(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】メソテリン特異的なキメラ抗原受容体及びこれを発現させるT細胞
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20220308BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220308BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20220308BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220308BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220308BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220308BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220308BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220308BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220308BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220308BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/705
C12N15/62
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/85 Z
C12N7/01
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543308
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 KR2019017757
(87)【国際公開番号】W WO2020153605
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0007422
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521325547
【氏名又は名称】グリーン クロス セル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CELL CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】アン ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】クォン ミソン
(72)【発明者】
【氏名】キム アリン
(72)【発明者】
【氏名】イ ヒョンホ
(72)【発明者】
【氏名】キム オンギョ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
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4B065BA02
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4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、キメラ抗原受容体及びこれを発現させる免疫細胞に関し、特に、抗メソテリン抗体又はその断片;CD8αのシグナル配列(signal peptide)、CD28又はCD8αのヒンジ(hinge);CD28又はCD8αの膜貫通ドメイン(transmembrane domain);及びCD28、4-1BB及びCD3ζの細胞内信号領域配列を含む細胞内信号伝達ドメイン(intracellular signaling domain)を含むキメラ抗原受容体、及びこれを発現させる免疫細胞、好ましくはT細胞に関する。本発明に係るキメラ抗原受容体及びこれを発現させるT細胞は、免疫細胞が優れた抗癌活性効果を示すので、癌治療に効果的に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソテリン(Mesothelin MSLN)に特異的に結合する結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)。
【請求項2】
さらに、シグナル配列、ヒンジ、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインから選ばれる一つ以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記メソテリン(Mesothelin,MSLN)に対する結合ドメインは、次の重鎖CDRを含む重鎖可変領域及び軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含有する抗メソテリン抗体、又はその断片であることを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体:
配列番号45のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号47のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号48のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号49のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号50のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;
配列番号51のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号52のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号53のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号54のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号55のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号56のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は、
配列番号57のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号59のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号60のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号61のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号62のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【請求項4】
前記メソテリン(Mesothelin,MSLN)に対する結合ドメインは、次の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含有する抗メソテリン抗体、又はその断片であることを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体:
配列番号39のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号40のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は配列番号43のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号44のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
【請求項5】
前記メソテリン(Mesothelin,MSLN)に対する結合ドメインは、抗メソテリン抗体の一本鎖可変断片(scFv)であることを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記抗メソテリン抗体の一本鎖可変断片(scFv)は、配列番号2、配列番号4、又は配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項5に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記シグナル配列は、CD8αのシグナル配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記CD8αのシグナル配列は、配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項7に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
前記ヒンジは、CD28又はCD8αのヒンジ(hinge)を含むことを特徴とする、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
前記CD28又はCD8αのヒンジ配列は、配列番号10又は配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項9に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
前記膜貫通ドメイン(TM)は、CD28又はCD8αの膜貫通ドメインを含むことを特徴とする、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
前記CD28又はCD8αの膜貫通ドメインは、配列番号12又は配列番号18で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項11に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
前記細胞内ドメインはCD28、4-1BB及びCD3ζの細胞内信号領域配列、又はそれらの組合せからなる群から選ばれる配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項14】
前記細胞内ドメインであるCD28、4-1BB及びCD3ζの細胞内信号領域配列は、配列番号14、配列番号20又は配列番号22で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項13に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項15】
前記キメラ抗原受容体は、配列番号24、26、28、30、32、34、又は36で表されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項17】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸のCD8αシグナル配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号7で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項18】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸の抗メソテリン抗体の一本鎖可変断片(scFv)をコードするヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号3、又は配列番号5で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項19】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸のCD28又はCD8αのヒンジをコードするヌクレオチド配列は、配列番号9又は配列番号15で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項20】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸のCD28又はCD8αの膜貫通ドメインをコードするヌクレオチド配列は、配列番号11又は配列番号17で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項21】
前記キメラ抗原受容体をコードする核酸のCD28、4-1BB、又はCD3ζ細胞内信号領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号13、配列番号19、又は配列番号21で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項22】
キメラ抗原受容体をコードする核酸は、配列番号23、25、27、29、31、33、又は35で表されることを特徴とする、請求項16に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項23】
請求項16~22のいずれか一項に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載の発現ベクターを含むウイルス。
【請求項25】
請求項1~15のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を表面に発現させる免疫細胞。
【請求項26】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、又はNKT細胞である、請求項25に記載の免疫細胞。
【請求項27】
請求項25の免疫細胞を含む癌治療用組成物。
【請求項28】
前記癌は、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜癌、肝細胞性癌、胃腸癌、膵癌、神経膠腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、結腸直膓癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌腫、白血病及び他のリンパ球増殖性障害、及び種々の頭頸部癌からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項27に記載の癌治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソテリン特異的なキメラ抗原受容体及びこれを発現させるT細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞(T cells)は、適応性免疫反応(adaptive immunity)を媒介する重要な役割を担う細胞である。T細胞は、抗原を認知できる受容体(T cell receptor,TCR)、補助刺激因子(co-stimulatory molecules)、及びサイトカイン(cytokines)刺激によって活性化される。また、T細胞のTCRは、抗原と結合したMHC分子(major histocompatibility complex,MHC molecules)を通じて免疫反応を起こすが、癌細胞は免疫反応を回避するための機序としてMHC分子の発現を抑制する。T細胞のこのような特性を用いて免疫細胞治療剤(adoptive immune therapy,adoptive cellular therapy)を開発している。
【0003】
T細胞がMHC分子無しで抗原を直接認知できるようにキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)を開発している。キメラ抗原受容体は、抗原を認知するscFv(single chain variable fragment)部分、膜貫通ドメイン(transmembrane domain)、細胞内に信号を伝達する信号伝達ドメイン(signaling domain)で構成されている。T細胞内にキメラ抗原受容体を人為的に導入させ、T細胞(CAR-T細胞)が、特定の抗原を持つ癌に対して反応できるようにする。現在、米国のNovartis、Gilead、Juno Therapeutics、Celgeneなどのような多国籍製薬企業では血液癌を適応症にしてCAR-T細胞を利用しているが、固形癌に対する研究はまだわずかである。
【0004】
メソテリン(Mesothelin,MSLN)は、40kDaのサイズを有する細胞表面に発現する糖タンパク質である。一般の組織では低い発現を示すが、中皮癌(Mesothelioma)、膵癌(Pancreatic cancer)、卵巣癌(Ovarian cancer)をはじめとする種々の固形癌で過発現が確認され、抗癌標的として研究が進行中である(Chang K1996,Raffot H2004)。これに基づき、Novartisと協業する米国ペンシルバニア大学のCarl H.June博士グループは、メソテリンを標的するマウス由来抗メソテリンのscFvを持つキメラ抗原受容体(ss1CAR)研究を進行中である。ss1 CAR mRNAをT細胞に伝達して一時的に(transiently)CARを発現させて患者に投与したとき、患者から抗マウス抗体反応(human anti-mouse antibody response,HAMA response)が起きたことが確認された(Beatty GL 2014)。
【0005】
本発明者らは、メソテリンを発現する癌の治療用途に用いることができ、既存の抗マウス抗体反応の問題を解消するために、メソテリンを特異的に標的するヒト由来scFvを含むキメラ抗原受容体を作製し、該ヒト由来メソテリン特異的なscFvを含むキメラ抗原受容体を発現させるT細胞が優れた抗癌効果を示すことを糾明し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、既存のメソテリン結合ドメインを含むキメラ抗原受容体を発現させるT細胞を用いた抗癌免疫細胞治療における問題点を解決した、高い抗癌効果を示す新しいメソテリン結合ドメインを含むキメラ抗原受容体、該キメラ抗原受容体を発現させるT細胞、該免疫細胞を含む癌治療用組成物及びこれを用いた癌治療方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、癌治療のための前記T細胞の用途を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、癌治療用薬剤の製造のための前記T細胞の使用を提供することにある。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、メソテリン(Mesothelin,MSLN)に特異的に結合する結合ドメインを含むキメラ抗原受容体を提供する。
【0010】
本発明に係るメソテリン(Mesothelin,MSLN)に対する結合ドメインは、抗メソテリン抗体又はその断片であることが好ましいが、これに限定されない。
【0011】
本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片は、配列番号45、51、又は57のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;配列番号46、52、又は58のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2;及び配列番号47、53、又は59のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、及び配列番号48、54、又は60のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;配列番号49、55、又は61のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;及び配列番号50、56、又は62のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明はまた、メソテリン特異的なキメラ抗原受容体をコードする核酸;前記核酸を含む発現ベクター;及び前記キメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞、前記免疫細胞を含む癌治療用組成物及びこれを用いた癌治療方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、癌治療のための前記免疫細胞の用途を提供する。
【0014】
本発明はまた、癌治療用薬剤の製造のための前記免疫細胞の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明の実施例に係る組換えヒトメソテリン(recombinant human mesothelin,rhMSLN)に対するMS501 scFv、MS503 scFv又はC2G4 scFvの結合程度を酵素結合免疫沈降分析法(Enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)を用いて示す。
【0016】
【
図1B】本発明の実施例に係るMIA PaCa2-MSLN細胞に対するMS501 scFv、MS503 scFv又はC2G4 scFvの細胞結合程度を流細胞分析を用いて示す。
【0017】
【
図2A】本発明の実施例に係るin vitro実験に用いられたCAR構造の模式図である。
【0018】
【
図2B】本発明の実施例に係る501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたJurkat細胞におけるそれぞれのCAR発現量を流細胞分析を用いて示す。
【0019】
【
図2C】本発明の実施例に係るJurkat細胞に形質導入された501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zの発現率を、メソテリンキメラ抗原受容体発現量とGFP(green fluorescent protein)発現量で示す。
【0020】
【
図3A】本発明の実施例に係る501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたJurkat細胞のメソテリンを発現させる標的細胞であるHeLa(子宮頸癌)細胞、OVCAR3(卵巣癌)細胞、CAPAN1(膵癌)細胞に対する反応による細胞活性度を流細胞分析を用いて示す。
【0021】
【
図3B】
図3Aにおいて、501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたJurkat細胞のメソテリン特異的な反応によるサイトカイン分泌能を酵素結合免疫沈降分析法を用いて示す。
【0022】
【
図4A】本発明の実施例に係る501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたJurkat細胞のメソテリン特異的な反応による細胞活性度を流細胞分析を用いて示す。
【0023】
【
図4B】
図4Aにおいて、501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたJurkat細胞のメソテリン特異的な反応によるサイトカイン分泌能を酵素結合免疫沈降分析法を用いて示す。
【0024】
【
図5A】本発明の実施例に係るヒトT細胞に形質導入された501(28H)28z又はC2G4(28H)28zの発現率を流細胞分析を用いて示す。
【0025】
【
図5B】
図5Aにおいて、501(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたヒトT細胞におけるメソテリン特異的な反応による殺害能を示す。
【0026】
【
図5C】
図5Bにおいて、501(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたヒトT細胞におけるメソテリン特異的な反応によるサイトカイン分泌能を酵素結合免疫沈降分析法を用いて示す。
【0027】
【
図5D】
図5Aにおいて、501(28H)28z又はC2G4(28H)28zで形質導入されたヒトT細胞におけるメソテリンを発現させる標的OVCAR3(卵巣癌)細胞、CAPAN1(膵癌)細胞に対する殺害能を示す。
【0028】
【
図6A】本発明の実施例に係るin vivo実験に用いられたCAR構造の模式図である。
【0029】
【
図6B】
図6Aにおいて、NCI-H226異種移植したマウスモデルに、501(8H)Δ、501(8H)z、501(8H)BBz、501(8H)28z又は501(28H)28zで形質導入されたヒトT細胞を腫瘍内注射(intra-tumoral)した後の腫瘍サイズの変化を示す。
【0030】
【
図6C】
図6Bにおいて、形質導入されたヒトT細胞を腫瘍内注射して20日目にマウスの腫瘍組織を収穫(Harvest)した後にその重さを示す。
【0031】
【
図6D】
図6Cにおいて、腫瘍組織内形質導入されたヒトT細胞のサイトカイン分泌能を酵素結合免疫沈降分析法を用いて示す。
【0032】
【
図6E】
図6Bにおいて、マウスの重さによって副作用を確認する。
【0033】
【
図6F】
図6Bにおいて、実験の終了点におけるマウス生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、メソテリン特異的に結合する結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor,CAR)及びこれを発現させるT細胞に関する。以下、本発明を詳細に説明する。
【0035】
本発明は、メソテリン(Mesothelin,MSLN)に特異的に結合する結合ドメインを含むキメラ抗原受容体に関する。
【0036】
本発明に係るメソテリン(Mesothelin,MSLN)に対する結合ドメインは、抗メソテリン抗体又はその断片であることが好ましいが、これに限定されない。
【0037】
本発明における抗体の“断片”は、抗原結合機能を保有している断片を意味し、scFv、Fab、F(ab’)2及びFv断片などを含む意味で使われる。
【0038】
“単一鎖Fv”又は“scFv”抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含むが、これらのドメインは単一ポリペプチド鎖内に存在する。Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために目的とする構造を形成可能にするVHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含むことができる。
【0039】
“Fv”断片は、完全な抗体認識及び結合部位を含有する抗体断片である。このような領域は、1個の重鎖可変ドメインと1個の軽鎖可変ドメインが、例えばscFvで強固に事実上共有的に連合した二量体からなる。
【0040】
“Fab”断片は、軽鎖の可変及び定常ドメインと、重鎖の可変及び第1定常ドメイン(CH1)を含有する。F(ab’)2抗体断片は、一般に、それらの間にヒンジシステインによってそれらのカルボキシ末端付近に共有的に連結される一対のFab断片を含む。
【0041】
本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片は、配列番号45、51、又は57のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;配列番号46、52、又は58のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2;及び配列番号47、53、又は59のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、及び配列番号48、54、又は60のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;配列番号49、55、又は61のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;及び配列番号50、56、又は62のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含有することを特徴とする。
【0042】
より具体的には、本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片は、配列番号45のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号46のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号47のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号48のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号49のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号50のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;配列番号51のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号52のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号53のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号54のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号55のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号56のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3;又は配列番号57のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号59のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号60のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号61のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号62のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含むものであり得る。
【0043】
好ましくは、本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片は、配列番号39、41、又は43のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号40、42、又は44のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含有することを特徴とする。
【0044】
より具体的には、本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片は、配列番号39のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号40のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は配列番号43のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号44のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むものであり得る。
【0045】
最も好ましくは、本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれた抗メソテリン抗体又はその断片はscFvの形態であり、好ましくは、配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列を含んでよいが、これに限定されない。
【0046】
本発明に係るキメラ抗原受容体は、メソテリンに特異的に結合する結合ドメインの他、さらにシグナル配列(signal peptide,SP)、ヒンジ、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインから選ばれる一つ以上を含むことを特徴とする。
【0047】
本発明に係るキメラ抗原受容体に含有可能なシグナル配列はCD8αシグナル配列が好ましいが、これに限定されず、CD8αシグナル配列は、配列番号8で表されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0048】
本発明に係るシグナル配列、及びメソテリンに特異的に結合する結合ドメインは、キメラ抗原受容体の細胞外ドメインを構成する。細胞外ドメインは主信号が伝達される部位であって、細胞膜の外部に存在し、メソテリンを特異的に認識するためのドメインである。
【0049】
本発明に係るキメラ抗原受容体に含有可能な膜貫通ドメイン(transmembrane domain)は、前記細胞外ドメインと前記細胞内信号伝達ドメインを細胞膜の間に連結可能な如何なるものも使用可能である。好ましくは、前記膜貫通ドメインは、CD28由来の膜貫通ドメイン及び/又はCD8α由来の膜貫通ドメインからなり、前記CD28由来の膜貫通ドメイン及び/又はCD8α由来の膜貫通ドメインの全体又は一部を含むものでよい。
【0050】
好ましくは、前記膜貫通ドメインは、配列番号12及び/又は18で表されるアミノ酸配列を含んでよいが、これに限定されない。
【0051】
本発明の一実施例によれば、前記細胞外ドメインと前記膜貫通ドメインはスぺーサドメインで連結されてよい。
【0052】
好ましくは、前記スぺーサドメインは、ヒンジ(hinge)ドメインであり得る。本発明に係るキメラ抗原受容体に含有可能なスぺーサドメインは、CD28由来のヒンジドメイン及び/又はCD8α由来のヒンジドメインを含んでよく、前記CD28由来のヒンジドメイン及び/又はCD8α由来のヒンジドメインの全体又は一部を含むものでよい。CD28及びCD8αとして全体又は一部を含むものであり得る。
【0053】
好ましくは、前記ヒンジドメインは、配列番号10及び/又は16で表されるアミノ酸配列であるが、これに限定されない。
【0054】
具体的な一実施例によれば、MS501 scFvを含む様々な組合せのCAR構造を用いたインビボ(in-vivo)実験において、MS501 scFvをCD28膜貫通ドメイン、CD28由来及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメインと連結した組合せ(501(8H)28z及び501(28H)28z)が他の組合せ(501(8H)z及び501(8H)BBz)に比べて腫瘍のサイズを減少させる、予期せぬ優れた抗癌効果を示し、特に、ヒンジ領域としてCD28を組合せたとき(501(28H)28z)、CD8αヒンジを使用したとき(501(8H)28z)に比べて著しく抗癌効果を示した。
【0055】
本発明の一実施例によれば、前記細胞内信号伝達ドメインは、T細胞の細胞膜内側、すなわち、細胞質に位置することになる部分であり、細胞外ドメインに結合した抗体が標的抗原に結合した時、免疫細胞の免疫反応を活性化させる部位を意味する。
【0056】
本発明に係るキメラ抗原受容体は、2個以上の細胞内信号伝達ドメインを含むものであり得る。2個以上の細胞内信号伝達ドメインを含む場合には、細胞内信号伝達ドメインが互いに直列に連結されてよい。本発明に係るキメラ抗原受容体に含有可能な細胞内信号伝達ドメインは、CD28由来の細胞内信号伝達ドメイン、又は4-1BB由来の細胞内信号伝達ドメインがCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメインと連結されたものでよく、好ましくは、配列番号14、20及び/又は22で表されるアミノ酸配列を含んでよいが、これに限定されない。
【0057】
具体的な一実施例によれば、本発明に係るキメラ抗原受容体は、配列番号24、26、28、30、32、34及び36からなる群から選ばれる一つ以上のアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するそれの変異体を含むものであり得る。
【0058】
また、本発明は、上述した本発明に係るキメラ抗原受容体をコードする核酸に関する。本発明の抗原受容体をコードするポリヌクレオチド(核酸)はコドン最適化によって変形されてよいが、これは、コドンの縮退性(degeneracy)に起因することであり、ポリペプチド又はその変異体断片をコードする多数のヌクレオチド配列が存在するということは、通常の技術者によく理解できよう。これらのポリヌクレオチド(核酸)の一部は任意の自然発生型遺伝子のヌクレオチド配列と最小相同性を有する。
【0059】
特に、コドン活用法の相違から、可変的なポリヌクレオチド(核酸)、例えば、ヒト、霊長類及び/又は哺乳動物のコドン選択に最適化されたポリヌクレオチド(核酸)が好ましい。
【0060】
本発明の一実施例によれば、前記核酸配列は、配列番号23、25、27、29、31、33及び35からなる群から選ばれる一つ以上のヌクレオチド配列、又は前記ヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するその変異体を含むものであり得る。
【0061】
本発明に係るキメラ抗原受容体に含まれる、CD8αシグナル配列をコードする核酸配列は配列番号7;scFvをコードする核酸配列は配列番号1、3、又は5;CD28ヒンジ又はCD8αヒンジをコードする核酸配列は配列番号9又は15;CD28膜貫通ドメイン又はCD8α膜貫通ドメインをコードする核酸配列は配列番号11又は17;CD28細胞内信号ドメイン、4-1BB細胞内信号ドメイン又はCD3ζ細胞内信号ドメインをコードする核酸配列は配列番号13,19又は21;で表されることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0062】
本発明はまた、前記核酸を含む発現ベクター及び前記発現ベクターを含むウイルスに関する。
【0063】
本発明の用語“ベクター”とは、他の核酸分子を転移又は輸送できる核酸分子を意味する。転移した核酸は、一般にベクター核酸分子に連結されるが、例えば、ベクター核酸分子内に挿入される。ベクターは、細胞における自律的複製を指示する配列を含んでもよく、宿主細胞DNA内への統合を可能にするのに十分な配列を含んでもよい。前記ベクターは、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター及びレトロウイルスベクターからなる群から選ばれることを特徴とし得るが、これに制限されない。
【0064】
本発明において、“ウイルス”とは、癌の治療などに用いるために、本発明のキメラ抗原受容体を発現させるように遺伝的に変形されたものを意味する。“遺伝的に変形された”とは、細胞において全体遺伝子材料にDNA又はRNAの形態で外部遺伝子材料を付加することを意味する。
【0065】
また、本発明は、前述した本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞を提供し、該免疫細胞は、T細胞、NK細胞又はNKT細胞であってよいが、これに限定されず、好ましくはT細胞である。
【0066】
したがって、本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞は、CAR-T細胞(Chimeric Antigen Receptor T Cell)、CAR-NK細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural Killer Cell)又はCAR-NKT細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural killer T Cell)であることを特徴とし得る。
【0067】
本発明において、前記T細胞は、細胞毒性Tリンパ球(Cytotoxic T lymphocyte;CTL);腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte;TIL)及び末梢血液単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell;PBMC)から分離したT細胞からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0068】
本発明の免疫細胞は、メソテリンを発現させる腫瘍細胞に対して毒性を示すものであり得る。一実施例によれば、本発明の免疫細胞(例えば、T細胞)が膵癌(Pancreatic cancer)細胞、子宮頸癌(Cervical cancer)細胞、中皮腫(Mesothelioma)細胞又は卵巣癌(Ovarian cancer)細胞に対して毒性を示すことができる。例えば、前記膵癌細胞、子宮頸癌細胞、中皮腫細胞又は卵巣癌細胞はメソテリンを発現させるものであってよい。
【0069】
また、本発明は、本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞(例えば、T細胞)を含む癌治療用組成物に関する。
【0070】
本発明において、“癌”と“腫瘍”は同じ意味で使われ、典型的に、調節されていない細胞の成長/増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的状態のことを指すか意味する。
【0071】
癌(又は腫瘍)の例は、癌腫、リンパ腫(例えば、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫及び白血病を含むが、これに限定されない。より好ましい癌の例は、扁平細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌腫、肺の扁平細胞癌腫、腹膜癌、肝細胞性癌、胃腸癌、膵癌、神経膠腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、結腸直膓癌、子宮内膜又は子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎癌、肝癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌腫、中皮腫、白血病及び他のリンパ球増殖性障害、及び種々の頭頸部癌を含む。本発明において、前記癌は、好ましくはメソテリン-陽性癌であり、膵癌、卵巣癌、肺癌、胃癌、子宮内膜癌及び中皮腫からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0072】
本発明の治療用組成物は、癌の予防又は治療のための組成物であり、本発明の用語、“予防”は、本発明の組成物の投与によって癌を抑制させたり或いは進行を遅延させるあらゆる行為を意味し、“治療”とは、癌の発展の抑制、症状の軽減又は除去を意味する。
【0073】
前記組成物には本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞の数が、治療対象内の腫瘍細胞(例えば、膵癌、子宮頸癌、中皮腫又は卵巣癌)数の1倍~10倍で含まれることが好ましいが、これに限定されない。
【0074】
本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞を含む薬学組成物には、薬剤学的に許容される賦形剤がさらに含まれてもよい。このような賦形剤の例には、界面活性剤、好ましくはポリソルベート系の非イオン性界面活性剤;中性緩衝塩水、リン酸塩緩衝塩水などの緩衝剤;グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトールなどの糖又は糖アルコール類;グリシン、ヒスチジンなどのアミノ酸、タンパク質、又はポリペプチド;抗酸化剤;EDTA又はグルタチオンなどのキレート剤;浸透剤;補助剤;及び保存剤が含まれてよいが、これに限定されない。
【0075】
本発明の一実施例によれば、本発明の薬学組成物は、1回投与量内に前記免疫細胞(例えば、T細胞)の数が治療対象内の前記腫瘍細胞、例えば膵癌細胞、子宮頸癌細胞、中皮腫細胞又は卵巣癌細胞数の1倍~10倍で含まれたものであり得る。
【0076】
また、本発明は、本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞を対象体に投与する段階を含む癌治療方法及び腫瘍転移の予防及び治療方法を提供する。
【0077】
本発明はまた、癌治療のための前記免疫細胞の用途に関する。
【0078】
本発明はまた、癌治療用薬剤の製造のための前記免疫細胞の使用に関する。
【0079】
前記対象体は腫瘍を持つ哺乳類でよく、具体的にはヒトであり得るが、これに限定されない。
【0080】
本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させる免疫細胞又はこれを含む組成物は、経口投与、注入(infusion)、静脈内投与(intravenous injection)、筋肉内投与(intramuscular injection)、皮下投与(subcutaneous injection)、腹腔内投与(intraperitoneal injectoon)、直腸内投与(Intrarectal administration)、局所投与(topical administration)、鼻内投与(intranasal injection)などで投与されてよいが、これに限定されない。
【0081】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲はこれらの実施例に例示したものに限定されない。
【0082】
実施例1:方法及び試薬
1.1 細胞株及び細胞株培養
ヒトT-系細胞株Jurkat、ヒト膵癌細胞株MIA PaCa2、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa、ヒト卵巣癌細胞株OVCAR3、ヒト膵癌細胞株CAPAN1、ヒト中皮腫細胞株NCI-H226は、ATCC(American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA)から入手して使用した。Jurkat及び形質転換されたJurkat細胞は、10% FBSを含有するRPMI-1640(GIBCO,Grand Island,NY,USA)で保持された。MIA PaCa2は、10% FBS(fetal bovine serum;GIBCO,Grand Island,NY,USA)を含有するDMEM(GIBCO,Grand Island,NY,USA)で保持された。HeLaは、10% FBS(GIBCO)を含有するDMEM(GIBCO)で保持された。OVCAR3は、20% FBS(GIBCO)を含有するRPMI-1640(GIBCO)で保持された。CAPAN1は、20% FBS(GIBCO)を含有するIMDM(ATCC)で保持された。NCI-H226は、10% FBS(GIBCO)を含有するRPMI-1640(GIBCO)で保持された。ヒト胚腎臓線維芽細胞(Human embryonic kidney fibroblast)であるHEK293T細胞株は、ATCCから入手して使用し、10% FBS(GIBCO,Grand Island,NY,USA)を含有するDMEM(GIBCO)で保持された。メソテリン過発現ヒト膵癌細胞株MIA PaCa2-MSLNは、MOGAM研究所(GC緑十字、Korea)から入手して使用した。MIA PaCa2-MSLNは、10% FBS(GIBCO)及び200ug/mlハイグロマイシンB(Hygromycin B)(GIBCO)を含有するDMEM(GIBCO)で保持された。
【0083】
1.2 ヒトT細胞分離及び培養
機関生命倫理委員会(Institutional review board,IRB,Korea)の承認下に供与者を募集し、末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell,PBMC)をフィコールハイパック(Ficoll-Hypaque,GE healthcare)で分離した。分離されたPBMCは直ちに凍結させた。解凍したPBMCは、陰性選択(Negative selection)方法でEasy sep(Stem cell,Vancouver,BC,CA)キット(Kit)でヒトT細胞を分離した。ヒトT細胞は、抗CD3/抗CD28マグネチックビーズ(CD3/CD28 Dynabead,GIBCO)と1:3に混ぜて20~24時間活性化させた。ヒトT細胞及び形質転換されたヒトT細胞は、5%ヒト血清(Sigma-aldrich,Missouri,St.Louis,USA)及び50IU/ml IL-2(Proleukin,Novartis)を含有するX-VIVO 15(LONZA,Basel,Switzerland)で保持された。
【0084】
1.3 組換えヒトメソテリンに対するscFvの結合確認
次の過程を経て、組換えヒトメソテリンに本発明に係るscFvが結合することを確認した。
(i)MS501 scFvタンパク質、MS503 scFvタンパク質及びC2G4 scFvタンパク質を96ウェル免疫プレートに200ng/mlで24時間コートした。
(ii)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、1% BSA(Bovine serum albumin,Sigma)溶液で1時間ブロッキング(Blocking)した。
(iii)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、100ng/mlの組換えヒトメソテリンタンパク質で2時間処理した。
(iv)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、組換えヒトメソテリン探知抗体(Detection antibody)を分析証明書にしたがって希釈してウェルに分注した後、1時間処理した。
(v)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、ストレプトアビジン-HRP(Streptavidin-HRP)で30分間処理した。
(vi)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、基質溶液(Substrate solution)で15分間処理した。
(vii)停止溶液(Stop solution)を処理し、450nm吸光度で測定した。
【0085】
1.4 メソテリン過発現細胞との結合確認
MS501 scFvタンパク質、MS503 scFvタンパク質及びC2G4 scFvタンパク質のメソテリン過発現細胞株であるMIA PaCa2-MSLNに対する結合の程度を確認した。MIA PaCa2-MSLN細胞株を1×105cells/100μlでFACS緩衝溶液に浮遊して準備した。MS501 scFvタンパク質、MS503 scFvタンパク質及びC2G4 scFvタンパク質をそれぞれ1μg処理した。細胞は、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞は、抗6xHisタグ抗体(Biolegend)で染色した。陽性対照群(positive control)試料は、抗メソテリン抗体(R&D system)で染色した。染色された細胞の発現比率及び平均蛍光強度(Mean fluorescence intensity,MFI)は、BD LSRFortessaを用いて測定し、FlowJoTMソフトウェアで分析した。
【0086】
1.5 キメラ抗原受容体構築
本発明のキメラ抗原受容体を作製するために、表1に記載の構成をSOE-PCR(Splicing by overlapping extension by polymerase chain reaction)によって人工的に合成した。さらにいうと、(1)細胞外ドメイン(extracellular domain);CD8αのシグナル配列(signal peptide)、scFv配列(MS501 scFv配列、MS503 scFv配列又はC2G4 scFv配列)、CD28のヒンジ(hinge)又はCD8αのヒンジ(hinge)、(2)膜貫通ドメイン(transmembrane domain);CD28、CD8αの膜貫通ドメイン、(3)細胞内ドメイン(intracellular domain);CD28、4-1BB、CD3ζの細胞内信号伝達ドメイン(intracellular signaling domain)はSOE-PCR(Splicing by overlapping extension by polymerase chain reaction)によって人工的に合成した。遺伝子組換え結果物は、直接配列分析(direct sequencing)で確認した。これらはNhe1及びEcoRIで切断された後、3世代自己不活性化レンチウイルス発現ベクター(third generation self-inactivating lentiviral expression vector)であるEF1α-MCSベクターのNhe1及びEcoRIサイトに挿入(ligation)された。
【0087】
本発明の実施例に係るキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)を表1に整理した。本発明の実施例に係る全てのCARのドメインは互いに直列に(in tandem)連結され、また、インフレーム(in frame)で連結されたものである。501(28H)28zは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS501 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD28由来のヒンジ、膜貫通ドメイン、細胞内信号伝達ドメイン(439-759ヌクレオチド、GenBank J02988.1);及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。503(28H)28zは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS503 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD28由来のヒンジ、膜貫通ドメイン、細胞内信号伝達ドメイン(439-759ヌクレオチド、GenBank J02988.1);及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。C2G4(28H)28zは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);C2G4 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD28由来のヒンジ、膜貫通ドメイン、細胞内信号伝達ドメイン(439-759ヌクレオチド、GenBank J02988.1);及びヒトCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。501(8H)Δは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS501 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD8αのヒンジ、膜貫通ドメイン(1292-1507ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6)と停止コドンTGAが連結されたものである。501(8H)zヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS501 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD8αのヒンジ、膜貫通ドメイン(1292-1507ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。501(8H)BBzは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS501 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD8αのヒンジ、膜貫通ドメイン(1292-1507ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6)とヒト4-1BB由来の細胞内信号伝達ドメイン(901-1026ヌクレオチド、GenBank NM 001561.5);及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。501(8H)28zは、ヒトCD8αのシグナル配列ドメイン(890-952ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);MS501 IgGのscFvドメイン(韓国出願番号:10-2015-0135755);ヒトCD8αのヒンジ(1292-1435ヌクレオチド、GenBank NM 001768.6);ヒトCD28膜貫通ドメイン、細胞内信号伝達ドメイン(556-759ヌクレオチド、GenBank J02988.1);及びCD3ζ由来の細胞内信号伝達ドメイン(299-634ヌクレオチド、GenBank NM 000734.3)と停止コドンTGAが連結されたものである。
【0088】
【0089】
本発明の実施例に係るキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)及びその製造に用いられたドメインの配列の情報を、表2及び表3に整理した。
【0090】
【0091】
【0092】
本発明の実施例に係るキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)の製造に用いられたscFv可変領域の重鎖、軽鎖、及びCDRの配列目録を表4及び表5に整理した。
【0093】
【0094】
【0095】
1.6 ウイルス生産及び遺伝子伝達
遺伝子伝達のために、293T細胞を用いて偽型VSVGレンチウイルス(pseudotype-VSVG Lentivirus)を製造した。HEK293T細胞は、10% FBS(GIBCO)を含有するDMEM(GIBCO)培地で培養した。HEK293T細胞は、pCDH1-MSCV-MSLN CARコンストラクト-EF1α-copGFPベクター、EF1α-MSLN CARコンストラクトベクター又はpCDH1-MSCV-EF1α-copGFP対照群ベクター;及びHIVベースpPACKH1レンチウイルスパッケージキット(System Biosciences)と共形質感染(co-transfected)された。ベクター伝達のためにリポフェクタミン2000(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用した。MSLN CARコンストラクトは次の通りである;501(28H)28z、503(28H)28z、C2G4(28H)28z、501(8H)Δ、501(8H)z、501(8H)BBz又は501(8H)28z。形質転換48時間後に、レンチウイルスを含有する細胞上澄液(Supernatant)を収穫した。上澄液は、0.45μmフィルターユニット(Millipore,Billerica,MA,USA)で細胞破片(cell debris)を除去した。10,600rpmで90分間、超遠心分離(ultracentrifugation)してウイルスを1,500倍濃縮した。濃縮されたウイルスは、-80℃で保管した。
【0096】
Jurkat細胞は、10%を含むRPMI-1640培地(GIBCO)を用いて5×105cells/ml濃度に調節し、5 MOI(Multiplicity of infection)又は10 MOIレンチウイルスを添加した。1,800g及び32℃で90分間遠心分離した。遠心分離後に、上澄液を取り除き、新しい培地(fresh media)に入れ換えた。その後、細胞は、37℃及び5% CO2条件の加湿インキュベーターに保管した。対照群細胞は、ベクターだけで形質導入された。
【0097】
ヒトT細胞は、5%ヒト血清(Sigma)及び50IU/ml IL-2(Novartis)を含有するX-VIVO15(LONZA)培地で5×105cells/ml濃度で浮遊させた。5 MOI又は10 MOIレンチウイルスを8μg/mlポリブレン(Polybrene,Santa Cruz)と共に添加した。1,800g及び32℃で90分間遠心分離した。遠心分離後に、上澄液を取り除き、新しい培地(fresh media)に入れ換えた。その後、細胞は、37℃及び5% CO2条件の加湿インキュベーターに放置した。対照群細胞は、ベクターだけで形質導入された。
【0098】
1.7 MSLN CARを含む受容体発現及びT細胞活性マーカー分析
501(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、503(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、C2G4(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、対照群ベクター形質導入されたJurkat細胞、及びJurkat細胞は、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞は、抗CD3(BD Biosciences)、抗F(ab)2(Jackson Immuno research)、抗CD69(BD)hAbsで染色した。染色された細胞の発現比率及び平均蛍光強度(Mean fluorescence intensity,MFI)は、BD LSRFortessaで測定し、FlowJoTMソフトウェアで分析された。
【0099】
501(28H)28z形質導入されたヒトT細胞、C2G4(28H)28z形質導入されたヒトT細胞、及び対照群ベクター形質導入されたヒトT細胞は、FACS緩衝液で2回洗浄した。細胞は、抗CD3(BD Biosciences)、抗F(ab)2(Jackson Immuno research)で染色した。染色された細胞の発現比率及び平均蛍光強度(Mean fluorescence intensity,MFI)は、BD LSRFortessaで測定し、FlowJoTMソフトウェアで分析した。
【0100】
1.8 MSLN CAR発現T細胞の標的細胞活性能確認
次の過程を経て、MSLN CAR発現T細胞の標的細胞、すなわち、メソテリンを発現させる癌細胞に対する活性能を確認した。
(i)標的細胞は、96ウェルプレートに1×104cells/wellで分配した。
(ii)効果細胞(501(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、503(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、C2G4(28H)28z形質導入されたJurkat細胞、対照群ベクター形質導入されたJurkat細胞、及びJurkat細胞)を収穫(harvest)し、RPMI-1640培地で洗浄した後、様々なE/T(effector-to-target)比率条件で添加した。
(iii)24時間後に、プレートは2,000rpmで3分間遠心分離し、100μLの上澄液を収集し、遠心分離された細胞は、FACS緩衝液で2回洗浄した後、活性マーカーを分析した。細胞毒性アッセイの完了した試料は、-20℃で保管した。
【0101】
1.9 カルセイン放出細胞毒性アッセイ
次の過程を経てMSLN CAR発現T細胞の細胞毒性を確認した。
(i)標的細胞は、10μMカルセインアセトキシメチルエステル(Calcein-acetoxymethyl ester,Calcein-AM;cell-permeant dye,Invitrogen)を用いて37℃で30分間標識(label)した。
(ii)洗浄後に、標識された標的細胞を96ウェルプレートに1×104cells/wellで分配した。
(iii)効果細胞(501(28H)28z形質導入されたヒトT細胞、C2G4(28H)28z形質導入されたヒトT細胞、及び対照群ベクター形質導入されたヒトT細胞)を収穫(harvest)し、RPMI-1640培地で洗浄した後、様々なE/T(effector-to-target)比率条件で添加した。
(iv)4時間後に、プレートを2,000rpmで3分間遠心分離し、100μLの上澄液を収集し、蛍光マイクロプレートリーダ(Victor3,PerkinElmer)で刺激波長485nm及び発光波長535nmでカルセイン放出を測定した。細胞毒性アッセイの完了した試料は、-20℃で保管した。
【0102】
1.10 サイトカイン測定のための酵素結合免疫沈降分析
-20℃で保管された上澄液においてサイトカイン測定のための酵素結合免疫沈降分析(Enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA,R&D systems)を行った。
(i)捕獲抗体(Capture antibody)を分析証明書(Certificate of Analysis,CoA)にしたがって希釈して96ウェルプレートに24時間コートした。
(ii)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、1% BSA(Bovine serum albumin,Sigma)溶液で1時間ブロッキング(Blocking)した。
(iii)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、試料を2時間処理した。
(iv)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、探知抗体(Detection antibody)を分析証明書にしたがって希釈してウェルに分注した後に2時間処理した。
(v)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、ストレプトアビジン-HRP(Streptavidin-HRP)で20分間処理した。
(vi)洗浄溶液でウェルを洗浄した後、基質溶液(Substrate solution)で20分間処理した。
(vii)停止溶液(Stop solution)を処理し、450nmで吸光度を測定した。
【0103】
1.11 異種移植マウスモデル確立及びMSLN CAR発現T細胞の抗腫瘍能力評価
生命倫理委員会(Institutional animal care and use committee,IACUC,GC緑十字、Korea)の承認下にインビボ(in vivo)を行った。6週齢雌NSG(NOD scid gamma)マウスは、The Jackson laboratory(Bar Harbor,Maine,United States)から入手して使用した。NCI-H226細胞は、PBS(Phosphate-buffered saline,GIBCO)に5×106cells/100μl濃度で浮遊させた。浮遊した細胞と同じ容量のマトリゲル基底膜マトリックス(Matrigel basement membrane matrix)(Corning,NY,United States)を添加した。マウスの右横腹にNCI-H226を5×106cells皮下注射した。
【0104】
腫瘍のサイズが200~250mm3に到達したとき、用意しておいた501(8H)Δ、501(8H)z、501(8H)BBz、501(8H)28z又は501(28H)28zで形質導入されたヒトT細胞を、腫瘍内に5日間隔で2回注射した。マウスは、グループ別10匹を使用した。CAR-T細胞が注射した後、2日~3日ごとに腫瘍のサイズと体重を測定した。各グループ別4匹は、最初の腫瘍内注射後20日目にIACUC規定に従う処置方法によって腫瘍組織を収穫(Harvest)した。収穫した腫瘍組織は、電子秤で重さを測定した。腫瘍組織を細かく切ってPBSで洗浄し、上澄液を、IFN-γサイトカインELISAに使用した。マウスは、最初に腫瘍内CAR-T細胞を注射してから60日間追跡観察し、腫瘍の長軸の長さが15mm以上の場合又は体重が20%以上減った場合、死亡したと見なした。
【0105】
実施例2:メソテリン特異的なCARを発現させるJurkat細胞及びヒトT細胞の癌免疫治療剤としての評価
2.1 メソテリンを特異的に標的するscFv評価
MS501 IgG、MS503 IgG及びC2G4 IgGは、既存の特許(MOGAM研究所、GC緑十字、KOREA)で発明され、メソテリン特異的な結合ができると知られている。本発明者らは、MS501 IgG、MS503 IgG及びC2G4 IgGをscFv形態で作製し、scFv形態においても組換えヒトメソテリンに結合することを免疫沈降分析で確認した(
図1A)。メソテリンを過発現させる細胞株に上記のscFvタンパク質を結合させ、流細胞分析によって、メソテリン過発現細胞株に68%以上結合することを確認した(
図1B)。
【0106】
2.2 メソテリン特異的なCARの発現確認と発現維持能評価
MS501 scFv、MS503 scFv及びC2G4 scFvはCD8αのシグナル配列;CD28のヒンジ、膜貫通ドメイン、細胞内信号伝達ドメイン;CD3ζの細胞内信号伝達ドメインと結合させた[表1](
図2A)。組み換えられたキメラ抗原受容体(501(28H)28z、503(28H)28z、C2G4(28H)28z)遺伝子は、MSCVプロモーターを有するレンチウイルスベクターによってJurkat細胞で発現した。使用されたレンチウイルス量は、10感染倍数(Multiplicity of infection,MOI)であった。各CARは、抗F(ab)2抗体を用いて検出された。流細胞分析により、Jurkat細胞でCARが55%以上の効率で形質導入されたことが確認された(
図2B)。2~3日に1回流細胞分析により、50日以上CAR発現が維持されたことを確認し、細胞外増殖にも、形質導入されたCAR遺伝子の発現が持続できることを立証した(
図2C)。
【0107】
2.3 メソテリン特異的なCARを発現させるJurkat細胞の活性増加
メソテリン(Mesothelin)は、中皮癌、子宮癌、膵癌などの癌腫で過発現し、癌の進行に関連するものと知られていることから、本発明者らは、メソテリンを標的するキメラ抗原受容体を発現させるJurkat細胞の抗癌効果活性の有無を試験した。試験に先立ち、形質導入されていないJurkat細胞(Untransduced)とベクターだけで形質導入されたJurkat細胞(Mock)において、T細胞を活性化させると知らされたPMA及びPHAを用いてJurkat細胞の活性を確認した。PMA及びPHAを処理したとき、Jurkat細胞の活性が増加した(
図3A)。
【0108】
メソテリン特異的なキメラ抗原受容体をコードする遺伝子を組み換え、レンチウイルスを用いて遺伝子をJurkat細胞に伝達した。501(28H)28z又はC2G4(28H)28z メソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞において、キメラ抗原受容体発現率が、503(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞に比べて優れていた(
図2C)。メソテリンの発現が高いと知らされたHeLa、OVCAR3及びCAPAN1細胞とキメラ抗原受容体が形質導入されたJurkat細胞を球培養し、本発明のメソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞の活性を評価した。メソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞から、T細胞活性マーカーであるCD69が発現することを確認し、特に、MS501とMS503メソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞から、CD69が高いレベルで発現した(
図3A)。また、標的細胞反応によるサイトカインも分泌することを確認したが、この場合、501(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞において最大量のサイトカインが分泌された(
図3B)。このことから、本発明のメソテリン特異的なキメラ抗原受容体を発現させるJurkat細胞のうち、MS501メソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞501(28H)28zが、MS503(28H)28z又はC2G4(28H)28z形質導入されたJurkat細胞に比べてより高い活性を示すことを確認した。
【0109】
本発明に係る3種のメソテリン受容体501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28z)を発現させるJurkat細胞のメソテリン特異的な活性を確認するために、MIA PaCa2細胞又はMIA PaCa2-MSLN細胞を、それぞれメソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞と共培養した後、活性を評価した。メソテリンを過発現させた細胞であるMIA PaCa2-MSLN細胞とメソテリン受容体が形質導入されたJurkat細胞を球培養後に、501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞において高いレベルでCD69が発現した。中でも特に、501(28H)28zと503(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞が、C2G4(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞と比較してより高いレベルでCD69を発現させた(
図4A)。また、サイトカイン分泌能を用いてJurkat細胞の活性を確認するために、IL-2の量をELISAで評価した。501(28H)28z、503(28H)28z又はC2G4(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞においてIL-2サイトカインが分泌されることを確認し、特に、501(28H)28zが形質導入されたJurkat細胞においてより多量のIL-2が分泌された(
図4B)。このことから、本発明のメソテリン受容体を発現させるJurkat細胞がメソテリンに特異的に活性を示すことを確認した。
【0110】
2.4 ヒトT細胞でメソテリン特異的なCARの発現確認評価
503(28H)28z形質転換されたJurkat細胞を501(28H)28z又はC2G4(28H)28z Jurkat細胞と比較したとき、MSLN CAR発現維持能に劣り(
図2C)、標的細胞と球培養したとき、活性マーカーの発現に比べてサイトカイン分泌能が不足することを確認した(
図3A及び
図3B)。本発明者らは、以降の実験では503(28H)28zを除外した。組み換えられたキメラ抗原受容体(501(28H)28z又はC2G4(28H)28z)遺伝子は、MSCVプロモーターを有するレンチウイルスベクターによってヒトT細胞で発現した。使用されたレンチウイルス量は5~10感染倍数(Multiplicity of infection,MOI)であった。各CARは、抗F(ab)2抗体を使用して検出した。流細胞分析により、ヒトT細胞でCARが80%以上の効率で形質導入されたことが確認された(
図5A)。
【0111】
2.5 メソテリン特異的なCARを発現させるヒトT細胞の抗癌能力評価
本発明に係る2種のメソテリンキメラ抗原受容体(501(28H)28z又はC2G4(28H)28z)を発現させるヒトT細胞のメソテリン特異的な抗癌能力を評価するために、MIA PaCa2細胞又はMIA PaCa2-MSLN細胞をそれぞれ、メソテリン受容体が形質導入されたヒトT細胞と球培養した後、標的細胞殺害能を評価した。メソテリン受容体を発現させるヒトT細胞がMIA PaCa2細胞に対して殺害能を示すことはなかったが、メソテリンを発現させるMIA PaCa2-MSLN細胞では殺害能が確認された(
図5B)。また、IFN-γサイトカイン分泌能から、メソテリンCARが形質転換されたヒトT細胞の活性を確認した(
図5C)。このことから、本発明のメソテリン受容体を発現させるヒトT細胞がメソテリン特異的に抗癌能を示すことを確認した。
【0112】
メソテリンの発現が高いと知らされたOVCAR3及びCAPAN1細胞と、本発明に係る2種のメソテリンキメラ抗原受容体(501(28H)28z又はC2G4(28H)28z)が形質導入されたヒトT細胞を球培養し、標的細胞殺害能を評価した。メソテリンキメラ抗原受容体を発現させるヒトT細胞がOVCAR3及びCAPAN1細胞に対して殺害能を有することが確認された(
図5B)。
【0113】
2.6 様々な組合せを有するメソテリン特異的なCARのスクリーニングとマウスモデルにおける癌免疫治療剤としての評価
C2G4(28H)28z形質転換されたヒトT細胞を501(28H)28zヒトT細胞と比較したとき、メソテリンを発現させる標的細胞に対する殺害能が不足することを確認した(
図5D)。本発明者らは、以降の実験ではC2G4(28H)28zを除外した。様々な組合せを有するメソテリン特異的なCAR候補群のスクリーニングのために、さらに、MS501 scFvに基づいてキメラ抗原受容体501(8H)Δ、501(8H)z、501(8H)BBz、501(8H)28z又は501(28H)28z遺伝子を組み換えた。[表1](
図6A)。組み換えられたCAR遺伝子は、EF1αプロモーターを有するレンチウイルスベクターによってヒトT細胞において発現した。使用されたレンチウイルス量は5~10感染倍数(Multiplicity of infection,MOI)であった。各CARは、抗F(ab)2抗体を用いて検出した。流細胞分析でCAR陽性比率を確認し、CAR陽性細胞数を計算した。
【0114】
NCI-H226細胞が異種移植(Xenograft)されたマウスの腫瘍サイズが200~250mm
3に到達した時、様々な組合せを有するメソテリン特異的なCARで形質転換されたヒトT細胞を腫瘍内注射し、マウスモデルにおける抗癌能力を2ヶ月間評価し、腫瘍内注射される前の腫瘍サイズに対比したサイズの増加及び減少を比率で示した(
図6B)。様々な組合せを有するメソテリン特異的なキメラ抗原受容体で形質転換されたヒトT細胞のうち、501(28H)28z構造のメソテリン特異的なキメラ抗原受容体で形質転換されたヒトT細胞を腫瘍内注射したとき、終了時点で腫瘍のサイズがPBS対照群に比べて270%減少したことを確認した。501(8H)28zグループと比較したとき、501(28H)28zグループで腫瘍サイズが150%減少することを確認した。CAR-T細胞を最初に腫瘍内注射して20日目に、各グループ別4匹から腫瘍組織を分離し、グループ別相対的な腫瘍組織の重さを比較した(
図6C)。501(28H)28zグループにおいて腫瘍の重さが他のグループと比較して最も軽いことを確認し、抗癌効果に優れていることを示した。また、腫瘍内IFN-γサイトカイン分泌能から、501(28H)28zで形質転換されたヒトT細胞の活性による抗癌効果を確認した(
図6D)。メソテリン特異的なCARで形質転換されたヒトT細胞を腫瘍内注射し、それによる副作用を体重変化で示した(
図6E)。CAR-T細胞注射後に副作用がないことを確認した。終了時点でマウスモデルの生存率を確認して示した(
図6F)。PBSグループ29%生存率;Mockグループ11%生存率;501(8H)Δグループ17%生存率;501(8H)zグループは0%生存率;501(8H)BBzグループは33%生存率;501(8H)28zグループは50%生存率を示すのに対し、501(28H)28zグループは100%生存率を示した。
【0115】
上の実験結果は、本発明がメソテリン特異的な癌免疫細胞治療剤として利用可能であり、本発明のメソテリンキメラ抗原受容体のうち、MS501メソテリン受容体を用いたT細胞がより優れた抗癌効果を示すことができ、特に、501(28H)28z構造を有するとき、優れた抗癌効果を示すことができるという事実を示す。。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係るキメラ抗原受容体は、メソテリン特異的な標的効率に優れる他、発現持続率にも優れるという長所があり、また、本発明に係るキメラ抗原受容体を発現させるT細胞は、癌細胞に対する細胞毒性に優れており、癌治療のための免疫細胞治療に有用に利用可能である。
【0117】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は好ましい実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されないという点が明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項及びそれらの等価物によって定義されると言えよう。
【配列表】
【国際調査報告】