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特表2022-519700間葉系幹細胞のエクソソーム、滑膜間葉系幹細胞、及び足場の併用による変形性関節症の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞のエクソソーム、滑膜間葉系幹細胞、及び足場の併用による変形性関節症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220316BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220316BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220316BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P19/02
A61P17/06
A61P31/00
A61P29/00 101
A61P19/06
A61P19/04
A61K9/06
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546214
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(85)【翻訳文提出日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 US2020017341
(87)【国際公開番号】W WO2020163803
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】62/802,310
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/908,853
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520469516
【氏名又は名称】ダイレクト バイオロジクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】ペティネ,ケネス アレン
(72)【発明者】
【氏名】モーズリー,ティモシー アレキサンダー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4C076AA06
4C076AA09
4C076BB11
4C076CC09
4C076CC21
4C076CC31
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BB70
4C087CA04
4C087CA05
4C087MA02
4C087MA27
4C087MA28
4C087MA56
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB15
4C087ZB31
4C087ZC31
(57)【要約】
変形性関節症を治療する方法であって、1段階での関節鏡下処置であり得、また擦過デバイスを用いて滑膜の間葉系幹細胞(MSC)を滑膜から剥離することと;影響を受けた関節における関節軟骨を足場で覆うことと;影響を受けた関節内に濃縮されたMSCエクソソームを入れて滑膜MSCの関節軟骨細胞への分化を刺激することとを含み得る方法を、本明細書において開示する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における1又は複数の関節に影響を及ぼす疾患、障害、損傷又はその症状を、治療、阻害、軽減、改善、及び/又は予防する方法であって、治療有効量の間葉系幹細胞(MSC)エクソソーム調製物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
疾患又は障害は、変形性関節症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、感染性関節炎、リウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、痛風、滑液包炎、腱症、腱炎、捻挫、関節唇断裂、腱の断裂、及び/又は靭帯の断裂を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記関節は、足首、膝、股関節、手首(writs)、肘、肩、手指関節及び/又は首を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
MSCエクソソーム調製物を、障害、疾患、又は損傷によって影響を受ける各関節に投与する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
MSCエクソソーム調製物は、MSCから得られた成長因子をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
MSCエクソソームは、注射、MSCエクソソームを保持する足場、ハイドロゲル、及び/又は外用薬もしくは軟膏により投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年10月1日出願の米国仮出願第62/908,853号及び2019年2月7日出願の米国仮出願第62/802,310号の出願の利益を主張するものであり、これら出願は、その全体として参照により本明細書において援用する。
変形性関節症(OA)は、例えば炎症、疼痛、及び機能の制限等の症状を招く、身体におけるいずれかのジョインの障害である。米国内においても最もよくある慢性疾患である。大部分の関節炎は、膝又は股関節で生じ、足首及び肩の関節がそれに続く。さらに、指節関節及び親指の付け根の関節炎が非常によく見られる。
【0002】
OAはまた、消耗関節炎とも呼ばれて関節炎の原因として群を抜いて最もよくあるものである。65年にわたって米国内の成人の約3分の1が、常用薬剤を必要とするポイントまで関節炎を患っている。症状には、稼働中又は稼働後の関節痛、関節押圧時の圧痛、骨のきしみ感又は骨がこすれる音、及び例えば就寝又は着席等の活動していない時間の後での関節のこわばり感が含まれる。
【背景技術】
【0003】
膝OAの病因は、膝関節の軟骨の生体力学的及び生化学的な変化(例えば通常の機械的ストレスに耐えることができないこと、栄養素及び酸素の供給制限、細胞外マトリックス成分の不十分な合成、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ及びアグリカナーゼ(aggrecanase)等の組織破壊プロテイナーゼの合成の増加、ならびに軟骨細胞の全体的なアポトーシス)に関連しているものであった。近年、滑膜炎もまた膝軟骨修復を制限する要因として認められた。さらに、例えば膝の腫脹及び炎症痛等の膝OAの臨床兆候に関連する。滑膜炎は、滑液腔に入っていく軟骨破片及び分解性の介在物(catabolic mediator)に対する滑膜マクロファージの反応であると考えられている。
【0004】
関節軟骨は、無神経且つ無血管性の両方である。軟骨はそれ自体として、疼痛、炎症、こわばり感、又はOA患者が通常訴える症状のいずれをも直接生じさせることはできない。上記は全て既知の情報であるが、OAの痛みの正確な原因は、完全に理解されているわけではない。
【0005】
したがって滑膜炎を止めて、それによりOAの疼痛を除去するように、関節軟骨を正常な生理的状態に回復させる方法が要望されている。
【発明の概要】
【0006】
関節に影響を及ぼす、疾患、障害及び損傷の治療に使用する、間葉系幹細胞(MSC)エクソソーム組成物に関する方法及び組成物を開示する。
【0007】
一態様においては、本明細書においては、対象における1又は複数の関節(例えば、足首、膝、臀部、手首(writs)、肘、肩、手指関節及び/又は首等)に影響を及ぼす疾患、障害、損傷(例えば、変形性関節症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、感染性関節炎、リウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、痛風、滑液包炎、腱症、腱炎、捻挫、関節唇断裂、腱の断裂、及び/又は靭帯の断裂等)又はその症状(例えば、疼痛、炎症、及び/又は腫脹等)を治療、阻害、軽減、改善、及び/又は予防する方法であって、治療有効量の間葉系幹細胞(MSC)エクソソーム調製物を対象に投与することを含む当該方法を開示する。
【0008】
本明細書においては、MSCエクソソーム調製物を、障害、疾患、又は損傷によって影響を受ける各関節に投与するものである、上記した態様のいずれかの方法を開示する。
【0009】
一態様においては、MSCエクソソーム調製物が、MSCから得られた成長因子(例えば、プロスタグランジンE2(PGE2)、トランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)、肝細胞成長因子(HGF)、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、一酸化窒素、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ、インターロイキン-4(IL-4)、IL-6、インターロイキン-10(IL-10)、IL-1受容体拮抗薬及び溶解性TNF-α受容体、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子(FGF)1~23(特に、FGF1及びFGF2)、骨形成タンパク質(BMP)1~15、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)マクロファージ刺激タンパク質(MSP)、血小板由来成長因子(PLGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インスリン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ならびに/又はエストロゲン及び甲状腺ホルモンを含むホルモン)をさらに含むものである、上記した態様のいずれかの方法を本明細書において開示する。
【0010】
本明細書においては、当該MSCエクソソームは、注射、MSCエクソソームを担持する足場、ハイドロゲル、及び/又は外用薬もしくは軟膏により投与される、上記した態様のいずれかの方法もまた開示する。
【0011】
添付の図面は、本明細書で援用され、その一部を構成するものであるが、いくつかの実施形態を説明し、本明細書と共に開示の組成物及び方法を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】BPI及びODIが低いほど改善を示し、LEFSスコアが高いほど改善を示す。
図2】Kellgren-Lawrence分類グレード4である肩甲上腕関節の変形性関節症を示す処置前の肩のX線画像を示す。
図3】BPI及びQuickDashが低いほど改善を示し、UFEIスコアが高いほど改善を示す。
図4】OAに対するMSCエクソソーム治療の図を示す。
図5】骨盤のX線画像を示す。
図6図6Aは、橈尺関節及び上腕骨の腕尺関節のKellgren-Lawrence分類のグレード3の変化を示す右肘のX線画像を示す。図6Bは、正常な左肘のX線画像を示す。
図7】EVIP投与後の肘の可動域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法を開示し記載する前に、これらは、別段に特定しない限り特定の合成方法もしくは特定の組換えバイオテクノロジー方法、別段に特定しない限り又は特定の試薬に限定されるものではなく、もちろんそれなりに変動し得るものであることを理解されたい。本明細書において用いる専門用語は、特定の実施形態を単に記述する目的のためであり、限定する意図はないこともまた理解されたい。
【0014】
A.定義
明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形“a”、“an”及び“the”は、文脈で別を明記していない限り、複数形も含める。すなわち、例えば「薬剤キャリア」といえば、2以上の当該キャリアの混合物等を含める。
【0015】
本明細書において、範囲は、「約」をつけた1つの特定の値から、及び/又は「約」をつけた別の特定の値までというように表現することがある。当該範囲が表されるとき、別の実施形態では、一方の特定の値から、及び/又は他方の特定の値までを含める。同様に、先行する「約」を用いることで近似として値が表されるときは、当該特定の値が別の実施形態を形成するということが理解される。当該範囲のそれぞれの各終端は、そのもう一方の終端に対していずれも重要であり、そのもう一方の終端とは別個であるということがさらに理解されるであろう。本明細書において開示される値は複数あり、各値はまた、本明細書においてその値そのものに加えて「約」をつけたその特定の値として開示するということもまた理解される。例えば、「10」の値を開示するならば、「約10」もまた開示される。ある値を開示するとき、当業者に適宜に理解されるように、その値「以下」、「その値以上」及び値間の取り得る範囲もまた開示されるということも理解される。例えば、「10」の値を開示するならば、「10」以下のみならず「10」以上もまた開示される。本願全体にわたって、いくつかの異なるフォーマットでデータを提供し、またこのデータが、終端及び開始点を表し、またデータポイントのいずれかの組み合わせの範囲にわたるということも理解される。例えば、特定のデータポイント「10」及び特定のデータポイント15を開示するならば、10~15の間であるのと同様に、10及び15を超える、10及び15以上、10及び15未満、10及び15以下、ならびに10及び15と等しいということも検討されることを理解される。2つの特定のユニットの間の各ユニットもまた開示されるということも理解されたい。例えば、10及び15が開示されるならば、11、12、13及び14もまた開示される。
【0016】
本明細書においては、「対象」の語は、例えば哺乳類等の動物を含むように規定され、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等を含めるが、これに限定されない。一部の実施形態においては、対象はヒトである。
【0017】
対象への「投与」には、対象にある薬剤を導入又は送達する任意の経路が含まれる。投与は、経口、局所、静脈内、皮下、経皮的、経皮、筋肉内、関節内、非経口的、細動脈内、関節内、皮内、脳室内、頭蓋内、腹腔内、病巣内、鼻腔内、直腸内、膣内、吸入で、植え込みリザーバ経由、非経口的(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、くも膜下腔内、腹腔内、肝内、病巣内、及び頭蓋内の注射又は点滴の技術)等を含めた任意の好適な経路で行うことが可能である。本明細書で用いる場合、「併用投与」、「組み合わせ投与」、「同時投与」又は「同時に投与される」は、各化合物を、互いに同じ時点で又は実質的に直後に、投与することを意味する。後者の場合では、2つの化合物が、十分に近い時点であって、得られる結果が両化合物を同じ時点で投与した場合に達成される結果と違いがないものである、当該時点で投与される。「全身投与」は、例えば循環系又はリンパ系への入り口を介して、対象の身体の広範囲(例えば、身体の50%を超える)に薬剤を導入又は送達する経路を介して、薬剤を対象に導入又は送達することを指す。対照的に、「局所投与(局所施与)」は、投与点の領域又は投与点の直ぐ隣の領域に薬剤を導入又は送達する経路を介して、薬剤を対象に導入又は送達することを指すのであり、治療上有意な量で全身的に薬剤を導入するものではない。例えば、局所投与される薬剤は、投与点の局所近傍で容易に検出可能であるが、対象の身体の遠位の部分では検出できないか又はごく少量が検出可能である。投与には、自己投与及び他者により投与が含まれる。
【0018】
「生体適合性」は、概して、レシピエントに対して概して無毒であり、また当該対象に対して有意な副作用を引き起こさないような材料、及びそのあらゆる代謝産物又は分解産物を指す。
【0019】
「~を含む(comprising)」は、組成物、方法等が、記載されている要素を含むが、その他のものを除外しないことを意味することを意図する。組成物及び方法を規定するために用いる場合、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、記載されている要素を含むが、その組み合わせに対して任意の本質的に重要である他の要素を除外することを意味するものである。すなわち、本質的に本明細書において規定するような要素からなる組成物は、単離及び精製方法からの微量汚染物質ならびに例えばリン酸緩衝食塩水、防腐剤等の薬剤的に許容できる担体を除外しないものとする。「~からなる」は、他の材料の微量の要素及び本発明の組成物を投与するための実質的な方法ステップ以上のものを除外することを意味するものとする。これら移行句のそれぞれによって規定される実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0020】
「対照」は、比較の目的の実験において用いる別の対象又はサンプルである。「陽性」又は「陰性」の対照があり得る。
【0021】
薬剤の「有効量」は、所望の効果をもたらすのに十分な薬剤の量を指す。「有効」である薬剤の量は、対象間で変動することとなり、例えば対象の年齢及び全身症状等である多数の因子、特定の薬剤等に左右される。すなわち、定量された「有効量」を特定することが常に可能であるとは限らない。しかしながら、任意の対象の症例における適切な「有効量」は、通例の実験により当業者によって決定されてよい。また、本明細書で用いる場合、また別段で特に明示しない限り、「有効量」の薬剤は、治療上有効な量と、予防上有効な量との両方をカバーする量を指すこともできる。治療効果を達成するために必要である薬剤の「有効量」は、例えば対象の年齢、性別及び体重等の因子に応じて変動し得る。投与計画は、最適な治療応答を提供するように調節することができる。例えば、いくつかに分割した用量を毎日投与してもよく、又は投与量は、治療状況の危急によって示唆されるように比例的に減少されてもよい。
【0022】
「減少する」は、より少ない遺伝子発現、タンパク質産生、又は症状、疾患、組成物、状態もしくは活性の量を結果的にもたらすあらゆる変化を指し得る。ある物質はまた、当該物質を含む遺伝子産物の遺伝的な出力が、当該物質を含まない遺伝子産物の出力と比較したときに少ない場合に、ある遺伝子の遺伝的な出力を減少させると理解される。また例えば、減少は、ある障害の症状が以前の観察よりも少なくなるように当該症状が変化することであり得る。減少は、統計学的に有意な分量である状態、症状、活性、組成における、あらゆる個々の、中位の又は平均の減少であり得る。すなわち、当該減少は、その減少が統計学的に有意である限り、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100%の減少であり得る。
【0023】
「阻害する」、「阻害すること」及び「阻害」は、活性、応答、症状、疾患又は他の生物学的なパラメータが減少することを意味する。これは、活性、応答、症状又は疾患の完全な消失も含み得るがこれに限定されない。これはまた、例えば、天然又は対照のレベルと比較して、活性、応答、症状又は疾患が10%減少することを含み得る。すなわち、減少は、天然又は対照のレベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%の減少又は二者間の任意の量の減少であり得る。
【0024】
本明細書で用いる場合、「治療する」、「治療すること」、「治療」及びその文法的な変化形は、1又は複数の疾患もしくは状態、疾患、障害、損傷もしくは状態の症状、又は疾患もしくは状態の根底にある原因の強度又は頻度を、部分的に又は完全に、予防する、遅延させる、回復させる、治癒する、軽減する、解放する、変化させる、改善する、寛解させる、向上させる、安定させる、鎮める、及び/又は減少させる意図又は目的とした組成物の投与を含む。本発明による治療は、防止的に、予防的に、緩和的に、又は救済的に適用されてもよい。予防的治療は、発症前(例えば、がんの明らかな兆候の前)に、早期発症中(例えば、がんの初期の兆候及び症状と同時)に、又はがんの発生確立後で、対象に対して施与される。予防的な施与は、感染の症状の発現の前に、複数の日数から年数の間に行うことが可能である。
【0025】
本明細書で用いる場合、「予防する」、「予防すること」、「予防」の語及びその文法的な変化形は、疾患及び/もしくは1以上のその付随する症状の発症もしくは再発を、部分的もしくは完全に遅延もしくは防止する方法、又は対象の疾患の獲得もしくは再獲得を部分的もしくは完全に防止する方法、又は疾患もしくは1以上のその付随する症状を獲得もしくは再獲得する対象のリスクを部分的もしくは完全に軽減する方法を指す。
【0026】
「薬剤的に許容できる」成分は、生物学的に又はそれ以外で望ましくないものではない成分を指し得、すなわち当該成分は、有意な望ましくない生物学的作用を引き起こすことなく又は含有される製剤中の他の成分のいずれかと有害に相互作用することなく、本発明の医薬製剤に組み込まれ得、そして本明細書に記載するように対象に投与され得る。ヒトへの投与での言及で用いる場合、当該語は、概して、その成分が、毒性及び製造試験の必要な基準に合致したこと又はアメリカ食品医薬品局によるInactive Ingredient Guideにそれが含まれていることを含意する。
【0027】
「薬剤的に許容できる担体」(「担体」と呼ぶこともある)は、概して安全且つ無毒であり、獣医学の及び/又はヒトの薬剤的又は治療的な使用に許容できる担体を含む、薬剤的又は治療的な組成物を調製する際に有用である担体又は賦形剤を意味する。「担体」又は「薬剤的に許容できる担体」の語は、リン酸緩衝食塩水溶液、水、エマルジョン(例えば、油/水、又は水/油のエマルジョン等)及び/又は様々なタイプの湿潤剤を含むことが可能であるがこれに限定されない。本明細書において用いる場合、「担体」の語は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、脂質、安定剤、又は医薬製剤で用いられる技術分野で周知であり本明細書にさらに記載するような他の材料を包含するがこれに限定されない。
【0028】
「薬理学的に活性」な誘導体又はアナログでのような「薬理学的に活性」(又は単に「活性」)は、親化合物と同じ種類でほぼ同程度の薬理学的な活性を有する誘導体又はアナログ(例えば、塩、エステル、アミド、複合体、代謝産物、アイソマー、フラグメント等)を指し得る。
【0029】
「治療薬」は、有益な生物学的効果を有する任意の組成物を指す。有益な生物学的効果には、例えば障害又は他の望ましくない生理的状態の治療である治療効果と、例えば障害もしくは他の望ましくない生理的状態(例えば、非免疫原性のがん)の予防である予防的効果との両方が含まれる。当該語はまた、本明細書において具体的に言及する有益な薬剤の、薬剤的に許容でき、薬理学的に活性な誘導体も包含するものであり、塩、エステル、アミド、プロエージェント(proagent)、活性代謝産物、アイソマー、フラグメント、アナログ等が含まれるがこれに限定されない。そして「治療薬」の語を用いる場合には、又は特定の薬剤が具体的に特定されている場合、当該語には、薬剤それ自体を含むのみならず、薬剤的に許容でき、薬理学的に活性な塩、エステル、アミド、プロエージェント(proagent)、複合体、活性代謝産物、アイソマー、フラグメント、アナログ等が含まれることを理解されたい。
【0030】
組成物(例えば、ある薬剤を含む組成物)の「治療有効量」又は「治療有効用量」は、所望の治療結果を達成するのに有効である量を指す。一部の実施形態においては、所望の治療結果は、I型糖尿病の制御である。一部の実施形態においては、所望の治療結果は、肥満の制御である。所与の治療薬の治療有効量は、典型的には、例えば治療対象である障害又は疾患の種類及び重症度、ならびに対象の年齢、性別及び体重等の因子に応じて変動することとなる。当該語はまた、例えば疼痛(すなわち、痛覚)の緩和等である所望の治療効果を促進するのに有効である、治療薬の量、又は治療薬の送達速度(例えば、時間に対する量)を指し得る。正確な所望の治療効果は、治療対象である症状、対象がもつ耐性、投与する薬剤及び/又は薬剤の製剤(例えば、治療薬の有効性、製剤中における薬剤の濃度等)、ならびに当業者により認識されている種々の他の因子に応じて変動することとなる。一部の例においては、所望の生物学的又は医学的な反応は、ある日数、週、又は年の期間にわたって組成物の複数用量を対象に投与した後で達成される。
【0031】
本明細書及び続く特許請求の範囲においては、以下の意味を有するように規定するものとするいくつかの語への言及がなされることとなる:
【0032】
「任意の」又は「任意に」は、それに続いて記載される事象又は状況が発生してもよく又はしなくてもよいこと、ならびにその記載が、上記事象及び状況が発生するような場合及びそれが発生しない場合を含むことを意味している。
【0033】
本願全体を通して、様々な文献を参照している。これら文献の開示は、本願が関係する技術分野の状態をより完全に記述するために、それら全体として本明細書で参照により本願に援用するものである。開示の参考文献はまた、当該文献に含まれる物質であって、参考文献が引用された文章において論じられている当該物質に関して、本明細書において参照により別個に且つ具体的に援用する。
【0034】
開示の組成物を調製するために用いる成分のみならず、本明細書で開示する方法の範囲内において用いる組成物それ自体が開示される。これらの物質及び他の物質は本明細書において開示され、またこれら物質の組み合わせ、サブセット、相互作用、群等が開示される場合、これら化合物の様々な個々の及び集合的な組み合わせ及び並べ替えの具体的な言及は明示的に開示されていないかもしれないが、それぞれが本明細書に具体的に検討され、記載されているものと理解されたい。例えば、細胞外小胞単離物(EVIP(extracellular vesicle isolate product))として、本明細書で言及される特定のMSCエクソソーム(成長因子があるもの又はないもの)が開示されて論じられており、EVIPを含むいくつかの分子に対してなされ得るいくつかの変形が論じられており、詳細には、それと反対の内容が具体的に示されていない限り、EVIPの組み合わせ及び並べ替えのそれぞれ及び全てと可能性のある変形とが検討される。すなわち、分子A、B及びCのクラスが開示され、ならびに分子D、E及びFのクラスが開示され、そして組み合わせ分子A-Dの例が開示されているならば、それぞれが個々に記載されていなかったとしても、それぞれは、個々に又は集合的に検討され、これは組み合わせA-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E及びC-Fが検討され開示されていることを意味する。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせも開示されている。すなわち、例えばA-E、B-F及びC-Eのサブグループが、検討され開示されることとなる。この概念は、開示の組成物を作製及び使用する方法におけるステップを含めるがこれに限定されない、本願の全ての態様に適用される。すなわち、実施され得るさらなるステップが種々存在するならば、これらさらなるステップのそれぞれが、開示の方法のうちのいずれかの特定の実施形態又は実施形態の組み合わせと共に実施することが可能であるということが理解される。
【0035】
B.変形性関節症の治療方法
関節軟骨と対照的に、滑膜包及び関節包は、十分に神経支配されているので、OAでの疼痛の主要な根源となっているようである。OAにおける髄膜の反応は、滑膜の過形成、線維症、滑液包の肥大、活性化滑膜細胞、及び一部の場合においては、リンパ球浸潤(B細胞、及びT細胞、ならびに形質細胞)が含まれる。滑膜は、関節の最も高密度に神経支配された構造のうちのひとつとして明らかに関連があるものである。滑膜の疼痛の原因には、骨棘よりの滑膜内での感覚神経終末の刺激、ならびに少なくとも一部でプロスタグランジン、ロイコトリエン、プロテイナーゼ、神経ペプチド、及びサイトカインの放出に起因する滑膜炎が含まれる。炎症誘発性の例としては、種々の腫瘍壊死因子に加えてインターロイキン1、6及び8が挙げられる。膝蓋下脂肪体からの滑膜炎の半定量的な測定は、疼痛の重症度と関連している。滑膜炎が減少することはいずれも、OAの疼痛の重症度の減少と関連している。
【0036】
骨髄が広く知られたMSC源であると考えられている事実にもかかわらず、様々な研究で、MSCは、滑膜を含めた様々な成人の間葉組織から単離することが可能であることが報告されている。研究により、滑膜由来のMSCが、インビトロでの高い増殖能及び多系列分化能を有するということが示されている。また研究により、骨髄、滑膜、骨膜、脂肪組織、及び筋肉に由来するヒトMSCを比較して、滑膜由来のMSCが、他の組織のMSCよりも、インビトロでの高い増殖能及び軟骨形成能を有するということが決定された。このことは、滑膜由来のMSCが、軟骨再生源として優れているということを示唆している。
【0037】
研究により、滑膜のMSCは、擦過技術を用いて滑膜から剥離することが可能であり、それにより結果として、滑液に存在する滑膜MSCの数が顕著に増加することが示されている。
【0038】
一態様においては、対象における1又は複数の関節(例えば、足首、膝、臀部、手首(writs)、肘、肩、手指関節及び/又は首)に影響を及ぼす疾患、障害、損傷(例えば、変形性関節症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、感染性関節炎、リウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、痛風、滑液包炎、腱症、腱炎、捻挫、関節唇断裂、腱の断裂、及び/又は靭帯の断裂等)又はその症状(例えば、疼痛、炎症、及び/又は腫脹等)を治療、阻害、軽減、改善、及び/又は予防する方法であって、治療有効量の間葉系幹細胞(MSC)エクソソーム調製物を対象に投与することを含む当該方法を本明細書において開示する。
【0039】
一態様においては、対象における1又は複数の関節(例えば、足首、膝、臀部、手首(writs)、肘、肩、手指関節及び/又は首)に影響を及ぼす疾患、障害、損傷(例えば、変形性関節症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、感染性関節炎、リウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、痛風、滑液包炎、腱症、腱炎、捻挫、関節唇断裂、腱の断裂、及び/又は靭帯の断裂等)又はその症状(例えば、疼痛、炎症、及び/又は腫脹等)を治療、阻害、軽減、改善、及び/又は予防する方法であって、MSCエクソソーム調製物(本明細書においてはEVIPとも称する)が、MSCから得られた成長因子(例えば、プロスタグランジンE2(PGE2)、トランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)、肝細胞成長因子(HGF)、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、一酸化窒素、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ、インターロイキン-4(IL-4)、IL-6、インターロイキン-10(IL-10)、IL-1受容体アンタゴニスト及び溶解性TNF-α受容体、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子(FGF)1~23(特にFGF1及びFGF2)、骨形成タンパク質(BMP)1~15、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)マクロファージ刺激タンパク質(MSP)、血小板由来成長因子(PLGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インスリン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ならびに/又はエストロゲン、及び甲状腺ホルモンを含めたホルモン)をさらに含むものである当該方法を、本明細書において開示する。
【0040】
開示するMSCエクソソーム治療が関節に対して疾患、障害、損傷又は状態を治癒する力がない可能性があり、また損傷、疾患又は障害を減少又は阻害する可能性があるということが理解され、本明細書において検討される。一態様においては、MSCエクソソーム調製物は、疾患、障害又は損傷を治癒する力がある又は修復するというよりもむしろ、疾患、障害及び/又は損傷の症状(例えば、疼痛、炎症及び/又は腫脹)を減少させる。すなわち、一態様においては、対象の1又は複数の関節に影響を及ぼす疾患、障害及び/又は損傷と関連する疼痛、炎症及び/又は腫脹を治療、阻害、軽減、予防及び/又は改善する方法であって、本明細書において開示するMSCエクソソーム調製物(一部の場合においては、MSC由来の成長因子を含む)のいずれかを当該対象に投与することを含む方法が本明細書で開示される。
【0041】
当該投与は、1又は複数の影響を受けた関節に直接なされ得るということが理解され、本明細書において検討される。全体を通して記載するように、開示されるMSC由来のエクソソーム及び/又は成長因子の投与は、当業者に公知である任意の方法とすることが可能である。したがって、対象における1又は複数の関節(例えば、足首、膝、臀部、手首(writs)、肘、肩、手指関節及び/又は首等)に影響を及ぼす疾患、障害、損傷(例えば、変形性関節症、若年性関節炎、乾癬性関節炎、感染性関節炎、リウマチ性関節炎、強直性脊椎炎、痛風、滑液包炎、腱症、腱炎、捻挫、関節唇断裂、腱の断裂、及び/又は靭帯の断裂等)又はその症状(例えば、疼痛、炎症、及び/又は腫脹等)を治療、阻害、軽減、改善、及び/又は予防する方法であって、治療有効量の間葉系幹細胞(MSC)エクソソーム調製物を対象に投与することを含むものであり、当該MSCエクソソームは、注射、MSCエクソソームを保持する足場、ハイドロゲル、及び/又は外用薬もしくは軟膏により投与される、当該方法を本明細書において開示する。組織エンジニアリング分野が進歩するにつれて、新規の足場構造及び再現可能な製造技術に対する要望が、最も重要であるものとなってきた。例えばポリ乳酸(PLA)等の生分解性ポリマーを使用することが広まってきたが、これらポリマーが加工されて、製造時に添加剤を用いるようなやり方により、その足場の最終的な性質を誂えることを可能にしている。
【0042】
例えばPLA等のポリヒドロキシ酸(Poly-hydroxyl acid)及びポリ乳酸グリコール酸(PLGA)は、これら材料が加水分解によりバルク分解されて、制御可能な薬剤放出と、組織成長に適した分解プロファイルとをもたらすため、組織エンジニアリング手順で広く用いられてきたものである。分子量、架橋及び側鎖を注意深く使用することにより、材料は、組織エンジニアリングマトリックスで使用するためにそれらを理想的にさせる、誂えた特性を伴って産生させることができる。さらに、ポリヒドロキシ酸材料はまた、分解可能な縫合、薬物送達デバイス、及び生分解性の手術用構成要素としてのインビボでの使用について長い歴史がある。
【0043】
現存の足場のタイプとしては、高圧CO発泡足場、注射可能な足場、及び新規の誂えた足場が挙げられる。これらはさらに、成長因子、材料の帯状分布、及びプラズマ重合堆積を用いて改変できる。足場は、関節軟骨に隣接している滑膜MSCの残存を増強するが、これは、サイトカインの添加によって増大させることが可能である。例えば、トランスフォーミング成長因子-β3(TFG-β3)を伴うPLGAが、MSCの軟骨細胞への分化を増強する一方で、間質細胞由来因子-1α(SDF-1α)を伴うPLGAの移植は、結果として関節軟骨の修復をもたらす。すなわち、様々なサイトカインと組み合わせたPLGAの移植が、滑膜MSCの関節軟骨へのより効率的な分化を増強する。この技術により、濃縮されたMSC成長因子及びRNAが、関節周囲の足場に存在する滑膜MSCへと供給され、軟骨細胞への分化を最大化する。
【0044】
例として、本発明の一部の実施形態には、変形性関節症を治療する方法であって、関節炎の関節軟骨を正常な生理学的状態へと回復させる1段階での関節鏡下処置を含む当該方法が含まれる。詳細には、当該方法は、擦過デバイスを用いて滑膜の間葉系幹細胞(MSC)を滑膜から剥離することと、足場で関節軟骨を覆うことと、例えば膝関節等である影響を受けた関節内に濃縮されたMSCエクソソームを配置して滑膜MSCの関節軟骨細胞への分化を刺激することとを含み得る。
【0045】
実施形態においては、当該擦過デバイスは、特定の関節に関連して用いるように特に設計された関節鏡下のブラシであり得る。
【0046】
足場を、例えば膝等である関節に、関節軟骨を覆うように関節鏡下で留置すると、関節内で浮動するMSCが関節周囲の足場に付着し得る。MSCエクソソームを関節内に配置することで、成長因子及び様々なRNAを供給し、滑膜MSCの軟骨細胞への分化を刺激する。結果として、損傷した関節炎の関節軟骨を修復することができる。
【0047】
C.間葉系幹細胞
全体を通して記載するように、本明細書に開示する治療組成物は、間葉系幹細胞(MSC)由来のエクソソーム及び/又は成長因子を利用することが可能である。骨髄、骨髄濃縮物、滑膜由来の間葉系幹細胞(MSC)又は脂肪由来の間質血管細胞群(SVF)、又は臍帯、胎盤もしくは羊膜からの種々の出生後の生成物、増殖したMSC培養物の中に含有される既存の自己及び同種のMSCが、現在、負傷、整形外科的病変及び脊椎病変の治療に用いられているものであるが、既存の治療では大量のMSCセクレトーム(secretome)(成長因子、サイトカイン、ケモカイン、エクソソーム、細胞外小胞及び/又は抽出物を含めるがこれに限定されない)を含有しない。さらに幹細胞を含む治療(注射による治療を含める)が老化の予防及び瘢痕、一様でない色素沈着の治療を助け得るという当技術分野のエビデンスにもかかわらず、例えばクリーム、ローション、セラム、化粧品等の既存の皮膚用製品は、皮膚の治療及び強化を助ける可能性がある材料、他の外用製品を含む一方で、表皮に浸透せず、何よりもヒトMSC又はMSC由来の成長因子及びタンパク質を含まない。実際には、本開示より以前には、これら用途に用いることが可能である活性なMSC成長因子産物は開発されてこなかった。すなわち、一態様においては、損傷、整形外科的障害、整形外科的怪我、眼科的、脊柱損傷又は脊椎障害の治療に使用するMSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)であって、(i)間葉系幹細胞(MSC)由来の調製物を含む成長因子の粉末状添加剤と(ii)薬剤的に許容できる担体とを含む当該治療組成物を本明細書において開示する。
【0048】
上記に記載したように、MSCは、筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、及び骨芽細胞を含める複数の細胞型へと分化する能力を有する多能性細胞である。これら細胞は、典型的には、血管周囲組織を含めた、胎盤、臍帯血、脂肪組織、骨髄又は羊水中に存在し得る。本明細書において用いる場合、「MSC」は、非最終分化細胞を指し、これは多能性幹細胞、多能性間質細胞、間質血管細胞、周皮細胞、血管周囲細胞、間質細胞、万能性細胞(pluripotent cell)、多能性細胞(multipotent cell)、脂質由来の線維芽細胞様細胞、脂質由来の間質血管細胞群、脂質由来のMSC、骨髄由来の線維芽細胞様細胞、骨髄由来の間質血管細胞群、骨髄由来のMSC、組織由来の線維芽細胞様細胞、成熟幹細胞、成熟間質細胞、角化細胞、及び/又はメラニン細胞を含むがこれに限定されない。
【0049】
MSCは、それらの分化能に加えて、多数の異なるサイトカイン及び成長因子の発現を結果としてもたらす免疫調節能力を有することが長期的に認識されてきた。本明細書で用いる場合、「MSC調製物」又は「MSCセクレトーム組成物」は、MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSCの細胞外小胞もしくは無細胞抽出物、又はヒトMSCから得たMSC溶解産物、線維芽細胞様細胞、ならびにウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット及びマウスよりのMSCを含めるがこれに限定されない非ヒト動物のMSCを含む組成物を指す。実施形態においては、MSCは、組成物を適用することとなる患者の由来であり得る(自己性)か、又は別の個体の由来であり得る(同種性)。MSCは、馴化培地を回収するために、又は溶解産物のためのもしくは本開示の組成物に組み込む前に新鮮な状態で用いる細胞の量を増加するために増殖した培養物であってもよい。
【0050】
MSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)は、例えば約0.01から約10重量%等であるような約0.00001から約20重量%の間葉系幹細胞(MSC)抽出物、MSCエクソソーム、又はMSC成長因子調製物を含み得る。MSC調製物は、MSC馴化培地又は細胞培養により増殖したMSCよりのMSC溶解産物のいずれかを含み得る。一部の実施形態においては、組成物は、MSC又はMSC系列細胞の増殖により馴化した約0.01~約10重量%の無細胞培地をさらに含み得るものであり、当該細胞は、通常の過酸素培養条件下又は人工の創傷治癒条件下で培養される。
【0051】
本明細書において開示する場合、開示のMSC添加剤(凍結又は粉末状である成長因子セクレトーム組成物の添加剤を含める)を産生するために用いるMSCは、選択的に刺激されてMSC成長因子、セクレトーム、サイトカイン、ケモカイン、間葉系幹細胞タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカン、細胞外マトリックス(ECM)、プロテオグリカン、セクレトーム、及びエクソソームを産生することが可能である。本明細書で用いるように、MSC成長因子は、プロスタグランジンE2(PGE2)、トランスフォーミング成長因子β1(TGF-β1)、肝細胞成長因子(HGF)、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、一酸化窒素、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ、インターロイキン-4(IL-4)、IL-6、インターロイキン-10(IL-10)、IL-1受容体拮抗薬及び溶解性TNF-α受容体、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子(FGF)1~23(特に、FGF1及びFGF2)、骨形成タンパク質(BMP)1~15、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)マクロファージ刺激タンパク質(MSP)、血小板由来成長因子(PLGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インスリン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ならびにエストロゲン及び甲状腺ホルモンを含むホルモンを含むがこれに限定されない。
【0052】
一態様においては、MSC調製物(例えば、MSCセクレトーム組成物等)は、MSC成長因子、MSCエクソソーム、及び/又はMSCの細胞性抽出物、又は標準の過酸素培養条件下(例えば21%の酸素)で培養したMSCもしくは人工の創傷治癒条件下(例えば、炎症性サイトカイン、血管新生因子及び低下させたグルコース(reduced glucose)の存在下で0.1%から約5%の酸素等)で培養したMSCから得られたMSC溶解産物を含む。
【0053】
本明細書において開示するように、人工の創傷治癒条件は、栄養供給の低下及び通常局所的な血液循環の混乱により生じる老廃物の除去の低下が存在する場所である、実際の創傷における増殖条件を刺激する。このことが、新しい血管が生じて血液循環が回復するまで細胞にとっての過酷な環境を作り出す。したがって、MSCの培養に用いる人工の創傷治癒条件は、グルコース可用性の低下、酸素分圧の低下、pHの低下、及び温度の増加という成長条件のうちの1又は複数を含み得る。
【0054】
一態様においては、通常の制御と比較して、グルコース可用性が低下し得る。グルコースを減少させるが細胞は損傷させないように改変した培養培地は、グルコースが0~50%低下、より好ましくはグルコースが約5%~40%低下したものとすることができる。例えば、MSC人工創傷治癒培養条件は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50%のグルコースの低下であって、例えば約5%~約15%、約10%~約20%、約15%~約25%、約20%~約30%又は約25%~約35%のグルコースの低下等を含み得る。
【0055】
一態様においては、酸素分圧は、酸素濃度を低酸素条件へと低下され得る。通常の大気中酸素は、約21%であるので、いずれの低下も低酸素であると考えられる。すなわち一態様においては、MSCは、人工創傷治癒条件下で0.0%~20.9%の酸素、約0.1%~約0.5%の酸素、約0.1%~約2.0%の酸素、約0.1%~約5.0%の酸素、約0.5%~5.0%、約1.0%~約10%の酸素、約5.0%~約10.0%の酸素、及び約10.0%~約15.0%で培養され得る。好ましくはMSC創傷治癒培養条件中の酸素分圧は、例えば0、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.7、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、又は20.5%の酸素等である、約0.5%~20.5%の酸素である。
【0056】
pHもまた、創傷治癒条件下では低下され得る。生理的pHは非常に厳密に維持されるので、通常、中性のpH=7.2±0.2(7.0~7.4)に非常に近い。しかしながら創傷においては、酸性環境がpH=6.2±0.2(すなわち、pH6.0~約6.4)であり得る。すなわち、人工創傷治癒培養条件下では、pHは約6.0~約7.4であり得、例えば6.0~約6.4、約6.2~約6.4、約6.2~約6.6、約6.4~約6.6、約6.4~約6.8、又は約6.6~約7.0であり、例えば6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3又は7.4等である。
【0057】
人工創傷治癒培養条件下では、創傷部位における温度上昇を模擬するために培養環境の温度を上げてもよい。生理学的ホメオスタシス温度は、37℃(98.6°F)に維持される。わずかな上昇又は低下が、細胞性の代謝に対して有意な変化を引き起こす可能性がある。約40℃(104°F)までの任意の温度に、37℃より高く温度を上げることによって、「熱を帯びた」環境を作ることが可能である。すなわち一態様においては、MSCのための人工創傷治癒培養条件は、約35℃~約39℃、約35℃~約36℃、約36℃~約37℃、約37℃~約38℃、約38℃~約39℃、約39℃~約40℃を含み得る。一態様においては、人工創傷治癒培養の温度は、35.0、35.1、35.2、35.3、36.4、35.5、35.6、35.7、35.8、35.9、36.0、36.1、36.2、36.3、36.4、36.5、36.6、36.7、36.8、36.9、37.0、37.1、37.2、37.3、37.4、37.5、37.6、37.7、37.8、37.9、38.0、38.1、38.2、38.3、38.4、38.5、38.6、38.7、38.8、38.9、39.0、39.1、39.2、39.3、39.4、39.5、39.6、39.7、39.8、39.9又は40.0℃であり得る。
【0058】
一態様においては、MSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)は、成長因子の分解を軽減するための保護コーティング(例えば、凍結防止剤のオリゴ糖、及びタンパク質溶液等)をさらに含み得る。保護コーティングは、ポリマーとして改変可能であるということが理解され、本明細書において検討される。「ポリマー」は、反復する小単位モノマーでその構造を表すことが可能である、比較的高分子量の天然又は合成の有機化合物を指す。ポリマーの非限定的な例として、ポリエチレン、ゴム、セルロースが挙げられる。合成ポリマーは典型的には、モノマーの付加重合又は縮合重合によって形成される。「共重合体」の語は、2以上の異なる反復単位(モノマー残基)から形成されるポリマーを指す。限定するものではなく、例としては、共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であり得る。ある態様においては、ブロック共重合体の様々なブロックセグメントは、それ自体が共重合体を含むことができるということもまた検討される。「ポリマー」の語は、天然ポリマー、合成ポリマー、ホモポリマー、ヘテロポリマー、又は共重合体、付加重合体等を含むがこれに限定されない全ての形態のポリマーを包含する。一態様においては、ゲルマトリックスは、共重合体、ブロック共重合体、ジブロック共重合体、及び/又はトリブロック共重合体を含み得る。
【0059】
一態様においては、保護コーティングは生体適合性ポリマーを含み得る。一態様においては、生体適合性ポリマーは架橋できる。当該ポリマーはまた、脂質の褐変剤(browning agent)及び/又は脂肪の修飾剤を組織に徐放する役割を果たし得る。本明細書において用いる場合、生体適合性ポリマーは、多糖類;親水性ポリペプチド類;例えばポリ-L-グルタミン酸(PGS)、ガンマ-ポリグルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-セリン又はポリ-L-リシン等のポリアミノ酸類;例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)及びポリエチレンオキシド(PEO)等のポリアルキレングリコール類及びポリアルキレンオキシド類;ポリオキシエチル化ポリオール;ポリオレフィンアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシアルキルメタクリルアミド;ポリヒドロキシアルキルメタクリレート;多糖類;ポリヒドロキシ酸類;ポリビニルアルコール、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体等のポリヒドロキシ酸類;ポリ3-ヒドロキシブチレート又はポリ4-ヒドロキシブチレート等のポリヒドロキシアルカノエート類;ポリカプロラクトン類;ポリオルトエステル類;ポリ酸無水物類;ポリホスファゼン類;ラクチド-カプロラクトン共重合体類;例えばチロシンポリカーボネート等のポリカーボネート類;ポリアミド類(合成及び天然のポリアミドを含む)、ポリペプチド類、及びポリアミノ酸類;ポリエステルアミド類;ポリエステル類;ポリジオキサノン類;ポリアルキレンアルキラート類;疎水性ポリエーテル類;ポリウレタン類;ポリエーテルエステル類;ポリアセタール類;ポリシアノアクリレート類;ポリアクリレート類;ポリメチルメタクリレート類;ポリシロキサン類;ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体;ポリケタール類;ポリホスフェート類;ポリヒドロキシバレレート(polyhydroxyvalerate)類;ポリアルキレンオキサレート類;ポリアルキレンスクシネート類;ポリマレイン酸類のみならずその共重合体、を含むがこれに限定されない。生体適合性ポリマーとしてはまた、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリアルキレン類、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレンオキシド類、ポリアルキレンテレフタレート類、ポリビニルアルコール類(PVA)、メタクリレートPVA(m-PVA)、ポリビニルエーテル類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハライド類、ポリビニルピロリドン類、ポリグリコリド類、ポリシロキサン類、ポリウレタン類及びその共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、セルロースエーテル類、セルロースエステル類、ニトロセルロース類、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩(cellulose sulphate sodium salt)、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリイソデシルメタクリレート、ポリラウリルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリオクタデシルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン及びポリビニルピロリドン、その誘導体、線状共重合体及び分岐共重合体及びそのブロック共重合体、ならびにその混合物を挙げることができる。例示的な生分解性ポリマーとしては、ポリエステル類、ポリオルトエステル類、ポリエチレンアミン類、ポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシ酪酸塩類、ポリヒドロキシ吉草酸塩(hydroxyvalerate)類、ポリ酸無水物類、ポリアクリル酸類、ポリグリコリド類、ポリウレタン類、ポリカーボネート類、ポリリン酸エステル類、polyphospliazene類、その誘導体、線状共重合体及び分岐共重合体及びそのブロック共重合体、ならびにその混合物が挙げられる。
【0060】
一部の実施形態においては、保護コーティングは、単糖類の炭水化物構造体、ならびに非還元の多糖類又は二糖類のみならずその任意の組み合わせを含むがこれに限定されない、例えば二糖類又は多糖類等の炭水化物ポリマーを含む。保護コーティングで用いることが可能な炭水化物の例としては、グルコース、アルドース類(D-アロース、D-アルトロース、D-マンノース等)、グルコピラノース、ペンタヒドロキシヘキサナール、α-D-グルコピラノシル-D-グルコース、α-D-グルコピラノシル-二水和物、β-D-グルコピラノシル単位のポリマー、β-D-フルクトフラノシル(Fructofuranosyl) α-D-グルコピラノシド(無水/二水和物)、β-D-ガラクトピラノシル-D-グルコース、α-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシド(無水/二水和物)、ガラクトース、ペントース(リボース、キシロース、リキソース)、右旋性ブドウ糖、十二炭素モノ十水和物(Dodecacarbon monodecahydrate)、フルクトース、ショ糖、乳糖、マルトース、トレハロース、アガロース、D-ガラクトシル-β-(1-4)-無水-L-ガラクトシル、セルロース、β-D-グリコピラノシル単位のポリマー、及びデンプン、のみならず多価アルコール、ポリアルコール、アルジトール、エリスリトール、グリシトール、グリセロール、キシリトール及びソルビトールを含む。
【0061】
一部の実施形態においては、保護コーティングは、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸-グリコール酸共重合体等の、生体適合性及び/又は生分解性のポリエステル類又はポリ酸無水物類を含有する。当該粒子は、以下のポリエステル類の1以上を含有することが可能である:本明細書においては「PGA」と呼ぶ、グリコール酸単位を含めたホモポリマー、及び例えばポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-D,L-乳酸、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチド及びポリ-D,L-ラクチド5等であり、まとめて本明細書において「PLA」と呼ぶ、乳酸単位のホモポリマー、及び例えばポリe-カプロラクトン等であり、まとめて本明細書において「PCL」と呼ぶ、カプロラクトン単位のホモポリマー;ならびに乳酸:グリコール酸の比で特徴付けられる乳酸-グリコール酸共重合体及びラクチド-グリコリド共重合体の様々な形態等であり、まとめて本明細書において「PLGA」と呼ぶ、乳酸及びグリコール酸単位を含む共重合体;ならびにポリアクリラート類及びその誘導体。例示的なポリマーとしてはまた、例えばまとめて本明細書において「PEG化ポリマー」と呼ぶ、PLGA-PEG又はPLA-PEGの共重合体の様々な形態等である、ポリエチレングリコール(PEG)と先述のポリエステル類との共重合体も挙げられる。ある実施形態においては、PEG領域は、ポリマーと共有結合して、切断可能なリンカーによって「PEG化ポリマー」を得ることが可能である。一態様においては、当該ポリマーは、少なくとも60、65、70、75、80、85、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99パーセントであるアセタールのペンダント基を含む。
【0062】
本明細書において開示するトリブロック共重合体は、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリカプロラクタム、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体等のコアポリマーを含む。
【0063】
本明細書において開示する保護コーティングで用いることが可能なジブロック共重合体の例としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリカプロラクタム、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)等のポリマーを含む。
【0064】
一態様においては、保護コーティングは、すなわちカプセル化されたものを含有し、当該カプセル化組成物は、担体として又はカプセル化材料として、レシチン又は加水分解レシチンをさらに含み得る。本明細書で用いる場合、レシチン及び/又は加水分解レシチンのコーティングとしては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン及びホスファチジン酸を含むコーティングが挙げられる。レシチンは、pnat又は動物を起源とし得る。
【0065】
一態様においては、カプセル化溶液中に、MSC添加剤を入れることによって形成される保護コーティングを形成するために用いるポリマー、単糖類、二糖類、又は多糖類のいずれもが、保護コーティングを形成するための適切な濃度で存在し得る。例えば、ポリマー、単糖類、二糖類、又は多糖類は、0.01mM~10.0Mの濃度の任意の濃度で存在し得、例えば約0.01M~約0.1M、約0.1mM~約1.0M、約1.0M~約10.0Mである。例示的な濃度としては、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.4、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、225、250、275、300、325、350、375、400、450、500、600、700、800、900mM、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、10Mが挙げられる。
【0066】
図1及び図2に示すように、開示するMSCセクレトーム組成物中のエクソソーム及び細胞外小胞を産生した。
【0067】
一態様においては、創傷を治療する1つの方法は、MSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)の皮下、筋肉内、静脈内、局所(例えば、膏薬、クリーム及び/又は軟膏等の使用を通して)への投与を介するが、MSCセクレトーム組成物を含浸させた、ステント、スポンジ、マトリックス、足場、包帯、被覆材、縫合材、グラフト、外科用ドレープ、外科用接着剤及び/又はステープルによるものでもあることが理解され、また本明細書において検討される。すなわち、一態様においては、治療有効量のMSCセクレトーム組成物を含む、薬用のステント、足場、スポンジ、マトリックス、接着包帯、創傷被覆材、グラフト、外科用ドレープ、縫合材、膏薬、クリーム、又は創傷接着剤を、本明細書において開示する。上記において記載したMSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)は、局所的に施与して、顔、首、手又は身体のその他の所望の部分に適用することが可能である。接着包帯、創傷被覆材、グラフト、外科用ドレープ、膏薬、足場、マトリックス、スポンジ、又はステントに付着させる場合、MSCセクレトーム組成物は、粉剤として付着させることができる。
【0068】
一態様においては、本明細書に開示するMSCセクレトーム組成物(MSC成長因子、MSCエクソソーム、MSC抽出物及び/又は組成物を含む細胞外小胞を含むがこれに限定されない)は、創傷治癒分野で典型的に見られる任意の公知の材料を含み得、例えば、オイル、蝋、もしくは他の標準の脂肪性物質、もしくは従来のゲル化剤、及び/もしくは増粘剤;乳化剤;保湿剤;皮膚軟化薬;日焼け止め;例えばセラミド等の親水性又は親油性の活性剤;遊離ラジカルに打ち勝つための薬剤;殺菌剤;金属イオン封鎖剤;防腐剤;塩基性化剤もしくは酸性化剤;香料;界面活性剤;充填剤;例えばアロエもしくは緑茶抽出物等の天然産物もしくは天然産物の抽出物;ビタミン;又は着色剤を含み得る。当該粉剤と組み合わせることができる他の材料としては、種々の抗酸化剤から選択することができる、抗酸化剤が挙げられ得る。好適な抗酸化剤としては、例えばビタミンC(L-アスコルビン酸塩、アスコルビン酸-2 リン酸マグネシウム塩(Ascorbate-2 Phosphate magnesium salt)、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル)、ビタミンE(トコトリエノール)、ビタミンA(レチノール、レチナール、レチノイン酸、例えばベータ-カロテン等のプロビタミンAカロテノイド)等のビタミン、N-アセチルグルコサミン、又はグルコサミンの他の誘導体が挙げられる。他の材料としては、例えばΩ-3、Ω-6及びΩ-9等の少なくとも1種の必須脂肪酸、例えばリノール酸(LA)、ガンマ-リノール酸(GLA)、アルファ-リノール酸(ALA)、ジホモ-y-リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(ARA)等の多価不飽和脂肪酸、及び他のものが挙げられ得る。脂肪酸は、月見草油、クロスグリ油、ルリヂサオイル、又はGLA改変ベニバナ種子を含む様々な源に由来し得る。他の材料としては、多血小板フィブリン基質、例えばN-アセチルグルコサミンもしくはグルコサミンの他の誘導体等であるECM産生及びヒアルロン酸産生を支持する少なくとも1種の材料、超低分子量(ULMW)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸又は硫酸ケラチン(keratin sulfate)が挙げられ得る。
【0069】
本明細書において開示するMSCセクレトーム組成物は、創傷治癒の回復、増強、及び皮膚組織の改善又は修復を提供することが可能であるということが理解され、また本明細書において検討される。組成物はまた、関節炎及び変性した脊椎円板の治療において注射可能であるものとして使用してもよい。さらに、当該組成物の実施形態は、例えばインスリン、インスリン様成長因子、チロイドホルモン、線維芽細胞成長因子、エストロゲン、レチノイン酸等の、さらなる成長因子又はホルモンの包含を必要としなくてもよい。一部の態様においては、開示の幹細胞成長因子組成物は、抗生剤、抗ニキビ剤、リポソーム、抗酸化剤、多血小板フィブリン基質、鎮痛剤、抗炎症剤を含むがこれに限定されないさらなる活性材料のみならず、例えばインスリン、インスリン様成長因子、チロイドホルモン、線維芽細胞成長因子、エストロゲン、レチノイン酸等であるさらなる成長因子を含むことが可能である。当該さらなる活性材料は、本明細書に開示する幹細胞成長因子及び細胞外小胞組成物のみならずMSC馴化培地、MSC溶解産物及びMSC由来産物と混合して、次いでラノリンアルコール、蝋及びオイルを乳化する混合物、又はワセリンもしくは鉱油、四級アンモニウム化合物、脂肪族アルコール、及び脂肪酸エステル軟化薬の混合物、又は組成物において実質的に同様であるローションの中で、解凍もしくは溶解、混合又は懸濁させることが可能である。
【0070】
D.実施例
以下の実施例は、当業者に、本明細書において請求する化合物、組成物、物品、デバイス及び/又は方法をどのようになし、評価するかについての完全な開示及び記載を提供するように提起するものであり、また純粋に例示とすることを意図しており、本開示を制限することを意図していない。数値(例えば、量、温度等)に関して正確であることを保証するように努力したものであるが、一部の誤差及び偏差を考慮する必要がある。別段に示さない限り、割合(parts)は重量部であり、温度は℃であるか又は環境温度であり、また圧力は大気圧であるか又は大気圧近傍である。
【0071】
1.実施例1:股関節唇断裂を治療するための、細胞外小胞単離物の関節内注射
例えば膝、股関節及び肩等の可動関節は、関節の安定性を高める、関節軟骨、滑液包、及び線維軟骨構造からなる。膝は、内側半月及び外側半月の両方を有する。患者の肩及び股関節はそれぞれ、関節窩及び寛骨臼の陥凹を増加させる関節唇を有する。これら線維軟骨構造は全て、神経分布を有し、そして断裂時には非常に痛いことがある。これら構造には、限定的な血液供給があり、そして損傷時には、最小限の自然治癒力がある。これら構造は、急性の損傷により、又は慢性的な変性過程によって断裂する可能性がある。寛骨臼唇は、骨様の寛骨臼の周囲が線維軟骨で塞がる。当該関節唇が、股関節の深さ、表面積、体積、適合性及び安定性を増す。当該関節唇は、股関節の関節表面積を平均22%増加させることがわかっている。当該関節唇は、中央構成要素と周辺構成要素との間の流体の輸送を調節することによって、また関節表面積の全体にわたる接触圧を分散することによって、関節軟骨にかかる応力を低下させる。このように流体により封止することは、当該関節唇の最も重要な機能のひとつであるが、それは当該封止が陰圧の関節内圧力を生じて、関節の安定性を有意に高めるからである。
【0072】
大腿骨頭及び寛骨臼の形状が、完璧に適合していなければ、大腿骨寛骨臼インピンジメント(衝突)が生じる可能性がある。これは、股関節唇を損傷させる遺伝子疾患である。股関節唇断裂は、例えば体操、ランニング、ジャンプ、テニス、サッカー及びサイクリング等の一定の活動と関連している。診断は、股関節ROM(可動域)が、特に内転による強制的な摩擦により、患者が通常経験する鼠径部痛が再現される場合に推測される。診断は、MRIスキャンで確認する。
【0073】
股関節唇断裂の非手術性の治療が欠乏している。最もよくある有効な解決法として、痛みの原因である活動を減らす又は避けることが挙げられる。理学療法による効果はほとんど見られない。外科的な選択肢は、典型的に関節鏡下で実行される。外科的な選択肢としては、関節唇断裂を修復すること、又はより一般的には断裂した関節唇を切除することのいずれかが挙げられる。Krychらは、関節唇断裂に関して股関節の関節鏡下での治療の結果を報告した。彼らは59例の患者を報告したが、平均年齢は46歳、また平均追跡期間は5年であった。彼らは、20%が手術を繰り返し、そして25%で疼痛が継続したことを理由に、臨床的失敗率45%を報告した。
【0074】
公開された報告によれば、間葉系幹細胞(MSC)を含む自己の骨髄濃縮物(BMC)の注射を用いて肩の関節唇断裂を治療することが、安全且つ有効であることを示している。MSCは、軟骨芽細胞、骨芽細胞又は線維芽細胞に分化することが可能である有一の細胞である。分化は、歴史的には、それによってMSC注射が関節の病理を治療するという機序であると考えられてきた。MSC注射を用いて種々の症状を治療することの有効性は、それらがもつ抗炎症性の成長因子(GF)及びエクソソームを放出するパラクリン機能に起因するということへの認識が高まってきた。これらGF及びエクソソームは、生細胞を何も含むことなく注射することが可能である。本症例報告では、無細胞性の骨髄由来MSCのGF及びエクソソームを用いて股関節唇断裂を治療するという概念を紹介することとする。これは、細胞外小胞単離物(EVIP)として記載される。本報告では、なぜ無細胞性のものが、種々の関節の病理の治療に対して自己及び同種の両方の、全ての現在の細胞性の生物学的療法に置き換わることとなるのかについての原理を述べることとする。
【0075】
a)材料及び方法
これは股関節唇断裂の治療に対するEVIP注射の症例報告である。股関節唇断裂は、股関節のロッキング、クリッキング又はキャッチングを特徴とする。疼痛は、鼠径部で感じられるか、又は転子領域内へと広がる。患者は、こわばり感を訴えるか、又は股関節の可動域が制限される。股関節唇断裂を診断するために、MRIスキャンを用いる。患者は、50歳の、極めて活動的なトライアスロン選手、パーソナルトレーナーであり、また健康に関するインストラクターである。彼女は、治療していない鼠径部の疼痛が数ヶ月続いた後に、2019年6月11日には、大腿へと広がっている右鼠径部及び臀部の疼痛の増加を呈していた。彼女の症状は、股関節ROMを必要とする活動により悪化していた。19年6月4日の股関節のMRIスキャンにより、上位の関節唇断裂、上位の前方関節唇の摩滅、小殿筋の腱の断裂、転子包の炎症、及びよくある膝窩腱炎が明らかとなった。股関節は変形性関節症ではなかった。当該患者は、NSAIDと、毎週のアクティブリリースと、カイロプラクティック治療とにより治療してきた。彼女は、健康診断において全体として20%の股関節ROMの喪失があった。強制的な内転と屈曲とが、当該患者の疼痛を再現し、重度に悪化させた。患者は全体として、右側股関節は、反対側の股関節と比較して、正常さが50%未満であったと感じていた。患者は、注射の前及び経過観察の際に、簡易疼痛質問票(BPI(Brief Pain Inventory))、Lower Extremity Functional Index(LEFI)、及びOswestry Disability Index(ODI)で評価した。
【0076】
(1)股関節注射
カウンセリング及び同意の後、患者に、2019年6月11日に股関節注射を行った。右鼠径部及び臀部領域を、ベタダイン皮膚製剤で殺菌した。20ゲージ針を、股関節に前方アプローチで配置した。針の位置は、蛍光透視で確認した。この時点では、2ccの凍結EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)を室温に解凍して、関節内に入れた。
【0077】
b)臨床結果
患者は、当該処置の後1週間、身体活動の制限が課された。直ぐに、低抵抗性の受動的可動域が奨励された。患者は、10日目に完全な活動に戻った。当該処置の6週後、患者は、1日に7マイルのラン、2時間のカヤック、600ヤードの水泳ができた。彼女は、「岩」のようにぐっすり眠り、疼痛なしに起床することができた。当該患者は、股関節唇断裂症状の処置前よりも全体として75%の改善を経験したと述べる。
【0078】
(1)経過観察のMRIスキャン
経過観察のための、右股関節のガドリニウム関節造影撮影のMRIスキャンを2019年8月28日に実施した。スキャンにより、分離した関節唇断裂は全く見られなかった。小殿筋の腱症又は組織内の断裂についてのエビデンスはなかった。転子包の炎症はなかった。所見は、右股関節はMRI陰性であった。処置前から12週までの当該患者の経過観察(FU)までの臨床結果を、図1及び表1の両方に示している。当該結果は、彼女の簡易疼痛質問票(スコアが低いほど良好)、Oswestry Disability Index(スコアが低いほど良好)、及び彼女のLower Extremity Functional Score(スコアが高いほど良好)で示された改善を詳説している。
【表1】
【0079】
c)議論
当該患者は、活動的な50歳のトライアスロン選手で、確認された股関節唇断裂による疼痛の増加の履歴がある。彼女は、活性な成長因子及びエクソソームを含有する骨髄由来の間葉系幹細胞EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)を2cc、単回の前方よりの股関節注射で注射した。2週後、彼女の股関節唇断裂症状は、75%改善した。この改善は、3ヶ月にわたって維持されている。彼女の注射前の関節造影撮影MRIにより、上位の関節唇断裂、上位の前方関節唇の摩滅、小殿筋の腱の断裂、転子包の炎症、及びよくある膝窩腱炎が確認されている。股関節は変形性関節症ではなかった。彼女の注射後の関節造影撮影MRIによれば、関節唇断裂のエビデンスはないことが確認されている。小殿筋の腱症又は組織内の断裂についてのエビデンスはなかった。転子包の炎症はなかった。所見は、右股関節はMRI陰性であった。彼女は、2年間の厳密な観察が継続されることとなる。
【0080】
兆候がある関節唇断裂の非手術性の治療は、基本的に、痛みの原因である活動を避けることである。外科的な選択肢としては、関節唇の関節鏡下での除去又は関節唇の修復のいずれかである。公開された結果によれば、関節鏡下での股関節唇手術で失敗率45%を示している。
【0081】
関節唇断裂のバイオロジーの理解に基づけば、非手術性の治療は、無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームの注射であるであろう。当該エクソソームは、ごく小さい30~150ナノメートルサイズ(1メートルの10億分の1)の、エンドソームにより作られるリン脂質二重膜に封入された構造である。MSC(12~18ミクロン)は、エクソソームよりも1,000倍大きい。毛髪1本の直径は、80,000ナノメートルである。エクソソームは、成長因子、シグナル伝達脂質、ならびにマイクロRNA及びメッセンジャーRNAを含有する。これらパラクライン因子は、任意の細胞性MSC治療の濃度の100,000倍以上の濃度で、任意の関節に導入可能である。これら成長因子タンパク質及びエクソソームは、直接的にも間接的にも、痛みのある関節唇断裂の炎症環境を正常な痛みのない生理学的環境に戻るように変化させて、線維軟骨の治癒を刺激するように、パラクライン作用で機能する。
【0082】
関節唇断裂のこれからの無細胞性治療は、以下の2ステップによる工程に関与することとなる:はじめに、高濃度での、抗炎症性の骨髄由来MSCの成長因子及びエクソソームを、痛みのある関節に注射する。次に、これら成長因子及びエクソソームが、レシピエントの滑膜MSCに入り、新しい軟骨芽細胞及び抗炎症性セクレトーム、ケモカイン及びサイトカインの産生を刺激する。これら作用が、線維軟骨の断裂を治癒することがわかった。この無細胞性の生物学的療法は、全て、単回の関節注射で達成することが可能である。整形及び背骨における再生医療の将来は、おそらく高濃度にした無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。
【0083】
2.実施例2:アスリートにおける肩の変形性関節症を治療するための、細胞外小胞単離物の関節内注射
肩の変形性関節症(OA)は、死体及びX線撮影の研究において、60歳を超える患者のうち最大33%に影響することが実証されている。肩のOAを患う患者は、疼痛、摩擦音、動きの低下、及び空間における所望の点に手を位置させる能力の低下がある。所望の位置に自身の手を位置させる能力が制限されることは、日常生活の活動に深刻な害を及ぼす。可動域を維持する試みでの肩OAに対する非外科的治療には、肩の運動、鎮痛薬及び非ステロイド系抗炎症薬の使用が挙げられる。これら非外科的治療によりOAの機能障害の緩和に失敗した場合には、肩関節全置換(TSA)が既定の外科的治療である。
【0084】
近年、変形性関節症(OA)を治療するために間葉系幹細胞(MSC)を利用することの臨床的有効性が、研究者及び医師により理解が高まってきている。さらに、その放出は、関節軟骨へと分化する当該細胞に依存するのではなく、全体として、成長因子(GF)及びエクソソームのパラクライン放出に依存しており、当該細胞が治癒工程に干渉する可能性があることが明らかになりつつある。活性な成長因子及びエクソソームは、関節炎の関節内に送達されたときに、細胞なしで機能することが可能である。これは、肩の変形性関節症の治療のための無細胞性のMSC由来の細胞外小胞単離物(EVIP)についての症例報告である。肩のOAは、肩関節における疼痛及びこわばり感により定められ、運動により悪化し、そして肩の可動域が減少する。この症例報告では、OAを治療するために活性な成長因子及びエクソソームを含有するEVIPを用いることと、なぜ無細胞性の生物学的療法が、現在の自己及び同種の細胞性の生物学的療法に置き換わるのかについての原理とについての概念を紹介することとする。
【0085】
a)方法
患者は、右手優位の57歳男性アスリートであり、左側よりも右側の方がずっと悪化している両側肩の疼痛増加が14年を超える履歴を呈していた。処置前にX線画像とMRIスキャンを用いて、回旋筋腱板の異常からの肩甲上腕関節の変形性関節症を識別した。2006年1月5日(本処置の13年前)に取得した以前の肩のMRIスキャンにより、Kellgren-Lawrenceスコアが4であることが明らかになったが、これは肩甲上腕関節の骨と骨による(bone-on-bone)変形性関節症である。
【0086】
当該患者は、通院毎に、肩の診察、ならびに肩機能の測定のスコアが低いほど理想的であるQuickDASH(QD);パーセンテージが高いほど良好なスコアであるUpper Extremity Functional Index(UEFI);スコアが高いほど強い疼痛を示唆する簡易疼痛質問票(BPI);及び患者の自己評価による肩全体の改善についての評価によりさらに評価した。これら身体的評価手順は、異なる3回の通院時:処置前、及びその後処置6週後及び処置12週後、に実施した。初回の診察時に、右の肩甲上腕関節の内側、外側及び外転が平均75%喪失していることが観察された。可動域全ての評価が、激しい疼痛、摩擦音及び骨と骨との当接音(clunking)と関連した。処置前の肩のX線画像を図2に示している。
【0087】
(1)肩への注射
カウンセリング及び同意の後、患者の右肩を、ベタダイン皮膚溶液で準備した。20ゲージ針を、肩甲上腕関節に前方アプローチで配置した。当該針を、肩の関節包内に上腕骨頭(humoral head)に対して配置した。針の位置は、上腕骨頭の内側及び外側への回転が針を移動させることによって確認した。凍結EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)の2.0cc調製物を室温に解凍して、肩甲上腕関節内に入れた。
【0088】
患者は、当該処置の後1週間、身体活動が制限された。直ぐに、低抵抗性の受動的可動域が奨励された。患者は、当該処置の2週後に完全な活動に戻った。
【0089】
b)結果
患者の自己評価による肩全体の改善は、注射2週後から12週目の評価までで75%であった。QuickDASH、Upper Extremity Functional Index及び簡易疼痛質問票は全て2週間以内に改善して、その改善は、図3のグラフに示し、値を表2に示すように、12週まで十分維持された。
【表2】
肩全体の改善は、自己評価で75%であった。処置後の肩甲上腕の可動範囲は、診察に基づけば33%改善した。
【0090】
c)議論
患者は、右側優位の肩の疼痛増加について14年を超える履歴を呈する57歳の活動的な男性アスリートである。彼は、回旋筋腱板の異常のない、Kellgren-Lawrenceスコアが4である骨と骨による肩甲上腕関節の変形性関節症と診断された。関節軟骨の再生が観察される見込みはない。経過観察のX線は変化しないであろう。彼は、活性な成長因子及びエクソソームを含有する骨髄由来のEVIPを2cc、単回注射した。当該注射は、合併症なく行われた。BPI、UEFI及びQD測定スケールに基づけば、2週間以内に、患者は50%以上改善した。彼は、自己の肩を全体として75%改善されたと評価した。彼は2週までに完全な活動に戻った。これら結果は、12週まで十分維持された。当該患者は、その後の時点での観察を続けることとなる。滑液包の炎症が減少したことに起因して、観察された疼痛緩和が感じられる。
【0091】
肩は、滑膜表層と関節包とを備える可動関節である。滑液包は、多数の滑膜MSC(骨髄又は脂肪にあるよりも多い)を含有する。これらMSCは、骨又は脂肪のMSCよりも軟骨形成能力がある。OAの発症中、炎症誘発性及び分解性の成長因子が、これら滑膜MSCにより産生される。これが、慢性的な炎症性疼痛及び変形性関節環境を作り出す。骨髄濃縮物(BMC)は、1cc当たり平均で約2,500個のMSCを含有するだけである。BMCに存在するMSCは非常に少数であるにもかかわらず、OA治療のためにBMCを用いることの臨床効果を報告する広範囲にわたる文献が存在する。この作用は、BMC/MSC細胞の生存又は分化に依存し得ない。有効な作用は、無細胞性のパラクライン因子の放出によるに違いない。OAの生物学的治療の将来は、無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。当該エクソソームは、ごく小さい30~150ナノメートルサイズ(1メートルの10億分の1)の、細胞の細胞質内側で作られるリン脂質二重膜に封入された構造である。MSC(12~30ミクロン)は、エクソソームよりも約1,000倍大きい。参考として、毛髪1本の直径は、80,000ナノメートル又は80ミクロンである。エクソソームは、成長因子、シグナル伝達脂質、ならびにマイクロRNA及びメッセンジャーRNA(miRNA及びmRNA)を含有する。エクソソーム中のRNA内容物は、それらの抗炎症作用の大部分を媒介する。RNAは、多数の成長因子と共に、細胞によって天然にエクソソーム内に封入される。これら細胞由来のパラクライン因子は、任意の細胞性のMSC治療の濃度の100,000倍以上の濃度で任意の関節に入れて、そしてパラクライン作用により、直接又は間接的に、痛みのある関節炎の任意の関節の炎症環境を正常な痛みのない生理学的環境に戻るように変化させるように機能することができる。図4はこのプロセスを示している。
【0092】
OAのこれからの無細胞性治療は、二正面でのアタックを伴うこととなる。1つ目に、高濃度の抗炎症性MSC由来の成長因子を、関節炎の関節に注射する。これら成長因子は、レシピエントの滑膜MSCの核に入ることとなる。EVIP成長因子は、細胞指令を含有するmRNAの転写を刺激して、継続的な抗炎症性且つ再生可能なセクレトーム、ケモカイン及びサイトカインを産生することとなる。これらは、レシピエントの細胞から滑液内に放出される。2つ目に、EVIPからの高濃度エクソソームがレシピエントの細胞に入り、それらのmRNA及びmiRNAを送達することとなる。この送達されるmRNAは、レシピエントの滑膜MSCリボソームにおいて直接翻訳を受け、抗炎症性且つ再生可能なセクレトーム(成長因子、サイトカイン、ケモカイン、及び細胞外小胞)を産生することとなる。これら健康によい効果は、数ヶ月又は数年続き得る。この無細胞性の生物学的治療は全て、関節炎の関節への単回注射で達成可能であり、病的な状態と自己MSCを得る費用とを回避することができる。整形及び背骨における再生医療の将来は、おそらく高濃度の無細胞性のMSC骨髄由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。
【0093】
3.実施例3:変形性股関節症を治療するための、細胞外小胞単離物の関節内注射
股関節の変形性関節症(OA)は、死体及びX線撮影の研究両方において、60歳を超える患者のうち最大5500万人に影響することが実証されている。股関節OAの患者は、疼痛、摩擦音、動きの低下、及び体重支持能力又は歩き回る能力の低下がある。歩き回る能力が制限されることは、日常生活の活動が非常に損なわれる。アメリカ整形外科医アカデミー(AAOS(American Academy of Orthopedic Surgeons))による股関節OAのための非外科的治療では、減量、軽度の運動、及び非ステロイド系の抗炎症薬の使用が挙げられている。股関節OAのための外科的治療には、股関節全置換(THA)がある。AAOSは、股関節鏡又はヒアルロン酸注射の使用を推奨していない。
【0094】
この数年にわたって、変形性関節症(OA)を治療するために間葉系幹細胞(MSC)を利用することの臨床的有効性が、関節軟骨への細胞分化に依存するのではなく、MSCの成長因子(GF)及びエクソソームのパラクライン放出に全体的に依存するということが、研究者及び臨床家により理解が高まってきている。関節炎の関節に対してGF及びエクソソームの放出を達成するために、生きているMSCは必要ない。この症例報告では、股関節OAを治療するために活性な成長因子及びエクソソームを含有する無細胞性のMSC由来の細胞外小胞単離物(EVIP)を用いることと、なぜ無細胞性のものが、現在使用されている自己及び同種の両方の現在の細胞性生物学的療法の全てに置き換わり得るのかについての原理とについての概念を紹介することとする。
【0095】
a)材料及び方法
これは股関節の変形性関節症の治療に対する、EVIP注射の症例報告である。OAは、股関節における腫脹、疼痛、及びこわばり感により定められる。症状は、典型的には、体重支持及び歩行運動の悪化である。X線画像及びMRIスキャンを用いて、股関節の変形性関節症をKellgen-Lawrenceスケール1から4で段階付けた。
【0096】
患者は、63歳の退職したシカゴの消防士である。彼は左股関節の疼痛増加と、ヘルスクラブでの自身の毎日のフィットネスルーチンを継続する能力の喪失の進行とを呈していた。彼は股関節の可動性の喪失の進行を経験した。左股関節のMRIスキャン及びX線画像が、Kellgren-Lawrenceグレード3の関節炎による左股関節の変化と一致していた。彼は診察で、抗疼痛のよろめきがあり、またトレンデレンブルク徴候が陽性であった。股関節の受動的ROM(可動域)が、股関節の激痛、摩擦音、及び内転の低下が再現されることと関連していた。患者は、BMIが27であった。NSAIDでは、十分な疼痛緩和をもたらせなかった。当該患者は、股関節全置換を真剣に検討していた。外科手術を回避するために、活性なGF及びエクソソームを含有するEVIPを患者の股関節に注射することを選択した。
【0097】
骨盤のX線画像を図5に示す。このX線は、正常である右股関節と、グレード3のOAである左股関節とを示す。左股関節は、ベタダイン皮膚製剤で殺菌した。20ゲージの脊髄針を、股関節に対して前外側アプローチで配置した。針の位置は、蛍光透視で確認した。この時点では、2ccの凍結EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)を室温に解凍して、関節内に入れた。患者は、当該処置の後1週間、身体活動の制限が課された。直ぐに、低抵抗性の受動的可動域が奨励された。患者は、2週目に完全な活動性を取り戻した。
【0098】
臨床結果
3ヶ月目の経過観察時点で、患者は、制限のない自身の以前のフィットネスルーチンに戻っていた。彼はもはやその運動プロファイルを制限することなく、また機能的な痛みのない股関節ROMの回復を享有した。彼は制限のない完全な活動に戻った。
【0099】
b)議論
股関節は、滑膜表層と関節包とを備える可動関節である。滑液包は、多数の滑膜MSC(骨髄又は脂肪組織にあるMSCよりも多い)を含有する。これらMSCは、骨又は脂肪のMSCよりも軟骨形成能力がある。OAの発症中、炎症誘発性の成長因子が、これら滑膜MSCにより産生される。これが、慢性的な炎症性の疼痛の関節環境を作り出す。骨髄濃縮物(BMC)は、1cc当たり平均で約2,500個のMSCを含有するだけである。BMCに存在するMSCは非常に少数であるにもかかわらず、OA治療のために動物及びヒトにおいてBMCを用いることの臨床効果を報告する広範囲な文献が存在する。この作用は、BMC/MSC細胞の生存又は分化に依存し得ない。この有効性は、無細胞性のパラクライン因子の放出によるに違いない。OAの生物学的治療の将来は、無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。
【0100】
エクソソームは、ごく小さい30~150ナノメートルサイズ(1メートルの10億分の1)の、ゴルジ体又はゴルジ装置により作られるリン脂質二重膜に封入された構造である。MSC(12~18ミクロン)は、エクソソームよりも1,000倍大きい。毛髪1本の直径は、80,000ナノメートルである。エクソソームは、成長因子、シグナル伝達脂質、ならびにマイクロRNA及びメッセンジャーRNAを含有する。エクソソーム内のRNA内容物は、それらの抗炎症作用の大部分を媒介する。RNAは、多数のペプチド成長因子に加えてエクソソームに入る。これらパラクライン因子は、任意の細胞性MSC治療の濃度の100,000倍以上の濃度で、任意の関節に導入可能である。これら成長因子タンパク質及びエクソソームは、直接的にも間接的にも、痛みのある任意の関節炎の関節の炎症環境を正常な痛みのない生理学的環境に戻るように変化させるように、パラクライン作用で機能することとなる。
【0101】
OAのこれからの無細胞性治療は、二正面でのアタックを伴うこととなる。1つ目に、高濃度の抗炎症性MSC由来の成長因子を、関節炎の関節に注射する。これら成長因子は、レシピエントの滑膜MSCの核に入ることとなる。EVIP成長因子は、継続的な抗炎症性のセクレトーム、ケモカイン及びサイトカインを産生する指令を含有するmRNAの転写を刺激することとなる。これらは、レシピエントの滑膜MSCから滑液内に放出されることとなる。2つ目に、EVIPからの高濃度エクソソームがレシピエントの滑膜MSCに入り、それらのmRNAを送達することとなる。このmRNAは、レシピエントの滑膜MSCリボソームにおいて直接の翻訳を受け、抗炎症性のセクレトーム、サイトカイン及びケモカインを産生することとなる。
【0102】
これら健康によい効果は、数ヶ月又は数年続き得る。この無細胞性の生物学的治療は全て、関節炎の関節への単回注射によって、病的な状態と自己MSCを得る費用とを必要とすることなく、達成可能である。整形及び背骨における再生医療の将来は、おそらく高濃度の無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。
【0103】
4.実施例4:細胞外小胞単離物の関節内注射による肘関節炎の治療
肘の一次性変形性関節症(OA)は、遺伝的素因が関連する稀な状態である。これは、主として、激しいスポーツや労働に従事する患者の優性の四肢の尺骨の上腕骨関節内において生じる。外傷後の肘OAが、はるかによく見られる。種々の外傷による怪我が、最終的に、肘に対する外傷後のOAの特異的な形態をもたらし得る。一次性であっても外傷後であっても肘関節炎の患者の最もよくある訴えとしては、疼痛及び/又は動きの低下がある。伸展及び回内の低下は、摩擦及び回外運動の低下よりも容易に補うことが可能である。
【0104】
肘のOAに関して、非手術的処置が最初の治療の頼みの綱のままである。これには、典型的に、肘のスリーブ、非ステロイド系の抗炎症薬、及び関節内コルチコステロイド注射が含まれる。四肢の積極的な屈曲と伸展動作を回避することが、かなりの疼痛緩和を結果としてもたらし得る(重量挙げ、ボクシング等)。典型的には、資格をもつ療法士により監督されるリハビリテーションのコースが、関連した滲出及び動作の制限を伴う慢性的な症状に対する急性の症状を呈した患者に対して確保される。
【0105】
外科的処置は、上肢の機能及び日常的な活動の制限という結果的な機能障害を伴う、肘の激痛又は有意な可動性の喪失がある患者に対して示される。肘の関節鏡法へと進めることは、結果的に有利な結果が得られて、外科的に開くあらゆる創面切除に完全に置き換わっている。肘の関節鏡下での壊死組織切除は、特に若い患者集団においては、疼痛と可動域における改善の点で妥当な結果となる。公開されている処置は、肘の関節鏡下での安全で細心の技術についてかなりの経験がある外科医が実施することが重要である。肘関節全置換は、炎症性、外傷性又は一次性の肘の関節炎を伴う、需要が少ない高齢の患者(60歳を超える)に最も適している。若く、典型的には男性の集団における肘OAの環境では、肘関節全置換を適用することは稀である。
【0106】
肘OAの非手術性の治療と手術性の治療との間には、巨大な空隙がある。これは、肘のOAを伴う若く非常に活動的な脊柱指圧師の症例報告である。彼女は、活性な成長因子及びエクソソームを含有する骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の細胞外小胞単離物の単回の関節内注射により処置された。
【0107】
a)材料及び方法:
患者は、非常に活動的で健常な60歳の開業脊柱指圧師である。彼女は最初に、16歳のときに深刻な水上スキー事故で自身の優性である右肘を怪我した。彼女は、上腕骨に続いて位置する尺骨及び橈骨を含めた肘の完全脱臼に悩まされていた。神経血管損傷はなかった。当該肘は、全身麻酔下で整復した。回復後、彼女は完全な伸展の15°及び完全な屈曲の10°を喪失していた。回外運動又は回内運動の低下はなかった。彼女は、58歳のときに2度目の怪我をし、結果として橈骨頭の完全脱臼となった。この怪我の後、日常的な疼痛を伴う橈骨小頭関節の外傷性関節炎と、活動により悪化する関節腫脹を発症した。当該患者の指圧療法を施術する能力は非常に制限された。彼女は規則正しくNSAIDを行い、就業後に冷却療法を行った。当該患者の肘の診察により、肘の伸展の15°の喪失と、屈曲の10°の喪失とが明らかとなった。彼女は、回外運動及び回内運動が10°喪失していた。肘関節に1プラスの腫脹があった。当該患者のX線画像より、肘関節のKellgren-Lawrenceグレード3の変形性関節症であることが明らかである(図6A及び図6B)。
【0108】
(1)肘への注射:
カウンセリング及び同意の後、患者に、2019年6月11日に肘注射を行った。右肘関節領域を、ベタダイン皮膚製剤で殺菌した。20ゲージ針を、肘関節に側方及び中央のアプローチで配置した。この時点では3ccの凍結EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)を室温に解凍して、肘関節の中央及び側方側に入れた。患者は、副作用はなかった。処置全体で、15分を要した。
【0109】
b)結果
注射後、肘関節は、数日間の疼痛及び腫大があった。患者は、1週間就業できなかった。患者の症状は、翌4週にわたって改善した。注射6週後までに、彼女は自身の肘が50%改善したことを感じた。この改善は3ヶ月間継続して、当該肘は現在、注射前よりも70%改善した。肘の可動範囲は、EVIP注射後に変化しなかった(表3及び図7)。
【表3】
【0110】
c)議論
これは、何年もの履歴のある、症候性の外傷性変形性関節症の増加が顕著である肘をもつ、60歳の活動的な開業脊柱指圧師の症例研究である。彼女は、16歳のときに後肘部の深刻な脱臼に悩まされた。彼女の症状は、彼女が引退を考える程度まで就業により大きく悪化した。これは、財政的に一般諸経費での個人開業であったことから重要な決断であった。彼女の外科的な選択肢は、肘関節全置換術であった。この外科手術後では、当該患者は、指圧療法の施術に戻ることができなかったかもしれない。当該手術の目標は、彼女の日常生活の活動を改善することを試みるものであって、精力的な業務に戻ることではなかった。手術を回避して指圧療法の施術を継続することを目指して、彼女は骨髄由来のMSCの、活性な成長因子及びエクソソームを含有するEVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)の肘への注射を試みることを選択した。注射の3ヶ月後、当該患者の肘は70%改善して、彼女はフルタイムで就業している。
【0111】
肘は、滑膜表層と関節包とを備える可動関節である。滑液包は、多数の滑膜MSC(骨髄又は脂肪にあるよりも多い)を含有する。これらMSCは、骨又は脂肪のMSCよりも軟骨形成能力がある。OAの発症中、炎症誘発性の成長因子が、これら滑膜MSCにより産生される。これが、慢性的な炎症性の疼痛の関節環境を作り出す。骨髄濃縮物(BMC)は、1cc当たり平均で約2,500個のMSCを含有するだけである。BMCに存在するMSCは非常に少数であるにもかかわらず、OA治療のために動物及びヒトにおいてBMCを用いることの臨床効果を報告する広範囲にわたる文献が存在する。この作用は、BMC/MSC細胞の生存又は分化に依存し得ない。有効な効果は、無細胞性のパラクライン因子の放出によるに違いない。OAの生物学的治療の将来は、無細胞性のMSC由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。エクソソームは、ごく小さい30~150ナノメートルサイズ(1メートルの10億分の1)の、ゴルジ体又はゴルジ装置により作られるリン脂質二重膜に封入された構造である。MSC(12~18ミクロン)は、エクソソームよりも1,000倍大きい。毛髪1本の直径は、80,000ナノメートルである。エクソソームは、成長因子、シグナル伝達脂質、ならびにマイクロRNA及びメッセンジャーRNAを含有する。エクソソーム中のRNA内容物は、それらの抗炎症作用の大部分を媒介する。RNAは、多数のペプチド成長因子に加えてエクソソームに入る。これらパラクライン因子は、任意の細胞性MSC治療の濃度の100,000倍以上の濃度で、任意の関節に導入可能である。これら成長因子タンパク質及びエクソソームは、直接的にも間接的にも、痛みのある任意の関節炎の関節の炎症環境を正常な痛みのない生理学的環境に戻るように変化させるように、パラクライン作用で機能することとなる。
【0112】
OAのこれからの無細胞性治療は、二正面でのアタックを伴うこととなる。1つ目に、高濃度の抗炎症性MSC由来の成長因子を、関節炎の関節に注射する。これら成長因子は、レシピエントの滑膜MSCの核に入ることとなる。EVIP成長因子は、継続的な抗炎症性のセクレトーム、ケモカイン及びサイトカインを産生する指令を含有するmRNAの転写を刺激することとなる。これらは、レシピエントの滑膜MSCから滑液内に放出されることとなる。2つ目に、EVIPからの高濃度エクソソームがレシピエントの滑膜MSCに入り、それらのmRNAを送達することとなる。この送達されるmRNAは、レシピエントの滑膜MSCリボソームにおいて直接翻訳を受け、抗炎症性のセクレトーム、サイトカイン及びケモカインを産生することとなる。これら健康によい効果は、数ヶ月又は数年続き得る。この無細胞性の生物学的治療は全て、関節炎の関節への単回注射によって、病的な状態と自己MSCを得る費用とを必要とすることなく、達成可能である。整形及び背骨における再生医療の将来は、おそらく高濃度の無細胞性のMSC骨髄由来の成長因子及び特にエクソソームを利用することであろう。
【0113】
5.実施例5:EVIP投与による変形性関節症治療
骨髄間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞単離物(EVIP)は、活性の成長因子(800を超える)及びエクソソーム(1cc当たり100億を超える)を含有する。これは、OAを治療するためにEVIPを注射することの安全性及び有効性に対する最初のIRB委託研究報告である。33人のアメリカ海軍特殊部隊の元隊員が、膝(n=58)、肩(n=32)、肘(n=16)、股関節(n=12)、足首(n=8)、又は手首(n=6)のOAにEVIPを注射した。3ヶ月の経過観察時点で、平均の膝患者は、簡易疼痛質問票(BPI)で70%改善し、Oswestry Disability Index(ODI)で67%改善し、Lower Extremity Functional Scale(LEFS)で62%改善し、平均の肩患者は、BPIで68%改善し、ODIで82%改善し、QDで74%改善し、UEFSで68%改善し、平均の肘患者では、BPIで76%改善し、QDで81%改善し、UEFSで76%改善し、平均の股関節患者は、BPIで70%改善し、ODIで72%改善し、LEFSで64%改善し、平均の足首患者は、BPIで70%改善し、ODIで72%改善し、LEFSで64%改善し、また平均の手首患者は、BPIで68%改善し、QDで64%改善し、UEFSで74%改善した。全ての改善がp<0.001によるものとした。合併症はなく、EVIP注射により悪化する患者はいなかった。3ヶ月の経過観察時点で、OAに対するEVIP注射は、安全且つ有効性が見られることから、関節置換術の前に検討されるべきである。
【0114】
a)EVIPの特徴解析:
当該産物は、22歳の女性ドナーの骨髄に由来するものであり、当該ドナーのMSCは、マスターとして保存され、FDAで登録されている。これら細胞からの最終産物は、800を超える異なる活性な成長因子と、1cc当たり300億を超えるエクソソームとを含有する。当該産物は、凍結形態で用いられる。滅菌は、照射でなく、限外ろ過で達成した。骨髄MSCに由来する無細胞性のエクソソームが、高度な粒子分析、プロテオーム評価、及びUSP<71>滅菌保証を含めた詳細な特徴解析による均一な産物を提供する。サイトカイン及び成長因子の同定及び定量化もまた実行される。均一で、標準化され、且つ用量及び活性に関して試験された品質である、治療グレードの品質の産物としての無細胞性エクソソームを検討する。
【0115】
(1)患者の人口統計学的因子:
膝、肩、肘、股関節、足首及び手首に対して治療を行う、平均BMI及び平均年齢である患者の数を、表4に示す。
【0116】
注射技術:注射する関節は全て、ベタダイン皮膚製剤で殺菌した。蛍光透視下で、20ゲージ針を、関節炎の関節に配置した。針の位置は、蛍光透視制御下で確認した。この時点では、2ccの凍結EVIP(ExoFlo、Direct Biologics社、ミズーリ州セントルイス)を室温に解凍して、関節内に入れた。1患者当たり4箇所の関節に注射を行った全処置には、平均で30分を要した。
【0117】
患者には、いずれの鎮痛剤も処方されなかった。当該患者は、当該処置の後2週間、身体活動が制限された。直ぐに、低抵抗性の受動的可動域が奨励された。2週後、患者は、完全な活動に戻ることが許可された。
【0118】
(2)統計学的試験
単変数データ比較を、両側スチューデントt検定により、95%の信頼区間で解析した(α=0.05、マイクロソフトExcel)。多変数データを、JMP 9統計解析ソフトウェア(SAS Institute社、ノースカロライナ州ケーリー)を用いて分散分析(ANOVA)で評価した。
【0119】
b)結果
患者毎に、12時間、24時間、48時間及び2週間、6週間及び3ヶ月に連絡して、EVIP注射による何らかの副作用及び全ての副作用について議論した。いずれの患者からも、EVIP注射による副作用は報告されなかった。EVIP注射から臨床的に悪化した患者はいなかった。
【表4】
【0120】
膝=58、肩=32、肘=16、股関節=12、足首=8、手首=6、注射した関節の合計数=132

E.参考文献




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】