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特表2022-519256細胞培養および組織培養のリアルタイムモニタリングのための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(54)【発明の名称】細胞培養および組織培養のリアルタイムモニタリングのための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220314BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220314BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20220314BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/06
C12N5/07
C12M1/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544743
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(85)【翻訳文提出日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 IB2020050750
(87)【国際公開番号】W WO2020157697
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】1901273.1
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521338525
【氏名又は名称】ステムノベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120008
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 くみ子
(72)【発明者】
【氏名】シャーマ, ルーチ
(72)【発明者】
【氏名】クマール, バリンドラ
(72)【発明者】
【氏名】レッグ, ベン
(72)【発明者】
【氏名】アカンデ, フェミ
(72)【発明者】
【氏名】シュー, スモン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB01
4B029BB11
4B029DF10
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA02
4B029GB01
4B029GB02
4B029GB06
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QS36
4B063QX05
4B065AA90X
4B065BC50
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、細胞ベースまたは組織ベースのアッセイのリアルタイムモニタリングのための装置および方法を提供する。装置は培養チャンバを備える。培養チャンバは、少なくとも、流体の導入のための入口と、流体の除去のための出口と、培養チャンバを囲むための密閉可能なエンクロージャとを有する。培養チャンバはマイクロ環境を画定し、密閉可能なエンクロージャはマイクロ環境の周りにマクロ環境を画定し、マイクロ環境およびマクロ環境の各々が他方から独立して制御可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッセイのマルチパラメトリックリアルタイムモニタリングのためのマイクロ流体デバイスであって、
流体の導入のためのチャンバ入口、
流体の除去のためのチャンバ出口、および
培養チャンバ内のパラメータを検出するように構成された1つまたは複数の電極を備え、
マイクロ環境を画定する、
アッセイを実行するための少なくとも1つの培養チャンバと、
前記少なくとも1つの培養チャンバを囲むための、マクロ環境を画定する密閉可能なエンクロージャと、
前記マクロ環境のパラメータをモニタするための1つまたは複数のセンサとを備え、
前記マイクロ環境および前記マクロ環境の各々が他方から独立して制御可能である、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
エンクロージャ入口およびエンクロージャ出口をさらに備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記センサによって測定されたパラメータの変化に対応して前記マイクロ環境および/または前記マクロ環境を調整するためのコントローラをさらに備え、
前記コントローラが、所定のパラメータの0.1~5%の範囲内で前記マイクロ環境および/または前記マクロ環境を維持するようにプログラムされる、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記センサが、温度センサ、圧力センサ、グルコースセンサ、ガス組成センサ、および湿度センサからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記センサのうちの1つまたは複数が、前記エンクロージャ入口に、または前記エンクロージャ入口に隣接して位置する、請求項2から4のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記センサのうちの1つまたは複数が、前記エンクロージャ出口に、または前記エンクロージャ出口に隣接して位置する、請求項2から5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記エンクロージャ入口に、または前記エンクロージャ入口に隣接して位置する加熱手段をさらに備える、請求項2から6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記培養チャンバの下流に廃棄物チャンバをさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記培養チャンバが1ml以下の容積を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記培養チャンバに流体を正確に導入するための、前記チャンバ入口と流体連通するシリンジをさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記培養チャンバを撮像するように構成された撮像デバイスをさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
複数の培養チャンバを備え、その各々が他の培養チャンバから独立してマイクロ環境を画定する、請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記1つまたは複数の電極が、前記培養チャンバ内のコンダクタンスまたはインピーダンスの変化を検出する、請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記培養チャンバの表面が、共有結合されたポリマーを含むように修飾されている、請求項1から13のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
アッセイをさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを使用して、アッセイをリアルタイムでモニタおよび制御する方法であって、
a)(iii)前記アッセイを前記培養チャンバに導入すること、および
(iv)チャンバ入力口を介して培地を入力し、必要に応じて、培養物出力口を介して廃培地を出力すること
によって、前記マイクロ環境を生成するステップと、
b)前記培養チャンバを前記エンクロージャに配置して、前記マクロ環境を生成するステップと、
c)前記センサから取得した少なくとも1つの開始パラメータを測定して、基準を定義するステップと、
d)前記少なくとも1つの開始パラメータをモニタするステップと、
e)前記少なくとも1つの開始パラメータが、閾値を超えるまたは下回る値だけ所定のパラメータから外れている場合、前記マイクロ環境および/または前記マクロ環境をそれに応じて調整して、前記少なくとも1つの開始パラメータが前記閾値内の値に戻るようにするステップとを含む方法。
【請求項17】
細胞を培養する方法であって、
a)請求項1から15のいずれか一項に記載のデバイスの前記培養チャンバに細胞および培地を導入するステップと、
b)前記培養チャンバをシリンジ、廃棄物チャンバ、および場合により撮像デバイスに取り付けるステップと、
c)前記培養チャンバを前記密閉可能なエンクロージャに配置するステップと、
d)前記デバイス、前記シリンジ、および前記撮像デバイスを制御し、かつ前記センサおよび/または前記電極から取得したパラメータをモニタするように構成されたコンピューティングデバイスに、前記デバイスを接続するステップと、
e)所定の閾値内でパラメータを維持するステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養および組織培養のリアルタイムモニタリングのためのマイクロ流体デバイス、特に細胞ベースのアッセイにおける細胞培養および組織培養をモニタするためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、タンパク質、炭水化物、DNA、および細胞試料または組織試料などの、非常に少量(10億分の1~1000兆分の1リットル)の生物学的試料または化学的試料および試薬を使用する能力を有する。従来技術の細胞アッセイベースのマイクロ流体デバイスは、細胞ベースまたは組織ベースの試料内に含まれる流体を分析、分離、および検出することができる。これは、一般に、バルブ、ゲート、ポンプ、反応チャンバ、混合チャンバ、濃縮モジュール、濾過モジュール、および検出モジュールなどの要素を含むマイクロ流体ネットワーク内で流体を操作することによって達成される。これらの要素は、通常、コンピュータ制御下で熱的に作動させることができる。
【0003】
細胞アッセイベースのマイクロ流体デバイスは、通常、薬物効果、薬物動態、薬力学、および疾患モデリングを研究するためのプラスチック組織培養を使用する。このような構成は、組織固有の機能に必須の細胞間相互作用を正確に模倣することができない。したがって、従来技術の細胞アッセイベースのマイクロ流体デバイスは、多くの場合、長期間の細胞培養には適さない。一部にはこのような理由で、かつそれにより有用なインビトロデータがないことから、ほとんどの新薬は動物実験されている。動物実験は有効性、毒性、および他のパラメータの指標を提供するが、動物に対する薬物の効果が常に人間に置き換えられるとは限らない。
【0004】
製造上の制約により、マイクロ流体デバイスの大半は、均一な矩形断面から形成されている。ほとんどのマイクロ流体デバイスが簡単であるにもかかわらず、低品質のデバイスが普及している。このような低品質のデバイスは、チャネルの表面粗さ、応答時間の遅さ、ならびに特大のチャネルおよびチャンバおよび生物付着に起因する他の非効率性によって生じる流体流障害を受ける。
【0005】
生物付着は、細胞培養における使用を意図したマイクロ流体デバイスの制限として認識されている。したがって、細菌、ウイルス、および真菌胞子がマイクロ流体デバイスに入るのを防ぐことが望ましい。
【0006】
生物付着に加えて、細胞(または組織)培養物の生存性は、細胞アッセイの環境の変化によって悪影響を受ける。特に温度変化が問題となるが、これは、長いチャネルと大きい混合チャンバとを使用する従来技術のマイクロ流体デバイスにつきものである。このような設計は、制御が非常に困難な大きい熱損失につながる。さらに、流体がマイクロ流体デバイスを通過するときに細胞に加わる剪断応力が、細胞の損傷や培養の失敗につながるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景に照らして、本発明がなされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、アッセイのマルチパラメトリックリアルタイムモニタリングのためのマイクロ流体デバイスであって、流体の導入のためのチャンバ入口、流体の除去のためのチャンバ出口、および培養チャンバ内のパラメータを検出するように構成された1つまたは複数の電極を備え、マイクロ環境を画定する、アッセイを実行するための少なくとも1つの培養チャンバと、少なくとも1つの培養チャンバを囲むための、マクロ環境を画定する密閉可能なエンクロージャと、マクロ環境のパラメータをモニタするための1つまたは複数のセンサとを備え、マイクロ環境およびマクロ環境の各々が他方から独立して制御可能である、マイクロ流体デバイスを提供する。
【0009】
独立して制御されるマイクロ環境およびマクロ環境を使用することは、長期間にわたって細胞ベースまたは組織ベースのアッセイの環境を維持するのに役立つ。細胞ベースまたは組織ベースのアッセイの長期生存性を保証するために、例えば、温度、圧力、pHレベル、および酸素レベルなどのコアパラメータを厳しく制御することが必須である。1つまたは複数のパラメータの変化によって、細胞試料もしくは組織試料の損傷または死を生じさせるおそれがある。マイクロ環境の周りにマクロ環境を設け、それぞれの独立した制御を可能にすることにより、マイクロ環境は局所的な環境要因の変化の影響を受けにくくなる。さらに、マイクロ環境とマクロ環境との両方を独立して制御することは、ホメオスタシスを達成しようとする際に有益である。すなわち、細胞試料もしくは組織試料の状態およびパラメータの平衡を維持するために、マイクロ環境およびマクロ環境のあるパラメータにわずかな変化のみが必要とされるべきである。
【0010】
一部の実施形態において、密閉可能なエンクロージャは、密閉されたエンクロージャから環境媒体を導入および/または除去するための少なくとも1つの環境媒体口を備えることができる。これらは、エンクロージャ入口およびエンクロージャ出口と呼ぶことができる。環境媒体は、空気、気体、液体、水、または他の適切な媒体であり得る。
【0011】
前述したように、マイクロ環境とマクロ環境との両方のホメオスタシスを達成するには、感知される変化に対応してあるパラメータを変化させる必要がある。例えば、マクロ環境の温度が上昇し始めると、冷却媒体をエンクロージャに導入して、さらなる温度上昇およびその後の細胞培養物の損傷または死を防ぐことができる。少なくとも1つの環境媒体口を設けることにより、媒体をエンクロージャに導入することができ、かつ/または媒体をエンクロージャから除去することができる。一部の実施形態において、エンクロージャは、密閉されると、気密または水密となる。
【0012】
一部の実施形態において、デバイスは、マイクロ環境および/または細胞試料もしくは組織試料のパラメータをモニタするための1つまたは複数のセンサをさらに備えることができる。特に、これらのセンサは、電極の形態をとることができる。一部の実施形態において、デバイスは、マクロ環境のパラメータをモニタするための1つまたは複数のセンサをさらに備えることができる。一部の実施形態において、前記センサは、温度、圧力、ガス組成、pHレベル、電気化学、および湿度をモニタするように構成されたセンサを含むが、これらに限定されない。
【0013】
一部の実施形態において、1つまたは複数のセンサが、エンクロージャ入口に、またはエンクロージャ入口に隣接して位置する。一部の実施形態において、1つまたは複数のセンサが、エンクロージャ出口に、またはエンクロージャ出口に隣接して位置する。
【0014】
エンクロージャ入口に、またはエンクロージャ入口に隣接してセンサを位置決めすることにより、環境媒体がエンクロージャに入るときに環境媒体のパラメータを確実にモニタすることができる。したがって、感知されたパラメータを使用して、マイクロ環境および/またはマクロ環境に対するさらに必要な変更を判定することができる。エンクロージャ出口に、またはエンクロージャ出口に隣接してセンサを位置決めすることにより、環境媒体が密閉されたチャンバから出るときに、マイクロ環境および/またはマクロ環境に対する変更の効果をリアルタイムでモニタすることができ、さらに必要な変更に迅速に対処することができる。
【0015】
一部の実施形態において、デバイスは、センサによって測定されたパラメータの変化に対応してマイクロ環境および/またはマクロ環境を調整するためのコントローラをさらに備えることができる。コントローラは、所定のパラメータの0.1~5%の範囲内、好ましくは基準パラメータの3%以内でマイクロ環境およびマクロ環境を維持するようにプログラムされる。
【0016】
一部の実施形態において、デバイスは、エンクロージャ入口に、またはエンクロージャ入口に隣接して位置する加熱手段をさらに備えることができる。
【0017】
加熱手段を使用して、環境媒体が入口を通って密閉されたエンクロージャに入るときに、環境媒体を加熱する。環境媒体が予め定義された温度範囲内にあることが重要である。したがって、エンクロージャ入口に位置する、またはエンクロージャ入口に隣接して位置する加熱手段は、環境媒体が入口に入るときに環境媒体を選択的に加熱して、環境媒体が密閉されたエンクロージャに入るときに最適な温度になるようにする。入口に関連するバルブは、環境媒体が予め定義された温度範囲内にあると判定されなければ、閉じたままであるように構成され得る。
【0018】
本発明の実施形態は、細胞ベースまたは組織ベースの試料をその場で表面に結合しようとするのではなく、予め作製された「チップ」(本明細書で培養チャンバと呼ばれる)上において、制御された条件下で試料を外部から調製することができる。予め作製されたチップは、調製されると、本発明のマイクロ流体デバイスへの挿入前に保存され得る。このような構成により、早期の細胞死または組織死の可能性が低下し、研究者が複数の試料を同時に調製することが可能になる。
【0019】
一部の実施形態において、デバイスは、細胞培養チャンバの出口の下流に廃棄物チャンバをさらに備えることができる。
【0020】
廃棄物チャンバは、マイクロ環境および/もしくはマクロ環境からの廃棄環境媒体、または細胞試料もしくは組織試料に関連する廃棄物を保存する。この廃棄物をモニタすることにより、特定される前の変化に対応して、マイクロ環境および/またはマクロ環境に対するあらゆる効果が可能になる。したがって、前述したように、ホメオスタシスを達成しようとする際に、追加の変化を指示し、モニタすることができる。
【0021】
本明細書に記載されるように、細胞ベースまたは組織ベースのアッセイを含む基板(チップなど)を、本発明のデバイスまたは方法において使用することができる。一部の実施形態において、チップは、ガラスなどのケイ酸塩材料を含む。本明細書における「チップ」への言及を「基板」と呼んでもよいことが理解されよう。一部の実施形態において、チップの表面は化学修飾されている。さらなる実施形態において、チップの表面は、ポリマー(例えば、ヒドロゲル)に共有結合されている。シラン処理などによりポリマーを表面に共有結合させることによって、チップを修飾することができる。チップの表面に結合したポリマーを、架橋剤を使用してさらに修飾することができる。
【0022】
一部の実施形態において、ポリマーはヒドロゲルを含む。ヒドロゲルに使用する適切なポリマーは、当業者によって公知であり、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、MATRIGEL(登録商標)、ジチオールポリマー(例えば、アクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)-ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)-ビニルスルホンなどを含むことができる。特に適切なポリマーは、例えば、ポリアクリルアミドであり得る。
【0023】
さらなる実施形態において、ヒドロゲルは、チップの表面に薄膜、ドーム形状、または平坦な上面を含む。これは、試験する実験試薬の性質または必要な細胞形態に応じて選択されることが理解されよう。一部の実施形態において、ヒドロゲルは、約1~12mmなどの少なくとも1mmの直径を含む。一部の実施形態において、ヒドロゲルは、約0.1~2mmなどの少なくとも0.1mmの高さを含む。
【0024】
特に適切なポリマーは、例えば、官能化ポリマーであり得る。したがって、一部の実施形態において、ポリマーは、1つまたは複数の官能基を含む。官能基を使用して、DNA、RNA、またはタンパク質などの対象の生体分子への付着を可能にすることができる。このような生体分子はまた、細胞ベースまたは組織ベースのアッセイに使用される細胞または組織との相互作用のために重要であり得る。
【0025】
一部の実施形態において、ポリマーは、1つまたは複数の細胞外基質(ECM)成分、特に1つまたは複数のECMタンパク質でコーティングされる。ECMは、すべての組織および器官内に存在する非細胞成分である。ECMは、細胞成分の物理的な足場を提供するとともに、組織形態形成、分化、およびホメオスタシスに関与する必須の生化学的分子を含む。ECMは、支持する細胞型に応じて変化する広範囲の基質タンパク質からなる。したがって、一部の実施形態において、ECMタンパク質は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン(l-IV型)、エラスチン、またはそれらの組合せを含む。ECM成分は、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、およびケラタン硫酸などのプロテオグリカン、またはヒアルロン酸などの他の多糖類を含むこともできる。チップに1つまたは複数のECM因子および/またはタンパク質を加えることにより、様々な組織における生理学的間質組成のシミュレーションが可能になる。
【0026】
一部の実施形態において、ポリマーは、1つまたは複数の生理活性剤でコーティングされる。このような生理活性剤は、ホルモン、成長因子、酵素、リガンド、および受容体成長因子を含む。特に、一部の実施形態において、ポリマーは、1つまたは複数の成長因子、例えば、表皮成長因子、インスリン様成長因子、形質転換成長因子、または血小板由来成長因子から選択される成長因子でコーティングされる。
【0027】
ポリマー(ヒドロゲル)を含む修飾されたチップを使用して、少なくとも1つの細胞を封入することができる。したがって、一部の実施形態において、チップは、1つまたは複数の細胞型の器官型細胞培養物を含む。特に、細胞培養物は、ヒト細胞または動物細胞などの哺乳動物細胞を含む。一部の実施形態において、細胞培養物は細胞株に由来する。一部の実施形態において、細胞培養物は、人工多能性幹細胞などの幹細胞に由来する。本明細書に記載するように、器官型細胞培養物を強化するヒドロゲルに共有結合するようにチップの表面を修飾することができ、これにより、複雑な組織系の特徴である細胞生理機能および組織生理機能を模倣する。本明細書における「器官型」への言及は、細胞組成、形態、ならびに細胞および/または組織が由来する器官の生理学的特性を保持する条件下で培養された細胞および/または組織を指す。
【0028】
本明細書に記載されているチップの表面修飾を使用して、インビボ生理機能をシミュレーションするともに、より迅速かつ効率的な定量的データの取得を可能にする、高い再現性を持つコスト効率の高い方法でチップを製造することもできる。このチップを使用して、薬物効果を研究するためのアッセイ(すなわち、薬物スクリーニング)、毒性のメカニズム(薬物動態および薬力学など)、ならびに疾患モデリングなどの、本発明で使用するための細胞ベースまたは組織ベースのアッセイをサポートすることができる。
【0029】
一部の実施形態において、チップは、シリコンガスケットなどのガスケットを含む。ガスケットを使用して、シラン処理セルを形成し、漏れを防ぐことができる。
【0030】
本発明の別の態様は、本発明によるマイクロ流体デバイスを使用して、アッセイをリアルタイムでモニタおよび制御する方法であって、
a)(i)アッセイを培養チャンバに導入すること、および
(ii)チャンバ入力口を介して培地を入力し、必要に応じて、培養物出力口を介して廃培地を出力すること
によって、マイクロ環境を生成するステップと、
b)培養チャンバをエンクロージャに配置して、マクロ環境を生成するステップと、
c)センサから取得した少なくとも1つの開始パラメータを測定して、基準を定義するステップと、
d)少なくとも1つの開始パラメータをモニタするステップと、
【0031】
少なくとも1つの開始パラメータが、閾値を超えるまたは下回る値だけ所定のパラメータから外れている場合、マイクロ環境および/またはマクロ環境をそれに応じて調整して、少なくとも1つの開始パラメータが閾値内の値に戻るようにするステップとを含む方法を提供する。
【0032】
細胞試料または組織試料における新薬の試験では、制御された一貫した条件下で試料を維持する必要がある。したがって、試料がアッセイに挿入されたらすぐに条件が最適であることを保証することが重要である。したがって、本発明のこの態様では、試料を収容することを意図したマイクロ環境が生成され、マイクロ環境の第1のパラメータが予め決定された範囲内で制御される必要がある。試料がマイクロ環境に挿入されると、第1のパラメータがモニタされ、閾値を超えるまたは下回るそのパラメータの変化は、第1のパラメータに補正ステップを適用することによって対処される。温度を例にとり、マイクロ環境における最適温度が摂氏37度であると仮定する。試験期間中に、温度が低下し始める。温度がモニタされ、温度の変化が例えば3%に近づき始めると、すなわち温度が摂氏35.9度に近づくと、ヒータが作動されてマイクロ環境の温度を上昇させる。
【0033】
さらなる態様として、本発明は、細胞を培養する方法であって、
a)本発明によるデバイスの培養チャンバに細胞および培地を導入するステップと、
b)培養チャンバをシリンジ、廃棄物チャンバ、および場合により撮像デバイスに取り付けるステップと、
c)培養チャンバを密閉可能なエンクロージャに配置するステップと、
d)デバイス、シリンジ、および撮像デバイスを制御し、かつセンサおよび/または電極から取得したパラメータをモニタするように構成されたコンピューティングデバイスに、デバイスを接続するステップと、
e)所定の閾値内でパラメータを維持するステップとを含む方法を提供する。
【0034】
マイクロ環境に直接変更を加えるのではなく、代わりに、マクロ環境内にマイクロ環境を収容し、マクロ環境のパラメータを変化させることが有利である。マクロ環境の変化は、マイクロ環境のより緩やかで段階的な変化をもたらすため、マイクロ環境のホメオスタシスの達成に役立つ。このような構成では、連続的にモニタされるマクロ環境のわずかな変化は、マイクロ環境のモニタするパラメータにほとんど影響を与えないため、マイクロ環境をモニタする頻度が少なくて済む。
【0035】
一部の実施形態において、方法は、第1のパラメータおよび/または第2のパラメータの補正後に細胞ベースまたは組織ベースのアッセイに関連する第3のパラメータを測定するステップと、第3のパラメータの測定値が基準から閾値を超えて外れている場合、第1のパラメータおよび/または第2のパラメータをさらに補正するステップとをさらに含む。
【0036】
細胞試料または組織試料に対するマイクロ環境および/またはマクロ環境の変化の効果をモニタすることが有利である。試料に関連する廃培地は、1つまたは複数のパラメータがモニタされる廃棄物ウェルに分流される。パラメータの変化は、マイクロ環境および/またはマクロ環境のパラメータの変化によって生じると予想される変化と比較される。
【0037】
本発明をより十分に理解するため、または本発明がどのように実施され得るかを示すために、以下で、添付図面を参照しながら、本発明による詳細な実施形態、方法、およびプロセスを例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明によるマイクロ流体デバイスを示す図である。
図2図2a~図2cは、本発明によるマイクロ流体デバイスの最適な概略図であり、チャンバ内の細胞に対する剪断応力を軽減するために培養チャンバに対する液体の流入および流出を最適化するようにモデル化された流体経路を示す図である。
図3】本発明による培養チャンバ上の電極のレイアウト例を示す図である。aおよびbと表示された領域が、細胞型などに従ってカスタマイズされ得る様々な「検出ゾーン」である。
図4図4a、図4bは、デバイスが多重化される、または並行して実行される様子を示し、図4aには、10の「スポーク」に沿って合計30の異なる培養チャンバへ流れる単一の流体入口点があり、図4bは、各チャンバがそれ自体のシリンジによって供給され得る、より直線的な構造を示す図である。
図5】デバイスが実装され得るコンピュータ制御統合システムの概略図である。
図6a】ロック阻害剤がある場合(A、B、C)およびロック阻害剤がない場合(D、E、F)の培養チャンバ内における細胞接着および細胞増殖を示し、チャンバを通る流れが、播種後60分(4倍の倍率-A、D、10倍の倍率-B、E、および20倍の倍率-C、F)における均一な接着および分布を示す図である。
図6b】0日目、1日目、および2日目における、ロック阻害剤がある場合およびロック阻害剤がない場合の細胞接着および分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
マイクロ流体デバイスは、一般に、1つまたは複数のチャネル、プロセスモジュール、およびアクチュエータを各々含む1つまたは複数のマイクロ流体ネットワークを画定する基板を含む。材料、例えば、試料および試薬をマイクロ流体ネットワーク内で操作して、一般に何らかの標的の有無を判定する。
【0040】
図1を参照して、細胞培養または組織培養に使用されるマイクロ流体デバイス8を示す。図1に示すように、マイクロ流体デバイスは、細胞試料または組織試料を受け入れるためのウェル12を特徴とする培養チャンバ10を備える。試料は、チャンバ入口14およびチャンバ出口16と流体連通する。マイクロ流体デバイス8は、マイクロ流体デバイス8内で非常に少量の流体を操作するための1つまたは複数の混合チャンバ、バルブ、およびポンプ(図示せず)を備えてもよい。入口14および出口16の各々が、平面視でマイクロ流体デバイス8の中心線に合わせて示されている。培養チャンバ10は、マイクロ流体デバイス8の横方向および長手方向の交点に位置決めされたウェル12を備える。
【0041】
培養チャンバのウェル12は、約600ミクロンの深さと約7000ミクロンの直径とを有する。チャンバ10、またはウェル12のみが、細胞試料もしくは組織試料を直接埋め込んで培養する基材においてヒドロゲルを収容することができる。本発明によるヒドロゲルは、約200ミクロンの高さを有する。チャンバ入口14およびチャンバ出口16の構成により、チャンバ10に出入りする流体がヒドロゲル全体に均一に分布されることを保証して、a)ヒドロゲルに埋め込まれたすべての細胞が十分な栄養分を受け取ることを保証し、b)細胞が十分に分布されることを保証し、かつc)チャンバ10から廃液を排出する。
【0042】
細胞組織試料の長期生存性には、マイクロ環境とマクロ環境との両方を正確に制御することが必要である。マクロ環境は、マイクロ流体デバイス8を密閉可能なエンクロージャ内で囲むことによって提供される。マクロ環境は、例えば、温度センサ、湿度センサ、COセンサ、および圧力センサを含むセンサを介してマクロ環境内の複数のパラメータをモニタすることによって制御される。マイクロ環境で使用可能な、電極であり得る追加のセンサは、例えば、試料内の酸素レベル、グルコース濃度、電気インピーダンス、およびpHをモニタするためのセンサを含む。モニタされ得るさらなるパラメータは、成長因子、電解質、およびタンパク質を含む。
【0043】
マイクロ環境は、マイクロ流体デバイスの内部環境を指す。
【0044】
さらに、細胞培養チャンバからの廃液培地をモニタして、細胞培養物または組織培養物の生存性、およびマイクロ環境またはマクロ環境の変化によって生じる細胞培養物または組織培養物に対する効果を判定する。流体導管は、細胞培養チャンバの出口を廃棄物チャンバ24に接続する。廃液のあるパラメータが、出口内のもしくは出口に隣接するセンサ、または廃棄物チャンバ内のもしくは廃棄物チャンバに隣接するセンサによって測定される。
【0045】
培養チャンバ10は、細胞培養物の変化によって生じるインピーダンスまたは導電性の変化を測定するように構成された電極18を備える。感知領域Sは、例えば、(aおよびbで示す)個々の細胞をモニタする目的で細分化され得る。
【0046】
培養チャンバは、図4aおよび図4bに示すように多重化され得る。
【0047】
前述したセンサの各々は、処理手段を備えるコンピューティングデバイス34に接続される。コンピューティングデバイス34は、選択されたパラメータの変化をモニタし、略一貫した環境パラメータを維持するようにマイクロ環境への変更を指示する。例えば、発熱体をマイクロ環境内に設けて、細胞試料または組織試料が一定の温度で維持されることを保証する。
【0048】
密閉可能なエンクロージャは、密閉されたジャケット付きチャンバ、すなわちインキュベータを備える。マイクロ流体デバイス8のための少なくとも1つのホルダが、密閉されたエンクロージャ内に設けられる。密閉可能なエンクロージャは、複数のマイクロ流体デバイス10(図4bおよび図5)を受け入れるように構成された複数のホルダまたは単一のホルダを備えることができる。密閉可能なエンクロージャは、マイクロ流体デバイス8の入口および出口のためのアクセスポートを提供する。密閉可能なエンクロージャは、環境流体、すなわち酸素または加熱した媒体の導入または除去のための1つまたは複数の潅流孔も提供する。アクセスポートおよび灌流孔の各々は、それぞれのバルブによって閉じることができる。ポンプも、各アクセスポートおよび灌流孔に関連付けられる。一部の実施形態において、ポンプは、密閉されたエンクロージャまたはマイクロ流体デバイス8からの流体の導入および除去の両方を行うことができる。他の実施形態において、ポンプは、密閉されたエンクロージャまたはマイクロ流体デバイス8からの流体の導入および除去のいずれかを行うことができる。
【0049】
一実施形態において、密閉可能なエンクロージャは、少なくとも部分的に透明であり、エンクロージャから試料を取り出す必要なく細胞試料または組織試料の可視性をもたらす。密閉可能なエンクロージャは、顕微鏡を通して細胞試料または組織試料の検査を可能にする1つまたは複数の表示領域を含むこともできる。他の実施形態において、1つまたは複数のカメラを、密閉可能なエンクロージャ内で培養チャンバ12の上方に位置決めすることができる。
【0050】
一般に、マイクロ環境およびマイクロ環境は各々、細胞ベースまたは組織ベースのアッセイの導入前に調製される。例えば、温度が摂氏37度、湿度が90%、酸素レベルが21%、かつCOレベルが5%になるように、マクロ環境を調製することができる。マイクロ環境は、アッセイ中の細胞試料または組織試料の型に応じて調製される。特定の細胞型または組織型に必要であればマイクロ環境およびマクロ環境を変更することができ、示した値は例に過ぎないことが理解されよう。
【0051】
マイクロ環境およびマクロ環境のあるパラメータを測定して、測定値が予め定義された限界値内に確実に収まるようにする。この初期測定値を使用して、マイクロ環境およびマクロ環境の両方のあるパラメータの基準測定値を確立する。細胞試料または組織試料の損傷または死を防ぐために、マイクロ環境およびマクロ環境の測定されたパラメータをモニタして、各パラメータの基準測定値からの偏差を特定する。マイクロ環境のパラメータは、一般に3~10時間ごと、好ましくは4~6時間ごとに測定される。しかしながら、試料の性質ならびに使用する実験方法およびプロトコルに応じて、マイクロ環境をより多くまたは少なくモニタしてもよい。例えば、1日を超える細胞培養の期間では4~6時間ごとの周期的なモニタリングが必要であり得るのに対し、細胞培養の期間が短くなるほど、1~15分ごとのより定期的なモニタリングが必要になり得る。さらに、カメラを使用することにより、研究者は、密閉可能なエンクロージャを開くことなく、リアルタイムで細胞培養物を見ることができる。
【0052】
マクロ環境のパラメータは、より頻繁に、好ましくは少なくとも1秒に1回測定される。時には、マクロ環境のあるパラメータを1秒に数回モニタして、例えば、温度および気体組成のリアルタイム観測を行う。このデータを操作して、マイクロ環境全体の平均測定値を提供することができる。マイクロ流体デバイス8の近くに位置するセンサを使用して、局所化されたパラメータをモニタすることができる。
【0053】
パラメータ基準測定値からの偏差が判定された場合、パーセント偏差が計算される。偏差閾値がパラメータ基準測定値の±3パーセントであると仮定すると、偏差閾値を超えたと特定される測定値に関して補正処置が適用される。マイクロ環境またはマクロ環境のいずれかの温度が温度基準測定値から3パーセントを超えて外れている場合、加熱手段は、関連する環境に熱エネルギーを加えるか、または、所定の期間、関連する環境に加えられる熱エネルギーの量を減らすように指示される。
【0054】
培養チャンバからの廃液培地を、あるパラメータについて周期的に、すなわち15分ごとに測定して、細胞試料または組織試料に対する補正処置の効果をモニタする。細胞試料または組織試料のパラメータに対する効果が許容値外であると判定された場合、さらなる補正処置が細胞試料または組織試料に適用される。測定周期は、細胞培養の長さに応じて決まる。48時間の細胞培養の場合、1時間に1回の測定周期で十分であり得る。より長い細胞培養の場合、4時間に1回の測定周期で十分であり得る。廃棄物パラメータの測定周期は、細胞培養の性質および継続時間に基づいて決定される。
【0055】
マイクロ環境、マクロ環境、および細胞試料または組織試料のパラメータをモニタする目的は、第1に、両方の環境のパラメータをできるだけ一定に維持し、かつ細胞試料または組織試料をモニタし、必要に応じてマイクロ環境およびマクロ環境を調整して細胞または組織の生存性を維持することである。
【0056】
また、特に本発明で使用する器官型細胞培養のためのチップの表面を修飾する方法について説明する。前記方法は、ポリマー、特にヒドロゲルをチップの表面に共有結合することを含む。ポリマーをチップの表面に共有結合することは、特に、チップがケイ酸塩材料、例えばガラスなどのヒドロキシル基を含む表面を含む場合、シラン処理を含むことができる。シラン処理は、シラン溶液でチップの表面を官能化することを含む。これにより、ポリマーとチップの表面との間の結合剤として作用するシラン単層が形成される。
【0057】
チップの表面を、最初にUVまたはオゾンプラズマ処理などによって処理して、活性化ヒドロキシル基を生成することができる。チップ表面が順調に処理される(すなわち、活性化ヒドロキシル基が提供される)と、湿潤性の向上、低接触角、接着性の向上、および/または親水性の発揮をもたらすことができる。したがって、修飾された表面を、湿潤時の親水性試験および/または接触角の評価によって確認することができる。
【0058】
処理後、シラン溶液を用いてチップの表面をインキュベートする。適切なシラン溶液を、例えば、トルエンなどの無水有機溶媒に溶解されるアルコキシシランを用いて調製することができる。適切なアルコキシシランは、例えば、アミノシラン、グリシドキシシラン、およびメルカプトシランであり得る。特に適切なアミノシランは、例えば、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン、(3-アミノプロピル)-ジエトキシ-メチルシラン、(3-アミノプロピル)-ジメチル-エトキシシラン、および(3-アミノプロピル)-トリメトキシシランであり得る。特に適切なグリシドキシシランは、例えば、(3-グリシドキシプロピル)-ジメチル-エトキシシランであり得る。特に適切なメルカプトシランは、例えば、(3-メルカプトプロピル)-トリメトキシシランおよび(3-メルカプトプロピル)-メチル-ジメトキシシランであり得る。一実施形態において、シラン溶液は、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートを含む。この方法は室温で実行することができる。
【0059】
一部の実施形態において、方法は、チップの表面をシラン処理し、次いでポリマー(例えば、ヒドロゲル)を用いてチップをインキュベートすることを含む。インキュベーションは、室温で少なくとも1時間、チップの表面にポリマーを塗布することを含むことができる。チップの表面に塗布するためのヒドロゲルとして使用するポリマーは、市販のものであるか、または、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば、重合のために架橋剤および安定剤を塗布する前にポリマーを溶液に溶解させることによって作られてもよい。
【0060】
一部の実施形態において、方法は、ポリマーの塗布前にチップの表面を殺菌する(すなわち、微小汚染物または破片を除去する)ことを含む。殺菌は、チップの表面にUV照射することを含むことができる。
【0061】
一部の実施形態において、方法は、チップの表面のポリマーに細胞外基質成分および/またはタンパク質を塗布することをさらに含む。
方法は、チップの表面のポリマー(すなわち、ヒドロゲル)を細胞に接触させることをさらに含むことができる。本実施形態は、細胞を培養する目的で細胞を播種することに言及する。当業者に公知であるように、通常、細胞懸濁液がチップの表面に移され、細胞が接着するのに十分な時間が与えられる。その後、共有結合されたポリマーと細胞とを含むチップを、本明細書に記載のマイクロ流体デバイスに移すことができる。
【0062】
一部の実施形態において、方法は、本明細書に記載の方法/デバイスにおいて使用した後にチップの表面からポリマーを除去することをさらに含む。本実施形態により、遺伝子発現研究などにおいて、その後の下流分子解析のための細胞集団および/または細胞環境の評価が可能になる。
【0063】
本明細書で使用されるとき、マイクロ流体とは、幾何学的に少量に制限された流体の操作および精密制御のためのデバイスを指す。通常、関係する量はサブミリリットル、すなわち1ml以下である。
【0064】
本明細書で使用されるとき、マルチパラメトリックとは、複数のパラメータの測定を指す。通常、これは異なるパラメータの同期間または同時測定である。測定は連続的または断続的であり得る。一般的なパラメータは、特に、コンダクタンス、インピーダンス、pH、代謝活性、濁度、溶解ガスを含む。
【0065】
本明細書で使用されるとき、リアルタイムとは、パラメータの発生時または発生直後のパラメータの測定を指す。
【0066】
本明細書で使用されるとき、アッセイとは、検体の質および/または量を判定するための調査手順を指す。より広い文脈では、アッセイは実験に類似し得る。
【0067】
本明細書で使用されるとき、培養チャンバとは、デバイス内のミリリットルまたはサブミリリットルサイズのチャンバを指し、これを通して流体を供給することができる。通常、流体は入口を介して培養チャンバに入り、出口を介して出る。一般に、アッセイは培養チャンバ内で実行される。
【0068】
一実施形態において、培養チャンバは1ml以下の容積を有する。
【0069】
一実施形態において、培養チャンバは、0.1μm~1mlの範囲の容積を有する。
【0070】
通常、新鮮培地が入口を介して培養チャンバに導入され、廃培地が出口を介して培養チャンバから出る。廃培地は、培養チャンバ内で発生するアッセイに関する貴重な情報を提供することができるため、さらなる分析のために廃培地を捕捉することが望ましい場合があることが理解されよう。
【0071】
本明細書で使用されるとき、電極とは、培養チャンバに存在する1つまたは複数の電極を指す。電極は、チャンバ内のパラメータを非侵襲的にモニタする。例えば、培養チャンバが細胞を含む場合、電極は、細胞およびそれらの生理学的変化をインビトロでモニタすることができる。正確に測定したインピーダンスは、電極によって測定可能な特に有益なパラメータである。
【0072】
一部の実施形態において、電極は、培養チャンバ内の基板をCrおよびAuで最適な所定のパターンにコーティングすることによって、基板上に置かれる。電極はワイヤボンディングされ、または導電テープが導電性測定に使用される。
【0073】
一部の実施形態において、電極間の間隙は10マイクロメートル~100マイクロメートルの範囲である。
【0074】
一部の実施形態において、電極のピッチは0.1mm~1mmの範囲である。
【0075】
本明細書で使用されるとき、マイクロ環境とは、培養チャンバ内の比較的封じ込められた小さい環境を指す。これに対して、本明細書で使用されるとき、マクロ環境とは、マイクロ環境を囲むより大きい環境を指す。通常、マイクロ環境の周りに「緩衝域」を作成する手段としてマクロ環境を制御することが望ましいため、マクロ環境も封じ込められている。
【0076】
一部の実施形態において、デバイスは、マクロ環境のパラメータをモニタするための1つまたは複数のセンサを備える。
【0077】
マクロ環境の情報を使用してマイクロ環境をより細かく制御することができるため、マイクロ環境に加えてマクロ環境をモニタすることが有用である。
【0078】
有利には、マイクロ環境の周りにマクロ環境を設けることによって、マイクロ環境を、例えば急激な温度変化から保護することができる。
【0079】
一実施形態において、デバイスは、センサまたは電極によって測定されたパラメータの変化に対応してマイクロ環境および/またはマクロ環境を調整するためのコントローラをさらに備える。コントローラは、所定のパラメータの0.1~5%の範囲内でマイクロ環境および/またはマクロ環境を維持するようにプログラムされる。
【0080】
一部の実施形態において、調整は、廃培地で検出されたパラメータに対応して行われる。
【0081】
本明細書で使用されるとき、廃培地とは、出口を介して培養チャンバから出る培地または流体を指す。代謝産物、毒素、およびチャンバ内で起こっていることの他の指標のために、廃培地をモニタすることが有益である。例えば、廃培地中に放出される毒素をモニタすることは、チャンバ内で培養されている細胞の健康状態の指標となり得る。同様に、pH、溶解ガス、濁度、および他の多くのパラメータをモニタすることができる。
【0082】
一実施形態において、センサは、温度センサ、圧力センサ、pHセンサ、グルコースセンサ、ガス組成センサ、および湿度センサからなる群から選択される。
【0083】
一実施形態において、センサのうちの1つまたは複数が、エンクロージャ入口に、またはエンクロージャ入口に隣接して位置する。
【0084】
一実施形態において、センサのうちの1つまたは複数が、エンクロージャ出口に、またはエンクロージャ出口に隣接して位置する。
【0085】
一般に、マクロ環境は入口と出口とを備え、これらを通して、例えば水または空気を追加/除去することができる。例えば、温水を加えて、培養チャンバのマイクロ環境の周りに水浴を作成し、マイクロ環境を緩やかに温めることができる。例えば、培地を直接温める代わりにこのようにすることによって、マイクロ環境内の変化をより着実に調整し維持することができる。
【0086】
一実施形態において、デバイスは、エンクロージャ入口に、またはエンクロージャ入口に隣接して位置する加熱手段を備える。
【0087】
一実施形態において、デバイスは、チャンバ出口の下流に廃棄物チャンバを備える。
【0088】
本明細書に開示されたデバイスは、統合システムとして提供され得る大型システムの一部を形成することができる。したがって、一部の実施形態において、デバイスは、培養チャンバに流体を正確に導入するための、チャンバ入口と流体連通するシリンジをさらに備える。
【0089】
シリンジを手動または自動で作動させ、かつコンピュータ制御することにより、(例えば、デバイスから離れた場所から)遠隔制御を行うことができる。
【0090】
さらにまたは代わりに、デバイスは、システム内に組み込まれた、顕微鏡などの撮像デバイスをさらに備えることができる。
【0091】
したがって、一実施形態において、デバイスは、培養チャンバを撮像するように構成された撮像デバイスをさらに備える。
【0092】
有利には、培養チャンバを撮像することにより、マクロ環境から培養チャンバ/マイクロ環境を取り出す必要なく、アッセイのリアルタイムモニタが可能になる。シリンジと同様に、撮像デバイスを手動または自動で調整し、かつコンピュータ制御することにより、遠隔制御を行うことができる。
【0093】
一部の実施形態において、撮像デバイスはXYZ方向に移動可能であり、撮像デバイスを電動式にしてこれらの動きを制御することができる。一般に、撮像デバイスは、デバイス(培養チャンバ)が定位置に固定されたままである間に移動する。
【0094】
一部の実施形態において、記載されたシステムは、エンクロージャ内に複数のデバイスまたは複数の培養チャンバを備えることができる。有利には、撮像デバイスは、個々の培養チャンバ間で移動可能である。一般に、各培養チャンバはそれ自体のシリンジに接続され、それ自体の廃棄物チャンバを有する。
【0095】
一部の実施形態において、デバイスは、並行して実行される複数の培養チャンバを備え、その各々が他の培養チャンバから独立してマイクロ環境を画定する。
【0096】
本明細書で使用されるとき、「並行して」とは物理的に平行であること、またはより適切には、アッセイが同時もしくは同期間に実行されることを意味する。
【0097】
培養チャンバ内に収容されたアッセイは、2次元アッセイまたは3次元アッセイであり得る。
【0098】
2次元アッセイの場合、培養チャンバの表面は、当技術分野で公知の方法を使用して修飾される。例えば、ホウケイ酸ガラス、セラミックス、プラスチック(例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、PMMA)の表面修飾と細胞外基質の組合せとにより、細胞培養、組織培養、または器官特異培養が可能になる。一部の例において、アッセイは細胞ベースではなく、例えば、ヌクレオチドの合成に適用可能であり得る。
【0099】
3次元アッセイの場合、培養チャンバ内の生体基質タンパク質ゲルまたは合成ヒドロゲルが、細胞または組織の宿主となる。さらに、ゲルは、画定された領域内の複数の細胞型の宿主となることができる。例えば、肝細胞分化はこの設計に適している。培養チャンバの設計特徴により、成長因子および小分子を含む化学的に定義された媒体の選択的な追加による、細胞接着、均一な分布、ならびに定方向性分化が可能になる。3次元アッセイを、オルガノイドの宿主となるように実施することができる。
【0100】
培養チャンバの形状を、入口から出口までの流体の異なるフローパターンを達成するように調整することができる。異なるチャンバ形状により、大きく異なるフローパターンと培養チャンバに加わる剪断応力とを生じさせることができる。ある形状が、細胞の播種および分布を必要とするアッセイに特に有益であることがわかっている。
【0101】
本明細書に記載のデバイスは、長期間の細胞培養、例えば、数時間または数日にわたる細胞培養に使用するのに特に有用である。
【0102】
本発明のデバイスは、培養チャンバ内に良好な細胞分布を提供し、細胞分化を可能にすることが示されている(図5および図6参照)。有利には、これによって、分化細胞が成長する、「生体内様」環境をより提供し「器官様」細胞培養が可能になる。デバイスは、肝実質細胞、クッパー細胞などの分化した肝細胞を提供することが示されている。この器官様(またはオルガノイド)系により、例えば、肝毒性をスクリーニングできる薬物候補を導入することによって、細胞培養に取り組むことが可能になる。
【0103】
さらに有利には、デバイスおよびデバイス周囲の任意選択のシステム(例えば、シリンジ、撮像デバイスなど)により、例えば、自動化を制御するコンピュータシステムへの遠隔ログインを介して、デバイスの遠隔制御が可能になる。あるいは、ソフトウェアを使用してパラメータをモニタし、閾値に違反した場合にパラメータを自動的に補正することができ、または、エラーが発生した場合にアラートを発することができる。遠隔アクセス可能な撮像デバイスがあれば、例えば世界のどこからでも閲覧が可能になる。
【0104】
いくつかの実施形態を参照して本発明を例として説明したが、本発明は開示された実施形態に限定されないこと、ならびに、添付の特許請求の範囲に定義される発明の範囲から逸脱することなく、代替実施形態を構成することができることが当業者には理解されよう。
【0105】
本明細書の文脈において、「備える(comprising)」は「含む(including)」と解釈されるべきである。
【0106】
ある要素を備える本発明の態様は、関連要素「からなる」または「から本質的になる」代替実施形態に及ぶことも意図している。
【0107】
技術的に適切な場合、本発明の実施形態を組み合わせることができる。
【0108】
実施形態は、ある特徴/要素を備えるものとして本明細書に記載される。本開示は、前記特徴/要素からなるまたは本質的になる別個の実施形態にも及ぶ。
【0109】
特許および出願などの技術的参考文献は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0110】
本明細書に具体的かつ明示的に列挙された任意の実施形態は、単独で、または1つもしくは複数のさらなる実施形態と組み合わせて、ディスクレーマの基礎を形成することができる。

図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7
【国際調査報告】