(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】生物学的材料の凍結保存用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20220316BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20220316BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20220316BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20220316BHJP
C12N 5/0797 20100101ALN20220316BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20220316BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N1/04
C12N5/0789
C12N5/074
C12N5/0797
C12N5/0735
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569590
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(85)【翻訳文提出日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2020053065
(87)【国際公開番号】W WO2020161273
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521353517
【氏名又は名称】セル・マターズ・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・エクトル
(72)【発明者】
【氏名】リュク・グロベ
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ・コナン
(72)【発明者】
【氏名】ナディーヌ・デュピュイ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB06
4B065BB08
4B065BB16
4B065BB17
4B065BB18
4B065BB40
4B065BD09
4B065CA60
(57)【要約】
本出願は、極性非プロトン性溶媒、一価又は多価アルコール、非分岐鎖多糖、分岐鎖多糖及びポリビニルアルコールを含む、生物学的材料の凍結保存用液体組成物を開示する。更に提供されるものは、生物学的材料の凍結保存用の前記液体組成物の使用、及び前記液体組成物を使用する生物学的材料の保存方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)から選択される極性非プロトン性溶媒;
- エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ボレミトール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びペンタノールから選択される一価又は多価アルコール;
- スクロース、トレハロース、ラクツロース、メリビオース、ラクトビオネート、ラフィノース及びセルロースからなる群から選択される非分岐鎖多糖、好ましくはスクロース;
- デキストラン及び
- ポリビニルアルコール
を含む、生物学的材料の凍結保存用液体組成物。
【請求項2】
DMSO、エチレングリコール、スクロース、デキストラン及びポリビニルアルコールを含む、請求項1に記載の生物学的材料の凍結保存用液体組成物。
【請求項3】
前記組成物が、実質的に等しい量のDMSO及びエチレングリコール、並びに濃度がデキストランの少なくとも8倍であるスクロースを含む、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項4】
- 少なくとも0.8%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 少なくとも0.8%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 少なくとも0.5%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.037%(w/v)のデキストラン;
- 少なくとも0.015%(v/v)のポリビニルアルコール及び
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 9.0~31.0%(w/v)、好ましくは22.7%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 0.60~22.0%(w/v)、好ましくは2.64%(w/v)のデキストラン;
- 0.30~4.0%(v/v)、好ましくは0.88%(v/v)のポリビニルアルコール及び/又は
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の液体組成物
又は前記希釈剤による前記液体組成物の希釈物。
【請求項6】
少なくとも15%(v/v)の極性非プロトン性溶媒、少なくとも15%(v/v)の一価又は多価アルコール、少なくとも15%(w/v)の非分岐鎖多糖、少なくとも2%(w/v)のデキストラン及び約0.9%(w/v)のポリビニルアルコールを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
前記希釈剤が平衡塩溶液、好ましくはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)である、請求項4から6のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項8】
デキストランが、デキストラン1、デキストラン40及び/又はデキストラン70のうちの1つ又は複数を含む、請求項2から7のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項9】
- 17.7%(v/v)のDMSO;
- 17.7%(v/v)のエチレングリコール;
- 22.7%(w/v)のスクロース;
- 0.88%(w/v)のデキストラン1;
- 0.88%(w/v)のデキストラン40;
- 0.88%(w/v)のデキストラン70;
- 0.88%(w/v)のポリビニルアルコール
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項10】
タンパク質、ポリペプチド又はペプチドを含まない、請求項1から9のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項11】
生物学的材料の凍結保存のための請求項1から10のいずれか一項に記載の液体組成物の使用であって、凍結が、好ましくは凍結手順、多工程ガラス化手順又は一工程ガラス化手順により実施される、使用。
【請求項12】
生物学的材料を保存する方法であって、
- 生物学的材料を準備する工程と、
- 前記生物学的材料を、請求項1から10のいずれか一項に記載の液体組成物と接触させる工程と、
- 前記生物学的材料を、請求項1から10のいずれか一項に記載の液体組成物中で冷却及び/又は加熱する工程と
を含む方法。
【請求項13】
前記生物学的材料と、請求項5、6若しくは9、又はそれに従属する請求項に記載の組成物の少なくとも1つの希釈物とを接触する工程を、前記生物学的材料と前記組成物とを接触する工程の前に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却が、前記生物学的材料の凍結又は前記生物学的材料のガラス化、好ましくは前記生物学的材料の一工程又は多工程ガラス化を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記生物学的材料が、幹細胞、配偶子及び胚からなる群から選択される、請求項11に記載の使用又は請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的材料の凍結保存用液体組成物、これらの組成物を用いる方法及びこれらの使用に関する。本発明は、ヒト細胞、配偶子及び胚の凍結保存に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
凍結保存は、経済的、治療上又は科学的に重要な細胞、胚又は配偶子の遺伝子を永遠に保存するための、数ある中で最も強力で有効なツールである。これはヒト生殖補助技術(human assisted reproduction technologies)(ART)にも応用される。水が細胞の主要成分であるので、その固化を冷却及び後の加温の両方で厳密に制御して、氷晶の細胞内形成を回避しなければならない。このことは細胞小器官及びすべての膜系に対して破壊的な効果を有し、最終的に細胞の有害な変化及び死をもたらす。
【0003】
2つの主な方法群が、生きている生物学的材料の凍結保存に現在使用されており、緩徐凍結(SLF)及びガラス化(VIT)である。VITの手順は、細胞内氷晶形成の可能性を低減するために、SLFの代替案として導入された(Rall及びFahy、1985)。
【0004】
VITは、ヒトARTにおいて、特に、メタフェーズII(MII)卵母細胞(Kuwayamaら、2005)及び様々な発生段階の胚(Rienziら、2017;Vanderzwalmenら、2012)を凍結保存するのにSLFより効率であることを実証しており、現在ARTにおいて凍結保存の黄金律(gold standard)となっている。
【0005】
これは動物、特にネズミの胚にも同様に当てはまり、VITは、クロマチン完全性及び生体エネルギーの状態をより良好に保存すること(Somoskoiら、2015)、凍結保護物質(CP)の低い細胞内移入を誘導すること(Vanderzwalmenら、2013)、並びに最終的にSLFより良好な胚生存及び発生を生じること(Zander-Foxら、2013)を示している。
【0006】
いずれにしても、現在のVITプロトコールは、方法の複雑さ、プロトコールの多重性及び多くの場合にヒト又は動物の体液に由来する化学的に未確定な成分の頻繁な使用によって悩まされている。その結果として、成分の安定性、生物学的安全性、方法の再現性及び標準化が損なわれる。
【0007】
この観点から、高い有効性、生物学的安全性及び再現性を有する、ガラス化細胞のための、同様に緩徐凍結細胞のための更なる及び/又は改善された組成物の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,486,359号
【特許文献2】米国特許第5,811,094号
【特許文献3】米国特許第5,736,396号
【特許文献4】米国特許第5,837,539号
【特許文献5】米国特許第5,827,740号
【特許文献6】国際公開第2010/046949A1号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tao Wangら、2015年、Determination of convective heat transfer coefficient at the outer surface of a cryovial being plunged into liquid nitrogen. Cryoletters. 336:285~288頁
【非特許文献2】Yamanakaら、2006(Cell 126:663~676頁)
【非特許文献3】Yamanakaら、2007(Cell 131:861~872頁)
【非特許文献4】Lopez M.ら、Chemically defined and xeno-free cryopreservation of human adiose-derived stem cells、2016年、PLOS ONE、11巻(3):1~15頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者たちは、生物学的材料の凍結保存のために独自の化学的に確定された液体組成物を開発した。本発明者たちは、試薬の相乗効果を可能にして凍結保存における使用に最適な特徴をもたらす、試薬の特定の組み合わせを見出した。より詳細には、本発明の組成物の使用は、既知の凍結保存溶液より良好な生存及び孵化率を確実にする。
【0011】
この液体組成物は、様々なタイプの凍結保存手順(例えば、緩徐凍結、一工程ガラス化、多工程ガラス化)による、幹細胞、胚及び配偶子が包含されるが、これらに限定されない様々なタイプの生物学的材料の効率的で生物学的に安全な再現性のある凍結保存(例えば、ガラス化)を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、第一の態様は、極性非プロトン性溶媒、一価又は多価アルコール及びポリビニルアルコールを含む、生物学的材料の凍結保存用液体組成物を提供する。特定の実施形態において、組成物は、
- ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)から選択される極性非プロトン性溶媒;
- エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ボレミトール(volemitol)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びペンタノールから選択される一価又は多価アルコール;
- スクロース、トレハロース、ラクツロース、メリビオース、ラクトビオネート、ラフィノース及びセルロースからなる群から選択される非分岐鎖多糖、好ましくはスクロース;
- デキストラン、ペクチン、フィコール及びデンプンからなる群から選択される分岐鎖多糖、好ましくはデキストラン;並びに
- ポリビニルアルコール
を含む。
【0013】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、DMSO、エチレングリコール、スクロース、デキストラン及びポリビニルアルコールを含む。
【0014】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、実質的に等しい量のDMSO及びエチレングリコール、並びに濃度がデキストランの少なくとも8倍であるスクロースを含む。
【0015】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、
- 少なくとも0.8%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 少なくとも0.8%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 少なくとも0.5%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.037%(w/v)の分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.015%(w/v)のポリビニルアルコール及び
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む。
【0016】
好ましい実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、
- 少なくとも0.8%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 少なくとも0.8%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 少なくとも0.5%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.037%(w/v)のデキストラン;
- 少なくとも0.015%(w/v)のポリビニルアルコール及び
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む。
【0017】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 9.0~31.0%(w/v)、好ましくは22.7%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 0.60~22.0%(w/v)、好ましくは2.64%(w/v)の分岐鎖多糖;
- 0.30~4.0%(w/v)、好ましくは0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び/又は
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤を含む、又は
前記希釈剤による前記液体組成物の希釈物を含む。
【0018】
好ましい実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 13.0~23.0%(v/v)、好ましくは17.7%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 9.0~31.0%(w/v)、好ましくは22.7%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 0.60~22.0%(w/v)、好ましくは2.64%(w/v)のデキストラン;
- 0.30~4.0%(w/v)、好ましくは0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び/又は
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤を含む、又は
前記希釈剤による前記液体組成物の希釈物を含む。
【0019】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、少なくとも15%(v/v)の極性非プロトン性溶媒、少なくとも15%(v/v)の一価又は多価アルコール、少なくとも15%(w/v)の非分岐鎖多糖、少なくとも2%(w/v)の分岐鎖多糖及び約0.9%(w/v)のポリビニルアルコールを含む。
【0020】
好ましい実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、少なくとも15%(v/v)の極性非プロトン性溶媒、少なくとも15%(v/v)の一価又は多価アルコール、少なくとも15%(w/v)の非分岐鎖多糖、少なくとも2%(w/v)のデキストラン及び約0.9%(w/v)のポリビニルアルコールを含む。
【0021】
特定の実施形態において、前記希釈剤は平衡塩溶液、好ましくはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)である。
【0022】
特定の実施形態において、デキストランは、デキストラン1(Dextran 1)、デキストラン40(Dextran 40)及びデキストラン70(Dextran 70)のうちの1つ又は複数を含む。特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存用液体組成物は、
- 17.7%(v/v)のDMSO、
- 17.7%(v/v)のエチレングリコール、
- 22.7%(w/v)のスクロース、
- 0.88%(w/v)のデキストラン1(D1)、
- 0.88%(w/v)のデキストラン40(D40)、
- 0.88%(w/v)のデキストラン70(D70)及び
- 0.88%(w/v)のポリビニルアルコール
を含む。
【0023】
特定の実施形態において、液体組成物は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドを含まない。
【0024】
更なる態様は、生物学的材料の凍結保存用の本明細書に教示されている液体組成物の使用を提供する。
【0025】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存は、凍結手順、多工程ガラス化手順又は一工程ガラス化手順によって実施される。
【0026】
更なる態様は、生物学的材料を保存する方法であって、
- 生物学的材料を準備する工程と、
- 生物学的材料を本明細書で教示される液体組成物と接触させる工程と、
- 本明細書で教示される液体組成物中の生物学的材料を冷却及び/又は加熱する工程と、を含む方法を提供する。特定の実施形態において、本方法は、更に、生物学的材料と本明細書で教示される液体組成物の少なくとも1つの希釈物とを接触する工程を、生物学的材料と前記組成物とを接触する工程の前に含む。
【0027】
特定の実施形態において、前記冷却は、生物学的材料を凍結すること又は生物学的材料をガラス化することを含む。
【0028】
特定の実施形態において、前記方法は、生物学的材料の一工程又は多工程ガラス化を含む。
【0029】
特定の実施形態において、生物学的材料は、幹細胞、配偶子及び胚からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。トリパンブルー排除アッセイにより決定した、加温(ガラス化試料:平均=87.9%)又は継代(非ガラス化試料:94.5%)の24時間後のEC-MSCの細胞生存度である。データは、5回の独立した実験からの15及び20個の試料(それぞれ、非ガラス化及びガラス化されている)の平均+標準偏差(SD)を表す。(マンホイットニー検定:P<0.001)。
【
図1B】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、5回の独立した実験からのガラス化及び非ガラス化試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図1C】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、5回の独立した実験からのガラス化及び非ガラス化試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図1D】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、5回の独立した実験からのガラス化及び非ガラス化試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図1E】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、5回の独立した実験からのガラス化及び非ガラス化試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図1F】本明細書で教示される液体組成物(本明細書において、凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)を使用して一工程ガラス化した後の、ウマ死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC)の生存度及び集密度を表す。生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、5回の独立した実験からのガラス化及び非ガラス化試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図2】培養3日後のガラス化及び非ガラス化EC-MSCの形態を表す。左側スライド:非ガラス化対照、右側スライド:一工程法に従って本明細書で教示されるCDCS組成物を使用してガラス化されたEC-MSC。スケールバー:50μm。
【
図3】2×(すなわち、50%希釈)及び4×(すなわち、25%希釈)で希釈されたCDCS貯蔵溶液を使用して緩徐凍結した後の、EC-MSCの生存度及び集密度を表す。A:トリパンブルー排除アッセイにより決定した、解凍(凍結保存試料)又は継代(非凍結保存試料)の24時間後のEC-MSCの細胞生存度(非凍結保存対照、基準方法(Ref)、50%CDCS及び25%CDCS試料では、それぞれ平均93.7%、86.8%、90.6%及び93%)である。データは5個の試料の平均+SDを表す(マンホイットニー検定:
**P<0.01、ns:有意ではない)。B:生存細胞の数と共にこれらの増殖する能力を反映している、基準凍結法(Ref)、2×及び4×希釈CDCS(それぞれ、50%及び25%)、並びに非凍結保存試料におけるEC-MSCの集密度の比較である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【
図4】CDCSを使用して緩徐凍結した後の、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の生存度及び集密度を表す。A:トリパンブルー排除アッセイにより決定した、解凍(凍結保存試料)又は継代(非凍結保存試料)の24時間後のhiPSCの細胞生存度である。データは2回の独立した実験からの6~7個の試料の平均+SDを表す(マンホイットニー検定:
*P<0.05、
**P<0.01)。B:凍結及び非凍試料におけるhiPSCの集密度の比較を例示する代表例である。データポイントは平均±SDを表し、各群の試料数は括弧内に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書で使用されるとき、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈から特に明示されない限り、単数と複数の両方の参照を含む。
【0032】
用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「構成される(comprised of)」は、本明細書で使用されるとき、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義語であり、包括的又は開放型であり、追加の非列挙メンバー、要素又は方法工程を除外しない。この用語は、「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」も包含する。用語「からなる(consisting of)」は、組成物を参照する場合に本明細書で使用されるとき、前記組成物に列挙された成分の後に他の成分が存在しないことを意味する。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、組成物を参照する場合、微量の試薬の存在を容認するが、典型的には0.1w/v%未満の濃度である。
【0033】
端点までの数値範囲の列挙は、すべての数及び対応範囲内に包含される端数、並びに列挙された端点を含む。
【0034】
用語「約」又は「およそ」は、測定可能値、例えばパラメーター、量、時間経過等を参照する場合に本明細書で使用されるとき、特定値からの変動、例えば、特定値からの+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、なおより好ましくは+/-0.1%以下の変動を、そのような変動が開示された発明の実施に適切である限り包含することを意味する。修飾語「約」が参照する値は、それ自体も具体的に好ましく開示されることが理解されるべきである。
【0035】
用語「1つ若しくは複数」又は「少なくとも1つ」、例えば一群のメンバーのうちの1つ若しくは複数のメンバー又は少なくとも1つのメンバーが更なる例示によってそれ自体明白である場合、この用語は、とりわけ前記メンバーの任意の1つ又は前記メンバーの任意の2つ以上、例えば、前記メンバーの任意の≧3、≧4、≧5、≧6又は≧7つ等及び前記メンバーのすべてへの参照を包含する。別の例において、「1つ若しくは複数」又は「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7つ又はそれ以上を指すことができる。
【0036】
本明細書における本発明の背景技術の考察は、本発明の内容を説明するために含まれる。参照される資料のいずれも、請求項のいずれかの優先日の時点で任意の国において公開されていた、既知であった又は一般知識の一部であったことの承認とみなされるべきではない。
【0037】
特に定義されない限り、技術及び科学用語を含む本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。更なる指針によって、用語の定義は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。特定の用語が本発明の特定の態様又は本発明の特定の実施形態と共に定義される場合、そのような含蓄は、特に定義されない限り本明細書の全体にわたって適用されること、すなわち、本発明の他の態様又は実施形態の内容にも適用されることが意図される。
【0038】
以下の段落では、本発明の異なる態様又は実施形態がより詳細に定義される。定義されたそれぞれの態様又は実施形態を、特に明確に指示されない限り任意の他の態様又は実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特質を、好ましい又は有利であると示される任意の他の特質と組み合わせることができる。
【0039】
本明細書の全体を通した「一実施形態」、「ある実施形態」への参照は、その実施形態に関して記載される特定の特質、構造又は特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体を通した様々な箇所における「一実施形態において」又は「ある実施形態において」の語句の出現は、必ずしもすべて同じ実施形態を参照するものではないが、参照することもある。更に、特定の特質、構造又は特徴を、本開示により当業者に明白な任意の適した方法で1つ又は複数の実施形態と組み合わせることができる。更に、本明細書に記載されている一部の実施形態が、他の実施形態に含まれる一部の特質を含むが他の特質を含まない場合、異なる実施形態の特質の組み合わせは、本発明の範囲内であることが意図され、異なる実施形態を形成し、このことは当業者に理解される。例えば、添付の特許請求の範囲では、特許請求される実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0040】
本発明者たちは、生物学的材料の凍結保存のために独自の化学的に確定された液体組成物を開発した。本発明者たちは、試薬の特定の組み合わせが、凍結保存における使用に最適な特徴をもたらす試薬の相乗効果を可能にすることを見出した。
【0041】
本明細書に詳述されるように、本発明の組成物は、極性非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO))、一価又は多価アルコール(例えば、エチレングリコール)、非分岐鎖多糖(例えば、スクロース)及び分岐鎖多糖(例えば、デキストラン)、並びにポリビニルアルコール(PVA)を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる(液体組成物は本明細書において凍結保存溶液(CDCS)とも呼ばれる)。この液体組成物は、様々なタイプの凍結保存手順(例えば、緩徐凍結、一工程ガラス化、多工程ガラス化)による、幹細胞、胚及び配偶子が包含されるが、これらに限定されない様々なタイプの生物学的材料の効率的で生物学的に安全な再現性のある凍結保存(例えば、ガラス化)を可能にする。より詳細には、液体組成物は、非凍結保存対照生物学的材料と同等な、又は基準対照凍結保存溶液で凍結保存された生物学的材料と同等若しくはより良好な生存度、増殖及び形態エンドポイントを一般に有する、生物学的材料の効率的な凍結保存(例えば、ガラス化)を可能にする。
【0042】
本明細書で教示される組成物のすべての成分は、化学的に確定された物質であり、動物又はヒトの組織又は体液(例えば、血清、アルブミン又は任意の他の血清タンパク質)に由来しない。したがって、これらの特徴は生成バッチの全体にわたって本質的に一定である。加えて、本明細書で教示される液体組成物の特性は、好ましくない温度条件下であっても、任意の抗微生物剤の非存在下にもかかわらず、経時的に著しく安定している。事実、少なくとも6か月間にわたる4℃のみならず37℃(またその中間及び混合温度条件)での貯蔵は、凍結保存生物学的材料の光学的/物理的側面も高い効率も変化させず、このことは標準化及び品質管理の目的にとって有利である。
【0043】
更に、本明細書で教示される液体組成物は氷晶阻害組成物として作用し、一般に推奨されるよりも遅い冷却及び加温速度の条件であっても、同様にクライオバイアル(cryovial)を使用する場合にも、ガラス化のために一般的に使用される組成物より有効である。例えば、クライオバイアル中でのガラス化は、典型的には平均的な冷却又は加温速度の約100℃/分(例えば、Tao Wangら、2015年、Determination of convective heat transfer coefficient at the outer surface of a cryovial being plunged into liquid nitrogen. Cryoletters. 36:285~288頁に記載されている)を有し、これは、ガラス化の目的に一般的に推奨されている冷却又は加温速度の毎分2000℃~20,000℃より顕著に低い。本明細書で教示される液体組成物のガラス化能力を高い余熱条件下(例えば、溶液を充填したフレンチストロー(French straw)中)及び細胞の非存在下で試験する場合、凍結保存用の液体組成物の冷却又は後の加温の際に光学的に検出可能な氷晶は存在せず、一方では、基準ガラス化溶液及びPVAを欠いている本明細書で教示される液体組成物は、一貫したガラス化が可能ではなく、冷却又は加温の際に素早い結晶形成をもたらし、このことは生物学的材料に対して有害であり得る。
【0044】
効率に加えて、化学的に確定された組成物は、製造特性の再現性及び高い中長期の安定性を保証し、このことは、標準化及び品質管理の目的にとって利点になる。ヒト又は動物由来の複合タンパク質又は未確定成分の非存在は、生物学的安全性要件を満たす。
【0045】
したがって、第一の態様は、極性非プロトン性溶媒、一価又は多価アルコール、非分岐鎖多糖、分岐鎖多糖及びポリビニルアルコールを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる、生物学的材料の凍結保存用液体組成物を提供する。
【0046】
用語「極性非プロトン性溶媒」は、本明細書で使用されるとき、正電荷を有する不安定な水素イオンを含有しない極性分子からなる溶媒を指す。極性非プロトン性溶媒は、典型的には水と水素結合を形成して水に溶解することができ、一方、非極性溶媒は強力な水素結合ができない。極性非プロトン性溶媒の非限定例は、DMSO、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトン及びヘキサメチルリン酸トリアミドである。
【0047】
特定の実施形態において、極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選択され、好ましくはDMSOである。
【0048】
用語「一価アルコール」は、本明細書で使用されるとき、1個のアルコール官能基(すなわち、1個のヒドロキシル(-OH)基)を有する有機化合物を指す。一価アルコールの非限定例には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、ブタノール及びペンタノールが含まれる。
【0049】
用語「多価アルコール」は、本明細書で使用されるとき、1個を超えるアルコール官能基(すなわち、1個を超えるヒドロキシル(-OH)基)を有する有機化合物を指す。多価アルコールの非限定例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール及びボレミトールが含まれる。
【0050】
本明細書で使用されるとき、単数形の「一価又は多価アルコール」は、文脈から特に明示されない限り、単数と複数の両方の参照を含む。一価又は多価アルコールが、異なるタイプの一価及び/又は多価アルコールの組み合わせを指すために使用される場合、異なるタイプの一価及び/又は多価アルコールのそれぞれの総量は、本明細書で教示される液体組成物中の一価又は多価アルコールの量よりも多くない。特定の実施形態において、一価又は多価アルコールは、エチレングリコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、ブタノール、ペンタノール、プロピレングリコール、グリセロール、エリトリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール及びボレミトールからなる群から選択され、好ましくは、一価又は多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセロール、より好ましくはエチレングリコールである。
【0051】
用語「多糖」は、本明細書で使用されるとき、単糖の分岐鎖又は非分岐鎖のホモ又はヘテロ二量体(すなわち、2個の単糖であり、二糖としても知られている)、オリゴマー又はポリマー(すなわち、20個を超える単糖であり、多糖としても知られている)を指す。単糖を、グリコシド結合を介して組み合わせることができる。本明細書に定義される多糖の非限定例には、スクロース、トレハロース、ラクツロース、メリビオース、ラクトビオネート、ラフィノース、デキストラン、ペクチン、フィコール、デンプン、セルロース及びその誘導体、例えば、ヒドロキシエチルデンプン及びメチルセルロースが含まれる。
【0052】
特定の実施形態において、非分岐鎖多糖は、スクロース、トレハロース、ラクツロース、メリビオース、ラクトビオネート、ラフィノース及びセルロース又はその誘導体、例えばメチルセルロースからなる群から選択され、好ましくはスクロースである。
【0053】
特定の実施形態において、分岐鎖多糖は、デキストラン、ペクチン、フィコール及びデンプン又はその誘導体、例えばヒドロキシエチルデンプンから選択され、好ましくはデキストランである。特定の実施形態おいて、非分岐鎖多糖はスクロースであり、分岐鎖多糖はデキストランである。
【0054】
用語「ポリビニルアルコール」、「PVA」、「PVOH」又は「PVAI」は、本明細書で使用されるとき、化学式[CH2CH(OH)]nにより定義される水溶性合成ポリマーを指す。ポリビニルアルコールは、CAS番号9002-89-5により確認することもできる。
【0055】
用語「凍結保存」は、本明細書で使用されるとき、生物学的材料(例えば、細胞、組織、臓器、生物体)が0℃未満、好ましくは-80℃未満(例えば、固体二酸化酸素を使用)、更により好ましくは-130℃未満(例えば、液体窒素を使用)の温度の環境下で保存される方法を指す。生物学的材料は、典型的には、未制御の生化学的動力学により引き起こされる損傷を受けやすい。-130℃未満の温度では、生物学的材料の損傷を与え得る任意の酵素的生化学活性が効果的に停止される。凍結保存手順の際に、冷却又は凍結により保存される生物学的材料は、典型的には1個又は複数の凍結保護物質と接触する。凍結保存は、本明細の他の部分に記載されている凍結手順、例えば緩徐凍結(SLF)、並びにガラス化手順、例えば多工程ガラス化及び一工程ガラス化を含む、当該技術に既知の任意の凍結保存手順により得ることができる。
【0056】
用語「生物学的材料」は、本明細書で使用されるとき、細胞、細胞凝集体、組織試料、臓器、生物学的流体、(多)細胞生物、及び任意の他の膜状実体(例えば、リポソーム)、ヌクレオチド実体(DNA又はRNA)、核タンパク質実体(ウイルス)、脂質実体又はタンパク性実体を指す。生物学的材料の非限定例には、幹細胞(例えば、間葉系幹細胞又は人工多能性幹細胞)、配偶子(例えば、精子、卵母細胞、卵子)、胚(すなわち、様々な発生段階のもの、例えば、接合体、2細胞、桑実胚、胚盤胞)、全血又はその画分(例えば、白血球、赤血球、血漿、血小板、タンパク質、脂質、抗体)、骨髄、細菌、酵母、線虫、膜状体、核酸(DNA及びRNA)、並びにウイルスが含まれる。
【0057】
特定の実施形態において、生物学的材料は、幹細胞、配偶子及び胚からなる群から選択される。好ましくは、生物学的材料は、胚、好ましくはマウス又はヒトの胚である。
【0058】
用語「幹細胞」は、一般に、非特殊化又は比較的あまり特殊化されていない増殖適格細胞を指し、これは自己再生することができ、すなわち分化することなく増殖することができ、これは又はこの後代は、少なくとも1つの比較的多く特殊化されている細胞タイプを生じることができる。この用語は、実質的に無制限に自己再生することができる幹細胞、すなわち、幹細胞の後代又は少なくともその一部が、母細胞の非特殊化又は比較的あまり特殊化されていない表現型、分化能及び増殖能を実質的に保持している幹細胞、並びに限定された自己再生を示す幹細胞、すなわち、後代又はその一部の更に増殖及び/又は分化する能力が、母細胞と比較して低減したことが実証されている幹細胞を包含する。例として、非限定的に幹細胞は、ますます多くの比較的多く特殊化されている細胞を産生する1つ又は複数の系列に沿って分化し得る子孫を生じることができ、そのような子孫及び/又はますます多くの比較的多く特殊化されている細胞は、それ自体が本明細書に定義される幹細胞であり得る又は最終的に分化した細胞、すなわち、有糸分裂後の細胞であり得る完全に特殊化された細胞も産生し得る。
【0059】
用語「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」は、本明細書で使用されるとき、初期化により成人細胞から発生した多能性幹細胞を指す。iPS細胞は、自己再生をすることができ、生物体の3つの胚葉、すなわち、中胚葉、内胚葉及び外胚葉のすべてに由来する細胞タイプ及び潜在的に生物体のありとあらゆる細胞タイプを生じることができるが、生物体全体に成長することはできない。iPS細胞の例は、とりわけ、Yamanakaら、2006 (Cell 126:663~676頁)及びYamanakaら、2007(Cell 131:861~872頁)に教示されている。
【0060】
本明細書で使用されるとき、修飾語「多能性」は、細胞が生物体の3つの胚葉、すなわち、中胚葉、内胚葉及び外胚葉のすべてに由来する細胞タイプを生じる能力及び生物体のありとあらゆる細胞タイプを生じる潜在的能力を示す。
【0061】
特定の実施形態において、幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)、血液由来幹細胞(BDSC)、臍帯血由来幹細胞(UCBSC)及び骨髄由来幹細胞(BMSC)からなる群から選択される複能性幹細胞(multipotent stem cell)である。好ましい実施形態において、細胞はMSCである。
【0062】
用語「間葉系幹細胞」又は「MSC」は、本明細書で使用されるとき、間葉系系列、典型的には2つ以上の間葉系系列、より典型的には3つ以上の間葉系系列、例えば、軟骨骨芽細胞(chondro-osteoblastic)(骨及び軟骨)、骨芽細胞(骨)、軟骨芽細胞(軟骨)、筋細胞(筋肉)、腱細胞(腱)、線維芽細胞(結合組織)、脂肪細胞(脂肪)及び間質生成(stromogenic)(骨髄間質)系列の細胞を発生することができる成人中胚葉由来幹細胞を指す。MSCは、生物学的試料、好ましくはヒト対象の生物学的試料から、例えば、骨髄、骨小柱、血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢(foetal yolk sac)、皮膚(真皮)、具体的には胎児及び青少年の皮膚、骨膜、歯髄、腱及び脂肪組織から単離され得る。
【0063】
用語「MSC」は、MSCの後代、例えば、動物又はヒト対象の生物学的試料から得たMSCのin vitro又はex vivo増殖(伝播/拡大)によって得られる後代も包含する。
【0064】
特定の実施形態において、生物学的材料は生物学的試料である。用語「生物学的試料」又は「試料」は、本明細書で使用されるとき、生物学的供給源から、例えば、生物体、例えば動物又はヒト対象、細胞培養物、組織試料等から得られる試料を指す。動物又はヒト対象の生物学的試料は、動物又はヒト対象から取り出された、細胞を含む試料を指す。動物又はヒト対象の生物学的試料は、1つ又は複数の組織タイプを含んでもよく、1つ又は複数の組織タイプの細胞を含んでもよい。動物又はヒト対象の生物学的試料を得る方法は、当該技術において良く知られており、例えば、組織生検又は採血である。ヒトMSC、これらの単離、in vitro拡大及び分化は、例えば、米国特許第5,486,359号、米国特許第5,811,094号、米国特許第5,736,396号、米国特許第5,837,539号又は米国特許第5,827,740号に記載されている。
【0065】
用語「対象」、「ドナー」又は「患者」は、本明細書で使用されるとき、動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、更により好ましくは哺乳動物、なおより好ましくは霊長類を指し、具体的にはヒト及び非ヒト哺乳動物及び霊長類を含む。好ましい対象はヒト対象である。
【0066】
特定の実施形態において、生物学的材料は、1個又は複数の哺乳類細胞、好ましくはマウス又はヒト細胞、更により好ましくはヒト細胞である。
【0067】
特定の実施形態において、生物学的材料は、生殖補助技術(ART)用の生物学的材料、例えば、メタフェーズII(MII)卵母細胞及び胚(例えば、様々な発生段階の胚)である。
【0068】
特定の実施形態において、組成物は、好ましくはpH7.2~7.4の希釈剤を更に含む。
【0069】
特定の実施形態において、前記希釈剤は平衡塩溶液、好ましくはリン酸塩緩衝食塩水(PBS)、より好ましくはダルベッコーPBS(D-PBS)である。
【0070】
用語「平衡塩溶液」又は「BSS」は、本明細書で使用されるとき、生理学的pH(好ましくは、約pH7.4)及び等張塩濃度にした溶液を指す。BSSは、典型的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び塩化物を含む。平衡塩溶液の非限定例には、PBS、HEPES、アルセバー溶液、アール平衡塩溶液(EBSS)、Grey平衡塩溶液(GBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リンゲル平衡塩溶液(RBSS)及びタイロード平衡塩溶液(TBSS)が含まれる。
【0071】
特定の実施形態において、前記希釈剤は、任意のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを含まない。
【0072】
本明細書で教示される液体組成物は、生物学的材料の凍結保存に有効である。先ず、特定の試薬、より特定的には一価又は多価アルコール、非分岐鎖多糖、分岐鎖多糖及びポリビニルアルコールの組み合わせであり、これが最適な凍結保存を提供する。更に、本発明者たちは、極性非プロトン性溶媒の異なる成分の最適な比を確認しており、広範囲の濃度で有効である。したがって、貯蔵溶液(すなわち、1×濃度の未希釈溶液)を調製することができ、これを、極性非プロトン性溶媒、一価又は多価アルコール、非分岐鎖多糖、分岐鎖多糖及びポリビニルアルコールを特定的に使用して、より低い濃度の組成物に更に希釈することができる。
【0073】
したがって、本発明は、極性非プロトン性溶媒、一価又は多価アルコール、非分岐鎖多糖、分岐鎖多糖及びポリビニルアルコールを含む液体組成物、並びに生物学的材料の凍結保存におけるこれらの使用を提供する。
【0074】
特定の実施形態において、組成物は、0.30~4.0%(w/v)、0.50~3.50%(w/v)、0.50~3.0%(w/v)、0.50~2.50%(w/v)、0.50~2.0%(w/v)、0.50~1.50%(w/v)又は0.50~1.0%(w/v)、好ましくは0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコールを含む。特定の実施形態において、組成物中の非分岐鎖多糖の量は、それぞれポリビニルアルコールの少なくとも20倍である。特定の実施形態において、組成物中の非分岐鎖オリゴ糖の量は、それぞれ分岐鎖オリゴ糖の少なくとも8倍である。
【0075】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物又は液体貯蔵組成物(すなわち、1×濃度の未希釈のもの)は、
- 13.0~23.0%(v/v)、15.0~20.0%(v/v)、16.0~19.0%(v/v)、17.0~18.0%(v/v)、好ましくは13.0~23.0%(v/v)の極性非プロトン性溶媒、例えば約17.7%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 13.0~23.0%(v/v)、15.0~20.0%(v/v)、16.0~19.0%(v/v)、17.0~18.0%(v/v)、好ましくは13.0~23.0%(v/v)の一価又は多価アルコール、例えば約17.7%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 9.0~31.0%(w/v)、10~30%(w/v)、15~25%(w/v)又は20~25%(w/v)の非分岐鎖多糖、例えば約22.7%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 0.60~22.0%(w/v)、1.0~20.0%(w/v)、1.0~15.0%(w/v)、1.0~10.0%(w/v)、1.0~5.0%(w/v)、2.0~5.0%(w/v)又は2.0~3.0%(w/v)の分岐鎖多糖、例えば約2.64%(w/v)の分岐鎖多糖;
- 0.30~4.0%(w/v)、0.50~3.50%(w/v)、0.50~3.0%(w/v)、0.5~2.50%(w/v)、0.5~2.0%(w/v)、0.5~1.50%(w/v)又は0.5~1.0%(w/v)、好ましくは0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール、例えば約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び
- 100%(v/v)になるまでの希釈剤、好ましくは平衡塩溶液
を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0076】
特定の実施形態において、液体組成物又は液体貯蔵組成物(すなわち、1×濃度の未希釈のもの)は、
- 少なくとも15%(v/v)、少なくとも16%(v/v)又は少なくとも17%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 少なくとも15%(v/v)、少なくとも16%(v/v)又は少なくとも17%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 少なくとも15%(w/v)、少なくとも16%(w/v)、少なくとも17%(w/v)、少なくとも18%(w/v)、少なくとも19%(w/v)、少なくとも20%(w/v)、少なくとも21%(w/v)又は少なくとも22%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 少なくとも2.0%(w/v)、少なくとも2.10%(w/v)、少なくとも2.20%(w/v)、少なくとも2.30%(w/v)、少なくとも2.40%(w/v)、少なくとも2.50%(w/v)又は少なくとも2.60%(w/v)の分岐鎖多糖及び
- 約0.9%(w/v)のポリビニルアルコール
を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0077】
特定の実施形態において、組成物は、上記に記載された貯蔵組成物と同じ希釈剤による貯蔵組成物の希釈物であり得る。そのような希釈物は、上記に記載された希釈剤、好ましくは平衡塩溶液による1:2(すなわち、50%)、1:3(すなわち、約33.3%)、1:4(すなわち、25%)、1:5(すなわち、20%)、1:6(すなわち、約16.7%)、1:7(すなわち、約14.3%)、1:8(すなわち、12.5%)、1:9(すなわち、約11.1%)、1:10(すなわち、10%)、1:11(すなわち、約9.1%)、1:12(すなわち、約8.3%)、1:13(すなわち、約7.7%)、1:14(すなわち、約7.1%)、1:15(すなわち、約6.7%)又は1:16(すなわち、約6.3%)希釈物であり得る。
【0078】
特定の実施形態において、液体組成物(例えば、本明細書に記載される貯蔵組成物の希釈物)は、
- 少なくとも0.8%(v/v)、少なくとも1%(v/v)、少なくとも1.2%(v/v)、少なくとも1.6%(v/v)、少なくとも2%(v/v)、少なくとも4.0%(v/v)又は少なくとも6.0%(v/v)の極性非プロトン性溶媒;
- 少なくとも0.8%(v/v)、少なくとも1%(v/v)、少なくとも1.2%(v/v)、少なくとも1.6%(v/v)、少なくとも2%(v/v)、少なくとも4.0%(v/v)又は少なくとも6.0%(v/v)の一価又は多価アルコール;
- 少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、少なくとも2%(w/v)、少なくとも4%(w/v)、少なくとも6%(w/v)、少なくとも8%(w/v)、少なくとも10%(w/v)、少なくとも12%(w/v)、少なくとも14%(w/v)、少なくとも16%(w/v)、少なくとも18%(w/v)、少なくとも20%(w/v)、少なくとも21%(w/v)又は少なくとも22%(w/v)の非分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.035%(w/v)、少なくとも0.0750%(w/v)、少なくとも0.150%(w/v)、少なくとも0.30%(w/v)、少なくとも0.60%(w/v)、少なくとも1.0%(w/v)、少なくとも1.50%(w/v)、少なくとも2.0%(w/v)、少なくとも2.10%(w/v)、少なくとも2.20%(w/v)、少なくとも2.30%(w/v)、少なくとも2.40%(w/v)、少なくとも2.50%(w/v)又は少なくとも2.60%(w/v)の分岐鎖多糖;
- 少なくとも0.015%(w/v)、少なくとも0.1%(w/v)、少なくとも0.2%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも0.6%(w/v)、少なくとも0.7%(w/v)又は少なくとも0.8%(w/v)のポリビニルアルコール及び
- 100%(v/v)になるまでの希釈剤、好ましくは平衡塩溶液
を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0079】
特定の実施形態において、
- 極性非プロトン性溶媒は、DMSO及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選択され、
- 一価又は多価アルコールは、エチレングリコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、ブタノール、ペンタノール、プロピレングリコール、グリセロール、エリトリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール及びボレミトールからなる群から選択され、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセロール、より好ましくはエチレングリコールであり、
- 非分岐鎖多糖は、スクロース、トレハロース、ラクツロース、メリビオース、ラクトビオネート、ラフィノース及びセルロース又はその誘導体、例えばメチルセルロースからなる群から選択され、好ましくはスクロースであり、並びに/又は
- 分岐鎖多糖は、デキストラン、ペクチン、フィコール及びデンプン又はその誘導体、例えばヒドロキシエチルデンプンから選択され、好ましくはデキストランである。
【0080】
好ましくは、本発明は、DMSO、エチレングリコール、スクロース、デキストラン及びポリビニルアルコールを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる、生物学的材料の凍結保存用液体組成物を提供する。
【0081】
用語「ジメチルスルホキシド」又は「DMSO」は、本明細書で使用されるとき、化学式(CH3)2SOを有する有機硫黄化合物を指す。DMSOは、CAS番号67-68-5により確認することができる。
【0082】
用語「エチレングリコール」、「EG」又は「1.2-エタンジオール」は、本明細書で使用されるとき、化学式(CH2OH)2を有する有機化合物を指す。エチレングリコールは、CAS番号107-21-1により確認することができる。
【0083】
用語「スクロース」又は「サッカロース」又は「糖」又は「SUC」は、本明細書で使用されるとき、化学式C12H22O11を有するグルコース及びフルクトースから構成される二糖を指す。スクロースは、CAS番号57-50-1により確認することができる。
【0084】
用語「デキストラン」は、本明細書で使用されるとき、グルコースの縮合により誘導される複雑な分岐グルカン多糖を指す。デキストランは、CAS番号9004-54-0により確認することができる。デキストラン鎖は様々な長さ(例えば、1~2000kDa)を有することができる。異なるタイプのデキストランを、その分子量(WW)で示すことができる。例えば、様々なMWを有するデキストランの非限定例には、デキストラン1(すなわち、約1000DaのMW)、デキストラン5(すなわち、約5000DaのMW)、デキストラン12(すなわち、約12000DaのMW)、デキストラン25(すなわち、約25000DaのMW)、デキストラン40(すなわち、約40000DaのMW)、デキストラン50(すなわち、約50000DaのMW)、デキストラン60(すなわち、約60000DaのMW)、デキストラン70(すなわち、約70000DaのMW)、デキストラン80(すなわち、約80000DaのMW)、デキストラン150(すなわち、約150000DaのMW)及びデキストラン200(すなわち、約200000DaのMW)が含まれる。
【0085】
本明細書で使用されるとき、単数形の「デキストラン」は、文脈から特に明示されない限り、単数と複数の両方の参照を含む。デキストランが、異なるタイプのデキストランの組み合わせを指すために使用される場合、異なるタイプのデキストランの総量は、本明細書で教示される液体組成物中の分岐鎖多糖の量よりも多くない。
【0086】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物に存在するデキストランは、1つのタイプのデキストランのみ又は異なるタイプのデキストランの組み合わせ、例えば、異なるMWを有するデキストランの組み合わせを含み得る、それらから本質的になり得る又はそれらからなり得る。
【0087】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物に存在するデキストランは、1つのタイプのデキストランのみを含み得る、それらから本質的になり得る又はそれらからなり得る。より特定的な実施形態において、本明細書で教示される液体組成物に存在するデキストランは、デキストラン1、デキストラン40又はデキストラン70を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。例えば、本明細書で教示される液体組成物は、デキストラン1を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0088】
好ましい実施形態において、本明細書で教示される液体組成物に存在するデキストランは、異なる分子量のデキストランの組み合わせを含む。
【0089】
より好ましい実施形態において、デキストランは、デキストラン1、デキストラン40及びデキストラン70から本質的になる又はからなる。
【0090】
組成物中の異なるタイプのデキストランの量(例えば、異なる分子量のデキストラン)の比は、本発明の液体組成物にとって重要ではない。
【0091】
いずれにしても、特定の実施形態において、デキストランは、1:1:1、2:1:1、10:10:1又は10:1:10の比、好ましくは1:1:1の比でデキストラン1、デキストラン40及びデキストラン70から本質的になる又はからなる。デキストラン1の例は、Pharmacosmoss社のデキストラン1(参照番号5510 0001 1007)である。デキストラン40の例は、AppliChem社のデキストラン40(参照番号A2249)である。デキストラン70の例は、AppliChem社のデキストラン70(参照番号A1847)である。
【0092】
特定の実施形態において、液体組成物は、実質的に等しい量のDMSO及びエチレングリコール、並びに濃度がデキストランの少なくとも8倍であるスクロースを含む。
【0093】
特定の実施形態において、液体組成物は、
- 実質的に等量のDMSO及びエチレングリコール、
- 濃度がデキストランの少なくとも8倍であるスクロース及び
- 濃度がポリビニルアルコールの少なくとも20倍であるスクロース
を含む。
【0094】
特定の実施形態において、液体組成物(例えば、本明細書に記載される貯蔵組成物の希釈物)は、
- 少なくとも0.8%(v/v)、少なくとも1%(v/v)、少なくとも1.2%(v/v)、少なくとも1.6%(v/v)、少なくとも2%(v/v)、少なくとも4.0%(v/v)又は少なくとも6.0%(v/v)のDMSO;
- 少なくとも0.8%(v/v)、少なくとも1%(v/v)、少なくとも1.2%(v/v)、少なくとも1.6%(v/v)、少なくとも2%(v/v)、少なくとも4.0%(v/v)又は少なくとも6.0%(v/v)のエチレングリコール;
- 少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、少なくとも2%(w/v)、少なくとも4%(w/v)、少なくとも6%(w/v)、少なくとも8%(w/v)、少なくとも10%(w/v)、少なくとも12%(w/v)、少なくとも14%(w/v)、少なくとも16%(w/v)、少なくとも18%(w/v)、少なくとも20%(w/v)、少なくとも21%(w/v)又は少なくとも22%(w/v)のスクロース;
- 少なくとも0.037%(w/v)、少なくとも0.075%(w/v)、少なくとも0.15%(w/v)、少なくとも0.2%(w/v)、少なくとも0.25%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、少なくとも1.25%(w/v)、少なくとも1.5%(w/v)、少なくとも1.75%(w/v)、少なくとも2%(w/v)、少なくとも2.25%(w/v)又は少なくとも2.5%(w/v)のデキストラン;
- 少なくとも0.015%(w/v)、少なくとも0.1%(w/v)、少なくとも0.2%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも0.6%(w/v)、少なくとも0.7%(w/v)又は少なくとも0.8%(w/v)のポリビニルアルコール及び
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む。
【0095】
特定の実施形態において、液体組成物又は液体貯蔵組成物(すなわち、1×濃度の未希釈のもの)は、
- 13.0~23.0%(v/v)、15.0~20.0%(v/v)、16.0~19.0%(v/v)、17.0~18.0%(v/v)又は13.0~23.0%(v/v)のDMSO、例えば約17.7%(v/v)のDMSO;
- 13.0~23.0%(v/v)、15.0~20.0%(v/v)、16.0~19.0%(v/v)、17.0~18.0%(v/v)又は13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、例えば約17.7%(v/v)のエチレングリコール;
- 9.0~31.0%(w/v)、10.0~30.0%(w/v)、15.0~30.0%(w/v)、15.0~25.0%(w/v)、20.0~25.0%(w/v)又は22.0~23.0%(w/v)、例えば約22.7%(w/v)のスクロース;
- 0.60~22.0%(w/v)、1.0~20.0%(w/v)、1.0~15.0%(w/v)、1.0~10.0%(w/v)、1.0~7.5%(w/v)、1.0~5.0%(w/v)、2.0~4.0%(w/v)又は2.0~3.0%(w/v)、例えば約2.64%(w/v)のデキストラン;
- 0.30~4.0%(w/v)、0.50~3.50%(w/v)、0.50~3.0%(w/v)、0.5~2.50%(w/v)、0.5~2.0%(w/v)、0.5~1.50%(w/v)又は0.5~1.0%(w/v)のポリビニルアルコール、例えば約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び/又は
- 好ましくはpH7.2~7.4の、100%(v/v)になるまでの希釈剤
を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0096】
特定の実施形態において、組成物又は貯蔵組成物は、少なくとも15%(v/v)のDMSO、少なくとも15%(v/v)のエチレングリコール、少なくとも15%(w/v)のスクロース、少なくとも2.5%(w/v)のデキストラン、約0.9(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤を含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0097】
特定の実施形態において、組成物又は貯蔵組成物は、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0098】
特定の実施形態において、液体組成物は、任意のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを含まず、好ましくは、液体組成物は、哺乳類由来の任意のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドを含まない。例えば、液体組成物は、任意のアルブミン又は他の血清タンパク質を含まない。
【0099】
特定の実施形態において、液体組成物は動物成分を含まない。
【0100】
特定の実施形態において、液体組成物は血清を含まない。
【0101】
特定の実施形態において、液体組成物は、抗微生物剤、例えば抗生物質を含まない。
【0102】
本発明者たちは、本明細書で教示される液体組成物が、非凍結保存対照生物学的材料に類似した生存度、増殖及び形態学的エンドポイントを伴う、生物学的材料の極めて効率的な凍結保存(例えば、ガラス化又は凍結)を可能にすることを見出した。
【0103】
したがって、更なる態様は、生物学的材料の凍結保存用の本明細書に教示されている液体組成物の使用を提供する。
【0104】
特定の実施形態において、生物学的材料の凍結保存は、凍結手順、例えば緩徐凍結手順、又はガラス化手順、例えば多工程ガラス化若しくは一工程ガラス化によって実施される。
【0105】
用語「緩徐凍結若しくは凍結手順」又は「SLF」は、本明細書で使用されるとき、生物学的材料を0℃未満の温度に、例えば、少なくとも-80℃又は少なくとも-196℃の温度に冷却する方法を指し、生物学的材料は、ゆっくりとした制御速度、例えば毎分0.1℃~2℃の低下で冷却される。冷却の制御速度は、そのような目的に当該技術で既知の任意の装置、例えば、速度制御冷凍庫又はベンチトップ型のポータブルフリージングコンテナーによって達成することができる。生物学的材料を、典型的には1つ又は複数の凍結保護物質(例えば、培養培地中の10%(v/v)DMSO)と接触させて、細胞における機械的損傷、例えば氷晶に起因する膜の破壊及び浸透圧損傷を防止する。
【0106】
例えば、緩徐凍結手順は以下の工程を含むことができ、生物学的材料を、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)(例えば、CryoStor(登録商標)CS10(STEMCELL Technologies社))を含有する凍結保存溶液に、又は本明細書で教示される液体組成物の50%若しくは25%希釈物に浸漬する工程、生物学的材料をクライオバイアルに移す工程、生物学的材料を含むクライオバイアルを、フリージングコンテナー(例えば、Mr Frosty(商標)(Nalgene社)装置)の-80℃の冷凍庫で一晩貯蔵する工程、続いてクライオバイアルを液体窒素に移す工程である。
【0107】
用語「ガラス化」は、本明細書で使用されるとき、生物学的材料が0℃未満の温度に、例えば少なくとも-130℃の温度に非常に素早い冷却速度で、例えば、毎分2000℃~20000℃で最終貯蔵温度になるまで冷却される、生物学的材料を冷却する方法を指す。生物学的材料を、典型的には1つ又は複数の凍結保護物質(典型的には、5~7.15M)と接触させて、細胞の浸透圧損傷を防止し、冷却方法による氷の形成を阻害する。ガラス化手順は、当該技術において知られており、多工程及び一工程ガラス化手順を含む。ガラス化手順は、典型的には、透過及び/又は非透過凍結保護物質を含有する水溶液(「ガラス化溶液」)で生物学的材料を脱水する少なくとも1つの工程を含む。ある量のガラス化溶液と一緒にした生物学的材料を適切な低温容器(cryocontainer)に入れ、低温流体、例えば液体窒素又はその蒸気に浸漬することによって急速に冷やす。冷却速度と凍結保護物質の濃度との良好なバランスは、細胞内水分が規則的で損傷を与える結晶質の氷状態ではなく、固体で無害のガラス(glassy)(ガラス(vitreous))状態を付与することを可能にする。ガラス化装置は当該技術に知られており、例えば低温容器が含まれる。
【0108】
例えば、一工程ガラス化手順は以下の工程を含むことができ、生物学的材料を本明細書で教示される凍結保存用の未希釈液体組成物と接触させる工程、それを組成物の中に移動させて、生物学的材料の周囲にある実質的にすべての培養培地を排除する工程、生物学的材料を本明細書で教示される液体組成物の少量で採取する工程、及びそれを保護ストロー又はクライオバイアルの中に装填する工程である。ストロー又はクライオバイアルを封止し、液体窒素の中に直接浸す。生物学的材料を、本明細書で教示される液体組成物に移して液体窒素の中に浸す時間は、最大で1分である。
【0109】
例えば、多工程(平衡)ガラス化手順は以下の工程を含むことができ、生物学的材料を、本明細書で教示される凍結保存用液体貯蔵組成物の減少希釈物に連続して(例えば、1:16希釈物に3分間、1:8希釈物で3分間、1:4希釈物に3分間、1:2希釈物に5分間)浸漬する工程、本明細書で教示される未希釈貯蔵組成物の少量中の生物学的材料を、保護ストロー又はクライオバイアルの中に浸漬する工程である。ストロー又はクライオバイアルを封止し、液体窒素の中に直接浸す。
【0110】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物は、少なくとも-80℃、少なくとも-70℃、少なくとも-80℃、少なくとも-90℃、少なくとも-100℃、少なくとも-110℃、少なくとも-120℃、少なくとも-130℃、少なくとも-140℃、少なくとも-150℃、少なくとも-160℃、少なくとも-170℃、少なくとも-180℃、少なくとも-190℃又は少なくとも-200℃の温度で生物学的材料の凍結保存に使用される。
【0111】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20年間にわたって生物学的材料の凍結保存に使用される。
【0112】
生物学的材料の凍結保存に一般的に推奨される冷却及び加温速度は、[約20,000℃/分]である。特定の実施形態において、ガラス化方法の冷却及び/又は加温速度は、[約1000℃/分]である。本発明者たちは、本発明の組成物が、冷却及び加温速度が[約1000℃/分]であるガラス化方法において強力な氷晶阻害特性を提供することを見出した。
【0113】
同様に更なる態様は、生物学的材料を保存する方法であって、
- 生物学的材料を準備する工程と、
- 生物学的材料を、本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物又は貯蔵組成物の希釈物)と接触させる工程と、
- 本明細書で教示される液体組成物中の生物学的材料を冷却及び/加熱する工程と
を含む方法を提供する。
【0114】
用語「接触(contact)」又は「接触させる(contacting)」は、本明細書で使用されるとき、1個又は複数の第1の成分(例えば、1個又は複数の分子、生物学的実体、細胞又は材料)を1個又は複数の第2の成分(例えば、1個又は複数の分子、生物学的実体、細胞又は材料)と、第1の成分が第2の成分に直接曝露され(すなわち、直接接触して)、可能であれば、第2の成分に結合する若しくは第2の成分を改質することができる、又は可能であれば第2の成分が第1の成分に結合する若しくは第1の成分を改質することができるように一緒にすることを指す。用語「接触させる」は、文脈に応じて、「暴露する」、「インキュベートする」、「混合する」等と同義であり得る。
【0115】
特定の実施形態において、生物学的材料を本明細書で教示される液体組成物と接触させることは、生物学的材料をある量の液体組成物に浸漬する又は浸けることによって達成され、好ましくは、ある量の液体組成物は生物学的材料を完全に取り囲むのに十分なものである。当業者は、使用される液体組成物の量が生物学的材料のタイプ及び量によって決まることを理解する。例えば、生物学的材料が胚である場合、0.1μl~1μlの液体組成物が十分であり得る。
【0116】
特定の実施形態において、生物学的材料を液体組成物と接触させることは、凍結保存に適した容器中で実施される。そのような容器は当該技術において知られており、例えば、保護フレンチストロー又はクライオバイアルが含まれる。
【0117】
特定の実施形態において、本方法は、1つ又は複数の(典型的には増加)濃度のガラス化媒体の15~37℃の温度での短時間(30~600秒、好ましくは180~300秒)の接触を伴う、1つ又は複数の予冷平衡工程を含む。予冷平衡工程は、典型的には多工程冷却手順、例えば本明細書の他の部分に記載されている多工程ガラス化に含まれる。
【0118】
特定の実施形態において、本方法は生物学的材料の冷却を伴う。更なる実施形態において、本方法は生物学的材料の加熱を伴う。特定の実施形態において、生物学的材料は凝固点を下回る温度に冷却され、所定の時間後に凝固点を上回る温度に加熱にされる。
【0119】
方法の十分な効率を達成するために冷却の前に生物学的材料を平衡するのにいくつかの異なる(すなわち、異なる成分からなる)組成物が使用される冷却工程(例えば、ガラス化)を含む、一般的に使用される生物学的材料の保存方法と対照的に、本明細書で教示される液体組成物は、生物学的材料を平衡するのに同じ貯蔵溶液(であるが、様々な希釈物)の使用を可能にする。
【0120】
したがって特定の実施形態において、本方法は、生物学的材料と本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の少なくとも1つ(例えば、1、2、3又は4つ、好ましくは4つ)の希釈物とを接触する工程を、生物学的材料と本明細書で教示される未希釈液体組成物(例えば、貯蔵組成物)とを接触する工程の前に含み、前記工程は、生物学的材料を冷却する前に実施される。より特定的な実施形態において、未希釈液体貯蔵組成物は、13.0~23.0%(v/v)のDMSO、13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、9.0~31.0%(w/v)のスクロース、0.60~22.0%(w/v)のデキストラン、0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤、好ましくは、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0121】
特定の実施形態において、本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の少なくとも1つの希釈物は、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15及び/又は1:16の希釈物である。
【0122】
特定の実施形態において、本方法は、生物学的材料と、本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の2つ以上(例えば、2、3又は4つ、好ましくは4つ)の減少希釈物とを連続接触する工程を、生物学的材料と本明細書で教示される未希釈液体組成物(例えば、貯蔵組成物)とを接触する工程の前に含み、前記工程は、生物学的材料を冷却する前に実施され、好ましくは、生物学的材料と未希釈液体組成物とを接触する工程の前に、生物学的材料が接触する液体組成物の最後の希釈物は1:2希釈物である。
【0123】
特定の実施形態において、本方法は、生物学的材料と、本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の1:16希釈物、1:8希釈物、1:4希釈物及び1:2希釈物とを接触する工程を、生物学的材料と前記組成物(例えば、貯蔵組成物)とを接触する工程の前に含み、前記工程は、生物学的材料を冷却する前に実施され、好ましくは、未希釈液体貯蔵組成物は、13.0~23.0%(v/v)のDMSO、13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、9.0~31.0%(w/v)のスクロース、0.60~22.0%(w/v)のデキストラン、0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤、より好ましくは、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0124】
特定の実施形態において、本方法は、生物学的材料と、
- 本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の1:16希釈物との少なくとも0.5分間、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間又は少なくとも3分間、好ましくは少なくとも3分間の接触、
- 本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の1:8希釈物との少なくとも0.5分間、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間又は少なくとも3分間、好ましくは少なくとも3分間の接触、
- 本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の1:4希釈物との少なくとも0.5分間、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間又は少なくとも3分間、好ましくは少なくとも3分の接触及び
- 本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の1:2希釈物との少なくとも0.5分間、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間又は少なくとも3分間、好ましくは少なくとも5分間の接触を、
生物学的材料と前記組成物(例えば、貯蔵組成物)との接触の前に含み、前記工程は、生物学的材料を冷却する前に実施される。
【0125】
特定の実施形態において、生物学的材料を、液体組成物の1:16希釈物、液体組成物の1:8希釈物、液体組成物の1:4希釈物及び液体組成物の1:2希釈物と接触させる各工程は、0.5~10分間、1~6分間又は3~5分間、好ましくは3~5分間にわたって実施される。
【0126】
特定の実施形態において、生物学的材料の冷却は、生物学的材料と本明細書で教示される液体組成物(すなわち、希釈されている又は未希釈である)との接触から3分、2分又は1分以内、好ましくは1分以内に実施される。
【0127】
特定の実施形態において、前記冷却は、生物学的材料の温度を少なくとも-70℃、少なくとも-80℃、少なくとも-90℃、少なくとも-100℃、少なくとも-110℃、少なくとも-120℃、少なくとも-130℃、少なくとも-140℃、少なくとも-150℃、少なくとも-160℃、少なくとも-170℃、少なくとも-180℃、少なくとも-190℃又は少なくとも-200℃の温度に減少することを含む。これは、当該技術に既知の任意の方法、例えば、凍結手順(例えば、緩徐凍結)又はガラス化により達成され得る。
【0128】
特定の実施形態において、前記冷却は緩徐凍結手順により実施される。より特定的な実施形態において、冷却が緩徐凍結手順により実施される場合、液体組成物は、13.0~23.0%(v/v)のDMSO、13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、9.0~31.0%(w/v)のスクロース、0.60~22.0%(w/v)のデキストラン、0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤、好ましくは、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる液体貯蔵組成物の希釈物、好ましくは1:2又は1:4希釈物、より好ましくは、1:4希釈物である。
【0129】
特定の実施形態において、前記方法は、生物学的材料の一工程ガラス化を含む。特定の実施形態において、本方法が生物学的材料の一工程ガラス化を含む場合、生物学的材料は、13.0~23.0%(v/v)のDMSO、13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、9.0~31.0%(w/v)のスクロース、0.60~22.0%(w/v)のデキストラン、0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤、好ましくは、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる未希釈液体貯蔵組成物と接触するだけである。
【0130】
特定の実施形態において、前記方法は、生物学的材料の多工程ガラス化を含む。多工程ガラス化は、生物学的材料を冷却する前に1又は複数の平衡工程を含んでもよく、生物学的材料は本明細書で教示される液体組成物(例えば、貯蔵組成物)の少なくとも1つ(例えば、1、2、3又は4つ、好ましくは4つ)の希釈物と、生物学的材料と本明細書で教示される未希釈液体組成物(例えば、貯蔵組成物)との接触の前に接触し、これは本明細書の他の部分に記載されている。好ましくは、未希釈液体貯蔵組成物は、13.0~23.0%(v/v)のDMSO、13.0~23.0%(v/v)のエチレングリコール、9.0~31.0%(w/v)のスクロース、0.60~22.0%(w/v)のデキストラン、0.30~4.0%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までの希釈剤、より好ましくは、約17.7%(v/v)のDMSO、約17.7%(v/v)のエチレングリコール、約22.7%(w/v)のスクロース、約0.88%(w/v)のデキストラン1、約0.88%(w/v)のデキストラン40、約0.88%(w/v)のデキストラン70、約0.88%(w/v)のポリビニルアルコール及び100%(v/v)までのD-PBSを含む、それらから本質的になる又はそれらからなる。
【0131】
特定の実施形態において、生物学的材料を本明細書で教示される液体組成物と接触させる工程は、15℃~40℃、15℃~37℃、20℃~37℃又は20℃~30℃の温度で実施される。例えば、約20℃である。
【0132】
特定の実施形態において、生物学的材料を冷却する前の生物学的材料の温度は、15℃~40℃、15℃~37℃、20℃~37℃又は20℃~30℃である。例えば、約20℃である。
【0133】
特定の実施形態において、前記方法は、生物学的材料を少なくとも1分間、少なくとも1時間又は少なくとも1日間貯蔵することを含み、前記貯蔵は、生物学的材料を冷却した後に実施され、前記貯蔵は、少なくとも-70℃、少なくとも-80℃、少なくとも-90℃、少なくとも-100℃、少なくとも-110℃、少なくとも-120℃、少なくとも-130℃、少なくとも-140℃、少なくとも-150℃、少なくとも-160℃、少なくとも-170℃、少なくとも-180℃、少なくとも-190℃又は少なくとも-200℃、好ましくは少なくとも-100℃、より好ましくは少なくとも-190℃の温度で実施される。
【0134】
特定の実施形態において、前記方法は、生物学的材料を冷却した後に生物学的材料を加熱することを含む。生物学的材料の加熱は、冷却、凍結又はガラス化された生物学的材料を加熱又は加温する、当該技術に既知の任意の方法により実施することができる。
【0135】
特定の実施形態において、加熱は、冷却された、好ましくはガラス化された生物学的材料を、前記生物学的材料を培養する培養培地と直接接触させることを含み、前記培養培地は、少なくとも25℃、少なくとも26℃、少なくとも27℃、少なくとも28℃、少なくとも29℃、少なくとも30℃、少なくとも31℃、少なくとも32℃、少なくとも33℃、少なくとも34℃、少なくとも35℃、少なくとも36℃又は少なくとも37℃、例えば37℃の温度を有する。例えば、予熱された(例えば、37℃に)培養培地を、冷却された、好ましくはガラス化された生物学的材料に直接添加することができる。続いて、本明細書で教示される凍結保存用液体組成物を、例えば遠心分離により、解凍された生物学的材料から実質的に分離することができる。続いて、生物学的材料を新たな培養培地と接触させて、培養することができる。
【0136】
用語「増殖培地」又は「培養培地」は、本明細書で使用されるとき、細胞又は組織の増殖を支持するように設計された固体、液体又は半個体を指す。増殖培地は、典型的には、主要栄養素(例えば、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム若しくは硫黄)、微量栄養素(例えば、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、銅、モリブデン)、ビタミン、アミノ酸、1つ若しくは複数の糖(例えば、グルコース)、無機塩及び/又はタンパク質(例えば、トランスフェリン)を含む。増殖培地は、当該技術において良く知られており、培養される細胞又は組織のタイプ、並びに培養の目的(例えば、分化、拡大又は維持)に応じて変わり得る。増殖培地の非限定例には、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコー改変イーグル培地(DMEM)、アルファ改変最小必須培地(アルファ-MEM)、基本必須培地(Basal Medium Essential)(BME)、イスコブ改変ダルベッコー培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)(IMDM)、BGJb培地、F-12栄養混合物(ハム)、Liebovitz L-15、DMEM/F-12、改変イーグル必須培地(Essential Modified Eagle's Medium)(EMEM)、RPMI-1640、培地199、Waymouth's MB 752/1又はWilliams培地E、間葉系幹細胞基本培地、並びにこれらの改変及び/又は組み合わせが含まれる。
【0137】
本発明者たちは、本明細書に記載される液体組成物が、対照凍結保存溶液と比較して、生物学的材料、例えばマウス胚の遅速加温(例えば、空気加温又は温浴(例えば、37℃の温度)での加温を含む)においてとりわけ有益であることを見出した。
【0138】
特定の実施形態において、生物学的材料の加熱は、冷やされた、好ましくはガラス化された生物学的材料を15℃~37℃の温度(例えば、約37℃の温度)の水浴に最大で10秒間にわたって曝露して、冷却された、好ましくはガラス化された生物学的材料を加温することを、生物学的材料と、前記生物学的材料を培養する培養培地との接触の前に含み、前記培養培地は、少なくとも25℃、少なくとも26℃、少なくとも27℃、少なくとも28℃、少なくとも29℃、少なくとも30℃、少なくとも31℃、少なくとも32℃、少なくとも33℃、少なくとも34℃、少なくとも35℃、少なくとも36℃又は少なくとも37℃、例えば37℃の温度を有する。
【0139】
特定の実施形態において、生物学的材料の加熱は、冷やされた、好ましくはガラス化された生物学的材料を15℃~30℃の温度の外気に最大で10秒間にわたって曝露して、冷却された、好ましくはガラス化された生物学的材料を空気加温することを、生物学的材料と、前記生物学的材料を培養する培養培地との接触の前に含み、前記培養培地は、少なくとも25℃、少なくとも26℃、少なくとも27℃、少なくとも28℃、少なくとも29℃、少なくとも30℃、少なくとも31℃、少なくとも32℃、少なくとも33℃、少なくとも34℃、少なくとも35℃、少なくとも36℃又は少なくとも37℃、例えば37℃の温度を有する。
【0140】
特定の実施形態において、生物学的材料の加熱は、生物学的材料を、非浸透性凍結保護物質から、例えばスクロース又はトレハロースから構成される少なくとも1つの高浸透圧溶液と接触させることを、生物学的材料と、前記生物学的材料を培養する少なくとも25℃の温度を有する培養培地との接触の前に含む。
【0141】
特定の実施形態において、生物学的材料の加熱は、生物学的材料を少なくとも1つのスクロース溶液と接触させることを、生物学的材料と、前記生物学的材料を培養する少なくとも25℃の温度を有する培養培地との接触の前に含み、少なくとも1つのスクロース溶液は、好ましくは平衡塩溶液、より好ましくはPBS、更により好ましくはD-PBS中の1M、0.75M、0.6M、0.5M、0.25M、0.2M及び/又は0.1Mのスクロース溶液である。
【0142】
特定の実施形態において、生物学的材料の加熱は、生物学的材料を1M、0.75M、0.5M及び0.25Mのスクロース溶液と連続的に接触させることを、生物学的材料と、前記生物学的材料を培養する少なくとも25℃の温度を有する培養培地との接触の前に含む。
【0143】
特定の実施形態において、本明細書で教示される方法は、生物学的材料が加熱(例えば、加温又は解凍)された後でも生存していることを可能にする。
【0144】
本発明は、特定の実施形態と共に記載されてきたが、多くの代替案、修正及び変更が前述の記載を鑑みて当業者に明白であることが明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び広い範囲に従ったそのような代替案、修正及び変更をすべて包含することが意図される。
【0145】
以下の実施例は、特定の実施形態をより良好に例示するために提供され、本出願を制限するものと考慮されるべきではない。本出願は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【実施例】
【0146】
(実施例1)
本発明の組成物は、細胞、配偶子及び胚を成功裏に凍結保存することを可能にする。
材料及び方法
凍結保存溶液(CDCS)の組成
化学的に確定された凍結保存溶液(CDCS)は、基準貯蔵濃度(1×濃度)でtable 1(表1)に示されているように構成される。プロトコールに従って、このコア溶液を特定の方法論/低温生物学的要件に対処するために未希釈で又は希釈して使用することができる。未希釈貯蔵中のそれぞれのCDCS成分の量は、条件付又は凍結保護特性を有意に変化させることなく、table 1(表1)に示された範囲内で互いに変わり得る。
【0147】
【0148】
基準ガラス化溶液(VSE)の組成
一般的に使用される基準胚ガラス化溶液(VSE、Vanderzwalmenら、2013)を様々なCDCS特性の比較点として使用した。Table 2(表2)はCDCSとVSEの組成を比較する。この基準溶液は、ARTに一般的に使用される市販の溶液(例えば、Fertipro社のFertiVit(商標))に非常に類似している。
【0149】
【0150】
CDCSのガラス化能についての物理的試験
冷却の際の未希釈CDCSのガラス化能(すなわち、結晶を形成することなく凝固する能力)及び続く加温の際の結晶の非存在又は形成を、物理的試験を使用して評価した。VSE、CDCS(-)(CDCSに密接に関連しているがPVAを欠いている溶液であり、本発明者たちにより効率の低い前駆物質として開発された)及びCDCSをシリンジで吸引して、250μLの精液フレンチストロー(Minitube社、ref 13407/0010)に入れ、続いて下端をプラグで密閉した。ストローを液体窒素(LN2)に浸けて撹拌し、次いで37℃の水浴で加温した。冷却、続く加温の際のガラス化/結晶化状態を目視検査により評価し、ガラス転移温度にわたって冷却又は加温に付した溶液は、ガラス化の際に明澄透明のままであり、一方結晶化は白色/乳白色の様相を誘導した。
【0151】
CDCSの安定性アッセイ
CDCSを、(1)4℃、(ii)室温(22+/-4℃)、(iii)室温で2週間、続いて4℃で貯蔵、(iv)37℃及び(v)37℃で2週間、続いて4℃で貯蔵により保持して、安定性アッセイに付した。アリコートを製造の1日後(D1)、続いて、7日目(D7)、D14、並びに1か月後(M1)、2か月後(M2)、3か月後(M3)及び6か月後(M6)を包含する様々な時点で試験した。記録したエンドポイントは、(i)目視検査後の正常/異常な様相(混濁、沈殿)及び(ii)本明細書以降に記載されるネズミ胚(FVB/N株)の一工程ガラス化の効率であった。
【0152】
CDCSによる胚、卵母細胞及び細胞のガラス化
マウス胚
産生及び培養
C57BL6/JRj近交系(Janvier Labs社、France)マウスを、この実施例に使用した。受精卵母細胞はUniversity of LiegeのCentral Mouse Facilityから提供された。2つの前核及び正常に見える細胞質を有する接合体を、更なる使用のために保持した。適用可能な場合は、処理するまで、5%CO2下で37℃の水飽和環境中の鉱油下M16培地の50μlの液滴により培養した。2細胞期の胚を、ガラス化に付した又は非凍結保存対照として保持した。
【0153】
ガラス化
胚のガラス化を、上記に開示されたCDCS又はVSEのいずれかを使用して、一工程方法を使用して実施した。簡潔には、胚を培養培地から採取し、500μlのCDCS又はVSE液滴に移す。これらをガラス化溶液の中に数回移動させて無用な(gangue of)培養培地を排除する。次いで、担体(VitriVet(商標)、Vitrimed社、Bregenz、Austria)上の0.3~1μLのガラス化培地に採取し、これを保護ストローに挿入する。ストローを封止し、LN2に直接浸して撹拌する。CDCS又はVSEへの胚の移動からLN2に浸けるまで、かかる時間は60秒を超えない。
【0154】
加温
加温は、冷却の少なくとも24時間後に実施した。VitriVet(商標)担体を、LN2の中に吊るしながら保護ストローから抽出した。VitriVet(商標)ガッタを(i)外気中で10秒間穏やかに撹拌し、続いて温(37℃)培養培地に浸漬する又はそうでなければ(ii)空気加温工程なしに培養培地に直接浸漬する。
【0155】
培養及びエンドポイント
記録したエンドポイントは、早期生存度及び胚盤胞期への発育であった。早期生存度を、加温の1時間後の透明帯及び卵割球の形態を調べることによって評価した。胚盤胞期への発育を観察し、発育の5日目(D5)に記録した。
【0156】
マウスメタフェーズ2(MII)卵母細胞
FVB/NRj及びC57BL6/JRj近交系(Janvier Labs社、France)マウスを、この実施例に使用した。MII卵母細胞を採取し、胚と同じガラス化及び加温に付したが、CDCSのみを用い、培養培地により直接加温した。続いて凍結精子による体外受精(IVF)に付した。受精卵母細胞を48時間から5日間にわたって培養した。48時間後に得られた2細胞期胚を、胚盤胞期(D5)まで発育を続けた又は標準的手順(Nagy A.、Vintersten K.、Behringer R.、2003)を使用して、B6CBAF1/JRj(Janvier Labs社、France)偽妊娠母の卵管に移した。受精が成功すると、移動後の2細胞及び胚盤胞期への発育、並びに出生率をエンドポイントとして記録した。
【0157】
ヒト胚及びMII卵母細胞
異数体胚盤胞期胚及びヒトMII卵母細胞のガラス化を、現在の法律倫理規程を遵守して実施した。CDCSを、冷却する前に、多工程平衡プロトコールに従って、D-PBSによる様々な希釈物及び未希釈形態で使用した。加温の際には、SUC溶液における多工程平衡手順を、培養する前に適用した。
【0158】
胚盤胞
伝統的な手順を使用して予めガラス化及び加温した20個の異数体胚盤胞を、VitriSafe(登録商標)密閉担体システム(VitriMed社、Austria)を使用してCDCSで続いて再ガラス化した。冷却する前、胚をCDCSの(D-PBS中)様々な希釈物により、最後に非希釈CDCSにより平衡にした。簡潔には、胚盤胞を50μlの25%(v/v)CDCSに5分間浸漬し、続いて50μlの50%(v/v)CDCSに4~6分間浸漬した。続いて、胚盤胞を100μLの未希釈CDCS液滴に、およそ60秒間移し(これは、胚を担体上の0.3μL~1.0μlのCDCS微小液滴の中に装填するのに必要な時間を含む)、保護ストロー内に挿入し、それを封止し、LN2に浸けた。
【0159】
加温では、VitriSafe(登録商標)担体を、抽出器のツールを使用して取り除いた。担体の先端を1mlの1M SUC溶液(D-PBS中)に室温で浸漬した。30秒後、胚盤胞を0.75MのSUCに更に30秒間移し、続いて0.5MのSUCに1分間及び0.25MのSUCに2分間移した。胚盤胞を最後に適切な培養培地に移した。
【0160】
処理した胚盤胞の形態及び「健康」状態を加温直後及び培養の18時間後に記録した。
【0161】
MII卵母細胞
10個のMII卵母細胞は、胚盤胞と類似したガラス化プロトコールを受けたが、予冷及び加温平衡工程に僅かな変更を有した。冷却する前、卵母細胞を50μlの液滴の希釈CDCS(D-PBS中)に以下のように順次浸漬した。6.25%(v/v)のCDCSに3分間、12.5%に3分間、25%(v/v)に3分間及び50%に5分間。続いて、これらを100μlの未希釈CDCS液滴に、胚盤胞について上記に記載され方法と同じ方法でLN2に浸ける前に、およそ60秒間移した。
【0162】
加温では、担体の先端を1mlの1M SUCに浸漬し、胚をこの溶液に1分間移し、続いて0.5MのSUCに3分間、0.25MのSUCに2分間及び0.125MのSUCに2分間移した。卵母細胞を最後に適切な培養培地に移した。処理した卵母細胞の形態及び「健康」状態を加温直後及び培養の18時間後に記録した。
【0163】
ウマ間葉系幹細胞
単離及び培養
ウマの死体から単離された間葉系幹細胞(EC-MSC、U. LiegeのProf N.Antoineからの贈与物)を、10%ウシ胎児血清(Gibco社)及び1%Pen/Strep(Gibco社)を補充したDMEM+GlutaMAX(Gibco社)中に5%CO2により37℃で維持した。70~80%の集密度で、細胞を、0.05%のトリプシン-EDTA(Gibco社)を使用して継代した。
【0164】
ガラス化及び加温
一工程フォーマットによるガラス化では、細胞を脱離させて、106細胞のアリコートを調製した。遠心分離した後、細胞とCDCSとの最初の接触からLN2への浸漬の30秒の時間枠を考慮しながら、細胞ペレットを220μlのCDCS(予め室温に平衡にした)に再懸濁し、1.8mlのクライオバイアル(Nunc社)に移し、撹拌しながらLN2に浸けた。細胞をLN2タンクに少なくとも24時間貯蔵した。それぞれの実験において、非処理細胞アリコートを接種して分析し、非ガラス化対照とした。
【0165】
続いて、クライオバイアルをLN2から取り出し、37℃の水浴の中に底部を入れて保持し、同時に1mlの予熱(37℃)培養培地を直接添加し、穏やかに上下にピペット操作することによって、ガラス化細胞を加温した。次いで細胞懸濁液を、3mlの完全培養培地を含有するコニカルチューブ(conical tube)に移し、遠心分離し、新たな培地に再懸濁し、6ウエルプレートに接種した。
【0166】
緩徐凍結(SLF)及び解凍
SLFでは、細胞を脱離させ、4群に等しく分配した。遠心分離した後、細胞ペレットを、培養培地(非凍結保存対照)、培養培地中10%DMSO(Ref)又はD-PBS中のCDCSの25%若しくは50%希釈物のいずれかに、106細胞/mlの濃度で再懸濁した。次いで1ml(106細胞)のアリコートを1.8mlのクライオバイアル(Nunc社)に分配し、LN2で保存する前に、Mr Frosty(商標)(Nalgene社)装置の-80℃の冷凍庫に一晩入れた。細胞をLN2タンクに少なくとも4時間貯蔵した。非処理細胞アリコートを接種して分析し、非凍結保存対照とした。
【0167】
続いて、クライオバイアルをLN2から取り出し、37℃の水浴の中に底部を入れて保持することによって、凍結細胞を加温した。解凍した直後に、1mlの培養培地を添加し、上下にピペット操作することによって混合した。次いで細胞懸濁液を、3mlの培養培地を含有するコニカルチューブに移した。それぞれの試料を、培養培地を添加することにより10mlに調整し、遠心分離し、1mlの新たな培地に再懸濁し、6ウエルプレートに接種した。
【0168】
エンドポイントの記録
細胞生存度を解凍又は継代(非ガラス化対照)の24時間後に、トリパンブルー排除アッセイ(TC20 Cell Counter、Bio-Rad社)を使用してトリプシン処理した後の脱離細胞において評価した。
【0169】
集密度を、CKX-CCSW Confluency Checker Software(Olympus社)と共にDP22顕微鏡カメラを使用して、ウエル毎に5個の無作為画像を分析することによって、指定された時点で調べた。
【0170】
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)
細胞及び培養物の由来
hiPSC系統(dKIPs、U. BonnのProf.Dr F.Edenhoferからの贈与物)を、CDCSを使用して緩徐凍結に付した。これらをビトロネクチン被覆6ウエル細胞培養プレートにおいて、0.5%Pen/Strep(Gibco社)を補充したEssential 8(商標)Flex培地(Gibco社)中に5%CO2により37℃で培養した。
【0171】
緩徐冷凍(SLF)
SLFでは、培養プレートをD-PBSで穏やかにすすぎ、細胞を、ReLeSR(商標)(StemCell Technologies社)を使用して凝集体としてウエルから脱離させ、Essential 8(商標)Flex培地に懸濁し、プールし、3つの群に等しく分配した。1つの群は任意の処理を受けず、培養に直接戻された(非凍結保存対照)。遠心分離した後、細胞ペレットをCryoStor(登録商標)CS10(STEMCELL Technologies社)又はD-PBS中のCDCSの50%希釈物のいずれかに、1つの培養ウエル/mlに対応する濃度で再懸濁した。次いで1ml(1つのウエル中の細胞の量と同等)のアリコートを1.8mlのクライオバイアル(Nunc社)に分配し、LN2で保存する前に、Mr Frosty(商標)(Nalgene社)装置の-80℃の冷凍庫に一晩入れた。細胞をLN2タンクに少なくとも4時間貯蔵した。
【0172】
解凍
続いて、クライオバイアルをLN2から取り出し、37℃の水浴の中に底部を入れて保持することによって、凍結細胞を加温した。解凍した直後に、1mlのEssential 8(商標)Flex培養培地を添加し、非常に穏やかに上下にピペット操作することによって混合した。次いで細胞懸濁液を、3mlの培養培地を含有するコニカルチューブに移した。それぞれの試料を、培養培地を添加することにより10mlに調整し、遠心分離し、1mlの新たな培地に再懸濁した。それぞれの試料を、ビトロネクチン被覆6ウエルプレートの4つのウエルに接種した。
【0173】
エンドポイントの記録
細胞生存度を解凍(又は非ガラス化対照では継代)の24時間後に、トリパンブルー排除アッセイ(TC20 Cell Counter、Bio-Rad社)を使用して、脱離細胞(StemPro(登録商標)Accutas(登録商標)Cell Dissociation Reagent、Gibco社)において評価した。
【0174】
集密度を、CKX-CCSW Confluency Checker Software(Olympus社)と共にDP22顕微鏡カメラを使用して、ウエル毎に5個の無作為画像を分析することによって、指定された時点で調べた。
【0175】
結果
CDCSのガラス化能についての物理的試験
table 3(表3)に示されているように、CDCSは、LN2での冷却によっても、37℃の水浴での加温によっても結晶化していない。同じ標準化条件において、VSEは、試料の半分が冷却時に結晶化し、一方、すべてのCDCS(-)(PVAを有さないCDCSの前駆物質)の試料が加温時に結晶化する。結論として、基準VSE溶液及びCDCS(-)(PVAを欠いているCDCS)は、両方とも一貫したガラス化を可能にせず、比較的高い余熱を伴う提案されたシステムによる冷却(VSE)又は加温(CDCS(-))時に素早い結晶形成を可能にする。このVSE及びCDCS(-)の素早い結晶化は、それが含有し得る細胞にとって有害であると予測される。このように、CDCSは、有名なガラス化組成物(VSEであり、この組成は生殖補助医療(Medically Assisted Procreation)(MAP)に使用される市販の溶液に非常に類似している)よりも強力であり、冷却及び加温速度を一般的に推奨されるより遅くする条件下であっても、強力な氷晶阻害溶液であることを実証している。
【0176】
【0177】
CDCSの安定性アッセイ
CDCSを、4℃、室温、37℃及び室温又は37℃と4℃での更なる貯蔵との組み合わせで数週間保存した場合の安定性アッセイに付した。table 4(表4)に示されているように、任意の抗微生物剤の非存在下にもかかわらず、胚をガラス化する溶液(混濁も沈殿もない)又はその有効性を目視検査すると、貯蔵条件がどのようなものであっても、CDCSに注目すべき変化は経時的に観察されなかった。
【0178】
結論として、CDCS組成物の特性は、好ましくない温度条件下であっても、任意の抗微生物剤の非存在下にもかかわらず、経時的に著しく安定している。事実、6か月間にもわたる4℃のみならず37℃(またその中間及び混合温度条件)での貯蔵は、ネズミ胚をガラス化する光学的/物理的側面も高い効率も変化させない。
【0179】
【0180】
【0181】
CDCSによる胚、MII卵母細胞及び細胞の凍結保存
マウス胚
C57BL6/JRj株の2細胞期マウス胚を、基準VSEガラス化溶液又は未希釈CDCSのいずれかを使用して、2つのガラス化/加温プロトコールに付した。簡潔には、冷却は、両方のプロトコールでは同じ(一工程)であったが、加温は異なっていた。加温は、胚を含有するガラス化液滴を加温培養培地に直接浸けることによる急速なもの、又は培地に浸漬する前に外気で10秒間最初に加温する工程による遅速のものである(M&Mを参照すること)。table 5(表5)に示されているように、遅速加温(空気)では、早期胚生存度は、VSEよりCDCSのほうか良好であった(p=0.026)。
【0182】
【0183】
マウスMII卵母細胞
C57BL6/JRj及びFVB/NRj株のマウスを未希釈CDCSによる一工程ガラス化に付した。続いて、これらを凍結精液によりin vitroで受精し、胚盤胞期にin vitroで発育させた又は偽妊娠母に移して、これらのin vivoでの発育をモニターした(エンドポイント=生きた新生児の出産)。table 6(表6)に示されているように、CDCSによる卵母細胞のガラス化は、効率的なIVF、並びに通常のガラス化プロトコール(F.J.Ectors、personal communication)により観察されるものに類似した速度での、得られた胚のin vitro及びin vivo発育を可能にする。
【0184】
【0185】
ヒト胚盤胞
table 7(表7)に示されているように、希釈及び未希釈CDCSアリコートを、異数体胚盤胞をガラス化する多工程手順に使用した。20個の胚から出発して、18個及び17個は、加温の直後及び培養の18時間後にそれぞれ健康及びインタクトのようであった。
【0186】
【0187】
ヒトMII卵母細胞
table 8(表8)に示されているように、希釈及び未希釈CDCSアリコートを、ヒトMII卵母細胞をガラス化する多工程手順に使用した。研究に提供された10個の胚は、すべて、加温の直後及び培養の18時間後にそれぞれ健康及びインタクトのようであった。
【0188】
【0189】
ウマ間葉系幹細胞
一工程ガラス化及び加温
一工程加温手順に従った一工程ガラス化を、クライオバイアル中のCDCSを使用してEC-MSCに実施した。10
6細胞の20個アリコートが、17個の非ガラス化対照と共にガラス化/加温手順を受けた。ガラス化試料の細胞生存度及び集密度(これは化合物の生存度及び増殖能の指標である)の値は、対照と非常に類似していたが(
図1)、生存度は、おそらく、結果に高い反復性(低いSD)があること及び操作方法それ自体による不可避な細胞損失に起因して統計的に異なっていた。更に、EC-MSC培養物の形態学的側面は、CDCSを使用した一工程ガラス後と非ガラス化対照では識別不能である(
図2)。
【0190】
緩徐凍結及び解凍
SLFを、2×及び4×希釈CDCS、並びに一般的に使用される基準方法(10%DMSO、v/v)を使用してEC-MSCに実施した。
図3は、両方のCDCS希釈物が基準方法と等しく効率的であることを示し、加温の24時間後には非凍結保存細胞とほぼ等しい細胞生存度を最終的にもたらす。同じことが細胞集密度にも当てはまり、3つの処理のすべてが類似した結果を提示し、非凍結保存細胞と比較しておよそ1日遅れの集密度を示している。
【0191】
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)
SLFを、2×希釈CDCS及び市販の最適化溶液(CryoStor(登録商標)CS10)を使用してhiPSCに実施した。
図4に示されているように、希釈CDCSを使用した細胞生存度は、解凍の24時間後に平均して29.6%であり、これは、統計的に異なっているがCryoStor CS10を使用したものと同じオーダー(41.8%)である。更に、集密度は、経時的に(1~7日間)類似したままであり、5日目に非凍結保存細胞のレベルに達する。
【0192】
本明細書に提供される結果は、本発明の組成物が、様々な方法に従って、様々な装置を使用して、希釈又は未希釈形態で、ヒトを含む様々な生物体の生きた細胞、胚及び配偶子を凍結保存するのに効率的で安定した生物学的に安全で再現性のある溶液を提供することを実証している。
【0193】
(実施例2)
本発明の組成物(CDCS)は、Ref1及びRef2溶液より効率的なネズミ胚の凍結保存を可能にする。
材料及び方法
凍結保存溶液の組成
化学的に確定された凍結保存溶液(CDCS)は、基準貯蔵濃度(1×濃度)でtable 1(表1)に示されているように構成される。プロトコールに従って、このコア溶液を特定の方法論/低温生物学的要件に対処するために未希釈で又は希釈して使用することができる。未希釈貯蔵中のそれぞれのCDCS成分の量は、条件付又は凍結保護特性を有意に変化させることなく、table 1(表1)に示された範囲内で互いに変わり得る。
【0194】
基準凍結保存溶液1(本明細書において「Ref1溶液」とも呼ばれる)は、table 9(表9)に記載される組成を有する国際特許公報第2010/046949A1号に記載されている凍結保存溶液を指す。
【0195】
【0196】
基準凍結保存溶液2(本明細書において「Ref2溶液」とも呼ばれる)は、table 10(表10)に記載される組成を有する、「Lopez M.ら、Chemically defined and xeno-free cryopreservation of human adiose-derived stem cells、2016年、PLOS ONE、11巻(3):1~15頁」に記載されている溶液を指す。
【0197】
【0198】
ガラス化能についての物理的試験
冷却の際のCDCS、Ref1溶液及びRef2溶液のガラス化能(すなわち、結晶を形成することなく凝固する能力)及び続く加温の際の結晶の非存在又は形成を、物理的試験を使用して評価した。CDCS、Ref1溶液又はRef2溶液をシリンジで吸引して250μlのフレンチストロー(Minitube社、ref 13407/0010)に入れ、続いてこれらの下端をプラグで密閉した。ストローを液体窒素(LN2)に浸けて撹拌し、次いで37℃の水浴で加温した。
【0199】
マウス胚
FVB/N x CD1マウスをこの実施例に使用した。受精卵母細胞はUniversity of LiegeのCentral Mouse Facilityから提供された。2つの前核及び正常に見える細胞質を有する接合体を、更なる使用のために保持した。適用可能な場合は、処理するまで、5%CO2下で37℃の水飽和環境中の鉱油下M16培地の50μlの液滴により培養した。胚盤胞期の胚(発育の約5日間)をガラス化/加温方法に付した。
【0200】
ガラス化及び加温
胚のガラス化を、上記に記載されたCDCS、Ref1溶液又はRef2溶液(本明細書以下で「溶液」と呼ばれる)のいずれかを使用する一工程方法を使用して実施した。
【0201】
ストローの前装填
0.25mLのフレンチストロー(CryoBioSystem社)を、胚をガラス化する担体として使用した。
【0202】
ストローを、その綿プラグ側で1mlのシリンジと接続する。10%ウシ胎児血清(Gibco社)を補充した50ミリメートル(mm)のDBPS(Gibco社)(本明細書以下でDPBS-F10と呼ばれる)を装填し、続いて10mmの空気を吸入する。充填したストローを、更に使用する(胚を装填する)まで室温で水平に置く。
【0203】
胚の条件付け及び冷却
簡潔には、最大5個の胚の群を培養培地から採取し、500μlの溶液液滴に移す。これらを溶液の中に数回移動させて無用な培養培地を排除する。次いで、これらを採取し、50μlの溶液液滴に移す。胚を、10mmの溶液カラムを伴うストローの中に吸入により装填し、続いて10mmの空気を装填し、最後に、綿が前装填DPBS-F10カラムで湿潤するまでDPBS-F10を装填する。ストローを封止し、液体窒素(LN2)に直接浸して撹拌する。溶液への胚の移動からLN2に浸けるまで、かかる時間は60秒を超えない。
【0204】
胚の加温及び培養
加温は、冷却の少なくとも24時間後に実施した。ストローをLN2から直接取り出し、空気中で5秒間温め、37℃の水浴に更に5秒間直接浸す。ストローを拭き取り、封止端をハサミで切断する。ストローの内容物を、綿プラグを押し出す金属ロッドを用いて800μlのDPBS-F10液滴の中に室温で排出する。胚をすすぎ、採取し、最終洗浄のために別の200μlのDPBS-F10液滴に移す。すすいだ後、胚を、更に分析するまで、5%CO2下で37℃の水飽和環境中の鉱油下M16培地の50μlの液滴に移す。
【0205】
エンドポイントの記録
ガラス化能の物理的試験では、冷却、続く加温の際の溶液のガラス化/結晶化状態を、目視検査により評価し、ガラス化された溶液は明澄透明のままであり、一方結晶化は白色/乳白色の様相を誘導した。
【0206】
胚ガラス化アッセイでは、記録されたエンドポイントは、加温の24及び48時間後の培養物中の生存度、並びに48時間での透明帯からの孵化であった。生存度を、透明帯及び卵割球の形態を調べることによって評価した。
【0207】
結果
溶液のガラス化能の比較
table 11(表11)に示されているように、CDCSは、LN2での冷却によっても、37℃の水浴での加温によっても結晶化していない。同じ標準化条件において、Ref1溶液及びRef2溶液は、冷却時及び加温時に結晶化している。結論として、Ref1溶液及びRef2溶液は、両方とも一貫したガラス化を可能にせず、比較的高い余熱を伴う提案されたシステムによる冷却及び又は加温時に素早い結晶形成を可能にする。このRef1溶液及びRef2溶液の素早い結晶化は、それが含有し得る細胞にとって有害であると予測される。このように、CDSCは、冷却及び加温速度を一般的に推奨される(約20,000℃/分)よりも遅くする(約1,000℃/分)条件において、強力な氷晶阻害溶液であることを実証している。
【0208】
【0209】
胚ガラス化アッセイ
比較的高い余熱を伴うシステムにおいて一工程ガラス化手順を使用すると、CDCSがRef1及びRef2溶液よりはるかに良好な生存度及び孵化率を確実にすることが、table 12(表12)に報告されている結果から明白のようである。
【0210】
【国際調査報告】