(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】早期着火を防止するための潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 135/18 20060101AFI20220316BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20220316BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20220316BHJP
C10M 133/12 20060101ALI20220316BHJP
C10M 129/10 20060101ALI20220316BHJP
C10M 143/10 20060101ALI20220316BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220316BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220316BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220316BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220316BHJP
【FI】
C10M135/18
C10M101/02
C10M107/02
C10M133/12
C10M129/10
C10M143/10
C10N10:12
C10N10:04
C10N40:25
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545440
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2020052395
(87)【国際公開番号】W WO2020161007
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴ・フォール
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルディン・パピン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB05C
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BE07C
4H104BG10C
4H104CA04A
4H104CA07C
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
本発明は、(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物と、(ii)少なくとも1つの基油とを含む潤滑油組成物の、車両エンジンにおける、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であって、前記潤滑油組成物が、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間使用され、前記ジチオカルバメート化合物の含有量が、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下である、使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、及び
(ii)少なくとも1つの基油
を含む潤滑油組成物の、車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、前記車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用され、
ジチオカルバメート化合物の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下である、潤滑油組成物の使用。
【請求項2】
前記ジチオカルバメート化合物が、金属ジチオカルバメート、ビスジチオカルバメート、及びこれらの混合物から、好ましくは、モリブデンジチオカルバメート、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ジチオカルバメート化合物の含有量が、組成物の全質量に対して、厳密に0.01質量%を超え、特に0.02質量%から1質量%、好ましくは0.05質量%から0.7質量%、より好ましくは0.1質量%から0.5質量%の範囲である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記基油が、III群の油、IV群の油、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記潤滑油組成物が、請求項1または2に定義されるジチオカルバメート化合物とは相違し、特に、ジフェニルアミン、フェノール、フェノールエステル、及びこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの酸化防止添加剤を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の全質量に対して酸化防止添加剤を0.05質量%~2質量%、好ましくは0.5質量%~1質量%含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記潤滑油組成物が、アルカリ土類金属塩から、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの洗浄添加剤を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記潤滑油組成物が、水素化又は非水素化ホモポリマー又はコポリマー、スチレン、ブタジエン、及びイソプレンから選択され、好ましくは、水素化スチレン/イソプレンコポリマーである、少なくとも1つの粘度指数向上添加剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の全質量に対して2質量%~15質量%の粘度指数向上添加剤を含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における、特に請求項2に定義される少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であり、前記潤滑油組成物が、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、前記車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される、使用。
【請求項11】
少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における、特に請求項2に定義される少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、前記車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用された後の前記潤滑油組成物の、車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおける、早期着火、特に低速早期着火の防止及び/又は低減に関する性能の劣化を抑制するための、使用。
【請求項12】
特に請求項2に定義される、少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
高圧示差走査熱量測定によって測定される潤滑油組成物の着火温度を、いかなるジチオカルバメート化合物も含まない使用済み潤滑油組成物と比べて、特に少なくとも2%、好ましくは少なくとも4%上昇させることを目的とし、前記組成物が、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、前記車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される、使用。
【請求項13】
車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおける早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)前記エンジンを少なくとも1つの基油及び少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を含む潤滑油組成物に接して設置する工程であって、前記ジチオカルバメート化合物が、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下の含有量で存在する工程;
b)前記エンジンを、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、前記車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって作動させる工程
を含む、方法。
【請求項14】
前記潤滑油組成物が、請求項2~9のいずれか一項に定義される通りである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、及び
(ii)少なくとも1つの基油
を含む潤滑油組成物の、車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおける、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記組成物は、GFC Lu-43A-11法に従って、150℃を超える温度、好ましくは150℃~170℃で、少なくとも110時間、好ましくは120時間~150時間の間、鉄触媒酸化されており、
ジチオカルバメート化合物の含有量が、好ましくは、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下である、潤滑油組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ車両エンジンにおいて使用してよい潤滑油の分野に関し、特にエンジンにおける早期着火を防止又は低減するための潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火エンジンにおける正常燃焼は、理想的な条件下では、可燃性混合物、とりわけ燃料と空気との混合物が、点火プラグからスパークが生成されることによってシリンダ内部の燃焼室で点火される場合に起こる。こうした正常燃焼は、一般的に、秩序立って制御された様式で燃焼室を通る火炎面の膨張が特徴である。
【0003】
しかし、空気/燃料混合物は、ある特定の場合には、点火プラグからのスパークによる点火の前に発火源によって早期に点火される可能性があり、これは早期着火として知られる現象に結びつく。
【0004】
ここで、早期着火を低減又は更には除去することが好ましい。なぜならば、これは一般的に、燃焼室の温度及び圧力の大きな上昇に反映され、従って、エンジンの効率及び総合的性能に重大な悪影響を及ぼすからである。更に、早期着火は、シリンダ、ピストン、点火プラグ、及びエンジン内のバルブに重大な損傷を引き起こす可能性があり、ある特定の場合には、更に、エンジンの機能停止又は更にはエンジンの故障をもたらす可能性がある。
【0005】
最近になって、低速早期着火(LSPI)は、とりわけ、自動車製造者によって、小型エンジンについての潜在的な問題として確認されている。LSPIは、一般的には低速及び高負荷で起こり、ピストン及び/又はシリンダへの深刻な損傷につながる可能性がある。
【0006】
加えて、早期着火、特にLSPIの防止及び/又は低減は、経時的に、つまり、潤滑油組成物の長期間の使用の間、例えば、2回のオイル交換の間、又は所定のキロメートルを運転した後にも、維持されていなければならない。
【0007】
先行技術
この複雑な現象について説明しようと、いくつかの理論が提唱されている。燃焼室内に少量の潤滑油が存在すると、燃料と混ざり、早期着火を悪化させる場合があることがとりわけ観察されている。また、燃焼室内の堆積物の存在とLSPIの発生との関連を確立することができている。最後に、エンジン自体の設計は早期着火に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
従って、この現象は非常に複雑で、予測するのが困難であることが分かる。上記のように、潤滑油の性質は甚だ、その現象の一因となり、早期着火、特にLSPIの危険を防止又は低減することができる潤滑油組成物が既に提案されている。
【0009】
従って、国際公開第2015/023559号パンフレットには、潤滑油組成物に点火を遅らせるための添加剤を添加することによって早期着火を低減する方法であって、前記添加剤は少なくとも1つの芳香核を含む有機化合物から選択される方法が記載されている。
【0010】
しかし、これらの軽質有機化合物は、潤滑油の揮発性の過度の増加を引き起こす可能性がある。
【0011】
従って、また、国際公開第2017/021521号パンフレットに記載されているように、ポリアルキレングリコールを添加すること、又はこれに代えて、国際公開第2017/021523号パンフレットに従って潤滑油組成物にモリブデンジチオフォスフェート及び無硫黄モリブデン錯体から選択される有機モリブデン化合物を組み込んで、エンジンにおける早期着火を防止又は低減することも提案されている。
【0012】
カルシウム系洗浄剤の含有量がLSPIを引き起こすことに強い影響力を及ぼすことも知られている。従って、車両エンジンにおけるLSPIを低減するために意図した潤滑油組成物において、カルシウム系洗浄剤をマグネシウム系洗浄剤で置き換えることが提案されている。
【0013】
本発明者らは、早期着火が潤滑油組成物の長期間の使用の間に増大することを観察している。従って、早期着火は、「使用済み」潤滑油組成物の場合には特に悪化する。
【0014】
特に、とりわけ文献、”Low-speed preignition”, Engine Technology International, September, 2018において、新品のときにLSPIの低減を示す潤滑油組成物は、使用済みのときにこれらの特性が悪化することが既に実証されている。
【0015】
最後に、先行技術において新品の潤滑油組成物のために推奨された解決法は、使用済み組成物の場合には不十分であることが分かる。
【0016】
更にまた、少なくとも1つの金属モリブデンジチオカルバメートと少なくとも1つのメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)との組み合わせは、潤滑油組成物の燃費特性を保つ目的で、国際公開第2013/182581号パンフレットに既に記載されている。
【0017】
しかしながら、前記文献は、いかなる方法においても、エンジンにおいて発生し得る早期着火への、この組み合わせの又は添加剤のうちの1つの単独でのいかなる効果も示唆していない。
【0018】
文献、Hong Liu et al., SAE International Journal of Fuels and Lubricants, 10(3), 2017は、その一部は、ガソリン経済性を向上させるための、低粘度のガソリンエンジンオイルの開発に関するが、LSPIの早期着火の防止にも関する。しかしながら、前記文献では、エンジンで起こる早期着火を防止するための、ジチオカルバメート化合物の特定の含有量についても、その具体的な値についても、全く言及されていない。
【0019】
本発明の目的のために、用語「使用済み潤滑油組成物」は、少なくとも1回のオイル交換間隔の間に、つまり、車両が走行する10,000km~30,000km、好ましくは15,000km~30,000kmの距離にわたって使用される潤滑油組成物を示すことを意図する。
【0020】
本発明に従って使用される表現「長期にわたる」又は「長期での」は、潤滑油組成物の使用が使用済み潤滑油組成物まで及ぶことを意味する。
【0021】
本発明の目的において、用語「新品の潤滑油組成物」は、エンジンにおいてまだ使用されていない潤滑油組成物を示すことを意図する。
【0022】
本発明の目的において、用語「劣化した潤滑油組成物」は、エンジンにおける潤滑油組成物の使用条件のシミュレーションによって、人工劣化を受けた潤滑油組成物を示すことを意図する。この人工劣化は、オイル交換間隔の間にエンジンにおいて使用されるときの油の劣化を加速度的に再現することを可能にする。特に、これは、GFC Lu-43A-11法に従って、150℃を超える温度、好ましくは150℃~170℃で、少なくとも110時間の間、好ましくは120時間~150時間、鉄触媒酸化された潤滑油組成物である。
【0023】
使用済み潤滑油組成物について本発明に従って定義する実施態様はすべて、劣化した潤滑油組成物に適用可能である。
【0024】
上述のように、早期着火は、潤滑油組成物の使用の間により悪化する傾向を有し、従って、潤滑油組成物は新品の場合に限り実際に効果的である。明白な理由で、早期着火を防止するための解決法で長続きするものを提案することが必要である。
【0025】
従って、その使用の間において長期的に、より正確には、一旦潤滑油組成物が使用済みとなっても、エンジン、特に自動車エンジンの早期着火、特にLSPIを防止及び/又は低減する能力を有する潤滑油組成物の必要性が依然として存在する。
【0026】
先行技術において支持されている解決法は、エンジンで起こる早期着火を低減する役割を果たすことができる特定の添加剤を選択することを推奨している。しかし、潤滑油組成物は、多くの異なる添加剤を組み込んで、潤滑油組成物に特に有利な特性を与え得るが、早期着火を防止することにどの添加剤が有益な影響を及ぼすかを予測することは可能ではなく、長期となれば尚一層可能ではない。
【0027】
従って、潤滑油組成物で使用された場合に、エンジンでのその長期間の使用の間に生じ得る早期着火を防止及び/又は低減することができる添加剤を提案する必要性が依然として存在する。
【0028】
最後に、長期間の使用の間、とりわけエンジンのオイル交換間隔の間に、エンジンへの新品の潤滑油組成物の添加を必要としない早期着火を防止するための解決法を提案することが必要である。
【0029】
従って、各エンジンオイル交換間隔の間に潤滑油組成物を添加する必要がない、エンジンでのその使用の間に早期着火を防止及び/又は低減するための潤滑油組成物を提案する必要性が依然として存在する。
【0030】
当然のことながら、とりわけ保存に際して優れた安定性を示す潤滑油組成物を提案する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】国際公開第2015/023559号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/021521号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2017/021523号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2013/182581号パンフレット
【特許文献5】米国特許第2492314号明細書
【特許文献6】国際公開第98/26030号パンフレット
【特許文献7】欧州特許第0757093号明細書
【特許文献8】国際公開第2012/141855号パンフレット
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】”Low-speed preignition”, Engine Technology International, September, 2018.
【非特許文献2】Hong Liu et al., SAE International Journal of Fuels and Lubricants, 10(3), 2017
【非特許文献3】American Petroleum Institute 1509 “Engine Oil Licensing and Certification System” 17th edition, September 2012
【非特許文献4】“The ATIEL Code of Practice”, number 18, November 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明は、特にこの必要性を満たすことに関する。
【課題を解決するための手段】
【0034】
従って、その第1の態様によれば、本発明は、潤滑油組成物は、
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物と、
(ii)少なくとも1つの基油と
を含む潤滑油組成物の、車両、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用され、
ジチオカルバメート化合物の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して、1質量%以下である。
【0035】
本発明の目的において、用語「自動車」は、エンジン、とりわけ、燃焼及び爆発機関、特に、往復運動ピストン又はロータリーピストン、ディーゼル又は火花点火式内燃機関によって推進される少なくとも一輪、好ましくは少なくとも二輪を備える車両を示すことを意図する。こうしたエンジンは、例えば、2サイクル若しくは4サイクルガソリン又はディーゼルエンジンであってもよい。
【0036】
本発明によれば、早期着火の防止及び/又は低減は、使用済み潤滑油組成物について、新品の潤滑油組成物と比較して優先的に測定される。
【0037】
すべての予想に反して、また下記の実施例から明らかになるように、本発明者らは、劣化した潤滑油組成物中に少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を使用することによって、前記潤滑油組成物の、特に高圧示差走査熱量測定によって測定される着火温度を著しく改善することができ、結果として、エンジンでのその使用の間に生じ得る早期着火、特にLSPIを遅らせることができることを実証した。着火温度とは、ここでは、温度上昇の間の発熱ピークの開始温度を示し、HPDSC(高圧示差走査熱量測定)によって測定される。
【0038】
この結果は、モリブデンジアルキルジチオカルバメートを含む油は、前記油が使用済みとなった際にはLSPI特性が低減されているとの文書、“Low-speed preignition”, Engine Technology International, September 2018の教示に鑑みれば、いっそう驚くべきことである。
【0039】
本発明による潤滑油組成物中に存在するジチオカルバメート化合物は、従って、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される間に、早期着火、特にLSPIを有利に防止することが可能である。
【0040】
結果として、早期着火、特に低速早期着火を効率的に防止し、且つ/又は低減し続けるために、潤滑油組成物を、その使用の間に、例えば2回のエンジンのオイル交換の間に、交換する必要はない。
【0041】
さらにまた、本発明者らは、驚くべきことに、ジチオカルバメート化合物を、本発明に従って使用される潤滑油組成物中に1質量%以下の含有量で使用することによっても、前記組成物の安定性、特に保存時の安定性を満足に保つことができることを見出した。
【0042】
保存時の安定性は、潤滑油組成物及び前記組成物の保存中に形成された堆積物の外観を、一般的に1日から3ヶ月の範囲の期間に亘り、異なる温度で、典型的には0℃、周囲温度、及び60℃で、等級付けすることにより、視覚的に評価してよい。
【0043】
別の態様によれば、本発明の主題は、また、少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、特に以下に定義するジチオカルバメート化合物の使用であって、車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であり、前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される。
【0044】
別の態様によれば、本発明の主題は、また、少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、特に下記に定義するジチオカルバメート化合物の使用であって、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用された後の前記潤滑油組成物の、車両、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減する観点から、性能の劣化を抑制するための使用である。
【0045】
発明の主題は、また、好ましくは長期での、車両、好ましくは自動車のエンジンにおける早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減する方法であって、少なくとも以下:
a)エンジンを少なくとも1つの基油及び少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を含む潤滑油組成物に接して設置する工程であって、前記ジチオカルバメート化合物が、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下の含有量で存在する工程;
b)エンジンを、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって作動させる工程
を備える、方法である。
【0046】
本発明は、また、
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物と、
(ii)少なくとも1つの基油と
を含む潤滑油組成物の、車両のエンジン、好ましくは自動車のエンジンにおける早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記組成物は、GFC Lu-43A-11法に従って、150℃を超える温度、好ましくは150℃~170℃で、少なくとも110時間の間、好ましくは120時間~150時間に亘り、鉄触媒酸化されたものであり、
ジチオカルバメート化合物の含有量は、好ましくは潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下である、使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
組成物
ジチオカルバメート化合物
上述したように、本発明に従って使用される潤滑油組成物は、(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を含む。
ジチオカルバメート化合物は、特に、金属ジチオカルバメート、ビスジチオカルバメート、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0048】
金属ジチオカルバメートは、より具体的には、以下の一般式(I):
【化1】
[式中、
R
1基及びR
2基は、互いに独立して、1から30の炭素原子、好ましくは4から18の炭素原子を含む、任意に置換された炭化水素系基を表し、Mは金属カチオンを表し、nはこの金属カチオンの価数である]
によって定義することができる。
【0049】
好ましくは、Mはモリブデンである。
本発明に従って使用することのできる金属ジチオカルバメートは、当業者に周知の化合物であり、これも当業者に既知である任意の方法によって得ることができる。これらの化合物の調製方法の一例は、特に、米国特許第2492314号明細書に記載されている。
金属ジチオカルバメートは、摩擦調整用添加剤として潤滑油組成物に使用されることが特に知られている。
【0050】
本発明に従って使用されるMoDTC化合物は、核が2つのモリブデン原子を含む化合物(二量体MoDTC)及び核が3つのモリブデン原子を含む化合物(三量体MoDTC)から選択してよい。
三量体MoDTC化合物は、一般に、式Mo3SkLmであり、式中、
kは、少なくとも4に等しく、好ましくは4から10、有利には4から7までの整数であり、
mは1から4までの整数であり、
Lは、1から100の炭素原子、好ましくは1から40の炭素原子、有利には3から20の炭素原子を含むアルキルジチオカルバメート基である。
【0051】
挙げてよい三量体MoDTC化合物の例には、国際公開第98/26030号パンフレットに記載される化合物及びその調製方法が含まれる。
三量体MoDTC化合物の例は、Infineum International Ltd.社によりInfineum(登録商標)C9455Bの名称で販売されているものである。
好ましくは、本発明に従って使用される潤滑油組成物に使用されるMoDTC化合物は、二量体のMoDTC化合物である。挙げてよい二量体MoDTC化合物の例には、欧州特許第0757093号明細書に記載される化合物及びその調製方法が含まれる。
【0052】
本発明の特定の実施態様によれば、金属ジチオカルバメート化合物は、下記式(Ia):
【化2】
[式中、
R
1基及びR
2基は、互いに独立し、上記定義の通りであり、
X
1、X
2、X
3、及びX
4は、同一でも相違してもよく、それぞれ独立して、酸素原子または硫黄原子を表す]
のモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)である。
【0053】
有利には、X1及びX2は、酸素原子を表してよく、X3及びX4は、硫黄原子を表してよい。
有利には、MoDTC化合物は、式(Ia)において、
X1及びX2は、水素原子を表し、
X3及びX4は、硫黄原子を表し、
R1は、8の炭素原子を含むアルキル基または13の炭素原子を含むアルキル基を表し、
R2は、8の炭素原子を含むアルキル基または13の炭素原子を含むアルキル基を表す、
化合物から選択される。
【0054】
したがって、有利には、MoDTC化合物は、式(Ia’):
【化3】
[式中、
R
1及びR
2は、式(I)について、以上に定義した通りである]
の化合物から選択してよい。
【0055】
MoDTC化合物の具体例としては、R.T. Vanderbilt Company社が販売する、Molyvan L(登録商標)、Molyvan 807(登録商標)、Molyvan 822(登録商標)、あるいは、Adeka社が販売する、Sakuralube 200(登録商標)、Sakuralube 165(登録商標)、Sakuralube 525(登録商標)、Sakuralube 600(登録商標)を挙げられる。
【0056】
本発明に従って使用される潤滑油組成物は、国際公開第2012/141855号パンフレットに記載のMoDTC化合物から選択される、有機モリブデン化合物と共に使用してもよい。
【0057】
ビスジチオカルバメートは、より具体的には、下記一般式(II):
【化4】
[式中、
・R
3基及びR
4基は、互いに独立して、1から30の炭素原子、好ましくは2から24の炭素原子、より好ましくは3から8の炭素原子を含む、任意に置換された炭化水素系基を表し、
・R
5基は、1から8の炭素原子、好ましくは1から4の炭素原子を含む炭化水素系基を表す]
によって定義することができる。
【0058】
本発明に従って使用することのできるビスジチオカルバメート化合物は、当業者に周知の化合物であり、またこれも当業者に既知である、任意の方法によって得ることができる。
ビスジチオカルバメートは、とりわけ、酸化防止添加剤として潤滑油組成物に使用されることが知られている。
【0059】
この化合物は、有利には、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)であってよい。
挙げてよい市販製品の例には、Vanderbilt社から販売されているVanlube(登録商標)7723、あるいはRhein Chemie社から販売されているAdditin(登録商標)RC 6340が含まれる。
【0060】
一実施態様によれば、本発明に従って使用される潤滑油組成物は、特に以上に定義されるような、少なくとも1つの金属ジチオカルバメートと、少なくとも1つのビスジチオカルバメートとの混合物を含む。
【0061】
したがって、本発明による組成物に使用されるジチオカルバメート化合物は、より具体的には、モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)(mDTC)、及びこれらの混合物から選択してよい。
【0062】
ジチオカルバメート化合物は、本発明に従って使用される潤滑油組成物中に、組成物の全質量に対して1質量%以下の含有量で存在する。
【0063】
特に、ジチオカルバメート化合物は、本発明に従って使用される潤滑油組成物中に、組成物の全質量に対して、厳密に0.01質量%を超える含有量で、特に0.02質量%から1質量%、好ましくは0.05質量%から0.7質量%、より好ましくは0.1質量%から0.5質量%の範囲の含有量で存在していてよい。
【0064】
ジチオカルバミン酸化合物が、本発明に従って使用される潤滑油組成物中に、組成物の全質量に対して0.01質量%を超える含有量で存在する場合、特に高圧示差走査熱量測定法によって測定される点火温度は、0.01質量%未満の含有量について観察される温度よりも高い。
【0065】
その結果、組成物の全質量に対して0.01質量%を超える含有量でジチオカルバメート化合物を含む組成物は、エンジンにこれを使用する際に起こりうる早期着火、特にLSPIを、いっそう顕著に遅らせることを可能にする。
【0066】
基油
前述のように、本発明に従って使用される潤滑油組成物は、(ii)少なくとも1つの基油を含む。
【0067】
基油は、当業者に公知の鉱物油、合成又は天然油、動物又は植物由来の油であってもよい。
【0068】
特に、潤滑油組成物において一般的に使用される鉱物油又は合成油は、以下の表1(TABLE 1)にまとめられるようにAPI分類に定義する種類に従うI群~V群(又はATIEL分類に従うその均等物)のうちの1つに属する。
【0069】
API分類は、American Petroleum Institute 1509、“Engine Oil Licensing and Certification System” 17th edition, September 2012に定義されている。
【0070】
ATIEL分類は、“The ATIEL Code of Practice”, number 18, November 2012に定義されている。
【0071】
【0072】
本発明に従って使用される潤滑油組成物を調製するための種々の基油の使用については、これらの基油が、エンジン、特に車両エンジンでの使用に適した特性、とりわけ、粘度、粘度指数、硫黄含有量、又は耐酸化性に関する特性を有さなければならない事実は別として、一般的に制限はない。
【0073】
鉱物基油は、原油の常圧及び減圧蒸留、その後の溶媒抽出、脱歴、溶媒脱パラフィン、水素化処理、水素化分解、水素異性化、及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られた任意の種類の基材を含む。
【0074】
合成基油は、エステル、シリコーン、グリコール、ポリブテン、ポリ-α-オレフィン(PAO)、アルキルベンゼン、又はアルキルナフタレンから選択されてもよい。
【0075】
基油は、また、天然由来、例えば、アルコール及びカルボン酸のエステルの油であってもよく、これらは、ヒマワリ油、菜種油、ヤシ油、大豆油等の天然資源から得られてもよい。
【0076】
基油は、より具体的には、合成油、鉱物油、及びこれらの混合物から選択されてもよい。
【0077】
一つの実施態様によれば、本発明に従って使用される潤滑油組成物は、III群の油、IV群の油、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの基油を含む。
【0078】
添加剤
本発明に従って使用される組成物は、また、以上に定義されるジチオカルバメート化合物と異なる、以下の本文中により正確に定義する1つ又は複数の添加剤も含んでいてよい。
【0079】
本発明による組成物に組み込むことができる添加剤は、以上に定義されるビスジチオカルバメート化合物以外の酸化防止剤、洗浄剤、粘度指数向上剤、以上に定義される金属ジチオカルバメート化合物以外の摩擦調整剤、耐摩耗性添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点向上剤、消泡剤、及びこれらの混合物から選択されてもよい。
【0080】
使用された添加剤の性質は、特に、エンジンにおける早期着火、とりわけLSPIを防止及び/又は低減することに関して、潤滑油組成物の特性に影響しないように選択されることが理解される。
【0081】
これらの添加剤は、ACEA (Association des Constructeurs Europeens d'Automobiles)及び/又はAPI (American Petroleum Institute)によって定義されるパフォーマンスレベルで、車両エンジン用の潤滑油配合物のために販売され既に利用可能なもの等を個々に及び/又は混合物の形態で導入してもよく、これらは当業者に周知である。
【0082】
特定の実施態様によれば、本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの酸化防止添加剤、より具体的には、以上に定義されるビスジチオカルバメート化合物とは異なる酸化防止添加剤をさらに含んでいてよい。
【0083】
酸化防止添加剤は、一般的に、稼働中に組成物の劣化を遅らせることを可能にする。この劣化は、堆積物の形成、スラッジの存在、又は組成物の粘度の増加にとりわけ反映され得る。酸化防止添加剤は、とりわけ、フリーラジカル抑制剤又はヒドロペルオキシドデストロイヤーとして機能する。
【0084】
一般的に用いられる酸化防止添加剤の中でも、フェノール型の酸化防止添加剤、アミン型の酸化防止添加剤、及びリン-硫黄系酸化防止添加剤を挙げることができる。これらの酸化防止添加剤、例えば、リン-硫黄系酸化防止添加剤のうちのいくつかは、灰生成剤であってもよい。フェノール系酸化防止添加剤は、灰分を含まないものであってよく、又は中性若しくは塩基性の金属塩類の形態であってもよい。
【0085】
酸化防止添加剤は、立体障害フェノール、立体障害フェノールエステル、及びチオエーテル架橋を含む立体障害フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン、N,N'-ジアルキル-アリール-ジアミン、並びにこれらの混合物からとりわけ選択されてもよい。
【0086】
好ましくは、本発明によれば、立体障害フェノールは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1つの炭素が、少なくとも1つのC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基で置換されたフェノール基を含む化合物から選択される。
【0087】
アミン化合物は、フェノール系酸化防止添加剤と任意選択で組み合わせて使用してよい、別の種類の酸化防止添加剤である。
【0088】
アミン化合物の例は、芳香族アミン、例えば、式NR4R5R6の芳香族アミンであり、式中、R4は任意選択で置換された脂肪族又は芳香族基を表し、R5は任意選択で置換された芳香族基を表し、R6は水素原子、アルキル基、アリール基、又は式R7S(O)zR8の基を表し、式中、R7はアルキレン基又はアルケニレン基を表し、R8はアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、zは0、1、又は2を表す。
【0089】
硫化アルキルフェノール、又はそのアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩は、また、酸化防止添加剤としても使用してよい。
【0090】
別の種類の酸化防止添加剤は、銅化合物、例えば、チオリン酸又はジチオリン酸銅、カルボン酸の銅塩、並びにジチオカルバミン酸銅、スルホン酸銅、銅フェネート、及び銅アセチルアセトナートである。銅(I)塩及び(II)塩、並びにコハク酸又は無水物塩も使用してよい。
【0091】
本発明に従って使用される組成物は、当業者に公知の任意の種類の酸化防止添加剤を含んでいてよい。
【0092】
有利には、本発明に従って使用される組成物は、ジフェニルアミン、フェノール類、フェノールエステル、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの酸化防止添加剤を含む。
【0093】
本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの酸化防止添加剤を、組成物の全質量に対して0.05質量%~2質量%、好ましくは0.5質量%~1質量%含んでいてよい。
【0094】
別の実施態様によれば、本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの洗浄添加剤をさらに含んでもよい。
【0095】
洗浄添加剤は、一般的に、酸化及び燃焼副産物を溶解することによって、金属部品の表面上の堆積物の形成を低減することを可能にする。
【0096】
本発明に従って使用される組成物で使用することのできる洗浄添加剤は、当業者に一般的に公知である。洗浄添加剤は、親油性炭化水素系長鎖及び親水性頭部を含むアニオン性化合物であってもよい。会合カチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであってもよい。
【0097】
洗浄添加剤は、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩、また、フェネート塩からも優先的に選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、優先的にカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムである。
【0098】
これらの金属塩は一般的に、金属を化学量論的量で、又は過剰に、従って化学量論的量よりも多くの量で含む。そのとき、これら金属塩は、過塩基性洗浄添加剤であり、洗浄添加剤に過塩基性の性質を与える過剰の金属は、一般的に、油に溶解しない金属塩の形態、例えば、炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、酢酸塩、又はグルタミン酸塩であり、優先的には炭酸塩である。
【0099】
本発明に従って使用される組成物は、当業者に公知の任意の種類の洗浄添加剤を含有していてよい。
【0100】
有利には、本発明に従って使用される組成物は、アルカリ土類金属塩から、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの洗浄添加剤を含む。
【0101】
特に、洗浄剤がアルカリ土類金属塩から選択される場合、洗浄添加剤は、含有量が150ppm~2,000ppm、好ましくは250ppm~1,500ppmに及ぶ金属元素をもたらすように組成物に添加されてもよい。
【0102】
更に別の実施態様によれば、本発明に従って使用される組成物は、また、粘度指数向上添加剤も含んでいてよい。
【0103】
粘度指数向上添加剤の例として、ポリマーエステル、水素化若しくは非水素化ホモポリマー若しくはコポリマー、スチレン、ブタジエン及びイソプレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(PMA)、又はオレフィンコポリマー、とりわけエチレン/プロピレンコポリマーを挙げることができる。
【0104】
有利には、本発明に従って使用される組成物は、水素化又は非水素化ホモポリマー又はコポリマー、スチレン、ブタジエン、及びイソプレンから選択される少なくとも1つの粘度指数向上添加剤を含む。好ましくは、粘度指数向上添加剤は、水素化スチレン/イソプレンコポリマーである。
【0105】
本発明に従って使用される組成物は、例えば、粘度指数向上添加剤を、組成物の全質量に対して2質量%~15質量%含んでいてよい。
【0106】
耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤は、摩擦面上に吸着された保護膜の形成によって摩擦面を保護する。
【0107】
多種多様な耐摩耗性添加剤が存在する。好ましくは、本発明による潤滑油組成物については、耐摩耗性添加剤は、金属アルキルチオホスフェート、特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より詳細には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はZnDTP等のリン-硫黄系添加剤から選択される。好ましい化合物は、式Zn(SP(S)(OR2)(OR3))2の化合物であり、式中、R2及びR3は同一又は異なっていてもよく、独立してアルキル基、優先的に炭素数1~18のアルキル基を表す。
【0108】
リン酸アミンは、また、本発明による組成物で使用することのできる耐摩耗性添加剤である。しかし、これらの添加剤は灰生成剤であるので、これらの添加剤によって誘導されるリンは、自動車の触媒系の毒として機能する可能性がある。これらの影響は、リン酸アミンを、リン、例えば多硫化物、とりわけ硫黄系オレフィンを導入しない添加剤で部分的に置き換えることによって最小化することができる。
【0109】
本発明に従って使用される組成物は、耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤を、組成物の全質量に対して0.01質量%~6質量%、優先的には0.05質量%~4質量%、より優先的には0.1質量%~2質量%含んでいてよい。
【0110】
本発明に従って使用される組成物は、耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤を含まないことが好ましい。特に、本発明に従って使用される組成物はリン酸系添加剤を含まなくてよい。
【0111】
本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの摩擦調整用添加剤、より具体的には、以上に定義される金属ジチオカルバメート化合物とは異なる摩擦調整用添加剤を含んでいてよい。摩擦調整用添加剤は、金属元素をもたらす化合物及び灰分を含まない化合物から選択されてもよい。金属元素をもたらす化合物の中で、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、又はZn等の遷移金属の錯体を挙げることができ、これらの配位子は、酸素、窒素、硫黄、又はリンの原子を含む炭化水素系化合物であってもよい。灰分を含まない摩擦調整用添加剤は、一般的に有機由来のものであり、ポリオール類の脂肪酸モノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪エポキシド、ホウ酸エステル脂肪エポキシド、脂肪アミン、又はグリセロールの脂肪酸エステルから選択されてもよい。本発明によれば、脂肪族化合物は、炭素数10~24の少なくとも1つの炭化水素系基を含む。
【0112】
本発明に従って使用される組成物は、摩擦調整用添加剤を、組成物の全質量に対して0.01質量%~2質量%又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%又は0.1質量%~2質量%含んでいてよい。
【0113】
有利には、本発明に従って使用される組成物は、以上に定義される金属ジチオカルバメート化合物とは異なる摩擦調整用添加剤を含まない。
【0114】
本発明に従って使用される組成物は、また、少なくとも1つの流動点降下添加剤も含んでいてよい。
パラフィン結晶の形成を遅くすることによって、流動点降下添加剤は、一般的に、組成物の低温挙動を改善する。
言及することのできる流動点降下添加剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、及びポリアルキルスチレンが挙げられる。
【0115】
また、本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの分散剤を含んでいてよい。
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド、及びこれらの誘導体から選択されてもよい。
本発明に従って使用される組成物は、分散剤を、組成物の全質量に対して、例えば、0.2質量%~10質量%含んでいてよい。
【0116】
用途
本発明による潤滑油組成物は、エンジン、とりわけ車両エンジン、特にガソリン車両エンジンで使用されることをより具体的に意図する。
【0117】
従って、潤滑油組成物は、とりわけ粘度、粘度指数、硫黄含有量、及び耐酸化性に関する特性を有利に有し、これらは、エンジン、特に車両エンジンでの使用に適している。
【0118】
従って、好ましくは、潤滑油組成物は、標準規格ISO 3104に従って100℃で測定して、5~20mm2/s、好ましくは5~15mm2/s、より具体的には6~13mm2/sの動粘度を有する。
【0119】
前述したように、これまで説明してきた潤滑油組成物は、エンジンでのその使用によって、それが長期にわたって、とりわけ、少なくとも1回のオイル交換間隔に対応する期間の間の使用後に、前記エンジンで起こる早期着火を防止及び/又は低減することが可能であるという点で有利である。
【0120】
従って、本発明は、車両、好ましくは自動車のエンジンにおいて、早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するための、前記で定義する組成物の使用に関し、前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される。
【0121】
特に、早期着火は、エンジンにおいて低速で観察され(LSPI)、直噴エンジン、特に小型エンジンで更に悪化する。
【0122】
従って、本特許出願は、また、潤滑油組成物の使用にも関し、潤滑油組成物は、
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物と、
(ii)少なくとも1つの基油と
を含み、車両、好ましくは自動車のエンジンにおいて、低速早期着火(LSPI)を防止及び/又は低減するための使用であり、前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される。
【0123】
特に驚くべきことに、本発明者らは、劣化した潤滑油組成物中にジチオカルバメート化合物が存在すると、エンジンにおける早期着火の発生を著しく低減することが可能となることが分かった。
【0124】
従って、本発明は、また、少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における、特に上記で定義するような、少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用にも関し、前記潤滑油組成物は、車両、好ましくは自動車のエンジンにおいて早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減するために、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される。
【0125】
以下の実施例において実証するように、特定の添加剤、すなわちジチオカルバメート化合物を選択すると、新品の潤滑油組成物を添加することなく、エンジンでのその長期間の使用の間に生じ得る早期着火を防止及び/又は低減するための潤滑油組成物を提案することが可能となった。
【0126】
従って、更に、実施例において実証するように、本発明による潤滑油組成物の着火温度は、いかなるジチオカルバメート化合物も含まないか、あるいは本発明によって必要とされるジチオカルバメートとは異なる追加の添加剤を含む、潤滑油組成物について得られる着火温度よりも高い。
【0127】
言いかえれば、ジチオカルバメート添加剤の性質は、以前から知られ得たその機能から明らかには推論できなかった。
【0128】
上記に定義する潤滑油組成物は、従って、エンジンにおけるその長期間の使用によって、エンジンにおける早期着火を防止及び/又は低減する利点を有する。
【0129】
従って、本発明は、また、好ましくは長期での、車両、好ましくは自動車のエンジンにおける早期着火、特に低速早期着火を防止及び/又は低減する方法にも関し、少なくとも以下の工程:
a)エンジンを少なくとも1つの基油及び少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を含む潤滑油組成物に接して設置する工程であって、前記ジチオカルバメート化合物が、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下の含有量で存在する工程;
b)エンジンを、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって作動させる工程を備える。
【0130】
上記のように、本発明に従って使用される使用済み潤滑油組成物の着火温度は、この定義に従わない使用済み潤滑油組成物の着火温度より高い。
【0131】
特に、温度上昇は、実施例に詳述する手順に従って測定して、基油を含むがジチオカルバメート化合物を含まない潤滑油組成物の着火温度に比べて少なくとも2%、好ましくは少なくとも4%、より優先的には少なくとも5%である。着火温度とは、それ以上では発熱反応が開始される温度に相当する。
【0132】
従って、本発明は、また、高圧示差走査熱量測定によって測定される潤滑油組成物の着火温度を、いかなるジチオカルバメート化合物も含まない使用済み潤滑油組成物に比べて、特に少なくとも2%、好ましくは少なくとも4%上昇させる目的のための、特に上記に定義するような少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用に関し、前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の間、好ましくは、車両が走行する10,000km~30,000kmの距離にわたって使用される。
【0133】
本発明によれば、本発明による潤滑油組成物の特定の、有利な、又は好ましい特徴は、特定の、有利な、又は好ましい本発明による使用を定義することも可能にする。
【0134】
明細書全体にわたって、請求の範囲を含めて、表現「を含む(including a)」は、別段の指定がない限り、「少なくとも1つを含む(including at least one)」と同義であると理解されるべきである。
【0135】
用語「・・・と・・・との間(between... and...)」、「・・・から・・・を含む(comprises from... to...)」、「・・・から・・・まで形成された(formed from... to...)」、及び「・・・から・・・に及ぶ(ranging from... to...)」は、特に断りのない限り、限界値を含むと理解されるべきである。
【0136】
明細書及び実施例において、特に指示のない限り、パーセントは質量パーセントである。従って、パーセントは、潤滑油組成物の全質量に対する質量パーセントとして表される。温度は、特に断りのない限り、摂氏で表され、圧力は、特に指示のない限り、大気圧である。
【0137】
次に、本発明を以下の実施例により説明するが、言うまでもなく、以下の実施例は本発明の非限定的な例示として提示される。
【実施例】
【0138】
方法
潤滑油を劣化させる方法
以下の実施例で使用する油を模擬劣化にかけた。このシミュレーションは、GFCLu43A-11法に従って、170℃で144時間、鉄100ppmで触媒された油の酸化によって行われる。
【0139】
早期着火傾向の実験室測定
以下に詳述する実施例において、早期着火傾向を発熱反応の開始温度に関して決定する。発熱反応の開始温度は、HPDSC(高圧示差走査熱量測定)によって測定する。
【0140】
この測定を、以下に詳述する手順に従ってメトラー・トレド社のLG3300 machineを使用して行う。
・分析するサンプル2±0.05mgをタンクに量り取る;
・オープンサンプル及び対照を検知器の表面に置く;
・セルを機械的に密閉する;
・1~20barの圧力をセルに加える;
・20℃~80℃、好ましくは30℃~70℃の測定開始温度にてサンプル温度を平衡に保ち、1~15分間、好ましくは2~10分間維持する;
・少なくとも1つの温度傾斜を、開始温度と100℃~400℃、好ましくは150℃~350℃、より優先的には200℃~300℃の温度との間でサンプルに適用する。
【0141】
STAReソフトウェア等のソフトウェアによって、サンプルと対照との間の熱交換の差を視覚化することが可能となる。
【0142】
このようにして得られた曲線上の発熱の発生温度は、LSPI等の早期着火の現象に関連している。
【0143】
この温度は時間に相関する。従って、温度がより高いほど、潤滑油組成物の使用の間の燃焼室内での早期着火はより遅くなる。
【0144】
安定性の測定
組成物の安定性は、様々な温度で保存した後の外観の変化を等級付けすることによって評価される。
潤滑油組成物の調製後、3つのサンプルを試験管に分配し、試験管を閉じる。
これらの試験管を、以下の条件下で3か月間保存する。
・1本は約60℃に保たれた恒温槽に保存、
・1本は常温で保存、
・1本は約0℃の冷蔵室に保存。
最初の1ヵ月間は、1日目、3日目に等級付けを行い、その後は1週間に1回、その後は2週間に1回等級付けを行う。等級が5になったサンプルは、3ヶ月の保存期間が終了する前であっても廃棄される。
【0145】
評価は3つの基準:
・透明度:試験管をそのままの状態で可視化し、
・沈殿物の一般的評価:試験管をひっくり返して、沈殿物を評価し、
・沈殿物の形態、
に従って行われる。
沈殿物の形状に応じて、沈殿物の直径(D)及び/または厚さ(E)を決定することも可能である(単位:mm)。
これら3つの基準のそれぞれについて得られた等級付け結果の関数として、組成物は安定または不安定であると定義される。
【0146】
実施例1:潤滑油組成物の調製
潤滑油組成物A0~A4を調製した。
これらの組成物の100℃での動粘度を、標準規格ISO 3104に従って決定し、自己着火に対する傾向に関して、これらの特性を測定した。
【0147】
組成物の詳細を以下の表2(TABLE 2)に示す。ここでは、様々な化合物の割合は、質量パーセントとして示される。
【0148】
【0149】
組成物は、表2(TABLE 2)に詳述した化合物を30~40℃程度の温度で混合することによって調製する。
このように調製した潤滑油組成物の100℃での動粘度値は、エンジン、特に車両エンジンにおけるこれらの使用に適している。
その後、潤滑油組成物を、以上に詳述した手順(劣化方法)に従って劣化させる。
【0150】
実施例2:潤滑油組成物のLSPI性能の評価
発熱反応開始温度(着火温度)を、実施例1の各潤滑油組成物について、以上に定義される測定法(実験室早期着火傾向法)に従って測定した。
結果を以下の表3(TABLE 3)に示す。
【0151】
【0152】
本発明による組成物A1からA4は、モリブデンジチオカルバメートまたはメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)を含み、本発明によって必要とされるジチオカルバメート化合物を全く含まない同様の潤滑油組成物(対照潤滑油組成物A0)よりも、高い着火温度を有する。
【0153】
従って、これらの測定によって、劣化した潤滑油組成物に少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を添加することにより、潤滑油組成物の劣化をシミュレーションした条件下で、エンジンにおけるその使用の際に、早期着火、特にLSPIを著しく遅らせることが可能となることを実証することができる。
【0154】
以下の実施例において、潤滑油組成物を調製し、いかなるジチオカルバメート化合物も含まない対照潤滑油組成物と比較してテストした。
【0155】
この対照組成物について、100℃での動粘度を標準規格ISO 3104に従って決定した。その後、組成物を、上述の触媒劣化手順に従って劣化させた。最後に、発熱反応開始温度(着火温度)を、上記で定義する測定法(実験室早期着火傾向方法)に従って測定した。
【0156】
対照組成物の詳細(質量パーセント)及び得られた結果を以下の表4(TABLE 4)に示す。
【0157】
【0158】
実施例3:潤滑油組成物の調製
潤滑油組成物B0からB7を調製した。
特に、組成物B0は、ジチオカルバメート化合物の含有量が1質量%を超えるため、本発明の範囲外である。
組成物B1からB7は、本発明に従う。
これらの100℃での動粘度を、標準規格ISO 3104に従って決定した。
組成物の詳細を、以下の表5(TABLE 5)に示す。この表には、様々な化合物の割合は、質量パーセントで示される。
【0159】
【0160】
組成物を、表5(TABLE 5)に詳述した化合物を30~40℃程度の温度で混合することによって調製する。
このように調製した潤滑油組成物の100℃での動粘度値は、エンジン、特に車両エンジンでのこれらの使用に適している。
その後、潤滑油組成物を、上述した手順(劣化法)に従って劣化させる。
【0161】
実施例4:潤滑油組成物の性能の評価
発熱反応開始温度(着火温度)を、実施例3の各潤滑油組成物について、以上に定義される測定法(実験室早期着火傾向法)に従って測定した。
各潤滑油組成物の安定性もまた、以上に定義される手順(安定性測定)に従って評価した。
その結果を以下の表6(TABLE 6)に示す。
【0162】
【0163】
モリブデンジチオカルバメートを1質量%以下の含有量で含む、本発明による組成物B1からB7は、曇りが出現して安定性の等級が低い組成物B0とは対照的に、優れた安定性を示す。
しかるに、これらの測定により、劣化した潤滑油組成物に少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を1質量%以下の含有量で添加することによれば、経時的に安定した潤滑油組成物を得ることが可能であると、実証することができる。
【0164】
さらにまた、組成物B1からB7は、いずれも、上記の対照組成物について得られるものよりも高い着火温度を有しており、したがって、潤滑油組成物の劣化をシミュレーションした条件下で、エンジンにおけるその使用の際に、早期着火、特にLSPIを著しく遅らせることが可能となることを実証することができる。
着火温度に関する結果は、組成物中のジチオカルバメート化合物の含有量が0.01質量%を超える場合に特により良好である。
【0165】
実施例5:潤滑油組成物の調製
本発明に従う潤滑油組成物C1及びC2を調製した。
100℃でのこれらの動粘度を、標準規格ISO 3104に従って決定した。
組成物の詳細は、以下の表7(TABLE 7)に示す。ここでは、様々な化合物の割合は、質量パーセントとして示される。
【0166】
【0167】
組成物は、表7に詳述した化合物を30~40℃程度の温度で混合することによって調製する。
このように調製した潤滑油組成物の100℃での動粘度値は、エンジン、特に車両エンジンにおけるこれらの使用に適している。
その後、潤滑油組成物を、以上に詳述した手順(劣化方法)に従って劣化させる。
【0168】
実施例6:潤滑油組成物の評価
発熱反応開始温度(着火温度)を、実施例3の各潤滑油組成物について、以上に定義される測定法(実験室早期着火傾向法)に従って測定した。
各潤滑油組成物の安定性もまた、以上に定義される手順(安定性測定)に従って評価した。
その結果を以下の表6(TABLE 6)に示す。
【0169】
【0170】
本発明による組成物C1及びC2は、安定であり、対照組成物について測定されるものよりも高い着火温度を有しており、したがって、潤滑油組成物の劣化をシミュレーションした条件下で、エンジンにおけるその使用の際に、早期着火、特にLSPIを著しく遅らせることが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、及び
(ii)少なくとも1つの基油
を含む潤滑油組成物の、車両のエンジ
ンにおいて、早期着
火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記潤滑油組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の
間にわたって使用され、
ジチオカルバメート化合物の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下である、潤滑油組成物の使用。
【請求項2】
前記ジチオカルバメート化合物が、金属ジチオカルバメート、ビスジチオカルバメート、およびこれらの混合物か
ら選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ジチオカルバメート化合物の含有量が、組成物の全質量に対して
、0.02質量%から1質量
%の範囲である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記基油が、III群の油、IV群の油、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記潤滑油組成物が、請求項1または2に定義されるジチオカルバメート化合物とは相違
する、少なくとも1つの酸化防止添加剤を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の全質量に対して酸化防止添加剤を0.05質量%~2質量
%含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記潤滑油組成物が、アルカリ土類金属塩か
ら選択される、少なくとも1つの洗浄添加剤を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記潤滑油組成物が、水素化又は非水素化ホモポリマー又はコポリマー、スチレン、ブタジエン、及びイソプレンから選択さ
れる、少なくとも1つの粘度指数向上添加剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の全質量に対して2質量%~15質量%の粘度指数向上添加剤を含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における
、少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
車両のエンジ
ンにおいて、早期着
火を防止及び/又は低減するための使用であり、前記潤滑油組成物が、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の
間にわたって使用される、使用。
【請求項11】
少なくとも1つの基油を含む潤滑油組成物における
、少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の
間にわたって使用された後の前記潤滑油組成物の、車両のエンジ
ンにおける、早期着
火の防止及び/又は低減に関する性能の劣化を抑制するための、使用。
【請求項12】
少なくとも1つのジチオカルバメート化合物の使用であって、
高圧示差走査熱量測定によって測定される潤滑油組成物の着火温度を、いかなるジチオカルバメート化合物も含まない使用済み潤滑油組成物と比べて
、上昇させることを目的とし、前記組成物は、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の
間にわたって使用される、使用。
【請求項13】
車両のエンジ
ンにおける早期着
火を防止及び/又は低減する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)前記エンジンを少なくとも1つの基油及び少なくとも1つのジチオカルバメート化合物を含む潤滑油組成物に接して設置する工程であって、前記ジチオカルバメート化合物が、潤滑油組成物の全質量に対して1質量%以下の含有量で存在する工程;
b)前記エンジンを、新品の潤滑油組成物を添加することなく、少なくとも1回のオイル交換間隔の
間にわたって作動させる工程
を含む、方法。
【請求項14】
前記潤滑油組成物が、請求項2~9のいずれか一項に定義される通りである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)少なくとも1つのジチオカルバメート化合物、及び
(ii)少なくとも1つの基油
を含む潤滑油組成物の、車両のエンジ
ンにおける、早期着
火を防止及び/又は低減するための使用であって、
前記組成物は、GFC Lu-43A-11法に従って
、150℃~170℃で
、120時間~150時間の間、鉄触媒酸化されて
いる、潤滑油組成物の使用。
【国際調査報告】