(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(54)【発明の名称】メタロセンを製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 13/465 20060101AFI20220308BHJP
C07F 17/00 20060101ALI20220308BHJP
C07F 7/00 20060101ALI20220308BHJP
C08F 4/6592 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C07C13/465
C07F17/00
C07F7/00 A
C08F4/6592
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543423
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(85)【翻訳文提出日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2020051914
(87)【国際公開番号】W WO2020156998
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518409173
【氏名又は名称】ランクセス・オルガノメタリックス・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・マウス
(72)【発明者】
【氏名】ビアンカ・ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】トルシュテン・ホルトリヒター-レシュマン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H049
4H050
4J128
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB40
4H006AB82
4H049VN06
4H049VP01
4H049VQ12
4H049VR22
4H049VR32
4H049VS12
4H049VU13
4H049VV02
4H049VV16
4H049VW01
4H049VW02
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050BB11
4H050BB25
4H050WB11
4H050WB17
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC28
4J128AD06
4J128AD13
4J128BA01B
4J128BB01B
4J128BC43B
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB03
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA02
4J128FA04
(57)【要約】
本発明は、一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセンを調製するための改良されたプロセス、さらには上記メタロセンの合成において有用な中間体、並びにオレフィンの重合における触媒としてのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A)のメタロセンを調製するためのプロセスであって、
CR
2L
2MX
2 (A)
(a)一般式(B)の(C=O)R
2の対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトンと、配位子Lとを、アルカリ金属アルコキシドのM
1OR
1の存在下に反応させて、一般式(C)のCR
2L
2の化合物を形成させるステップ;及び
(b)前記化合物(C)のCR
2L
2と、金属ハライドのMX
4とを、脱プロトン化剤の存在下に反応させるステップ;
(式中、
Rは、個々に、C
1~C
8アルキル、シクロアルキル、又はフェニル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、又はフェニル、より好ましくはメチル又はフェニルであり、
R
1は、C
1~C
20アルキル、好ましくはC
1~C
6アルキル、より好ましくはメチル又はエチルであり、
Lは、個々に、非置換のインデニル、置換されたインデニル、非置換のベンゾインデニル、置換されたベンゾインデニル、好ましくは非置換のインデニル又は非置換のベンゾインデニル、より好ましくは非置換のインデニルであり、
Mは、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、又はランタニド、好ましくはジルコニウム又はハフニウム、より好ましくはジルコニウムであり、
M
1は、アルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウム、より好ましくはナトリウムであり、そして
Xは、ハロゲン、好ましくは塩素又は臭素、より好ましくは塩素である)
のステップを含む、プロセス。
【請求項2】
前記ケトン(B)が、対称形のケトンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ケトン(B)が、アセトン、ベンゾフェノン、アセトベンゾフェノン、又はシクロヘキサノン、好ましくはアセトン又はベンゾフェノンである、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルカリ金属アルコキシドが、アルカリ金属メトキシド又はアルカリ金属エトキシド、好ましくはナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシド、より好ましくはナトリウムメトキシドである、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記反応ステップ(a)が、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシド、好ましくはDMSOの中で実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記反応(a)が、0~40℃、より好ましくは0~25℃、さらにより好ましくは5~15℃の温度で、10分~30分の時間をかけて実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応ステップ(a)が、いかなる相間移動触媒も存在させずに実施される、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応(b)が、溶媒としての、テトラヒドロフラン、メチル-tert-ブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル、tert-アミルメチルエーテル又はジイソプロピルエーテルの中、又はテトラヒドロフランとヘキサンとの混合物の中で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応(b)が、-5~-15℃の温度で、30分~5時間の時間をかけて実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
(a)ナトリウムメトキシドの存在下に、アセトンと非置換のインデンとを反応させて、2,2-ビスインデニルプロパンを形成させるステップ;及び
(b)n-BuLiの存在下に、2,2-ビスインデニルプロパンをZrCl
4と反応させるステップ、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のプロセスに従って得られるイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドの、オレフィンの重合における触媒としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセンを調製するための改良されたプロセス、さらには上記メタロセンの合成において有用な中間体、並びにオレフィンの重合における触媒としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性プラスチック又はノルボルネン含有ポリマーを製造するための、たとえばエチレン及びプロピレンのようなオレフィンの重合では、多くの場合、重合触媒として遷移金属化合物、特にメタロセン化合物が使用される。そのような重合触媒は、この数十年間にわたって、幅広く改良され、検討されてきた。
【0003】
たとえば、非置換、又はアルキル-置換されたインデニル又はフルオレニル配位子系を含むメタロセン化合物が公知である(特許文献1)。
【0004】
当業界で一般的に公知であるように、橋架けされ、置換されたビス-(1-インデニル)配位子が、オレフィンを重合させるためのメタロセン触媒を製造するためのプロセスにおける出発化合物として好適である。
【0005】
(特許文献2)には、炭素-橋架けされ、置換されたビスシクロペンタジエン化合物として、2,2-ビスインデニルプロパンが開示されている。
【0006】
(特許文献3)及び(特許文献
4)には、配位子として橋架けされたインデニル誘導体を含む、ジルコニウムベースのメタロセン(いわゆるジルコノセン)が開示されている。
【0007】
(非特許文献1)及び(特許文献5)には、イソプロピリデン-ビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリド、及びイソプロピリデン-ビス-(1-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドが開示されている。
【化1】
【0008】
しかしながら、より効果的な方法で、高い収率でもって、そのような橋架けされたメタロセン化合物を製造することが、長年にわたって、興味を持たれている。
【0009】
(特許文献6)には、2,2-ビス(1-インデニル)プロパンを製造するためのプロセスが開示されている。インデンをn-ブチルリチウムと反応させ、その後で、1-イソプロピルインデンを添加して、2,2-ビス(1-インデニル)プロパンを製造した。
【化2】
【0010】
2,2-ビス(1-インデニル)プロパンをさらにn-ブチルリチウムと反応させ、その後で、ジクロロメタン中の塩化ジルコニウム溶液を添加して、イソプロピリデン-ビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造した。オレンジ色の沈殿物を、濾過し、ジクロロメタンを用いて洗浄し、乾燥させた。2,2-ビスインデニルプロパンの収率は、39%であった。
【0011】
(特許文献7)には、2,2-ビス(1-インデニル)プロパンを製造するためのプロセスが開示されている。水酸化カリウム(KOH)とジメトキシエタン(DME)との懸濁液にインデンを添加し、アセトンを滴下により添加した。そのようにして得られた混合物を、希リン酸及びジエチルエーテルを用いて処理した。その有機相を分離し、洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。
【0012】
(特許文献8)には、橋架けされたメタロセン、たとえばrac-イソプロピリデン-ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するためのプロセスが開示されている。2,2-ビス(インデニル)プロパンをエーテルの中に溶解させ、ペンタン中でn-BuLiを用いて処理した。その懸濁液を、塩化トリエチルスタンニルを用いて処理し、その後で、分離させた有機相に対してZrCl4を添加した。
【0013】
(特許文献9)には、2,2-ビスインデニルプロパン及びイソプロピリデン-ビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するためのプロセスが開示されている。インデンをトルエン中に溶解させ、水酸化ナトリウム(NaOH)及び相間移動触媒の塩化トリエチルベンジルアンモニウム(TEBA)の水溶液を添加した。その後で、アセトンを、滴下により添加した。その水相を分離させ、ジエチルエーテルを用いて2回抽出した。最終的には、その有機相を、MgSO
4上で乾燥させ、真空下に溶媒を除去した。2,2-ビスインデニルプロパンの収率は、85%であった。
【化3】
【0014】
それに加えて、次のステップとして金属化ステップを用いると、単離された反応生成物が収率55%で得られることが、(特許文献10)において開示された。2,2-ビスインデニルプロパンを、ジエチルエーテル中で、n-ブチルリチウム(BuLi)と反応させた。ヘキサンを添加してから、その懸濁液を濾過し、ペンタンを用いて洗浄した。二リチウム塩の沈殿物を乾燥させ、ZrCl4のジクロロメタン中の懸濁液に添加した。
【0015】
しかしながら、その収率は、商業的な目的には不十分である。さらには、痕跡量の相間移動触媒の塩化トリエチルベンジルアンモニウム及び不純物が、その反応生成物中に残存し、以後の反応を妨害する。
【0016】
(特許文献11)には、イソプロピリデン-ビス(2-ブロモ-1-インデン)中間体を介して2位に置換基を有する2,2-ビスインデニルプロパン誘導体、並びにそのメタロセンたとえば、イソプロピリデン-ビス(2-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するためのプロセスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】英国特許第A934,281号明細書
【特許文献2】米国特許第A6,072,085号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第A0 485 823号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第A0 563 917号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第A0 511 665号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第A0 416 566号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第A0 722 949号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第A0 722 950号明細書
【特許文献9】欧州特許第B0 751 143号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第A0 751 143号明細書
【特許文献11】日本国特許第4108334号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「Metalorganic Catalysts for Synthesis and Polymerization」、1999、page 462(Walter Kaminsky)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上に記したように、オレフィンポリマーを製造するための触媒としてのメタロセン化合物、及びそれらを製造するためのプロセスについて、多くの検討がなされてきた。ここまで記述してきた進歩にもかかわらず、メタロセン触媒を製造するためのプロセスには、改良の余地が依然として残っている。具体的には、容易にスケールアップすることが可能な合成経路を確立させるためには、再現性のある合成経路及びプロセスを有することが不可欠である。
【0020】
再現性があると同時に、出発物質の転化率の点、溶媒及び触媒を使用する点、そして合成ステップの数の点(すなわち経済性のあるプロセス)で効果的な製造プロセスが探索されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上で概略説明したように、解決されるべき本発明の目的は、一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセン、たとえばイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するための、改良されたプロセスを提供することにあると見ることができる。
【0022】
本発明は、一般式(A)
CR2L2MX2 (A)
のメタロセンを調製するためのプロセスを提供するが、それには、以下のステップ:
(a)一般式(B)の(C=O)R2の対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトンと、配位子Lとを、アルカリ金属アルコキシドのM1OR1の存在下に反応させて、一般式(C)のCR2L2の化合物を形成させるステップ;及び
(b)上記化合物(C)のCR2L2と金属ハライドのMX4とを、脱プロトン化剤の存在下に反応させるステップ;
[式中、
Rは、個々に、C1~C8アルキル、シクロアルキル、又はフェニル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、又はフェニル、より好ましくはメチル又はフェニルであり、
R1は、C1~C20アルキル、好ましくはC1~C6アルキル、より好ましくはメチル又はエチルであり、
Lは、個々に、非置換のインデニル、置換されたインデニル、非置換のベンゾインデニル、置換されたベンゾインデニル、非置換のフルオレニル、又は置換されたフルオレニル、好ましくは非置換のインデニル、非置換のフルオレニル、又は非置換のベンゾインデニル、より好ましくは非置換のインデニルであり、
Mは、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、又はランタニド、好ましくはジルコニウム又はハフニウム、より好ましくはジルコニウムであり、
M1は、アルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウム、より好ましくはナトリウムであり、そして
Xは、ハロゲン、好ましくは塩素又は臭素、より好ましくは塩素である]
が含まれる。
【0023】
さらには、本発明は、本発明において得られる一般式(A)のメタロセンの、オレフィンの重合における触媒としての使用を提供する。
【0024】
本発明の、これら及びさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明と特許請求項により、明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書、及び特許請求項又は条項を通して、文脈的に異なることが必要となる場合を除いて、含む(「comprise」)及びその変形の「comprises」又は「comrising」)という用語は、記述された整数(integer)(又はステップ)、又は複数の整数(又は複数のステップ)の群の含有を意味していると理解されたい。
【0026】
本発明は、一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセン、好ましくはイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するためのプロセスを目的としている。
【0027】
本発明はさらに、上記一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセン、好ましくはイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドの、オレフィンのための重合触媒としての使用も提供する。
【0028】
反応ステップ(a):一般式(C)のCR2L2の化合物の調製
一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセン、たとえばイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを製造するためのプロセスには、ナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシドの存在下に、一般式(B)の(C=O)R2の対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトンと、配位子Lとを反応させて、一般式(C)のCR2L2の化合物を形成させる、第一のステップ(a)が含まれる。
【0029】
ケトン(B)の(C=O)R2
一般式(B)の(C=O)R2のケトンは、対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトンであって、ここでRは、個々に、C1~C8アルキル、シクロアルキル、又はフェニル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、又はフェニル、より好ましくはメチル又はフェニルである。Rが結合して、3~7員のサイクル環を形成していてもよい。
【0030】
好ましい実施態様においては、そのケトン(B)が、アセトン、ベンゾフェノン、アセトベンゾフェノン、又はシクロヘキサノン、より好ましくはアセトン又はベンゾフェノンである。
【0031】
配位子L
配位子Lは、個々に、非置換のインデニル、置換されたインデニル、非置換のベンゾインデニル、又は置換されたベンゾインデニル、好ましくは非置換のインデニル、非置換のフルオレニル、又は非置換のベンゾインデニル、より好ましくは非置換のインデニルである。
【0032】
本発明においては、「置換された(substituted)」という用語は、C1~C20アルキルで置換されるか、又はC1~C20アリールで置換されたということを意味している。
【0033】
置換されたインデニル配位子の好適な例は、4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデン、3-メチルインデン、3-tert-ブチルインデン、3-トリメチルシリルインデン、又は4-フェニルインデンである。
【0034】
置換されたベンゾインデニル配位子の好適な例は、4,5-ベンゾインデン、2-メチル-4,5-ベンゾインデン、2-メチル-α-アセナフチインデン、又は2-メチル-4,6-ジイソプロピルインデンである。
【0035】
本発明の好ましい実施態様においては、反応ステップ(a)において、ただ一つのタイプの配位子Lが使用され、混合物が使用されることはない。
【0036】
アルカリ金属アルコキシドのM1OR1
本発明の第一の反応ステップ(a)は、アルカリ金属アルコキシドM1OR1の存在下に実施されるが、ここで
R1は、C1~C20アルキル、好ましくはC1~C6アルキル、より好ましくはメチル又はエチル、最も好ましくはメチルであり、そして
M1は、アルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウム、より好ましくはナトリウムである。
【0037】
好ましい実施態様においては、その反応が、アルカリ金属メトキシド又はアルカリ金属エトキシドの存在下に実施される。より好ましい実施態様においては、その反応が、ナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシドの存在下に実施される。最も好ましい実施態様においては、その反応が、ナトリウムメトキシドの存在下に実施される。
【0038】
好ましい実施態様においては、第一の反応ステップ(a)の反応には、ジメチルスルホキシド(DMSO)中での、アセトンと、ナトリウムメトキシド及び非置換のインデンとの反応が含まれ、それは、次のような形でまとめることができる:
【化4】
【0039】
本発明の好ましい実施態様においては、その一般式(C)の化合物が、2,2-ビスインデニルプロパンである。
【0040】
本発明においては、第一の反応ステップにおける塩基として、ナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシドを使用することによって、一般式(C)のCR2L2の化合物、好ましくは中間体の2,2-ビスインデニルプロパンの形成を、はるかにより高い収率で、且つ、塩基としてアルカリ金属水酸化物たとえば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを使用したときに通常生成する、たとえばインデニルナトリウム、インデニルナトリウムの酸化反応生成物、又は重合反応生成物のような、副反応生成物を含むことなく、達成することができるということが見出された。
【0041】
特に、水酸化ナトリウムを使用した場合には、中間体の2,2-ビスインデニルプロパンの収率が劇的に変化し、いくつかの試験反応においては、2,2-ビスインデニルプロパンである反応生成物が、まったく形成されないということさえあり得るということが見出された。さらには、水酸化ナトリウムを使用した場合には、所望される反応生成物、すなわち、2,2-ビスインデニルプロパンから副反応生成物を除去することが、困難であるか及び/又は厄介であった。
【0042】
さらには、本発明において、対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトンとインデンとの反応における溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)を使用した場合には、単離される反応生成物の、2,2-ビスインデニルプロパンの、高い、たとえば60%を越える、より好ましくは70%を越える反応生成物収率を得ることが可能であるということが見出された。
【0043】
さらにより好ましい実施態様においては、対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトン(B)とインデンとの反応が、インデンとジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)、好ましくはDMSOとを含む反応混合物に対して、対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトン(B)を添加することにより実施される。
【0044】
さらにより好ましい実施態様においては、先に述べたような、対称若しくは非対称で、直鎖状若しくは環状のケトン(B)と配位子Lとの反応が、0~40℃、より好ましくは0~25℃、さらにより好ましくは5~15℃の温度で、10分~30分の時間をかけて実施される。
【0045】
好ましい実施態様においては、その反応混合物が、さらに、40℃より低い温度で、1~120分間撹拌される。
【0046】
この反応を実施した後では、通常、たとえば、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、及び/又は水、及び/又は10%NaCl溶液を添加することによる仕上げで、その反応混合物の反応を停止させ、相分離によってその有機相を分離させ、そして水を用いてその有機相を洗浄する。その後で、通常、たとえば硫酸ナトリウム(Na2SO4)を添加することによって、その有機相を乾燥させる。次いで、その有機相を、蒸留ステップにかけて、反応生成物の2,2-ビスインデニルプロパンを精製してもよい。
【0047】
好ましい実施態様においては、いかなる相間移動触媒を使用することもなく、ステップ(a)の反応を実施する。
【0048】
上で示したように、本発明においては、その後で第二の反応ステップ(「金属化(metalation)」)を実施する。
【0049】
反応ステップ(b):一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセンの調製
本発明のプロセスの第二のステップ(b)において、上記一般式(C)のCR2L2の化合物を、脱プロトン化剤の存在下に、金属ハライドのMX4と反応させて、一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセン、好ましくはイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを形成させる。
【0050】
金属ハライドのMX4
その金属ハライドのMX4のXは、ハロゲン、好ましくはフルオリド、クロリド、ブロミド、又はヨーダイド、より好ましくはクロリドである。
【0051】
その金属ハライドのMX4のMは、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、又はランタニドたとえばネオジムである。
【0052】
その金属ハライドのMX4は、好ましくはZrF4、ZrCl4、ZrBr4、ZrI4、HfCl4、TiCl4、又はNdCl3、より好ましくはZrCl4である。
【0053】
脱プロトン化剤
本発明においては、定型的な脱プロトン化剤を使用することができる。その脱プロトン化剤は、好ましくはブチルリチウム(n-BuLi)、水素化ナトリウム(NaH)、BEM、又はBOMAG、より好ましくはn-BuLiである。好ましい実施態様においては、テトラヒドロフラン(THF)への溶解性が高い脱プロトン化剤が使用される。
【0054】
本発明の好ましい実施態様においては、上記第二の反応ステップ(b)が、溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)、tert-アミルメチルエーテル(TAME)、メチルテトラヒドロフラン、ジ-n-ブチルエーテル、又はジイソプロピルエーテル(DIPE)、より好ましくはTHFとヘキサンとの混合物を使用して実施される。
【0055】
本発明の好ましい実施態様においては、上記第二のステップ(b)が、ヘキサン中、80%以上の濃度、好ましくは90%以上の濃度のn-BuLiの溶液を使用して実施される。80%未満、たとえば市販されているわずか20%のn-BuLiの濃度は、好ましくないが、その理由は、ヘキサンの量が多くなり、それがLiClを沈殿させる原因となるからである。
【0056】
好ましい実施態様においては、最初に、溶媒中、好ましくはTHF、MTBE、ETBE、TAME、又はDIPEの中に配位子Lを溶解させ、その後で、その混合物に対して、脱プロトン化剤及び金属ハライドのMX
4を添加する。
【化5】
【0057】
通常、上記第二の反応ステップ(b)は、化合物(C)のCR2L2に対して、0~-20℃、より好ましくは-5~-15℃の温度で、15分~10時間、より好ましくは30分~5時間の時間をかけてMX4を添加することにより実施される。
【0058】
好ましくは、上記第二の反応ステップ(b)は、中間体の2,2-ビスインデニルプロパンの二リチウム塩に対して、0~-20℃、より好ましくは-5~-15℃の温度で、15分~10時間、より好ましくは30分~5時間の時間をかけて、塩化ジルコニウム(IV)を添加することにより実施される。
【0059】
発明者らの見出したところでは、第二の反応ステップにおいて溶媒としてTHFを使用することによって、最終反応生成物の高い収率を得ることができるが、その理由は、上記の場合においては、第二の反応ステップで形成される副反応生成物のLiClがTHFの中に可溶性であるために、さらなるステップにおいて除去する必要がなく、その一方で、その反応生成物が不溶性であって、そのため沈殿するからである。
【0060】
当業者には公知であるように、メタロセン触媒たとえばイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドの存在下での、オレフィンの重合収率は、そのメタロセン触媒の純度に依存する。本発明において特許請求されているプロセスに従って得られたイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを、オレフィンの重合におけるメタロセン触媒として使用すると、驚くべきことには、高い重合収率を得ることが可能となるであろう。
【0061】
本発明の好ましい実施態様においては、その一般式(A)のCR2L2MX2のメタロセンが、対称形である。
【0062】
本発明のさらなる態様においては、本発明の各種のプロセスに従って製造された、一般式(A)のメタロセン、好ましくはイソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドが、オレフィンの重合における触媒として使用される。
【実施例】
【0063】
実施例1:
反応ステップ(a):2,2-ビスインデニルプロパンの合成
すべての操作は、不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で実施した。2Lの容積の二重壁反応器に、DMSO(100mL)、NaOMe(0.9g、0.02mol)、及びインデン(40g、0.33mol)を仕込み、20℃で30分間撹拌した。その反応器を冷却して10℃とした。次いで、15分以内で、アセトン(9.7g、0.17mol)を添加したが、その反応器の温度は、20℃未満に保持されている(発熱反応)。その後で、その反応混合物を、40℃で2時間、そして室温で一夜撹拌すると、その反応が完了した(GCにより判定、6,6-ジメチルフルベン、1%未満)。10℃で、100gの水を添加し、30分間撹拌してから、その反応混合物にメチル-tert-ブチルエーテル(MTBE;236g)を添加した。その混合物を、室温でさらに30分間撹拌した。
【0064】
その2相を分離し、その水相をもう一度MTBEを用いて抽出し、有機相を合わせて、飽和NaCl水溶液(2×100mL)を用いて洗浄して中性とした。その有機相を、Na
2SO
4の上で乾燥させ、次いで、MTBE及び未転化のインデンを、真空蒸留により最高温度40℃で除去して、ほぼ乾燥させた。そのようにして残った粘稠な懸濁液を、濾過し、その粗反応生成物を、メタノール、ヘキサン、MTBEを用いて洗浄した。乾燥させることによって、褐色で結晶質の固形物が、98.4%の純度で得られた(27g)。追加として、そこで残っていた母液に、上述の単離ステップと同様の作業をすると、さらに10gの純反応生成物が得られた。全収量37g、収率81%。
【化6】
【0065】
反応ステップ(b):イソプロピリデンビス-(1-インデニル)ジルコニウムジクロリドの調製
すべての操作は、不活性ガス雰囲気下で実施した。2Lの容積の二重壁反応器の中で、反応ステップ(a)の2,2-ビスインデニルプロパン(15.8g、0.056mol、純度98,6%)を、室温で、テトラヒドロフラン(THF;200mL)の中に溶解させ、その混合物を冷却して-5℃とした。30分以内で、n-BuLi(n-ヘキサン中90%溶液、8.06g、0.1120mol)を添加したが、反応器の温度は、7℃未満に留まっている。その溶液を、0℃で60分間撹拌した。配位子の二リチウム塩が、沈殿する。その懸濁液を温めて室温とし、25℃でさらに120分間撹拌した。その溶液をもう一度冷却して0℃とし、ZrCl
4・2THF(21.15g、0.056mol)を添加した。その添加では発熱し、温度が約10~20K上昇した。その反応混合物を温めて20℃とし、一夜撹拌する。120分後では、暗赤色の反応生成物が沈殿する。その反応生成物を濾過により分離し、THFを用いて2回、そしてヘキサン/THFを用いて2回洗浄して、残存している痕跡量のLiClを除去する。その反応生成物を真空中で乾燥させると、16.6g(0.038mol、67.8%収率)の微細な橙色~赤色の結晶が得られる。
【化7】
【0066】
実施例2:
実施例2は、実施例1と同様にして実施したが、ただし、表1に見られるように、その橋架け剤をベンゾフェノン(O=CPh2;15.2g、0.08mol)に置き換え、NaOMeの量を倍にした。その反応生成物を真空中で乾燥させると、35.5g(0.064mol、80.1%収率)の微細な橙色~赤色の結晶が得られる。
【0067】
実施例3:
実施例3は、実施例1と同様にして実施したが、ただし、表1に見られるように、溶媒としてDMF(ジメチルホルムアミド)を使用した。その反応生成物を真空中で乾燥させると、20.0g(0.073mol、44.2%)の微細な白色結晶が得られた。
【0068】
実施例4(スケールアップ):
1立方メートルの容積を有する反応器を、不活性ガス雰囲気を用いてコンディショニングし、DMSO(120kg、1536mol)及びNaOMe(1.01kg、20mol)をその反応器の中に加えた。その懸濁液を撹拌しながら、42.4kgのインデンを添加し、その反応混合物を20℃で30分間撹拌した。その混合物を冷却して10℃とし、アセトン(10.6kg、180mol)を、10分以内で添加した。その反応器をさらに冷却して、40℃未満の温度に維持した。添加が完了したら、その反応混合物を加熱して40℃とし、その温度で1時間撹拌した。サンプリングをしてから、その反応混合物を冷却して20℃とし、20℃で12時間撹拌した。その反応混合物に、258kgのMTBEを添加し、それに続けて0℃で、118kgの10%NaOH溶液を添加した。温度が約20℃にまで上昇したが、そのようにして得られた二相混合物を、最低でも30分間撹拌した。その二相を分離させ、120kgのMTBEを用いて有機相をもう一度洗浄し、有機相を合わせて、Na2SO4を用いて乾燥させ、反応器へ注入して戻した。40℃で、MTBEの約85%を蒸留除去し、同量のヘプタンを添加し、もう一度蒸留した。そのようにして残った懸濁液を冷却して20℃とし、加圧フィルターを通して濾過し、メタノール/ヘプタン(1:1混合物)を用いて洗浄した。その反応生成物を真空中で乾燥させると、96%よりも高い純度を有する褐色の粉体が、収量30kg(110.1mol、59.4%)で得られた。
【0069】
【国際調査報告】