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特表2022-519397擬角柱光ガイドアレイを有する高分解能深さ符号化PET検出器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】擬角柱光ガイドアレイを有する高分解能深さ符号化PET検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20220316BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20220316BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
G01T1/20 D
G01T1/202
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/20 F
G01T1/161 A
G01T1/161 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020535057
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(85)【翻訳文提出日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 US2020018309
(87)【国際公開番号】W WO2020168205
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】62/806,035
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/915,676
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518244253
【氏名又は名称】ザ リサーチ ファウンデイション フォー ザ ステイト ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ゴールダン アミルホセイン
(72)【発明者】
【氏名】ラベラ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ウェイ
【テーマコード(参考)】
2G188
4C188
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB04
2G188BB07
2G188BB15
2G188CC12
2G188CC15
2G188CC16
2G188CC23
2G188DD05
2G188EE16
2G188EE25
2G188EE29
2G188EE37
2G188EE39
4C188EE02
4C188FF04
4C188FF07
4C188GG03
4C188GG19
4C188JJ05
4C188KK01
4C188KK09
4C188KK15
4C188LL15
4C188LL18
(57)【要約】
粒子検出装置およびその製造方法が提供される。この粒子検出装置は、複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱とを含む。この複数の擬角柱のうちの擬角柱は、シンチレータアレイの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている。シンチレータアレイの結晶の第1のグループの底端は、複数の検出器のうちの第1の検出器に粒子を導くように構成されており、シンチレータアレイの結晶の第2のグループの底端は、第1の検出器と実質的に隣り合う第2の検出器に粒子を導くように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、
前記シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、
前記シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱と
を備え、
前記複数の擬角柱のうちのそれぞれの擬角柱が、前記シンチレータアレイのシンチレータ結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されており、
前記シンチレータアレイのシンチレータ結晶の第1のグループの底端が、前記複数の検出器のうちの第1の検出器に粒子を導くように構成されており、
前記シンチレータアレイのシンチレータ結晶の第2のグループの底端が、前記第1の検出器と実質的に隣り合う第2の検出器に粒子を導くように構成されている、
粒子検出装置。
【請求項2】
それぞれの前記擬角柱が、少なくとも1つの角柱、少なくとも1つの反角柱、少なくとも1つの切頭体、少なくとも1つの三角形、少なくとも1つのキュポラ、少なくとも1つの平行六面体、少なくとも1つのくさび形、少なくとも1つの角錐、少なくとも1つの角錐台、球の少なくとも一部分のうちの少なくとも1つとして実質的に形づくられている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1のグループが4つの結晶を含み、前記第2のグループが4つの結晶を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のグループと前記第2のグループが、前記4つの結晶のうちの隣り合う2つの結晶を共有している、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記共有されている結晶が、前記第1の検出器と前記第2の検出器の両方に粒子を導くように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記複数の擬角柱のうちの第1の擬角柱が、前記シンチレータアレイの一群の9つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記一群の9つの結晶のうちのセンタ結晶が、隣り合う4つの検出器に粒子を導くように構成されている、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の擬角柱のうちの第2の擬角柱が、前記シンチレータアレイの別の一群の9つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の擬角柱が、前記第2の擬角柱と実質的に隣り合っており、前記一群の9つの結晶が、前記別の一群の9つの結晶と実質的に隣り合っている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の擬角柱のうちのコーナ擬角柱が、前記シンチレータアレイの一群の5つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記複数の擬角柱のうちのエッジ擬角柱が、前記シンチレータアレイの一群の5つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、
前記シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、
前記シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱と、
前記複数の検出器と操作可能に通信する少なくとも1つのプロセッサと
を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記複数のシンチレータ結晶のうちの少なくとも1つのシンチレータ結晶内の少なくとも1つの相互作用サイトの3次元(3D)ガンマ線ローカライゼーションを実行するように構成された複数の教師あり機械学習アルゴリズムを含む、
粒子検出器。
【請求項13】
前記少なくとも1つのプロセッサがさらに、前記複数のシンチレータ結晶間で散乱している少なくとも1つのコンプトン事象を回復し、前記少なくとも1つのコンプトン事象を、3Dガンマ線ローカライゼーションに基づいてシンチレータレベルにおいてローカライズするように構成された、請求項12に記載の検出器。
【請求項14】
前記少なくとも1つのプロセッサがさらに、少なくとも1つのコンプトン事象および深さ方向の相互作用位置(DOI)情報に基づいて散乱角を決定するように構成された、請求項12に記載の検出器。
【請求項15】
前記少なくとも1つのプロセッサがさらに、前記複数のシンチレータ結晶内で吸収された少なくとも2つの相互作用の分解されたエネルギーに基づいて、少なくとも1つのコンプトン事象をローカライズするように構成された、請求項12に記載の検出器。
【請求項16】
前記分解されたエネルギーが、少なくとも1つの光共有パターンに基づく、請求項15に記載の検出器。
【請求項17】
前記少なくとも1つの光共有パターンが、前記複数の検出器および前記複数の擬角柱に対する前記複数のシンチレータ結晶の位置に基づく、請求項15に記載の検出器。
【請求項18】
前記少なくとも1つの光共有パターンが、同じ擬角柱のシンチレータ結晶間の光共有比に基づいてマッピングされる、請求項16に記載の検出器。
【請求項19】
前記光共有比が、前記複数の擬角柱のうちの少なくとも1つの擬角柱の予め決められたジオメトリに基づく、請求項18に記載の検出器。
【請求項20】
前記マッピングが、測定された光電事象、少なくとも1つの1次相互作用の分解されたエネルギーおよび少なくとも1つの2次相互作用に基づき、
前記少なくとも1つの1次相互作用が電子反跳に基づき、前記少なくとも1つの2次相互作用がガンマ線散乱に基づく、
請求項18に記載の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、それぞれ2019年2月15日および2019年10月16日に米国特許商標局に提出された米国特許仮出願第62/806,035号および62/915,676号の恩典を主張するものである。それぞれの仮出願の内容はその全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
政府支援
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金第EB024849号の下、米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は一般に放射線画像法の分野に関し、詳細には陽電子放出断層撮影法(positron emission tomography)(PET)に関する。
【背景技術】
【0004】
PETを用いた分子画像法は主に、癌[1]および神経精神性障害[2]の診断、治療選択、治療モニタリングおよび研究に使用される強力な技法である。その高い分子特異性、定量的性質および臨床的利用可能性にも関わらず、PETは、主として、現在のところ3~6mmであるその比較的に劣等な空間分解能のために、ゴーツー(go-to)分子画像法モダリティとしてのその完全なポテンシャルを達成することができないでいる[3、4]。この種類の空間分解能によって、病因および病態生理学に関連した小結節ならびに多くのヒトおよび齧歯類の脳領域のターゲット密度を測定することはできない。
【0005】
長いシンチレータ結晶に対する視差誤差(ラインオブレスポンス(line of response)のミスポジショニング)を軽減するために、深さ符号化PET検出器(depth-encoding PET detector)モジュールが開発された[5]。これは、検出器リング当たりの構成要素コストが低い小径のPETリング、感度を増大させるための大きな立体角カバレージ、および小さい断面積を有する結晶を使用したときの空間分解能に対する消滅ガンマ線非共線性(acollinearity)の低い寄与を可能にする[4、6]。さらに、深さ方向の相互作用位置(depth of interraction)(DOI)情報を使用して、長い結晶内の光学光子輸送の逆畳込みを実行することができ、したがって時間分解能を向上させることができる[7、8]。デュアルエンド型読出し(dual-ended readout)に基づく深さ符号化検出器は、<2mmの最もよい連続DOI分解能を達成する[9、10]。デュアルエンド型DOI読出し検出器を使用する、マンモグラフィ専用のClear-PEMなどの高分解能PETシステムが開発された[11]。しかし、これらのシステムは、標準的なシングルエンド型(single-ended)読出しPETスキャナに比べて読出し電子部品の数が多いため、商業化するにはコストが高くなりすぎる。これらの検出器の最近開発された高分解能型は、正確な結晶識別(crystal identification)を達成するために必要なガラス光ガイドが結晶-読出し界面に使用されているため、比較的に劣等なエネルギーおよび時間分解能を示す[12]。DOI情報を得るために、マルチレイヤホスウィッチブロック(multi-layer phoswich bolck)[13、14]、モノリシックシンチレータを有するモジュールのための再帰性反射体[15]、および他のカスタム反射器設計[16、17]などの代替シングルエンド型読出し検出器モジュールが提案された。しかしながら、これらの全ての設計で、深さ符号化、コスト、シンチレータ-読出し結合比、結晶識別の正確さ、エネルギー分解能および時間分解能の間にトレードオフが存在する。これらのトレードオフを軽減するための理想的な深さ符号化検出器モジュールは、多数の画素を横切って下方へ移動しているシンチレーション光子の共有を最小にし、良好な時間分解能を維持するために、結晶アレイが、中間ガラス光ガイドなしで、シリコン光電子増倍管(silicon photomultiplier)(SiPM)画素に直接に結合された、シングルエンド型読出しを有する深さ符号化検出器モジュールである。さらに、良好なエネルギーおよびDOI分解能を維持し、デュアルエンド型深さ符号化読出し検出器の振る舞いを模倣するために、時間情報に寄与しない上方へ移動している光子は、光子の経路を180°曲げることによって、その方向を最隣接SiPMの方へ変えるべきである。
【0006】
これに応じて、最近、実用的で費用効果が高い高分解能飛行時間(time of flight)(TOF)PETスキャナを開発するための研究、およびシングルエンド型読出しを使用した連続DOIローカライゼーション(localization)を達成するための研究において、一方の側がSiPM画素に4対1で結合され、反対側が一様ガラス光ガイド(uniform glass light guide)に結合されたデポリッシュト(depolished)多結晶シンチレータアレイからなる検出器モジュールが検討された[8、18、19]。Frazao他の米国特許第10,203,419号を参照されたい。この文献の内容は参照によって本明細書に組み込まれている。これらの検出器モジュールでは、それぞれ1.53×1.53×15mm3の結晶および3×3mm2のSiPM画素を使用して9%のエネルギーおよびDOI分解能ならびに3mmの半値全幅(FWHM)を達成するために、結晶識別にエネルギー加重平均法が利用される[8]。しかしながら、これらのアレイは、光共有(light sharing)隣接物がないため、それらのエッジ(edge)およびコーナ(corner)に沿った結晶識別が劣等であり[19]、エッジおよびコーナ画素はそれぞれ、4×4および8×8SiPM読出しチップの75%および44%を占めるため、このことは解決されなければならない課題である。さらに、一様ガラス光ガイドを使用したときの結晶間光共有は非効率である。これは、上方へ移動している多くの光子が反射されて1次柱に戻り、残りの光子が、ガウスの強度分布で隣接結晶間で等方的に共有されるためである。等方性光共有の問題点は、多くのSiPMを横切って低強度の信号が分布することであり、その完全性は、ダークカウント(dark count)によって深刻な影響を受け、その結果、エネルギーおよびDOI分解能が悪化する。
【発明の概要】
【0007】
従来システムの短所を克服するため、本明細書では、擬角柱(prismatoid)PET(Prism-PET)検出器モジュールに基づく粒子検出器および同粒子検出器を動作させる方法が提供される。
【0008】
したがって、本発明の態様は、上記の課題および欠点を解決し、後述する利点を提供する。本発明の一態様は、複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱とを含む粒子検出装置を提供する。複数の擬角柱のうちのそれぞれの擬角柱は、シンチレータアレイの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている。シンチレータアレイの結晶の第1のグループの底端は、複数の検出器のうちの第1の検出器に粒子を導くように構成されており、シンチレータアレイの結晶の第2のグループの底端は、第1の検出器と実質的に隣り合う第2の検出器に粒子を導くように構成されている。
【0009】
本開示の一態様は、複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱と、複数の検出器と操作可能に通信する少なくとも1つのプロセッサとを含む粒子検出器を提供する。この少なくとも1つのプロセッサは、複数のシンチレータ結晶のうちの少なくとも1つのシンチレータ結晶内の少なくとも1つの相互作用サイトの3Dガンマ線ローカライゼーションを実行するように構成された複数の教師あり機械学習アルゴリズム(supervised machine learning algorithm)を含む。
【0010】
本発明のある種の実施形態の上記の態様、特徴および利点ならびにその他の態様、特徴および利点は、以下の詳細な説明を添付図面と併せて読むことによってより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一様ガラス光ガイドモジュールおよび同一様ガラス光ガイドモジュールを使用した光の分布を示す図である。
図2】従来の光ガイド内の光共有による一様分布を示す図である。
図3】本開示の実施形態に基づく、Prism-PETモジュールおよび同Prism-PETモジュールを使用した光の分布を示す図である。
図4】本開示の実施形態に基づく擬角柱光ガイドアレイを示す図である。
図5】本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュールの配置を示す図である。
図6】本開示の実施形態に基づく、擬角柱アレイの詳細を提供する透視図である。
図7】本開示の実施形態に基づく、9対1結合Prism-PETモジュールの配置を示す図である。
図8】本開示の実施形態に基づく、光ガイドアレイの透視図である。
図9】一様ガラスを有する4対1の検出器読出しを示す図である。
図10】本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュールの検出器読出しを示す図である。
図11】本開示の実施形態に基づく、9対1結合Prism-PETモジュールの検出器読出しを示す図である。
図12】本開示の実施形態に基づく、重心(centroiding)に基づく結晶識別ヒストグラム、およびDOIフィルタ処理を使用した場合と使用しない場合の測定エネルギーヒストグラムを示す図である。
図13】一様ガラス光ガイドモジュールおよび本開示の実施形態に基づく4対1結合Prism-PETモジュールのDOI分解能を示す図である。
図14(a)-(d)】本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュールの測定DOI分解能グラフである。
図15(a)-(d)】本開示の実施形態に基づく、いくつかの異なるPETスキャナの感度グラフおよび寸法を示す図である。
図16(a)-(f)】本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュール内におけるサイドバイサイド(side-by-side)コンプトン(Compton)相互作用の理論上の光分布を示す図である。
図17】本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュール内における光電およびコンプトン相互作用測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のある種の実施形態の以下の詳細な説明は添付図面を参照してなされる。不必要な詳細によって本発明を不明確にすることを防ぐために、本発明を説明する際には、本発明の概念を理解する際の明瞭さのため、当技術分野で知られている関連機能または構造についての説明は省略される。
【0013】
本明細書では、セグメント化された擬角柱光ガイドの専用パターンを利用するシングルエンド型読出し深さ符号化検出器モジュールが開示される。さまざまな実施形態で開示されるPrism-PET検出器モジュールの特徴の中で、少なくとも3つの別個の擬角柱設計、すなわちセンタ(center)擬角柱、エッジ擬角柱およびコーナ擬角柱が利用され、センタ擬角柱、エッジ擬角柱およびコーナ擬角柱はそれぞれ、エッジおよびコーナアーチファクトを軽減し、したがって一様な結晶識別性能を達成するための予め決められた異なる設計を有する。
【0014】
確定的な(deterministic)異方性結晶間光共有パターンを生成し、それらのSiPM上での信号対背景比を最大にして、エネルギー分解能とDOI分解能の両方を向上させるために、結晶間光共有は、最隣接SiPMに属する結晶だけに限定される。
【0015】
このセグメント化パターンは、そうしなければ同様の読出しパターンを有するであろう隣り合う結晶を分離することによって、結晶識別を向上させる。それぞれの擬角柱の形状は交換可能であり、擬角柱の実施形態は実質的に、少なくとも1つの角柱(prism)、少なくとも1つの反角柱(antiprism)、少なくとも1つの切頭体(frustum)、少なくとも1つの三角形(traingle)、少なくとも1つのキュポラ(cupola)、少なくとも1つの平行六面体(parallelepiped)、少なくとも1つのくさび形(wedge)、少なくとも1つの角錐(pyramid)、少なくとも1つの角錐台(trancated pyramid)、球(sphere)の少なくとも一部分、少なくとも1つの直平行六面体(cuboid)、および少なくとも1つの角錐のうちの少なくとも1つとして形づくられる。参照を容易にするため、本明細書では、直角三角柱(right triangular prism)について論じる。直角三角柱は、結晶間光共有比を改良し、したがって結晶識別とDOI分解能の両方を向上させる。
【0016】
図1~8に示されているように、直角三角柱の斜辺に光学光子が入射すると、光学光子は180°の偏向を経験し、結晶-画素結合に対してオフセットされた結晶-角柱結合スキームのため、光学光子は、異なる読出し画素に結合された隣接結晶に効率的に誘導される。
【0017】
図1は、一様ガラス光ガイドモジュール、およびTraceProでシミュレートされた同一様ガラス光ガイドモジュールを使用した光の分布を示す。図2は、従来の光ガイド内の光共有による一様分布を示す。
【0018】
図3は、一様ガラスPrism-PET、およびTraceProでシミュレートされた同一様ガラスPrism-PETを使用した光の分布を示す。図4は、本開示の実施形態の擬角柱光ガイドアレイを示す。図4は、本開示の実施形態のPrism-PETについて、同じ擬角柱に結合された16×16個の結晶120のアレイに光共有を限定し、それによって結晶間光共有比を改良することを示す。
【0019】
図5は、本開示の実施形態に基づく4対1結合Prism-PETモジュールの配置を示す。図5の左下隅は、複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイの2×2結晶とシンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器のSiPM画素140との相対的な配置を示す平面図である。図5の右上隅は、図5の実施形態で利用されている3つの別個の擬角柱設計を示し、センタ擬角柱162、エッジ擬角柱168およびコーナ擬角柱166は、エッジおよびコーナアーチファクトを軽減し、したがって一様な結晶識別性能を達成するための異なる設計を有する。図6に示されているように、これらの3つの別個の擬角柱は、シンチレータアレイの頂端122に、予め決められた配置で提供されており、シンチレータアレイの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている。
【0020】
比較のために、異なるPrism-PET検出器モジュールを製造した。第1のPrism-PET検出器142は、文献[8、20]において以前に検討されたモジュールと同様の、一方の側が8×8SiPM読出しアレイ140に4対1結合され、反対側(放射線を受け取る側)が一様ガラス光ガイドに結合された、1.4×1.4×20mm3のルテチウムイットリウムオルトシリケート(lutetium yttrium orthosilicate)(LYSO)結晶の16×16アレイからなる。第2のPrism-PET検出器144は、同じ結晶および読出しジオメトリ(geometry)からなるが、光共有パターンを最適化するために、従来の単一の一様ガラス光ガイドが、検出器モジュールのコーナ、エッジおよびセンタの角柱の固有の設計およびレイアウトを有する擬角柱光ガイドアレイに交換された(図5~8)。第3のPrism-PET検出器は、擬角柱光ガイドアレイを有し、他の検出器と同じSiPMアレイを使用するが、9対1結合を達成するために、0.96×0.96×20mm3LYSO結晶の約24×24アレイを利用した(図7および図8)。両方のPrism-PET検出器モジュールでは、シンチレータ結晶が、読出し画素および直角三角柱に等しい比率で結合されている。
【0021】
それぞれの結晶が、異なる読出し画素に属する別の結晶だけに結合されるように、角柱の結合スキームは読出し画素の結合スキームからオフセットされている(図5)。結晶内でのガンマ線相互作用後に光学光子が擬角柱に入射すると、直角三角柱ジオメトリのために、光子(すなわち粒子300)の方向が隣接結晶へと効率的に変えられ、このことが、画素間の光共有比を改良する(図2)。それぞれの擬角柱のジオメトリは位置依存であり、結晶分離を最適化するために、このジオメトリは、さもなければ同様の読出しパターンを有するであろう隣り合う結晶をエッジおよびコーナに沿って分離するように予め決められている。本開示のある種の実施形態では、第1のグループが4つの結晶を含み、第2のグループが4つの結晶を含み、第1のグループと第2のグループが、それらの4つの結晶のうちの隣り合う2つの結晶を共有している。ある種の実施形態では、共有されている結晶だけが、第1の検出器と第2の検出器の両方に粒子を導くように構成されている。
【0022】
図7および8に示されているように、複数の擬角柱のうちの第1の擬角柱162は、シンチレータアレイ120の9つの結晶のグループの頂端122間で粒子の方向を変えるように構成されている。本開示の実施形態では、一群の9つの結晶のうちのセンタ結晶139が、隣り合う4つの検出器142、144、146、148に粒子を導くように構成されており、複数の擬角柱のうちの第2の擬角柱164が、シンチレータアレイの別の一群の9つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されており、第1の擬角柱162が第2の擬角柱164と実質的に隣り合っており、一群の9つの結晶132が、別の一群の9つの結晶134と実質的に隣り合っている。本開示の実施形態では、複数の擬角柱のうちのコーナ擬角柱が、シンチレータアレイの一群の5つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている。本開示の実施形態では、複数の擬角柱のうちのエッジ擬角柱168が、シンチレータアレイの一群の5つの結晶の頂端間で粒子の方向を変えるように構成されている。
【0023】
この結合スキームは、結晶識別を改良する隣接SiPM間にあるように結晶間光共有を限定するため、シンチレータ柱、角柱および結合接着剤間の屈折率nを、光共有をさらに改良し、その結果としてDOI分解能および結晶識別を向上させるように整合させることができる。全ての角柱は、(一様ガラス光ガイド用の材料であるn=1.53のBK7の代わりに)n=1.767のSF10ガラスを使用して製造され、n=1.7のNOA170接着剤を使用してシンチレータアレイに結合された。エネルギーまたは時間分解能を低下させないその高い空間性能のため、硫酸バリウム(BaSO4)が、結晶と角柱の間の反射器材料として使用される[21]。この時、エネルギー分解能を正方向にゆがめ、DOI分解能に負方向の影響を与えることが知られているSiPM飽和効果は考慮しなかった[22]。
【0024】
図6は、本開示の実施形態に基づく、擬角柱アレイの詳細を提供する透視図を示す。
【0025】
図6には、4対1結合Prism-PETモジュールの擬角柱アレイの透視図、擬角柱および対応するそれぞれの結晶の断面図、ならびにコーナ、エッジおよびセンタ擬角柱の個々の図が示されている。図6に示されたシンチレータアレイの結晶の第1のグループの底端は、複数の検出器のうちの第1の検出器に粒子を導くように構成されており、シンチレータアレイの結晶の第2のグループの底端は、第1の検出器と実質的に隣り合う第2の検出器に粒子を導くように構成されている。
【0026】
図7は、本開示の実施形態に基づく、9対1結合Prism-PETモジュールの配置を示す。図7のはめ込み図は、9対1結合モジュール内の単一の擬角柱光ガイドに属するそれぞれの結晶の予め決められた読出しパターンを示す。
【0027】
図8は、本開示の実施形態に基づく、9対1結合Prism-PETモジュールの光ガイドアレイ、擬角柱結晶アレイの透視図および擬角柱の断面図を示す。
【0028】
実験的測定を使用して、結晶識別、エネルギー分解能およびDOI分解能に関する利点を示す。これは、Prism-PETが最大9対1の結晶-読出し結合をどのように可能にするのかを含み、この結晶-読出し結合は、読出しチャネル数を増やすことなく空間分解能を大幅に向上させる目的に使用することができる(図7および8)。
【0029】
図9は、一様ガラスを有する4対1の検出器読出しを示す。図10は、本開示の実施形態に基づく、4対1結合Prism-PETモジュールの検出器読出しを示す。図11は、本開示の実施形態に基づく、9対1結合Prism-PETモジュールの検出器読出しを示す。
【0030】
これらの検出器モジュールは、SiPMの8×8アレイ(Hamamatsu S13361-3050AE-08)に結合(4対1または9対1結合)された、X-Lum(中国、上海)において製造されたLYSO結晶アレイからなるものとした。データ取得は、PETsys ElectronicsのTOFPET2特定用途向け集積回路(ASIC)およびFEB/D v2読出しボードを使用して実行した。3MBq Na-22ナトリウム点源(有効径5mm)でモジュールを一様に露光することにより、擬角柱光ガイドアレイを有する4対1および9対1結合検出器モジュール上で、フラッドデータ(flood data)を取得した。(結晶当たり等しい数の事象を取得するために)4対1モジュールからは10,000,000事象、9対1モジュールからは22,500,000事象を使用して、フラッドヒストグラム(flood histogram)を作成した。
【0031】
図12は、図9の4対1一様ガラス、図10の4対1Prism-PETモジュールおよび図11の9対1結合Prism-PETモジュールのガウスヒストグラムおよびフィルタ処理後のエネルギースペクトルを示す。図12の上半分は、図9~11のモジュールのコーナ、エッジおよびセンタ読出し画素からのx方向の結晶分離を示す1Dガウスヒストグラムである。図12の下半分は、DOI補正をした場合(13%、9%および10%)としない場合(20%、14%、16%)の、図9~11のセンタ結晶からのフィルタ処理後のエネルギースペクトルである。
【0032】
DOI性能は、参照文献[18]に記載された手法と同様の手法を使用して実験により、結晶当たりベースで測定した。鉛コリメーションを使用して、モジュールを、Na-22源で、5つの異なる結晶深さ(2、6、10、14および18mm)で露光した。源は、1mmのピンホールを有する鉛シリンダの中に置いた。ピンホールは、一方の側をDOI整列モジュールと、もう一方の側を基準モジュール上の単一の1.4×1.4×20mm3結晶と整列させた。これらの2つのモジュール間の同時事象を使用して、散乱事象を排除し、意図したラインオブレスポンスに沿った事象だけを受け入れた。全ての結晶についてDOI推定パラメータ[18]wのヒストグラムを計算し、作図した。次いで、直線回帰を使用してwヒストグラムをDOI空間に変換して、それぞれのガウスピークの中心にあるはずである、wとグラウンドトルース(ground truth)DOIとの間の傾きを決定した。DOI空間に変換されたガウスのピークの幅を使用して、結晶のDOI分解能を計算した(図14)。DOI分解能は深さに依存し、ガウスヒストグラムのFWHMに等しい。結晶特定の全体のDOI分解能を、測定された深さを横切るDOI分解能の平均として計算した[18]。それぞれのモジュールの典型的なセンタ結晶を使用して、それぞれのモジュールのDOI分解能を計算した。
【0033】
本開示のPrism-PETモジュールの空間性能は、製造されたモジュールのフラッドヒストグラムを使用して、標準的な一様ガラス光ガイドモジュールとの比較で特徴づけられる(図9~11)。ガラス光ガイドモジュールは、エッジおよびコーナ効果を欠点として有し、その結果として、劣等な位置依存結晶分離を有する。Prism-PETは、検出器アレイ全体にわたる、エッジおよびコーナアーチファクトのない優れた結晶分離を可能にする。このことは、シングルエンド型TOF-DOI読出しを有する以前の4対1結合検出器モジュールでは達成されなかった[8、19、20]。9対1結合Prism-PETモジュール(図11)でも同様の結果が示され、3.2×3.2mm2のSiPM画素を有するTOF-DOI PET検出器モジュールにおいて1ミリメートル未満の均質な結晶分離を示す。(x方向の)1D事象位置決めヒストグラムを作成すると、本開示のPrism-PETが、センタ、エッジおよびコーナにおいて一様な結晶分離性能を有することが確認される。Prism-PETはさらに、DOI補正を使用した場合に、4対1および9対1結合モジュールでそれぞれ14%および16%のエネルギー分解能を達成するが、一様光ガイドは20%のエネルギー分解能を達成するだけである(図12の下のグラフ)。
【0034】
図13は、本開示の実施形態に基づく、図10および11のモジュールのDOIを示す。図13(a)~13(c)のヒストグラムは、一様ガラスを有する4対1結合検出器モジュール(図13(a))および擬角柱光ガイドを有する4対1結合検出器モジュール(図13(b))のセンタ結晶の深さ方向の相互作用位置において計算されたDOI分解能を示す。図13(c)は、使用した光ガイドに基づくDOI分解能の比較を示し、この比較は、それぞれのモジュールの単一のセンタ結晶に関して実験的に測定されたとおり、本開示のPrism-PET検出器モジュールが、一様ガラス光ガイドに対して、DOI分解能の2倍の向上を達成することを示している。ガラス光ガイドの測定DOI分解能はFWHMで5mmであり、以前に報告された結果[19]との強い一致を示していた。Prism-PETモジュールは、2.5mmのFWHM DOIローカライゼーションを達成した。これは、シングルエンド型読出しを使用してこれまでに報告された最もよい分解能であった。wパラメータの深さ依存性の増大は、1)擬角柱内の制御された確定的光共有パターン、2)屈折率の一致によるシンチレータから光ガイドへの光転送の増大、および3)直角三角柱ジオメトリによる、上方へ移動している光学光子の経路の改良された180°の偏向、に起因し、これらは全て、同じ擬角柱に結合された結晶間の光共有を改良する。DOI情報を使用して、時間分解能とエネルギー分解能の両方を向上させることができ、時間分解能は、シンチレータの内側の深さ特定の光子輸送の逆畳込みを実行することによって、エネルギー分解能は、深さ特定の光電ピークを構成することによって向上させることができる[8、18]。本開示の実施形態は、DOIベースの補正を適用した後に、4対1および9対1結合Prism-PETモジュールでそれぞれ9%および10%のエネルギー分解能を達成し、一様光ガイドで13%のエネルギー分解能を達成した。DOIおよびエネルギー分解能値はそれぞれ、SiPM飽和補正を実施した後にわずかに改善および悪化し[22]、その結果、報告された値は、実際には、絶対性能ではなくむしろ、一様光ガイドモジュールと比較した本開示のPrism-PETの相対性能を示すことに留意されたい。
【0035】
図14(a)~(d)は、本開示の実施形態に基づくDOI分解能グラフを示しており、DOI特定のwヒストグラムからDOIヒストグラムへの変換は、それぞれの深さにおける単一の結晶のDOI分解能を示す。図14(a)は、2、6、10、14および18mmにおいて取得されたDOI推定パラメータwのヒストグラムを示す。図14(b)は、直線回帰によるwとDOIの間の当てはめを示す。図14(c)は、図14(a)のwヒストグラムを得、図14(b)の直線の当てはめの傾きを乗じることによって生成されたDOIヒストグラムを示す。図14(d)は、図14(c)のガウス曲線の幅に基づく、それぞれの取得深さにおけるDOI分解能を示す。
【0036】
おそらく、PETシステムを構築するときに考慮すべき最も重要なパラメータはガンマ線検出感度であり、ガンマ線検出感度は、信号対雑音比(SNR)に直接に関係し、したがって患者処理量、送達線量および像質を決定する。GATEなどの非常に進んだソフトウェアを使用したモンテカルロシミュレーションは、システムレベル感度をモデル化および計算する最も信頼できる手法である。しかしながら、感度の相対的な向上およびシステム間の比較は、(a)幾何学的感度および(b)飛行時間読出し(TOF)に対する同時時間分解能(coincidence time resolution)(CTR)に基づく感度利得を計算することによって分析的に実行することができ、式(1)で、感度利得はSNR利得の2乗に等しい[24]。
【0037】
【数1】
【0038】
上式で、Dは、画像化されている物体の直径、Δxは、ラインオフレスポンスに沿った再構成された線分の長さであり、式(2)のCTR(Δt)に正比例する。
【数2】
【0039】
Prism-PET検出器モジュールを使用して構築することができる専用脳PETスキャナの例は、軸方向長50cm、直径25cmの円筒リングであるだろう。
【0040】
図15(a)~(d)は、本開示の実施形態に基づく感度グラフを示す。図15(a)は、Siemens Biograph Vision、Explorer Total-Body PETスキャナおよびPrism-PET脳スキャナの一例の寸法および幾何学的範囲を示す。図15(b)は、図15(a)に示されたそれぞれのスキャナの中心に置かれた点源の幾何学的感度を示す。図15(c)は、同時時間分解能の関数としての相対感度利得を示す。図15(d)は、(図15(b)に示された)幾何学的効率と(図15(c)に示された)TOF感度利得との積として計算された実効感度利得を示す。
【0041】
図15(a)は、本開示の実施形態に基づく脳Prism-PETスキャナの寸法を、例示的なwhole-body(Siemens Biograph Visions)およびtotal-body(Expolorer)PETスキャナの寸法との比較で示す。小さなリング径および大きな軸方向視野を有することは、幾何学的効率は大幅に向上し(図15(b))、それと引き換えに視差誤差が大幅に増大し、部分的な容積効果が生じ、これらは、深さ方向の相互作用位置(DOI)の読出しを実行することによって軽減することができる[26]。その結果として、本発明者のPrism-PETモジュールなどのDOIローカライゼーション能力を有する検出器モジュールを有する特定器官向けの小径スキャナだけが構築されるべきである。
【0042】
DOI読出しを使用して、同時タイミングに対するDOI依存性(すなわち光学光子の経路長の差)の逆畳込みを実行することによって、TOF読出しに対するCTRを回復することもできる[8]。本発明者のモジュールはより良好なDOI分解能(2.5mm対3mm)を有するため、安全な下限推定値である本明細書に示すのと同じ報告されたCTR(約150ps)を仮定すると、ヒトの脳などのDが約20cmの物体を画像化するとき、Prism-PETは、式(1)に基づいて10倍に近いTOF感度利得を可能にする(図15(c))。ヒトの脳の画像化に対するTOF感度利得は、約220psのCTR[25]を達成するSiemens Biograph Visionに関してはわずかに低く、CTR>400psを有する[23]Explorerに関してははるかに低い(図15(c))。
【0043】
図15(d)は、幾何学的効率とTOF感度利得の両方を考慮したときのヒトの脳の画像化の全体の実効感度利得を示す。上記の計算に基づくと、本開示の実施形態のPrism-PETスキャナは、Siemens Biograph VisionおよびExplorerスキャナと比較して感度をそれぞれ3倍および4倍に向上させることができる。
【0044】
図16(a)~(f)は、本開示の実施形態に基づくコンプトン相互作用を示す。
【0045】
コンプトン相互作用に関して、本開示のPrism-PETは、その確定的光共有パターンのため、コンプトン散乱エネルギー分解(したがってローカライゼーション)を可能にする。Prism-PET光ガイドを有し、シリコン光電子増倍管(SiPM)画素の8×8アレイに4対1結合されたルテチウムLYSO結晶の16×16アレイを有すると仮定する。511keVのそれぞれのガンマ線が光共有によって4つの異なる画素上で信号を生成するという近似を基にして、同じ擬角柱に属する全ての結晶間の光共有比を、光電事象を使用してフラッドデータから直接に測定することができる。この情報を使用して、1次相互作用(すなわち反跳電子(recoil electron))および2次相互作用サイト(すなわち散乱ガンマ線)のエネルギーが分解される。分解されたエネルギーが得られた後、シンチレーションブロック内における2つの独立して吸収された事象をローカライズすることができ、散乱角およびDOIを決定することができる。光電事象のランダムな光共有から確定的パターンへの変化のため、本開示のPrism-PETモジュールに関して、サイドバイサイドコンプトン散乱事象を識別することが可能である(図16および17)。
【0046】
図16(a)~(c)は、本開示のPrism-PETを有する多結晶シンチレータアレイ内におけるコンプトンエネルギー分解の例を示す。図16(d)は、図16(a)~(c))において標識された画素1と隣接画素との間の光共有フラクション(fraction)比の例を提供する。一方のケースでは、両方の画素(2および4)が画素1と隣り合っており、その結果、等しい光共有フラクションを与え、もう一方のケースでは、画素3が画素1の斜め向かいにあり、その結果、より小さな光共有フラクションを与える。(E)、(F)Prism-PETに対するコンプトン相互作用分解のエネルギーおよびDOI誤差。
【0047】
古典的なコンプトンエネルギー分解は以下のように実行することができる。構成要素AおよびB(散乱および反跳電子)による全吸収エネルギーEAおよびEBは、4つの全てのSiPMのエネルギーの総和として式(3)で与えられる。
【数3】
【0048】
上式で、EA1およびEB1は、相互作用が生じた結晶画素に結合されたSiPM内の最大蓄積エネルギー(maximum deposited energy)であり、EA2,3,4およびEB2,3,4は、底部における(SiPM側からの)光漏れおよび角柱ミラー光ガイドを介した頂部における光漏れに起因する、隣接柱内の蓄積エネルギーである。補足図16(a)の実験結果は、サイドバイサイドコンプトン散乱事象後に4つのそれぞれの画素によって検出されたエネルギーに対応する4つの既知のパラメータE1-4を示し、蓄積した全ガンマ粒子エネルギーは式(4)によって示される。
γ=EA+EB (4)
【0049】
コンプトン散乱事象の構成要素のエネルギー、すなわちEA1-4およびEB1-4は未知であることに留意されたい。測定されたエネルギーに基づいてこれらの式を書くと式(5)が得られる。
E1=EA1+EB4
E2=EA2+EB1
E3=EA3+EB2
E4=EA4+EB3 (5)
【0050】
これは4つの式および8つの未知数を与える。しかしながら、隣接柱内の蓄積エネルギーは相関している。図16(d)のはめ込み図を考える。最大蓄積エネルギーは左上のSiPMで生じた。3つの隣接結晶を有する共有フラクションが、相互作用が生じた結晶に対する隣接結晶の近さに依存すると仮定し、ピタゴラスの定理を使用し、3つの隣接結晶の中心を頂点として使用して直角三角形を形成することによって、式(6)が得られる。
【0051】
【数4】
#1 したがって
【0052】
上式で、例えば、d12は、1次SiPM1と隣接SiPM2の中心間の距離である。式5に式6を代入すると式(7)が得られる。
E1=EA1+EB2
E2=EA2+EB1
E3=0.7EA2+EB2
4=EA2+0.7EB2 (7)
【0053】
これには4つの式および4つの未知数がある。実際には、角柱ミラー光ガイドとシンチレータ柱の間の避けられない小さなある不良位置合せのために、共有フラクションは、式6に示された理想的なケースからの空間偏差を有することに留意されたい。しかしながら、図16(d)に示されているように、それらは、フラッドヒストグラム実験を使用して得られた個々の光電事象からの共有フラクションを分析することによって、アレイを横切って経験的に得ることができる。図16(b)および(c)は、上記の分析に基づく、測定されたサイドバイサイドコンプトン散乱事象の2つの分解された要素を示す。
【0054】
本発明者のモジュールがDOIローカライゼーションを有する場合には、DOI変量を式(8)として表すことができる。
wA=EA1/EA
B=EB1/EB (8)
【0055】
図15(e)~(f)に示されているように、200,000の実験ガンマ事象に基づく{EA1,EB1}および{wA,wB}の本発明者による推定の誤差パーセントは約10%である。畳込みニューラルネットワークを推定量として使用してこの誤差をさらに減らすことができる。これは特に、フラッドヒストグラム実験を使用して、数百万のガンマ事象をトレーニングデータセットとして集めることができるためである。
【0056】
反跳電子および散乱ガンマ線が2つの異なるSiPMの隣り合うシンチレータで完全に吸収されるコンプトン事象をどのようにしたらその構成要素に分解することができるのかの例が、図15(a)~(d)に示されている。古典的なコンプトン分解を使用してDOI変量wを計算した結果、半値全幅(FWHM)誤差は11%であった(図16(e))。さらに、コンプトン分解の結果、FWHMエネルギー誤差は15%である(図16(f))。
【0057】
図17は、本開示の実施形態に基づく光電およびコンプトン相互作用を示し、本開示の実施形態のPrism-PETの確定的光共有パターンのグラフの上に、ガラス光ガイドのランダムな光共有パターンのグラフが示されている。図17は、「本開示のPrism-PETモジュール」対「板ガラス光ガイドを有するモジュール」の隣り合う結晶において吸収されたコンプトン事象のいくつかの例の実験結果を示す。
【0058】
ガラス光ガイドモジュール内の光共有パターンはランダムであり、このことは、検出されたエネルギーを散乱光子および反跳電子の構成エネルギーに分解することを難しく(ほとんどの場合、不可能に)する。直角三角柱ジオメトリのため、Prism-PETモジュールでは光共有パターンが確定的であり、このことは、結晶間の既知の光共有比に基づいて事象をその構成エネルギーに分解することを実際的にする。
【0059】
したがって、複数のシンチレータ結晶を含むシンチレータアレイと、シンチレータアレイの底端に提供された複数の検出器と、シンチレータアレイの頂端に提供された複数の擬角柱と、複数の検出器と操作可能に通信する少なくとも1つのプロセッサとを含む粒子検出器が提供される。この少なくとも1つのプロセッサは、複数のシンチレータ結晶のうちの少なくとも1つのシンチレータ結晶内の少なくとも1つの相互作用サイトの3Dガンマ線ローカライゼーションを実行するように構成された、畳込みおよび回帰ネットワークを含む複数の教師あり機械学習アルゴリズムを含む。この少なくとも1つのプロセッサは、複数のシンチレータ結晶間で散乱している少なくとも1つのコンプトン事象を回復し、その少なくとも1つのコンプトン事象を、3Dガンマ線ローカライゼーションに基づいてシンチレータレベルにおいてローカライズするように構成されている。この少なくとも1つのプロセッサはさらに、少なくとも1つのコンプトン事象およびDOI情報に基づいて散乱角を決定するように構成されている。この少なくとも1つのプロセッサはさらに、複数のシンチレータ結晶内で吸収された少なくとも2つの相互作用の分解されたエネルギーに基づいて、少なくとも1つのコンプトン事象をローカライズするように構成されており、分解されたエネルギーは、少なくとも1つの光共有パターンに基づき、少なくとも1つの光共有パターンは、複数の検出器および複数の擬角柱に対する複数のシンチレータ結晶の位置に基づく。
【0060】
本開示の実施形態によれば、少なくとも1つの光共有パターンが、同じ擬角柱のシンチレータ結晶間の光共有比に基づいてマッピングされ、光共有比は、複数の擬角柱のうちの少なくとも1つの擬角柱の予め決められたジオメトリに基づき、このマッピングは、測定された光電事象、少なくとも1つの1次相互作用の分解されたエネルギーおよび少なくとも1つの2次相互作用に基づき、少なくとも1つの1次相互作用は電子反跳に基づき、少なくとも1つの2次相互作用はガンマ線散乱に基づき、光共有パターンは確定的である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
したがって、エッジおよびコーナアーチファクトを導入することなしに、多結晶シングルエンド型読出し検出器モジュールにおいて高い空間およびDOI分解能を達成するための費用効果が高い実用的な方法が提供される。本開示の実施形態を使用して、whole-bodyおよびtotal-body臨床PETスキャナ[23]における深さ符号化を、コストを増大させることなく(擬角柱光ガイドアレイのコストは、それぞれのPrism-PETモジュールの全コストの10%未満を占める)、また電力消費を増大させることなしに可能にすることができ、同時に、(例えば2×2×20mm3の結晶を6×6mm2の読出し画素に9対1結合することによって)空間分解能を向上させ、(結晶間コンプトン散乱回復(intercrystal Compton scatter recovery)によって)感度を向上させ、(タイミングジッタ(timing jitter)のDOI補正によって)時間分解能を向上させることができる。小リング径脳画像化に関して、9対1の結合比は1ミリメートル未満の空間分解能を可能にし、また、軸方向視野を、whole-body PETスキャナの軸方向視野の約2倍に広げることは、Explorer total-body PETスキャナと同じ幾何学的感度利得を可能にする(図15)[8、23~26]。さらに、2.5mmのDOI分解能を有することは視差誤差を大幅に軽減し、潜在的に、DOI補正によって約100psの同時時間分解能を達成することを可能にする[8]。このことは、よりいっそう高い感度および空間分解能を可能にするであろう[24~26]。これらの利点は、既存のPETスキャナによっては分解可能でなかった縫線核、コリン作動性前脳基底核、青斑および視床下部核など脳の重要な構造体を含む、人体の多くの器官の定量的なin vivo機能および分子画像化のために高い空間分解能と高い感度の両方を比較的に低い線量で達成する、実用的で、費用効果が高く、電力効率のよい手法を与え、これらの構造体は全て、基礎生理学において、ならびに一般的な神経変性および精神医学的障害の病態生理学において決定的に重要な役割を演ずると考えられている[26~30]。これらのターゲットおよび同様のターゲットを視覚化および数量化する能力は、臨床分野と研究分野の両方における分子画像法に革命をもたらす潜在性を有し、腫瘍学および脳障害における早期診断および基礎研究に対して今までのところ利用できないツールを提供する。
【0062】
本開示の実施形態の別の利点は、コンプトン散乱事象の初期相互作用サイトをより正確に識別できることであり、このことは空間分解能および感度をさらに向上させる(図16~17)。伝統的に、コンプトン検出は多数の検出器層を使用して実行されてきたが、最近の1つの論文は、シングルエンド型読出しを使用してコンプトン相互作用をローカライズおよび分解するための判定基準を概説し、コンプトン散乱回復のための鍵となる特徴として高分解能DOI読出しを挙げた[31]。一様な光ガイドは、個々の事象のSiPMパターンがランダムであるため、このタスクに対して最適とは言えない。それに対して、本発明者のPrism-PETモジュールは、1次シンチレータ柱の内側の相互作用位置にかかわらず、確定的光共有パターンを生成する(図1~4および14)。特に、Prism-PETは、生じる確率が最も高く、散乱事象を分析することが最も難しいサイドバイサイド散乱光子および反跳電子事象を、それらの構成エネルギー、空間位置およびDOIに分解することを可能にする。結晶サイズが小さくなるにつれて、散乱光子は、1次相互作用サイトとは異なる結晶でより吸収されやすいため、コンプトン散乱回復は、小さなシンチレータ結晶を有する検出器モジュール内の高い感度を維持するのに特に重要である[32]。
【0063】
本開示の実施形態は、光を180°曲げる効率的な反射器を使用して光共有を改良する、デュアルエンド型深さ符号化読出しの真のシングルエンド型類似物(analogy)であるPrism-PET検出器モジュールを提供する。2.5mmのFWHM DOI分解能が達成され、高空間分解能のために最大9対1のシンチレータ-SiPM結合が達成され、同時に、光漏れを最小にし、良好な時間分解能に必要な高い光子検出効率を維持するために結晶アレイをSiPM画素に直接に結合する。頂部側の反射器は、シンチレーション光子経路の方向が1次結晶から選択された最隣接SiPMへ効率的に変えられる、したがってデュアルエンド型読出し検出器の動作を非常に厳密に模倣する、セグメント化された擬角柱光ガイドの最適化されたパターンからなる。これは、散乱回復目的でサイドバイサイドコンプトン散乱事象をそれらの構成エネルギーおよびDOI情報に分解するのに使用することができる異方性で確定的な信号パターンを生み出す。したがって、高く一様な空間分解能が達成され(約1mmの結晶の9対1結合。改良された光共有のためにエッジおよびコーナアーチファクトがなく、コンプトン散乱光子に起因する空間ぼけ(spatial blur)が散乱回復によって低減される)、高い感度が達成され(厚さ20mmの検出器および結晶間コンプトン散乱回復)、コンパクトなシステムで(特にDOI補正を適用した後に)良好なエネルギーおよび時間分解能が達成される(DOI符号化は視差誤差を排除し、より小さなリング径を可能にする)。特徴のこれらの固有の組合せによって、小動物およびヒトの器官特定の機能および分子画像化用の、Prism-PETモジュールに基づく、費用効果が高くコンパクトなTOF-DOI-コンプトンPETスキャナを開発することができた。
【0064】
本発明のある種の態様を参照して、本発明を示し、説明したが、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、それらの態様に、形態および詳細のさまざまな変更を加えることができることを当業者は理解するであろう。以下に示される特許請求項の説明が、「するための手段」または「するためのステップ」の明白な使用なしで、手段プラス機能要素として解釈されることはない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13(a)】
図13(b)】
図13(c)】
図14(a)】
図14(b)】
図14(c)】
図14(d)】
図15(a)】
図15(b)】
図15(c)】
図15(d)】
図16(a)】
図16(b)】
図16(c)】
図16(d)】
図16(e)】
図16(f)】
図17
【国際調査報告】