(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(54)【発明の名称】エチレン-カルボン酸共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 210/02 20060101AFI20220309BHJP
C08F 2/06 20060101ALI20220309BHJP
C08F 2/40 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F2/06
C08F2/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544200
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(85)【翻訳文提出日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 KR2020001308
(87)【国際公開番号】W WO2020159204
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0013255
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0006278
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー グローバル ケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ソン イン ヒュプ
(72)【発明者】
【氏名】キム ホン チャン
(72)【発明者】
【氏名】オク ジャン フン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュン ア
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ワン ジュ
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011HA03
4J011HB14
4J011NA01
4J011NB03
4J100AA02P
4J100AJ02Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100JA03
4J100JA32
(57)【要約】
本発明の実施形態のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法では、カルボン酸単量体と極性共溶媒を個別にミキシング部に導入するか、または供給部に共に貯蔵して混合物を形成する。混合物及びエチレンを反応器に注入して共重合させる。カルボン酸単量体および極性共溶媒の反応動力学特性を調節することにより、副産物の生成を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸単量体と有機溶媒系の極性共溶媒との混合物を形成するステップと、
前記混合物およびエチレンを反応器に注入して共重合するステップとを含み、
前記カルボン酸単量体と有機溶媒系の極性共溶媒との混合物を形成するステップは、下記式1で定義される反応進行指数(Reaction Progress Index:RPI)を1.5~1.3×10
7sec・Kの範囲で調節して、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒の副反応生成物の量を制御することを含む、エチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【数1】
【数2】
それぞれ、前記極性共溶媒および前記カルボン酸単量体の初期モル濃度であり、tは、前記カルボン酸単量体と前記極性共溶媒の接触時間であり、Tは、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒のエチレンと反応する前の接触平均温度である。)
【請求項2】
前記反応進行指数は、14.9~1.3×10
5sec・Kの範囲である、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物を吐出するステップをさらに含む、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記混合物の吐出圧力は、前記カルボン酸単量体と前記極性共溶媒の混合圧力よりも大きい、請求項3に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記吐出圧力は、前記反応器内の圧力よりも大きい、請求項4に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を形成するステップは、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒をそれぞれミキシング部に導入することを含み、
前記混合物を吐出するステップは、前記ミキシング部から吐出部に前記混合物を移送流路を介して移動させること、及び、
前記吐出部から吐出流路を介して前記混合物を排出することを含む、請求項3に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記混合物の温度は、前記カルボン酸単量体の結晶化温度以上であり、前記カルボン酸単量体の自己重合温度以下に維持される、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記混合物は、前記反応器内に注入される前にエチレンと接触する、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記混合物に、前記カルボン酸単量体と前記極性共溶媒間の反応抑制剤を注入するステップをさらに含む、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記反応抑制剤は、アミン系化合物を含む、請求項9に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記混合物に前記反応器の前段流路を介して連鎖移動剤を注入するステップをさらに含む、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項12】
前記連鎖移動剤は、非極性の有機化合物を含む、請求項11に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項13】
前記連鎖移動剤は、メチルエチルケトンまたはイソブタンを含む、請求項12に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【請求項14】
下記式2を満たす、請求項11に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【数3】
【数4】
それぞれ、前記反応器の前記前段流路での前記極性共溶媒及び前記連鎖移動剤のモル濃度であり、
【数5】
200℃での前記極性共溶媒及び前記連鎖移動剤のエチレンに対する連鎖移動係数(Cs)である。)
【請求項15】
前記カルボン酸単量体は、アクリル酸を含み、
前記極性共溶媒は、エタノールを含む、請求項1に記載のエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-カルボン酸共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エチレン-アクリル酸共重合体のようなエチレン-カルボン酸共重合体は、シール材、接着剤、パッキング材、光学フィルムなどの様々な用途に活用されている。
【0003】
エチレン-カルボン酸共重合体は、エチレン及び共単量体としてのカルボン酸系化合物(例えば、アクリル酸、メタクリル酸など)を連続反応器により重合して製造することができる。
【0004】
カルボン酸系化合物は、エチレンに比べて自己反応性が高いため、流路、ポンプ、コンプレッサーなどから供給される過程で高温にさらされたときに自己重合されることがある。これにより、流路閉塞などが引き起こされ、重合設備の損傷が発生することがある。この自己重合を防止するために設備の運転温度を下げると、カルボン酸系化合物の結晶化が起こることがある。
【0005】
カルボン酸系化合物の供給時、結晶化を防止するとともに設備でのファウリングを抑制するために共溶媒を共に用いることができる。しかし、共溶媒として極性溶媒を用いる場合には、カルボン酸系化合物と反応して副生成物が生成されることがある。
【0006】
また、例えば高温、高圧の過酷な重合条件下で連続工程が行われる場合には、流路での副生成物の詳細な成分分析および反応解析が実質的に困難になることがある。
【0007】
したがって、カルボン酸系化合物の自己重合を防止しつつ、追加の副生成物の生成を抑制できる重合工程の調節、工程変数の調節が求められる。
【0008】
例えば、米国特許第6,852,792号公報では、エチレン-アクリル酸共重合体を含むシール用水性分散液を開示しているが、前述した重合工程の設計の要求については認識していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、向上した工程信頼性及び重合効率を有するエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法では、カルボン酸単量体と有機溶媒系の極性共溶媒との混合物を形成する。前記混合物およびエチレンを反応器に注入して共重合する。前記カルボン酸単量体と有機溶媒系の極性共溶媒との混合物を形成するにあたり、下記式1で定義される反応進行指数(Reaction Progress Index:RPI)を1.5~1.3×107sec・Kの範囲で調節することにより、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒の副反応生成物の量を制御することができる。
【0011】
【0012】
【数2】
それぞれ、カルボン酸単量体と極性共溶媒が混合されて導入される流路での極性共溶媒およびカルボン酸単量体の初期モル濃度であり、tは、前記カルボン酸単量体と前記極性共溶媒の接触時間であり、Tは、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒のエチレンと反応する前の接触平均温度である。)
【0013】
いくつかの実施形態では、前記反応進行指数は、14.9~1.3×105sec・Kの範囲であってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記混合物を吐出することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記混合物の吐出圧力は、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒の混合圧力よりも大きくてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記吐出圧力は、前記反応器内の圧力よりも大きくてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記カルボン酸単量体及び前記極性共溶媒をそれぞれミキシング部に導入して前記混合物を形成することができる。前記ミキシング部から吐出部に前記混合物を移送流路を介して移動させ、前記吐出部から吐出流路を介して前記混合物を排出することができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記混合物の温度は、前記カルボン酸単量体の結晶化温度以上であり、前記カルボン酸単量体の自己重合温度以下に維持することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記混合物は、反応器内に注入される前にエチレンと接触することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記混合物に、前記カルボン酸単量体と前記極性共溶媒間の反応抑制剤を注入することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記反応抑制剤は、アミン系化合物を含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記混合物に前記反応器の前段流路を介して連鎖移動剤を注入することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記連鎖移動剤は、非極性の有機化合物を含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記連鎖移動剤は、メチルエチルケトン又はイソブタンを含むことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、下記式2を満たすことができる。
【0026】
【0027】
【数4】
それぞれ、前記反応器の前記前段流路での前記極性共溶媒及び前記連鎖移動剤のモル濃度であり、
【数5】
200℃での前記極性共溶媒及び前記連鎖移動剤のエチレンに対する連鎖移動係数(Cs)である。)
【0028】
いくつかの実施形態では、前記カルボン酸単量体はアクリル酸を含み、前記極性共溶媒はエタノールを含むことができる。
【発明の効果】
【0029】
例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法では、カルボン酸単量体のキャリア流体として極性共溶媒を用いることができる。極性共溶媒とカルボン酸単量体との混合物の結晶化温度は、純粋なカルボン酸単量体の結晶化温度よりも低くなり得る。これにより、結晶化、若しくは結晶化による自己重合による工程収率または工程効率の低下を防止することができる。
【0030】
例示的な実施形態によると、カルボン酸単量体および極性共溶媒のパラメータを調整して反応性能を適切に制御しつつ、カルボン酸単量体と極性共溶媒間の副反応を抑制することができる。これにより、カルボン酸単量体から発生する副反応生成物を抑制して高分子製品の物性の低下を防止するとともに、製品内の副反応生成物の残留を防止することができる。また、共重合収率、転換率、製品の分子量及び分子量分布を適切に制御することができる。
【0031】
例示的な実施形態によると、例えば高温、高圧の流路での副反応生成物を確認するために別の分析機器を追加することなく、工程条件の調節によって工程効率の低下なしに副反応生成物を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【
図2】
図2は、いくつかの例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【
図3】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図4】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図5】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図6】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図7】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図8】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図9】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図10】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【
図11】
図3~
図11は、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態は、カルボン酸単量体を極性共溶媒と共に供給してエチレンとの共重合を誘導し、極性共溶媒による副反応を抑制できるエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を提供するものである。
【0034】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0035】
図1は、例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【0036】
図1を参照すると、カルボン酸単量体および極性共溶媒を導入部に供給することができる。例えば、カルボン酸単量体供給部10及び共溶媒供給部20から、それぞれカルボン酸単量体および極性共溶媒をミキシング部30に供給することができる。
【0037】
カルボン酸単量体は、連鎖的な重合反応が可能な不飽和カルボン酸を含むことができる。例示的な実施形態によると、カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸又はそのエステル(例えば、(メタ)アクリレート)を用いることができる。本出願で(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及びアクリル酸を包括する用語として使用される。
【0038】
極性共溶媒は、カルボン酸単量体と混合されて反応器に移送され、カルボン酸単量体の結晶化および自己重合(self-polymerization)を抑制することができる。
【0039】
例えば、極性共溶媒とカルボン酸単量体との混合物の結晶化温度は、純粋なカルボン酸単量体の結晶化温度よりも低くなり得る。このため、結晶化を防止できる工程温度の許容範囲が拡大できる。したがって、結晶化を起こすことなく設備の運転温度を下げることができ、これにより、カルボン酸単量体の自己重合を低減することができる。
【0040】
例示的な実施形態によると、極性共溶媒としてアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒などの極性有機溶媒を用いることができる。例えば、アルコール系溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールなどを用いることができる。
【0041】
好ましい一実施形態では、極性共溶媒として、エタノール、アセトン及び/又はエチルアセテートを用いることができる。
【0042】
例示的な実施形態によると、前記極性共溶媒から水は排除することができる。極性共溶媒として水を用いる場合、カルボン酸単量体の自己重合をむしろ加速させることがある。このため、本発明の実施形態によると、前述した有機溶媒系の極性共溶媒を用いることにより、自己重合を促進せずに結晶化温度を下げることができる。
【0043】
しかし、極性共溶媒を用いると、カルボン酸単量体と反応して副産物が生成されることがある。例えば、カルボン酸単量体としてアクリル酸を使用し、極性共溶媒としてエタノールを使用する場合には、エステル反応によってエチルアクリレート及び水が副産物として生成されることがある。
【0044】
また、カルボン酸単量体としてアクリル酸を使用し、極性共溶媒としてエチルアセテートを使用する場合には、エステル交換反応(trans-esterification)によってエチルアクリレートが副産物として生成されることがある。
【0045】
エチルアクリレートは、重合性物質であるため、エチル-アクリル酸共重合体(EAA)の製造時、鎖内のアクリル酸の含有量を減少させ得る。また、エチルアクリレートが鎖内にアクリル酸の代わりに重合に関与する場合には、生成された共重合体製品の接着力を低下させることがあり、バルキーな特性のために、高分子の結晶の形成を阻害して溶融点が低くなることがある。低い溶融点は、ペレット状の高分子製品がくっついてしまうブロッキング(blocking)現象を誘発することがある。
【0046】
エチルアクリレートは、高温にさらされる場合、水と反応して加水分解によってエタノールを排出することもある。このため、共重合体製品に副産物として含まれる場合には、加工製品の内部または表面に気泡、バブルなどの残渣を発生することもある。
【0047】
また、エチルアクリレートは異臭物質であり、少量でも悪臭を放つことがあり、副産物として多量に含まれる場合には、例えば食品包装などの用途では使用しにくいことがある。このため、エチレン-カルボン酸共重合体が食品包装材などに使用される場合、製品中のエチルアクリレートの残留含有量は、EUのfood contact規定に基づいて6ppm未満に規制される。
【0048】
また、副反応生成物の制御可能性を事前に確保するために、最終製品で副反応生成物が6ppm残留する場合をプラント工程模写モデルとして想定して計算してみると、吐出部40では、実際の副反応生成物を例えば600ppm以下のレベルに制御する必要がある。
【0049】
また、エステル反応によってエチルアクリレートが生成される場合には、水も共に生成されるので、前述のように、水によってカルボン酸単量体の二量体化及び自己重合が加速されることがある。
【0050】
前述の極性共溶媒の投入による副反応に起因する副作用を抑制または低減するために、例示的な実施形態によると、後述するように、例えばミキシング部30と吐出部40を含んで、カルボン酸単量体と極性共溶媒が共に移送される流路でのカルボン酸単量体と極性共溶媒の混合および移送特性を調節することができる。
【0051】
エチレン-カルボン酸共重合体の製造工程における共溶媒の投入による副反応生成物の発生程度をパイロット/実験装置を用いて予測することは容易ではない。実際、エチレン-カルボン酸共重合体の製造パイロット/実験室テストによってエタノールの導入による副反応生成物の評価を行ったところ、製品中の副反応生成物の残留量を検出することができなかった。これに対して、同レベルのモル比のエタノールを共溶媒として使用して実際の重合工程に注入したところ、最終製品中のエチルアクリレートが有意なレベルで検出されることが確認された。
【0052】
したがって、別の分析機器、分析結果の反応解析なしにも副反応生成物を抑制するために工程変数の制御および設計が必要である。
【0053】
そこで、例示的な実施形態によると、カルボン酸単量体および極性共溶媒の副反応を抑制するために、後述する反応進行指数(Reaction Progress Index:RPI)を調節することができる。
【0054】
【0055】
【数7】
それぞれ、カルボン酸単量体と極性共溶媒が混合されて導入される流路または貯蔵部でのカルボン酸単量体および極性共溶媒の初期モル濃度を示す。
【0056】
tは、カルボン酸単量体と極性共溶媒の接触時間を示す。例えば、tは、ミキシング部30にカルボン酸単量体と極性共溶媒が共に導入された後、吐出部40から排出されてエチレンストリーム55と会合するまでの時間を意味し得る。
【0057】
Tは、カルボン酸単量体と極性共溶媒の接触平均温度を示すことができる。例えば、Tは、カルボン酸単量体と極性共溶媒がミキシング部30で混合されたときの初期温度と、吐出部40から排出されてエチレンストリームと会合する前に加圧によって昇温された温度との平均温度を示すことができる。例えば、Tは、ミキシング部30での温度および吐出流路45での温度の算術平均、または貯蔵タンク65(
図2を参照)での温度および吐出流路80での温度の算術平均を意味し得る。
【0058】
【数8】
極性共溶媒の使用による副反応速度に関連する因子であってもよい。例えば、
【数9】
のそれぞれの値が大きくなると、エステル化反応が加速され得る。tは、カルボン酸単量体および極性共溶媒の副反応が発生し得る反応時間に関連する因子であってもよい。
【0059】
例示的な実施形態によると、RPIは、1.5~1.3×107sec・Kの範囲で調節することができる。RPIの値が1.5sec・K未満であると、極性共溶媒による結晶化温度の減少効果が十分に実現されないことがある。RPIが1.3×107sec・Kを超えると、エステル化反応が進行しすぎて、前述の副作用が発生することがあり、副反応生成物の規制範囲を超えて商業製品として実現されないことがある。
【0060】
好ましい一実施形態では、RPIの値は、14.9~1.3×105sec・Kの範囲で調節することができる。
【0061】
【数10】
t及びTのそれぞれは、前述したRPIの範囲を満たすように調節され、特定の範囲に制限されなくてもよい。
【0062】
前述のように、式1に示すように、反応速度に影響を与える工程因子と、当該反応速度で反応が進行され得る工程時間とを共に結合したRPIを、様々な極性共溶媒の使用工程で工程制御変数として活用することができる。これにより、カルボン酸単量体の副反応を抑制するために別の分析機器の設置、分析結果の反応解析をしなくても、総合的な副反応のコントロールを実現することができる。
【0063】
また、RPIの調節により、所望のレベルの副反応生成物の量を容易にコントロールすることができる。例えば、
図3~
図11で説明するように、RPIと副反応生成物(例えば、エチルアクリレート)との関係は、実質的に線形を満たすことができる。このように、RPIの値の調節により、実質的に副反応生成物の量を高信頼性で容易に微調整することができる。
【0064】
図1に戻ると、カルボン酸単量体供給部10および共溶媒供給部20からそれぞれカルボン酸単量体および極性共溶媒を別々に分離し、個別にミキシング部30に供給することができる。
【0065】
例えば、カルボン酸単量体および極性共溶媒は、それぞれ第1流路15及び第2流路25を介して個別にミキシング部30に進入することができる。これにより、カルボン酸単量体および極性共溶媒の接触時間を減少させ、エステル化反応を抑制することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、ミキシング部30または貯蔵タンク65に重合開始剤、反応抑制剤、酸化防止剤などの1以上の添加剤を共に供給することもできる。
【0067】
重合開始剤は、高分子重合の分野で公知の開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、ペルオキシドまたはペルオキシ系化合物、アゾビス系化合物などを用いることができる。
【0068】
反応抑制剤は、カルボン酸単量体および極性共溶媒の副反応を抑制するために追加的に含むことができる。例えば、反応抑制剤は、アルコールとの競争反応によってエステルの生成を抑制することができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、反応抑制剤としてアミン系化合物を用いることができる。前記アミン系化合物の例としては、トリメチルアミンのようなアルキルアミンが挙げられる。
【0070】
いくつかの実施形態では、反応抑制剤のカルボン酸単量体に対する投入モル比は、10-6~10-3であってもよい。前記範囲内では、重合反応の効率が低下することなく、エステル化を十分に抑制することができる。
【0071】
ミキシング部30によって混合されたカルボン酸単量体と極性共溶媒は、移送流路35を介して吐出部40に移動し、吐出流路45を介してエチレンとの共重合のために排出され得る。
【0072】
吐出部40は、例えば、ポンプ、コンプレッサーなどの排出装置を含むことができる。
【0073】
例示的な実施形態によると、ミキシング部30及び吐出部40での温度(例えば、混合温度及び吐出温度)は、カルボン酸単量体の結晶化温度よりは高く、カルボン酸の自己重合が起こる温度よりは低くてもよい。
【0074】
例えば、ミキシング部30及び吐出部40での温度は、それぞれ20~100℃の範囲内で調節することができる。
【0075】
例示的な実施形態によると、カルボン酸単量体および極性共溶媒の吐出圧力(例えば、吐出部40からの排出圧力)は、ミキシング部30での進入圧力または混合圧力よりも大きくてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、前記吐出圧力は、反応器60内での共重合反応の圧力よりも大きくてもよい。
【0077】
例えば、前記吐出圧力は、1100~2500barの範囲に維持することができる。好ましくは、前記吐出圧力は、1300~2300barの範囲であってもよい。
【0078】
エチレンは、第3流路55を介して移動し、吐出流路45を介して供給されるカルボン酸単量体および極性共溶媒の混合物と接触することができる。その後、反応器60でカルボン酸単量体とエチレンとの共重合が進行され、エチレン-カルボン酸共重合体(例えば、EAA共重合体)が製造できる。
【0079】
いくつかの実施形態では、前述した重合開始剤を第3流路55または別の流路を介して反応器60内に共に導入することができる。
【0080】
一実施形態では、重合開始剤は、ミキシング部30には導入せず、反応器60のみに導入することができる。これにより、重合開始剤によってカルボン酸単量体の自己重合が先に促進されることを防止することができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、重合工程中、例えば第3流路55を介して連鎖移動剤(chain transfer agent)を投入することができる。連鎖移動剤により、重合体製品の分子量および分子量分布を所望の範囲に容易に制御することができる。
【0082】
極性共溶媒もまた、エチレン-カルボン酸共単量体の重合反応に対して連鎖移動の効果を持つことができる。このため、極性共溶媒の連鎖移動係数(chain transfer coefficient:Cs)を考慮して連鎖移動剤および極性共溶媒の投入量を調節することにより、エチレン-カルボン酸共重合体の分子量および分子量分布を効果的に制御するとともに、極性共溶媒の注入効果を実現することができる。
【0083】
連鎖移動剤は、例えば、イソブタン、プロピンなどの非極性有機化合物、またはメチルエチルケトン、イソプロピルアルデヒド、ビニルアセテートなどの極性有機化合物を含むことができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、前記極性共溶媒も反応器内で前記連鎖移動剤と相互作用して、分子量の制御に影響を与えることができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、反応進行指数に含まれた極性共溶媒の投入濃度(C solvent)は、反応器の前段流路(例えば、第3流路55)での極性共溶媒と連鎖移動剤の濃度、それぞれの連鎖移動係数を総合的に考慮して、式2の範囲を満たすうに調節することができる。
【0086】
【0087】
【数12】
それぞれ、反応器の前段流路での極性共溶媒と連鎖移動剤(CTA)のそれぞれのモル濃度である。
【数13】
200℃での極性共溶媒と連鎖移動剤(CTA)のエチレンに対する連鎖移動係数(Cs value)である。
【0088】
連鎖移動係数は、高分子重合反応を終結する連鎖移動剤の反応性を示す定数であり、連鎖移動係数の値が大きいほど、高分子重合過程で高分子の分子量を減少させるのに必要な連鎖移動剤の量が少なくなる。
【0089】
連鎖移動係数の具体的な数値は、高分子工学概論(Polymer science & Technology)、Joel R.Fried、2006年、第2版、p.34~39、Handbook of polymer synthesis part A、Hans R.Kricheldorf、1991、p.3~5、Polymer science and engineering、David J.Williams、p.103-104などの文献に記載されている。
【0090】
例えば、式2で示す連鎖移動に関する数値範囲を外れる場合には、鎖終結が活性化しすぎるか、または鎖延長が進行しすぎて分子量の制御が困難になることがある。
【0091】
例示的な実施形態によると、
【数14】
を考慮して、式2の範囲を満たすように
【数15】
を調節することにより、高分子製品の分子量および分子量分布に対する極性共溶媒の影響をコントロールすることができる。例えば、式2の
【数16】
を満たすように式1における注入部での極性共溶媒の濃度(C
solvent)を調節することができる。
【0092】
図1に示すように、カルボン酸単量体と極性共溶媒との混合物は、反応器60に注入される前にエチレンと混合され、反応器60での重合効率を向上させることができる。一実施形態では、カルボン酸単量体と極性共溶媒の混合物、およびエチレンは反応器60に共に注入されてもよい。
【0093】
例えば、反応器60での重合温度は170~270℃であってもよい。反応器60での圧力は、1100~2500barであってもよい。
【0094】
例示的な実施形態によると、エチレン-カルボン酸共重合体の全重量に対して、エチレンの含有量(例えば、エチレン由来の単位またはブロックの含有量)は60~98重量%、およびカルボン酸の含有量(例えば、カルボン酸由来の単位またはブロックの含有量)は2~40重量%であってもよい。前記範囲内では、カルボン酸単量体の自己重合、エステル副生成物による純度の低下を十分に防止することができる。好ましい一実施形態では、エチレンの含有量は75~97.5重量%、及びカルボン酸の含有量(例えば、カルボン酸由来の単位またはブロックの含有量)は2.5~25重量%であってもよい。
【0095】
例えば、反応器60から生成された共重合体の重量平均分子量は8,000~1,000,000であってもよい。
【0096】
前述の例示的な実施形態によると、カルボン酸単量体と極性共溶媒間の反応動力学的特性を調節して副反応を抑制しつつ、カルボン酸単量体の結晶化および自己重合を低減することができる。これにより、エチレン-カルボン酸共重合体の収率および純度を向上しつつ、エチルアクリレートのような副生成物による前述の副作用を防止または低減することができる。
【0097】
前述したエチレン-カルボン酸共重合体は、例えばペレット状で製品化して、接着フィルム、シール材、絶縁性コーティング層、パッケージフィルムなどの用途に活用できる。
【0098】
図2は、いくつかの例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【0099】
図2を参照すると、カルボン酸単量体および極性共溶媒は、貯蔵タンク65内に共に保管して供給することができる。例えば、貯蔵タンク65からカルボン酸単量体と極性共溶媒の混合物を移送流路70を介して吐出部75に伝達することができる。前記混合物は、吐出部75から吐出流路80を介して排出することができる。
【0100】
エチレン供給部50に貯蔵されたエチレンは、第3流路55を介して移動し、吐出流路80を介して供給されるカルボン酸単量体と極性共溶媒の混合物と接触することができる。その後、反応器60でカルボン酸単量体とエチレンとの共重合が進行され、エチレン-カルボン酸共重合体(例えば、EAA共重合体)が製造できる。
【0101】
図2の実施形態においても、前述の例示的な実施形態に係るRPIの範囲を満たすように工程を設計、実行することができる。例えば式1のtは、貯蔵タンク65内に導入された後、エチレンと会合するまでのカルボン酸単量体と極性共溶媒の接触時間を示すことができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、第3流路55を介して式2を満たすように連鎖移動剤を供給することもできる。
【0103】
以下、実験例を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。ただし、実験例に含まれた実施例及び比較例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0104】
実験例1
カルボン酸単量体と極性共溶媒の接触による副反応生成物の発生を模写するために、アクリル酸(AA)(抑制剤として200ppmのMEHQ(mono methyl ether hydroquinone)を含有、純度99.5%、Alfa Aeser)とエタノール(EtOH)(純度99.5%、シグマアルドリッチ社製)の混合物でのエチルアクリレートの発生量を、時間によって試料を採取して内部標準物質を添加した後、ガスクロマトグラフ-炎イオン化検出器(GC-FID)により測定した。
【0105】
実験例1-1~1-9において、表1に示すようにEtOH/AAの混合比率および接触温度を調節した。
【0106】
図3~
図11は、それぞれ実験例1-1~1-9において、時間によるエチルアクリレートの発生量を示すグラフである。
【0107】
図3~
図11を参照すると、時間によって線形的にエチルアクリレートが発生する傾向を観察できる。線形回帰分析に基づいて導出された時間(x)によるエチルアクリレートの発生量(y)を
図3~
図11にそれぞれ示す。
【0108】
具体的には、同じ温度条件では、EtOH/AAのモル比が大きいほど、また同じEtOH/AAのモル比では、反応温度が高いほどエチルアクリレートの生成が促進された。
【0109】
極性共溶媒の導入により、吐出部40内の混合物の結晶化温度を下げて、カルボン酸単量体の自己重合および結晶化を防止できる工程運転の範囲を確保する必要がある。このため、カルボン酸単量体と極性共溶媒を適切に混合して反応器60に導入するために、前記混合物の最小接触時間(又は滞留時間)は0.1秒に設定された。
【0110】
前述のように、最終製品での副反応生成物(エチルアクリレート)の規制基準である6ppmを満たすために、プラント工程模写モデルにおける吐出部40でのエチルアクリレートの許容レベルを600ppmに設定した。
【0111】
各実験別に最小接触時間0.1秒による反応進行指数(RPI)(下限)及びエチルアクリレート発生上限である600ppmに相当する接触時間でのRPI(上限)を計算して表1に示す。
【0112】
【0113】
表1を参照すると、RPIを1.5と1.3Х107sec・Kとの間に調節した場合には、極性共溶媒の導入により、広い工程運転範囲を確保するとともに、副反応生成物(エチルアクリレート)の量をターゲット値以下に容易に管理できることを確認することができる。RPIが1.5未満であると、極性共溶媒を実質的に反応器に有効に導入することができない。RPIが1.3Х107sec・Kを超えると、最終製品でのエチルアクリレートの管理可能な規制範囲を超えて、前述の副作用を引き起こすことがある。
【0114】
一方、極性共溶媒によって十分な工程運転範囲を確保するために、最小接触時間を1秒に設定したRPI(下限)および実際のエチルアクリレートの規制基準である6ppmを満たすための接触時間におけるRPI(上限)を計算し、それを表2に示す。具体的には、6ppmに該当する接触時間は、
図3~
図11にそれぞれ示す時間(x)によるエチルアクリレート発生量(y)の関係式から算出した。
【0115】
【0116】
表2を参照すると、RPIを14.9と1.3Х105sec・Kとの間に調節した場合には、極性共溶媒の接触時間を現実的に増加させるとともに、副反応生成物の量も実際の基準未満に抑制できることを確認することができる。
【0117】
実験例2
エチレン-アクリル酸共重合体の重合工程の工程模写モデルによって、反応器60の前段流路での連鎖移動剤および極性共溶媒のモル濃度を測定し、それによる前述した式2の値を計算した。
【0118】
【0119】
前述のように、式2の数値範囲内では、共重合体の分子量および分子量分布を適切に調節することができる。また、極性共溶媒の使用による分子量分布への影響を式2の数値範囲内で適切に制御することができる。
【0120】
例えば、式2の数値が下限値(0.003mol/L)未満であると、反応器内で連鎖移動作用をする化合物の総量が不足となり、製品の平均分子量が大きくなりすぎるか、分子量分布が広くなりすぎることがある。式2の数値が上限値(0.01mol/L)よりも大きくなると、反応器内で連鎖移動作用をする化合物の総量が多くなり、製品の平均分子量が小さくなりすぎるか、分子量分布が狭くなりすぎることがある。
【0121】
表3を参照すると、極性共溶媒自体の連鎖移動剤の作用により、極性共溶媒を新規に導入しても、連鎖移動剤の含有量を減少させ、式2の計算値を式2の範囲内で維持できることを確認することができる。
【国際調査報告】