(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-23
(54)【発明の名称】グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニストのアナログ、その調製プロセスおよび使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/605 20060101AFI20220315BHJP
C07K 1/06 20060101ALI20220315BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20220315BHJP
C07K 1/10 20060101ALI20220315BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20220315BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220315BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220315BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220315BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220315BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20220315BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220315BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220315BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220315BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220315BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220315BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220315BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20220315BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220315BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20220315BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220315BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20220315BHJP
A61P 25/32 20060101ALI20220315BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220315BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C07K14/605
C07K1/06
C07K1/14
C07K1/10
A61K38/22
A61P3/10
A61P3/00
A61P19/02
A61P27/12
A61P25/02
A61P29/02
A61P13/12
A61P27/02
A61P3/04
A61P9/12
A61P3/06
A61P9/10
A61P19/10
A61P19/08
A61P5/00
A61P15/00
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/20
A61P3/02
A61P25/08
A61P25/32
A61P1/04
A61P1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569598
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(85)【翻訳文提出日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 IB2020050957
(87)【国際公開番号】W WO2020161664
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】201921004787
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521353285
【氏名又は名称】エンジーン バイオサイエンシーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ガドジル ヒマンシュ
(72)【発明者】
【氏名】バナージー アビール
(72)【発明者】
【氏名】ロンデ ハルシタ
(72)【発明者】
【氏名】マグダム ディーパリ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シン サンディープ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA09
4C084BA19
4C084BA23
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4C084ZA051
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4C084ZC411
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
4H045FA34
4H045GA05
(57)【要約】
本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログに関する。本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログを提供する。このグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)のアナログは、半減期が延長されている、より良好な薬物動態プロファイルである、生物活性が保持されている、ならびに、投薬頻度および用量を低下させることにより患者の負担を軽減するのに有利である、のうち1種または複数の特性を有する。本開示は、合成グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)アナログを調製するためのプロセスをさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログ。
【請求項2】
リラグルチドのアナログであって、天然のリラグルチドのアミノ酸配列の2位のアミノ酸L-アラニンがD-アラニンで置き換えられており、D-リラグルチドである、アナログ。
【請求項3】
セマグルチドのアナログであって、天然物の2位のアミノ酸Aib(アミノイソ酪酸)がD-アラニンで置き換えられており、D-セマグルチドである、アナログ。
【請求項4】
天然のリラグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-リラグルチドを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いてFmocを脱保護し、パルミチン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-リラグルチドを得るステップ
を含む、プロセス。
【請求項5】
天然のセマグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-セマグルチドアナログを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-PEG2-CH
2-COOHのシークエンス、Fmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いてFmocを脱保護し、オキサオクタデカン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-セマグルチドを得るステップ
を含む、プロセス。
【請求項6】
D-リラグルチドまたはD-セマグルチドを精製して、それぞれ精製されたD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを得るステップを含んでもよい、請求項4または5に記載のプロセス。
【請求項7】
カップリング剤が、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HBTU)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチル-アミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、およびO-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)から選択される、請求項4または5に記載のプロセス。
【請求項8】
カップリング反応のための溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、無水酢酸、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、酢酸エチル、アセトニトリルおよびアセトンから選択される、請求項4または5に記載のプロセス。
【請求項9】
活性成分としての請求項1、2または3のいずれか1項に記載のGLP-1アナログを、1種または複数の薬学的に許容される担体または賦形剤と一緒に含む、医薬組成物。
【請求項10】
投与経路が、経口または非経口である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
治療有効量の請求項1、2または3のいずれか1項に記載のGLP-1アナログを投与するステップを含む、その必要がある患者においてグルコースレベルを低下させる方法。
【請求項12】
有効量の請求項1、2または3のいずれか1項に記載のGLP-1アナログを投与するステップを含む、対象におけるGLP-1介在性の疾患、障害または症候群を治療する方法。
【請求項13】
前記疾患が、2型糖尿病、1型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、メタボリックシンドローム(X症候群および/またはインスリン抵抗症候群)、糖尿、代謝性アシドーシス、関節炎、白内障、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、肥満、肥満により悪化する病態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症、骨減少症、フレイル、骨損失、骨折、急性冠症候群、成長ホルモン分泌不全による低身長症、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、不安、うつ、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール依存症、腸管運動に関連する疾患、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群または短腸症候群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患が、糖尿病および肥満から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
2型糖尿病、1型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、メタボリックシンドローム(X症候群および/またはインスリン抵抗症候群)、糖尿、代謝性アシドーシス、関節炎、白内障、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、肥満、肥満により悪化する病態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症、骨減少症、フレイル、骨損失、骨折、急性冠症候群、成長ホルモン分泌不全による低身長症、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、不安、うつ、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール依存症、腸管運動に関連する疾患、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群または短腸症候群から選択される疾患の治療のための、請求項1、2または3のいずれか1項に記載のGLP-1アナログの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)のアナログに関する。より詳細には、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然(native)のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログに関する。本発明は、さらに、半減期が延長されている、より良好な薬物動態プロファイルである、生物活性が保持されている、ならびに、投薬頻度および用量を低下させることにより患者の負担を軽減するのに有利である、のうち1種または複数の特性を有する、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)のアナログに関する。特に、本発明は、異なるペプチド合成プロセスから得られる合成グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)アナログ、および、合成グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)アナログを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明には、本発明の理解に有用でありうる情報が含まれる。このことは、本明細書において提供されるいずれかの情報を本願発明の先行技術もしくは関連技術であると認めたものでもなければ、明示的もしくは暗示的に言及されているいずれかの刊行物を先行技術であると認めたものでもない。
【0003】
薬物クラスとしては、長時間作用性のGLP-1受容体アゴニストは、2型糖尿病患者における血糖コントロールを向上させ、グルコース依存性の作用機序を有することから低血糖リスクが低い薬物に分類される。グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、腸により産生され、グルコース依存的に、グルカゴン分泌を阻害しつつインスリン分泌を刺激し、食欲およびエネルギー摂取量を低下させ、胃内容排出を遅らせる。この薬物クラスは、体重減少を促進しSBPを低下させることも実証されており、このことは2型糖尿病患者にとっては有益で、心血管系リスクを低減させる可能性がある。さらに、長時間作用性のGLP-1受容体アゴニストに伴う一般的副作用として悪心があるが、悪心は一過性であることが多く、全体的に見れば、長時間作用性のGLP-1受容体アゴニストは概ね忍容性良好である。したがって、長時間作用性のGLP-1受容体アゴニストは、2型糖尿病に罹患している個体にとって効果的な治療選択肢となる可能性があり、血糖への対処のみに留まらない治療において、ADA(American Diabetes Association:米国糖尿病学会)により定められた標準治療のガイドラインに合う格好の位置付けにある。
GLP-1は、偏在するジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4により2位(アラニン)の位置で切断されやすい。この切断は、GLP-1が分泌されるとほぼ即時に生じるので、GLP-1の半減期は<2分と短くなる(Gupta V., Indian J Endocr Metab 2013, 17, 413-21)。
【0004】
多くのGLP-1アゴニストは、半減期が短いという課題を克服するため、天然のGLP-1に修飾を加えることにより開発された。用いられたアプローチの1つは、GLP-1ポリペプチドの1個または複数のアミノ酸を置換してこのペプチドに親油性の置換基を付加することであった。これらの親油性の置換GLP-1アゴニストは、注射されると作用の長期化を示した。US6268343には、そのような脂肪酸アシル化GLP-1アゴニストが開示されている。
GLP-1アナログの1つの特定例は、リラグルチドである。リラグルチドは、内因性GLP-1のうち比較的少ない形態であるヒトGLP-1-(7-37)から誘導されたアシル化グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニストである。リラグルチドの血漿中半減期は短く(9~15時間)、半減期を増大させることでその抗高血糖効果を活用できるようにするための新規の方法が開発されてきた。治療には、糖尿病患者に1日1回の注射が必要である。
【0005】
セマグルチドも、2型糖尿病を治療するために最近登録されたGLP-1アナログである。セマグルチドは、ヒトGLP-1と比較して2箇所のアミノ酸置換を有し(Aib(8)、Arg(34))、リジン26の位置で誘導体化されている。
【0006】
週1回皮下注射した場合のセマグルチドの薬物動態を評価するいくつかの試験がこれまでに実施されている。用量が0.5mgまたは1mgの場合の半減期が7日であることから、セマグルチドは4~5週間で定常状態に達するであろう。しかしながら、薬物間相互作用が若干あり、用量調節が必要である。その上、他のGLP-1 RAと同様、セマグルチドは胃内容排出を遅らせることが可能であり、経口薬の吸収に影響を与えうる。セマグルチドは、2型糖尿病に罹患している対象には有用な薬物でありうるが、一方で、網膜症をわずかに増加させることが観察されている。また、GLP-1Rアゴニストであるリキシセナチドおよびエキセナチドを用いて失敗した臨床アウトカム試験に含まれていた母集団より年齢、HbA1c値は低く体重は同程度である母集団を含む他の母集団においてセマグルチドが心血管系アウトカムを改善するかどうかは、未知である。セマグルチドに関連するその他の難題は、経口製剤の場合に必要となるセマグルチドの投与量である。経口セマグルチドの場合、Ozempicブランドのセマグルチド注射剤の場合よりはるかに高い。経口セマグルチドは、治験時に説明されていた効果を達成するのに一用量当たりセマグルチド14mgを必要としたのに対し、Ozempicが必要としたのは0.5mgにすぎなかったが、こちらの方がわずかに良い結果を達成した。この相違は、活性な経口薬物の大半は胃および小腸で消化され、治療結果を達成するために肝臓に向かう途中の腸壁を通過したのはごく一部であったという結果によるものである。
【発明の概要】
【0007】
これまでのところ、調査から、セマグルチドは血糖コントロールの強化および体重減少の促進をもたらすことが可能であるとはいえ、医薬を注射すること、または、経口製剤の場合ははるかに高い投与量のセマグルチドが必要になること、副作用が頻繁にみられること、網膜症のリスクが増大すること、および、潜在的にコストがかかること等、いくつかの難点があることが示唆されている。
しかし、半減期が改善されており、そのため臨床的有効性を保持しつつバイオアベイラビリティーがより増大しているGLP-1のアナログは、十分に探索されてはいない。
したがって、公知技術に伴う不足点を克服できるGLP-1アナログを開発する必要性が存在する。
したがって、先述の欠点のうち1つまたは複数を克服でき、それによりリラグルチドおよびセマグルチド等のGLP-1アナログと同様の有望な候補が糖尿病およびその他の治療において相応の地位を得ることができるような、GLP-1のアナログを提供する必要性が、依然として存在する。
【0008】
本開示の目的は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、既存のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)のアナログの短所のうち1つまたは複数を克服しうる、アナログを提供することである。
本開示の目的は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログを提供することである。
本開示の目的は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログを調製するためのプロセスを提供することである。
本開示の目的は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)のアナログであって、該ペプチドの生物活性を保持する、半減期を延長する、より良好な薬物動態プロファイルを有する、ならびに、投薬頻度および用量を減少させることにより患者の負担を軽減するのに有利であることが可能なアナログを提供することである。
【0009】
本開示の目的は、既存技術にみられる1つまたは複数の不足点を克服できる、リラグルチドおよびセマグルチドのアナログを提供することである。
本開示の目的は、リラグルチドおよびセマグルチドのアナログであって、半減期が延長されており薬物動態プロファイルが改良されていながら、それぞれの特有の生物活性を保持することが可能である、ならびに、投薬頻度および用量を減少させることにより患者の負担を軽減するのに有利である、のうち1種または複数の特性を備えるアナログを提供することである。
本発明の別の目的は、簡単に合成できる、リラグルチドおよびセマグルチドの合成アナログを提供することである。
【0010】
ある態様において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、既存のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)の短所のうち1つまたは複数を克服しうる、アナログを提供する。
一態様において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログを提供する。
一態様において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、該グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストがリラグルチドまたはセマグルチドである、アナログを提供する。
【0011】
一態様において、本開示は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログを調製するためのプロセスを提供する。
別の態様において、本開示は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のL-アラニンアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、リラグルチドのアナログを提供する。
別の態様において、本開示は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のAib(アミノイソ酪酸)アミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、セマグルチドのアナログを提供する。
【0012】
別の態様において、本開示は、本開示のリラグルチドアナログまたはセマグルチドアナログのアナログを投与するステップを含む、その必要がある患者においてグルコースレベルを低下させる方法を提供する。
別の態様において、本開示は、週1回または隔週1回または月1回投与のための長時間作用性のリラグルチドアナログを提供する。
さらなる一態様において、本発明は、天然のリラグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-リラグルチドを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いてFmocを脱保護し、パルミチン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-リラグルチドを得るステップ
を含む、方法に関する。
一態様において、本プロセスは、D-リラグルチドを精製して、精製されたD-リラグルチドを得るステップを含んでもよい。
【0013】
一態様において、本開示は、天然のセマグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-セマグルチドアナログを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-PEG2-CH2-COOHのシークエンス、Fmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いてFmocを脱保護し、オキサオクタデカン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-セマグルチドを得るステップ
を含む、プロセスを提供する。
【0014】
一態様において、本プロセスは、D-セマグルチドを精製して、精製されたD-セマグルチドを得るステップを含んでもよい。
別の態様において、本開示は、本開示のGLP-1アナログを含む好適な剤形を提供する。当該剤形は、経口または非経口経路による投与に好適でありうる。
別の態様において、本開示は、本開示により提供されるリラグルチドまたはセマグルチドのアナログを含む好適な剤形を提供する。当該剤形は、経口または非経口経路による投与に好適でありうる。
【0015】
一態様において、本開示は、治療有効量の本開示のGLP-1アナログを投与するステップを含む、その必要がある患者においてグルコースレベルを低下させる方法を提供する。
一態様において、本開示は、治療有効量の本開示のリラグルチドまたはセマグルチドのアナログを投与するステップを含む、その必要がある患者においてグルコースレベルを低下させる方法を提供する。
【0016】
本発明の主題の多様な目的、特徴、態様および利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明からより明確となろう。
以下の図面は、本明細書の一部を形成するものであり、本開示の態様をさらに例証するために添付されている。本開示は、本明細書で提示する特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面を参照することにより、さらによく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本開示の例示的な実施形態の1つによるスキーム1に示すステップを含む、D-リラグルチドの調製のためのプロトコールを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の例示的な実施形態の1つによるスキーム2に示すステップを含む、D-セマグルチドの調製のためのプロトコールを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、リラグルチドのRP-HPLCプロファイルである。
【
図4】
図4は、本開示の例示的な実施形態の1つによるD-リラグルチドのRP-HPLCプロファイルである。
【
図5】
図5は、リラグルチドの精製時のクロマトグラムプロファイルである。
【
図6】
図6は、本開示の例示的な実施形態の1つによるD-リラグルチドの精製時のクロマトグラムプロファイルである。
【
図7】
図7は、精製されたリラグルチドのRP-HPLCプロファイルである。
【
図8】
図8は、本開示の例示的な実施形態の1つによる精製されたD-リラグルチドのRP-HPLCプロファイルである。
【
図9】
図9は、参照品Victoza、リラグルチドおよびD-リラグルチドのEC50値の比較を示すグラフである。グラフ中、SPL1はリラグルチドを表し、SPL2は、本開示の例示的な実施形態の1つによるD-リラグルチドを表す。
【
図10】
図10は、リラグルチドおよびD-リラグルチドのPKプロファイルの比較を示すグラフである。グラフ中、CLはリラグルチドを表し、TLは、本開示の例示的な実施形態の1つによるD-リラグルチドを表す。
【
図11】
図11(a)は、本開示の例示的な実施形態の1つによる経口投与したD-リラグルチド(Liralgutide)のPKプロファイルを示すグラフであり、
図11(b)は、皮下投与した参照品Victozaおよび本開示の例示的な実施形態の1つによるD-リラグルチドのPKプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下は、本開示の実施形態の詳細な説明である。実施形態は、本開示を明確に伝えられる程度まで詳細に記載してある。ただし、提示した多くの詳細事項は、実施形態の予想される変形を限定することを意図したものではない。逆に、意図するところは、添付の特許請求の範囲により規定される本開示の精神および範囲内にあるすべての改変物、等価物および代替物を包含することである。
【0019】
本明細書におけるすべての刊行物は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれると具体的かつ個々に示された場合と同じ程度に、参照により組み込まれる。組み込まれている参照文献における用語の定義または使用法が、本明細書においてなされている当該用語の定義と矛盾するまたは相反する場合には、本明細書においてなされている当該用語の定義が適用され、参照文献における当該用語の定義は適用されない。
本明細書を通じて、「一実施形態(one embodiment)」または「ある実施形態(an embodiment)」に言及した場合は、その実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特質が少なくとも一実施形態に含まれていることを意味する。したがって、本明細書を通じてさまざまな箇所で「一実施形態において」または「ある実施形態において」という語句が出現するが、必ずしもそのすべてが同一の実施形態に言及しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造または特質は、1つまたは複数の実施形態において任意の適当な様式で組み合わされてもよい。
【0020】
一部の実施形態において、本発明の特定の実施形態の説明および特許請求に用いられる、成分量、濃度等の特性、反応条件その他を表現する数字は、「約」という用語によって、場合により修正されるものと理解されたい。したがって、一部の実施形態において、明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメーターは、特定の実施形態により得ようとする所望の特性に応じて変動する可能性がある近似値である。一部の実施形態において、数値パラメーターは、報告されている有効桁の桁数に照らして、および、通常の丸め法を適用することによって、解釈されるべきである。本発明の一部の実施形態が及ぶ広範な範囲を記載する数値的な範囲およびパラメーターは近似値ではあるものの、具体的な例に記載されている数値は、できうる限り正確に報告してある。本発明の一部の実施形態において提示される数値は、その試験測定値それぞれに標準偏差が伴うことから必然的に生じる一定の誤差を含有しうる。
【0021】
本明細書中の記載において、および、添付の特許請求の範囲を通じて使用される場合、「a」、「an」および「the」の意味は、文脈によりそうでないことが明確に示されていない限り、複数形への言及を包含する。また、本明細書中の記載において使用される場合、「in」の意味は、文脈によりそうでないことが明確に示されていない限り、「in」および「on」を包含する。
文脈上、異なる解釈が求められない限り、以下の本明細書を通じて、「含む(comprise)」という語およびその変化形、例えば「含む(comprises)」および「含む(comprising)」等は、「限定されるものではないが、~を含む」と同じオープンで包含的な意味合いに解釈されたい。
【0022】
本明細書においては、値の範囲の記載は、その範囲内に含まれるそれぞれ別の値に個々に言及する簡便な方法として機能させることを意図したものにすぎない。本明細書において特に指示がない限り、それぞれ個々の値は、それらが本明細書に個々に記載された場合と同じく、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されているすべての方法は、本明細書中で特に指示がある、または、それ以外の順序では明らかに文脈に反するのでない限り、任意の適当な順序で実施できる。本明細書における特定の実施形態に関してなされる一切の例または例示的な文言(例:「例えば」「等」)の使用も、本発明をよりわかりやすく例証することを意図したものであるにすぎず、別紙にて特許請求する本発明の範囲に限定を加えるものではない。本明細書におけるいかなる文言も、本発明の実施に不可欠な何らかの特許請求の範囲外の要素を示しているものと解釈されるべきではない。
本明細書において開示される本発明の代替的な要素または実施形態のグループ化は、限定を行ったものと解釈されるべきではない。各グループ構成物は、個別に、または、そのグループにおける他の構成物もしくは本明細書に記載されている他の要素と任意に組み合わせて言及および特許請求され得る。グループの1種または複数の構成物は、利便性および/または特許性を理由に、グループに包含するまたはグループから削除することができる。そのような包含または削除が生じた場合、本明細書は、当該グループについては、改変されたグループを含むものと判断され、したがって添付の特許請求の範囲で使用されているすべてのマーカッシュ群の記載内容を満たす。
【0023】
以下の説明およびそこに記載されている実施形態は、本開示の原理および態様の特定の実施形態の1つまたは複数の例を示す目的で提供するものである。これらの例は、説明の目的で提供するものであり、その原理および本開示の限定を目的としたものではない。
また、本開示はさまざまな方式で、例えば、システム、方法またはデバイスとして実施可能であることも理解されるべきである。本明細書においては、本発明がとりうるこれらの実施手段または任意の他の形態を「プロセス」と呼ぶことがある。一般的に、本開示のプロセスにおけるステップの順序は、本発明の範囲内で変更してもよい。
本明細書に付されている本発明の名称および要約は、便利のためのものにすぎず、実施形態の範囲または意味を説明したものではない。
【0024】
以下の論考では、本発明の主題の多くの実施形態例を記載する。各実施形態につき発明の要素の単一の組合せを示すが、本発明の主題は本開示の要素のすべての可能な組合せを包含するものとする。したがって、一実施形態が要素A、BおよびCを含み、第2の実施形態が要素BおよびDを含む場合であれば、本発明の主題は、明示的に開示されていない場合であっても、A、B、CまたはDからなるその他残りの組合せも包含するものとする。
【0025】
本明細書において使用するさまざまな用語を以下に示す。特許請求の範囲で使用されている用語が以下に定義されていない限りにおいて、その用語には、出願時点における印刷された刊行物および交付された特許に現れる当該用語に当業者が与えている最も広い定義が与えられるべきである。
【0026】
「アナログ」という用語は、本明細書において使用される場合、構造は別の化合物に類似しているが一定の成分に関しては当該化合物と異なっている化合物を指す。そのようなアナログは、大きく異なる物理的、化学的、生化学的または薬理学的特性を有する可能性がある。
【0027】
本明細書において使用される省略形は、以下の完全形を指す。
Boc:t-ブチルオキシカルボニル
DCM:ジクロロメタン
Dde:1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン)エチル
DIC:N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMF:ジメチルホルムアミド
DODT:2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール
Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル
HBTU:ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム
HOBt:N-ヒドロキシベンゾトリアゾール
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
MTBE:メチル-t-ブチルエーテル
OtBu:tert-ブチルエステル
tBu:tert-ブチル
TFA:トリフルオロ酢酸
Trt:トリチル
2-CTC:2-クロロトリチルクロリド
HCl:塩酸
mL:ミリリットル
g:グラム
℃:摂氏度
h:時間(hour)
min:分
IPA:イソプロパノール
vol:体積
RT:室温
Mmol:ミリモル
TIPS:トリイソプロピルシラン
Ao:オングストローム
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
【0028】
本開示は、(glp-1)受容体アゴニストの合成アナログに関する。
一般的な実施形態において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログを提供する。
特定の実施形態において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログを提供する。
グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログであって、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、アナログは、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストより有利であり、例えば、それぞれのグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストよりも、より良好なバイオアベイラビリティーおよび強化された有効性を有しうる。
一実施形態において、本開示は、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストがリラグルチドまたはセマグルチドである、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログを提供する。
【0029】
一実施形態において、本開示は、リラグルチドの生物活性を保持できる、リラグルチドの合成アナログを開示する。
一実施形態において、本開示は、セマグルチドの生物活性を保持できる、セマグルチドの合成アナログを開示する。
リラグルチドの合成アナログは、本明細書中では、GLP-1のアナログ、GLP-Aアナログ、リラグルチドのアナログ、リラグルチドアナログ、またはD-リラグルチド、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログとも呼ばれ、そのような表現は、全体を通じて互換的に用いられる。
セマグルチドの合成アナログは、本明細書中では、GLP-1のアナログ、GLP-Aアナログ、セマグルチドのアナログ、セマグルチドアナログ、またはD-セマグルチド、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストのアナログとも呼ばれ、そのような表現は、全体を通じて互換的に用いられる。
別の実施形態において、本開示は、固相ペプチド合成により簡単に合成できる、リラグルチドの合成アナログを開示する。
別の実施形態において、本開示は、固相ペプチド合成により簡単に合成できる、セマグルチドの合成アナログを開示する。
【0030】
一実施形態において、本開示は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、グルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの合成アナログを調製するためのプロセスを提供する。
一実施形態において、本開示は、天然のグルカゴン様ペプチド-1(glp-1)受容体アゴニストの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられている、リラグルチドの合成アナログを調製するためのプロセスを提供する。
一実施形態において、本開示は、天然のリラグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-リラグルチドを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いてFmocを脱保護し、パルミチン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-リラグルチドを得るステップ
を含む、プロセスを提供する。
【0031】
一態様において、本方法は、D-リラグルチドを精製して、精製されたD-リラグルチドを得るステップを含んでもよい。
別の実施形態において、本開示は、スキーム1(
図1)に示すステップを含む、D-リラグルチドを調製するためのプロセスを提供する。
【0032】
一実施形態において、本開示は、天然のセマグルチドの2位のアミノ酸がD-アラニンで置き換えられているD-セマグルチドアナログを調製するためのプロセスであって、
a)Fmoc-Gly-OHを樹脂にアンカーリングし、これをキャッピングするステップ、
b)アミノ基を選択的に脱保護するステップ、
c)断片Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OHを連続的カップリングするステップ、
d)リジン側鎖保護基Ddeを除去し、続いてFmoc-PEG2-CH2-COOHのシークエンス、Fmoc-Glu-OtBuとカップリングし、続いて、Fmocを脱保護し、オキサオクタデカン酸とカップリングするステップ、ならびに
e)樹脂からペプチドを切断して直鎖状のD-セマグルチドを得るステップ
を含む、プロセスを提供する。
【0033】
一実施形態において、本プロセスは、D-セマグルチドを精製して、精製されたD-セマグルチドを得るステップを含んでもよい。
一実施形態において、本開示は、スキーム2(
図2)に示すステップを含む、D-セマグルチドを調製するためのプロセスを提供する。
【0034】
一実施形態において、固相は樹脂である。
一実施形態において、樹脂は、限定されるものではないが、2-クロロトリチルクロリド(2-CTC)、Sasrin、TentaGel S、TentaGel TGA、Rink、Wang、AmphiSpheresおよび他の適当な樹脂から選択される。
一実施形態において、カップリング剤は、限定されるものではないが、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HBTU)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチル-アミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)およびこれらの組合せから選択される。
一実施形態において、カップリング反応のための溶媒は、限定されるものではないが、DMF、ピリジン、無水酢酸、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、酢酸エチル、アセトニトリル、アセトン等またはこれらの組合せから選択される。
【0035】
一実施形態において、アミノ基は、当技術分野で公知の方法により、例えば、DMF等の適切な溶媒中でピペリジン、DBUおよびジクロロメタンの混合物を用いることにより、選択的に脱保護することができる。
一実施形態において、形成されるペプチドは、限定されるものではないが、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸等から選択される化学薬品を用いて、樹脂から切断することができる。
【0036】
一実施形態において、D-リラグルチドまたはD-セマグルチドから選択されるGLP-1アナログの精製プロセスは、当技術分野で周知のプロセスにより実施できる。精製プロセスは、限定されるものではないが、分取用逆相HPLC、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等から選択できる。
本開示により提供されるGLP-1の合成アナログすなわちD-リラグルチドおよびD-セマグルチドは、それぞれ天然のリラグルチドおよびセマグルチドと比較して、より良好な薬物動態プロファイルを有しうる。
本開示により提供されるGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドおよびD-セマグルチドは、例えばリラグルチドまたはセマグルチドのアナログを含む剤形の投与頻度を低下させること等により、患者の負担を軽減するのに有利でありうる。
本開示のGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、代謝障害、例えば糖尿病および肥満等の治療に使用することができる。
本開示のGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、従来のGLP-1より低頻度で投与しうることから、患者に利便性をもたらし、それにより患者コンプライアンスを増加させ、さらには、より長い期間にわたる効果的な血糖コントロールを可能にするというそれぞれ従来のGLP-1を超える利点をもたらすことができる。
【0037】
本開示によるGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、週1回または隔週1回または月1回投与に適した長時間作用性のアナログとすることができる。
【0038】
GLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、塩基の形態で、または、その塩もしくはその混合物の形態で、存在しうる。塩の代表例としては、適当な無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸等との塩が挙げられる。塩の代表例としては、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酒石酸、アスコルビン酸等との塩も挙げられる。塩の代表例としては、塩基、例えば、トリエタノールアミン、ジエチルアミン、メグルミン、アルギニン、アラニン、ロイシン、ジエチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トロメタミン、コリン、トリメチルアミン、タウリン、ベンザミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、メチルエタノールアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン等との塩も挙げられる。
しかし、当業者であれば、DPP-IVにより分解不可能な任意の他の合成部分を、当業者には公知のとおり、本開示の範囲および精神から逸脱せずに使用することができることを理解するであろう。
【0039】
別の実施形態において、本開示により提供されるGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、D-リラグルチドまたはD-セマグルチドを非経口的に許容されるアミン塩基とともに含むそれぞれの凍結乾燥混合物の形態でそれぞれ提供されうる。この凍結乾燥混合物は、GLP-1アナログのD-リラグルチドもしくはD-セマグルチドまたはその薬学的に許容される塩と非経口的に許容されるアミン塩基とを注射用水中で混合して溶液を形成し、この溶液を凍結乾燥させて凍結乾燥混合物を形成することによって調製してもよい。非経口的に許容されるアミン塩基は、トリエタノールアミン、ジエチルアミン、メグルミン、オルニチン、リジン、アルギニン、アラニン、ロイシン、ジエチルエタノールアミン、オラミン、トリエチルアミン、トロメタミン、グルコサミン、コリン、トリメチルアミン、タウリン、ベンザミン、トリメチル水酸化アンモニウム、エポラミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、メチルエタノールアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン等から選択されうる。
【0040】
本開示は、代謝性疾患の治療における、本開示により提供されるGLP-1アナログすなわち本開示のD-リラグルチドおよびD-セマグルチドの使用も提供する。ある好ましい実施形態において、本開示のセマグルチドアナログは、糖尿病の治療における使用に対し適したものでありうる。別の実施形態において、本開示のセマグルチドアナログは、肥満の治療における使用に対し適したものでありうる。
別の実施形態において、本開示のGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、その必要がある患者において少なくとも1週間の期間にわたり血糖レベルを低減させることにおける使用に対し適したものであることができる。
別の実施形態において、本開示は、本開示のGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを経口または非経口経路により投与するのに適した剤形を提供する。
【0041】
本開示のGLP-1アナログすなわちD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、適当な非経口剤形に製剤化されてもよい。本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドもしくはD-セマグルチド、またはこれを含む組成物、またはこれを含む剤形は、皮下または筋肉内注射により投与されうる。
本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、適当な経口剤形に製剤化されてもよい。本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドもしくはD-セマグルチド、またはこれを含む組成物、またはこれを含む経口剤形は、GLP-1の投与を必要とする対象の必要性に応じた頻度で経口投与されうる。
【0042】
本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、単回投与後1週間または2週間または1カ月に及びうる長期間にわたって治療レベルを維持することができる。
本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、GLP-1アナログ、またはこれを含む組成物もしくは剤形を週に1回、隔週に1回または月に1回投与することにより、糖尿病の治療に使用することができる。
別の実施形態において、本開示は、治療有効量の本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを投与するステップを含む、その必要がある患者においてグルコースレベルを低下させる方法を提供する。
別の実施形態によれば、本発明は、活性成分としての本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを、1種または複数の薬学的に許容される担体または賦形剤と一緒に含む、医薬組成物を提供する。
【0043】
別の実施形態によれば、組成物は、1種または複数の本明細書に記載のアナログまたはその薬学的に許容される塩もしくは互変異性体と、薬学的に許容される担体等とを混合することにより、調製して、さまざまなGLP-1関連の病態を治療するまたは良くすることができる。本開示の医薬組成物は、当技術分野で周知の方法、例えば、従来の造粒、混合、溶解、カプセル化、凍結乾燥、乳化または湿式顆粒化処理等により製造することができる。組成物は、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、乳剤、エリキシル剤、懸濁剤または溶液剤の形態であってもよい。本組成物は、多様な投与経路に合わせて、例えば、経口投与、経粘膜投与、直腸投与、局所投与または皮下投与、ならびに、くも膜下腔内、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、眼内または脳室内注射による投与に合わせて、製剤化することができる。本発明の1種または複数の化合物は、全身性にではなく局所性に、例えば、徐放製剤としての注射等の形で、投与することもできる。
【0044】
別の実施形態によれば、本開示のGLP-1のアナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドは、単独で、または、1種もしくは複数種の追加的な治療的活性剤と組み合わせて使用できる。
一実施形態において、本発明は、有効量の本開示のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを投与するステップを含む、対象におけるGLP-1介在性の疾患、障害または症候群を治療する方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、有効量のGLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドを投与するステップを含む、対象におけるGLP-1介在性の疾患、障害または症候群を治療する方法であって、該疾患が、2型糖尿病、1型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、メタボリックシンドローム(X症候群および/またはインスリン抵抗症候群)、糖尿、代謝性アシドーシス、関節炎、白内障、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、肥満、肥満により悪化する病態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症、骨減少症、フレイル、骨損失、骨折、急性冠症候群、成長ホルモン分泌不全による低身長症、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、不安、うつ、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール依存症、腸管運動に関連する疾患、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群または短腸症候群である、方法を提供する。
【0045】
別の実施形態において、本発明は、2型糖尿病、1型糖尿病、耐糖能障害、高血糖症、メタボリックシンドローム(X症候群および/またはインスリン抵抗症候群)、糖尿、代謝性アシドーシス、関節炎、白内障、糖尿病性ニューロパチー、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、肥満、肥満により悪化する病態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症、骨減少症、フレイル、骨損失、骨折、急性冠症候群、成長ホルモン分泌不全による低身長症、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、不安、うつ、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール依存症、腸管運動に関連する疾患、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群または短腸症候群から選択される疾患の治療のための、GLP-1アナログのD-リラグルチドまたはD-セマグルチドの使用を提供する。
【0046】
ここまでが本開示の多様な実施形態についての記載であるが、これら以外およびさらなる本開示の実施形態をその基本的な範囲から逸脱することなく考案することは可能である。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲により決定される。本開示は、記載されている実施形態、変形または例に限定されず、当業者が入手可能な情報および知識と組み合わせれば本発明を製造および使用できるものが含まれる。
【実施例】
【0047】
本発明について、以下の実施例の形態でさらに説明する。ただし、以下の実施例は単に例証的なものであり、本発明の範囲に限定を加えるものと受け取られるべきでないことは理解されたい。
(実施例1)
D-リラグルチドの合成
ステップ1:Fmoc-Gly-CTCを樹脂にアンカーリングする
置換度0.35mmol/gのFmoc-Gly-CTC樹脂を秤量し、固相反応カラムに添加した。続いて、Fmoc-Gly-CTC樹脂を、DMFを用いて2回洗浄してDMF中で30分間膨潤させた。
ステップ2:アミノ酸を脱保護する
20%ピペリジンによりFmoc保護を除去してから、樹脂をDMFで4回およびDCMで2回洗浄した。樹脂をニンヒドリンテストにより試験し、Fmocが除去されていることは、樹脂の色の外観により示された。
ステップ3:他のFmoc-保護アミノ酸の連続的カップリング
Fmoc-Arg(Pbf)-OH(6.0mmol)、HOBt(7.2mmol)、DIC(7.2mmol)を体積比1:1のDCMとDMFの混合溶液に溶解し、固相反応カラムにロードし、室温で2時間反応させた。反応の終点は、ニンヒドリンテストにより決定し、樹脂が無色透明であれば反応が完全であることを示していたが、樹脂が色を呈していれば反応が不完全であることを示しており、この場合はさらに1時間の反応を必要とした。こうした基準を、ニンヒドリンテストによる終点決定に適用した。
前述のステップ2および対応するアミノ酸カップリングステップを繰り返し、および、D-リラグルチドのペプチド主鎖の配列に基づき、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Arg(Pbf)OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-D-Ala-OHおよびBoc-His(Trt)-OH
を連続的にカップリングさせた。
【0048】
ステップ4:Dde脱保護樹脂フラグメントの調製
前段のステップ3で連続的カップリング後得られた樹脂フラグメントを、DMFロット-1(10vol)中3%ヒドラジン水和物の透明な混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で10分間、静かにかき混ぜた。溶媒を排液し、樹脂を、DMFロット-2(10vol)中3%ヒドラジン水和物の透明な混合物に添加した。懸濁液を25~30℃で10分間撹拌した。溶媒を排液し、樹脂をDMF(2×10vol)およびIPA(1×10vol)およびDMF(2×10vol)で洗浄した。Dde脱保護の完了は、Kaiser呈色テストにより確認した。
【0049】
ステップ5:Fmoc-Glu-OtBuとパルミチン酸とのカップリング
ステップ(5a):Fmoc-Glu-OtBuのカップリング
DMF(10vol)中のFmoc-Glu-OtBu(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
ステップ(5b):Fmoc脱保護
樹脂を、DMFロット-1(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で10分間、静かにかき混ぜた。溶媒を排液し、樹脂を、DMFロット-2(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液を25~30℃で10分間撹拌した。溶媒を排液し、樹脂をDMF(2×10vol)およびIPA(1×10vol)およびDMF(2×10vol)で洗浄した。Fmoc脱保護の完了は、Kaiser呈色テストにより確認した。
ステップ(5c):パルミチン酸のカップリング
DMF(10vol)中のパルミチン酸(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
【0050】
ステップ6:D-リラグルチドの調製
ステップ5で得られた、2-CTC樹脂と結合された保護フラグメントを、ペプチド合成フラスコに入れた。樹脂をジクロロメタン(DCM)(10vol)に、撹拌せずに10分間懸濁させた。樹脂を、TFA:TIPS:DODT:水(8.5:0.5:0.5:0.5vol)の混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で3.0時間、静かにかき混ぜた。樹脂を焼結漏斗に通して濾過した。濾液を、予冷したMTBE混合物に0~10℃で添加した。添加完了後、反応混合物を0~35℃で1.0時間撹拌すると、灰白色の固体が沈殿した。次いで、沈殿した固体をブフナー(Buckner)漏斗に通して濾過し、MTBEで洗浄した。次いで、吸引乾燥した固体を35~40℃の真空オーブンで恒量まで乾燥させて、D-リラグルチドを得た。
【0051】
ステップ7:D-リラグルチドの精製
ステップ(7a):精製-1
全体的な脱保護後得られたD-リラグルチド3.6gを300mLの緩衝液Aに溶解し、約0.5mLの水酸化アンモニウム溶液を用いてpHを8.5~9.5に調整した。精製の際、以下のパラメーターに従った:
・カラム仕様:250×50mm SS
・充填剤(仕様:C-18(第3世代)、10μ、100Å
・移動相A:0.01M炭酸水素アンモニウム、移動相B:アセトニトリル、
・プール基準:HPLC純度≧85%および単一不純物の最大濃度≦3%を有する画分を、精製2のためにプールした。
・HPLC純度≦85%および≧60%を有する画分を、再精製のためにプールした。
【0052】
ステップ(7b):精製-2
精製-1で得た、ペプチド含有量900mgのプール画分を、等量の精製水でさらに希釈し、以下のパラメーターに従って精製した:
・カラム仕様:250×50mm SS
・充填剤仕様:C-18(第3世代)、10μ、100Å
・移動相A:水中0.1%TFA、移動相B:アセトニトリル、
・プール基準:HPLC純度≧96%および単一不純物の最大濃度≦0.5%を有する画分を、精製3のためにプールした。
・HPLC純度≦96%および≧85%を有する画分を、再精製のためにプールした。
【0053】
ステップ(7c):精製-3
精製-2で得た、ペプチド含有量1200mgのプール画分を、等量の精製水でさらに希釈し、以下のとおり精製した:
・カラム仕様:250×50mm SS
・充填剤仕様:C-18(第3世代)、10μ、100Å
・移動相A:水中0.05%水酸化アンモニウム、移動相B:アセトニトリル、移動相C:水中3%酢酸アンモニウム、移動相D:精製水
・プール基準:HPLC純度≧98%および単一不純物の最大濃度≦0.3%を有する画分を、濃縮のためにプールした。
・HPLC純度≦98%および≧96%を有する画分を、再精製のためにプールした。
・精製-3で得たプール画分を濃縮し、凍結乾燥に供して、純粋なD-リラグルチド(I)を灰白色から白色の粉末として得た。
・得られたD-リラグルチドのHPLC純度は99.0%以上であり、単離収率は9~12%の範囲であった。
【0054】
(実施例2)
D-セマグルチドの合成
D-セマグルチドを、以下のプロセスに従って合成した。
ステップ1~ステップ4:ステップ1~4によるD-リラグルチド調製物の合成のため実施例1に記載したプロセスに従った。
【0055】
ステップ5:Fmoc-PEG2-CH2-COOH、Fmoc-PEG2-CH2-COOH、Fmoc-Glu-OtBuおよび18-tBu-18-オキサオクタデカン酸のカップリング
カップリングは、以下に示す段階的方式のスキームに従って、段階的に実施した:
ステップ(5a):Fmoc-PEG2-CH2-COOHのカップリング
DMF(10vol)中のFmoc-PEG2-CH2-COOH(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
ステップ(5b):Fmoc脱保護
樹脂を、DMFロット-1(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で10分間、静かにかき混ぜた。溶媒を排液し、樹脂を、DMFロット-2(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液を25~30℃で10分間撹拌した。溶媒を排液し、樹脂をDMF(2×10vol)およびIPA(1×10vol)およびDMF(2×10vol)で洗浄した。Fmoc脱保護の完了は、Kaiser呈色テストにより確認した。
【0056】
ステップ(5c):Fmoc-PEG2-CH2-COOHのカップリング
DMF(10vol)中のFmoc-PEG2-CH2-COOH(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
ステップ(5d):Fmoc脱保護
樹脂を、DMFロット-1(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で10分間、静かにかき混ぜた。溶媒を排液し、樹脂を、DMFロット-2(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液を25~30℃で10分間撹拌した。溶媒を排液し、樹脂をDMF(2×10vol)およびIPA(1×10vol)およびDMF(2×10vol)で洗浄した。Fmoc脱保護の完了は、Kaiser呈色テストにより確認した。
【0057】
ステップ(5e):Fmoc-Glu-OtBuのカップリング
DMF(10vol)中のFmoc-Glu-OtBu(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
ステップ(5f):Fmoc脱保護
樹脂を、DMFロット-1(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で10分間、静かにかき混ぜた。溶媒を排液し、樹脂を、DMFロット-2(10vol)中20%ピペリジンの透明な混合物に添加した。懸濁液を25~30℃で10分間撹拌した。溶媒を排液し、樹脂をDMF(2×10vol)およびIPA(1×10vol)およびDMF(2×10vol)で洗浄した。Fmoc脱保護の完了は、Kaiser呈色テストにより確認した。
【0058】
ステップ(5g):18-tBu-18-オキサオクタデカン酸のカップリング
DMF(10vol)中の18-tBu-18-オキサオクタデカン酸(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の透明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて45~55℃で30分間、静かにかき混ぜた。反応の進行をKaiser呈色テストによりモニタリングした。反応の完了後、反応溶媒を排液し、樹脂をDMF(4×10vol)で洗浄した。
【0059】
ステップ6:D-セマグルチドの調製
ステップ5で得られた、2-CTC樹脂と結合された保護フラグメントを、ペプチド合成フラスコに入れた。樹脂をジクロロメタン(DCM)(10vol)に懸濁させ、撹拌せずに10分間おいた。樹脂を、TFA:TIPS:DODT:水(8.5:0.5:0.5:0.5vol)の混合物に添加した。懸濁液は、窒素バブリングおよび穏やかな撹拌下にて25~30℃で3.0時間、静かにかき混ぜた。樹脂を焼結漏斗に通して濾過した。濾液を、予冷したMTBE混合物に0~10℃で添加した。添加完了後、反応混合物を0~35℃で1.0時間撹拌すると、灰白色の固体が沈殿した。次いで、沈殿した固体をブフナー漏斗に通して濾過し、MTBEで洗浄した。次いで、吸引乾燥した固体を35~40℃の真空オーブンで恒量まで乾燥させて、D-セマグルチドを得た。
【0060】
(実施例3)
(L-Ala)-リラグルチドおよび(D-Ala)-リラグルチドの精製
固相合成により得られた(L-Ala)-リラグルチド(天然物)および(D-Ala)-リラグルチドの両粗製物を精製するための方法は、以下のステップを含むことを特徴とする:
ステップ1:固相合成により得られた粗製リラグルチド100mgを0.01M炭酸水素アンモニウムを25%アンモニア溶液で溶解することにより粗製リラグルチドの溶液を得、これを0.2μmフィルターで濾過した。
ステップ2:(L-Ala)-リラグルチドおよび(D-Ala)-リラグルチドの両粗製リラグルチドの溶液を、10*250mm Phenominex C18(第3世代)100A、10μmカラム、ならびに移動相Aとして0.01M炭酸水素アンモニウムおよび表1に記載のとおりの勾配で溶出する移動相Bとしてアセトニトリルを使用する第1のHPLC精製に供し、標的ピークを収集し、純度および含有量についてRP-HPLCで分析する。
【0061】
【表1】
粗製リラグルチド、ならびに、純度がそれぞれ50.4%および15.1%のD-リラグルチドについてのRP-HPLCプロファイルを、
図3および
図4に示す。
【0062】
リラグルチドおよびD-リラグルチド双方についての関心ピークを示したクロマトグラムプロファイルを、
図5および
図6に記載する。リラグルチドおよびD-リラグルチドについてプールした画分を凍結乾燥により精製したところ、RP-HPLC純度はそれぞれ93.1%および90.0%を示している(それぞれ
図7および
図8)。詳細を以下の表2に示す。
【0063】
【表2】
(実施例4)
リラグルチドおよびD-リラグルチドの生物学的特徴付け
自社製品のin-vitro効力を、ラット甲状腺c細胞系6-23(Clone 6)(ATCC(登録商標)CRL-1607(商標))に対するアデニル酸シクラーゼ活性の刺激に基づいて決定する。GLP-1受容体の活性化は、細胞内でのcAMP濃度の上昇を爆発的に高めるカスケード事象を惹起する。cAMP ELISAキットを用いてcAMP濃度を決定し、RMP(Victoza)と比較した。
統計解析は、Graph pad Prismソフトウェアを用いて行った。
図9に記載のとおり、参照(Victoza)のために観測されたEC50値は1.99ng/mLであり、合成リラグルチドおよびD-リラグルチドで観測されたEC50値は、それぞれ1.82ng/mlおよび1.43ng/mLであった。
【0064】
(実施例5)
糖尿病(DM-2)ウィスター系ラットを用いた、リラグルチドおよびD-リラグルチドの薬物動態(PK)解析
ストレプトゾトシン(STZ)は、膵臓のβ細胞に対して選択的な毒物であり、ウィスター系ラットを含む多数の種を用いた2型糖尿病(DM)モデルに一般的に使用される。実験のために12~14週齢の雄のウィスター系ラット(体重300~380g)を選抜した。ラットは、自由摂食時の血糖および体重に基づいて、異なる群にランダムに割り付けた。ストレプトゾトシンをSTZ60mg/kg(n=6)で単回腹腔内注射することにより、ウィスター系(Wister)ラットの対照群および被験群双方に2週間かけて糖尿病(DM)を誘導した。
【0065】
STZを注射する前に、すべての動物についてベースのグルコースレベルを記録した。STZ処置の15日後、すべての動物について上昇した血中レベルに対し再度評価をした。グルコースレベルが高くなっていることを確認した後、動物を単回用量(5mg/kg)のリラグルチドおよびD-リラグルチドで皮下経路により処置した。
血液試料は、投薬後0時間(投薬前)、1、2、4、8、12、24、48、72、96、120および144時間時点で採取した。各時点において、軽いイソフルラン麻酔下で後眼窩神経叢からおよそ0.3mLの血液を、ラベルを付けたmicrofugeチューブ中に回収した。すべての血液試料は、設定温度4℃、7000rpmで5分間、遠心分離した。遠心分離の後、血清を分離し、さらなる分析のために-80℃で保存した。
血清試料中のリラグルチドの定量的測定には、Cloud-Clone Corp.(CEV769Ge 96 Tests)キットを用いてELISAを実施した。このキットは、競合的阻害酵素阻害アッセイ法に利用できる。リラグルチド群およびD-リラグルチド群双方のすべての血清試料を、試料希釈緩衝液を用いて1:100希釈し、標準的なグラフを用いて、さまざまな時点におけるリラグルチドの存在についてELISAにより試験した。
【0066】
表3および
図10に示すとおり、ELISA完了および統計解析後得られたデータを、PKパラメーター(T
1/2、C
max、t
max、AUC
0-tおよびMRT)決定値についてノンコンパートメントモデルを用いてPK solverソフトウェアにかけた。
【0067】
【0068】
D-リラグルチドを試験した。その目的は、吸収が遅くなることで、予測される臨床的有効性に影響を及ぼすことなく投薬間隔を延長し、それにより、治療コストを低減し、処方遵守を高め、および、動物福祉に資することが可能になるかどうかを調査することであった。結果は、リラグルチドとD-リラグルチドとの間で有意差が検出された(SC投与の場合、半減期(T1/2)がそれぞれ24.77時間対54.44時間)ことを示している。D-リラグルチドのAUC値はリラグルチドの場合より3倍高いことが見出されていたため、絶対的バイオアベイラビリティーは、D-リラグルチドの場合で有意に高かった。D-リラグルチドの方がCmax値が高いことも、前述の知見を支持する。
【0069】
(実施例6)
皮下経路に対するD-リラグルチドの経口バイオアベイラビリティー
第2段階の薬物動態試験は、D-リラグルチドの経口バイオアベイラビリティーを皮下経路との比較により理解するために実施した。通常、タンパク質およびペプチドは、胃腸管においては酵素による分解が大規模であること、ならびに、胃腸粘膜を越えた透過は限定されていることのために、乏しい経口バイオアベイラビリティーを示す。タンパク質およびペプチドの経口バイオアベイラビリティーは1%未満である。
【0070】
年齢(7~9週齢)の健康な成体雄ラットを、2つの群にランダムに割り付けた。対照群には6mg/kgのVictozaを皮下に投与し、被験群には15mg/kgの被験分子すなわちD-リラグルチドを経口投与した。表4に従い血液試料を採取して、PK比較用の血液中のリラグルチド含有量を推定した。
【0071】
【0072】
血漿試料中のリラグルチド量推定:
SDラット血漿中リラグルチドの50倍量を調製し、アッセイ緩衝液(HBSSにIMBX、MgCl2およびRoを添加したもの)で希釈した。次いで、GLP-1Rを過剰発現している細胞[(CHOK1/GLP1/Gα15)、カタログ番号M00451、ロット番号:R10081093-12)]をトリプシン処理により取り出し、遠心分離した。次いで、これらの細胞をアッセイ緩衝液で洗浄した。細胞を15k/ウェル/15uLで播種し、15μLの2倍量を添加し、プレートを30分間、37℃で30分間インキュベートした。次いで、cAMP推定キット(Promega cAMP-Glo(商標)Max Assay、カタログ番号V1682)を用いてcAMP産生量を推定した。30分間のインキュベーションの後、プロテインキナーゼA 20μL溶液をプレートに添加し、室温で20分間インキュベートした。次いで、50μLの基質をプレートに添加し、室温で10分間おいた。
発光をプレートリーダーで読み取った。血漿中のリラグルチド含有量は、表5のとおりの各実行により生成した較正曲線を用いて逆算した。逆算には、Gen 5ソフトウェアを用いた。リラグルチドの前臨床PKパラメーターを表6に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
ペプチド薬には、消化酵素による分解、疎水性等に起因する経口送達上の難題が常に伴う。GLP-1が生理学的に活性な形態になるには5~10分間を要し、また、グルコース移送に必要なGLP-1濃度は、1桁または2桁台前半pMである。DPP-IV抑制薬を使用後でも循環血中GLP-1濃度は50~60pMにまで達し、臨床的に有意であることが証明されている。
【0076】
経口投与したD-リラグルチド(Liralgutide)および皮下投与したVictozaのPKプロファイルを
図11に示す。経口投与したD-リラグルチドが示したcmaxは1.5ng/mlであり、400pMに対応する。生理学的には食後にGLP1 Rが活性化するには90~150分を要すること、および、耐糖能の改善には循環血中GLP-1レベルは60pMで十分であることから、発明者らが動物3匹において観測したD-リラグルチド400pMというレベルは、治療的に有望な選択肢でありうる。より低い効力(2~5倍)のリラグルチドをD-リラグルチドとの比較で検討はしたが、耐糖能の有意な改善をもたらすのに満足できるのは、本試験における循環血中濃度でありうる。
【国際調査報告】