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特表2022-519107鼓膜上に配置するための振動モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-18
(54)【発明の名称】鼓膜上に配置するための振動モジュール
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20220311BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20220311BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
H04R25/00 F
H04R17/00
H04R1/00 317
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544833
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2020052465
(87)【国際公開番号】W WO2020157296
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】102019201273.6
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339049
【氏名又は名称】ヴィブロソニック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリッチェ トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルデンシュタイン ダニエラ
【テーマコード(参考)】
5D004
5D017
【Fターム(参考)】
5D004AA09
5D004CD09
5D004DD02
5D017AB12
(57)【要約】
本発明は、鼓膜上に配置するための振動モジュールに関し、振動モジュールは、平面型音響変換器と、鼓膜に接触するための鼓膜接触モールドと、を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓膜上に配置するための振動モジュールであって、
平面型音響変換器と、
前記鼓膜に接触するための鼓膜接触モールドと
を備える、振動モジュール。
【請求項2】
前記平面型音響変換器および前記鼓膜接触モールドは内部容積を囲む、ことを特徴とする請求項1に記載の振動モジュール。
【請求項3】
前記平面型音響変換器は、前記平面型音響変換器の表面の一部として膜構造を有し、
前記膜構造は、少なくとも1つのキャリア層と、前記キャリア層上に配置され、少なくとも1つの圧電材料を有する少なくとも1つの圧電層と、を有し、前記圧電層に電圧を印加することにより前記音響変換器を励起して少なくとも部分的に振動させることができるように設計される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の振動モジュール。
【請求項4】
前記膜構造は、前記表面おいて、前記膜構造のすべての層を分断する少なくとも1つの切れ目によって少なくとも1つ、2つ、または3つ以上のセグメントに分割されて、前記膜構造が前記切れ目で機械的に分離される、ことを特徴とする請求項3に記載の振動モジュール。
【請求項5】
前記鼓膜接触モールドは、前記鼓膜接触モールドの縁部で、前記平面型音響変換器の縁部に少なくとも部分的に接続される、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項6】
前記平面型音響変換器は、膜または前記膜構造を有し、かつ前記膜または前記膜構造を取り囲む剛性縁部を有し、
前記鼓膜接触モールドは、前記平面型音響変換器の前記縁部の少なくとも一部上で前記平面型音響変換器の前記剛性縁部に接続される、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項7】
前記平面型音響変換器および/または前記鼓膜接触モールドは、前記鼓膜の最小直径未満の最小直径を有し、かつ/または、
前記平面型音響変換器および/または前記鼓膜接触モールドは、前記鼓膜の前記最大直径未満の最大直径を有し、
好ましくは、前記平面型音響変換器および/または前記鼓膜接触モールドの前記最大直径は12mm以下であり、かつ/または、前記平面型音響変換器および/または前記鼓膜接触モールドの前記最小直径は3mm以上である、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項8】
表面の1つの位置で前記平面型音響変換器に接続されるかまたは当接し、かつ、その表面の他の位置で前記鼓膜接触モールドに接続されるかまたは当接する振動伝達要素をさらに備え、
前記振動伝達要素は、好ましくは、前記内部容積を部分的にまたは完全に満たす、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項9】
前記内部容積は、振動伝達材料で部分的または完全に充填される、ことを特徴とする請求項2から8のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項10】
前記平面型音響変換器は凹部を有し、かつ/または、前記鼓膜接触モールドは前記鼓膜接触モールドの表面に凹部を有し、前記凹部は、前記振動伝達材料を前記凹部の中に変位させるように配置される、ことを特徴とする請求項9に記載の振動モジュール。
【請求項11】
振動伝達要素は、振動伝達材料の部分領域として前記内部容積内に形成され、前記振動伝達材料は、好ましくは1000N/m以上、特に好ましくは10kN/m以上、特に好ましくは100kN/m以上の高い剛性を有する、ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項12】
前記振動伝達要素は、前記平面型音響変換器の最大たわみ点から前記鼓膜接触モールドの点まで延在し、前記振動モジュールは、前記鼓膜上に意図したように配置されたとき、前記鼓膜接触モールドの前記点は、前記鼓膜臍からかつ/または前記槌骨から5mm未満、好ましくは2mm以下、かつ/または0.01mm以上、有利には1mmを超える、有利には1.5mmの距離のところにある、ことを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項13】
前記鼓膜接触モールドは、前記平面型音響変換器から離れる方向に向いている表面を有し、前記表面は、前記外耳道に面する前記鼓膜の表面の形状を有するか、または前記表面が前記表面自体を前記鼓膜の前記表面に適合させるようにセットアップされる、ことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項14】
前記鼓膜接触モールドは、意図したように使用されたときに前記鼓膜に当接する領域において、前記鼓膜接触モールドがこの領域内で前記鼓膜接触モールドの前記表面に平行な方向にのみ実質的に張力を形成するほど小さい厚さを有し、前記厚さは、好ましくは500μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下である、ことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項15】
前記鼓膜接触モールドはシリコーンを含むか、またはシリコーンからなる、ことを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項16】
前記鼓膜への接着を改善するために、前記音響変換器から離れる方向に向いている前記鼓膜接触モールドの前記表面上にある層を有し、前記層は、好ましくは、ホワイト油、脂肪、シリコーン油、グリセリンおよび/またはパラフィンから選択された1つまたは複数を含むか、または前記1つまたは複数からなる、ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項17】
前記平面型音響変換器と、前記音響変換器から離れる方向に向いている前記鼓膜接触モールドの表面との間の最小距離は、1mm以下、好ましくは500μm以下、好ましくは200μm以下、好ましくは150μm以下である、ことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項18】
前記平面型音響変換器は、その縁部において前記鼓膜接触モールド内に投入され、または前記平面型音響変換器は、前記鼓膜接触モールドの凹部内に接着され、前記凹部は、好ましくは、前記鼓膜接触モールドの前記縁部に沿って延在するかまたは前記縁部を取り囲む、ことを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の振動モジュール。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の振動モジュールを生産する方法であって、前記平面型音響変換器および前記鼓膜接触モールドが生産される、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼓膜上に配置するための振動モジュール(vibration module)に関し、振動モジュールは、平面型音響変換器(flat sound transducer)と鼓膜に接触するための鼓膜接触モールド(eardrum contact mold)とを有する。
【背景技術】
【0002】
従来の補聴器は、スピーカまたはレシーバとしても知られる音響変換器を用いて増幅された音を鼓膜に伝達する。この音響変換器は外耳道(ear canal)内に配置されるか、あるいは音響変換器は耳掛型ハウジング内にあり、音は音響管によって外耳道内に誘導される。外耳道は、フィードバックを回避するとともに、より効率的な伝達を可能にするために、音出口の背後で音響的に閉鎖されることが多い。外耳道が開放したままであると、伝達は、特に低周波数帯域で非効率的ではあるが、いわゆる閉塞効果が起きないので、着心地が良くなる。音出口開口部の位置および鼓膜への音の音響伝達は、外耳道の容積での共鳴に起因してその周波数域で大きく変化する伝達挙動をさらにもたらす。
【0003】
従来の補聴器のこれらの欠点は、音響変換器が、鼓膜と、鼓膜を直接機械的に接触して打つ中耳の小骨とを刺激することで解決することができる。その場合、空中伝送音はもはや必要ではなく、これは、振動が平坦な周波数応答で非常に効率的に耳に伝達されることを意味する。外耳道内に放射される音は大幅に低減され、これは、外耳道の開放がフィードバックの問題なしに可能であることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、鼓膜上に直接配置し、平面型電気機械アクチュエータを介して鼓膜および小骨に力を伝え、それにより鼓膜および小骨の可聴周波数帯域の振動、したがって聴覚印象をもたらす振動モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
平面型音響変換器を使用すると、振動モジュールの重量を低く保つとともに、振動モジュールの重心をシフトさせて鼓膜に近づけることが可能になる。したがって、外耳道上に支持されることなく、接着力のみにより確実に固着することが可能である。これにより、高レベルの快適性が可能になり、外耳道の印象も不要になる。薄層技術で有利に生産された圧電層は、最大4Vの電圧で120dB SPL以上の等価音圧を達成するために、小さい設置スペース内での十分な力およびたわみ量を随意に達成することができる。低移動質量は、可聴域内での周波数依存性伝達挙動を可能にする。
【0006】
この目的は、請求項1に記載の鼓膜上に配置するための振動モジュールおよび請求項19に記載の振動モジュールを生産する方法によって達成される。従属請求項は、本発明による振動モジュールの有利な他の改良形態を示す。
【0007】
本発明によれば、鼓膜上に配置されるのに適した振動モジュールが提供される。有利には、振動モジュールは、前記振動モジュールが外耳道の壁と接触しないか、またはわずかにしか接触しないように、鼓膜上に配置することができる。したがって、鼓膜上に配置する適合性は、振動モジュールの寸法に関する提案であり、この提案は、例えば、振動モジュールが対象としている平均的な成人または所与の年齢層の平均的な人の鼓膜上に振動モジュールが配置され得るようなものとすることができる。
【0008】
互いに接続された構成要素のユニットは、前記構成要素が鼓膜上に載置したときに鼓膜によって支持されかつ/または鼓膜と排他的に接触するように設計された構成要素のユニットであり、ここでは振動モジュールと見なすことができる。しかしながら、好ましくは、この排他性は、それにもかかわらず、他の構成要素、例えば制御構成要素との電気エネルギーおよび/または信号の伝送のための接点を設けることができるようなものであると理解されるべきである。
【0009】
本発明による振動モジュールは、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドを有する。したがって、平面型音響変換器は、表面において、好ましくは平面において、この平面に垂直な厚さ方向よりもさらに伸長する音響変換器として理解することができる。有利には、平面方向の最大伸長は、厚さ方向の最大伸長の5倍以上、好ましくは7倍以上、好ましくは10倍以上、好ましくは20倍以上とすることができる。好ましくは、音響変換器の表面は、この表面に前記音響変換器が平坦に延びており、平面型音響変換器を保持しかつ/または平面型音響変換器を鼓膜接触モールドに接続する働きをする領域を除いて、鼓膜接触モールドの全範囲にわたって延びる。鼓膜接触モールドの範囲は、音響変換器が平坦に延在する平面上への鼓膜接触モールドの表面の投影として理解することができる。付加的に又は代替例として、平面型音響変換器は、音響変換器の表面上の法線の方向の振動を実行する音響変換器として理解することもできる。この場合、震動性構成要素または振動構成要素の振動の最大振幅の方向は、音響変換器が平坦に延びる表面に対して垂直であることが好ましい。
【0010】
音響変換器は、ここでは、電気的または光学的入力信号を機械的振動に変換する要素として、および/または機械的振動を電気的または光学的信号に変換する要素として理解することができる。
【0011】
本発明による振動モジュールはまた、鼓膜に接触するための鼓膜接触モールドを有する。鼓膜接触モールドは、鼓膜接触モールドが鼓膜と直接または少なくとも1つの介在層を介して接触した状態にされ得るように設計される。1つまたは複数の介在層が鼓膜接触モールドと鼓膜との間に設けられる場合、前記介在層は、随意に鼓膜接触モールドの一部と見なすこともできる。鼓膜接触モールドは、好ましくは、意図したように使用されたときに鼓膜に面し、鼓膜接触モールドが少なくとも部分的に鼓膜の形状に沿うように成形された表面を有する。
【0012】
本発明の有利な一実施形態では、振動モジュールは、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドが内部容積を囲むように設計することができる。平面型音響変換器および鼓膜接触モールドが内部容積を囲むということは、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドがすべての側でこの内部容積を囲むまたは取り囲むことを意味する。あるいは、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドは、好ましくは3つの空間方向すべてに、内部容積の境界を定めることもできる。したがって、内部容積からすべての空間方向に、この方向に内部容積の境界を定める表面を配置することができ、境界の決定は完全なものであってもよいが、完全なものである必要はない。次いで、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドは、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドが内部容積を完全に取り囲むように内部容積を囲むことが可能であるが、1つまたは複数の開口部または通路が平面型音響変換器および/または鼓膜接触モールドを貫通して設けられると有利である。これもまた、好ましくは、包んでいる、囲んでいる、または取り囲んでいると見なされるべきである。内部容積は、空であってもよいし、又は空気で充填されてもよく、あるいは、前記内部容積は、例えば振動を伝達するための要素および/または他の材料を収容することができる。
【0013】
本発明の有利な一実施形態では、平面型音響変換器は、この変換器の表面の少なくとも一部上に、またはこの変換器の表面の少なくとも一部として膜構造を有することができる。膜構造は、少なくとも1つのキャリア層と、キャリア層上に配置され、少なくとも1つの圧電材料を有する少なくとも1つの圧電層と、を有することができる。膜構造は、音響変換器が圧電層に電圧を印加することにより少なくとも部分的に振動するように励起され得るように設計することができる。
【0014】
膜構造は、表面において、膜構造のすべての層を分断する少なくとも1つの切れ目によって少なくとも1つ、2つ、または3つ以上のセグメントに分割されて、膜構造が切れ目で機械的に分離されるようにすることができる。
【0015】
本発明の有利な一実施形態では、音響変換器は、少なくとも1つのキャリア層と、キャリア層上に配置された少なくとも1つの圧電材料を有する少なくとも1つの圧電層と、を有する膜構造を有することができる。したがって、少なくとも1つのキャリア層および少なくとも1つの圧電層は、キャリア層および圧電層が重ね合わせて平行に配置された層システムを形成する。この実施形態では、膜構造の振動は、圧電層に電圧、特に交流電圧を印加することによって生成され得る。これは、電圧が印加されると圧電層が変形するという事実を利用しており、変形の方向は印加された電圧の符号に依存する。膜構造は、本明細書では、略平坦に延びる構造として理解され得るが、この構造は、2次元に垂直な次元よりも2次元で有意に高い延長部分を有する。2次元は、膜構造が主に2次元に延びており、それによって膜表面および音響変換器の表面にまたがる。
【0016】
音響変換器の膜構造は、膜構造の平坦な延長部において少なくとも1つの切れ目によって少なくとも1つ、2つ、または3つ以上のセグメントに分割され得る。膜表面を分割することは、膜全体、したがってキャリア層と圧電層の両方、および必要に応じて電極層が相互の切れ目によって分割されて、膜が切れ目で機械的に分離されるようにすることを意味し、これは、切れ目によって分離された膜構造の2つの領域が互いに独立して可動であることを意味する。したがって、膜表面の分割またはセグメント化は、キャリア層の対応するセグメント化と、必要に応じて圧電層および必要に応じて電極層の対応するセグメント化と、を意味する。
【0017】
セグメント化により、これらの処置に起因して力が低くなりすぎることなく、非常に小さい設置サイズで振動の高振幅を可能になる。
【0018】
音の振動は、本出願の意味では、人間の耳によって知覚され得る周波数を有する振動、すなわち約20Hz~20,000の振動であると理解される。音の振動は、媒体、特に空気または外リンパ中で音波を励起するのにさらに適している。
【0019】
膜構造は、有利には、少なくとも1つのキャリア層と、キャリア層上に配置された、少なくとも1つの圧電材料を有する少なくとも1つの圧電層と、を有する。そのとき、キャリア層および圧電層はバイモルフ構造を形成し、したがって、有利には、電圧、特に交流電圧を圧電層に印加することにより膜構造が振動可能であり、かつ/または、膜の振動によって生成される圧電層内の電圧が検出可能であるように配置および設計される。これにより、キャリア層および圧電層は、平行な層平面が重ね合わせてまたは互いに接して配置されてもよく、互いに直接的または間接的に接続されるべきである。上述の切れ目は、膜構造のすべての層を分断することが好ましい。
【0020】
良好な聴覚学的品質を保証するために、膜構造は、振動モジュールが鼓膜上の鼓膜臍上に意図したように配置されたときに、0.01~5μm、好ましくは5μmの最大たわみを可能にするように有利に設計される。これにより、鼓膜臍における約1200N/m(約1kHzまで有効)の機械的剛性が克服されることが好ましい。この場合、5μmに要する力は約6mNである。さらに高い周波数では、剛性は増大するが、同時に聴覚はより敏感であるため、所要のたわみは減少する。
【0021】
セグメントは、特にセグメントの長さに関してインピーダンスが最適になるように構成され得る。
【0022】
膜構造は薄層技術で実施されることが特に好ましい。薄層は、高エネルギー密度を生成するために高電界が必要とされるのに対して、印加電圧は生物学的環境のために可能な限り低くすべきであるので、有利である。必要なエネルギー密度は、薄層膜において達成可能である。
【0023】
特に、本発明による圧電層は、それにより薄層技術で生産することができる。膜構造の圧電層を生産するには、圧電材料が圧電層の厚さに付着される。付着は、物理蒸着、化学蒸着、ゾルゲル法などのような堆積技法を用いて実行され得る。
【0024】
圧電層の厚さは、20μm以下、好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下であり、かつ/または0.2μm以上、好ましくは1μm以上、好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2μmであることが好ましい。電極層の厚さは、0.5μm以下、有利には0.2μm以下、特に好ましくは0.1μm以下であり、かつ/または0.02μm以上、有利には0.05μm以上、特に好ましくは0.08μm以上であることが有利である。
【0025】
音響変換器の薄層(シリコン梁構造と圧電層の両方)は、梁のたわみによって小質量のみが動き始めることを確実にする。上述のアクチュエータ変形形態用の振動システムの共振周波数は、人間の聴覚の周波数帯域幅の上側範囲内に位置する。したがって、振動モジュールが意図したように鼓膜上に配置されると、人間の周波数帯域全体にわたる正円窓の均一な励起が可能である。
【0026】
したがって、本発明による音響変換器の機械的振動の発生は、曲げ梁の弾性変形の原理に基づいており、膜または膜のセグメントは曲げ梁であると考えることができる。圧電層は、電圧と電圧によって生成された電界とを印加することにより縮んだり伸びたりされることができる。これにより、キャリア層および圧電層で作られた材料複合物内に機械的応力が生成され、この機械的応力は、縮んだ圧電層内の梁または膜構造の上向きの曲げと、伸びた圧電層の場合の対応する下向きの動きと、を引き起こす。圧電層が伸びるか縮むかは、圧電層の分極方向と印加電圧または印加電界の方向とに依存する。
【0027】
単層音響変換器の場合、上述のキャリア層は、単一の圧電材料層を支持することができる。加えて、電極は、層構造の他の構成要素を形成する。それにより、下部電極は、シリコン基板上に直接またはバリア層を介して付着され得るが、対照的に、上部電極は圧電層の上部に配置され得る。圧電材料の分極方向は、シリコン構造の表面に対して垂直であることが好ましい。次に、上部電極と下部電極との間に電圧が印加され、電界が生じると、圧電材料は、横圧電効果に起因して梁の長手方向に(電圧の符号に応じて)縮んだり伸びたりし、層複合物内に機械的応力が生成され、梁構造は曲げを受ける。
【0028】
膜構造は円形または楕円形の外周を有することが好ましい。特に、膜構造の外周が耳の鼓膜の外周に対応していて、音響変換器が配置されたときに膜構造の外周線が鼓膜の外周とほぼ平行に走るようにすることが好都合である。膜構造のn個の角のある外周(ただし、nは6以上が好ましい)が可能である。
【0029】
しかしながら、特に円形外周の場合、膜構造の他の形状についても、膜表面を複数のセグメントに分割する切れ目は、膜構造の縁部から膜の中心点の方向に半径方向に走ることがさらに好ましい。切れ目は縁部で直接始まる必要はなく、中心点に到達する必要もない、すなわち、切れ目は、縁部の近傍から中心点の近傍まで走っていれば十分でもある。しかしながら、切れ目が中心点に到達しない場合、切れ目が終わる自由領域は中心点に存在していて、セグメントの機械的分離が中心点に面する端部で保証されるようにすべきである。
【0030】
これにより、セグメントは、セグメントがパイくさび形になるように構成され得る、したがって、互いにある角度で走る側縁部としての2つの縁部と、膜構造の外周上をこの外周と平行に走る外縁部と、を有する。側縁部の、外縁部とは反対側の他端では、セグメントは、中心点の周りに自由領域が生じるように、共に一点になるか、または切断されてもよい。その場合、この縁部では、セグメントは膜構造の縁部上に恒久的に配置され、側縁部では、必要に応じて中心点に面する縁部では互いに独立していてもよく、したがって、セグメントは外縁部の周りで自由に振動することができる。これにより、最大たわみは、通常、中心点に面するセグメントの縁部で起こる。セグメントの数は、好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。
【0031】
切れ目は、セグメントがまっすぐな半径方向縁部を有するように、半径方向にまっすぐに走ることができる。
【0032】
しかしながら、半径方向に延びる切れ目は曲線状に延びていて、まっすぐな径方向に延びる縁部なしにセグメントがもたらされるようにすることも可能である。したがって、特に、半径方向にアーチ形状で、波形状で、またはジグザグな線に沿って延びるセグメントが形成され得る。他の多数の形状も考えられる。
【0033】
本発明の1つの代替例では、膜構造は、少なくとも1つの螺旋状の切れ目によって構造化され得る。これにより、少なくとも1つの切れ目は、好ましくは膜構造の中心点に巻きつく少なくとも1つの螺旋状セグメントが得られるように走る。有利にはそれぞれ膜構造の中心点の周りに巻きつき、特に好ましくは互いに走り込む2つ以上の螺旋状セグメントが得られるように膜構造を分割する複数の切れ目を設けることも可能である。
【0034】
膜構造を振動させるために、かつ/または圧電層で電圧をタップするために、少なくとも1つの第1の電極層および少なくとも1つの第2の電極層が膜構造上に配置され、少なくとも1つの圧電層は第1の電極層と第2の電極層との間に配置される。これにより、電極層は、好ましくは圧電層を覆い、圧電層上にまたは圧電層の上に平行な層平面を有して配置される。第1の電極層または第2の電極層は、好ましくは、圧電層がキャリア層の上の電極層の一方を覆って配置されるように、キャリア層と圧電層との間に配置される。圧電層および電極層は、互いに完全に覆っていることが特に好ましい。
【0035】
セグメント構造を使用すると、非構造化膜とは対照的に、梁要素は、梁要素が切れ目によって分離された場所で、例えば円盤の中心で自由に変形することができ、したがって一方向のみに一定の曲げを受けるので、さらに高いたわみが可能になる。対照的に、凝集性膜の変形は、たわみの減少をもたらす、曲率の方向転換を特徴とする。
【0036】
好ましい一実施形態では、膜構造は、平行な表面が重ね合わせて配置された複数の圧電層を有し、各2つの隣接する圧電層の間に電極層が配置される。したがって、電極層および圧電層はそれぞれ、キャリア層上に交互に配置される。電極層および圧電層は、直接重ね合わせて配置されるか、互いに接続されるか、または1つまたは複数の中間層を介して重ね合わせて配置され得る。この実施形態では、特に大きな力または動力を有する振動を生成することができ、振動は特に正確に検出することができる。
【0037】
この変換器の変形例では、異なる電位を有する電極が層構造内の圧電層と交互になっている。シリコン構造の後には最初に下部電極が続き、続いて第1の圧電層、反対電位を有する電極、第2の圧電層、下部電極の電位を有する電極などが続く。
【0038】
個々の圧電層の分極方向は、単層変換器の場合のように、膜構造の表面に対して垂直であってもよいが、この分極方向は、交互の圧電層については反対方向を向いている。電界が反対電位の電極間に構築され、分極方向が個々の圧電層に対して交互になることで、層構造全体の長さの相互変化を確実になり、この相互変化によりシリコン構造が曲がる。
【0039】
電極層は、異なる極性を有する電荷が各2つの隣接する電極層に印加され得るように有利に構成または接触される。このようにして、いずれの場合も一方の電極層から隣接する電極層まで延びる電界が圧電層内に生成され得る。このようにして、圧電層は、電界で特に一様に貫通され得る。振動検出の場合、圧電層で生じる電圧の異なる符号が、いずれの場合も隣接する電極層によってタップされ得ることが好ましい。
【0040】
本発明の別の有利な実施形態では、電極対を形成する少なくとも2つの帯状の、したがって細長い電極は、この細長い電極が対応する表面に平行に延び、好ましくは互いに平行にも延びるように、少なくとも1つの圧電層の表面上にまたはキャリア層の表面上に配置される。電極対の2つの電極の間に電界が生じ、圧電層を少なくとも部分的に貫通するように、電極対の2つの電極にそれぞれ異なる極性の電荷を印加することができる。複数の電極対が設けられる場合、隣接する電極対の異なる極性の電極間にも電極界が生じ、圧電層を貫通することができる。振動検出の場合、電圧が電極対によってタップまたは検出されることができる。
【0041】
帯状電極のストリップ導体構造は、好ましくは矩形断面を有することができる。
【0042】
異なる極性を印加することができる2つの電極をそれぞれ備える複数の電極対が、複数の電極対の電極が互いに平行に延びるように配置されることが特に有利である。それにより、電極対は、異なる極性の電荷を隣接して延びる2つの電極に印加することができるように、さらに配置されるべきである。このようにして、圧電層を貫通する電界が各2つの隣接する電極の間に生じる。本明細書に記載の通り、複数の電極対が設けられる場合、複数の電極が圧電層またはキャリア層の一方の表面上に存在し、互いに平行に延びていてもよく、交番極性で互いに隣接して配置されてもよい。
【0043】
圧電材料の極性は、この場合は圧電層全体にわたって均一には分散されず、代わりに、分極方向は負電極から正電極まで延びて、ライン状電界を形成する。変換器の動作中、交流電位が櫛形電極に印加されると、圧電材料の分極方向に沿って電界が生じ、この電界に沿って圧電材料が伸びたり縮んだりする。このようにして、圧電層全体が梁長手方向に伸びたり縮んだりし、これが、シリコン構造の上向き曲げまたは下向き曲げを引き起こす。
【0044】
この場合、電極が膜構造の縁部と平行にさらに延びることが特に有利である。膜構造が円形である場合、電極は、膜構造の中心点の周りに同心円を形成することが好ましい。これに対応して、電極はまた、楕円形膜構造の場合は楕円形になるように構成されることが好ましい。電極はそれぞれ、電極が例えば円弧部分の形状を有するように、膜構造の外周に平行な外周全体に沿って、または外周の一部上にのみ延びていてもよい。
【0045】
帯状電極が相互導体を介して特に有利に接触していてもよく、複数の電極が1つの相互導体によって接触していてもよい。したがって、一方の極性の複数の電極が少なくとも1つの第1の導体に接続されてもよく、他方の極性の複数の電極が少なくとも1つの第2の導体に接続されてもよい。異なる極性の電極が交互に配置されるようにするには、異なる導体に割り当てられた異なる極性の電極は、櫛状に互いにかみ合っていてもよい。これにより、相互導体は、相互導体の対応する極性の電極を切断し、例えば、円形電極の場合に好ましくは半径方向に延びることができる。
【0046】
電極の帯状の実施形態の場合、膜構造は多層構造として設計されてもよい。この場合も、複数の圧電層が重ね合わせて配置され、次いで帯状電極が2つのそれぞれ隣接する圧電層の間に延びることが可能である。これにより、電極の配置は、上述の圧電層の表面上の配置に対応する。しかしながら、膜構造は、1つまたは複数の平面内の帯状電極または電極対によって貫通される少なくとも1つの圧電層を有することも可能である。この場合、電極対の電極は、対応する圧電層の内部に延びる。この配置の様々な可能性は、ここでは圧電層の表面上の上述した配置の可能性にも対応する。
【0047】
音響変換器のこの変形形態はより厚い圧電層を有し、この圧電層は、先の解決策とは対照的に、複数の櫛形電極層によって貫通され得る。圧電材料の分極は、やはり負のストリップ導体電極から正のストリップ導体電極まで延び、ライン状電界を形成する。電圧を印加すると、分極方向に沿って電界が生じ、この電界が、力線に沿った圧電材料の伸長または圧縮と、梁構造の下向き曲げまたは上向きの曲げと、を引き起こす。
【0048】
螺旋状セグメントの場合、帯状電極は、セグメントの長手方向に沿って配置され得る。この場合、1つの電極対で十分であることが好ましい。
【0049】
圧電変換器の有効性および直線性は、アクチュエータ電極に直流電圧を印加し、この直流電圧に、音響振動に不可欠な交流電圧が重畳されることにより、高めることができる。これは、圧電材料の分極を高め、その結果、電圧の小さい変化が、力またはたわみの大きい変化をもたらす。
【0050】
音響変換器は、湿潤し得る生物学的環境で使用されるので、電極に印加される電圧、特に直流電圧は、5ボルト未満、好ましくは4.3ボルト未満、特に好ましくは1.3ボルト未満であることが有利である。代替的にまたは追加的に、電極をカプセルに入れて液密にしかつ/または電気的に絶縁されて、前記電極が音響変換器を取り囲むオプションの流体と接触しないようにするか、または変換器が腐食により故障した場合に変換器を定期的に交換するようにすることも可能である。
【0051】
関連分野での圧電効果は材料を貫通する電界の強度に比例するので、高電界(電界は、均一な場合に印加電圧と電極の距離の商として計算される)が、電極の非常に短い距離で非常に薄い圧電層を使用することによって生成され得る、したがって、圧電効果は、振動モジュールが鼓膜上に意図したように配置されたときに鼓膜の励起に必要な振動たわみおよび力を達成するのに十分である。
【0052】
キャリア層は、シリコンを有するかまたは含んでいてもよい。適切な圧電材料としては、とりわけ、PbZrxTi1-xO3(ただし、好ましくは0.45<x<0.59であり、特に好ましくは、例えば、La、Mg、Nb、Ta、Srなどのドーパントを、好ましくは0.1~10%の濃度で含む)が含まれる。PbTiO3、例えばPb(Mg1/3、Nb2/3)O3、Pb(Sn1/3Nb2/3)O3を含む追加の固溶体も適している。可能な材料はまた、KNbO3、NaNbO3、LiやTaなどを有するドーパント、二含有圧電層、Ti、Ta、Nbを含むオーリビリウス相(aurivilius phases)を含む、さらにはBiFe3のようなペロブスカイト相も含む鉛フリー材料である。AlNおよびZnOのような従来の薄層材料も可能である。
【0053】
圧電層用のキャリア材料としてのシリコンは、マイクロシステム技術の構造化技法を使用して、円盤状構造およびパイくさび状曲げ梁の生産を可能にする。梁、電極および圧電層を生産するために、既知の実証されたコーティングおよびエッチング法、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、化学エッチング、イオンエッチングなどを使用することができる。さらに、マイクロシステム技術の方法は、製造プロセスにおける並列化を可能にする、すなわち、製造プロセスの1回の通過で1つのシリコンウェハから複数の音響変換器を生産することができる。これにより、コスト効率の良い生産が可能となる。
【0054】
少なくとも1つの圧電層の厚さは、20μm以下、有利には10μm以下、特に好ましくは5μm以下であり、かつ/または0.2μm以上、有利には1μm以上、好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2μmであることが有利である。電極層の厚さはそれぞれ、0.5μm以下、有利には0.2μm以下、特に好ましくは0.1μm以下であり、かつ/または0.02μm以上、有利には0.05μm以上、特に好ましくは0.08μm以上であることが有利である。膜構造の直径は、有利には4mm以下、好ましくは3mm以下、特に好ましくは2mm以下であり、かつ/または0,2mm以上、有利には0,5mm以上、好ましくは1mm以上、特に好ましくは1.5mmである。0.7μmの層厚さが特に好都合であることも判明している。
【0055】
本発明によれば、音響変換器は、上述の膜構造を複数有することもできる。それにより、これらの膜構造は、構造の同一のセグメントまたは膜構造の切れ目が折り重なるように横たわるように、同一構造にされ、互いに上下にかつ互いに平行に配置される。次いで、セグメントのうちの1つのたわみおよび/または力の印加が隣接するセグメントに伝達するように、同一のセグメントが互いに結合され得る。それにより、膜構造は、音響変換器に定義済み極性の電圧を印加すると、すべてのセグメントが同じ方向にたわむように、互いに上下に配置され得る。これにより、膜構造は同一方向に向けられる。この場合、単一膜構造の力よりも高い合力が実現され得る。隣接する膜構造がそれぞれ反対方向に向けられるように膜構造を重ね合わせて配置することも可能であり、したがって、規定の極性の電圧を印加すると、隣接する膜構造はそれぞれ異なる方向にたわむ。この場合、単一膜構造のたわみよりも大きい全たわみが実現され得る。
【0056】
膜構造は、好ましくは、膜構造の表面において、膜構造のすべての層を分断する少なくとも1つの切れ目によって少なくとも1つ、2つ、または3つ以上のセグメントに分割されて、膜構造が切れ目で機械的に分離されるようにすることができる。したがって、膜構造が切れ目で機械的に分離されることは、切れ目の片側での膜構造の動きが、切れ目を横切って力が作用する場合に引き起こされるはずの、切れ目の反対側での膜構造のいかなる動きも、またはごくわずかな動きしか引き起こさないことを意味する。膜構造が2つ以上のセグメントに分割される場合、これらのセグメントは、例えば、半径方向に延びる切れ目によって形成され得る。この場合、例えば、膜構造は、膜構造自体が膜構造の平面内に円形外周を有してもよく、切れ目はこの中心点まで半径方向に延びる。それにより、すべての切れ目が、好ましくは中心点で機械的に分離される。
【0057】
膜構造が1つの切れ目しか有していない場合、この切れ目は、特に有利には螺旋状に延びることができる。この場合の膜構造は、有利には円形外周を有することもできる。
【0058】
鼓膜接触モールドは、好ましくは、鼓膜接触モールドの縁部で、平面型音響変換器の縁部に少なくとも部分的に接続される。この接続は、直接あるいは1つまたは複数の他の構成要素を介して行うことができるが、直接接続が好ましい。平面型音響変換器は、鼓膜接触モールドに鼓膜接触モールドの全周にわたって接続されることが特に好ましい。平面型音響変換器および鼓膜接触モールドは、好ましくは、膜構造および鼓膜接触モールドが膜構造および鼓膜接触モールドの縁部全体にわたって互いに接続され得るように、同じ外周形状を有することができる。
【0059】
有利な一実施形態では、平面型音響変換器は、膜または上述の膜構造を有することができ、さらに膜または膜構造を取り囲む剛性縁部も有することができる。縁部は、好ましくは鼓膜接触モールドの表面に沿って延在し、この表面は、振動モジュールが鼓膜上に意図したように配置されかつ/またはこの表面によって境界を定められたときに、外耳道の方向に向けられる。しかしながら、縁部は、有利には、膜または膜構造よりも大きい厚さを有することができる。
【0060】
次いで、鼓膜接触モールドは、平面型音響変換器の縁部の少なくとも一部上で、好ましくはこの縁部の全長にわたって平面型音響変換器の剛性縁部に接続することができる。
【0061】
上述したように、振動モジュールは、外耳道の壁上に支持されずに、またはわずかにしか支持されずに、鼓膜上に完全に載置することができることが有利である。この目的のために、平面型音響変換器および/または鼓膜接触モールドは、鼓膜の最小直径未満の最小直径を有し、かつ/または、平面型音響変換器および/または鼓膜接触は、鼓膜の最大直径未満の最大直径を有することが好ましい。このようにして、振動モジュールを適切に位置合せすることにより、この振動モジュールは、鼓膜の縁部に触れることなく鼓膜上に完全に載置することができる。好ましくは、これらの寸法は、振動モジュールが装着されるべき人の耳の鼓膜の寸法に個別に適合させることができる。しかしながら、これらの寸法を、対応する年齢層または異なる分類の人々のグループの人々の鼓膜の平均寸法に適合させることも可能である。有利には、例えば、平面型音響変換器および/または鼓膜接触モールドの最大直径は、12mm以下、特に好ましくは10mm以下、特に好ましくは9mm以下、特に好ましくは7mm以下とすることができる。さらに、平面型音響変換器および/またはドラム接触形状の最小直径は、有利には、3mm以上、好ましくは5mm以上とすることができる。
【0062】
本発明の有利な一実施形態では、振動モジュールは、平面型音響変換器の振動を鼓膜接触モールドに伝達することができる振動伝達要素を有することができる。それにより、振動伝達要素は、有利には、一方では、平面型音響変換器に接続されるかまたは当接することができ、他方では、鼓膜接触モールドに接続されるかまたは当接することができる。特に、振動伝達要素は、平面型音響変換器に、その表面上の1つの位置で接続されるかまたは当接することができ、鼓膜接触モールドに、その表面の別の反対側の位置で接続されるかまたは当接することができる。本発明の本実施形態では、振動伝達要素は、電圧が音響変換器に印加されたときに、または音響変換器が音響振動にさらされたときに最大たわみを受ける平面型音響変換器の位置に接続されるかまたは当接することが特に好ましい。このような振動伝達要素は、音響変換器によって生成された振動の鼓膜接触モールドへの、したがって鼓膜への伝達を改善することができる。振動伝達要素は、内部容積を部分的にまたは完全に満たすことができる。
【0063】
本発明の有利な一実施形態では、内部容積は、圧縮性もしくは弾性振動伝達材料で、または非圧縮性振動伝達材料でも部分的または完全に充填することができる。それにより、平面型音響変換器によって生成された振動の鼓膜接触モールドへの伝達も改善することができる。
【0064】
振動伝達要素および/または振動伝達材料を使用する以下の解決策は特に有利である。内部容積内に振動伝達要素を有利に設けることができ、振動伝達要素は、内部容積内の空気によって取り囲まれる。振動伝達要素はこの場合、内部容積を完全には満たさず、内部容積の一部が空気で充填される。
【0065】
振動伝達要素が内部容積内に圧縮性材料、例えばシリコーン発泡体と共に設けられる実施形態も有利である。この場合、振動伝達要素は内部容積の一部を満たし、圧縮性材料は残りの内部容積を満たす。
【0066】
振動伝達要素が非圧縮性材料と共に使用される実施形態も可能である。この場合、後述する均等化された開口部(均等化開口部)が設けられることが好ましく、非圧縮性材料は均等化開口部を通って変位することができる。
【0067】
内部容積が非圧縮性振動伝達材料で完全に充填され、別個の振動伝達要素が設けられない実施形態も有利である。ここでも、後述する開口部は、特に鼓膜が開口部よりも振動伝達材料に対する抵抗が小さい場合に有利であり得る。材料の弾性率は小さすぎてはならない、すなわち、材料は柔らかすぎてはならない。具体的なサイズは、特に開口部のサイズに依存する。
【0068】
平面型音響変換器および鼓膜接触モールドが上述したように内部容積を囲み、かつ内部容積がさらに振動伝達材料で部分的または完全に充填される場合、平面型音響変換器は凹部または開口部を有すること、および/または、鼓膜接触モールドの表面はその表面に凹部または開口部を有することが有利である。それにより、開口部または凹部は、振動伝達材料を開口部または凹部の中へ変位させることができるように配置される。これは、鼓膜または鼓膜接触モールド上の場所のたわみが振動伝達要素によってアクチュエータ表面上の場所に押しやられるときに、音響変換器によって変位させられる容積が、鼓膜または鼓膜接触モールドによって掃引される容積に自然には対応しないためである。動きを妨げ、音響変換器に追加の負荷をかけるはずの追加の制約が導入されることになる。均等化開口部は、振動中の平面型音響変換器のたわみが振動伝達材料によって妨げられないことを確実にする。凹部もしくは開口部、または凹部は、平面型音響変換器もしくは鼓膜接触モールドの表面の内部に、またはそれの壁上に設けることができ、したがって、開口部もしくは凹部は、それの周縁の一部上で平面型音響変換器もしくは鼓膜接触モールドによって境界を定められ、それの周縁の別の部分上で平面型音響変換器もしくは鼓膜接触モールドの縁部を通って境界を定められる。言い換えれば、この場合、内部容積は、鼓膜接触モールド、音響変換器、および開口部もしくは凹部によって囲まれる。
【0069】
本発明の有利な一実施形態では、振動伝達要素は、振動伝達材料の部分領域として内部容積内に形成することもできる。この場合、例えば、振動伝達材料は、内部容積を完全に満たすことができるが、異なる場所で異なる剛性を有することができる。次いで、振動伝達要素は、この材料の剛性を高める領域として設計することができる。この領域の剛性は、好ましくは1000N/m以上、特に好ましくは10kN/m以上、特に好ましくは100kN/m以上とすることができる。
【0070】
圧縮性材料が設けられる場合、圧縮性材料は、タペットよりもはるかに低い弾性率を有するか、または好ましくは10倍超だけ、特に好ましくは100倍超だけ剛性を高めた材料を有することが好ましい。
【0071】
例えば、以下のような実施形態が有利であり得る。鼓膜臍の剛性は1200N/m程度である。その場合、振動伝達要素は、有利には、同程度に剛性であるべきであり、特に好ましくはさらに剛性であるべきである。鼓膜臍の10倍の剛性で、音響変換器から鼓膜臍に伝達される振動エネルギーの損失は約1dBであり、100倍の剛性で損失は0.1dBである。振動伝達要素の剛性が大きいほど、損失は小さくなる。
【0072】
振動伝達要素の材料としては、例えばアクリル樹脂が適している。アクリル樹脂は、例えば1300e6Paの弾性率を有する。典型的な寸法では、アクリル樹脂は、鼓膜臍の剛性よりも桁違いに高い1.3e6N/mの剛性をもたらす。
【0073】
本発明の好ましい一実施形態では、振動伝達要素は、平面型音響変換器の最大たわみの場所から鼓膜接触モールドの場所まで延在し、鼓膜接触モールドの場所は、振動モジュールが5mm未満の距離を置いて鼓膜上に意図したように配置されると、好ましくは、鼓膜臍からかつ/または槌骨(maleus)から2mm未満離れている。振動伝達要素の縁部と鼓膜臍または槌骨の縁部との間の距離は、前記距離と見なすことができる。その場合、距離は、これらの縁部間の最小距離である。
【0074】
振動伝達要素は、有利には、0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上かつ/または4mm以下、好ましくは3mm以下の、平面型音響変換器の表面に垂直な方向の長さを有することができる。振動伝達要素は、有利には、この要素の音響変換器に隣接する側で音響変換器よりも小さい直径を有することができ、直径は、好ましくは2mm以下かつ/または0.5mm以上である。有利には、振動伝達要素の断面は、振動伝達要素の長手方向に垂直な平面内で鼓膜接触モールドの方向に大きくすることができ、したがって、振動伝達要素と鼓膜接触モールドとの間により大きな接触面積が達成される。
【0075】
有利には、鼓膜接触モールドは、平面型音響変換器から離れる方向に向いている表面を有し、この表面の形状は、鼓膜接触モールドが鼓膜上に意図したように配置されると、外耳道に面する鼓膜の表面の形状に対応するか、またはこの表面と少なくとも部分的にもしくは完全に平行に延在する。鼓膜接触モールドはまた、鼓膜接触モールドが鼓膜上に配置されたときに鼓膜接触モールドが鼓膜のこの表面に適合するように設計することもできる。ここでどの変形形態が選択されるかは、鼓膜接触モールドの材料に依存することができる。材料が非可撓性であるがモデル化しやすい場合、鼓膜接触モールドの対応する表面は、それに応じて耳の中に挿入する前にモデル化することができ、したがって、この表面は、振動モジュールが耳の中に挿入されるときに、鼓膜上に部分的にまたは完全に載置する。一方、材料が可撓性である場合、先のモデリングは必要ないかもしれない、というのは、この表面は、鼓膜接触モールドが鼓膜の表面上に配置されたときに鼓膜接触モールドに適合するからである。鼓膜接触モールドの前記表面が鼓膜の表面に最大詳細レベルまで追従し、振動モジュールが鼓膜上に配置されたときに鼓膜に適合する材料が鼓膜接触モールドの表面に適用されるか、あるいは鼓膜接触モールド自体が形状を変えることにより残りのずれを補償する実施形態も可能である。
【0076】
意図したように使用されたときに鼓膜に当接する領域における鼓膜接触モールドが、この領域内で鼓膜接触モールドの表面に平行な方向にのみ実質的に張力を形成することができるほど小さい厚さを有する実施形態も有利である。この場合、鼓膜接触モールドは、この領域内ではフィルムのように挙動する。この領域内の鼓膜接触モールドの厚さは、好ましくは500μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下である。
【0077】
有利な一実施形態では、鼓膜接触モールドはシリコーンを含むか、またはシリコーンからなることができる。
【0078】
本発明の好ましい一実施形態では、振動モジュールは、音響変換器から離れる方向に向いている鼓膜接触モールドの表面上に配置された層を有することができ、この層は、鼓膜への鼓膜接触モールドの接着を改善するように設計される。この種の層は、例えば、ホワイト油、脂肪、シリコーン油、グリセリン、および/またはパラフィンを含むか、またはこれらからなることができる。このようにして、同時に良好な振動伝達を伴う鼓膜上への振動モジュールの良好な適合が保証される。
【0079】
平面型音響変換器と音響変換器から離れる方向に向いている鼓膜接触モールドの表面との間の最小距離は、有利には2mm以下、特に好ましくは1mm以下、特に好ましくは400μm以下、特に好ましくは200μm以下である。
【0080】
鼓膜接触モールドが鼓膜の方向に凸形状を有し、この凸形状が鼓膜の形状をマッピングして、振動モジュールが鼓膜上に意図したように配置されたときに、鼓膜接触モールドと外耳道に面する鼓膜の表面との間に幅15~100μmの薄い間隙が形成されるようにすると有利である。この間隙は、意図したように使用されると、自然に利用可能な液体または追加的に導入された液体、例えばホワイト油で充填することができる。この目的のために、鼓膜接触モールドは、対応するアンダーサイズを有する形状を有することができる。
【0081】
本発明の有利な一実施形態では、平面型音響変換器は、この変換器の縁部で鼓膜接触モールド内に投入されるか、または鼓膜接触モールド内の凹部内に接着することができる。このようにして、平面型音響変換器は鼓膜接触モールド内に挿入され得る、したがって、特に、振動モジュールの外縁部が鼓膜接触モールドによって決定され得る。この場合、音響変換器の平面内の振動モジュールの最大寸法は、この平面内の鼓膜接触モールドの寸法によって決定される。平面型音響変換器が挿入される鼓膜接触モールドの凹部は、好ましくは、鼓膜接触モールドの縁部に沿って延在するかまたは取り囲むことができる。
【0082】
好ましくは、平面型音響変換器は、モノリシックの形態であってもよい、すなわち、単一の材料から形成された基本構造から形成されてもよく、音響変換器は、この基本構造内に、材料を除去することおよび/または強固に接着する材料を追加することによって形成され、すべての可動要素は、固体の本体接合部によって実装される。特に、モノリシック音響変換器が設計されるとき、追加される材料は、基本構造が形成される材料とは異なることが有利である。
【0083】
鼓膜上の振動モジュールの方向付けを単純化するために、有利には、振動モジュールにマーキングを付着することができ、このマーキングは、音響変換器に垂直な軸線を中心とする振動モジュールの角度位置合せを可能にする。有利には、マーキングは、意図したように配置されたときに、マーキングが槌骨もしくは本体の縦軸線と平行に、またはそれに対して規定の角度で延在するように設けることができる。マーキングは、好ましくは、音響変換器を見ているときにマーキングが見えるように適用されるべきであり、したがって、マーキングは、振動モジュールが鼓膜上に配置されるときにマーキングを認識することができる。音響変換器に取り付けられ、音響変換器を特定の角度で音響変換器から離れる向きに導かれるケーブルをマーキングとして使用することも可能である。
【0084】
さらに、本発明による方法が、上述の振動モジュールを生産するために規定される。それにより、平面型音響変換器および鼓膜接触モールドが生産される。
【0085】
好ましくは、第1のステップにおいて、鼓膜表面の幾何形状を記録することができ、記録された幾何形状において槌骨の最下点および/または位置を決定することができ、記録された幾何形状からネガ形状を作ることができ、このネガ形状を用いて鼓膜接触モールドを作ることができる。ネガ形状の作成は必須ではない、というのは、シリコーンモールドは、例えば3D印刷プロセスでシリコーンから直接生産することもできるからである。
【0086】
以下では、本発明について、いくつかの図に基づいて例として説明する。したがって、同一の参照番号は、同一または対応する特徴を示す。例に記載されている特徴はまた、特定の例とは独立して実現されてもよく、異なる例の間で組み合わされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】本発明による振動モジュールの一例を示す図である。
図2】本発明による振動モジュールの別の例を示す図である。
図3】本発明による振動モジュールの別の例を示す図である。
図4】本発明による振動モジュールの別の例を示す図である。
図5】本発明による振動モジュールの別の例を示す図である。
図6】本発明による振動モジュールの2つの例の上面図である。
図7】本発明による振動モジュールの別の例の上面図である。
図8】セグメント化された膜表面を有する例示的な音響変換器の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1は、鼓膜1上に配置された本発明による振動モジュール111を示す。図示の例では、振動モジュール111と鼓膜1との間に狭い間隙14が形成され、この間隙14には、鼓膜1への振動モジュール111の接着を改善するための層を設けることができる。この接着層は、鼓膜モジュール111の一部と見なすことができる。接着層は、例えば、ホワイト油、脂肪、シリコーン油、グリセリン、パラフィンまたは同等の材料を含むか、またはこれらの材料からなり得る。
【0089】
鼓膜モジュール111は、一方では、平面型音響変換器3と、鼓膜1に接触するための鼓膜接触モールド2と、を有する。図示の例では、平面型音響変換器3および鼓膜接触モールド2は、内部容積4を囲む。
【0090】
平面型音響変換器3は、この変換器の表面の一部として、キャリア層と、キャリア層上に配置された少なくとも1つの圧電層と、を有することができる膜構造3aを有し、圧電層は少なくとも1つの圧電材料を含む。例えば、2本の配線15a,15bを介して膜構造3aに電圧を印加することができ、この電圧を用いて膜構造3aを励起して少なくとも部分的に振動させることができる。配線の可能な好ましいが必要ではない諸実施形態が、金、白金、銅、アルミニウム、イリジウム、またはこれらの材料の組み合わせをベースとする導電性構成要素を有するボンディングワイヤまたはフレキシブルプリント回路板である。電気絶縁のために、これらの実施形態は、例えば、ポリイミド、パリレン、液晶ポリマー、シリコーンまたは別の材料などの電気絶縁材料で取り囲むことができる。
【0091】
図示の例では、鼓膜接触モールド2は、音響変換器3から離れる方向に向いている表面を有し、この表面は、外耳道に面する鼓膜1の表面をたどる、すなわち、鼓膜の表面と略平行に延在する。その結果、鼓膜接触モールド2のこの表面を有する振動モジュール111は、鼓膜1上に配置することができる。鼓膜接触モールド2は、このモールドの縁部で平面型音響変換器3の縁部3bに接続される。図示の例では、音響変換器3および鼓膜接触モールド2は、音響変換器および鼓膜接触モールドのそれぞれの縁部の全周にわたって互いに接続される。それにより、鼓膜接触モールド2は、このモールドが、鼓膜接触モールドが膜構造3aの上方にあるところで膜またはフィルムのように薄くなるように設計され、したがって、鼓膜接触モールドは、鼓膜接触モールドのこの領域の表面の方向の力に実質的に対抗するだけであり、その表面に垂直に作用する力には対抗しない。鼓膜接触モールド2の薄い領域は、このモールドの縁部で音響変換器3の方向の段差に一体的に合流し、音響変換器3に面する鼓膜接触モールドの表面上に音響変換器の縁部3bが載っている。縁部の方向に、この段差は、鼓膜接触モールド2の縁部の内壁で終わり、この段差に音響変換器3の縁部3bの外壁が当接する。鼓膜接触モールド2の縁部は、音響変換器3の縁部3bが鼓膜接触モールド2のこの縁部によって完全に囲まれるように寸法決定される。このようにして、音響変換器3は、鼓膜接触モールド2によって囲まれ、鼓膜接触モールド2の縁部の内壁と前記段差とによって形成された隅部に挿入される。この内壁および段差の表面は、音響変換器3の縁部3bの対応する壁と同様に、この例では直角をなす。図示の例では、鼓膜接触モールド2の縁部の内壁は、音響変換器の縁部3bの上に外耳道の方向に幾分突出している。音響変換器3の縁部3bは、段差の表面の上に径方向内向きにわずかに突出している。これらの突出部は、図示の例の特徴であるが、必須ではなく、したがって、この例は、これらの突出部なしに実施することもできる。アクチュエータの縁部領域において鼓膜接触モールドで部分的に囲むことも可能である。
【0092】
鼓膜1に面する鼓膜接触モールド2の表面は、鼓膜接触モールド2の最外縁部まで鼓膜1の表面の形状をたどる。このようにして、振動モジュール111は、場合によっては間隙14内の介在層または接着層を介して、鼓膜1上に完全に配置することができる。
【0093】
図示の例では、音響変換器3の縁部3bは、膜構造3aよりも音響変換器3の表面に垂直な方向に大きい厚さを有する。結果として、縁部3bは音響変換器3を安定させることができる。
【0094】
図1に示す例では、内部空間4は振動伝達材料で完全に充填されており、この材料を介して、膜構造3aの振動は鼓膜接触モールド2に伝達することができる。振動伝達材料の剛性は、有利には、例えば100kN/m以上に剛性を高めた領域が内部容積4内に存在するように、不均一とすることができる。
【0095】
図示の例では、鼓膜接触モールド2の形状は、鼓膜1の形状によって決定される。外耳道に面する鼓膜1の表面は、鼓膜の縁部が広がっている想像上の平面から鼓膜臍10上の最大距離のところにある。したがって、図示の例では、鼓膜1に面する鼓膜接触モールド2の表面は、鼓膜臍10上の膜構造3aの表面から最大距離のところにある。
【0096】
図2は、本発明による振動モジュール111の別の例を示し、振動モジュールは、この場合は鼓膜1上に直接配置されている。鼓膜接触モールド2および音響変換器3は、図1に記載の通り設計されているので、そこでの説明を参照されたい。図2に示す例では、ここではタペット6の形をとる振動伝達要素6が、内部容積4内に配置されて膜構造3aから音響変換器3に面する鼓膜接触モールド2の表面まで細長い態様で延びており、一方の側では、膜構造3aに接続されるかまたは当接し、その反対側では、鼓膜接触モールド2に接続されるかまたは当接している。振動伝達要素は、好ましくは、電圧が印加されたときに最大たわみで振動する膜構造3a上の点に隣接する。鼓膜接触モールド2の側では、振動伝達要素6は、鼓膜臍10の上方にある領域内で鼓膜接触モールド2に隣接すると有利である。すべての実施形態で、振動伝達要素6は、鼓膜臍の剛性1200N/mよりも大きい剛性を有することが好ましい。振動伝達要素の剛性は、10kN/m以上、特に好ましくは100kN/m以上であることが好ましい。
【0097】
タペット6は、音響変換器3に垂直な方向に、例えば0.5mm~4mmの長さを有することができる。タペット6の直径は、好ましくは膜構造3aの直径未満であり、特に有利には2mm以下かつ/または0.5mm以上である。
【0098】
図2に示す例では、振動伝達要素6が存在しない内部容積4の領域は、軟質弾性材料で充填される。この軟質材料は、振動伝達要素6よりも著しく低い弾性率を有することができる。図2に示す例では、振動伝達要素6は、鼓膜接触モールド2の内面の直前まで延びており、したがって、鼓膜接触モールド2に面する振動伝達要素6の表面と鼓膜接触モールド2の内面との間に間隙が存在し、この間隙には軟質材料が存在することができる。
【0099】
振動伝達要素6の剛性は、軟質素材の剛性よりも少なくとも10倍大きいことが好ましい。
【0100】
図示の例では、振動伝達要素6は、膜構造3aを発端として、最初は円筒形状であり、次いで、振動伝達要素の端部の前で鼓膜接触モールドの方向に拡大している。結果として、鼓膜接触モールド2に面する振動伝達要素6の表面は、音響変換器3に面する領域内の振動伝達要素6の断面よりも大きい。鼓膜接触モールド2に面する振動伝達要素6の表面の形状は、振動伝達要素6の表面に対向する領域内の鼓膜接触モールド2の内面の形状をたどる。
【0101】
図3は、本発明による振動モジュールの別の例を示す。図3に示す例は、図2に示すものと同様に設計されているが、下記の点において相違する。図2では、振動伝達要素6は、一定断面の領域で膜構造3aに隣接している。これとは対照的に、図3では、振動伝達要素6の断面は、最大表面で膜構造に隣接するために、一定断面の領域を発端として膜構造3aの方向に拡大している。この拡大は、例えば、振動伝達要素6が、図2に示す振動伝達要素の構成では、振動伝達要素6を取り囲む、膜構造3a上にある材料に埋め込まれることでもたらされる。
【0102】
図2に示す例では、鼓膜接触モールド2に面する振動伝達要素6の表面と鼓膜接触モールド2の内面との間に狭い距離があった。図3に示す例では、この間隙は、振動伝達要素6の一部と見なすこともできる材料7で充填される。この場合、図2に示す構成された振動伝達要素6は、材料7を介して鼓膜接触モールド2に隣接する。
【0103】
材料5および材料7は、例えば、振動伝達要素を音響変換器または鼓膜接触モールドに接続するための接着剤、例えば、シリコーン、エポキシ樹脂、シアノアクリレートおよび/またはゴムを含むか、またはこの接着剤とすることができる。
【0104】
振動伝達要素6と材料5および材料7とで充填されていない内部容積4の領域は、図2に示すように、軟質材料で充填される。音響変換器3および鼓膜接触モールド2は、ここでも図2に示すように設計されている。
【0105】
図4は、本発明による振動モジュールの別の例を示す。下記の違いを除いて、図4に示す振動モジュール111は、図3に示すものと同様に設計されている。
【0106】
図3では、内部容積4は、振動伝達要素6と材料5および材料7とが存在していないところに軟質材料が充填されているが、図4では、内部容積4のこの領域は空であるか、または空気で満たされる。振動伝達要素6、音響変換器3、および鼓膜接触モールド2は、図2に示すように構成されているので、そこでの記述を参照されたい。材料5および材料7は、図4では図3に示すように設計されているので、図3の記述を参照されたい。
【0107】
図5は、本発明による振動モジュール111の別の例を示す。図5に示す例では、鼓膜接触モールド2は、まっすぐな内壁を有する鼓膜接触モールド2の薄いまたは膜状の領域に隣接する縁部を有する。音響変換器3は、音響変換器の外縁部が鼓膜接触モールド2のこの内壁に当接し、鼓膜接触モールド2の縁部によって取り囲まれた開口部内の鼓膜接触モールド2の膜状領域まで挿入される。
【0108】
次に、振動伝達要素6が、音響変換器3と鼓膜接触モールド2の膜状部分との間に配置され、振動伝達要素6は、膜構造3aの最大たわみ点から鼓膜接触モールド2の点まで延在し、鼓膜接触モールドの点は、振動モジュールが鼓膜1上に意図したように配置されたときに鼓膜臍の上に配置される。図示の例では、内部容積4は、軟質の実質的に非圧縮性の材料で充填される。次に、膜構造3aが振動の過程で12によって識別されるたわみ位置にまでたわむと、膜構造3aは非圧縮性材料を変位させる。図5に示す例では、振動モジュール111は、音響変換器3の表面に開口部9を有し、この開口部内に非圧縮性材料を変位させることができる。
【0109】
図5は、膜構造3aの振動の2つの段階を重ね合わせたものを示す。以下で、第1の段階は、膜構造3aがたわんでいない段階、すなわち平坦な段階と呼ばれ、第2の段階は、膜構造3aが12のマークを付けられた形状を有する段階であり、この場合は最大たわみと見なされる。
【0110】
第2の段階では、振動伝達要素6は位置6bにまでシフトされ、それによって鼓膜接触モールド2の形を形状2bに変え、それによって鼓膜1に作用することが分かる。同時に、非圧縮性材料は変位させられ、したがって開口部9の領域内に外方に湾曲した表面8bを有する。対照的に、膜構造3aのたわんでいない状態では、材料8の表面は平面である。
【0111】
たわんでいない状態とたわんだ状態12との間で膜構造3aによって掃引される容積は、通常、たわんでいない状態とたわんだ状態2bとの間で鼓膜接触モールド2によって掃引される容積とは異なる。したがって、内部容積4内の非圧縮性充填材料は、開口部9内へ部分的に変位させられ、開口部9で充填材料の表面変形を引き起こす。
【0112】
図2図3および図4に示す例では、これらの構成での膜構造3aの中心が鼓膜臍10の実質的に真下にあるので、振動伝達要素6は、膜構造3aの中心またはその付近の領域に対して実質的に垂直であった。図5に示す例に設けられた開口部9を通して、膜構造3aの最大たわみの位置は、特定の状況下で鼓膜接触モールド2の縁部によって形成された開口部の中心から転移することができる。これは図5に示されている。振動伝達要素6がこの場合に最大たわみ領域内で膜構造3aにも隣接する場合、振動伝達要素6の長手方向は、膜構造3aが延在する平面に対して90°に等しくない角度をなす。
【0113】
図6は、サブ図Aおよびサブ図Bにおいて、図5に示す本発明による振動モジュールの実施形態の2つの上面図を示すが、開口部9の位置は異なる。
【0114】
振動モジュール111ならびに鼓膜接触モールド2および音響変換器3は、略円形の外周を有することが分かる。槌骨11は、槌骨が実際には図示の上面図では見えないので、点線で示されているが、ここでは方向付けるために示されている。図6Aに示す例では、開口部9は、設計が円形であり、完全に音響変換器3の膜構造の表面内にある。したがって、開口部9の縁部は、この縁部の全長にわたって膜構造3aによって形成される。
【0115】
図6Bに示す例では、開口部9は、音響変換器3の膜構造3aの縁部の凹部として設計されている。したがって、開口部9の縁部の一部は膜構造3aによって形成されるが、開口部の縁部の別の部分は鼓膜接触モールド2の縁部によって形成される。開口部は、円形状からそれた縁部によって形成することもできる。
【0116】
図7は、本発明による別の例示的な振動モジュール111を示す。この場合も、音響変換器3の膜構造3aの表面の上面図が示されている。槌骨11は、この場合も、槌骨が実際にはこの上面図では見えないので、破線で示されている。音響変換器111は、図示の例では鼓膜1上に配置される。本発明の多くの実施形態では、振動モジュールを鼓膜1上に、膜構造3aに垂直な軸線を中心に正しい向きで配置することが有利または必要である。この位置合せを単純化するために、鼓膜接触モールド2から離れる方向に向いている音響変換器3の表面上に少なくとも1つのマーキング16が設けられると有利であり、このマーキング16は、例えば、槌骨11の縦軸線の方向を指すことができる。槌骨は、しばしば不透明な鼓膜を通して見えるか、またはそれ自体を鼓膜に押し通し、表面形状に反映され、したがって通常は外耳道を通して認識可能である。
【0117】
図8は、本発明による振動モジュール111に使用され得る音響変換器3の一例を示す。
【0118】
図示の例では、音響変換器3は円形外周を有する。一般に、音響変換器3の外周形状は、鼓膜接触モールド2の外周形状と同一であることが好ましい。図8に示す例では、音響変換器3は、円形縁部3bによって境界を定められた膜構造3aを有する。
【0119】
それにより、膜構造3aは、とりわけ、切れ目89a、89b、89cによってセグメント88a、88b、88cに分割される。それにより、切れ目89a、89b、89cは、これらの切れ目が膜構造3aのすべての層を分断するように構成される。したがって、セグメント88a、88b、88cは、切れ目89a、89b、89cで機械的に分離される。セグメント88a、88b、88cは、これらのセグメントの外縁部の縁部上に恒久的に配置される。したがって、セグメント88a、88b、88cは、パイくさび形状を有し、セグメントの各点でたわみ可能である。
【0120】
それにより、膜構造3aは、キャリア層と、キャリア層上に配置され、少なくとも1つの圧電材料を有する少なくとも1つの圧電層と、を有することができ、したがって、圧電層に電圧を印加することにより膜構造3aの振動を発生させることができる。
【0121】
したがって、図8に示す例では、セグメント88a、88b、88cは、とりわけ、かかる電圧の印加によりセグメントの各点が円形状の中心に向かって振動する。
【0122】
音響変換器3の膜構造は、図示の例では、膜構造3aの表面において膜構造3aのすべての層を分断する切れ目89a、89b、89cによって、例としてセグメント88a、88b、88cのような6つのセグメントに分割されて、膜構造が切れ目89a、89b、89cで機械的に分離されるようにする。図示の例では、切れ目は、音響変換器3の中心点まで半径方向に延在し、中心点で交わって、すべてのセグメントが、例としてセグメント88a、88b、88cのように、中心点で機械的に分離されるようにする。例としてセグメント88a、88b、88cのようなセグメントの数、切れ目89a、89b、89cの数、さらには、切れ目89a、89b、89c、例としてセグメント88a、88b、88cのようなセグメントの形状も、複数の他の方法で実現され得る。例えば、螺旋状の切れ目も可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【国際調査報告】