(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(54)【発明の名称】糖アルコールエステルから合成された潤滑基油
(51)【国際特許分類】
C11B 9/00 20060101AFI20220314BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20220314BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20220314BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20220314BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20220314BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220314BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220314BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20220314BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
C11B9/00 S
C10M105/38 ZAB
C10N30:02
C10N30:08
C10N30:10
C10N30:00 Z
C10N40:25
C10N40:08
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544243
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 FR2020050139
(87)【国際公開番号】W WO2020157434
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ルブラン, ステファニ
(72)【発明者】
【氏名】マンドン, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ル, ギヨーム
【テーマコード(参考)】
4H059
4H104
【Fターム(参考)】
4H059BA33
4H059BB02
4H059CA19
4H104BB24A
4H104LA01
4H104LA04
4H104LA05
4H104LA20
4H104PA05
4H104PA41
4H104PA50
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの糖ポリオールと少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸とのエステルに関し、糖ポリオールは、エリスリトールである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの糖ポリオールと少なくとも1つのC
6-C
11線状脂肪酸とのエステルであって、糖ポリオールがエリスリトールである、エステル。
【請求項2】
C
6-C
11線状脂肪酸がn-ヘプタン酸である、請求項1に記載のエステル。
【請求項3】
C
6-C
11線状脂肪酸と糖ポリオールとの重量比が少なくとも5:1である、請求項1または2に記載のエステル。
【請求項4】
C
6-C
11線状脂肪酸が再生可能資源に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載のエステル。
【請求項5】
C
6-C
11線状脂肪酸がヒマシ油に由来する、請求項1~4の一項に記載のエステル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に定義される、少なくとも1つの糖ポリオールと少なくとも1つのC
6-C
11線状脂肪酸とのエステルの、潤滑剤基剤としての使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に定義される、少なくとも1つの糖ポリオールと少なくとも1つのC
6-C
11線状脂肪酸とのエステルを含む潤滑剤基剤組成物。
【請求項8】
過剰の少なくとも1つのC
6-C
11線状脂肪酸の存在下で少なくとも1つの糖ポリオールをエステル化する工程を含む、エステルの調製方法。
【請求項9】
好ましくは真空蒸留によって行われる、過剰の酸を除去する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
添加剤の添加による下流処理工程、
触媒の添加工程
有機溶媒の添加工程
のうち少なくとも1つを含まずに実施される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
反応が、エステルの総量に対して80重量%以上、好ましくは93重量%以上のテトラエステルの含有量を得るのに十分な時間行われる、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
糖ポリオールがエリスリトールである、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
C
6-C
11線状脂肪酸がn-ヘプタン酸である、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
C
6-C
11線状脂肪酸が再生可能資源に由来する、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
C
6-C
11線状脂肪酸がヒマシ油に由来する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
C
6-C
11線状脂肪酸と糖ポリオールとの重量比が少なくとも5:1である、請求項8~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項8~16のいずれか一項に記載の方法によって得られる、少なくとも1つの糖ポリオールと少なくとも1つのC
6-C
11線状脂肪酸とのエステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖アルコール、特に糖ポリオールから形成されたエステル、および潤滑剤基剤としてのその使用、およびその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在、潤滑剤基剤市場は、石油起源の鉱油が優位を占めている。2008年には、欧州での潤滑剤の生産は、年間450万トンに達した。これらの潤滑剤基剤は、エンジンオイル、チェーンソーチェーン用切削油、海洋掘削用油、重機および農業機械用作動油等、様々な産業で利用されている。
【0003】
これらの鉱油は、一度使用されると、常にリサイクルされるとは限らず、地表、下水道、湖沼および河川への排出により環境汚染を引き起こす。これらの潤滑油の環境に対する潜在的な影響を考慮すると、特に潤滑剤が環境に漏出しやすい用途では、生態学的かつ生分解性潤滑剤基剤の開発が不可欠である。
【0004】
植物油および動物油は、潤滑剤としてのその使用が数年前から知られており、環境への負荷が少ないという利点を有するため、この環境保護への懸念に対処することができる。しかしながら、これらの油は、鉱油と比較して熱安定性が低く、耐酸化性も低く、水の存在下で加水分解しやすい。
【0005】
アルコールに結合した脂肪酸から形成されたポリオールエステルは、良好な酸化安定性、良好な加水分解安定性、比較的高い生分解性および良好な低温性能を有する。ネオペンチルグリコールまたはトリメチロールプロパンなどのポリオールおよびパーム油由来の生成物を含む、パーム油由来のポリオールエステルの生分解性潤滑剤組成物は、欧州特許出願第1533360に記載されている。しかしながら、そのような組成物は、15℃~40℃の範囲の温度にのみ適している。
【0006】
したがって、この状況では、構造が完全に再生可能な起源の成分に由来し得、優れた潤滑特性を有し、人および環境に無害でもある代替的なポリオールエステルを開発することが依然として必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明の文脈では、糖アルコール、特に糖ポリオールとC6-C11線状脂肪酸とのエステルは、潤滑剤での用途のための優れた特性を有することが観察された。
【0008】
本発明は、糖アルコール、特に糖ポリオール、特にエリスリトールと、C6-C11線状脂肪酸とのエステルが潤滑剤での用途のための優れた特性を有するという、本発明者らによる予想外の実証から生じる。
【0009】
したがって、本発明は、少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールと、少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸とのエステルに関し、ここで糖アルコール、特に糖ポリオールは、エリスリトールである。
【0010】
本発明はまた、上記で定義した少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールと少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸とのエステルの、潤滑剤基剤としての使用に関する。
【0011】
本発明はまた、上記で定義した少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールと少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸とのエステルを含む、潤滑剤基剤組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸と少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールとのエステル化反応を含むエステルの調製方法に関し、好ましくは、方法は、余分な酸を除去する工程を含み、以下の工程の少なくとも1つを含まない。
・添加剤の添加による下流処理;
・触媒の添加;
・有機溶媒の添加。
【0013】
本発明はまた、上記で定義した方法で得られた、少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールと少なくとも1つのC6-C11線状脂肪酸とのエステルに関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
少なくとも1つのポリオールと再生可能起源の脂肪酸との、例えばエリスリトールとn-ヘプタン酸(例えば、Arkema製のOleris(登録商標)C7)とのエステルから、触媒を添加せず、添加剤の添加による下流処理をせずに合成される、本発明による潤滑剤基剤組成物によって、以下の実施例に詳細に記載されるように、アルコールがバイオベースでない通常のエステル、例えばトリメチロールプロパンよりも高い熱安定性による特性を達成することができる。
【0015】
したがって、本発明は、良好な酸化安定性、良好な熱安定性および非常に良好な潤滑特性を有する再生可能な起源の潤滑剤基剤組成物を提供する。
【0016】
さらに、組成物は低温で良好な流動性を有するので、低温、すなわち典型的には0℃以下での使用に特に適している。
【0017】
「生分解性」という用語は、本明細書では、例えば細菌、真菌および藻類などの自然環境に生きている微生物によって、より小さく、汚染の少ない分子に変換され得る分子から形成される化合物を示すために使用される。この分解の最終結果は、一般に、水、二酸化炭素またはメタンで構成される。
【0018】
「再生可能資源由来」または「バイオベース」である材料または化合物または成分は、再生可能な天然の材料または化合物または成分を意味すると理解され、そのストックは、人間の時間の尺度での短期間にわたり再構成することができる。これらは、特に動物起源または植物起源の原料である。「再生可能起源の原料」または「バイオベース原料」という用語は、バイオベースの炭素または再生可能起源の炭素を含む材料を意味する。具体的には、化石材料に由来する材料とは異なり、再生可能な原料から構成される材料は、炭素14(14C)を含んでいる。「再生可能起源の炭素含有量」または「バイオベース炭素の含有量」は、規格ASTM D 6866(ASTM D 6866-06)およびASTM D 7026(ASTM D 7026-04)の適用によって決定される。
【0019】
流体の粘度は、それが流れている間にその分子の内部摺動に耐える抵抗を意味する。粘度は、基準温度に対して与えられる。m/s2で表される動粘度は、以下の式:υ=η/ρを使用して計算され、式中、
ηは、Pa・s単位の動的粘度であり、
ρは、kg/m3単位の流体の密度である。
【0020】
動粘度は、ストークス(St)またはセンチストークス(cSt)でも表される。
【0021】
動粘度は、規格ISO 3104に従って測定される。
【0022】
酸化安定性は、酸素誘導時間および酸素誘導温度の2つの測定によって決定することができる。酸素誘導時間および酸素誘導温度は、規格ISO 11357-6:2018に従って示差走査熱量計(DSC)で測定することができる。
【0023】
生成物の流動点は、生成物が依然として流れる最低温度である。流動点は、規格ISO 3016に従って測定される。
【0024】
粘度指数(VI)(単位なし)は、所与の温度範囲、通常40℃~100℃にわたる油の粘度の変化率を示す。粘度指数は、材料の40℃~100℃での動粘度勾配として定義することができる。粘度指数が低い(100未満)場合、流体は、比較的大きな温度による粘度の変動を示す。粘度指数が高い(150超)場合、流体は、温度による粘度の変化が比較的小さい。様々な用途において、高いまたは非常に高い粘度指数が好ましい。粘度指数は、規格ASTM D 2270に記載の試験方法に従って測定される。
【0025】
エステル
アルコールは、少なくとも1つのヒドロキシル(-OH)基を有する分子を意味すると理解される。ポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル(-OH)基を有する分子を意味すると理解される。
【0026】
好ましくは、本発明によるポリオールは、いくつかのヒドロキシル基を含有する有機化合物である。好ましくは、ポリオールは、ヒドロキシル基以外の官能基を含有する化合物を指さない。より好ましくは、本発明によるポリオールは、一般化学式CnH2n+2Onに対応し、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物である。
【0027】
本発明によるエステルは、少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオール、および少なくとも1つのC6-C11脂肪酸から形成される。
【0028】
一実施形態により、本発明によるエステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステルおよびテトラエステルであり得る。
【0029】
本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールは、好ましくは再生可能資源から得られる。本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールは、好ましくは生分解性である。
【0030】
好ましくは、本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールは、単糖類、二糖類、三糖類、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0031】
好ましくは、本発明による単糖は、エリスリトール、キシロース、アラビノース、リボース、ソルビトール、ソルビタン、グルコース、ソルボース、フルクトース、キシリトールおよびそれらの混合物からなる群から選択され、より好ましくはキシロース、アラビノース、リボース、グルコース、ソルボース、フルクトースおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、本発明による二糖は、マルトース、ラクトース、スクロース、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0033】
本発明による三糖は、好ましくは、ラフィノース、マルトトリオース、水素化デンプン加水分解物、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0034】
より好ましくは、本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールはエリスリトールである。
【0035】
一実施形態によれば、本発明による糖ポリオールは、糖の水素化によって得られる。
【0036】
本発明による脂肪酸は、好ましくは再生可能資源に由来する。本発明による脂肪酸は、好ましくは、植物または動物起源の飽和または不飽和線状または分岐鎖である。
【0037】
本発明による脂肪酸は、好ましくは、植物、特に油性植物の種子、核または果実の粉砕によって、例えば、亜麻仁油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、パーム油、ヒマシ油、木油、トウモロコシ油、カボチャ油、ブドウ種子油、ホホバ油、ゴマ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、シアバター、マカダミア油、綿実油、アルファルファ油、ライ麦油、ベニバナ油、ピーナッツ油、コプラ油、トール油およびアルガン油によって、または獣脂などの動物性脂肪から得られる。
【0038】
本発明による脂肪酸は、好ましくはヒマシ油、ココナッツ油、綿実油、脱水ヒマシ油、大豆油、トール油、ナタネ油、ヒマワリ油、アマニ油、パーム油、桐油、オイチシカ油、ベニバナ油、オリーブ油、木油、トウモロコシ油、カボチャ油、ブドウ種子油、ホホバ油、ゴマ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、シアバター、マカダミア油、アルファルファ油、ライ麦油、ピーナッツ油、コプラ油、およびアルガン油の脂肪酸からなる群から選択される。
【0039】
本発明による脂肪酸は、6~11個の炭素原子を含む。
【0040】
好ましくは、本発明による脂肪酸は、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、フランジカルボン酸、テトラヒドロフラン-2,5-ジカルボン酸、テトラヒドロフラン-3,5-ジカルボン酸、アゼライン酸、デカン二酸、10-ウンデシレン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸からなる群から選択される。
【0041】
好ましくは、本発明による脂肪酸は、線状脂肪酸である。
【0042】
好ましくは、線状脂肪酸は、合成された潤滑剤基剤の粘度指数を上げ、その熱安定性を改善することができ、主に石油産業に由来する分岐鎖酸よりも容易に生分解される。
【0043】
好ましくは、本発明による脂肪酸は、ヒマシ油に由来する。
【0044】
ヒマシ油に由来する脂肪酸とは、油中に存在する脂肪酸、および/または化学変換の最後に得ることができる脂肪酸を意味すると理解される。例えば、ヘプタン酸および/または10-ウンデシレン酸は、ヒマシ油から、典型的には、ヒマシ油のエステル交換反応から生じるリシノール酸メチルの熱分解の工程によって得ることができる。本発明による脂肪酸は、好ましくはn-ヘプタン酸である。好ましくはまた、本発明による脂肪酸は、n-ヘプタン酸Oleris(登録商標)(Arkema)である。
【0045】
好ましくは、n-ヘプタン酸はヒマシ油に由来する。
【0046】
好ましくは、本発明によるエステルは、本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールから形成され、その少なくとも3つのアルコール基、好ましくは4つのアルコール基が、本発明による脂肪酸でエステル化される。
【0047】
好ましくはまた、本発明による脂肪酸と本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールとの重量比は、4:1~10:1の範囲内である。より好ましくは、本発明による脂肪酸と本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールとの重量比は、約5:1である。
【0048】
好ましくは、エステルの総重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは75重量%の割合のエステルが、再生可能資源に由来する。
【0049】
好ましくは、本発明によるエステルは、150℃で示差走査熱量計にて測定された、2時間を超える酸素誘導時間を有する。
【0050】
好ましくは、本発明によるエステルは、示差走査熱量計にて測定された、200℃を超える酸素誘導温度を有する。
【0051】
本発明によるエステルは、好ましくは、-30℃未満、好ましくは-50℃~-30℃、より好ましくは約-42℃の流動点を含む。
【0052】
本発明によるエステルは、好ましくは、規格ISO 3104に従って測定される、40℃で14~30mm2/s、および/または100℃で4.5mm2/s未満の動粘度を含む。
【0053】
方法
本発明による糖アルコール、特に糖ポリオールおよび脂肪酸から本発明によるエステルを調製する方法は、当業者に周知の通常のエステル化技術に従って実施することができる。
【0054】
好ましくは、本発明によるエステル化方法は、本発明による少なくとも1つの糖アルコール、特に糖ポリオールを、本発明による少なくとも1つの過剰なC6-C11線状脂肪酸の存在下で、触媒を用いて、または用いないでエステル化する工程を含む。
【0055】
本発明によるエステル化工程は、好ましくは140℃~250℃の温度で、0.5~12時間、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~9時間の期間行われる。
【0056】
本発明によるエステル化工程は、好ましくは不活性雰囲気下で行われる。
【0057】
好ましくは、本発明によるエステルを調製する方法は、余分な酸を除去するように制御された減圧下で行われる。本発明によるエステル化方法は、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、および粘土などの吸収剤を添加する工程を含み得る。
【0058】
本発明による方法は、水および塩基を添加して残留有機酸および無機酸を同時に中和し、かつ/または触媒を加水分解する工程をさらに含み得る。この場合、本発明による方法は、使用された水を加熱および減圧下に置くことによって除去する工程を含み得る。
【0059】
本発明による方法はまた、エステル化反応に使用された余分な酸混合物の大部分を含有する、エステル混合物の固体を濾過する工程を含み得る。
【0060】
本発明による方法は、蒸気抽出によって、または任意の他の蒸留方法によって余分な酸を除去し、反応器内の酸を再循環させる工程を含み得る。
【0061】
一実施形態によれば、本発明の方法は、好ましくは真空蒸留によって行われる、余分な酸を除去する工程を含む。
【0062】
好ましくは、本発明による方法によって得られた化合物は、減圧蒸留によって未反応の酸が取り除かれる。蒸留は、好ましくは減圧下で15分~2時間行う。蒸留は、さらに好ましくは140℃~180℃の温度で行う。蒸留工程後に残存する遊離酸の量は、エポキシエステルでの処理、石灰、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩または塩基性アルミナなどの任意の適切なアルカリ材料での中和によって減少させることができる。エポキシエステルによる処理を行う場合、2回目の減圧蒸留を行って、余分なエポキシエステルを除去してもよい。アルカリ処理を行う場合には、水による洗浄を行って、余分な未反応アルカリ材料を除去してもよい。
【0063】
本発明による方法は、最終濾過中に抽出されたエステルからあらゆる残留固形材料を除去する工程を含み得る。
【0064】
好ましくは、本発明による脂肪酸は、本発明によるエステルを形成する反応において、使用される糖アルコール、特に糖ポリオールの量に対して約10~50mol%、好ましくは約10~30mol%超過して存在する。
【0065】
本発明による方法は、触媒の存在下で行うことができる。触媒は、当業者に周知の任意のエステル化反応用触媒であり得る。好ましくは、触媒は、塩化スズ、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、スルホコハク酸、塩酸、リン酸、亜鉛系、銅系、スズ系、チタン系、ジルコニウム系またはタングステン系の触媒;アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムもしくはカリウム、炭酸ナトリウムもしくはカリウム、ナトリウムもしくはカリウムエトキシド、ナトリウムもしくはカリウムメトキシド、ゼオライトおよび酸性イオン交換体、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0066】
好ましくは、添加剤の添加による下流処理工程は、本発明によるエステルの調製方法中に行われない。
【0067】
「添加剤の添加による下流処理」という用語は、上述のように、エステル化工程の最後に典型的に行われる工程、すなわち、吸収剤を添加する工程、水および塩基を添加する工程、エステルの混合物から固体を濾過する工程および/または余分な酸を除去する工程の1つ以上を意味すると理解される。
【0068】
好ましくは、エステルを調製する方法は、触媒なしで実施される。
【0069】
好ましくは、エステルを調製する方法は、有機溶媒を添加せずに実施される。
【0070】
好ましくは、エステルを調製する方法は、
・添加剤の添加による下流処理工程
・触媒の添加工程
・有機溶媒の添加工程
のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは全てを含まずに実施される。
【0071】
好ましくは、反応は、エステルの総量に対して80重量%以上のテトラエステルの含有量を得るのに十分な時間行われる。より好ましくは、反応は、エステルの総量に対して93重量%以上のテトラエステルの含有量を得るのに十分な時間行われる。
【0072】
使用
本発明によるエステルは、好ましくは、そのまま潤滑剤基剤または潤滑剤基油として使用される。
【0073】
本発明によるエステルは、他の基油、例えば鉱油、高度に精製された鉱油、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)、リン酸エステル、シリコーン油、ジエステル、ポリイソブチレンおよびポリオールエステルなどとの混合物として使用することもできる。
【0074】
特に、本発明によるエステルは、潤滑剤基剤組成物の調製に有用である。本発明による潤滑剤基剤組成物は、あらゆる種類の産業において、特に自動車用潤滑剤として、金属加工油として、作動油として、タービン油として、または航空機油として使用することができる。
【0075】
好ましくは、本発明による組成物は、エステルの総量に対して80重量%以上のテトラエステルの含有量を含み得る。より好ましくは、組成物は、エステルの総量に対して93重量%以上のテトラエステルの含有量を含み得る。
【0076】
本発明による組成物は、本発明によるエステルに加えて、1つ以上の添加剤を含んでもよい。好ましくは、添加剤は、抗酸化剤、熱安定性向上剤、腐食抑制剤、金属不活性化剤、潤滑添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、洗浄剤、分散剤、消泡剤、耐摩耗剤、および極圧添加剤からなる群から選択される。
【0077】
好ましくは、本発明による組成物中の添加剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して10重量%、好ましくは8重量%、より好ましくは5重量%を超えない。
【0078】
好ましくは、使用される抗酸化剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01%~5%である。
【0079】
好ましくは、腐食抑制剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01重量%~5重量%である。
【0080】
好ましくは、金属不活性化剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.001重量%~0.5重量%である。
【0081】
好ましくは、潤滑添加剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.5重量%~5重量%である。
【0082】
好ましくは、粘度指数向上剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01重量%~2重量%である。
【0083】
好ましくは、流動点降下剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01重量%~2重量%である。
【0084】
好ましくは、洗浄剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.1重量%~5重量%である。
【0085】
好ましくは、分散剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.1重量%~5重量%である。
【0086】
好ましくは、消泡剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01重量%~2重量%である。
【0087】
好ましくは、耐摩耗剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.01重量%~2重量%である。
【0088】
好ましくは、極圧添加剤の量は、潤滑剤基剤組成物の総重量に対して0.1重量%~2重量%である。
【0089】
抗酸化剤および熱安定性向上剤は、当業者に周知の任意の抗酸化剤および熱安定性向上剤から選択することができる。例として、抗酸化剤および熱安定性向上剤は、以下からなる群から選択することができる。
・フェニル基またはナフチル基が、例えば、N,N’-ジフェニルフェニレンジアミン、p-オクチルジフェニルアミン、p,p-ジオクチルジフェニルアミン、N-フェニルナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、N-(p-ドデシル)フェニル-2-ナフチルアミン、ジ-1-ナフチルアミン、およびジ-2-ナフチルアミン基で置換され得る、ジフェニルアミン、ジナフチルアミン、フェニルナフチルアミン;
・フェノタジン、例えばN-アルキルフェノチアジン;
・イミノ(ビスベンジル);および
・ヒンダードフェノール、例えば6-(t-ブチル)フェノール、2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール、4-メチル-2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-(t-ブチル)フェノール)。
【0090】
金属不活性化剤は、当業者に周知の任意の金属不活性化剤から選択することができる。例として、金属不活性化剤は、イミダゾール、ベンズアミダゾール、2-メルカプトベンズチアゾール、2,5-ジメルカプトチアジアゾール、サリチリデン-プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2-メチルベンズアミダゾール、3,5-ジメチルピラゾール、およびメチレンビス(ベンゾトリアゾール)からなる群から選択することができる。金属不活性化剤または腐食抑制剤の他の例としては、以下が挙げられる。
・有機酸およびそのエステル、金属塩および無水物、例えば、N-オレイルサルコシン、ソルビタンモノオレエート、ナフテン酸鉛、ドデセニルコハク酸およびその部分エステルおよびアミド、ならびに4-ノニルフェノキシ酢酸;
・脂肪族および脂環式の第一級、第二級および第三級アミン、ならびに有機酸および無機酸のアミン塩、例えば油可溶型アルキルアンモニウムカルボキシレート;
・窒素含有複素環式化合物、例えば、チアジアゾール、置換イミダゾリン、およびオキサゾリン;
・キノリン、キノンおよびアントラキノン;
・没食子酸プロピル;
・ジノニルナフタレンスルホン酸バリウム;
・アルケニルコハク酸無水物または酸、ジチオカルバメート、ジチオホスフェートのエステルおよびアミドの誘導体、;
・アルキル酸ホスフェートのアミン塩およびその誘導体。
【0091】
潤滑添加剤は、当業者に周知の任意の潤滑添加剤から選択することができる。潤滑添加剤の例として、脂肪酸の長鎖誘導体、および天然油、例えばエステル、アミン、アミド、イミダゾリンおよびホウ酸塩を挙げることができる。
【0092】
粘度指数向上剤は、当業者に周知の任意の粘度指数向上剤から選択することができる。粘度向上剤の例として、ポリメタクリレート、ビニルピロリドンおよびメタクリレートの共重合体、ポリブテンおよびスチレン-アクリレート共重合体を挙げることができる。
【0093】
流動点降下剤は、当業者に周知の任意の流動点降下剤から選択することができる。流動点降下剤の例として、メタクリレート-エチレン-酢酸ビニルターポリマーなどのポリメタクリレート;アルキル化ナフタレン誘導体;およびナフタレンまたはフェノール類を用いた尿素触媒フリーデルクラフツ縮合の生成物を挙げることができる。
【0094】
洗浄剤および分散剤は、当業者に周知の任意の洗浄剤および分散剤から選択することができる。洗浄剤および分散剤の例として、ポリブテニルコハク酸アミド;ポリブテニルホスホン酸誘導体;長鎖アルキルで置換された芳香族スルホン酸およびその塩;ならびにアルキルスルフィド、アルキルフェノールおよびアルキルフェノールとアルデヒドとの縮合生成物の金属塩を挙げることができる。
【0095】
消泡剤は、当業者に周知の任意の消泡剤から選択することができる。消泡剤の例として、シリコーンおよび特定のアクリレートのポリマーを挙げることができる。
【0096】
耐摩耗剤および極圧添加剤は、任意の耐摩耗剤および極圧添加剤から選択することができる。耐摩耗剤および極圧添加剤の例として、以下を挙げることができる。
硫化脂肪酸および脂肪酸エステル、例えば硫化オクチルタレート;
硫化テルペン;
硫化オレフィン;
有機ポリスルフィド;
アミンホスフェート、アルキル酸性ホスフェート、ジアルキルホスフェート、アミンジチオホスフェート、トリアルキルおよびトリアリールホスホロチオネート、トリアルキルおよびトリアリールホスフィン、ならびにジアルキルホスファイト、例えば、リン酸モノヘキシルエステルのアミン塩、ジノニルナフタレンスルホネートのアミン塩、トリフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、およびフェニルフェニルホスフェート、ナフチルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスホロチオネートを含む有機リン誘導体;
ジチオカルバメート、例えばジアルキルジチオカルバミン酸アンチモン;
塩素化および/またはフッ素化炭化水素およびザンセート。
【0097】
本発明を、以下の非限定的な実施例を用いてさらに説明する。
【実施例】
【0098】
本発明者らは、潤滑剤に適用するための本発明によるエステルの特性を研究した。
【0099】
1.エステルの調製
2つの試料を調製する。
・エリスリトールとn-ヘプタン酸とのエステル(本発明によるエステル);および
・トリメチロールプロパンとn-ヘプタン酸とのエステル(比較例1)。
【0100】
エリスリトールとn-ヘプタン酸とのエステル(本発明によるエステル)の合成:
撹拌機、温度計、コンデンサーおよび窒素導入口を備えた250ml三つ口フラスコに、エリスリトール(14.7g、0.12mol)およびn-ヘプタン酸(81.7g、0.62mol)を入れる。水の理論量が安定するまで、反応混合物を窒素雰囲気下にて210℃で7時間30分加熱した。次いで、酸価0.1mgKOH/gの生成物66.5gを得るために、粗生成物を180℃の温度かつ最大減圧下で1時間30分間蒸留して、余分なn-ヘプタン酸を除去する。
【0101】
生成物の動粘度、粘度指数(VI)および流動点を評価し、表2に報告する。
【0102】
生成物の化学組成をガスクロマトグラフィーによって、エリスリトールとn-ヘプタン酸とのテトラエステル94.1%、エリスリトールとn-ヘプタン酸とのトリエステル2.2%、およびエリスリトールとn-ヘプタン酸とのアンヒドロエステル(anhydroester)2.9%、と確立した。
【0103】
トリメチロールプロパンとn-ヘプタン酸とのエステル(比較例1)の合成
トリメチロールプロパン(53.8g、0.4mol)およびn-ヘプタン酸(181.5g、1.38mol)を、撹拌機、温度計、コンデンサーおよび窒素導入口を備えた500mlの三口フラスコに入れる。水の理論量が安定するまで、反応混合物を窒素雰囲気下にて185℃で3時間加熱した。次いで、ジルコニウムテトラブタノラート(1.5g、ブタノール中80%、反応物の総重量の0.5重量%)を反応器にバッチ式で添加する。アセンブリを150℃で最大減圧下に3時間30分間段階的に入れ、余分な未反応酸を留去し、生成物187.4gを得る。活性化塩基性アルミナによる下流処理を粗反応生成物に対して行い、0.1mgKOH/gの酸価を有する油を得る。
【0104】
生成物の動粘度、粘度指数(VI)および流動点を評価し、表2に報告する。
【0105】
生成物の化学組成をガスクロマトグラフィーによって、トリメチロールプロパントリヘプタノアート98.8%およびトリメチロールプロパンジヘプタノアート0.03%、と確立した。
【0106】
2.耐酸化性の測定
酸化安定性は、酸素誘導時間および酸素誘導温度の2つを測定することによって決定される。酸素誘導時間および酸素誘導温度は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。
【0107】
酸素誘導時間の測定のために、試料を150℃に加熱した後、一定温度に保持する。次いで、これを酸化性雰囲気に曝露する。酸素と接触してから酸化が始まるまでの時間が、酸素誘導時間である。
【0108】
酸素誘導温度の測定のために、酸化性雰囲気下、反応が始まるまで一定の加熱速度で試料を加熱する。酸素誘導温度は、酸化反応が始まる温度である。
【0109】
【0110】
測定値は、2つの試料の150℃での酸素誘導時間が同程度であることを示している。本発明によるエステルは、比較例よりも高い酸素誘導温度を有する。したがって、本発明によるエステルは、非バイオベースアルコールから合成された通常のエステルよりも良好な耐酸化特性を有する。
【0111】
4.動粘度の測定値
動粘度は、規格ISO 3104に従って40℃および100℃で測定した。
【0112】
結果をmm2/s単位で表示し、以下の表2に示す。
【0113】
5.粘度指数の測定値
粘度指数(単位なし)は、規格ASTM D 2270に記載の試験方法に従って測定される。結果を以下の表2に示す。
【0114】
6.流動点の測定値
℃単位で表示される流動点は、規格ISO 3016に従って測定される。結果を以下の表2に示す。
【0115】
【0116】
これらの結果は、比較例とは異なり、触媒を添加せず、添加剤の添加による下流処理をせずに再生可能起源物質のみから合成された本発明によるエステルは、40℃および100℃での動粘度が比較例のものに近いことを示す。本発明によるエステルは、より高い粘度指数を示し、これは、本発明による潤滑剤基剤が温度に応じてより安定な粘度を有することを意味する。
【0117】
本発明の潤滑剤基剤は、比較例のトリメチロールプロパンの融点(60℃)よりも高いエリスリトールの融点(120℃)と相関して、より高い流動点を示すが、この値は依然として比較的低く、潤滑剤への適用に有利である。
【国際調査報告】