(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】肺線維症の予防または治療用薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/538 20060101AFI20220308BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A61K31/538
A61P11/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543400
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(85)【翻訳文提出日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 US2020016491
(87)【国際公開番号】W WO2020163265
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アザラ,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】吉川 公平
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC74
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB21
(57)【要約】
有効成分として、式(I):
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、肺線維症の予防または治療用薬剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、肺線維症の予防または治療用薬剤。
【請求項2】
肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
線維症を伴う間質性肺疾患が、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される、請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
予防または治療有効量の式(I):
【化2】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、肺線維症の予防または治療方法。
【請求項5】
肺線維症の予防または治療用の、式(I):
【化3】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
肺線維症の予防または治療用薬剤の製造のための、式(I):
【化4】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月5日出願の米国仮出願第62/801,172号に対する優先権の利益を主張、該出願の開示の全体は、参照することにより本出願に組み込まれる。
技術分野
本発明は、肺線維症の予防または治療用薬剤、および肺線維症の予防または治療方法に関するものであり、医学の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2007/089034号には、1,4-ベンゾオキサジン化合物が記載されており、化合物(I)をMR拮抗薬として使用することが記載されている。また、国際公開第2018/062134号には、化合物(I)が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)等の治療に使用されることが記載されている。この刊行物の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の1つの態様は、以下の式(I):
【化1】
で表される化合物(以下、化合物(I)と称することができる)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、肺線維症の予防または治療用薬剤である。
【0004】
薬剤は、肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である肺線維症の予防または治療のためのものでありうる。
【0005】
薬剤は、肺線維症の予防または治療のためのものでありえ、線維症を伴う間質性肺疾患は、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される疾患である。
【0006】
本発明のにもう1つの態様は、有効成分として、以下の式(I):
【化2】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、ならびに薬学的に許容される担体を含む、肺線維症の予防または治療用医薬組成物である。
【0007】
医薬組成物は、肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である肺線維症の予防または治療用でありうる。
【0008】
医薬組成物は、肺線維症の予防または治療用でありえ、線維症を伴う間質性肺疾患は、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される疾患である。
【0009】
本発明のさらにもう1つの態様は、予防または治療有効量の以下の式(I):
【化3】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を、それを必要とする患者に投与することを含む、肺線維症の予防または治療方法である。
【0010】
方法は、肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である肺線維症の予防または治療用でありうる。
【0011】
方法は、肺線維症の予防または治療用でありえ、線維症を伴う間質性肺疾患は、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される疾患である。
【0012】
本発明のさらにもう1つの態様は、肺線維症の予防または治療用の以下の式(I):
【化4】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0013】
化合物またはその薬学的に許容される塩は、肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である肺線維症の予防または治療用でありうる。
【0014】
化合物またはその薬学的に許容される塩は、肺線維症の予防または治療用でありえ、線維症を伴う間質性肺疾患は、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される疾患である。
【0015】
本発明のさらにもう1つの態様は、肺線維症の予防または治療用薬剤の製造のための、以下の式(I):
【化5】
で表される化合物またはその薬学的に許容される塩の使用である。
【0016】
肺線維症が、線維症を伴う間質性肺疾患である、化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【0017】
線維症を伴う間質性肺疾患が、特発性肺線維症、疾患誘発性肺線維症および他の因子誘発性肺線維症からなる群から選択される、化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【0018】
添付の図面に関連して検討した場合、以下の詳細な説明を参照することにより同じことがより完全な理解が得られるので、本発明のより完全な理解およびそれに付随する利点の多くが容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で行われた深吸気量およびエラスタンスの評価の結果を示す。
【
図2】実施例1で行われた肺コンプライアンスおよびレジスタンスの評価の結果を示す。
【
図3】実施例1で行われたヒドロキシプロリン含有量およびピクロシリウスレッド染色の陽性率の評価の結果を示す。
【
図4】実施例1で行われたコラーゲン遺伝子発現の評価の結果を示す。
【
図5】実施例1で行われたαSMA、フィブロネクチンおよびビメンチン遺伝子発現の評価の結果を示す。
【
図6】実施例1で行われたCTGF、PAI-1およびCcl2遺伝子発現の評価の結果を示す。
【
図7】実施例1で行われたTGFβ遺伝子発現の評価の結果を示す。
【
図8】実施例1で行われた血漿中の化合物(I)の濃度の評価の結果を示す。
【
図9】実施例2で行われた深吸気量およびレジスタンスの評価の結果を示す。
【
図10】実施例2で行われたエラスタンスおよびコンプライアンスの評価の結果を示す。
【
図11】実施例2で行われたヒドロキシプロリン含有量およびピクロシリウスレッド染色の陽性率の評価の結果を示す。
【
図12】実施例2で行われた血漿中の化合物(I)の濃度の評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付の図面を参照して実施態様を説明するが、ここで、同様の参照番号は、さまざまな図面全体で、対応するか、または同一の要素を示す。
【0021】
本明細書において、標的疾患である「肺線維症」の例は、「線維症を伴う間質性肺疾患」である。また、本明細書では、生体内で発生するすべての「線維」を「線維」と表現する。「線維症を伴う間質性肺疾患」の例には、「特発性肺線維症(IPF)」、「疾患誘発性肺線維症」および「他の因子誘発性肺線維症」が含まれる。ここで、「特発性肺線維症」とは、原因が特定できない肺線維症を意味する。「疾患誘発性肺線維症」という用語は、肺線維症に属する疾患に関連して発生する肺線維症を意味する。たとえば、「疾患誘発性肺線維症」は、線維症が、過敏性肺炎(HP)、関節リウマチ関連間質性肺疾患(RA-ILD)、全身性強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)、多発性筋炎/皮膚筋炎関連間質性肺疾患(PM/DM-ILD)、シェーグレン症候群関連間質性肺疾患(Sjogren's ILD)、全身性エリテマトーデス関連間質性肺疾患(SLE-ILD)、混合結合組織疾患関連間質性肺疾患(MCTD-ILD)、コラーゲン疾患関連間質性肺疾患(CTD-ILD)、肺サルコイドーシスなどから発症した肺線維症である。
【0022】
「他の因子誘発性肺線維症」は、たとえば、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)、無機物質への暴露、有機物質への暴露、薬物または喫煙などによって引き起こされ、線維症が発症している肺疾患である肺線維症である。
【0023】
本明細書において、「治療」という用語は、疾患(すべての病的状態または1つまたは複数の病的状態)の治癒、疾患の改善、および疾患の重症度の進行の抑制を含む。「治療有効量」という用語は、そのような目的を達成するのに十分な化合物(I)の投与量を意味する。
【0024】
本明細書の治療薬は、予防薬として使用することもできる。「予防」という用語は、疾患(すべての病的状態または1つまたは複数の病的状態)の発症の予防および疾患の発症の遅延を含む。「予防有効量」という用語は、そのような目的を達成するのに十分な化合物(I)の投与量を意味する。
【0025】
化合物
本発明の化合物(I)は、国際公開番号2007/089034(実施例9)に記載されている化合物である。当業者は、刊行物に記載の方法またはそれに準拠する方法を使用して化合物(I)を製造することができる。
【0026】
本実施態様を実施するにあたり、化合物(I)は、遊離型またはその薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。
【0027】
本明細書では、化合物(I)のこのような薬学的に許容される塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩などの無機酸との塩、ならびに酢酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシル酸塩、およびマレイン酸塩などの有機酸との塩;ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩ならびにカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などの塩基との塩;グリシン塩、リシン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸との塩;などの塩が含まれる。
【0028】
化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、分子内塩またはその付加物を含み、また、その溶媒和物または水和物を含む。
【0029】
さらに、化合物(I)における結晶多形の存在が知られている(国際公開番号2014/024950を参照のこと)。したがって、本発明において、有効成分としての化合物(I)は、そのような結晶多形に基づく任意の結晶形態で使用することができる。
【0030】
医薬製剤
本発明を実施するにあたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩(以下、これらを総称して「本発明の化合物」と呼ぶことができる)は、単独の形態または本発明の化合物を有効成分として薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物の形態で使用することができる。
【0031】
このような医薬組成物の例には、錠剤、丸薬、粉末、顆粒、カプセルおよび乳濁液が含まれる。
【0032】
本明細書では、「薬学的に許容される担体」として、製剤技術の分野で一般的に使用されるさまざまな担体を使用することができる。
【0033】
「薬学的に許容される担体」の具体例として、たとえば、固体医薬製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、および崩壊剤を使用することができる。
【0034】
液体医薬製剤においては、ビヒクル、溶解助剤、懸濁剤、等張剤、および緩衝剤を使用することができる。
【0035】
必要に応じて、防腐剤などの他の必要な添加剤を混ぜ合わせてもよい。
【0036】
本発明の医薬組成物は、剤形、投与方法、担体などにより異なるが、本発明の化合物を、製剤の総量に対して、通常0.01~99%(w/w)、好ましくは0.1~85%(w/w)の量で添加することにより製造することができる。医薬組成物は、その形態に応じて、製剤技術の分野で一般的に使用される方法を使用して製造することができる。本発明の医薬組成物は、有効成分を含む徐放性製剤に成形することができる。
【0037】
上記において、本発明の化合物および本発明の医薬組成物が記載されている。本発明の化合物および本発明の医薬組成物は、以下の優れた効果を有することが期待される。
【0038】
たとえば、スピロノラクトンまたはエプレレノンなどのステロイド系MR拮抗薬を使用する場合、重篤な副作用(たとえば、女性化乳房、生理不順、勃起不全など)が懸念される。しかしながら、本発明の化合物および本発明の医薬組成物については、そのような重篤な副作用の懸念はほとんどなく、したがって、本発明の化合物および本発明の医薬組成物は、薬剤として高い安全性を有することができる。
【0039】
さらに、エプレレノンは主にCYP3A4によって代謝されるため、強力なCYP3A4阻害剤との併用は禁忌である。しかしながら、本発明の化合物の場合、代謝経路が異なるため、本発明の化合物は、そのような制限を受けず、広範囲の他の薬物と組み合わせて使用することができる。したがって、本発明の化合物および本発明の医薬組成物は、臨床診療において非常に有用である。
【0040】
さらに、本発明の化合物および本発明の医薬組成物は、血漿中の一定の薬物レベルを長期間維持することができ、したがって、低用量でも持続的な効果を発揮することができるという薬物動態の観点からの特徴を有する。したがって、この観点からも、本発明の化合物および本発明の医薬組成物は、毒性が低く、安全性が高い薬剤として使用することができる。
【0041】
投与される対象
上記のように、本発明の化合物は、毒性が低く、副作用が少ないことが期待され、また、薬剤としても優れた特性を有する。したがって、本発明の化合物は、哺乳動物(特にヒト)に安全に投与することができる。
【0042】
投与経路
本発明の実施にあたり、本発明の化合物は、独立して、または医薬組成物として、経口または非経口的に投与することができる(たとえば、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、眼科、脳内、直腸内、膣内および腹腔内投与、ならびに病変への投与)。
【0043】
投与量
本発明の化合物の投与量は、投与される対象、投与経路、投与される対象の年齢および症状に応じて変化するが、特に限定されない。たとえば、本発明の化合物を成人の肺線維症患者(体重約40~80kg、たとえば、60kg)に経口投与する場合、1日あたりの投与量は、たとえば、1~30mg、好ましくは1~25mg、さらにより好ましくは2.5~25mg、特に好ましくは7.5~25mgである。この量を、1日1~3回の投薬スケジュールで投与することができる。
【0044】
他の薬物との併用
上記のように、本発明の化合物は毒性が非常に低く、肺線維症の予防または治療において他の薬剤と併用することができ、他の薬剤と組み合わせることによる優れた予防および/または治療効果を期待することができる。さらに、そのような併用療法は、他の薬物の用量を減らし、他の薬物の副作用を減らすことを期待することができる。
【0045】
本発明の化合物と併用することができるこのような薬物(以下、併用薬と略記する)の例には、ステロイド薬(たとえば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなど)、免疫抑制剤(たとえば、シクロホスファミド、シクロスポリンなど)、および抗線維化剤(たとえば、ニンテダニブ、ピルフェニドンなど)が含まれる。
【0046】
実際の併用療法では、患者の疾患の種類、その症状の重症度などを考慮して、併用薬を適切に選択することができる。
【0047】
本発明の併用薬の剤形は特に限定されるものではなく、本発明の化合物と併用薬は投与時に組み合わせることができる。たとえば、併用薬は次のような形で使用することができる:(1)本発明の化合物と併用薬を組み合わせた医薬製剤の投与;(2)本発明の化合物と併用薬を別々に製剤化することにより得られる2種類の製剤の同じ投与経路での同時または別々の投与;および(3)本発明の化合物と併用薬を別々に製剤化することにより得られる2種類の製剤の異なる投与経路での同時または別々の投与。臨床診療の実情に応じて、好ましい形態を適切に選択することができる。
【0048】
本発明の化合物と併用薬とを組み合わせて含む製剤は、本発明の化合物を含む上記医薬組成物に従って、当業者が適切に製造することができる。
【0049】
併用薬の投与量は、臨床的に使用される投与量に基づいて適切に選択することができる。また、本発明の化合物と併用薬との配合比は、投与される対象の疾患および症状、投与経路、使用される併用薬の種類などに応じて、適切に選択することができる。通常、配合比は、使用される併用薬の一般的な臨床投与量に基づいて、臨床診療の実際の状況に応じて適切に決定することができる。
【0050】
実施例
以下では、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、特に明記しない限り、本発明で使用される試薬、装置および材料は、市販されているか、または当業者によって適切に調製することができる。
【実施例1】
【0051】
ブレオマイシン気道内投与誘発マウス肺線維症モデル(1)における抗線維化作用
(1)試験方法
C57/BL6NTACマウス(雄;試験開始時の体重:25g)(ジャクソン研究所によって製造された)を、以下の4つのグループ(各グループに12匹のマウス)にグループ化した:
グループ1:正常グループ
グループ2:薬物投与なしグループ(対照グループ)
グループ3:薬物(化合物(I))投与グループ
グループ4:薬物(エプレレノン;陽性対照)投与グループ
【0052】
試験開始日(第0日)に、試験グループとして、グループ2~4のマウスにブレオマイシン(3.25U/kg)を気道から滴下投与した。正常グループとして、グループ1のマウスにブレオマイシンの代わりに生理食塩水を気道から滴下投与した。試験開始後7日目(第7日)に、午前と午後に1日2回の投与スケジュールで、グループ1および2のマウスに対して、ビヒクル(0.1% HCO60+0.5% CMC)の強制経口投与(午前と午後の2回)を開始した;化合物(I)の2mg/ml溶液を調製し、グループ3のマウスに対して、10mg/kgの用量でのその強制経口投与(午前)およびビヒクル(0.1% HCO60+0.5% CMC)の強制経口投与(午後)を開始した;そして、グループ4のマウスに対して、50mg/kgの用量でのエプレレノンの強制経口投与(午前と午後の2回)を開始した。その後、試験開始後21日目(第21日)まで、同じ投与スケジュールで投与を継続した。投与終了後(第21日)、以下の評価項目を検討した。
【0053】
a)肺機能の評価
以下の評価項目を、市販の呼吸および肺機能評価システム(測定部位:気道周辺)を用いて測定した。以下の4項目の評価:1)深吸気量(mL);2)コンプライアンス(mL/cmH2O);3)エラスタンス(cmH2O/mL);および4)レジスタンス(cmH2O.s/mL)。
【0054】
「深吸気量」は、ゆっくりと息を吐き出し、息を切らしたときの段階で肺から排出される空気の量に対応し、肺の容積の指標である。肺線維症が進行して肺が硬化すると、肺の容積が縮小し、深吸気量が低下する。
【0055】
「コンプライアンス」は、特定の圧力変化による肺活量の変化を示す。コンプライアンスが大きいということは、単位圧力の変化に対して肺の体積の変化が大きいことを意味し、肺が伸びやすいことを示す。肺線維症が進行し、肺が硬化すると、肺の容積が縮小し、コンプライアンスが低下する。
【0056】
「エラスタンス」は、コンプライアンスの逆数で表される値であり、肺が伸びにくいことを表す指標である。肺線維症が進行し、肺が硬化するにつれて、エラスタンスが増加する。
【0057】
「レジスタンス」は、気道抵抗を意味する。レジスタンスは、呼吸中の気流が受ける抵抗であり、レジスタンスが大きいほど、気道を空気が流れにくくなる。
【0058】
b)肺の病理組織の評価
(i)ピクロシリウスレッド染色による評価(左肺葉)
肺線維症は、活性化された線維芽細胞が線維症部位に蓄積され、I型コラーゲンが大量に産生されることによって引き起こされる。したがって、肺組織におけるコラーゲン蓄積の程度に基づいて、肺線維症の程度を評価することができる。組織内のI型コラーゲンとIII型コラーゲンは、ピクロシリウスレッド染色で染色される。したがって、コラーゲン蓄積の状況を画像診断することができ、染色陽性率を計算することによって定量的評価を行うこともできる。
【0059】
具体的には、上記の染色を肺の組織切片に対して行い、染色部位(線維症部位)の面積を測定し、評価した。
【0060】
(ii)ヒドロキシプロリン含有量(μg)の評価(下肺葉および中肺葉)
ヒドロキシプロリンは、コラーゲンの主成分であり、他のタンパク質には実質的に存在しない。したがって、組織中のヒドロキシプロリンの含有量を測定することにより、コラーゲンの量を評価することができる。
【0061】
(iii)肺線維症に伴う遺伝子発現変動の評価(mRNAの定量化;増加倍数)(上肺葉)
従来の方法にしたがって、ホモジナイズした上肺葉からmRNAを抽出し、リアルタイムPCRシステムを用いてごく少量のmRNAを定量した。
【0062】
c)血液サンプルの評価
化合物(I)の最終投与(第21日)から2時間(上記評価前)および18時間の時点で、麻酔下で尾静脈から少量の血液を採取し、血漿を冷却遠心分離により分離し、従来の方法を使用して血漿中の化合物(I)の濃度(nM)を測定した。
【0063】
(2)試験結果
a)肺機能の評価
試験結果を
図1および2に示す。
図1に示すように、ブレオマイシンは深吸気量を低下させ、エラスタンスを増加させた(グループ2)。エプレレノンは、ブレオマイシンによる肺機能のそのような低下を有意に改善した(グループ4)。
【0064】
対照的に、化合物(I)はまた、すべての肺機能を有意に改善する効果を示し、特に深吸気量は、エプレレノンの効果を超える程度に有意に改善されることが見出された(グループ3)。
【0065】
図2に示すように、ブレオマイシンは肺コンプライアンスを低下させ、レジスタンスを増加させた(グループ2)。エプレレノンは、ブレオマイシンによる肺機能のそのような低下を有意に改善した(グループ4)。
【0066】
対照的に、化合物(I)はまた、すべての肺機能を有意に改善する効果を示し、特にレジスタンスは、エプレレノンの効果を超える正常グループのレベルにまで非常に有意に改善されることが見出された(グループ3)。
【0067】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、肺機能の観点から、エプレレノンと比較しても肺線維症に対して優れた改善効果を有することが確認された。
【0068】
b)肺の病理組織の評価
(i)ピクロシリウスレッド染色(左肺葉)による評価および(ii)ヒドロキシプロリン含有量(μg)の評価(下肺葉および中肺葉)
試験結果を
図3に示す。
下肺葉および中肺葉のヒドロキシプロリン含有量(ヒドロキシプロリン;μg)の増加ならびに左肺葉のピクロシリウスレッド染色の陽性率(PSR陽性%)の増加によって示されるように、ブレオマイシンは、肺のコラーゲン蓄積を増加させた(グループ2)。ブレオマイシンによるそのような線維症は、エプレレノンによって有意に改善された(グループ4)。
【0069】
対照的に、化合物(I)はまた、すべての評価項目において肺線維症を有意に改善する効果を示し、特に肺組織のヒドロキシプロリン含有量は、エプレレノンの効果を超える程度に有意に改善されることが見出された(グループ3)。
【0070】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、組織病理学的な観点からも、エプレレノンと比較しても肺線維症に対して優れた改善効果を有することが確認された。
【0071】
(iii)肺線維症に関連する遺伝子発現変動の評価
試験結果を
図4~7に示す。肺線維症に関連する遺伝子発現変動を評価することにより、化合物(I)の治療効果および予防効果を予測することができる。
【0072】
ブレオマイシンは、I型コラーゲン、III型コラーゲン、およびIV型コラーゲンの遺伝子発現を増加させた。エプレレノンはこれらの遺伝子発現を減少させることができなかった。
【0073】
対照的に、化合物(I)はこれらの遺伝子発現を有意に減少させた(
図4)。以上のことから、本試験において、肺線維症に直接関与するコラーゲン産生を制御する観点からも、化合物(I)は、エプレレノンと比較しても、肺線維症に対して優れた改善効果を有することが確認された。
【0074】
ブレオマイシンは、αSMA遺伝子発現をわずかに増加させた。エプレレノンは、この遺伝子発現を減少させることができなかった。対照的に、化合物(I)は、この遺伝子発現を有意に減少させた(
図5-1)。
【0075】
ブレオマイシンは、フィブロネクチン遺伝子およびビメンチン遺伝子の発現を有意に増加させた。エプレレノンは、ブレオマイシンと比較して、これらの遺伝子発現を有意に減少させた。
【0076】
対照的に、化合物(I)は、これらの遺伝子発現を有意に減少させた(
図5-2および5-3)。
【0077】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、肺線維症に関与するαSMA、フィブロネクチンおよびビメンチンの遺伝子発現に関して優れた制御能力を有することが確認された。
【0078】
ブレオマイシンは、CTGF、PAI-1およびCcl2の遺伝子発現を有意に増加させた。エプレレノンは、ブレオマイシンと比較して、これらの遺伝子発現を有意に減少させた。
【0079】
対照的に、化合物(I)はこれらの遺伝子発現を有意に減少させた(
図6-1~6-3)。
【0080】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、肺線維症に関与するCTGF、PAI-1およびCcl2の遺伝子発現に関して優れた制御能力を有することが確認された。
【0081】
ブレオマイシンは、TGFβの遺伝子発現に影響を与えなかった。エプレレノンは、遺伝子発現を増加させる傾向を示したが、化合物(I)は、遺伝子発現を減少させる傾向を示した(
図7)。
【0082】
c)血液サンプルの評価
試験結果を
図8に示す。
最終投与の2時間および18時間後に、血漿中の十分な濃度の化合物(I)が検出された。
【0083】
このような血中動態の所見は、化合物(I)の投与後に十分な血中曝露が得られることを示し、肺線維症薬としての化合物(I)の有用性を示す。
【0084】
これらの結果は、化合物(I)がエプレレノンと同等か、またはそれ以上の肺線維症の予防的または治療的効果を有することを示す。
【実施例2】
【0085】
ブレオマイシン皮下持続注入誘発マウス肺線維症モデル(2)における抗線維化作用
(1)試験方法
試験開始日(第0日)に、麻酔下、各C57/BL6NTACマウス(雄性、試験開始時体重25~30g)(Taconic Biosciences Ltd.製)の腹腔内にALZET 1007Dポンプ(その中に、ブレオマイシン:100U/kg、または生理食塩水:100μlを保存)(ALZET製)を埋め込み、試験グループ(48匹のマウス)へのブレオマイシンの投与を開始し、一方で、正常グループ(24匹のマウス)(グループ1)への生理食塩水の投与を開始し、その後、7日間投与を継続した(流速:0.5μl/時)(ポンプは、試験開始後10日目(第10日)に除去した)。
試験グループのマウスの体重を毎日測定し、試験開始後7日目(第7日)に、指標として体重の減少量を用い、試験グループのマウスを以下のように無作為にグループ化した。
【0086】
グループ2:薬物投与なしグループ(対照グループ)(12匹のマウス)
グループ3:薬物(化合物(I)、3mg/kg)投与グループ(12匹のマウス)
グループ4:薬物(化合物(I)、10mg/kg)投与グループ(12匹のマウス)
グループ5:薬物(化合物(I)、30mg/kg)投与グループ(12匹のマウス)
【0087】
試験開始後8日目(第8日)から、正常グループであるグループ1、薬物投与なしグループであるグループ2に、ビヒクル(体重10gあたり0.1ml)の強制経口投与を開始し、一方で、グループ3~5の薬物投与グループのマウスへの所定用量の化合物(I)の強制経口投与を開始した(全グループについて、午前に1日1回)。その後、試験開始後21日目(第21日)まで投与を継続した。投与完了後、以下の項目を評価した。
【0088】
a)肺機能の評価
1)深吸気量(mL);2)コンプライアンス(mL/cmH2O);3)エラスタンス(cmH2O/mL);および4)レジスタンス(cmH2O.s/mL)を含む4項目の評価
【0089】
b)肺の病理組織の評価
i)ピクロシリウスレッド染色による評価(左肺葉)
ii)ヒドロキシプロリン含有量(μg)の評価(右肺葉)
【0090】
c)血液サンプルの評価
最終投与(第21日)後2時間(上記の評価前)および24時間における血漿中の化合物(I)の濃度(nM)の評価(実施例1と同様、尾静脈血液サンプリングによって得られた血液サンプルを評価した。)
【0091】
(2)試験結果
a)肺機能の評価
試験結果を
図9および10に示す。
図9に示すように、ブレオマイシンは深吸気量を減少させ、レジスタンスを増加させた(グループ2)。対照的に、10mg/kgおよび30mg/kgの用量の化合物(I)は、深吸気量を有意に改善し(グループ4および5)、30mg/kgの用量の化合物(I)は、レジスタンスを有意に改善した(グループ5)。
【0092】
図10に示すように、ブレオマイシンは、エラスタンスを増加させ、コンプライアンスを減少させた(グループ2)。化合物(I)は、用量依存的に2つの項目の肺機能におけるブレオマイシンのそのような減少を有意に改善した(グループ3~5)。
【0093】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、肺機能の観点から、用量依存的に肺線維症に対して優れた改善効果を有することが確認された。
【0094】
b)肺の病理組織の評価
試験結果を
図11に示す。
右肺葉のヒドロキシプロリン含有量の増加および左肺葉のピクロシリウスレッド染色の陽性率の増加によって示されるように、ブレオマイシンは肺のコラーゲン蓄積を増加させた(グループ2)。対照的に、3mg/kgおよび30mg/kgの用量の化合物(I)は、ヒドロキシプロリン含有量を有意に減少させ(グループ3および5)、すべての用量の化合物(I)は、ピクロシリウスレッド染色の陽性率を有意に減少させた(グループ3~5)。
【0095】
以上のことから、本試験において、化合物(I)は、組織病理学的な観点からも、用量依存的に肺線維症に対して優れた改善効果を有することが確認された。
【0096】
c)血液サンプルの評価
試験結果を
図12に示す。
最終投後2時間で、化合物(I)は、血漿中に用量依存的な濃度を示した。最終投与後24時間で、30mg/kgの用量の化合物(I)について、血漿中に十分な濃度が検出された。
【0097】
このような血中動態の所見は、用量に応じた血中の化合物(I)の曝露が得られることを示し、肺線維症薬としての化合物(I)の有用性を示す。
【0098】
これらの結果は、化合物(I)が用量依存的効果を有することを示し、肺線維症薬としての化合物(I)の有用性を示す。
【0099】
肺線維症は、主に肺の進行性線維症であり、拘束性換気障害を引き起こす肺疾患である。肺線維症は、肺間質の炎症が繰り返されることにより、肺胞上皮細胞の継続的な損傷に対する異常な損傷修復反応が繰り返されることが原因と考えられている。
【0100】
感染症、膠原病、放射線、薬物、ほこりなど、肺間質の炎症の原因が特定することができる場合と、原因を特定することができない場合がある。しかしながら、炎症を起こした組織が線維化すると、肺線維症に進行する。ここで、原因を特定することができない肺線維症を特発性肺線維症という。特発性肺線維症はまた、頻繁に起こり、予後不良であり、50歳以上の成人に発症することが多く、肺に不可逆性線維症を引き起こし、呼吸機能を低下させることにより致命的である。
【0101】
肺線維症の治療には、一般的にステロイド薬および免疫抑制剤が使用されてきた。しかしながら、特に特発性肺線維症では、ステロイド薬または免疫抑制剤を長期間使用すると、線維症がかなり悪化するという所見が蓄積されている。さまざまな原因があるか、または原因が不明である肺線維症については、一般的に肺線維症の治療に広く推奨することができる薬物治療はない。
【0102】
近年、特発性肺線維症治療薬の新型として、抗線維化薬(たとえば、ピルフェニドン、ニンテダニブなど)が市販されている。しかしながら、どちらの薬にも強い副作用があるという問題がある。たとえば、ピルフェニドンに関しては、光への曝露による皮膚の発がんの可能性を考慮して薬物を使用する必要があり、この重篤な疾患の治療選択肢は実際にはまだ制限がある。一方、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)であるスピロノラクトンは、ブレオマイシン誘発肺線維症マウスの組織線維症の指標であるヒドロキシプロリンの蓄積を改善することが報告されている(European Journal of Pharmacology、718 (2013)、290-298;PLOS ONE、8 (11) (2013)、e81090;およびNanomedicine (Lond.)、11 (11) (2016)、1393-1406を参照)。しかしながら、ステロイド薬による女性化乳房などの副作用が懸念されており、ヒトの肺線維症(特に特発性肺線維症)に対する臨床的有用性は不明である。
【0103】
以上のように、肺線維症の有効な治療法は現在十分に確立されておらず、安全性と治療効果の高い新薬の開発による治療法の早期確立が強く望まれている。
【0104】
国際公開第2007/089034号には、本発明の化合物(I)を含有する1,4-ベンゾオキサジン化合物が記載されており、化合物(I)をMR拮抗薬として使用することが記載されている。また、国際公開第2018/062134号には、化合物(I)が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの治療に使用されることが記載されている。しかしながら、本発明の化合物(I)の肺線維症への適用について具体的に言及している文献はない。
【0105】
上記のように、肺線維症の薬物治療はまだ十分に確立されておらず、新しい予防薬または治療薬の開発は、薬物療法の技術分野において緊急の課題である。
【0106】
本発明によれば、有効成分として化合物(I)を含み、肺線維症の予防または治療に効果的かつ安全に使用することができる薬剤を提供することができる。
【0107】
特に断りのない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0108】
本発明は、有効成分として化合物(I)を含み、肺線維症の予防または治療に効果的かつ安全に使用することができる新規な薬剤を提供する。
【0109】
明らかに、上記の教示に照らして、本発明の多数の修正および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施されうることが理解されるべきである。
【国際調査報告】