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特表2022-519551廃水処理における脱窒プロセスのための炭素源を置き換える方法
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  • 特表-廃水処理における脱窒プロセスのための炭素源を置き換える方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】廃水処理における脱窒プロセスのための炭素源を置き換える方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20060101AFI20220316BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C02F3/00 D
C02F3/34 101A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544642
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(85)【翻訳文提出日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2020052325
(87)【国際公開番号】W WO2020157218
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/074343
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】フェン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】デヨウ・タン
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・フォウチャー
(72)【発明者】
【氏名】キ-ファン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン-ウク・パク
(72)【発明者】
【氏名】ハジン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・ティエブルモン
【テーマコード(参考)】
4D027
4D040
【Fターム(参考)】
4D027CA00
4D040BB07
4D040BB63
4D040BB93
(57)【要約】
本発明は、廃水処理における脱窒プロセスのための炭素源を置き換える方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水を第1の炭素源で処理する工程を含む廃水脱窒プロセスにおいて炭素源を置き換えるための方法であって、
a)第1の炭素源を、第1の炭素源とは異なる第2の炭素源で置き換える工程であり、第2の炭素源を、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて1~15質量%の量の割合で増加させる、工程と、
b)工程a)で得られた第1の炭素源と第2の炭素源との混合物で、10~20日間にわたって廃水を処理する工程と、
c)少なくとも第1の炭素源の50%が置き換わるまで工程a)及び工程b)を繰り返す工程と
を含み、
第1の炭素源が第2の炭素源によって完全に置き換えられるまで、工程c)の完了後も第1の炭素源を第2の炭素源で更に置き換え、
第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量の、工程b)における流入廃水の全窒素に対する比が3.0~5.0である、方法。
【請求項2】
第1の炭素源を第2の炭素源で置き換えるための方法が、15℃~30℃、好ましくは20℃~25℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、第2の炭素源が、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、1~10%の質量割合で増加される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量の、工程b)における廃水の全窒素に対する比が、3.0~4.5、好ましくは3.0~4.0、より好ましくは3.0~3.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
廃水が、硝酸性窒素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
廃水の全窒素が、硝酸性窒素の全質量に基づく、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
廃水が、シクロヘキサンからのアジピン酸製造プロセスで発生される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の炭素源又は第2の炭素源が、ブタン二酸、グルタル酸及びアジピン酸の混合物、酢酸、粗シロップ、加水分解デンプン、メタノール、エタノール、アセテート、グリセリン、エチレングリコール、グルコース、酢酸ナトリウム、及び含蜜糖から成る群より独立して選択され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程a)において、毎回、第2の炭素源が、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、1~10%の質量割合で増加される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第1の炭素源が、エチレングリコール、又はブタン二酸、グルタル酸及びアジピン酸の混合物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第2の炭素源が、グリセリン又はグルコースである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の炭素源が、エチレングリコールであり、第2の炭素源が、グルコースである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1の炭素源の50%が第2の炭素源で置き換えられた後、第1の炭素源が、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、10~20質量%の量の割合である第2の炭素源で置き換えられる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理における脱窒プロセスのための炭素源を置き換える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、増加する硝酸性窒素汚染は、先進国及び発展途上国のいずれにおいても、急速に重要な環境問題に発展してきた。2009年の中国環境状況公報によると、北京、遼寧、吉林、上海、江蘇、海南、寧夏、及び広東を含む8つの地域にある641のサンプリングした井戸のうち、73.8%が、20mgNO3-N・L-1を超える濃度の硝酸性窒素を含有しており、これは、米国環境保護庁(USEPA)が定める飲料水基準(10mgNO3-N・L-1)の2倍を超えていた。また、中国における廃水の全窒素(TN)排出基準は、ますます厳しくなっており、例えば、都市下水への下水排出水質基準(2015)は、排出流TNで70mg/L未満(A及びB)、及び45mg/L未満(C)を要求しており、都市下水処理プラントにおける汚染排出基準(2016)は、全窒素(TN)について5mg/L未満(第1グレードA)を要求している。
【0003】
水から硝酸性窒素を除去するには、様々な方法がある。従来の物理化学的方法は、イオン交換、逆浸透、及び電気透析によって硝酸性窒素を除去することができるが、これらのプロセスはすべて、コストが高く、濃縮された廃かん水は、更なる処理又は廃棄が必要である。生物学的な脱窒を利用して硝酸性窒素を無害な窒素ガスへと変換することは、脱窒細菌の高い特異性の効果によって、硝酸性窒素で汚染された排出液を改善するための代わりの処理プロセスを提供する可能性があり、これは低コストかつ高脱窒効率である。
【0004】
生物学的な脱窒は、酸素ではなく硝酸性窒素を電子受容体として利用する、廃水処理中の多くの有機基質の生物学的酸化が関与するものである。一般に、脱窒プロセスは、活性化スラッジ中に存在する細菌中で、NaR(硝酸レダクターゼ)、Nir(亜硝酸レダクターゼ)、NOR(一酸化窒素レダクターゼ)、N2OR(亜酸化窒素レダクターゼ)による硝酸性窒素から窒素ガスへの一連の4つの工程を通して行われる。4つの工程での脱窒モデルは、式(1)として示された。
【0005】
【化1】
【0006】
生物学的な窒素除去プロセスにおいて、電子供与体は、典型的には、以下の3つの供与体源:(1)流入廃水中の溶解性化学的酸素要求量(COD)、(2)内生分解の過程で発生する溶解性COD、及び(3)メタノール又はアセテート等の外来性の供与体源、のうちの1つである。多くの場合、外来性の炭素源が必要とされる。ある種の特別な理由によって外来性炭素の価格が上昇した場合又は供給量が減少した場合、元の炭素源に置き換わる代替源を見出す必要がある。活性化スラッジ/細菌が、長年にわたって既存の炭素源に既に適合されてきていることから、いかなる性能の攪乱も起こすことなしに炭素源を円滑に切り替えることは大きな課題である。
【0007】
CN-A 107162175には、グルコースを共基質として用いることによってペニシリンを分解するための方法が記載されている。しかし、この文書は、硝酸性窒素廃水のための脱窒プロセスについて教示も示唆もしておらず、特に、脱窒プロセスにおいて炭素源を切り替える方法について述べていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】CN-A 107162175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
廃水から硝酸性窒素を除去するための有効な方法を提供す必要性は、依然として対処されていない。そのような方法は、廃水脱窒プロセスにおける炭素源の置き換えを含み得る。これは、微生物の生存能及び活性が、炭素源を別の炭素源に置き換えることによって悪影響を受け得ることから、困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、廃水脱窒プロセスにおいて炭素源を(別の炭素源に)置き換えるための方法は、第2の炭素源の含有量を、好ましくは全化学的酸素要求量(COD)に基づいて、段階的に増加させた場合に、有効に実施可能であることが見出された。特許請求の範囲に記載される方法は、廃水脱窒プロセスにおける炭素源を置き換えるための特に有効な方法を提供する。好ましい比率及び時間も示される。
【0011】
本発明は、窒素含有廃水、特に硝酸性窒素含有廃水を第1の炭素源で処理する工程を含む廃水脱窒プロセスにおいて炭素源を置き換えるための方法であって、
a)第1の炭素源を、第1の炭素源とは異なる第2の炭素源で置き換える工程であり、第2の炭素源を、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて1~15質量%の量の割合で増加させる、工程と、
b)工程a)で得られた第1の炭素源と第2の炭素源との混合物で、10~20日間にわたって廃水を処理する工程と、
c)少なくとも第1の炭素源の50%が置き換わるまで工程a)及び工程b)を繰り返す工程と
を含み、
第1の炭素源が第2の炭素源によって完全に置き換えられるまで、工程c)の完了後も第1の炭素源を第2の炭素源で更に置き換え、
第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量の、工程b)における流入廃水の全窒素に対する比が3.0~5.0である、
方法に関する。
【0012】
言い換えると、本発明は、廃水を第1の炭素源で処理する工程を含むプロセスである脱窒のための方法であって、本明細書で述べる工程a)~c)を含み、第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量の、工程b)における流入廃水の全窒素に対する比が3.0~5.0である、方法に関する。
【0013】
本発明は更に、廃水を第1の炭素源で処理する工程を含む廃水脱窒プロセスにおいて炭素源を置き換えるための方法であって、
a)第1の炭素源を、第2の炭素源で置き換える工程であり、第2の炭素源が、少なくとも第1の炭素源の50%が置き換わるまで、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、1~15質量%の量の割合である、工程と、
b)工程a)で得られた第1の炭素源と第2の炭素源との混合物で、10~20日間にわたって廃水を処理する工程と、
c)第1の炭素源が第2の炭素源によって完全に置き換えられるまで、工程a)及び工程b)を繰り返す工程と
を含み、第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量の、工程b)における流入廃水の全窒素に対する比が3.0~5.0である、
方法に関する。
【0014】
本発明の方法は、廃水処理の要件を満たすこと、効率が高いこと、及びコストが削減される持続可能な認可された処理廃水排出流であること、等の所望される特性を持つ廃水処理を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】異なるCOD/TN比でのTN除去を示すグラフである。
図2】異なるCOD/TN比での残留CODを示すグラフである。
図3】脱窒に対するCOD/TNの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書で用いられる場合、冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、その冠詞の文法的目的語の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を意味するために用いられる。
【0017】
「及び/又は」の用語は、「及び」、「又は」、更にはこの用語に接続された要素の他の考え得るすべての組み合わせの意味を含む。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「質量パーセント」、「質量%」、「質量基準のパーセント」、「質量基準の%」、及びこれらの変化形は、物質の濃度を意味し、その物質の質量を組成物の総質量で除して100を乗じたものである。
【0019】
「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」の用語は、追加の要素が含まれ得るという包括的で非限定的な意味で用いられる。本明細書全体を通して、文脈からそうでないことが必要とされる場合を除き、「含む(comprise)」の語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」等の変化形は、記載の要素、若しくは工程、又は要素若しくは工程の群を含むが、他のいずれの要素、若しくは工程、又は要素若しくは工程の群も除外しないことを示唆するものと理解される。
【0020】
比、濃度、量、及び他の数値データは、本明細書において、範囲のフォーマットで提示される場合がある。そのような範囲のフォーマットは、単に都合の良さ及び簡潔さのために用いられるものであり、範囲の境界として明白に列挙される数値を含むだけでなく、各々の数値及びサブ範囲が明白に列挙されているかのごとく、その範囲内に包含されるすべての個々の数値又はサブ範囲も含むとして柔軟に解釈されるべきであるものと理解されたい。例えば、約10日間~約20日間の維持日数の範囲は、約10日間~約20日間の明白に列挙された境界を含むだけでなく、10日間~15日間、15日間~20日間等のサブ範囲、更には、例えば10.5日間、12.5日間、及び18.5日間等の指定された範囲内の小数値を含む個々の値も含むとして解釈されるべきである。
【0021】
「から」の用語は、境界を含むとして理解されるべきである。
【0022】
記述の続きとして、特に断りのない限り、境界の値は、与えられた値の範囲に含まれるものと定める。質量比又は温度の何らかの範囲が指定される場合、いずれの特定の上限質量比又は温度も、いずれの特定の下限濃度を伴い得ることには留意されたい。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「化学的酸素要求量」の用語及びその略語「COD」は、本技術分野において一般的に理解される最も広い意味で理解されてよい。化学的酸素要求量(COD)は、生理学的代謝が廃水中の酸素を消費する1又は複数のエネルギー源を表すとして理解されてよい。したがって、化学的酸素要求量(COD)は、1又は複数の有機物、すなわち、1又は複数の炭素源を意味し得る。化学的酸素要求量(COD)に対する変換係数は、以下で説明される。化学的酸素要求量(COD)は、対象の廃水中での反応によって消費される酸素の量の指標的尺度であり得る。それは、廃水(有機物、すなわち1又は複数の炭素源、及び所望に応じて硝酸性窒素等の無機物を含む)の酸素に相当する(理論的)要求量として理解されてよい。化学的酸素要求量(COD)は、廃水の体積当たりに消費される酸素の質量として、例えば1リットル当たりのミリグラム数(mg/L)で表される等によって定量可能であり得る。それは、水中の有機物の量を定量及び比較するために用いることができる。これは、溶液中の異なるエネルギー源の量を、特に異なる炭素源の量を比較及び標準化することを可能とし得る。
【0024】
本明細書で用いられる場合、「炭素源」の用語は、例えば生存能の維持及び/又はそのバイオマスの構築のために代謝される炭素源として生物が利用可能であるいずれかの化学的実体として、最も広い意味で理解されてよい。一般に、炭素源は、有機化合物又は無機化合物であってよい。本明細書で用いられる場合、炭素源は、好ましくは有機化合物である。
【0025】
第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量(COD)は、第1及び第2の炭素源を合わせた全CODとして理解されてよい。好ましくは、全CODは、廃水中に存在する全炭素源の合計である。
【0026】
全窒素(TN)(流入廃水の)とは、対象の媒体(例:廃水)中に存在する全窒素分として理解されてよい。対象の媒体中に存在する全窒素分は、好ましくは、対象の媒体中に溶解又は懸濁している、特に溶解している窒素分である。全窒素分は、無機イオン(例:硝酸イオン、窒化物イオン、アンモニウムイオン、又はこれらの組み合わせ)、有機結合した窒素(例:尿素、生物学的高分子、ペプチド、アミノ酸、並びにこれらの誘導体及び/又は組み合わせ)、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される窒素含有化学的実体を含み得る(又は、これらから成り得る)。
【0027】
第1の炭素源と第2の炭素源との混合物の全化学的酸素要求量(COD)の、流入廃水の全窒素(TN)に対する比は、COD/TNとしても表され得る。
【0028】
対象の媒体(例:廃水)がある特定の体積を有する場合、全化学的酸素要求量(COD)及び/又は全窒素(TN)は、各々、濃度として表され得る(例:1リットル当たりのミリグラム数(mg/L)として表すことができる)。COD/TNの比は、無次元となり得る。
【0029】
本明細書で用いられる場合、廃水は、いかなる下水であってもよい。好ましくは、本発明の文脈における対象の廃水は、窒素を含有し、好ましくは亜硝酸性窒素又は硝酸性窒素を含有し、特に硝酸性窒素を含有する。廃水は、(下水)スラッジを含有していてもよい。
【0030】
スラッジは、典型的には、微生物を、特に細菌を含有する。好ましくは、そのような微生物、特に細菌は、廃水の窒素分の少なくとも一部を窒素ガスに変換する1又は複数の工程を促進する。特に、そのような微生物、特に細菌は、廃水の硝酸性窒素を窒素ガスに変換する1又は複数の工程を促進する。そのような微生物、特に細菌は、脱窒微生物(すなわち、脱窒を促進する微生物)と称される場合もある。そのような微生物、特に細菌は、NaR(硝酸レダクターゼ)、Nir(亜硝酸レダクターゼ)、NOR(一酸化窒素レダクターゼ)、N2OR(亜酸化窒素レダクターゼ)から成る群より選択される1又は複数の酵素を含み得る。微生物、特に細菌を含有するスラッジは、以下の例で例証されるように、対象の媒体(例:廃水)に添加されてもよい。
【0031】
発明の詳細
当業者であれば、本開示が、具体的に記載されている内容以外に変更及び改変が成され得るものであることは分かるであろう。本開示が、そのような変更及び改変のすべてを含むことは理解されたい。本開示はまた、本明細書で言及される又は示されるすべての工程、特徴、組成物、及び化合物を、個々に又は集合的に、並びにそのような工程又は特徴のいずれか1つ以上のあらゆる組み合わせを含む。
【0032】
本発明で処理されるべき廃水は、窒素ガスへ変換するべき硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を含む工業廃水又は窒化前処理廃水のいずれであってもよい。例えば、廃水は、シクロヘキサンからのアジピン酸製造プロセスによって発生される。好ましくは、本発明の廃水によって提供される全窒素は、NO3 -の総質量によって得られる。炭素源を置き換えるための方法は、15℃~30℃、好ましくは20℃~25℃の温度で実施されてよい。
【0033】
アジピン酸を製造するための方法は、以下の工程:高温での酸素ガスとの反応によって液体シクロヘキサンを酸化して、シクロヘキサンヒドロペルオキシドを製造する工程と、触媒の存在下、ヒドロペルオキシドをシクロヘキサノールとシクロヘキサノンとに分解する工程と、硝酸でシクロヘキサノール/シクロヘキサノン混合物をアジピン酸に酸化する工程と、アジピン酸を抽出及び精製する工程とを含む。
【0034】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含有する混合生成物とするために、複数の異なるプロセスが用いられてきた。そのような混合生成物は、一般に、KAオイル(ケトン/アルコールオイル)混合物と称される。KAオイル混合物は、容易に酸化してアジピン酸を生成することができ、アジピン酸は、ある特定の縮合ポリマー、特にはポリアミドを製造するためのプロセスにおける重要な反応体である。シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含有する混合物を製造するための従来のプロセスは、二工程で行われて、シクロヘキサンの酸化を通してKAオイルを得る。まず、シクロヘキサンの熱自動酸化によって、シクロヘキシルヒドロペルオキシド(CyOOH)の形成が引き起こされ、これが単離される。第2の工程では、CyOOHの分解によってKAオイルが得られ、これは、均質触媒としてクロムイオン又はコバルトイオンを用いることによって触媒される。
【0035】
脱窒に必要とされる溶解性化学的酸素要求量(COD)を満たすために、広く様々な炭素源を用いることができる。元の炭素源(第1の炭素源)は、流入廃水内で得られる(入口部からプラントに流入する有機廃水負荷として)、又はセル内に貯蔵された蓄積物質からの、有機炭素物質を意味する。一般的に用いられる元の炭素源(第1の炭素源)及び置換炭素源(第2の炭素源)としては、限定されないが、ブタン二酸、グルタル酸及びアジピン酸の混合物、酢酸、粗シロップ、加水分解デンプン、メタノール、エタノール、アセテート、グリセリン、エチレングリコール、グルコース、酢酸ナトリウム、含蜜糖が挙げられる。本発明において、第1の炭素源は、好ましくは第2の炭素源と異なる。第1の炭素源は、好ましくは、エチレングリコール、又はブタン二酸、グルタル酸及びアジピン酸の混合物である。第2の炭素源は、好ましくはグリセリン又はグルコースである。
【0036】
炭素源の選択は、典型的には、安全性、コスト、取り扱い時の要件、使用の容易さ、材料適合性等を含むいくつかの製品属性の評価に応じて異なる。炭素源の選択は、栄養分除去の効果に対してだけではなく、プラント及び作業員の安全性、スラッジ収率、曝気の妥当性、環境上の持続可能性、全体的な排出液水質、及び他の因子に対しても重要な影響を有し得る。
【0037】
炭素源は、一般に、様々な工業プロセス及び農業プロセス由来の純粋生成物(例:メタノール、エタノール)、未精製廃棄物、又は精製済み廃棄物質である。いくつかの典型的な置換炭素源としては、食品及び飲料品製造からの使用済み砂糖、並びにバイオディーゼル製造からのグリセロールが挙げられる。
【0038】
脱窒は、一般に、嫌気性又は無酸素性条件下、有機物(炭素源)を電子供与体として、硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を、還元されて他の窒素酸化物又は窒素のガスとなる電子受容体として用いる。本発明において、化学的酸素要求量(COD)の分析方法は、「水質-化学的酸素要求量の測定-重クロム酸塩法」(中華人民共和国の国家規格、GB11914-89)を用いて行われる。全窒素(TN)の分析方法は、「水質-全窒素の測定-アルカリ性過硫酸カリウム消化-UV分光光度法」(中華人民共和国の国家規格、GB11894-89)を用いて行われる。
【0039】
次に、工程(a)は、(ある量の)第1の炭素源を、(ある量の)第2の炭素源で置き換えることに関し、第2の炭素源は、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、1~15%の量の割合で増加される(そして、そのような工程を、少なくとも第1の炭素源の50%が置き換わるまで繰り返す)。上記で述べたように、第1の炭素源はまた、流入廃水内で得られる(入口部からプラントに流入する有機廃水負荷として)、又はセル内に貯蔵された蓄積物質からの、有機炭素物質も意味し得る。
【0040】
次に、工程(b)は、工程a)で得られた混合炭素源を用いて、10~20日間にわたって廃水を処理することに関する。
【0041】
工程(c)は、工程a)及び工程b)を、第1の炭素源が第2の炭素源によって完全に置き換えられるまで繰り返すことに関する。
【0042】
工程(a)において、(ある量の)第1の炭素源は、(ある量の)第2の炭素源で置き換えられ、毎回、第2の炭素源は、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、1~15%の量の割合で増加され、好ましくは、1~10%増加される。工程(b)において、廃水は、10~20日間、好ましくは10~15日間にわたって、特に、各回の変更後、第1の炭素源と第2の炭素源との全化学的酸素要求量に基づいて、40~60質量%、好ましくは40~55質量%、より好ましくは40~50質量%、最も好ましくは50質量%の第1の炭素源が置き換えられるまで、処理される。
【0043】
炭素源の、特に第2の炭素源の投入量に関して、投入量不足更には投入量過剰に伴うリスクが存在する。工程(b)における化学的酸素要求量(COD)の、流入廃水の全窒素(TN)に対する質量比(COD/TN)は、3.0~5.0、好ましくは3.0~4.5、より好ましくは3.0~4.0、更により好ましくは3.0~3.5に制御される。廃水の全窒素(TN)は、「水質-全窒素の測定-アルカリ性過硫酸カリウム消化-UV分光光度法」(GB11894-89)の分析方法によって特定することができる。化学的酸素要求量(COD)と流入廃水の全窒素(TN)との質量比を参照して、化学的酸素要求量(COD)を特定することができる。COD及び炭素に対する変換係数に基づいて、炭素源の質量をそれに応じて特定することができる。
【0044】
化学的酸素要求量(COD)及び炭素源に対する変換係数:
g COD/g 炭素源=(炭素原子の数*2+水素原子の数*0.5-酸素原子の数)*16/炭素源の分子量
【0045】
本発明の方法は、持続可能な認可された処理廃水排出流を伴う廃水処理を可能とするものである。好ましい実施形態では、排出流全窒素(TN)は、20mg/L未満であり、これは、基準規格(45~70mg/L、「都市下路への排出のための廃水水質基準」、GB/T 31962-2015)よりも非常に低い。
【実施例
【0046】
(実施例1)
エチレングリコール(EG)からグルコースへの炭素源変更の過程で、異なる切り替え割合を比較した。試験1では、最初、グルコースの割合を、例えば10%、20%、30%、40%、及び50%と、毎回10%ずつ増加させ、各置き換え後に10日間維持した。その後、グルコースの割合を、例えば70%、90%、及び100%と、初期と比較してより早く増加させ、毎回の増加に対してやはり安定して10日間にわたって継続した。試験1の間、脱窒性能は良好であり、排出流TNは安定して20mg/L未満であった。試験2では、試験1よりも置き換え速度を早くし、グルコースの割合を、20%、40%、60%、80%、100%として設定し、やはり毎回10日間維持したが、脱窒は不安定であることが見出され、排出流TNは、多くの場合は、70mg/Lを超えていた(規格:45mg/L)。これらの試験において、エチレングリコール(EG)とグルコースとの混合物の全化学的酸素要求量の、廃水の全窒素量に対する比は、3.5である。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例2)
代替炭素の割合を増加させる毎のその後の維持時間の影響を調べるために、試験3、4、及び5を、維持時間をそれぞれ20日間、5日間、及び30日間として実施した。試験3では、脱窒性能は、試験1(10日間)と同様に良好で安定であった。試験4では、切り替えの割合を増加させた後の継続時間が短すぎることに起因して(5日間のみ)、排出流TNは、多くの場合で50mg/Lよりも高かった。試験4では、30日間まで延ばした後でも、脱窒性能に改善は見られず、より多くの時間が費やされた。比較試験に基づいて、維持時間として、10~20日間を選択することが推奨された。これらの試験において、エチレングリコール(EG)とグルコースとの混合物の全化学的酸素要求量の、廃水の全窒素量に対する比は、3.5である。
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例3)
エチレングリコール(EG)からグルコースへの炭素源の変更の過程におけるCOD/TN比の脱窒性能に対する影響を調べるために、最初に、バッチ試験を、第1の炭素源の50%が置き換えられた条件でビーカー中で行った。同じスラッジを7つの1.0Lビーカーに添加し、1000mg/Lの初期TNを調製し、炭素源を、2.0、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0のCOD/TN質量比(g/g)で添加した。4時間毎にサンプルをビーカーから採取し、COD及びTNを分析した。
【0051】
・TNの除去
図1から分かるように、COD/TN=2.0では、排出流TNは約500mg/LとなってTN除去は不完全であり、COD/TN比3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、及び6.0の場合、最終TNは、約20mg/Lであった。
【0052】
・残留炭素(COD)
COD/TNの増加と共に、残留CODも増加することになる。COD/TN=6.0では、排出廃水の残留CODは、1000mg/L超である。図2から分かるように、COD/TN=2.0、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0の場合、最終CODは、それぞれ、246、245、266、409、579、599であった。
【0053】
TN除去及び残留CODに基づいて、COD/TN比は、3.0~5.0に維持する必要がある。
【0054】
・長期研究
脱窒に対するCOD/TNの影響を更に調べる目的で、単一の炭素源(グルコース)のみに基づいたパイロット試験で開始する長期研究のために、4000mg/Lの初期TNを調製する。
【0055】
上記グラフから、3.0~5.0のCOD/TNが、脱窒には適切であり、COD/TN=2.0又は6.0の場合、排出流TNが増加することになる。COD/TN比6.0では、排出流TNが30mg/Lよりも高かったため、COD/TN比を5.0及び4.5に低下させると、脱窒性能は改善して排出流TN<30mg/Lとなり、これは、規格未満である(規格:45mg/L)。
【0056】
本開示を、ここで実施例を用いて説明するが、実施例は、本開示の実施を説明することを意図しており、制限的に解釈して本開示の範囲に対するいかなる制限も暗示することを意図するものではない。本開示の範囲内である他の例も可能である。
図1
図2
図3
【国際調査報告】