(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(54)【発明の名称】細胞特異的転写制御配列及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20220314BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220314BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220314BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220314BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220314BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220314BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220314BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220314BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220314BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220314BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220314BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220314BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220314BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220314BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220314BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220314BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220314BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220314BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20220314BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220314BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220314BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
C12N15/85 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/86 Z
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C12N5/10
A61K35/28
A61K35/17 Z
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/00
A61P29/00
A61P37/06
A61P7/00
C12N15/63 Z
C07K14/705
C12N15/113 Z
C12P21/08
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542490
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(85)【翻訳文提出日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 CA2020050084
(87)【国際公開番号】W WO2020150832
(87)【国際公開日】2020-07-30
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】321007081
【氏名又は名称】ヴァロリサシオン・アッシュエスジ・リミテッド・パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリー・ハッダド
(72)【発明者】
【氏名】パノジョット・ビフシャ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン・コラマルティーノ
(72)【発明者】
【氏名】キャシー・ベランド
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZB311
4C084ZB312
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB31
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
最小プロモーターと、1又は複数の特定の細胞サブタイプにおいて対象核酸を発現する細胞特異的エンハンサーとを含む新規合成発現カセットを開示する。当該合成発現カセットを含むベクター及び宿主細胞もまた開示する。本願はまた、細胞において、例えばキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸等である対象核酸を発現し、また上記合成発現カセット、ベクター及び細胞を用いて例えばがん及び遺伝性疾患等である疾患又は症状を治療する方法も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞において対象核酸を発現する合成発現カセットであって、
(i)最小プロモーターと、
(ii)前記細胞において前記対象核酸を発現するために前記最小プロモーターと作用可能に結合した転写エンハンサーであって、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む転写エンハンサーとを含む、合成発現カセット。
【請求項2】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1記載の合成発現カセット。
【請求項3】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、請求項2記載の合成発現カセット。
【請求項4】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1記載の合成発現カセット。
【請求項5】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項4記載の合成発現カセット。
【請求項6】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、請求項5記載の合成発現カセット。
【請求項7】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1記載の合成発現カセット。
【請求項8】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項7記載の合成発現カセット。
【請求項9】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項8記載の合成発現カセット。
【請求項10】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1記載の合成発現カセット。
【請求項11】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項10記載の合成発現カセット。
【請求項12】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項11記載の合成発現カセット。
【請求項13】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドを含む又は前記ヌクレオチドからなる、請求項1記載の合成発現カセット。
【請求項14】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドを含む又は前記ヌクレオチドからなる、請求項13記載の合成発現カセット。
【請求項15】
前記転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の前記配列のいずれか1つを含む又は前記配列のいずれか1つからなる、請求項13記載の合成発現カセット。
【請求項16】
最小プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルスCMV最小プロモーター(miniCMV)である、請求項1から15のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項17】
前記最小プロモーターが、配列番号6の配列を含む又は前記配列からなる、請求項16記載の合成発現カセット。
【請求項18】
前記転写エンハンサーは、前記合成発現カセットにおいて前記最小プロモーターの上流にある、請求項1から17のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項19】
ポリアデニル化(poly(A))シグナルをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項20】
転写終結シグナルをさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項21】
最小プロモーター及び転写エンハンサーに対して作用可能に結合した前記対象核酸をさらに含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項22】
選択マーカーをさらに含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項23】
前記細胞は幹細胞である、請求項1から22のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項24】
前記幹細胞は、造血幹細胞(HSC)、胚性幹細胞、全能性幹細胞、多能性幹細胞、組織幹細胞(multipotent stem cell)又は人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項23記載の合成発現カセット。
【請求項25】
前記細胞は免疫細胞である、請求項1から22のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項26】
前記免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、請求項25記載の合成発現カセット。
【請求項27】
前記対象核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、請求項1から26のいずれか一項に記載の合成発現カセット。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか一項に記載の合成発現カセットを含む、ベクター。
【請求項29】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項28記載のベクター。
【請求項30】
請求項1から27のいずれか一項に記載の合成発現カセット又は請求項28もしくは29に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項31】
前記細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、請求項30記載の宿主細胞。
【請求項32】
請求項30又は31に記載の前記宿主細胞を含む、組成物。
【請求項33】
細胞によって対象核酸の発現を誘導する方法であって、前記細胞内に、請求項1から27のいずれか一項に記載の合成発現カセット又は請求項28もしくは29に記載のベクターを導入することを含む、方法。
【請求項34】
前記対象核酸が、前記細胞内で欠如した又は欠損したタンパク質をコードする、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記対象核酸が、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、請求項33から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
対象における疾患、症状又は障害を治療する方法であって、前記対象に対して、請求項30もしくは31に記載の細胞又は請求項32に記載の組成物を有効量で投与することを含む、方法。
【請求項38】
前記疾患、症状又は障害は、タンパク質の発現の欠如又は欠損タンパク質の発現に関連しており、また前記対象核酸が、前記タンパク質の機能的形態をコードする、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記疾患、症状又は障害は、抗原の発現と関連しており、また前記対象核酸が、前記抗原に特異的に結合する組換え受容体をコードする、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記疾患、症状又は障害は、がん、自己免疫性もしくは炎症性の疾患、又は感染症である、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患、症状又は障害は、がんである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記がんは、血液がんである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、請求項37から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記方法は、少なくとも1×10
2、1×10
3又は1×10
4個の細胞を前記対象に投与することを含む、請求項37から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記方法は、1×10
6~1×10
8個の細胞を前記対象に投与することを含む、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記細胞は、自己細胞である、請求項37から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞は、同種異系細胞である、請求項37から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
対象における疾患、症状又は障害の治療に使用する、請求項30もしくは31に記載の細胞、又は請求項32に記載の組成物。
【請求項50】
前記疾患、症状又は障害は、タンパク質の発現の欠如又は欠損タンパク質の発現に関連しており、また対象核酸が、前記タンパク質の機能的形態をコードする、請求項50記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項51】
前記疾患、症状又は障害は、抗原の発現と関連しており、また前記対象核酸が、前記抗原に特異的に結合する組換え受容体をコードする、請求項50記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項52】
前記組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である、請求項51記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項53】
前記疾患、症状又は障害は、がん、自己免疫性もしくは炎症性の疾患、又は感染症である、請求項51又は52に記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項54】
前記疾患、症状又は障害は、がんである、請求項53記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項55】
前記がんは、血液がんである、請求項54記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項56】
前記細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、請求項49から55のいずれか一項に記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項57】
方法は、少なくとも1×10
2、1×10
3又は1×10
4個の細胞を前記対象に投与することを含む、請求項49から56のいずれか一項に記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項58】
前記方法は、1×10
6~1×10
8個の細胞を前記対象に投与することを含む、請求項57記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項59】
前記細胞は、自己細胞である、請求項49から58のいずれか一項に記載の使用のための細胞又は組成物。
【請求項60】
前記細胞は、同種異系細胞である、請求項49から58のいずれか一項に記載の使用のための細胞又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2019年1月24日出願の米国仮出願シリアル番号第62/796,254号の利益を請求し、当該出願はその全体として参照により本明細書において援用する。
【0002】
本発明は、概して、T細胞、B細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞等の例えば免疫細胞である特定の細胞のサブタイプにおける遺伝子の標的発現に関し、造血幹細胞(HSC)のエンジニアリング及び当該細胞に基づく療法において用いることができる。
【背景技術】
【0003】
所与の細胞のサブタイプ又は組織に形質導入された遺伝子の標的発現は困難である。幹細胞エンジニアリング及び人工多能性幹細胞(iPS)の研究の成長分野では、親細胞から生じる標的集団においてのみ所与のタンパク質を発現する能力が要望されている。しかしながら、従来の/天然のプロモーターを使用すると、サイズと時には特異性とについての技術的な問題に直面する。例えば近年、造血関連障害の遺伝子療法は、強プロモーターの制御下で、HSCに導入遺伝子を形質導入することに依存している1、2。このタイプのコンストラクトでは、改変した幹細胞を起源とする細胞が、細胞のサブタイプに関係なく新しい遺伝子を発現することとなり、このことは危険な結果につながる可能性がある。
【0004】
種々のがんに対する有望な新規の治療手段として、キメラ抗原受容体(CAR)免疫細胞療法が出現している。CAR免疫細胞療法では、腫瘍抗原に結合するCARを発現するように患者の免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞)を操作するが、これは、当該抗原を発現する腫瘍細胞の特異的な死滅を許容する。現在この戦略は、強力であるものの通常持続しないものであって、これはインビボでのT細胞の枯渇及び操作したT細胞の喪失が理由である。さらに、大量のCAR-T細胞の注入により、サイトカインの大量放出に起因する高毒性につながり得る(サイトカイン放出症候群)。したがって、血液循環中におけるCAR改変細胞の継続的且つ進歩的な補給を許容し、また特定の細胞(例えば、T細胞、NK細胞)のみに対してCARの発現を限定するようなアプローチが要望されている。
【0005】
本明細書は、いくつかの文献を参照するものであり、当該内容は、その全体として参照により本明細書で援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国仮出願シリアル番号第62/796,254
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の各項を提供する:
1. 細胞において対象核酸を発現する合成発現カセットであって、
(i)最小プロモーターと、
(ii)上記細胞において上記対象核酸を発現するために上記最小プロモーターと作用可能に結合した転写エンハンサーであって、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む当該転写エンハンサーとを含む、合成発現カセット。
【0008】
2. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、項1に記載の合成発現カセット。
【0009】
3. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、項2に記載の合成発現カセット。
【0010】
4. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、項1に記載の合成発現カセット。
【0011】
5. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、項4に記載の合成発現カセット。
【0012】
6. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、項5に記載の合成発現カセット。
【0013】
7. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、項1に記載の合成発現カセット。
【0014】
8. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、項7に記載の合成発現カセット。
【0015】
9. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、項8に記載の合成発現カセット。
【0016】
10. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、項1に記載の合成発現カセット。
【0017】
11. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、項10に記載の合成発現カセット。
【0018】
12. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、項11に記載の合成発現カセット。
【0019】
13. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも50個の連続したヌクレオチドを含む又は当該ヌクレオチドからなる、項1に記載の合成発現カセット。
【0020】
14. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つよりの少なくとも100個の連続したヌクレオチドを含む又は当該ヌクレオチドからなる、項13に記載の合成発現カセット。
【0021】
15. 転写エンハンサーが、配列番号7~47に記載の配列のいずれか1つを含む又は当該配列のいずれか1つからなる、項13に記載の合成発現カセット。
【0022】
16. 最小プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルスCMV最小プロモーター(miniCMV)である、項1から15のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0023】
17. 最小プロモーターが、配列番号6の配列を含む又は当該配列からなる、項16に記載の合成発現カセット。
【0024】
18. 転写エンハンサーは、合成発現カセットにおいて最小プロモーターの上流にある、項1から17のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0025】
19. ポリアデニル化(poly(A))シグナルをさらに含む、項1から18のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0026】
20. 転写終結シグナルをさらに含む、項1から19のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0027】
21. 最小プロモーター及び転写エンハンサーに対して作用可能に結合した対象核酸をさらに含む、項1から20のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0028】
22. 選択マーカーをさらに含む、項1から21のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0029】
23. 細胞は幹細胞である、項1から22のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0030】
24. 上記幹細胞は、造血幹細胞(HSC)、胚性幹細胞、全能性幹細胞、多能性幹細胞、組織幹細胞(multipotent stem cell)又は人工多能性幹細胞(iPSC)である、項23に記載の合成発現カセット。
【0031】
25. 細胞は免疫細胞である、項1から22のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0032】
26. 免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、項25に記載の合成発現カセット。
【0033】
27. 対象核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、項1から26のいずれか1つに記載の合成発現カセット。
【0034】
28.項1から27のいずれか1つに記載の合成発現カセットを含む、ベクター。
【0035】
29. 上記ベクターは、ウイルスベクターである、項28に記載のベクター。
【0036】
30. 項1から27のいずれか1つに記載の合成発現カセット又は項28もしくは29に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【0037】
31. 当該細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、項30に記載の宿主細胞。
【0038】
32. 項30又は31に記載の宿主細胞を含む、組成物。
【0039】
33. 細胞によって対象核酸の発現を誘導する方法であって、上記細胞内に、項1から27のいずれか1つに記載の合成発現カセット又は項28もしくは29に記載のベクターを導入することを含む、方法。
【0040】
34. 上記対象核酸が、上記細胞内で欠如又は欠損したタンパク質をコードする、項33に記載の方法。
【0041】
35. 上記対象核酸が、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、項33又は34に記載の方法。
【0042】
36. 当該細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、項33から35のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
37. 対象における疾患、症状又は障害を治療する方法であって、上記対象に対して、項30もしくは31の細胞又は項32の組成物を有効量で投与することを含む、方法。
【0044】
38. 上記疾患、症状又は障害は、タンパク質の発現の欠如又は欠損タンパク質の発現に関連しており、また上記対象核酸が、上記タンパク質の機能的形態をコードする、項37に記載の方法。
【0045】
39. 上記疾患、症状又は障害は、抗原の発現と関連しており、また対象核酸が、上記抗原に特異的に結合する組換え受容体をコードする、項37に記載の方法。
【0046】
40. 上記組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である、項39に記載の方法。
【0047】
41. 上記疾患、症状又は障害は、がん、自己免疫性もしくは炎症性の疾患、又は感染症である、項39又は40に記載の方法。
【0048】
42. 上記疾患、症状又は障害は、がんである、項41に記載の方法。
【0049】
43. がんは、血液がんである、項42に記載の方法。
【0050】
44. 当該細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、項37から43のいずれか1つに記載の方法。
【0051】
45. 上記方法は、少なくとも1×102、1×103又は1×104個の細胞を上記対象に投与することを含む、項37から44のいずれか1つに記載の方法。
【0052】
46. 上記方法は、1×106~1×108個の細胞を上記対象に投与することを含む、項45に記載の方法。
【0053】
47. 上記細胞は、自己細胞である、項37から46のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
48. 上記細胞は、同種異系細胞である、項37から46のいずれか1つに記載の方法。
【0055】
49. 対象における疾患、症状又は障害の治療に使用する、項30もしくは31に記載の細胞、又は項32に記載の組成物。
【0056】
50. 上記疾患、症状又は障害は、タンパク質の発現の欠如又は欠損タンパク質の発現に関連しており、また上記対象核酸が、上記タンパク質の機能的形態をコードする、項50に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0057】
51. 上記疾患、症状又は障害は、抗原の発現と関連しており、また対象核酸が、上記抗原に特異的に結合する組換え受容体をコードする、項50に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0058】
52. 上記組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である、項51に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0059】
53. 上記疾患、症状又は障害は、がん、自己免疫性もしくは炎症性の疾患、又は感染症である、項51又は52に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0060】
54. 上記疾患、症状又は障害は、がんである、項53に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0061】
55. 上記がんは、血液がんである、項54に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0062】
56. 当該細胞は、造血幹細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はB細胞である、項49から55のいずれか1つに記載の使用のための細胞又は組成物。
【0063】
57. 上記方法は、少なくとも1×102、1×103又は1×104個の細胞を上記対象に投与することを含む、項49から56のいずれか1つに記載の使用のための細胞又は組成物。
【0064】
58. 上記方法は、1×106~1×108個の細胞を上記対象に投与することを含む、項57に記載の使用のための細胞又は組成物。
【0065】
59. 上記細胞は、自己細胞である、項49から58のいずれか1つに記載の使用のための細胞又は組成物。
【0066】
60. 上記細胞は、同種異系細胞である、項49から58のいずれか1つに記載の使用のための細胞又は組成物。
【0067】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、添付の図面を参照しながら、単に例示として与えられる以下のその特定の実施形態の非制限的な記載を一読することでより明らかになることとなる。
【0068】
添付の図面においては以下のとおりである:
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1A】
図1A及び1Bは、Chr16-445からT細胞特異的(Tspe)-プロモーターを生成するために用いるクローニング戦略を示す。経緯は下から上に示している。
【
図2】
図2は、Tenh(Chr16-445)のためのレンチウイルス粒子を産生するプラスミドを生成するために用いるクローニング戦略を示す。経緯は下から上に示している。
【
図3A】
図3は、T細胞特異的合成プロモーターChr16-445-minCMVの制御下での、GFPの発現パターンを評価するためのインビトロ実験の結果を示す。
図3A: Jurkat(T-細胞)及びK562(骨髄)細胞株に、対照プロモーター下と合成T-細胞特異的プロモーター下の比較で、GFPをコードしたベクターをトランスフェクトした。
【
図3B】
図3B:PBMCに、対照の脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター下と合成T-細胞特異的プロモーター下の比較で、GFPをコードしたベクターをトランスフェクトした。
【
図4】
図4は、NK細胞特異的合成プロモーター(NK6、配列番号11)の制御下での、GFPの発現パターンを評価するためのインビトロ実験の結果を示す。種々の細胞株に、対照プロモーター下と合成NK-細胞特異的プロモーター下の比較で、GFPをコードしたベクターをトランスフェクトした。
【
図5】
図5は、合成NK細胞特異的(NKspe-NK8、配列番号14)プロモーター下でのGFPのタイミング及び機能的発現を決定することを目指すインビトロ実験の結果を示す。CD34
+細胞のNK細胞(NK特異的培地でのOP9-DL4、左側のボックス)への又はB細胞(OP9、右側のボックス)への成熟を許容するインビトロ分化系で、GFPは、NK細胞の子孫において早期に発現するが、B細胞では発現しないということを示したが、これはそのNK細胞特異性を証明している。
【
図6】
図6は、B-細胞特異的プロモーター(B-enh-1、配列番号23、左パネル)、又は陰性対照としての最小CMVプロモーター配列(配列番号6、右パネル)の制御下での、GFPをコードしたレンチウイルスを形質導入した場合のNalm6細胞株(B細胞株)におけるGFPの発現を示す。
【
図7A】
図7は、Chr16-445のT細胞特異的合成プロモーターの制御下での、GFPの発現パターンを評価するためのインビボ実験の結果を示す。当該合成プロモーターのインビボでの確認は、ヒト胸腺の移植なし(
図7A)の又は当該移植あり(BLTモデル)(
図7B)の亜致死的照射NSGマウスに、合成プロモーターの制御下でGFPを形質導入したヒトCD34
+細胞を注入することによって評価した。血液分析により、操作されたHSCは、様々な免疫集団を生じることが可能であること、及びT細胞のみがGFPタンパク質を発現することが示され、我々のプロモーターの特異性が認められる。
【
図7C】
図7C:非特異的強プロモーターの制御下での、GFPを形質導入したCD34
+細胞を移植したBLTマウスにおける種々の細胞型におけるGFP発現である。
【
図8A】
図8A~Bは、NK細胞特異的プロモーター(NK8、配列番号14)の制御下での、GFPで修飾したCD34
+細胞の分化を試験することを目指すインビボ実験の結果を示す。
図8Aは、血液(各左側棒グラフ)、脾臓(各中央棒グラフ)、及び骨髄(各右側棒グラフ)(2匹のヒト化マウスより得られる)においてGFPを発現するヒトCD45
+細胞の百分率を示す。
【
図8B】
図8Bは、2匹のヒト化マウスの骨髄から単離したヒトCD45
+細胞におけるGFPの発現を示す。NK8-細胞特異的プロモーター(配列番号14)の制御下で、GFPを形質導入したCD34
+でマウスをヒト化した場合に、NK細胞(CD56
+)はGFPを発現するが、B細胞(CD19
+CD3
-)又はT細胞(CD3
+CD19
-)はGFPを発現しないということを、ドットプロットが示している。
【
図9】
図9は、B-細胞特異的プロモーター(B-enh-1、配列番号23)の制御下での、GFPで修飾したCD34
+細胞の分化を試験することを目指すインビボ実験の結果を示す。GFP発現は、ヒト化4週後のヒト化マウスの血液中で観察した。細胞は、hCD45
+の発現に基づいてゲートした。B-細胞特異的プロモーター(配列番号23、中央線)の制御下で、GFPを形質導入したCD34
+でマウスをヒト化した場合に、B細胞(CD19
+)はGFPを発現するが、単球(CD14
+)はGFPを発現しないということを、ドットプロットが示している。非特異的強プロモーター(SFFV、下パネル)の制御下でGFPを発現するCD34
+でヒト化したマウスは、全てのヒト亜集団(hCD45
+)においてGFPの発現を示し、一方で形質導入されていないCD34
+(陰性対照)においてはGFP発現は観察されない。ヒト化後のこの時点(4週)において、マウスの血液中にT細胞は存在しない。
【
図10A】
図10A~Dは、機能的CARを発現することに関してT-細胞特異的プロモーターの能力を評価するための実験結果を示す。
図10A:CAR-CD33発現を、非特異的SFFVプロモーター又はT-細胞特異的プロモーターの制御下でCAR-CD33コンストラクトを一次T細胞に形質導入した後のフローサイトメトリーで測定した。
【
図10B】
図10B:2:1の比で、SFFV(強)プロモーター又はT-細胞特異的プロモーター(Tspe)の制御下での、CAR-CD33を発現するT-細胞のCD33
+又はCD33
-のAML細胞に対する細胞傷害性である(有意差なし)。***はp<0.001である。
【
図10C】
図10C:Tenh Chr16-445(Tspe)プロモーター下で発現したCAR-CD22が、SFFV(強)プロモーターの細胞傷害性と同様である、RS4;11 ALL-細胞株に対するCAR特異的細胞傷害性を結果的にもたらすのに十分強いCAR発現を誘導した(比は0.5:1/1:1/2:1/4:1)。
【
図10D】
図10D:T-細胞特異的プロモーター(Chr16-445)(四角)の制御下でCAR-GD2を形質導入した一次T細胞が、非特異的強プロモーター(SFFV、円)を形質導入した一次T細胞のものと同様のレベルで、GD2
+ NB細胞株(SK-N-DZ)に対して細胞傷害性を誘導した。対照的に、改変していない一次T-細胞(菱形)は、標的細胞株を死滅させなかった。****はp<0.0001である。
【
図11A】
図11A~Cは、T-細胞特異的プロモーターが発現されたT細胞分化段階を決定することを目指すインビトロ実験の結果を示す。CD34
+細胞のT細胞(OP9-DL4-、
図11A)への又はB細胞(OP9、
図11B)への成熟を許容するインビトロ分化系が、CARは、T細胞分化プロセスの早期(CD1aCD7
+段階)に発現されるが、B細胞では発現されないことを示し、そのT細胞特異性が確認された。
【
図11C】
図11Cは、CAR-CD22がT-細胞特異的プロモーター(Chr16-445、各中央棒グラフ)の又は非特異的強プロモーター(UCOE-SFFV、各左側棒グラフ)の制御下で発現した場合の、OP9-DL4及びOP9の系で得られる様々な亜集団におけるCAR-CD22の発現率を示す。黒い棒グラフ(左)は、陰性対照としての形質導入されていない細胞で得た結果を示す。DP:二重陽性。
【
図12】
図12は、T-細胞特異的プロモーター(Chr16-445)の制御下での、CAR-CD22を形質導入したCD34
+細胞の分化を試験することを目指すインビボ実験の結果を示す。CAR-CD22発現は、ヒト化30週後のBLTマウスの血液のhCD45
+細胞において観察した。T-細胞特異的プロモーター(Chr16-445)(左カラム)の制御下で、CAR-CD22で修飾したCD34
+でマウスをヒト化した場合に、T細胞(CD3
+)はCAR-CD22を発現するが、B細胞(CD19
+)又は単球(CD14
+)は発現しないことを、ヒストグラムプロットが示している。この発現は、CD34
+を形質導入しない場合には観察されなかった(陰性対照、右カラム)。
【
図13】実施例2における、配列の組において、高頻度の保存された転写因子結合部位及び結合部位の組み合わせの検出を許容するoPOSSUMツール(http://opossum.cisreg.ca/oPOSSUM3/、Kwon AT,Arenillas DJ,Worsley Hunt R,Wasserman WW.G3.2012 Sep;2(9):987-1002.Epub 2012 Sep 1)を用いて、配列を解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0070】
本明細書において別段に規定しない限り、本開示に関して用いる科学技術用語は、当業者によって通常理解される意味を有するものとする。さらに、文脈で別段に要求されない限り、単数形は複数形を含むものとし、また複数形は単数形を含むものとする。概して、本明細書に記載の、細胞及び組織の培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関して用いる又はこれらの技術で用いる技術用語は、当技術分野で周知であり、通常用いられるものである。本開示の方法及び技術は、概して、当技術分野の従来の周知の方法に従って、また別段に示さない限り本明細書の全体にわたって引用し、議論する様々な全般的且つより詳細な参考文献に記載のとおりに、行われる。例えば、Sambrook J.&Russell D.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2000);Ausubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,John&Sons,Inc.(2002);Harlow and Lane Using Antibodies:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1998);及びColigan et al.,Short Protocols in Protein Science,Wiley,John&Sons,Inc.(2003)を参照されたい。あらゆる酵素反応又は精製技術は、当技術分野で通常達成されるとおりに、又は本明細書に記載のとおりに、製造元の指示に従って実施される。本明細書に記載の、分析化学、合成有機化学ならびに医薬品化学及び製薬化学に関してならびにこれらの実験室的な手順及び技術において用いる技術用語は、当技術分野において周知であり且つ通常用いられるものである。
【0071】
技術を記述する文脈での(特に特許請求の範囲においての)、「a」及び「an」及び「the」の語及び同様の言及の使用は、本明細書において別段に示さない限り、又は文脈で明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方をカバーするように解釈する。
【0072】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」の語は、別段に記載しない限り、オープンエンドの語として解釈する(すなわち、「~を含むが、これに限定されない」ことを意味する)。
【0073】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書で別段に記載しない限り、その範囲に当てはまる個々の値それぞれに対して別個に言及する簡略的な方法として機能することを単に意図しており、また個々の値のそれぞれは、本明細書においてあたかも個々に記載されているようにその記載の中に盛り込まれている。その範囲内の値の全てのサブセットもまた、それらが本明細書においてあたかも個々に記載されているようにその記載の中に盛り込まれている。
【0074】
本明細書で提供する、いずれの例及び全ての例、又は例示的な文言(「例えば」、「例えば~等」)の使用は、単に技術をより良好に説明することを意図しており、別段に請求しない限り、本願発明の範囲に対する限定となるものではない。
【0075】
本明細書においては、いずれの文言も、本願発明の手続きに対して不可欠であるとして、請求されていないあらゆる構成要素を示しているとして解釈されるべきでない。
【0076】
本明細書においては、「約」の語は、その通常の意味を有する。「約」の語は、ある値が、その値を決定するために用いるデバイスもしくは方法についての本来の誤差の変動を含むことを示すために、又は例えば記載した値(又は値の範囲)の10%の範囲内である記載の値に近い値を包含するために、用いる。
【0077】
本発明者は、ある細胞のサブタイプに特異的な手法で、対象遺伝子の発現を標的とする特異的な合成制御因子を設計することによって、従来のプロモーターの使用の代替となる戦略を開発した。この合成制御因子の制御下であるように形質導入された遺伝子を操作することと、このコンストラクトを幹細胞に形質導入することとによって、これら遺伝子的に改変された幹細胞に由来する特異的且つ標的のある細胞サブタイプ(又は細胞サブタイプ)において排他的に遺伝子発現を司ることが可能となったものであり、これは実際の方法を有意に改善する。いくつかの細胞特異的転写エンハンサーの候補が同定された。概念実証として、ヒトT細胞集団において特異的に導入遺伝子の発現を誘導したT細胞特異的転写エンハンサーの候補を含む第1の「合成制御因子」を設計したが、同様の方法論は、他の細胞特異的プロモーター、特に2種のヒトNK細胞特異的プロモーターと1種のB細胞特異的プロモーターとを設計するためにうまく適用された。設計したヒトT/NK/B細胞特異的プロモーターは、サイズが小さくなったものであり、良好な特異性を示すことから、ヒト遺伝子療法及びHSCエンジニアリングでの使用に受け入れられる。
【0078】
合成発現カセット
したがって、第1の態様においては、本開示は、細胞において対象核酸(例えば、遺伝子、gRNA、miRNA、shRNA)を発現するための合成発現カセットであって、最小プロモーターと、上記細胞における対象核酸の発現のために上記最小プロモーターと作用可能に結合した転写エンハンサーとを含むものであり、当該転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つよりの、少なくとも50個の連続した/隣接したヌクレオチド、好ましくは少なくとも100、150、200又は250個の連続した/隣接したヌクレオチドと、少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むものである、当該合成発現カセットを提供する。
【0079】
「エンハンサー」又は「転写エンハンサー」又は「転写制御因子」の語は、転写因子又は転写活性化因子のための1又は複数の結合部位を含み、また配向依存的且つ位置依存的な手法で、プロモーター(例えば、最小プロモーター)の活性を増加させる、シス作用性配列を指す。転写エンハンサーは、最小プロモーターの上流又は下流に位置し得る。ある実施形態においては、転写エンハンサーは、プロモーターの上流に位置する。
【0080】
ある実施形態においては、転写エンハンサーは、ある細胞型又はサブタイプに特異的な転写エンハンサーであり、すなわち当該転写エンハンサーが、ある特定の細胞型又はサブタイプにおいて、プロモーターの活性(及び対象とするペプチド/タンパク質、又は核酸(例えば、miRNA、shRNA、gRNA)の発現もまた)を特異的に増加させる。本明細書で用いる場合、「特異的に増加する」の語は、標的の細胞型又はサブタイプにおける最小プロモーターの活性についての増加が、他の細胞型又はサブタイプにおける増加よりも大きいことを意味する。実施形態においては、転写エンハンサーは、免疫細胞特異的な転写エンハンサーであり、すなわちそれは、例えばT細胞、NK細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、好塩基球、好中球等である1又は複数の免疫細胞型において、プロモーターの活性を特異的に増加させる。ある実施形態においては、免疫細胞特異的転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つよりの、少なくとも50個の連続した/隣接したヌクレオチド、好ましくは少なくとも100、150、200又は250個の連続した/隣接したヌクレオチドと、少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含み、また転写増強活性を維持する(すなわち、天然配列(native sequence)と同様又は天然配列よりも良好である転写増強活性を呈する)。ある実施形態においては、免疫細胞特異的転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つと少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含み、また転写増強活性を維持する(すなわち、天然配列(native sequence)と同様又は天然配列よりも良好である転写増強活性を呈する)。
【0081】
さらなる実施形態においては、免疫細胞特異的転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つよりの、少なくとも50個の連続した/隣接したヌクレオチド、好ましくは少なくとも100、150、200又は250個の連続した/隣接したヌクレオチドと、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。さらなる実施形態においては、免疫細胞特異的転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0082】
さらなる実施形態においては、免疫細胞特異的転写エンハンサーは、配列番号7~47に、好ましくは配列番号7~17及び23に記載の配列のうちの1つよりの、少なくとも50個の連続した/隣接したヌクレオチド、好ましくは少なくとも100、150、200又は250個の連続した/隣接した残基、を含む又はこれらからなる。
【0083】
配列番号7~47に記載の配列の一部は、反復のドメイン/モチーフを含む。例えば、配列番号7に記載の配列は、約50個のヌクレオチドの反復のドメイン/モチーフ(配列:GGTGTGGAGGGCCGGGTGGTGACX1CTX2AGTGACAGGTGAGGATGTGGCAX3(配列番号63)を含み、ここでX1はG又はA、好ましくはGであり、X2はG又はC、好ましくはGであり、またX3はC又はT、好ましくはCである。ある実施形態においては、細胞特異的な転写エンハンサーは、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、又は8個の反復ドメイン/モチーフを含む。配列番号7~47に記載の配列のそれぞれに存在する推定反復モチーフの一覧を表IVに示している(配列番号64~82、及びAAACCACA)。すなわち、ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は、表IVに示すモチーフ(配列番号64~82、及びAAACCACA)のうちの1又は複数を含む。例えば、配列番号8は、表IVに示すモチーフ#3(配列番号66)、#4(配列番号67)、#17(配列番号80)、及び20(AAACCACA)のうちの1又は複数を含む。さらなる実施形態においては、転写エンハンサー配列は、配列番号7~47のそれぞれについて、表IVに示すモチーフ及び反復を含む。
【0084】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、T細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号7~10、13、14、18~22、24~31、33~43、45及び47、好ましくは配列番号7~10、13、14に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。さらなる実施形態においては、合成発現カセットは、T細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号7、9、27、33、34、36、37、42、43及び45、好ましくは配列番号7及び9に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。ある実施形態においては、細胞はCD4+細胞であり、また転写エンハンサーは、配列番号22、34、37、38、43、45及び47に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0085】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、NK細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号8、10~14、18~22、24~26、28~31、35、38~41、44及び47、好ましくは配列番号11、12及び14に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0086】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、NK細胞及びT細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号8、10、13、14、18~21、22、24~26、28~31、35、38、39~41及び47、好ましくは配列番号8、10、13及び14に記載の配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0087】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、B細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号15~17、23、32、44及び46、好ましくは配列番号15~17及び23、またより好ましくは配列番号23に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0088】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、B細胞及びNK細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号44に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0089】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、例えばNK細胞、T細胞、好塩基球、及び単球/マクロファージ等の免疫細胞において対象核酸を発現するためのものであり、また転写エンハンサーは、配列番号14に記載の配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0090】
ある実施形態においては、細胞はCD4+細胞(例えば、CD4+ T細胞)であり、また転写エンハンサーは、配列番号22、34、37、38、43、45及び47に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0091】
別の実施形態においては、細胞はCD8+細胞(例えば、CD8+ T細胞)であり、また転写エンハンサーは、配列番号33、35及び39~41に記載の配列のうちの1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む又は当該配列からなる。
【0092】
ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は、転写制御因子のための1又は複数の結合部位を含む。ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は、少なくとも2つの転写制御因子のための結合部位を含む。ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は、少なくとも3つの転写制御因子のための結合部位を含む。ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は、少なくとも4つの転写制御因子のための結合部位を含む。例えば、配列番号13に記載の配列は、転写因子RUNX3、GATA2、FOS及びJUNのための結合部位を含み、すなわちある実施形態においては、細胞特異的転写エンハンサーの配列は、これら結合部位のうちの1、2、3又は全てを含む。配列番号7~47に記載の配列のそれぞれにおける転写因子のための推定結合部位を表Vに示す。すなわち、ある実施形態においては、転写エンハンサー配列は表Vに示す転写因子のための結合部位のうちの1又は複数を含む。
【0093】
「最小プロモーター」の語は、プロモーターの最小要素だけ、すなわちTATAボックス(Goldberg-Hognessボックスとも呼ばれる)及び転写開始点を含むプロモーターを指し、そしてそれはプロモーター活性を増強する適切に配置された(通常、上流)1又は複数の制御因子(転写エンハンサー)が存在しない状態で遺伝子発現を誘導/駆動する際に不活性(又は活性が乏しい)である。当業者にとって公知である任意の最小プロモーター配列は、本開示の最小プロモーター配列に包含することを想定している。最小プロモーター配列はしばしば、ウイルスに由来するか又は切断型の真核生物プロモーターであり、すなわち最小プロモーターは、プロオピオメラノコルチン最小プロモーター(POMC)、アデノウイルス最小プロモーター、バキュロウイルス最小プロモーター、CMV最小プロモーター、パルボウイルス最小プロモーター、ヘルペスウイルス最小プロモーター、ポックスウイルス最小プロモーター、アデノ関連ウイルス最小プロモーター、セムリキ森林ウイルス最小プロモーター、SV40最小プロモーター、ワクシニアウイルス最小プロモーター、又はレトロウイルス最小プロモーターであり得る。最小プロモーターの例としては、ヒトシンプレックスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK又はminiTK)最小プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S最小プロモーター、ヒトサイトメガロウイルスCMV最小プロモーター(miniCMV)、CMV53(上流のGCボックスを付加したminCMV)、サルウイルス40最小プロモーター(minSV40)、MLP(アデノウイルス後期プロモーター(adenovirus major late promoter)の-38から+6の領域)、minP(TATAボックス及び転写開始点から構成される合成最小プロモーター、Promega社より)、pJB42CAT5(ヒトjunB遺伝子由来の最小プロモーター)、YB_TATA、及びスーパーコアプロモーター1(SCP1)最小プロモーターが挙げられる(以下の表Iを参照)。いくつかの最小プロモーター(「コアプロモーター」と呼ばれることもある)は、Ede et al.,ACS Synth Biol.2016 May 20;5(5):395-404に記載されている。
【0094】
【0095】
2つのヌクレオチド配列の間の配列同一性は、整列した配列においてそれぞれの位置を比較することによって決定され得る。ヌクレオチド配列間の同一性の度合いは、当該配列が共有している位置において一致するヌクレオチドの数の関数である。本明細書で用いる場合、配列間における所与の一致率は、最適に整列された配列での配列同一性の度合いを示す。同一性の比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith及びWatermanのthe local homology algorithm,1981,Adv.Appl.Math 2:482、Needleman及びWunschのthe homology alignment algorithm,1970,J.Mol.Biol.48:443、Pearson及びLipmanのthe search for similarity method,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444等の、種々のアルゴリズム及び配列アラインメント手段、ならびにこれらアルゴリズムのコンピュータを用いた実施(例えば、米国ウィスコンシン州マディソンのGenetics Computer Groupによる、Wisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ内のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA等)を用いて実行され得る。配列同一性はまた、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403-10に記載のBLASTアルゴリズム(公開されている初期設定を用いる)を用いて決定してもよい。BLAST解析を実行するためのソフトウェア/手段は、米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通して利用可能であり得る。例えばNeedle、Stretcher、Clustal Omega及びKalign等の他の配列アライメント手段が、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute)(EMBL-EBI)を通して利用可能である。
【0096】
「作用可能に配置する」、「作用可能に連結する」及び「作用可能に結合する」の語は、プロモーター(及び/又はエンハンサー)が、核酸配列に対して、その核酸の転写開始と発現とを制御するように正確な機能的な位置及び配向にあることを意味する。エンハンサーは、プロモーターの転写活性を増加させるために正確な機能的な位置及び配向にあるときに、プロモーター(例えば、最小プロモーター)に対して「作用可能に結合」している。
【0097】
「合成」の語は、発現カセットが、天然に存在しない人工の又は組換えのコンストラクトであること、すなわち、最小プロモーターと転写エンハンサーとの組合せが、細胞の天然のゲノム内に天然に存在しないことを意味する。ある実施形態においては、最小プロモーターは、転写エンハンサーがあることで異種性であり、すなわち最小プロモーターは、その天然環境において転写エンハンサーと通常結合しないものであり、例えばそれらは、細胞の天然のゲノム内において当該遺伝子の発現を制御しない。ある実施形態においては、最小プロモーター及び転写エンハンサーは、異なる細胞型又は異なる有機体(例えば、ウイルスに対して真核細胞)よりのものである。ある実施形態においては、最小プロモーター及び/又は転写エンハンサーは、対象核酸があることで異種性であり、すなわちそれらは、その天然環境において対象核酸と通常結合しない。ある実施形態においては、転写エンハンサーは、ヒト起源のものである。ある実施形態においては、最小プロモーターは、ウイルス起源のものである。
【0098】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、ポリアデニル化(poly(A))シグナルをさらに含む。poly(A)シグナルは、対象核酸の適切なポリアデニル化(転写)を生じる。poly(A)シグナルの性質は、本発明の実施の成功に極めて重要なものであると思われるものではなく、それゆえに任意のそのような配列を採用してもよい。代表的なpoly(A)シグナルの例としては、種々の標的細胞において良好に機能するのに都合がよい及び/又はそれがわかっている、SV40 poly(A)シグナル及び/又はウシ成長ホルモンpoly(A)シグナルが挙げられる。ある実施形態においては、合成発現カセットは、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)の転写後制御因子(Posttranscriptional Regulatory Element)(WPRE)をさらに含む。こうした因子は、通常、ウイルスベクターにより生じる遺伝子の発現を増加させるために用いられ、mRNA安定性とタンパク質収量を増加させることがわかっている(例えば、Lee,YB,et al.2005.Exp Physiol.90(1):33-7参照)。ある実施形態においては、WPREを、poly(A)シグナルと組み合わせて用いる。別の実施形態においては、WPREが、poly(A)シグナルに替わる。
【0099】
ある実施形態においては、合成発現カセットは、転写終結シグナルをさらに含む。「終結シグナル」又は「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。すなわち、ある実施形態においては、RNA転写の産生を終了する終結シグナルを想定している。
【0100】
ある実施形態においては、合成発現カセットは対象核酸をさらに含む。「対象核酸」又は「対象遺伝子」の語は、対象とする機能的なペプチド又はポリペプチド(タンパク質)(天然の又は修飾されたペプチド/たんぱく質)をコードする核酸を指すために用いる。ある実施形態においては、機能的なペプチド又はポリペプチドは、治療用のペプチド又はポリペプチドであり、すなわち疾患を治療又は予防する目的で対象に投与することが可能であるペプチド又はポリペプチドである。当業者に公知である対象とするペプチド又はポリペプチドをコードする任意の核酸を、合成発現カセットに包含することを想定している。対象とするペプチド又はポリペプチドには、酵素、シグナル伝達分子(例えば、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体、成長因子(例えば、サイトカイン)、走化性タンパク質(例えば、ケモカイン)、構造タンパク質(細胞骨格タンパク質)、転写制御因子、細胞接着タンパク質、その抗体又は抗原結合性フラグメント等があり得る。ペプチド又はポリペプチドは、天然に生じる、ペプチド又はポリペプチド、そのフラグメント又はバリアント、そのキメラバージョン等があり得る。
【0101】
ある実施形態においては、対象核酸は、例えばキメラ抗原受容体(CAR)等の組換え受容体をコードする。こうしたCARは、典型的には、一部の態様ではリンカー及び/又は膜貫通ドメインを介して、一次活性化シグナルを提供する例えばT細胞又はNK細胞活性化ドメイン等である細胞内活性化ドメイン部分に連結した所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する特異性を提供するリガンド結合性ドメイン(例えば、単鎖可変フラグメント(scFv)等である抗体又は抗体フラグメント)を含む。
【0102】
特定の実施形態においては、組換え受容体(例えば、CAR)は、例えば免疫細胞(例えばT細胞、NK細胞)における一次活性化シグナルを誘導することができる活性化細胞質(細胞内)ドメイン等である活性化細胞質シグナル伝達ドメイン(区別なく、細胞内シグナル伝達領域とも呼ぶ)、T細胞受容体(TCR)成分の細胞質シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3-ゼータ(CD3ζ)鎖の細胞質シグナル伝達ドメイン又はその機能的バリアントもしくはシグナル伝達部分)を含み、ならびに/又は免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)を含む、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0103】
一部の実施形態においては、組換え受容体(例えば、CAR)は、リガンド(例えば、抗原)抗原に特異的に結合する細胞外リガンド結合性ドメインをさらに含む。一部の実施形態においては、例えば抗原等であるリガンドは、細胞表面上で発現したタンパク質である。一部の実施形態においては、CARはTCR様CARであり、また抗原は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の文脈において細胞表面上で認識される、例えば細胞内タンパク質のペプチド抗原等である処理されたペプチド抗原である。
【0104】
例示的な組換え受容体は、CAR及び組換えTCRのみならずエンジニアリング及び細胞に受容体を導入するための方法を含めて、例えば国際特許出願の公開公報の番号、国際公開第2000/14257号、国際公開第2013/126726号、国際公開第2012/129514号、国際公開第2014/031687号、国際公開第2013/166321号、国際公開第2013/071154号、国際公開第2013/123061号、米国特許出願の公開公報の番号、US2002/131960号、US2013/287748号、US2013/0149337号、米国特許の番号:第6,451,995号、第7,446,190号、第8,252,592号、第8,339,645号、第8,398,282号、第7,446,179号、第6,410,319号、第7,070,995号、第7,265,209号、第7,354,762号、第7,446,191号、第8,324,353号、及び第8,479,118号、及び欧州特許出願番号EP2537416号に記載されたもの、ならびに/又は、Sadelain et al.,Cancer Discov.2013 April;3(4):388-398;Davila et al.(2013) PLoS ONE 8(4):e61338;Turtle et al.,Curr.Opin.Immunol,2012 October;24(5):633-39;Wu et al.,Cancer,2012 March 18(2):160-75に記載されたものが挙げられる。一部の実施形態においては、遺伝子的に操作された抗原受容体としては、米国特許第7,446,190号に記載のCAR、及び国際特許出願の公開公報である国際公開第2014/055668号に記載のものが挙げられる。
【0105】
一部の実施形態においては、組換え受容体(例えば、CAR)は、例えば1もしくは複数の抗原結合性フラグメント、ドメインもしくは部分、又は1もしくは複数の抗体可変ドメイン、及び/又は抗体分子等である、抗原(又はリガンド)に結合する(特異的に結合する)、当該組換え受容体の細胞外部分内の抗原結合性ドメイン又はリガンド結合性ドメインを含む。一部の実施形態においては、CARは、例えばモノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)に由来する単鎖抗体フラグメント(scFv)等である、抗体分子の抗原結合性部分を含む。本明細書の「抗体」の語は、広義の意味で用いられ、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含むものであり、フラグメント抗原結合性(Fab)フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、Fvフラグメント、組換えIgG(rlgG)フラグメント、抗原に特異的に結合することができる可変重鎖(VH)領域、単鎖可変フラグメント(scFv)を含む単鎖抗体フラグメント、ならびに単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)のフラグメント、を含むインタクトな抗体及び機能的(抗原結合性)抗体フラグメントを含む。当該語は、例えば細胞内抗体、ペプチボディ、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体等である免疫グロブリンの、ならびにヘテロコンジュゲート抗体(heteroconjugate antibody)、例えば二重特異性である多特異性の抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体及び四重特異性抗体、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFvの、遺伝子的に操作された及び/又は他の方法で修飾された形態を包含する。別段に記載しない限り、「抗体」の語は、その機能的な抗体フラグメントを包含するように理解されたい。当該語はまた、IgG及びそのサブクラスIgM、IgE、IgA及びIgDを含む任意のクラス又はサブクラスの抗体を含む、インタクトな又は全長の抗体を包含する。
【0106】
一部の実施形態においては、抗原結合性のタンパク質、抗体及びその抗原結合性フラグメントは、全長抗体の抗原を特異的に認識する。一部の実施形態においては、抗体の重鎖及び軽鎖は、全長であり得るか、又は抗原結合性部分(Fab、F(ab’)2、Fv又は単鎖Fvフラグメント(scFv))であり得る。他の実施形態においては、抗体の重鎖定常領域は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD及びIgEより選択され、特に例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4より選択され、より詳細にはIgG1(例えば、ヒトIgG1)である。別の実施形態においては、抗体の軽鎖定常領域は、例えばカッパ又はラムダから選択され、特にカッパである。
【0107】
「可変領域」又は「可変ドメイン」の語は、抗体が抗原に結合する際に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖(それぞれVH及びVL)の可変ドメインは、概して、同様の構造を有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つのCDRとを含む(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,6thed.,W.H.Freeman and Co.,page 91(2007)を参照)。VH又はVLの単一ドメインは、抗原結合特異性を与えるのに十分であり得る。さらに、特定の抗原を結合する抗体は、それぞれ相補的なVL又はVHのドメインのライブラリをスクリーニングするように抗原に結合する抗体から、VL又はVHのドメインを用いて単離することができる。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0108】
単一ドメイン抗体(sdAb)は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部又は軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部を含む抗体フラグメントである。特定の実施形態においては、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である。
【0109】
抗体フラグメントは、種々の技術によって作製することができ、インタクトな抗体のタンパク質消化のみならず組換え宿主細胞による産生が挙げられるがこれに限定されない。一部の実施形態においては、抗体は、例えばペプチドリンカーである合成リンカーにより連結した2以上の抗体領域もしくは抗体鎖を備えるもの等である、例えば天然に生じない、及び/又は天然に生じるインタクトな抗体の酵素消化によっては産生され得ない、配列を含むフラグメント等である組換えにより産生したフラグメントである。一部の実施形態においては、抗体フラグメントはscFvである。
【0110】
「ヒト化」抗体は、全て又は実質的に全てのCDRアミノ酸残基が非ヒトCDRに由来し、また全て又は実質的に全てのFRアミノ酸残基がヒトFRに由来するものである抗体である。ヒト化抗体は、随意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいていてもよい。非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持しつつ、典型的にはヒトに対する免疫原性が低下するようにヒト化を行った非ヒト抗体のバリアントを指す。一部の実施形態においては、ヒト化抗体内の一部のFR残基は、例えば抗体の特異性又は親和性を保持又は向上するように、非ヒト抗体(例えば、CDR残基がそれより生じる抗体)からの対応する残基で置換されている。
【0111】
一部の実施形態においては、CARは、細胞表面において発現した、例えばインタクトな抗原等である抗原を特異的に認識する、抗体又は抗原結合性フラグメント(例えば、scFv)を含む。
【0112】
一部の実施形態においては、CARは、MHC-ペプチド複合体として細胞表面上に存在する、例えば腫瘍関連抗原等である細胞内抗原を特異的に認識する、例えば抗体又は抗原結合性フラグメント(例えば、scFv)等であるTCR様抗体を含む。一部の実施形態においては、MHC-ペプチド複合体を認識する抗体又はその抗原結合性部分は、例えば抗原受容体等である組換え受容体の一部として細胞上で発現することが可能である。抗原受容体の中には、例えばキメラ抗原受容体(CAR)等の機能的な非TCR抗原受容体がある。概して、ペプチド-MHC複合体に対して向けられるTCR様特異性を呈する抗体又は抗原結合性フラグメントを含むCARは、TCR様CARとも呼ばれ得る。
【0113】
一部の実施形態においては、組換え受容体は、組換えT細胞受容体(TCR)及び/又は天然に生じるT細胞からクローン化されたTCRを含む。一部の実施形態においては、T細胞受容体(TCR)は、当該分子が、MHC受容体に結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができるように、可変のα鎖及びβ鎖(それぞれTCRα及びTCRβとしても知られる)もしくは可変のγ鎖及びδ鎖(それぞれTCRγ及びTCRδとしても知られる)、又はその機能的フラグメントを含む。一部の実施形態においては、TCRはαβ形態にある。典型的には、αβ形態及びγδ形態に存在するTCRは、概して構造的に類似しているが、それらを発現するT細胞は、特徴的な解剖学的な位置又は機能を有し得る。TCRは、細胞表面上に又は可溶型で存在し得る。概して、TCRは、T細胞(又はTリンパ球)の表面上に存在するものであり、そこで概してMHC分子に結合する抗原を認識するのに関与する。一部の実施形態においては、TCRはまた、定常ドメイン、膜貫通ドメイン、及び/又は短い細胞質側末端を備えることができる(例えば、Janeway et al.,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,3rded.,Current Biology Publications,p.4:33,1997を参照)。例えば、一部の実施形態においては、TCRの各鎖は、1つのN-末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、及びC末端における短い細胞質側末端を保持することができる。一部の実施形態においては、TCRは、シグナル伝達を介在することに関与するCD3複合体のインバリアントタンパク質と結合する。
【0114】
一部の実施形態においては、標的抗原(例えば、がん/腫瘍の抗原)のためのTCRを特定して、細胞内に導入する。一部の実施形態においては、TCRをコードする核酸は、例えば公的に入手可能なTCRのDNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅等によって、種々の出所より得ることが可能である。一部の実施形態においては、TCRは、例えば細胞からであって、例えばT細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマ又は公に入手可能な他の出所等からである、生物学的起源から得られる。一部の実施形態において、T細胞は、インビボで単離した細胞から得ることが可能である。一部の実施形態において、高親和性のT細胞クローンは、患者から及び単離したTCRから単離することが可能である。一部の実施形態においては、T細胞は、培養したT細胞ハイブリドーマ又はクローンであり得る。一部の実施形態においては、標的抗原のためのTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系、又はHLA)を用いて改変した導入遺伝子マウスにおいて生成された。例えば腫瘍抗原を参照されたい(例えば、Parkhurst et al.(2009) Clin Cancer Res.15:169-180及びCohen et al.(2005) J Immunol.175:5799-5808を参照されたい)。一部の実施形態においては、ファージディスプレイを用いて、ある標的抗原に対するTCRを単離する(例えば、Varela-Rohena et al.(2008) Nat Med.14:1390-1395及びLi(2005) Nat BioTechnol.23:349-354を参照されたい。一部の実施形態においては、TCR又はその抗原結合性部分は、対象TCRの配列の知識から合成により生成することができる。
【0115】
一部の実施形態においては、組換え受容体(例えば、抗体又はその抗原結合性フラグメント等であるCAR)は、スペーサーであって、例えばIgG4ヒンジ領域等であるヒンジ領域ならびに/又はCH1/CL及び/もしくはFc領域等である、免疫グロブリンの定常領域又はそのバリアントもしくは修飾されたバージョンの少なくとも一部であり得る又は当該少なくとも一部を含み得るスペーサーをさらに含む。一部の実施形態においては、定常領域又は部分は、例えばIgG4又はIgG1等であるヒトIgGのものである。一部の態様においては、定常領域の部分は、例えばscFvである抗原認識成分と膜貫通ドメインとの間のスペーサー領域として機能する。このスペーサーは、スペーサーがない状態と比較して、抗原結合の後で細胞の応答性を増加させる長さのものであり得る。例示的なスペーサーとしては、少なくとも約10から220アミノ酸、約10から200アミノ酸、約10から175アミノ酸、約10から150アミノ酸、約10から125アミノ酸、約10から100アミノ酸、約10から75アミノ酸、約10から50アミノ酸、約10から40アミノ酸、約10から30アミノ酸、約10から20アミノ酸、又は約10から15アミノ酸を有するものが挙げられ、また列記した範囲のいずれの両終点の間にあるあらゆる整数が含まれる。例示的なスペーサーとしては、IgG4ヒンジ単独、CH2及びCH3ドメインに連結したIgG4ヒンジ、又はCH3ドメインに連結したIgG4ヒンジが挙げられる。例示的なスペーサーとしては、Hudecek et al.(2013) Clin.Cancer Res.,19:3153、又はPCT特許出願公開番号、国際公開第2014/031687号に記載のものが挙げられるが、これに限定されない。
【0116】
抗原/リガンド認識ドメインは、概して、CARの場合には例えばTCRもしくはNK受容体複合体等である抗原受容体複合体を介した活性化を、及び/又は別の細胞表面受容体を介したシグナルを、模倣する例えばシグナル伝達成分等である1又は複数の細胞内シグナル伝達成分に連結する。すなわち、一部の実施形態においては、抗原結合性成分(例えば、抗体)は、1又は複数の膜貫通及び細胞内のシグナル伝達ドメインに連結する。一部の実施形態においては、膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと融合する。一部の実施形態においては、例えばCARである受容体におけるドメインのうちの1つと天然に結合する膜貫通ドメインを用いる。一部の例においては、膜貫通ドメインは、当該ドメインの、同一の又は異なる細胞表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへの結合を防止して受容体複合体の他の構成部分との相互作用を最小化するように、アミノ酸置換によって選択又は改変される。
【0117】
一部の実施形態における膜貫通ドメインは、天然の又は合成による起源のいずれかに由来する。当該起源が天然である場合、一部の態様におけるドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、TCR、CD28、CD3 イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154のアルファ、ベータ、又はゼータ鎖に由来するもの(すなわち、これらのうち少なくとも膜貫通領域を含む)を含む。あるいは、一部の実施形態における膜貫通ドメインは、合成による。一部の態様においては、合成膜貫通ドメインは、例えばロイシン及びバリン等である主として疎水性の残基を含む。一部の態様においては、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に存在することとなる。
【0118】
細胞内シグナル伝達ドメインの中には、天然抗原受容体を介したシグナルを、共刺激受容体と組み合わせた当該受容体を介したシグナルを、及び/又は共刺激受容体単独を介したシグナルを、模倣する又はそれに近似するものがある。一部の実施形態においては、例えば長さが2から10アミノ酸のリンカーである短いオリゴリンカー又はポリペプチドリンカーであって、例えばグリシン-セリンのダブレットであるグリシン及びセリンを含むもの等である当該リンカーが存在して、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間の結合を形成する。
【0119】
例えばCARである受容体は、概して、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達成分を含む。一部の実施形態においては、受容体は、T-細胞の活性化及び細胞傷害性を介在するTCR CD3鎖等、例えばCD3 ζ鎖である、TCR複合体の細胞内成分を含む。すなわち、一部の態様においては、CARは、1又は複数の細胞シグナル伝達モジュールに連結する。一部の実施形態においては、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、及び/又は他のCD膜貫通ドメインを含む。一部の実施形態においては、例えばCARである受容体は、例えばFc受容体γ、CD8、CD4、CD25又はCD16等である1又は複数のさらなる分子の部分をさらに含む。一部の態様においては、CARは、TCR複合体の一次活性化を制御する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。刺激により作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ又はITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含み得る。一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、TCR又はCD3 ζ、FcRガンマ又はFcRベータに由来するものが挙げられる。一部の実施形態においては、CARにおける細胞質シグナル伝達分子は、細胞質シグナル伝達ドメイン、その部分、又はCD3 ζに由来する配列を含む。一部の実施形態においては、完全な活性化を促すために、例えばCD28、4-1BB、OX40、DAP10及びICOS等の共刺激受容体のシグナル伝達ドメイン等である二次的な又は共刺激的なシグナルを生成するための成分もまた、CAR内に含まれる。一部の態様においては、追加的なCARは、同一の細胞内において発現されて、二次的な又は共刺激的なシグナルを生成するための成分を提供する。一部の場合においては、CARは、第1代、第2代及び/又は第3代のCARと呼ぶ。一部の態様においては、第1代のCARは、抗原が結合すると抗原受容体(例えば、CD3鎖)により誘導されるシグナルを単独で提供するものである;一部の態様においては、第2代のCARは、当該シグナル及び共刺激シグナルを提供するものであり、例えばCD28又はCD137等である共刺激受容体よりの細胞内シグナル伝達ドメインを含むもの等である;一部の態様においては、一部の態様における第3代のCARが、異なる共刺激受容体の複数の共刺激ドメインを含むものである。
【0120】
一部の実施形態においては、CARもしくは他の抗原受容体は、マーカーをさらに含み得、又は当該細胞は、例えば切断型の細胞表面受容体等であって例えば切断型のEGFR(tEGFR)等である受容体を発現する細胞の形質導入もしくはエンジニアリングを確認するために用い得る、例えば代替マーカー等のマーカーをさらに発現し得る。一部の態様においては、マーカーは、CD34の全てもしくは部分(例えば、切断型)、NGFR、又は上皮成長因子受容体(例えば、tEGFR)を含む。一部の実施形態においては、上記マーカーをコードする核酸は、例えばT2Aである切断可能なリンカー配列等であるリンカー配列をコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結する。国際公開第2014/031687号を参照されたい。一部の実施形態においては、T2Aリボソームスイッチで分離されるCAR及びEGFRtをコードするコンストラクトの導入により、当該同一のコンストラクトからの2つのタンパク質を発現することができるため、EGFRtを、当該コンストラクトを発現する細胞を検出するマーカーとして用いることが可能である。一部の実施形態においては、マーカー及び随意にリンカー配列は、公開された特許出願である国際公開第2014/031687号に開示されるいずれかとすることが可能である。例えば、マーカーは、例えばT2A切断可能リンカー配列等であるリンカー配列に連結していてもよい、切断型EGFR(tEGFR)とすることが可能である。
【0121】
キメラ受容体によって標的にされ得る抗原の中には、養子細胞療法を介して標的とされる疾患、症状又は細胞型の文脈において発現されるものがある。疾患及び症状の中には、がん及び腫瘍を含む、増殖性の、腫瘍性の及び悪性の疾患及び障害があり、該がん及び腫瘍には、血液がん、例えばリンパ腫、白血病、及び/又は骨髄腫(例えば、B細胞、T細胞及び骨髄性白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫)等である免疫系のがんが挙げられる。
【0122】
一部の実施形態においては、抗原(又はリガンド)はポリペプチドである。一部の実施形態においては、炭水化物又は他の分子である。一部の実施形態においては、抗原(又はリガンド)は、正常な又は非標的の細胞又は組織と比較して、例えば腫瘍/がん又は病原性の細胞である疾患又は障害の細胞上で、選択的に発現又は過剰発現される。その他の実施形態においては、抗原は、正常な細胞上で発現し、及び/又は改変された細胞上で発現する。
【0123】
一部の実施形態においては、抗原(又はリガンド)は、腫瘍抗原又はがんマーカーである。ある実施形態においては、抗原は、インテグリン(例えば、αvβ6インテグリン、αvβ3インテグリン、インテグリンβ7)、B細胞成熟抗原(BCMA)、B7-H6、炭酸脱水酵素9(CA9、CAIX又はG250としても知られる)、がん-精巣抗原、がん/精巣抗原IB(CTAG、NY-ESO-1及びLAGE-2としても知られる)、がん胎児抗原(CEA)、サイクリン、サイクリンA2、C-Cモチーフケモカインリガンド1(CCL-1)、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD123、CD138、CD171、上皮細胞成長因子タンパク質(EGFR)、切断型上皮細胞成長因子タンパク質(tEGFR)、III型上皮細胞成長因子受容体変異(EGFR vIII)、上皮糖タンパク質2(EPG-2)、上皮糖タンパク質40(EPG-40)、エフリンB2、エフリン受容体A2(EPHa2)、エストロゲン受容体、Fc受容体様5(FCRL5;Fc受容体ホモログ5又はFCRH5としても知られる)、胎児アセチルコリン受容体(胎児AchR)、葉酸塩結合たんぱく質(FBP)、葉酸塩受容体アルファ、胎児アセチルコリン受容体、ガングリオシドGD2、O-アセチル化GD2(OGD2)、ガングリオシドGD3、糖タンパク質100(gp100)、Her2/neu(受容体チロシンキナーゼerbB2)、Her3(erb-B3)、Her4(erb-B4)、erbBダイマー、ヒト高分子量メラノーマ関連抗原(HMW-MAA)、B型肝炎表面抗原、ヒト白血球抗原A1(HLA-A1)、ヒト白血球抗原A2(HLA-A2)、IL-22受容体アルファ(IL-22Rα)、IL-13受容体アルファ2(IL-13Rα2)、キナーゼ挿入ドメイン受容体(kdr)、カッパ軽鎖、L1細胞接着分子(L1CAM)、L1-CAMのCE7エピトープ、ロイシンリッチ反復配列含有8ファミリーメンバーA(LRRC8A)、Lewis Y、メラノーマ関連抗原(MAGE)-A1、MAGE-A3、MAGE-A6、メソテリン(mesothelin)、c-Met、マウスサイトメガロウイルス(CMV)、ムチン1(MUC1)、MUC16、ナチュラルキラーグループ2メンバーD(NKG2D)リガンド、メランA(MART-1)、神経細胞接着分子(NCAM)、腫瘍胎児性抗原、メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、プロゲステロン受容体、前立腺特異的抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、サバイビン、トロホブラスト糖タンパク質(TPBG、5T4としても知られる)、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、ガレクチン(ガレクチン-1、ガレクチン-7)、病原体特異的抗原、又はユニバーサルタグに結合する、及び/もしくはビオチン化分子に結合する、及び/もしくはHIV、HCV、HBVもしくは例えば細菌及び寄生生物等の他の病原体により発現する分子に結合する抗原である。一部の実施形態における受容体により標的化される抗原は、例えばいくつかの公知のB細胞マーカーのいずれか等である、B細胞悪性腫瘍に結合する抗原を含む。一部の実施形態においては、受容体により標的化される抗原は、CD20、CD19、CD22、ROR1、CD45、CD21、CD5、CD33、Igカッパ、Igラムダ、CD79a、CD79b又はCD30である。ある実施形態においては、複数の抗原を標的とする複数の組換え受容体を用いる。さらなる実施形態においては、2つの抗原を標的とする2つの組換え受容体を用いる。
【0124】
ベクター/プラスミド
ある実施形態においては、合成発現カセットは、プラスミド又はベクター内に含まれる。すなわち、本開示はまた、本明細書に記載の合成発現カセットを含むベクター又はプラスミドに関する。「ベクター」の語は、核酸(例えば、本明細書において規定する合成発現カセット)を、そこで複製することが可能である細胞への導入のために挿入することができるキャリアを指すために用いられるものである。「発現ベクター」又は「核酸ベクター」の語は、転写可能な遺伝子産物、ならびに特定の宿主細胞において操作可能に連結したコード配列の転写及びおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す「調節」又は「制御」配列の少なくとも一部をコードする核酸又は「発現カセット」を含有するベクターを指す。発現ベクターは、転写及び翻訳を司る制御配列に加えて、同様に他の機能をもたらす核酸配列を含有し得る。
【0125】
ある実施形態においては、ベクターは、選択マーカー又はレポータータンパク質をコードする核酸をさらに含む。選択マーカー又はレポーターは、本明細書において、選択マーカー又はレポーターがない細胞から選択マーカーを含有する細胞を容易に同定、単離及び/又は選択することを許容する、発現したときに同定可能な特徴(例えば、検出可能なシグナル、選択剤に対する抵抗性)を細胞に対して与える、ポリペプチドをコードする核酸を指すために規定する。本開示のベクターにおける選択マーカーとして、当業者にとって公知の任意の選択マーカー又はレポーターを包含することを想定している。例えば、選択マーカーは、薬剤選択マーカー、酵素、又は免疫マーカーであり得る。選択マーカー又はレポーターの例としては、薬剤抵抗性(例えば、カナマイシン/ジェネテシン抵抗性)を与えるポリペプチド、例えばアルカリホスファターゼ及びチミジンキナーゼ等の酵素、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、discosoma由来のcitrine及び赤色蛍光タンパク質(dsRED)等の生物発光及び蛍光タンパク質、それに対して検出される高親和性の抗体又はリガンドが存在する又は従来の方法で産生することができる膜結合タンパク質、ならびにとりわけ赤血球凝集素(HA)又はMycよりの抗原タグドメインに適切に融合する膜結合タンパク質を含む融合タンパク質、が挙げられるがこれに限定されない。選択マーカー又はレポータータンパク質をコードする核酸は、対象核酸と同一のプロモーター/エンハンサーの制御下にあり得るか、又は異なるプロモーター/エンハンサーの制御下にあり得る。
【0126】
ある実施形態においては、ベクターは、1又は複数の起源の複製部位(しばしば「ori」と名づけられる)、制限エンドヌクレアーゼ認識部位(多重クローニング部位、MCS)、及び/又は配列内リボソーム進入部位(IRES)要素等の追加要素を含み得る。
【0127】
ある実施形態においては、ベクターは、ウイルスベクターである。本明細書で用いる場合、「ウイルスベクター」の語は、組換えウイルスであって、細胞を形質導入して、該細胞内にそれらの遺伝子材料を導入することができる組換えウイルスを指す。ある実施形態においては、ウイルスベクターは、遺伝子療法用途で用いるのに好適である。遺伝子療法で用いられ得るウイルスベクターの例としては、レトロウイルス(レンチウイルス)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス)、アルファウイルス、及びワクシニアウイルス(ポックスウイルス(Poxvirus))が挙げられる。ある実施形態においては、ベクターは、レンチウイルスベクターである。当業者には明らかになるように、「レンチウイルスベクター」の語は、核酸の伝達を介在するレンチウイルス粒子を指すために用いる。レンチウイルス粒子は、典型的には、様々なウイルス成分を含み、また核酸に加えて宿主細胞成分を含むこともある。特定の態様においては、「レンチウイルスベクター」、「レンチウイルス発現ベクター」の語は、レンチウイルス伝達プラスミド及び/又は感染性レンチウイルス粒子を指すために用いる。
【0128】
ある実施形態においては、レンチウイルスベクターは、偽型レンチウイルスベクターである。偽型レンチウイルスベクターは、他のエンベロープウイルスに由来するエンベロープタンパク質(糖タンパク質、GP)を保持するベクター粒子からなる。当該粒子は、エンベロープタンパク質の由来となるウイルスのトロピズムをもつ。偽型レンチウイルスベクターのために広く用いられる糖タンパク質のひとつは、水疱性口内炎ウイルスGP(VSV-G)であり、これは得られる偽型の非常に広いトロピズムと安定性に起因する。偽型レンチウイルスベクターは、当技術分野で周知であり、いくつかの例としては、例えば、Cronin et al.,Curr.Gene Ther.5(4):387-398に記載されている。当該ベクターには、リッサウイルスGP、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)GP、アルファウイルスGP(例えば、ロスリバーウイルス(RRV)、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルスGP)、フィロウイルスGP(例えば、マールブルグウイルス及びEbola ZaireウイルスGP)、ガンマレトロウイルスGP(例えば、エコトロピックMLV、両栄養性4070A MLV、10A1 MLV、異種栄養性NZB MLV、ミンク細胞フォーカス形成ウイルス、テナガザル白血病(GALV)ウイルス、RD1 14 GP)、水疱性口内炎ウイルスG型(VSV-G)、麻疹ウイルスレンチウイルスベクター(MV-LV)、ヒヒエンベロープ(BaEV)-LV及びバキュロウイルスGP(GP64)で偽型にしたレンチウイルスベクターが含まれる。
【0129】
ある実施形態においては、ベクターは、例えばセンダイウイルス又はベクター等である、エピソームに保持されたウイルスベクター又は非組み込みベクター(non-integrating vector)である。当該ベクターは、ゲノムに組み込まれていないが、ベクター内側の足場/マトリックス付着領域の存在に起因して細胞分裂によりエピソームに保持される(例えば、Giannakopoulos A et al.,J Mol Biol.2009 Apr 17;387(5):1239-49;及びHaase et al.,BMC BioTechnol.2010;10:20を参照)。
【0130】
別の実施形態においては、ベクターは、非ウイルスベクターであり、例えば、ヌードDNA、リポソーム、ポリメライザー(polymerizer)又は分子コンジュゲートである。
【0131】
細胞
別の態様においては、本開示は、本明細書に記載する合成発現カセット又はベクター/プラスミドを含む細胞(宿主細胞、改変された細胞)を提供する。ある実施形態においては、細胞は、一次細胞、例えば、脳/神経細胞、末梢血細胞(例えば、B又はTリンパ球、単球、NK細胞)、臍帯血細胞、骨髄細胞、心臓細胞、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、肝細胞、又は肺(lung/pulmonary)の細胞である。ある実施形態においては、細胞は、骨髄細胞、末梢血細胞、又は臍帯血細胞である。さらなる実施形態においては、細胞は、例えばT細胞(例えばCD8+ T細胞)、B細胞又はNK細胞等である免疫細胞である。
【0132】
ある実施形態においては、細胞は、幹細胞である。本明細書で用いる場合、「幹細胞」の語は、機能的な成熟細胞へと分化させることができるような多能性を有する細胞を指す。幹細胞には、未分化造血細胞、前駆細胞、及び、それ自身を再生し且つその細胞の由来となる特定の細胞型及び組織(例えば、筋肉幹細胞、皮膚幹細胞、脳又は神経幹細胞、間葉系幹細胞、肺幹細胞、肝臓幹細胞)を生じることが可能である人体内の種々の組織に存在する未分化細胞である成熟幹細胞が含まれる。
【0133】
ある実施形態においては、当該細胞は、未分化造血細胞である。本明細書で用いる場合、「未分化造血細胞」の語は、例えばT細胞、B細胞、NK細胞、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、血小板(例えば、巨核芽球、巨核球産生血小板、血小板)、及び単球(例えば、単球、マクロファージ)等である骨髄及びリンパ系統の機能的な成熟血液細胞へと分化させることができる多能性を有する細胞であって、それらの多能性を保持しつつ再生する能力(自己複製)がある場合もあり、ない場合もある、当該細胞を指すために用いられる。当該細胞は、「造血幹細胞」又は「HSC」を包含するが、これは例えば顆粒球、赤血球、血小板及び単球等である機能的な成熟細胞へと細胞を分化させることができる多能性と、それらの多能性を保持しつつ再生する能力(自己複製)との両方を有する細胞であるのみならず、自己複製能を有していない多能性造血性細胞である。また当該細胞は、胚性幹細胞(ESC)を包含するが、これは胚盤胞、早期の着床前胚、の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞である。ある実施形態においては、細胞集団はESCを含む。別の実施形態においては、細胞集団はHSCを含む。HSCは、造血性の起源の細胞を含有する、身体又は体内器官より得られ得る。当該起源には、未分画の骨髄(大腿、臀部、肋骨、胸骨及び他の骨よりの)、臍帯血、末梢血、肝臓、胸腺、リンパ、及び脾臓が含まれる。前述の未精製又は未分画の血液産物の全ては、当業者に公知の方法でHSCの特性を有する細胞について富化され得る。HSCは、それらのサイズが小さいこと、系列(lin)マーカーが欠如していること、例えばローダミン123(ローダミンDULL、rho0とも呼ばれる)又はHoechst 33342等の生体染色色素で低染色性であること(side population)、ならびにその多くが、例えばCD34、CD38、CD90、CD133、CD105、CD45及びc-キット等である分化系統のクラスターに属するものであるそれら表面上の種々の抗原マーカーが存在すること/不在であること、によって表現型的に同定される。
【0134】
ある実施形態においては、幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。iPSCの語は、細胞を「リプログラミング」する適切なファクターを用いて成熟細胞より直接生成することができる多能性幹細胞を指す。
【0135】
ある実施形態においては、細胞は哺乳類細胞、例えばヒト細胞である。
【0136】
本明細書に記載する合成発現カセット又はベクター/プラスミドは、細胞内に核酸を導入する標準技術、例えばトランスフェクション、形質導入、又は形質転換を用いて、細胞内に導入され得る。ある実施形態においては、ベクターはウイルスベクターであり、また細胞はベクターにより形質導入される。本明細書において用いる場合、「形質導入(transduction)」の語は、ウイルス粒子(例えば、レンチウイルス)から細胞ゲノム(例えば、造血細胞ゲノム)への遺伝物質の安定的な移行を指す。当該語はまた、ウイルスベクター中に存在する対象遺伝子の一過性発現又はエピソーム発現につながる、非組み込みウイルスベクターの細胞内への導入もまた包含する。
【0137】
ウイルスは、インビボ(in vivo)、エキソビボ(ex vivo)、又はインビトロ(in vitro)で、当技術分野で周知の技術を用いて、細胞を感染させるために用い得る。例えば、例えばCD34+細胞又は幹細胞である細胞を、エキソビボで形質導入する場合、ベクター粒子が、105個の細胞当たり1×105~100又は50×105形質導入単位のウイルスベクターにも相当する、概して1~100又は1~50の感染効率(MOI)のオーダーでの用量を用いて、当該細胞とインキュベートされ得る。もちろんこれには、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45及び50MOIに相当するベクター量が含まれる。
【0138】
形質導入前、形質導入中、及び/又は形質導入後に、細胞の維持、成長、又は増殖に好適な培地で、細胞を培養してもよい。細胞集団の培養条件は、様々な因子、特に開始細胞集団に依存して変動することとなる。好適な培養培地及び条件は、当技術分野で周知である。培養は、組成の観点で、天然培地、半合成培地又は合成培地で実行してよく、また形状の観点で、固形培地、半固形培地、又は液体培地であってもよく、また例えば幹細胞培養等である細胞培養に用いられる、1又は複数の成長因子を添加してもよい任意の栄養培地であってもよい。当該培地は、典型的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、ホルモン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖類等を含む。培養液においては、その場合に必要であれば、他の化学的成分又は生物学的成分を、単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。培地に組み込む当該成分は、ウシ胎仔血清、ヒト血清、ウマ血清、インスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、種々のビタミン、種々のアミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、種々のサイトカイン、種々の成長因子等であり得る。幹細胞を増殖する方法に適したこうした基本培地の例としては、StemSpan(商標) Serum-Free Expansion Medium(SFEM)(StemCell Technologies(登録商標)社、カナダ国バンクーバー)、StemSpan(商標) H3000-Defined Medium(StemCell Technologies(登録商標)社、カナダ国バンクーバー)、CellGro(商標)、SCGM(CellGenix(商標)社、ドイツ連邦共和国フライブルク)、StemPro(商標)-34 SFM(Invitrogen(登録商標)社)、Dulbecco改変イーグル培地(DMEM)、Ham’s Nutrient Mixture H12 Mixture F12、McCoy’s 5A培地、イーグル最小必須培地(EMEM)、MEM培地(アルファ改変イーグル最小必須培地)、RPMI 1640培地、Isocove改変Dulbecco培地(IMDM)、StemPro34(商標)(Invitrogen(登録商標)社)、X-VIVO(商標) 10(Cambrex(登録商標)社)、X-VIVO(商標) 15(Cambrex(登録商標)社)、及びStemline(商標) II(Sigma-Aldrich(登録商標)社)が挙げられるが、これに限定されない。
【0139】
形質導入後、形質導入された細胞を、それらの維持、成長及び/又は増殖に好適な条件下で培養することができる。特定の態様においては、形質導入された細胞は、移植前に約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14日間培養する。
【0140】
幹細胞を維持及び/又は増殖する培養条件は、当技術分野で周知である。典型的には、培養条件は、概して幹細胞増殖の技術分野で公知の、サイトカイン及び成長因子のような因子を使用することを含む。こうしたサイトカイン及び成長因子は、生物学的製剤又は小分子とすることが可能であり、またそれらには、IL-1、IL-3、IL-6、IL-11、G-CSF、GM-CSF、SCF、FIT3-L、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン、及びそのアナログが含まれるが、これに限定されない。本明細書で用いる場合、「アナログ」には、天然に生じる形態として生物活性を有するサイトカイン及び成長因子の任意の構造的バリアントが含まれ、天然に生じる形態と比較して生物学的活性が増強又は減少しているバリアント、又はTPO受容体に対するアゴニスト抗体等のサイトカイン受容体アゴニスト(例えば、国際公開第2007/145227号等に詳説されるVB22B sc(Fv)2)が挙げられるが、これに限定されない。サイトカイン及び成長因子の組み合わせは、最終分化した細胞の産生を制限しつつ、幹細胞を維持/増殖するように選択する。1つの特定の実施形態においては、1又は複数のサイトカイン及び成長因子は、SCF、Flt3-L及びTPOからなる群から選択される。
【0141】
B-細胞刺激因子2としても知られるヒトIL-6又はインターロイキン-6は、(Kishimoto,Ann.review of Immunol.23:1,2005)で記載されており、また市販されている。c-kitリガンドとしても知られるヒトSCFもしくは幹細胞ファクター、マスト細胞成長因子、又は造血幹細胞因子(Steel factor)は、(Smith,MA et al.,ACTA Haematologica,105(3):143,2001)で記載されており、また市販されている。FLとも呼ばれるFlt3-L又はFLT-3リガンドは、flt3-受容体に結合する因子である。それは記載されているものであり(Hannum C,Nature 368(6472):643-8)、また市販されている。巨核球(megakarayocyte)成長因子(MGDF)又はc-Mplリガンドとしても知られる、TPO又はトロンボポエチンは記載されているものであり(Kaushansky K(2006).N.Engl.J.Med.354(19):2034-45)、また市販されている。
【0142】
上記において言及した化学的成分及び生物学的成分は、当該成分を培地に添加することによってのみならず、培養に用いられる基材又は支持体の表面上に当該成分を固定することによって、明確に言えば、使用するある成分を、適切な溶媒中に溶解して、得られた溶液で基材又は支持体を被覆して、その後過剰な当該成分を洗い流すことによって、使用され得る。使用する当該成分は、この成分に結合する物質で予め被覆される基材又は支持体に添加してもよい。
【0143】
幹細胞は、例えばペトリ皿、フラスコ、プラスチック袋、Teflon(商標)バッグ等である、動物細胞培養に通常用いられる培養容器中で、随意に細胞外マトリックス又は細胞接着分子で予め被覆した後で、培養してもよい。当該被覆のための材料としては、I型~XIX型コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン1~12、窒素、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンウィルブランド因子、オステロポニン、フィブリノーゲン、種々のエラスチン、種々のプロテオグリカン、種々のカドヘリン、デスモコリン(desmocolin)、デスモグレイン、種々のインテグリン、E-セレクチン、P-セレクチン、L-セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル(登録商標)、ポリ-D-リシン、ポリ-L-リシン、キチン、キトサン、セファロース(登録商標)、アルギン酸ゲル、ヒドロゲル又はそのフラグメントがあり得る。こうした被覆材料は、人工的に修飾したアミノ酸配列を有する組換え材料であり得る。幹細胞は、培地組成、pH等を機械的に制御して高密度培養を得ることが可能であるバイオリアクターを用いて培養してもよい(Schwartz R M,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,88:6760,1991;Koller M R,Bone Marrow Transplant,21:653,1998;Koller,M R,Blood,82:378,1993;Astori G,Bone Marrow Transplant,35(1) 101,2005)。
【0144】
その後細胞集団を洗浄して、本発明の化合物もしくは組成物及び/又は細胞培養の任意の他の成分を除去して、そして短期間使用の培地に適切な細胞懸濁培地中で、又は例えば凍結保存に好適な培地であって例えば40%FCS及び10%DMSOを含むDMEMである長期間保存の培地中で、再懸濁させることができる。培養後の細胞のための凍結保存を調製する他の方法もまた、当業者は利用可能である。
【0145】
組成物
別の態様においては、本開示は、本明細書に記載する合成発現カセット、ベクター又は細胞を含む組成物を提供する。組成物は、例えば緩衝液、生理食塩水、防腐剤等の1又は複数の担体又は賦形剤を含んでもよい。ある実施形態においては、組成物は、少なくとも1の薬理学的に許容できる担体又は賦形剤を含む医薬組成物である。本明細書で用いる場合、「賦形剤」は、当技術分野におけるその通常の意味を有するものであり、活性成分(薬剤)そのものではない任意の成分である。賦形剤としては、例えば、結合剤、潤滑剤、希釈剤、充填剤、粘稠化剤、崩壊剤、可塑剤、剤皮、バリア層製剤、潤滑剤、安定化剤、遅延放出剤及び他の成分が挙げられる。本明細書で用いる場合、「薬理学的に許容できる賦形剤」は、活性成分の生物学的活性の有効性と干渉せず、また対象にとって毒性とならない、すなわち賦形剤の一種であるか及び/又は対象にとって毒性とならない量で使用する、任意の賦形剤を指す。賦形剤は当技術分野で周知である(例えば、Loyd V Allen,JrによるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,2012,22ndedition,Pharmaceutical Press;RoweらによるHandbook of Pharmaceutical Excipients,2012,7thedition,Pharmaceutical Pressを参照)。医薬組成物は、所望の純度である活性成分を1又は複数の随意の薬理学的に許容できる担体、賦形剤及び/又は安定剤と混合することによる、当技術分野で公知の標準的な方法を用いて調製され得る。賦形剤は、例えば静脈内、非経口、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、関節内、脊髄内、髄腔内、硬膜外、槽内、腹腔内、鼻腔内又は肺内(例えば、エアロゾル)の投与である、任意の経路による組成物の投与に対して選択され得る。ある実施形態においては、医薬組成物は、例えば溶液、懸濁液、又は乳剤として、局所注射、カテーテル投与、全身注射、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、又は非経口投与を含めた、注射用に製剤化される。
【0146】
一部の実施形態における医薬組成物は、一部の態様においては選択したpHに緩衝されてもよい、例えば等張水溶液、懸濁剤、乳剤、分散剤又は粘稠組成物である、滅菌液調製物として提供される。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘稠組成物及び固体組成物よりも、調製しやすい。さらに、液体組成物は、特に注射により投与するのにいくらか好都合である。その一方で、粘稠組成物は、特定の組織とのより長い接触期間をもたらすように、適切な粘度範囲内で調製され得る。液体組成物又は粘稠組成物は、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)及びその好適な混合物を含む、溶媒又は分散媒であり得る担体を含み得る。
【0147】
滅菌注射剤は、溶媒中に、例えば滅菌の水、生理食塩水、グルコース、ブドウ糖等である好適な担体、希釈剤又は賦形剤との混合物中に、細胞を組み込むことによって調製され得る。組成物はまた、凍結乾燥することができる。組成物は、所望の投与経路及び調製に応じて、例えば湿潤剤、分散剤又は乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化剤、又は粘度増強添加剤、防腐剤、香味剤、色素等の補助剤を含むことが可能である。一部の態様においては、標準的なテキストに従って、好適な調製物を調製してもよい。
【0148】
抗菌性保存剤、抗酸化剤、キレート化剤、及び緩衝剤を含めて、組成物の安定性及び無菌性を増強する種々の添加剤を添加することが可能である。例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の、種々の抗菌剤及び抗真菌剤によって、微生物の作用の防止を確実にすることができる。注射可能な医薬品形態の持効性吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンである、吸収を遅らせる薬剤の使用によってもたらすことができる。
【0149】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透明マトリックスが挙げられ、当該マトリックスは、例えばフィルム又はマイクロカプセルである造形品の形態である。
【0150】
インビボ投与に用いようとする製剤は、概して無菌である。例えば滅菌ろ過膜を通したろ過によって、無菌性を容易に達成することができる。
【0151】
方法/使用
本開示はまた、細胞によって対象遺伝子の発現を誘導する方法に関し、当該方法は、上記細胞に本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを導入することを含む。本開示はまた、細胞によって対象遺伝子の発現を誘導するために、本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを使用することに関する。ある実施形態においては、細胞は、一次細胞、例えば、脳/神経細胞、末梢血細胞(例えば、B又はTリンパ球、単球、NK細胞)、臍帯血細胞、骨髄細胞、心臓細胞、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、肝細胞、又は肺(lung/pulmonary)の細胞である。ある実施形態においては、細胞は、骨髄細胞、末梢血細胞、又は臍帯血細胞である。さらなる実施形態においては、細胞は、例えばT細胞(例えばCD8+ T細胞)、B細胞又はNK細胞等である免疫細胞である。
【0152】
ある実施形態においては、対象遺伝子は、細胞内で欠損した又は欠如したタンパク質をコードする。ある実施形態においては、対象遺伝子は、例えばキメラ抗原受容体(CAR)等の組換え受容体をコードする。ある実施形態においては、対象遺伝子は、分化ファクター(細胞のリプログラミングのための)をコードする。
【0153】
本開示はまた、対象において疾患、症状又は障害を治療する方法に関し、当該方法は、本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを含む細胞を投与することを含む。本開示はまた、対象において疾患、症状又は障害を治療する方法で、本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを含む細胞を使用することに関する。本開示はまた、対象において疾患、症状又は障害を治療するための医薬の製造方法で、本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを含む細胞を使用することに関する。ある実施形態においては、疾患、症状又は障害は、タンパク質の発現の不在又は欠損(例えば、変異した)タンパク質の発現と関連し、また合成発現カセット又はベクターが、機能的な(例えば、天然の)タンパク質をコードする核酸を含む(例えば、遺伝子療法)。
【0154】
タンパク質の発現の不在又は欠損(例えば、変異した)タンパク質の発現と関連した疾患/障害(例えば、遺伝性疾患/障害)の例としては、例えばウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)(Aiuti et al.,Science 341(6148))、異染性白質ジストロフィー(MLD)(Biffi et al.,Science 341(6148))、白血球付着欠乏症(Leukocyte adherence deficiency)、X-linked CGD、ファンコニー貧血、副腎白質ジストロフィー、ムコ多糖症IIIA型等のある血液病及びリソソーム蓄積症、ならびに例えば重症複合免疫不全症(SCID)及びアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠乏症等の免疫不全症が挙げられる。
【0155】
治療対象の疾患又は症状は、抗原の発現が、疾患の症状又は障害の病因と関連及び/又は関与する、例えば当該疾患、症状又は障害を引き起こす、悪化させる又はその他の方法で関与するもののいずれかであり得る。例示的な疾患及び症状としては、細胞の悪性腫瘍もしくは形質転換(例えば、がん)、自己免疫もしくは炎症性の疾患(例えば、関節炎、関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、及び/又は移植に関連する疾患もしくは症状)、又は例えば細菌、ウイルスもしくは他の病原菌が引き起こす感染症と関連する疾患もしくは症状が挙げられ得る。特定の実施形態においては、例えばCARである組換え受容体が、当該疾患又は症状と関連する抗原に特異的に結合する。ある実施形態においては、疾患、症状又は障害は、がん又は感染症であり、また合成発現カセット又はベクター内に存在する対象とする核は、腫瘍細胞又は感染細胞により発現した抗原を認識する、例えばキメラ抗原受容体(CAR)等である組換え受容体をコードする。腫瘍は、固形腫瘍又は血液学的な腫瘍(血腫)であり得る。ある実施形態においては、がんは、例えばリンパ腫、白血病、及び/又は骨髄腫(例えば、B-細胞、T-細胞及び骨髄性白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫)等である血液がんである。感染症は、ウイルス性、細菌性、寄生虫性(例えば、原生動物性)、又は真菌性の感染症等の任意の病原性感染が引き起こす疾患であり得、例えばヒト免疫不全症ウイルス(HIV)又はサイトメガロウイルス(CMV)感染症である。
【0156】
細胞(本明細書に記載の合成発現カセット又はベクターを含む改変された細胞)又はそれを含む組成物は、例えば養子T細胞療法又は幹細胞療法等である養子細胞療法を介して、治療しようする特定の疾患又は症状を有する対象又は患者に対して投与され得る。養子細胞療法のために改変された細胞を投与する方法は公知であり、また当該方法は、提供の方法及び組成物とともに用いてもよい。例えば、養子T細胞療法は、例えばGruenbergらの米国特許出願公開公報第2003/0170238号;Rosenbergの米国特許第4,690,915号;Rosenberg(2011) Nat Rev Clin Oncol.8(10):577-85)に記載されている。例えば、Themeli et al.(2013) Nat BioTechnol.31(10):928-933;Tsukahara et al.(2013) Biochem Biophys Res Commun 438(1):84-9;Davila et al.(2013) PLoS ONE 8(4):e61338を参照されたい。
【0157】
本明細書において用いる場合、「治療」(及び「治療する」又は「治療すること」等のその文法的なバリエーション)は、疾患もしくは状態もしくは障害、又は症状、有害な影響もしくは結果、又はそれに関連する表現型が、完全に又は部分的に回復もしくは軽減することを指す。治療の望ましい効果としては、疾患の発症又は再発の予防、症状の緩和、疾患のあらゆる直接又は間接的な病理上の結果の縮小、転移の予防、病状悪化の速度の低下、病状の回復又は緩和、及び寛解又は改善された予後が挙げられるがこれに限定されない。当該語は、疾患の完全な治癒、又はあらゆる症状の完全な除去、又は全ての症状もしくは結果に対する効果を示唆するものではない。
【0158】
一部の実施形態においては、細胞療法、例えば養子T細胞療法又は幹細胞療法は、自家移植によって実行され、ここで当該細胞は、細胞療法を受けるための対象から又は当該対象由来の試料から単離される及び/又は他の方法で調製される。すなわち、一部の態様においては、細胞は、治療の必要がある、例えば患者である対象に由来するものであり、当該細胞は、単離及び処理した後にその同じ対象に投与する。
【0159】
一部の実施形態においては、細胞療法、例えば養子T細胞療法又は幹細胞療法は、同種移植によって実行され、ここで当該細胞は、例えば第1の対象である細胞療法を受けるための対象又は最終的に細胞療法を受ける対象、以外の対象から単離される及び/又は他の方法で調製される。当該実施形態においては、細胞はその後、同じ種の、例えば第2の対象である異なる対象に投与する。一部の実施形態においては、第1の対象及び第2の対象は、遺伝子的に同じである。一部の実施形態においては、第1の対象及び第2の対象は、遺伝子的に類似である。一部の実施形態においては、第2の対象は、第1の対象と同一のHLAクラス又は上位タイプを発現する。細胞は、任意の好適な手段によって投与することができる。投薬すること及び投与は、投与が短期間であるか長期間であるか否かに一部依存し得る。種々の投薬スケジュールは、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与及びパルス注入を含むが、これに限定されない。
【0160】
ある実施形態においては、細胞又は細胞のサブタイプの個々の集団は、約100万から約1000億個の細胞の範囲で及び/又は体重1キログラム当たりの細胞の量で、例えば100万から約50億個の細胞(例えば、約500万個の細胞、約2500万個の細胞、約5億個の細胞、約10億個の細胞、約50億個の細胞、約200億個の細胞、約300億個の細胞、約400億個の細胞、又は先述の値のうちのいずれか2つで規定される範囲で)、例えば約1000万個から約1000億個の細胞(例えば、約2000万個の細胞、約3000万個の細胞、約4000万個の細胞、約6000万個の細胞、約7000万個の細胞、約8000万個の細胞、約9000万個の細胞、約100億個の細胞、約250億個の細胞、約500億個の細胞、約750億個の細胞、約900億個の細胞、又は先述の値のうちのいずれか2つで規定される範囲)等で、また一部の場合においては、約1億個の細胞から約500億個の細胞(例えば、約1億2000万個の細胞、約2億5000万個の細胞、約3億5000万個の細胞、約4億5000万個の細胞、約6億5000万個の細胞、約8億個の細胞、約9億個の細胞、約30億個の細胞、約300億個の細胞、約450億個の細胞)、又はこれらの範囲の間にある任意の値で及び/又は体重1キログラム当たりで、対象に投与される。投与量は、特徴、特に疾患もしくは障害及び/又は患者及び/又は他の治療に依存して変動し得る。
【0161】
一部の実施形態においては、例えば、対象がヒトである場合、組換え受容体(例えば、CAR)を発現する細胞、幹細胞、T細胞、又は末梢血単核細胞(PBMC)の用量は、少なくとも1×102、1×103、1×104又は1×105個の細胞、例えば約1×106から1×108個の範囲の当該細胞、例えば2×106、5×106、1×107、5×107又は1×108個又は合計の当該細胞等であるか、又は先述の値のいずれか2つの間の範囲である。
【0162】
一部の実施形態においては、細胞は、例えば、抗体、又は改変された細胞、又は受容体、又は例えば細胞傷害性薬物もしくは治療薬等の薬剤等の、別の治療的介入と同時に又は任意の順序で当該別の治療的介入と連続的に、併用療法の一部として投与される。一部の実施形態においては、細胞は、同時に又は任意の順序で連続的のいずれかで、1もしくは複数の追加的な治療薬と同時投与されるか又は別の治療的介入と共に同時に施与される。一部の文脈においては、細胞は、細胞集団が、1もしくは複数の追加的な治療薬の効果を増強する又はその逆であるように、時間的に十分に近づけて別の療法と同時に施与する。一部の実施形態においては、細胞は、1又は複数の追加的な治療薬の前に投与する。一部の実施形態においては、細胞は、1又は複数の追加的な治療薬の後に投与する。一部の実施形態においては、1又は複数の追加的な薬剤は、例えば持続性を増強するために、IL-2等であるサイトカインを含む。一部の実施形態においては、当該方法は、化学療法剤の投与を含む。
【0163】
当該細胞は、治療しようとする疾患に応じて、例えば他の化学療法、免疫療法、放射線療法、又は手術等の他の療法と組み合わせて用いてもよい。
【0164】
一部の実施形態においては、合成発現カセットは、調査手段として、例えばレポーター手段として、又は市販の検出方法において、用いる(アッセイ開発)。例えば、合成発現カセットは、レポータータンパク質をコードする核酸に操作可能に連結していてもよく、例えば対象遺伝子が特定の細胞型の細胞によって取り込まれて発現されたことを確認するために、特定の細胞型において該対象遺伝子の発現を検出するために用いられ得る。「レポータータンパク質」の語は、例えば蛍光及び発光タンパク質(例えば、GFP、YFP)等である容易に特定及び測定され得るタンパク質のみならず、基材(例えば、ルシフェラーゼ)から検出可能な産物を生成することができる酵素を指す。合成発現カセットはまた、例えば標的細胞での対象遺伝子の発現の効果を評価するために、インビトロで対象遺伝子の細胞特異的発現に用いられ得る。
【0165】
発明を実施するための形態
本発明について、以下の非限定的な実施例によってさらに詳細に説明する。
【0166】
実施例1:材料及び方法
実験計画
合成による特異的プロモーター(エンハンサー+最小CMVプロモーター)を生成するための実験戦略を、はじめにコンピュータ内(in silico)で特異的エンハンサー配列を選択すること、PCRで配列を増幅すること、及びその後最小プロモーター、すなわちCMV最小プロモーター(minCMV)の上流に内在性エンハンサー配列をクローニングすること、とした5。発現パターンアッセイを通して当該合成プロモーター(エンハンサー+minCMV)の特異性を確認するために、該合成プロモーターをGFPレポーター遺伝子の上流にクローニングした。機能的使用の概念実証として、上記合成プロモーターを、キメラ抗原受容体(CAR)の上流にクローニングした。
【0167】
特異的プロモーター配列の設計
特定の細胞型に特異的であり、かつ転写開始部位の上流に位置する、エンハンサー配列をコンピュータ内(in silico)で選択した。そのために、コンピュータ内(in silico)での選択方法は、“Functional ANnotation Of The Mammalian genome”FANTOM5データベース(RIKENにより作製)3、4に基づいた。このFANTOM5データベースは、人体の全域にわたる全ての細胞型において実際上活性である遺伝子の組、及び遺伝子が読み取られる場所を決定するゲノム領域であるものを、系統的に、正確に調査してきた。したがって、このデータベースは、様々なサブタイプの活性エンハンサー配列を大量に含んでいる。このデータを参照して、エンハンサーを選択するために、ヒトエンハンサーのためのPrESSTo(Promoter Enhancer Slider Selector Tool)を用いた(http://enhancer.binf.ku.dk/enhancers.php)。PrESSToは、スライダーに基づいて、多数の細胞又は組織のうちの1つにおいて発現したエンハンサーの選択を可能にする。
【0168】
特異的なエンハンサー配列を選択する第1のステップは、FANTOM5データベースでレポートされたCap Analysis of Gene Expression(CAGE)スコアに基づいた。対象細胞型(T細胞又はNK細胞)の百分率を選択し、すなわちT細胞は60%、NK細胞は30%とした。細胞型ごとの百分率の数は、全細胞からのCAGEタグの計数に対して相対的な、所与の細胞集団におけるCAGEタグの割合を指す。百分率の数は、以下の「最低下限(lowest bound)」の値、すなわち当該細胞型に関する設定値以上の発現率を有するエンハンサーのみを戻した。百分率は、結果ボックス内のヒット数に従って選択した。平均で、当該百分率は、20ヒット未満であるように設定した。
【0169】
次いで以下の基準に基づいて、同定されたエンハンサー配列候補を選択した:
・対象細胞集団(例えば、T細胞又はNK細胞)を表す、試料中のハイスコア(0.15tag/millionを超える)
・全ての他の集団に関してのロースコア(0.15tag/million未満)
・PreSSToで規定されるような、所与の集団においてのみ有意に高頻度である
【0170】
選択されたエンハンサー配列候補を、その後、UCSCゲノムブラウザーツールを通して利用可能である、ChIP-Seqデータに基づいて確認した(Kent WJ,et al.The human genome browser at UCSC.Genome Res.2002 Jun;12(6):996-1006 - PrESSToツールの中の「View in UCSC」タブ経由で又はhttps://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGatewayにおける、選択された配列に対して特に利用可能なリンク)。対象系統に関連する(例えば、造血系におけるPOU2F2、T細胞に関するGATA3)、又は活性領域の示唆である(例えば、POLR2A)、転写因子固定部位の存在を解析した。選択されたエンハンサーの近傍(2000~3000bpの範囲内)にこうした部位が存在することは、転写的に活性である領域の示唆であると考えられた7。
【0171】
さらなるバイオインフォマティック解析を用いて、残りの候補制御領域に対して、以下の細胞特異的エピジェネティック特性(ENCODEデータベース)を用いてよりストリンジェントな選択基準を課した:(1)クロマチンアクセシビリティ(すなわち、DNase-seq、FAIRE-seq)及び(2)非活性のエンハンサー領域からの分化活性のヒストン修飾(H3K27acに関するChiP-Seq)。説明の目的のために、B細胞特異的なエンハンサー候補を選択するために以下の戦略を用いた。B-細胞特異的制御領域(すなわち、他においてはそうではなく、B細胞のゲノム領域において特異的であるCAGEシグナル)を選択するPrESSToツールを用いた後で、それら候補制御領域のゲノムの座標(coordinate)を、Galaxyバイオインフォマティックウェブポータル(https://usegalaxy.org/、Enis Afgan et al.,Nucleic Acids Research,Volume 46,Issue W1,2 July 2018,Pages W537-W544)に送信した。B細胞、T細胞、CD4細胞、CD8細胞、NK細胞、単球及び/又は好中球及び/又はCD34+細胞である、対象とするヒト細胞型に関して、クロマチンアクセシビリティ(FAIRE-Seq又は/及びDNase-Seq)及びH3K27ac修飾(ChIP-Seq)のために、ENCODEから得られたエピゲノムのデータをGalaxyポータルにアップロードするために、同じ手順を続けた。次のステップは、B細胞特異的H3K27Ac富化ピークの存在について、PrESSToにより発見したB細胞制御領域のアンサンブルを交差することであり、これはリストを活性なH3K27Acシグネチャーを示すCAGE領域に制限する。その後、後者の領域を、B細胞におけるオープンクロマチンの存在(DNA-seqピークの発生)に関して調べるが、これはCAGE B細胞エンハンサーを、付随するH3K27Ac修飾(転写活性のエピジェネティックシグネチャー;活性なエンハンサーと強い相関)に加えてB細胞中のオープンクロマチン状態のエビデンスを示すものに制限する。さらに、例えばT細胞、NK細胞、単球及びCD34+細胞等である、望まれない細胞型におけるクロマチンオープニング及びH3K27アセチル化のエビデンスを示す領域を連続的に除去するように、後者リストのパージを行った。得られた最終的なリストは、転写因子結合、高頻度のDNAモチーフの発生(MEMEツール)、及び公知の細胞特異的遺伝子の近さのさらなる解析を含めた、tagシグナルの強度及び細胞特異性に関するCAGEデータベースにおいて人手により進められた。
【0172】
クローニングのためのエンハンサー増幅
上記した方法論を用いて選択したら、エンハンサー配列候補を、細胞株(Jurkat T細胞株又はNK92細胞)のゲノムDNAからPCRで増幅し、その後クローニングプラスミド内に挿入した。PCRプライマーを設計するために、PCR単位複製配列サイズを最小限にすることを目指して、18から22個のヌクレオチドの一対のプライマーは、同様の融点を有し、且つ少なくとも10個のヌクレオチドのエンハンサー配列から離間している。当該PCRプライマーの特異性は、UCSCゲノムブラウザーツールを用いて確認した。当該プライマーは、有効な切断を可能にするために、無作為に選択された6bpの制限酵素部位を付加するように設計した(表IIの小文字)。
【0173】
表IIは、Jurkat T細胞のゲノムDNA抽出物からのエンハンサー配列を増幅するように設計した全PCRプライマー(大文字)、それらの並置した制限部位(小文字)、及びそれらのPCR増幅条件を列記している。PCRは、製造元の指示(New England Biolabs社、マサチューセッツ州)に従って、Q5ポリメラーゼを用いて行った。増幅条件は以下のとおりであった:
変性:98℃を30秒間;
増幅(35サイクル):98℃を10秒間/Tm℃*を30秒間/72℃を30秒間;及び
伸長:72℃で2分
*反応ごとの適切なTmは表Iに示している)。
【0174】
【0175】
PCR産物の長さは、アガロースゲルで確認して、QIAquick(商標) PCR精製キット(キアゲン社(Qiagen)、ドイツ連邦共和国)を用いて精製した。その後PCR産物を、クローニングのために対応する制限酵素(表1を参照)で消化した。
【0176】
コンピュータ内(in silico)で選択されたエンハンサーより合成プロモーターを作製するためのクローニング戦略
選択され且つPCR増幅されたエンハンサーから特異的なプロモーターを生成するために、内在性エンハンサー配列を、最小プロモーター、すなわちCMV最小プロモーター(minCMV:GTAGGCGTGTACGGTGGGAGG TCTATATAAGCAGAGC TCGTTTAGTGAACCGTCAGATC、配列番号6)の上流でクローニングした5。発現パターンアッセイを通して当該合成プロモーター(エンハンサー+minCMV)の特異性を確認するために、該合成プロモーターをGFPレポーター遺伝子の上流にクローニングした。これら試験を実行するために、適切な制限酵素で消化したpENTR1aベクター(Addgene社、#11813-011)の骨格を用いて、pENTR1aベクターの自己ライゲーションを防止するために、組換えシュリンプアルカリホスファターゼ(rSAP、New England Biolabs社、マサチューセッツ州)で処理した。T3リガーゼ酵素(New England Biolabs社、マサチューセッツ州)を用いたライゲーション反応を行って、最終プラスミドを作製した。
【0177】
Tenh(Chr16-445)に関する詳細なクローニング戦略を、
図1A~B(経緯を下から上に示す)に示している。簡潔には、pENTR1a gatewayプラスミド(Addgene社、#11813-011)内に、pIRES2-AcGFP(ClonTech/Takara社)よりのIRES-GFP配列を挿入することによって、pENTR1A-IRES-GFPを得た。minCMVをまた、(ClonTech/Takara社)から切断し、NotI及びXhoI酵素を用いて挿入して、pENTR1A-minCMV-IRES-GFPを得た。次いでIRES配列を、この配列が合成プロモーターの機能及び特異性に干渉するのを防ぐために、消化XhoI-NcoIによって除去し、pENTR1A-minCMV-GFPを作製した。SV40 poly(A)シグナルを、mRNAを安定化するようにGFPの下流に挿入し、pENTR1A-minCMV-GFP-SV40polyAを作製した。SV40 poly(A)配列を、鋳型としてプラスミド(Addgene社 #45461)を用いてPCRで増幅した。このpENTR1A-minCMV-GFP-SV40polyAプラスミドは、全てのエンハンサー配列をクローニングして、インビトロでの発現パターン解析実験を実施するために用いたプラスミドであった。上記のように、選択されたエンハンサーのPCR単位複製配列を、適切な制限酵素(表IIに列記した)を用いて消化して、pENTR1A-minCMV-GFP-SV40polyA内のminCMV配列の上流に挿入した。プラスミドを配列決定して、コンストラクトが設計した配列に対応することを確かめた。
【0178】
次いで、インビボで及び/又はNK細胞において発現パターン試験を実施するために、レンチウイルス粒子を産生した。当該粒子を産生するために、最初にpHR-SINベクター骨格を用いた。クローニング戦略を、
図2に示している。簡潔には、pHR-SIN-SFFV-GFPベクター(親切にもフランス国Els Veroheyen氏により与えられた)内に元々含まれる脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)-GFP配列が欠如しているpHR-SIN-Destベクターは、SFFV-GFPフラグメントを置換するようにpLenti CMV/TO Puro DEST(Addgene社、#17293)から増幅されたLRクローニング部位(attB1/attB2)を導入することによって生成した。このプラスミドを用いて、Gateway LRクロナーゼキット(Invitrogen社、カナダ国)を用いて、製造元の指示に従い、pENTR1a(上記に記載)よりの「ENH-minCMV-GFP-SV40polyA」配列を挿入した。ウイルス粒子を産生するために、このベクターを、3種の他のもの、パッケージング酵素を提供するp8.91と、CD34
+形質導入を最適化する麻疹ウイルスタンパク質をコードする2つのベクターpHδ30及びpFδ24と共に、HEK293T細胞(ATCC、CRL-3216)内に同時トランスフェクトした
8、9。NK細胞トランスフェクションに関しては、ヒヒレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質(pBaEVベクター、親切にもEls Veroheyen氏により与えられた)をもつレンチウイルス粒子を産生した
10。
【0179】
Tenh(Chr16-445)、NKspe(NK6)及びBenh(B1、配列番号23)のインビトロにおける確認
コンストラクトの特異性を評価するために、ベクターを、種々の造血系起源のヒト細胞株内にトランスフェクトした。まず、Tenh(Chr16-445)に関しては、Jurkat T細胞(T細胞株、ATCC IB-152)及びK-562細胞(赤血球系骨髄細胞株、CCL-243)をトランスフェクトした。pENTR1A-Tenh-minCMV-GFP-SV40polyAは、製造元の指示書に従ってLipofectamine(商標) 3000(Invitrogen社、カナダ国)を用いてトランスフェクトした。GFPシグナルは、フローサイトメトリー(BD LSRII-Fortessa)で解析した。Jurkat細胞のみにおいて、GFPが発現されたことが観察された。これら知見を、次いで一次ヒト細胞において確認した。末梢血単核球細胞(PBMC)(同意書がある健常な対照から得た(REB#3527))を、Lonza社のヒト単球のNucleofectorキットを用いて電気穿孔によって遺伝子導入(nucleofect)し、そしてGFPを発現する亜集団を、フローサイトメトリーで同定した。抗CD19抗体を用いてB細胞(抗CD19 PEクローンHIB19、Biolegend社)を同定し、抗CD3抗体を用いてT細胞(抗CD3 PEクローンHIT3a、BD Pharmingen社)を同定し、また抗CD14抗体を用いて単球(抗CD14 APC-Cy7、クローンHCD14、Biolegend社)を同定した。
【0180】
NKspeエンハンサー(NK6)の特異性を試験するために、類似の戦略を用いた。ベクターは、様々な造血系起源の細胞株内に、pENTR1a-NK6-minCMV-GFP-SV40polyAがトランスフェクトされた。この実験に関しては、NK-92(NK細胞株、ATCC、CRL-2407)、Jurkat(T細胞株、ATCC IB-152)、697(B細胞株、DSMZ ACC42)及びK-562(骨髄細胞系列、CCL-243)の細胞がトランスフェクトされた。
【0181】
B細胞特異的エンハンサー(Benh、配列番号23)がB細胞株においてタンパク質の発現を誘導する能力について、Benh-minCMV-GFP-SV40polyAをコードするBaEVレンチウイルス粒子をNalm6細胞株(B細胞株、ATCC、CRL-3273)に形質導入することによって試験した。GFP発現パターンを、抗CD19抗体共染色B細胞(抗CD19 PEクローンHIB19、Biolegend社)を用いてフローサイトメトリーによって解析した。
【0182】
T細胞特異的な(T-特異的/Chr16-445)、NK細胞特異的な(NK8)、及びB細胞特異的なプロモーターコンストラクトのインビボにおける確認
GFP発現パターンがインビボで同様であったか否かを評価するために、臍帯血から単離したヒトHSC(CD34 MicroBead Kit UtlraPure、ミルテニーバイオテック社(MiltenyI Biotec)、ドイツ国)に、Tenh-minCMV-GFP-SV40polyA、Tenh-minCMV-CAR-CD22-SV40polyA、NK8-minCMV-GFP-SV40polyA又はBenh-minCMV-GFP-SV40polyAのいずれかをコードする麻疹又はBaEVのレンチウイルス粒子を形質導入した。臍帯血は、母親の同意書がある研究のためのCHU Sainte-Justine Biobank of Cord Bloodより得た。簡潔には、200μLの濃縮した麻疹レンチウイルス粒子を、レトロネクチン(Takara Bio社、米国)を含有した12ウェルプレート中で、37℃で4時間、被覆した。5nMのラパマイシン及び3μMのCIHR99021を含有した150μLのStemSpan(StemCell社、カナダ国)中の250,000個の精製したCD34+ HSCを加えて、stem性(stemness)を維持した12。次いで当該プレートを、1時間1,000gで遠心分離して、その後700μLのStemSpan/ラパマイシン/CIHR99021培地を加えた。細胞を3日間培養して、次いでマウスに注射した。NOD-scid IL2Rγnull(NSGマウス)を、Jackson研究所より取得し(#005557)、特定の無菌条件下で、飼育及び維持した。マウスは、2Gyでのガンマ線照射により前準備した。レンチウイルス粒子と接触させた105個のCD34+細胞を、7~11週齢のNSGマウスに静脈注射(IV)した。
【0183】
改変されたT-子孫の成熟がヒト胸腺で発生しているより生理学的な背景においてT-細胞特異的プロモーターの活性を試験するために、一群のマウスはまた、予め培養されたヒト胸腺の3片を四頭筋に移植した13。胸腺片は、Sainte-Justine病院組織倫理審査委員会による研究プロトコルの承認(及びドナーよりの十分な説明に基づく同意書)の後で、心臓手術手順より取得した(胸腺は、当該手術のために除去される)。胸腺片(2~5mm3)は、0.025MのHEPES、pH7.5と10%ウシ胎児血清(FBS)(Life Technologies社)を補ったHam’s F-12 nutrient mix 1X培地(F12)中で、GelFoamスポンジ及び0.8μmのアイソポア膜の上で10日間培養した13、14。
【0184】
マウスは、規則正しく飼育して、ヒト細胞の再構成を観察した。再構成及びGFP発現は、抗マウスCD45-PerCP-Cy5.5(クローン30F11)、抗ヒトCD45-PE-Cy7(クローンHI31)、抗ヒトCD19-PE(クローンHIB19)、抗ヒトCD14-APC-Cy7(クローンHCD14)、及び抗ヒトCD3-APC(クローンHIT3a)(全てBiolegend社より)を用いてフローサイトメトリーにより解析した。マウスはいずれもCHU Sainte-Justine研究センターの動物施設において維持した。
【0185】
T-特異的プロモーターコンストラクト(T-特異的/Chr16-445)の機能的な確認
Tenh-プロモーターの治療用途の可能性を評価するために、eGFP配列を、CAR-CD33又はCAR-CD22をコードする配列で置換した。ゲムツズマブオゾガマイシンモノクローナル抗体15(IDT Technologies社)のScFv配列を合成して、当該配列を第2代のCARコンストラクト(CD28-CD3ζ)内にクローニングすることによって、CAR-CD33を生成した。CAR-CD22コンストラクトは、28z及びBBzに融合したm971 ScFv配列に基づいた(Haso W et al.Blood.2013;121(7):1165-1174)。CAR-GD2コンストラクトは、第2代CARコンストラクト(CD28-CD3ζ)内にクローニングした14g2a ScFv配列(Louis CU et al.,Blood.2011;118:6050-6)に基づいた。VSVgレンチウイルス粒子を産生するために、コンストラクトを、pHRSINベクター内にクローニングし、また粒子を、上記に記載したようにHEK293において産生した。
【0186】
一次T細胞は、健常なドナーの10ml血液試料から単離した。PBMCを、Ficoll(商標)により単離して、そしてT細胞を、T細胞富化キット(#19051、StemCell Technologies社、カナダ国)を用いて精製した。次いで50万(500,000)個のT細胞を、30U/mLのヒト組換えIL-2及び1:1の比でのダイナビーズ(12.5μL/ウェル;Life Technologies社)を補った900μLのRPMI/10%FBS中で培養した。2日目に、100μLの濃縮したレンチウイルス粒子を、8μg/mLのプロタミン硫酸塩と共に加えて、翌6日間の間培養した。組換えヒトIL-2(30U/mL)を、1日置きに加えた。T細胞表面におけるCAR-CD33の発現は、可溶性CD33-Fcキメラタンパク質(Siglec3/CD33 Fc、R&D Systems社、ミシガン州)を用いて検証し、そしてフローサイトメトリーによって、ポリクローナル抗IgG PE(Jackson Immunoresearch社)を用いて二次染色によって検出した。同様にCAR-CD22発現の検出は、2μlのSiglec2(CD22)-Fcキメラ(50mg/ml、R&D社)と共に細胞を4℃で30分間インキュベートし、洗浄して、抗Fc-PE(Jackson Immune社)、抗CD56-APC及び抗CD3-FITC(Biolegend社)で染色することによって、行われた。CAR-GD2の検出は、抗マウスFab(Jackson Immune社 115-065-006)を用いて4℃で30分間、洗浄して、その後ストレプトアビジン-PE(Biolegend社)で染色して、行われた。
【0187】
次いでCAR-CD33形質導入T細胞の機能性について、天然CD33+(ATCC社 #CCL-240)又はCD33- HL-60細胞株(CRISP技術を用いて生成した)に対して細胞傷害性アッセイで評価した。同様に、CAR-CD22形質導入T細胞の機能性について、RS4;11(CD22を発現するB-ALL細胞株、ATCC社 #CRL-1873)に対して細胞傷害性アッセイで試験し、そしてCAR-GD2形質導入T細胞の機能性について、GD2を発現するSK-N-DZ神経芽腫細胞株(ATCC社、CRL-2149)に対して評価した。簡潔には、HL-60(CAR-CD33のため)、RS4;11(CAR-CD22のため)又はSK-N-DZ(CAR-GD2のため)の標的細胞を、細胞膜を安定に染色する長い脂肪族末端を備える膜標識色素PKH26で染色した。エフェクターT細胞と共にインキュベーション後、生存する標的の絶対計数を、CountBright(商標)絶対計数用ビーズ(ThermoFisher社)の使用のみならず生存色素(7-AAD)の使用により、算出した。簡潔には、2×106個の標的細胞を、RPMI 1640又はD-PBS中で2回洗浄し、100μLのDiluent C中で再懸濁して、その後100μLのPKH26(Diluent C中で8μM)を加えて、また細胞を室温で5分間インキュベートした。染色は、FBSを添加することにより停止した。次いで細胞を、様々な比のエフェクター:標的(1:8、1:4、1:2、1:1、2:1、4:1)で蒔き、24時間インキュベートした。24時間後、細胞を回収し、7-AAD(BD Biosciences社)で染色し、そしてフローサイトメトリーで解析した。以下のとおり細胞障害性を算出した:特異的溶解率%=100-[(エフェクター細胞とインキュベーション後のPKH26+ 7-AAD-標的の絶対計数)/(単独でのインキュベーション後のPKH26+ 7-AAD-標的の絶対計数)×100]。
【0188】
T-特異的プロモーターコンストラクト(T-特異的/Chr16-445)下でのCARのインビトロでのT-細胞分化中の発現の動態
まず、臍帯血から単離したヒトHSC(CD34 MicroBead Kit UtlraPure(商標)、ミルテニーバイオテック社(MiltenyI Biotec)、ドイツ国)に、上記したTenh-minCMV-CAR-CD22-SV40polyAをコードしたBaEVレンチウイルス粒子を形質導入した。CD34+細胞子孫によるCARの発現を試験するために、改変されたCD34+細胞を、OP9-DL4細胞又はOP9(DL4を含まず)と共に共培養して、CD34+からそれぞれT細胞及びB細胞への分化を誘導した(La Motte-Mohs RN et al.,Blood.2005;105(4):1431-9.Epub 2004 Oct 19)。細胞は、アルファMEM(Gibco社)、20%のHyClone(商標) Characterized FBS、GE Healthcare社)、GlutaMAX-I(商標)、PenStrep、5ng/mLのIL-7(Perpotech社)、5ng/mLのFLT-3L(Peprotech社)及び800uMのL-アスコルビン酸2リン酸塩(L-Ascorbic acid 2-phosphate)(シグマ社)、を含有する培地で共培養した。細胞を2週間共培養して、培地は週に2回交換し、またフィーダー細胞(OP9又はOP9-DL4)を毎週交換した。異なる亜集団におけるCAR発現を、以下の2つの抗体パネルを用いたフローサイトメトリーで評価した:1)抗CD1a-BV421(クローンHI49、Biolegend社)、抗CD7-FITC(クローンM-T701、BD Biosciences社)、抗CD45-PeCy7(クローンHI30、Biolegend社)、抗CD34-APC(クローン581、Biolegend社)、抗CD19-APC-Cy7(クローンHIB19、Biolegend社);及び、2)抗CD4-APC-Cy7(クローンRPA-T4、Biolegend社)、抗CD8-APC(RPA-T8、BD Biosciences社)、抗CD3-FITC(クローンUCHT1、Biolegend社)、抗CD45-PeCy7(クローンHI30、Biolegend社)。いずれのパネルにおいても、CAR-CD22発現の検出は、2μlのSiglec2(CD22)-Fcキメラ(50mg/ml、R&D社)と共に4℃で30分間インキュベートし、洗浄して、抗Fc-PE(Jackson Immune社)で染色することで行われ、またDAPIを生存染色として用いた。
【0189】
NK8プロモーターの特異性の評価
NK8プロモーターの特異性もまた、NK細胞の分化に好適な条件で、OP9共培養系において評価した(Beck RC et al.,Biol Blood Marrow Transplant.2009,15(9):1026-37)。臍帯血から単離したヒトHSC(CD34 MicroBead Kit UtlraPure(商標)、ミルテニーバイオテック社(MiltenyI Biotec)、ドイツ国)を、上記したNK8-minCMV-GFP-SV40polyAをコードしたBaEVレンチウイルス粒子で形質導入した。形質導入した細胞を、OP9細胞と共培養したが、NK細胞の分化のためにIL-15(10ng/mL)を添加して、上記のとおりに行った。GFP発現は、フローサイトメトリーで評価した。細胞亜集団を同定するために、抗CD56、抗CD45、抗CD4及び抗CD8(Biolegend社)の共染色を行った。
【0190】
実施例2:プロモーター配列の試験及び確認
第1のステップは、T細胞のための合成プロモーターを作製するための特異的なエンハンサーを同定することとした。上記した基準を満たした5種のエンハンサー配列候補を同定した(Chr16-445(配列番号7);Chr14-591(配列番号13);Chr8-438(配列番号8);Chr8-230(配列番号9);Chr12-199(配列番号10)。それらのうち、各確認ステップが確実であったためChr16-445配列を徹底的に調べた。この配列は、表IIIに詳しいが、高度に反復したモチーフを含有し、また、T細胞においてのみ有意に過剰発現される(T細胞においてtags/millionスコアが0.511である)。それは16番染色体に位置し(位置88536883-88537327)、そして445ヌクレオチド長である。エンハンサー配列の上流2.5kb内に、例えばGata1、POLR2A、POU2F2及びMYC等の転写因子のための23個の推定結合部位が同定され、それが転写的に活性な領域に位置しているという説得力のある証拠を提供している。
【0191】
同様に、2個の可能性のあるNK-特異的エンハンサー配列を選択したが(NK6及びNK20-表IIIaを参照)、そのうち一方(NK6)が、予備データにおいて一貫したパターンの発現を結果としてもたらした。この配列は、6番染色体に位置し、379ヌクレオチド長であり、また高度に反復するモチーフを含有する。それは、NK細胞においてのみ有意に過剰発現した(NK細胞でのtagスコアは0.719)。この配列は、2kb未満の配列内に19の転写因子結合部位を有する。20番染色体に位置した第2のNK特異的候補(NK20)は、NK細胞においてtagスコアが1.823である。
【0192】
T細胞及びNK細胞の両方において導入遺伝子の発現を誘導することとなるエンハンサー配列は、細胞障害性細胞の遺伝子療法の文脈において関心がもたれているであろう。推定のT細胞及びNK細胞特異的プロモーター配列は、14番染色体、位置61804524-61805115(591個のヌクレオチド)において同定された。そのtags/millionスコアは、T細胞(6.629)及びNK細胞(3.327)において高く、これら2種の細胞サブタイプにおいてのみ有意な発現がある。4個の転写結合部位-RUNX3、GATA2、FOS及びJUN-は、エンハンサー配列そのものの範囲内に位置する。
【0193】
また、選択基準に適合した1番染色体、3番染色体、10番染色体及び13番染色体において位置する、B細胞に関する4個の推定特異的エンハンサーも同定された(B-spe候補#1、2、3及び4-表IIIaを参照)。
【0194】
最後に、異なる細胞型に関するいくつかの他の候補エンハンサーも同定された(表IIIb)。
【0195】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0196】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【0197】
表IIIa及びIIIBに列記したエンハンサー候補をさらに特徴付けるために、バイオインフォマティックス解析を行った。はじめに、Multiple Em for Motif Elicitation(MEME)ツール(Timothy L.Bailey and Charles Elkan,Proceedings of the Second International Conference on Intelligent Systems for Molecular Biology,pp.28-36,AAAI Press,Menlo Park,California,1994)を用いて配列を解析して、エンハンサー候補の配列内の反復モチーフを同定した。結果を表IVに示している。
【0198】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0199】
モチーフIDの配列
1.CGGTGTGGAGGGCCGGGTGGTGACGCTGAGTGACAGGTGAGGATGTGGCA(配列番号64)
2.GTGGGACACCCATCATCTTACCACATCACATCGTCACTGCC(配列番号65)
3.YSCCTYCCCCWCCYCYTYCCH(配列番号66)
4.AAAADAAANAAARWA(配列番号67)
5.YTGGKGGSHRGGSGKSTGTG(配列番号68)
6.CTCVGVSCDGGNDGCCHGGCHMANVCCGGGCCWGBBBCGCGGVSG(配列番号69)
7.TCWSTKTTCTG(配列番号70)
8.GTGDMASGTGCCTG(配列番号71)
9.GCAGCCRCCYCRCKGKCTGAG(配列番号72)
10.CCCCTGCRGAGCAYRGGACGCTTCCTGCC(配列番号73)
11.TGKCCTCTMCCCACM(配列番号74)
12.GCCYTBHTGTYASRCAMAASM(配列番号75)
13.SWMTGACACMCTGTGKGTGTGMSYYWGMMSYCASYWG(配列番号76)
14.ACYTKCTGCWCWGCCTTMTTT(配列番号77)
15.CGGGGAGCGCC(配列番号78)
16.AGGHAGCAVAGKCACCCTC(配列番号79)
17.TBTGGCGAGBCDCCTTNGNHTTCWGYGBGCCHCACT(配列番号80)
18.TGTGCCCAGGG(配列番号81)
19.GAGGTGTCCCC(配列番号82)
20.AAACCACA
*モチーフ1及び2は、それぞれ配列番号7及び配列番号11において高度に反復する(表内の太字)
【0200】
次に、配列の組において、高頻度の保存された転写因子結合部位及び結合部位の組み合わせの検出を許容するoPOSSUMツール(http://opossum.cisreg.ca/oPOSSUM3/、Kwon AT,Arenillas DJ,Worsley Hunt R,Wasserman WW.G3.2012 Sep;2(9):987-1002.Epub 2012 Sep 1)を用いて、配列を解析した。結果を表V及び
図13に示している。
【0201】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【表6-5】
【表6-6】
【表6-7】
【表6-8】
【表6-9】
【表6-10】
【表6-11】
【0202】
実施例3:T細胞特異的プロモーターコンストラクト(Chr16-445、配列番号7)のインビトロでの確認
T細胞特異的合成プロモーターは、上記の同定された選択されたエンハンサー配列及び例えばCMV等の最小プロモーターを並置することによって作製した。pENTR1A-Chr16-445-minCMV-GFP-SV40polyAベクターを、T細胞株(Jurkat)及び骨髄細胞株(K562)内にトランスフェクトし、そしてGFP発現は、JurkatT細胞株においてのみフローサイトメトリーによって検出された。反対に、Chr16-445-minCMVプロモーターの代わりに、非特異的強プロモーター(脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター)をコードするベクターでトランスフェクトした場合、いずれの細胞株もGFPを発現した(
図3A)。その後、ヒトPBMCにT細胞特異的合成プロモーターをトランスフェクトして、そしてGFPタンパク質がT細胞においてのみ発現し、単球又はB細胞では発現せず(
図3B)、一方で当該PBMCに非特異的プロモーターをトランスフェクトした場合に、全ての細胞型がGFPを発現したことが観察された。
【0203】
実施例4:NK特異的プロモーターコンストラクト(NK6、配列番号11)のインビトロでの確認
NK細胞株(NK92)、骨髄細胞株(K562)、B細胞株(697)及びT細胞株(Jurkat)に、pENTR1A-NK6-minCMV-GFP-SV40polyAベクターをトランスフェクトした。NK6合成プロモーターは、NK92細胞においてのみGFP発現を誘導し、一方でSFFV強プロモーターが、全ての細胞株において結果としてGFP発現をもたらし(
図4)、NK6プロモーターの特異性が確認された。
【0204】
実施例5:別のNK特異的プロモーターコンストラクト(NK8、配列番号14)のインビトロでの確認
NK8配列の特異性は、NK8-minCMV-GFP-SV40polyAもしくはSFFV-GFP-SV40polyAを形質導入したCD34
+細胞又は形質導入していないCD34
+細胞を含むOP9共培養系で試験した。GFP発現は、NK8形質導入細胞を含有するウェル中での共培養後に回収された、NK細胞で観察されたが、B細胞では観察されなかった(
図5)。非特異的強プロモーター(SFFV)を形質導入した細胞は、NK細胞及びB細胞両方のGFPの発現につながり、一方で形質導入されていない細胞はGFP陽性ではなかった。これら結果は、NK8系合成プロモーターがNK細胞に対して特異的であるという有力な証拠となる。
【0205】
実施例6:B細胞特異的プロモーターコンストラクト(配列番号23)のインビトロでの確認
B細胞株(Nalm6)に、Benh-minCMV-GFP-SV40polyAをコードするBaEV-LV粒子を形質導入した。B細胞特異的合成プロモーターは、B細胞においてGFPの発現を誘導することを示したが(
図6)、これはこのプロモーターが、B細胞特異的な手法で対象タンパク質の発現を誘導することが可能であるということを示唆する。
【0206】
実施例7:T-特異的プロモーターコンストラクト(Chr16-445)のインビボでの確認
ヒトCD34
+細胞に、Chr16-445-minCMV T細胞特異的プロモーター又は非特異的SFFVプロモーターを形質導入して、ヒト胸腺の共移植をするNSGマウス又は共移植しないNSGマウス(huNSG及びBLTのモデル、方法を参照)に移植した。いずれのモデルにおいても、GFP
+ T細胞の成長が観察され、一方でCD34
+細胞に我々のChr16-445-minCMV T細胞特異的プロモーターを形質導入した場合にGFPを発現したヒト細胞は他になかった(
図7A、B)。対照的に、CD34
+に非特異的強プロモーターSFFVを形質導入した場合には、全ての系統でGFPを発現した(
図7C)。これら結果はまた、操作されたHSCは、骨髄系(単球)及びリンパ系(T及びB細胞)の両方の種々の系統に分化できるということも示す。
【0207】
実施例8:NK-特異的プロモーターコンストラクト(NK8)のインビボでの確認
ヒトCD34
+細胞に、GFP発現を駆動するNK8-minCMVを形質導入して、インビボでNK細胞特異的プロモーターの特異性を調べた。GFPを発現するヒトNK細胞は、マウスの血液、脾臓及び骨髄で見られた(
図8A、B)。対照的に、同じマウスから回収したヒトB細胞及びT細胞でGFPを発現したものはごくわずかであり、このことがNK8合成特異的プロモーターの特異性の証拠となる。
【0208】
実施例9:B細胞特異的プロモーターコンストラクト(配列番号23)のインビボでの確認
ヒトCD34
+細胞に、GFP発現を駆動するBenh-minCMVを形質導入して、インビボでB細胞特異的プロモーターの特異性を調べた。ヒト化4週後に、血液中に循環するヒト細胞を、フローサイトメトリーで解析した。この時点では、B細胞(CD19
+)及び単球(CD14
+)のみが、ヒト化マウスにおいて成長している。非特異的強プロモーター(SFFV)が全ての細胞サブタイプにおいてGFP発現を誘導した一方で、GFP陽性細胞は、B細胞集団でのみ見られた(
図9)。これら結果は、B細胞合成特異的プロモーターは、B細胞集団においてのみ特異的に誘導されることを示唆する。
【0209】
実施例10:T-特異的プロモーターコンストラクト(Chr16-445)の機能的な確認
当該コンストラクトの治療上の可能性について、CAR-CD33、CAR-CD22又はCAR-GD2を用いた細胞傷害性アッセイを介して探索した。CAR-CD33、CAR-CD22又はCAR-GD2をコードする配列を、非特異的強プロモーター(SFFV)の制御下又は合成T-細胞特異的プロモーター(Tenh Chr16-445)の制御下に置いた。それがもつ機能的導入遺伝子の発現を駆動する能力は、一次T細胞にCARを形質導入して、そしてCD33を発現するもしくはしないヒトAML細胞株に対して、CD22を発現するヒトALL細胞株(RS4;11)に対して、又はGD2
+神経芽細胞腫(NB)-細胞株(SK-N-DZ)に対して細胞傷害性アッセイを実施することによって、評価した。非特異的SFFVプロモーター又はT-細胞特異的プロモーターの制御下でのCAR-CD33コンストラクトを形質導入した一次T細胞は、フローサイトメトリーで確認したとおりCAR-CD33発現を示した(
図10A)。細胞傷害性実験の結果は、CAR-CD33コンストラクトが、その発現を特異的T細胞プロモーターが駆動している場合でさえも、CD33
+ AML細胞の溶解を有効に引き起こしたということを示す(
図10B)。CD33
-細胞(右方側棒グラフ)において測定された非特異的な溶解は最小限であり、またCARが介在する溶解よりも有意に低かった(***p<0.001)。同様に、Tenh Chr16-445プロモーター下で発現したCAR-CD22が、SFFV(強)プロモーターの細胞傷害性と同様である、RS4;11 ALL-細胞株に対するCAR特異的細胞傷害性を誘導するのに十分強いCAR発現を誘導した(
図10C)。同様に、
図10Dに示す結果は、固形腫瘍の文脈において、Tenh Chr16-445プロモーターコンストラクト下で発現したCAR-GD2がまた、形質導入されていない一次T細胞より有意に高く(****p<0.0001)、また非特異的強プロモーターSFFVにより駆動されるCAR-GD2のレベルに匹敵するレベルで、標的溶解を誘導したことを示す。
【0210】
実施例11:T-特異性プロモーターコンストラクト(Chr16-445)下でのCARのT-細胞分化中の発現の動態
インビトロでの胸腺の分化を模倣するOP9-DL4細胞を用いて、またCAR-CD22コンストラクトを用いて、特異的プロモーターが、T-細胞分化プロセスの早期において(CD7
+CD1
+段階ですぐに)、CAR-CD22の発現を誘導したことが観察された(
図11A)。対照として、HSC改変細胞をOP9細胞と共に共培養したが、これによりB細胞分化が結果的に生じ、そして検出されたCAR発現はなかった(
図11B)。このデータが、T-特異的/Chr16-445合成プロモーターの特異性をさらに証明する。
図11Cに示す結果は、Tenh Chr16-445プロモーターは、以下のT細胞分化の全ての段階において活性であることを示す:pro-T、CD7
+、CD7
+CD1a
+、CD4
+CD8
+二重陽性のみならずCD4
+及びCD8
+の一重陽性T細胞において。Chr16-445を逆向きで挿入した場合に同様の結果が得られたが、これによりこの配列が転写エンハンサーの当該特徴を共有することが確認された(すなわち、配向により影響を受けない)。
【0211】
実施例12:T-特異的プロモーターコンストラクト下での、CARを形質導入したCD34
+細胞のインビボでのT-細胞分化
CARを形質導入したCD34
+細胞のインビボでのT細胞分化を、形質導入したCD34
+細胞をヒト胎児胸腺も一緒に移植したマウス(BLTモデル)において評価した。ヒト化30週後のマウスの血液試料は、T細胞がその表面においてCAR-CD22を発現したことを示す(
図12)。先の知見と一致して、B細胞及び単球はGFPを発現しなかった。Chr16-445を逆向きで挿入した場合に、再び同様の結果が得られた。これら結果により、T-特異的/Chr16-445プロモーターの特異性が確認されるが、これはまた胸腺選択が、CAR陽性T細胞の成長と干渉していないことを示唆する。
【0212】
本発明はその特定の実施形態により本明細書において上記に説明したが、これは添付の特許請求の範囲において規定されるように主題の発明の趣旨及び性質から逸脱することなしに変形することが可能である。特許請求の範囲においては、「~含む(comprising)」の文言は、オープンエンドの語として用い、実質的に「~を含むがこれに限定されない」の句と同等である。単数形「a」、「an」及び「the」は、別段に文脈が明記しない限り、対応する複数形を含める。
【0213】
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【配列表】
【国際調査報告】