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特表2022-518525フライス工具用の丸形切削インサート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】フライス工具用の丸形切削インサート
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20220308BHJP
   B23C 5/06 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543140
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(85)【翻訳文提出日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2019074356
(87)【国際公開番号】W WO2020156691
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】19154672.0
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リュー, マルク
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022HH01
3C022HH05
3C022LL01
(57)【要約】
インサート中心軸(C)と、インサート中心軸(C)に対して垂直に延びる中立面(NP)とを有するフライス工具用の丸形切削インサート(1)である。丸形切削インサートは、インサート中心軸(C)を囲み、上側及び下側丸形主面(2、3)の間に延在する外周側面(4)を含み、上側刃先(6)が、上側丸形主面(2)と外周側面(4)との交差部に沿って形成され、複数の細長い支持溝(7)が外周側面(4)に配置される。各細長い支持溝(7)は、長手方向(L)に延在する底面(8)を有し、対向するフランク面(9a、9b)が底面(8)に向かって収束し、細長い支持溝(7)の長手方向(L)に平行に延在する。各細長い支持溝(7)の長手方向(L)は、丸形切削インサート(1)の側面図で見たときに中立面(NP)と鋭角θを形成しており、各細長い支持溝(7)の対向するフランク面(9a、9b)の少なくとも一方は、丸形切削インサート用の側方支持面(9a)として構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート中心軸(C)及び前記インサート中心軸(C)に垂直に延びる中立面(NP)を有する、フライス工具用の丸形切削インサート(1)であって、
前記中立面(NP)から等距離に分離された上側基準面(UP)を画定する上側丸形主面(2)及び下側基準面(LP)を画定する下側丸形主面(3)と、
前記インサート中心軸(C)を囲み、前記上側及び下側丸形主面(2、3)の間に延在する外周側面(4)と、
前記上側丸形主面(2)と前記外周側面(4)の交差部に沿って形成された上側刃先(6)と、
前記外周側面(4)に配置された複数の細長い支持溝(7)であって、前記各細長い支持溝(7)は長手方向(L)に延在する底面(8)を有し、対向するフランク面(9a、9b)が前記底面(8)に向かって収束し、前記細長い支持溝(7)の長手方向(L)に平行に延在する、細長い支持溝(7)と
を含み、
前記各細長い支持溝(7)の長手方向(L)が、前記丸形切削インサート(1)の側面図で見たときに、前記中立面(NP)と鋭角θを形成していること、及び前記各細長い支持溝(7)の前記対向するフランク面(9a、9b)の少なくとも一方が、前記丸形切削インサート用の側方支持面(9a)として構成されることを特徴とする、フライス工具用の丸形切削インサート(1)。
【請求項2】
前記上側基準面(UP)に対する下側フランク面(9a)が、前記各細長い支持溝(7)内の前記側方支持面(9a)として構成される、請求項1に記載の丸形切削インサート。
【請求項3】
前記長手方向(L)が、右手フライス工具用に構成された丸形切削インサートの側面図で見たときに、前記中立面(NP)に対して正の鋭角θを形成しているか、又は前記長手方向(L)が、左手フライス工具用に構成された丸形切削インサートの側面図で見たときに、前記中立面(NP)に対して負の鋭角θを形成している、請求項2に記載の丸形切削インサート。
【請求項4】
前記長手方向(L)が、10°≦θ≦45°、好ましくは15°≦θ≦30°、より好ましくは15°≦θ≦25°の範囲内の絶対値を有する鋭角θを形成している、請求項1から3のいずれか一項に記載の丸形切削インサート。
【請求項5】
前記側方支持面(9a)が平面である、請求項1から4のいずれか一項に記載の丸形切削インサート。
【請求項6】
前記側方支持面(9a)として構成された前記下側フランク面が、前記インサート中心軸(C)に平行な断面で見たときに、前記下側基準面(LP)と鋭角の内角βを形成している、請求項2に記載の丸形切削インサート。
【請求項7】
前記側方支持面(9a)として構成された前記下側フランク面が、前記インサート中心軸(C)に平行な断面で見たときに、前記下側基準面(LP)に対して65°≦β≦85°、好ましくは70°≦β≦80°の範囲の鋭角の内角βを形成している、請求項6に記載の丸形切削インサート。
【請求項8】
前記丸形切削インサートが、前記下側丸形主面(3)と前記外周側面(4)との交差部に沿って形成された下側刃先(6’)を含む両面切削インサート(1)であり、前記各細長い支持溝(7)の前記対向するフランク面(9a、9b)が同一の側方支持面(9a、9b)を形成する、請求項1から7のいずれか一項に記載の丸形切削インサート。
【請求項9】
前記各細長い支持溝(7)が、前記インサート中心軸(C)に平行な断面で見たときにV字形である、請求項8に記載の丸形切削インサート。
【請求項10】
前記外周側面(4)が、前記上側及び下側刃先(6、6’)に隣接する上側及び下側クリアランス面(4a、4a’)を備え、前記上側及び下側クリアランス面(4a、4a’)が、前記上側及び下側刃先(6、6’)において正のクリアランス角(α、α’)を形成する、請求項8又は9に記載の丸形切削インサート。
【請求項11】
同一の細長い支持溝(7)が、前記外周側面(4)の全体の周りに並んで配置され、前記細長い支持溝(7)の数は少なくとも6つ以上、例えば、8つの前記細長い支持溝(7)が前記外周側面(4)の全体の周りに並んで配置される、請求項1から10のいずれか一項に記載の割り出し可能な丸形切削インサート。
【請求項12】
中心回転軸(R)を中心として回転可能であり、請求項1から11のいずれか一項に記載の丸形切削インサート(1)用に構成された座部(11)を含むフライス工具本体(10)であって、前記座部は、座部中心軸(C)、及び前記丸形切削インサート(1)の前記下側丸形主面(3)を支持するための丸形底部接触面(12)を含み、前記丸形底部接触面(12)は、前記座部中心軸(C)に対して垂直に延在する下側基準面(LP)を画定し、前記座部(11)は、前記丸形切削インサート(1)の前記側方支持面(9a)を支持するための少なくとも1つの側方接触面(13)を備え、前記側方接触面(13)は、前記座部(11)の側面図で見たときに、対応する鋭角θを前記下側基準面(LP)と形成するために長手方向(L)に延在する、フライス工具本体(10)。
【請求項13】
前記側方接触面(13)が、前記座部中心軸(C)に平行な断面で見たときに、前記座部(13)の前記下側基準面(LP)に対して、対応する鋭角の内角βを形成している、請求項12に記載のフライス工具本体(10)。
【請求項14】
前記座部(11)が、前記丸形切削インサート上の2つの前記細長い支持溝(7)の2つの前記側方支持面(9a)を支持するための2つの側方接触面(13、13’)を備え、前記フライス工具本体の前記座部において、第1の側方接触面(13)が軸方向支持面として配置され、第2の接触面(13’)が半径方向支持面として配置される、請求項12又は13に記載のフライス工具本体(10)。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載のフライス工具本体(10)、及び請求項1から11のいずれか一項に記載の丸形切削インサート(1)を備えるフライス工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸形切削インサート、丸形切削インサートのためのフライス工具本体、及び丸形切削インサートを含むチップ除去加工のためのフライス工具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、フライス工具において丸形切削インサートに対して安定した支持体を提供するという問題に関する。そのような安定した支持体、及びフライス工具の座部に取り付けられた丸形切削インサートの回転防止を提供することを目的とした多数の既知の解決策がある。
【0003】
国際公開第2010/134700号パンフレットは、フライス工具に安全に取り付けられるように構成された円形形状を有する両面切削インサート(丸形切削インサート)を開示している。これにより、丸形切削インサートは、複数の回転防止面を有する円筒形側面を備える。回転防止面は、丸形の上面及び底面に対して垂直に形成され、側面の内側に向かって凹んでいるので、割り出し可能な丸形切削インサートは、回転防止面上に比較的大きな領域を設けることによってフライス工具に安全に取り付けられる。
【0004】
米国特許出願公開第2012301235号明細書は、V字形、長方形又は半円形の断面形状を有する係合溝が設けられた湾曲側面を有する切削インサートを含む別の解決策を開示している。座部には、係合溝に接触して切削インサートの着座安定性を改善する、対応する係合突起が設けられる。切削インサートの係合溝は、この場合、切削インサートの上面及び底面に平行に延在する。
【0005】
しかしながら、丸形切削インサートの支持体の安定性はさらに改善することができ、加えて、丸形切削インサートの可能な割り出し位置の数もさらに増やすことができ、これにより、様々な切削深さで異なるフライス加工に使用するための丸形切削インサートの耐用年数及び汎用性が向上する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、丸形切削インサートがフライス工具の座部に取り付けられたときの支持体の安定性及び回転防止における改善を示すと同時に、丸形切削インサート上の割り出し位置の数を増やすことも可能にする丸形切削インサートを提供することにある。この目的は、請求項1に記載の丸形切削インサートによって達成される。
【0007】
したがって、本発明の丸形切削インサートは、インサート中心軸と、インサート中心軸に垂直に延在する中立面とを有し、丸形切削インサートは、中立面から等距離に分離した、上側基準面を画定する上側丸形主面及び下側基準面を画定する下側丸形主面を含む。丸形切削インサートは、インサート中心軸を囲み、上側丸形主面と下側丸形主面との間に延在する外周側面を含み、上側刃先が、上側丸形主面と外周側面との交差部に沿って形成される。丸形切削インサートは、外周側面に配置された複数の細長い支持溝を含み、各細長い支持溝は長手方向に延在する底面を有し、対向するフランク面は底面に向かって収束し、各細長い支持溝の長手方向に平行に延在する。
【0008】
本発明の丸形切削インサートは、各細長い支持溝の長手方向が、丸形切削インサートの側面図に見られるように、中立面と鋭角θを形成していること、及び各細長い支持溝の対向するフランク面の少なくとも1つが、丸形切削インサートの側方支持面として構成されることを特徴とする。
【0009】
このようにして、各細長い支持溝のフランク面/側方支持面上の表面領域の増加は、各細長い支持溝の長手方向を中立面に対して鋭角θで傾斜させることによって達成される。したがって、鋭角θは、中立面を横切って斜めに延在する細長い支持溝(長手方向)を提供し、これにより、中立面に平行又は垂直に延在する側方支持面と比較して、長手方向により大きい/より長い側方支持面を可能にすることによって安定性を高める。
【0010】
さらに、切削力は、フライス工具が右手又は左手フライス工具であることに応じて、丸形切削インサートをインサート中心軸を中心とした特定の方向に、すなわち、座部内で時計回り又は反時計回りに回転させる傾向がある。これにより、鋭角θは、特定の傾斜方向(中立面に対して正又は負)を提供することを可能にし、鋭角θ(±)に配向された側方支持面は、切削力によって引き起こされる特定の回転方向(時計回り又は反時計回り)を効果的に打ち消すことができる。換言すれば、切削力は、それによって、丸形切削インサートの比較的大きい側方支持面を単に押圧するだけで、座部の側方接触面とより緊密に当接させ、これにより、フライス工具の座部における丸形切削インサートの安定性及び回転防止がさらに向上する。安定性/回転防止を改善することを目的とした長手方向の鋭角θに対する特定の傾斜方向(正又は負)は、上側又は下側フランク面のどちらが細長い支持溝内の側方支持面として構成されるかに依存する。このことは、各細長い支持溝の下側フランク面が丸形切削インサートの側方支持面として構成される実施形態において以下でさらに説明される。
【0011】
さらに、丸形切削インサートの外周側面の周りに、比較的大きい/長い側方支持面を有する細長い支持溝の数を増やして配置することができ、それにより、丸形切削インサートの割り出し位置の数を増やすことができる。換言すれば、所与のサイズ/長さを有する細長い支持溝/側方支持面は、中立面に平行に延在する細長い支持溝/側方支持面と比較して、鋭角θで傾斜している場合に互いにより接近して離間することができる。
【0012】
丸形切削インサートの一実施形態では、上側基準面に対して少なくとも下側フランク面が、各細長い支持溝内の側方支持面として構成される。このようにして、座部の側方接触面が、切削インサートの側方支持面として構成された下側フランク面を押圧して、切削インサートの支持体にいわゆるダブテールクランプ作用を提供する。換言すれば、座部の底部接触面に向かって下方に向かうクランプ力成分を提供し、丸形切削インサートのための側方支持面として上側フランク面を使用することと比較して、座部内の切削インサートのより安定した固定及び回転防止を提供する。
【0013】
丸形切削インサートのさらなる実施形態では、長手方向は、右手フライス工具用に構成された丸形切削インサートの側面図において中立面と正の鋭角θを形成している。このようにして、中立面と正の鋭角+θに配向された細長い支持溝の下側支持面は、右手フライス工具で生じる切削力によって引き起こされる切削インサート上の時計回りの回転方向を効果的に打ち消す。したがって、切削力によって引き起こされる、インサート中心軸を中心として丸形切削インサートを回転させる傾向は、下側支持面が座部の側方接触面を押圧してより緊密に当接するときに打ち消され、それにより、右手フライス工具における丸形切削インサートの安定性及び回転防止がさらに向上する。又はその逆に、長手方向は、左手フライス工具用に構成された丸形切削インサートの側面図において中立面と負の鋭角-θを形成している。したがって、左手フライス工具用に構成された切削インサートでは、負の鋭角-θに配向された細長い支持溝の下側支持面上の長手方向は、左手フライス工具で生じる切削力によって引き起こされる反時計回りの回転方向を効果的に打ち消す。これにより、切削力は、座部の側方接触面に対してより緊密に下側支持面を押圧し、これにより、左手フライス工具における丸形切削インサートの安定性及び回転防止を向上させる。ここで、各細長い支持溝の上側(下側ではなく)フランク面が側方支持面として構成されている場合、フライス工具が右手又は左手フライス工具であることを考慮して、傾斜方向において反対の関係が使用されるべきであることを強調する。したがって、上側支持面を使用する右手フライス工具の場合、鋭角θは負でなければならず、一方で、上側支持面を使用する左手フライス工具の場合、鋭角θは正でなければならない。
【0014】
丸形切削インサートの一実施形態では、(各細長い支持溝/底面の)長手方向は、丸形切削インサートの中立面と10°≦θ≦45°、好ましくは15°≦θ≦30°、より好ましくは15°≦θ≦25°の範囲内の絶対値を有する鋭角θを形成している。したがって、細長い支持溝の長手方向は、この範囲内で中立面を横切って斜めに配向され、長さ延長部の増加/回転防止及び割り出し位置の数を最適化する。10°以上の鋭角θは、中立面に平行(θ=0°)に配向された細長い支持溝と比較して、回転防止が改善された、明らかにより大きな/より長い側方支持面、及びより多くの割り出し位置を提供する。しかしながら、45°を超える鋭角θは、丸形切削インサートの垂直(又は厚さ)方向の利用可能な空間が水平/周方向(θ≦45°)の利用可能な空間よりも小さいために、細長い支持溝が主に丸形切削インサートの垂直(又は厚さ)方向に延在し、側方支持面(細長い支持溝)のサイズの縮小/長さの短縮をもたらすことを意味する。このことは、サイズの増加/長さの増加/回転防止の改善及び多数の割り出し位置の達成の両方を考慮して、長手方向の鋭角θの絶対値が15°≦θ≦30°の範囲内にある場合に、より好ましくは15°≦θ≦25°の範囲内にある場合にさらに最適化される。
【0015】
丸形切削インサートのさらに別の実施形態では、側方支持面は平面である。安定性は、切削インサート上の正確な側方支持体の製造及び制御が容易になるため、細長い支持溝内のそのような平面状の(平坦な)側方支持面によって向上する。平面状の支持面はまた、支持面に対する研削作業を容易にし、支持体の精度/安定性を改善させる。
【0016】
丸形切削インサートの別の実施形態では、側方支持面として構成された下側フランク面は、インサート中心軸に平行な断面で見たときに、下側基準面と鋭角の内角βを形成している。したがって、側方支持面は、インサートのダブテールクランプ/側面支持が達成される所定の鋭角の内角βで下側基準面に対して傾斜している。このようにして、側方支持面が傾斜する角度が、細長い支持溝/側方支持面の長さ延長部/方向に沿って同じであるため、正確な側方支持体の製造及び制御が容易になる。側方支持面は、例えば凸状又は凹状の形状であってもよく、鋭角の内角は、前記断面におけるそのような凸状/凹状の端点間の弦によって形成されるが、この実施形態は、平面支持面を含む前述の実施形態と組み合わせることが好ましく、それによって側方支持体の製造及び制御がさらに容易になる。したがって、下側基準面に対して、画定された鋭角の内角βで傾斜した平面状の側方支持面は、容易に製造/制御され、側方支持面を平坦に研削する作業を容易し、支持体の精度/安定性を改善させる。
【0017】
丸形切削インサートのさらなる実施形態では、側方支持面として構成された下側フランク面は、下側基準面に対して65°≦β≦85°、好ましくは70°≦β≦80°の範囲の鋭角の内角βを形成している。この範囲では、鋭角の内角βは、適切なダブテールクランプ作用及び丸形切削インサートのバルク強度の両方を保証するような大きさである。したがって、65°未満の鋭角の内角βが提供されると、側方支持面が外周側面にかなり急に入り込むため、切削インサートのバルク強度が危険にさらされ、それによって丸形切削インサートは弱くなり、フライス加工中に丸形切削インサートに作用する切削力のために破断する可能性がある。しかしながら、85°を超える鋭角の内角βは、座部において、対応して傾斜した側方接触面とのダブテールクランプ作用をほとんどもたらさない。十分なバルク強度の達成とダブテールクランプ作用との間の妥協点において、鋭角の内角βの最適値は、下側基準面に対して70°≦β≦80°の範囲に見出すことができる。
【0018】
さらなる実施形態では、丸形切削インサートは、下側丸形主面と外周側面との交差部に沿って形成された下側刃先を含む両面切削インサートであり、各細長い支持溝の対向するフランク面は、同一の側方支持面を形成する。両面切削インサートは反転することができ、その結果、刃先を有する下側丸形主面を能動切削作業に使用することができ、割り出し可能な刃先の数は片面切削インサートに対して2倍になる。このようにして、同一の側方支持面を形成する対向するフランク面(下側又は上側)の一方は、一方(上側)又は他方(下側)の丸形主面が能動切削作業に使用される場合、交互に使用することができる。
【0019】
丸形切削インサートのさらなる実施形態では、各細長い支持溝は、インサート中心軸に平行な断面で見たときにV字形である。このようにして、底面が単に、各細長い支持溝の対向して収束する(V字形の)側方支持面の間に最小の移行面を形成するにすぎないので、各側方支持面の横方向延長部(長手方向延長部/方向に垂直)が最大になる。したがって、横方向(長手方向に垂直)の側方支持面にこのような大きなサイズ/延長部を設けることによって、安定性が向上する。
【0020】
丸形切削インサートのさらなる実施形態では、外周側面は、上側及び下側刃先に隣接する上側及び下側クリアランス面を含み、上側及び下側クリアランス面は、上側及び下側刃先において正のクリアランス角を形成する。正のクリアランス角は、ワークピース表面へのクリアランスを増加させるので、両面丸形切削インサートは、負のタイプの両面丸形切削インサート(クリアランス面/外周側面で0°のクリアランス角)のような負の半径方向/軸方向の押し込み角で取り付ける必要はない。これにより、負のタイプの両面切削インサートと比較して、切屑排出、切削性能及びランピング能力の向上を達成することができる。
【0021】
丸形切削インサートの別の実施形態では、同一の細長い支持溝が外周側面全体の周りに並んで配置され、細長い支持溝の数は少なくとも6つ以上であり、例えば、8つの細長い支持溝が外周側面の全体の周りに並んで配置される。したがって、同一の細長い支持溝は、外周側面全体の周りに(並んで)互いに隣接して、近接して配置され、明らかに、隣接する細長い支持溝の間に小さな移行面を設けることができる。このようにして、周全体は、丸形切削インサート上に多数の割り出し位置及び大きなサイズの(長い)側方支持面を与える、連続的に配置された細長い支持溝によって形成される。さらに、各細長い支持溝の対向して収束するフランク面が、V字形の細長い支持溝などの、外周側面全体の周りにそのように並んで配置された同一の側方支持面を形成する場合、フランク面は両面丸形切削インサート上に腰部を形成する。このような腰部は、取り付けられた両面丸形切削インサート上のワークピースと外周側面との間のクリアランスをさらに増加させる。このことは、両面丸形切削インサートが負のタイプの両面丸形切削インサートのように座部に負の半径方向/軸方向の押し込み角度で取り付けられる必要がないため、有益である。
【0022】
本発明の目的は、請求項12に記載のフライス工具本体によっても達成される。したがって、中心回転軸を中心として回転可能なフライス工具本体は、上記で定義されたような丸形切削インサート用に構成された座部を含む。座部は、座部中心軸と、丸形切削インサートの下側丸形主面を支持するための丸形底部接触面とを備え、丸形底部接触面は、座部中心軸に対して垂直に延在する下側基準面を画定し、座部は、丸形切削インサートの側方支持面を支持するための少なくとも1つの側方接触面を備え、側方接触面は、座部の側面図で見たときに、対応する鋭角θを下側基準面と形成するように長手方向に延在する。安定性の改善、回転防止及びより多くの割り出し位置を可能にすることの利点は、上記の丸形切削インサートに関連して前述したものと同じである。
【0023】
フライス工具本体の一実施形態では、側方接触面は、座部中心軸に平行な断面図で見たときに、対応する鋭角の内角βを座部の下側基準面と形成している。このようにして、側方接触面は、丸形切削インサートに関連して前述したようなダブテールクランプ作用を提供する。さらに、側方接触面は、座部の下側基準面に対して単一の画定された鋭角の内角βで延在するので、正確な側方接触面の製造及び制御を容易にする。
【0024】
フライス工具本体のさらなる実施形態では、座部は、丸形切削インサート上の2つの細長い支持溝の2つの側方支持面を支持するための2つの側方接触面を備え、第1の側方接触面は、座部の軸方向支持面として配置され、第2の側方接触面は、座部の半径方向支持面として配置される。このようにして、第1の側方接触面は、フライス作業で生じる軸方向切削力を支持するために専用に設けられ/配向され、第2の接触面は、フライス作業で生じる半径方向切削力を支持するために専用に設けられ/配向される。言い換えれば、第1の側方接触面は、軸方向切削力を伝えるために、長手方向がフライス工具本体の中心回転軸に対して横向きに配向されるように座部に配置され、第2の接触面は、フライス中に生じる半径方向切削力を伝えるために、長手方向がフライス工具本体の中心回転軸に沿って配向されるように座部に配置される。
【0025】
本発明の目的は、フライス工具本体と、上記で定義したような丸形切削インサートとを備える、請求項15に記載のフライス工具によってさらに達成される。
【0026】
実施形態は、図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態による丸形切削インサートの斜視図である。
図2図1の丸形切削インサートの側面図である。
図3図2の丸形切削インサートの断面III-IIIを示す図である。
図4図2の丸形切削インサートの断面IV-IVを示す図である。
図5a】本発明の一実施形態によるフライス工具の斜視図である。
図5b】本発明の一実施形態によるフライス工具の側面図である。
図5c】本発明の一実施形態によるフライス工具の正面図である。
図6】座部に取り付けられた丸形切削インサートを含むフライス工具の詳細図である。
図6a図6の座部中心軸に平行な断面VIa-VIaを示す図である。
図6b図6の座部中心軸に平行な断面VIb-VIbを示す図である。
図7】(丸形切削インサートなしの)フライス工具本体の座部の詳細図である。
図7a図7の座部中心軸に平行な断面VIIa-VIIaを示す図である。
図7b図7の座部中心軸に平行な断面VIIb-VIIbを示す図である。
図8】丸形切削インサートの中立面に沿った断面を含む、フライス工具本体及び丸形切削インサートの斜視詳細図である。
図8a】丸形切削インサートの中立面に沿った断面を含む、フライス工具本体及び丸形切削インサートの斜視詳細図である。
図8b】丸形切削インサートの中立面に沿った断面を含む、フライス工具本体及び丸形切削インサートの斜視詳細図である。
図8c】丸形切削インサートの中立面に沿った断面を含む、フライス工具本体及び丸形切削インサートの斜視詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1図2は、本発明の一実施形態によるフライス工具用の丸形切削インサート1の斜視図及び側面図をそれぞれ開示する。丸形切削インサート1は、インサート中心軸Cと、インサート中心軸Cに対して垂直に延在する中立面NPとを有する。丸形切削インサート1は、中立面NPから等距離に分離した、上側基準面UPを画定する上側丸形主面2と、下側基準面LPを画定する下側丸形主面3とを含む。丸形切削インサート1の外周側面4は、インサート中心軸Cを囲み、上側丸形主面2と下側丸形主面3との間に延在する。インサート中心軸Cはさらに、丸形切削インサートをねじによって取り付けるための貫通孔5の中心を画定する。上側丸形主面2と外周側面4との交差部に沿って、上側刃先6が形成される。丸形切削インサート1は、両面丸形切削インサート1であり、下側丸形主面3は、上側丸形主面2と同一である。両面丸形切削インサート1はさらに、下側丸形主面3と外周側面4との交差部に沿って形成された下側刃先6’を含む。
【0029】
両面丸形切削インサートは、外周側面4に配置された複数の細長い支持溝7を含む。各細長い支持溝7は、長手方向Lに延在する底面8を有し、対向するフランク面9a、9bが底面8に向かって収束し、細長い支持溝7/底面8の長手方向Lに平行に延在する。図2に見られるように、各細長い支持溝7の長手方向Lは、丸形切削インサートの側面図で見たときに中立面NPと鋭角θを形成する。
【0030】
さらに、各細長い支持溝7の対向するフランク面9a、9bの一方は、丸形切削インサートのための側方支持面9aとして使用されるように構成又は意図される。より正確には、上側基準面UPに対して、下側フランク面9aは、上側刃先6を有する上側丸形主面2が能動切削作業に使用されるときに、各細長い支持溝7の側方支持面として使用されるように構成又は意図される。しかしながら、図示された両面切削インサートはまた、下側刃先6’を使用する能動切削作業のために下側丸形主面3が上向きになるように反転させることもできる。これにより、各細長い支持溝7の対向するフランク面9a、9bは、同一の側方支持面9a、9bを形成し、それにより、図示された上側フランク面9bは、両面切削インサートが反転し、下側刃先6’を有する下側丸形主面3が能動切削作業のために上向きに回転するときに、側方支持面9bとして使用することができる。
【0031】
図1図4に示す両面丸形切削インサートは、右手フライス工具用に構成され(図5a~図5cも参照)、長手方向L(左から右への方向)は、丸形切削インサートの側面図で見たときに中立面NPと正の鋭角θを形成する。換言すれば、デカルト座標系は、x軸を表す中立面NP及びy軸を表すインサート中心軸C1によって形成され、丸形切削インサートの前記側面図において、正の鋭角θは反時計回り方向への長手方向Lの回転を指定し、負の鋭角-θは時計回り方向への長手方向Lの回転を指定する。図示された右手フライス工具用の丸形切削インサートは、これにより、長手方向Lを単に反転させて、丸形切削インサートの前記側面図で見たときに中立面NPと負の鋭角-θを形成することによって、左手フライス工具(すなわち、図5a~図5cに示すものと比較して反対の回転方向Rを示すフライス工具)として使用するために変更することができる。これにより、長手方向Lは、10°≦θ≦45°、好ましくは15°≦θ≦30°、より好ましくは15°≦θ≦25°の範囲内の絶対値を有する鋭角θを形成することができる。図示の実施形態では、長手方向Lは、中立面NPと正の鋭角θ=20°を形成している。
【0032】
側方支持面9a、9bは、平面である。したがって、底面8に向かって収束する側方支持面9a、9bは、長手方向及びその(垂直な)横方向の両方において平坦な面延長部を有する。
【0033】
さらに、図3に見られるように、細長い支持溝7は、断面(及びインサート中心軸線に平行な断面)で見たときにV字形である。したがって、各細長い支持溝の底面8は、収束するV字形のフランク面/側方支持面9a、9bの間に幾分小さな移行面を形成する。
【0034】
さらに、下側フランク面/側方支持面9aは、インサート中心軸Cに沿った断面で見たときに、下側基準面LPと鋭角の内角βを形成している。側方支持面9aが平面であり、各細長い支持溝7(又は底面8)の長手方向Lが丸形切削インサートの半径に垂直に延在しているので(図4も参照)、側方支持面9aと下側基準面LPとの間の同じ鋭角の内角βが、インサート中心軸Cに平行ないくつかの断面に形成される。下側支持面9aは、これにより、インサート中心軸Cに平行な断面で見たときに下側基準面LPに対して65°≦β≦85°、好ましくは70°≦β≦80°の範囲の鋭角の内角βを形成することができる。図示の実施形態では、鋭角の内角β=74°である。さらに、両面丸形切削インサート1には同一の側方支持面9a、9bが設けられているので、上側フランク面/側方支持面9bは、同じ鋭角の内角βを上側基準面UPと形成している。図2に見られるように、中立面NPは、両面丸形切削インサート1上の各細長い支持溝7の中心で底面8と交差している。同一の側方支持面9a、9bは、これにより、図2の側面図で見たときに、各細長い支持溝の中心を中心とした2回回転対称性を示し、それにより、両面丸形切削インサートが反転/逆さまにされたときに、下側及び上側支持面9a、9bは同じ形状/サイズ/配向を示す。
【0035】
さらに、図3に見られるように、外周側面4は、上側及び下側刃先6、6’に隣接する上側及び下側クリアランス面4a、4a’を備え、上側及び下側クリアランス面4a、4a’は、上側及び下側刃先6、6’において正のクリアランス角αを形成する。上側及び下側刃先6、6’における正のクリアランス角は、両面切削インサート上で同一であり、3°≦α≦7°の範囲内とすることができる。
【0036】
図4は、両面丸形切削インサート1の中立面NPにおける断面を開示し、両面丸形切削インサートの周囲に均等に分布している8つの同一の細長い支持溝7を示す。したがって、隣接する細長い支持溝7は、インサート中心軸Cに対して45°の角度γで離間している。したがって、8つの細長い支持溝7を有する両面丸形切削インサート1は、上側面2及び下側面3の各々に8つの割り出し位置(又は合計16個の割り出し位置)を有する。丸形切削インサートの周方向の周りに、任意の所望の数の細長い支持溝7(割り出し位置)を配置することができるが、本発明の基本的な考え方が、互いに近接して配置することができる比較的大きなサイズの側方支持面9a、9bによって比較的多数の割り出し位置を提供することを可能にするというものであるため、本発明は、多くの又は少なくとも6つの細長い支持溝7を使用して有益に実現される。したがって、図1図2にも見られるように、同一の細長い支持溝7は、隣接する細長い支持溝7の間に配置された小さな移行(湾曲)面を含む外周側面4全体の周りに並んで配置される。
【0037】
図5a~図5cは、本発明の一実施形態によるフライス工具の異なる図を開示する。フライス工具は、中心回転軸Rを中心として図に示す矢印の方向に回転可能な工具本体10を備える。したがって、フライス工具は右手フライス工具である。フライス工具本体10は、上述のように丸形切削インサート用に構成された、いくつかの座部11を含む。
【0038】
座部11は、図6及び図6a~図6b、並びに図7及び図7a~図7bにより詳細に示されている。見て取ることができるとおり、座部は、座部中心軸Cと、丸形切削インサート1の下側丸形主面3を支持するための丸形底部接触面12とを備える。丸形底部接触面12は、座部中心軸Cに対して垂直に延在する下側基準面LPを画定している。座部中心軸Cは、丸形底部接触面12の中心に配設され、丸形切削インサート1を座部11に取り付けるためのねじ穴の中心を画定している。座部11は、丸形切削インサート1の側方支持面9aを支持するための側方接触面13をさらに備え、側方接触面13は、座部11の側面図で見たときに、対応する鋭角θを下側基準面LPと形成するように長手方向Lに延在している(図6b及び図7bを参照)。さらに、側方接触面13は、座部中心軸Cに平行な断面で見たときに、対応する鋭角の内角βを座部13の下側基準面LPと形成している(図6a及び図7aを参照)。この実施形態では、各座部11は、丸形切削インサート上の2つの細長い支持溝7の2つの下側支持面9aを支持するための2つの側方接触面13、13’を備える。フライス工具本体10の各座部11には、第1の側方接触面13が軸方向支持面として配置され、第2の接触面13’が半径方向支持面として配置される。第2の(半径方向)接触面13’はまた、座部11の側面図で見たときに、対応する鋭角θを下側基準面LPと形成するように長手方向Lに延在している(図7aを参照)。
【0039】
図8図8cは、丸形切削インサート1がねじ14によって座部11に取り付けられたフライス工具本体10のさらなる図を示す。図8bは、丸形切削インサートの図8の断面VIIIb-VIIIb(中立面NP)に沿った断面を開示する。図8bに見られるように、切削インサートを締結するためのねじ穴の中心を画定する座部中心軸Cは、丸形切削インサート1の貫通孔5の中心を画定するインサート中心軸Cに対して、側方接触面13、13’に軸方向及び半径方向においてより接近して配設され、それによって、ねじ14は、ねじ14の固有の弾性を介して偏心ばね付勢を提供し、丸形切削インサート1が座部11に取り付けられるときに側方接触面9aを押圧して軸方向及び半径方向接触面13、13’と緊密に当接させる。見て取ることができるように、軸方向及び半径方向接触面13、13’は、1つの細長い支持溝7が座部11の軸方向及び半径方向接触面13、13’の間に配設されるように離間している。したがって、軸方向及び半径方向接触面13、13’は、座部中心軸Cに対して90°の角度で離間しており、一方、8つの細長い支持溝7は、インサート中心軸Cに対して45°の角度γで離間している。さらに、図8b~図8cに見られるように、軸方向接触面13の長手方向の延長部は、中心回転軸Rに対して本質的に垂直であり、一方、半径方向接触面13’の長手方向の延長部は、座部11の上面図に見られるように、中心回転軸Rと本質的に平行である。したがって、軸方向接触面13は、軸方向切削力に対する支持を提供し、半径方向接触面13’は、半径方向切削力に対する支持を提供する。この場合、両面丸形切削インサートは、上側及び下側のそれぞれで8回割り出し可能であるが、所望の切削深さが丸形切削インサートの半径に等しい場合、丸形切削インサートも明らかに4回割り出し可能である。
【0040】
本発明は、当然のことながら、開示された実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲内で変更及び修正することができる。図示の実施形態は、右手フライス工具(右回転)用の丸形切削インサート及びフライス工具本体を開示しているが、丸形切削インサート及びフライス工具本体は、左手フライス工具(左回転)用に設計することもでき、座部11は、基本的に、図示の右手フライス工具本体の回転軸Rと鏡面対称であり、細長い支持溝7の長手方向Lは、中立面NPに対して反対(負)の方向-θに傾斜している。実施形態は両面丸形切削インサートであるが、本発明は片面丸形切削インサートにも使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図6a
図6b
図7
図7a
図7b
図8
図8a
図8b
図8c
【国際調査報告】