(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-25
(54)【発明の名称】アフィニティー精製用免疫グロブリン結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/31 20060101AFI20220317BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20220317BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20220317BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220317BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
C07K14/31
C07K1/22 ZNA
C07K17/00
C07K16/00
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541284
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2020052438
(87)【国際公開番号】W WO2020157281
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513311653
【氏名又は名称】ナフィゴ プロテインズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Navigo Proteins GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー,エリック
(72)【発明者】
【氏名】カール,マティアス
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA60
4H045CA11
4H045EA34
4H045EA61
4H045FA74
4H045FA80
4H045GA01
4H045GA23
(57)【要約】
本発明は、1つ又は複数のドメインを含む免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質に関する。さらに本発明は、本発明のIg結合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスに関する。本発明はまた、免疫グロブリンのアフィニティー精製ための、これらのIg結合タンパク質又はアフィニティーマトリックスの使用及び本発明のIg結合タンパク質を用いるアフィニティー精製の方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数のIg結合ドメインを含むIg結合タンパク質であって、少なくとも1つのドメインが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のいずれか1つアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のいずれかと少なくとも95%の同一性をもつアミノ酸配列を含む、又はそれからなるIg結合タンパク質。
【請求項2】
前記ドメインが、配列番号1に記載のアミノ酸配列又はそれと少なくとも95%同一の配列を含む請求項1に記載のIg結合タンパク質。
【請求項3】
前記ドメインが、配列番号7に記載のアミノ酸配列若しくはそれと少なくとも95%同一の配列を含む、又は前記ドメインが、配列番号10に記載のアミノ酸配列若しくはそれと少なくとも95%同一の配列を含む、請求項1に記載のIg結合タンパク質。
【請求項4】
前記ドメインが、配列番号8又は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のIg結合タンパク質。
【請求項5】
互いに連結している2、3、4、5、6、7、又は8つのドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のIg結合タンパク質。
【請求項6】
ホモ多量体又はヘテロ多量体である、請求項5に記載のIg結合タンパク質。
【請求項7】
1つ又は複数のドメインが、直接又は1つ若しくは複数のリンカーで、互いに連結している、請求項6に記載のIg結合タンパク質。
【請求項8】
前記タンパク質が、IgG
1、IgG
2、IgG
4、IgM、IgA、Ig断片、Fc断片、又はFab断片に結合する、請求項1~7のいずれか一項に記載のIg結合タンパク質。
【請求項9】
固体支持体に固定化された、請求項1~8のいずれか一項に記載のIg結合タンパク質。
【請求項10】
アフィニティー分離マトリックスに結合する請求項1~9のいずれか一項に記載のIg結合タンパク質を含む、アフィニティー分離マトリックス。
【請求項11】
前記Ig結合タンパク質に親和性をもつ任意のタンパク質のアフィニティー精製ための、請求項1~9のいずれか一項に記載のIg結合タンパク質又は請求項10に記載のアフィニティー分離マトリックスの使用。
【請求項12】
Ig配列を含むタンパク質のアフィニティー精製の方法であって、前記方法が、
(a)Ig配列を含む前記タンパク質を含有する液体を用意すること、
(b)請求項10に記載のアフィニティー分離マトリックスを用意すること、
(c)Ig配列を含むタンパク質への、請求項1~9のいずれか一項に記載の前記少なくとも1つのIg結合タンパク質の結合を可能にする条件下で、前記アフィニティー分離マトリックスを前記液体と接触させること、及び
(d)Ig配列を含む前記タンパク質を、前記アフィニティー精製マトリックスから溶出すること
を含む方法。
【請求項13】
ステップ(d)において、前記Ig配列を含む前記タンパク質の90%超が、請求項1~9のいずれかに記載のIg結合タンパク質から溶出される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(e)前記アフィニティー精製マトリックスをアルカリ洗浄液で洗浄する追加ステップを含む、請求項12~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記Ig結合タンパク質のIg結合能が、アルカリ性条件下でのインキュベーション前のIg結合能の少なくとも70%である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数のドメインを含む免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質に関する。さらに本発明は、本発明のIg結合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスに関する。本発明はまた、免疫グロブリンのアフィニティー精製ための、これらのIg結合タンパク質又はアフィニティーマトリックスの使用及び本発明のIg結合タンパク質を用いるアフィニティー精製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのバイオテクノロジー及び医薬用途では、抗体を含有する試料から汚染物質を除去することが求められる。抗体を捕捉及び精製するための確立された手順は、スタフィロコッカス・アウレウス由来の細菌細胞表面プロテインAを免疫グロブリンの選択的リガンドとして用いるアフィニティークロマトグラフィーである(例えば、Huse et al.による総説、J.Biochem.Biophys.Methods 51,2002:217-231を参照されたい)。野生型プロテインAは、IgG分子のFc領域に高い親和性と選択性で結合する。アルカリ安定性などの特性が向上したプロテインAのバリアントが、抗体を精製するために利用可能であり、プロテインAのリガンドを含むさまざまなクロマトグラフィーマトリックスが市販されている。しかし、現在入手可能なプロテインAをベースとするクロマトグラフィーマトリックスは、アルカリ性条件に曝されると免疫グロブリンに対する結合能の低下を示す。
【0003】
発明の背景にある技術的課題
抗体又はFc含有融合タンパク質の大規模生産プロセスでは大抵、アフィニティー精製にプロテインAが使用される。しかし、アフィニティークロマトグラフィーでのプロテインAの利用には限界があるので、当技術分野では、免疫グロブリンのアフィニティー精製を容易にするために、免疫グロブリンに特異的に結合する特性が改良された新規Ig結合タンパク質を提供する必要性がある。Ig結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスの価値を最大限に活用するためには、アフィニティーリガンドマトリックスを複数回使用することが望ましい。クロマトグラフィーサイクルの間には、徹底した洗浄手順が、マトリックス上の残留汚染物質の浄化及び除去ために必要である。この手順では、高濃度のNaOHを含むアルカリ性溶液をアフィニティーリガンドマトリックスに加えることが、一般的に行われている。野生型プロテインAドメインは、このような過酷なアルカリ性条件に長時間耐えることができず、すぐに免疫グロブリンに対する結合能を失ってしまう。さらに、アフィニティーリガンドマトリックスを繰り返し使用するためには、過酷な酸性条件下での洗浄ステップが求められる。
【0004】
したがって、この分野では、Fc配列を含むタンパク質を結合でき、かつアフィニティークロマトグラフィーの過酷な洗浄条件に耐えられる新規タンパク質を得ることが、長い間必要とされている。
【0005】
本発明は、免疫グロブリンのアフィニティー精製に特によく適したIg結合タンパク質を提供する。特に、本発明のIg結合タンパク質にはいくつかの利点がある。本発明のIg結合タンパク質の重要な利点の1つは、高い動的結合容量と相まって、Ig結合能の低下を伴わない高pHにおける長時間の向上した安定性である。
【0006】
上記の概要は、本発明によって解決されるすべての問題を必ずしも記載しているわけではない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様は、アフィニティー精製に適したIg結合タンパク質を提供することである。
[1]これは、1つ又は複数のIg結合ドメインを含むIg結合タンパク質であって、少なくとも1つのドメインが、配列番号1(cs50)、配列番号2(cs52)、配列番号3(cs58)、配列番号4(cs59)、配列番号5(cs60)、配列番号6(cs51)、配列番号7(cs56)、配列番号8(cs54)、若しくは配列番号10(cs55)のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、若しくは配列番号10のいずれかと少なくとも95%の同一性をもつアミノ酸配列を含む、又はそれからなるIg結合タンパク質で達成される。
[2]前記ドメインが、配列番号1に記載のアミノ酸配列(cs50)又はそれと少なくとも95%同一の配列を含む、[1]に記載のIg結合タンパク質。
[3]前記ドメインが、配列番号7に記載のアミノ酸配列(cs56)若しくはそれと少なくとも95%同一の配列を含む、又は前記ドメインが、配列番号10に記載のアミノ酸配列(cs55)若しくはそれと少なくとも95%同一の配列を含む、[1]に記載のIg結合タンパク質。
[4]前記ドメインが、配列番号8に記載のアミノ酸配列(cs54)又は配列番号9に記載のアミノ酸配列(cs57)を含む、[3]に記載のIg結合タンパク質。
[5]互いに連結している2、3、4、5、6、7、又は8つのドメインを含む、[1]~[4]に記載のIg結合タンパク質。
[6]ホモ多量体又はヘテロ多量体である、[5]に記載のIg結合タンパク質。
[7]1つ又は複数のドメインが、直接又は1つ若しくは複数のリンカーで、互いに連結している、[6]に記載のIg結合タンパク質。
[8]前記タンパク質が、IgG1、IgG2、IgG4、IgM、IgA、Ig断片、Fc断片、又はFab断片に結合する、[1]~[7]のいずれか1つに記載のIg結合タンパク質。
[9]固体支持体に固定化された、[1]~[8]のいずれか1つに記載のIg結合タンパク質。
[10]アフィニティー分離マトリックスに結合する[1]~[9]のいずれか1つに記載のIg結合タンパク質を含む、アフィニティー分離マトリックス。
[11]Ig結合タンパク質に親和性をもつ任意のタンパク質をアフィニティー精製するための、[1]~[9]のいずれか1つに記載のIg結合タンパク質又は[10]に記載のアフィニティー分離マトリックスの使用。
[12]Ig配列を含むタンパク質のアフィニティー精製の方法であって、前記方法が、
(a)Ig配列を含む該タンパク質を含有する液体を用意すること、
(b)[10]に記載のアフィニティー分離マトリックスを用意すること、
(c)Ig配列を含むタンパク質への、[1]~[9]のいずれか1つに記載の前記少なくとも1つのIg結合タンパク質の結合を可能にする条件下で、前記アフィニティー分離マトリックスを液体と接触させること、及び
(d)Ig配列を含む前記タンパク質を、前記アフィニティー精製マトリックスから溶出すること
を含む方法。
[13]ステップ(d)において、Ig配列を含むタンパク質の90%超が、[1]~[9]のいずれかのIg結合タンパク質から溶出される、[12]に記載の方法。
[14](e)アフィニティー精製マトリックスをアルカリ洗浄液で洗浄する追加ステップを含む、[12]~[13]に記載の方法。
[15]Ig結合タンパク質のIg結合能が、アルカリ性条件下でのインキュベーション前のIg結合能の少なくとも70%である、[14]に記載の方法。
【0008】
この発明の概要は、必ずしも本発明のすべての特徴を説明するものではない。他の実施形態は、あとに続く詳細な説明を検討することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】新規Ig結合タンパク質のアミノ酸配列。上段の数字は、Ig結合タンパク質の対応するアミノ酸の位置を指す。
図1Aは、配列番号17のコンセンサスアミノ酸配列及び配列番号1~6のアミノ酸配列。位置3、9、40、43、及び46の可変アミノ酸を灰色で示す。
図1Bは、配列番号18のコンセンサスアミノ酸配列及び配列番号7~10のアミノ酸配列。位置2、4、7、40、46、及び53の可変アミノ酸を灰色で示す。
【
図2】Praesto(商標)Pure85への固定化。エポキシマトリックスであるPraesto(商標)Pure85へのIg結合タンパク質のカップリング効率。Y軸:エポキシマトリックスへのタンパク質の結合量、単位mg/ml。
【
図3】本発明のIg結合タンパク質の動的結合容量。
図3Aは、市販のタンパク質樹脂MabSelect SuReと比較したIg結合タンパク質の動的結合容量(DBC;mg/ml)を示す。
図3Bは、MabSelect SuReと比較したIg結合タンパク質の動的結合容量(DBC;mg/ml)の向上を示す。
【
図4】本発明のIg結合タンパク質の苛性安定性。MabSelect SuReと比較したIg結合タンパク質のアルカリ安定性の分析。Y軸:24時間、0.5M NaOHインキュベートした後の残存IgG結合活性、単位%。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、及び試薬はさまざまでありうるので、以下で本発明を詳細に説明する前に、本発明はそれらに限定されるものではないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のものであり、添付の請求項によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0011】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「バイオテクノロジー用語の多言語用語集(A multilingual glossary of biotechnological terms)(lUPAC勧告)」、Leuenberger,H.G.W,Nagel,B.and Kolbl,H.eds.(1995),Helvetica Chimica Acta,CH-4010 バーゼル、スイスに示されている定義と一致する。
【0012】
本明細書及びあとに続く特許請求の範囲を通して、文脈上別段の要求がない限り、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」や「(comprising)」などの変化形は、記載されたメンバー、完全体(integer)、若しくはステップ、又はメンバー、完全体、若しくはステップのグループを含むが、他のメンバー、完全体、若しくはステップ、又はメンバー、完全体、若しくはステップのグループを除外しないことを意味すると理解されたい。本発明の明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除き、複数形も含めて交換可能に使用され、それぞれの意味に該当する。また、本明細書で使用される場合、「及び/又は(and/or)」は、1つ又は複数の掲げられた項目のあらゆる可能な組み合わせ、及び代替(「or」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、包含する。
【0013】
本明細書で使用される「約」という用語は、明示的に記載されている量及びそこから±10%はずれることも含む。より好ましくは、5%はずれることが「約」という用語に含まれる。
【0014】
いくつかの文献(例えば特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書など)が、本明細書の本文全体を通して引用されている。本明細書のどの部分も、本発明が、先の発明に基づいてそのような開示に先行する権利を与えられていないことを認めるものと解釈されるべきではない。本明細書で引用されているいくつかの文書は、「参照により組み込まれる」ことを特徴とする。このように組み込まれた文献の定義や教示と、本明細書に記載された定義や教示との間に矛盾がある場合は、本明細書の文が優先される。
【0015】
本明細書で言及されている配列はすべて、添付の配列表に開示されており、その配列表の内容と開示全体は本明細書の一部である。
【0016】
本発明の文脈では、「Ig結合タンパク質」又は「免疫グロブリン結合タンパク質」は、免疫グロブリンに特異的に結合することができるタンパク質を記述するのに使用される。本明細書で理解される「免疫グロブリン」又は「Ig」としては、例えばヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG4、マウスIgG、ラットIgG、ヤギIgG、ウシIgG、モルモットIgG、ウサギIgGなどの哺乳類IgG、ヒトIgM、ヒトIgA、及びFc領域を含む免疫グロブリン断片(「Fc断片」若しくは「Fc」とも呼ばれる)及び/又はFab領域を含む免疫グロブリン断片(「Fab断片」若しくは「Fab」とも呼ばれる)を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されない。Ig結合タンパク質は、完全な免疫グロブリン、並びにFc領域を含むIg断片及び/又はFab領域を含むIg断片に結合することができる。本明細書で理解される「免疫グロブリン」の定義には、免疫グロブリンを含む融合タンパク質、Fc領域を含む免疫グロブリンの断片(Fc断片)、Fab領域を含む免疫グロブリンの断片(Fab断片)、Fc領域を含む免疫グロブリンの断片を含む融合タンパク質、Fab領域を含む免疫グロブリンの断片を含む融合タンパク質、Ig又はFc領域を含むIg断片(Fc断片)を含む複合体、及びFab領域を含むIg断片(Fab断片)を含む複合体が含まれる。
【0017】
本発明による「結合」という用語は、好ましくは、特異的な結合に関する。「特異的な結合」とは、Ig結合タンパク質又はIg結合ドメインが、それに対して特異的である免疫グロブリンに、別の非免疫グロブリン標的への結合と比較してより強く結合することを意味する。
【0018】
「結合活性」という用語は、本発明のIg結合タンパク質が免疫グロブリンに結合する能力を指す。例えば、結合活性は、アルカリ処理の前及び/又は後に測定することができる。結合活性は、Ig結合タンパク質、又はマトリックスに結合しているIg結合タンパク質、すなわち固定化された結合タンパク質について測定することができる。「人工的な」という用語は、天然に存在しないもの、すなわちこの用語は、人によって作製又は改変されたものを指す。例えば、人の手によって(例えば、研究室で遺伝子工学によって、シャフリング法によって、若しくは化学反応によってなど)作り出された、又は意図的に改変されたポリペプチド又はポリヌクレオチドの配列は人工的である。
【0019】
「解離定数」語又は「KD」という用語は、特異的な結合親和性を画定する。本明細書で使用される場合、「KD」という用語(通常は「mol/L」の単位で測定され、「M」と略記されることがある)は、第1のタンパク質と第2のタンパク質の間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことを意図している。本発明の文脈では、KDという用語は、Ig結合タンパク質と免疫グロブリンの間の結合親和性を記述するために特に使用される。本発明のIg結合タンパク質は、免疫グロブリンに対する解離定数KDが、少なくとも1mM以下、好ましくは100nM以下、より好ましくは50nM以下、さらに好ましくは10nM以下であれば、免疫グロブリンに結合するとみなされる。
【0020】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結された直鎖状分子鎖を意味し、特定の長さの生成物を指すものではない。したがって、「ペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指すのに使用される他の用語は、「ポリペプチド」の定義の範囲内に包含され、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語のいずれかの代わりに、又はこれらの用語のいずれかと言い換え可能に使用することができる。「ポリペプチド」という用語はまた、ポリペプチドの翻訳後修飾の生成物を指すことも意図しており、その翻訳後修飾には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、タンパク質分解による切断、天然に存在しないアミノ酸による修飾、及び当技術分野で周知の同様の修飾が含まれるが、これらに限定されるものではない。したがって、2つ以上のタンパク質ドメインからなるIg結合タンパク質も、「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語の定義に当てはまる。
【0021】
「アルカリ安定な(alkaline stable)」又は「アルカリ安定性(alkaline stability)」又は「苛性安定な(caustic stable)」又は「苛性安定性(caustic stability)」(本明細書では「cs」とも略す)という用語は、免疫グロブリンに結合する能力を著しく失うことなくアルカリ性条件に耐える本発明のIg結合タンパク質の能力を指す。当業者は、例えば実施例に記載されているように、Ig結合タンパク質を例えば水酸化ナトリウム溶液とインキュベートし、それに続いて、当業者に公知の慣習的な実験によって、例えばクロマトグラフィーアプローチで、免疫グロブリンへの結合活性を試験することによって、アルカリ安定性を容易に試験することができる。
【0022】
本発明のIg結合タンパク質及び本発明のIg結合タンパク質を含むマトリックスは、アルカリ安定性が「増加」又は「向上」しており、前記Ig結合タンパク質を組み込んでいる分子及びマトリックスがアルカリ性条件下で参照に比べて長期間安定であることを意味する。
【0023】
本明細書で使用される「バリアント」とは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失又は挿入によって他のアミノ酸配列と異なるIg結合タンパク質又はドメインのアミノ酸配列を含む。これらの修飾は、遺伝子工学によって作り出されてもよく、又は人によって実施される化学合成若しくは化学反応によって生成されてもよい。
【0024】
本明細書で使用される「複合体」という用語は、第2のタンパク質又は非タンパク質性の部分などの他の物質に化学的に結合している少なくとも第1のタンパク質を含む、又は本質的にそれからなる分子に関する。
【0025】
「改変」又は「アミノ酸改変」という用語は、ポリペプチド配列の特定の位置にあるアミノ酸を別のアミノ酸によって交換、削除、又は挿入すること指す。既知の遺伝子コード並びに組換え及び合成DNA技術を考慮して、熟練した科学者はアミノ酸バリアントをコードするDNAを容易に構築することができる。
【0026】
「置換」又は「アミノ酸置換」という用語は、ポリペプチド配列の特定の位置にあるアミノ酸の別のアミノ酸による置換を指す。「欠失」又は「アミノ酸欠失」という用語は、ポリペプチド配列の特定の位置にあるアミノ酸の除去を指す。
【0027】
「挿入」又は「アミノ酸挿入」という用語は、ポリペプチド配列へのアミノ酸の追加を指す。
【0028】
本明細書全体を通して、アミノ酸残基の位置番号は、例えば配列番号1~10のものに対応するように指定されている。
【0029】
「アミノ酸配列の同一性」という用語は、2つ以上のタンパク質のアミノ酸配列の同一性(又は差異)の定量的な比較を指す。参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」又は「パーセント同一の」又は「パーセント同一性」とは、最大のパーセント配列同一性を達成するように配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である配列中のアミノ酸残基のパーセント割合と定義される。
【0030】
配列同一性を決定するためには、問い合わせタンパク質配列を参照タンパク質配列に対してアライメントする。アライメントの方法は当該技術分野では周知である。シーケンスアライメントの方法は当該技術分野で周知である。例えば、参照アミノ酸配列に対する任意のポリペプチドのアミノ酸配列の同一性の程度を決定するためには、SIM Local類似性プログラムが好ましくは用いられる。マルチプルアラインメント解析には、当業者に公知のClustalWが好ましくは用いられる。
【0031】
配列の同一性の程度は、一般的に、修飾されていない配列の全長に関して計算される。本明細書で使用される場合、「パーセント同一の」又は「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」又は「パーセント同一性」という言い回しは、2つのポリペプチド配列の文脈において、以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いて、又は目視によって測定して、最大の対応関係について比較及びアラインメントしたとき、いくつかの実施形態では少なくとも89.5%、いくつかの実施形態では少なくとも91%、いくつかの実施形態では少なくとも92%、いくつかの実施形態では少なくとも93%、いくつかの実施形態では少なくとも94%、いくつかの実施形態では少なくとも95%、いくつかの実施形態では少なくとも96%、いくつかの実施形態では少なくとも97%、いくつかの実施形態では少なくとも98%、いくつかの実施形態では100%のアミノ酸残基同一性を有する2つ以上の配列又は部分配列を指す。明確にするために、例えば少なくとも89.5%の同一性をもつ配列は、89.5%よりも高い同一性をもつすべての配列、例えば、少なくとも89.6%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸の同一性をもつ実施形態を含む。パーセント同一性は、いくつかの実施形態では少なくとも52残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも53残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも54残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも55残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも56残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも57残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも58残基の領域にわたって存在している。
【0032】
「融合された」という用語は、構成要素が直接又はペプチドリンカーを介して、ペプチド結合で連結されていることを意味する。
【0033】
「融合タンパク質」という用語は、少なくとも第2のタンパク質に遺伝工学的に結合された少なくとも第1のタンパク質を含むタンパク質に関する。融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質をコードしていた2つ以上の遺伝子の結合を通して作り出される。したがって、融合タンパク質は、単一の直線的なポリペプチドとして発現される同一又は異なるタンパク質の多量体を含みうる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、広い意味で、少なくとも2つの他の分子を共有結合する分子を指す。本発明の典型的な実施形態では、「リンカー」とは、Ig結合ドメインを少なくとも1つのさらなるIg結合ドメインと連結する部分、すなわち、2つのタンパク質ドメインを互いに連結して多量体を作り出す部分と理解される。好ましい実施形態では、「リンカー」はペプチドリンカーであり、すなわち、2つのタンパク質ドメインを連結する部分は、1つの単一アミノ酸又は2つ以上のアミノ酸を含むペプチドである。
【0035】
「クロマトグラフィー」という用語は、移動相と固定相を用いて、試料中の1つの種類の分子(例えば免疫グロブリン)を他の分子(例えば汚染物質)から分離する分離技術を指す。液体移動相は分子の混合物を含有し、これらを、固定相(固体マトリックスなど)を横切って又は固定相を通して送り出す。移動相中のさまざまな分子が固定相と特異的に相互作用するので、移動相に含まれる分子を分離することができる。
【0036】
「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、固定相に結合したリガンドが移動相(試料)中の分子(免疫グロブリンなど)と相互作用する、すなわち、リガンドが精製すべき分子に対して特異的な結合親和性を有するクロマトグラフィーの特定の様式を指す。本発明の文脈で理解されるように、アフィニティークロマトグラフィーは、免疫グロブリンを含有する試料を、本発明のIg結合タンパク質などのクロマトグラフィーリガンドを含む固定相に加えるものである。
【0037】
「固体支持体」又は「固形マトリックス」という用語は、固定相と交換可能で使用される。
【0038】
本明細書に言い換え可能で使用される「アフィニティーマトリックス」又は「アフィニティー分離マトリックス」又は「アフィニティークロマトグラフィーマトリックス」は、アフィニティーリガンド、例えば本発明のIg結合タンパク質が結合しているマトリックス、例えばクロマトグラフィーマトリックスを指す。リガンド(例えばIg結合タンパク質)は、混合物から精製又は除去される目的の分子(例えば上記で定義された免疫グロブリン)に特異的に結合することができる。
【0039】
本明細書で使用される「アフィニティー精製」という用語は、マトリックスに固定化されたIg結合タンパク質に、上記で定義された免疫グロブリンを結合させることで、液体から上記で定義された免疫グロブリンを精製する方法を指す。それにより、免疫グロブリンを除く他の混合物成分がすべて除去される。さらなるステップでは、免疫グロブリンが精製された形で溶出される。
【0040】
発明の実施形態
以下、本発明についてさらに説明する。以下の文章では本発明の異なる実施形態がより詳細に画定される。以下で画定される各実施形態は、明確に反対の指示がない限り、他の実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示されたいずれの特徴も、好ましい又は有利であると示された他の特徴又は特徴と組み合わせることができる。
【0041】
1つの実施形態では、Igタンパク質は1つ又は複数のドメインを含み、少なくとも1つのドメインは、配列番号1~10のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1~7のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも89.5%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の同一性をもつアミノ酸を含む、又は本質的にそれからなる、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、Igタンパク質は1つ又は複数のドメインを含み、少なくとも1つのドメインは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは/又は10のいずれかと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の同一性をもつアミノ酸を含む、又は本質的にそれからなる、又はそれからなる。本発明のIg結合ドメインは、58個のアミノ酸からなる3つのヘリックスの束であり、アミノ酸残基7~19のヘリックス1、アミノ酸残基23~37のヘリックス2、及びアミノ酸残基40~56のヘリックス3を含む。
【0042】
本発明のIg結合タンパク質の驚くべき利点は、低いpHや高いpH(pH13以上)のなどの極端な条件下でも、Ig結合性を失わずに安定していることである。本明細書に記載のIg結合タンパク質は、Ig結合特性を損なうことなく、長期間にわたってアルカリ安定性を示す。さらに、Igの結合性を大きく失うことなく、低いpHにおいて安定している。本発明のIg結合タンパク質は、0.5M NaOHで少なくとも24時間インキュベートした後の結合能の減少が30%未満である。この特徴は、NaOH濃度が高いアルカリ溶液を用いてマトリックス状の汚染物質を除去する洗浄手順を含むクロマトグラフィーのアプローチにとって重要であり、例えばその結果マトリックスは何回も使用することができる。高い苛性安定性に加えて、Ig結合タンパク質は高いカップリング効率を示す。さらに、アフィニティークロマトグラフィーの重要なステップは、本発明のIg結合タンパク質に結合しているタンパク質の溶出である。このステップは通常、低いpHで行われる。本発明のIg結合タンパク質は、この処理後もIgへの結合性を失わない。
【0043】
好ましいIg結合タンパク質。いくつかの実施形態では、配列番号1(cs50)、配列番号2(cs52)、配列番号3(cs58)、配列番号4(cs59)、配列番号5(cs60)、配列番号6(cs51)、配列番号7(cs56)、配列番号8(cs54)、配列番号9(cs57)、又は配列番号10(cs55)のいずれか1つのアミノ酸配列は、1又は2個のさらなる置換を有する。いくつかの実施形態は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のいずれかに対するアミノ酸配列と少なくとも95%配列同一性をもつアミノ酸配列に関する。いくつかの実施形態は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のいずれかに対するアミノ酸配列と少なくとも98%配列同一性をもつアミノ酸配列に関する。
【0044】
いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は1つ又は複数のIg結合ドメインを含み、少なくとも1つのドメインは、配列番号1~7のアミノ酸配列、又は配列番号1~7のいずれかと少なくとも95%の同一性をもつアミノ酸配列を含む、又はそれからなる。Ig結合タンパク質は、例えば0.5M NaOHで少なくとも24時間インキュベートした後の残存Ig結合能によって決定して、アルカリ性条件下でインキュベートする前のIg結合能の少なくとも70%のIg結合能を有する。
【0045】
配列番号17。1つの実施形態は、配列番号17のアミノ酸配列又はそれと少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む、又は本質的にそれからなる、それからなる1つ又は複数のIg結合ドメインを含むIg結合タンパク質を包含する。配列番号17のアミノ酸配列を
図1A及びここに示す。
【0046】
IDX3KFDEAX9QAAFYEILHLPNLTEEQRNAFIQSLRDDPSX40SLX43LLX46EAKKLNDAQAPP
ここで、3位のアミノ酸(X3)はA又はSから選択され、9位のアミノ酸(X9)はQ又はAから選択され、40位のアミノ酸(X40)はT又はVから選択され、43位のアミノ酸(X43)はS又はAから選択され、46位のアミノ酸(X46)はG又はAから選択される。
【0047】
配列番号17のアミノ酸配列の選ばれた例は、
図1Aに示すように、配列番号1~6である。いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、又は少なくとも89.5%の同一性をもつ配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。例えば、配列番号1と少なくとも89.5%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性をもつアミノ酸配列は、配列番号2(cs52;配列番号1と98.3%の同一性)、配列番号3(cs58;配列番号1と98.3%の同一性)、配列番号4(cs59;配列番号1と98.3%の同一性)、配列番号5(cs60;配列番号1と96.6%の同一性)、及び配列番号6(cs51;配列番号1の96.6%の同一性)が挙げられるが、これらに限定されない。配列番号17の例示的なアミノ酸配列に関するアミノ酸同一性については表1を参照されたい。
【0048】
【0049】
配列番号18。1つの実施形態は、配列番号18のアミノ酸配列又はそれと少なくとも89.5%同一のアミノ酸配列を含む、又は本質的にそれからなる、それからなる1つ又は複数のIg結合ドメインを含むIg結合タンパク質を包含する。配列番号18のアミノ酸配列は
図1B及びここに示されている。
IX
2AX
4HDX
7DQQAAFYEILHLPNLTEEQRNAFIQSLRDDPSX
40SLEILX
46EAKKLNX
53SQAPK
ここで、2位のアミノ酸(X
2)はA又はDから選択され、4位のアミノ酸(X
4)はK又はQから選択され、7位のアミノ酸(X
7)はK又はEから選択され、40位のアミノ酸(X
40)はQ又はVから選択され、46位のアミノ酸(X
46)はG又はAから選択され、53位のアミノ酸(X
53)はD又はEから選択される。
【0050】
配列番号18のアミノ酸配列の選ばれた例は、
図1Bに示すように、配列番号7~10である。いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列、又は少なくとも92%の同一性をもつアミノ酸配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。例えば、配列番号7と少なくとも89.5%の同一性をもつアミノ酸配列としては、配列番号8(cs54;配列番号7と96.6%の同一性)、配列番号10(cs55;配列番号7と94.8%の同一性)、及び配列番号9(cs57;配列番号7と93.1%の同一性)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば配列番号18のアミノ酸配列に関するアミノ酸同一性については表2を参照されたい。
【0051】
【0052】
いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号1~8に記載のアミノ酸配列又は配列番号1~8のいずれかと少なくとも92%同一の配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。
【0053】
いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号8(cs54)に記載のアミノ酸配列又はそれと少なくとも92%同一のアミノ酸配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。他の実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号10(cs55)に記載のアミノ酸配列又はそれと少なくとも94%同一、好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号1~10、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、若しくは配列番号10に記載のアミノ酸配列、又は配列番号1~10のいずれか、好ましくは配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは10のいずれかと少なくとも95%同一の配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。他の実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号9(cs57)に記載のアミノ酸配列又はそれと少なくとも95%同一、好ましくは少なくとも98%同一のアミノ酸配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。
【0054】
他の実施形態では、Ig結合タンパク質は、配列番号8、9、10に記載のアミノ酸配列又は配列番号8、9、10のいずれかと少なくとも89.5%同一の配列の1つ又は複数のドメインを含んでいる。ただし54位にあたるアミノ酸はセリンである。
【0055】
免疫グロブリンに対する親和性。本発明のIg結合タンパク質は、解離定数KDが好ましくは500nM未満、又は100nM未満、さらにより好ましくは10nM以下で、免疫グロブリンに結合する。Ig結合タンパク質又はドメインの結合親和性を決定するための方法、すなわち解離定数KDを決定するための方法は、当業者に公知であり、例えば当業者に公知の以下の方法から選択することができる。表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく技術、結合平衡除外分析(KinExAアッセイ)、バイオレイヤー干渉法(BLI)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、フローサイトメトリー、等温滴定カロリメトリー(ITC)、分析的超遠心分離法、ラジオイムノアッセイ(RIA又はIRMA)及び増強化学発光(ECL)。いくつかの方法は、実施例でさらに説明される。典型的には、解離定数KDは、20℃、25℃、又は30℃で決定される。具体的に記載されていない場合、本明細書に記載のKD値は、表面プラズモン共鳴により22℃±3℃で決定される。1つの実施形態では、Ig結合タンパク質は、0.1nM~100nM、好ましくは0.1nM~50nMの範囲のヒトIgG1に対する解離定数KDを有する(実施例6、表3を参照)。
【0056】
Ig結合タンパク質の高いアルカリ安定性。本発明のIg結合タンパク質は、実施例及び図に示すように、驚くべきことに、Ig結合タンパク質のとりわけ良好なアルカリ安定性を示す。Ig結合タンパク質のアルカリ安定性は、Ig結合活性の低下を比較することによって決定される。いくつかの実施形態では、アルカリ性の液体は、0.1~1.0M NaOH又はKOH、好ましくは0.25~0.5M NaOH又はKOHを含む。本発明のIg結合タンパク質はアルカリ安定性が高いので、13より高いpHをもつアルカリ性の液体を、固定化された本発明のIg結合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスを洗浄するのに使用することができる。いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質のアルカリ安定性は、0.5M NaOHで少なくとも24時間インキュベートした後のIg結合活性の低下を比較することによって決定される(
図4及び実施例を参照)。
【0057】
多量体。1つの実施形態では、Ig結合タンパク質は、1、2、3、4、5、6、7、又は8個、好ましくは互いに連結された2、3、4、5、又は6個のIg結合ドメインを含み、すなわち、Ig結合タンパク質は、例えば、単量体、二量体、三量体、四量体、五量体、又は六量体でありうる。多量体は、2つ、3つ、4つ、又はさらにそれより多くの結合ドメインを含みうる。本発明の多量体は、当業者に周知の組換えDNA技術によって人工的に作り出された融合タンパク質である。
【0058】
いくつかの実施形態では、多量体はホモ多量体であり、例えば、Ig結合タンパク質のすべてのIg結合ドメインのアミノ酸配列は同一である。
【0059】
多量体は、2つ以上のIg結合ドメインを含むことができ、前記Ig結合ドメインは、好ましくは、上記配列を含む、又はそれから本質的に構成される。二量体の例は、配列番号11(cs58二量体)、配列番号12(cs59二量体)、配列番号13(cs60二量体)、及び配列番号14(cs50二量体)に示されている。五量体の例は、配列番号15(cs50五量体)及び配列番号16(cs59五量体)に示されている。
【0060】
いくつかの実施形態では、多量体はヘテロ多量体であり、例えば、少なくとも1つのIg結合ドメインは、Ig結合タンパク質内の他のIg結合ドメインと異なるアミノ酸配列を有する。
【0061】
リンカー。1つの実施形態のいくつかの実施形態では、1つ又は複数のIg結合ドメインは、互いに直接連結されている。他の実施形態では、1つ又は複数のIg結合ドメインは、1つ又は複数のリンカーで互いに連結されている。これらの典型的な実施形態で好ましいのはペプチドリンカーである。これは、ペプチドリンカーが第1のIg結合ドメインと第2のIg結合ドメインを連結するアミノ酸配列であることを意味する。ペプチドリンカーは、第1のIg結合ドメイン及び第2のIg結合ドメインに、ドメインのC末端とN末端の間のペプチド結合によって連結され、それにより単一の直線的なポリペプチド鎖が作り出される。リンカーの長さと組成は、少なくとも1つから最大で約30個のアミノ酸の間でさまざまでありうる。より具体的には、ペプチドリンカーは、1~30個のアミノ酸、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30個のアミノ酸の長さを有する。ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、苛性条件やプロテアーゼに対して安定であることが好ましい。リンカーは、Ig結合タンパク質のドメインのコンフォメーションを不安定すべきではない。よく知られているのは、グリシンやセリンなどの小さいアミノ酸を含む又はそれからなるリンカーである。リンカーは、グリシンを豊富に含んでいることができる(例えば、リンカーの50%を超える残基がグリシン残基であることができる)。また、さらなるアミノ酸を含むリンカーも好ましい。本発明の他の実施形態は、アラニン、プロリン、及びセリンからなるリンカーを含む。タンパク質の融合のための他のリンカーは当該技術分野で公知であり、それを使用することができる。いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質の多量体は、Ig結合ドメインを連結する同一の又は異なる1つ又は複数のリンカーを含む。
【0062】
アフィニティー分離マトリックス。別の実施形態では、本発明は、前述の実施形態のIg結合タンパク質を含むアフィニティー分離マトリックスを対象とする。
【0063】
好ましい実施形態では、アフィニティー分離マトリックスは固体支持体である。アフィニティー分離マトリックスは、上記の少なくとも1つのIg結合タンパク質を含む。
【0064】
アフィニティーマトリックスは、免疫グロブリンの分離に有用であり、洗浄過程の間に適用されるようなアルカリ性が高い条件の後でさえも、Ig結合特性を保持すべきである。マトリックスのそのような洗浄は、マトリックスを長期間繰り返し使用するためには不可欠である。
【0065】
アフィニティークロマトグラフィーの固体支持体マトリックスは、当該技術分野で公知であり、例えば、アガロース及びアガロースの安定化誘導体(例えばPraesto(登録商標)Pure、Praesto(登録商標)Jetted A50、Mabselect(登録商標)、PrismA(登録商標)、セファロース6B、CaptivA(登録商標)、rPROTEIN A セファロース Fast Flow、その他)、セルロース又はセルロースの誘導体、多孔質ガラス(例えばProSep(登録商標)vA樹脂)、モノリス(例えばCIM(登録商標)モノリス)、シリカ、酸化ジルコニウム(例えばCMジルコニア又はCPG(登録商標))、酸化チタン、又は合成ポリマー(例えばPoros 50A若しくはPoros MabCapture(登録商標)A樹脂などのポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、単分散ポリアクリレート樹脂(例えばUniMab(商標)、UniMab(商標)Pro)、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリルアミドなど)及びさまざまな組成物のハイドロゲルが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、支持体は、多糖類などのポリヒドロキシポリマーを含む。支持体に適した多糖類の例としては、寒天、アガロース、デキストラン、デンプン、セルロース、プルランなどや、及びこれらの安定化したバリアントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
固体支持体マトリックスのフォーマットは、よく知られている好適なもののいずれでもよい。本明細書に記載のIg結合タンパク質をカップリングするためのそのような固体支持体マトリックスは、例えば以下のうちの1つを含む可能性がある。カラム、キャピラリー、粒子、膜、フィルター、モノリス、繊維、パッド、ゲル、スライド、プレート、カセット、又はクロマトグラフィーで一般的に使用され、当業者に公知の他のフォーマット。
【0067】
1つの実施形態では、マトリックスは、ビーズとしても知られる実質的に球状の粒子、例えばセファロース若しくはアガロースビーズ又は単分散ポリアクリレートビーズで構成される。好適な粒子径は、40~70pmなど、20~80pmなど、10~100pmなど5~500pmの直径範囲でありうる。粒子形態のマトリックスは、充填層として、又は拡張床を含む吊り下げられた形態で使用することができる。
【0068】
代替的な実施形態では、固体支持体マトリックスは膜であり、例えばヒドロゲル膜である。いくつかの実施形態では、アフィニティー精製は、1つの実施形態のIg結合タンパク質が共有結合しているマトリックスとしての膜を含むものである。また、固体支持体は、カートリッジ内の膜の形態であることもできる。
【0069】
いくつかの実施形態では、アフィニティー精製は、1つの実施形態のIg結合タンパク質が共有結合している固体支持体マトリックスを含有するクロマトグラフィーカラムを含むものである。
【0070】
固体支持体への固定化。本発明の実施形態では、Ig結合タンパク質は固体支持体に結合している。本発明のいくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、N-末端及び/又はC-末端に追加のアミノ酸残基を含むことができる。本発明のIg結合タンパク質は、従来のカップリング技術によって好適な固体支持体マトリックスに結合させることができる。タンパク質リガンドを固体支持体に固定化するための方法は、この分野で周知であり、標準的な技術や機器設備を用いて当業者によって容易に行われる。いくつかの実施形態では、カップリングは、例えば、複数のリジンを介した多点カップリングであっても、例えばシステインを介した単一点カップリングであってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、アルカリ安定Ig結合タンパク質は、固相(マトリックス)に共有結合するための結合部位を含む。サイト特異的な結合部位は、システイン又はリジンなどの天然アミノ酸を含み、これにより、固相又は固相とタンパク質の間のリンカーの反応性基との特異的な化学反応が可能になる。
【0072】
いくつかの実施形態では、結合部位はIg結合タンパク質のC-末端又はN-末端に直接存在してもよい。いくつかの実施形態では、単一のシステインが、Ig結合タンパク質の部位特異的な固定化のためにC-末端に配置されている。C-末端システインを有することの利点は、システインのチオールと支持体上の求電子基とが反応し、結果としてチオエーテル架橋結合がもたらされることを通して、Ig結合タンパク質の結合が達成できることである。これにより、結合タンパク質の優れた移動性がもたらされ、結合能が増加する。
【0073】
他の実施形態では、N-末端又はC-末端と結合部位の間にリンカーが存在してもよい。本発明のいくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、末端システインをもつ、3~20個のアミノ酸、好ましくは4~10個のアミノ酸のN-又はC-末端アミノ酸配列を含みうる。末端の結合部位のアミノ酸は、プロリン、グリシン、アラニン、及びセリンの群から選択することができ、単一のシステインがカップリングのためにC-末端にある。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、N-末端及び/又はC-末端の追加のアミノ酸残基、例えば、N-末端のリーダー配列、及び/又はN-末端若しくはC-末端にタグを含む若しくは含まないカップリング配列を含んでいてもよい。
【0075】
Ig結合タンパク質の使用。1つの実施形態では、本発明は、免疫グロブリン又はそのバリアントのアフィニティー精製のための1つの実施形態のIg結合タンパク質又は1つの実施形態のアフィニティーマトリックスの使用を対象とし、すなわち、本発明のIg結合タンパク質はアフィニティークロマトグラフィーに使用される。いくつかの実施形態では、本発明のIg結合タンパク質は、本発明の1つの実施形態に記載の固体支持体に固定化されている。
【0076】
免疫グロブリンのアフィニティー精製方法。1つの実施形態では、本発明は、免疫グロブリンのアフィニティー精製方法を対象とし、この方法は以下のステップを含む。
(a)IgG1、IgG2、IgG4、IgM、IgA、Ig断片、Fc断片、又はFab断片などのIgを含むタンパク質(上記で定義された融合タンパク質及び複合体を含む)を含有する液体を用意すること、
(b)前記アフィニティー分離マトリックスに固定化された上記の固定化Ig結合タンパク質を含むアフィニティー分離マトリックスを用意すること、
(c)上記の少なくとも1つのIg結合タンパク質のIgへの結合を可能にする条件下で、前記液体を前記アフィニティー分離マトリックスと接触させること、並びに
(d)前記マトリックスから前記Igを溶出させ、それにより前記Igを含有する溶出液を得ること。
【0077】
いくつかの実施形態では、アフィニティー精製方法は、アフィニティー分離マトリックスに非特異的に結合している一部又はすべての分子をアフィニティー分離マトリックスから除去するのに十分な条件下でステップ(c)と(d)の間に実施される1つ又は複数の洗浄ステップをさらに含んでいてもよい。非特異的に結合とは、少なくとも1つのIg結合タンパク質とIgの間の相互作用を伴わない任意の結合を意味する。
【0078】
開示の使用や方法に適したアフィニティー分離マトリックスは、上記の実施形態による当業者に公知のマトリックスである。
【0079】
いくつかの実施形態では、ステップ(d)におけるIg結合タンパク質からの免疫グロブリンの溶出は、pHの変化及び/又は塩濃度の変化を通して達成される。一般には、アフィニティー精製の方法を実行するための好適な条件は当業者に周知である。いくつかの実施形態では、開示のIg結合タンパク質を含むアフィニティー精製の開示の使用又は方法は、3.5以上(例えば約3.8、約4.0、又は約4.5)のpHで、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%のIg含有タンパク質の溶出を可能にすることができる。本発明のIg結合タンパク質は安定性が高いので、pH3.5以上の溶液をIgタンパク質の溶出に用いることができる(実施例6を参照)。
【0080】
いくつかの実施形態では、アフィニティーマトリックスを効率的に洗浄するための、好ましくは、例えばpHが13~14のアルカリ性の液体を使用するさらなるステップ(f)が追加される。ある特定の実施形態では、洗浄液体は、0.1~1.0MのNaOH又はKOH、好ましくは0.25~0.5MのNaOH又はKOHを含む。本発明のIg結合タンパク質はアルカ性安定性が高いので、このような強アルカリ性溶液を洗浄目的に使用することができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質のIg結合能は、例えば0.5M NaOHで少なくとも24時間インキュベートした後の残存Ig結合能によって決定して、アルカリ性条件下でインキュベーションする前のIg結合能の少なくとも70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は100%である(
図4及び実施例を参照)。
【0082】
いくつかの実施形態では、アフィニティーマトリックスは、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回、又は少なくとも100回再使用することができ、ステップ(a)~(e)の繰り返しにより、任意選択で(a)~(f)は、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回、又は少なくとも100回繰り返すことができる。
【0083】
核酸分子。1つの実施形態では、本発明は、上記に開示のIg結合タンパク質をコードする核酸分子、好ましくは単離された核酸分子を対象とする。1つの実施形態では、本発明は、核酸分子を含むベクターを対象とする。ベクターは、タンパク質のコーディング情報を宿主細胞に導入ために使用できる任意の分子又は実体(例えば核酸、プラスミド、バクテリオファージ又はウイルス)を意味する。1つの実施形態では、ベクターは発現ベクターである。
【0084】
1つの実施形態では、本発明は、上記に開示の核酸やベクター、例えば原核生物の宿主細胞、例えば大腸菌、又は真核生物の宿主、例えば酵母サッカロマイセス・セレビシエ若しくはピキア・パストリス、又はCHO細胞などの哺乳類の細胞を含む発現系を対象とする。
【0085】
Ig結合タンパク質の製造方法。1つの実施形態では、本発明は、次のステップを含む本発明のIg結合タンパク質の製造方法を対象とする。(a)前記Ig結合タンパク質を得るために、結合タンパク質の発現に好適な条件下で1つの実施形態の宿主細胞を培養するステップ、及び(b)任意選択で前記Ig結合タンパク質を分離するステップ。原核生物や真核生物の宿主を培養するのに好適な条件は当業者に周知である。
【0086】
本発明のIg結合分子は、平易な有機合成法、固相支援合成法、又は市販の自動合成機など、多くの従来からあり、よく知られている技術のいずれかによって調製することができる。一方で、それらのIg結合分子は、従来の組換え技術単独で、又は従来の合成技術と組み合わせて調製することもできる。
【0087】
本発明の1つの実施形態は、上記に詳述した本発明によるIg結合タンパク質の調製のための方法を対象とし、前記方法は以下のステップを含む。(a)上記で画定されたIg結合タンパク質をコードする核酸を調製するステップ、(b)前記核酸を発現ベクターに導入するステップ、(c)前記発現ベクターを宿主細胞に導入するステップ、(d)宿主細胞を培養するステップ、(e)Ig結合タンパク質が発現する培養条件に宿主細胞を供し、それにより、上記のIg結合タンパク質を産生させるステップ、任意選択で、(f)ステップ(e)で産生させたタンパク質を分離すること、及び(g)任意選択でタンパク質を上記の固体マトリックスに結合させるステップ。
【0088】
本発明のさらなる実施形態では、Ig結合タンパク質の生成は、無細胞のインビトロ転写/翻訳で行われる。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、本発明のさらなる説明のために提供される。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、以下の実施例は、上記説明に基づいた本発明の実施可能性を示すものに過ぎない。
【0090】
実施例1.本発明のIg結合タンパク質の生成
人工Ig結合リガンドは、最初、天然に存在するプロテインAドメイン及びプロテインAドメインバリアント(例えばZドメイン)のシャッフリング法で生成した。より詳細には、本明細書で理解されるシャッフリング法は、一組の同一でない既知のアミノ酸配列から出発する人工アミノ酸配列をもたらす組み立て方法である。シャッフリング法は以下のステップを含んでいた。a)5つの天然に存在するプロテインAのドメインE、B、D、A、及びC、並びにプロテインAバリアントのドメインZの配列を用意するステップ、b)前記配列のアラインメントするステップ、c)インシリコ統計的断片化を行って、再結合した(recombined)部分配列を特定するためのステップ、d)モザイク産物を生成するためのさまざまな断片の新しい人工配列、すなわち新しいアミノ酸配列を組み立てるステップ。ステップc)で生成された断片はあらゆる長さであり、例えば、断片化された親配列の長さがnであった場合、断片の長さは1~n-1であった。
【0091】
モザイク産物中のアミノ酸の相対的な位置は出発アミノ酸配列に対して維持された。人工的にシャッフルされたIg結合タンパク質の全体的なアミノ酸配列は、天然に存在するプロテインAドメイン又はドメインZのいずれかの全体アミノ酸配列に85%以下の同一性であるという点で人工的である。最初の人工Ig結合タンパク質を生成した後、タンパク質をアミノ酸配列の部位特異的ランダム化によってさらに変えて、機能特性をさらに変えた。さらなる改変を、個々のアミノ酸残基の部位飽和変異誘発によって導入した。例えば、アルカリ性で安定なIg結合タンパク質cs26(配列番号19)のアミノ酸配列は、このアプローチによって生成した。
【0092】
バリアントcs50、cs52、cs58、cs59、cs60、cs51、cs56、cs54、cs55、及びcs57を、合成遺伝子断片(ツイストバイオサイエンス/サーモフィッシャーサイエンティフィック)で生成した。遺伝子断片は精製PCR産物に相当し、pET28aベクターの派生物にクローニングした。ライゲーション産物をエレクトロポレーションによって大腸菌XL2-blue細胞(ストラタジーン)に形質転換した。単一コロニーをPCRによってスクリーニングして、適切なサイズのインサートが入ったコンストラクトを特定した。DNAシーケンシングを用いて正しい配列を確認した。本発明のバリアントはすべて、例えば天然に存在するプロテインAドメインC、プロテインAドメインB、又はドメインZと80%未満の同一性を有する。
【0093】
実施例2.Ig結合タンパク質の発現
BL21(DE3)コンピテント細胞を、Ig結合タンパク質をコードする発現プラスミドで形質転換した。細胞を選択寒天プレート(カナマイシン)上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。前培養は、500mL容の三角フラスコ中で、50μg/mlのカナマイシンを補充した50mlの2×YT培地に単一コロニーから播き、一般的なオービタルシェーカーで37℃、200rpmにて17時間培養した。OD600読み出しは4~6の範囲にあるべきである。主要培養物は、1L容の厚壁三角フラスコ中で、50μg/mlカナマイシン及び微量元素(Studier 2005を参照)を補充した300mlのスーパーリッチ培地(2%グルコース、5%酵母抽出物、0.89%グリセロール、0、76%ラクトース、250mM MOPS、202mM TRIS、10mM MgS04、pH7.4、消泡剤SE15からなる改変H15培地)に、出発OD600を0.3に調整した前述の一晩培養物から播いた。培養物を共振音響ミキサー(RAMbio)に移し、37℃にて20×gでインキュベートした。Oxy‐Pumpストッパーで通気を促した。組換えタンパク質発現は、グルコースを代謝し、続いてラクトースを細胞に入れることにより誘導した。細胞を一晩、約18時間培養して、最終OD600が約30~45に達した。細胞収集前にOD600を測定し、0.6/OD600に調整した試料を取り出し、沈殿させ、-20℃で凍結した。バイオマス細胞を集めるために、12000×gで15分間、20℃で遠心分離した。ペレットの重量を測定した(湿重量)。プロセス前に細胞を-20℃で保存した。
【0094】
実施例3:Ig結合タンパク質の発現及び溶解度のSDS-PAGE分析
試料を90μl抽出バッファー(0.2mg/mlリゾチーム、0.5×BugBuster、6mM MgS04、6mM MgCL、15U/mlベンゾナーゼを補充したPBS)に再懸濁し、850rpmで室温にて15分間、サーモミキサーで撹拌することにより可溶化し、続いて-80℃で15分間インキュベートした。解凍後、遠心分離(16000×g、2分、室温)によって可溶性タンパク質を不溶性タンパク質から分離した。上清を取り出し(可溶性画分)、ペレット(不溶性画分)を同量の尿素バッファー(8M尿素、0.2Mトリス、20mM EDTA、pH7.0)に再懸濁した。可溶性及び不溶性画分の両方から35μlを採取し、10μlの5×サンプルバッファー及び5μlの0.5M DTTを加えた。試料を95℃で5分間煮沸した。最後に、それらの試料のうちの5μlをNuPage Novex 4-12% Bis-Tris SDSゲルに載せ、製造者の推奨に従って泳動し、クーマシーで染色した。すべてのIg結合タンパク質の高いレベルの発現が、選択された期間内の最適化された条件下で見られた(データは示さず)。SDS‐PAGEによれば、すべての発現Ig結合タンパク質は、95%を超えて溶けた。
【0095】
実施例4:Ig結合タンパク質の精製
Ig結合タンパク質を、大腸菌の可溶性画分に発現した。細胞を、細胞破砕バッファーに再懸濁し、超音波細胞破砕システム(Sonopuls HD 2200、Bandelin)で溶解した。精製ステップは、製造者の指示に従って、AKTAvantシステム(GEヘルスケア)を使用してIECセファロースSP-HP(GEヘルスケア)で、pH3.0のクエン酸バッファー(20mMクエン酸、1mM EDTA、pH3.0)を用いて行った。純粋なタンパク質画分は、直線勾配で塩化ナトリウム濃度を1Mに上げることによって10カラム量で溶出した。
【0096】
実施例5.Ig結合タンパク質は高い親和性でIgGに結合する(表面プラズモン共鳴実験で測定)。
CM5センサーチップ(GEヘルスケア)をSPRランニングバッファーで平衡化した。表面に露出したカルボキシル基を、EDCとNHSの混合物を通すことによって活性化して、反応性のエステル基を得た。700~1500RUのオンリガンドをフローセルに、オフリガンドを別のフローセルに固定化した。リガンドを固定化した後にエタノールアミンを注入することにより、共有結合していないIg結合タンパク質が除去される。リガンドが結合すると、タンパク質分析物が表面に蓄積され、屈折率が上がる。屈折率のこの変化はリアルタイムで測定し、時間に対する応答ユニット又はレゾナンスユニット(RU)としてプロットする。分析物を連続希釈して好適な流量(μl/分)でチップに載せた。各実行の後、チップ表面を再生バッファーで再生し、ランニングバッファーで平衡化した。対照試料をマトリックスに加えた。再生と再平衡化は前述の通りに行った。結合試験をBiacore(登録商標)3000(GEヘルスケア)を用いて25℃で実施した。データの評価は、製造者から提供されたBIAevaluation 3.0ソフトウェアを用いて、Langmuir 1:1モデル(Rl=0)によって行った。評価した解離定数(KD)をオフターゲットに対して標準化し、さまざまな人工Ig結合タンパク質のKD値を、セツキシマブ(IgG1)については表3Aに、セツキシマブ(IgG1)、ナタリズマブ(IgG4)、及びパニツマブ(IgG2)については表3Bに示す。
【0097】
【0098】
実施例6.アガロースをベースとするクロマトグラフィービーズPraesto(商標)Pure85に結合させたIg結合タンパク質-カップリング効率、DBC10%、溶出
精製したIg結合タンパク質を、製造者の指示に従って、アガロースをベースとするクロマトグラフィービーズ(Praesto(商標)Pure85、Purolite;カタログ番号PR01265-164)に結合させた(カップリング条件:pH9.5、3時間、35℃、4.1M NaS0
4、エタノールアミンで一晩ブロッキング)。カップリング効率については
図2を参照されたい。結合させた樹脂と市販のMabSelect樹脂(カタログ番号29049104、GEヘルスケア)をスーパーコンパクト(super compact)5/50カラム(Goetec GmbH)に充填した。ポリクローナルヒトIgG Gammanorm(登録商標)(Ocatpharm)をIgG試料として使用した(濃度2.2mg/ml)。ポリクローナルhIgG試料は、固定化されたIg結合タンパク質を含むマトリックスに飽和量で加えた。動的結合容量(DBC、mg/ml)については
図3を参照されたい。同等の結果が、Praesto85エポキシ樹脂に結合させた20mg/mlのcs59(二量体)又はcs60(二量体)で得られた(カップリング条件:pH9.5、3時間、35℃、350mg/ml樹脂Na
2S0
4)。
【0099】
マトリックスを50mM酢酸バッファー(pH3.5)で洗浄し、そのあと0.1Mリン酸で洗浄して、固定化されたIg結合タンパク質に結合したhIgGを溶出させた。試験したすべてのIg結合タンパク質において、97%を超える抗体が溶出した(100%、cs55、cs56、cs57;99.5%、cs54;98.3%、cs52;97.4%、cs51;97.3%、cs50)。あるいは、マトリックスを100mM酢酸バッファー(pH3.7)で洗浄し、そのあと0.1Mリン酸で洗浄して、固定化Ig結合タンパク質に結合したhIgGを溶出させた。98%を超える抗体が、cs60(二量体)を固定化したマトリックスから溶出した。
【0100】
実施例7.エポキシ活性化マトリックスに結合させたIg結合タンパク質のアルカリ安定性
カラムを0.5M NaOHと室温(22℃+/-3℃)で、0時間及び24時間インキュベートした。0.5M NaOHとのインキュベーションの前後で、固定化されたタンパク質のIg結合活性を分析した。結果を
図4に示す。さらに、いくつかのIg結合タンパク質について、苛性安定性を0.5M NaOHで48時間後に分析した。強アルカリ性溶液中で2日間インキュベートした後さえも、残存する結合能はcs50で79%、cs52で75.2%、cs56で61.4%であった。MabSelect Sureと比較して、結合能は少なくとも38.9%(cs56)、70.1%(cs52)、78.7%(cs50)向上した。
【0101】
20mg/mlのcs59(二量体)又はcs60(二量体)を固定化したPraesto 85エポキシ樹脂を、0.5M NaOHで室温(22℃±3℃)にて24時間及び50時間インキュベートした。強アルカリ溶液中で2日を超えた後でさえも、cs59(二量体)及びcs60(二量体)は、Igに対する結合能がそれぞれ95.3%及び98.6%残っていること示した。50時間のアルカリ処理後のcs59及びcs60の残存IgG結合能は、配列番号19の苛性安定タンパク質に比べて向上している(Igに対する結合能が88%残っている)。
【配列表】
【国際調査報告】