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特表2022-519354船舶燃料消費を削減するための方法およびシステム
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  • 特表-船舶燃料消費を削減するための方法およびシステム 図1
  • 特表-船舶燃料消費を削減するための方法およびシステム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-23
(54)【発明の名称】船舶燃料消費を削減するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20220315BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20220315BHJP
   B63B 79/30 20200101ALI20220315BHJP
   G01C 21/10 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
B63B79/40
B63B79/30
G01C21/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544806
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(85)【翻訳文提出日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2020052576
(87)【国際公開番号】W WO2020161055
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】19155930.1
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】ストヤノビチ,アイバン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,スティーブン・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ニーダム,クリストファー・デベセヘ
(72)【発明者】
【氏名】ゴッデリッジ,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘリウェル,ジェームス・マシュー
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA14
2F129BB03
2F129BB20
2F129DD47
(57)【要約】
履歴船舶データを使用して、船舶のドラフト、速度、およびトリムを最適化することによる、船の燃料消費の削減のための方法。履歴のグローバルなオンラインデータは、その以前の航海に関連付けられた複数の船舶運用パラメータについて収集される。収集されたデータの最初のフィルタリングおよびクリーニングの後、データを分析して、船舶の所定の速度に最適なドラフト、速度、およびトリムを決定するプロセスについて説明する。決定された最適なドラフト、速度、およびトリムの値は、次に、船長または自動ドラフトおよびトリム最適化システムに提示され、現在のドラフトおよびトリムを調整する。したがって、本出願は、履歴船舶データを分析して、最適なドラフト、トリム、および速度に関するアドバイスを提供する方法を開示する。達成可能な燃料節約を予測し、達成された燃料節約を記録するための方法もまた開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最適化されている船舶の履歴船舶データの分析を使用して、バラストおよび積載状態において前記船舶の最適なトリムおよびドラフトを決定するための方法であって、
-その以前の航海のうちの1つ以上について、前記船舶から運用データを収集するステップであって、前記運用データが、1つ以上の運用パラメータまたはデータタグを含む、収集するステップと、
-前記運用データの選択されたソースによって作成された誤差およびノイズをフィルタリング除去するステップと、
-悪天候、船体汚損、および/またはプロセスの精度を低下させることが見いだされている他の状態の影響をフィルタリング除去するステップと、
-前記運用データを、速度、ドラフト、およびトリムのサイズが大きくなるクラスまたはビンに配置して、各履歴速度、ドラフト、およびトリム条件の平均出力を決定することにより、前記運用データを処理するステップと、
-前記運用データに基づいて最適なドラフトおよびトリム状態のデータベースを作成し、前記データベースを、船長などの操縦者に提供するか、または自動ドラフトおよびトリム最適化システムへの入力として提供するステップと、
-前記運用データに基づいて、各速度、ドラフト、およびトリム状態の予測燃料消費を計算して、達成可能な燃料節約を推定するステップと、
-前記予測燃料消費を前記船舶の達成された燃料消費と比較して、現在の燃料価格に関する情報を使用して達成された節約を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
誤差およびノイズをフィルタリング除去する前記ステップが、合理的に実行可能であるとみなされるものの範囲外であるデータの削除を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
悪天候、船体の汚れ、および/またはプロセスの精度を低下させることが見いだされている他の状態の影響をフィルタリング除去する前記ステップが、以前の経験に基づいて、設定点の範囲外にあるデータの削除を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記運用パラメータが、船舶ドラフト、トリム、燃料消費、収集されたサンプルの日時、地上での速度、水中での速度、メインエンジン出力、メインエンジンrpm、真風速、相対風角、エンジン燃料質量流量、燃料消費、水深、シャフトrpm、および最後の船体洗浄からの時間のうちの1つ以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
モデルの精度をさらに改善するための人工ニューラルネットワークおよび回帰ツリーモデルの使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
コンピュータソフトウェアもしくはコード、および/またはグラフィカルディスプレイを使用して、前記船長または自動ドラフトおよびトリム制御システムにリアルタイムの結果を表示するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記グラフィカルディスプレイが、前記船舶の現在の状態を変更するために、前記船舶の前記最適なドラフトおよびトリムを前記船長に提供する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各個々のステップが、前記分析を自動的に実行するためにコンピュータまたはチップにインストールされるワークフローに組み合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
現在の船舶の速度を継続的に測定して、前記最適なドラフトおよびトリムをさらに選択するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
人工ニューラルネットワークを使用して、船団全体のドラフト、トリム、および速度の最適化を分析および提供するステップを含み、前記船団が、複数の実質的に類似または同一の船舶を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、燃料品質およびメインエンジンの機械的故障に関するデータを使用して、節約推定のために前記予測燃料消費を改善するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法を実装するためのツールを含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運用パラメータの最適化を通じて、船舶または船舶のクラスの燃料消費を改善するための方法に関する。本開示はまた、最適な運用パラメータをさらに決定するために、様々な数学的モデルを通じて船舶データを収集および分析するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶は、所定のトリムおよびドラフトで航海を開始し、その後、燃料または潤滑油の移送などの内部移送の結果として、ならびに清水および他の流体の消費および生成により、航海中に変化するであろう。液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、および他の液化ガス運搬船の場合、ボイルオフガス(BOG)の消費によって貨物が低減するため、ドラフトおよびトリムもまた変化するであろう。このドラフトおよびトリムは、船舶の現在の速度にとって最適な状態ではない可能性がある。この最適でないドラフトおよびトリム状態は、抵抗の増加につながり、一定の速度を維持するために、増加した抵抗を克服するようにメインエンジンまたは複数のエンジンからより多くの出力が必要になる。これにより、全体的な燃料消費が増加し、CO2および他の温室効果ガスの排出量が増加する。これは、船舶のトリムおよびドラフトをより適切に最適化することで防止することができる。運用コストの増加は、燃料消費の増加によっても見られる。
【0003】
最適な船速または出力ソース構成および使用率を決定するために現在利用可能な技術は、通常、エンジンが出荷前に工場でテストされているとき、または最初の海上公試中に船上でテストされているときに実行される静的分析に基づいている。これらの計算は、多くの場合、近似データを使用した手動計算として実行される。
【0004】
工場試験および初期海上試験の後、船舶と船内機器の摩耗、経年変化、維持、運用などにより、船の最適な運用プロファイルが変化する。各船舶はわずかに異なって見え、最適な運用パラメータは、時間とともに変化するであろう。既存の技術は、最適な速度ならびに出力ソース構成および使用率に直接的に関係する、船の運用プロファイルにおけるこれらの様々な変化を考慮していない。これらの既存の技術は、以前の静的分析に基づいており、船のリアルタイムの運用パラメータ(つまり、現在の状態)に基づく最適な船の性能のリアルタイム分析を欠いている。
【0005】
部分的に自動化されているか、または運用スタッフが関与する性能最適化システムが利用可能であるにもかかわらず、我々の評価によると、船舶は現在、通常、それらの総航海時間のかなりの部分、例えば、約30%が最適ではない状態で運用されている。
【0006】
現在の業界慣行では、通常、メインエンジン出力および燃料消費を削減するために、トリムの最適化を単一のパラメータと見なしているだけであり、これまでのところ、イニシアチブは限られた成功しか収めていない。トリム値は通常、CFD計算モデリングによって取得されるか、または海上公試で測定され、どちらも限られた数の航海状態を対象としている。このような方法で得られた情報は、精度が低く、燃料削減の可能性を最大限に引き出すことはできない(テストされた航海状態の数が少ない)。従来のソリューションはまた、開発コストが比較的高く、展開に時間がかかる。
【0007】
現在、燃料消費を削減するために最適化されているのは、トリムパラメータのみである。US7243009は、入力データの統計モデルを使用して最適なトリムのみを決定するシステムを開示している。この方法では性能がいくらか向上するが、さらに大きな向上を実現することができる。さらに、この方法は、現時点での船舶のトリム、出力、および速度に依存しているため、精度が制限される。
【0008】
US20140336853A1では、履歴データを使用して船舶の最適速度を決定するための方法、およびこの最適速度から達成される燃料節約を計算するための方法が開示されている。この方法は、現在の船のデータをコンピューティングデバイスに保存されている履歴データと比較することによってのみ速度を最適化する。
【0009】
SG190462は、船舶の運用データを検索し、当該データを最適データと比較して分散を取得し、それによって、分散に基づいて船舶のバラストタンク対を自動的に調整して、船舶の燃料効率の最適化を達成するための船舶の最適トリムを取得する様々なステップを含む、船舶の燃料効率を最適化するための方法を開示している。
【0010】
US2016/121979は、船が所定の巡航状態下で巡航するときよりも高い巡航性能を提供することができるように、巡航状態の識別を可能にするシステムを開示している。船管理装置は、所定の巡航状態を示す入力データを取得し、入力データに対応する状態データを抽出する。状態データは、巡航状態と燃料消費量との組み合わせを説明するデータを含み、事前に決定されている。船管理装置は、状態データを用いて、入力データで示された航海状態での燃料消費量を識別し、燃料消費量に改善の余地があるかどうかを決定する。その後、船管理装置は、決定の結果に対応する監視データを生成および出力する。
【0011】
WO2010/031399は、船の操縦者によって制御可能である設定を含む複数のデータセットを測定する複数のセンサを含む船のシステムであって、そのデータセットが各々、特定の海の条件での船の状態を定義し、当該システムが、船の燃料効率の統計的回帰モデルを生成し、船の現在の状態に対して最高の燃料効率を提供する最適な設定が、船の操縦者によって制御可能である設定に関して燃料効率の統計的回帰モデルを最適化することによって決定される、システムを開示している。このシステムでは、船の現在の状態は、制御変数に関して統計モデルを最適化することによって決定される。制御変数は、船の操縦者が制御することができる。入ってくるデータは、制御変数と比較され、船の操縦者は、制御変数を調整するように要求される。ノイズフィルタリングは、未知のパラメータPf、Pgおよび対応するノイズパラメータを導出するために実行される。
【0012】
トリムの最適化のために業界で一般的に使用されている他の方法は、計算流体力学(CFD)または測定された海上公試を使用する。これにより、限られた数の速度およびトリム状態のみをテストでき、通常の運用状態の全範囲をテストすることはできない。さらに、船舶は「新品同様」の状態でのみテストされ、トリムの最適化では、時間の経過に伴う性能の低下は考慮されていない。これらのCFD方法には、メトセアンもしくは気象データ、または船体汚損もしくはコーティング性能の影響が含まれていないことが多く、それにより、結果の精度が低下する。説明されているトリム最適化の方法はまた、高価なCFDソフトウェア、計算能力、または船舶の海上公試もしくはモデルテストを実行する必要性により、高コストになる。
【0013】
船の性能を最適化することで、総船舶燃料消費およびコストを削減し、船舶の収益性を最大化することができる。燃料消費は、実際のエンジンおよび発電機性能のみを例として、
船の運用パラメータに基づいている。燃料消費は、道中の船の推進に必要な燃料の量と、船の航海中に船に搭載されている必要な機器に電力を供給するために必要な燃料の両方に関連している。最適な船速は、推進燃料を節約するために船を減速することの利点と、より遅い速度で航海するために必要な過剰時間に起因する燃料消費への追加の電気負荷(すなわち、必要な機器を操作するために必要な電力)の影響の関連コストとのバランスをとる必要がある。この最適な速度はまた、追加の満たされていない需要がある場合、より多くの航海を実行することにより、より多くの収入を通じて船舶の利益を最適化する機会を考慮に入れることができる。さらに、様々な出力ソース構成および使用率に基づいて、船の性能が向上する可能性がある。
【発明の概要】
【0014】
本開示は、航行パラメータを最適化するためのより正確な方法およびシステムを提供することを目的としている。
【0015】
第1の態様によれば、本開示は、最適化されている船舶の履歴船舶データの分析を使用して、バラストおよび積載状態の船舶の最適なトリムおよびドラフトを決定するための方法であって、
-その以前の航海のうちの1つ以上について、船舶から運用データを収集するステップであって、運用データが、1つ以上の運用パラメータまたはデータタグを含む、収集するステップと、
-運用データの選択されたソースによって作成された誤差およびノイズをフィルタリング除去するステップと、
-悪天候、船体汚損、および/またはプロセスの精度を低下させることが見いだされている他の状態の影響をフィルタリング除去するステップと、
-運用データを、速度、ドラフト、およびトリムのサイズが大きくなるクラスまたはビンに配置して、各履歴速度、ドラフト、およびトリム状態の平均出力を決定することにより、運用データを処理するステップと、
-運用データに基づいて最適なドラフトおよびトリム状態のデータベースを作成し、データベースを、船長などの操縦者に提供するか、または自動ドラフトおよびトリム最適化システムへの入力として提供するステップと、
-運用データに基づいて、各速度、ドラフト、およびトリム状態の予測燃料消費を計算して、達成可能な燃料節約を推定するステップと、
-予測燃料消費を船舶の達成された燃料消費と比較して、現在の燃料価格に関する情報を使用して達成された節約を決定するステップと、を含む、方法を提供する。
【0016】
誤差およびノイズをフィルタリング除去するステップは、合理的に実行可能であるとみなされるものの範囲外であるデータの削除を含み得る。
【0017】
悪天候、船体汚損、および/またはプロセスの精度を低下させることが見いだされている他の状態の影響をフィルタリング除去するステップは、以前の経験に基づいて、設定点の範囲外にあるデータの削除を含み得る。
【0018】
一実施形態では、運用パラメータは、船舶ドラフト、トリム、燃料消費、収集されたサンプルの日時、地上での速度、水中の速度、メインエンジンの出力、メインエンジンrpm、真風速、相対風角、エンジン燃料質量流量、燃料消費、水深、シャフトrpm、および最後の船体洗浄からの時間のうちの1つ以上を含む。
【0019】
別の実施形態では、方法は、モデルの精度をさらに改善するための人工ニューラルネットワークおよび回帰ツリーモデルの使用を含む。
【0020】
さらに別の実施形態では、方法は、コンピュータソフトウェアもしくはコード、および/またはグラフィカルディスプレイを使用して、船長または自動ドラフトおよびトリム制御システムにリアルタイムの結果を表示するステップを含む。
【0021】
一実施形態では、グラフィカルディスプレイは、船舶の現在の状態を変更するために、船舶の最適なドラフトおよびトリムを船長に提供する。
【0022】
任意選択的に、各個々のステップは、分析を自動的に実行するためにコンピュータまたはチップにインストールされるワークフローに組み合わされる。
【0023】
方法は、現在の船舶の速度を継続的に測定して、最適なドラフトおよびトリムをさらに選択するステップを含み得る。
【0024】
一実施形態では、方法は、人工ニューラルネットワークを使用して、船団全体のドラフト、トリム、および速度の最適化を分析および提供するステップを含み、船団は、複数の実質的に類似または同一の船舶を含む。
【0025】
方法は、燃料品質およびメインエンジンの機械的故障に関するデータを使用して、節約推定のために予測燃料消費を改善するステップを含み得る。
【0026】
別の態様によれば、本開示は、上述のような方法を実装するためのツールを含む、システムを提供する。
【0027】
トリム最適化の現在の方法の制限を克服するために、船舶データを分析して、積載状態およびバラスト状態の両方で任意の所与の船舶速度に対して最適なトリムおよび最適なドラフトを決定する方法が開示されている。この方法はまた、船舶の寿命全体にわたって「新品同様」の状態で見いだされた最適化されたトリムを適用する現在の方法ではなく、現在の状態の船舶に最適なドラフトおよびトリム状態を決定することもできる。就航中の船舶からの「実世界」のデータを使用することにより、この方法を使用する場合に、天候、船体汚損、およびコーティング性能の影響もまた考慮され得る。CFDおよび他の方法では、モデルに基づいて実世界の天気を予測することしかできず、実世界のイベントを正確に表現できない場合がある。開示された方法はまた、現在展開されている方法よりも実質的に低コストである。説明されている方法では、任意の数のデータ収集プロバイダーから取得され得るデータのソースが必要である。さらなるコスト削減として、「正午」または日次レポートを通じて手動で報告された情報によって、データもまた収集され得る。プロセスは、プロセスの実行に必要な最小限の時間で、自由に、かつ広く利用可能な低コストのソフトウェアを使用して、一般的なラップトップまたはコンピュータで実行され得る。現在、履歴データを使用する既存の方法では、船団内の類似または姉妹船にアドバイスを提供することはできない。開示された方法を使用することにより、このドラフト、トリム、および速度の最適化は、同様の船舶の船団全体に適用され得る。
【0028】
本開示の方法を採用することにより、燃料消費および関連付けられた温室効果ガス排出を削減することができる。燃料消費の削減により、運用コストを節約することができる。ドラフト、トリム、および速度を最適化することにより、船舶は、同じ燃料消費でより高い速度を維持するか、またはより低い燃料消費で同じ速度を維持することができる。典型的な船舶は、総航海時間の低い割合で、最適でないドラフトおよびトリム状態で航行することが見いだされている。本発明を使用することにより、船舶が最適なドラフト、トリムおよび速度状態で費やす航海時間の割合を増加させることができる。航海中に燃料または他の液体の消費および移動によりドラフトおよびトリムが変化すると、次に、ドラフトおよびトリムが、最適状態から外れる可能性があり、また、ドラフトおよびトリムを調整して、その最適状態に戻すように修正することができる。
【0029】
本開示のシステムは、最適化された航海パラメータのためのより正確で、より低コストで、より高利得のソリューションを提供する。このシステムはまた、迅速な展開を可能にし、既存の船舶に実装され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図面における図は、限定としてではなく、例としてのみ、本教示による1つ以上の実装形態を示している。図において、同様の参照番号は、同じまたは類似の要素を指す。ここで、
図1】本開示の方法の一実施形態による例示的なドラフトおよびトリム最適化ワークフロー図を示しており、データをビンまたはクラスに配置することを実証している。
図2】潜在的な節約を見積もるための燃料消費および出力の例示的なプロットを示している。開示されているように、燃料消費および船の出力に関連する最適な多項式の方程式を使用して、ドラフトおよびトリムの最適化によって達成される燃料節約を予測することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書で使用される特定の用語は、次のように定義されている。
「LNG」は、液化天然ガスを指し、これは、通常、少なくとも約1バールの圧力でガスが液相になり得る温度に冷却され、液化メタンの場合、この温度は約マイナス162℃である。
「ドラフト」とは、船舶を浮かせるのに必要な水深、喫水線から船舶の船体の底までの深さ、船が引く水深を指す場合がある。現在の開示では、「ドラフト」は、特に、喫水線の下から船体の底までの深さを指す場合があり、さらに
「トリム」は、水平を基準とした船舶の位置を指す。言い換えれば、「トリム」とは、船舶の前端のドラフトと後端のドラフトとの差を指す。
【0032】
貨物を運ぶか、またはバラストの下にあるかにかかわらず、船舶が特定の速度で航海するときはいつでも、その船舶に最適なトリムおよびドラフト状態が存在する。就航中の船舶の場合、その性能に関連する大量のデータが生成される。このデータは、例えば「正午」のレポートを通じて、または船舶の機械に接続された自動化された高周波データ収集システムを通じて、乗組員が収集することができる。運航中に、船舶の船長は、同じ船舶速度での以前のドラフトおよびトリム設定よりも低いエンジン出力を必要とする特定の船舶速度でのドラフトおよびトリム設定を選択することができる。
【0033】
開示された方法により、データを分析して、どの歴史的なトリムおよびドラフト状態が所与の速度に対して他よりも優れた性能を有していたかどうかを決定することができる。この情報を船の船長に提供することにより、特定の速度でメインエンジン出力を低くするドラフトおよびトリムの設定を選択することができ、これにより、全体的な燃料消費が削減されるであろう。本開示のプロセスを実施することにより、船舶あたり年間3~7%の節約が達成される。
【0034】
開示された方法は、収集された以下のパラメータのうちの1つ以上を含む履歴船舶データを使用する。
-収集されたサンプルの日時、
-地上での速度、
-水中での速度、
-メインエンジン出力、
-メインエンジンrpm、
-真風速、
-相対風角、
-ドラフト、
-トリム、
-エンジン燃料質量流量、
-水深、
-シャフトrpm、および
-最後の船体洗浄からの時間。
【0035】
このデータは、高周波データロガー(多数のプロバイダーがある)、船の乗組員によって報告された「正午」のデータ、または他の信頼できるデータソースのいずれかを使用して収集され得る。使用されるデータの期間は、船体汚損の増加による電力要件への影響を回避するために、比較的短くする必要がある。1年を超えるデータには、海洋成長によって引き起こされる摩擦抵抗の増加が船体に及ぼす影響が含まれるようになり、それにより、この方法の精度が低減するであろう。
【0036】
高周波データロガーから収集されたデータは、「ノイズの多い」データと呼ばれることが多く、データロガーによって誤差が発生する。これには、欠落データ、ゼロ値、またはログにキャプチャされている不可能なほど高いもしくは極端なデータが含まれる可能性がある。このデータを分析に使用する前に、合理的に実行可能と見なされる範囲外のデータを削除することによるデータの処理またはフィラリングが、これらの誤差の影響を除去または低減するために行われる場合がある。例えば、ゼロ値、空のデータ、および物理的に可能な値以外の値をフィルタリング除去して、データセットから削除することができる。物理的に可能な値以外のデータ値を削除するために、例えば、船舶の専門知識または仕様に基づいて、上限および/または下限の閾値を設定することができる。したがって、フィルタリングは、センシング機器によって導入されたノイズを除去する。
【0037】
例えば、本開示の方法は、速度が船の設計速度よりも大きい任意の値をフィルタリング除去することができる。したがって、センサによって測定された速度が、それぞれの船舶の所定の設計速度を超える所定のパーセンテージを超える場合、当該測定された速度は、無視されるであろう。設計速度は、例えば、それぞれの船舶の製造業者によって提供されるか、そうでなければ事前に決定される。例えば、測定された速度が設計速度の100.1%を超える場合、それは無視される。例えば、測定された速度が設計速度の101%を超える場合、それは無視される。例えば、測定された速度が設計速度の102%を超える場合、それは無視される。例えば、測定された速度が設計速度の103%を超える場合、それは無視される。例えば、測定された速度が設計速度の105%を超える場合、それは無視される。
【0038】
例えば、船舶の最大達成可能速度を超える速度(例えば、40ノット)で船舶の速度をキャプチャするデータポイントは、明らかに誤りであり、削除され得る。
【0039】
悪天候の影響を除去またはフィルタリングして、ドラフトおよびトリムの最適化を実行することもまた可能であり得る。極端な気象条件では、波および風の抵抗の増加を克服するために、より大きなメインエンジン出力が必要になり、これにより、ドラフトおよびトリムの変更の影響が分析されなくなる。例えば、海況が4より大きい場合に記録されたいくつかのデータは、ビューフォート風力階級が5より大きい場合、現在の影響が3%より大きい場合は無視され得る。電流の影響は、電流が船舶の速度にどの程度影響したかを示す尺度である。これは、例えば、式1に示すように、パーセンテージとして計算され得る。
【0040】
【数1】
【0041】
本明細書では、地上での速度および水中での速度は、ノットで表され、ここで、1ノットは、約0.514m/sに等しい。悪天候データは分析のために削除されるが、依然として、ドラフトおよびトリムの最適化アドバイスを使用して、悪天候の条件でドラフトおよびトリムを調整することができることに留意されたい。しかしながら、悪天候条件では、達成された節約を測定することは難しい場合がある。
【0042】
次に、平均化方法が実行される。これにより、履歴データはサイズが大きくなるグループまたは「ビン」に配置される。以前にリストされたデータタグのデータが時間の経過とともに収集され、これには、以前の航海中の船舶の速度、ドラフト、トリム、および出力が含まれる。履歴データは、船の速度、ドラフト、およびトリムを最も近い増分に丸めることによってサイズが大きくなるビンに配置され、そのサンプルの残りのデータもまたビンに配置される。船速の履歴データは、0.5ノットの増分で平均化され、ドラフトは、0.25メートルの増分で平均化され、トリムは0.5メートルの増分で平均化される。各ビンには、その際、ドラフト、トリム、および速度が同じである複数のデータポイントがあり、他のデータタグは、データロガーによってキャプチャされた形式でそのまま残される。各ビンでキャプチャされたすべてのデータについて、そのビンの出力測定値の平均を計算することができる。その際、各ビンに1つのドラフト、トリム、速度、および平均出力値が関連付けられるであろう。
【0043】
船舶の船長に与えられたアドバイスの信頼性をさらに高めるために、限られた数のデータポイントを含むビンは、その際に無視される。通常、船舶の航海回数が50回未満の状態は拒否されるが、様々な閾値を使用することができる。姉妹船からのデータをまた使用して、精度をさらに向上させることができる。同じ長さ、幅、および他の幾何学的パラメータを持つ姉妹船からのデータを使用することにより、より大きなデータセットを分析に利用することができる。同様に、姉妹船は、元の船に対して異なるドラフトおよびトリム状態で航海したか、または世界の様々な地域で元の船に対して航海し、分析に利用することができる状態の数を増やした可能性がある。姉妹船は、幾何学的に類似しているだけでなく、燃料節約の比較を実行することができるように、メインエンジンの設計および配置に関しても機械的に類似している必要がある。
【0044】
次に、異常気象条件および船体汚損の影響を取り除いた、様々な船速、ドラフト、およびトリム状態での平均メインエンジン出力を示すデータベースが開発された。以下の表1は、ドラフトおよびトリムが一定の所与の速度で変更された場合のメインエンジン出力の変化を示す例示の表を示しており、説明されているようにデータをクラスまたはビンに配置する処理方法を示している。この例では1つの速度のみが示されているが、このプロセスは、所定の範囲の船舶速度に対して繰り返され得る。速度は、海上での速度の単位であるノット(記号:[kn]または[kt])で表される。ノットは、1時間あたり1海里と定義され、ここで、海里は、1,852メートルである。ノットは、時速約1.852キロメートルまたは0.514m/sに相当する(したがって、13ノットは約6.69m/sである)。示されているように、速度が一定のままであっても、ドラフトおよびトリムが変更されると、メインエンジン出力要件が劇的に変化し得る。表1の例では、最低のエンジン出力要件(7.93MW)は、最高のエンジン出力要件(12.27MW)よりも35%以上低くなっている。
【0045】
【表1】
【0046】
説明されている平均化方法は、以前の運用データに基づいてドラフトおよびトリムを予測するためのシンプルで簡単に展開することができるソリューションを提供する。しかしながら、平均化方法は、10%の平均誤差が見られるなど、いくつかの不正確さをもたらす可能性がある。平均化方法は、データセットの外部を予測できないことによっても制限される。船舶が既存のデータで以前にキャプチャされていない状態へと航海する場合、最適なドラフトおよびトリムの状態を直接的に比較することはできない。既存のデータセットの外側で最適なドラフトおよびトリムを決定し、これらの制限を改善するために、様々な数学的予測モデルが公試された。ランダムフォレスト回帰モデルを使用して、平均化方法で見られる不正確さを低減することができる。平均誤差の10%から5%への減少が見られる。しかしながら、既存のデータセットの外部を予測する場合は、ランダムフォレスト回帰モデルの性能が制限される。人工ニューラルネットワークは、方法のさらなる最適化としてテストおよび実装されている。人工ニューラルネットワークは、平均化方法と比較して誤差を10%から0.5%に低減することが確認されており、データセットの外部を予測すると最大誤差が23%になる。人工ニューラルネットワークが可能な限り最適に機能するためには、前述の気象フィルタリング手順を無視する必要がある。
【0047】
人工ニューラルネットワーク(ANN)は、人間の脳の機能を複製するように設計された、エッジと呼ばれるノードと接続で構成される数学的構造である。各ネットワークは、エッジで相互に接続されたノードの入力層および出力層で構成されている。ネットワークはまた、入力層と出力層との間にある隠れ層で構成され得る。各ノードは、数学的な伝達関数である。データは、入力レイヤーに渡され、ここで、ノードは、出力レイヤーに値を送信する。この予測値を入力値と比較して、予測値と入力値との間の誤差のレベルを決定する。この誤差を低減するために、ネットワークは、複数回訓練される。次に、ネットワークは、表示された元のデータセットに基づいて予測を行うことができる。
【0048】
ランダムフォレスト回帰(RFR)は、ブートストラップ集約またはバギングと呼ばれる手法を使用して、数学的な回帰タスクおよび分類タスクの両方を実行することができる、学習モデルである。単一のブートストラップ集約が、デシジョンツリー内で発生し、次に、ランダムフォレスト回帰が、複数のデシジョンツリーの組み合わせになる。デシジョンツリーの目的は、訓練データセットを最適な2つの子のサブセットに分割することである。ツリーグローイングと呼ばれるプロセスは、この最適な分割プロセスに基づいて、訓練データをブランチとリーフに分割し、それ以上分岐できなくなることを目的としている。デシジョンツリーの各分割は、データセットについてyes/noの質問を効果的に行っており、これは、入力データセットに基づく予測値につながる。
【0049】
RFRまたはANN手法を使用して、各ドラフトおよびトリム状態の出力を予測することにより、データセットで見いだされた出力値の単純な平均化と比較して精度が向上する。
【0050】
開示された平均化方法または数学的モデルのいずれかを使用して決定された最適なドラフトおよびトリムを使用して、各船舶速度に対するこれらの最適値のデータベースが作成される。次に、このデータは、使用可能なディスプレイにパッケージ化され、船のブリッジにインストールされる。船舶で利用可能なインフラストラクチャに応じて、これは、紙の読み取り、ディスプレイ、ソフトウェアパッケージ、またはデータを提示する別の方法の形である可能性がある。
【0051】
システムをブリッジに配備すると、船舶の現在の速度、ドラフト、およびトリムを測定することができる。次に、これらは、システムに保存されている速度、ドラフト、およびトリムと比較することができ、その特定の速度に最適なドラフトおよびトリムを船長に表示することができ、または自動ドラフトおよびトリム制御システムへの入力として表示することができる。船長、または自動制御のバラストシステムは、燃料の節約を達成し始めるために、船舶を最適な状態に調整することができる。船長、または自動バラスト制御システムは、次に、可能な限り多くの航海時間の間、船舶を最適状態に近づけることを維持することができる。
【0052】
上記の本明細書における「比較」という用語は、結果の生成ではなく、実装に関連している。従来技術のシステムとは異なり、本開示の方法およびシステムは、結果または分析を生成するためにいかなる比較も使用しない。代わりに、開示のプロセスによって最適なドラフトおよびトリム値が生成されると、操縦者、例えば、船舶の船長は、開示の方法を使用して生成された結果において同じ速度で船舶の現在の速度をチェックすることができる。したがって、操縦者は、最適なドラフトおよびトリムを識別する。事実上、船長は、現在の速度を表の同じ速度と比較して(例えば、例については表1を参照)、値を調べる。しかしながら、開示の方法は、結果を生成する際の比較ステップを欠いている。
【0053】
本開示の方法は、例えば、図1に詳述されるように、ワークフローに自動化され得る。ワークフロー10は、自動化されたデータ収集、処理、フィルタリング、平均化、および船の船長が最適なトリムまたはドラフト状態を選択するために使用するテーブル、ウェブベースのインターフェース、またはディスプレイへの出力を含むことができる。このワークフローは、いくつかの段階で構成されている。
【0054】
ステージ1は、データソース(データソースは、フィールド機器計装および/または専用センサを含み得る)からデータ14を収集することを含む、第1のステップ12を含み得る。第2のステップ16は、上述のように負の値および極値などの誤差を除去するために最適化されている船舶のデータ14の処理を含む。
【0055】
ステージ2は、上述のような気象フィルタリングステップ18および平均化ステップ20、または人工ニューラルネットワークなどの数学的モデルを使用して、最適なドラフトおよびトリムの予測24を提供するステップ22のいずれかを含み得る。
【0056】
ステージ3は、ステージ2で決定された最適なドラフトおよびトリム24を現在の船舶の速度に対して船長に表示するステップ26を含み得、および/または自動バラスト制御システムへの入力として提供され得る。任意選択的に、ステージ3は、最適なドラフトおよびトリムの予測に基づいて推定(潜在的)燃料節約を計算し、計算された推定節約を報告するステップ28を含み得る。
【0057】
ステージ4には、ドラフトおよびトリムを手動または自動バラスト制御システムのいずれかによって、ステージ3に表示された状態、つまり最適なドラフトおよびトリムの予測24に調整することが含まれる。
【0058】
ステージ5は、最適化の日付の前の平均燃料消費を最適化の日付の後の平均燃料消費と比較することによって節約された実際の燃料消費の計算を行うステップ32を含み得る。
【0059】
別の段階では、燃料節約が予測される。船舶によって達成可能な潜在的な節約を予測するために、燃料消費52(y軸;例えば、質量流量[kg/s]で表される)に対するメインエンジン出力50(x軸;例えば、[MW]で表される)がプロットされる。図2に示すように、最適な適合の多項式曲線54をプロットに適用することができる。累乗曲線または多項式曲線の極端な外れ値は、累乗曲線の最適な適合を改善するためにフィルタリングされる。曲線は、エンジン出力が増加すると、燃料消費も増加することを示しているはずである。最適な適合の曲線54の式を使用して、燃料消費52と出力50との間の関係を概算することにより、最適化されたドラフトおよびトリム設定での各平均出力の燃料消費を計算することができる。
【0060】
燃料消費対出力曲線54は、船からのリアルタイムデータを使用して自動システムによって継続的に更新され、燃料消費と出力の関係との経時変化を考慮して、潜在的な節約の最新の推定を提供することができる。最適でないドラフトおよびトリムの設定ごとに計算された燃料消費を使用して、最適なドラフトとトリム状態との間の燃料消費の差を計算することにより、燃料消費の差または「デルタ」を決定することができる。これらのデルタ燃料節約値の合計を通じて、船舶によって達成可能な総潜在的燃料節約が求められる。これに、現在の燃料価格と1年あたりの予想される航海日数を掛けることができる。船長が本開示の方法を実装することを選択した時間の割合、および悪天候がシステムの使用を妨げる可能性を考慮するための要因を組み込むことができる。経験から、本開示の方法は、例えば、総航海時間の約30~50%以上の間、船長によって展開され得ることが見いだされる。
【0061】
船舶上で採用されている開示された方法を使用すると、船舶からの同じまたは異なるデータソースを使用して、ドラフトおよびトリムの最適化を導入する前とイベント後の船の性能を比較することができる。前後に記録された燃料消費を比較して、達成された節約を決定することができる。試運転では、開示された方法を採用することにより、1隻あたり年間約3~7%以上の燃料消費の節約が達成可能であることが示されている。さらなる実施形態として、達成された節約の比較は、図1に詳述されるように、ワークフローの追加部分として自動化され得る。測定された燃料節約はまた、この方法の精度を検証するために予測された燃料消費節約と比較され得る。
【0062】
開示された方法は、バラストおよび積載状態での燃料消費を削減するための最適なドラフトおよびトリムを決定するためのプロセスを詳述している。このプロセスでは、最適化されている1つ以上の船舶からのデータのソースを使用して、任意の所与の速度での船舶の最適なトリムおよびドラフトを決定する。データは、「正午」に報告されたデータ、電子高周波データ、または別のデータソースの形式であり得る。正午の報告データは、通常は機関長によって1日に1回報告される船舶の運用データであり、船舶の状態に関する1日に1回の更新を提供する。
【0063】
いくつかのフィルタリングおよびデータ最適化プロセスが詳細に説明されており、プロセスを完了するための優れたデータ標準が保証される。通常、高周波データレコーダーから入ってくるデータは、「ノイズが多い」傾向があり、誤った値が記録されることがある。この特許に詳述されている方法を適用する前に、極値を除去するためのフィルタリングを実行する必要がある。風および波の抵抗の増加を克服するためにエンジン出力の増加を必要とする悪天候は、フィルタリング除去される。悪天候は、海況が4を超え、ビューフォート風力階級が5を超え、および現在の影響が3%を超えると決定されている。プロセスを損なうことなく、悪天候に対して様々な制限を適用することができる。
【0064】
次に、過去のデータのどのトリムおよびドラフト状態がより低い燃料消費を与えたかを調べる平均化方法が開示される。データがカバーする期間中、船舶は、特定の速度でのドラフトおよびトリムで航海することがあり、これは、同じ速度で別のドラフトおよびトリムよりも低いメインエンジン出力が必要であった。これはデータベースまたはマトリックスにまとめられ、各速度でのドラフトおよびトリム状態がメインエンジン出力の低下に寄与することを示している。データベースまたはテーブル内の情報は、次に船長に提示したり、または自動ドラフトおよびトリム制御システムへの入力として機能したりすることができる。この情報は、紙で、または電子、ウェブベース、または同様のタイプのディスプレイを使用して提示され得る。船舶の現在の速度に最適なドラフトおよびトリムに関する情報を使用して、ドラフトおよびトリムをこの最適な状態に変更することができる。
【0065】
次に、プロセスのさらなる段階として、履歴データに基づいて燃料消費を予測し、この方法の導入によって達成される可能性のある節約を推定することができる。潜在的な燃料節約を推定するために、履歴データの燃料質量流量を船舶の出力に対してプロットする必要があり、これら2つのパラメータに関連する多項式曲線の方程式を見いだすことができる。次に、これを使用して、データベースに保存されている各ドラフトおよびトリム状態で計算された平均出力の燃料消費を推定することができる。最適化されたドラフトおよびトリムの各状態での推定燃料消費、ならびに1年あたりの航海日数および現在の燃料価格に関する知識を使用して、潜在的な節約を予測することができる。燃料品質の変化は燃料消費に影響を与える可能性があるため、燃料品質を測定する装置を備えた船からのデータを使用して、燃料節約推定の精度を向上させることもできる。同様に、機械的な問題または船のメインエンジンの故障について報告された情報も含めることができ、これは、機械的な故障のあるエンジンが燃料を過剰に消費し、燃料消費推定に影響を与える可能性があるためである。悪天候のためにドラフトおよびトリムの最適化を実行できない場合を考慮する要因をさらに含める必要がある。通常、悪天候または他の航海の優先順位が総航海時間の30~40%であるため、ドラフトおよびトリムの最適化を実行できないことが見いだされている。
【0066】
最適なドラフトおよびトリムの計算に使用したのと同じデータ収集方法を使用して、実際の燃料節約量をさらに測定することができる。ドラフトおよびトリムの最適化の実装の前後に収集された燃料消費データを比較することにより、燃料節約を測定することができる。このプロセスの実装により、1隻あたり年間3~7%の燃料節約が測定された。
【0067】
詳細な様々な段階は、様々なレベルに自動化され得るワークフローまたはプロセスに組み込まれている。これは、Microsoft Excelなどのスプレッドシートアプリケーションを使用して、半手動の形式で実行され得る。この最適化を実行するために必要な時間を低減するために、PythonまたはC++などのプログラミング言語を使用して説明されているワークフローを自動化することができる。さらなる実施形態として、プロセスの出力は、ドラフトおよびトリムが船長の入力なしに自動制御システムによって自動的に変更されるように自動化され得る。
【0068】
説明されている平均化方法の1つの制限は、船舶が以前に航海した状態に対してのみ最適なドラフトおよびトリムを与えることができるということである。その際、船舶が以前に航海したことのない状態へと航行する場合、平均化システムは、最適なドラフトおよびトリムについてアドバイスすることができない。平均化方法のもう1つの制限は、分析に不正確さが組み込まれていることである。平均化方法を使用すると、10%の平均誤差が見られる。これを改善するために、いくつかの数学的モデルを使用して、プロセスに組み込み、新しい、目に見えない状態に対する以前の性能に基づいて最適なドラフトおよびトリムの予測を行うことができる。ランダムフォレスト回帰モデルおよび人工ニューラルネットワークモデルは、既存のデータセット外の予測を改善するために展開されている。
【0069】
人工ニューラルネットワークは、既存のデータセットの外で最適なドラフトおよびトリムの状態を予測するのに最も成功し、23%の最大パーセンテージ誤差が見られた。人工ニューラルネットワークはまた、分析の不正確さを大幅に低減することができ、平均誤差は、10%から0.5%に低減する。
【0070】
本開示のシステムおよび方法は、高度な分析プロセスを適用して、最適な航海パラメータを識別することにより、船のメインエンジン出力および燃料消費を削減することを可能にする。次に、航海を最適化し、燃料消費を削減するために、どのパラメータを(どれだけ)変更するかについて、船長にアドバイスが提供される。ここでのアドバイスは、例えば、ドラフトおよびトリムを変更したり、速度を調整したりするためのバラスト水を追加することに関するものであり得る。最終製品は、独自の分析駆動出力を備えた、ユーザーフレンドリーなウェブベースのツールであり得る。
【0071】
本開示の方法およびシステムは、測定された運用データを所定のデフォルトまたは最適なデータセットと比較しない。本開示の方法は、履歴データを処理および分析して、最適なものを計算する。本開示の方法は、データプロセッサのメモリもしくは他のストレージに存在するすでに最適化されたデータセットとの比較方法ではなく、あるいはいくつかの測定もしくは他の方法で識別されたデータが所定の航海状態と比較される。従来の方法およびシステムは、通常、測定データを事前に決定された最適なベースケースと比較するステップを含む。本開示の方法およびシステムにおけるデータの処理は、比較を含まず、実際には、運用データを、速度、ドラフト、およびトリムのサイズが大きくなるクラスに処理して、各履歴速度、ドラフト、およびトリム状態の平均出力を決定することによるさらなるステップの処理を行う。例えば、表1のそれぞれの行は、前述の「クラス」に対応している。
【0072】
システムおよび方法は、船舶の流体力学的性能の全体的な評価を可能にし、従来の方法論では以前に観察されていなかった性能のスイートスポットの識別を可能にする。本開示のシステムおよび方法は、一連の高度なアルゴリズムを利用して、船に記録されたリアルタイムの高周波データを処理および分析する。さらに、船が特定の時間に、および特定のコンテキスト(風、潮流など)内で運航することができる、最適値を強調している。
【0073】
従来のシステムに関して、本開示のシステムおよび方法は、最適化されたパラメータの数の増加、それらの選択に対する選択性の増加、および精度の増加を提供する。本開示のシステムおよび方法に適用される高度なアルゴリズムは、従来技術のシステムの制限を克服し、より多くのパラメータの最適化された値を首尾よく予測し、船長により多くの選択性(介入の数)を提供することができる。
【0074】
データ分析によって得られた結果は、申請者の船舶で本格的にテストおよび検証されており、約5%未満の許容誤差が生じている。本開示のシステムおよび方法は、典型的な貨物船において、メインエンジンの燃料効率の平均約3%を超える増加を達成した。当該船には、原油タンカー(MRタンカー、VLCCなど)、LNG船、LPG船、ばら積み貨物船、コンテナ船などが含まれるが、これらに限定されない。
【0075】
本開示は、上述されたような、および添付の特許請求の範囲における実施形態に限定されない。本明細書において多くの修正が考えられ、それぞれの実施形態の特徴を組み合わせることができる。
図1
図2
【国際調査報告】