(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】心不全の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20220316BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220316BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P9/04
A61B5/055 383
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547460
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(85)【翻訳文提出日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 US2020018371
(87)【国際公開番号】W WO2020168247
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501475701
【氏名又は名称】チルドレンズ メディカル センター コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッカリー、ジェームズ ディー.
【テーマコード(参考)】
4C087
4C096
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087CA04
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA38
4C096AA11
4C096AC04
4C096FC14
(57)【要約】
本開示は、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物、及びそのような組成物を使用して障害を治療する方法に関する。記載された方法は、少なくとも一部は、単離されたミトコンドリア自身、及び治療薬、診断薬、及び/又は造影剤に結合した単離されたミトコンドリアが、それらを患者の血管に注射することにより患者の組織に送達することができるという発見に基づいている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の心不全を治療又は予防する方法であって、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
組成物が心筋内注射によって対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が心不全‐右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有する、又は発症するリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が肺疾患を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
肺疾患が右心室機能に影響を与える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
組成物が、対象の血管に組成物を注射することによって対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ミトコンドリアが自家である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ミトコンドリアが同種異系である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ミトコンドリアが異種である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
対象において、右心室(RV)収縮性を維持する、RV毛細血管密度を維持する、RV拡張を防止する、又はRVFの発症を遅らせる方法であって、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
組成物が心筋内注射によって対象に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象が右心室肥大(RVH)又は右心室不全(RVF)を有するか、又は発症するリスクがある、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が肺疾患を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
肺疾患が右心室機能に影響を与える、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
組成物が、対象の血管に組成物を注射することによって対象に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
ミトコンドリアが自家である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
ミトコンドリアが同種異系である、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
ミトコンドリアが異種である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
対象において、左心室(LV)収縮性を維持する、LV毛細血管密度を維持する、LV拡張を防止する、又は左心室不全(LVF)の発症を遅らせる方法であって、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項20】
組成物が心筋内注射によって対象に投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象が左心室肥大(LVH)又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
対象が肺疾患を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
肺疾患が左心室機能に影響を与える、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
組成物が、対象の血管に組成物を注射することによって対象に投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
ミトコンドリアが自家である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
ミトコンドリアが同種異系である、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
ミトコンドリアが異種である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
対象の心室収縮性を維持する方法であって、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む方法。
【請求項29】
前記対象は、収縮末期圧容積(ESPV)、LVピーク発生圧力、駆出率、収縮期短縮、LV拡張末期圧、又はdP/dt(時間に対する圧力の変化)を測定することによって識別される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
対象において心室毛細血管密度を維持する方法であって、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む方法。
【請求項31】
前記心室毛細血管密度が、磁気共鳴画像法(MRI)又は微小血管循環の血管造影画像法によって測定される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
対象における心室拡張のリスクを低減する方法であって、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む方法。
【請求項33】
対象が、糖尿病、肥満、高血圧、アルコール乱用、コカインの使用及び乱用、細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、寄生虫感染、毒素(例えば、鉛、水銀又はコバルト)への曝露、不整脈、又は後期妊娠合併症を有すると識別される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対象における心不全の発症を遅らせる方法であって、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む方法。
【請求項35】
対象が右心室肥大又は左心室肥大を有すると識別される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
対象において、心不全を治療し、心不全の発症を遅らせ、心不全を発症するリスクを低減する方法であって、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項37】
組成物が心筋内注射によって対象に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記方法が、心不全を発症するリスクを有するものとして対象を特定することを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
対象が肺疾患を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、心臓への血管に組成物を注射することによって、前記対象に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
対象において、心臓肥大を治療し、心臓肥大の発症を遅らせ、心臓肥大を発症するリスクを低減する方法であって、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項42】
組成物が心筋内注射によって対象に投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記方法が、心臓肥大を発症するリスクを有するものとして対象を特定することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
対象が肺疾患を有する、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物が、心臓への血管に組成物を注射することによって、前記対象に投与される、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
この出願は、2019年2月15日に出願された米国仮出願第62/806,473号の利益を主張する。前述の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、ミトコンドリア及び組み合わされたミトコンドリア剤の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリアは、有核真核細胞の細胞質に見られる二重膜結合細胞小器官である。それらは、赤血球を除く人体のほぼすべての細胞に見られる。それらは細胞のエネルギー代謝の主要な部位であり、さまざまな細胞機能のためにアデノシン三リン酸(ATP)を生成する。通常、ATPに対する細胞の要求の90%超は、細胞自身のミトコンドリアによって供給される。
【0004】
ミトコンドリアは、特化した機能を持つ2つの同心膜で構成されている。ミトコンドリア内膜には、ATP合成酵素のタンパク質が含まれている。多数の内在性膜タンパク質を含むミトコンドリア外膜は、細胞小器官全体を囲んでいる。
【0005】
ミトコンドリアの構造は、いくつかの現代の原核生物と著しく類似している。実際、ミトコンドリアは、有核細胞が好気性原核生物を飲み込んだときの古代の共生に由来すると考えられている。共生関係では、宿主細胞はエネルギー生産のために飲み込まれた原核生物に依存するようになり、原核生物細胞は宿主細胞によって提供される保護環境に依存し始めた。
【0006】
細胞代謝におけるミトコンドリアの主要な機能により、ミトコンドリアはさまざまな障害の治療に使用される可能性がある。薬物送達及び他のいくつかの治療及び診断目的のためにミトコンドリアを利用する必要もある。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、ミトコンドリアを含む医薬組成物、及びそのような医薬組成物を使用して障害を治療する方法を提供する。本明細書はさらに、そのような医薬組成物を使用する診断及び画像化方法を提供する。記載された方法は、少なくとも部分的に、単離されたミトコンドリア自体、及び治療薬、診断薬、及び/又は造影剤に結合された単離されたミトコンドリアが、それらを患者の血管に注射することによって患者の組織に送達され得るという発見に基づいている。すなわち、ミトコンドリアの標的組織への直接注射又は適用は、本明細書に記載の特定の方法によって企図されているが、必ずしも必要ではない。むしろ、場合によっては、本明細書に記載の方法は、ミトコンドリアが、例えば動脈に注射又は注入された後、ミトコンドリアが動脈壁を横断し、患者の組織の細胞によって取り込まれることができるという発見を利用する。本明細書に記載の方法は、比較的単純な医療処置を使用して、様々な治療、診断、及び/又は画像化の目的で、ミトコンドリア又は治療薬、診断薬、及び/又は造影剤と一緒のミトコンドリアの局所的かつ一般的な分布を、組織又は細胞に提供することができる。
【0008】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象の心不全を治療又は予防する方法であり、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、心筋内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、対象は、心不全‐右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある。いくつかの実施形態では、対象は肺疾患を患っている。いくつかの実施形態では、肺疾患は右心室機能に影響を与える。いくつかの実施形態では、組成物は、組成物を対象の血管に注射することによって対象に投与される。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは自家である。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは同種異系である。いくつかの実施形態において、ミトコンドリアは異種である。
【0009】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象における右心室(RV)収縮性を維持する方法、RV毛細血管密度を維持する方法、RV拡張を防止する方法、又はRVFの発症を遅らせる方法であり、この方法は、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、心筋内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、対象は、心不全‐右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある。いくつかの実施形態では、対象は肺疾患を患っている。いくつかの実施形態では、肺疾患は右心室機能に影響を与える。いくつかの実施形態では、組成物は、組成物を対象の血管に注射することによって対象に投与される。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは自家である。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは同種異系である。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは異種である。
【0010】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象における左心室(LV)収縮性の維持、LV毛細血管密度の維持、LV拡張の防止、又は左心室不全(LVF)の発症の遅延の方法であり、この方法は、対象に、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、心筋内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、対象は、心不全‐右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある。いくつかの実施形態では、対象は肺疾患を患っている。いくつかの実施形態では、肺疾患は左心室機能に影響を与える。いくつかの実施形態では、組成物は、組成物を対象の血管に注射することによって対象に投与される。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは自家である。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは同種異系である。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアは異種である。
【0011】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象の心室収縮性を維持する方法であり、この方法は、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む。いくつかの実施形態では、対象は、収縮末期圧容積(ESPV)を測定することによって識別される。
【0012】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象の心室毛細血管密度を維持する方法であり、この方法は、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む。
【0013】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象における心室拡張のリスクを低減する方法であり、この方法は、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、対象は、糖尿病、肥満、高血圧、アルコール乱用、コカインの使用及び乱用、細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、寄生虫感染、毒素(例えば、鉛、水銀又はコバルト)への曝露、不整脈、又は後期妊娠合併症を有すると識別される。
【0015】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象における心不全の発症を遅らせる方法であり、この方法は、
それを必要としている対象を特定すること、及び
単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与すること
を含む。いくつかの実施形態では、対象は、右心室肥大又は左心室肥大を有すると識別される。
【0016】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象において心不全を治療し、心不全の発症を遅らせ、心不全を発症するリスクを低減する方法であり、この方法は、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、心筋内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、この方法は、心不全を発症するリスクがあるとして対象を特定することを含む。いくつかの実施形態では、対象は肺疾患を患っている。いくつかの実施形態において、組成物は、組成物を心臓への血管に注射することによって対象に投与される。
【0017】
本明細書で提供されるのは、とりわけ、対象において心臓肥大を治療し、心臓肥大の発症を遅らせ、心臓肥大を発症するリスクを低減する方法であり、この方法は、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、心筋内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、この方法は、心臓肥大を発症するリスクを有するとして対象を特定することを含む。いくつかの実施形態では、対象は肺疾患を患っている。いくつかの実施形態において、組成物は、組成物を心臓への血管に注射することによって対象に投与される。
【0018】
特定の実施形態では、血管は、血液を標的部位、標的器官、又は標的領域、例えば、対象の冠状動脈、対象の肝門脈、対象の大膵動脈、又は対象の前立腺動脈に運ぶ血管又は血管系の一部である。
【0019】
特定の実施形態において、ミトコンドリアは、異なる供給源を有することができ、例えば、ミトコンドリアは、自家、同種異系、又は異種であることができる。特定の実施形態において、自家ミトコンドリアは、外因性のmtDNAを有することができる。いくつかの実施形態において、ミトコンドリアは、対象の一等親血縁者に由来する。
【0020】
いくつかの実施形態において、記載された方法は、投与前に細胞から単離されたミトコンドリアを収集するステップを含む。単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、単離されたミトコンドリアが細胞から収集された直後に対象に投与することができる。
【0021】
一態様では、本開示は、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤、及び担体を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は医薬組成物である。担体は、任意の適切な担体、例えば、呼吸緩衝液、ミトコンドリア緩衝液、滅菌ミトコンドリア緩衝液、ウィスコンシン大学(UW)溶液、血液、血清、又は造影剤(contrast agent)であり得る。
【0022】
本明細書に記載のすべての方法及び/又は組成物において、組み合わされたミトコンドリア剤は、医薬品を含むことができる。医薬品は、治療薬、造影剤、診断薬、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。造影剤は放射性である可能性がある。いくつかの実施形態では、造影剤は、18F‐ローダミン6G、又は酸化鉄ナノ粒子である。いくつかの実施形態において、医薬品は、共有結合によってミトコンドリアに結合されている。あるいは、又はさらに、医薬品はミトコンドリアに埋め込まれている。組み合わされたミトコンドリア剤は、抗体又は抗原結合フラグメントを含み得る。さらに、本明細書に記載のすべての方法及び/又は組成物において、ミトコンドリアは、自家、同種異系、又は異種であり得る。いくつかの実施形態において、ミトコンドリアは、外因性DNA(例えば、mtDNA)を有する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「単離されたミトコンドリア」という用語は、外部の真核細胞物質を含まない、機能的で無傷のミトコンドリアを意味する。
【0024】
「組み合わされたミトコンドリア剤」は、医薬品、診断薬、造影剤、又はその他の薬剤と人工的に組み合わされた単離されたミトコンドリアである。薬剤は、ミトコンドリアと薬剤が互いに物理的に接触している限り、任意の様式で、たとえば、ミトコンドリアに結合されている(たとえば、化学的に又は静電的に結合されている)、ミトコンドリアに付着している、ミトコンドリア膜に埋め込まれている、ミトコンドリア内に実質的に封入されている、又はミトコンドリアによって完全にカプセル化されている様式で、ミトコンドリアと組み合わされる。組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリアが、注射後に薬剤を患者の組織に輸送することができる「担体」として機能するように設計されている。
【0025】
「対象」及び「患者」という用語は、本開示の方法による治療が提供される、ヒト又は非ヒトの動物を説明するために本明細書全体で使用される。獣医学への適用は、本開示によって明確に予想される。この用語には、鳥類、爬虫類、両生類、及び哺乳類、例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、マウス及びラットなどのげっ歯類、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジ及びヤギが含まれるが、これらに限定されない。好ましい対象は、人間、家畜、及び猫や犬などの飼いならされたペットである。
【0026】
「治療する(治療)」という用語は、状態、例えば本明細書に記載の疾患、の発症を遅らせる、を阻害する、の影響を軽減する、又は状態に苦しむ患者の寿命を延ばすことを示すために本明細書で使用される。
【0027】
「虚血関連疾患」は、虚血を伴う疾患である。本明細書で使用される虚血は、臓器及び/又は組織への血流の減少である。血流の減少は、とりわけ、臓器及び/又は組織に血液を供給する1つ又は複数の血管の、部分的又は完全な閉塞(妨害)、狭窄(収縮)、及び/又は漏出/破裂を含む、任意の適切なメカニズムによって引き起こされ得る。
【0028】
「ミトコンドリアが細胞から収集された直後」とは、ミトコンドリアが細胞から収集された直後であり、ミトコンドリアの生存率の実質的な低下が起こり得る前を意味する。
【0029】
本明細書で使用される場合、「移植」という用語は、臓器、組織、細胞塊、個々の細胞、又は細胞小器官をレシピエントに移植するプロセスを説明する一般用語として、本明細書全体で使用される。「細胞移植」という用語は、本明細書全体を通して、少なくとも1つの細胞、例えば、膵島細胞又は幹細胞をレシピエントに移すプロセスを説明するための一般的な用語として使用される。例えば、そのような移植は、ドナーの膵臓からβ細胞(又は無傷の膵島)を除去し、膵臓が十分なインスリンを産生できないレシピエント患者にそれらを入れることによって実施することができる。これらの用語は、輸血を除いて、当技術分野で知られている移植のすべてのカテゴリーを含む。移植は、ドナーとレシピエントの間の部位と遺伝的関係によって分類される。この用語には、例えば、自家移植(患者のある場所から同じ被験者の同じ場所又は別の場所への細胞又は組織の除去及び移動)、同種移植(同じ種のメンバー間の移植)、及び異種移植(異なる種のメンバー間の移植)が含まれる。
【0030】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法及び材料を以下に説明する。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、及び例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0031】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、ミトコンドリア単離の方法を示す概略図である。
【
図2】
図2は、心室過負荷に関連する疾患の転帰を示す概略図である。
【
図3】
図3は、対象におけるミトコンドリア移植の方法の概要を示す概略図である。
【
図4】
図4は、肺動脈絞扼術(PAB)を利用する動物モデル研究を示す概略図である。
【
図5】
図5は、実験のための測定及び分析のタイムラインを示す概略図である。
【
図6】
図6は、対照(C、「偽」グループとも呼ばれる)、PAB‐V(ビヒクル)、及びPAB‐M(ミトコンドリア)グループについて、ベースライン時、PAB後1ヶ月時、及び安楽死時の機能領域変化(FAC)をパーセンテージで示す折れ線グラフである。
【
図7】
図7は、対照(C、「偽」グループとも呼ばれる)、PAB‐V(ビヒクル)、及びPAB‐M(ミトコンドリア)グループについて、ベースライン時、PAB後1ヶ月時、及び安楽死時の三尖弁輪平面収縮性可動域(TAPSE)をmmで示す折れ線グラフである。
【
図8】
図8は、対照(C、「偽」グループとも呼ばれる)、PAB‐V(ビヒクル)、及びPAB‐M(ミトコンドリア)グループについて、ベースライン時、PAB後1ヶ月時、及び安楽死時の右心室(RV)壁厚をcmで示す折れ線グラフである。
【
図9】
図9は、対照(C、「偽」グループとも呼ばれる)、PAB‐V(ビヒクル)、及びPAB‐M(ミトコンドリア)グループについて、安楽死時のdP/dt max(mmHg/秒)を示すボックスプロットである。
【
図10】
図10は、対照(C、「偽」グループとも呼ばれる)、PAB‐V(ビヒクル)、及びPAB‐M(ミトコンドリア)グループについて、ベースライン時及び安楽死時のdP/dt maxをmmHg/秒で示す折れ線グラフである。
【
図11A】
図11Aは、TUNEL陽性対照グループのアポトーシス細胞(白い矢印)を照らすためのTUNEL染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図11B】
図11Bは、対照/偽のグループのアポトーシス細胞(白い矢印)を照らすためのTUNEL染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図11C】
図11Cは、PAB‐Vグループのアポトーシス細胞(白い矢印)を照らすためのTUNEL染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図11D】
図11Dは、PAB‐Mグループのアポトーシス細胞(白い矢印)を照らすためのTUNEL染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図11E】
図11Eは、視野あたりのデスミン/視野あたりの核の数の比%を示す棒グラフである(P<0.01
**)。
【
図12A】
図12Aは、対照/偽のグループの毛細血管密度(白い矢印)を照らすためのCD31染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図12B】
図12Bは、PAB‐Vグループの毛細血管密度(白い矢印)を照らすためのCD31染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図12C】
図12Cは、PAB‐Mグループの毛細血管密度(白い矢印)を照らすためのCD31染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図13A】
図13Aは、対照/偽のグループにおけるミトコンドリアの数及び形状を示す電子顕微鏡検査である。
【
図13B】
図13Bは、PAB‐Vグループにおけるミトコンドリアの数及び形状を示す電子顕微鏡検査である。
【
図13C】
図13Cは、PAB‐Cグループにおけるミトコンドリアの数及び形状を示す電子顕微鏡検査である。
【
図14】
図14は、ミトコンドリア移植治療に関連する疾患の結果及び転帰を示す概略図である。
【
図15】
図15は、対照、RV肥大(RVH)、及びミトコンドリア移植を伴うRVHの写真を示す免疫蛍光画像である。
【
図16】
図16は、対照の心筋細胞、未処理の肥大心筋細胞(H ミトなし)、及びミトコンドリア処理した肥大心筋細胞(H 心臓ミト、H 腓腹筋ミト、及びH ヒラメ筋ミト)のATPレベルを示すボックスプロットである。
*p=0.05対対照、
#p=0.001対未処理の肥大心筋細胞(H ミトなし)。
【
図17A】
図17Aは、対照/偽、PAB‐V、及びPAB‐Mグループのアポトーシス細胞(白い矢印)を照らすためのTUNEL染色を示す免疫蛍光画像である。心筋細胞はデスミン染色で染色され、核はDAPI染色で染色される。
【
図17B】
図17Bは、1000個の核あたりのTUNEL陽性核を示すボックスプロットである(
*p=0.01対対照及び
#p=0.05 PAB‐V対PAB‐M。
【
図17C】
図17Cは、対照/偽、PAB‐V、及びPAB‐Mグループにおける線維症を検出するための代表的な組織学的切片を示す顕微鏡検査である。
【
図17D】
図17Dは、研究終点での視野あたりの線維症の比率%を示すボックスプロットである(
*p=0.01対対照及び
#p=0.05 PAB‐V対PAB‐M)。
【
図18A】
図18Aは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐MグループのベースラインでのRV壁厚(cm)を示すボックスプロットである。
【
図18B】
図18Bは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループについて、PAB後1ヶ月でのRV壁厚(cm)を示すボックスプロットである。
【
図18C】
図18Cは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループの安楽死時のRV壁厚(cm)を示すボックスプロットである。
【
図19A】
図19Aは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループのベースラインでの機能領域変化(FAC)をパーセンテージで示すボックスプロットである。
【
図19B】
図19Bは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループについて、PAB後1ヶ月での機能領域変化(FAC)をパーセンテージで示すボックスプロットである。
【
図19C】
図19Cは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループの安楽死における機能領域変化(FAC)をパーセンテージで示すボックスプロットである。
【
図20A】
図20Aは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループのベースラインでの三尖弁輪平面収縮性可動域(TAPSE)をmmで示すボックスプロットである。
【
図20B】
図20Bは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループについて、PAB後1ヶ月での三尖弁輪平面収縮性可動域(TAPSE)をmmで示すボックスプロットである。
【
図20C】
図20Cは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループの安楽死における三尖弁輪平面収縮性可動域(TAPSE)をmmで示すボックスプロットである。
【
図21A】
図21Aは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐MグループのベースラインでのdP/dt max(mmHg/秒)を示すボックスプロットである。
【
図21B】
図21Bは、対照(C、「偽」とも呼ばれる)、PAB‐V、及びPAB‐Mグループの安楽死におけるdP/dt max(mmHg/秒)を示すボックスプロットである。
【
図22】
図22は、肺動脈絞扼術(PAB)を利用する動物モデル研究及びいくつかの臨床所見の要約を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
右心室肥大(RVH)と不全(RVF)は、肺高血圧症、流出路閉塞のために右心室(RV)に異常な負荷がかかっている、又は右心室が全身性心室として機能している患者の長期転帰に影響を与える心臓の罹患率と死亡率の主な原因である。最初の代償ステップとして、RVは壁の厚さを増やすことによってこれらの血行力学的変化に適応し、後負荷の増加を克服するためのより高い収縮性を提供する。最終的に、これらのメカニズムは十分ではなく、肥大は拡張及び収縮不全に進行する。臨床観察は、これらの代償性変化が収縮機能をより効果的に維持し、そして不全がより急速に起こる右側よりも左側でより長期間保存することを示している。ミトコンドリア機能は、心臓機能と収縮性に直接影響する。長期的な圧力負荷の増加に対するRVの適応の欠如は、心筋組織の肥厚からの要求に追いつくためのミトコンドリア及びカルシウム処理メカニズムの能力の欠如に関連している。アデノシン三リン酸(ATP)の消費と電子伝達系(ETC)の機能不全を伴う無駄なカルシウム循環は、ATP合成をさらに制限し、生体エネルギー障害を引き起こす(McCully JD, Rousou AJ, Parker RA, Levitsky S. Age and gender differences in mitochondrial oxygen consumption and free matrix calcium during ischemia/reperfusion and with cardioplegia and diazoxide. Ann Thorac Surg. 2007;83:1102-1109(虚血/再灌流中及び心筋保護とジアゾキシドを伴うミトコンドリアの酸素消費量と遊離マトリックスカルシウムにおける年齢及び性別の相違))。これらのイベントは、最終的に細胞の調節メカニズムを圧倒し、RVHの心機能のより急速な悪化につながる。
【0034】
ミトコンドリア酵素活性とミトコンドリアDNA(mtDNA)の含有量は、肥大から不全へと徐々に減少するため、RVの機能障害に重要な役割を果たす。これらの発見に対応して、本開示は、一致したサンプルのマイクロアレイ及びプロテオミクス分析の組み合わせを使用して、ミトコンドリアの量/質量に関するミトコンドリア機能が、薄壁RVの病理学的負荷への適応における心筋組織の発達と同等に重要であることを示した。さらに、特にミトコンドリアに関連するアポトーシス促進経路の活性化及びカルシウムシグナル伝達経路のダウンレギュレーションは、不全への進行と関連している。ミトコンドリアの安定化のための酸化的リン酸化及び関連するカルシウム処理の最初のアップレギュレーションは、薄壁のRVを圧力過負荷に適応させる心臓の筋肉成長のエネルギー需要を満たすことに対応している。しかし、増加した圧力負荷に長時間さらされると、ミトコンドリアは適応できなくなり、収縮機能の低下を伴う急速な悪化をもたらす。心不全への進行は、エネルギー貯蔵容量の低下と関連しており、代償メカニズムは、エネルギー供給の減少と適応型RV壁肥厚の需要の増加の不均衡をもはやサポートできない。
【0035】
肥大から心不全への進行におけるミトコンドリアの中心的な役割が認識されている。右心不全の患者に対する現在の治療法は、ミトコンドリア機能障害の結果としての重大な心筋のエネルギー不足に直接干渉するというよりもむしろ、主に肺機能を標的とする治療に限定されている。以前の研究は、自家呼吸能力のあるミトコンドリアの治療的移植の成功した安全な技術を実証した。これは、ネイティブの損傷したミトコンドリアのプールを健康な組織から単離された生存可能なミトコンドリアで置き換える及び/又は補充する。しかし、治療の成功は主に、ミトコンドリア移植の有益な効果が確立された急性虚血再灌流障害のモデルで実証されている(McCully JD, Cowan DB, Pacak CA, Toumpoulis IK, Dayalan H, Levitsky S. Injection of isolated mitochondria during early reperfusion for cardioprotection. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2009;296(1):H94-105(心臓保護のための早期再灌流中の単離されたミトコンドリアの注入))。進行性の圧力過負荷肥大によるミトコンドリア機能の適応的維持に加えて、長期のミトコンドリア機能障害がミトコンドリア移植で達成できるかどうかはあまり知られていない。また、代謝適応変化とミトコンドリア機能障害の組み合わせにより、移植のためのミトコンドリアの供給源が重要な役割を果たす可能性がある。報告されているように、ミトコンドリアは、供給している組織が要求する役割に適応する(Fernandez-Vizarra E, Enriquez JA, Perez-Martos A, Montoya J, Fernandez-Silva P. Tissue-specific differences in mitochondrial activity and biogenesis. Mitochondrion. 2011;11(1):207-213.(ミトコンドリアの活性と生合成における組織固有の違い))。遅筋骨格筋と比較した速筋骨格筋のミトコンドリアは、増加するエネルギー需要に迅速に適応できる高グルコース代謝細胞に慣れている。肥大して機能不全に陥った心筋は、代謝基質としてグルコースの使用に切り替わることが確立されている(Doenst T, Nguyen TD, Abel ED. Cardiac metabolism in heart failure: Implications beyond ATP production. Circ Res. 2013;113:709-724.(心不全における心臓代謝:ATP生成を超えた意味))。したがって、移植に使用されるミトコンドリアの供給源は、障害のある心臓の、欠陥のあるエネルギー生成とミトコンドリアのダイナミクスを回復することが目標であるため、関連性がある可能性がある。障害のある心臓ではすでに心臓ミトコンドリアが障害されているため、他の細胞源からのミトコンドリアを移植のために採取する必要がある。
【0036】
本開示は、心不全が発生する前であっても、ミトコンドリアを使用して心不全の1つ又は複数の症状を予防、治療、及び/又は軽減することができるという驚くべき発見に部分的に基づいている。したがって、一態様では、本開示は、心不全のリスクがある被験者で、心不全を最小限に抑え、心不全のリスクを低減し、心不全の少なくとも1つの症状を改善し、心不全に関連する細胞損傷、組織損傷、及び/又は臓器損傷を予防又は治療する方法を提供する。
【0037】
いくつかの実施形態において、対象における心不全を治療又は予防する本明細書に記載の方法は、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、直接注射、心筋内注射、又は注入によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、又は右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある。
【0038】
本開示はまた、少なくとも部分的に、単離されたミトコンドリア、及び治療薬、診断薬、及び/又は造影剤に結合された単離されたミトコンドリアが、それらを患者の血管に注射することによって患者の組織に送達され得るという発見に基づく。当業者は、比較的単純な医療処置を使用して、様々な目的のために、ミトコンドリアを局所的及び/又は一般的に患者の組織及び/又は細胞に分配することができる。さらに、ミトコンドリアは、例えば、治療薬、診断薬、及び/又は造影剤を患者の組織に送達するための担体剤として使用することができる。ナノ粒子を含むいくつかの従来の治療レジメンと比較して、ミトコンドリアは毒性がなく、実質的な有害な免疫又は自己免疫応答を引き起こさないことにさらに注目されたい。
【0039】
いかなる理論にも拘束されることを意図するものではないが、注入されたミトコンドリアは、最初に内皮に付着することによって毛細血管壁を通って溢出すると考えられている。それらが動脈に注射又は注入された後、ミトコンドリアは血管の内皮を通過し、エンドソームのアクチン依存性の内在化プロセスを通じて組織細胞に取り込まれる可能性がある。
【0040】
組み合わされたミトコンドリア剤
組み合わされたミトコンドリア剤には、治療薬、診断薬、及び/又は造影剤などの薬剤と物理的に結合したミトコンドリアが含まれる。
【0041】
治療薬は、治療的又は予防的用途を有する任意の薬剤であり得る。例示的な治療薬には、例えば、他の多くの中でも、虚血関連障害の治療薬、癌を治療するための細胞毒性薬などが含まれる。場合によっては、ミトコンドリアは特定の細胞、例えば腫瘍細胞に治療薬を送達することができる。治療薬は、例えば、細胞内阻害剤、不活性化因子、毒素、停止物質、及び/又は細胞内に入ると、細胞を阻害、破壊、停止、変性、及び/又は、改変して、細胞がもはや正常に機能できない、及び/又は生き残ることができないようにする細胞増殖抑制/細胞毒性物質であり得る。治療薬は、細胞の適切な機能を回復するための薬剤、例えば、遺伝子治療用のDNAベクターであり得る。治療薬は、例えば、無機又は有機化合物、小分子(500ダルトン未満)又は大分子;ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、翻訳後修飾タンパク質、又は抗体などのタンパク質性分子、又は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、又は三重らせん核酸分子などの核酸分子であり得る。いくつかの実施形態において、治療薬は、任意の既知の生物(例えば、動物、植物、細菌、真菌、原生生物、又はウイルス)に由来する天然物又は合成分子のライブラリー由来であり得る。いくつかの実施形態において、治療薬は、単量体又は高分子化合物であり得る。いくつかの例示的な治療薬には、細胞毒性薬、DNAベクター、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、反応性ペプチド、ナノ粒子、ミクロスフェア、及び蛍光分子が含まれる。
【0042】
診断薬は、診断に使用されるエージェントである。ミトコンドリアが診断薬を細胞に運ぶとき、いくつかの実施形態では、診断薬は、細胞内の状態、例えば、細胞内のpH及び酸化ストレスを測定するように設計することができる。
【0043】
造影剤は、造影技術で使用するために利用される薬剤である。技術又はモダリティには、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、シンチグラフィー、蛍光、超音波などが含まれるが、これらに限定されない。造影剤は、蛍光及び/又は放射性であり得る。いくつかの実施形態において、造影剤はまた、診断薬であり得る。例示的な造影剤には、MitoTrackerフルオロフォア(Thermo Fisher Scientific Inc.)、CellLight(登録商標)RFP、BacMam 2.0(Thermo Fisher Scientific Inc.)、pH感受性pHrodo蛍光色素(Thermo Fisher Scientific Inc.)、18F‐ローダミン6G、18F標識ローダミンB、磁性酸化鉄ナノ粒子、及び金ベースと白金ベースのナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
上記のように、組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリアと、互いに直接及び/又は間接的に物理的に接触している薬剤とを含む。例えば、薬剤は、ミトコンドリアに結合するか、ミトコンドリアに付着するか、ミトコンドリア膜に埋め込まれるか、又はミトコンドリアに完全に又は部分的に封入され得る。場合によっては、医薬品をミトコンドリアに共有結合させることができる。場合によっては、薬剤は、共有結合(例えば、カルボキサミド結合及びジスルフィド結合)を介して直接、又はリンカー(例えば、ペプチドリンカー)又は別の共有結合された薬剤を介して間接的に、ミトコンドリア膜の構成要素に結合される。他の例では、薬剤は、例えば、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、及び/又は静電相互作用などを介して、ミトコンドリアに非共有結合的に結合することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、組み合わされたミトコンドリア剤は、2つ以上の異なるタイプの薬剤、例えば、2つの異なる種類の治療薬、3つの異なる種類の造影剤、1つの治療薬及び1つの造影剤、治療薬及び診断薬などを含み得る。当業者は、任意のバリエーションが可能であることを理解するであろう。
【0046】
ミトコンドリアと薬剤を結合するための1つの特に有用なリンカーは、注射時に薬剤の持続放出を提供する。これは、例えば、ヒドラゾン官能基を使用して達成することができる。例えば、ヒドラゾンは、ミトコンドリア膜上の成分に薬剤を共有結合させるために形成される。この組み合わされたミトコンドリア剤が細胞に取り込まれると、pHの変化によりヒドラゾンが加水分解され、細胞内に結合した薬剤が放出される。
【0047】
いくつかの実施形態では、治療薬、診断薬、及び/又は造影剤は、官能化された表面化学を使用してミトコンドリア外膜に結合することができる。場合によっては、ヘテロ二官能化学は、治療薬、診断薬、及び/又は造影剤をミトコンドリア表面に結合することができ、それらが内在化されると、これらの薬剤は、細胞間エステラーゼとの相互作用を通じて(例えば、アセトキシメチルエステルとの相互作用を介して)、又はUV光活性化又は近赤外光活性化戦略を介して放出され得る。UV光活性化及び近赤外光活性化戦略は、例えば、Zhou, Fang, Hanjie Wang, and Jin Chang, "Progress in the Field of Constructing Near-Infrared Light-Responsive Drug Delivery Platforms," Journal of Nanoscience and Nanotechnology 16.3 (2016): 2111-2125(「近赤外光応答性薬物送達プラットフォームを構築する分野の進歩」);Bansal, Akshaya, and Yong Zhang, "Photocontrolled nanoparticle delivery systems for biomedical applications," Accounts of chemical research 47.10 (2014): 3052-3060(「生物医学的応用のための光制御ナノ粒子送達システム」);Barhoumi, Aoune, Qian Liu, and Daniel S. Kohane, "Ultraviolet light-mediated drug delivery: Principles, applications, and challenges," Journal of Controlled Release 219 (2015): 31-42(「紫外線を介した薬物送達:原理、応用、及び課題」)。それらのそれぞれは、その全体が参照により取り込まれる。
【0048】
医薬品及びその他の組成物
本開示は、単離されたミトコンドリアを含む組成物、組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物、単離されたミトコンドリア及び組み合わされたミトコンドリア剤の両方を含む組成物、及びそのような組成物を使用する方法を提供する。
【0049】
本明細書に記載の医薬組成物は、ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤、並びに薬学的に許容される担体を含み得る。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、医薬投与と適合性のある生理食塩水、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。いくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体は、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水、クレブス緩衝液、タイロード液、造影剤(contrast media)、又はオムニパック、又はそれらの混合物である。いくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体は、滅菌ミトコンドリア緩衝液(300mMスクロース;10mM K+‐HEPES(カリウム緩衝化(4‐(2‐ヒドロキシエチル)‐1‐ピペラジンエタンスルホン酸、pH7.2);1mM K+‐EGTA、(カリウム緩衝エチレングリコール四酢酸、pH8.0))である。いくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体は、呼吸緩衝液(250mMスクロース、2mM KH2PO4、10mM MgCl2、20mM K‐HEPES緩衝液(pH7.2)、及び0.5mM K‐EGTA(pH8.0))である。
【0050】
医薬組成物は、通常、その意図された投与経路と適合性があるように処方される。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、舌下、経皮(例えば、局所)、経粘膜、及び直腸投与が含まれる。
【0051】
医薬組成物は、様々な臨床用途、例えば、画像化、創傷の治療、損傷の治療、臓器の保存、臓器又は組織のミトコンドリア機能の改善、及びスキンケアのために処方することができる。場合によっては、薬学的に許容される担体は、画像化の目的のための造影剤(contrast agent)である。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、消毒剤、抗菌剤(例えば、抗生物質)、抗真菌剤、殺菌剤、鎮痛剤、麻酔剤、ステロイド、栄養補助食品、精油などを含み得る。麻酔剤は手術中又は治療中の痛みを防止することができる薬剤である。例示的な鎮痛剤には、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、サリチル酸塩、イブプロフェン、及びリドカインが含まれるが、これらに限定されない。例示的な抗菌剤には、これらに限定されないが、ジクロロベンジルアルコール、アミルメタクレゾール、及び抗生物質が含まれる。例示的な抗生物質には、ペニシリンカルバペネム、セファロスポリンアミノグリコシド、バシトラシン、グラミシジン、ムピロシン、クロラムフェニコール、チアムフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、マクロライド、ノボビオシン、ポリミキシン、リファマイシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、バンコマイシン、テイコプラニン、ストレプトグラミン、抗葉酸剤、スルホンアミド、トリメトプリム、ピリメタミン、ニトロフラン、メテナミンマンデラート、メテナミンヒプラート、ニトロイミダゾール、キノロン、フルオロキノロン、イソニアジド、エタンブトール、ピラジンアミド、パラアミノサリチル酸、シクロセリン、カプレオマイシン、エチオナミド、プロチオナミド、チアセタゾン及びビオマイシンが含まれる。消毒剤は、感染、敗血症、又は腐敗の可能性を減らすために生体組織/皮膚に適用できる抗菌物質である。例示的な消毒剤には、クロルヘキシジン及びその塩、ベンザルコニウム及びその塩、トリクロサン及び塩化セチルピリジウムが含まれるが、これらに限定されない。例示的な抗真菌剤には、トルナフタート、ミコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、テルビナフィン、アンホテリシン、ナイスタチン及びナタマイシンが含まれるが、これらに限定されない。例示的なステロイドには、酢酸プレドニゾン、吉草酸プレドニゾン、プレドニゾロン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、デソニド、ピボラート、クロコルトロンピボラート、トリアムシノロンアセトニド、プレドニカルバート、プロピオン酸フルチカゾン、フルランドレノリド、モメタゾンフロアート、デソキシメタゾン、ベタメタゾン、ベタメタゾンジプロピオナート、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベタメタゾン、安息香酸ベタメタゾン、二酢酸ジフロラゾン、フルオシノニド、ハルシノニド、アムシノニド、プロピオン酸ハロベタソル、及びプロピオン酸クロベタソルが含まれるが、これらに限定されない。例示的な栄養補助食品には、これらに限定されないが、ビタミン、ミネラル、ハーブ製品、及びアミノ酸が含まれる。ビタミンには、ビタミンA、ビタミンBファミリー、ビタミンC、ビタミンDファミリー、ビタミンE、ビタミンKが含まれるが、これらに限定されない。エーテル油には、ミント、セージ、モミ、ラベンダー、バジル、レモン、ジュニパー、ローズマリー、ユーカリ、マリーゴールド、カモミール、オレンジなどが含まれるが、これらに限定されない。これらの薬剤の多くは、例えば、WO2008152626に記載され、これは参照によりその全体が組み込まれる。ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物は、任意の形態、例えば、液体、半固体、又は固体で処方することができる。例示的な組成物には、とりわけ、液体、クリーム、軟膏(salve)、軟膏、油、乳濁液、リポソーム製剤が含まれる。
【0052】
ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を作製する方法
ミトコンドリアの単離
ここで記載されている方法で使用するためのミトコンドリアは、任意の供給源、例えば、培養細胞又は組織から単離又は提供することができる。例示的な細胞には、筋肉組織細胞、心臓線維芽細胞、培養細胞、HeLa細胞、前立腺癌細胞、酵母など、及びそれらの任意の混合物が含まれるが、これらに限定されない。例示的な組織には、とりわけ、肝臓組織、骨格筋、心臓、脳、及び脂肪組織が含まれるが、これらに限定されない。ミトコンドリアは、自家源、同種異系源、及び/又は異種源の細胞から単離することができる。場合によっては、ミトコンドリアは、遺伝子改変された細胞、例えば、改変されたmtDNA又は改変された核DNAを有する細胞から単離される。
【0053】
ミトコンドリアは、当業者に知られている任意の手段によって細胞又は組織から単離することができる。一例では、組織サンプル又は細胞サンプルが収集され、次に均質化される。均質化に続いて、ミトコンドリアは繰り返し遠心分離によって単離される。あるいは、細胞ホモジネートをナイロンメッシュフィルターでろ過することもできる。ミトコンドリアを単離する典型的な方法は、例えば、McCully JD, Cowan DB, Pacak CA, Toumpoulis IK, Dayalan H and Levitsky S, Injection of isolated mitochondria during early reperfusion for cardioprotection, Am J Physiol 296, H94-H105. PMC2637784 (2009)(心臓保護のための早期再灌流中の単離されたミトコンドリアの注射);Frezza, C., Cipolat, S., & Scorrano, L, Organelle isolation: functional mitochondria from mouse liver, muscle and cultured filroblasts. Nature protocols, 2(2), 287-295 (2007)(細胞小器官の単離:マウスの肝臓、筋肉、及び培養線維芽細胞からの機能的なミトコンドリア);及び「ミトコンドリアを単離するための製品及び方法」と題されたPCT出願(PCT/US2015/035584;WO2015192020)に記載され、それぞれが参照により組み込まれる。
【0054】
組み合わされたミトコンドリア剤を作成する方法
当業者は、例えば、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリア膜に部分的又は完全に包埋する、ミトコンドリアに封入する、又はミトコンドリア内にカプセル化するなど、任意の数の方法で薬剤をミトコンドリアに結合できることを理解するであろう。
【0055】
理論又は特定のアプローチに拘束されることを意図するものではないが、ミトコンドリアの外膜は付着性であり、したがって、様々な薬剤との組み合わせに特に適していると考えられている。いくつかの実施形態において、医薬品は、単にインキュベーションによってミトコンドリアの外膜に付着させることができる。例えば、有効量の医薬品は、単離されたミトコンドリアに有利な温度、例えば、0℃から26℃、0℃から4℃、又は約0℃、4℃、26℃で、緩衝液、例えば呼吸緩衝液中で、単離されたミトコンドリアと十分に混合することができる。この手順は、有効量の医薬品(ナノ粒子、DNAベクター、RNAベクターなど)をミトコンドリアに付着させるのに役立つ。
【0056】
いくつかの実施形態において、有機カチオン(例えば、ローダミン及びテトラメチルロサミン)は、ミトコンドリア膜上の電位のために、機能するミトコンドリアによって容易に隔離される。健康なミトコンドリア膜は、細胞小器官の内部と外部の間の電位差を維持する。これは膜電位と呼ばれる。この膜電位はミトコンドリアの機能プロセスの直接的な結果であり、ミトコンドリアが適切に機能していない場合は失われる可能性がある。脂溶性カチオンは、それらの正電荷及び内膜脂質とマトリックス水性空間の両方へのそれらの溶解性の結果として、ミトコンドリアによって隔離される。同様に、他のいくつかの実施形態では、陰イオンは、その負電荷のためにミトコンドリアの外膜に付着することができる。ミトコンドリアをこれらの医薬品と結合させるために、有効量の医薬品は、単離されたミトコンドリアに有利な温度、例えば、約0℃又は4℃で、緩衝液、例えば、呼吸緩衝液中で単離されたミトコンドリアと十分に混合されるべきである。
【0057】
治療薬、診断薬、及び/又は造影剤は、化学結合を介してミトコンドリア膜上のリン脂質、ペプチド、又はタンパク質に結合することができる。たとえば、フルオロフォア(pHrodo Red(Thermo Fisher Scientific、Inc.))や金属粒子(たとえば、30nmの磁性酸化鉄ナノ粒子(Sigma))を含む分子は、スクシンイミジルエステルコンジュゲートを使用した無傷のミトコンドリアの外膜に露出したタンパク質やペプチドの露出したアミン基に共有結合できる。これらの反応性試薬は、タンパク質のアミン末端やリジン残基のε‐アミノ基など、プロトン化されていない脂肪族アミン基と反応し、安定したカルボキサミド結合を形成する。別の例では、医薬品、例えば、MitoTracker(登録商標)OrangeCMTMRos(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド、現在はThermo‐Fisher Scientific、マサチューセッツ州ケンブリッジ)が機能性ミトコンドリアと混合されると、それらは酸化され、次いでミトコンドリア上のタンパク質及びペプチド上のチオールと反応し、コンジュゲートを形成する。
【0058】
ミトコンドリアの表面に治療薬、診断薬、及び/又は造影剤を付着させるために利用可能な多数の反応性化学部分がある(例えば、カルボン酸、アミン官能化など)。
【0059】
薬剤は、タンパク質結合、アミン結合、又は他の付着方法を介して、ミトコンドリア外膜又はミトコンドリア内膜のいずれかに付着させることができる。あるいは、又はさらに、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、及び/又は静電相互作用を介して、薬剤をミトコンドリア膜に付着させることができる。
【0060】
多くの場合、治療薬、診断薬、及び造影剤は、単離されたミトコンドリアと単純に混合され、緩衝液(例えば、呼吸緩衝液)中で十分な時間(例えば、数分、5分、10分、又は1時間)、好ましい条件(例えば、0℃から26℃、0℃から4℃、又は約0℃、4℃、26℃、pH7.2~8.0)でインキュベートされることができる。
【0061】
組み合わされたミトコンドリア剤を調製する例示的な方法は、McCully et al, Injection of isolated mitochondria during early reperfusion for cardioprotection, Am J Physiol 296, H94-H105. PMC2637784 (2009)(心臓保護のための早期再灌流中の単離されたミトコンドリアの注入);及びMasuzawa et al, Transplantation of autologously derived mitochondria protects the heart from ischemia-reperfusion injury, Am J Physiol 304, H966-982. PMC3625892 (2013)(自己由来ミトコンドリアの移植は、心臓を虚血再灌流障害から保護する)に記載されている。前述のそれぞれは、その全体が参照により組み込まれる。
【0062】
ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を調製する方法
単離されたミトコンドリア及び組み合わされたミトコンドリア剤は、薬理学的に許容される担体と混合されて、医薬組成物を作製することができる。薬学的に許容される担体には、ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤の貯蔵、安定性、投与、細胞標的化及び/又は送達を促進するのに有用な任意の化合物又は組成物が含まれ、これは適切なビヒクル、希釈剤、溶媒、賦形剤、pH修飾剤、塩、着色剤、レオロジー調整剤、潤滑剤、コーティング、充填剤、消泡剤、ポリマー、ヒドロゲル、界面活性剤、乳化剤、アジュバント、保存剤、リン脂質、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリド及びそれらの誘導体、ワックス、オイルと水を含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、インビボでの送達のために、水、生理食塩水、緩衝液、呼吸緩衝液、又は滅菌ミトコンドリア緩衝液に懸濁される。生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は呼吸緩衝液を含むがこれらに限定されない、薬学的に許容される塩、緩衝液又は緩衝液系を、本明細書に記載の組成物に含めることができる。リポソームなどのインビボでの細胞への送達を容易にする能力を有するビヒクルを利用して、組み合わされたミトコンドリア剤の標的細胞への送達を容易にすることができる。
【0063】
組成物、例えば、液体、半固体、及び固体の組成物(例えば、特に、液体、クリーム、ローション、軟膏、油など)を作製する方法は、当技術分野でよく知られている。当業者は、そのような既知の方法を改変して、ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を添加し、本明細書に記載の組成物を形成するための1つ又は複数のステップを追加できることを理解するであろう。当業者は、場合によっては、本明細書に記載の組成物が、複数のタイプの組み合わされたミトコンドリア剤を含み得ることを理解するであろう。例えば、本質的に各ミトコンドリアが複数のタイプの薬剤と関連しているミトコンドリアを含む組成物が含まれる。各ミトコンドリアが1つのタイプの薬剤のみと対になっているが、組成物がミトコンドリア/薬剤対の混合物を含むミトコンドリアを含む組成物も含まれる。
【0064】
心血管疾患の治療
心臓は非常にエネルギーの高い器官であり、正常な機能を維持するために酸素の継続的な供給を必要とする。好気性条件下では、心臓は主にミトコンドリアからエネルギーを引き出す。ミトコンドリアは、心筋細胞の体積の30%を構成する。虚血の発症に続いて、ミトコンドリアの構造、量、酸素消費量、及びATP合成の変化に伴い、高エネルギーリン酸レベルが急速に低下する。
【0065】
本開示は、心血管疾患(例えば、心不全)を治療又は予防する方法を提供する。心血管疾患は、心臓又は血管が関与する疾患のクラスを指す。心血管疾患には、例えば、アンギナ及び心筋梗塞(一般に心臓発作として知られている)などの冠状動脈疾患(CAD)、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、心不整脈、先天性心臓病、弁心臓疾患、心臓炎、大動脈瘤、末梢動脈疾患、血栓塞栓性疾患、及び静脈血栓症などが含まれる。
【0066】
慢性心不全としても知られる心不全は、心臓が身体のニーズを満たすのに十分な血流を維持できない障害を指す。心不全の兆候と症状には、通常、息切れ、過度の倦怠感、下肢のむくみなどがある。運動能力が限られていることも、心不全の患者によく見られる。この文脈で使用される場合、「治療する」とは、疾患に関連する障害の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。多くの場合、治療により、血液供給が改善され、1つ又は複数の症状(息切れ、過度の倦怠感、下肢の腫れなど)が改善される。
【0067】
一般に、この方法は、本明細書に記載の組成物(例えば、単離されたミトコンドリアを含む組成物又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物)に、そのような治療を必要としている、又は必要であると決定された対象に投与することを含む。
【0068】
いくつかの局面において、本明細書に記載の方法はまた、心室収縮性(例えば、右心室(RV)収縮性)を維持し、毛細血管密度(例えば、RV毛細血管密度)を維持し、心室拡張(例えば、RV拡張)を防止し、心不全(例、RVF)の発症を遅らせ、又は心血管疾患(例えば、心不全)を発症するリスクを低減するために用いられる。
【0069】
本開示は、心不全のリスクのある対象において、心不全を最小化し、心不全のリスクを低減し、心不全の少なくとも1つの症状を改善し、細胞損傷、組織損傷、及び/又は心不全に関連する器官損傷を予防又は治療する方法を提供する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「心不全のリスクがある」という用語は、集団内の平均的な人(例えば、同じ年齢層内)の心不全のリスクと比較して、心不全のリスクが高いことを指す。いくつかの実施形態では、リスクは、集団内の平均的な人の心不全のリスクよりも約又は少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は100%高い。いくつかの実施形態では、リスクは、集団内の平均的な人の心不全のリスクよりも約又は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10倍高い。いくつかの実施形態では、年齢層は、少なくとも40、50、60、70、又は80歳である。
【0071】
心不全のこのリスクの増加は、さまざまな要因、たとえば、遺伝的要因(たとえば、遺伝的変異)、環境要因(たとえば、職業リスク、汚染)、さまざまな病気、医療処置(たとえば、手術、臓器/組織移植)、行動(例えば、喫煙、不活動)などが原因である可能性がある。対象が心不全のリスクを有すると特定されたら、心不全のリスクを低減するために、本明細書に記載の治療有効量の組成物を対象に投与することができる。リスクは、潜在的な医療処置からも発生する可能性がある。本明細書で使用される場合、「医療処置」という用語は、ヘルスケアの提供において結果を達成することを目的とした一連の行動を指す。医療処置は、例えば、診断処置、治療処置、及び外科的処置を含むことができる。いくつかの医療処置には、例えば、体外式膜型人工肺(ECMO)、化学療法、放射線療法、気管挿管、遺伝子療法、麻酔、切除、切断、心肺蘇生法(CPR)、凍結手術、内視鏡手術、片側椎弓切除術、画像誘導手術、膝軟骨補充療法、椎弓切除術、腹腔鏡手術、結石摘出術、砕石器、ロボトミー、新膣形成術、放射線外科、定位手術、膣形成術、移植(例えば、組織又は臓器移植)、異種移植などが含まれる。医療提供者は、医療処置及び行動(例:喫煙)が心不全のリスクを高める可能性があるかどうかを決定することができる。高血圧、心筋梗塞、異常な心臓弁、心筋症、心臓病の家族歴、及び糖尿病を含む多くの危険因子が当技術分野で知られている。これらの場合、リスクを最小限に抑えるために、これらの手順の前に、本明細書に記載の治療有効量の組成物を対象に投与することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象の心不全を治療又は予防するために使用することができる。いくつかの実施形態では、対象は、右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)を有するか、又は発症するリスクがある。
【0073】
右心室肥大(RVH)は、右心室を取り巻く心筋の異常な肥大によって定義される状態である。RVHは通常、慢性肺疾患又は心臓の構造的欠陥が原因で発生する。RVHの最も一般的な原因の1つは、肺高血圧症(PH)である。肺高血圧症は、肺に血液を供給する血管の血圧上昇として特徴づけられる。肺高血圧症は、肺動脈圧の上昇につながる可能性がある。右心室は、その形状とサイズを変えることにより、この増加した圧力を補おうとする。個々の筋細胞の肥大は、右心室壁の厚さの増加をもたらする。肺高血圧症の一般的な原因には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺塞栓症、及びその他の拘束性肺疾患が含まれる。RVHは、これらの障害の結果として発生することがよくある。RVHは、心臓の構造的欠陥に反応して発生する。一般的な原因の1つは、三尖弁閉鎖不全症である。三尖弁閉鎖不全症は、三尖弁が適切に閉じず、血液の逆流を可能にする障害である。RVHにつながる可能性のある他の構造的欠陥には、ファロー四徴症、心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症、及び心房中隔欠損症が含まれる。RVHは、腹部肥満、空腹時血糖値の上昇、収縮期血圧の上昇、及び左心室中壁の部分的な短縮にも関連している。RVHのその他の危険因子には、喫煙、睡眠時無呼吸、激しい活動などがある。
【0074】
したがって、一態様では、本開示は、右心室肥大を発症するリスクを低減する方法を提供する。この方法は、右心室肥大を発症するリスクがあるとして対象を特定し、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、例えば、肺高血圧症、COPD、肺塞栓症、制限性肺疾患、三尖弁閉鎖不全症、ファロー四徴症、心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症、腹部肥満、空腹時血糖値の上昇、収縮期血圧の上昇、及び/又は左心室中壁の部分的な短縮などを有するとして対象を特定することを含む。
【0075】
左心室肥大(LVH)は、心臓の左心室の心筋の肥厚である。LVH自体は病気ではないが、通常は心臓が関与する疾患のマーカーである。LVHを引き起こす可能性のある疾患プロセスには、心臓が収縮しなければならない後負荷を増加させるあらゆる疾患、及び心臓の筋肉のいくつかの主要な疾患が含まれる。LVHを引き起こす可能性のある後負荷の増加の原因には、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、高血圧症などがある。LVHを引き起こす心臓の筋肉の原発性疾患は、心不全につながる可能性のある肥大型心筋症として知られている。長年の僧帽弁閉鎖不全症も、代償メカニズムとしてLVHにつながる可能性がある。
【0076】
したがって、一態様では、本開示は、左心室肥大を発症するリスクを低減する方法を提供する。この方法は、左心室肥大を発症するリスクがあるとして対象を特定し、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、例えば、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、高血圧症、肥大型心筋症、及び/又は僧帽弁閉鎖不全症などを有するものとして対象を特定することを含む。
【0077】
うっ血性心不全としても知られる心不全(HF)は、心臓が身体のニーズを満たすために血流を維持するのに十分なポンプをかけることができない場合である。心不全の兆候と症状には、通常、息切れ、過度の倦怠感、下肢のむくみなどがある。限られた運動能力も一般的な特徴である。心不全の一般的な原因には、以前の心筋梗塞(心臓発作)、高血圧、心房細動、心臓弁膜症、アルコールの過剰使用、感染症、心筋症などの冠状動脈疾患が含まれる。心臓の左側は、肺から酸素が豊富な血液を受け取り、それを体循環(肺循環を除く身体の残りの部分)に送る。心臓の左側が機能しなくなると、血液が肺に逆流(鬱血)し、呼吸器症状や酸素化された血液の供給不足による倦怠感を引き起こす。右側心不全は、肺性心疾患によって引き起こされることが多く、これは通常、肺高血圧症や肺動脈弁狭窄症などの肺循環の困難によって引き起こされる。
【0078】
したがって、一態様では、本開示は、心不全を発症するリスクを低減する方法を提供する。この方法は、心不全を発症するリスクがあるとして対象を特定すること、及び本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、対象はLVH又はRVHを有し、したがって心不全を発症するリスクが高い。別の局面において、本明細書に記載の方法はまた、肺性心疾患又は肺障害(例えば、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、胸水、又は気管支拡張症)を発症するリスクを治療又は低減するために使用され得る。
【0079】
心血管障害を診断する方法は当技術分野で知られている。心血管障害を診断するための1つの主要な方法は、心臓の筋肉の厚さを測定できる心エコー検査である。たとえば、心電図(ECG)は、LVH患者の心臓からの電圧上昇の兆候を示すためによく使用される。
【0080】
本開示はまた、虚血性心臓及び他の虚血関連疾患を治療する方法を提供する。薬理学的及び/又は外因性基質介入を単独で、又は手順的技術と組み合わせて使用して、心筋組織壊死を軽減し、虚血後機能を改善する試みは、限られた心臓保護しか提供していない。これらの介入にもかかわらず、ミトコンドリアの損傷と機能不全は、心筋虚血後の主要な問題を表し続けており、罹患率と死亡率の重要な原因であり続けている。ミトコンドリアの損傷は、再灌流中ではなく主に虚血中に発生し、ミトコンドリアの呼吸機能の維持は収縮の回復を促進し、心筋梗塞のサイズを縮小する。
【0081】
本明細書に記載の方法は、虚血性心臓を治療するために使用することができる。例えば、有効量の単離されたミトコンドリアを、対象の血管、例えば、対象の冠状血管系に注射することができる。例えば、約1×107のミトコンドリアを対象の冠状血管系に投与することができる。注射されたミトコンドリアは、移植後に心筋細胞によって内在化され、酸素消費量を高め、梗塞後の心機能を高めるケモカインをアップレギュレートし、心筋のエネルギーを維持するのに重要なタンパク質経路の発現をアップレギュレートする。別の例では、有効量のミトコンドリアをリスクのある領域(局所虚血領域)に直接注射することができる。注射は心臓のさまざまな部位で数回繰り返すことができる。
【0082】
再灌流傷害は、一定期間の虚血又は酸素不足の後に血液が組織に戻るときの血液供給による組織損傷である。虚血期間中に酸素と栄養素が不足すると、血流が回復したときに炎症と酸化的損傷が発生する。炎症反応はさらに組織の再灌流傷害につながる。したがって、場合によっては、治療には、患者に免疫抑制剤を投与することも含まれる。免疫抑制剤は、例えば、別々に投与することができるが、ミトコンドリア剤との同時治療として投与することができる。あるいは、又はさらに、免疫抑制剤をミトコンドリアに結合して、治療に使用できる組み合わされたミトコンドリア剤を形成することができる。特に有用な免疫抑制剤はビスホスホナートである。
【0083】
他のいくつかの臓器の虚血/再灌流障害は、ミトコンドリアの損傷や機能障害にも関連していることがよくある。これらの臓器には、肺、腎臓、肝臓、骨格筋、脳などが含まれるが、これらに限定されない。これらの損傷又は疾患には、虚血性大腸炎、腸間膜虚血、脳虚血、脳卒中、急性肢虚血、シアン症とガングレネが含まれるが、これらに限定されない。記載された方法はまた、これらの器官/組織における虚血損傷を治療するために使用することができる。これらの治療のために、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、臓器組織に直接注射されるか、又は血液を標的器官/組織又は対象の損傷部位に運ぶ血管に注射され得る。
【0084】
心臓手術
単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、心臓に送達されて、驚異を減少させ、外科的処置(例えば、心臓麻痺)からの心臓の離脱、及び心臓の心拍数又は酸素要求を増加させることなく心臓の回復を可能にすることができる。いくつかの実施形態において、方法は、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤の心臓への直接注射を含む。いくつかの方法では、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤が冠状動脈に注射される。
【0085】
画像化
多くの場合、ミトコンドリアを造影剤と共インキュベーションすることにより、造影剤をミトコンドリアに付着させることができる。このような造影剤には、ThermoFisher Scientific Inc.のMitoTracker及びpHrodoフルオロフォア、18F‐ローダミン6G、及び酸化鉄ナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
造影剤を含む組み合わされたミトコンドリア剤は、組織、例えば心臓組織に注射するか、又は血管を通して灌流することができる。標識されたミトコンドリアを含む組織は、陽電子放出断層撮影(PET)、マイクロコンピューター断層撮影(μCT)、磁気共鳴画像(MRI)、明視野顕微鏡、3D超解像顕微鏡などの画像技術を使用して検査できる。当業者は、他の画像技術又はモダリティが使用され得ることを理解するであろう。それらには、X線、シンチグラフィー、蛍光、超音波が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
投与
単離されたミトコンドリア及び組み合わされたミトコンドリア剤は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内注射により、及び/又は骨内注入を介して患者に投与することができる。いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア及び組み合わされたミトコンドリア剤は、直接注射又は血管注入によって送達され得る。
【0088】
ミトコンドリアが組織に注射されると、ミトコンドリアは注射部位の周りの細胞に取り込まれる。したがって、いくつかの実施形態では、注射部位は標的部位である。いくつかの他の実施形態では、ミトコンドリアは、血液を標的部位、例えば、臓器、組織、又は損傷部位に運ぶ血管に注射される。いかなる理論にも拘束されることを意図していないが、証拠は、直接注射によって送達されたミトコンドリアが、アクチン依存性エンドサイトーシスを介して細胞によって内在化されることを示唆している。ただし、血管送達によるミトコンドリアの取り込みはより複雑であるように見える。血管注入によって送達されたときのミトコンドリアの急速かつ広範囲の取り込みは、ミトコンドリアが血管壁を迅速に通過することを可能にするメカニズムが関与していることを示唆している。いくつかの研究は、細胞が循環から日常的に逃げることができるという概念を支持している。特定の心臓及び間葉系幹細胞は、漏出とは異なるプロセスで血管系から活発に排出されるように見えることが示されている(Cheng, K., Shen, D., Xie, Y., Cingolani, E., Malliaras, K., Marban, E., 2012, Brief report: Mechanism of extravasation of infused stem cells. Stem Cells. 30, 2835-2842(簡単なレポート:注入された幹細胞の血管外溢出のメカニズム);Allen, T.A., Gracieux, D., Talib, M., Tokarz, D.A., Hensley, M.T., Cores, J., Vandergriff, A., Tang, J., de Andrade, J.B., Dinh, P.U., Yoder, J.A., Cheng, K., 2017. Angiopellosis as an Alternative Mechanism of Cell Extravasation. Stem Cells. 35,170-180(細胞溢出の代替メカニズムとしての血管ペローシス))。血管壁を介した幹細胞の移動には、内皮の大規模な改造が必要である。ミトコンドリアは、血管壁を通過するために同様のリモデリングメカニズムを使用する場合がある。ミトコンドリアの取り込みの別の可能なメカニズムは、漏出のようなものかもしれない。一部の細胞は日常的に循環から逃げる。例えば、静脈内皮細胞間の白血球溢出(すなわち、漏出)は、細胞接着タンパク質が関与するよく理解されているプロセスである。さらに、注入されたミトコンドリアが、内皮細胞間の空間を通って毛細血管壁を通って溢出する可能性もある。ミトコンドリアが血管の内皮を通過した後、ミトコンドリアはエンドソームのアクチン依存性の内在化プロセスを通じて組織細胞に取り込まれる。
【0089】
ミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、単一の1回の治療、あるいは、複数の治療、例えば、約1、2、5、8、10、20、30、50、又は60日、1年、無期限、又は医師がミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤の投与がもはや必要でないと判断するまでの間、断続的又は継続的に継続する治療コースとして対象に投与することができる。
【0090】
投与の1つの方法において、ミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、臓器組織、例えば、心臓組織に直接注射される。注射は、場合によっては、臓器の異なる部位で数回繰り返すことができる。そのような方法では、小さな針(例えば、28ゲージ)を備えた滅菌1mlインスリン注射器を注射に使用することができ、各注射部位は、例えば、約1.2×106のミトコンドリアを受け取ることができる。
【0091】
当業者は、患者に投与されるべきミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤、例えば、ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物の量が、例えば、治療される障害のタイプ、とりわけ、投与経路、治療期間、治療される領域のサイズ、及び/又は特許における治療部位の位置に応じて変化することを理解するであろう。当業者は、これら及び他の変数に応じて投与される投与量を決定することができる。例えば、合計約1×107のミトコンドリアを、例えば、心筋の限局性虚血を治療するために、対象の血管に投与することができる。別の例として、より大きな器官又は患部の場合、より多くのミトコンドリア、例えば、1×1010から1×1014のミトコンドリアを血管に注射することができる。逆に、小さな限局性病変の場合、1x103から1x106のミトコンドリアを患者に注入することができる。したがって、ミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤(又はそれを含む組成物)の有効量は、所望の治療効果をもたらすのに十分なミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤の総量である。有効量は、例えば、少なくとも又は約1×102のミトコンドリア、又は組み合わされたミトコンドリア剤、例えば、約1×103から約1×1014、約1×104から約1×1013、約1×105から約1x1012、約1x106から約1x1011、約1x107から約1x1010、約1x103から約1x107、約1x104から約1x106、約1x107から約1x1014、又は約1x108から約1x1013、約1x109から約1x1012、約1x105から約1x108、又は少なくとも又は約1x103、1x104、1x105、1×106、1x107、1x108、1x109、1x1010、1x1011、1x1012、1x1013、又は少なくとも又は約1x1014、又は例えば、1×1014を超える量であり得る。本明細書で使用される場合、患者への投与の文脈における「総量」という用語は、実行されている投薬計画に応じて、単回投与(例えば、1回の注射、注入で投与される1回の用量)又は複数回の投与(例えば、複数回の注射)におけるミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤の総量を指すことができる。
【0092】
単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、様々な経路、例えば、直接注射、血管送達によって、12~24時間ごとに対象に投与することができる。いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、様々な経路、例えば、直接注射、血管注入によって、5~10分ごと(例えば、5分ごと、10分ごと)に対象に投与され得る。
【0093】
心血管疾患又は肺疾患を治療するために、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤を、例えば、大動脈、大静脈(例えば、上又は下大静脈)、冠状静脈、回旋動脈、左冠状動脈、左前下行枝、肺静脈、右冠状動脈、肺静脈、又は肺動脈を含む様々な血管に投与することができる。
【0094】
単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、対象に、右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)の発症の、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、又は30日又は少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12か月、又は少なくとも又は約1、2、3、4、又は5年前に、投与することができる。いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、被験者が心不全につながる可能性のある心血管疾患(例、肥満、右心室肥大など)を発症するリスクがあると特定されてから、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、又は30日以内、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、24か月以内、又は約1、2、3、4、又は5年以内に対象に投与され得る。
【0095】
いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、対象が心血管障害又は心不全につながる可能性のあるいくつかの他の障害(例えば、肥満、右心室肥大など)を有すると特定されてから、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、又は30日以内、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、24か月以内、又は約1、2、3、4、又は5年以内に対象に投与され得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、右心室肥大(RVH)、左心室肥大(LVH)、右心室不全(RVF)、又は左心室不全(LVF)の発症及び/又は診断後、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、又は30日、又は少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月、又は少なくとも又は約1、2、3、4、又は5年で対象に投与され得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、単離されたミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、ゲージ24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、及び34の針によって組織又は器官に直接注射され得る。他のいくつかの場合において、単離されたミトコンドリア、又は組み合わされたミトコンドリア剤は、カテーテルによって標的部位に送達され得る。
【0098】
場合によっては、ミトコンドリアは新たに単離され、生存可能である。ミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリアが単離されてから、約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分以内に対象に投与され得る。場合によっては、ミトコンドリア又は組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスを開始してから、約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分以内に対象に投与される。ミトコンドリア及び/又は組み合わされたミトコンドリア剤は、場合によっては、使用前に短期間(例えば、約又は少なくとも10分、約又は少なくとも20分、約又は少なくとも30分、約又は少なくとも40分、約又は少なくとも50分、約又は少なくとも60分、約又は少なくとも1時間、約又は少なくとも2時間、約又は少なくとも3時間、約又は少なくとも4時間、又は約又は少なくとも24時間)保存することができる。
【0099】
治療のためのミトコンドリアは、自家の供給源、同種異系の供給源、及び異種の供給源の細胞又は組織から単離することができる。場合によっては、ミトコンドリアは対象の培養細胞又は組織から収集され、これらのミトコンドリアは同じ対象に投与される。他のいくつかの場合において、ミトコンドリアは、第2の対象の培養細胞又は組織から収集され、これらのミトコンドリアは、第1の対象に投与される。場合によっては、ミトコンドリアは、異なる種(マウス、ブタ、酵母など)の培養細胞又は組織から収集される。
【実施例】
【0100】
本発明は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定しない以下の例にさらに記載されている。
【0101】
例1:組織サンプル又は培養細胞からミトコンドリアを単離する例示的な方法
調製
以下の溶液は、無傷で生存可能な呼吸能力のあるミトコンドリアを単離するために調製することができる。本発明の方法を使用してミトコンドリアを首尾よく単離するために、溶液及び組織サンプルは、ミトコンドリアの生存能力を維持するために氷上に保持される。氷上で維持された場合でさえ、単離されたミトコンドリアは、時間の経過とともに機能的活性の低下を示すであろう(Olson et al., J Biol Chem 242:325-332, 1967)。これらの溶液は、可能であれば事前に準備される。
【0102】
1M K‐HEPESストック溶液(KOHでpHを7.2に調整)。
0.5M K‐EGTAストック溶液(KOHでpHを8.0に調整)。
1M KH2PO4ストック溶液。
1M MgCl2ストック溶液。
【0103】
均質化緩衝液(pH7.2):300mM スクロース、10mM K‐HEPES、及び1mM K‐EGTA。緩衝液は4℃で保存できる。
呼吸緩衝液:250mM スクロース、2mM KH2PO4、10mM MgCl2、20mM K‐HEPES緩衝液(pH7.2)、及び0.5mM K‐EGTA(pH8.0)。緩衝液は4℃で保存できる。
10XPBSストック溶液:80gのNaCl、2gのKCl、14.4gのNa2HPO4、及び2.4gのKH2PO4を1Lの再蒸留H2O(pH7.4)に溶解する。
1XPBSは、100mLの10XPBSを1Lの再蒸留H2Oにピペットで移して調製する。
スブチリシンAストックは、4mgのスブチリシンAを1.5mLマイクロフュージチューブに量り入れて調製する。ストックは使用するまで-20℃で保管できる。
BSAストックは、20mgのBSAを1.5mLマイクロフュージチューブに量り入れて調製する。ストックは使用するまで-20℃で保管できる。
【0104】
ミトコンドリアを組織から単離する
組織解離及び示差濾過を使用したミトコンドリアの単離における手順の概要を示す図が
図1に示されている。2つの6mm生検サンプルパンチを解離Cチューブ内の5mLの均質化緩衝液に移し、組織解離装置の1分間の均質化プログラムを使用してサンプルを均質化する(A)。スブチリシンAストック溶液(250μL)を解離Cチューブのホモジネートに加え、氷上で10分間インキュベートする(B)。均質化したものを750xGで4分間遠心分離する(オプションのステップとして)。ホモジネートを、氷上で50mLコニカル遠心チューブ内で事前に湿らせた40μmメッシュフィルターでろ過し、次いで250μLのBSAストック溶液をろ液に加える(C)。ろ液は、氷上で50mLのコニカル遠心分離機で、事前に湿らせた新しい40μmメッシュフィルターで再ろ過する(D)。ろ液は、氷上で50mLコニカル遠心チューブ内の事前に湿らせた新しい10μmメッシュフィルターで再ろ過する(E)。ろ液は、氷上で50mLコニカル遠心チューブ内の新しい事前に湿らせた6μmメッシュフィルターで再ろ過する。得られたろ液はすぐに使用することも、遠心分離によって濃縮することもできる。濃縮の場合、ろ液を1.5mLマイクロフュージチューブに移し、9000xgで10分間4℃で遠心分離する(F)。上清を除去し、ミトコンドリアを含むペレットを再懸濁し、1mLの呼吸緩衝液(G)に入れる。
【0105】
単離の直前に、スブチリシンAを1mLの均質化緩衝液に溶解する。単離の直前に、BSAを1mLの均質化緩衝液に溶解する。6mmの生検サンプルパンチを使用して2つの新鮮な組織サンプルを収集し、氷上で50mLコニカル遠心チューブ内の1XPBSに保存する。組織の2つの6mmパンチを、5mLの氷冷均質化緩衝液を含む解離Cチューブに移す。組織は、解離Cチューブを組織解離装置に取り付け、事前に設定されたミトコンドリア単離サイクル(60秒の均質化)を選択することによって均質化する。
【0106】
解離Cチューブをはずし、氷バケツに移す。スブチリシンAストック溶液(250μL)をホモジネートに加え、転倒混和し、ホモジネートを氷上で10分間インキュベートする。40μmメッシュフィルターを氷上で50mLコニカル遠心チューブに置き、フィルターを均質化緩衝液で事前に湿らせ、ホモジネートを氷上で50mLコニカル遠心チューブにろ過する。
【0107】
新たに調製したBSAストック溶液(250μL)をろ液に加え、転倒混和する。(ミトコンドリアタンパク質の測定が必要な場合、このステップは省略される。)40μmメッシュフィルターを氷上の50mLコニカル遠心チューブに置き、フィルターを均質化緩衝液で事前に湿らせ、ホモジネートを氷上で50mLコニカル遠心チューブにろ過する。10μmフィルターを氷上で50mLコニカル遠心チューブに置き、フィルターを均質化緩衝液で事前に湿らせ、ホモジネートを氷上で50mLコニカル遠心チューブにろ過する。ろ液を2本の事前に冷却した1.5mLマイクロフュージチューブに移し、9000xgで10分間4℃で遠心分離する。上清を除去し、ペレットを再懸濁して1mLの氷冷呼吸緩衝液に入れる。
組織から単離されたミトコンドリアは、すぐに注射に使用されるか、組み合わされたミトコンドリア剤を調製するために使用される。
【0108】
培養細胞からミトコンドリアを単離する
ミトコンドリアは培養細胞から単離することができる。手順は、生検サンプルではなく培養細胞、例えば、ヒト線維芽細胞が使用されることを除いて、組織サンプルからミトコンドリアを単離するための手順と本質的に同じである。
【0109】
ミトコンドリア数
生存可能なミトコンドリア数は、単離されたミトコンドリアのアリコート(10μl)をMitoTracker Orange CMTMRos又はMitoTracker Red CMXRos(5μmol/l;Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド、現在はThermo‐Fisher Scientific、マサチューセッツ州ケンブリッジ)で標識することによって測定される。標識ミトコンドリアのアリコートをスライドにスポットし、63倍のC‐アポクロマート対物レンズ(1.2 W Korr/0.17 NA、Zeiss)を備えた回転ディスク共焦点顕微鏡を使用してカウントする。ミトコンドリアは、ミトコンドリア特異的色素MitoFluor Green又はMitoTrackerDeep Red FM(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド、現在はThermo‐Fisher Scientific、マサチューセッツ州ケンブリッジ)で対比染色されている。未染色の細胞や組織を使用して、自家蛍光とバックグラウンド蛍光を測定するために適切な波長を選択する。簡単に説明すると、1μlの標識ミトコンドリアを顕微鏡スライド上に置き、カバーをかける。ミトコンドリア数は、MetaMorph Imaging Analysisソフトウェアを使用して、標本領域全体をカバーする低倍率(×10)で測定される。
【0110】
例2:組み合わされたミトコンドリア剤を調製する例示的な方法
ミトコンドリアと18F‐ローダミン6Gを電位で組み合わせる
18F‐ローダミン6G(20μlの体積中40~100μCi)をミトコンドリア単離溶液A(均質化緩衝液:300mM スクロース、10mM K‐HEPES、及び1mM K‐EGTA、pH7.2)で4℃で1.0mLの体積に希釈し、次いで、ミトコンドリア単離溶液Aで単離されたミトコンドリア(0.5ml、1x107‐1x108を含む)と十分に混合する。混合物では、18F‐ローダミン6Gが、ミトコンドリア内膜を経由して電位に応じてミトコンドリアマトリックス中に電気泳動的に分配され、したがって機能するミトコンドリアによって隔離されている。混合物を氷上で10~30分間インキュベートする。混合物を9,000rpm(10,000g)で10分間遠心分離することにより3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁する。最後の洗浄後、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁する。
【0111】
ミトコンドリア外膜によってミトコンドリアと酸化鉄ナノ粒子を組み合わせる
スクシンイミジルエステル(10mg)を含む酸化鉄ナノ粒子を4℃の呼吸緩衝液に懸濁し、単離されたミトコンドリア(1x107~1x108を含む1.0ml)と十分に混合する。酸化鉄は、スクシンイミジルエステルアミン反応によってミトコンドリア外膜のミトコンドリアアミン基に結合する。混合物を氷上で10~30分間インキュベートする。混合物を9,000rpm(10,000g)で10分間遠心分離することにより3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁する。最後の洗浄後、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁する。
【0112】
ミトコンドリアを2つの医薬品と組み合わせる
18F‐ローダミン6G(20μlの体積中40~100μCi)と、スクシンイミジルエステル(10mg)を含む酸化鉄ナノ粒子とを組み合わせ、ミトコンドリア単離溶液Aで4℃で1.0mLの体積に希釈し、次いでミトコンドリア単離溶液中の単離されたミトコンドリア(0.5ml。1x107‐1x108を含む)と十分に混合する。混合物を氷上で10~30分間インキュベートする。混合物を9,000rpm(10,000g)で10分間遠心分離することにより3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁する。最後の洗浄後、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁する。
【0113】
チオールを介してミトコンドリアを組み合わせる
MitoTracker(登録商標)フルオロフォア(5μmol/l;Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド、現在はThermo‐Fisher Scientific、マサチューセッツ州ケンブリッジ)を、呼吸緩衝液中の単離されたミトコンドリア(1.0mL)と混合する。プローブが機能的なミトコンドリアと混合されると、それらは酸化され、次にタンパク質上のチオール及びミトコンドリア上のペプチドと反応してコンジュゲートを形成する。混合物を氷上で10分間、暗所で4℃でインキュベートする。混合物を9,000rpm(10,000g)で10分間遠心分離することにより3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁する。最後の洗浄後、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁する。
【0114】
例3:自家ミトコンドリアの移植による圧力過負荷肥大における心不全の予防
目的:
右心室肥大(RVH)から不全(RVF)への進行における重要なイベントは、ミトコンドリア機能障害による心筋細胞のアポトーシスである。呼吸能力のあるミトコンドリアの移植が利用可能であるため、これらの実験の目的は、自家ミトコンドリアの注射が心不全を予防できるかどうかを判断することであった。
【0115】
方法:
RVH/RVFモデルは、未熟な子豚(n=6/グループ)で肺動脈を50%(勾配=15‐20mmHg)結紮(バンディング)することによって作成された。偽手術動物は対照(Ctr)として役立った。動物を心エコー検査(Mモード、TAPSEで測定されたRV自由壁厚)によって8週間追跡した。手術の4週間後、結紮された動物は、子豚自身のふくらはぎの筋肉から単離されたミトコンドリア(PAB‐ミト)、又はRVの自由壁への注射によるビヒクル(PAB‐V)のいずれかで治療された。安楽死時に、組織を組織学的に分析して、心筋細胞の肥大、線維症(H&E、マッソントリクローム、デスミン)、及びTUNELによるアポトーシスを測定した。侵襲的なPVループ測定値(Ved、Dp/Dt max、Pdev)は、ベースライン時と安楽死時に得られた。
【0116】
結果:
すべての動物は研究の終点まで生き残った。手術の1ヶ月後、結紮された動物は、Ctrと比較して有意に厚いRV自由壁を伴う肥大の徴候を示した(0.27±0.03cm対0.4±0.02cm;P<0.01;
図8)。RV壁の厚さは、PAB‐ミト動物の研究終点までさらに増加したが、PAB‐V心臓はすでにひどく拡張していた(0.5±0.04cm対0.28±0.08cm;P<0.01;
図8)。総心臓重量(Ctr:100.6±11.4g、PAB‐V:132.4±31.9g、PAB‐ミト:141.5±31.4g;P<0.05)及び組織学的肥大計算(デスミン/核の比:Ctr:0.17±0.02、PAB‐V:0.45±0.01、PAB‐ミト:0.42±0.;P<0.05;
図11A‐11E)はこれらの所見に対応した。Ctr及びPAB‐ミト心臓ではアポトーシス心筋細胞の喪失はなかったが、PAB‐V心臓では3±1/総核であった(
図12A‐12C)。Dp/Dtmaxは、PAB‐V(501.2±158.9)の低下と比較して、ベースラインのすべてのグループでの831.9±170.5からPAB‐ミトでの1006±178.2に有意に増加し、安楽死時のCtr(843.5±27.6)心臓では変化しなかった。(P<0.05)(
図9‐10)。ベースラインでのTAPSE(10.3±1.7mm)は、PAB‐ミト(12.3±1.1mm)心臓の有意な改善と比較して、PAB‐V心臓(6.5±0.6mm)で有意に減少した(P<0.01)(
図7)。
【0117】
結論:
ミトコンドリア移植は、RVの肥大型適応を維持し、収縮機能を維持した。ミトコンドリア機能障害を標的とすることによって心筋機能障害に直接対処することは、右心機能に影響を与える肺疾患の患者を治療するために使用することができる。
【0118】
例4:右心不全の治療のための自家ミトコンドリアの移植
右心室肥大(RVH)と不全(RVF)は、心臓の罹患率と死亡率の主な原因である。RVFへの進行における重要なイベントは、ミトコンドリア機能障害による心筋細胞のアポトーシスである。呼吸能力のあるミトコンドリアの移植が利用可能であるため、この研究の目的は、自家ミトコンドリアの局所的な心筋内注射が心不全を治療できるかどうかを判断することであった。
【0119】
培養された肥大した心筋細胞において、異なる供給源から移植されたミトコンドリアの有益な効果が測定された。偽手術対照(n=6/グループ)を用いた未熟子豚の肺動脈の結紮によるRVH/RVFモデルを、子豚自身のふくらはぎの筋肉から単離した自家ミトコンドリア(PAB‐M)と、RVの自由壁へのビヒクル(PAB‐V)注射での治療(処置)のために使用した。動物を心エコー検査(自由壁の厚さ、収縮機能)で8週間追跡し、心筋細胞肥大、線維症、及びアポトーシスの組織学的分析を行った研究の終点でDp/Dtmaxを測定した。内在化もATPレベルも、ミトコンドリアのどの供給源が使用されたかに有意差はなかった。4週間で、結紮された動物はRVH(C0.27±0.03cm対PAB0.4±0.02cm壁厚;P=0.01)を示し、PAB‐Mでさらに増加したが、PAB‐Vはすでにひどく拡張していた(0.5±0.04cm対0.28±0.08cm;P=0.01)。ベースラインでの収縮機能に違いはなかったが、PAB‐Mの有意な改善と比較して、PAB‐V心臓では有意に減少した。これは、研究終点でのDp/Dtmaxにも反映されていた。Cではごくわずかなアポトーシス心筋細胞の喪失及び線維症があったが、PAB‐V心臓で最も多い数の肥大した心臓では有意な喪失及び線維症があった(C:1±0.4対PAB‐V:13±1.6;p=0.001及び対PAB‐M:8±1.9;p=0.01。PAB‐V対PAB‐Mp=0.05)。ミトコンドリア移植を介して直接心筋機能障害に対処することで、RVの肥大型適応を維持し、収縮機能を維持する。
【0120】
方法と結果:
動物モデル
体重5~10kgの未熟なオスのヨークシャー子豚(N=18)は、肺動脈絞扼術(PAB)又は偽手術を受けた。子豚は、テラゾール(4.5mg/kg im)、キシラジン(2mg/kg im)、及びアトロピン(0.04mg/kg im)で鎮静化された。気管挿管後、イソフルラン(1~3%)と空気で換気を開始した。EKG、血中酸素飽和度(>97%に維持)、体温、及び呼気終末二酸化炭素をモニターした。大腿動脈と静脈ラインを配置した。子豚を右側に配置し、ドレープをかけ、4番目の肋間腔で左開胸術を行った。リドカイン(1%、iv)は、心室細動を防ぐために開胸術の前に投与された。肺動脈(PA)を上行大動脈から切開し、針穿刺によってRVと遠位PAの圧力を監視しながら結紮した。PAは、元の直径の50%に結紮された。4F血管造影カテーテル(Merit Medical Systems、サウスジョーダン、ユタ州)をPAに挿入し、PowerLabデータ取得システム(DAQ、ADInstruments、シリーズ16/35)に接続して、ベースライン圧力計算用のデータを取得した。ベースライン心エコー検査は、PAバンドを配置する前後に心外膜で得られた。開胸術を3層で閉じ、胸腔チューブ上に胸膜空気を排出した。ブピバカイン(0.25%;<0.03mg/kg)は局所鎮痛薬として注入され、術後全身鎮痛薬はベナミン/グルニキシンメグルミン(1‐2mg/kg im)及びフェンタニルパッチ(1‐4ug/kg経皮)を介して最初の72時間提供された。子豚は37℃のインキュベーターで回復させ、その後すぐに囲いに戻した。偽手術(C、N=6)は、PAの部位での局所操作による胸部の開閉を伴った。術中の心エコー検査に続いて、RV肥大の進行が隔週で測定された。これらの手順の間、動物はイソフルラン(1~3%)の鎮静下で維持された。
【0121】
PABの4週間後、動物は、上記と同じ麻酔プロトコルに従って、RV自由壁へのビヒクル(PAB‐V、N=6)又は自家ミトコンドリア(PAB‐M、N=6)の直接注射によって治療された。無菌条件下で、子豚の腓腹筋から筋生検を行い、上記のようにミトコンドリアを単離した。サブキシフォイドアプローチによる直視下で、10×106/mlの自家ミトコンドリア(PAB‐M、N=6)を含む1mlの緩衝液(300mM スクロース、10mM K‐HEPES、及び1mM K‐EGTA、pH7.2及び4℃))又は緩衝液のみ(PAB‐V、N=6)を、30G針を使用してRV自由壁の10箇所に注射した。心エコー検査は、注射前及びミトコンドリア/ビヒクル注射の直後に実施された。切開は層状に閉じられ、動物は回復した。
【0122】
すべての動物はさらに4週間(最初のPABから8週間後)生存し、隔週で心エコー検査によってモニターされた。研究の終点で、挿管ではなくフェイスマスクを介して麻酔を維持したことを除いて、子豚を上記と同じ方法で麻酔した。胸骨正中切開を行い、PA(PAバンドの近位及び遠位)と大動脈圧を4F血管造影カテーテル(Merit Medical Systems、ユタ州サウスジョーダン)を使用して侵襲的に測定した。さらに、PA及びRVの圧力‐容積曲線は、RVOTに挿入された7F Scisense圧力‐容積(PV)ループカテーテル(Transonic、ニューヨーク州イサカ)を使用して得られたデータから計算された。PVループカテーテルをPowerlabに接続し、ADVantage圧力‐ボリュームシステム(ADV500、Transonic、ニューヨーク州イサカ)を使用して信号を自動的に較正した。すべての測定を行った後、安楽死のためにFetal Plus(登録商標)を投与し、心臓を切除し、氷上でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗い流した。RV自由壁生検が得られ、急速凍結され、さらに使用されるまで液体窒素で保存された。個別のRV自由壁組織を最適切断温度(OCT)化合物に包埋し、急速凍結し、切片化が行われるまで-80℃で保存した。新鮮なRV自由壁を湿/乾燥重量計算に使用した。
【0123】
単離された心筋細胞培養モデル
新生児ラット心筋細胞の細胞培養モデルを使用して、肥大した心筋細胞におけるミトコンドリアの内在化を測定した。さらに、ミトコンドリアのさまざまな供給源の機能上の利点をこのモデルでテストした。薬理学的に誘発された肥大サンプルを、肥大していない対照サンプルと比較した。すべての単離された細胞実験は、重複して実施された。
【0124】
手短に言えば、新生児ラット心筋細胞は、市販の単離キット(Worthington)を使用して単離され、以前に詳細に記載されたように培養された(Choi YH, Stamm C, Hammer PE, et al. Cardiac conduction through engineered tissue. Am J Pathol. 2006;169:72-85(人工組織を介する心臓伝導))。培養の2日後、細胞は対照又は肥大のいずれかに割り当てられた。インビトロで心肥大を刺激するために、心筋細胞を24時間血清飢餓状態にした後、アンジオテンシンII(100nM;Sigma‐Aldrich)で24時間処理した。
【0125】
筋肉組織からのミトコンドリアの単離
ミトコンドリアの供給源がミトコンドリア機能の回復の利点に役割を果たすかどうかを判断するために、2つの異なる骨格筋源、速筋と遅筋からのミトコンドリアを、腓腹筋と母ラットから得られたソレウス筋からのパンチ生検によって採取し、RV心筋ミトコンドリアと比較された。この方法では、100mgの組織サンプルから99.5%を超える生存可能なミトコンドリアが得られる。筋肉組織を均質化緩衝液(300mMスクロース、10mM K‐HEPES、及び1mM K‐EGTA、pH7.2及び4℃)中の市販の組織解離剤で均質化した後、1mlの均質化緩衝液にスブチリシンAを含む250μlの緩衝液溶液を添加した。ホモジネートを転倒混和し、氷上で10分間インキュベートした後、分別濾過した。ろ液を2本の事前に冷却したマイクロフュージチューブに移し、4℃で10分間9,000xgで遠心分離した。上清を除去し、合わせたペレットを1mlの氷冷呼吸緩衝液(250mmol/lスクロース、2mmol/l KH2PO4、10mmol/l MgCl2、20mmol/l K+‐HEPES緩衝液、pH7.2、0.5mmol/l K+‐EGTA、pH8.0、5mmol/lグルタミン酸塩、5mmol/lリンゴ酸塩、8mmol/lコハク酸塩、1mmol/l ADP)に再懸濁した。ミトコンドリアの数は、コールターカウンター(ベックマンコルターライフサイエンス、インディアナポリス、インディアナ州)でカウントされた。
【0126】
移植されたミトコンドリアの内在化の測定
ミトコンドリアは、pHrodo red粒子ラベル(ThermoFisher、マサチューセッツ州ウォルサム)で4℃で10分間事前にラベル付けされ、呼吸緩衝液で4回洗浄された。PHrodo蛍光は、生存可能なミトコンドリアによる取り込みに続く蛍光のみであるため、内在化の肯定的な指標を提供する。標識されたミトコンドリアを新鮮な呼吸緩衝液に再懸濁し、最後の洗浄上清を保存した。この洗浄液を使用して、対照細胞をこの上清とインキュベートすることにより非特異的標識を決定した(データは示していない)。標識されたミトコンドリア(1x100/ウェル)を心筋細胞(~50,000/ウェル)と共培養した。24時間後、培地を除去し、細胞を1xPBSで4回洗浄し、200μlの新鮮な培地を各ウェルに添加した。染色のために、細胞をPBS中の0.1%Triton X‐100で3分間透過処理し、PBS中の10%ウシ胎児血清(FBS)で1:1000に希釈した一次抗体と1時間インキュベートした。一次抗体として、心筋細胞のデスミンを、種に適したAlexa Fluor 488結合二次抗体(ThermoFisher、マサチューセッツ州ウォルサム)とともに使用した。核は、4’,6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドール(DAPI)(ThermoFisher)を使用して同時に染色された。内在化の検出は、緑色のデスミン染色心筋細胞への赤色蛍光ミトコンドリアに基づいた。内在化はツァイス(Zeiss)蛍光顕微鏡で評価した。
【0127】
ミトコンドリア機能の測定
ATP含有量は、ATPlite発光ATP検出アッセイシステム(Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して測定した。ミトコンドリアを標識する蛍光色素がミトコンドリア機能を妨害する可能性があるため、これらの実験には別の細胞セットを使用した。
【0128】
心エコー測定
心エコー測定値は、ベースライン時、治療前(結紮後4週間)、及び研究の終点(結紮後8週間)に取得された。すべての研究は、S8‐3トランスデューサーを備えたPhilips iE33デバイス(Philips Healthcare、アムステルダム、オランダ)を使用して実行され、すべてのサイクルは同時ECG記録で保存された。分数面積変化(FAC)と三尖弁輪平面収縮可動域(TAPSE)によるRV機能は、4腔像から評価された。RVの自由壁の厚さは、拡張末期に傍胸骨長軸(PLAX)及び傍胸骨短軸(PSA)のビューから取得されたMモード記録で測定された。
【0129】
侵襲的圧力‐容積(PV)測定
PA及びRVの圧力‐容積曲線は、7F Scisense圧力‐容積(PV)ループカテーテル(Transonic Systems Inc、ニューヨーク州イサカ)を使用して得られたデータから計算された。このカテーテルは、右付属器から挿入され、4‐0プロレン縫合糸(Ethicon Inc.、ニュージャージー州サマービル)で固定した。PVループカテーテルを接続し、ADVantage圧力‐容積システム(ADV500、Transonic、ニューヨーク州イサカ)を使用して自動的に較正した。測定値は、ベースライン時と安楽死時に得られた。Powerlabデータ取得システム(DAQ、ADInstruments、シリーズ16/35)を使用してデータを取得し、提供されているソフトウェアLabChart 7 Acquisitionソフトウェア(AD Instruments、オーストラリア、シドニー)で分析した。RVピーク発生圧(Pdev、mmHg)、RV拡張末期圧(Ped、mmHg)、及び経時的なRV圧の最大変化(dp/dt max、mmHg/s)を測定した。最大容積(Vmax)と拡張末期容積(Ved)は、PVループカテーテルを使用して計算された。
【0130】
RV組織の組織学的分析
RV組織を最適切断温度(OCT)化合物に包埋し、急速凍結し、さらに使用するまで-80℃で保存した。切片を採取し、凍結スライドを染色に使用するまで-80℃で保存した。すべてのスライドは、Nikon 20x対物レンズ(NA=20x/0.45)を備えたZeissObserver.Z1蛍光顕微鏡を使用して視覚化された。各スライドからランダムに選択された10個のフィールドを、ライカデジタルカラーカメラで撮影し、ImageJ(バージョン2.0.0‐rc‐43、メリーランド州ベセスダの国立衛生研究所から入手)を分析した。
【0131】
心筋細胞肥大の測定
心エコー測定に加えて、心筋細胞(1:50、Santa Cruz Biotechnology Inc.、テキサス州ダラス)及びDAPI(1:1000、Dako、カリフォルニア州カーピンテリア)を視覚化するためのデスミンの免疫蛍光染色を使用してRV肥大を評価し、視野あたりの核の数を測定した。ImageJを使用して、視野あたりの核の数に対するデスミンの比率を計算した。
【0132】
心筋アポトーシスの測定
理論に拘束されることなく、心筋細胞のアポトーシスは主にミトコンドリア機能障害の結果であることが示されているため、ApopTagPlusフルオレセインInSituアポトーシス検出キット(MilliporeSigma、マサチューセッツ州バーリントン)を使用したTUNEL染色によって心筋細胞のアポトーシスを測定した。心筋細胞は、デスミン(1:50、Santa Cruz Biotechnology Inc.、デラス、テキサス州)及び核をDAPI(1:1000、Dako、カーピンテリア、カリフォルニア州)で対比染色した。TUNEL陽性の核を手動でカウントした。視野あたりの核の総数は、ImageJを使用して測定された。データは、1000個の心筋細胞核あたりのアポトーシス核の比率として表された。
【0133】
心筋線維症の測定
別の組織切片のセットがマッソンのトリクロームで染色された結果、線維性(コラーゲンが豊富な)領域が青く見え、心筋が赤く見えた。青と赤の領域(線維症と心筋)を測定し、その比率が線維症の推定値として機能する。スライドは、Nikon10xの対物レンズで視覚化された。組織サンプルごとにランダムに選択された10の視野が取得され、ImageJで分析された。結果は、青と赤の領域の比率として表される。
【0134】
統計分析
すべての結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として報告される。データの正規分布を確認した後、複数のグループの比較のためのANOVAとボンフェローニの事後分析を実行して、統計的有意性の計算を取得した(SPSS 23、IBM Corporation、ニューヨーク州アーモンク)。0.05以下の確率値は統計的に有意であると見なされた。
【0135】
心筋細胞培養モデル
心筋細胞のサイズは、アンジオテンシンIIへの曝露後の肥大(H)の指標として測定された。治療後、心筋細胞のサイズは、視野あたりの核の数あたりの比率として表される対照心筋細胞と比較して有意に増加した(C:2.4±0.2対H:4.2±0.5;p=0.01)。ミトコンドリアは、対照心筋細胞に対するものと同じ規模で、肥大したRV心筋細胞に内在化した(
図15)。
【0136】
心筋細胞の数ごとに表されるATPレベルは、コントロールと比較して肥大した心筋細胞で減少する(C:404±28対H‐ミトなし:256±23;p=0.01)が、ミトコンドリアの移植後は正常以上のレベルに正規化される。どのミトコンドリア源を使用したかという統計的差異は観察されていない(H‐心臓ミト:541±36対H‐腓腹筋ミト:527±98対H‐ヒラメ筋ミト:531±19;n.s.)。骨格筋ミトコンドリアは、心筋から単離されたミトコンドリアと同様に応答した(
図16)。
【0137】
動物モデル
18匹の子豚はすべて、研究の終点まで生き残った。研究終点でPAバンド全体で測定された平均勾配(mmHg、平均±SEM)は、PAB‐V(12.1±1.6)グループとPAB‐M(9.7±1.9)グループの間で有意差はなかった(P=0.8)。体重(kg)は、介入前(C:12.2±1.5、PAB‐V:11.4±1.5、PAB‐M:11.9±0.9;P=0.9)でも研究終点でも(C:17.3±3.1、PAB‐V:16.6±1.2、PAB‐M:17.8±0.9;P=0.4)、3つのグループ間で差はなかった。しかし、研究終点での全心臓重量(グラム)は、偽手術対照と比較して、PAバンド動物で有意に高かった(C:100.6±4.7対PAB‐V:132.4±13及びPAB‐M:141.6±12.8;P<0.05)。RV湿重量/乾燥重量比(湿乾燥重量/乾燥重量)は、3つのグループ間で有意差はなかった(C:4.1±0.05、PAB‐V:5.3±0.09、PAB‐M:4.9±0.3;P=0.5)。
【0138】
組織学的分析
肥大は、視野あたりの核の数に対する心筋面積の比率を計算することによって組織学的に評価された。両方のPABグループは、研究終点で偽手術対照と比較して筋肉量の有意な増加を示した(C:0.2±0.02対PAB‐V:0.36±0.02及びPAB‐M:0.36±0.3;P=0.001)。この発見は、PAB‐V心臓が最大数のアポトーシス陽性心筋細胞核を示した心筋細胞アポトーシスの存在と相関していた(C:1±0.4対PAB‐V:13±1.7対PAB‐M:8±1.9;p≦0.05;
図11A‐11E及び17A‐17B)。PAB‐Vミトコンドリアも腫れ、クリステが減少した(
図13A‐13C)。これらの発見は、ミトコンドリアで治療された肥大した心臓と比較して、ビヒクルで治療された肥大した心臓における心筋線維化の有意な増加によっても裏付けられた(C:4±0.55対PAB‐V:15±1.3対PAB‐M:10±1.1;p≦0.05;
図17C‐17D)。
【0139】
心エコー測定
心筋肥大の組織学的評価に加えて、センチメートル単位の右心室壁厚が拡張末期のMモード記録で測定された。ベースラインの壁厚は、介入前のグループ間で有意差はなかったが(C:0.25±0.01、PAB‐V:0.24±0.01、PAB‐M:0.25±0.01;P=0.48)、結紮後の4週以内の結紮されたグループで有意に増加した(C:0.28±0.01対PAB‐V:0.4±0.02及びPAB‐M:0.38±0.02;P<0.001)。研究の終点では、ミトコンドリアで処理された心臓は壁の厚さを維持したが、ビヒクルで処理された心臓は拡張を示すベースラインに戻った(C:0.28±0.01対PAB‐V:0.34±0.03;P=0.15;対PAB‐M:0.47±0.02;P=0.05)。(
図8及び18A‐18C)
【0140】
ベースラインの三尖弁輪平面収縮可動域(TAPSE、mm)は、グループ間で差はなかった(C:10.6±0.2、PAB‐V:10±0.4、PAB‐M:9.8±0.2;P=0.2)が、PABの4週間後の偽対照と比較した結紮されたグループで有意に低かった(C:12.3±0.6対PAB‐V:8.2±0.3及びPAB‐M:8±0.3、P<0.001)。ミトコンドリアによる治療前の2つの肥大グループの間に差はなかった(PAB‐V対PAB‐M;P=0.9)。ミトコンドリア移植の4週間後、処理された肥大した心臓は、ビヒクルで処理された心臓よりも機能的に有意に優れており(PAB‐V:6.7±0.2対PAB‐M:12.2±0.4;P<0.001)、ミトコンドリアで処理された心臓と偽手術を受けた対照の間に差はなかった(C:13±0.5対PAB‐M:12.2±0.4;P=0.42)。(
図6及び19A‐19C)
【0141】
機能領域の変化(FAC、%)は、ベースライン時の3つのグループ間で差はなかった(C:38.2±1.4、PAB‐S:41.2±3.4、PAB‐M:41.3±2.1;P=0.60)が、偽手術対照と比較した結紮の4週間後の肥大グループ(C:43±1.6、PAB‐V:23.7±1.5、PAB‐M:25±2.5、P<0.001)については有意に変化した。両方の肥大グループは、ミトコンドリア治療前は互いに差はなかったが、研究の終点では、ビヒクル治療心臓の収縮機能は、ミトコンドリア治療及び偽手術対照と比較して有意に低下した(C:46.3±1.9及びPAB‐M:45.7±0.9対PAB‐V:21.5±1.9;P<0.001。(
図7及び20A‐20C)
【0142】
侵襲的圧力‐容積(PV)測定
Vmax(ml/分)及びVed(ml/分)は、研究終点でグループC及びPAB‐Mと比較してグループPAB‐Vで高かったが、差は有意に達しなかった(C:83.7±11.8、PAB‐V:122.1±30.3、PAB‐M:94.5±13.8;P=0.42及びC:73.8±8.3、PAB‐V:99.9±25.3、PAB‐M:84.8±13.6;P=0.57)。Pdev(mmHg)は、偽手術対照と比較して、研究終点で結紮された動物で高かったが、有意性に達しなかった(C:10±0.9、PAB‐V:18.6±6.2、PAB‐M:20.5±1.9、P=0.16)。
【0143】
介入の前に、すべての動物は831.9±56.8の平均dP/dt max(mmHg/秒)で開始した。動物はベースラインで互いに有意差はなかった(P>0.05)。しかし、DP/dt max(mmHg/秒)は、ミトコンドリアで治療した肥大した心臓では、ビヒクルで治療した心臓と比較して研究終点で有意に高かった(PAB‐V:506.6±88.1対PAB‐M:894.9±119.23;P<0.05)。一方、PAB‐Mの心臓は、偽手術した対照の心臓と有意差はなかった(C:777±29.4;P=0.9)。(
図9‐10及び21A‐21B)
【0144】
結論:
ミトコンドリア移植は、RVの肥大型適応を維持し、収縮機能を維持した。ミトコンドリア機能障害を標的とすることによって心筋機能障害に直接対処することは、右心機能に影響を与える肺疾患の患者を治療するために使用することができる。
【0145】
この研究の目的は、ミトコンドリアのエネルギーに影響を与える欠陥を標的にして、心不全の発症を遅らせることであった。理論に縛られることなく、心臓ミトコンドリアの機能不全は、部分的には肥厚するRVのエネルギー需要の増加により、心不全において極めて重要である。私たちの介入は、呼吸能力のあるミトコンドリアの移植を通じてエネルギー生産を最大化するためにミトコンドリア機能を改善することを目的とした。我々は、骨格筋源から得られた自己外因性ミトコンドリアが肥大した心筋細胞に内在化し、RV心筋から得られたミトコンドリアと同様にミトコンドリア機能を同等に増加させることを確立した。肺動脈絞扼術の大型動物モデルにおける自家ミトコンドリアの移植は、心筋細胞がアポトーシス細胞の喪失から保護されていることを確立した。さらに、肥大成長を維持することは、拡張及び収縮不全の兆候を示した未治療の肥大した心臓と比較して、収縮機能の保存につながった。したがって、いくつかの実施形態では、ミトコンドリアを含む組成物を患者に投与することを含む、心筋細胞のアポトーシス細胞喪失を防止又は低減し、心臓の収縮機能を保存又は改善する方法が本明細書に記載されている。
【0146】
理論に縛られることなく、右心室は肺疾患関連心不全の予後の主な決定要因である。RVの適応と不適応は、病気の過程で非常に重要である。最初に、RV収縮性は、後負荷が収縮性を超える特定の脱共役点まで、筋肉特性の変化と代償性筋肥大によって増加する。これは、心室拡張の特徴である不適応を示す。右心不全では、治療は、ミトコンドリア機能障害の結果であるRV心筋の重大なエネルギー不足に直接干渉するのではなく、肺機能を標的にすることに主に限定される(Hoeper MM, Kramer T, Pan Z, et al. Mortality in pulmonary arterial hypertension: prediction by the 2015 European pulmonary hypertension guidelines risk stratification model. Eur Respir J. 2017;50(2):pii:1700740(肺動脈高血圧の死亡率:2015年欧州肺高血圧ガイドラインリスク層別化モデルによる予測);Galie N, Humbert M, Vachiery J-L, et al. 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension. Eur Resp J. 2015;46:903-975(肺高血圧症の診断及び治療のための2015ESC/ERSガイドライン);Tonelli AR, Arelli V, Minai OA, et al. Causes and circumstances of death in pulmonary arterial hypertension. Am J Respir Crit Care Med. 2013;188(3):365-369(肺動脈性高血圧症における死亡の原因と状況))。
【0147】
理論に拘束されることなく、ATPを生成する能力の低下をもたらすミトコンドリア機能障害は、細胞のATPの約90%が収縮と弛緩及びカルシウム調節に使用されるため、心臓機能に影響を与えることが知られている(Doenst T, Nguyen TD, Abel ED. Cardiac metabolism in heart failure: Implications beyond ATP production. Circ Res. 2013;113:709-724(心不全における心臓代謝:ATP生成を超えた意味))。ミトコンドリアの機能障害は、ミトコンドリアの品質管理の欠如が原因である可能性があり、代謝シグナル伝達、生体エネルギー、カルシウム輸送、活性酸素種(ROS)の生成、及び細胞死経路の活性化の欠陥につながる。これは、アポトーシスによる心筋細胞死につながる悪意のあるフィードフォワードサイクルをもたらす(Brown DA, Perry JB, Allen ME, et al. Expert consensus document: mitochondrial function as a therapeutic target in heart failure. Nat Rev Cardiol. 2016;14:238-250)(専門家のコンセンサス文書:心不全の治療標的としてのミトコンドリア機能))。ミトコンドリア機能の変化は、圧力過負荷肥大と障害の原因として認識されている。末期心不全のヒトの研究では、エネルギー代謝のマーカーが心不全で減少することが示され、心不全は燃料切れのエンジンであるという考えが生まれた(Doenst T, Nguyen TD, Abel ED. Cardiac metabolism in heart failure: Implications beyond ATP production. Circ Res. 2013;113:709-724(心不全における心臓代謝:ATP生成を超えた意味);Neubauer S. The failing heart-an engine out of fuel. N Engl J Med. 2007;356:1140-1151(心不全‐燃料切れのエンジン))。ただし、ミトコンドリアは、機能不全の心筋エネルギーを飢えさせるのではなく、代謝と細胞死の調節においてより複雑な役割を果たす。右心不全の子豚モデルは、ミトコンドリアが酸化的リン酸化の障害と重大な構造的損傷を示し、圧力過負荷に起因する右心不全のミトコンドリア機能と構造的品質の重要性を強調している(Noly P-E, Piquereau J, Coblence M, et al. Right ventricular mitochondrial respiratory function in a piglet model of chronic pulmonary hypertension. J Thorac Cardiovasc Surg 2020;159(1):129-140(慢性肺高血圧症の子豚モデルにおける右心室ミトコンドリア呼吸器機能))。本明細書のデータは、心筋細胞がミトコンドリアでの処理後にアポトーシス細胞喪失からよりよく保存されたのに対し、ビヒクルで処理された肥大した心臓はより多くのアポトーシス細胞死を示すことを示している。
【0148】
理論に拘束されることなく、肥大したRVの代謝要求は大幅に増加し、圧力負荷の増加を補うために薄いRVが筋肉量を増加させる必要があるため、直ちに必要なミトコンドリアのサポートを強化する必要がある。しかし、ミトコンドリアは急速に増加する筋肉の成長に追いつくことができない(Friehs I, Cowan DB, Choi Y-H, et al. Pressure-overload hypertrophy of the developing heart reveals activation of divergent gene and protein pathways in the left and right ventricular myocardium. Am J Physiol Circ Physiol. 2013;304(5):H697-708(発達中の心臓の圧力過負荷肥大は、左右の心室心筋における発散する遺伝子及びタンパク質経路の活性化を明らかにする);Phillips D, Aponte AM, Covian R, Neufeld E, Yu ZX, Balaban RS. Homogenous protein programming in the mammalian left and right ventricle free walls. Physiol Genomics. 2011;43(21):1198-1206(哺乳類の左右心室自由壁における均一なタンパク質プログラミング))。私たちの動物モデルでは、圧力過負荷は逆転せず、機能を維持するために肥厚したRV筋へのミトコンドリアの適応が必要である。我々の結果に基づくと、増加した圧力負荷に対応するためのこの代償的適応は、ビヒクルで処理された肥大した心臓の壁厚の減少によって示されるように、長期的には起こらない。対照的に、ミトコンドリア移植は、RVの肥大適応成長を維持する。さらに、データは、移植のためのミトコンドリアの供給源がそれらの利益の決定要因ではないことを示した。どのミトコンドリア源が使用されたかに違いはない。骨格筋ミトコンドリアは、心筋から単離されたミトコンドリアと同様に反応した。したがって、心筋ミトコンドリアは、RVH/RVFを介したミトコンドリア機能障害の治療には必要ない。外因性の自家骨格筋ミトコンドリアは、機能不全のRVの収縮機能を維持する。
【0149】
治療的介入としてのミトコンドリア移植は、ミトコンドリアの機能と構造のすべての側面を対象としている。ミトコンドリアの構造的完全性にも対処する必要があるため、ミトコンドリアの代謝操作だけでは、機能不全の右心室を治療するのに十分ではない。さらに、ミトコンドリア移植は、肥大した/機能不全の右心で損なわれているミトコンドリアのダイナミクスを対象としている。検討中の潜在的なメカニズムは、心不全の病態生理学の初期のイベントとしてのミトコンドリア生合成の破壊、新しいミトコンドリアの生成である。代償性肥大の初期段階では、ミトコンドリアの生合成シグナル伝達が維持される。対照的に、代償不全性心不全が明らかになると、ミトコンドリアの生合成シグナルは低下する。
【0150】
結論として、この研究では、ミトコンドリア移植の利点についての理解を深めた。特に、結果は、外因性の自家骨格筋ミトコンドリアが機能不全の心臓の収縮機能を維持することを示している。
【0151】
例5:心筋保護のための冠状動脈内注射による自家ミトコンドリア移植
ブタモデルにおける予防的心筋保護のための治療戦略として、虚血前の冠状動脈内自家ミトコンドリア移植(MT)を調査するために実験を行った。
【0152】
方法:
ヨークシャー豚の左冠状動脈にカニューレを挿入した(n=26)。ミトコンドリア(1×109)又は緩衝液(ビヒクル[Veh])は、単回ボーラス(MTS)又は連続(60分間で10回の注射;MTSS)として送達された。単回注射は、左主冠状動脈へのボーラス順行性として送達された(6mL中1×109)。連続注射(各注射で6mLの呼吸緩衝液に1×109を10回注射)を5分ごとに行った。注射の15分後、心臓は左前下行枝をスネアすることによって一時的な局所虚血(RI)を受けた。RIの30分後、スネアが解放され、心臓は120分間再灌流された。
【0153】
結果:
冠状動脈血流量(CBF)と心筋機能は、RI前の期間中に一時的に増加した。RIの30分後、MTS及びMTSSの心臓はCBFを大幅に増加させ、再灌流の間ずっと持続した(Veh対MTS及びMTSS;P=0.04)。MTSとMTSSは、駆出率の大幅な向上(Veh対MTS、P<0.001;Veh対MTSS、P=0.04)と発生圧力(Veh対MTS、P<0.001;Veh対MTSS、P=0.03)を示した。分節短縮(Veh対MTS、P=0.03;Veh対MTSS、P<0.001)、短縮率(Veh対MTS、P<0.001;Veh対MTSS、P=0.04)、及びひずみ分析(Veh対MTS、P=0.002;Veh対MTSS、P=0.003)により評価された局所機能も大幅に改善された。治療グループ間でリスクのある領域に差はなかったが、梗塞サイズは両方のMTグループで有意に減少した(Veh対MTS及びMTSS、P<0.001)。
【0154】
結論:
単回又は連続冠動脈内注射による虚血前MTは、予防的な心筋保護を提供し、梗塞サイズを大幅に縮小し、全体的及び局所的な心臓機能を強化する。
【0155】
例6:ミトコンドリアの冠動脈内送達による心筋保護
自家ミトコンドリア移植は、虚血組織に、自分の体から単離された生存可能な呼吸能力のあるミトコンドリアを供給して、天然のミトコンドリア損傷の影響を軽減することを含む。実験は、臨床的に関連するブタモデルにおけるミトコンドリアの冠状動脈内送達の安全性と有効性を調査するために実施された。
【0156】
方法:
成豚に麻酔をかけ、自家ミトコンドリアを単離した。動物をテラゾール(2.2‐4.4mg/kg)/キシラジン(1‐2mg/kg)で鎮静させ、挿管した。全身麻酔は、0.5~2%のイソフルラン‐酸素混合物で維持された。胸骨正中切開を行い、心臓を心膜クレードルに吊るした。次に、5F JR血管造影カテーテル(Merit Medical Sys、UT)を右頸動脈(5Fシース)を通して左冠状動脈口に蛍光透視下で浮かせることにより、左冠状動脈(LCA)への血管造影アクセスを確立した。ミトコンドリアの取り込みと生体内分布は、18F‐ローダミン‐6G標識ミトコンドリアを左冠状動脈に血管造影で注射した後、ポジトロン断層撮影(PET)によって評価された(n=3)。冠状動脈内ミトコンドリア注射の安全性プロファイルは、通常の状態、冠状血管収縮中、及び頻脈中に評価された(n=18)。冠状動脈内ミトコンドリア移植の治療効果を評価するために、左前下行枝を30分間スネアした。再灌流の開始時に、動物はミトコンドリア(n=8)又はビヒクル溶液(n=8)のいずれかを受け、続いて2時間の再灌流を受けた。
【0157】
結果:
ミトコンドリアの冠動脈内送達は、心臓全体へのミトコンドリアの急速な取り込みと特異的な生体内分布をもたらした。冠状動脈の開存性及び心筋機能は、すべての試験条件下で維持された。ミトコンドリアの冠状動脈内注射は、冠状動脈血流(CBF)の濃度依存性の増加をもたらした。ミトコンドリア誘発性充血には、ミトコンドリアの生存能力、ATP生成、及び部分的には血管内向き整流カリウムチャネル(KIR)の活性化が必要であった。冠状動脈内ミトコンドリア送達は、対照と比較して、虚血後の心筋機能の有意な増強、CBFの改善、及び梗塞サイズの縮小をもたらした。
冠状動脈内ミトコンドリア移植は、心筋灌流、心筋機能、及び心臓組織の生存を改善するための安全で効果的な方法である。
【0158】
その他の実施態様
本発明はその詳細な説明と併せて説明されてきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を説明することを意図し、限定するものではないことを理解されたい。その他の側面、利点、及び変更は、以下の特許請求の範囲内にある。
【国際調査報告】