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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(54)【発明の名称】中枢神経系疾患の治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20220309BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220309BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20220309BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20220309BHJP
   C07K 5/103 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 14/765 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 14/16 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220309BHJP
   C07K 14/81 20060101ALN20220309BHJP
【FI】
A61K38/00
A61P25/28
A61K38/38
A61K38/43
C07K5/103
C07K19/00
C07K14/705
C07K14/765
C07K14/16
C07K14/47
C07K14/81
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541705
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 US2020014338
(87)【国際公開番号】W WO2020150725
(87)【国際公開日】2020-07-23
(31)【優先権主張番号】62/794,147
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/556,957
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】521317449
【氏名又は名称】エル アンド ジェイ バイオ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バン,ソクヒー
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジョン,キュン
(72)【発明者】
【氏名】シン,スン-ウーク
(72)【発明者】
【氏名】リー,クワン,ヒー
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホー,ジューン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DA37
4C084DC01
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA16
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA56
4H045DA70
4H045EA21
4H045FA74
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
本願は、それを必要とする対象の中枢神経系において蛋白質欠損を治療するための方法を開示し、方法は、第1の蛋白質を含む融合ポリペプチドの治療的有効量を対象に全身性に投与することを含み、融合ポリペプチドは、(a)第1の蛋白質、(b)インビボで循環系滞留時間の延長をもたらす第2の蛋白質、および(c)血液脳関門通過促進ペプチドを含み、融合ポリペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象の中枢神経系における蛋白質欠損を治療するための方法であって、融合ポリペプチドが(a)脳におけるその欠失がアルツハイマー病と相関する第1の蛋白質、(b)インビボで延長された循環系滞留時間をもたらす第2の蛋白質および(c)血液脳関門通過促進ペプチドを含む融合ポリペプチドの治療的有効量を対象に全身的に投与することを含み、融合ポリペプチドが、血液脳関門(BBB)を通過する、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、第1の蛋白質のアミノ酸配列が、第2の蛋白質のアミノ酸配列に共有結合で連結される、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、第2の蛋白質のアミノ酸配列が、血液脳関門通過促進ペプチドに切断可能に共有結合で連結される、方法。
【請求項4】
請求項3の方法であって、共有結合が、pH変化により切断可能であるかもしくは導入された切断部位が、グリシル・フェニルアラニル・ロイシル・グリシン(glycyl phenylalanyl leucyl glycine;GFLG)である、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、治療的有効量が、少なくとも約1~10mg/体重Kgから成る、方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、第1の蛋白質が、脳におけるアミロイドベータ (Abeta)沈着を減少させる蛋白質および/または脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質である、方法。
【請求項7】
請求項6の方法であって、第1の蛋白質が、脳におけるアミロイドベータ (Abeta)沈着を減少させかつ脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質の2重機能を有する、方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、第1の蛋白質が、シスタチンC、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、終末糖化産物に対する可溶性受容体(sRAGE)、RAGE-v、またはミエリン塩基性蛋白質(MBP)である、方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、第1の蛋白質が、シスタチンCまたはRAGE-vである、方法。
【請求項10】
請求項7の方法であって、第1の蛋白質が、シスタチンCである、方法。
【請求項11】
請求項1の方法であって、第2の蛋白質が、ヒト血清アルブミンである、方法。
【請求項12】
請求項1の方法であって、血液脳関門通過促進ペプチドが、dTATである、方法。
【請求項13】
請求項1の方法であって、融合ポリペプチドにおいて、第1の蛋白質が、内嗅皮質あるいは海馬におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させ、および/または内嗅皮質あるいは海馬における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質である、方法。
【請求項14】
請求項6の方法であって、第1の蛋白質として脳におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる蛋白質を含む融合蛋白質が、第1の蛋白質として脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質を含む融合蛋白質と共投与されるあるいは逐次的に投与される、方法。
【請求項15】
それを必要とする対象において中枢神経系変性疾患を治療する方法であって、内嗅皮質あるいは海馬におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる第1の蛋白質、および内嗅皮質あるいは海馬における過剰リン酸化タウの濃度を低下させる第2の蛋白質を含む融合ポリペプチドの治療的有効量を対象に全身的に投与することを含み、融合ポリペプチドが、インビボで延長された循環系滞留時間をもたらす蛋白質および血液脳関門通過促進ペプチドを含み、融合ポリペプチドが、血液脳関門(BBB)を通過する、方法。
【請求項16】
請求項15の方法であって、インビボで延長された循環系滞留時間をもたらす蛋白質のアミノ酸配列が、血液脳関門通過促進ペプチドに切断可能に共有結合で連結される、方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、共有結合が、pH変化により切断可能であるかもしくは導入された切断部位が、グリシル・フェニルアラニル・ロイシル・グリシン(glycyl phenylalanyl leucyl glycine;GFLG)である、方法。
【請求項18】
請求項15の方法であって、治療的有効量が、少なくとも約1~10mg/体重Kgから成る、方法。
【請求項19】
請求項15の方法であって、疾患が、アルツハイマー病である、方法。
【請求項20】
請求項15の方法であって、第1の蛋白質が、シスタチンC、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、終末糖化産物に対する可溶性受容体(sRAGE)、RAGE-v、またはミエリン塩基性蛋白質(MBP)である、方法。
【請求項21】
請求項15の方法であって、第2の蛋白質が、シスタチンC、Pten-long、PDZドメインを欠失したPten-long、TFEB、またはSIRT1である、方法。
【請求項22】
請求項15の方法であって、インビボで延長された循環系滞留時間をもたらす蛋白質が、ヒト血清アルブミンである、方法。
【請求項23】
請求項15の方法であって、血液脳関門通過促進ペプチドが、dTATである、方法。
【請求項24】
請求項15の方法であって、第1の蛋白質が、シスタチンCまたはRAGE-vである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は一般に、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患を治療するための2重作用性治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的背景と技術の最先端
アルツハイマー病(AD)は、神経細胞の進行性消失を特徴とする世界的に最もよく見られる神経変性疾患の一つであり、典型的には記憶や学習を含む認知機能の重度の障害に至る。アルツハイマー病の病理学的特徴としては、脳における細胞外アミロイド斑の存在、および神経原線維変化(NFT)の形成が挙げられ、これらは神経機能障害および細胞死をもたらす。アルツハイマー病治療薬の開発における最も大きな問題の一つは、充分な血液脳関門(BBB)浸透を実現することである(Banks、2016)。血液脳関門は、血液と脳の間における分子、イオン、細胞の輸送を制御する保護的接触部位である(Patabendige、2013)。抗体などの生体分子のような他の分子は、サイズが大きく、血液脳関門を効率的に通過できない。臨床的には、主要な脳障害の治療に充分な量での血液脳関門を越える治療用蛋白質の浸透を増強する試みは、現在のところ成功していない(Gabathuler、2010)。これは、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患に生体分子を用いることを困難にする。近年、中枢神経系疾患に対し各種の治療用BBB担体が開発されており(Malakoutikhah、2011)、そのような担体としては化学送達系(Brewster、1997;Carelli、1996)、担体媒介性輸送(Manfredini、2002;Gynther、2008;Gynther、2009)、および分子トロイの木馬(Boado、2007;Boado、2008;Boado、2009;Boado、2013)などが挙げられる。細胞膜浸透性ペプチド(CPP)に媒介される薬剤送達は、脳への送達を強化する一つの方法である。げっ歯類でのインビボの研究は、生体分子との、最も有名なCPPであるHIV-1トランス作用性トランスクリプター(TAT)の連結が、血液脳関門を越える生体高分子の送達を促進できた構築物をもたらすことを明らかにした(Cao、2002;Kilic、2002;Banks、2005)。
【0003】
しかし、これらの送達系の治療有効性は、満足のいくものではない。理由は、それらの浸透能および滞留能が限定的であるためである。病変域での薬剤濃度は、治療閾値よりもかなり低い。これらの問題に対処するために、受容体に媒介されるBBB送達系は、BBB浸透有効性を向上させる有力な方略と考えられている。多くの研究者達は、治療に必要とされる濃度で脳へ接近するために、血液脳関門の細胞膜上で過剰発現される特異的受容体の探索に焦点を当ててきた(Wang、2017)。
【0004】
最近、前臨床試験および臨床試験において新規生体分子が、脳に入りアミロイドベータ斑を縮小させることが示された(Sevigny、2016;Reiman、2016;Chang、2017)。生体分子は、アルツハイマー病治療の優れた手段になるので、その脳送達を促進する新規方略が、必要とされる。内在性輸送系の利用は、脳への薬剤送達の方略において未活用である(Banks、2012)。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、誤って折り畳まれたアミロイドβ(Aβ)ペプチドの細胞外沈着および神経原線維変化(NFT、リン酸化タウまたはp-タウ)の細胞内形成により特徴付けられるが、これらの病理学的事象を低減する方略は未だ見つかっていない。アルツハイマー病(AD)の治療薬開発は、血液からのほとんどの治療薬の脳への効率的な取り込みを妨げる血液脳関門(BBB)が存在するため、限定される。発明者等は、治療用蛋白質としてヒト血清アルブミン(HSA)融合基盤を開発し、これは、AβおよびNFT(p-タウ)を低減するために、BBB浸透可能な細胞浸透性ペプチド(CPP、dTAT)を含む。
【0006】
微小管結合性タウ蛋白質は、微小管の形成と安定化に関与していると考えられる(Spillantini、2013;Lee、2001)。タウは、リン蛋白質として存在し、健康な大人の脳であってもタウは、少なくとも最少程度にリン酸化されている(Seubert、1995)。しかし、アルツハイマー病を特徴づけるものは、タウ蛋白質に沿う441の特異的なアミノ酸配列のうち19のリン酸化の範囲と一致性であり、結果としてアルツハイマー病の脳で特定のリン酸化パターンおよびリン酸化タウのより大きな負荷をもたらす(Augustinack、2002;Neddens、2018;Medina、2015)。アルツハイマー病と健康な大人の脳の間で、リン酸化タウ負荷の差の程度は、タウのモル数当たりのリン酸のモル数において3~4倍の増加であることが報告されている(Ksiezak、1992)。対のらせん状細線維(PHF)へと集合する過剰リン酸化型タウから成る神経原線維のもつれ(NFT)は、アルツハイマー病の剖検Braakステージ分類システム(BraakとBraak、1995;Grundke-Iqbal、1986;Kosik、1986;Lee、1991;Braak、1995)における妥当な病理学的特徴である。もつれは、組織分布的および定量的に臨床症候学と相関することが証明されているアルツハイマー病における唯一の病理学的所見である(Arriagada、1992;Braak、1991;Goedert、1993;Ballatore、2007)。
【0007】
タウの発現は、皮質の髄鞘化されていない軸索で高く、特に海馬を含む辺縁皮質などの記憶固定に関与する脳の領域において高い(Trojanowski、1989)。タウの過剰リン酸化は、微小管からのタウ蛋白質の脱離を引き起こし、それにより微小管を不安定化し軸索内輸送に支障をきたす(Bramblett、1993;Ishihara、1999)。タウのリン酸化と脱リン酸化は、蛋白質キナーゼ(GSK3β、cdK5、Akt/PKB、PKA、ERK1/2、AMPKなど)の活性とホスファターゼ(PP1、PP2AおよびPP5など)の活性の平衡により制御される(Ballatore、2007;Chung、2009;Wang、2007)。
【0008】
AMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)は、細胞内の主要エネルギーセンサーであり、かつ代謝制御因子である。AMPKは、解糖流束およびミトコンドリア新生の制御を通じて細胞のエネルギー恒常性に関与している(Hardie、2011)。哺乳動物のAMPKは、触媒性のαサブユニット(イソ型α1およびα2)および制御性のβ(β1およびβ2)ならびにγ(γ1、γ2、γ3)サブユニットが集合したヘテロ3量体複合体である。AMPKは、細胞の代謝状態およびその上流のキナーゼにより活性化され、複数のホスファターゼの1つにより阻害される。細胞質AMPとカルシウム濃度の増加は、神経細胞のAMPKシグナル伝達の主要な活性化因子である(Nakamura、2001;Salminen、2011;Steinberg、2009)。アルツハイマー病の発症機序における代謝機能不全およびAMPK活性は、タウのリン酸化とアミロイド形成の両方の制御因子として報告されている(Thornton、2011;Vingtdeux、2011)。マウスの初代神経細胞において内在性AMPK活性化は、複数部位におけるタウのリン酸化増加を誘導したことが明らかにされており、AMPK阻害は、タウの急速なリン酸化減少を引き起こした(Domise、2016)。
【0009】
PP2Aは、タウのリン酸化過程における最も重要なホスファターゼであり;正常条件下におけるPP2A阻害は、タウの過剰リン酸化を伴う。PP2Aのインビボ活性は、内在性阻害蛋白質である阻害因子2(I2PP2A;SETとしても知られている)により下方制御される(Li、1996)。アルツハイマー病の脳では、リソゾームのアスパラギンエンドペプチダーゼ(AEP)が、I2PP2A蛋白質(全長、約39kDa)を、活性のある約20kDaの断片(複数)へと切断する(Rosenmann、2014;Basurto-Islas、2013)。PP2A活性は、活性化I2PP2A断片とPP2Aの触媒サブユニットの相互作用により阻害される(Arnaud、2011)。I2PP2Aの断片は、PP2A活性阻害の原因であり、かつタウの異常な過剰リン酸化の増加を誘導することも報告されている(Basurto-Islas、2013)。
【発明の概要】
【0010】
本発明のこのような目的および他の目的は、本発明に関する下記の説明、本明細書の参照図、および付属する特許請求の範囲によってより完全に理解されるであろう。
【0011】
一局面において、本発明は、それを必要とする対象の中枢神経系における蛋白質欠損を治療する方法を対象とし、方法は、対象に治療的有効量の融合ポリペプチドを全身的に投与することを含み、ここで融合ポリペプチドは、以下を含む:(a)脳におけるその欠失がアルツハイマー病と相関する、第1の蛋白質;(b)インビボにおいて循環系滞留時間の延長をもたらす、第2の蛋白質;および(c)血液脳関門通過促進ペプチド;ここで、融合ポリペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過する。第1の蛋白質のアミノ酸配列は、第2の蛋白質のアミノ酸配列に共有結合で結合されてよい。第2の蛋白質のアミノ酸配列は、血液脳関門通過促進ペプチドに切断可能に共有結合で結合されてよい。共有結合は、pHの変化により切断可能であってよく、あるいは導入切断部位は、グリシル・フェニルアラニル・ロイシル・グリシン(glycyl phenylalanyl leucyl glycine;GFLG)であってよい。一局面において、治療的有効量は、少なくとも約1~10mg/体重Kgであってよい。
【0012】
別の一局面において、第1の蛋白質は、脳におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる蛋白質であってよく、および/または脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質であってよい。あるいは、第1の蛋白質は、脳におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させ、かつ脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質の2重機能を有してよい。
【0013】
上記の本発明に準拠する一局面において、第1の蛋白質は、シスタチンC、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、終末糖化産物に対する可溶性受容体(sRAGE)、RAGE-v、またはミエリン塩基性蛋白質(MBP)であってよい。特に、第1の蛋白質は、シスタチンCまたはRAGE-vであってよい。さらに、とりわけ、第1の蛋白質は、シスタチンCであってよい。
【0014】
別の一局面において、第2の蛋白質は、ヒト血清アルブミンであってよい。
【0015】
別の一局面において、血液脳関門通過促進ペプチドは、dTATであってよい。
【0016】
別の一局面において、上記の方法で、第1の蛋白質は、内嗅皮質あるいは海馬におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させ、および/または内嗅皮質あるいは海馬における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質であってよい。
【0017】
特に、第1の蛋白質として脳におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる蛋白質を含む融合蛋白質は、第1の蛋白質として脳における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる蛋白質を含む融合蛋白質と共投与されるか、あるいは逐次投与される。
【0018】
さらに別の一局面において、本発明は、それを必要とする対象において中枢神経系変性疾患を治療する方法を対象とし、方法は、治療的有効量の融合ポリペプチドを対象に全身的に投与することを含み、ここで融合ポリペプチドは、内嗅皮質あるいは海馬におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる第1の蛋白質、および内嗅皮質あるいは海馬における過剰リン酸化タウのレベルを低下させる第2の蛋白質を含み、ここで融合ポリペプチドは、インビボにおける循環系滞留時間の延長をもたらす蛋白質および血液脳関門通過促進ペプチドを含み;ここで、融合ポリペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過する。上記の方法において、インビボにおける循環系滞留時間の延長をもたらす蛋白質のアミノ酸配列は、血液脳関門通過促進ペプチドに切断可能に共有結合で結合される。共有結合は、pHの変化により切断可能であってよく、あるいは導入切断部位は、グリシル・フェニルアラニル・ロイシル・グリシン(glycyl phenylalanyl leucyl glycine;GFLG)であってよい。一局面において、上記の方法に従い、治療的有効量は、少なくとも約1~10mg/ヒトの体重Kgであってよい。疾患は、アルツハイマー病であってよい。特に、第1の蛋白質は、シスタチンC、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、終末糖化産物に対する可溶性受容体(sRAGE)、RAGE-v、またはミエリン塩基性蛋白質 (MBP)であってよい。別の一局面において、上記の本発明に従い、第2の蛋白質は、シスタチンC、Pten-long、PDZドメインを欠失したPten-long、TFEB、またはSIRT1であってよい。インビボにおける循環系滞留時間の延長をもたらす蛋白質は、ヒト血清アルブミンであってよい。血液脳関門通過促進ペプチドは、dTATであってよい。かつ、第1の蛋白質は特に、シスタチンCまたはRAGE-vであってよい。
【0019】
本発明は、本明細書において下に記載される詳細な説明、および付図からより完全に理解されるであろう。図面は具体例を示すものとして提示され、したがって本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ヒト血清アルブミン融合蛋白質バージョン1または2を発現するためのpOptivec/HSA融合プラスミドの構築物を示す。2シストロン性のpOptivec/HSA融合プラスミドは、HSA融合蛋白質バージョン1(または2)と選択マーカーDHFRを含む。クローニング法に用いる制限酵素認識部位は、イタリックで示される。
図2】HSA融合蛋白質(バージョン1)の模式図を示す。模式図は以下を含む:βアミロイド斑またはタウのタングル(Tau tangle)を減少させるためのMOA(mechanism of action;作用機序)蛋白質;GSリンカー(GGSAS(配列番号1)またはGGGSGGGS(配列番号2));HSA(ヒト血清アルブミン);切断可能なリンカー(GFLG);ハッチング部分はCPP(細胞浸透性ペプチド)である。AL04(80kDa)の模式図は、MOAとしてシスタチンC、HSA、およびCPPとして改変TATペプチドを含む。四角枠の上の番号は、融合蛋白質のN末端からのアミノ酸番号を表す。
図3】HSA融合蛋白質(バージョン2、AL06~AL10)の模式図を示す。βアミロイド斑またはタウのタングル(Tau tangle)を減少させるためのMOA蛋白質(MOA1またはMOA2);GSリンカー(GGSASまたはGGGSGGGS);ヒト血清アルブミン(HSA);切断可能なリンカー(GFLG(配列番号3)またはGFLGGGGSAS(配列番号4));細胞浸透性ペプチド(CPP)。AL06(145kDa)、AL07(135kDa)、AL08(129kDa)、AL09(144.5kDa)、AL10(156kDa)の模式図は、MOA1としてRAGE-VまたはRAGE-V-C1;MOA2としてPten-long、PDZドメインを欠失したPten-long、またはTFEB、SIRT1;担体としてHSA;およびCPPとして改変TATペプチドを含む。四角枠の上の番号は、AL04におけるN末端からのアミノ酸番号を表す。
図4】HSA融合蛋白質(バージョン2.1、AL12)の模式図を示す。構築物は、ベータアミロイド斑(MOA1)またはタウのタングル(MOA2)を減少させるための作用機序(mechanism of action;MOA)蛋白質;GSリンカー(GGGSGGGS);ヒト血清アルブミン(HSA);切断可能なリンカー(GFLGGGGSAS);細胞浸透性ペプチド(CPP)を含む。AL12(88kDa)の模式図は、MOA1としてRAGE-V;担体としてHSA;MOA2としてSIRTl-エクソン4、およびCPPとして改変TATペプチドを含む。四角枠の上の番号は、各HSA融合蛋白質におけるN末端からのアミノ酸番号を表す。
図5】SDS-PAGE(a)およびウエスタンブロット(b)による精製AL04(80kDa)、AL07(135kDa)、AL08(129kDa)、およびAL12(88kDa)の特徴付けを示す。精製試料は、還元条件下で4~12%の勾配ゲルにて泳動した;(a)ゲルは、クマシーブルーで染色した;(b)各蛋白質を含む勾配ゲルを、精製抗ヒト血清アルブミン抗体を用いるウエスタンブロッティングのためにPVDF膜に転写した。
図6図6Aおよび図6Bは、AL04が未分化PC12細胞のAβ1-42誘導性細胞死を軽減することを示す。未分化PC12細胞でのAL04の非特異的細胞毒性(A);PC12細胞を、AL04(CysC-HSA-TAT)(0.01μM)の存在または非存在下で10μMのAβ1-42に72時間曝露した(B)。細胞生存率を、WST-8(水溶性テトラゾリウム塩)還元アッセイにより評価した。
図7】AL04が、分化PC12細胞でAβ1-42誘導性細胞死を軽減することを示す。細胞を、AL04の存在下または非存在下において可溶性または凝集(エージング処理した)Aβ1-42のいずれかで3日間処理した。細胞生存率を、WST-8(水溶性テトラゾリウム塩)還元アッセイにより評価した。*可溶性Aβ1-42、DPBS緩衝液中のAβ1-42ペプチド;**凝集Aβ1-42、37℃で3日間エージング処理したAβ1-42溶液。
図8】ヒトBBBモデルを用いたAL04のBBB浸透性評価を示す。(A)用量依存的な浸透性を、1μMおよび10μMのAL04および組み換え型ヒト血清アルブミン(rHSA)を用いて120分の時点で評価した。(B)AL04の浸透性を時間経過の3時点(60分、120分、および240分)で比較した。
図9図9Aおよび図9Bは、HSA融合蛋白質が用量依存的に細胞中へ浸透することを示す。PC12細胞を、1%馬血清を含むDMEM培地中で、100ng/mlのNGFを用いて分化させた。4日後に、NGFを除いたPC12細胞を、様々な濃度(1~5μg/ml)のAL04 (A)またはAL12(B)で24時間処理した。細胞を、氷冷DPBS(pH7.5)で2回すすぎ、溶解した。細胞溶解物を、SDS-PAGEに供した後、シスタチンC(AL04)または抗ヒト血清アルブミン(AL12)についてウエスタンブロッティングを行った。
図10】構築物に関する担体蛋白質および細胞浸透性蛋白質の選択を示す。*は、CHO-S細胞のウエスタンブロットにより決定した融合蛋白質の一過的発現および品質完全性を示す。**は、CHO-DG44細胞におけるMTX(2000nM)増幅からSDS-PAGEにより決定された融合蛋白質の安定な発現を示す。Fc融合蛋白質は、Fc領域を介して2量体を形成した。
図11】潜在的治療薬開発のための2重作用性治療薬(バージョン1、2および2.1)のまとめを示す。
図12図12Aおよび図12Bは、PC12細胞におけるHSA融合蛋白質処置によるNGFが欠乏した過剰リン酸化タウのレベル低下を示す。(A)NGF欠乏PC12細胞をAL04、AL07、またはAL08で24時間処置した時のリン酸化タウ(Ser202/Thr205)、リン酸化タウ(Thr231)、および総タウの代表的なブロット。GAPDHを、ローディングコントロールとして用いた。(B)総タウに対し正規化した、Ser202/Thr205位およびThr231位でのタウのリン酸化レベルの比の定量分析。
図13】AL04処理が、I2PP2A(ホスファターゼPP2Aの阻害因子)の下方制御を通じてNGF欠乏時のリン酸化タウのレベルを低下させることを示す。PC12細胞を、1%馬血清を含むDMEM培地中で、l00ng/mlのNGFを用いて分化させた。4日後に、NGFを欠乏させたPC12細胞を、様々な濃度(l~10μg/ml)のAL04で24時間処置した。細胞溶解物を、SDS-PAGEに供した後、シスタチンC(AL04)、P-タウ(Ser202/Thr205)、およびI2PP2Aについてウエスタンブロッティングを行った。GAPDHを用いて、異なるレーンに添加された蛋白質の量が同一であることを確認した。
図14図14Aおよび図14Bは、AL04処置が、NGF欠乏PC12細胞におけるタウとチューブリンの相互作用を増加させることを示す。(A)PC12細胞を、1%馬血清を含むDMEM培地中で、100ng/mlのNGFを用いて分化させた。4日後に、NGFを欠乏させたPC12細胞を、1μg/mlのAL04の存在下または非存在下で24時間処置した。細胞をその後、溶解し、抗βチューブリン抗体を用いる免疫沈降に供した。免疫沈降物を、抗タウ抗体で調べた。レーンに添加した溶解物は、総溶解物の1%であり、蛋白質の均一な添加量を示した。細胞溶解物を、総タウ、βチューブリン、およびシスタチンC(AL04に関して)についてのウエスタンブロッティングに供した。βチューブリンに結合したタウの相対定量を、(B)に示す。値を、インプットした総タウの総量で正規化し、3回測定の平均+/-標準誤差として表す。P<001、スチューデントt-検定。
図15】AL04が、用量依存的にAMPKを調節することにより過剰リン酸化タウを減少させることを示す。NGF欠乏PC12細胞を様々な濃度(1~5μg/ml)のAL04で24時間処理した時の、シスタチンC(AL04)、リン酸化タウ(Ser202/Thr205)、リン酸化AMPα(Thr172)、リン酸化AMPKβ(Serl82)、リン酸化ULK1(Ser555)の代表的なブロットを示す。GAPDHを、ローディングコントロールとして用いた。
図16】AL04での処置が、Tg2576マウスの海馬におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させることを示す。
図17】AL04での処置が、Tg2576マウスの内嗅皮質におけるアミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させることを示す。
図18】AL04での処置が、JNPL3マウスの海馬および内嗅皮質における過剰リン酸化タウのレベルを低下させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願は、中枢神経疾患、特に、アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病などの神経変性疾患、さらに具体的にはアルツハイマー病を治療するための、血液脳関門を通過する融合ポリペプチドを作成することを開示する。いくつかの実施態様において、少なくとも約100μgまたは少なくとも約1mg/体重Kg、少なくとも約2mg/kgまたは3mg/kg、4mg/kgまたは5mg/kgのあるいはそれより多い融合ポリペプチドが、人体に腹腔内送達され、投与された量の約0.01%が脳に局在化すると予想される。いくつかの実施態様において、融合ポリペプチドの治療的有効量は、少なくとも約0.5mg/体重Kgを含む。いくつかの実施態様において、全身投与は、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、経鼻、動脈内、経皮、または呼吸器投与である。
【0022】
本明細書中で用いられる「治療」もしくは「治療すること」は、治療的有用性および/または予防的有用性を実現することを含む。治療的有用性は、治療される基礎疾患または病態の根絶または改善を意味する。例えば、アルツハイマー病に罹患している個体において、治療的有用性は、疾患の進行を部分的あるいは完全に停止させること、あるいは疾患を部分的あるいは完全に反転させることを含む。また、治療的有用性は、基礎症状に関連する生理的または心理的症状の一つあるいは複数の根絶または改善より実現され、それにより患者が依然としてその病態の影響を受けているとしても、患者において改善が認められる。処置の予防的有用性は、病態の予防、病態の進行の遅延、(例えば、アルツハイマー病の進行の遅延)、または病態発症の可能性を低下させることを含む。本明細書中で用いられる「治療すること」または「治療」は、予防を含む。
【0023】
本明細書中で用いられる「治療蛋白質」は、融合ポリペプチドの治療活性蛋白質構成要素を意味する。
【0024】
本明細書中で用いられる「融合ポリペプチド」は、BBBを通過でき治療蛋白質に対し長時間持続する活性をもたらすことができるポリペプチドを創製するために複数の蛋白質構成要素が融合される、ポリペプチド構築物である。
【0025】
本明細書中で用いられる用語「有効量」は、全身性に投与された時に、中枢神経系における有益な、または所望の結果(有益な、または所望の臨床的結果、あるいは改善された認知、記憶、心的状態、または中枢神経系における他の所望の結果など)を達成するのに充分な量であってよい。有効量はまた、予防効果を生じる量であり、例えば、病理学的または望ましくない病態の出現を遅延する、低減する、あるいは回避する量である。そのような病態としては、神経変性が挙げられるが、これに限定されない。有効量は、単回投与あるいは複数回投与で投与されてよい。治療に関して、本発明の組成物の「有効量」は、疾患(例えば、神経障害)の進行を緩徐にする、軽減する、落ち着かせる、反転させる、あるいは遅延させるのに充分な量である。「有効量」は、単独で、あるいは疾病または疾患の治療に用いられる一つまたは複数の薬剤との併用で用いられる、何らかの本発明の組成物である。本発明の意味内での治療薬の「有効量」は、患者の主治医により決定される。そのような量は、当業者が容易に確定でき、本発明に従い投与される場合、治療効果を発揮する。治療的有効量に影響する因子としては、投与される融合ポリペプチドのアルツハイマー病特異的活性、その吸収特性(例えば、脳への取り込み率)、発症からの経過時間、および治療される個体の年齢、体調、他の病態の存在、および栄養状態が挙げられる。さらに、患者が受けている他の薬物治療は、投与する治療薬の治療的有効量の決定に影響を及ぼす。
【0026】
本明細書中で用いられる「対象」または「個体」は、動物、例えば哺乳動物である。いくつかの実施態様において、「対象」または「個体」は、ヒトである。いくつかの実施態様において、対象は、アルツハイマー病に罹患している。
【0027】
いくつかの実施態様において、融合ポリペプチドを含む医薬組成物は、「末梢に投与され」る、あるいは「末梢投与され」る。本明細書中で用いられるこれらの用語は、個体への、薬剤(例えば、治療薬)の任意の投与様式を指し、ここで投与は中枢神経系への直接投与ではない(すなわち、薬剤を血液脳関門の非脳側と接触させる)。本明細書中で用いられる「末梢投与」は、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、吸入、経頬、鼻腔内、直腸、経口、非経口、舌下、または経鼻を含む。
【0028】
本明細書において、「薬学的に許容され得る担体」または「薬学的に許容され得る賦形剤」は、組成物を受ける個体にとって害のある抗体の産生をそれ自体が誘導しない、任意の担体を指す。そのような担体は、当業者にとって周知である。薬学的に許容され得る担体/賦形剤に関する詳細な説明は、レミントンの薬剤科学(Gennaro、AR編、第20版、2000:WilliamsとWilkins PA、USA)に記載されている。薬学的に許容され得る担体の例としては、塩、例えば、鉱酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)および有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など)が挙げられる。例えば、本発明の組成物は、液体形態で提供されてよく、また0.01%~1%のポリソルベート80などの界面活性剤、あるいはマンニトール、ソルビトール、またはトレハロースなどの炭水化物添加剤を含むあるいは含まない、食塩水をベースにした異なるpH(5~8)の水溶液中で製剤化されてよい。通常用いられる緩衝剤としては、ヒスチジン、酢酸、リン酸、またはクエン酸が挙げられる。
【0029】
「組み換え宿主細胞」もしくは「宿主細胞」は、挿入のために用いられる方法(例えば、直接的取り込み、形質導入、F接合、あるいは組み換え宿主細胞を創製するための当該技術分野で公知の他の方法)に関わらず、外来性ポリヌクレオチドを含む細胞を指す。外来性ポリヌクレオチドは、非組み込み型ベクター、例えば、プラスミドとして維持されてよく、あるいは宿主のゲノムに組み込まれてよい。
【0030】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「蛋白質」は、本明細書において同義語として用いられて、アミノ酸残基のポリマーを指す。すなわち、ポリペプチドを対象とする説明は、ペプチドの説明および蛋白質の説明にも等しく用いられ、その逆も同様である。これらの用語は、天然に存在するアミノ酸のポリマー並びに、一つあるいは複数のアミノ酸残基が非天然のアミノ酸、例えば、アミノ酸類似体であるアミノ酸のポリマーに対しても用いられる。本明細書中で用いられる場合、これらの用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合により連結される、任意の長さのアミノ酸鎖(完全長の蛋白質を含む)を含む。
【0031】
用語「アミノ酸」は、天然および非天然のアミノ酸、並びに天然のアミノ酸に類似する様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然にコードされるアミノ酸は、20種類の一般的なアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン)、およびピロリジンおよびセレノシステインである。アミノ酸類似体は、天然のアミノ酸と同様の基本化学構造(すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合しているα炭素)を有する化合物(ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなど)を指す。そのような類似体は、修飾されたR基(ノルロイシンなど)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。
【0032】
アミノ酸は、よく知られているアミノ酸の三文字表記、あるいはIUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する一文字表記のいずれかにより本明細書中において参照される。ヌクレオチドも同様に、それらの一般に認められているヌクレオチドの一文字コードにより参照される。
【0033】
用語「核酸」は、単一鎖または二重鎖の形態でのデオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはリボヌクレオチド、およびそれらのポリマーを指す。他で特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有しかつ天然に存在するヌクレオチドに類似の様式で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を含む。
【0034】
融合ポリペプチドの各種ポリペプチド構成要素を連結する「リンカー」に関し、いくつかの実施態様において、リンカーは、任意の組み合わせまたは順序でグリシン、セリン、および/またはアラニン残基を含む。いくつかの場合において、リンカー中のグリシン、セリン、およびアラニン残基の合算%は、リンカー中の全残基数の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの好ましい実施態様において、リンカー中のグリシン、セリン、およびアラニン残基の合算%は、リンカー中の全残基数の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの実施態様において、任意の数のアミノ酸(天然または合成アミノ酸を含む)の組み合わせが、リンカーに用いられてよい。いくつかの実施態様において、3アミノ酸のリンカーが、用いられる。いくつかの実施態様において、リンカーは、Ser-Ser-Ser配列を有する。いくつかの実施態様においては、2アミノ酸のリンカーは、任意の組み合わせまたは順序でグリシン、セリン、および/またはアラニン残基を含む(例えば、Gly-Gly、Ser-Gly、Gly-Ser、Ser-Ser、Ala-Ala、Ser-Ala、またはAla-Serリンカー)。いくつかの実施態様において、2アミノ酸のリンカーは、1つのグリシン、セリン、および/またはアラニン残基と他の1つのアミノ酸から成る(例えば、Ser-Xであり、ここでXは任意の既知のアミノ酸である)。さらに別のいくつかの実施態様において、2アミノ酸のリンカーは、gly、ser、もしくはalaを除く、任意の2つのアミノ酸から成る(例えば、X-X)。
【0035】
いくつかの実施態様において、長さが2アミノ酸より長いリンカーが、用いられてよい。そのようなリンカーもまた、本明細書中でさらに説明されるように、任意の組み合わせまたは順序でグリシン、セリン、および/またはアラニン残基を含んでよい。いくつかの実施態様において、リンカーは、1つのグリシン、セリン、および/またはアラニン残基と他のアミノ酸から成る(例えば、Ser-nXであり、ここでXは任意の既知のアミノ酸であり、nはアミノ酸の数である)。さらに別のいくつかの実施態様において、リンカーは、任意の2アミノ酸から成る(例えば、X-X)。いくつかの実施態様において、任意の2アミノ酸は、任意の組み合わせまたは順序での、Gly、Ser、またはAlaであり、それらの間に可変数のアミノ酸が介在する。実施態様の一例において、リンカーは、少なくとも1つのGlyから成る。実施態様の一例において、リンカーは、少なくとも1つのSerから成る。実施態様の一例において、リンカーは、少なくとも1つのAlaから成る。いくつかの実施態様において、リンカーは、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のGly、Ser、および/またはAla残基から成る。好ましい実施態様において、リンカーは、任意の組み合わせまたは順序で、繰り返し配列中にGlyおよびSerを含む((GlySer)または他のバリエーションなど)。
【0036】
本発明での使用のためのリンカーは、当該技術分野で公知の任意の方法を利用して設計できる。例えば、融合蛋白質の操作において最適アミノ酸リンカーを決定するための、公的に入手可能なプログラムが複数存在する。ユーザーが入力した蛋白質の配列および所望のリンカー長に基づき最適リンカーのアミノ酸配列を自動的に生成する、公的に入手可能なコンピュータープログラム(LINKERプログラムなど)を、本発明の方法および組成物に利用してよい。多くの場合、そのようなプログラムは、蛋白質のサブドメインを連結する天然のリンカーにおいて観察される傾向を利用して、蛋白質工学で用いる最適な蛋白質リンカーを予測する。いくつかの場合、そのようなプログラムは、最適リンカーを予測する別の方法を用いる。
【0037】
ペプチドリンカー配列は、プロテアーゼによる切断部位を含んでよい。
【0038】
本明細書中で用いられる「活性」は、生理学的活性(例えば、BBBを通過する能力および/または治療的活性)または融合ポリペプチドで輸送される目的の蛋白質の酵素活性を含む。
【0039】
本発明の組成物は特に、注射に適する(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、または腹腔内投与の医薬組成物として)。本発明の水性組成物は、有効量の本発明の組成物を含み、それは、薬学的に許容し得る担体または水性媒体中に溶解または分散されてよい。「薬学的にまたは薬理学的に許容し得る」というフレーズは、必要に応じて、動物、例えば、ヒトに投与されたたときに、有害な、アレルギー性の、もしくは他の悪影響を及ぼす反応を生じない、分子実体または組成物を指す。本明細書中で用いられる「薬学的に許容し得る担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌よび抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性のある物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。いずれかの通常の媒体および薬剤が有効成分と不適合である場合を除いて、治療組成物におけるその使用が、検討される。補助的な有効成分を組成物中に加えることもできる。
【0040】
注射可能な組成物のための薬学的に許容され得る担体の例としては、塩、例えば、鉱酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)および有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など)が挙げられる。例えば、本発明の組成物は、液体形態で提供されてよく、また0.01%~1%のポリソルベート80などの界面活性剤、あるいはマンニトール、ソルビトール、またはトレハロースなどの炭水化物添加剤を含むあるいは含まない、食塩水をベースにした異なるpH(5~8)の水溶液中で製剤化されてよい。通常用いられる緩衝剤としては、ヒスチジン、酢酸、リン酸、またはクエン酸が挙げられる。通常の貯蔵および使用条件下で、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含んでよい。微生物作用は、各種の抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール;フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)により阻止できる。多くの場合、等張化剤(例えば、糖類または塩化ナトリウム)を含むことが好ましい。注射可能組成物の吸収延長は、組成物中で吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム、およびゼラチン)を使用することにより達成し得る。
【0041】
ヒトへの投与のために、製剤は、FDAおよび他の規制当局標準が要求するような無菌状態、発熱性、一般的安全性、および純度標準を満たす。活性化合物は通常、非経口投与用に製剤化される(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、病巣内、または腹腔内の経路による注射用に製剤化される)。活性要素または成分を含む水性組成物の調製は、当業者であれば本開示をもとに理解するであろう。典型的には、そのような組成物は、注射可能な製剤(溶液または懸濁液のいずれか)として調製され得る。注射前に液体を加えて溶液または懸濁液を調製することにおける使用に好適な固体形態もまた、調製でき、調製剤は、乳化されてもよい。
【0042】
無菌注射可能な溶液は、必要量の活性化合物を、上に列挙した様々な他の成分と共に適当な溶媒に組み込むことにより調製され、必要に応じて、その後フィルター滅菌される。一般的に、分散剤は、各種の滅菌活性成分を、基礎分散媒および上に列挙したものからの必要な他の成分を含む無菌媒体中に組み込むことにより調製される。無菌注射可能な溶液の調製のための無菌パウダーの場合、調製法は、あらかじめフィルター滅菌したその溶液から活性成分と任意の所望の付加的成分のパウダーを生成する、真空乾燥および凍結乾燥の技術を含む。
【0043】
製剤時に、溶液は、剤形と適合する様式でかつ本明細書中に記載の基準に基づき治療的に有効であるような量で、全身的に投与される。製剤は、上記の注射可能溶液のタイプなどの、様々な剤形で容易に投与されるが、薬剤放出カプセルなども用いてよい。
【0044】
投与される医薬組成物の適切な量、治療回数、および単位用量は、本明細書中に記載の融合ポリペプチドの中枢神経系取り込み特性および治療の対象(対象の状態と所望の効果)により異なる。いずれにしても、投与責任者が、対象毎に適切な用量を決定する。
【0045】
経口製剤は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤、または散剤の形態を取る。ある特定の実施態様において、経口医薬組成物は、不活性な希釈剤または同化可能な可食担体を含む、あるいは硬または軟ゼラチンカプセルに封入されてよく、あるいは錠剤へと圧縮されてよく、あるいは食事の食物と直接組み合わされてよい。経口治療投与のために、活性化合物は、賦形剤と組み合わされ、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態で用いられてよい。そのような組成物および製剤は、少なくとも0.1%の活性成分を含んでよい。組成物および製剤のパーセンテージは、勿論、変更され、便宜的には1ユニットの重量にして約2%~約75%、または約25%~60%の範囲であってよい。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な用量が得られる量である。
【0046】
錠剤、トローチ、丸薬、カプセル剤などは、以下のものをさらに含んでよい:トラガントガム、アカシアゴム、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウムなどの賦形剤:コーンスターチ、ジャガイモでんぷん、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;およびショ糖、乳糖またはサッカリンなどの甘味剤が添加されてよく、あるいはペパーミント、冬緑油、またはチェリー香味剤などの矯味矯臭剤が添加されてよい。単位用量形態がカプセル剤の場合、それは、上記の種類の材料に加えて、液体性担体を含んでよい。他の各種材料がコーティング剤として存在してよく、あるいは単位剤形の物理的形状を変更するために存在してよい。例えば、錠剤、丸薬、またはカプセル剤は、シェラック、砂糖またはその両方でコートされていてもよい。エリキシル剤のシロップは、活性化合物、甘味剤としてショ糖、防腐剤としてメチレンおよびプロピルパラベン、チェリーまたはオレンジフレイバーなどの着色剤および矯味矯臭剤を含んでよい。いくつかの実施態様において、経口医薬組成物は、活性成分を胃の環境から保護するために腸溶性コートされてよく、腸溶性コーティングの方法と製剤化は、当該技術分野で周知である。
【0047】
2重作用性治療(DAT)
本発明は、患者に対して2重作用性を有する、本明細書に記載の構築物を投与することにより、中枢神経系疾患、特に、アルツハイマー病を治療する方法を対象とする。そのような2重作用性治療は、脳において(i)アミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる分子および/または(ii)過剰リン酸化タウのレベルを低下させる分子、を発現する構築物を投与することを含む。両方の構成要素が、単一の構築物から発現されてよい。
【0048】
あるいは、本発明は、複数の構築物を投与することによる中枢神経系疾患、特に、アルツハイマー病を治療する方法も対象とし、ここで各構築物は、脳において(i)アミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させるおよび/または(ii)過剰リン酸化タウのレベルを低下させる分子のいずれかを含む。そのような構築物は、共投与されよく、または逐次投与されてよく、それにより患者に対し2重作用性を示す。そのような2重作用性治療は、本明細書に記載されるような、脳において(i)アミロイドベータ(Abeta)沈着を減少させる、および/または(ii)過剰リン酸化タウのレベルを低下させる分子を提供することを含む。
【0049】
AL04の活性
アミロイドベータの蓄積は、アルツハイマー病の発症中の神経機能障害や神経細胞脱落にしばしば関係づけられている(Hensley、1994)。本研究において、本発明者らはまず、ヒト血清アルブミン融合蛋白質(AL04、CysC-HSA-dTAT)がPC12細胞をAβ1-42誘導毒性から保護し得るか否かを調べた。本発明者らの結果は、10μMのAβ1-42が細胞生存率を有意に低下させたことを示した。
【0050】
第2の一連の実験において、本発明者らは、PC12細胞をNGFに供し、それらが分化した後、細胞を、AL04の存在下または非存在下で72時間、Aβ1-42で処理した。未分化細胞で観察されたように、AL04は、Aβ1-42の存在下で有意な保護効果を発揮した。しかし、保護率(パーセンテージ)は、分化PC12細胞がAβ1-42に対し、より低い感受性を示すため、未分化細胞の場合より低かった。
【0051】
臨床利用から前臨床試験まで、アルツハイマー病治療に用いられるいくつかの薬剤は、輸送系を活用することが知られている。アルツハイマー病治療に承認された薬剤のわずか2群の1つである、ドネペジル(Donepezil)および、おそらく他のコリンエステラーゼ阻害剤は、有機陽イオン輸送体(コリンの輸送体である可能性が最も高い)によりBBBを越えて輸送される(Kang、2005;Kim、2010))。BBB浸透がアルツハイマー病治療の治療生体分子の重要因子であるか否かという概念の実証として、本発明者らは初めて本明細書において、HIV-1トランス作用性トランスクリプター(dTAT)ペプチドの縦列反復配列を含むHSAを基盤とした治療生体分子、およびインビトロ・ヒトBBBモデルにおけるその効果を報告する。本発明者らは、dTATが、BBBを越える高分子量蛋白質の送達を促進する役割を果たすことを、発見した。
【0052】
本発明者らのHSA融合基盤の利点は、下記のように列挙できる: (1)HSAは、送達シャトルにpH依存性FcRn再循環/トランスサイトーシスを付与し、その結果インビボでの大幅に延長された循環系滞留時間を有する(Sand、2015);(2)中枢神経系に進入するdTATの機序は主に、密着結合蛋白質の発現を低下させる、およびその分布あるいはdTATと内皮細胞表面のへパラン硫酸プロテオグリカンの間の相互作用を変化させることによる、BBBの一時的破壊である(Andras、2005;Xu、2012;Zhong、2012;Toschi、2001);(3)構築物中のモデル蛋白質コアは、任意の種類の活性蛋白質により置換されてよく、このような活性蛋白質としては、シスタチンC(CysC)、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、クロモゾーム10のホスファターゼおよびテンシン類似体(phosphatase and tensin homolog on chromosome ten;Pten)、終末糖化産物に対する可溶性受容体(sRAGE)、またはミエリン塩基性蛋白質(MBP)が挙げられ、これらは、送達系にアルツハイマー病および他の中枢神経系疾患に対する付加的な治療効果を付与する(Sundelof、2008;van Kasteren、2011;Basurto-Islas、2013;Tizon、2010;Sagare、2013;Zhao、2016;Zhang、2006;Zong、2010;Liao、2009)。
【0053】
要約すると、本発明者らは初めて、AL04などのdTATを有するヒト血清アルブミン融合蛋白質が、Aβ1-42処理したPC12細胞において有害効果に対する阻害効果を発揮することを、明らかにした。本発明者らは、AL04のdTATが、インビトロ・モデル・ヒトBBBを通過する高分子量蛋白質の送達を促進する役割を果たすこと、およびそれがインビボ・モデルの代替として概念実証の有用なツールであることを、見いだした。ヒト血清アルブミン融合蛋白質が、神経保護および血液脳関門透過性を有意に改善でき、したがってアルツハイマー病治療の薬剤開発に関する有用な基盤を提供することが、示される。
【0054】
AL04の読み枠は、以下の核酸配列(2211塩基)およびアミノ酸配列(737アミノ酸残基)を有する。

tccagccctggcaagccccctcgcctggtgggcggccccatggacgccagcgtggaggaggagggcgtga
ggcgggctctggacttcgccgtgggcgagtacaacaaggcctccaatgatatgtatcactctagggctct
gcaggtggtgagagcccgcaagcagatcgtggctggcgtgaactacttcctggatgtggagctgggcagg
accacatgcaccaagacacagccaaacctggacaattgtccttttcacgatcagccacatctgaagcgga
aggccttctgctcttttcagatctatgctgtgccctggcagggcaccatgacactgtctaagtccacctg
tcaggacgctggcggctccgctagcgatgctcacaagtctgaggtggcccataggttcaaggacctgggc
gaggagaactttaaggccctggtgctgatcgctttcgcccagtacctgcagcagtgcccttttgaggacc
acgtgaagctggtgaacgaggtgaccgagttcgctaagacatgcgtggctgacgagagcgccgagaattg
tgataagtctctgcataccctgtttggcgataagctgtgcaccgtggccacactgagagagacatatggc
gagatggctgactgctgtgccaagcaggagccagagcgcaacgagtgcttcctgcagcacaaggacgata
accccaatctgcctagactggtgcgcccagaggtggacgtgatgtgcaccgctttccacgataatgagga
gacatttctgaagaagtacctgtatgagatcgccaggcggcatccttacttttatgctccagagctgctg
ttctttgccaagagatacaaggccgctttcaccgagtgctgtcaggccgctgataaggccgcttgcctgc
tgcccaagctggacgagctgagagatgagggcaaggcttccagcgccaagcagcgcctgaagtgtgcttc
cctgcagaagttcggcgagagagcctttaaggcttgggctgtggctaggctgagccagcggttccctaag
gctgagtttgccgaggtgtctaagctggtgaccgacctgacaaaggtgcacaccgagtgctgtcatggcg
acctgctggagtgcgccgacgatagggctgatctggccaagtacatctgtgagaaccaggactctatctc
ttccaagctgaaggagtgctgtgagaagccactgctggagaagtcccattgcatcgctgaggtggagaac
gacgagatgccagctgatctgccctccctggccgctgactttgtggagagcaaggacgtgtgcaagaatt
acgccgaggctaaggacgtgttcctgggcatgtttctgtacgagtatgctagacgccaccctgactacag
cgtggtgctgctgctgagactggccaagacctatgagaccacactggagaagtgctgtgccgctgccgat
ccacatgagtgctatgctaaggtgttcgacgagtttaagcccctggtggaggagcctcagaacctgatca
agcagaattgtgagctgtttgagcagctgggcgagtacaagttccagaacgccctgctggtgcgctatac
aaagaaggtgccacaggtgtctacccccacactggtggaggtgtccaggaatctgggcaaggtcggcagc
aagtgctgtaagcaccctgaggctaagcggatgccatgcgccgaggattacctgtccgtggtgctgaatc
agctgtgcgtgctgcatgagaagaccccagtgagcgacagggtgaccaagtgctgtacagagtctctggt
gaacaggcggccctgcttttccgctctggaggtggatgagacatatgtgcctaaggagttcaatgctgag
accttcacatttcacgccgacatctgtaccctgagcgagaaggagcggcagatcaagaagcagacagccc
tggtggagctggtgaagcataagcccaaggctaccaaggagcagctgaaggccgtgatggacgatttcgc
tgcctttgtggagaagtgctgtaaggctgacgataaggagacatgctttgccgaggagggcaagaagctg
gtggctgcctctcaggctgccctgggactgggcttcctgggatacgctaggaaggctgctaggcaggccc
gggcttatgctaggaaggctgctagacaggctcgcgccggc (配列番号5)

AL04のアミノ酸配列(737アミノ酸)

SSPGKPPRLVGGPMDASVEEEGVRRLDFAVGEYNKASNDMYHSRLQVVRRKQIVAGV
NYFLDVELGRTTCTKTQPNLDNCPFHDQPHLKRKAFCSFQIYAVPWQGTMTLSKSTCQDA
GGSASDAHKSEVAHRFKDLGEENFKALVLIAFAQYLQQCPFEDHVKLVNEVTEFAKTCVA
DESAENCDKSLHTLFGDKLCTVATLRETYGEMADCCAKQEPERNECFLQHKDDNPNLPRL
VRPEVDVMCTAFHDNEETFLKKYLYEIARRHPYFYAPELLFFAKRYKAFTECCQADKA
ACLLPKLDELRDEGKASSAKQRLKCASLQKFGERFKAWAVARLSQRFPKAEFAEVSKLV
TDLTKVHTECCHGDLLECADDRDLAKYICENQDSISSKLKECCEKPLLEKSHCIAEVEN
DEMPADLPSLADFVESKDVCKNYAEAKDVFLGMFLYEYARRHPDYSVVLLLRLAKTYET
TLEKCCWDPHECYAKVFDEFKPLVEEPQNL IKQNCELFEQLGEYKFQNALLVRYTKKV
PQVSTPTLVEVSRNLGKVGSKCCKHPEAKPJVIPCAEDYLSVVLNQLCVLHEKTPVSDRVTK
CCTESLVNRRPCFSALEVDETYVPKEFNAETFTFHADICTLSEKERQIKKQTALVELVKH
KPKATKEQLKAVMDDFAFVEKCCKADDKEICFAEEGKKLVASQALGLGFLGYARKA
RQARYARKARQARG (配列番号6)
【0055】
本研究において、本発明者らは、PC12細胞におけるAβ1-42誘導毒性を改善するだけでなくリン酸化タウのレベルも低下させる、AL04の治療的可能性を調べた。PC12細胞株は、アルツハイマー病における神経損傷および神経毒性を評価する一般的インビトロ・モデルとして利用されてきた。さらに、PC12細胞は、ハイスループットを提供しかつ成熟神経表現型を保持できる(Tan、1999)。神経成長因子(NGF)に誘導されるPC12細胞の生化学と形態は、ニューロンに類似しており、PC12細胞は、Aβペプチドに対し、またNGF欠乏状態に対しても特に感受性が高い。さらに、複数の報告は、Aβ1-42がPC12細胞において細胞毒性および細胞死を誘導するのみならず、ROSの過剰産生とミトコンドリア機能不全も引き起こすことを示唆している(Hensley、1994)。したがって、本発明者らの実験で用いられるPC12細胞は、AL04が、Aβが誘導する細胞毒性およびNGF欠乏に対する保護を提供するか否かを明らかにするための妥当なアプローチを提供する。
【0056】
HSAは、血液中を循環する最も豊富な蛋白質の一つである。HSAは、血流中で半減期が長いこと、毒性がないこと、および細胞内取り込みが容易であるため、治療薬の担体蛋白質として利用されている(Chaudhury、2003;Andersen、2014)。本発明者らは、シスタチンC(CysC)、低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1クラスターIV(LRP1-C4)、クロモゾーム10のホスファターゼおよびテンシン類似体(phosphatase and tensin homolog on chromosome ten;Pten)、終末糖化産物受容体の可溶型(sRAGE)、ミエリン塩基性蛋白質(MBP)などを含む10種を超える対象蛋白質(proteins of interest)(POI)を選択し、これらは、細線維形成の阻止によりAβ除去またはp-タウ減少のいずれかにおいて重要な役割を果たし、クリアランスを促進できるであろう。HSA融合蛋白質産生細胞株を開発するために、本発明者らは、HSA融合蛋白質(AL04、CysC-HSA-dTAT)および選択マーカーであるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を含む発現ベクターpOptivec(Invitrogen)を構築した。安定に形質導入されたDHFR欠損細胞(DG44細胞)およびメトトレキサート(MTX;DHFR阻害剤)で増幅した細胞のプールを、作成した。本発明者らは、精製したAL04蛋白質を用いて概念実証を試験した。AL04は、褐色細胞腫(PC12)細胞においてAβ誘導細胞死を低減し、NGF欠乏で誘導されるタウ過剰リン酸化を減少させ、内在性タウ-チューブリン相互作用を改善した。本発明者らは、細胞系のインビトロ・ヒトBBBモデルを利用して、血液脳関門を通る高分子量蛋白質AL04(80KDa)の透過性を評価した。このBBBを通過するヒト血清アルブミン融合蛋白質基盤は、アルツハイマー病治療の薬剤開発に有用である。
【0057】
HSA融合蛋白質の治療効果は、細胞中への融合蛋白質の良好な送達に依存する。本発明者らは、ヒト血清アルブミン融合蛋白質(AL04、CysC-HSA-CPP;AL12、RAGE(V)-HSA-SIRTl(エクソン4)-CPP)が、分化したPC12細胞内へ浸透し得るかを調べた。本発明者らは、異なるバージョンのHSA融合蛋白質(AL04またはAL12)が容易にPC12細胞内へ浸透し、またそれらの生物学的活性を効果的に細胞内へ送達できることを明らかにした。
【0058】
本研究において、本発明者らは、NGF欠乏下で、NGF欠乏が誘導するタウの過剰リン酸化におけるヒト血清アルブミン融合治療薬(AL04)の役割を調べるために、分化したPC12細胞を用いた。未分化PC12細胞において、タウは低いレベルで発現され、一方でNGFによる刺激は、3日間の処理後に始まるタウの発現の増加をもたらした(Drubin、1985;Hanemaaijer、1991)。タウは、NGF誘導軸索伸張の後期段階における微小管安定化に必要であることが知られている(Brandt、1995;Hanemaaijer、1991)。Thr205位およびThr231位でリン酸化されたタウ(p-タウ)の量がアルツハイマー病の脳およびマウスのモデルで増加することが、報告されている(Wang、2013)。本発明者らは、AL04処置が、PC12細胞においてNGF欠乏が誘導するタウ過剰リン酸化を低減するか否かを調べた。本発明者らは、p-タウSer202/Thr205およびp-タウThr231のレベルがNGF欠乏PC12細胞においてかなり増加することを、観察した(非提示データ)。AL04の存在下で、本発明者らは、Ser202位、Thr205位、およびThr231位でリン酸化されたタウのレベルが劇的に低下することを、観察した。PP2A活性が、活性化I2PP2A断片とPP2Aの触媒サブユニットの相互作用により阻害されることが、報告されている(Arnaud、2011)。AL04処置が約20kDaのI2PP2A断片のレベル、さらにはp-タウSer202/Thr205およびp-タウThr231のレベルも低下させるので、これらの結果は、AL04(シスタチンCを含む)がI2PP2Aの下方制御を通じてタウの脱リン酸化に関連するPP2A活性の制御に影響を与えることを、示唆している。
【0059】
本明細書中に記載のタウ蛋白質に関する変異部位は、下の配列番号7のものである。
【0060】
ヒト・タウ:微小管結合タウ蛋白質イソ型2(NCBI参照配列:NP_005901.2)、441アミノ酸
MAEPRQEFEVMEDHAGTYGLGDRKDQGGYTMHQDQEGDTDAGLKESPLQT
PTEDGSEEPGSETSDAKSTPTAEDVTAPLVDEGAPGKQAAAQPHTEIPEGTTAEEAGIGD
TPSLEDEAAGHVTQARMVSKSKDGTGSDDKKAKGADGKTKIATPRGAAPPGQKGQAN
ATRIPAKTPPAPKTPPSSGEPPKSGDRSGYSSPGSPGTPGSRSRTPSLPTPPTREPKKVAVV
RTPPKSPSSAKSRLQTAPVPMPDLKNVKSKIGSTENLKHQPGGGKVQIINKKLDLSNVQS
KCGSKDNIKHVPGGGSVQIVYKPVDLSKVTSKCGSLGNIHHKPGGGQVEVKSEKLDFK
DRVQSKIGSLDNITHVPGGGNKKIETHKLTFRENAKAKTDHGAEIVYKSPVVSGDTSPR
HLSNVSSTGSIDMVDSPQLATLADEVSASLAKQGL (配列番号7)
【0061】
複数の研究が、タウの主要部位のリン酸化はタウの正常機能に強い影響を与え、かつその病理学的役割に寄与する可能性があるという証拠を提示している(Ksiezak-Reding、1992;Augustinack、2002)。Thr-231位でのタウのリン酸化が、微小管に対するその親和性を低下させることも示されている(Cho、2004;Sengupta、1998;Lin、2007)。本発明者らは、AL04処置が、リン酸化タウレベルを低下させることにより微小管-タウ相互作用を安定化させることも観察している。本発明者らの研究はAL04処置に伴うタウのリン酸化低減の原因となるシグナル伝達経路を明らかにしないが、一見したところAMPK活性の阻害により媒介され、AL04での処置は、インビボでタウ凝集とタングル形成を阻害する。最新報告において、本発明者らは、AL04処置からのリン酸化ULK1(Unc51様キナーゼ1、Ser555位)の減少を観察し、このことは、AL04がAMPKシグナル伝達経路を通じて自食作用を制御する可能性を示唆する。AMPKは、自食作用を開始させる蛋白質キナーゼのリン酸化により自食作用の活性化を直接的に媒介し、その直接の基質(ULK1のS555位を含む)をリン酸化することが、報告されている(Egan、2011;Kim、2011)。
【0062】
結論として、本発明者らの所見は、AL04が、NGF欠乏状態下におけるリン酸化タウの減少に対する有意な保護効果を有することを示している。これらのインビトロ研究によれば、AL04の保護効果は、タウキナーゼ活性(AMPK)、PP2A活性を調節すること、およびタウ-チューブリン相互作用を安定化することを介している可能性がある。タウキナーゼおよびPP2Aはアルツハイマー病におけるNFT形成に重要な役割を演じるので、これらのデータは、AL04がタウのリン酸化を変更し、それによりアルツハイマー病の脳におけるNFT蓄積に潜在的に影響を与え得ることを示唆している。
【0063】
本明細書中に記載のように、治療的有効量の融合ポリペプチドを全身的に投与することによりBBBを越えて中枢神経系に有効用量の治療ポリペプチドを送達するための方法が、本明細書に記載される。融合ポリペプチドの送達に適した全身用量は、本明細書中に記載のように、その中枢神経系取り込み特性およびその比活性に基づく。治療蛋白質の欠損に苦しむ対象への融合ポリペプチドの全身的投与は、中枢神経系への治療蛋白質の非侵襲的送達への効果的なアプローチである。
【0064】
融合ポリペプチドの治療的有効全身用量である融合ポリペプチド量は、本明細書中に記載のように、部分的には、投与される融合ポリペプチドの中枢神経系取り込み特性(例えば、中枢神経系で取り込まれる全身的に投与される用量のパーセンテージ)に依存する。
【0065】
いくつかの実施態様において、全身的に投与された融合ポリペプチドの1%(つまり、約0.3%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、3%、または約0.3%~約3%の範囲のいずれかの%)が、BBBを越えて末梢血から取り込まれた結果として脳に送達される。いくつかの実施態様において、全身的に投与された融合ポリペプチド用量の少なくとも0.5%,(つまり、約0.3%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、3%、または約0.3%~約3%の範囲のいずれかの%)が、全身的投与後の2時間以内に、またはそれより短い時間で、つまり、1.8、1.7、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、0.9、0.8、0.6、0.5、もしくは約0.5~約2時間の他の期間で脳に送達される。
【0066】
したがって、いくつかの実施態様において、本発明は、BBBを越える融合ポリペプチドの量が、少なくとも3ngの治療蛋白質/対象の脳における蛋白質mg(例えば、3、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、または3~50ngの他の任意の値(ng)の治療蛋白質/対象の脳における蛋白質mg)であるように、治療的有効量の融合ポリペプチドを全身的に投与する方法を提供する。
【0067】
一局面において、100μgのAL04がマウスに投与される場合、BBB浸透率が0.01%であると仮定すれば、10ngのAL04がマウス脳の蛋白40 mgに送達され得、ここでマウス脳の重量は400mgであり、その総蛋白質量は40mgである。これを、ヒトに外挿することもできる。
【0068】
いくつかの実施態様において、治療的に有効な全身性用量は、脳当たり少なくとも50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500ユニット、あるいは脳当たり約50~2500ユニットの治療蛋白質活性の任意の他の全身性用量値を含む。
【0069】
他のいくつかの実施態様において、治療的に有効な全身性用量は、体重Kg当たり少なくとも約10ユニットの治療蛋白質活性、少なくとも約10、12、15、18、25、30、50、75、100、150、200、250ユニット、あるいは任意の他のユニット数を含む。
【0070】
当業者であれば、融合ポリペプチドの治療的に有効な全身性用量の総量は、部分的に、その比活性に依存することを理解するであろう。いくつかの実施態様において、融合ポリペプチドの比活性は、蛋白質mg当たり少なくとも10U、少なくとも約10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50U、もしくは約10ユニット~約50ユニットの任意の他の比活性値である。
【0071】
したがって、融合ポリペプチドの比活性および治療される対象の体重を考慮すれば、融合ポリペプチドの全身性用量は、少なくとも5mg、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、100、125、または約5mg~約125mgの融合ポリペプチドの任意の他の値であり得る。
【0072】
本明細書中で用いられる用語「全身的投与」または「末梢投与」は、中枢神経系へ直接投与されない(つまり、物理的浸透またはBBBの破壊を含まない)任意の投与法を含む。「全身的投与」としては、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、経頬、経皮、直腸、経肺胞(吸入)、または経口投与が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に記載されるように、任意の適切な融合ポリペプチドを利用できる。
【0073】
融合ポリペプチドは、併用療法の一部として投与されてよい。併用療法は、アルツハイマー病に罹患した患者において典型的に見られる症状を治療する、または軽減するための他の療法と組み合わせた、本発明の組成物の投与を含む。本発明の組成物が、中枢神経系疾患についての他の方法または組成物と組み合わせて利用される場合、本発明の組成物および付加的な方法または組成物の任意の組み合わせを用いてよい。したがって、例えば、本発明の組成物の利用が、中枢神経系疾患の他の治療薬剤と組み合わされるならば、両者は、同時に、連続的に、時間的に重複して、類似の頻度で、同じ頻度で、または異なる頻度などで、投与されてよい。いくつかの場合では、中枢神経系疾患治療の他の薬剤の1つまたはそれ以上と本発明の組成物を組み合わせて含む組成物を用いる。
【0074】
いくつかの実施態様において、組成物(例えば、融合ポリペプチド)は、同じ製剤内であるいは個別の組成物としてのいずれかで、他の医薬と共に患者に共投与される。
【0075】
本発明はその範囲において、本明細書中に記載の特定の実施態様によって限定を受けるものではない。実際に、本明細書中に記載のものに加えて本発明の様々な変更は、当業者にとっては上述の説明および付属する図面から明らかであろう。そのような変更は、付属する特許請求の範囲に含まれるものと解される。以下の実施例は本発明を具体的に説明する目的で示されるものであって、限定するものではない。
【0076】
実施例
実施例1:ヒト血清アルブミン(HSA)融合蛋白質を発現するpOptivectorの構築
プラスミドpOptiVec(Invitrogen、USA)を、発現ベクターとして用いた。コドン最適化合成遺伝子cDNA配列を、Genescriptに注文した;これらの配列は以下である:ヒト血清アルブミン(NM_000477)、対象蛋白質:MOA1またはMOA2として、シスタチンC、NM_000099.3;Pten-long、NM_001304718;終末糖化産物受容体 (RAGE)、NM_001136.4;ヒト転写因子EB(TFEB)、NM_007162.2;SIR1_ヒトNAD依存性蛋白質脱アセチル化酵サーチュイン-1(SIRT1)、NM_012238.5、およびCPPとしてdTAT(タンデムリピートTAT、UniProt-P04608のTAT HV1H2)。プラスミドを、制限酵素XbaI、NheIおよびNotI(Thermo、USA)で処理した。DNA断片の分離を、0.8%アガロースゲルでの電気泳動により行った。本発明者らは、ゲルからのDNA断片溶出に サーモ・ゲル抽出キット(Thermo gel extraction kit(Thermo、USA))を使用した。次に、生成した断片を、T4DNAリガーゼ(T4 DNA ligase(NEB、USA))で互いにつなぎ合わせて、発現ベクターpOptiVec-AL000を作成した。
【0077】
本発明者らは、高純度の単離プラスミドDNAの形質導入に、プラスミド・ミディ・キット(Plasmid Midi kit(Thermo、USA))を利用した。発現ベクターの適正な構築を、制限酵素分析により確認した。遺伝子およびその隣接領域の両方のヌクレオチド配列を、配列決定(Genewiz、USA)により確認した。
【0078】
実施例2:CHO-DG44細胞株の培養
細胞培養を、温度37℃および湿度95%にて、8%のCO雰囲気中、速度125rpmで作動するCOインキュベーターにおいて、125mLの三角フラスコ中で行った。再播種を、0.3~0.5x10細胞/mLの密度に、3~4日毎に行った。本発明者らは、8mMのL-グルタミンを添加したCD-DG44(Life technologies、USA)血清不含培地を用いた。細胞数計測および細胞生存率分析を、自動細胞計数装置、Cellometer AutoT4(Nexcelom Bioscience、USA)を用いてトリパンブルーでの染色後に行った。
【0079】
実施例3:安定細胞株の開発
形質導入に先立ち、発現ベクタープラスミドを、制限酵素FspI(Thermo、USA)を用いて直線状にした。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損CHO-DG44細胞株を、FreeStyle MAX試薬プロトコール(Invitrogen、USA)に従い、直線状pOptiVec-AL000で形質導入した。形質導入72時間後、形質導入細胞を、8mMのL-グルタミンを含むCD OptiCHO(登録商標)(Life technologies、USA)培地(完全選択培地)を用いてヒポキサンチンとチミジン(HT)の非存在下での増殖について選択した。選択培地を、選択細胞の生存率が90%より高くなるまで0.5x10細胞/mLの密度で3~4日毎に交換し、その後、250nMから2μMまでの段階的に増加させた濃度のメトトレキサート(MTX)を含む完全培地中で2~3回のゲノム増幅を行った。HSA融合蛋白質産生を、ヒトアルブミン定量ELISAキット(Bethyl Laboratory、USA)およびSDS-PAGEを用いて選択/増幅培地での培養の最後に調べた。
【0080】
実施例4:AL04のフラスコ振盪培養
2000nMのMTXで増幅した細胞を、0.5x10細胞/mlの生細胞密度で、8mMのL-グルタミンを含む150mlのCD OptiCHO(登録商標)培地(Life technologies、USA)を含む500ml使い捨て三角フラスコで、それらの生存率が90%より高くなるまで培養した。細胞密度および細胞生存率を、トリパンブルー色素排除法で自動細胞計測装置、Cellometer AutoT4(Nexcelom Bioscience、USA)を用いて1日おきに測定した。10日目もしくは細胞生存率が90%より低下した時点で、培養物を、蛋白質精製のために収集した。
【0081】
実施例5:AL04の精製
CHO-DG44細胞から分泌されたヒト血清アルブミン融合蛋白質を含む培地を、濾過(0.2μmフィルター)した後、ブルーダイ親和性クロマトグラフィー、次いでイオン交換カラムクロマトグラフィーにより精製した。簡単に説明すると、濾過融合蛋白質を含む培地を、0.05M Tris緩衝液(pH 8.0)で平衡化したブルーHPカラム(GE)に添加した。このカラムを、平衡化緩衝液で洗浄して非結合蛋白質を除去し、結合した融合蛋白質を、カラム容積の10倍容量の溶出緩衝液(0.05M Tris、pH 8.0+1.0M NaCl)で溶出した。溶出画分を、カットオフ分子量40kDaの遠心脱塩カラム(Pierce)を用いて脱塩した。さらなる精製のために、オン交換カラムクロマトグラフィー(HiTrap QFF(GE))を行った。メーカーの説明書にしたがい、融合蛋白質を含む画分を集め、PBS中で透析した。精製した蛋白質を、SDS-PAGEで分析し、それは90%を超える純度であった。ヒト血清アルブミン融合蛋白質を次に、フィルター(0.2μm)濾過で滅菌し、-80°Cで保存した。蛋白質濃度を、ブラッドフォード法(Thermo)で決定した。
【0082】
実施例6:ヒトアルブミンのELISA定量
96穴ELISAプレート(Bethyl laboratory、USA)を、重炭酸ナトリウムコーティング緩衝液(pH9.0)で1:100に希釈した精製ヤギ抗ヒトアルブミン・コーティング抗体(Bethyl laboratory、USA)で4℃にて一晩コートした。ブロッキングを、1時間TBS緩衝液中で調製した1%ウシ血清アルブミンを用いて行った。インキュベーション後、プレートを、tween-20を含むトリス緩衝食塩水(TBST)で5回洗浄し、試料と対照を、試料緩衝液(1%BSAを含むTBS緩衝液)で希釈し、100μLの各試料を、コートしたウェルに直接添加した。検量線を、試料緩衝液で希釈した基準ヒト血清(Bethylの供給)を用いて、6.5、12.5、25、50、100、200、および400ng/mLで作成した。マイクロプレートを、室温で1時間100μLの希釈試料と標準を添加して、インキュベートした。次に、プレートを、TBST緩衝液で5回洗浄し、試料緩衝液で1:100000希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトアルブミン検出抗体(Bethyl)100μLとインキュベートした。マイクロプレートを、1時間、インキュベートした。プレートを5回洗浄した後、l00μlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質(Bethyl)を加え、プレートを、15分間、室温で暗所にて呈色させ、反応を、ELISA停止溶液(Bethyl)で停止させた。最後に、吸光度を、プレートリーダー(BioTEK)で450nmにて測定した。各測定を、3重で行い、AL04(CysC-HSA-dTAT)蛋白質濃度を、検量線の直線部から内挿した。
【0083】
実施例7:LC-MS/MS分析の準備
8μgの精製AL04(CysC-HSA-dTAT)蛋白質を、4%~12%勾配ゲル(Life Technologies)に添加した。ゲルをクマシーブリリアントブルーG-250(Thermo)で染色し水ですすいだ後、AL04(CysC-HSA-dTAT)蛋白質のバンドを、LC-MS/MSによる蛋白質同定/分析(BioSyn)用にゲルから切り出した。N末端配列決定用試料の準備として、電気泳動完了後に、蛋白質ブロッティングを、10%メタノールを含むNuPAGE転写緩衝液中で100V、90分間、0.22μmのPVDF膜(Bio-Rad)に転写することにより行った。転写したPVDF膜を、DDHOで3回洗浄し、ポンソーS(Bio-Rad)で染色し、次いでDDHO中で脱色した。染色したAL04(CysC-HSA-dTAT)蛋白質バンドを、N末端配列決定(BioSyn、USA)用に膜から切り出した。
【0084】
実施例8:PC12細胞のAβ1-42に関する毒性アッセイ
Aβ1-42(AnaSpec、USA)を、0.1%NHOHを含むDPBSに溶解して、1mMストック溶液とした。一部を-80℃で保存し、ペプチド凝集のために37℃で3日間、予備インキュベート(エージング処理)した。
【0085】
ラット褐色細胞腫細胞株(PC12)は、古典的なインビトロ神経内分泌細胞モデルである。初代神経細胞と異なり、未分化PC12細胞は、生存に神経成長因子(NGF)を必要としないが、非常に長い軸索の伸張を生じることにより、および他の神経特異的変化(コリン作動性受容体の発現増加など)を起こすことによりそれに応答する(Jumblatt、1982;Amy、1983)。NGF処理したPC12細胞は、多くの分化神経細胞的特徴を示す。PC12細胞を、10%(v/v)熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)、5%(v/v)熱不活化馬血清(HS)および1%(v/v)ペニシリンおよびストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Gibco)中で培養した後、加湿5%CO雰囲気下にて37℃で培養した。細胞を、集めて各種の実験に用いた、あるいはそれらが80%プレート表面被覆率(コンフルエンス)に達すると継代した。実験前に、PC12細胞を、ポリ-D-リジンで予めコートした96穴プレートの100μl中にウェル当たり15000の細胞数で播種して、細胞をプレートのウェルに付着させた。未分化細胞での実験では、96穴プレートを用い、薬剤処理を、細胞播種24時間後直ちに開始した。NGF刺激した(神経分化した)PC12細胞を、1%馬血清および100ng/ml NGF(Sigma、USA)を含むDMEM培地中で少なくとも6日間増殖させた。Aβ1-42媒介毒性効果を、WST-8還元アッセイ(Dojindo Molecular Technologies、USA)を用いて調べた。簡単に説明すると、細胞を、異なるAL04濃度(0、0.01、0.1、1、および10μM)でのAL04および/またはAβ1-42(10μM)の非存在下または存在下において、37℃でさらに3日間処置した。このインキュベーション期間後に、10μlのWST-8ストック溶液を添加し、インキュベーションを、さらに3~4時間継続した。生細胞中のデヒドロゲナーゼ活性により生成されたWST-8-ホルマザンのA450を、マイクロプレートリーダー(BioTEK、USA)を用いて測定した(対照波長:630nm)。
【0086】
実施例9:AL04のBBB透過性アッセイ
インビトロ・ヒトBBBモデル(Neuromics、USA)を、初代ヒト脳内皮細胞(HBEC)、ヒト脳周皮細胞(HBPC)、およびヒト脳星状膠細胞(HBAC)の共培養を用いることにより確立した。インビトロ・ヒトBBBモデルキットは、2つの側面(管腔側、血液側/反管腔側、脳側)を有し12個のトランスウェル・インサート(ポリエステル膜、0.4μm孔、直径12mm、インサートの増殖面積:1.12cm)から成る。HBPCを、インサートの底面側で培養し、HBECを、インサートの上面側上で単層にし、HBACを、12ウェル培養プレート(Neuromics、USA)の底部で培養した。インビトロBBBモデルを、メーカーの説明書にしたがい4日間、活性化した。簡単に説明すると、トランスウェル・インサートの管腔側および反管腔側(下側、脳側)の両側からの培地を、1日おきに交換した。輸送実験の前に、反管腔側を、透過性アッセイ培地で満たした。透過性アッセイでは、精製AL04または組み換え型HSA(Sigma、USA)を、トランスウェル・インサートの管腔側(0.3ml)に添加して最終濃度を1またはl0μMにした。培養を、オービタルシェイカー(100rpm)を用いて37℃で行った。試料(150μl)を、60、120、および240分の時点で反管腔側から採取(1.2ml)し、即座に新鮮な透過性アッセイ培地と交換した。輸送されたAL04またはrHSAの濃度を、ヒトアルブミン定量ELISAキット(Bethyl laboratory、USA)により測定し、検量線法を用いて分析した。透過係数(Pe、cm・s-1)を、式:Pe =(VA/(Axc))x(dQ/dt)を用いて計算し、ここでVAは、血液側(インサートの内面)でのアッセイ緩衝液の容量であり、Aは、インサートの表面容積(1.12cm)であり、cは、血液側へ加えた蛋白質試料の初濃度であり、dQ/dtは、特定時間において脳側で輸送された蛋白質試料の濃度である。精製AL04または組み換え型HSAの透過係数(Pe、cm・s-1)を、他に記載の方法(Prades、2015;Nakagawa、2009)で計算した。
【0087】
実施例10:結果
実施例10.1:組み換え型HSA融合蛋白質(AL04)のための遺伝子構築物とベクターの設計
最初の段階で、最適化コドン組成でヒト血清アルブミン、対象蛋白質(例えば、MOA1またはMOA2としてシスタチンC、Pten-long)、およびdTATをコードする遺伝子を、合成した。遺伝子配列を、公開されている情報源(NCBI、米国国立生物工学情報センターおよびUniProt、ユニバーサル蛋白質リソース)から取得した。pOptiVecプラスミドベクターを、ヒト血清アルブミン、対象蛋白質(例えば、MOA1またはMOA2としてシスタチンC、Pten-long)、およびdTATの各遺伝子の担体として用いた(図1図4)。
【0088】
実施例10.2:HSA融合蛋白質(AL04)の生産
懸濁後、CHO-DG44細胞を、直線化した発現ベクター、Optivec-CysC-HSA-dTATで形質導入し、ヒトアルブミン定量ELISAキット(Bethyl)を用いて培養上清中で検出した。形質導入CHO細胞を次に、8mMのL-グルタミンを含むCD Opti CHO培地中で選択およびMTX増幅した。組み換え型蛋白質の高濃度産生を達成するために、生物薬剤業界で広く利用されている哺乳動物細胞発現系であるメトトレキサート(MTX)増幅系(Ng、2012)を、用いた。MTXによる増幅過程の間、ヒトアルブミンとして培養上清中で増加したAL04(Optivec-CysC-HSA-dTAT)の発現を、ELISAで定量した。2000nMのMTX濃度での細胞プールを次に、AL04発現培養に適応させた。
【0089】
実施例10.3:精製AL04蛋白質の特徴付け
AL04蛋白質の同一性を、SDS-PAGE分析により確認した(図5)。精製したAL04蛋白質バンドのサイズ(完全長)は、ブルーカラムクロマトグラフィーからの溶出液中で還元条件下にて約80kDaであると示された。ブルーカラムから精製したAL04蛋白質の信頼性を確認するために、蛋白質を、LC-MS/MS分析(Biosyn)に供した。AL04に対応する少なくとも69個の固有ペプチドが、92%の蛋白質範囲で検出された。AL04蛋白質のN末端を確認するために、特有なペプチドであるSSPGKPPRLVを、試料中で観察した(非提示データ)。分析は、シグナルペプチドが、分泌された成熟蛋白質から正しく切断されたことも確認した。LC-MS/MS分析およびN末端配列決定に基づいて、本発明者らは、ブルーカラムから精製したAL04蛋白質が、発現配列と同一であったことを確認した。
【0090】
実施例10.4:Aβ1-42誘導細胞毒性に対するAL04(CysC-HSA-dTAT)の保護効果
本発明者らは、PC12細胞培養において可能性のあるAL04の非特異的細胞毒性を調べた。細胞生存率における変化は、AL04を0.01μM、0.1μM、および1μMで単独でインキュベートした場合観察されなかったが、10μMのAL04ほどの高い濃度は、細胞生存率を低下させた(図6A)。インビトロ研究は、シスタチンCが、Aβの構造上重要であるAβの中央ドメインに結合し、Aβ凝集体形成を阻害しAβ誘導毒性を防止することを、明らかにした(Juszczyk、2009;Tizon、2010)。本発明者らは、シスタチンCを含むAL04がAβ誘導毒性を阻害するか否かを調べた。10μMのAβ1-42のみでのPC12細胞の処理は、コントロール細胞(Aβ1-42非存在)と比較して可溶性のl0μMのAβ1-42で20%へと細胞生存率の顕著な減少をもたらした。しかしながら、AL04の存在下で、Aβ1-42誘導性細胞死は、レスキューされた(図6B)。
【0091】
未分化PC12細胞と同様に、神経成長因子(NGF)処理した(分化した)PC12細胞は、それらが可溶性のまたは凝集したAβ1-42による処理(10μM)のいずれかに3日間曝露された場合に、細胞生存率の約40%低下を示した。一見したところ、0.01μMのAL04単独は、分化したPC12細胞においていかなる悪影響も引き起こさなかった。総合すれば、これらのデータは、AL04 がAβ1-42誘導性細胞毒性に対し細胞を保護できることを示している(図7)。AL04がAβ凝集、プラーク形成、および神経毒性を効果的に阻止することは、明白である。
【0092】
実施例10.5:AL04のBBB透過性の評価
本発明者らは、本研究において、Neuromicsから購入した市販のインビトロ・ヒトBBBモデルを利用した。本発明者らは、BBB透過性アッセイを、1~10μMの濃度を用いて行った。このアッセイ後に、本発明者らは、ヒトアルブミン定量ELISAを用いて脳側からのAL04濃度を測定し、実施例9に記載の式により計算される透過係数(Pe)を推定した。送達基盤(CysC-HSA-dTAT)のAL04中のTATペプチドの融合を確かめるため、BBBモデルを介するAL04およびTATを含まない組み換え型ヒト血清アルブミン(rHSA)の透過率を、比較した。それによりTAT蛋白質がBBBを妨害する複数の機序が、提示されており、そのような機序としては、密着結合蛋白質発現の低下、内皮における血管透過性誘導、および再局在化が挙げられる(Andras、2005;Xu、2012;Zhong、2012;Toschi、2001)。
【0093】
図8Aに示されるように、用量依存性の結果は、AL04はモデルBBBを越えて輸送されたことを明らかにした。dTATを含むAL04は、rHSAよりも高い透過性でBBBモデルを介して脳側へ輸送される傾向がある。本発明者らはまた、1μMおよび10μMのAL04のBBBモデルを介する透過性におよぼすアッセイ時間の影響を評価した。本発明者らは、3つの異なるアッセイ時間(60、120、および240分)で透過性を比較した。図8Bは、これらのPeは120分まで徐々に増加するが、10μMのAL04のPeは240分でわずかに減少する傾向のあることを示した。
【0094】
実施例11:2重作用性治療基盤(ヒト血清アルブミン融合蛋白質)のための設計
実施例11.1:材料と方法
本研究では、シスタチンC配列を選択してバージョン1のHSA融合蛋白質-CPP基盤を試験した。大型構造物であるHSAのHSA融合蛋白質基盤バージョン1への影響を回避するために、リンカー(GGSAS)を、シスタチンCとHSAの間に挿入した。切断可能なリンカー(GFLG)をHSAとCPPの間に挿入し、これはHSA融合蛋白質の浸透からのCPPの解放を促進する可能性がある(図1)。HSA融合蛋白質基盤バージョン2(MOA1-HSA-MOA2-CPP:AL06、AL07、AL08、AL09、AL10)において、4種の異なる蛋白質配列を選択した。終末糖化産物に対する受容体のVドメイン(RAGE-V、AL10についてRAGE-V&C1ドメイン)を、バージョン2でAbetaを低減するための作用機序1(MOA1)として用いた。異なる3種の蛋白質を、バージョン2基盤でそれぞれ、リン酸化タウのレベルを低下させる負荷のための作用機序2(MOA2)として用いた:Pten-Long(AL06について)、PDZドメイン欠失型Pten-Long(AL09およびAL10について);はAL07についてTFEB(転写因子EB、自食作用およびリソゾーム内分解の主要制御因子);AL08についてSIRT1(タウタングルを脱アセチル化しかつプロテアソーム分解の目印をつける、サイレント接合型情報調節因子2ホモローグ1)。バージョン2では、様々なリンカーを用いた:GSリンカー(GGGSGGGS)を、MOA1とHSAの間に挿入した;GSリンカー/切断可能なリンカー(GFLGGGGSAS)を、HSAとMOA2の間に挿入した;切断可能なリンカー(GFLG)を、MOA2とCPPの間に挿入した(図3)。HSA融合蛋白質基盤バージョン2.1(MOA1-HSA-MOA2-CPP:AL12)では、RAGE-Vドメインを、Abetaを減らすための作用機序1(MOA1)として用い、かつ52アミノ酸(SIRT1の触媒ドメインの一部である、SIRT1のエクソン4)を、リン酸化タウを減らすためのMOA2として用いた。バージョン2.1では、GSリンカー(GGGSGGGS)を、MOA1とHSAの間;MOA2とCPPの間に挿入した。GSリンカー/切断可能なリンカー(GFLGGGGSAS)を、HSAとMOA2の間に挿入した。本発明者等は、HSAと他の融合部分との間の立体障害を避けるために、様々なリンカーを用いた(図4)。
【0095】
実施例12:ウエスタンブロット
PC12細胞を、1%ウマ血清を含むDMEM培地中で100ng/mlのNGFを用いて分化させた。4日後に、NGFを欠乏させたPC12細胞を、様々な濃度(0~10μg/ml)のAL04(または、AL07、AL08、AL12)で24時間処理した。細胞を、他に記載されるように(Bang、2012)、氷冷DPBS(pH7.5)で2回すすぎ、溶解緩衝液で溶解し、SDS-PAGEおよび免疫ブロットに供した。下記の抗体を用いた:Tau46(総タウ)、リン酸化AMPKa(Thr172)、AMPKoc、リン酸化AMPKp(Serl82)、AMPKp、リン酸化ULK1(Ser555)、β3-チューブリン、シスタチンC、GAPDH(グリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をCell Signaling Technologyから購入した。リン酸化タウ(AT8:Ser202/Thr205、Thermo)、リン酸化タウ(PHF-6:Thr231、Santa Cruz)、抗ヒトアルブミン(Bethyl)。スーパーシグナルウエストピコ化学発光試薬(Thermo)を、シグナル検出に用いた。リン酸化タウおよび総タウの定量を、画像解析ソフトウエア(NIH)を用いる濃度測定(densitometry)により行った。各時点におけるリン酸化タウのレベルを、同じ試料からの総タウ濃度に対し正規化し、それぞれの正規化値を、最大値(これを100%とする)のパーセンテージとして表した。統計的有意性を、スチューデントt-検定により決定した。
【0096】
実施例13:免疫沈降(IP)
処理した細胞を、50mM Tris(pH 7.4)、150mM NaCl、1%Triton X-100、15%グリセロール、ホスファターゼ阻害剤カクテル(Santa Cruz)、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(BioVision)中で溶解した。総蛋白質(1000μg)を、4℃で16時間、示されるように5μgのβ3-チューブリン抗体と反応させ、さらに3時間、60μLのTrueBlot抗ウサギIg免疫沈降ビーズ(Rockland)で沈降させた。免疫沈降したビーズを、溶解緩衝液で5回洗浄し、SDSを添加した試料緩衝液を、加えた。試料を、前に記載されるように(Bang、2014)SDS-PAGEにより分離し免疫ブロッティングにより分析した。タウブロットの免疫沈降物については、マウスTrueBlot ULTRA抗マウスIg西洋ワサビペルオキシダーゼ結合2次抗体(Rockland)を、スーパーシグナルウエストピコ化学発光試薬(Thermo)による検出に用いた。結合したタウと添加したタウのシグナルの定量を、画像解析ソフトウエア(NIH)を用いる濃度測定(densitometry)により行った。統計的有意性を、スチューデントt-検定により決定した。
【0097】
実施例14:結果
実施例14.1:精製したAL04(80kDa)、AL07(135kDa)、AL08(129kDa)、およびAL12(88kDa)の特徴付け
AL04(バージョン1)、AL07および AL08(バージョン2)、およびAL12(バージョン2.1)を、発現させ、ブルーダイ親和性クロマトグラフィー、次にイオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて精製した。精製した蛋白質を、濃縮し、限外ろ過スピンカラムを用いて緩衝液をPBSに交換し、次にブラッドフォード蛋白質アッセイを用いて定量した。AL04およびAL12の純度は、クマシーブルー染色で90%を超える。AL07およびAL08の純度を、クマシー染色およびウエスタンブロットの両方により確認し、ここでクマシー染色ゲルにおける主要なバンドは、ヒトアルブミン抗体を用いるウエスタンブロットから観察されたものと一致する(図5および図11).
【0098】
実施例14.2:AL04またはAL12のいずれかは、用量依存的に分化PC12細胞中へ浸透する
新しい方略が常に、機能蛋白質またはペプチドを細胞内に送達するために評価されているが、それらは、臨床モデルに転用するには、未だ総合的な効率および安全性を欠いている(Zhang、2012)。受容体媒介性および飲食作用経路を含む、複数の細胞内在化様式が役割を果たしていることが示されている(Gradishar、2005)。そこで、本発明者らは、AL04またはAL12が細胞内に浸透するかどうかを調べた。細胞を、24時間NGF欠乏下で、様々な濃度(0~5μg/ml)のAL04またはAL12のいずれかで処理した。ウエスタンブロット分析を用いて、分化PC12細胞内へのHSA融合蛋白質の浸透の程度を評価した。図9に示すように、AL04またはAL12蛋白質は、用量依存的に分化PC12細胞内へ浸透する(図9)。これは、異なるバージョンのHSA融合蛋白質(AL04、シスタチンC-HSA-CPP;AL12、RAGE(V)-HSA-SIRTl(エクソン4)-CPP)が、PC12細胞内へ容易に浸透し、かつそれらの生物学的活性を細胞内に効率的に送達し得たことを示す。
【0099】
実施例14.3:HSA融合蛋白質(AL04、AL07、およびAL08)は、NGF欠乏PC12細胞においてタウのリン酸化状態に影響を与える
AL07およびAL08は、Abetaを低減する一般的な作用因子であるRAGE-V、ならびにリン酸化タウを低減する作用因子としてTFEBおよびSIRT1を含む。分化したPC12細胞を、24時間それぞれ、1μg/mlのAL04、または2μg/mlのAL04、AL07、AL08で処理した。細胞を、溶解し、総細胞溶解物(20μg/レーン)を、SDS-PAGEにより分離した。タウのエピトープの相対レベルを、下記の抗体を用いる免疫ブロッティングにより決定した:総タウの測定基準である、tau-46;タウ蛋白質上のリン酸化されたSer202/Thr205残基を認識する、AT8;タウ蛋白質上のリン酸化されたThr231残基を認識する、PHF-6。AL04、AL07、およびAL08の投与は、Thr231位におけるタウのリン酸化を減少させたが、AL04のみが、Ser202/Thr205位におけるp-タウの減少をもたらした。AL07およびAL08による処置は、Ser202/Thr205位におけるタウのリン酸化を低減できなかった。Tau-46抗体により測定される、総タウ値は、AL04処置により変化しなかったが、総タウ値は、AL07処置およびAL08処置によりわずかに増加した。免疫ブロット分析の結果は、Thr231位におけるホスホキナーゼの総タウ蛋白質に対する比がAL04、AL07またはAL08による処置で減少する(図12)という証拠を提示し、一方でAL04処置からのSer202/Thr205位でのホスホキナーゼの総蛋白質に対する比における有意な減少が、見られる。
【0100】
実施例14.4:AL04は、I2PP2A(PP2Aホスファターゼの阻害因子)の下方調節によりNGF欠乏でのリン酸化タウのレベルを減少させる
PP2A活性は、アルツハイマー病では低下しており、タウの神経原線維病変の原因であると考えられている。I2PP2Aは、大人のヒトの脳のホスホセリン/ホスホスレオニンタウ蛋白質ホスファターゼ活性の約70%を占めるホスファターゼ(Liu、2005)であるPP2Aの強力な阻害因子であるといわれている。シスタチンCはAEPの阻害因子なので(Alvarez-Fernandez、1999;van Kasteren、2011)、AL04(シスタチンCを含む)は、I2PP2Aの下方制御を通じてタウの脱リン酸化に関与するPP2A活性の制御に影響を与える可能性がある。そこで、本発明者らは、AL04処置がI2PP2Aの切断(活性化)を阻害するかどうかを調べた。本発明者らは、分化したPC12細胞を、NGF欠乏下で、1~10μg/mlのAL04で24時間処置した。図13に示されるように、AL04処置は、I2PP2Aの約20kDaの活性化断片のレベルを低下させた。本発明者らはまた、AL04処置が、用量依存的にP-タウSer202/Thr205のレベルを有意に低下させることも見いだした。同様に、P-タウThr231のレベルも、非処置細胞と比較してAL04で処置した細胞でわずかに低下されることを示した。Tau-46抗体により測定した総タウのレベルは、AL04処置により変化しかった。GAPDHでは変化が見られなかった。これらの結果は、AL04が、I2PP2Aの下方制御を通じてPP2A活性をレスキューすることにより、NGF欠乏が誘導するタウの過剰リン酸化レベルを低下させることを示唆した。
【0101】
実施例14.5:チューブリン-タウ相互作用に及ぼす低下するタウのリン酸化の効果
タウは、神経発生における微小管動態の制御において重要な役割を担っている。タウの主要部位におけるリン酸化は、タウの正常機能に大きな影響を与え、かつその病理学的役割に影響する可能性があることが示されている(Cho、2004;Sengupta、1998;Lin、2007)。本発明者らは次に、NGF欠乏が誘導するタウの過剰リン酸化がチューブリン結合の変化に必要であるか否かを、AL04の存在または非存在下で試験することにより調べた。本発明者らは、AL04処置はタウ-チューブリン結合レベルを、非処置において得られるレベルと比べて2倍増加させる(図14)ことを見いだし、これは、AL04がリン酸化タウのレベルを低下させることを通じてNGF欠乏により低下した微小管-タウ相互作用を回復することを示している。
【0102】
実施例14.6:AL04は、用量依存的にタウキナーゼ(AMPK)を調節することにより過剰リン酸化タウを減少させる
AL04処置はリン酸化タウを減少させるので、本発明者らは、AL04処置がタウのリン酸化に関与する可能性のある複数のキナーゼの活性化も変化させるかどうかを調べた。アルツハイマー病の脳およびマウスの初代神経細胞中の内在性AMPKの活性化は、複数部位においてタウリン酸化の増加を引き起こし、ここでAMPK阻害はタウリン酸化の急速な低下をもたらした(Vingtdeux、2011;Domise、2016)。そこで、本発明者らは、AL04に起因するNGF欠乏により誘導される過剰リン酸化タウの減少とAMPKシグナル伝達経路が関与している可能性について調べた。AMPK活性化はα1およびα2サブユニットの活性化ループにおけるThrl72位のリン酸化を要求するので、AMPK活性を、リン酸化AMPKの発現レベルを検出するウエスタンブロットにより調べた(Bang、2012;Bang、2014)。本発明者らは、下記の実験を行った。まず、AMPK活性化触媒性αサブユニット、p-AMPK(Thr172)および制御性サブユニットβ1に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。図15に示されるように、p-AMPK(Thr172)およびp-AMPKβ1(Ser182)のレベル低下が、用量依存的に観察され、AL04処置がAMPK活性を低下させたことを示唆する。次に、本発明者らは、AMPK依存性基質であり自食作用の制御因子であるULK1(Egan、2011;Kim、2011;Guha、2019)を調べ、AL04での細胞の処置後にAMPKに依存様式でSer555位でのULK1リン酸化が大きく低下したことを認めた。特に、これらの細胞におけるp-ULK1(Ser555)のレベルの低下は、2種の真のAMPK基質、すなわちACCおよびRaptorのそれと類似していた(非提示データ)。GAPDHは変化しなかった。AL04処置は、タウキナーゼとして知られるAMPKを調節(不活性化)する可能性があり、PC12細胞におけるリン酸化タウのレベル低下に寄与することが示唆される。
【0103】
実施例15:Tg2576およびJNPL3マウスを用いた海馬および内嗅の実験の説明
ヒトのアルツハイマー病では、疾病の進行に伴う記憶障害は、新規記憶形成に重要でありアルツハイマー病で最も影響を受けやすい領域である、内嗅皮質(EC)および海馬の病理学的変化に起因する可能性がある(Knowles、1998;Alvarez、1995;Bannerman、2001;Buckmaster、2004)。海馬は、次の亜領域から成る:歯状回(DG)、CA1、CA2、CA3、および鉤状回。海馬および内嗅皮質は、スウェーデン型2重変異(K670N、M671L)(Hsiao、1996;Su、1998;Reilly、2003;Dong、2007;Lauritzen、2012;Xu、2015)を有するヒトAPPを過剰発現する、Tg2576マウスにおけるAβ沈着の主要部位であることが報告されており、またP301L変異(Lewis、2000;Lin、2003;Acker、2013;Vitale、2018)を有するヒトのタウを発現する、JNPL3マウスにおいても病的タウ(オリゴマー/凝集リン酸化タウを含む神経原線維変化)を示す。アルツハイマー病(AD)に対するAL04の有効性を評価するために、本発明者らは、AL04が、それぞれ、Tg2576およびJNPL3マウスの海馬および内嗅皮質におけるアミロイドベータ(AP)および/または過剰リン酸化タウの蓄積を減少させるかどうかを調べた。AL04処置によるAβ沈着または過剰リン酸化タウの変化を、免疫組織化学アッセイを用いてコントロール(PBSを注射した)動物と比較する。
【0104】
実施例15.1:動物および処置
本研究に用いた9~10月齢のメスTg2576マウスおよび3~4月齢のJNPL3マウスを、タコニックファームズ(Taconic Farms;Germantown、NY、USA)から購入し、ノーブルライフサイエンス社(Noble Life Science、Inc.;Sykesville、MD、USA)の動物実験委員会により承認されたプロトコル(承認番号:NLS-511)にしたがい維持し取り扱った。本研究の全ての動物実験は、エルアンドジェーバイオサイエンス社(L&J Biosciences、Inc.)が立案し、ノーブルライフサイエンス社が実施した。Tg2576マウスを、2ヶ月間毎週腹腔内注射により10mg/kgのAL04またはPBSのいずれかで処置した。JNPL3マウスを、6ヶ月2週間毎に腹腔内注射により5mg/kgのAL04またはPBSのいずれかで処置した。処置後、動物を、イソフルレンで麻酔し、脳を、取り出した。脳を、脳の半分のみを免疫組織化学分析用に解剖するように、正中線(矢状)で分割した。
【0105】
実施例15.2:組織学および免疫組織化学分析
脳を、さらに24時間、後固定した後、標準のプロトコルを用いてパラフィン包埋した。冠状断切片(5μm)を、ミクロトームで切り出し、以下の1次抗体を用いる免疫組織化学処理を行った:6E10(ヒトAβの残基1~16、Biolegend、1:500)、AT8(リン酸化タウSer202/Thr205、Thermo、1:1000)およびHT7(総タウ、Thermo、1:1000)。1次抗体とのインキュベーション後に、切片を、PBS中で洗浄し、次に切片を、2次抗体(HRP結合;Jackson Labs、1:1000)または蛍光AlexaFluor抗体(Alexa(488結合;Thermo、1:1000)とインキュベートした。Tg2576マウスの脳試料におけるAβ沈着もしくはJNPL3マウスの脳における総タウの検出のために、HRP結合抗体で処理したスライドを、ジアミノベンジジン(DAB)とインキュベートし、すすぎ、ヘマトキシリンで対比染色した。DAB発色について、スライドを、光学顕微鏡(Zeiss)を用いて観察した。蛍光スライドを、核染色のためにDAPIと5分間インキュベートした。JNPL3マウスの脳試料におけるリン酸化タウの免疫蛍光を、励起フィルター340(DAPIは青)および488(p-タウは緑)で共焦点顕微鏡(Zen2、Zeiss)を用いて可視化した。組織学/免疫組織化学および画像解析はそれぞれ、エルアンドジェーバイオサイエンス社(L&J Biosciences、Inc.)が立案し、ヒストサーブ(Histoserve;Germantown、MD、USA)およびCVPath(Gaithersburg、MD、USA)が実施した。
【0106】
実施例16:結果
実施例16.1:AL04は、Tg2576マウスの海馬および内嗅皮質においてアミロイドベータ沈着を減少させる。
アミロイドカスケード仮説に基づき、Aβ蓄積および凝集は、アルツハイマー病発症の病理学的および臨床的症状を誘発する(Walsh、2012;Hardy、1992;Hardy、2002)。以前の研究は、Aβ蓄積が、Tg2576マウスの脳で起こり行動障害を発症させたことを報告している(Hsiao、1996)。内嗅皮質から海馬歯状回へのニューロン投射である有孔質路の変化が、記憶障害に関連することが知られている(Hyman、1984;Hyman、1986;Gomez-Isla、1996;van Strien、2009)。そこで、発明者らは、AL04処置が、Tg2576マウスの海馬および内嗅皮質におけるAβの蓄積を減少させるかどうかを調べた。月齢9~10ヶ月で開始して、Tg2576マウスは、PBSまたはAL04(10mg/kg)のいずれかの腹腔内注射を毎週受けた。動物は、総計8回の投与を受け、9週目に屠殺された。AL04処置は、耐容性良好であった。アミロイドβ前駆蛋白質(AβPP)は、α-およびβ-セクレターゼにより切断される。抗体6E10は、Aβドメインの最初の16残基を認識し、したがって理論的には完全長のPAPP、C99(β-セクレターゼ(BACE1)消化による15KDaのAPP断片)およびAβ(Lauritzen、2012)を標識する。11~12月齢のPBS処置したTg2576マウスでは、6E10(図16)が、海馬のCA1、CA3、およびDG亜領域の部分に高密度沈着(褐色)の存在を示す。また、PBS処置した動物の内嗅皮質において、6E10は、強く標識し、細胞外Aβ沈着を示唆する(図17)。対照的に、AL04処置したTg2576マウスの海馬の各亜領域(CA1、CA3、およびDG)および内嗅皮質においてAβ蓄積の減少が認められた(図16および図17).これらの結果は、AL04が、ヒトAPP変異体を含むTg2576マウスの海馬および内嗅皮質においてAβ蓄積を減少させることを示している。
【0107】
実施例16.2:AL04は、JNPL3マウスの海馬において過剰リン酸化タウを減少させる
アルツハイマー病および他の神経変性疾患において、タウは、過剰リン酸化され微小管から解離され、神経細胞体および樹状突起においてリン酸化タウ凝集および神経原線維変化形成をもたらす。これらの神経原線維変化(NFT)は、AT8(p-タウS202/T205)、AT100、およびPHFl(p-タウS396/404)などのセリンおよびスレオニン抗体/対らせん状細線維(PHF)上の複数のリン酸化タウにより、よく認識される(Lewis、2000;Augustinack、2002;Lace、2009)。
【0108】
NFT形成は、タウオパチーモデルにおける病理学的症状と密接に関連している(Braak、1991、1997;Duyckaerts、1997;Rub、2000;Sassin、2000;Lewis、2000; Lace、2009)。ヒトにおいて前頭側頭葉認知症を引き起こすヒト変異タウP301Lを発現する、JNPL3マウスは、早ければ4.5ヶ月にはNFTを形成し、後期には進行性の運動機能低下を起こす(Lewis、2000)。本発明者らは、AL04処置が、JNPL3マウスの海馬および内嗅皮質においてリン酸化タウのレベルを低下させることができるかどうかを調べた。月齢3~4ヶ月で開始して、JNPL3マウスは、6ヶ月間PBSまたはAL04(5mg/kg)のいずれかの腹腔内注射を2週毎に受けた。動物は、総計12回の投与を受け、25週目に屠殺された。
【0109】
過剰リン酸化タウのレベルを低下させる概念の実証として、AT8(リン酸化タウ、S202/T205)免疫蛍光分析を、海馬のCA1/CA3からDGの亜領域および内嗅皮質で行った。海馬および内嗅皮質、有孔質路は、記憶形成において主たる役割を果たし、タウ病変、認知症、および老化の比較的初期におこる軽度の認認識機能障害において損傷を受けやすい領域である(BraakおよびBraak、1991;Duyckaerts、1997;Tulving、1998;Braak、2006;Lace、2009)。
【0110】
本発明者らは、PBS処置した9~10月齢の動物の海馬にリン酸化タウ(S202/T205)陽性細胞を認めた(図18)。リン酸化タウ(S202/T205)の存在は、軸索のタウが異常にリン酸化されることを示唆し、海馬への投射における軸索機能障害が、老化によく見られる初期変化である可能性を提起する(Lace、2009)。対照的に、リン酸化タウ(S202/T205)レベルの有意な低下が、AL04処置した9~10月齢のマウスの海馬亜領域CA1およびCA3ならびに内嗅皮質で検出された(図18)。これらの結果は、AL04が、JNPL3マウスの海馬および内嗅皮質においてNFT(過剰リン酸化タウ)を減少させ、またCA1、CA3、および歯状回を含む海馬亜領域内のタウの病理学的重症度の拡大を軽減することを示唆した。
【0111】
シスタチンCは、アルツハイマー病の発症において神経保護の役割を果たし、治療薬として臨床的な妥当性を有する(Li、1996;Tizon、2010)。アルツハイマー病治療薬候補としての、シスタチンCを含む2重作用性治療(DAT)基盤の担体および/またはCPPの選択に関する調査を、図10で要約する。AL04構築物の4種の改変体(AL04-1~AL04-4と名付ける)は、Fcまたは担体蛋白質としてHSA(インビボで長期存在する蛋白質としても知られている)を含み、CPPとしてdNP2(Lim、2015)またはdTATを含み、実施例11.1に記載されるように作成された。これらの構築物を用いることにより、蛋白質発現を、一過的なおよび安定な発現についてそれぞれCHO-S細胞またはCHO-DG44細胞のいずれかで調べた(非提示データ)。CPPとしてdTATを有するFcまたはHSAのいずれかを含む構築物は、dNP2を含む同様の構築物よりも高い蛋白質発現を示した。さらに、dTATとのHSA融合物は、Fc融合構築物よりも一過的なおよび安定な発現の両方において発現がよいことが観察された(非提示データ)。Fc融合蛋白質がヒトPBMCから炎症性サイトカイン放出を誘導したという、好ましくない免疫細胞活性化が報告された(Edwards、2014)。CysC-HSA-dTATは、アルツハイマー病治療薬の開発におけるDAT基盤の適切な構築物であることが示唆される。DAT基盤を、アルツハイマー病治療の治療薬候補である(バージョン1および2)7種の異なる構築物の作成に用い、それらの発現および精製の概要を、図11に示す。7種の異なる構築物を、実施例11.1に記載されるように作成し、それらの発現と精製工程を、検討した。ウエスタンブロットまたはクマシー染色により決定されたDHFR欠損CHO-DG44細胞中での一過的発現およびMTXを用いる遺伝子増幅(非提示データ)を含む融合蛋白質発現のレベルは、分子量に依存した。AL06(145kDa)、AL09(144.5kDa)、およびAL10(156kDa)は、ほとんど蛋白質を発現せず、MTX/DHFR遺伝子増幅法により蛋白質を産生できなかった。各融合蛋白質の品質を調べるため、蛋白質を、実施例5に記載されるように精製し、SDS-PAGEにより分析した(非提示データ)。AL07およびAL08蛋白質は、それらが精製の過程で分解したので、部分的に精製された(図5)。図11は、AL04(80kDa)およびAL12(88kDa)が、蛋白質の発現および精製のために好ましい構築物であることを示す。

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本明細書中に引用する参考文献はすべて、それらの全体が参照として組み入れられる。
【0112】
当業者であれば、本明細書中に具体的に記載される本発明の特定の実施態様と同等な多くの態様に気づくであろうし、あるいはまた、通常の実験以上のものを用いずとも、そのような態様を確認できる。
図1
図2
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【手続補正書】
【提出日】2021-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022518729000001.app
【国際調査報告】