(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】自動化バイオリアクターにおける使用のための細胞濃縮方法および細胞濃縮デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220316BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220316BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546293
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(85)【翻訳文提出日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 US2020016756
(87)【国際公開番号】W WO2020163454
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512190365
【氏名又は名称】ロンザ ウォーカーズヴィル,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】オコナー, ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】マカフィー, エリカ
(72)【発明者】
【氏名】バンダパール, サマタ
(72)【発明者】
【氏名】シー, ヤーリン
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム, エイタン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA04
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB10
4B029HA05
4B065AA90X
4B065BC25
4B065BD18
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、自動処理中または自動処理後の細胞サンプルの流体体積を減少させるための、細胞濃縮フィルターを含む、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットを提供する。本開示はさらに、細胞群の濃縮方法、ならびに当該カセットを利用し、当該方法を実行することができる自動化細胞操作システムを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットであって、
(a)細胞培養チャンバー、
(b)前記細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、
(c)前記ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、前記ポンプシステムは、濃縮流を前記接線流フィルターへと送り、前記接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および
(d)前記接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備えるカセット。
【請求項2】
前記接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、請求項1に記載のカセット。
【請求項3】
前記接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、請求項2に記載のカセット。
【請求項4】
前記接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項5】
前記接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバーをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項6】
前記濃縮流を再循環させて前記接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項7】
前記接線流フィルターに流体連結されたサテライト体積をさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項8】
一つ以上の流体経路をさらに備え、前記流体経路は、前記細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、前記細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、請求項1~7のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項9】
前記細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、請求項1~8のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項10】
pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項11】
一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、請求項1~10のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項12】
前記接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、請求項1~11のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項13】
前記フローコントローラーが、フローリストリクターである、請求項1~12のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項14】
前記フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、請求項1~13のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項15】
前記フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、請求項1~14のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項16】
自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットであって、
(a)細胞培養チャンバー、
(b)前記細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、
(c)前記ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、前記ポンプシステムは、濃縮流を前記接線流フィルターへと送り、前記接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、
(d)前記接線流フィルターに連結されるサテライト体積、
(e)前記濃縮流を再循環させて前記接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路、
(f)前記接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバー、および
(g)前記接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備えるカセット。
【請求項17】
前記接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、請求項16に記載のカセット。
【請求項18】
前記接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、請求項17に記載のカセット。
【請求項19】
前記接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項16~18のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項20】
一つ以上の流体経路をさらに備え、前記流体経路は、前記細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、前記細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、請求項16~19のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項21】
前記細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、請求項16~20のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項22】
pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、請求項16~21のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項23】
一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、請求項16~22のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項24】
前記接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、請求項16~23のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項25】
前記フローコントローラーが、フローリストリクターである、請求項16~24のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項26】
前記フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、請求項16~25のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項27】
前記フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、請求項16~26のいずれか1項に記載のカセット。
【請求項28】
自動処理中に細胞サンプルの体積を減少させる方法であって、
(a)細胞サンプルを、濃縮流と浸透流とを有する接線流フィルターに導入することであって、前記浸透流は、フローコントローラーにより制御される、導入すること、
(b)前記細胞サンプルを、前記接線流フィルターの前記濃縮流に通過させること、
(c)前記浸透流を介して前記細胞サンプルから一定体積廃液収集チャンバーへと体積を取り除くこと、および
(d)前記体積が減少した細胞サンプルを収集すること、を含む、方法。
【請求項29】
前記体積除去工程の後、前記濃縮流を再循環させて、前記細胞サンプルを前記濃縮流に繰り返し通過させることをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記体積除去が、前記一定体積廃液収集チャンバーに所望の体積が入った時点で停止する、請求項28~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記収集の後に前記細胞サンプルを洗浄すること、および前記方法の工程(a)~(d)を繰り返すことをさらに含む、請求項28~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記収集の後に、前記細胞サンプルをエレクトロポレーションすることをさらに含む、請求項28~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記フローコントローラーが、フローリストリクターである、請求項28~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、請求項28~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、請求項28~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
自動化細胞操作システムであって、
(a)密閉可能な筐体、
(b)前記密閉可能な筐体内に含有されるカセットであって、
i.細胞培養チャンバー、
ii.前記細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、
iii.前記ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、前記ポンプシステムは、濃縮流を前記接線流フィルターへと送り、前記接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および
iv.前記接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備えるカセット、ならびに
(c)ユーザーからのインプットを受信するためのユーザーインターフェース、を備える、自動化細胞操作システム。
【請求項37】
前記接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、請求項36に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項38】
前記接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、請求項37に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項39】
前記接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項36~38のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項40】
前記接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバーをさらに備える、請求項36~39のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項41】
前記濃縮流を再循環させて前記接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路をさらに備える、請求項36~40のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項42】
前記接線流フィルターに流体連結されたサテライト体積をさらに備える、請求項36~41のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項43】
一つ以上の流体経路をさらに備え、前記流体経路は、前記細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、前記細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、請求項36~42のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項44】
前記細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、請求項36~43のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項45】
pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、請求項36~44のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項46】
一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、請求項36~45のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項47】
前記接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、請求項36~46のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項48】
コンピューター制御システムをさらに備え、前記ユーザーインターフェースが前記コンピューター制御システムに接続されて、前記自動化細胞操作システムに命令を出す、請求項36~47のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項49】
前記フローコントローラーが、フローリストリクターである、請求項36~48のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項50】
前記フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、請求項36~48のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【請求項51】
前記フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、請求項36~48のいずれか1項に記載の自動化細胞操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動処理中または自動処理後の細胞サンプルの流体体積を減少させるための、細胞濃縮フィルターを含む、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットを提供する。本開示はさらに、細胞群の濃縮方法、ならびに当該カセットを利用し、当該方法を実行することができる自動化細胞操作システムを提供する。
【背景技術】
【0002】
高度細胞療法の臨床応用促進に関する期待が高まるにつれ、そうした治療法により世界中の患者に利益をもたらすことができる基盤製造戦略に関心が向けられつつある。細胞療法は臨床的に大きな期待が寄せられているが、報酬と比較して製造コストが高く、商業化には厄介な障壁となっている。ゆえにコストの有効性、プロセス効率、および製品の一貫性に関するニーズが高まり、多くの細胞療法分野において自動化に注力されている。
【0003】
治療用細胞群の製造には様々なプロセスの自動化が関与している。自動化には、市販製造プラットフォームへの細胞の活性化、形質導入および拡張の統合を行い、これら重要な治療法を、広範な患者集団に適用させることが含まれる。
【0004】
自動処理中、または自動化システムからの最終アウトプットの前のいずれかで、細胞群の体積を減少させることがしばしば求められる。必要なのは、細胞サンプルを濃縮することができるプロセスである。すなわち、自動化の間、またはサンプルアウトプットの前のいずれかでサンプル体積を減少させることである。
【0005】
[発明の概要]
一部の実施形態では、本明細書において、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットが提供され、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは、濃縮流(retentate flow)を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流(permeate flow)はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備える。
【0006】
さらなる実施形態では、本明細書において自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットが提供され、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは、濃縮流を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流は、フローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、当該接線流フィルターに連結されるサテライト体積、当該濃縮流を再循環させて当該接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路、当該接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバー、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備える。
【0007】
追加の実施形態では、本明細書において、自動処理中に細胞サンプルの体積を減少させる方法が提供され、当該方法は、細胞サンプルを、濃縮流と浸透流とを有する接線流フィルター内に導入することであって、当該浸透流はフローコントローラーにより制御される、導入すること、細胞サンプルを、当該接線流フィルターの濃縮流に通過させること、当該浸透流を介して当該細胞サンプルから一定体積廃液収集チャンバーへと体積を取り除くこと、および体積が低下した細胞サンプルを収集すること、を含む。
【0008】
またさらなる実施形態では、本明細書において、自動化細胞操作システムが提供され、当該システムは、密閉可能な筐体、当該密閉可能な筐体内に含有されるカセットであって、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは濃縮流を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流は、フローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプットを備える、カセット、ならびに、ユーザーからのインプットを受信するためのユーザーインターフェースを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本明細書の実施形態において記載される、自動化細胞操作システムのカセットで実施され得る様々な工程を示す。
【
図2A】
図2Aは、本明細書の実施形態に従う例示的なカセットを示す。
【
図2B】
図2Bは、本明細書に記載されるカセット、システムおよび方法における使用のための例示的な接線流フィルターを示す。
【
図2C】
図2Cは、本明細書に記載される接線流フィルターとともに使用されるための例示的なフローコントローラーを示す。
【
図3】
図3Aおよび3Bは、本明細書の実施形態に従う自動化細胞操作システムのイメージを示す。
【
図4】
図4は、本明細書の実施形態に記載される例示的な細胞操作システムを含む実験室空間を示す。
【
図5】
図5は、本明細書の実施形態に記載される自動化細胞操作システムのカセットでの細胞濃縮のためのフローパスを示す。
【
図6】
図6A~6Bは、本明細書の実施形態に従う、接線流ろ過に対する血清の影響を示す。
【
図7】
図7A~7Cは、本明細書の実施形態に従う、接線流フィルターの目詰まりを低下させるための浸透コントロールの使用を示す。
【
図8】
図8A~8Bは、本明細書の実施形態に従う、接線流ろ過を使用した末梢血単核細胞(PBMC)の体積減少を示す。
【
図9】
図9A~9Dは、本明細書の実施形態に従う、PMBCの接線流体積減少の間の浸透ポンプ最適化を示す。
【
図10A】
図10Aは、本明細書の実施形態に従う、接線流ろ過の後の細胞回収を示す。
【
図10B】
図10Bは、本明細書の実施形態に従う、接線流ろ過の前および後の細胞生存度を示す。
【
図11】
図11は、対照細胞懸濁液およびTFF細胞懸濁液における、CD4+発現およびCD8+発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において示され、記載される特定の実施は例示であり、本出願の範囲をいかなる方法によっても限定する意図はないことを認識されたい。
【0011】
本明細書において言及される、公開されている特許、特許出願、ウェブサイト、企業名および科学文献は、各々が参照により援用されることが具体的および個々に示されているのと同程度に、その全体で参照により本明細書に援用される。本明細書に引用される任意の参照文献と、本明細書の特定の教示との間に何らかの矛盾がある場合、後者を支持して解決されるものとする。同様に、当分野において理解されている言葉または文言の定義と、本明細書において具体的に教示される言葉または文言の定義との間に何らかの矛盾がある場合、後者を支持して解決されるものとする。
【0012】
本明細書において使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、別段であることが文脈から明白に指示されない限り、それらが指す用語の複数形も具体的に包含する。「約」という用語は、本明細書において、およそ、~の辺り、概略で、または大体を意味するために使用される。「約」という用語が数値的な範囲と併せて使用されるとき、当該用語は、当該範囲を、記載される数値よりも上および下に境界を拡張することにより修正する。一般的に、「約」という用語は、本明細書において、20%の差異まで当該記載される値を上および下に数値を修正するために使用される。
【0013】
本明細書で使用される技術用語および科学用語は、別段の定義が無い限り、本出願が関与する分野の当業者により普遍的に理解される意味を有する。本明細書において、当業者に公知の様々な技法および材料に関する参照が為される。
【0014】
複数の実施形態において、本明細書は、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットを提供する。
図1は、例示的なカセット102を示しており、様々なプロセスが密閉された自動化システム中で実施され、様々な細胞サンプルおよび細胞群の作製を行うことができる。そうしたプロセスには、活性化、形質導入、拡張、濃縮、洗浄および収集/採集の工程が含まれ得る。
【0015】
本明細書において記載されるように、カセットおよび方法は、完全密閉型自動化細胞操作システム300(
図3A、3Bを参照)において利用および実施され、当該システムは、例えば活性化、形質導入、拡張、濃縮および採集などの工程の実施のための命令を有していることが好ましい。例えばCAR T細胞をはじめとする遺伝子改変免疫細胞などの自動化製造のための細胞操作システムは、2018年8月31日に出願された米国特許出願16/119,618に記載されており(当該開示内容は、その全体で参照により本明細書に援用される)、本明細書において、自動化細胞操作システム、COCOON(商標)またはCOCOON(商標)システムとも呼ばれる。
【0016】
例えばユーザーは、細胞培養物および試薬(例えば、活性化試薬、ベクター、細胞培養培地、栄養素、選択用試薬など)で予め充填された自動化細胞操作システム、および細胞製造用のパラメーター(例えば、開始細胞数、培地のタイプ、活性化試薬のタイプ、ベクターのタイプ、作製される細胞数または用量など)を提供することができる。自動化細胞操作システムは、ユーザーからのさらなるインプットを要せずに、CAR T細胞をはじめとする遺伝子改変免疫細胞培養物を作製する方法を含む、様々な自動化方法を実行することができる。一部の実施形態では、完全密閉型自動化細胞操作システムは、非滅菌環境への細胞培養物の暴露を低下させることにより、細胞培養液の汚染を最小限にする。追加的な実施形態では、完全密閉型自動化細胞操作システムは、ユーザーが細胞を取り扱うことを減らすことにより、細胞培養物の汚染を最小限にする。
【0017】
本明細書において記載されるように、自動化細胞操作システム300は、カセット102を含むことが好ましい。したがって複数の実施形態において、本明細書は、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットを提供する。本明細書において使用される場合、「カセット」とは、自動化細胞操作システムの大きな自己完結型の取り外し可能で取り換え可能な要素を指し、本明細書に記載される方法の様々な要素を実施するための一つ以上のチャンバーを含み、さらに細胞培地、活性化試薬、洗浄媒体のうちの一つ以上を含むことが好ましい。
【0018】
図2Aは、自動化細胞操作システムにおける使用のための例示的なカセット102を示す。複数の実施形態において、カセット102は、細胞サンプルインプット202を含む。細胞サンプルインプット202は、バイアルまたはチャンバーとして
図2A中に示されており、細胞サンプルはカセット102への導入またはローディングの前に配置されることができる。他の実施形態では、細胞サンプルインプット202はシンプルに滅菌ロック型チューブ(例えば、ルアーロック型チューブコネクションなど)であってもよく、これにシリンジまたは例えば血液バッグなどの細胞含有バッグを連結することができる。
【0019】
カセット102はさらに細胞培養チャンバー206を含む。細胞培養チャンバー206の特徴と使用の例を、本明細書に記載する。カセット102はさらに、細胞培養チャンバー206と流体連結されたポンプシステム520(フローパス中の例示的な配置については
図5を参照のこと)も含む。
【0020】
本明細書において使用される場合、「流体連結された」とは、例えばカセット102の構成要素などのシステムの一つ以上の構成要素が、流体(気体や液体を含む)が漏出したり、体積を減少させたりすることなく構成要素の間を通過することを可能とする適切な要素を介して連結されていることを意味する。例示的な流体連結としては、当分野で公知の様々なチューブ、チャンネルおよびコネクションが挙げられ、例えばシリコーンまたはゴム製のチューブ、ルアーロック型コネクションなどが挙げられる。流体連結される構成要素はさらに、流体連結を維持しながら構成要素の各々の間に追加の要素を含んでもよいことを理解されたい。すなわち、流体連結された構成要素は追加の要素を含んでもよく、その結果、構成要素間を通過する流体は当該追加要素も通過することができるが、そうすることが必須ではない。
【0021】
ポンプシステム520は、蠕動ポンプシステムであることが好ましいが、他のポンプシステムも利用することができる。蠕動ポンプとは、流体をポンプで送り込むための容積型ポンプの一種を指す。流体は、ポンプの枠-しばしば環状である-の内側に適合された柔軟性のあるチューブ内に適切に含有される。ローターは、ローターの外周に取り付けられた多くの「ローラー」、「シューズ」、「ワイパー」または「ローブ」とともに、当該柔軟性のあるチューブを圧縮する。ローターが回転するにつれ、圧縮されたチューブ部分が挟まれて閉じられ(または「塞がれ」)、それに伴い、流体が送り出されてチューブを通過する。さらにカムを通過した後にチューブが開くと(「回復」または「復元」)、流体の流れがポンプに誘導される。このプロセスが蠕動と呼ばれており、柔軟性のあるチューブに流体を通過させるために使用される。典型的には、2個以上のローラーまたはワイパーがあり、それらがチューブを塞ぎ、それらの間に多量の流体をトラップする。次いで多量の流体はポンプの排水口へと移送される。
【0022】
カセット102はさらに、ポンプシステムに流体連結された接線流フィルター204を含む。
図2Bは、例示的な接線流フィルターを示す。
図2Cは、接線流フィルターの内部の概略を示す。接線流ろ過は、交差流ろ過としても知られており、供給、注入、または流入の流体の流れ(
図2Cの250)は膜面と並行して通りながら、一部が膜を通過して排出され(浸透流-
図2Cの252)、残りは膜内を通過し(濃縮流-
図2Cの254)、再循環されてインプットへと戻って濃縮され、最終的には貯蔵部分またはアウトプットへと移動することができるろ過システムまたはろ過プロセスである。
【0023】
接線流フィルター204は、一連の中空糸膜(単繊維を使用することもできる)から構成されることが好ましく、その中に溶液が供給される。濃縮流は中空糸内を通過し、線維膜の内側の溶液内に細胞が保持される。一方で余剰体積は繊維膜を通過して、浸透流内に排出される。これによって細胞サンプル総体積が減少し、細胞サンプルが濃縮される。膜は、自己完結型の装置の形態で供給されることが好ましく、装置内にフローコントローラー258を含まれてもよい。
【0024】
本明細書において記載されるように、
図2Cに関連して、ポンプシステム520は、接線流フィルターの浸透流252をフローコントローラー258で制御しながら、濃縮流254を接線流フィルター204へと送る。本明細書において使用される場合、「フローコントローラー」とは、接線流フィルターの繊維膜を離れて浸透流へと流入する流体の量を制御するためのバルブ、収縮デバイス、分流器、ポンプ機構、様々なチューブ設定を含む流体工学、または他の機構を指す。
図2Cのフローコントローラー258は、単に浸透流252の量を制御するための機構の統合を図示するために提示されており、この機構の構造を示しているものではない。
【0025】
例示的な実施形態では、フローコントローラー258は、フローリストリクター260である。「フローリストリクター」とは、接線流フィルターから出る浸透流252の量と速度を制御するためのバルブ、徐々に狭窄するチューブ、または収縮デバイスを指す。フローリストリクション260は、接線流フィルター204の下流に配置される。その結果、浸透流の制御は、接線流フィルター204の膜を出た後に発生する。フローリストリクター260は、図示の目的のためだけに
図2Cに示されており、フローリストリクター260の配置と仕組みは、
図2Cの表示に限定されるものではない。当業者であれば、フローリストリクターを使用して、浸透流252の量と速度を制御することができる様々な方法を容易に認識するであろう。フローリストリクター260は、接線流フィルター204の末端262に隣接して配置され(
図2Bを参照)、浸透流252の量と速度を制限することが好ましい。
【0026】
さらなる実施形態では、フローコントローラー258は追加のポンプシステムであり、浸透流252の量と速度を制御し、制限する(または増加させる)ように設定することができる。
【0027】
またさらなる実施形態では、フローコントローラー258は、カセット102内で方向付けられ、配置されることができる複数のチューブを有するシステムであり、浸透流252の量と速度に関して望ましい制御(制限または増加)を提供する。
【0028】
複数の実施形態では、カセット102はさらに、細胞培養チャンバーに適切に連結された一つ以上の流体経路を含む(
図2Aのカセット102の内部を参照)。またカセット102には、細胞培養チャンバーに流体連結された細胞サンプルアウトプット208も含まれる。カセット102はさらに、接線流フィルター204に流体連結された細胞サンプルアウトプット208も含むことが好ましい。
【0029】
本明細書において記載されるように、細胞サンプルアウトプット208を利用して様々な自動化手順の後に細胞を採集し、さらなるプロセス、保管を行うことができ、または患者において使用する可能性もある。細胞サンプルアウトプット208は、本明細書に記載されるサンプルポート220であってもよく、それにより細胞サンプルをカセットから取り出して、例えばエレクトロポレーション法などの形質導入を行い、その後にカセットに戻してさらなる自動処理を行うことが可能となる。流体経路の例としては、本明細書に記載されるようにカセットの要素に対して栄養素や溶液を提供する様々なチューブ、チャンネル、キャピラリー、マイクロ流体工学的要素などが挙げられる。また細胞サンプルアウトプット208はシンプルに接線流フィルターのアウトプットであってもよく、次いで本明細書に記載されるようにカセット102の別のセクションまたは部分に流体連結される。
【0030】
複数の実施形態では、カセット102は明白に、接線流フィルター204の前または後の遠心分離を除外する。本明細書に記載される様々な細胞分離のフィルターおよび方法を使用することで、遠心分離手順や遠心分離器の使用を介した追加の細胞分離は必須ではないと判定された。しかし複数の実施形態では、例えばカラムろ過および/または磁気ろ過システムなどの追加的なろ過システムを利用してもよい。
【0031】
例示的な実施形態では、接線流フィルター204は、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する膜を含む。複数の実施形態では、接線流フィルター204の孔サイズは、約0.2μm~約1.0μmもしくは約0.3μm~約0.9μm、約0.4μm~約0.8μm、約0.5μm~約0.7μm、約0.6μm~約0.7μm、または約0.40μm、約0.45μm、約0.50μm、約0.55μm、約0.60μm、約0.65μm、約0.70μm、約0.75μmもしくは約0.80μmである。複数の実施形態では、繊維の直径は、約0.30mm~約1.2mm、好適には約0.40mm~約1.0mm、約0.50mm~約0.90mm、約0.60mm~約0.80mm、約0.70mm~約0.80mm、または約0.60mm、約0.65mm、約0.70mm、約0.75mm、約0.80mm、約0.85mmもしくは約0.90mmである。
【0032】
接線流フィルター204は、約10~20cm、好適には約10~15cm、または約13cmの繊維内腔の全長を有する、約15~20個の繊維、好適には18個の繊維を含むことが好ましい。繊維の表面積は、約40~70cm2の幅で、より好適には約50~60cm2の幅で、または約57cm2である。複数の実施形態では、比較的大きな表面積、大きな孔サイズの膜が、接線流フィルター204での使用に望ましい。
【0033】
接線流フィルター204における使用のための材料の例としては、限定されないが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)、セルロースエステル、ポリ(スルホン)をはじめとするポリマーが挙げられる。接線流フィルターの例としては、MICROKROS(登録商標)フィルターおよびMIDIKROS(登録商標)フィルターをはじめとするSPECTRUM LABS(登録商標)から入手可能なフィルター、ならびに所望のカセットの内側に適合するためのそれらの改変物が挙げられる。複数の実施形態では、材料は、改変型ポリ(エーテルスルホン)である。
【0034】
さらなる実施形態では、接線流フィルターの表面にコーティングを施してもよい。当該コーティングは、接線流フィルター204の表面上のファウリングを減少させる、または除去するのに役立ち得ることが好ましい。例示的な非ファウリングコーティングとしては例えば、リン脂質コーティング、ポリマーコーティング、例えばポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)コーティングなどが挙げられる。追加的な表面コーティングをさらに接線流フィルターに施して、安定性、流れの増加もしくは減少、または他の望ましい特性を提供してもよい。
【0035】
さらなる実施形態では、追加的なプレフィルターおよびポストフィルター(すなわち接線流フィルターの前または後)を、本明細書に記載のカセットおよび方法において利用してもよい。例えば磁気分離プロセスを利用して、細胞群から望ましくない細胞および残渣をさらに除去ならびに分離してもよい。そのような実施形態において、磁気ビーズまたは他の構造は、生体分子(例えば、抗体、抗体断片など)に結合され、標的細胞と相互作用することができる。次いで磁場を伴うフィルター、カラム、フローチューブまたはチャンネルの使用を含む様々な磁気分離方法を使用して、細胞サンプル中に存在する可能性がある望ましくない細胞、残渣などから標的細胞群を分離してもよい。例えば標的細胞群は、チューブまたは他の構造物を通過して流れ、そして磁場に曝されてもよく、それにより標的細胞群は当該磁場により保持され、または留められて、望ましくない細胞や残渣がチューブを通り過ぎることが可能となる。その後に磁場を切ってもよく、それにより標的細胞群がさらなる保持チャンバーまたは他のカセットの領域を通過することが可能となり、さらなる自動処理が行われる。追加的なろ過としては、従来的なカラムろ過、または他のろ過膜やろ過構造物の使用が挙げられる。
【0036】
さらなる実施形態では、カセット102はさらに、接線流フィルター204に流体連結された一定体積廃液収集チャンバー510を含む。一定体積廃液収集チャンバー510を使用して、接線流フィルターを出た浸透流252が収集される。一定体積を利用することにより、一定体積廃液収集チャンバーは、所定量の収集された浸透流252のみを保持することが許される。当該所定量の浸透流252に達した時点で、追加の浸透流252は接線流フィルター204を出ることが許されず、それにともない細胞サンプルの体積がさらに減少することはない。その結果、例えば最終目的に合致するよう、または規定体積のさらなるプロセスのために予め規定された値など、予め規定され、判明している値を有する細胞濃度と細胞サンプル体積が得られる。一定体積廃液収集チャンバー510の例としては、拡張せず、ゆえに一定体積を保持するのみの様々な硬質プラスチック、金属などが挙げられる。それに加えて、バッグまたは柔軟性のあるプラスチックを使用してもよいが、それらは硬質プラスチックの器の内側または動かない壁(例えば、プラスチックの壁)の間に置かれ、それによってバッグが規定の体積に達した時点で、当該動かない壁または器にぶつかり、バッグの拡張は停止する。一定体積廃液収集チャンバー510が最大容積まで満たされたとき、さらに浸透流252が出ることはできず、その後は収集が望ましいときまで、濃縮流254はシンプルに接線流フィルターを通って再循環する。この再循環は、流体経路(すなわち、
図5のフローパスにおいて540として総称的に示されている)を介して発生することが好ましい。一定体積廃液収集チャンバー510はさらに、浸透流252を停止させ、濃縮流254を再循環させるよう誘導および指示するレベルモニターを含んでもよい。
【0037】
追加的な実施形態では、サテライト体積550は、接線流フィルター204に流体連結されており、カセットに追加的な保管能力を提供して自動化プロセスの全体的な体積を増加させることができ、または接線流ろ過に追加の体積流量を提供することができる。サテライト体積550の例示的な配置を、
図5のフローパスに示す。
【0038】
カセットはさらに、一つ以上の流体経路(総称的に540)を含むこともでき、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバーを含む当該カセットの様々な部分に対し、当該細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、再循環、廃液の除去、均一気相交換、および栄養素分配を提供する。カセット102はさらに、一つ以上のバルブ522または552を含み、様々な流体経路のフロースルーを制御する(フローパス内の例示的な配置については
図5を参照のこと)。
【0039】
例示的な実施形態では、
図2Aに示されるように、細胞培養チャンバー206は平坦で柔軟性のないチャンバーであり(すなわち例えばプラスチックなどの実質的に柔軟性のない材料から作製される)、容易には曲がらず、または屈曲しない。柔軟性のないチャンバーを使用することで、細胞は、実質的にかき乱されることのない状態で維持される。
図2Aに示されるように、細胞培養チャンバー206は、免疫細胞培養が、細胞培養チャンバーの底全体に拡がるように方向付けられる。
図2Aに示されるように、細胞培養チャンバー206は、床またはテーブルと並行な位置に維持され、細胞培養がかき乱されない状態に維持され、細胞培養チャンバーの底の広い面積全体に細胞培養が広がり得ることが好ましい。複数の実施形態では、細胞培養チャンバー206の全体的な厚さ(すなわちチャンバーの高さ)は小さく、約0.5cm~約5cmの幅である。細胞培養チャンバーは、好ましくは約0.50ml~約300mlの体積、より好ましくは約50ml~約200mlの体積を有し、または細胞培養チャンバーは、約180mlの体積を有する。チャンバー高が低い(5cm未満、好ましくは4cm未満、3cm未満、または2cm未満)ことで、細胞に近接した培地および気体の効率的な交換が可能になる。細胞をかき乱すことなく、流体の再循環を介した混合が可能となるようにポートが構成される。固定された器の高さが高いほど濃度勾配が生成され、その結果、細胞に近い領域は酸素と新鮮な栄養素が制限される可能性がある。流れの動態を制御することにより、細胞攪乱を伴わずに培地交換を行うことができる。細胞消失のリスクを伴わずに、追加的チャンバー(細胞は存在しない)から培地を取り除くことができる。
【0040】
本明細書に記載されるように、例示的な実施形態では、カセットは、それらの任意の組み合わせを含む、細胞培養物、培養培地、望ましい場合には細胞洗浄培地、活性化試薬、および/またはベクターのうちの一つ以上で予め充填される。さらなる実施形態では、これらの様々な要素は、好適な注入ポートなどを介して後で添加されてもよい。
【0041】
本明細書に記載されるように、複数の実施形態では、カセットは、pHセンサー524、グルコースセンサー(示さず)、酸素センサー526、二酸化炭素センサー(示さず)、乳酸センサー/モニター(示さず)、および/または光学密度センサー(示さず)のうちの一つ以上をさらに含むことが好ましい。フローパス内の例示的な配置については
図5を参照のこと。またカセットは、一つ以上のサンプリングポートおよび/または注入ポートを含んでもよい。そのようなサンプリングポート220および注入ポート222の例は
図2Aに示され、フローパス内の例示的な配置については
図5に示されており、アクセスポートを含んで、例えばエレクトロポレーションユニットまたは追加培地供給源などの外部デバイスにカートリッジを連結してもよい。
図2Aはさらに、インプット202、細胞培地などを加温するために使用され得る試薬加温バッグ224、および第二チャンバー230の配置も示している。
【0042】
複数の実施形態では、カセット102は、細胞培養培地の保管に適した冷蔵エリア226を含むことができる低温チャンバーを含むことが好ましく、ならびに好ましくは細胞培養物の活性化、形質導入および/または拡張の実施に適した高温チャンバーを含む。高温チャンバーは、遮熱壁により低温チャンバーから分離されていることが好ましい。本明細書において使用される場合、「低温チャンバー」とは、好ましくは冷蔵温度での細胞培地などの維持のために、室温未満、より好ましくは約4℃~約8℃に維持されているチャンバーを指す。低温チャンバーは、約1L、約2L、約3L、約4L、または約5Lの流体を含む、培地用のバッグまたは他のホルダーを含んでもよい。追加の培地バッグまたは他の流体供給源をカセットに外部連結してもよく、およびアクセスポートを介してカセットに連結してもよい。
【0043】
本明細書において使用される場合、「高温チャンバー」とは、好ましくは室温より高く維持されるチャンバー、より好ましくは細胞が増殖および成長することが可能な温度、すなわち約35~40℃、より好ましくは約37℃で維持されるチャンバーを指す。複数の実施形態では、高温チャンバーは、細胞培養チャンバー206(明細書全体を通じて、増殖チャンバーまたは細胞増殖チャンバーとも呼ばれる)を含むことが好ましい。
【0044】
複数の実施形態では、接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度となるように、より適切には水平に対して約5°~約15°または約10°の角度となる(接線流フィルター204の出口端が、入口端よりも上/高く配置される)ように、接線流フィルター204がカセット102中に適切に並べられることが好ましい。水平に対してある角度で接線流フィルター204を並べ、接線流フィルターの出口端(すなわち262)が入口端よりも上にあることが、接線流フィルター204を介した体積減少および細胞濃縮の改善を行うための望ましい流れ特性の提供には望ましい。
【0045】
水平に対して約3°~約20°の角度で接線流フィルターを並べることにより、細胞のプライミング(または重力沈降)が減少または回避され得るという利益も提供される。そうした角度を使用することで、細胞が接線流フィルターを流れ落ちるときに、懸濁液から転がり落ちることが可能となる。
【0046】
複数の実施形態では、カセット102はさらに、細胞洗浄システム512を含んでもよく、当該システムはカセット102内(すなわち
図2Aに示される構造内)に含有され、接線流フィルター204に流体連結されることが好ましく、または細胞洗浄が望まれているか否かに応じてカセット内の他のセクションに連結されてもよい。複数の実施形態では、細胞洗浄システム512は、カセット102内に含有される容器またはバッグであり、細胞洗浄培地を含むことが好ましい。細胞洗浄培地を使用して所望の細胞群を清浄化し、何らかの望ましくない廃棄細胞または汚染を除去し、その後にカセット内またはカセットの外側に細胞群を移送して、さらなるプロセスを行う、または使用することが好ましい。細胞洗浄システム512は、カセット102の外側に含まれてもよい。
【0047】
カセット102はさらに任意で、細胞保持チャンバー516(カセット102の内側に配置されているため、
図2では見えない)を含んでもよい。
図5は、カセットのフローパスにおける細胞保持チャンバー516の例示的な配置を示す。細胞保持チャンバー516は、カセット内に配置された容器または適切なチャンバーであることが好ましく、本明細書に記載されるように接線流ろ過の前または後でその中に細胞群が保持され得る。
【0048】
追加的な実施形態では、本明細書において自動化細胞操作システム300における使用のためのカセット102が提供され、当該カセットは細胞培養チャンバー206、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム520、および当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルター204を備えることが好ましい。本明細書において記載されるように、ポンプシステムが濃縮流を接線流フィルターへと送り、接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される。カセットはさらに、接線流フィルターに連結されたサテライト体積550、濃縮流を再循環させて接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路540、当該接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバー510、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット208も含む。
【0049】
接線流フィルター204における使用のための孔サイズと繊維直径の例を、本明細書に記載する。複数の実施形態では、接線流フィルターは、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズと約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を含む、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズと、約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する。
【0050】
接線流フィルターにおける使用のための好適な材料としては例えば限定されないが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)などのポリマーが挙げられる。
【0051】
例示的な実施形態では、カセット102はさらに、一つ以上の流体経路を含み、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去と均一気相交換、および栄養素分配を提供する。複数の実施形態では、細胞培養チャンバーは平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高は低い。
【0052】
本明細書に記載される場合、カセット102はさらに、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上を含んでもよく、および一つ以上のサンプリングポートを含んでもよい。
【0053】
複数の実施形態では、接線流フィルターは、カセット102とともに配置され、水平に対して約3°~約20°の角度にある。
【0054】
本明細書に記載される場合、フローコントローラーは、フローリストリクター、追加のポンプシステム、複数のチューブを有するシステム、またはそうしたコントローラーの組み合わせであってもよい。
【0055】
図3A~3Bは、COCOON(登録商標)自動化細胞操作システム300を示しており、カセット102が内側に配置されている(
図3Bにおいて、自動化細胞操作システムの蓋が開いている)。また例示的なユーザーインターフェースも示されており、これにはバーコードリーダー、およびタッチパッドまたは他の類似デバイスによるインプットを使用して受信する能力を含んでもよい。
【0056】
本明細書に記載される自動化細胞操作システムおよびカセットは、細胞培養チャンバー体積、ワーキング体積、および総体積の3種の関連体積を有することが好ましい。カセットで使用されるワーキング体積は、処理工程に応じて180mL~460mLの範囲であることが好ましく、最大で約500mL、約600mL、約700mL、約800mL、約900mL、または約1Lまで増加されてもよい。複数の実施形態では、カセットは容易に4×109細胞~10×109細胞を獲得することができる。プロセス中の細胞濃度は、0.3×106細胞/ml~およそ10×106細胞/mlに変化する。細胞は細胞培養チャンバー中に配置されるが、培地は継続的に追加チャンバー(例えば、交差流容器およびサテライト体積)を通って再循環され、本明細書に記載されるようにワーキング体積を増加させる。
【0057】
気体交換ラインを含む流体経路は、例えばシリコーンなどの気体透過性材料から作製されてもよい。一部の実施形態では、自動化細胞操作システムは、細胞作製方法中、実質的に何も産生しないチャンバーの全体に酸素を再循環させる。したがって一部の実施形態では、自動化細胞操作システム中の細胞培養物の酸素レベルは、柔軟性のある気体透過性バッグ中の細胞培養物の酸素レベルよりも高い。酸素レベルが高いことが、細胞培養物拡張工程において重要である場合があり、酸素レベルが高ければ、高い細胞の成長と増殖がサポートされる場合がある。
【0058】
さらなる実施形態では、本明細書において、自動処理中の細胞サンプルの体積を減少させる方法が提供される。本明細書において提供される方法は、
図5のフローパスに関連付けられて記載されている。当該図は解説のみを目的としており、当該方法が実行され得る手段を限定するとみなされないものとする。例えば細胞サンプルは、インプット202を介してカセット102に導入されてもよい。他の実施形態では、細胞サンプルは、例えば細胞培養チャンバー206における形質導入または細胞拡張段階の後、すでにカセット102内にあってもよい。細胞サンプルは、例えばバルブV11を通過することにより、接線流フィルター204に導入される250。接線流フィルターは、濃縮流254と、浸透流252を有する(
図2Cを参照のこと)。本明細書において記載されるように、浸透流252は、フローコントローラー258により制御され、望ましい細胞濃度と体積減少を提供する。細胞サンプルは濃縮流254を通過し、一方で体積は、浸透流252を介して細胞サンプルから除去される。浸透流252は、バルブv1およびv13を通過することにより、一定体積廃液収集チャンバー510へと除去されることが好ましい(必要に応じてバルブv13は取り除かれてもよい)。望ましい体積減少が達成された時点で、体積が減少した細胞サンプルは、好適にはバルブV1およびV10を通りアウトプット208へと移動することにより収集される。他の実施形態では、体積が減少した細胞サンプルは、例えば、細胞保持チャンバー516において収集され、その後にさらなる自動処理が行われてもよく、またはカセットから取り出されてもよい。
【0059】
本明細書において記載されるように、体積除去工程の後に濃縮流254を再循環させ、当該細胞サンプルを濃縮流254に繰り返し通過させることが好ましい。例えば濃縮流254は、接線流フィルター204から排出され、バルブV1、V12およびV11を通り、接線流フィルター204へと戻ってもよい。
【0060】
一定体積廃液収集チャンバー510を利用する実施形態では、一定体積の廃液に達した時点で、細胞サンプルは接線流フィルターに(例えば、バルブV14、V12およびV11を通って)戻り通過する。しかし、一定体積廃液収集チャンバーに所望の体積が入った時点で体積除去が適切に停止するため、追加の体積は除去されない。
【0061】
追加的な実施形態では、細胞サンプルの初回の収集の後、サンプルは細胞洗浄システム512を使用して洗浄されてもよく、その後、体積減少法が繰り返されてもよい。細胞洗浄システム512は、例えばバルブV4を介して細胞保持チャンバー516に連結され、そしてバルブV12およびV11を閉じることにより、当該洗浄液は当該保持チャンバーへと押し出されることができる。
【0062】
本明細書において記載される方法はさらに、例えば接線流ろ過後の収集が行われた後に細胞サンプルをエレクトロポレーションするなどの追加の工程を含んでもよい。この追加工程は、内部を介して(すなわちカセット102を用いて)、または外部のエレクトロポレーションシステムを介して行われてもよい。接線流ろ過後の収集が行われた後に、追加の形質導入工程が実施されてもよい。
【0063】
本明細書に記載される場合、当該方法はフローコントローラーを利用することが好ましく、当該フローコントローラーは、フローリストリクター、追加のポンプシステム、複数のチューブを有するシステム、またはそうしたコントローラーの組み合わせであってもよい。
【0064】
複数の実施形態では、本明細書に記載される方法およびカートリッジは、COCOON(登録商標)プラットフォーム(Octane Biotech社(オンタリオ州キングストン))において利用され、当該プラットフォームは、単一のターンキープラットフォームにおいて複数のユニット操作を組み込んでいる。非常に専門的な細胞処理対象を伴う複数の細胞プロトコールが提供される。効率的で有効な自動転換を提供するために、記載の方法は、複数のユニット操作を組み合わせた、アプリケーション特異的/スポンサー特異的なディスポーザブルカセットのコンセプトを利用している-それらすべて、最終的な細胞療法製品のコア要件に焦点を当てている。複数の自動化細胞操作システム300が、大きなマルチユニット操作にまとめて統合され、個々の患者用の大量の細胞サンプルまたは複数の様々な細胞サンプルが製造されてもよい(
図4を参照のこと)。
【0065】
図5において、様々なセンサー(例えば、pHセンサー524、溶存酸素センサー526)、ならびにサンプリング/サンプルポートおよび様々なバルブ(バイパスチェックバルブ552を含む)、ならびに構成要素を連結するシリコーン系チューブ構成要素を適切に含む一つ以上の流体経路540の例示的な配置も示されている。本明細書において記載されるように、シリコーン系のチューブ構成要素を使用することにより、当該チューブ構成要素を介した酸素化が可能となり、細胞培養のための気体輸送および最適な酸素化が促進される。また
図5において、カセットのフローパスにおける、一つ以上の疎水性フィルター554または親水性フィルター556の使用も示されている。
【0066】
追加的な実施形態では、本明細書において、自動化細胞操作システム300が提供される。
図3Aおよび3Bに示されるように、自動化細胞操作システム300は、密閉可能な筐体302、および当該密閉可能な筐体内に含有されるカセット102を含むことが好ましい。本明細書において使用される場合、「密閉可能な筐体」とは、開閉することができる構造物を指し、その中に本明細書に記載のカセット102が配置されてもよく、および例えば流体供給ライン、気体供給ライン、電源、冷却連結、加熱連結などの様々な構成要素と統合されてもよい。
図3Aおよび3Bに示されるように、密閉可能な筐体は、カセットの挿入が可能となるように開くことができ(
図3B)、および閉じた密閉環境を維持して、本明細書に記載の様々な自動化プロセスが当該カセットを利用して行われるように閉じることができる(
図3A)。
【0067】
本明細書に記載されるように、カセット102は、細胞培養チャンバー206、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム520、および当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルター204を含むことが好ましい。本明細書において記載されるように、ポンプシステムが濃縮流を接線流フィルターへと送り、接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される。カセット102はさらに、接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット208も含むことが好ましい。
【0068】
図3A~3Bに示されるように、自動化細胞操作システム300はさらに、ユーザーからのインプットを受信するためのユーザーインターフェース304も含む。ユーザーインターフェース304は、タッチパッド、タブレット、キーボード、コンピューター端末、または他の適切なインターフェースであってもよく、ユーザーインターフェースによって、ユーザーは、所望のコントロールまたは基準を自動化細胞操作システムに入力し、自動化プロセスおよびフローパスを制御することができる。ユーザーインターフェースは、コンピューター制御システムに接続され、自動化細胞操作システムに命令を出して、当該自動化細胞操作システムの活動全体を制御することが好ましい。そのような命令としては、様々なバルブの開閉、培地または細胞群の提供、温度を上げるまたは下げるなどが挙げられる。
【0069】
自動化細胞操作システムにおける使用のための接線流フィルター204の孔サイズおよび繊維直径の例示的な特徴は本明細書に記載されており、複数の実施形態では、接線流フィルターは、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズと、約0.5mm~約0.9mmの繊維直径、好ましくは約0.60μm~約0.70μmの孔サイズと約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する。接線流フィルターにおける使用のための好適なポリマーが本明細書に記載され、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)およびポリ(ビニリデンジフルオリド)が挙げられる。
【0070】
複数の実施形態では、自動化細胞操作システムのカセットはさらに、接線流フィルター204に流体連結された一定体積廃液収集チャンバー510を備える。複数の実施形態では、自動化細胞操作システム300のカセット102はさらに、一つ以上の流体経路540を含み、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、細胞培養チャンバー206に、再循環、廃液の除去と均一気相交換、および栄養素分配を提供する。複数の実施形態では、細胞培養チャンバーは平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高は低い。濃縮流が再循環して接線流フィルターに戻り通過するための流体経路が含まれてもよい。カセットは、接線流フィルターに流体連結されたサテライト体積550を含んでもよい。
【0071】
自動化細胞操作システムの複数の実施形態において、カセット102は、培養培地、細胞洗浄培地などで予め充填される。本明細書に記載される場合、複数の実施形態において、自動化細胞操作システムのカセットはさらに、pHセンサー524、グルコースセンサー、酸素センサー526、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上を含んでもよく、また、好適な実施形態では、一つ以上のサンプリングポートを含んでもよい。
【0072】
フローコントローラーの例が本明細書において記載されており、フローリストリクター、追加のポンプシステム、および複数のチューブを有するシステムが挙げられる。複数の実施形態では、接線流フィルターは、カセット内に、水平に対して約3°~約20°の角度にある。
【0073】
細胞療法用製品の製造において、ユニット操作の自動化を行うことで、同種細胞療法アプリケーションおよび自己細胞療法アプリケーションに普遍的な利益がもたらされる機会が提供される。患者特異的な自己細胞製品の固有状況において、そしてこれら療法の臨床的成功によりさらに重視されることであるが、少量バッチのGMPコンプライアンス、経済性、患者のトレーサビリティ、そして処理逸脱の早期特定に関する著しいマイクロロットの複雑性によって、自動化の利点は特に説得力を増す。関連する複雑な製造プロトコールの発生が注目されるのに対し、マイクロロットでの細胞製品製造における自動化ユニット操作の徹底的な統合は、重要な研究対象ではないという事実がある。しかし、間近に迫った承認後のこれら療法に対する予測需要から、完全に密閉型のエンドツーエンドシステムを実装することにより、例えば作業時間や取り付け面積などの製造のボトルネックに対し、多くの必要とされる解決法を提供することができる。
【0074】
先進医療の開発者は、臨床的解釈の展開および臨床試験プロトコールのスケールアップの早い段階で自動化を検討するよう促される。早く自動化を行うことにより、プロトコールの開発に影響を与え、後になって手動プロセスから自動化プロセスへと切り替えた場合の比較可能性試験の必要性が無くなり、そして長期的な商業化計画に関する理解が深まる。
【0075】
例示的な実施形態では、本明細書において記載される自動化細胞操作システムは、複数のチャンバーを備え、この場合において本明細書において記載される様々な方法の各工程は、当該自動化細胞操作システムの複数のチャンバーの異なるチャンバーにおいて実施され、当該方法が開始される前に活性化試薬、ベクター、および細胞培養培地は、各々、複数のチャンバーの異なるチャンバー中に含有され、この場合において当該複数のチャンバーのうちの少なくとも一つは、細胞を増殖させる温度(例えば、約37℃)に維持され、当該複数のチャンバーのうちの少なくとも一つは、冷蔵温度(例えば、約4~8℃)に維持される。
【0076】
複数の実施形態において、本明細書に記載される自動化細胞操作システムは、温度センサー、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーを用いてモニタリングされる。したがって一部の実施形態において、自動化細胞操作システムは、温度センサー、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上を含む。追加の実施形態において、自動化細胞操作システムは、予め規定された培養サイズに応じて、細胞培養物の温度、pH、グルコース、酸素レベル、二酸化炭素レベル、および/または光学密度を調整するように構成される。例えば、自動化細胞操作システムが、細胞培養物の現在の酸素レベルが低すぎて、所望の細胞培養サイズに必要な増殖に達することができないことを検出した場合、当該自動化細胞操作システムは例えば酸素化された細胞培養培地を導入することにより、酸素化された細胞培養培地と細胞培養培地を交換することにより、または細胞培養培地を、酸素化構成要素(すなわちシリコーンチューブ)を通して循環させることにより、細胞培養物の酸素レベルを自動的に上昇させる。別の実施形態では、自動化細胞操作システムが、細胞培養物の現在の温度が高すぎること、および細胞が急速に増殖していることを検出した場合(例えば、細胞が潜在的に超過密状態である場合、望ましくない特性がもたらされる可能性がある)、当該自動化細胞操作システムは、細胞培養物の温度を自動的に下げて、一定の細胞増殖速度(または望ましい場合には対数増殖速度)を維持する。またさらなる実施形態では、自動化細胞操作システムは、細胞増殖速度および/もしくは細胞数、または例えばpH、酸素、グルコースなどの他のモニタリング因子に基づき、細胞フィーディング(すなわち、細胞培養物に新鮮な培地および/または栄養素を提供すること)のスケジュールを自動的に調整する。自動化細胞操作システムは、低温チャンバー(例えば、4℃または-20℃)で培地(および例えば洗浄溶液などの他の試薬)を保存し、そして室温チャンバーまたは高温チャンバー(例えばそれぞれ25℃または37℃)中で培地を加温して、その後に細胞培養物に当該加温培地を導入するよう構成されてもよい。
【0077】
追加的な例示的実施形態
実施形態1は、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットであり、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは、濃縮流を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備える。
【0078】
実施形態2は、当該接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、実施形態1に記載のカセットを含む。
【0079】
実施形態3は、当該接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、実施形態2に記載のカセットを含む。
【0080】
実施形態4は、当該接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0081】
実施形態5は、当該接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバーをさらに備える、実施形態1~4のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0082】
実施形態6は、濃縮流を再循環させて当該接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路をさらに備える、実施形態1~5のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0083】
実施形態7は、当該接線流フィルターに流体連結されたサテライト体積をさらに備える、実施形態1~6のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0084】
実施形態8は、一つ以上の流体経路をさらに備え、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、実施形態1~7のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0085】
実施形態9は、当該細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、実施形態1~8のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0086】
実施形態10は、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、実施形態1~9のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0087】
実施形態11は、一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、実施形態1~10のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0088】
実施形態12は、当該接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、実施形態のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0089】
実施形態13は、当該フローコントローラーが、フローリストリクターである、実施形態1~12のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0090】
実施形態14は、当該フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、実施形態1~13のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0091】
実施形態15は、当該フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、実施形態1~14のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0092】
実施形態16は、自動化細胞操作システムにおける使用のためのカセットであり、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは、濃縮流を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、当該接線流フィルターに連結されるサテライト体積、当該濃縮流を再循環させて当該接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路、当該接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバー、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプット、を備える。
【0093】
実施形態17は、当該接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、実施形態16に記載のカセットを含む。
【0094】
実施形態18は、当該接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、実施形態17に記載のカセットを含む。
【0095】
実施形態19は、当該接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、実施形態16~18のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0096】
実施形態20は、一つ以上の流体経路をさらに備え、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、実施形態16~19のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0097】
実施形態21は、当該細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、実施形態16~20のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0098】
実施形態22は、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、実施形態16~21のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0099】
実施形態23は、一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、実施形態16~22のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0100】
実施形態24は、当該接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、実施形態16~23のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0101】
実施形態25は、当該フローコントローラーが、フローリストリクターである、実施形態16~24のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0102】
実施形態26は、当該フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、実施形態16~25のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0103】
実施形態27は、当該フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、実施形態16~26のいずれか1つに記載のカセットを含む。
【0104】
実施形態28は、自動処理中に細胞サンプルの体積を減少させる方法であり、当該方法は、細胞サンプルを、濃縮流と浸透流とを有する接線流フィルターに導入することであって、当該浸透流はフローコントローラーにより制御される、導入すること、細胞サンプルを、当該接線流フィルターの濃縮流に通過させること、当該浸透流を介して当該細胞サンプルから一定体積廃液収集チャンバーへと体積を取り除くこと、および体積が低下した細胞サンプルを収集すること、を含む。
【0105】
実施形態29は、体積除去工程の後、当該濃縮流を再循環させて、当該細胞サンプルを当該濃縮流に繰り返し通過させることをさらに含む、実施形態28に記載の方法を含む。
【0106】
実施形態30は、当該体積除去が、一定体積廃液収集チャンバーに所望の体積が入った時点で停止する、実施形態28~29のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0107】
実施形態31は、収集の後に細胞サンプルを洗浄すること、および当該方法の工程(a)~(d)を繰り返すことをさらに含む、実施形態28~30のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0108】
実施形態32は、収集の後に、細胞サンプルをエレクトロポレーションすることをさらに含む、実施形態28~31のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0109】
実施形態33は、当該フローコントローラーが、フローリストリクターである、実施形態28~32のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0110】
実施形態34は、当該フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、実施形態28~33のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0111】
実施形態35は、当該フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、実施形態28~34のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0112】
実施形態36は、自動化細胞操作システムであり、当該システムは、密閉可能な筐体、当該密閉可能な筐体内に含有されるカセットであって、当該カセットは、細胞培養チャンバー、当該細胞培養チャンバーに流体連結されたポンプシステム、当該ポンプシステムに流体連結された接線流フィルターであって、当該ポンプシステムは、濃縮流を当該接線流フィルターへと送り、当該接線流フィルターの浸透流はフローコントローラーにより制御される、接線流フィルター、および当該接線流フィルターに流体連結された細胞サンプルアウトプットを備える、カセット、ならびにユーザーからのインプットを受信するためのユーザーインターフェースを備える。
【0113】
実施形態37は、当該接線流フィルターが、約0.40μm~約0.80μmの孔サイズ、および約0.5mm~約0.9mmの繊維直径を有する、実施形態36に記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0114】
実施形態38は、当該接線流フィルターが、約0.60μm~約0.70μmの孔サイズ、および約0.70mm~約0.80mmの繊維直径を有する、実施形態37に記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0115】
実施形態39は、当該接線流フィルターが、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(ビニリデンジフルオリド)からなる群から選択されるポリマーを含む、実施形態36~38のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0116】
実施形態40は、当該接線流フィルターに流体連結された一定体積廃液収集チャンバーをさらに備える、実施形態36~39のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0117】
実施形態41は、濃縮流を再循環させて当該接線流フィルターに戻して通過させるための流体経路をさらに備える、実施形態36~40のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0118】
実施形態42は、当該接線流フィルターに流体連結されたサテライト体積をさらに備える、実施形態36~41のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0119】
実施形態43は、一つ以上の流体経路をさらに備え、この場合において当該流体経路は、細胞培養チャンバー内の細胞をかき乱すことなく、細胞培養チャンバーに、再循環、廃液の除去、および均一気相交換、および栄養素分配を提供する、実施形態36~42のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0120】
実施形態44は、当該細胞培養チャンバーが、平坦で柔軟性のないチャンバーであり、チャンバー高が低い、実施形態36~43のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0121】
実施形態45は、pHセンサー、グルコースセンサー、酸素センサー、二酸化炭素センサー、および/または光学密度センサーのうちの一つ以上をさらに備える、実施形態36~44のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0122】
実施形態46は、一つ以上のサンプリングポートをさらに備える、実施形態36~45のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0123】
実施形態47は、当該接線流フィルターが、水平に対して約3°~約20°の角度にある、実施形態36~46のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0124】
実施形態48は、コンピューター制御システムをさらに備え、当該ユーザーインターフェースが当該コンピューター制御システムに接続されて、当該自動化細胞操作システムに命令を出す、実施形態36~47のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0125】
実施形態49は、当該フローコントローラーが、フローリストリクターである、実施形態36~48のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0126】
実施形態50は、当該フローコントローラーが、追加のポンプシステムである、実施形態36~48のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【0127】
実施形態51は、当該フローコントローラーが、複数のチューブを有するシステムである、実施形態36~48のいずれか1つに記載の自動化細胞操作システムを含む。
【実施例】
【0128】
実施例1-COCOON(商標)システムにおける接線流ろ過
細胞療法アプリケーションのために接線流ろ過(TFF:tangential flow filtration)を使用して、採取後の懸濁液から細胞を分離、清浄化、回収および収集して、その後に製剤化を行うことができる。従来的なTFFプロセスは、以下の2つの工程からなる;1)体積減少、および2)透析ろ過。体積減少工程の間、バルク体積(細胞は採集試薬と培養培地中にある)は、処理バッグ中で所望の細胞濃度に達するまで、フィルターの浸透面を通過するろ過を介して何度も除去される。透析ろ過中、濃縮された細胞懸濁液の溶液は、製剤緩衝液と置き換えられ、最終溶液中に望ましくない残留タンパク質と混入物質は許容可能なレベルまで低下する。最終細胞懸濁液は、製剤化可能な細胞濃度と緩衝液となる。接線流フィルターは、目詰まりを予防し、細胞ダメージを防ぎながら流体体積を減少させることができるため、標準的なフィルターよりも接線流フィルターが好ましい。細胞がフィルターに押し付けられていないため、細胞を回収するのも簡単である。
【0129】
TFFフィルターは、単回使用でディスポーザブルであるため、簡単にカセットに装着させて、密閉および自動化された様式で操作を行うことができる。細胞療法製品を最終的に滅菌またはろ過することはできないため、完全に密閉されたシステムであることによって、プロセスを無菌状態で実施することが可能になる。完全にディスポーザブルなシステムであることによって、二次汚染のリスクを除外し、洗浄の必要性を減少させることができる。COCOON(商標)の機能性を高めるために、カセットは、統合された接線流フィルターとともに提供される。本実施例は、細胞療法アプリケーションのための自動化システムにおいて、細胞を濃縮および洗浄するためのTFFシステムの開発を詳述する。
【0130】
方法
COCOON(商標)カセットにおける接線流ろ過
細胞濃縮のためのTFFシステムは多くの場合、2つのポンプを有している。1つは供給流の速度を制御するポンプであり、もう1つは浸透(すなわち廃棄)流の速度を制御するポンプである。各ポンプの流速は、典型的には膜間圧力の最適化に基づき決定される。圧力の差異が大きすぎる、または小さすぎる場合、フィルターに何も通過せずにシステムが役に立たない可能性があり、または目詰まりが起こる可能性がある。COCOON(商標)は概して、一つのポンプを操作し、圧力センサーを備えていないため、TFFを介した従来的なろ過方法は適用されない。
【0131】
実験は、COCOON(商標)カセットまたはカセットに似た経路のいずれかに装着されたTFFフィルターを用いて行われた。本明細書において記載されるように、カセットの経路には、細胞培養用の拡張チャンバー、細胞処理用のサテライトバッグまたはL型チャンバー、余剰培地を取り除くためのTFF、および余剰培地を収集するための廃液バッグが含まれる。COCOON(商標)カセットは、その培養チャンバーにおいて、最大で450mLの培養培地を好適に再循環させる。260cm2の増殖チャンバーの180mLの最大容積を超える追加の培地体積は、COCOON(商標)カセットの様々なサテライト容器から提供される。これらサテライト容器からの追加培地を、ディスポーザブルカセットの培養部位内で再循環させて、新鮮な栄養素を供給し、増殖チャンバー中の細胞に由来する廃棄産物を取り除くことができる。
【0132】
圧力差を生じさせるために、浸透ラインにおいてフローリストリクターが使用された。実験最適化に基づき、目詰まりを回避し、細胞回収を最大化し、そして体積減少のための時間を最小化する理想的な浸透流の速度が選択された。これに並行し、広範なフィルターを検証して、繊維直径、繊維面積、繊維数、総表面積、細胞のタイプ、濃縮流の速度、孔サイズおよびフィルター材質の影響を把握した。
【0133】
一定体積廃液容器
いくつかの実験においては、一定体積廃液容器も利用した。典型的には、カセットは流体容器中に柔軟性のある廃液バッグが配置されている。このバッグは拡張し、サテライトバッグを完全に排水させる、およびある状況下ではTFFを完全に排水させる可能性がある最大容積を有する。フィルターが完全に排水されることによって、当該フィルターの膜上に細胞がトラップされ、細胞の不可逆的な損失が生じる。排液バッグの最大容積を制限するために、廃液バッグは流体容器中で固定分離されたプラスチックの2つの剛性の層の間に保持されてもよい。バッグは一定体積まで満たされ、その時点で、バッグ中の圧力により、サテライトバッグ/TFFを通過する再循環が継続され、廃液容器に流体がさらに送られることはない。
末梢血単核細胞(PBMC)を濃縮するためのカスタムフィルター
【0134】
初期の細胞濃縮実験により、例えば大きな表面積や大きな孔サイズなど、接線流フィルターの望ましい特性が明らかとなった。Spectrum Labs P-OCTA01-04-Nフィルターは、これらの要件を満たし、Cocoonカセットの内側に適合するカスタム設計のフィルターである。特性としては以下が挙げられる:
【0135】
mPES膜
【0136】
繊維直径=0.75
【0137】
孔サイズ=0.65μm
【0138】
繊維数=18
【0139】
管腔=全長13cm
【0140】
表面積=57cm2
【0141】
このフィルターが評価され、最適化され、次いで概念実証的なエレクトロポレーション統合実験に使用された。
【0142】
カスタムフィルターを使用したTFF体積の減少
カスタムフィルターの初期実験は、COCOON(商標)を用いずに行われた。KrosFlo(登録商標)Research 2i TFF System (Spectrum Labs社)を使用して、細胞処理中の供給、濃縮、浸透および膜間圧力がモニタリングされた。供給ラインの流速を制御するポンプは1個のみを利用し(別段の言及が無い限り)、COCOON(商標)装置の機能を模倣した。20ゲージ、0.024” I.D./0.036”O.D.のNordson EFD社のフローリストリクターを、浸透ラインの末端に取り付け、過去に最適化されたTFF手順を模倣した。このシステムを使用することにより、100mLの細胞懸濁液を10~20mLに濃縮した。TFFは、室温で卓上で行われた。膜間圧力は以下のように定義される:
【0143】
【0144】
PBMC培養物
1x108個のPBMCが、1x108個のCD3+:CD28+ Dynabeads(Invitrogen社)で刺激され、5%ヒト血清A/B(Sigma社)および10ng/mL IL-2(Peprotech社)を補充されたX-VIVO 15培地(Lonza社)から構成される完全T細胞培地中で最大10日間、複数のGREX 100(Wilson Wolf社)培養管を使用して拡張された。フィルターを目詰まりさせ得る高粘度の血清を適合させるために、COCOON(商標)のプレ洗浄プロトコールを規定して最初に血清濃度を低下させ、その後にTFFプロセスを使用して体積を減少させた。検証濃度の細胞を250mLのコニカルバイアルに移し、遠心分離、または空気加湿された5%CO2の37℃インキュベーターにおいて2~4時間安置させた。安置された細胞懸濁液の上清を10mLまで減少させ、余剰の上清は廃棄された。適切な培地を濃縮細胞懸濁液に添加し、最終体積は100mLとした。
【0145】
解析
プレ希釈された細胞培養物、希釈培養物、および最終濃度の細胞懸濁液に対し、Nucleocounter NC-200(Chemometec社)を使用して二重で計数が行われた。TFFの前後に、血清用ピペットとKrosFloスケールを使用して体積が測定された。残りの検証サンプルは、希釈前初期培養物、TFF前上清、およびTFF後の最終濃縮細胞懸濁液から取得された。ヒト血清ELISAキット(Bethyl Laboratories社)を使用して、希釈および濃縮後に残存する血清の割合を決定した。対照細胞およびTFF濃縮細胞懸濁液に対し、CD4+とCD8+の発現に関してFACS解析を実施した。
【0146】
TFF体積減少の実験成功は、以下のように規定された:
【0147】
TFF後の細胞回収率 ≧85%
【0148】
TFF後の細胞生存度は、≦10%の減少
【0149】
TFF後の初期濃縮(エレクトロポレーション実験用)の残留ヒト血清は、≦10%
【0150】
結果
接線流フィルターの評価
多種多様なフィルターを検証して、様々なフィルターのパラメーターの影響を把握した。繊維直径、繊維面積、繊維数、総表面積、濃縮流の速度、孔サイズおよびフィルター材質のすべてが、細胞懸濁液の体積減少において、フィルターの有効性に影響を及ぼしていた。結果は、溶液(例えば培地のタイプおよび血清のタイプ)ならびに細胞のタイプ(すなわち、サイズ)、細胞数、細胞濃度、および標的の最終体積にも影響を受けていた。静水圧も影響があるため、フローリストリクターは、静水圧に応じて調整されなければならない。大部分の実験でヒト間葉系幹細胞(hMSC)を検証される細胞タイプとして使用した。
【0151】
浸透流の量における変動性に適合させるために、一定体積の柔軟性のない廃液容器を使用した。例えば、総体積から100mLを取り除く必要がある場合、厳密に100mLの廃液容器を使用した。流れる期間は、最も遅い浸透流に基づき設定され得た。インライン型の高圧チェックバルブとともにポンプチューブのいずれか側にバイパスループを配置した。ポンプ時間が完了する前に廃液が満たされた場合、バイパスラインを動かし、流体が円内に押し出されるようにして、TFFプロセスを終了させた。この方法によって、表1に示されるように、非常に一貫性のある廃液容器への流速が実現された。さらなる制御のために、レベルセンサーをCOCOON(商標)に組み込み、柔軟性のない容器中の流体レベルをモニタリングしてもよい。
【0152】
【0153】
カスタム接線流フィルターの評価と最適化
様々な接線流フィルターの検証結果から、望ましい条件が明らかとなった。カスタムフィルターであるSpectrum Labs P-OCTA01-04-Nはこれらの仕様を満たしているが、検証と最適化は必要であった。本発明者らは当該フィルターが正確に機能することを確認し、COCOON(商標)システムの制限をすべて最初に切り離したかった。そこで本発明者らは、Spectrum Labs TFFシステムを使用し、フィルターを評価した。
【0154】
無細胞実験を開始して、フィルターの初期動作パラメーターを得た。RPMI培地の体積が減少したとき、一定の膜間圧力(TMP)およびフィルターを通る流れが存在した(
図6A)。しかし血清がRMPIに添加された場合、TMPは上昇し、流れは経時的に減少した(
図6B)。これはフィルターが血清中のタンパク質により目詰まりを起こしている兆候である。
【0155】
血清による目詰まりを制御するために、自動化背圧バルブ(
図7Aおよび7B)または第二ポンプ(
図7C)のいずれかを浸透ラインに加えた。自動化背圧バルブは、体積減少の3分後に浸透圧力を制御することができる。第二ポンプは浸透流速度を最初は20ml/分に制御し、5.5分後に10ml/分に制御した。浸透制御の両方の場合において、流れ、浸透圧力およびTMPはほぼ一定であった。この結果から、COCOON(商標)においてTFF浸透ラインに対する圧力を制御することにより、フィルター目詰まりが制御されることが示唆された。
【0156】
血清を含まないPBMC懸濁液の体積減少でも同様の傾向が認められた(
図8Aおよび8B)。浸透流に対して背圧制御バルブを加えることにより、流れ、浸透圧力およびTMPの安定化に役立った。このことから、浸透流の制御に対する必要性がさらに確認された。
【0157】
生存度を大きく失うことなく、最大の細胞回収率を得るために、プロセスパラメーターが最適化される。検証される最初のパラメーターは、浸透流制御ポンプを介した浸透圧力である。PMBC+0%血清の懸濁液を濃縮しながら、再循環ポンプを60mL/分に設定し、浸透流制御ポンプを0、5、10または15mL/分のいずれかに設定した(
図9A~9D)。浸透流ポンプのスピードは流れ、TMPまたは浸透圧力に対しほとんど影響がないと思われた。15mL/分が最も短いTFF時間となるため、その後の実験に選択した。
【0158】
再循環の流速も検証した。0%血清懸濁液中のPBMCを、15mL/分の浸透流ポンプ、および60mL/と70mL/分のいずれかの再循環流速を用いてTFFにより濃縮した(表2)。70mL/分の流速のほうが細胞回収率は高かった。
【0159】
【0160】
0%血清懸濁液中のPBMCを、浸透ライン上のフローリストリクター、および70mL/分の再循環流速を用いてTFFにより濃縮した(表3)。平均回収率はおよそ89%であり、生存度は80%よりも高かった。
【0161】
【0162】
多くの細胞療法が血清を使用しており、一部の例では、TFFの前に血清を取り除くことはできない場合がある。5%血清懸濁液中のPBMCを、浸透ライン上のフローリストリクター、および70mL/分の再循環流速を用いてTFFにより濃縮した(表4)。平均回収率はおよそ86%であり、生存度は80%よりも高かった。
【0163】
【0164】
エレクトロポレーション用のTFFを介したCOCOON(商標)カセットにおける細胞濃縮
細胞の洗浄と濃縮は製品の下流プロセスの前で有用であるだけでなく、例えばエレクトロポレーションなど特定のユニット操作のための半自動化プロセスでも利用され得る。細胞がエレクトロポレーションユニットに添加される前に、細胞は<10mLに濃縮され、残留物は洗い流されることが好ましい。概念実証のために、2名のドナーに由来する細胞を、4.4x10
8および4.2x10
8個の総生存細胞で10mLの体積に沈殿させることにより濃縮した。次いでこれら2つの細胞懸濁液を90mLの補充Nucleofector(商標)溶液(NFS)で希釈し、TFFを使用して10mLに濃縮した。TFF濃縮後の細胞回収率は92%と87%であった(
図10A)。トランスフェクション前の細胞生存度は92%と74%であり、TFF後には5%未満に減少した(
図10B)。
【0165】
両方の実験において、6%と8%の初期培養上清が、最終TFF濃縮細胞懸濁液において検出された(表5)。
【0166】
【0167】
TFFにより濃縮されていない対照培養物と比較して、TFF後のCD4+:CD8+のプロファイルにおける差異はなかった(
図11)。
【0168】
これらの結果から、生産プロセスでのトランスフェクションの前の細胞の洗浄および濃縮における、TFFの効用が実証される。
【0169】
結論
接線流ろ過を介した洗浄と濃縮は、COCOON(商標)システムを使用して実施されることが好ましい可能性がある。TFFによって、プロセスが密閉状態を維持し、自動的に行われ、そしてCOCOON(商標)ディスポーザブルカセットの領域内に適合することが可能となる。TFFは、当該システムを通して細胞懸濁液を20ml未満に濃縮し、85%超で細胞を回収することができる。
【0170】
関連分野の当業者には、本明細書に記載される方法およびアプリケーションに対する他の好適な改変および適合が、本実施形態のいずれの範囲からも逸脱することなく為され得ることが明白であろう。
【0171】
特定の実施形態が本明細書において図示および解説されているが、請求の範囲は、記載され、示される部分の特定の形態または配置に限定されないことが理解されよう。本明細書において、解説的な実施形態が開示されている。特定の用語が採用されているが、それらは包括的で説明的な意味で使用されており、限定の目的では使用されていない。上述の教示を考慮し、実施形態の改変および変更が可能である。ゆえに、実施形態は、具体的に記載されるもの以外で実施され得ることが理解される。
【0172】
本明細書に言及されるすべての公表文献、特許および特許出願が、個々の公表文献、特許または特許出願のそれぞれが具体的に、および個々に参照により援用されることが示されているように、参照により本明細書に援用される。
【国際調査報告】