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特表2022-519382治療剤の臨床評価のための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-23
(54)【発明の名称】治療剤の臨床評価のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20220315BHJP
   A61K 39/00 20060101ALN20220315BHJP
   A61K 39/08 20060101ALN20220315BHJP
   A61K 39/25 20060101ALN20220315BHJP
   A61K 39/275 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
A61K39/00 G
A61K39/08
A61K39/25
A61K39/275
A61K39/00 K
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546364
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(85)【翻訳文提出日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 IB2020050303
(87)【国際公開番号】W WO2020161547
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】62/802,732
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】ラムース-スミス,エシ サマ ネィティヤ
(72)【発明者】
【氏名】サビンス,ニナ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C085
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045FB03
4C085AA03
4C085BA12
4C085BA42
4C085BA49
4C085BA79
4C085BA85
4C085CC07
4C085CC08
4C085EE01
(57)【要約】
治療薬の臨床評価のための方法及びキットについて記載する。具体的には、疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導し、対象となる治療薬を、免疫撹乱を有する健康な対象において臨床的に評価する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発する抗原を同定する方法であって、
(1)抗原を含む有効量の組成物を前記健康な対象に投与することと、
(2)前記投与する工程(1)の前、及びその後の複数の時点で、前記健康な対象から生体試料を収集することと、
(3)前記生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースラインからの長期的な変化を測定することと、
(4)前記測定された長期的な変化を前記疾患の前記免疫応答シグネチャと比較することにより前記健康な対象における前記抗原によって誘導された免疫撹乱の影響を検出することと、
(5)前記疾患の前記免疫応答シグネチャを反映する前記免疫撹乱を前記健康な対象に誘発する前記抗原を同定することと、を含む方法。
【請求項2】
前記免疫撹乱は、前記疾患を有する対象において調節不全となる1つ以上の免疫経路の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の免疫細胞集団の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の炎症性メディエータの変化、並びに、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上のバイオマーカーの発現及び/又は活性の変化からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療薬の効果を予測する方法であって、
(1)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、前記健康な対象に投与することと、
(2)前記治療薬を含む医薬組成物を、前記免疫撹乱を有する前記健康な対象に投与することと、
(3)前記健康な対象における前記免疫撹乱に対する前記治療薬の影響を測定することと、
(4)(3)で測定された前記影響に基づいて、前記疾患の治療を必要とする対象における前記治療薬の前記効果を予測することと、を含む方法。
【請求項4】
(1)前記治療薬を含む前記医薬組成物を、前記疾患の前記治療を必要とする前記対象に投与することと、
(2)前記疾患の前記治療を必要とする前記対象における前記治療薬の前記効果を評価することと、を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記治療薬は、前記健康な対象における前記免疫撹乱を減少させ、また前記治療を必要とする前記対象における前記疾患を治療するのに有効であると予測される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫撹乱は、前記疾患を有する対象において調節不全となる1つ以上の免疫経路の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の免疫細胞集団の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の炎症性メディエータの変化、並びに、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上のバイオマーカーの発現及び/又は活性の変化からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
治療薬の効果を予測する方法であって、
(1)前記疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(2)前記投与する工程(1)の前、及びその後の複数の時点で、前記治療を必要とする前記対象から生体試料を収集することと、
(3)前記生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースラインからの長期的な変化を測定することと、
(4)前記測定された長期的な変化を前記疾患の前記免疫応答シグネチャと比較することにより前記治療を必要とする前記対象における前記抗原によって誘発された免疫撹乱の影響を検出する、ことと、
(5)前記抗原によって誘導された前記免疫撹乱に基づいて、前記治療を必要とする前記対象における前記治療薬の効果を予測することと、を含む方法。
【請求項8】
(1)前記治療薬を含む医薬組成物を、前記疾患の前記治療を必要とする前記対象に投与することと、
(2)前記疾患の前記治療を必要とする前記対象における前記治療薬の前記効果を評価することと、を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記治療を必要とする前記対象における前記抗原によって誘発された前記免疫撹乱に対する前記治療薬の影響を測定することにより、前記対象における前記治療薬の前記効果を評価する、ことを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫撹乱は、前記疾患を有する対象において調節不全となる1つ以上の免疫経路の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の免疫細胞集団の変化、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上の炎症性メディエータの変化、並びに、前記疾患を有する対象における前記疾患に関連付けられる1つ以上のバイオマーカーの発現及び/又は活性の変化からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記治療薬のファーストインヒューマン試験であり、好ましくは、前記治療薬の前記効果は、ヒト対象における前記治療薬の薬力学効果を含み、より好ましくは、前記薬力学効果は、前記治療薬の用量応答関係を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患の前記免疫応答シグネチャは、(1)前記疾患に関連付けられる急性感染又は慢性炎症状態の間に生じる免疫応答と、(2)前記疾患に関連付けられる局所性及び/又は全身性の可溶性及び細胞性免疫応答と、(3)前記疾患に関連付けられる食餌成分に対する代謝応答と、からなる群から選択された少なくとも1つと重なり合う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記疾患の前記免疫応答シグネチャは、(1)前記疾患に関連付けられる急性感染又は慢性炎症状態の間に生じる免疫応答と、(2)前記疾患に関連付けられる局所性及び/又は全身性の可溶性及び細胞性免疫応答と、(3)前記疾患に関連付けられる食餌成分に対する代謝応答と、からなる群から選択された少なくとも1つと重なり合う、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患の前記免疫応答シグネチャは、(1)前記疾患に関連付けられる急性感染又は慢性炎症状態の間に生じる免疫応答と、(2)前記疾患に関連付けられる局所性及び/又は全身性の可溶性及び細胞性免疫応答と、(3)前記疾患に関連付けられる食餌成分に対する代謝応答と、からなる群から選択された少なくとも1つと重なり合う、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記抗原は、ヒト感染症に対するワクチンであり、好ましくは、前記組成物は、非複製天然痘ワクチン、ヘルペスゾスターワクチン、非生帯状疱疹ワクチン、及び破傷風ワクチンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記抗原を含んだ前記組成物は、ヒト感染症に対するワクチンであり、好ましくは、前記組成物は、非複製天然痘ワクチン、ヘルペスゾスターワクチン、非生帯状疱疹ワクチン、及び破傷風ワクチンからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
前記抗原を含んだ前記組成物は、ヒト感染症に対するワクチンであり、好ましくは、前記組成物は、非複製天然痘ワクチン、ヘルペスゾスターワクチン、非生帯状疱疹ワクチン、破傷風ワクチンからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記抗原は、抗原皮膚チャレンジ及びエンドトキシンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
治療薬の臨床評価のためのキットであって、
a.健康な対象における疾患の免疫応答シグネチャを含む免疫撹乱を誘導する際に使用するための抗原と、
b.治療薬を含む医薬組成物と、を含むキット。
【請求項20】
前記抗原を含む前記組成物は、ヒト感染症に対するワクチン、好ましくは非複製天然痘ワクチン、ヘルペスゾスターワクチン、非生帯状疱疹ワクチン、又は破傷風ワクチン、抗原皮膚チャレンジ、好ましくはカンジダ・アルビカンス抗原、及びエンドトキシン、好ましくはリポ多糖類(LPS)からなる群から選択される、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免疫応答及び治療効果に対するシステムアプローチの分野に関するものであり、特に、対象となる疾患の免疫応答シグネチャを含む誘導性免疫撹乱を有する健康な対象における治療薬の臨床評価の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ほとんどのファーストインヒューマン試験は、新規薬剤の安全性及び薬物動態を評価することを目的としたものであり、薬力学的な薬物効果はそれほど重視していない。健康なヒトボランティアでは、急性又は慢性(例えば、自己免疫性)の免疫刺激の欠如により、疾患に特有の分子の多くは発現することがなく、したがって、これらの分子を標的とする薬物の影響は容易に測定され得るものではない。
【0003】
ワクチンは、治療薬の早期臨床研究に含められてきた。例えば、ベドリズマブ(α4β7インテグリンモノクローナル抗体)に関するある臨床試験では、健常な参加者が、ベドリズマブの静脈内投与を受け、続いてHBVワクチンの筋肉内投与及びコレラワクチンの経口投与を受けた。(Wyant et al.,Gut.2015 Jan;64(1):77-83)。ベドリズマブは、筋肉内投与されたHBV抗原に対する応答を変化させなかったが、経口投与されたコレラ抗原に対する応答を低減させることが示され、その腸選択的な作用機序が実証された。しかしながら、この研究は、HBVワクチン又はコレラワクチンが、ベドリズマブが標的とする疾患である、中程度から重度の活性潰瘍性大腸炎を反映する免疫応答シグネチャを含んだ免疫撹乱を誘発したかどうかを示すものではなかった。免疫学的標的の活性化を誘発することが可能な抗原チャレンジは存在するが、臨床試験の状況との関連でこれらの生物学的応答はあまり理解されていない。
【0004】
細胞レベルで疾患病理学及び薬物機序を評価する現行の方法には限界が存在する。例えば、免疫状態を評価する既存の方法は、機能的状態又は特異性とは無関係に、免疫グロブリン(例えば、総IgG、IgM、IgA)及び一般的な免疫細胞集団(例えば、CD4、CD8、好中球、単球)の質的な測定又は量的な測定に依存している。過去の研究における免疫学的変化を測定するバイオマーカーは、可溶性の炎症因子及び遺伝子発現のアッセイに専ら制限されており、免疫細胞集団の表現型及び機能的性質は限定されてきた。機能性免疫応答パラメータの特徴を取り入れた広範囲の分析が、免疫媒介性の病原性プロセスの理解、及び異なる免疫調節治療様式の効果の測定に向けた必須戦略の一環となり得る。しかしながら、免疫細胞プロファイルの測定は、臨床研究で使用するために現在標準化されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床研究における精密医療アプローチを強化する、免疫応答の多次元分析を可能にするための新しい技術及びアプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の実施形態によれば、疾患の免疫応答シグネチャを含む免疫撹乱を健康な対象に誘導し、対象となる治療薬を、免疫撹乱を有する健康な対象において臨床的に評価する。
【0007】
一般的な一態様では、本出願は、疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発する抗原を同定する方法に関するものであり、方法は、
(1)抗原を含む有効量の組成物を健康な対象に投与することと、
(2)投与する工程(1)の前に、またその後の複数の時点で、健康な対象から生体試料を収集することと、
(3)生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースライン(すなわち、投与する工程(1)の前)からの長期的な変化を測定することと、
(4)測定された長期的な変化を疾患の免疫応答シグネチャと比較することにより抗原によって健康な対象に誘導された免疫撹乱の影響を検出することと、
(5)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発する抗原を同定することと、を含む。
【0008】
別の一般的な態様では、本出願は、治療薬の効果を予測する方法に関するものであり、方法は、
(1)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、健康な対象に投与することと、
(2)治療薬を含む医薬組成物を、免疫撹乱を有する健康な対象に投与することと、
(3)健康な対象における免疫撹乱に対する治療薬の影響を測定することと、
(4)(3)で測定された影響に基づいて、疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を予測することと、を含む。
【0009】
本出願の一実施形態では、本方法は、
(5)治療薬を含む医薬組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(6)疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を評価することと、を更に含む。
【0010】
一般的な位置態様では、本出願は、治療薬の効果を予測する別の方法に関するものであり、方法は、
(1)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(2)投与する工程(1)の前、及びその後の複数の時点で、治療を必要とする対象から生体試料を収集することと、
(3)生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースライン(すなわち、投与する工程(1)の前)からの長期的な変化を測定することと、
(4)治療を必要とする対象における抗原によって誘導された免疫撹乱の影響を検出するために、測定された長期的な変化を疾患の免疫応答シグネチャと比較することと、
(5)抗原によって誘導された免疫撹乱に基づいて、治療を必要とする対象における治療薬の効果を予測することと、を含む。
【0011】
本出願の一実施形態では、本方法は、
(6)治療薬を含む医薬組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(7)疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を評価することと、を更に含む。
【0012】
本出願の別の実施形態では、本方法は、
(8)治療を必要とする対象における抗原によって誘発された免疫撹乱に対する治療薬の影響を測定することにより、対象における治療薬の効果を評価することを更に含む。
【0013】
一実施形態では、本出願の方法は、疾患の治療のための治療薬のファーストインヒューマン臨床評価において用いられる。
【0014】
一実施形態では、対象、好ましくは疾患の治療を必要とするヒト対象に対する治療薬の効果は、限定するものではないが、対象に対する治療薬の生化学的、生理学的、及び/又は分子的効果を含めて、薬力学的効果を含む。好ましくは、その効果は、対象における治療薬の臨床的有効性及び安全性のうちの少なくとも1つから選択される臨床薬力学的効果を含む。その効果はまた、対象における治療薬の薬力学も含み得る。
【0015】
任意の好適な抗原を本発明において使用して所望の免疫撹乱を誘導することができる。好ましくは、抗原は、ヒトへの使用が既に承認されているワクチンである。本出願の実施形態によれば、抗原は、天然痘ワクチン(例えば、Imvamunn(登録商標)/Imvanex(登録商標))、帯状疱疹ワクチン(例えば、Shingrix(登録商標))、ゾスターワクチン(例えば、Zostavax(登録商標))、破傷風ワクチン、LPSエンドトキシン、及び抗原皮膚チャレンジ(CANDIN(登録商標)、カンジダ・アルビカンスなど)からなる群から選択される。
【0016】
本発明の他の態様、特徴、及び利点は、発明の詳細な説明、並びにその好ましい実施形態及び添付の特許請求の範囲を含む以下の開示より明らかとなろう。
【0017】
上述の「発明の概要」及び以降の「発明を実施するための形態」は、添付の図面と併せて読むことでより良好に理解されるであろう。本発明は、図面に示される実施形態そのものに限定されない点は理解される必要がある。
【0018】
図面は、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ワクチンが、薬剤調節のために標的化された疾患発症の免疫標的/経路を強調し得ることを示す。
図2】既知のワクチンを投与された健康なヒト対象における免疫応答のマルチレベル分析を提供するための、第0相臨床試験の試験計画を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
背景技術において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用又は記載する。これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文書、操作、材料、装置、物品などの考察は、本発明の背景を与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0021】
特に規定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によってあたかもその全体が本明細書に記載されているものと同様にして組み込まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0022】
特に断らない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全ての場合において、「約」なる語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、100μgという用量は、90μg~110μgを含む。本明細書で使用するとき、数値範囲の使用は、文脈上そうでない旨が明確に示されない限り、その範囲内の整数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含む。
【0023】
本明細書及び以下の特許請求の範囲全体を通して、特に文脈上必要としない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変化形は、指定の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。本明細書で使用するとき、用語「含む」は、用語「含有する」又は「含む(including)」に置き換えることができ、又はときに本明細書で使用するとき、用語「有する」に置き換えることもできる。
【0024】
本明細書で使用するとき、「からなる」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。本明細書で使用するとき、「から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又はステップは除外しない。本発明の態様又は実施形態の文脈において本明細書で使用するときは常に、本開示の範囲を変化させるために、「含む(comprising)」、「含有する」、「含む(including)」、及び「有する」という上記用語のいずれかを、用語「からなる」又は「から本質的になる」に置き換えることができる。
【0025】
本明細書で使用するとき、複数の列挙された要素間の接続的な用語「及び/又は」は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしに第1の要素が適用可能であることを指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細書で使用されるとき、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。選択肢のうちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。
【0026】
本明細書で使用するところの「対象」とは、本発明の実施形態による免疫原性の成分及び/又は組成物が投与されるか、あるいは投与されている任意の動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。本明細書で使用するとき、用語「哺乳動物」とは、あらゆる哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、これらに限定されるものではないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル又は類人猿などの非ヒト霊長類(NHP)、及びヒト等、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用するとき、「有効量」とは、所望の免疫効果又は免疫応答を、それを必要とする対象に誘導するのに十分な抗原の量を意味する。有効量は、様々な要因に応じて変化し得る。例えば、健康な対象における疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を誘導するために使用される抗原を含む組成物の「有効量」に関して言えば、有効量は、対象の身体状態、年齢、体重、健康状態など、使用される抗原を含む特定の組成物、免疫応答シグネチャが健康な対象における免疫撹乱によって反映される特定の疾患などの因子に応じて異なり得る。有効量は、本開示を考慮して当業者によって決定され得る。
【0028】
健康な対象において、身体は、正常な免疫バランスを保つために必要な安定性及び定常性の維持及び調節を可能にする免疫系の恒常性を維持する。ワクチン接種は、確立されるのが遅く、さほど強くない一次免疫応答などの免疫撹乱を誘導する。ワクチン接種の際、Bリンパ球の一部は、ワクチン中の抗原を検出し、その抗原に対する特定の抗体を分泌することができるより多くのクローンを産生するように増殖する。したがって、ワクチン接種は、抗原に対する循環抗体のレベルを増加させる。この一次応答は、最大強度まで増強するのに数週間を要する。経時的に、ワクチンによって誘導される一次応答は、徐々に消失するが、メモリ細胞はワクチン接種後も残存する。病原体による感染時には、二次応答が誘導されるが、これは一次応答よりも強く、より迅速である。応答は時間と共に消散する。
【0029】
図1に示すように、ワクチンは、薬剤調節のために標的化された疾患発症の免疫標的/経路を強調し得る。例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)は、CD4T細胞、B細胞、抗体(Ab)応答、形質細胞様樹状細胞(pDC)、NK細胞、CD8T細胞、I型インターフェロン(T1-IFN)などの様々な免疫標的及び/又は経路の調節異常及び/又は異常活性若しくは機能に関連することが知られている。ワクチンは、SLEに関連する様々な免疫標的及び/又は経路の免疫撹乱を誘導することが知られており、したがって、SLEの1つ以上の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導するために使用され得る。例えば、水痘帯状疱疹ワクチンを使用すると、T1-IFNのレベル又は活性を含むSLEの免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導することができるが、完全痘疱ワクチンを使用すると、pDC、NK細胞、及びCD8T細胞のうちの1つ以上の特性を含むSLEの免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導することができる。加えて、破傷風ワクチンを使用すると、CD4T細胞、B細胞、及びAb応答のうちの1つ以上の特性を含むSLEの免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導することができる。SLEの治療のための治療薬の臨床評価では、ワクチンによって健康な対象に誘導される1つ以上の免疫撹乱に対する治療薬の効果が調査され得る。ワクチンによって誘導された1つ以上の免疫撹乱を有する健康な対象における治療薬の臨床研究の結果は、SLEの治療を必要とする対象における治療薬の臨床研究を導くことができる。
【0030】
本明細書で使用するとき、「免疫撹乱」は、抗原を含む組成物の投与によって誘導される対象の免疫系の応答、又は疾患によって誘導されるか若しくは疾患に関連する対象の免疫系の変化を指す。例えば、免疫撹乱は、抗原の投与によって誘導される一次応答を含み得る。免疫撹乱はまた、疾患に関連する慢性炎症などの炎症によって誘導される免疫系の変化も含み得る。免疫撹乱は、疾患を有する対象において調節不全となる1つ以上の免疫経路の変化を更に含み得る。
【0031】
本出願の実施形態によると、抗原の投与によって誘導される健康な対象における免疫撹乱は、疾患の免疫応答シグネチャを反映し得る。
【0032】
本明細書で使用するとき、「免疫応答シグネチャ」は、対象への抗原の投与後又は患者における疾患に関連する免疫応答のエフェクター及び/又はメモリ段階中の先天免疫及び/又は適応免疫の細胞及び/又は分子シグネチャを指す。2つ以上の免疫応答シグネチャが、1つの抗原によって誘導され得るか、あるいは1つの疾患に関連付けられ得る。
【0033】
本明細書で使用するとき、「疾患の免疫応答シグネチャ」とは、疾患に罹患した患者又は疾患の治療を必要とする対象において観察される疾患に関連する免疫応答シグネチャを指す。例えば、疾患の免疫応答シグネチャは、(1)患者における疾患に関連する急性感染症又は慢性炎症状態の間に生じる免疫応答、又は(2)患者における疾患に関連付けられる局所性及び/又は全身性の可溶性及び細胞性免疫応答の1つ以上によって定義することができる。
【0034】
本明細書で使用するとき、「疾患の免疫応答シグネチャを反映する健康な対象における免疫撹乱」とは、疾患の免疫応答シグネチャに対応する免疫応答シグネチャを含む健康な対象における免疫撹乱を指す。健康な対象における免疫撹乱は、既知のワクチンなどの抗原の投与によって誘導され得る。疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱は、疾患の免疫応答シグネチャに対応する免疫応答シグネチャを定義する免疫撹乱の全持続時間(例えば、そのような誘導性免疫応答が、ベースラインレベルの近くにあるいは実質的にベースラインレベルに戻るまで)を包含し得る。本出願の実施形態によると、抗原によって健康な対象に誘導される免疫撹乱は、1つ以上の疾患の免疫応答シグネチャを反映し得る。本出願の他の実施形態では、疾患は、1つ以上の免疫応答シグネチャを有し得る。1つ以上の抗原又はワクチンを使用して、1つ以上の疾患の1つ以上の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘導することができる。
【0035】
疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発する抗原は、本発明の方法を用いて同定され得るが、その方法は、
(1)抗原を含む有効量の組成物を健康な対象に投与することと、
(2)投与する工程(1)の前に、またその後の複数の時点で、健康な対象から生体試料を収集することと、
(3)生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースライン(すなわち、投与する工程(1)の前)からの長期的な変化を測定することと、
(4)測定された長期的な変化を疾患の免疫応答シグネチャと比較することにより抗原によって健康な対象に誘導された免疫撹乱の影響を検出することと、
(5)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発する抗原を同定することと、を含む。
【0036】
投与時に、治療薬は、抗原又は疾患によって誘導される免疫撹乱の変化をもたらし得る。例えば、既知のワクチンなどの抗原によって健康な対象に誘導される、疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱は、その疾患を治療するための治療薬の投与時に変更され得る。治療薬の効果は、抗原によって健康な対象に誘導された免疫撹乱に対する影響に基づいて予測又は評価することができる。例えば、治療薬が免疫撹乱の応答の持続時間の短縮、免疫撹乱の応答の振幅の減少、及び/又は、免疫撹乱の消散若しくは応答の別様な向上をもたらす場合、その変化により、疾患の治療を必要とする患者における疾患の治療にその治療薬が有効であることが示唆又は予測され得る。代替的に、治療薬が、健康な対象における誘導性免疫撹乱の消散又は応答に影響を及ぼさないか、あるいは悪影響を及ぼす場合、治療薬が患者の疾患に対して無効であることが示唆され得る。
【0037】
したがって、別の一般的な態様では、本出願は、健康な対象に対する研究に基づいて治療薬の効果を予測する方法に関するものである。本方法は、
(1)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、健康な対象に投与することと、
(2)治療薬を含む医薬組成物を、免疫撹乱を有する健康な対象に投与することと、
(3)健康な対象における免疫撹乱に対する治療薬の影響を測定することと、
(4)(3)で測定された影響に基づいて、疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を予測することと、を含む。
【0038】
本出願の一実施形態によると、本方法は、治療薬を含む異なる量の医薬組成物を、免疫撹乱を有する健常な対象に投与することであって、それによって治療薬の用量応答関係を取得する、ことを含む。
【0039】
健康な対象を用いた試験に基づいて疾患に対して有効であると予測される治療薬を、疾患の治療を必要とする対象において更に評価することができる。したがって、本出願の一実施形態では、本方法は、
(1)治療薬を含む医薬組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(2)対象における治療薬の効果を評価することと、を更に含む。
【0040】
本出願のある実施形態によると、本方法は、治療薬を含む異なる量の医薬組成物を、治療を必要とする対象に投与することにより、対象における治療薬の用量応答関係を取得することを含む。好ましくは、異なる量の医薬組成物は、本出願の実施形態による方法を用いて取得された、健康な対象における治療薬の用量応答関係に基づいて選択される。
【0041】
治療薬は、疾患によって誘導されるか、又は疾患に関連付けられる1つ以上の免疫撹乱に関与する免疫経路を標的化又は調節することができる。治療薬の効果は、その免疫経路の制御に基づいて評価され得る。例えば、免疫経路が患者において恒常的に下方制御される場合、その患者は、上方制御された免疫経路を標的とする治療薬による治療に応答しない場合がある。疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原に対する対象の応答性を用いて、免疫撹乱に関与する免疫経路を標的とする治療薬による治療に対する対象の応答性を予測することができる。例えば、抗原が、抗原の投与時に健康な対象で観察された免疫応答シグネチャに一致する免疫撹乱を患者に誘導した場合、又は、抗原が、疾患の免疫応答シグネチャを含む免疫撹乱を増強する免疫撹乱を患者に誘導した場合、誘導された免疫撹乱は、治療薬が患者の疾患の治療に有効であることを示唆又は予測することができる。あるいは、抗原が、疾患の治療を必要とする患者において所望の免疫撹乱に影響を及ぼさないか、あるいはそのような免疫撹乱を誘導しない場合、それによって、治療薬が患者の疾患に対して効果的でないことが示唆され得る。
【0042】
したがって、本出願の別の態様は、疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を予測する方法であって、
(1)疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を健康な対象に誘発することが知られている抗原を含む有効量の組成物を、治療を必要とする対象に投与することと、
(2)投与する工程(1)の前、及びその後の複数の時点で、治療を必要とする対象から生体試料を収集することと、
(3)生体試料中の免疫細胞集団及び/又は炎症性メディエータのベースライン(すなわち、投与する工程(1)の前)からの長期的な変化を測定することと、
(4)治療を必要とする対象における抗原によって誘導された免疫撹乱の影響を検出するために、測定された長期的な変化を疾患の免疫応答シグネチャと比較することと、
(5)抗原によって誘導された免疫撹乱に基づいて、治療を必要とする対象における治療薬の効果を予測することと、を含む方法に関する。
【0043】
治療薬の予測される効果は、その治療薬を対象に投与することによって検証され得る。したがって、本出願の一実施形態では、本方法は、
(1)治療薬を含む医薬組成物を、疾患の治療を必要とする対象に投与することと、
(2)疾患の治療を必要とする対象における治療薬の効果を評価することと、を更に含む。
【0044】
本出願の一実施形態によると、本方法は、治療を必要とする対象における抗原によって誘導された免疫撹乱に対する治療薬の影響を測定することによって、対象における治療薬の効果を評価する、ことを更に含む。
【0045】
当該技術分野において既知の技術又は方法を使用して、ワクチン接種後の免疫応答のエフェクター及びメモリ段階中の先天免疫及び適応免疫の主要な分子機構を同定することができ、それにより、抗原又はワクチンを投与された健康な対象における疾患の免疫応答シグネチャを取得することができる(例えば、Hak et al., Front Immunol. 2017; 8: 1563. published online 2017 Nov 15)。例えば、二重色逆転写多重ライゲーション依存プローブ増幅(dcRT-MLPA)などの長期多重トランスクリプトームプロファイリングアッセイが、先天性、適応性、制御性、炎症性、及びメモリ応答のトランスクリプトミクスシグネチャを特に強調した、ヒト感染症に対するワクチン接種後のヒト免疫応答を生物学的にプロファイリングするために使用され得る。最適な応答及び高密度の動態トランスクリプトーム応答測定の決定は、新規な免疫化戦略の最適化に役立つであろう。ワクチンによるワクチン接種後のグローバルトランスクリプトーム遺伝子発現プロファイリング(mRNA並びにマイクロRNA)などのトランスクリプトームアッセイを使用して新規機構を分析し、年齢及びワクチン接種後の時間変化に特に重点を置いて、免疫性と安全性とを相関させることができる。質量分析(MS)と組み合わせた水素重水素交換(HDX)などの基盤技術を使用する定量的プロテオームプロファイルを使用することにより、ワクチン接種後のポリクローナル血清中の機能的に活性なエピトープ及び抗体を定義することができる。抗原特異的メモリT細胞及びB細胞、並びに適正な組織部位に遊走するそれらの能力を、本開示を考慮し、当該技術分野において既知の方法を用いて分析することができる。実験的アプローチ(抗原刺激、TCRディープシークエンシング、並びにTh1、Th2、及びTh17メモリサブセットのクローニング)の組み合わせを、T細胞サブセット応答の分析に使用することができる。健康な粘膜部位及び疾患のある粘膜部位におけるT細胞トラフィッキング、ケモカイン(CCL20、CXCL10、及びCXCL12など)に応答したT細胞遊走を制御する分子機構、並びに、特に慢性的な免疫活性化を有する個人においてTh細胞が粘膜ニッチに到達して細胞成熟及び機能活性を支持する能力も評価することができる。
【0046】
本出願の一実施形態では、健常な対象における誘導性免疫撹乱は、疾患を有する対象における調節不全となることが知られている1つ以上の免疫経路における変化を含む。
【0047】
本出願の別の実施形態では、健常な対象における誘導性免疫撹乱は、疾患を有する対象における疾患と関連付けられることが知られている1つ以上の免疫細胞集団における変化を含む。免疫細胞プロファイルは、本開示を考慮して、当該技術分野において既知の方法を用いて試験及び監視することができる。
【0048】
本出願の更に別の実施形態では、健常な対象における誘導性免疫撹乱は、疾患を有する対象における疾患と関連付けられることが知られている1つ以上の炎症性メディエータにおける変化を含む。炎症メディエータのレベル及び/又は活性は、本開示を考慮して、当該技術分野において既知の方法を用いて研究及び監視することができる。
【0049】
本出願の更なる実施形態では、健常な対象における誘導性免疫撹乱は、疾患を有する対象における疾患と関連付けられることが知られている1つ以上のバイオマーカーの発現量及び/又は活性における変化を含む。当該技術分野において既知の方法が、対象とするバイオマーカーを試験及び監視するために用いられ得る。
【0050】
任意の好適な抗原を使用して、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を誘導することができる。好ましくは、ワクチン又は抗原チャレンジは、以下の考察、すなわち、1)承認された使用及び安全性記録、2)一度に複数の免疫経路を活性化する能力、若しくは特定の免疫細胞及び対象となる経路を刺激する能力、並びに/又は、3)末梢又は粘膜部位における応答を活性化する能力、に基づいて選択される。
【0051】
一実施形態では、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を誘導するために、ヒト感染症に対するワクチンが使用される。このようなワクチンの例としては、ワクシニア(天然痘)ワクチン(例えば、Imvamunn(登録商標)/Imvanex(登録商標))、帯状ヘルペス(shingles)ワクチン(例えば、Shingrix(登録商標))、帯状疱疹ワクチン(例えば、Zostavax(登録商標))、及び破傷風ワクチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
別の実施形態では、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を誘導するために、リポポリサッカライド(LPS)エンドトキシンなどのエンドトキシンチャレンジが使用される。エンドトキシンチャレンジは、急性感染中にあるいは慢性炎症状態の間に生じる免疫応答に似た免疫応答を引き出すために数十年にわたって安全に使用されている(Dillingh et al,J of Inflammation 2014, Kiers et al,Sci Reports 2017)。
【0053】
別の実施形態では、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを反映する免疫撹乱を誘導するために、CANDIN(登録商標)(カンジダ・アルビカンス)などの抗原皮膚チャレンジが使用される。抗原皮膚チャレンジは、局所性及び全身性の可溶性及び細胞性免疫応答の組織開始抗原刺激を評価するために使用されてきた。これらの種類の免疫系チャレンジは、健康な個体における正常な免疫応答の予想範囲に関する洞察を提供し得るものであり、したがって、自己免疫疾患において、あるいは特定の免疫経路を標的とする薬剤によって変更され得る機能的な抗原特異性の免疫と比較するための基準として働き得る(Lynn et al, J of Pharm and Exp Ther, 2004)。
【0054】
本出願の一実施形態では、健康な対象から収集される生体試料は、末梢血試料である。好ましくは、生体試料は末梢血単核球(PBMC)を含む。別の実施形態では、生体試料は組織試料である。任意の既知の方法が、健康な対象から生体試料を収集するために用いられ得る。
【0055】
生体試料は、抗原又はワクチンの投与前に、また投与後の様々な時点に、健康な対象から収集される。好ましくは、生体試料は、健康な対象から、抗原又はワクチンの投与前の0日目に収集され、また抗原又はワクチンの投与後の1日目、3日目、7日目、14日目、21日目、28日目、最大90日後に収集される。
【0056】
細胞性免疫集団における長期的な摂動後の変化としては、活性化状態及び他の機能的属性に関連付けられる細胞表面抗原によって測定される表現型の変化が挙げられるが、これらに限定されない。免疫細胞には、先天性免疫系の細胞、並びに適応免疫系の細胞が含まれる。免疫細胞の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、好酸球及び樹状細胞(DC)、好中球、マクロファージ、B細胞及びT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
炎症性メディエータの変化としては、炎症中に放出される任意の生化学的メディエータの量及び/又は活性の変化が挙げられるが、これらに限定されない。炎症性メディエータの例としては、サイトカイン、ケモカイン、血管活性アミン(ヒスタミン及びセロトニンなど)、キニン(ブラジキニンなど)、エイコサノイド(トロンボオキサン、ロイコトリエン、及びプロスタグランジンなど)、補体及び補体由来ペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本出願の実施形態によると、ワクチン又は抗原は、疾患の病態生理学を反映する免疫応答シグネチャを含む免疫応答を健康な対象に誘導するために使用され、対象となる疾患を治療するための治療薬、好ましくは免疫療法の効果は、健康な対象における免疫撹乱への応答に対する治療薬の効果を測定することによって臨床的に評価される。健康な対象に対する早期の臨床試験にワクチンを含めることは、治療を必要としている対象における治療薬(例えば、免疫療法)に対する応答の情報を与え、治療薬の作用機構の情報を与え、免疫応答閾値を評価し、あるいは、より大規模な臨床試験を実行する前の初期開発段階の間の意思決定をサポートするために、個々のベースライン及び免疫応答シグネチャを定義する助けとなる。
【0059】
したがって、薬力学的な薬物効果をあまり重視せずに新規薬剤の安全性及び薬物動態を評価することを意図した大部分のファーストインヒューマン試験とは異なり、本出願の実施形態による方法は、治療薬のファーストインヒューマン試験によって、治療薬の薬力学的効果を評価することをも可能にする。例えば、疾患の治療を必要とする患者又はヒト対象を用いた更なる試験を行う前に、疾患の病態生理学を反映する免疫応答シグネチャを含む誘導性免疫撹乱を有する健康なヒト対象を用いて、治療薬の用量応答関係をファーストインヒューマン試験において試験することができる。
【0060】
ワクチン接種又は抗原チャレンジは、個々の免疫応答閾値又は免疫スコアを確立するために使用されてきた(Tsang JS Trends in Immunology 36: , 2015, Furman D and Davis MM, Vaccine 33:5271, 2015, Boyd, SD and Jackson, KJL Cell Host and Microbe, 17:301, 2015, Kaczorowski, KJ et al PNAS, 2017)。本開示を考慮すると、ワクチン接種又は抗原チャレンジを使用して、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを含む免疫撹乱を誘導することができる。この誘導性免疫撹乱は、免疫調節剤に対する応答性を評価するための潜在的予測値を有する。加えて、ワクチン又は抗原チャレンジを実用的に利用して、新しい免疫調節物質の臨床試験におけるバイオマーカー応答を評価することができ、免疫調節物質の標的との作用を評価し、メカニズムの証明(POM)のエビデンスを収集する際の潜在的な有用性を有する。
【0061】
免疫撹乱は、本開示を考慮して、当該技術分野において既知の方法を用いて測定及び/又は監視され得る。動物又は人体における免疫応答を誘導又は刺激する抗原又はワクチンの能力は、当該技術分野において標準的な様々なアッセイを使用して、生体外又は生体内のいずれかで評価され得る。免疫応答の発症及び活性化を評価するために利用可能な技術の一般的な説明については、例えば、Coliganら(1992 and 1994, Current Protocols in Immunology; ed. J Wiley & Sons Inc, National Institute of Health)を参照されたい。細胞免疫の測定は、CD4+及びCD8+T細胞由来のものを含む活性化エフェクター細胞によって分泌されるサイトカインプロファイルの測定(例えば、ELISPOTによるIL-10又はインターフェロンγ産生細胞の定量化)によって、免疫エフェクター細胞の活性化状態の判定(例えば、古典的な[H]チミジン取り込み又はフローサイトメトリーベースのアッセイによるT細胞増殖アッセイ)によって、感作対象における抗原特異的Tリンパ球についてアッセイすること(例えば、細胞毒性アッセイにおけるペプチド特異的溶解など)によって実施され得る。
【0062】
細胞及び/又は体液性応答を刺激する抗原又はワクチンの能力は、抗体結合及び/又は結合における競合によって決定され得る(例えば、Harlow, 1989, Antibodies, Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)。例えば、免疫原を提供する組成物の投与に応答して産生される抗体の力価は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定され得る。免疫応答はまた、抗体アッセイを中和することによって測定され得るが、ここでウイルスの中和は、特異的抗体とのウイルスの反応/阻害/中和による感染力の喪失として定義される。免疫応答は、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)アッセイによって更に測定され得る。
【0063】
測定された免疫応答の変化を経時的に監視するために、任意の計算方法が用いられ得る。例えば、個体の生体内免疫応答閾値の測定値を分析し、それによって、特定の免疫撹乱に対する応答及び回復の可能性が評価され得る定性的メトリックを提供するために、Looperという計算方法が使用される(Rath et al, Predicting position along a looping immune response trajectory, PLoS One, October 2018(その関連する内容は参照により本明細書に組み込まれる))。本出願の実施形態によると、Looperを使用して、ワクチン接種によって健康な対象に誘導される免疫撹乱を分析する。
【0064】
静的バイオマーカー(例えば、原位置でのPD1発現、IFNシグネチャ)を含む個々の免疫閾値応答、並びに全身性免疫チャレンジに対する機能的応答(例えば、抗インフルエンザ感染又はインフルエンザワクチン応答)を決定するときに、いくつかのパラメータが考慮され得る。システム免疫学の分野では、変化に富んだ応答の範囲を測定するための特定の撹乱の使用は、記述的な「免疫スコア」を定義するために静的バイオマーカー読み取り値と組み合わされる。したがって、個体は、ベースラインの生理学的状態又は応答性に応じて、高いスコア又は低いスコアを有し得る。次いで、この免疫スコアは、治療層別化及び治療応答監視、又は疾患の治療を必要とする対象の臨床試験登録について後に考慮され得る(Farsaci,B et al,Cancer Immunol Res,4:755-765,2016)。本出願のある実施形態によると、誘導性免疫撹乱を有する健常な対象における末梢血単核球内の免疫細胞サブセットを分析することで、Farsaci,Bらと同様の「末梢免疫スコア」を疾患の免疫応答シグネチャに含めることができるかどうかを判定することができる。
【0065】
本出願の実施形態によると、細胞集団及び機能的な抗原特異的免疫応答を評価するために、抗原の投与前及び投与後にPBMCが対象から単離される。PBMCは、対象のタイプ(例えば、健康体か病体か)ごとに、免疫チャレンジ(例えば、ワクチン接種の有無又は投与されたワクチンの種類)ごとに、また評価される治療薬(例えば、標的免疫調節剤とチェックポイント阻害剤)ごとに分割される。次いで、PBMC試料は、対照として、あるいは、臨床試験において評価されている治療薬が標的とする免疫に特有の他の質問を尋問するために、将来の試験に組み込まれてもよい。健康な対象は、Immvamunn(登録商標)(天然痘ワクチン)、Shingrix(登録商標)(ヘルペスゾスターワクチン)、エンドトキシン(大腸菌LPS)、カンジダ・アルビカンス、破傷風トキソイド、及びキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)からなる群から選択された抗原を投与される。バイオマーカーのパネルがPBMCで測定される。マーカーとしては、例えば、抗体及びサイトカインの産生を評価する他の種類の機能アッセイに加えて、マルチパラメータフローサイトメトリー又はCyTofによって評価され得る免疫細胞特異的表現型及び機能マーカーのパネルが挙げられる。単離されたPBMCから単細胞RNAseqを使用することを含む転写データも得られる。対象となる疾患の1つ以上の免疫応答シグネチャは、マーカーの測定値、及び疾患に関連することが知られているマーカーとの比較に基づいて同定され得る。疾患に対する治療薬の効果は、疾患の免疫応答シグネチャに対する薬剤の効果の測定に基づいて評価される。
【0066】
本出願の方法は、疾患の治療を必要とする対象における対象疾患を治療するための任意の好適な治療薬の臨床評価に用いられ得る。好ましくは、治療薬は免疫調節剤である。本出願のいくつかの実施形態では、治療薬は、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は尋常性乾癬の治療を目的とするものなどの標的化された免疫調節剤である。
【0067】
また、本明細書では、治療薬の臨床評価のためのキットも提供される。本キットは、健康な対象に疾患の免疫応答シグネチャを含む免疫撹乱を誘導する際に使用するための抗原と、治療薬を含む医薬組成物と、を含む組成物を含む。本キットはまた、1つ以上の追加の抗原又はワクチン、アジュバント、又は免疫刺激剤を含み得る。本キットは、本出願の方法による臨床試験において抗原及び医薬組成物を含む組成物を使用することに関する説明書を更に含み得る。好ましくは、抗原を含む組成物は、ヒト感染症に対するワクチン、好ましくは非複製性天然痘ワクチン、ヘルペスゾスターワクチン、非生帯状疱疹ワクチン、又は破傷風ワクチン、抗原皮膚チャレンジ、好ましくはカンジダ・アルビカンス抗原、及びエンドトキシン、好ましくはリポ多糖類(LPS)からなる群から選択される。より好ましくは、医薬組成物は、活性成分としての免疫調節剤、好ましくは標的化された免疫調節剤又はチェックポイント阻害剤を含む。
【0068】
本出願の以下の実施例は、本出願の本質を更に説明するためのものである。以下の実施例は本出願を限定するものではなく、また本出願の範囲は添付の特許請求の範囲によって定められることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0069】
ワクチン誘導性のヒト免疫応答のマルチレベル分析
将来の第1相又は第2相ヒトボランティア試験において用いられ得る生理学的撹乱としてのワクチン又は他の抗原/代謝チャレンジの有用性を決定するために、ワクチン/抗原特異的応答の時間過程及び範囲を確認する評価を行う。また、これによって、対象となる疾患に対する1つ以上の免疫応答シグネチャを特定する。本試験はまた、将来のヒト臨床試験における使用について実際に考慮され得る分析ツールの種類の評価を可能にする。
【0070】
材料及び方法
これは、該当する場合、全身性の免疫応答及び局所的組織に対する2種類のワクチン及び2種類の抗原チャレンジ剤の効果を評価するための、健康な成人志願者における第0相の予備的な単一施設試験である。各被験者は、ベースライン細胞集団及び炎症メディエータ応答との比較のための自身の対照として機能する。試験の終了は、各コホートごとに定義された最後の試料採取時点(最大90日間)に生じる(図3参照)。
【0071】
表1に示すように、市販のワクチンであるImvamune(登録商標)/Imvanex(登録商標)(Bavarian Nordic)及びShingrix(登録商標)(GSK)を使用する。市販のアレルゲン試験溶液をカンジダ・アルビカンス抗原の皮膚注射及び皮膚反応誘導に使用する。市販のLPSエンドトキシンを静脈内エンドトキシンチャレンジに使用する。
【0072】
【表1】
【0073】
本試験の目的及びエンドポイントは、以下の表2に記載されている。
【0074】
【表2】
【0075】
結果
抗原特異的抗体、細胞応答、及び炎症メディエータの変化を含む、異なるチャレンジ薬剤に対する免疫応答の分析のために、血液試料を参加者から採取する。これらの試料に対して行う分析は、免疫学的、血液学的、及び他の臓器系、並びに/又は一般的な免疫系機能及び反応における個体間変動に対する影響についての洞察を提供することを意図したものである。チャレンジ薬剤特異的抗体、細胞応答、及び可溶性の炎症性メディエータの検出と特徴付けを、検証された特異的な高感度イムノアッセイ法を使用して測定する。抗原チャレンジ特異的免疫経路に関連する遺伝子及びエピジェネティクスマーカーのDNA抽出及び分析を可能にするために、薬理ゲノムミクス血液試料を収集する。その分析は、完全なゲノムワイド検定及び/又は標的配列決定を含み得る。
【0076】
本明細書に記載された実施例及び実施形態は、例示のみを目的としたものであり、上述の実施形態に対する変更は、その広範な発明概念から逸脱することなくなされ得ることが理解される。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に制限されず、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の趣旨及び範囲内の修正をも包含することを意図するものと理解される。
図1
図2
【国際調査報告】