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特表2022-518835DC鋳造のための鋳造方法及び鋳造装置
<図1>
  • 特表-DC鋳造のための鋳造方法及び鋳造装置 図1
  • 特表-DC鋳造のための鋳造方法及び鋳造装置 図2
  • 特表-DC鋳造のための鋳造方法及び鋳造装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(54)【発明の名称】DC鋳造のための鋳造方法及び鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/049 20060101AFI20220309BHJP
   B22D 18/04 20060101ALI20220309BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
B22D11/049
B22D18/04 Z
B22D11/16 104A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544317
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2020050917
(87)【国際公開番号】W WO2020156813
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】20190143
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591237869
【氏名又は名称】ノルスク・ヒドロ・アーエスアー
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】ギーレーンゲン、ブリット・エリン
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC12
4E004PA05
(57)【要約】
縦型鋳造品(90)を鋳造する方法は、型(30)を有するDC鋳造装置(10)を使用して半連続的に縦型鋳造品(90)を鋳造することであって、型(30)は上部(31)及び下部(32)開口部を有し、上部開口部(31)を介して型(30)に入れられる溶融金属を少なくとも部分的に固化し、下部開口部(32)を介して鋳造品(90)を出力するように構成されている、鋳造することと、下部開口部(32)を介して出力される鋳造品(90)の熱画像を記録することと、第1の温度範囲、第2の温度範囲、及び第3の温度範囲を含む少なくとも3つの重複しない温度範囲を決定することと、熱画像におけるピーク温度を決定することと、ピーク温度を少なくとも3つの温度範囲と比較することと、a.)ピーク温度が第1の温度範囲内に含まれる場合、鋳造品(90)を鋳造することと、b.)ピーク温度が第2の温度範囲内に含まれる場合、鋳造装置(10)のメンテナンス要求を示す情報を表示し、鋳造品(90)が鋳造された後、及びその後の鋳造作業が実行される前、鋳造装置(10)のメンテナンスを実行することと、c.)ピーク温度が第3の温度範囲内に含まれる場合、現在鋳造されている鋳造品(90)の鋳造を中止し、緊急停止を示す情報を表示することとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦型鋳造品(90)を鋳造する方法であって、
型(30)を有する直接チル(DC)鋳造装置(10)を使用して半連続的に縦型鋳造品(90)を鋳造することであって、前記型(30)は上部開口部(31)及び下部(32)開口部を有し、前記上部開口部(31)を介して前記型(30)に入れられる溶融金属を少なくとも部分的に固化し、前記下部開口部(32)を介して前記鋳造品(90)を出力するように構成されている、鋳造することと、
前記下部開口部(32)を介して出力される前記鋳造品(90)の熱画像を記録することと、
第1の温度範囲、第2の温度範囲、及び第3の温度範囲を含む少なくとも3つの重複しない温度範囲を決定することと、
前記熱画像におけるピーク温度を決定することと、
前記ピーク温度を前記少なくとも3つの温度範囲と比較することと、
a.)前記ピーク温度が前記第1の温度範囲内に含まれる場合、前記鋳造品(90)を鋳造することと、
b.)前記ピーク温度が前記第2の温度範囲内に含まれる場合、前記鋳造装置(10)のメンテナンス要求を示す情報を表示し、前記鋳造品(90)が鋳造された後、及びその後の鋳造作業が実行される前、前記鋳造装置(10)のメンテナンスを実行することと、
c.)前記ピーク温度が前記第3の温度範囲内に含まれる場合、現在鋳造されている鋳造品(90)の鋳造を中止し、緊急停止を示す情報を表示することと
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の温度範囲が、70℃未満の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の温度範囲が、70℃~90℃の温度を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第3の温度範囲が、90℃より高い温度を含み、90℃を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
現在鋳造されている鋳造品(90)の鋳造を中止することが、前記型(30)に溶融金属を入れることを停止することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶融金属が、型キャビティ(33)から、冷却媒体を循環する冷却ジャケット(34)内に熱を除去することによって少なくとも部分的に固化される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋳造品が、前記冷却ジャケット(34)のすぐ下又は前記型の前記下部開口部(32)領域内の直接水冷によってさらに固化される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
縦型鋳造品(90)の半連続直接チル鋳造用の鋳造装置(10)であって、
型キャビティ(33)及び前記型キャビティ(33)と流体連通している上部開口部(31)及び下部開口部(32)を有する型(30)であって、前記型キャビティ(33)に供給される溶融金属を少なくとも部分的に固化するように構成された型(30)と、
溶融金属を貯蔵部から前記上部開口部(31)を介して前記型キャビティ(33)に選択的に供給するための金属供給システム(70)と、
前記型(30)の前記下部開口部(32)を閉じる高位置、及び低位置の間で垂直方向に移動可能であるように構成されたスターターブロック(50)であって、鋳造品(90)は溶融金属を前記型キャビティ(33)に供給しながら前記スターターブロック(50)を前記高位置から前記低位置に垂直方向に移動させることによって製造される、スターターブロック(50)と、
前記スターターブロック(50)が前記高位置から前記低位置に移動している間に前記鋳造品(90)の熱画像を記録するように構成されたサーマルカメラ(80)と、
前記熱画像内のピーク温度を決定し、前記決定されたピーク温度を少なくとも第1の温度範囲、第2の温度範囲、及び第3の温度範囲と比較し、前記金属供給システムを介した金属の供給を制御し、前記スターターブロック(50)の垂直方向の移動を制御するように構成された電子制御システム(100)と、
情報を出力するための情報出力システムとを含み、
前記電子制御システム(100)は、前記ピーク温度が前記第1の温度範囲内に含まれる場合、前記鋳造品(90)を製造するように前記金属供給システム(70)及び前記スターターブロック(50)を制御し、
前記電子制御システム(100)は、前記ピーク温度が前記第2の温度範囲内に含まれる場合、前記鋳造品(90)を製造するように前記金属供給システム(70)及び前記スターターブロック(50)を制御し、前記鋳造装置(10)のメンテナンスが必要であることを示す情報を出力するように前記情報出力システムを制御し、
前記電子制御システム(100)は、前記ピーク温度が前記第3の温度範囲内に含まれる場合、前記鋳造品(90)の鋳造を中止するように前記貯蔵部から前記型キャビティ(33)への溶融金属の供給を停止するように前記金属供給システム(70)を制御する、鋳造装置(10)。
【請求項9】
前記第1の温度範囲が、70℃未満の温度を含む、請求項8に記載の鋳造装置(10)。
【請求項10】
前記第2の温度範囲が、70℃~90℃の温度を含む、請求項8又は9に記載の鋳造装置(10)。
【請求項11】
前記第3の温度範囲が、90℃より高い温度を含み、90℃を含まない、請求項8~10のいずれか一項に記載の鋳造装置(10)。
【請求項12】
前記サーマルカメラが、前記型(30)の前記下部開口部(32)の下に配置され、少なくとも前記型(30)の前記下部開口部(32)のすぐ下で前記鋳造品(90)の熱画像を記録する、請求項8~11のいずれか一項に記載の鋳造装置(10)。
【請求項13】
前記型(30)が、冷却媒体を循環するための冷却ジャケット(34)を備える、請求項8~12のいずれか一項に記載の鋳造装置(10)。
【請求項14】
前記冷却ジャケットのすぐ下の又は前記型の前記下部開口部(32)内の前記鋳造品の直接水冷のための手段を備える、請求項8~13のいずれか一項に記載の鋳造装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延インゴット又は押出インゴット又は鍛造素材などの縦型鋳造品を効率的に鋳造するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縦型鋳造品の鋳造は、直接チル(DC)鋳造装置を使用して実行される。そのようなDC鋳造装置は、上部開口部を介して型に導入される溶融金属を少なくとも部分的に固化するように構成される型を備える。鋳造品に対応する少なくとも部分的に固化した溶融金属は、下部開口部を介して型から出て、垂直に移動可能なスターターブロックによって支持される。縦型鋳造品は、溶融金属から製造された鋳造品を支持するスターターブロックを垂直方向に下方に動かしながら、溶融金属を型に連続的に供給することによって製造される。鋳造品は、例えば、1~5メートルの長さを有し得るが、鋳造品は任意の長さを有し得る。鋳造品を鋳造した後、型への溶融金属の流れを遮断し、鋳造品をスターターブロックから取り外し、スターターブロックを垂直方向に上方に動かして型の下部開口部を閉じる。この構成から始めて、次の鋳造品を鋳造することができる。各鋳造品は個別に連続定常状態で鋳造され、後続の鋳造品の鋳造の間に中断があるため、このプロセスは「半連続鋳造プロセス」と呼ばれる。以下、それは「DC鋳造」又は「鋳造」とも呼ばれる。
【0003】
特許文献1は、金属、特にアルミニウムインゴットを鋳造するためのDC半連続鋳造機器用の冷却システムを開示している。このDC半連続鋳造機器は、一体型配水ボックスを備えたフレーム構造に配置された1つ又は複数のチルを備え、このチルは、油及び/又はガスを供給するための透過性壁要素に囲まれた型チャンバを備え、溶融金属を供給するための開口部により上部で開放し、各鋳造作業の開始時に、チルは可動支持体によって下部で閉じられている。金属は、型チャンバ内での一次冷却と、一次冷却領域のすぐ下での直接水冷による二次冷却とによって2段階で冷却される。
【0004】
スラブ又は圧延スラブは、例えば、箔又は板金等を製造するために圧延プロセスでその後使用され、長方形の断面を有し得る鋳造品である。押出しビレットは、押出しにその後使用され、円形の断面を有し得る鋳造品である。しかしながら、DC鋳造によって製造可能な鋳造品は、その後の圧延又は押出しのための使用に限定されず、鍛造又は他の成形方法のために使用することもできる。
【0005】
DC鋳造中の共通の問題は、「ブリードアウト(bleed-out)」と呼ばれる現象である。ブリードアウトは、溶融金属が制御不能且つ望ましくない方法で型の下部開口部からこぼれるときに発生する。ブリードアウトは人員を危険にさらす可能性があり、また鋳造装置に永久的な損傷を与え、生産のダウンタイムを引き起こす可能性がある。図1は、円形断面を有するように意図された鋳造品の鋳造中のDC鋳造装置でのブリードアウトの可視光画像を示している。これまでのところ、ブリードアウトにつながる理由とメカニズムは完全には確立されていない。
【0006】
特許文献2は、DC鋳造中のブリードアウトの問題に関連している。特許文献2は、鋳造品の外面における溶融金属の存在を検出するための検出手段を含む、溶融金属のDC鋳造におけるブリードアウトを検出するためのブリードアウト検出器を開示している。ブリードアウトが検出された場合、検出手段は信号をアラームに送信して、適切な修正アクションをトリガーする。
【0007】
ブリードアウトは人員を危険にさらす可能性があり、また鋳造装置に永久的な損傷を与え、生産のダウンタイムを引き起こす可能性もあるため、DC鋳造中のブリードアウトのリスクを回避又は少なくとも低減することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0033246 A1号明細書
【特許文献2】国際公開第97/16273 A1号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、より効率的な半連続鋳造プロセスを可能にすることである。本発明の目的はまた、半連続DC鋳造中のブリードアウトのリスクを防ぐか、又は少なくとも低減することである。これら及び他の目的を解決するために、本発明は、縦型鋳造品を鋳造する方法であって:型を有するDC鋳造装置を使用して半連続的に縦型鋳造品を鋳造することであって、型は上部及び下部開口部を有し、上部開口部を介して型に入れられる溶融金属を少なくとも部分的に固化し、下部開口部を介して鋳造品を出力するように構成されている、鋳造することと、下部開口部を介して出力される鋳造品の熱画像を記録することと、第1の温度範囲、第2の温度範囲、及び第3の温度範囲を含む少なくとも3つの重複しない温度範囲を決定する(定める)ことと、熱画像におけるピーク温度を決定することと、ピーク温度を少なくとも3つの温度範囲と比較することと、a.)ピーク温度が第1の温度範囲内に含まれる場合、鋳造品を鋳造することと、b.)ピーク温度が第2の温度範囲内に含まれる場合、鋳造装置のメンテナンス要求を示す情報を表示し、鋳造品が鋳造された後、及びその後の鋳造作業が実行される前、鋳造装置のメンテナンスを実行することと、c.)ピーク温度が第3の温度範囲内に含まれる場合、現在鋳造されている鋳造品の鋳造を中止し、緊急停止を示す情報を表示することとを含む方法を提供する。
【0010】
この方法の実施形態によれば、中止は自動的に(例えば、電子制御ユニットを使用して)実行することができる。本発明による方法の実施形態によれば、中止は、緊急停止を示す情報の表示に基づいて、オペレータによって(すなわち、人によって)実行することができる。実施形態によれば、本発明は、本明細書に記載の方法を実施するための装置を提供する。
【0011】
本発明による方法の実施形態によれば、第1の温度範囲は、70℃未満の温度を含む。
【0012】
本発明による方法の実施形態によれば、第2の温度範囲は、70℃~90℃の温度を含む。
【0013】
本発明による方法の実施形態によれば、第3の温度範囲は、90℃より高い温度を含み、90℃を含まない。
【0014】
この方法の実施形態によれば、溶融金属は、型キャビティから、冷却媒体を循環する冷却ジャケット内に熱を除去することによって少なくとも部分的に固化される。
【0015】
この方法の実施形態によれば、鋳造品は、冷却ジャケット(34)のすぐ下又は型の下部開口部(32)内の直接水冷によってさらに固化される。
【0016】
さらなる態様によれば、本発明は、縦型鋳造品の半連続直接チル鋳造用の鋳造装置であって、型キャビティ及び型キャビティと流体連通している上部開口部及び下部開口部を有する型であって、型キャビティに供給される溶融金属を少なくとも部分的に固化するように構成された型と、溶融金属を貯蔵部から上部開口部を介して型キャビティに選択的に供給するための金属供給システムと、型の下部開口部を閉じる高位置及び低位置の間で垂直方向に移動可能であるように構成されたスターターブロックであって、鋳造品は溶融金属を型キャビティに供給しながらスターターブロックを高位置から低位置に垂直方向に移動させることによって製造される、スターターブロックと、スターターブロックが高位置から低位置に移動している間に鋳造品の熱画像を記録するように構成されたサーマルカメラと、熱画像内のピーク温度を決定し、決定されたピーク温度を少なくとも第1の事前に定められた温度範囲、第2の事前に定められた温度範囲、及び第3の事前に定められた温度範囲と比較し、金属供給システムを介した金属の供給を制御し、スターターブロックの垂直方向の移動を制御するように構成された電子制御システムと、情報を出力するための情報出力システムとを含み、電子制御システムは、ピーク温度が第1の事前に定められた温度範囲内に含まれる場合、鋳造品を製造するように金属供給システム及びスターターブロックを制御し、電子制御システムは、ピーク温度が第2の事前に定められた温度範囲内に含まれる場合、鋳造品を製造するように金属供給システム及びスターターブロックを制御し、鋳造装置のメンテナンスが必要であることを示す情報を出力するように情報出力システムを制御し、電子制御システムは、ピーク温度が第3の事前に定められた温度範囲内に含まれる場合、鋳造品の鋳造を中止するように貯蔵部から型キャビティへの溶融金属の供給を停止するように金属供給システムを制御する、鋳造装置を提供する。
【0017】
本発明の実施形態によれば、第1の事前に定められた温度範囲は、70℃未満の温度を含む。
【0018】
本発明の実施形態によれば、第2の事前に定められた温度範囲は、70℃~90℃の温度を含む。
【0019】
本発明の実施形態によれば、第3の事前に定められた温度範囲は、90℃より高い温度を含み、90℃を含まない。
【0020】
本発明の実施形態によれば、サーマルカメラは、型の下部開口部の下に配置され、少なくとも型の下部開口部のすぐ下の領域において鋳造品の熱画像を記録する。
【0021】
本発明の実施形態によれば、型は、冷却媒体を循環するための冷却ジャケットを備える。
【0022】
本発明の実施形態によれば、鋳造装置は、溶融金属上に固化した外層を形成した後、鋳造品を直接水冷することによる二次冷却を含む。
【0023】
本技術分野で一般的に知られているように、DC鋳造装置は、例えば米国特許出願公開第2002/0033246 A1号明細書に示されているように、複数の鋳造品を同時に鋳造するための複数の型を備え得る。本発明の方法及び鋳造装置は複数の型を有するDC鋳造装置を含むことが理解されるべきであり、したがって、本明細書で使用される「型(mold)」という用語は、複数形の「型(molds)」を含むと理解されるべきである。さらに、特にDC鋳造装置が複数の鋳造品を同時に製造するための複数の型を備える場合、鋳造品の熱画像を記録するために複数のサーマルカメラ又は熱画像デバイスを配置できることを理解されたい。したがって、「サーマルカメラ」及び「熱画像デバイス」という用語は、それらの用語の複数形を含むと解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】鋳造品を鋳造する間のDC鋳造装置内のブリードアウトを示す。
図2】本発明による方法を実行するための本発明の実施形態によるDC鋳造装置の概略図を示す。
図3】ブリードアウトが発生する直前の鋳造品の熱画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図2を参照すると、本発明の実施形態によるDC鋳造装置10は、型30を備える。
【0026】
型30は、上部開口部31及び下部開口部32と、上部及び下部開口部31、32と流体連通している型キャビティ33とを有する。型30は、水などの冷却媒体を循環させるための冷却ジャケット34をさらに備え得る。冷却ジャケット34は、型キャビティから、熱を例えば熱交換器(図示せず)へ運び去る冷却媒体への熱伝導を介して型キャビティ33から熱を除去する働きをし得る。当技術分野で一般的に知られているように、溶融金属は、例えば図2に示されるような冷却ジャケット34による、溶融金属上に外側固化層を形成するための型キャビティ内での一次冷却によって、及び、図2には示されていない、一次冷却領域のすぐ下の直接冷却、例えば直接水冷による二次冷却によって、2段階で冷却される。直接冷却、例えば直接水冷は、冷却ジャケットのすぐ下に、及び/又は鋳造品が型を出る型の下部開口部(32)領域に配置することができる。
【0027】
鋳造装置10は、スターターブロック50をさらに備える。スターターブロック50は、スターターブロック50の垂直移動によって型30の下部開口部32を選択的に開閉できるように配置されている。スターターブロック50は、下部開口部32の下に配置され、下部開口部32を閉じるように(最上部の位置にあるとき)、及び下部開口部32を開くように(垂直方向に下方に移動したとき)、垂直方向に移動可能である。図2の二重矢印は、スターターブロック50の垂直方向の可動性を示している。
【0028】
DC鋳造装置10は、液体金属、特に溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金を、溶融炉又はるつぼなどの貯蔵部から、型30の上部開口部31を介して型キャビティ33に供給するように構成された金属供給システム70をさらに備える。金属供給システム70は、型キャビティ33への金属の流れを停止するための手段75を備え得る。金属の流れを停止するための手段75は、例えば、図2に示すように貯蔵部と型キャビティ33を接続する導管上に設けられたバルブ、例えばゲートバルブ又はダムとして、或いは、開口部-プラグの組み合わせとして実装することができる。手段75はまた、他の方法で、例えば、型33等への液体金属の流れに対抗する電磁場を介して実装することもできる。
【0029】
鋳造装置10を用いた鋳造作業は、以下のように行われる。初期状態において、スターターブロックは、型30の下部開口部32を閉じるように上部位置にある。次に、液体金属が金属供給システム70を介して型キャビティ33に導入される。液体金属は、金属から型30、例えばその冷却ジャケット34への熱伝達によって少なくとも部分的に固化され、溶融金属上に固化した外層を形成する。同時に、スターターブロック50は、液体金属が金属供給システム70を介して型キャビティ33に連続的に供給されている間、垂直方向に下方に移動される。このようにして、縦型鋳造品90が連続的に製造される。鋳造品90の鋳造が終了すると、型キャビティ33への液体金属の供給が中断され、スターターブロック50の垂直方向の移動が停止される。次に、鋳造品90をスターターブロック50から取り出す。次に、空のスターターブロック50を垂直方向に上方に動かして、型30の下部開口部32を閉じ、鋳造装置10を再び初期状態にする。この状態から、次の鋳造品90を鋳造することができる。用語に関して、鋳造品90の鋳造は、鋳造が定常状態(「動的平衡」)で行われるので「連続鋳造」と呼ばれる一方、いくつかの鋳造品90のその後の鋳造は、スターターブロック50が上部位置まで上方に移動されるときに後続の鋳造品90の鋳造の間に不連続性があるので、「半連続」鋳造等と呼ばれる。
【0030】
本発明者らは、ブリードアウト現象が、型30の下部開口部32を出る鋳造品90の表面の温度上昇に関連していることを実験により発見し、確認した。本発明者らはまた、鋳造品90の表面での温度上昇の原因を発見し、また、ブリードアウト及び関連する傷及び損傷のリスクがないか、又は少なくとも低減された効率的な鋳造を可能にする鋳造方法及び装置を提示する。
【0031】
したがって、DC鋳造装置10は、鋳造中に鋳造品90の熱画像(又は熱ビジョンビデオ)を記録するように構成された熱画像デバイス又はサーマルカメラ80をさらに備える。サーマルカメラ80によって記録された熱画像は、例えば、マトリックス(例えば、320列及び240行又は1920列及び1080行)に配置されたピクセルの画像であり得、ここで、各ピクセルの値は、対応する位置でサーマルカメラ80に入射する熱放射に対応する。ピクセルの値は、記録された物体の温度に対応する。熱画像を記録するために、サーマルカメラ80は、例えば、CCD検出器を備え得る。本発明に従って使用することができるサーマルカメラ80の例は、例えば、FLIR Systems(米国オレゴン州ウィルソンビル)から入手可能なカメラFLIR GF309である。しかしながら、他の市販のサーマルカメラもまた、本発明によるサーマルカメラ80として使用することができる。サーマルカメラ80は、型30の下部開口部32を出る鋳造品90の熱画像を記録するように配置される。したがって、熱画像デバイス又はサーマルカメラ80は、型の下部開口部32の下に配置されるべきである。本発明によるサーマルカメラ80を使用して記録された熱画像の例を図3に示す。より明るい領域はより暗い領域と比較してより高い温度を表す。実際には、熱画像は異なる温度を示す色を有し得る。
【0032】
サーマルカメラ80は、電子制御システム100に接続されているか、又は電子制御システム100を備える。電子制御システム100は、標準的なPCなどのコンピュータであり得る。電子制御システム100は、鋳造装置10の全作動を制御し得る。電子制御システム100は、サーマルカメラ80によって記録された熱画像から、鋳造作業中に下部開口部32を出た鋳造品90のピーク温度を決定する。ピーク温度は、対応して、鋳造品90の記録された最高温度である。電子制御システム100は、実施形態によれば、金属供給システム70、例えば、その金属の供給を停止するための手段75に接続することもできる。電子制御システム100は、情報出力システム(図示せず)、例えば、情報を表示することができるコンピュータディスプレイ、警告ランプ、音声警報等に接続される。ピーク温度を決定するために、任意の適切なアルゴリズムを使用することができる。ピーク温度を決定するための非常に単純なアルゴリズムは、熱画像を形成するピクセルのすべての行と列で反復し、現在の値を前の値と比較し、現在の値が前の値よりも高い場合、前の値を現在の値で置き換えることを含み得る。この場合、すべての行と列で反復が行われたときの最終値が、ピーク温度に対応する。しかしながら、条件によっては、他のアルゴリズムを使用することもできる。
【0033】
電子制御システム100は、サーマルカメラ80によって記録された熱画像に基づいて電子制御システム100によって決定される最高温度に応じて、以下のアクションを実行するように構成される。最高温度が第1の事前に定められた温度範囲内にあるとき、追加のアクションはとられず、鋳造作業は上記の半連続方法で実行される。最高温度が第2の事前に定められた温度範囲内にあるとき、鋳造品90を現在鋳造するための鋳造プロセスは通常通り実行されるが、鋳造装置10のメンテナンスが必要であることを示す信号が情報出力システムに送信される。最高温度が第3の事前に定められた温度範囲内にあるとき、対応する信号が情報出力システムに送信され、現在実行されている鋳造プロセスは、型キャビティ33への金属の流れを遮断することにより、例えば自動的に又はオペレータによって中断される。第3の温度範囲は第2の温度範囲より高く、第2の温度範囲は第1の温度範囲より高く、いずれの温度範囲も重ならない。第1の事前に定められた温度範囲は通常作業温度範囲とも呼ばれ、第2の事前に定められた温度範囲はメンテナンスが必要な温度範囲とも呼ばれ、第3の事前に定められた温度範囲は緊急停止温度範囲とも呼ばれる。注意深い分析と実験により、本発明者らは、アルミニウム又はアルミニウム合金(本明細書に記載のアルミニウム合金は少なくとも70重量%のAlを含む合金である)の鋳造の場合、熱画像に1の放射率を使用する以下の事前に定められた温度範囲を、ブリードアウトを安全に防止する効率的な鋳造に使用できることを発見した。
-第1の温度範囲:最大70℃:通常作業
-第2の温度範囲70~90°C:メンテナンスが必要
-第3の温度範囲:90℃超:緊急停止温度
【0034】
しかしながら、これらの温度は、使用される鋳造装置10、鋳造パラメータ、合金、鋳造ハウス温度、鋳造寸法等に従って最適化及び適合させることができる。経験的データ及び観察を利用して、特定の鋳造装置、鋳造パラメータ、特定の合金、特定の寸法等に適合した異なる温度範囲を決定することができる。ブリードアウトのリスクが高い臨界温度を特定するために試験を実行することができる。事前に定められた緊急停止温度範囲は、そのような臨界温度より低く設定する必要があり、この際十分な安全マージンが提供される。事前に定められたメンテナンスが必要な温度範囲は、例えば、場合により型の下部開口部から出る鋳造品の温度を監視しながら、鋳造品の表面の目視観察に基づいて決定することができる。鋳造品の不均一及び/又は不十分な表面品質は、鋳造機及び/又は冷却システムのメンテナンスが必要であることを示している。通常作業温度は、通常、鋳造品の高品質な表面を提供する。
【0035】
本発明者らは、ピーク温度が、メンテナンスが必要な温度範囲内又は緊急停止温度範囲内にあるときに、鋳造装置10に対して以下のメンテナンスを実施するべきであることを発見した。特に、2種類のメンテナンスを実行することができる:a.)冷却媒体の供給が十分であることを確実にするべきである、及び、b.)型キャビティ33を囲む型30の壁に汚染物質がないことを確実にするべきである。a.)に関して、例えば、その流量は、型30の冷却ジャケットに蓄積する汚れによって制限され得る。b.)に関して、しばしば、型キャビティ33を取り囲む型30の壁上の金属残留物又は他の汚れが鋳造品90上にホットスポットをもたらし、それが次にブリードアウトに発展し得ることが発見された。したがって、本発明による鋳造は、ピーク温度が第2の温度範囲内又は第3の温度範囲内にあるときに、冷却ジャケットから汚れを除去すること、及び/又は型30の壁を洗浄することを含み得る。
【0036】
本発明による方法及び装置は、記録された熱画像に基づいて必要なアクションをとることによってブリードアウトを予測及び防止できるという従来技術に勝る利点を有する。したがって、本発明は、人身傷害及び鋳造装置の永久的な損傷のリスクを低減する、より安全でより効率的な半連続DC鋳造プロセスを可能にする。
【0037】
当業者は、本開示が上記の好ましい実施形態に限定されないことを理解している。当業者は、添付の特許請求の範囲内で修正及び変形が可能であることをさらに理解している。さらに、開示された実施形態の変形は、図面、開示内容、及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求された開示内容を実施する際に当業者によって理解及び実施することができる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】