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特表2022-519500真菌性骨-関節感染症を治療するためのトリテルペノイド系抗真菌薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】真菌性骨-関節感染症を治療するためのトリテルペノイド系抗真菌薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/58 20060101AFI20220316BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544218
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(85)【翻訳文提出日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 US2020015948
(87)【国際公開番号】W WO2020160316
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】62/798,743
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519363018
【氏名又は名称】サイネクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アングロ・ゴンザレス,デイビット・エー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA12
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZB35
(57)【要約】
エンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌性化合物は、それらが予想外に骨組織に浸透し且つ骨-関節真菌感染症に対して効力を有しているので、骨-関節真菌感染症を治療するために使用される。該エンフマフンギン誘導体トリテルペノイド類(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)は、(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬であり、骨-関節構造で発生する酵母菌又はカビの感染症(例えば、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎)の治療において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌性骨-関節感染症を治療することが必要な対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法であって、該対象者に、式(II):
【化1】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真菌性骨-関節感染症が、骨髄炎、脊椎椎間板炎又は関節炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真菌性骨-関節感染症が、カンジダ属種(Candida spp.)に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記真菌性骨-関節感染症が、アスペルギルス属種(Aspergillosis spp.)に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を4週間を超えて毎日投与する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を12週間以上毎日投与する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象者がヒトである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
真菌性骨-関節感染症を治療することが必要な対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法であって、該対象者に、式(IIa):
【化2】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を経口投与することを含み、ここで、前記真菌性骨-関節感染症が、骨髄炎、脊椎椎間板炎又は関節炎である、前記方法。
【請求項10】
前記化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を4週間を超えて毎日投与する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
750mgの式(IIa)で表される化合物をBIDで2日間投与し、及び、その後、750mgの式(IIa)で表される化合物をQDで毎日投与する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
750mgの式(IIa)で表される化合物をBIDで2日間投与し、及び、その後、750mgの式(IIa)で表される化合物をQDで毎日投与する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨の真菌感染症(これは、骨髄炎を包含する)及び関連する結合組織(例えば、骨膜、並びに、別の骨及び関節組織、例えば、限定するものではないが、骨髄、滑液、椎間板及び別の軟骨構造など)の真菌感染症を治療するためのエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌性化合物の使用に関する。これらの感染症は、本開示においては、集合的に、「骨-関節感染症」と称される。より詳細には、本発明は、骨-関節構造において生じる真菌感染症(例えば、酵母感染症又はカビ感染症)の治療における、並びに、該感染症を消散させるために長期抗真菌療法(4週間を超える)及び冒された組織への抗真菌剤の充分な浸透が必要な場合における、(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬であるエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)の使用に関する。(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬は、複数の真菌感染症、特に、カンジダ属種(Candida spp.)によって引き起こされる真菌感染症に対する最適な治療法として考えられるが、現在利用可能な(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬(エキノカンジン系)は、静脈内投与のみが可能であり、骨-関節構造への浸透が限定されている。本発明によれば、骨-関節構造への浸透が増強されていて、経口投与することが可能な(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬は、典型的には数ヶ月間の抗真菌治療が必要であり且つ現在利用可能な治療選択肢が最適ではない(これは、骨-関節構造への浸透性が限定されていること及び/又は(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬の経口製剤の可用性が欠如していることに起因する)真菌性骨-関節感染症(いくつか挙げると、例えば、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎)の治療において、利点を提供するであろう。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は、主要な医療問題であり、そして、最も一般的には、侵襲性又は全身性の真菌症(例えば、カンジダ症、侵襲性アスペルギルス症)、限局性真菌感染症(例えば、腹部、脳、肺などに限局する骨、胸膜蓄膿、膿瘍)及び粘膜皮膚感染症(例えば、口腔、食道及び外陰膣のカンジダ症)として現れる。感染の種類及び範囲は、真菌病原体の病原性因子、宿主の防御及び関与する解剖学的領域に依存する。
【0003】
重度の全身性又は侵襲性の真菌感染症は、免疫力が低下している患者において、例えば、悪性腫瘍を治療するために化学療法を受けている患者、又は、慢性炎症状態を治療するために免疫調節剤を投与されている患者、又は、後天的若しくは遺伝的障害による免疫不全を患っている患者などにおいて、より一般的である。現在利用可能な抗真菌療法にもかかわらず、全身性真菌感染症は、その病原体及びその患者の基礎症状に応じて、死亡率は最大で50%である。限局性真菌感染症は、典型的には、真菌(例えば、酵母)がそれらが通常コロニーを形成する局所領域から通常は無菌の領域に播種されることによって(例えば、腸の穿孔処理又は手術の後の腹腔内膿瘍)、又は、真菌が血液若しくはリンパ系に侵入して特定の臓器(例えば、骨-関節構造、肺、肝臓、脾臓)に到達し、深在性感染症を引き起こすことによって、発症する。
【0004】
真菌性骨-関節感染症は、主に免疫無防備状態の宿主における、血行性播種に続いて発症し得るか、又は、局所播種を伴う皮膚感染に続いて発症し得る。それらは比較的まれであったが、侵襲性真菌症に罹患しやすくなる因子(例えば、中心静脈カテーテル、広域抗生物質、免疫抑制及び複雑な手術の使用)が普及するのに伴い、真菌性骨-関節感染症の発生率が増大している。確定診断は、骨又は滑液の培養又は生検に依存する。先進国における骨―関節感染症の最も一般的な原因は、カンジダ属種(Candida spp.)であり、続いて、アスペルギルス属種(Aspergillus spp.)であり、どちらも遍在する真菌である。骨-関節感染症を引き起こすと報告されている別の真菌は、限られた地理的領域のみで(ヒストプラズマ属種(Histoplasmosis spp.)、ブラストミセス属種(Blastomyces spp.)、コクシジオイデス属種(Coccidioides spp.)、スポロトリックス属種(Sporothrix spp.))、又は、エイズなどの併存疾患の発生率が高い地域のみで(例えば、クリプトコッカス属種(Cryptococcus spp.))、そのような感染を引き起こし得る;しかしながら、他の多くの酵母菌、カビ菌及び二形性真菌は、骨-関節構造に感染する能力を有している。殆ど全ての骨-関節感染症は、4週間を超える治療を必要とする。
【0005】
骨髄炎に罹患している殆ど患者は、亜急性から慢性までの経過を示す。2つ以上の骨の関与が一般的であり、従って、感染の単一の病巣が特定された場合、他の関与部位を探すべきである。軸骨格(特に、脊椎)は、成人が関与する最も一般的な部位である;子供では、長骨がより一般的に関与する。これらの感染症は、診断及び根絶が困難であり得る。現在の治療ガイドラインは、歴史的に、アムホテリシンBデオキシコール酸(静脈内でのみ利用可能)が最も一般的に使用されている薬剤であることを示している。(Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Pappas PG, Kauffman CA, Andes DR, Clancy CJ, Marr KA, Ostrosky-Zeichner L, Reboli AC, Schuster MG, Vazquez JA, Walsh TJ, Zaoutis TE, Sobel JD. Clin Infect Dis. 2016 Feb 15;62(4):e1-50. doi: 10.1093/cid/civ933. Epub 2015 Dec 16.) 最近の文献では、アムホテリシンBよりもアゾール系又はエキノカンジンを使用することが支持されている。フルコナゾールは、感染しやすい分離株を有する患者の初期治療として成功裏に使用されてきたが、治療の失敗が報告されている。フルコナゾールは、アスペルギルス属種(Aspergillus spp.)に対して活性を示さず、アゾール耐性カンジダ菌株の発生率の増加は、長期間投与することが可能で、原因となる病原体をカバーするのに充分な抗真菌活性スペクトルを有する治療法を選択するという難題を医師にもたらす。抗真菌薬を少なくとも6ヶ月間投与した場合、治癒率が著しく高くなるように思われる。外科的デブリードマンは、多くの場合、抗真菌薬療法と組み合わせて実施される。
【0006】
より一般的には、アゾール系、ポリエン系及びエキノカンジン系など、これまでに使用可能な臨床的に関連する全てのクラスの抗真菌薬は、罹患した組織への分布が限られていることに起因して(エキノカンジン系)、耐性の出現に起因して(アゾール系)、経口用製剤の可用性が欠如していることに起因して(全身性のポリエン系及びエキノカンジン系)、重大な毒性又は薬物間相互作用の可能性に起因して(アゾール系及びポリエン系)、骨-関節真菌感染症の治療に限界を示している。当技術分野では、特に、経口で利用可能な治療選択肢が限られている骨-関節構造で発生する真菌感染症の治療において、ヒトに対する抗真菌療法が必要とされている。
【0007】
抗真菌薬が感染症を効果的に治療するためには、罹患した組織内への有効な濃度を達成しなければならない。しかしながら、骨内への薬物の浸透は、従来の殆どの抗真菌薬では限定されている。骨中の18F-フルコナゾールの濃度は、ヒトでは、血漿中濃度の約33%(及び、ウサギでは100%)であり、単回投与後の新生児ラットの骨中におけるアニデュラファンギン(エキノカンジン)濃度は、血漿中の濃度よりも低く、骨/血漿濃度比は、0.21である。別のエキノカンジン(カスポファンギン及びミカファンギン)に関するヒトの骨浸透データは限られている;しかしながら、ラットにおけるアニデュラファンギンの骨格筋濃度は、血漿中の濃度に匹敵し、それに対して、カスポファンギンの場合、マウスにおける骨格筋濃度は、血漿中濃度の50%未満である。これらの観察結果は、3種類のエキノカンジンについて報告された0.15~0.8リットル/kgという低い分布体積と一致しており、これらのことは、血漿中よりも高い組織濃度は期待されないことを示している。(Tissue penetration of antifungal agents. Felton T, Troke PF, Hope WW. Clin Microbiol Rev. 2014 Jan;27(1):68-88. doi: 10.1128/CMR.00046-13. Review.)。
【0008】
バイオフィルムを形成する病原体の能力は、骨-関節感染症に関連している。この関連性は、これまで細菌感染症に関してよりよく特徴付けられてきたが、基本的な科学的原理は真菌感染症にも同様に当てはまり得る。慢性型の骨-関節感染症の発症における重要な要因は、病原体がバイオフィルムを形成する能力であり得る。バイオフィルムは、微生物に由来する固着性の群生であり、この群生は、基層に、界面に又は互いに結合している細胞によって代表され、細胞外高分子物質のマトリックスの中に埋め込まれており、そして、増殖、遺伝子発現及びタンパク質産生に関して改変された表現型を示す。バイオフィルムの形成は、免疫回避及び抗菌剤への耐性を可能とし、その結果、そのような感染症を首尾よく治療する唯一の方法は、病変組織を除去することである。形成されたバイオフィルムを標的とすることが可能な治療法は、この現象に影響を及ぼさない治療法と比較して、骨-関節感染症の治療において利点を提供し得るであろう。
【0009】
エンフマフンギンは、セイヨウネズ(Juniperus communis)の生きている葉に付いているホルモネマ属種(Hormonema spp.)の発酵において生成されるヘミアセタールトリテルペン配糖体である(米国特許第5,756,472号; Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343 (2000); Schwartz et al., JACS, 122: 4882-4886 (2000); Schwartz, R.E., Expert Opinion on Therapeutic Patents, 11(11): 1761-1772 (2001))。エンフマフンギンは、インビトロの抗真菌活性を有する何種類かのトリテルペン配糖体のうち1つである。エンフマフンギン及び別の抗真菌トリテルペノイド配糖体の抗真菌作用機序は、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素に対するその特異作的用による、真菌細胞壁グルカン合成の阻害であると確認された(Onishi et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 44: 368?377 (2000); Pelaez et al., (2000))。1,3-β-D-グルカン合成酵素は、多くの種類の病原性真菌の中に存在し、従って、広範な抗真菌スペクトルをもたらすので、抗真菌薬作用にとって依然として魅力的な標的である。加えて、哺乳類には1,3-β-D-グルカン合成酵素に相当するものが存在しないので、本明細書中に記載されているエンフマフンギン誘導体は、その機序に基づく毒性を殆ど有さないか又は全く有さない。本発明に従って使用されるエンフマフンギンのトリテルペノイド化合物誘導体は、アゾール系又は別のグルカン合成酵素阻害薬(例えば、エキノカンジン系などのリポペプチド類)に対して耐性を示す分離株を包含するカンジダ属種(Candida spp.)の真菌分離株に対して活性を示し、このことは、エンフマフンギン誘導体の生物学的及び分子的標的が他のグルカン合成酵素阻害薬の標的とは異なっていることを示している。
【0010】
さまざまなエンフマフンギン誘導体が開示されており、例えば、国際特許公開第2007/126900号及び国際特許公開第2007/127012号に開示されている。
【0011】
これらのエンフマフンギン誘導体の特定の代表物は、経口投与することが可能であり、そして、骨-関節感染症に一般的に関与する真菌種に対して抗真菌活性を示した。しかしながら、同時に、以前の報告では、(1,3)-β-D-グルカン合成の別の阻害薬の骨への浸透が限定されていることが報告されている。
【0012】
骨-関節真菌感染症を治療するための、本明細書に記載されているエンフマフンギン誘導体の代表的な化合物であるSCY-078の抗真菌活性及び能力について、いくつかの実現可能性研究で評価した。
【0013】
実現可能性評価の最初のステップとして、SCY-078の組織分布を動物モデルで評価した。(Wring S, Borroto-Esoda K, Solon E, Angulo D, SCY-078, a Novel Fungicidal Agent, Demonstrates Distribution to Tissues Associated with Fungal Infections during Mass Balance Studies with Intravenous and Oral [14C]SCY-078 in Albino and Pigmented Rats, Antimicrob Agents Chemother. 2019 Jan 29; 63(2). pii: e02119-18. doi: 10.1128/AAC.02119-18. Print 2019 Feb.)。雄アルビノWistar Han(WH; Charles River, Raleigh, NC)(n=38)又は雄(n=18)及び雌(n=3)の色素性Long-Evans(LE; Hilltop Lab Animals, Inc., Scottdale, PA)ラットに、[14C]SCY-078を、経口投与によって投与した(15mg/kg、約150μCi/kg、0.5%メチルセルロース水溶液中)又は1時間の注入(10mL/kg/h)としてi.v.投与した(5mg/kg、約108μCi/kg、生理食塩水中のカプチゾール:SCY-078のモル比7.5:1)。WHラットを、i.v.投与後及び経口投与後における物質収支及び薬物動態学的(PK)測定に使用し、並びに、WHラットとLEラットの両方を、定量的全身オートラジオグラフィー(QWBA)測定に使用した。用量レベルは、カンジダ属種(Candida spp.)感染症に対して臨床的に適切な11.2μg・h/mLの標的曝露を反映するように選択した。投与製剤の濃度、均一性、放射性純度及び安定性は、投与前に許容可能であることを確認した。全ての主要な組織、臓器及び体液が示されているQWBA全身切片(Leica CM3600クライオミクロトームによる厚さ約40μm; Nussloch, Germany)の場合、切片を、校正標準と一緒に、リンイメージング(Fuji Biomedical, Stamford, CT)のために露光させた。動物をイソフルラン麻酔で深く麻酔し、そして、血液サンプルを採取した後、ヘキサン/固体二酸化炭素浴内で少なくとも15分間凍結させることにより安楽死させた。イメージングプレートを、GE Healthcare Typhoon FLA 9500画像収集システム(GE/Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)でスキャンした。MCID画像解析ソフトウェア(v.7.0; Interfocus Imaging Ltd., Linton, Cambridge, UK)を使用する画像デンシトメトリーによって定量化を実施し、標準曲線は、統合された応答(分子動力学カウント[MDC]/mm2)及び14C校正標準の公称濃度から作成した。放射能の濃度は、[14C]SCY-078μg当量/g組織として表した。定量下限は、SCY-078のi.v.投与及び経口投与に対して、それぞれ、組織1g当たり、0.024μg当量及び0.049μg当量であった。
【0014】
雄の色素性Long-Evansラットに[14C]-SCY-078を15mg/kg経口投与した後の総放射能の組織対血液AUC比が以下に示されている:
【表1】
【0015】
骨と骨髄で観察された曝露は、この研究において、血漿中で測定された曝露を上回った。
【0016】
最近ヨーロッパの大病院に収容された患者に真菌血症を引き起こす178種のカンジダ分離株及び非カンジダ分離株の浮遊性形態及び固着性形態(バイオフィルム)に対するSCY-078の抗真菌活性は、以前に評価された。(Marcos-Zambrano LJ, Gomez-Perosanz M, Escribano P, Bouza E, Guinea J, The novel oral glucan synthase inhibitor SCY-078 shows in vitro activity against sessile and planktonic Candida spp., J Antimicrob Chemother. 2017 Jul 1;72(7):1969-1976. doi: 10.1093/jac/dkx010.) 該分離株の浮遊性形態に対するSCY-078のインビトロ活性について、EUCAST E Def7.3及びCLSI M27-A3を使用して評価した。抗バイオフィルム活性は、XTT還元アッセイを使用して評価した。SCY-078は、カンジダ分離株及び非カンジダ分離株に対して強力なインビトロ活性を示した。SCY-078は、バイオフィルムに対して活性を示した。これらの観察結果は、抗真菌処理後の走査型電子顕微鏡によるバイオフィルム構造を評価することによって確認された。この研究は、固着性及び浮遊性の両方の形態における侵襲性カンジダ分離株に対するSCY-078の高いインビトロ活性を示した。特に、比較すると、アゾール系(骨-関節真菌感染症の治療のために示される唯一の経口的に利用可能な抗真菌薬)は、一般に、抗バイオフィルム活性を有さないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,756,472号
【特許文献2】国際特許公開第2007/126900号
【特許文献3】国際特許公開第2007/127012号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Pappas PG, Kauffman CA, Andes DR, Clancy CJ, Marr KA, Ostrosky-Zeichner L, Reboli AC, Schuster MG, Vazquez JA, Walsh TJ, Zaoutis TE, Sobel JD. Clin Infect Dis. 2016 Feb 15;62(4):e1-50. doi: 10.1093/cid/civ933. Epub 2015 Dec 16.
【非特許文献2】Tissue penetration of antifungal agents. Felton T, Troke PF, Hope WW. Clin Microbiol Rev. 2014 Jan;27(1):68-88. doi: 10.1128/CMR.00046-13. Review
【非特許文献3】Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343 (2000);
【非特許文献4】Schwartz et al., JACS, 122: 4882-4886 (2000)
【非特許文献5】Schwartz, R.E., Expert Opinion on Therapeutic Patents, 11(11): 1761-1772 (2001)
【非特許文献6】Onishi et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 44: 368?377 (2000); Pelaez et al., (2000)
【非特許文献7】Wring S, Borroto-Esoda K, Solon E, Angulo D, SCY-078, a Novel Fungicidal Agent, Demonstrates Distribution to Tissues Associated with Fungal Infections during Mass Balance Studies with Intravenous and Oral [14C]SCY-078 in Albino and Pigmented Rats, Antimicrob Agents Chemother. 2019 Jan 29; 63(2). pii: e02119-18. doi: 10.1128/AAC.02119-18. Print 2019 Feb.
【非特許文献8】Marcos-Zambrano LJ, Gomez-Perosanz M, Escribano P, Bouza E, Guinea J, The novel oral glucan synthase inhibitor SCY-078 shows in vitro activity against sessile and planktonic Candida spp., J Antimicrob Chemother. 2017 Jul 1;72(7):1969-1976. doi: 10.1093/jac/dkx010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
エンフマフンギンから誘導されたトリテルペノイド化合物SCY-078(本明細書に記載されているエンフマフンギン誘導体の代表的な化合物)は、骨-関節真菌感染症において高レベルの臨床効果を示した。
【0020】
該化合物は、別の(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬と比較した場合、予想外に、骨-関節構造への増強された浸透を示した。SCY-078は、経口投与することが可能であり、このことは、通常数ヶ月間の抗真菌治療を必要とする真菌性骨-関節感染症(例えば、いくつか挙げれば、骨髄炎、脊椎椎間板炎、関節炎など)の治療において有利点をもたらす。
【0021】
本発明は、骨-関節構造で発生する真菌感染症を治療するためのエンフマフンギン誘導体の使用に関する。エンフマフンギン誘導体及びその薬学的に許容される塩又は水和物は、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素の阻害において有用であり、そして、当技術分野において強力な抗真菌活性が必要とされる感染状況である骨-関節構造で発生する真菌感染症の治療において特に有用である。
【0022】
本明細書中に記載されているエンフマフンギン誘導体が、(a)予想外に骨内への高い組織浸透を達成したので、(b)治療が困難な骨-関節真菌感染症において驚くべき臨床効果を示したので、(c)経口投与することができ、それによって、数ヶ月の治療を必要とすることが多いこれらの感染症の最適な治療を可能にするので、及び、(d)これらの慢性感染症を首尾よく治療する能力を高め得るバイオフィルムに対する活性を示したので、本発明は、上記で記載したような当技術分野におけるニーズに焦点を当てる。
【0023】
本発明の効用としては、限定するものではないが、上記で概説した理由のために、骨-関節感染症の治療において成功した結果をより容易に達成する能力などがある。
【0024】
本発明は、真菌性骨-関節感染症を治療するための対象者における、式(I):
【化1】
【0025】
〔式中、
Xは、O又はH、Hであり;
は、C(O)NR、又は、1個若しくは2個の窒素原子を含んでいる6員環ヘテロアリール基(ここで、該ヘテロアリール基は、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり;
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素又はC-Cアルキルであり;
は、C-Cアルキル、C-Cシクロアルキル又はC-Cシクロアルキル-アルキルであり;
は、メチル又はエチルであり;及び、
とRは、一緒に、1個の酸素原子を含んでいる6員飽和環を形成してもよい〕
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。そのような感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。
【0026】
本発明は、さらに、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することによる。さらに、本発明は、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療するための薬物の調製における式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、骨の真菌感染症(これは、骨髄炎を包含する)及び関連する結合組織(例えば、骨膜、並びに、別の骨及び関節組織、例えば、限定するものではないが、骨髄、滑液、椎間板及び別の軟骨構造など)の真菌感染症を治療するためのエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌性化合物の使用に関する。これらの感染症は、本開示においては、集合的に、「骨-関節感染症」と称される。より詳細には、本発明は、骨-関節構造において生じる真菌感染症の治療における、並びに、該感染症を消散させるために長期抗真菌療法(4週間を超える)及び冒された組織への抗真菌薬の充分な浸透が必要な場合における、(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬であるエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)の使用に関する。(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬は、複数の真菌感染症、特に、カンジダ属種(Candida spp.)によって引き起こされる真菌感染症に対する最適な治療法として考えられるが、現在利用可能な(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬(エキノカンジン系)は、静脈内投与のみが可能であり、骨-関節構造への浸透が限定されている。本発明によれば、骨-関節構造への浸透が増強されていて、経口投与することが可能な(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬は、典型的には数ヶ月間の抗真菌治療が必要であり且つ現在利用可能な治療選択肢が最適ではない(これは、骨-関節構造への浸透性が限定されていること及び/又は(1,3)-β-D-グルカン合成酵素阻害薬の経口製剤の可用性が欠如していることに起因する)真菌性骨-関節感染症(いくつか挙げると、例えば、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎)の治療において、利点を提供する。
【0028】
本発明は、真菌性骨-関節感染症を治療するための対象者における、式(I):
【化2】
【0029】
〔式中、
Xは、O又はH、Hであり;
は、C(O)NR、又は、1個若しくは2個の窒素原子を含んでいる6員環ヘテロアリール基(ここで、該ヘテロアリール基は、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり;
、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素又はC-Cアルキルであり;
は、C-Cアルキル、C-Cシクロアルキル又はC-Cシクロアルキル-アルキルであり;
は、メチル又はエチルであり;及び、
とRは、一緒に、1個の酸素原子を含んでいる6員飽和環を形成してもよい〕
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、骨-関節構造で発生して、長期抗真菌療法(4週間を超える)を必要とする、酵母菌又はカビの感染症であり得る。本発明の方法によって治療することが可能な感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。
【0030】
本発明は、さらに、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することによる。さらに、本発明は、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療するための薬物の調製における式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用も提供する。
【0031】
本発明は、さらに、真菌性骨-関節感染症を治療するための対象者における、式(Ia):
【化3】
【0032】
〔式中、該置換基は、式(I)において与えられているとおりである〕
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、骨-関節構造で発生して、長期抗真菌療法(4週間を超える)を必要とする、酵母菌又はカビの感染症であり得る。本発明の方法によって治療することが可能な感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。
【0033】
本発明は、さらに、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、式(Ia)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することによる。さらに、本発明は、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療するための薬物の調製における式(Ia)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用も提供する。
【0034】
実施形態1では: Xは、H、Hであり、及び、その他の置換基は式(I)において与えられているとおりである。
【0035】
実施形態2では: Rは、ピリジル又はピリミジニル(ここで、該ピリジル又はピリミジニルは、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0036】
実施形態3では: Rは、4-ピリジルであり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0037】
実施形態4では: Rは、C(O)NH又はC(O)NH(C-Cアルキル)であり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0038】
実施形態5では: Rは、C-Cアルキルであり、及び、Rは、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3若しくは実施形態4又は式(I)において与えられているとおりである。
【0039】
実施形態6では: Rは、t-ブチルであり、Rは、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3若しくは実施形態4又は式(I)において与えられているとおりである。
【0040】
実施形態7では: R及びRは、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3、実施形態4、実施形態5若しくは実施形態6又は式(I)において与えられているとおりである。
【0041】
実施形態1’では: Xは、H、Hであり、及び、その他の置換基は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0042】
実施形態2’では: Rは、ピリジル又はピリミジニル(ここで、該ピリジル又はピリミジニルは、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0043】
実施形態3’では: Rは、4-ピリジルであり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0044】
実施形態4’では: Rは、C(O)NH又はC(O)NH(C-Cアルキル)であり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0045】
実施形態5’では: Rは、C-Cアルキルであり、及び、Rは、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’若しくは実施形態4’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0046】
実施形態6’では: Rは、t-ブチルであり、Rは、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’若しくは実施形態4’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0047】
実施形態7’では: R及びRは、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’、実施形態4’、実施形態5’若しくは実施形態6’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明は、真菌性骨-関節感染症を治療するための対象者における、式(II):
【化4】
【0049】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、骨-関節構造で発生して、長期抗真菌療法(4週間を超える)を必要とする、酵母菌又はカビの感染症であり得る。本発明の方法によって治療することが可能な感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。該化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、経口投与することができる。該化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、4週間を超えて毎日投与することができるか、又は、12週間以上毎日投与することができる。
【0050】
本発明は、さらに、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することによる。さらに、本発明は、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療するための薬物の調製における式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用も提供する。
【0051】
好ましい別の実施形態では、本発明は、真菌性骨-関節感染症を治療するための対象者における、式(IIa):
【化5】
【0052】
で表される化合物(本明細書中では、SCY-078又はイブレキサフンゲルプ(ibrexafungerp)と称される)(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。真菌感染症は、骨-関節構造で発生して、長期抗真菌療法(4週間を超える)を必要とする、酵母菌又はカビの感染症であり得る。本発明の方法によって治療することが可能な感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。該化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、4週間を超えて毎日投与することができるか、又は、12週間以上毎日投与することができる。適切な投薬スケジュールは、対象者に、750mgの式(IIa)で表される化合物をBIDで2日間投与すること、及び、その後、750mgの式(IIa)で表される化合物をQDで毎日投与することを包含する。
【0053】
本発明は、さらに、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を投与することによる。さらに、本発明は、対象者における真菌性骨-関節感染症を治療するための薬物の調製における式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用も提供する。
【0054】
好ましい実施形態では、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物のリン酸塩を、本明細書中に記載されているように使用又は投与する。
【0055】
好ましい実施形態では、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物のクエン酸塩を、本明細書中に記載されているように使用又は投与する。
【0056】
本発明は、さらに、対象者において、真菌性骨-関節感染症を治療するための、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物及び薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルを含んでいる医薬組成物の使用を提供する。真菌感染症は、骨-関節構造で発生して、長期抗真菌療法(4週間を超える)を必要とする、酵母菌又はカビの感染症であり得る。
【0057】
本発明の方法によって治療可能な感染症としては、限定するものではないが、骨髄炎、脊椎椎間板炎及び関節炎などがある。
【0058】
上記で記載した実施形態における化合物の説明において、示されている置換は、その置換基が当該定義と調和する安定な化合物をもたらす範囲内においてのみ包含される。
【0059】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、以下の1種以上を包含する酵母菌及び別の真菌に対して抗菌(例えば、抗真菌)活性を示す:アクレモニウム属(Acremonium)、アブシジア属(Absidia)(例えば、アブシジア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera))、アルテルナリア属(Alternaria)、アスペルギルス属(Aspergillus)(例えば、アスペルギルス・クラバツス(Aspergillus clavatus)、アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ニズランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、及び、アスペルギルス・ベルシコロル(Aspergillus versicolor))、ビポラリス属(Bipolaris)、ブラストミセス属(Blastomyces)(例えば、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis))、ブラストシゾミセス属(Blastoschizomyces)(例えば、ブラストシゾミセス・カピタツス(Blastoschizomyces capitatus))、カンジダ属(Candida)(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・アウリス(Candida auris)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・グイリエルモンジイ(Candida guilliermondii)、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・シュードトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・ステラトイデア(Candida stellatoidea)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ファマタ(Candida famata)、及び、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa))、クラドスポリウム属(Cladosporium)(例えば、クラドスポリウム・カリオニイ(Cladosporium carrionii)、及び、クラドスポリウム・トリクロイデス(Cladosporium trichloides))、コクシジオイデス属(Coccidioides)(例えば、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis))、クリプトコッカス属(Cryptococcus)(例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans))、クルブラリア属(Curvularia)、クニングハメラ属(Cunninghamella)(例えば、クニングハメラ・エレガンス(Cunninghamella elegans))、皮膚糸状菌(Dermatophyte)、エキソフィアラ属(Exophiala)(例えば、エキソフィアラ・デルマチチジス(Exophiala dermatitidis)、及び、エキソフィアラ・スピニフェラ(Exophiala spinifera))、エピデルモフィトン属(Epidermophyton)(例えば、エピデルモフィトン・フロコスム(Epidermophyton floccosum))、フォンセカエア属(Fonsecaea)(例えば、フォンセカエア・ペドロソイ(Fonsecaea pedrosoi))、フザリウム属(Fusarium)(例えば、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani))、ゲオトリクム属(Geotrichum)(例えば、ゲオトリクム・カンジズム(Geotrichum candidum)、及び、ゲオトリクム・クラバツム(Geotrichum clavatum))、ヒストプラズマ属(Histoplasma)(例えば、ヒストプラズマ・カプスラツム・var.・カプスラツム(Histoplasma capsulatum var. capsulatum))、マラセジア属(Malassezia)(例えば、マラセジア・フルフル(Malassezia furfur))、ミクロスポルム属(Microsporum)(例えば、ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)、及び、ミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum))、ムコル属(Mucor)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)(例えば、パラコクシジオイデス・ブラシリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis))、ペニシリウム属(Penicillium)(例えば、ペニシリウム・マルネフェイ(Penicillium marneffei))、フィアロフォラ属(Phialophora)、ピチロスポルム・オバレ(Pityrosporum ovale)、ニューモシスチス属(Pneumocystis)(例えば、ニューモシスチス・カリニイ(Pneumocystis carinii))、シュードアレスケリア属(Pseudallescheria)(例えば、シュードアレスケリア・ボイジイ(Pseudallescheria boydii))、リゾプス属(Rhizopus)(例えば、リゾプス・ミクロスポルス・var.・リゾポジホルミス(Rhizopus microsporus var. rhizopodiformis)、及び、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae))、サッカロミセス属(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae))、セドスポリウム属(Scedosporium)(例えば、セドスポリウム・アピオスペルム(Scedosporium apiosperum))、スコプラリオプシス属(Scopulariopsis)、スポロトリキス属(Sporothrix)(例えば、スポロトリキス・シェンキイ(Sporothrix schenckii))、トリコデルマ属(Trichoderma)、トリコフィトン属(Trichophyton)(例えば、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、及び、トリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum))、及び、トリコスポロン属(Trichosporon)(例えば、トリコスポロン・アサヒイ(Trichosporon asahii)、トリコスポロン・ベイゲリイ(Trichosporon beigelii)、及び、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum))。該化合物は、カンジダ属各種(Candida species)及びアスペルギルス属各種(Aspergillus species)に対して特に有効である。
【0060】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、米国特許第8,188,085号(この特許の内容は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示されている合成方法に従って製造することができる。
【0061】
本明細書中で使用されている場合、用語「アルキル」は、指定されている範囲内の数の炭素原子を有する任意の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示している。従って、例えば、「C1-6アルキル」(又は、「C-Cアルキル」)は、ヘキシルアルキル及びペンチルアルキルの全ての異性体、並びに、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。別の例として、「C1-4アルキル」は、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。
【0062】
用語「シクロアルキル」は、指定されている範囲内の数の炭素原子を有するアルカンの任意の環式環を示している。従って、例えば、「C3-4シクロアルキル」(又は、「C-Cシクロアルキル」)は、シクロプロピル及びシクロブチルを表す。
【0063】
用語「シクロアルキル-アルキル」(又は、同義的に、「アルキル-シクロアルキル」)は、本明細書中で使用されている場合、上記で記載したアルキル部分を含んでおり且つ上記で記載したシクロアルキル部分も含んでいる系を示している。「シクロアルキル-アルキル」(又は、「アルキル-シクロアルキル」)への結合は、シクロアルキル部分又はアルキル部分のいずれかを介することができる。「シクロアルキル-アルキル」系において指定されている炭素原子の数は、アルキル部分及びシクロアルキル部分の両方における炭素原子の総数を示している。C-Cシクロアルキル-アルキルの例としては、限定するものではないが、メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、エチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル及びシクロブチルメチルなどがある。
【0064】
用語「ハロゲン」(又は、「ハロ」)は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を表す(代替え的に、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードとも称される)。
【0065】
本明細書中で使用されている場合、用語「又は」は、適切な場合には組合せてもよい、代替えを意味する。
【0066】
別途明示されていない限り、本明細書中に記載されている全ての範囲は包括的である。例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されたヘテロ環式環は、該環が、1個、2個、3個又は4個のヘテロ原子を含有し得ることを意味する。本明細書中に記載されている任意の範囲が、その範囲内に、その範囲内の全ての下位範囲を包含することも理解されるべきである。従って、例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されているヘテロ環式環は、その態様として、2~4個のヘテロ原子、3個又は4個のヘテロ原子、1~3個のヘテロ原子、2個又は3個のヘテロ原子、1個又は2個のヘテロ原子、1個のヘテロ原子、2個のヘテロ原子などを含有するヘテロ環式環を包含することが意図されている。
【0067】
本明細書中において定義されているさまざまなシクロアルキル並びにヘテロ環式環/ヘテロアリール環及びヘテロ環式環系/ヘテロアリール環系は、いずれも、結果として安定な化合物が得られるという条件の下で、当該化合物の残部に任意の環原子(即ち、任意の炭素原子又は任意のヘテロ原子)で結合することができる。適切な5員又は6員のヘテロ芳香族環としては、限定するものではないが、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルなどがある。
【0068】
「安定な」化合物は、調製及び単離することが可能で、且つ、その構造及び特性が本明細書中に記載されている目的(例えば、対象者への治療的又は予防的な投与)のために該化合物を使用することを可能にするのに充分な時間にわたり本質的に変化しないままでいるか又は変化しないままでいるようにさせることが可能な化合物である。ある化合物について言及されている場合、その言及は、その化合物の安定な錯体(例えば、安定な水和物)も包含する。
【0069】
置換基及び置換基パターンの選択の結果として、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の特定のものは、不斉中心を有することができ、そして、立体異性体の混合物として、又は、個々のジアステレオマー若しくはエナンチオマーとして、存在することができる。別途示されていない限り、これらの化合物の全ての異性体形態(並びに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)は、単離されたものか又は混合物の状態であるかにかかわらず、本発明の範囲内にある。また、示されている該化合物の互変異性体形態(並びに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)も、本発明の範囲内に包含される。
【0070】
任意の構成要素の中に、又は、式(I)、式(Ia)、式(II)若しくは式(IIa)の中に、任意の可変部分が2回以上出現する場合、各出現におけるその定義は、他の全ての出現におけるその定義から独立している。また、置換基及び/又は可変部分の組合せは、そのような組合せが結果として安定な化合物を生じる場合にのみ許容される。
【0071】
用語「置換されている」は、そのような一置換及び多置換(同一部位における複数の置換を包含する)が化学的に可能である範囲内において、指定された置換基による一置換及び多置換を包含する。別途明示されていない限り、指定された置換基による置換は、環(例えば、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール又はヘテロシクリル)の中の任意の原子上で可能であるが、但し、そのような環置換が化学的に可能であり且つ結果として安定な化合物を生じることを条件とする。
【0072】
波線で終わっている結合は、本明細書中では、置換基又は部分構造の結合点を示すために使用されている。この使用法は、以下の例によって例示される:
【化6】
【0073】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物は、さらに、抗真菌薬化合物用のスクリーニングアッセイの調製及び実施においても有用である。例えば、該化合物は、さらなる抗真菌薬化合物を確認するための優れたスクリーニング手段である突然変異体を単離するのに有用である。
【0074】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物は、適切な場合には、「薬学的に許容される塩」又は水和物の形態で投与することができる。しかしながら、別の塩は、該化合物又はそれらの薬学的に許容される塩の調製において有用であり得る。例えば、該化合物が塩基性アミン基を含んでいる場合、それらは、好都合には、トリフルオロ酢酸塩として単離することができる(例えば、HPLC精製により)。そのトリフルオロ酢酸塩を別の塩(これは、薬学的に許容される塩を包含する)に変換することは、当技術分野において既知の多くの標準的な方法で達成することができる。例えば、適切なイオン交換樹脂を使用して、所望の塩を生成させることができる。あるいは、トリフルオロ酢酸塩を親化合物遊離アミンに変換することは、当技術分野において既知の標準的な法(例えば、NaHCOなどの適切な無機塩基で中和すること)によって達成することができる。次いで、その遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることにより、別の所望のアミン塩を慣習的な方法で調製することができる。代表的な薬学的に許容される第四級アンモニウム塩としては、以下のものを挙げることができる:塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、ヒプル酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、グルセプト酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩(glucoronate)、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、オレイン酸塩、ラクトビオ酸塩、ラウリル硫酸塩、ベシル酸塩、カプリル酸塩、イセチオン酸塩、ゲンチジン酸塩、マロン酸塩、ナプシル酸塩、エジシル酸塩、パモ酸塩、キシナホ酸塩、ナパジシル酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ケイ皮酸塩、マンデル酸塩、ウンデシレン酸塩、及び、カンシル酸塩。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の多くは、酸性のカルボン酸部分を有しており、この場合、その適切な薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩);及び、適切な有機配位子を用いて形成された塩(例えば、第四級アンモニウム塩)を包含し得る。
【0075】
本発明は、その範囲内に、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表されるプロドラッグの使用を包含する。一般に、そのようなプロドラッグは、該化合物の機能的誘導体であり、それは、必要とされる化合物にインビボで容易に変換される。従って、本発明の治療方法において、用語「投与すること」は、記載されているさまざまな状態を、特定的に開示されている化合物で治療すること、又は、患者への投与後に特定されている化合物にインビボで変換する化合物で治療することを、包含する。適切なプロドラッグ誘導体の選択及び調製に関する慣習的な方法は、例えば、「“Design of Prodrugs,” ed. H. Bundgaard, Elsevier, 1985」(これは、参照によりその全体を本明細書中に組み入れる)に記載されている。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の代謝産物は、該化合物を生物学的環境中に導入したときに産生される活性化学種を包含する。
【0076】
用語「投与」及びその変形(例えば、化合物を「投与すること」)は、治療を必要とする対象者に特定の化合物(場合により、その塩又は水和物の形態にある)又はその化合物の特定のプロドラッグを提供することを意味する。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩又はその水和物若しくはプロドラッグを第2の活性薬(例えば、真菌/細菌感染症を治療するのに有用な別の抗真菌/抗細菌薬)と組合されて供与する場合、「投与」及びその変形は、それぞれ、該化合物(又は、その塩、水和物若しくはプロドラッグ)と該別の活性薬を同時供与すること及び順次に供与することを包含するものと理解される。
【0077】
本明細書中で使用されている場合、用語「組成物」は、特定された成分を含んでいる生成物、及び、特定された成分を合わせることで直接的又は間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図されている。
【0078】
「薬学的に許容される」は、医薬組成物の成分が、互いに適合性を示さなければならないこと及びそのレシピエントに対して有害であってはならないことを意味する。
【0079】
用語「対象者(subject)」(代替え的に、本明細書中では、「患者(patient)」とも称される)は、本明細書中で使用されている場合、治療、観察又は実験の対象となった、動物(好ましくは、哺乳動物、最も好ましくは、ヒト)を表す。
【0080】
用語「有効量」は、本明細書中で使用されている場合、研究者、獣医師、医師又は別の臨床家によって求められている組織、系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的な応答を誘発する活性成分又は医薬の量を意味する。一実施形態では、「有効量」は、治療対象の疾患又は状態の症状を緩和する「治療上有効な量」であり得る。別の実施形態では、「有効量」は、予防対象の疾患若しくは状態の症状を予防するため又は発症の可能性を低減させるための「予防上有効な量」であり得る。この用語は、さらにまた、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素を阻害し、それによって、求められている応答を誘発するのに充分な該エンフマフンギン誘導体の阻害有効量も意味し得る。
【0081】
「治療する」、「治療すること」、「治療」及びそれらの変形への言及は、一般に、投与された後で真菌感染症に関連する1以上の徴候若しくは症状の解消若しくは改善をもたらす治療、又は、感染症の原因となる真菌の根絶をもたらす治療、又は、これらの結果の任意の組み合わせをもたらす治療を意味する。
【0082】
真菌感染症を治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、医薬品と組み合わせて使用するのに利用可能な慣習的な方法で投与することができる。
【0083】
真菌感染症を治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、個々の治療薬として単独で投与することができるか、又は、治療剤の組み合わせとして1種類以上の別の抗真菌薬と一緒に(逐次的に又は同時に)投与することができる。
【0084】
真菌感染症を治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、選択された投与経路及び標準的な薬務に基づいて選択された医薬担体と一緒に投与することができる。
【0085】
例えば、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、以下の経路のうちの1つ以上で投与することができる: 有効量の該化合物並びに慣習的な無毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント及びビヒクル含んでいる医薬組成物の単位投与量の形態で、経口的に、非経口的に(これは、皮下注射、静脈内、筋肉内、病変内注射又は注入技術を包含する)、吸入により(例えば、鼻又は口腔内の吸入スプレー、定量吸入器からのエアロゾル及び乾燥粉末吸入器)、噴霧器により、経眼的に、局所的に、経皮的に、又は、経直腸的に。経口投与に適した液体調製物(例えば、懸濁液剤、シロップ剤及びエリキシル剤など)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、水、グリコール類、油類及びアルコール類などの通常の媒体を使用することができる。経口投与に適した固形調製物(例えば、散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、デンプン類、糖類、カオリン、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤などの固形賦形剤を使用することができる。非経口組成物は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、典型的には、担体として滅菌水を使用し、及び、場合により、溶解性補助剤のような別の成分を使用する。注射可能な溶液は、当技術分野で既知の方法に従って調製することが可能であり、その際、当該担体は、生理食塩水、グルコース溶液又は生理食塩水とグルコースの混合物を含有する溶液を含んでいる。
【0086】
医薬組成物の調製において使用するのに適した方法及びそのような組成物で使用するのに適した成分についてのさらなる説明は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, edited by A. R. Gennaro, Mack Publishing Co., 2000」の中に記載されている。
【0087】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、例えば、経口的に又は静脈内に、例えば、1日当たり、哺乳動物(例えば、ヒト)の体重1kg当たり、0.001~1000mgの投与量範囲内で、単一用量又は分割用量で、投与することができる。投与量範囲の一例は、単一用量又は分割用量で、経口的に又は静脈内に、1日当たり、体重1kg当たり、0.01~500mgである。投与量範囲の別の例は、単一用量又は分割用量で、経口的に又は静脈内に、1日当たり、体重1kg当たり0.1~50mgである。経口投与に関しては、該組成物は、治療対象の患者に対して投与量を対症的に調節するために、例えば、1.0~1000ミリグラムの活性成分、特に、1、5、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、750及び1000ミリグラムの活性成分を含有する錠剤又はカプセル剤の形態で提供することができる。任意の特定の患者に対する特定の用量レベル及び投与頻度は変えることができ、そして、それらは、使用する特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用の長さ、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与方法及び投与時間、排出速度、薬物の組合せ、特定の状態の重症度並びに宿主が受けている治療などを包含する種々の要因に依存するであろう。例えば、実施形態において、式(IIa)で表される化合物の薬学的に許容される塩は、250~1500mgの1日総投与量の式(IIa)で表される化合物を提供するために対象者に投与される。特定の実施形態では、250mgの1日総投与量、又は、500mgの1日総投与量、又は、750mgの1日総投与量、又は、1000mgの1日総投与量、又は、1500mgの1日総投与量の、式(IIa)で表される化合物を投与する; その1日総投与量は、1日1回基準で投与することが可能であるか、又は、BID(1日2回)投与若しくはTID(1日3回)投与などのために、分割して投与することができる。実施形態において、式(IIa)で表される化合物の薬学的に許容される塩は、1日当たり250~750mgの式(IIa)で表される化合物を提供するために、QD投与するか又はBID投与する。
【0088】
本発明は、骨-関節真菌感染症を治療する方法を提供し、ここで、該方法は、有効量の式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)を投与することを含んでいる。
【0089】
化合物の抗真菌活性は、当技術分野で既知のさまざまなアッセイによって、例えば、酵母菌に対するそれらの最小阻害濃度(MIC)及びブロス微量希釈アッセイにおける糸状カビ及び皮膚糸状菌に対する最小有効濃度(MEC)によって、又は、マウスモデル若しくはウサギモデルにおける抗カンジダ活性及び抗アスペルギルス活性のインビボでの評価によって、実証することができる。米国特許第8,188,085号の実施例に記載されている式(I)で表される化合物は、概して、<0.03-32μg/mLの範囲でカンジダ属種(Candida spp.)の増殖を阻害すること、又は、<0.03-32μg/mLの範囲のアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)に対するMECをもたらすことが見いだされた。
【実施例
【0090】
実施例
以下の実施例は、本発明及びその実施について例証するためにのみ役立つ。該実施例は、本発明の範囲又は精神に対する制限として解釈されるべきではない。
【0091】
実施例1
骨-関節真菌感染症を治療するための経口投与されたSCY-078の臨床的有効性の評価
この実施例は、「難治性又は不耐性の真菌性疾患(FURI)を患っている患者におけるSCY-078の有効性及び安全性を評価するための非盲検試験」(clinicaltrials.gov identifier NCT03059992)に登録されたカンジダ脊椎椎間板炎の2人の患者の治療コースを提供する。
【0092】
目的: この研究の目的は、承認された抗真菌薬に対して治療不応性又は不耐性である真菌感染症を治療するための経口投与されたSCY-078の有効性を評価することである。
【0093】
研究デザイン: これは、治療抵抗性若しくは不耐性であった又は標準的な治療(SoC)の抗真菌薬による治療に関連する毒性を示した、文書化された侵襲的な及び/又は重度のカンジダ症を患っている18歳以上の男性及び女性の被験者におけるSCY-078(クエン酸塩として投与された)の有効性、安全性及び薬物動態学(PK)を評価するための多施設、非盲検、非コンパレータ、シングルアーム試験である。被験者は、文書化された適格な急性又は慢性の侵襲性カンジダ症(カンジダ血症を包含する)に罹患していなければならず、及び、登録を検討するための全ての試験基準を満たしている必要がある。適格な被験者は、現在承認されているSoC抗真菌薬治療の失敗、該抗真菌薬治療に対する不耐性又は該抗真菌薬治療に関連する毒性の証拠も文書化されている必要がある。臨床的状況若しくは物流状況のために治験責任医師の判断で継続的な静脈内抗真菌療法が実行不可能であるか若しくは望ましくない場合、又は、別の経口抗真菌代替薬が適切でない場合も、被験者は適格である。当該治験に各被験者を参加させることは、治験薬の開始前に治験依頼者による承認が必要である。適格な被験者は、治療の最初の2日間に、1日2回(BID)、750mgのSCY-078(250mgの3錠)の初期負荷量を投与され、その後、1日1回(QD)、750mgの経口用量を投与される。1回のスクリーニング訪問、1回のベースライン訪問(治療1日目とも見なされる)、2回の追加の予定治療訪問(治療3~5日目及び7~10日目)及びその後14日ごとの治療訪問(合計で最大90日間)、治療終了の6週間後のフォローアップ訪問(EoT)(6週目のフォローアップ)及び2回の生存訪問/接触がなされる。
【0094】
有効性: 有効性は、主に全体的な成功(臨床的成功及び菌類学的成功の両方)の観点から評価される。完全な全体的応答、部分的な全体的応答、臨床的成功及び菌類学的成功も評価される。有効性を確認するための主要な時点は、EoTである。この治験で使用されたSCY-078の経口製剤は、SCY-078のクエン酸塩を含んでいる圧縮錠剤である。当該錠剤中の賦形剤には、ケイ化微結晶性セルロース、マンニトール、クロスポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム及びブチル化ヒドロキシアニソールが含まれている。各錠剤は、遊離塩基基準で250mgのSCY-078有効成分を提供する。
【0095】
結果: 骨-関節真菌感染症に罹患している患者の本治験からの2つの症例について、以下に報告する。
【0096】
例A: 以前に同種異系幹細胞移植(SCT)及び移植片対宿主病(GVHD)を患った、急性骨髄性白血病(AML)と診断された50歳の男性が、L4/L5においてカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)脊椎椎間板炎を発症した。該患者は、5ヶ月前に、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)カンジダ血症の2つのエピソードを経験し、両方とも、それぞれ、4日間と7日間の長期にわたる真菌血症であった。該患者は、FURI治験に登録され、経口イブレキサフンゲルプ(750mgをBIDで2日間、その後、750mgをQDで毎日)で治療された。L4/L5において後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)を実施した。評価の時点で、該患者は、それまでに277日間の経口イブレキサフンゲルプによる治療を受けていた。今日までの患者の反応の評価は、痛みの軽減、解熱及び可動性の改善によって、改善されたと評価された。可能性のある治験薬関連の有害事象は、下痢、鼓腸及び悪心であった。
【0097】
例B: 回腸導管を伴う根治的膀胱切除術後に再発した膀胱癌を有する58歳の男性が、L5/S1においてカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)脊椎椎間板炎を発症した。彼は、3ヶ月前に、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)真菌血症を患った。該患者は、FURI治験に登録され、経口イブレキサフンゲルプ(750mgをBIDで2日間、その後、750mgをQDで毎日)で治療された。評価の時点で、該患者は、それまでに88日間の経口イブレキサフンゲルプによる治療を受けていた。今日までの患者の反応の評価は、臨床症状が消散したことによって、回復したと評価された。可能性のある治験薬関連の有害事象は、下痢であった。
【0098】
本発明について、特に、その好ましい実施形態を参照して示し、説明してきたが、当業者は本開示に鑑みて、添付されている特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく形態及び詳細にさまざまな変更を加えることができるということを理解するであろう。
【国際調査報告】