両方の存在により引き起こされる線維素溶解低下(hypo-fibrinolytic)状態により引き起こされ得る。
【0066】
プラスミン(プラスミノーゲン)の阻害剤は、プラスミン(プラスミノーゲン)の活性を阻害し、かつ/又はプラスミノーゲン(PLG)の血中レベルを減少させる任意の化学実態であり得る。例えば、プラスミノーゲン(PLG)の阻害剤はアルファ-2-抗プラスミンである。これはWO 2018/162754にさらに記載される。好ましい実施形態において、患者は:
(a) 患者の血液中で見られるアルファ-2-抗プラスミン対プラスミノーゲン(PLG)(好ましくはプラスミノーゲン(PLG))の比が、同じ種の集団全体で見られる平均の比と比較して少なくとも1.1倍高い;かつ/又は
(b) 患者の血液中のプラスミノーゲン(PLG)(好ましくはプラスミノーゲン(PLG))レベルが、同じ種の集団全体で見られる平均のレベルと比較して少なくとも1%(mol/mol)低い
ことを特徴とする。
【0067】
好ましくは、患者の血液で見られるアルファ-2-抗プラスミン対プラスミノーゲン(PLG)(好ましくはプラスミノーゲン(PLG))の比は、同じ種の集団全体で見られる平均の比と比較して、少なくとも1.15倍高く、より好ましくは少なくとも1.2倍高く、特に少なくとも1.25倍高い。
【0068】
好ましくは、患者の血液中のプラスミノーゲン(PLG)(好ましくはプラスミノーゲン(PLG))レベルは、同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して、少なくとも2%(mol/mol)低く、より好ましくは少なくとも5%(mol/mol)低く、特に少なくとも10%(mol/mol)、少なくとも20%(mol/mol)、少なくとも30%(mol/mol)、少なくとも40%(mol/mol)、又は少なくとも50%(mol/mol)低い。
【0069】
好ましい実施形態において、患者の血中のプラスミノーゲン(PLG)レベルが決定され、そして決定されたプラスミノーゲン(PLG)レベルが同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol))、少なくとも20%(mol/mol)、少なくとも30%(mol/mol)、少なくとも40%(mol/mol)、又は少なくとも50%(mol/mol)低い場合、患者は血栓性事象を予防又は処置するために十分な量のプラスミノーゲン(PLG)を投与される。
【0070】
患者はいずれかの臨床症状を有していても有していなくてもよい。患者は虚血領域を有していても有していなくてもよい。好ましい実施形態において、患者は少なくとも1つの虚血領域に罹患している。好ましい実施形態において、患者は、プラスミノーゲン(PLG)が該患者に投与されなければ、組織の少なくとも一部の壊死をもたらす少なくとも1つの虚血領域に罹患している。
【0071】
好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)はGlu-プラスミノーゲンであり、そして患者は、Glu-プラスミノーゲンが該患者に投与されなければ、組織の少なくとも一部の壊死をもたらす少なくとも1つの虚血領域に罹患している。
【0072】
この場合、好ましくは、本発明に従うプラスミノーゲン(PLG)の投与は、血栓性血餅を少なくとも部分的に予防又は溶解し得る。この場合、好ましくは、本発明に従うプラスミノーゲン(PLG)の投与は、壊死を少なくとも部分的に予防する。患部への不十分な血液供給に起因するこのような壊死は、梗塞とも呼ばれ得る。
【0073】
梗塞は、患部への不十分な血液供給に起因する組織死(壊死)として最も広い意味で理解され得る。
【0074】
血栓性事象は任意の原因により引き起こされ得る。好ましい実施形態において、血栓性事象は、梗塞により、高コレステロール血症により、又は両方により引き起こされ得る。また、血栓による動脈経路の閉塞は、依存している器官(脳、心臓、腎臓、胃腸管など)における連続的な流路における梗塞を生じる場合がある。好ましい実施形態において、血栓事象は、梗塞の病理発生において典型的な任意の理由により、高コレステロール血症により引き起こされるコレステロール結晶を含有する動脈硬化プラークの破裂により、又は両方により引き起こされる梗塞により引き起こされる。
【0075】
梗塞は、患部への不十分な血液の供給、したがって不十分な酸素の供給に起因する組織死(壊死)として最も広い意味で理解され得る。梗塞は、例えば心筋梗塞、腎梗塞、脳卒中などのような任意の梗塞であり得る。
【0076】
代替の好ましい実施形態において、血栓性事象は以下の少なくとも1つにより引き起こされる: 血管手術のような外科的介入(例えば、冠動脈バイパス手術)、内部プロテーゼにより(すなわち、異物の挿入、例えば、血管/脈管内部プロテーゼ)、動脈瘤により、及び狭窄外傷性傷害により。代替の好ましい実施形態において、血栓性事象は、癌、外傷、運動不足、肥満、喫煙、ホルモン不妊法、妊娠及び出生後期間、抗リン脂質症候群、及び特定の遺伝子状態に関連する。遺伝的危険因子としては、特に喫煙、肉体的不活発、特に病気時に長期間横になること、肥満、脱水(dehydration)(脱水症(exsiccosis))、癌、過去の血栓症、妊娠と組み合わさった、アンチトロンビン、プロテインC、及びプロテインSの欠乏症、並びに第V因子ライデン変異、並びに全身性避妊薬の投与が挙げられ得る。
【0077】
患者は、単一の血栓性事象又は1つより多くの血栓性事象に罹患していてもよい。好ましい実施形態において、患者は1つより多くの血栓性事象に罹患している。代替の好ましい実施形態において、患者は単一の血栓性事象に罹患している。
【0078】
プラスミノーゲン(PLG)は任意の供給源から入手され得る。商業的供給源から入手しても、任意の手段により製造してもよい。例えば、WO2018/162754に記載されるように製造され得る。血漿及び血漿分画、特にクリオ除去血漿、1つもしくは2つの吸収工程により減少されたクリオ除去血漿(F IX/PCC又はC1-エステラーゼ阻害剤)、ペーストI-II-III又はWO 2018/162754に記載されるようなそのオクタン酸ペーストから単離され得る。
【0079】
プラスミノーゲン(PLG)は、任意の手段により患者に投与され得る。好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)は患者に全身投与される。好ましい実施形態において、プラスミノーゲン(PLG)は、静脈内(i.v.)、動脈内(i.a.)、頭蓋内(i.c.)、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m.)、及び皮下(s.c.)注射からなる群から選択される投与経路により、特に静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、及び皮下(s.c.)注射からなる群から選択される投与経路により患者に投与される。あるいは又はさらに、医薬組成物もまた、例えば、鼻腔内又は経皮投与のような他の投与経路に適切であり得る。
【0080】
投与のために、プラスミノーゲン(PLG)は医薬組成物中に含まれてもよく、すなわち、少なくとも1つの薬学的に許容しうる担体と組み合わされる。用語「医薬組成物」及び「医薬製剤」は交換可能に理解され得る。本明細書で使用されるように、用語「薬学的に許容しうる担体」、「薬学的に許容しうる賦形剤」、「担体」及び「賦形剤」は、プラスミノーゲン(PLG)の薬理学的受容性を支持し得る任意の物質として最も広い意味で交換可能に理解され得る。このような医薬組成物は、すぐに使用され得、そして好ましくは液体製剤、特に注射部分であり得る。貯蔵形態は液体でもよいが、乾燥された形態(例えば、乾燥又は凍結乾燥されたプラスミノーゲン(PLG)を含む粉末のような散剤)でもペースト又はシロップ剤又は同様のものであってもよい。場合により、乾燥形態、ペースト又はシロップ剤は、患者に投与される前に溶解又は乳化され得る。
【0081】
薬学的に許容しうる担体は、水性緩衝液、食塩水、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、植物油、パラフィン油又はそれらの2つもしくはそれ以上の組み合わせからなるリストから例示的に選択され得る。さらに、薬学的に許容しうる担体は、1つもしくはそれ以上の界面活性剤、1つもしくはそれ以上の発泡剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、1つもしくはそれ以上の着色剤(例えば、食品用着色剤)、1つもしくはそれ以上のビタミン、1つもしくはそれ以上の塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛の塩)、1つもしくはそれ以上の保湿剤(例えば、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、プロピレングリコール、ポリデキストロース)、1つもしくはそれ以上の酵素、1つもしくはそれ以上の保存剤(例えば、安息香酸、メチルパラベン、1つもしくはそれ以上の抗酸化剤、1つもしくはそれ以上のハーブ及び植物抽出物、1つもしくはそれ以上の安定剤、1つもしくはそれ以上のキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ならびに/又は1つもしくはそれ以上の取り込み媒介剤(例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、細胞透過性ペプチド(CPP)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、抗菌ペプチドなどを場合により含有し得る。
【0082】
本発明はまた、本発明の処置又は予防の状況において使用可能な医薬組成物の投薬単位に関する。例示的に、本発明は単回用量容器又は複数回投与形態に言及し得る。
【0083】
用量範囲は意図された用途に調整され得る。好ましい実施形態において、患者は、0.01~100mg/体重kgの範囲内のプラスミノーゲン(PLG)用量でプラスミノーゲン(PLG)を少なくとも1回投与される。
【0084】
好ましい実施形態において、患者は、0.01~1mg/体重kgの範囲内のプラスミノーゲン(PLG)用量で少なくとも1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。
【0085】
好ましい実施形態において、患者は、0.01~0.1mg/体重kg、0.05~0.5mg/体重kg、0.1~1mg/体重kg、0.5~5mg/体重kg、1~10mg/体重kg、又は1~100mg/体重kgの範囲内のプラスミノーゲン(PLG)用量でプラスミノーゲン(PLG)を少なくとも1回投与される。
【0086】
好ましい実施形態において、静脈内投与される単回用量は0.01~1mg/kgの範囲内である。好ましくは、静脈内投与される単回用量は、0.02~0.9mg/kg、0.03~0.8mg/kg、0.04~0.7mg/kg、0.05~0.5mg/kg、0.1~0.4mg/kg、又は0.25~0.35mg/kgの範囲内である。
【0087】
好ましい実施形態において、筋肉内投与される単回用量は0.05~10mg/kgの範囲内である。好ましくは、筋肉内投与される単回用量は、0.1~9mg/kg、0.2~8mg/kg、0.3~7mg/kg、又は0.5~5mg/kgの範囲内である。
【0088】
好ましい実施形態において、皮下投与される単回用量は0.1~100mg/kgの範囲内である。好ましくは、皮下投与される単回用量は、0.5~90mg/kg、1~80mg/kg、2~70mg/kg、又は5~50mg/kgの範囲内である。
【0089】
好ましい実施形態において、患者は、血栓性事象の発生後24時間以内に少なくとも1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましい実施形態において、患者は、血栓性事象の発生後12時間以内に少なくとも1回又は少なくとも6、5もしくは4時間以内にプラスミノーゲン(PLG)を投与される。
【0090】
代替の好ましい実施形態において、患者は、血栓性事象を発症するリスクが高い事象を受ける前1週間以内に投与される。
【0091】
さらなる代替の好ましい実施形態において、患者は、血栓性事象を発症するリスクが有る場合に定期的に投与される。
【0092】
本明細書で使用されるように、用語「定期的に」は、少なくとも1週、少なくとも1か月、少なくとも6か月、又は少なくとも1年の期間の間続くとして最も広い意味で理解され得る。
【0093】
血栓性事象を発症する高いリスクがあるこのような事象は、血栓性事象を得る患者のリスクを増大させるいずれの事象でもよい。好ましい実施形態において、上記事象は外科的介入である。
【0094】
この文脈において、外科的介入は、任意の外科的介入であり得、好ましくは血管手術である。本明細書で使用されるように、血管手術は、バイパス手術(例えば、冠動脈バイパス手術)、内部プロテーゼ(すなわち、異物の挿入、例えば、血管/脈管内部プロテーゼ)、動脈瘤において、狭窄外傷性傷害、及びさらなる血管の外科的介入から選択されるような最も広い意味で理解され得る。これらの場合、血管内側の創傷表面により、内部プロテーゼなどにより引き起こされる再血栓症(re-thrombosis)のリスクもあり得る。これは血栓形成を生じる凝固カスケードを活性化し得る。凝固カスケードの活性化後のこれらのリスクに対処するために、プラスミノーゲン(PLG)の予防的投与は驚くべきことに成功した。
【0095】
血栓性事象の発症についてのさらなる追加的又は代替のリスク因子としては:癌、外傷、運動不足、肥満、喫煙、ホルモン受胎調節、妊娠及び出生後の期間、抗リン脂質症候群、及び特定の遺伝子状態が挙げられ得る。遺伝的危険因子としては、アンチトロンビン、プロテインC、及びプロテインSの欠乏症、並びに第V因子ライデン変異が挙げられ得る。根底にある機序は、減少した血流速度、増加した凝固傾向、及び血管壁の損傷のいくつかの組み合わせを含み得る。
【0096】
血栓性事象の発症についてのなおさらなる追加的又は代替の危険因子としては、特に喫煙、肉体的不活発、特に病気での長期の横臥、肥満、脱水(脱水症)、癌、過去の血栓症、妊娠と組み合わさった、経口避妊薬(「ピル」、特にここではエストロゲン低減又はエストロゲン無添加)が挙げられ得る。最も一般的に深部静脈血栓症に罹患するのは脚である。次に脚上部又は下部静脈血栓症である。ふくらはぎ、膝窩及び大腿の両方が罹患する場合、これはマルチレベル血栓症と呼ばれる。骨盤静脈血栓症はあまり一般的ではないが、血管のサイズ及び肺塞栓症のより高いリスクのためにより危険である。骨盤静脈血栓症は妊娠した女性において恐れられており、この場合、血餅は子宮の圧迫がなくなることにより出産後に溶解し得、そして致死的であり得る肺塞栓症をもたらし得る。血栓症それ自体及び特にDVTの別の合併症は、播種性血管内凝固(DIC)である。
【0097】
患者は任意の投与スキームに従ってプラスミノーゲン(PLG)を投与され得る。
【0098】
好ましい実施形態において、患者は、3日又はそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましくは、患者は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましい実施形態において、患者は、3日もしくはそれ以上、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を静脈内投与される。この文脈において、単回用量は任意の用量範囲の単回用量であり得る。好ましい実施形態において、単回用量の投与は、それぞれ0.01~1mg/体重kgの範囲内である。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。
【0099】
好ましい実施形態において、患者は、3日又はそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され、ここで投与は静脈内投与であり、単回用量の静脈内投与は、それぞれ0.01~1mg/体重kgの範囲内であり得る。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。
【0100】
好ましい実施形態において、患者は3日又はそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され、好ましくはここで投与は動脈内投与であり、特にそれぞれ0.01~1mg/体重kgの範囲内の単回用量の動脈内投与である。好ましい実施形態において、患者は、3日又はそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され、好ましくはここで投与は頭蓋内投与であり、特にそれぞれ0.01~1mg/体重kgの範囲の単回用量の頭蓋内投与である。
【0101】
好ましい実施形態において、患者は、3日又はそれ以上の期間の間、2日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましくは、患者は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、2日ごとにプラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましい実施形態において、患者は、3日もしくはそれ以上、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を筋肉内又は静脈内、特に筋肉内投与される。この状況において、単回用量は、任意の用量範囲内の単回用量であってよい。好ましい実施形態において、単回用量の投与は、それぞれ0.05~10mg/体重kgの範囲内であってよい。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。好ましい実施形態において、患者は、3日又はそれ以上の期間の間、1日に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され、ここで投与は筋肉内投与であり、ここで単回用量の静脈内投与は、それぞれ0.05~10mg/体重kgの範囲内であり得る。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。
【0102】
好ましい実施形態において、患者は、3週又はそれ以上の期間の間、週に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましくは、患者は、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、週に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与される。好ましい実施形態において、患者は、3週もしくはそれ以上、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月、又は少なくとも1年間の期間の間、週に1回プラスミノーゲン(PLG)を皮下投与される。この状況において、単回用量は任意の用量範囲内の単回用量であってよい。好ましい実施形態において、単回用量の投与は、それぞれ0.1~100mg/体重kgの範囲内であってよい。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。好ましい実施形態において、患者は、3週又はそれ以上の期間の間、週に1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され、ここで投与は、0.1~100mg/体重kgの範囲内の単回用量の皮下投与である。さらなる好ましい用量範囲は本明細書に記載される。好ましい実施形態において、患者は、血漿コンパートメントにおいて正常プラスミノーゲン(PLG)量の15%以下を置き換えるために適切な用量を投与される。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。好ましい実施形態において、患者は、血漿コンパートメントにおいて正常プラスミノーゲン(PLG)量の10%以下を置き換えるために適切な用量を投与される。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。好ましい実施形態において、患者は、血漿コンパートメントにおいて正常プラスミノーゲン(PLG)量の5%以下を置き換えるために適切な用量を投与される。さらに好ましい用量範囲は本明細書に記載される。
【0103】
好ましい実施形態において、患者は3~7日間の期間の間、1日に1回投与され、その後、3日又はそれ以上の期間の間、2日に1回投与される。代替の好ましい実施形態において、患者は3~7日間の期間の間1日に1回投与され、その後3週又はそれ以上の期間の間、週に1回投与される。代替の好ましい実施形態において、患者は3~7日の期間の間、1日に1回投与され、その後、3日又はそれ以上の期間の間、2日に1回投与され、そしてその後、3週又はそれ以上の期間の間、週に1回投与される。
【0104】
投与前に、患者の血中のプラスミノーゲン(PLG)レベルを決定してもよい。決定されたプラスミノーゲン(PLG)レベルが、同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い場合、患者は、血栓性事象を予防又は処置するために十分な量のプラスミノーゲン(PLG)を投与され得る。
【0105】
したがって、好ましい実施形態において、患者は:
(a) 処置期間の間、0.01~100mg/体重kgの範囲内のプラスミノーゲン(PLG)用量で少なくとも1回プラスミノーゲン(PLG)を投与され;そしてその後、
(b) 患者の血中プラスミノーゲン(PLG)レベルを工程(i)において決定し、そしてプラスミノーゲン(PLG)の決定されたレベルが、同じ種の集団全体で見られる平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い場合、患者は、さらなる工程(ii)において血栓性事象を予防又は処置するために十分な量のプラスミノーゲン(PLG)を投与され、そして場合により、
(c) 工程(i)において決定されたプラスミノーゲン(PLG)レベルが同じ種の集団全体で見られた平均レベルと比較して少なくとも10%(mol/mol)低い限り、工程(i)及び(ii)が繰り返し行われる。
【0106】
さらに好ましい用量範囲及び処置間隔は本明細書に記載される。
【0107】
処置期間は、例えば、(顕微)外科的介入のようなそれぞれの処置の持続期間、及び例えば、それぞれの処置の後1日まで、2日まで、1週間まで又は1か月までのようなその後の短い期間である。
【0108】
患者は疾患に罹患していても罹患していなくてもよい。好ましい実施形態において、患者は、深部静脈血栓症、骨盤静脈血栓症、肺塞栓症、任意の器官の梗塞、網膜静脈閉塞症、播種性血管内凝固(DIC)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、毛細血管流路における血栓性事象と同時の血管障害、特に糖尿病性血管障害、血栓性静脈炎、又はそれらの2つもしくはそれ以上の組み合わせに罹患している。
【0109】
好ましい実施形態において、患者は、播種性血管内凝固(DIC)、急性腎傷害(AKI)、敗血症、又はそれらの2つもしくはそれ以上の組み合わせに罹患している。
【0110】
好ましい実施形態において、患者は播種性血管内凝固(DIC)に罹患している。好ましい実施形態において、患者は急性腎傷害(AKI)に罹患している。好ましい実施形態において、患者は敗血症に罹患している。
【0111】
好ましい実施形態において、患者は患者がアテローム性動脈硬化もしくは動脈の狭窄に罹患しているか、手術、特に血管手術(血管の再建(血管再構築としても知られる)及び/又はバイパス手術を含む)を受けたことがあるかもしくは受けており、かつ/又は内部プロテーゼ(例えば、血管/脈管内部プロテーゼ)を有する点において、該患者は血栓性事象を発症するリスクがある。バイパス手術は、血管移植(vessel transplantation)(血管移植術(vascular grafting)としても知られる)を含んでいてもよい。好ましい実施形態において、血栓性事象に罹患している患者は、アテローム性動脈硬化もしくは動脈の狭窄に付随して罹患しているかもしくは以前に罹患したことがあり、手術、特に血管手術[血管の再建(血管再構築又は血管手術としても知られる)及び/又はバイパス手術を含む]を受けたことがあるかもしくは受けており、かつ/又は内部プロテーゼ(例えば、血管/脈管内部プロテーゼ)を有する。
【0112】
以下の実施例及び図面は、本明細書に記載されかつ特許請求される本発明の説明に役立つ実施形態を提供することを意図される。これらの実施例は、本発明の主題の範囲に対する限定を提供することを意図されない。以下の図面、実施例及び特許請求の範囲は、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1図1は、10mg/kgコレステロールを投与されたマウス(CC);10mg/kgコレステロール及びその後、コレステロール投与の4時間後に65μg/mL Glu-プラスミノーゲンを含む組成物132μLを投与されたマウス(CC+Glu-P);及び65μg/mL Glu-プラスミノーゲンを含む組成物132μLを投与されたマウス(PBS+Glu-P)の、それぞれ24時間後に、未処置のマウスに対するパーセンテージ変化として示された糸球体濾過速度(GFR)の減少を示す。
図2図2は、未処置のマウス(ベースライン);10mg/kgコレステロールを投与されたマウス(CC);10mg/kgコレステロールを投与され、その後、コレステロール投与の4時間後にGlu-プラスミノーゲン65μg/mLを含む組成物132μLを投与されたマウス(CC+Glu-P);及びGlu-プラスミノーゲン65μg/mLを含む組成物132μLを投与されたマウス(PBS+Glu-p)の、それぞれ24時間後に、μL/分での流量として示された糸球体濾過速度(GFR)の減少を示す。
図3図3は、10mg/kgコレステロールを投与されたマウス(CC);10mg/kgコレステロールを投与され、そしてその後Glu-プラスミノーゲン65μg/mLを含む組成物132μLをコレステロール投与の4時間後に投与されたマウス(CC+Glu-P);並びにGlu-プラスミノーゲン65μg/mLを含む組成物132μLを投与されたマウス(PBS+Glu-p)の、それぞれ24時間後に、腎臓全体のパーセンテージとして示された梗塞サイズを示す。
図4図4は、プラスミノーゲン(PLG)欠乏症(黒色)を有する、及びプラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有していない(灰色)、減少したプラスミノーゲン(PLG)レベルを有する患者(n=600)間の診断頻度パーセンテージを示す。
図5図5は、様々な患者群におけるアルファ-2-抗プラスミン(A2AP)活性を示す(疾患なし/対照集団(Norm)、リポタンパク質(A)(LpA)、鉄欠乏症(Iron)、ビタミンD欠乏症(VitD)、ビタミンK欠乏症(VitK)、ビタミンH欠乏症(VitH)、貧血(Anaem)、ホモシステインレベル(Hcys)、プロテインZ欠乏症(PZ)、血栓症(Thromb)、塞栓症(Emb)、脳卒中(Stroke)、心筋梗塞(MI)、鼻出血(Epist)、月経過多(HM)、フォン・ヴィルブランド症候群(vWS)、ジルベール症候群(Meul)、肝臓疾患(Li)、抗リン脂質疾患(APL)、片頭痛(Migr)、甲状腺疾患(Thyr)、流産(Abort))。
図6図6は、様々な患者群(略号は図5において使用されたものと同じである)におけるプラスミノーゲン(PLG)活性を示す。
図7図7は、様々な患者群(略号は図5において使用されたものと同じである)におけるアルファ-2-抗プラスミン:プラスミノーゲン(PLG)の(活性に基づく)比(A2AP/PLG)を示す。
図8図8は、急性腎臓傷害/腎不全患者(AKI)の群と比較した、対照集団(CP)におけるプラスミノーゲン(PLG)活性を示す。
図9図9は、急性腎臓傷害/腎不全患者(AKI)の群と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン(A2AP)活性を示す。
図10図10は、急性腎臓傷害/腎不全患者(AKI)の群と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン:プラスミノーゲン(PLG)の(活性に基づく)比(A2AP/PLG)を示す。
図11図11は、播種性血管内凝固患者(DIC)の群と比較した、対照集団(CP)におけるプラスミノーゲン(PLG)活性を示す。
図12図12は、播種性血管内凝固患者(DIC)の群と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン(A2AP)活性を示す。
図13図13は、播種性血管内凝固患者の群(DIC)と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン:プラスミノーゲン(PLG)の(活性に基づく)比(A2AP/PLG)を示す。
図14図14は、敗血症患者の群(Sepsis)と比較した、対照集団(CP)におけるプラスミノーゲン(PLG)活性を示す。
図15図15は、敗血症患者の群(Sepsis)と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン(A2AP)活性を示す。
図16図16は、敗血症患者の群(Sepsis)と比較した、対照集団(CP)におけるアルファ-2-抗プラスミン:プラスミノーゲン(PLG)の(活性に基づく)比(A2AP/PLG)を示す。
図17図17は、後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症に関する診断研究の要約を示す。ここで、プラスミノーゲン(PLG)活性パーセンテージが測定される。ここで、急性腎傷害(AKI)を有する患者の40%及び播種性血管内凝固患者(DIC)を有する患者の62%は、対照集団(CP)と比較して、統計学的に有意なプラスミノーゲン(PLG)の欠乏を示した。
【発明を実施するための形態】
【0114】
〔実施例〕
Glu-プラスミノーゲン製剤の製造
Glu-プラスミノーゲンを、WO2018/162754の実験的実施例1に記載されるように、総タンパク質含量に基づいて>95%(質量/質量)の純度で製造した。ヒトGlu-プラスミノーゲン製剤は、Glu-プラスミノーゲン1256μg/mL(酵素結合免疫吸着測定法、ELISAにより決定して)を含有していた。
上記製剤の総タンパク質含有量は(ブラッドフォードタンパク質アッセイにより決定して)1259μg/mLであった。したがって、Glu-プラスミノーゲンの純度は、タンパク質含有量に基づいて>99.7質量%であることがわかった。この高い純度は、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)でも確認された。
【0115】
Glu-プラスミノーゲンのタンパク質分解活性は(総タンパク質含有量、単位/1.0g/L総タンパク質含有量を参照して、標準化S-2288(Chromogenix)タンパク質分解活性アッセイにより決定して)検出限界未満であることがわかった。
【0116】
ヒトGlu-プラスミノーゲン製剤は、((欧州薬局方(バージョン5.0) 2.6.14章に従うリムルスアメボサイトライセート(LAL)endosafe denochromeアッセイにおいて決定して)<<1EU/mL、並びに(それぞれ比濁分析アッセイにおいて決定して)<0.35g/L IgG、<0.05g/L IgA及び<0.35g/L IgMという無視できるほどのエンドトキシンレベルしか含有していなかった。アルブミン(多染性終点決定により決定して)及びLys-プラスミノーゲン(ウェスタンブロットにより決定して)は検出できなかった。
【0117】
生物活性のさらなる試験において、ヒトGlu-プラスミノーゲンの濃度を200μg/mLに設定し、次いで活性化してプラスミンにした。これは血中に天然に存在する濃度範囲に相当する。得られたプラスミン溶液のタンパク質分解活性を、プラスミンのパラ-ニトロフェノール標識(pNP-標識)ペプチド基質を用いて決定した。タンパク質分解性プラスミン活性は、100%として正規化された血漿中プラスミンタンパク質分解活性に天然に存在する活性と比較して、109%の範囲内であることがわかった。したがって、ヒトGlu-プラスミノーゲンは完全に生物活性であり、かつ完全に活性なプラスミンに変換することができるということがわかった。
【0118】
実施例1
動物モデル(コレステロール結晶によるマウスにおける微小血栓の誘導)
腎臓における微小血栓の形成の誘発
腎臓に至る血管における10mg/kg、100μL/マウスの注射を用いてマウスにコレステロールを投与した(CC)。注射の時点を時点ゼロとみなした(0時間)。コレステロールは腎臓におけるより小さい血管、特に腎毛細血管において血餅形成をもたらすということがわかった。
【0119】
プラスミノーゲン(PLG)を用いた処置
Glu-プラスミノーゲンを、WO2018/162754の実験実施例1に記載されるように純度>95%(質量/質量)で製造した。特性は上記のとおりであった。一部のマウスを未処置のままにした。処置されたマウスは、リン酸緩衝化食塩水中65μg/mL Glu-プラスミノーゲンを含有する組成物132μL/マウスの静脈内(i.v.)注射を、コレステロール投与の4時間後に投与された。コレステロール投与の4時間後のリン酸緩衝化食塩水の注射を、処置をしない対照群として使用した。さらなる対照群として、CCの代わりにPBSの注射及びリン酸緩衝化食塩水中65μg/mL Glu-プラスミノーゲンを含有する組成物132μL/マウスの注射を4時間後に分析した。
【0120】
読み取り
コレステロール投与の24時間後に、糸球体濾過速度(GFR)を決定した。さらに、腎臓における梗塞サイズを、腎臓組織のトリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)を用いた染色により決定した。さらに、屠殺したマウスを、例えば、尿細管傷害(PAS)、内皮傷害(CD31)及び好中球免疫細胞濾過のスコアを決定することにより、組織学的に試験した。
【0121】
結果及び考察
定量的結果を図1~3として示す。コレステロール投与は微小血栓を引き起こすことがわかった。これらは24時間後のマウス腎臓の組織学的観察においても見られた。これらの微小血栓は、糸球体濾過速度(GFR)に対して有意な効果を有し(図1及び2、コレステロール(CC)を含むサンプルを参照のこと)、そして腎臓組織の半分(50%)より多くの壊死を引き起こす(図3、コレステロール(CC)のみを含むサンプルを参照のこと)ということもわかった。(Glu-)プラスミノーゲン単独の投与が糸球体濾過速度(GFR)に対して有意な影響を有していることは分からなかった(図1及び2、右を参照のこと)。これはまた、コレステロール投与により引き起こされた微小血栓により達成された糸球体濾過速度(GFR)を回復しない(図1及び2、コレステロール(CC)及び(Glu-)プラスミノーゲン(Glu-P)を含むサンプルを参照のこと)。
【0122】
しかし、(Glu-)プラスミノーゲンの投与は、組織の壊死を効果的に予防した(図3、コレステロール(CC)及び(Glu-)プラスミノーゲン(Glu-P)を含むサンプルを参照のこと)。
【0123】
コレステロールのみが投与された場合に見られる壊死と比較して、壊死は半分減少した。従って、(Glu-)プラスミノーゲンは効果的に梗塞を低減した。
【0124】
これらの結果は、(Glu-)プラスミノーゲンの投与が、(微小)血栓に罹患している患者を効果的に処置及び予防するということを示す。
【0125】
本発明に従って製造された(Glu-)プラスミノーゲンは、(微小)血栓性事象において驚くべきことに高い優れた線維素溶解活性を有する。この理論に梗塞されることなく、(Glu-)プラスミノーゲンは存在している微小血栓を溶解し、そして微小及び/又は大血栓性事象の予防において使用することができると想定される。このような(微小)血栓性事象は、例えば、心筋梗塞、脳卒中、さらには腎梗塞、網膜静脈閉塞症、血栓性血小板減少性紫斑病などのような梗塞の原因となることが多い。
【0126】
実施例2
プラスミノーゲン(PLG)消費により引き起こされる後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を伴う臨床状況
一般に、プラスミノーゲン(PLG)の後天性欠乏症は、プラスミノーゲン(PLG)、特にGlu-プラスミノーゲンの増加した消費を引き起こす状態において予期され得る。これは、アテローム性動脈硬化におけるようなより長い歴史を有するあらゆる種類の血栓性事象においておそらく見られるだろう。血管の内側、内幕の損傷は、長期間持続し得る。これは、フィブリノーゲンをフィブリンに永続的に変換する凝固系の永続的であるが僅かな活性化を最初にもたらす。血管の直径全体を閉塞する血餅が形成されない限り、血流はなおインタクトである。このような血餅は線溶系を永続的に活性化し得る。ここで、プラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)はプラスミンに変換され、したがって、プラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)が消費される。現在では2つの治療アプローチが存在する:第一に、閉塞血餅が形成されなくなるまで、例えばビタミンKアンタゴニストにより凝固を阻害することは十分である。血餅が形成される場合(例えば、心筋梗塞、脳卒中などを生じ得る)、これまでは、血栓溶解治療だけが選択肢である。これは典型的にはtPA、uPA又はストレプトキナーゼによりプラスミノーゲン(PLG)を活性化させることにより行われる。
【0127】
3つの薬物のうちの1つの使用は、標的化酵素プラスミノーゲン(PLG)の存在を必要とする。しかし、記載される後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症の場合、溶解療法の標的はもはや存在しない。驚くべきことに、この場合、及び任意の他の後天性プラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)欠乏症の場合、このタンパク質の置換は、それらの患者の救命処置において支持的であり得るということが見いだされた。
【0128】
血栓が形成される場合、局在的活性化に起因して、血漿からプラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)が消費される。単一の大きな大血栓において又は微小血栓における多くの位置のいずれかに位置するフィブリンの量が多くなるほど、特に事象が増悪する期間が長くなるほど、典型的にプラスミノーゲン(PLG)の消費が高くなる。これは、一過性の後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を生じ得、線維素溶解低下へとバランスが傾き、それ故血栓形成促進状態となる(図4を参照のこと)。減少したプラスミノーゲン(PLG)レベルは、敗血症 肝臓疾患、心筋梗塞、アルゼンチン出血熱、及びL-アスパラギナーゼ治療後、血栓溶解療法及び手術を含むいくつかの状態において示された。線維素溶解におけるタンパク質の重要な役割に起因して、減少したプラスミノーゲン(PLG)レベルは、フィブリンを分解する身体の能力を損ない得、したがって血栓症/血栓性疾患の素因となる。
【0129】
したがって、血栓性疾患の原因は、凝固亢進又は線維素溶解低下のいずれでもよいということが見いだされた。現在の処置は、ヘパリン、ワルファリン、又はF.Xアンタゴニストを使用することにより凝固(亢進)のみに焦点を当てている。
【0130】
驚くべきことに、プラスミノーゲン(PLG)の消費は、一過性後天性プラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)欠乏症とも名付けられ得る線維素溶解低下をもたらすということが見いだされた。したがって、後天性一過性プラスミノーゲン(PLG)(例えば、Glu-プラスミノーゲン)欠乏症の処置は、血栓性疾患を解決することができるということが見いだされた。高い有病率及び命を脅かす状態を伴う疾患における診断研究は、この治験についての証拠を提供した。
【0131】
実施例2.1
急性腎臓傷害/腎不全(AKI)
腎臓は、「多臓器機能不全症候群(MODS)」とも名付けられる多臓器不全に関与する臓器の1つである。
【0132】
これは、急性の病気であり、そしてその患者において介入がなければホメオスタシスが維持できない患者における変更された臓器機能の存在として定義される。MODSは、最終的に多臓器不全症候群(MOFS)及び死亡に至り得る。急性肺傷害(ALI)及び急性呼吸促迫症候群(ARDS)はMODS又はMOFSの一般的な症状である。しかし、敗血症に加えて他の状態はMODSを引き起こす場合があり、これらとしては外傷、熱傷、及び重篤な出血性ショックが挙げられる。連続体の最終的な結末である多臓器機能不全は、個々の臓器における生理的撹乱が徐々に増大することである(すなわち、事象よりむしろ過程)。臓器機能の変化は幅広く変動し得、軽度の臓器機能不全から明らかな臓器不全までに及ぶ(敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、毒素ショック症候群、及び敗血症性血栓静脈炎の多臓器不全を参照のこと)。
【0133】
急性腎臓不全において、腎臓における微小循環は、尿がもはや生じなくなるような形で減少する。これにより腎臓機能及びそれらの回復の他覚的な評価が可能となる。
急性腎臓傷害/腎不全(AKI)及び長期間にわたる病態形成を有する患者において、プラスミノーゲン(PLG)レベルは、血管起源を有していない患者と比較してかなり低いことが見いだされた。これに焦点を当てた研究が、マンハイム大学病院の臨床化学部(Department of Clinical Chemistry)(IKC)と共同で行われた。2018年3月まで、77人の患者からクエン酸血漿サンプルを集めて-40℃未満で保存した。全てのサンプルを、DIN EN ISO 15189認証研究室においてBCS XP分析機(SIEMENS Healthcare)でプラスミノーゲン(PLG)及びアルファ-2-抗プラスミンについてバッチ測定した。53人の健常血漿ドナーの群を、同じ条件下で対照として使用した。これらの結果を、マン・ホイットニーのU検定を使用して評価した。
【0134】
第一の有効性確認試験において急性腎臓内腎不全を有する患者を、急性腎臓傷害ネットワーク(AKIN)の基準に従って臨床化学部(IKC)、Mannheimで選択した。鍵となるパラメーター:尿生成の減少と組み合わさった、標準値の1.5倍までのクレアチニン上昇。
【0135】
試験概要 急性腎傷害/腎不全(AKI)
・パラメーター:アルファ-2-抗プラスミン(A2-AP)、プラスミノーゲン(PLG)、活性
標準診断にも使用される、血液サンプルにおける比R=A2-AP/プラスミノーゲン(PLG)
・急性腎臓傷害/腎不全(AKI)を有する77人の患者(AKI)
・53人の対照集団(健常血液ドナー)(CP)
結果をマン・ホイットニー検定により解析し、以下が示された:
・AKI患者における有意な(**)後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症
・AKI患者における有意な(**)後天性アルファ-2-抗プラスミン欠乏症
・(活性に基づく)比(A2AP/PLG)の有意な差は無い。
【0136】
【表1】
【0137】
急性腎臓傷害/腎不全(AKI)のマン・ホイットニー検定は、プラスミノーゲン(PLG)活性の有意な差を示した。患者(Ptx-77)及び対照群(CP-53)においてP=0.0031。結果を図8に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
急性腎不全のマン・ホイットニー検定は、患者群(Ptx-77)及び対照群(CP-53)においてアルファ-2-抗プラスミン活性の有意な差P=0.0011を示した。結果を図9に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
急性腎不全のマン・ホイットニー検定は、患者群(Ptx-77)及び対照群(CP-53)における(活性に基づく)比(A2AP/PLG; P=0.1241)の有意な差を示さなかった。結果を図10に示す。
【0142】
実施例2.2
播種性血管内凝固(DIC)
播種性血管内(微小)凝固(DIC)を有する患者の検証研究が臨床化学部(IKC)、Mannheimにより行われた。DICを有する患者を、D-ダイマーレベル及び内部基準により同定した。
【0143】
研究概要DIC:
・パラメーター: アルファ-2-抗プラスミン(A2-AP)、プラスミノーゲン(PLG)活性。D-ダイマー、比R=A2-AP/血液サンプル中のプラスミノーゲン(PLG)、標準診断にも使用される
・13人のDIC患者(DIC)
・53人の対照集団(CP)
結果をマン・ホイットニー検定により解析し、以下が示された:
・DIC患者における有意な(**)後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症
・DIC患者において後天性アルファ-2-抗プラスミン欠乏症無し
・(活性に基づく)比(A2AP/PLG) --> 線維素溶解の増加した阻害の有意な(***)差異
【0144】
【表4】
【0145】
DICのマン・ホイットニー検定は、プラスミノーゲン(PLG)活性の有意な差異を示した。患者群(Ptx-13)及び対照群(CP-53)においてP=0.0013。結果を図11に示す。
【0146】
【表5】
【0147】
DICのマン・ホイットニー検定は、アルファ-2-抗プラスミン活性の有意な差異を示さなかった。患者群(Ptx-13)及び対照群(CP-53)においてP=0.073。結果を図12に示す。
【0148】
【表6】
【0149】
DICのマン・ホイットニー検定は、対照群(CP-53)におけるよりも患者群(Ptx-13)において有意な増加した(活性に基づく)比(A2AP/PLG; P<0.0001)を示した。結果を図13に示す。
【0150】
要約すれば、(健常)対照集団(CP)の53人の個人、急性腎臓傷害(AKI)を有する77人の患者及び播種性血管内凝固患者を有する患者(DIC)の21人の患者において、AKI患者の40%、及びDIC患者の62%は、対照群(CP)と比較して、統計的に有意なプラスミノーゲン(PLG)の欠乏症を示した。ここで、マン・ホイットニー検定は、CP対AKIについて中央値四分位点間距離(interquartile range)p>0.003、及びCP対DICについて>0.001を示した。結果を図17に示す。
【0151】
実施例2.3
敗血症
敗血症患者の検証研究が、臨床化学部(IKC)、Mannheimで行われた(D-ダイマー及び内部基準による同定)。
【0152】
研究概要-敗血症:
・パラメーター: アルファ-2-抗プラスミン(A2AP)、プラスミノーゲン(PLG)活性、
比R=A2-AP/プラスミノーゲン(PLG)、PCTP、血液サンプル中DD、標準的診断にも使用される。
【0153】
・9人の敗血症患者(sepsis)
・53人の対照集団(CP)
結果をマン・ホイットニー検定により解析し、以下を示した:
・敗血症患者における有意な(*)後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症
・敗血症患者における後天性アルファ-2-抗プラスミン欠乏症無し
・(活性に基づく)比(A2AP/PLG)の有意な差異無し
【0154】
【表7】
【0155】
マン・ホイットニー検定は、プラスミノーゲン(PLG)活性の有意な差異を示した。患者群(Ptx-9)及び対照群(CP-53)においてP=0.0377。結果を図14に示す。
【0156】
【表8】
【0157】
マン・ホイットニー検定は、アルファ-2-抗プラスミン活性の有意な差異を示さなかった: 患者群(Ptx-9)及び対照群(CP-53)においてP=0.0704。結果を図15に示す。
【0158】
【表9】
【0159】
マン・ホイットニー検定は、対照群(CP-53)よりも患者群(Ptx-13)において有意ではないが増加した(活性に基づく)比(A2AP/PLG; P=0.2182)を示した。結果を図16に示す。
【0160】
実施例2.4
対照集団
生-データ: 血漿センターからの健常血漿ドナーである対照集団(CP)におけるプラスミノーゲン(PLG)及びA2APの測定。
参照範囲を対照集団において規定することができた PLG:90%~144%;A2AP:97%~119%;及び比:0.80~1.25。
【0161】
【表10】
【表11】
【0162】
実施例2.5
プラスミノーゲン(PLG)消費により引き起こされた後天性プラスミノーゲン(PLG)欠乏症を有する患者における診断
Centrum fuer Blutgerinnungsstoerungen und Transfusionsmedizin(CBT) Bonnにおいて、プラスミノーゲン(PLG)レベルを測定された合計6000人(GPの診療所(一般開業医の診療所/家庭医療)からの非急性状態から)の患者から、プラスミノーゲン(PLG)レベルが減少した全てのレベルを選択し、そして解析した(n=700{11.6%])。減少したプラスミノーゲン(PLG)レベルを有する患者間の診断頻度を解析した。プラスミノーゲン(PLG)欠乏症が予期されていなかった場合に多くの診断が該当した。結果を図4及び表11に示す。CBTでの前向き研究は、これらの知見を証明するために行われる。並行して、同じ診断を有する急性患者における前向き研究も同様に行われる。
【0163】
【表12】
【0164】
表11は、線形回帰R=rからの相関係数を記載する。これは、コンピュータ・プログラムMicrosoft Excel(関数「KORREL」を独語版で使用する)において各2つのパラメーターを互いに相関させることにより行われた。これは、2つのパラメーター間に統計的関係が存在するか否かを示す。-0.5>r<0.5の相関比は相関が無いか弱い相関を示すと仮定した。-1.0~-0.5又は0.5~1.0の相関比rは、有意な相関を示す。したがって、有意な相関があったのは、PLGと比、及びQuickとPro C Actについてのみであった。
【0165】
表11において、以下のパラメーターを示す: PLG:プラスミノーゲン[IU/mL];Quick[秒];トロンビン時間[秒];APTT:活性化部分トロンボプラスチン時間[秒];Prot C Act=プロテインC活性化[IU/mL];APC比:活性化プロテインC抵抗性[%];ATIII=抗トロンビンIII[%];A2AP:アルファ-2-抗プラスミン[%];比(A2AP/PLG)、PAI-1:プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1[ng/mL]、PAP複合体:プラスミノーゲン-抗プラスミン複合体;D-ダイマー:D-ダイマー;PLT=血小板[x10/μL];CRP:C反応性タンパク質[μg/mL]
【0166】
【表13】
【0167】
この研究において、プラスミノーゲン(PLG)は独立したパラメーターとして同定された。(活性に基づく)比(A2AP/PLG)(プラスミノーゲン(PLG)が存在する場合)との弱い相関を覗いて、凝固系又は線溶系からのいずれの他のパラメーターとも相関はなかった。全てのサンプルは非急性患者から採血された。したがって、急性心筋梗塞を有する少数の患者のみこの研究に存在した。選択された患者集団(低いプラスミノーゲン(PLG)レベルを有する)は、正常A2APレベルを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】