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特表2022-519794間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤
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  • 特表-間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-25
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20220317BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220317BHJP
   C07K 14/635 20060101ALI20220317BHJP
   C07K 14/575 20060101ALI20220317BHJP
   C07K 14/505 20060101ALI20220317BHJP
   C07K 14/515 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/0775
C07K14/635
C07K14/575
C07K14/505
C07K14/515
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020573503
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(85)【翻訳文提出日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 CN2020092082
(87)【国際公開番号】W WO2021143001
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】202010032047.1
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520514780
【氏名又は名称】青島瑞思徳生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】張 炳強
(72)【発明者】
【氏名】陳 夢夢
(72)【発明者】
【氏名】李 翠翠
(72)【発明者】
【氏名】王 二朴
(72)【発明者】
【氏名】王 福斌
(72)【発明者】
【氏名】鄒 偉
(72)【発明者】
【氏名】付 学奇
(72)【発明者】
【氏名】劉 翠▲ジュァン▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC12
4B065AC14
4B065AC20
4B065BD21
4B065BD39
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA01
4H045DA30
4H045EA50
4H045EA60
(57)【要約】
本発明は、生物医学分野に関し、間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤に関する。GLP-1、副甲状腺ホルモン、パラセタモール、ラパマイシン、イカリイン、トリメチニブ、EPO及びVEGFで構成される間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤である。本発明の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤は、それぞれの成分がいずれも安全で毒性がなく、誘導分化に必要とするステップが少なく、時間が短く、誘導効率が高いものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP-1、副甲状腺ホルモン、パラセタモール、ラパマイシン、イカリイン、トリメチニブ、EPO及びVEGFで構成されることを特徴とする、間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤。
【請求項2】
各成分の質量濃度配合比が、GLP-1 20~40mg/L、副甲状腺ホルモン6~12mg/L、パラセタモール2~8mg/L、ラパマイシン2~8mg/L、イカリイン2~8mg/L、トリメチニブ0.3~0.6mg/L、EPO 2~4μg/L、VEGF 2~4μg/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤。
【請求項3】
各成分の質量濃度配合比が、GLP-1 30mg/L、副甲状腺ホルモン9mg/L、パラセタモール5mg/L、ラパマイシン5mg/L、イカリイン5mg/L、トリメチニブ0.4mg/L、EPO 3μg/L、VEGF 3μg/Lであることを特徴とする、請求項2に記載の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学分野に関し、間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病(diabetes mellitus、DM)は、糖脂質代謝異常を主な特徴とする内分泌代謝性疾患である。世界保健機関と国際糖尿病連盟が発表した予測によると、2030年までに全世界の糖尿病患者は、3.7億に達する。現在、中国のDM患者は、既に4500万人を超え、インドに次いで第二位である。その病因は異なるが、いずれも膵島細胞の数量と機能の欠陥として表現され、最終的にインスリンによる治療を必要とする。インシュリンの応用、特に近年インシュリンの剤形及び投与経路などの方面でいずれもいくつかの進展を遂げたが、実践により外源性インシュリンは、人体自身が分泌するインシュリンのように完全に血糖をコントロールし、血糖を一定に維持することができないことが証明されている。細胞置換療法は、糖尿病を治療する重要な方法であり、生理方式により近い効果的な方法であり、血糖に対する持続的なモニタリングと微細調整を実現することができる。近年、肝門脈を経て膵島細胞を移植して糖尿病を治療することも、いくつかの治療効果を得たが、膵島細胞移植は、ドナーの供給不足と厳重な免疫拒絶反応という二つの難題に直面している。
【0003】
幹細胞は、自己更新と多系列分化を有する細胞として、一定の条件下で機能性を有する膵島細胞に分化することができるため、膵島細胞の全く新しい由来とすることができる。現在、幹細胞の分化から膵島細胞を獲得するには、3種類のルートがある:1、胚幹細胞の分化;2、膵島幹細胞又は膵島前駆細胞の分化;3、成体幹細胞の分化。胚幹細胞は、倫理的な議論があり、且つ膵島幹細胞を取得しにくいが、成体幹細胞は、由来が広範であり、倫理的な議論がないため、膵島細胞の由来とすることができる。
【0004】
現在の幹細胞誘導方式には、主にインビトロ誘導、遺伝子修飾、タンパク質導入と組織微小環境誘導があり、ここでインビトロ誘導は、異なる刺激因子の組み合わせを採用し、幹細胞を目的細胞に誘導分化する。各実験室の誘導分化の条件が異なり、誘導分化のメカニズムがまだ明確でなく、誘導分化の効率が低く、膵島の分泌能力が正常の膵島の1%ぐらいに過ぎず、且つ誘導過程が複雑で、誘導時間が長く、得られた細胞の数量が少なく、機能が低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術に存在している上記問題を解決するために、各成分がいずれも安全で毒性がなく、誘導分化に必要とするステップが少なく、時間が短く、誘導効率が高い間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明が採用する技術的解決手段は、GLP-1、副甲状腺ホルモン、パラセタモール、ラパマイシン、イカリイン、トリメチニブ、EPO及びVEGFで構成される間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤である。
【0007】
前記誘導剤の各成分の質量濃度配合比は、GLP-1 20~40mg/L、副甲状腺ホルモン6~12mg/L、パラセタモール2~8mg/L、ラパマイシン2~8mg/L、イカリイン2~8mg/L、トリメチニブ0.3~0.6mg/L、EPO 2~4μg/L、VEGF 2~4μg/Lである。
【0008】
好ましくは、前記誘導剤の各成分の質量濃度配合比は、GLP-1 30mg/L、副甲状腺ホルモン9mg/L、パラセタモール5mg/L、ラパマイシン5mg/L、イカリイン5mg/L、トリメチニブ0.4mg/L、EPO 3μg/L、VEGF 3μg/Lである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤は、以下の利点を有する。
1、遺伝子導入を必要としないため、遺伝子変化とがんのリスクがない;
2、誘導ステップが少ない:現在の文献で報告されている方法は、ツーステップ法又はスリーステップ法を中心として、本発明の誘導剤を採用するには、ワンステップしか必要としない;
3、誘導時間が短い:現在の文献では、一般的に誘導には、10日間以上かかるが、本発明の誘導剤を採用すれば5日間しかかからない;
4、本発明の誘導剤を採用して間葉系幹細胞を膵島細胞へ誘導することは、誘導分化効率が高い;
5、本発明の誘導剤は、各成分がいずれも安全で毒性がない;
6、間葉系幹細胞を膵島細胞へ誘導分化した後、移植後に拒絶反応がなく、倫理的問題がなく、安全性が高く、臨床応用における将来性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ジチゾン染色反応であり、本発明の誘導群のジチゾン染色後に赤色を呈することを示している。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
本実施例の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤は、GLP-1 30mg/L、副甲状腺ホルモン9mg/L、パラセタモール5mg/L、ラパマイシン5mg/L、イカリイン5mg/L、トリメチニブ0.4mg/L、EPO 3μg/L、VEGF 3μg/Lの質量濃度配合比で構成される。上記成分をヒト間葉系幹細胞の無血清培地(又はDMEM+10%FBS又は市販の他のタイプの間葉系幹細胞培地)に質量濃度配合比で順次添加し、十分に混合し、ろ過して除菌すればよい。
【0012】
本発明の誘導剤の各成分はすべて市販の制品である:ヒト間葉系干細胞无血清培地、ブランドLONZA、商品番号00190632;GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)、ブランドSigma、商品番号scp0153;副甲状腺ホルモン、ブランドSigma、商品番号P7036;パラセタモール、上海一基実業有限公司、商品番号Y903952;ラパマイシン、ブランドTargetMol、商品番号T1537;イカリイン、上海微晶生物、商品番号489~32~7;トリメチニブ、ブランド美崙生物、商品番号MB5401;EPO、ブランドPeproTech、商品番号CYT~201;VEGF、ブランドPeproTech、商品番号96~100~20~2。
【実施例2】
【0013】
本実施例の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤は、GLP-1 20mg/L、副甲状腺ホルモン6mg/L、パラセタモール2mg/L、ラパマイシン2mg/L、イカリイン2mg/L、トリメチニブ0.3mg/L、EPO 2μg/L、VEGF 2μg/Lの質量濃度配合比で構成される。上記成分をヒト間葉系幹細胞の無血清培地(又はDMEM+10%FBS)に質量濃度配合比で順次添加し、十分に混合し、ろ過して除菌すればよい。
【実施例3】
【0014】
本実施例の間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化用の誘導剤は、GLP-1 40mg/L、副甲状腺ホルモン12mg/L、パラセタモール8mg/L、ラパマイシン8mg/L、イカリイン8mg/L、トリメチニブ0.6mg/L、EPO 4μg/L、VEGF 4μg/Lの質量濃度配合比で構成される。上記成分をヒト間葉系幹細胞の無血清培地(又はDMEM+10%FBS)に質量濃度配合比で順次添加し、十分に混合し、ろ過して除菌すればよい。
【実施例4】
【0015】
ヒト臍帯間葉系幹細胞を例にして本発明の誘導剤の効果を説明する
一、ヒト臍帯間葉系幹細胞から膵島細胞への誘導分化
3世代のヒト臍帯間葉系幹細胞は、0.125%~0.01%のTrypsin-EDTA溶液で細胞を消化して採取し、細胞懸濁液を調製し、細胞計数板で生細胞の密度を計数し、且つ密度を1×10/cmに調整し、ポリリジンで処理された消毒カバーガラスが予め置かれた24ホール板内に接種し、カバーガラスでの細胞成長を調製する。細胞が80%近く融合し、成長が旺盛な時に誘導分化を行い、群分けを表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
二、誘導後膵島細胞の同定
(一)、ジチゾン染色反応:上記3群の5日間誘導した後に得られた膵島細胞(ここで誘導群1は、10日間の誘導分化を必要とする)をそれぞれ採取し、原培地から移し、PBSで2回洗浄し、2mlのPBSと50ulのジチゾン作動液をそれぞれ加え、37℃で10minインキュベートし、染色液を移し、PBSで2回洗浄し、細胞の着色状況を観察し、且つ写真を撮る。結果は図に示すように、2つの誘導群はジチゾン染色後に赤色を呈し(図1に示すように)、陽性反応であり、対照群は陰性である。
【0018】
(二)化学発光免疫分析法によるインスリン濃度の測定:以上の3群の5日間誘導した後(ここで誘導群1は、10日間の誘導分化を必要とする)の細胞培養上清をそれぞれ採取し、インスリン含量を検出し、誘導群2の細胞によって分泌されるインスリン濃度が518.7mU/Lであり、誘導群1の細胞によって分泌されるインスリン濃度22.1mU/Lより遥かに高く、空白対照群のインスリン濃度がゼロであることは、本発明の誘導剤は、誘導効率を著しく向上させることができることを示す。
【0019】
(三)ELISAキットは、本発明の誘導剤で誘導して得られた膵島様細胞が膵島様細胞機能を有するか否かを検査する。この検査プロセスは、Mercodia社によって提供される「C-peptide ELISA assays」標準プロセスに直接従って操作される。その結果、C-ペプチドが検出され、本発明の誘導剤によって誘導分化されて得られた膵島様細胞は、インスリンを分泌できることが示された。
【0020】
(四)グルコース刺激実験:本発明の誘導剤が5日間誘導分化した100個の膵島細胞塊(50~150um)を1.5mlの遠心管に採取し、PBSで2回洗浄し、1mlの無糖DMEMを加えて3~6h前培養し、続いてグルコース5.6mmol/L、グルコース16.7mmol/Lを含む300ulのDMEMを順次2h培養し、上清を集め、ELISA法を採用して上清中の異なる濃度のグルコースの刺激下のインシュリン分泌量を測定し、対照群の細胞上清では、インスリンがほとんど検出されなかったが、誘導後の膵島細胞塊は、5.6mmol/Lグルコースの刺激下で少量の分泌があり、16.7mmol/Lグルコースで2h培養した後、インシュリン分泌量が明らかに上昇し(P<0.001)、約低糖条件下の2倍であり、その結果から、誘導後の膵島細胞塊はグルコース刺激に対して敏感であり、そのインシュリン分泌は、外部環境によって制御されることが分かった。
【0021】
(五)インビボ移植実験:まず糖尿病ラットモデルを作製する。雌雄を問わず、体重が約180~200gである成体Wistarラットを取る。70mg/kgの投与量で各ラットの腹腔にストレプトマイシンを注射する。ストレプトマイシン粉剤は、0.1Mのクエン酸緩衝液(PH=4.5)を液体に配合して使用し、配合した直後に使用する。ラットの血糖が上昇し(≧16.7mmol/L)、且つ1週間安定する時、糖尿病モデルは既に完成したことを表明した。無菌条件下で、本発明の誘導剤で誘導して得られた300個の膵島様細胞塊(50~150um)を糖尿病ラットの腎嚢胞下又は肝門脈微枝部に注入する。術後、血糖を定期的に観測する。その結果、糖尿病ラットは、細胞移植3日間後の血糖は平均で7.3mmol/L降下する。本発明の誘導剤を採用して誘導分化して得られた膵島細胞塊は、顕著な血糖降下作用を有することが示された。
図1
【国際調査報告】