(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-25
(54)【発明の名称】液体ヘリウムを用いた動作のための極低温維持装置およびそれを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/02 20060101AFI20220317BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20220317BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20220317BHJP
G01N 23/20033 20180101ALI20220317BHJP
G01N 23/2204 20180101ALI20220317BHJP
【FI】
F25B9/02 B
G01N21/65
G01N21/01 C
G01N23/20033
G01N23/2204
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542402
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2020053216
(87)【国際公開番号】W WO2020161343
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501393966
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ビシェッテ, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】スッター, デニュス
【テーマコード(参考)】
2G001
2G043
2G059
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001AA04
2G001QA02
2G043DA06
2G043DA08
2G043EA03
2G043MA03
2G059DD13
2G059DD18
2G059EE01
2G059EE03
2G059HH01
(57)【要約】
液体ヘリウムを用いた動作のための極低温維持装置は、主要領域(4)と液体ヘリウム-4の槽(8)を含有するためのポット領域(6)とを有する一次チャンバ(2)と、液体ヘリウム-4を導入するための一次入口手段(12)およびガス状ヘリウム-4を放出するための一次出口手段(14)であって、一次入口手段は、一次領域の中に延在する輸送ライン(16)を備える、一次入口手段および一次出口手段とを備える。極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の持続的供給の下、低減させられたヘリウム-4圧力での動作のために構成され、それによって、ガス状ヘリウム-4は、出口手段を通して圧送される。一次チャンバは、ポット領域と主要領域との間に配列されるバッフル構造(18)を備え、バッフル構造は、ガス状ヘリウム-4の流動のための少なくとも1つの流路(20a、20b)を画定し、各流路は、ポット領域と主要領域との間の迂回接続を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体ヘリウムを用いた動作のための極低温維持装置であって、
一次チャンバであって、前記一次チャンバは、主要領域(4)と、液体ヘリウム-4の槽(8)を含有するためのポット領域(6)とを有する、一次チャンバ(2)と、
液体ヘリウム-4を導入するための一次入口手段(12)およびガス状ヘリウム-4を放出するための一次出口手段(14)であって、前記一次入口手段は、前記一次チャンバの中に延在する輸送ライン(16)を備える、一次入口手段(12)および一次出口手段(14)と
を備え、
前記極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の持続的供給の下での動作のために構成され、
前記極低温維持装置は、低減させられたヘリウム-4圧力での動作のために構成され、それによって、ガス状ヘリウム-4は、前記出口手段を通して圧送され、
前記一次チャンバは、前記ポット領域と前記主要領域との間に配列されたバッフル構造(18)を備え、前記バッフル構造は、ガス状ヘリウム-4の流動のための少なくとも1つの流路(20a、20b)を画定し、
各流路は、前記ポット領域と前記主要領域との間の迂回接続を形成することを特徴とする、極低温維持装置。
【請求項2】
前記バッフル構造(18)は、熱交換面積(A
H)を有する熱交換領域を有する、請求項1に記載の極低温維持装置。
【請求項3】
前記ポット領域内の平均液体/ガス表面積(A
S)に対する熱交換面積(A
H)の比率は、少なくとも1、特に、少なくとも2、より具体的には、少なくとも5、さらにより具体的には、少なくとも10である、請求項2に記載の極低温維持装置。
【請求項4】
前記バッフル構造は、前記一次チャンバの前記ポット領域から前記主要領域につながる少なくとも1つの渦巻状表面を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項5】
前記バッフル構造(18)は、軸方向通路を備え、前記軸方向通路は、その中に前記輸送ライン(16)を受容する、請求項1~4のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項6】
前記軸方向通路は、前記バッフル構造(18)に一体的に接続された管状区分として形成される、請求項5に記載の極低温維持装置。
【請求項7】
前記バッフル構造、および随意に前記一次チャンバは、3D-印刷技術によって作製される、請求項1~6のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項8】
少なくとも前記一次チャンバの前記ポット領域を実質的に囲繞するように配置された放熱遮蔽体をさらに備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項9】
前記放熱遮蔽体は、前記一次チャンバの外壁部分への熱接触によって冷却可能である、請求項8に記載の極低温維持装置。
【請求項10】
前記一次チャンバは、実質的に円柱形である、請求項1~9のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項11】
前記ポット領域の外部表面(10)は、サンプルの外部取付のための一次取付手段(17)を具備する、請求項1~10のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項12】
前記出口手段は、ヘリウム圧送デバイスに接続するための結合手段を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項13】
ヘリウム-3を用いた動作のための二次チャンバ(32)と、ヘリウム-3のための二次入口手段(34)と、ヘリウム-3のための二次出口手段(36)とをさらに備える、請求項1~12のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項14】
前記二次チャンバ(32)内の低減させられたヘリウム-3圧力での動作のために構成され、それによって、ガス状ヘリウム-3は、前記二次出口手段(36)を通して圧送される、請求項13に記載の極低温維持装置。
【請求項15】
前記二次入口手段(36)は、カニューレ状輸送ライン(38)を備え、前記カニューレ状輸送ライン(38)は、
i)前記バッフル構造(18)の流路に実質的に追従するように形成された湾曲区分(40)、
および/または
ii)前記カニューレ状輸送ライン中に形成された蛇行区分または渦巻区分(42)であって、前記蛇行区分または渦巻区分(42)は、前記液体ヘリウム-4槽内にある前記カニューレ状輸送ラインの領域中にある、前記蛇行区分または渦巻き区分(42)
によって供給されるヘリウム-3を事前冷却するために構成される、請求項12または14に記載の極低温維持装置。
【請求項16】
前記二次チャンバ(32)の外部表面は、サンプルの外部取付のための二次取付手段(44)を具備する、請求項13~15のいずれか一項に記載の極低温維持装置。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の極低温維持装置を動作させるための方法であって、前記方法は、冷却段階と、その後の定常段階とを含み、
前記冷却段階では、液体ヘリウム-4が、外部リザーバから、前記一次入口手段を通して、前記ポット領域の中に供給され、それによって、液体ヘリウム-4の槽が前記ポット領域の底部表面上に蓄積し始めるまで液体ヘリウム-4を蒸発冷却し、
前記定常段階では、液体ヘリウム-4の入口流量を調整し、かつ/またはガス状ヘリウム-4を前記一次出口手段を通して圧送する速度を調整することによって、ならびに、随意に、制御された加熱によって、液体ヘリウム-4の槽温度が維持される、方法。
【請求項18】
前記液体ヘリウム-4の槽温度は、1.4K~1.5Kの範囲内に維持される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記定常段階では、ヘリウム-3が、外部リザーバから前記二次入口手段を通して前記二次チャンバ領域の中に供給され、それによって、液体ヘリウム-3の二次槽が形成されるまでヘリウム-3を蒸発冷却し、その後、ヘリウム-3の入口流量を調整し、かつ/または前記二次出口手段を通したガス状ヘリウム-3の圧送の速度を調整することによって、二次槽温度を維持する、請求項13~16いずれか一項に記載の極低温維持装置を動作させるための請求項18に記載の方法。
【請求項20】
サンプル、検出器デバイス、医療走査デバイス、超伝導性デバイス、電子デバイス、または内燃機関構成要素を冷却するための請求項1~16のいずれか一項に記載の極低温維持装置の使用。
【請求項21】
分光法、特に、
ラマン分光法、
光電子分光法、
赤外線分光法、
X線吸収分光法、
共鳴非弾性X線散乱、
非弾性中性子またはX線散乱、
走査型トンネル分光法、
回折測定、特に、
X線回折、
中性子回折、
透過型電子顕微鏡検査、
電子性質測定、特に、
電気輸送特性測定、
熱電輸送測定、
極性カー効果測定、
磁化測定
のための請求項1~16のいずれか一項に記載の極低温維持装置の使用。
【請求項22】
請求項1~16のいずれか一項に記載の極低温維持装置によって冷却されるために構成される、デバイス。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか一項に記載の極低温維持装置に取り付けられるように構成される、サンプルホルダ(46)。
【請求項24】
分光法、特に、
ラマン分光法、
光電子分光法、
赤外線分光法、
X線吸収分光法、
共鳴非弾性X線散乱、
非弾性中性子またはX線散乱、
走査型トンネル分光法、
回折測定、特に、
X線回折、
中性子回折、
透過型電子顕微鏡検査、
電子性質測定、特に、
電気輸送特性測定、
熱電輸送測定、
極性カー効果測定、
磁化測定
における使用のために適合される、請求項23に記載のサンプルホルダ。
【請求項25】
サンプル、検出器デバイス、医療走査デバイス、超伝導デバイス、電子デバイス、または内燃機関構成要素を冷却するための使用のために適合される、請求項23に記載のサンプルホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、液体ヘリウムを用いた動作のための極低温維持装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
極低温維持装置は、一定の低温環境を可能にする冷却デバイスである。概して、乾式および湿式極低温維持装置が存在する。乾式システムは、閉ガス圧縮またはペルチェ素子方法を通して動作する。湿式極低温維持装置は、対照的に、液体寒剤、特に、ヘリウムを冷却媒体として使用する。槽式極低温維持装置と流動式極低温維持装置とは、湿式極低温に対する2つの異なるアプローチを構成する。流動式極低温維持装置は、コールドフィンガを通して液体ヘリウムを流動させることによって機能する。この方式では、最低3Kまでの一定温度を有するコンパクト極低温維持装置が実現され得る。ヘリウムのための槽式極低温維持装置は、典型的に、内側ヘリウムリザーバを熱遮蔽するための外側液体窒素ジャケットを伴う。主要ヘリウム-4リザーバに接続された圧送可能1K-ポットを通して、最低約1.5Kまでの温度が到達され得る。ヘリウム-3のための付加的1K-ポットを追加することは、0.3Kに到達することを可能にする。
【0003】
しかしながら、これらの極低温維持装置の概念は、いくつかの短所を有する。流動式極低温維持装置は、到達可能ベース温度の点で限定され、加えて、不良なヘリウム消費効率を有する。槽式極低温維持装置は、対照的に、低速冷却時間を有し、液体ヘリウムおよび窒素等の寒剤の大型リザーバに起因して、嵩張る。さらに、その動作は、内部低温ニードル弁を要求する。
【0004】
極低温維持装置技術の包括的概要が、Jack W. Ekin “Experimental Techniques for Low Temperature Measurements - Cryostat Design, Materials, and Critical-Current Testing” (2016) Oxford University Press ISBN 978-0-19-857054-7に見出され得る。流動式極低温維持装置の最近の例は、van der Linden et. al, “A compact and versatile dynamic flow cryostat for photon science”, Rev. Sci. Instr. 87, 115103 (2016)に説明されている。
【0005】
第SU529348A1号は、周囲圧力で動作するように設計されたヘリウム-4槽のための極低温維持装置を開示している。液体ヘリウムの蒸発率を低減させるために、極低温維持装置は、複数の外部テイルピンを有するコルゲート管として形成された縮径部を有する。設計は、図面が巨大な物体を示しており、巨大な物体は、ヘリウム-4槽内に浸漬され、槽コンテナの底部におけるナイフ縁タイプ構造上にあることから、比較的大きいサイズのために最適化されているように見える。
【0006】
第US2015/0276129A1号は、特に、磁気共鳴撮像(MRI)システムにおける使用ものための極低温維持装置と、そのような極低温維持装置の中への熱入力を低減させるための方法とを開示している。極低温維持装置は、極低温条件をそのコア内に維持しながら可搬であるように設計されている。動作の間、液体寒剤、特に液体ヘリウム-4が、MRIシステムの超伝導性磁石コイルの冷却を提供する。この目的のために、液体ヘリウム-4は、液体ヘリウム-4槽内に浸漬される冷却ヘッドを有する能動冷蔵デバイスによって冷却される。運搬のために、作動していない冷蔵デバイスは、除去され、極低温条件が、液体ヘリウム-4によって維持される。蒸発ヘリウム損失を最小化するために、特別に構成された挿入体が、能動冷蔵デバイスを以前に保持していた開口部の中に導入される。特に、挿入体は、挿入体の長さより著しく長いガス逃散チャネルを画定する。
【0007】
第US5365750A号は、水族館のタンク等の環境を冷却することおよび写真処理槽の冷却等の特定の他の用途のために意図された遠隔冷蔵プローブを開示している。プローブは、冷却されるために媒体中への浸漬のために意図され、アンビリカル管によって凝縮器ユニットに接続される。プローブを囲繞する媒体の冷却が、プローブ筐体全体の熱接触によって達成される。冷却効果を向上させるために、冷蔵流体が、中心ダクト内のプローブに進入し、次いで、プローブ筐体の内面に隣接する渦巻経路に沿って、凝縮器ユニットに戻るように向けられる。
【0008】
第SU1118843A1号は、蒸気発生器および他の高電圧熱交換器において使用されるための「パイプインパイプ」熱交換器を開示する。これは、内側下側パイプと、外側パイプとを含有し、蓋によって片側が覆われ、その内面は、渦巻表面を備える。
【0009】
第US4136526A号は、ポータブルヘリウム-4極低温維持装置の内側に配置されたポータブルヘリウム-3極低温維持装置を開示し、ポータブルヘリウム-4極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の槽のためのデュワージャーによって、基本的に公知の態様で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0276129号明細書
【特許文献2】米国特許第4136526号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
多数の既存の極低温維持装置設計にもかかわらず、依然として、向上させられた極低温維持装置システムに対するニーズが存在する。特に、コンパクトでコスト効率的設計を有し、それでもなお、1.5K~1.8Kの範囲内の温度に到達することを可能にする極低温維持装置を有することが所望され得る。これはまた、統合されたコンパクト設計におけるヘリウム-3を用いたさらなる冷却段階を実装する可能性を広げ得る。
【0012】
上記の目的は、本発明の極低温維持装置を用いて達成される。
【0013】
液体ヘリウムを用いた動作のための極低温維持装置は、主要領域と液体ヘリウム-4の槽を含有するためのポット領域とを有する一次チャンバを備え、さらに、液体ヘリウム-4を導入するための一次入口手段と、ガス状ヘリウム-4を放出するための一次出口手段とを備え、一次入口手段は、一次チャンバの中に延在する輸送ラインを備える。本発明によると、
-極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の持続的供給の下での動作のために構成され、
-極低温維持装置は、低減させられたヘリウム-4圧力での動作のために構成され、それによって、ガス状ヘリウム-4は、出口手段を通して、圧送され、
-一次チャンバは、ポット領域と主要領域との間に配列されたバッフル構造を備え、バッフル構造は、ガス状ヘリウム-4の流動のための少なくとも1つの流路を画定し、
-各流路は、ポット領域と主要領域との間の迂回接続を形成する。
【0014】
本発明は、完全に新しいタイプの湿式極低温を提供する。本質的に、これは、外部ヘリウムデュワーと直接接続しているいわゆる「1K-ポット」と併せた圧送可能熱交換器から成る。この構築は、槽式極低温維持装置の同一基本ベース温度を維持する一方、指先のサイズまで小型化され得る。不可欠な部品、すなわち圧送可能熱交換器は、バッフル構造、典型的には渦巻状構造であり、これは、3次元印刷技術によって製造され得る。
【0015】
槽式極低温維持装置と比較して、本発明は、小型化を可能にするはるかに簡略化された概念を提供する。これは、槽式極低温維持装置技術の基本ベース温度を保ちながら、流動式極低温維持装置に匹敵する(またはより良好な)コンパクト性を可能にする。簡略化された設計は、より高速かつより安価な製造の可能性を広げる。より重要なこととして、コンパクト性は、完全に新しい極低温用途を可能にする。最も着目すべきこととして、これは、原位置真空操作式極低温に対する実践的解決策を提供する。
【0016】
別様に明示的に定義されない限り、「上側」、「下側」、「上部」、「底部」、「上方」、および「下方」等の任意の位置インジケーションは、動作位置で配置された極低温維持装置に関連して理解されるものとする。設計に応じて、極低温維持装置は、垂直、水平、または任意の他の位置で動作させられ得ることに留意されたい。
【0017】
本発明の極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の最小化された槽を用いた動作のために設計され、液体ヘリウム-4は、低減させられた圧力下に維持され、それによって、対応して、大気圧で4.2K沸点を下回る温度に到達し得る。この目的のために、極低温維持装置は、液体ヘリウム-4の持続的供給の下での動作のために構成され、一次チャンバの底部表面によって閉じ込められた液体ヘリウム-4の槽の形成につながる。低減させられたヘリウム-4圧力は、ガス状ヘリウム-4を圧送することによって確立され、ガス状ヘリウム-4は、極低温維持装置の出口手段に接続された圧送システムによって、槽から出口手段を通って持続的に蒸発している。本発明の原理は、液体水素または液体窒素等の他の寒剤にも適用され得ることが想定される。
【0018】
一般に、極低温維持装置は、高い真空環境の中への一次チャンバの挿入を可能にするために、いくつかの好適なフランジまたは他の接続手段を含む。液体ヘリウム-4の供給に関連した用語「持続的」は、広義には、特に、短い一時停止によって中断される長時間にわたる供給もまた含むと理解されるものとする。換言すると、持続供給は、定常流動またはパターン化された流動であり得る媒体の制御された流動を含むものとする。オン-オフ動作が、輸送ライン内のガスの侵入につながり得、これが熱漏出を生じさせ得るので、媒体の定常流動が概して好ましい。「制御された」は、液体リザーバの充填状況の観点から、かつ蒸発速度の観点から好適な速度を提供する意味を有するものとする。極低温維持装置はまた、概して、本分野で公知の種々の構成要素、例えば、温度センサ、圧力ゲージ、抵抗加熱器等を装備する。
【0019】
本発明によると、一次チャンバは、ポット領域と主要領域との間に位置付けられたバッフル構造を含有する。このバッフル構造は、熱交換要素として、およびガス状ヘリウム-4の流路を制約する要素としての両方で作用する。換言すると、バッフルは、単純な直線ガス流動のための障害物として作用する。設計の選択肢に応じて、バッフル構造は、ガス状ヘリウム-4のための少なくとも1つの流路を画定する。重要なこととして、これらの流路のいずれかは、ポット領域と主要領域との間の迂回接続を形成するものとする。換言すると、バッフル構造は、ポット領域内の任意の点から、特に、ヘリウム-4槽表面の任意の点から開始し、バッフル構造の上方に位置する主要領域までの直線接続を妨げるものとする。したがって、「迂回」は、「間接」または「非直線」と同等であるものとして理解されるものとする。組み合わせて、本発明のバッフル構造は、その熱交換要素の表面とのガス状ヘリウム-4の接触を通して、熱交換を提供する。同様に、バッフル構造は、ヘリウム槽の直上のガス状領域と主要領域内の出口手段との間の実質的圧力差を維持することを可能にする流動制限を形成する。また、バッフル構造は、主要領域から熱放射による望ましくない熱侵入を効果的に遮断する。
【0020】
流動制限は、圧送速度および付随するヘリウム消費を許容範囲内に保ちながら、液体ヘリウム-4槽を4.2Kをはるかに下回る温度に維持するために必要とされる低圧を維持するために重要である。
【0021】
有利な実施形態が、従属請求項において定義される。
【0022】
一実施形態(請求項2)によると、バッフル構造は、熱交換面積(AH)を有する熱交換領域を有する。熱交換領域は、典型的に、低熱伝導性を有する薄いシートとして構成され、好ましくは、低熱伝導性金属から作製され、それにわたってヘリウムガスが、流動するように押進される。典型的には、シートは、0.2~1mmの厚さを有する。この文脈では、用語「低熱伝導性」は、4Kで、0.01~10W/(mK)の範囲内、特に、0.1~1W/(mK)の範囲内、より具体的には、0.2~0.4W/(mK)の範囲内の熱伝導性と理解されるものとする。バッフル構造の熱交換効率は、熱交換領域の総面積(AH)に依存する。バッフル構造の構築に応じて、熱交換領域は、ガス状ヘリウム-4の流路を画定するシート状要素と熱接触するある壁区分を含み得る。
【0023】
好ましい実施形態(請求項3)によると、ポット領域の平均液体/ガス表面積ASに対する熱交換面積AHの比率は、任意の動作極低温維持装置配向のために、少なくとも1、特に、少なくとも2、より具体的には、少なくとも5、さらにより具体的には、少なくとも10である。用語「任意の動作極低温維持装置配向」は、液体ヘリウムがバッフル構造に接触することおよび/または一次チャンバから外に自由に流動すること防止する任意の配向を含むと理解されるものとする。
【0024】
本文脈では、ポット領域は、液体ヘリウムの槽を含有するために好適である、すなわち、最大充填の場合に液体ヘリウムと接触し得る一次チャンバの一部と理解されるものとする。液体ヘリウムがポット領域内に存在するとき、それぞれの液体/ガス表面は、概して、極低温維持装置の配向、より具体的には、そのポット領域の配向と、液体レベルとに依存する面積を有する(すなわち、液体/ガス表面は、極低温維持装置が傾けられると、および/または液体の量が変化させられると、増減し得る)。なお、物理的空間内の任意の所与の極低温維持装置配向に関して、平均液体/ガス表面積ASは、ポット領域内の全ての可能な液体レベルにわたって、すなわち、ポット領域の所与の形状および配向に関する空ポット領域と満杯のポット領域との間の範囲に関して平均をとることによって明確に定義され得る。用語「平均」は、ここでは、算術平均と理解されるものとする。平均液体/ガス表面積ASは、ある単純形状のポット領域の場合、分析的に計算され得る一方、全ての他の場合では、数値的に計算され得る。数値計算は、着目構造のコンピュータ支援設計(CAD)平面からのデータを使用して実行され得る。
【0025】
別の実施形態によると、ポット領域と主要領域との間の方向に垂直なポット領域の平均断面積ACに対する熱交換面積AHの比率は、少なくとも1、特に、少なくとも2、より具体的には、少なくとも5、さらにより具体的には、少なくとも10である。さらなる解説のために、この実施形態では、平均断面積ACは、ポット領域の全ての断面にわたって平均をとることから生じる一方、そのような断面は、ポット領域と主要領域との間の方向に垂直なものである。より単純なポット領域形状、例えば、円柱体またはポット領域の底部とポット領域の上部との間に長手方向軸を有する本体の場合、平均されたポット領域の断面は、そのような軸に垂直なものであり得る。用語「平均」は、ここでは、算術平均と理解されるものとする。平均断面積Acは、ある単純形状のポット領域の場合、分析的に計算され得る一方、全ての他の場合には、数値的に計算され得る。
【0026】
バッフル構造は、ポット領域内の任意の点から開始して一次チャンバの主要領域内の任意の点までの任意の直線接続を妨げ、それによって、その間の任意の接続が必然的に迂回接続である限り、多くの方法で構成され得る。好ましい実施形態(請求項4)によると、バッフル構造は、一次チャンバのポット領域から主要領域につながる少なくとも1つの渦巻状表面を備える。バッフル構造が、少なくとも1つのさらに角度を付けてオフセットされた渦巻状表面を有することもまた、可能であり、便宜的である。そのような場合、バッフル構造は、ポット領域内の異なる場所から開始して主要領域内の異なる場所で終了する2つ以上の迂回流路を画定する。
【0027】
原理上、液体ヘリウム-4をポット領域の中に送達するための輸送ラインが、バッフル構造と別個に、例えば、一次チャンバの側壁に沿って配列された管状チャネルとして、配置され得る。有利な実施形態(請求項5)によると、バッフル構造は、長手方向通路を備え、長手方向通路は、その中に輸送ラインを受容する。用語「その中に受容する」は、輸送ラインが長手方向通路の全長にわたって挿入され得ること、または、単に長手方向通路の最上区分の中に挿入されることを含意するものとする。いくつかの実施形態では、長手方向通路は、実質的にバッフル構造の中心に配列される。1つの有利な実施形態(請求項6)によると、軸方向通路は、バッフル構造に一体的に接続された管状区分として形成される。
【0028】
好ましい実施形態(請求項7)によると、バッフル構造、随意に、任意の接続される構造は、3D-印刷技術によって作製される。アディティブ製造としても知られるこの技術は、任意の所望の形状、例えば、複数の角度を付けて変位させられた渦巻状表面および単一部品内で一体的に接続された長手方向通路を有するバッフル構造を形成することを可能にする。特に、非常にコンパクトな極低温維持装置設計を達成するために好適である1つの有利なバージョンでは、バッフル構造は、3D-印刷技術によって一次チャンバと一体的に形成される。例えば、光電子分光法等の表面敏感用途のために一次チャンバが超高真空(UHV)環境内に搭載されるものとすることを検討すると、3D-印刷によって形成されるそのようなチャンバのUHV互換性の問題が重要となる。
【0029】
粒子状形態で供給される材料の焼結または成形のいくつかの種類に依拠する金属またはプラスチック構造のアディティブ製造は、UHV条件とは直接的な互換性がないことが、一般的に認識されている。実際、多くの3D印刷された構造は、事実上、耐漏出性ではないが、これは、UHV互換性がある3D印刷された構造が生産されることができないことを含意するわけではない(例えば、Vovrosh, J., Voulazeris, G., Petrov, P.G. et al. Additive manufacturing of magnetic shielding and ultra-high vacuum flange for cold atom sensors. Sci Rep 8, 2023 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-20352-x参照)。耐漏出度は、印刷材料自体、開始材料の粒度、および印刷角度等の多くの異なるパラメータに依存することが見出されている。また、最初は漏出性であった3D印刷された構造が、異なる方法を通じて耐漏漏出性にされ得ることが見出されている。パーマロイ-80の金属印刷に関して、熱処理が、例えば、3D印刷されたフランジを従来のフランジと互換性があるものにすることが示されており、UHV条件が、この方式で取得されている。
【0030】
多くの用途では、周囲の高温構造からの放射熱負荷を低減させるために、放熱遮蔽体を極低温維持装置のある領域の周囲に配列することが好ましい。したがって、一実施形態(請求項8)によると、極低温維持装置はさらに、少なくとも一次チャンバのポット区分を実質的に囲繞するように配置された放熱遮蔽体を備える。極低温技術から周知であるように、そのような放熱遮蔽体は、補助極低温リザーバ、特に、液体窒素リザーバとの熱接触によって冷却され得る。しかしながら、特に有利な実施形態(請求項9)によると、放熱遮蔽体は、一次チャンバの外壁部分への熱接触によって冷却可能である。そのような熱接触は、有利なこととして、十分に大きな接触面積を確実にするように、主要領域のかなりの部分にわたって行われる。この実施形態では、放熱遮蔽体は、バッフル構造を通して圧送されているヘリウム-4ガスに熱を輸送することによって冷却される。本タイプの放熱遮蔽体実施形態は、バッフル構造と一体的に形成される一次チャンバと併せて、付加的(液体窒素)リザーバの必要性なく、ヘリウム-4槽の低温に到達することを可能にし、したがって、コンパクト設計に寄与することが見出されている。この目的のために、放熱遮蔽体は、銅等の良好な熱伝導性を有する材料から作製される。
【0031】
本発明による、極低温維持装置は、多様なタイプの一次チャンバ幾何学形状で実現され得るが、特に、一次チャンバが実質的に円柱形である場合、有利である(請求項10)。その円柱軸が実質的に鉛直で動作させられると、平均液体/ガス表面(AS)およびポット領域の平均断面積(AC)は両方とも、バッフル構造の下方の内側円柱形表面に対応する。
【0032】
一次チャンバの実用的外径は、0.001~1mに及ぶ。典型的に、一次チャンバは、2~200mm、特に、5~100mm、より具体的には、10~80mm、最も具体的には、約20~30mmの範囲内の内径を有する。チャンバ壁は、典型的に0.2~1mmの厚さを有する。熱交換迂回構造とポット領域とを含む典型的円柱長は、0.03~3mにある。したがって、外側極低温維持装置壁によって封入される総体積は、2.4×10-8~2.4m3に及ぶ。
【0033】
ヘリウム-4極低温維持装置として概して意図される動作モードによると、ポット領域の外部表面は、サンプルの外部取付のための一次取付手段を具備する(請求項11)。用語「外部」は、ここでは、ポット領域の中に含有されるヘリウム-4と接触しないポット領域の側面を指すと理解されるものとする。多くの事例では、一次取付手段は、動作条件下では、ポット領域の底部表面、すなわち、ポット領域の真下に配列される。しかしながら、一次取付手段はまた、液体ヘリウム-4槽に近接したある他の領域に、例えば、そこから横方向にも配列され得る。そのような取付手段は、概して、極低温学において公知である。それらは、例えば、限定ではないが、ブラケット、クランプ、フレーム、穿孔されたプレートレット、またはフランジとして構成され得る。多くの用途では、取付手段は、金属および/またはセラミック構成要素から作製される。冷却されることとなる物体が極低温維持装置内に含有される極低温液体中に浸漬される特定の用途と対照的に、外部取付手段の提供は、一次チャンバの外側の領域内のサンプルの設置を可能にし、それによって、分光検査を含む操作および検査のためのアクセス可能性を大きく向上させる。用語「サンプル」は、いくつかの科学的、医療的、または材料技術的理由から、極低温条件を要求する任意の着目物体に適用されるものとすることが強調されるべきである。
【0034】
有利な実施形態(請求項12)によると、出口手段は、ヘリウム圧送デバイスに接続するための結合手段を備える。好ましい実施形態では、ヘリウムを圧送デバイスに接続するための結合手段は、気密性であるものとする。用語「気密性」は、出口手段の内側領域から周囲領域へ(その逆も同様)のヘリウムを含む任意のガスの通過を全く許さないものとして理解されるものとする。
【0035】
特に有利な実施形態(請求項13)によると、極低温維持装置はさらに、ヘリウム-3を用いた動作のための二次チャンバと、ヘリウム-3のための二次入口手段と、ヘリウム-3のための二次出口手段とを備える。特に(請求項14)、そのような極低温維持装置は、二次チャンバ内の低減させられたヘリウム-3圧力での動作のために構成され得、それによって、ガス状ヘリウム-3は、二次出口手段を通して圧送される。理解されるように、そのような設計は、概して、特に、0.3~0.4Kの範囲内の低温に到達するように意図される。
【0036】
有利なこととして(請求項15)、二次入口手段は、カニューレ状輸送ラインを備え、カニューレ状輸送ラインは、
i)バッフル構造の流路に実質的に追従するように形成された湾曲区分、
および/または
ii)カニューレ状輸送ライン中に形成された蛇行区分または渦巻区分であって、蛇行区分または渦巻区分は、液体ヘリウム-4槽内にあるカニューレ状輸送ラインの領域中にある、蛇行区分または渦巻区分
によって供給されるヘリウム-3を事前冷却するために構成される。
【0037】
二次出口手段は、略直線管として構成され得る。代替として、それらは、バッフル構造の流路に実質的に追従するように形成された湾曲区分として構成され得る。
【0038】
ヘリウム-3極低温維持装置として概して意図される動作モードによると、二次チャンバの外部表面は、サンプルの外部取付のための二次取付手段を具備する(請求項16)。そのような二次取付手段のタイプ、構成、位置、および使用は、概して、「外部」が二次チャンバを指すという差異のみを除き、上記に説明される一次取付手段と同一である。
【0039】
本発明のさらなる側面によると、上記に定義された極低温維持装置を動作させるための方法は、冷却段階と、その後の定常段階とを含み、
-冷却段階では、液体ヘリウム-4は、外部リザーバから、一次入口手段を通して、ポット領域の中に供給され、それによって、液体ヘリウム-4の槽がポット領域の底部表面上に蓄積し始めるまで液体ヘリウム-4を蒸発冷却し、
-定常段階では、液体ヘリウム-4の入口流量を調整し、かつ/またはガス状ヘリウム-4を一次出口手段を通して圧送する速度を調整することによって、ならびに、随意に、制御された加熱によって、液体ヘリウム-4の槽温度が維持される。
【0040】
方法の実施形態(請求項18)によると、液体ヘリウム-4の槽温度は、1.8K~2.0Kの範囲内に維持される。
【0041】
ヘリウム-3のための二次チャンバを装備する極低温維持装置を動作させるためのある実施形態(請求項19)は、一次システムの定常段階において実施されるべき以下の手順、すなわち、液体ヘリウム-4の槽温度を、好適な、好ましくは、可能な限り低温に調整した後、ヘリウム-3は、外部リザーバから二次入口手段を通して二次チャンバの中に供給され、それによって、液体ヘリウム-3の二次槽が形成されるまでヘリウム-3を蒸発冷却することと、その後、ヘリウム-3の入口流量を調整し、かつ/または二次出口手段を通したガス状ヘリウム-3の圧送の速度を調整することによって、二次槽温度を維持することとを含む。
【0042】
本発明のさらに別の側面によると、上記に定義されるような極低温維持装置は、サンプル、検出器要素、医療走査デバイス、超伝導性デバイス、電子デバイス、または内燃機関構成要素を冷却するために使用される。用語「サンプル」は、限定ではないが、分光法のためのサンプル、顕微鏡検査のためのサンプル、医療または獣医学診断のためのサンプル、および材料科学のためのサンプルを含む調査、特性評価、または処置のために意図される材料の任意の部分として理解されるものとする。用語「検出器要素」は、特定の波長領域に限定されないが、特に、赤外線領域、可視領域および紫外線領域だけではなく、SQUID磁力計も含む検出技術のために好適なデバイスに適用され得る。用語「電子デバイス」は、概して、古典的および量子算出デバイスを含む電子回路網を指す。
【0043】
本発明のさらなる側面によると、上記に定義されるような極低温維持装置は、
分光法、特に、
-ラマン分光法
-光電子分光法
-赤外線分光法
-X線吸収分光法
-共鳴非弾性X線散乱
-非弾性中性子またはX線散乱
-走査型トンネル分光法
回折測定、特に、
-粉末、単結晶およびタンパク質上のX線回折
-粉末および単結晶上の中性子回折
-単結晶およびタンパク質上の透過型電子顕微鏡検査
電子性質測定、特に、
-ホール効果および抵抗率等の電気輸送特性測定
-ゼーベック効果およびネルンスト効果ならびに熱ホール効果等の熱電輸送測定
-極性カー効果測定
-トルクおよびSQUIDを用いた磁化測定
のために使用される。
【0044】
本発明のさらなる側面によると、極低温維持装置によって冷却されるために構成されたデバイスが提供される。そのようなデバイスは、特に、分光法、回折測定、または電子性質測定を行うためのデバイスを含み得る。
【0045】
本発明の別の側面によると、極低温維持装置に取り付けられるように構成されたサンプルホルダが提供される。用語「~ように構成される」は、サンプルホルダが使用される極低温維持装置寸法および取付手段と互換性があることを含むものとする。そのようなサンプルホルダは、サンプルのための機械的支持を提供し得、サンプルを定位置に保つための手段を提供し得る。サンプルホルダは、金属および/またはセラミック構成要素から作製され得、種々の設計で具現化され得、円柱、アーム、ロッド、またはパイロンが、典型的形態であり得る。サンプルホルダは、電気配線/光配線、または電気伝導もしく光伝導のための他の手段を備え得る。電気伝導または光伝導のための手段は、サンプルまたはサンプルの近傍の区域への情報、電荷、電流、熱、電場の伝送を可能にし得る。サンプルホルダは、サンプルの近傍の温度を調節するための加熱手段を備え得る。サンプルホルダはさらに、サンプルの近傍に種々のセンサを備え、限定ではないが、特定の用途のニーズに調節され得る温度、光応答、光学パラメータ、圧力を含む種々のパラメータを測定し得る。サンプルホルダは、1つ、2つ、またはそれを上回る部品として具現化され得る。例えば、2つの部品から成る実施形態では、先端部品が存在し得、先端部材は、サンプルを実際に保持し、基部部品に解放可能に接続され、これは、ひいては、極低温維持装置の対応して構成される取付手段に取付可能である。サンプルホルダの先端部品および基部部分は、単純プラグイン機構によって接続され、第1の部品の高速な交換を可能にし得る。
【0046】
一実施形態(請求項24)によると、サンプルホルダは、
分光法、特に、
-ラマン分光法
-光電子分光法
-赤外線分光法
-X線吸収分光法
-共鳴非弾性X線散乱
-非弾性中性子またはX線散乱
-走査型トンネル分光法
回折測定、特に、
-粉末、単結晶およびタンパク質上のX線回折
-粉末および単結晶上の中性子回折
-単結晶およびタンパク質上の透過型電子顕微鏡検査
電子性質測定、特に、
-ホール効果および抵抗率等の電気輸送特性測定
-ゼーベック効果およびネルンスト効果ならびに熱ホール効果等の熱電輸送測定
-極性カー効果測定
-トルクおよびSQUIDを用いた磁化測定
における使用のために適合される。
【0047】
さらなる実施形態(請求項25)によると、サンプルホルダは、サンプル、検出器デバイス、医療走査デバイス、超伝導デバイス、電子デバイス、または内燃機関構成要素を冷却するための使用のために適合される。
【0048】
極低温維持装置を構築することにおける概略的課題は、液体ヘリウムによって冷却されるコールドフィンガを室温環境から遮蔽することである。本質的に、タスクは、低温部品(コールドフィンガ)を周囲温度から保護することである。標準的アプローチは、極低温維持装置の骨組を不良熱伝導性材料から構築することである。この方式では、外部環境からの熱伝導が最小化される。この骨組とコールドフィンガとの間には、熱交換器が、配設され、周囲環境から生じる熱負荷に対して対抗する。この熱交換器は、液体ヘリウム槽から蒸発するガス状ヘリウムによって冷却され、効率的にするために、優れた熱伝導性材料が使用され、液体と熱交換器との間の表面積が最適化される。
【0049】
本発明は、完全に異なるアプローチを使用する。従来の極低温維持装置におけるように、骨組は、不良伝導性材料(ステンレス鋼、CoCr、またはポリマープラスチック)から作製される。周囲環境からの熱負荷を最小化するために、骨組構造の断面面積を低減させることが好ましい。本発明の根本にある重大な差異は、骨組の表面積が最適化されることである。この方式では、骨組は、不良伝導性であるが、低温排ガスと周囲環境からの熱負荷との間の熱交換器としての役割を果たす。故に、液体ヘリウムの完全冷却力は、サンプルが接続される極低温維持装置の最低温部分を直接冷却するために使用され得る。このように、液体からの完全冷却力は、サンプルを冷却するために使用され得、帰還ガスのみが、極低温維持装置の骨組を冷却するために使用される。これは、極低温維持装置をより効率的にし、全ての室温環境からの熱負荷に対して対抗する。サンプルが接続される部品のみが、優れた熱伝導性材料(無酸素銅、サファイア等)から作製される。極低温維持装置をより効率的にし、液体窒素遮蔽体を取り除くために、同様に効率的熱交換を有するように、比較的大きい区域にわたって冷却遮蔽体を直接骨組に接続することが可能である。したがって、遮蔽体は、遮蔽体を77K(すなわち、液体窒素温度)を下回る温度まで冷却するために十分な冷却力を提供するための大きい面積を有する熱交換構造に接続される。全ての上記の新しい概念は、極低温維持装置が小径および短長にも最小化され得ることを可能にする。
【0050】
本発明は、新しいコンパクトタイプの極低温維持装置を提供し、極低温維持装置は、既存の概念に優る多数の利点を有し、かつ新規極低温技術用途のための豊富な可能性を有する。新規かつ簡略化された設計は、直接的には、より少ない全体的構築材料、より短い生産時間、故に、大幅に低減させられた製造コストに変換される。機能性の観点から、極低温維持装置設計は、冷却休止時間を有し、これは、全ての既存の設計より実質的に短い。したがって、頻繁なサンプル変更を伴う活動のための新しい可能性を広げる。これは、例えば、シンクロトロン放射または透過型電子顕微鏡検査のいずれかを用いた中性子粉末回折およびタンパク質構造の研究に該当する。実際、本発明による極低温維持装置を使用すると、サンプル変更ロボットを接続させることは、理にかなっている。本発明はまた、小型ヘリウム-3および希釈(ヘリウム-3およびヘリウム-4混合物)極低温維持装置の道も開くことになる。量子コンピューティング技術の出現に伴って、コンパクト冷蔵庫は、確実に非常に魅力的なものになりつつある。コンパクト極低温技術はまた、低温真空操作における革新を促進する。従来の極低温維持装置原理は、概して、原位置真空動力化に対立する。本発明は、この長きにわたる問題に対する新しい解決策の可能性を広げる。フレキシブルな極低温維持装置幾何学形状もまた、新規熱遮蔽体用途を提供する。光子および電子分析器/検出器は、本技術から大きな利点を享受し得る。最後に、磁場器具類と組み合わせた、物理的性質測定システムは、分かりやすい用途である。
【0051】
本発明による極低温維持装置は、限定ではないが、4円Eulerクレードル、xyzおよびRzマニピュレータ、ロボットサンプル交換装置、ならびに高温ボア磁石を含む、種々の科学設定および環境とのその互換性の点で突出している。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明の上記に述べられたおよび他の特徴ならびに目的およびそれらを達成する様式は、以下に示される、付随の図面と関連して検討される、本発明の種々の実施形態の以下の説明を参照することによって、より明白となり、本発明自体も、より深く理解されるであろう。
【0053】
【
図1】
図1は、概略的鉛直断面図における極低温維持装置の第1の実施形態である。
【0054】
【
図2】
図2は、概略的鉛直断面図における極低温維持装置の第2の実施形態である。
【0055】
【
図3】
図3は、概略的鉛直断面図における極低温維持装置の第2の実施形態である。
【0056】
【
図4】
図4は、概略的鉛直断面図における極低温維持装置の第4の実施形態である。
【0057】
【
図5】
図5は、概略的斜視部分破断図における極低温維持装置の第5の実施形態である。
【0058】
【
図6】
図6は、拡大表現における
図5の極低温維持装置の下側部分である。
【0059】
【
図7】
図7は、概略斜視図における極低温維持装置の第6の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1に示される極低温維持装置は、主要領域4と、液体ヘリウム-4の槽8を含有するポット領域6とを有する一次チャンバ2を備える。ポット領域6は、一次チャンバの底部表面10によって閉じ込められ、これは、この例では、その底部において、以下の内径d
iおよび一定円柱断面積を有するポットを形成する円柱形管として構成される。
【数1】
極低温維持装置が、
図1に示されるように鉛直で動作させられる場合、平均液体/ガス表面積A
Sおよび平均断面積A
Cは両方とも、円柱断面積A
cylに等しい。
【0061】
極低温維持装置はまた、液体ヘリウム-4(
4He(l)として示される)を導入するための入口手段12と、ガス状ヘリウム-4(
4He(g)として示される)を放出するための出口手段14とを備える。典型的には、液体ヘリウム-4は、入口手段12に結合された外部貯蔵コンテナ(図に示されず)から供給される。入口手段12は、主要領域4の中に延在する輸送ライン16を備える。示される例では、輸送ライン16は、薄壁金属管として構成され、薄壁金属管は、ポット領域6まで下方に到達し、液体ヘリウム-4槽8の直上で終端する。サンプル(ここでは示されず)を保持するためにポット領域6の底部に配置された一次取付手段17も
図1に示されている。
【0062】
液体ヘリウム-4の持続的供給の下、低減させられたヘリウム-4圧力で4.2Kを下回る極低温維持装置動作を可能にするために、槽から持続的に蒸発しているガス状ヘリウム-4は、好適な圧送システムによって、出口手段14を通して圧送される。
【0063】
一次チャンバはさらに、熱交換面積A
Hを有するバッフル構造18を備える。
図1の例では、バッフル構造は、2つの別個の流路20aおよび流路20bを画定し、流路20aと流路20bは、それぞれ、ガス状ヘリウム-4の流動を方向付ける。各流路は、迂回させられた接続でポット領域6から主要領域4につながる渦巻状表面を備える。
図1に明確に示されるように、ヘリウム-4槽8の表面から主要領域4への直接的な接続は、存在しない。カニューレ状輸送ライン16とバッフル構造18との間の細い空間は、単に、例証目的のために、強調された距離で示されることに留意されたい。実践では、そのような空間は、存在しないか、または実質的ガス流動がそこを通って生じないほど小さい。有利なこととして、熱交換面積A
Hと平均断面積A
Cとの比率は、1より大きい。
図1に示される例では、数回の周回を伴う渦巻状表面を備えるバッフル構造18は、それに対応して、大きな熱交換面積A
Hを有し、前述の面積比率は、実質的に1より大きい。
【0064】
例示的実施形態では、極低温維持装置主要領域は、3cmの内径を有し、30~85cmの長さが、使用されている。したがって、内側容積は、約5×10-4立方メートルである。迂回/渦巻の表面積が、ポット領域の平均断面積より大きいものとすることを前提として、熱交換区分の長さは、典型的に、ポット区分の長さを超える。例示的極低温維持装置では、ポット領域は、4cmの高さと、15mmの内径とを有していた。
【0065】
図1の実施形態では、バッフル構造18は、別個の部品として構成され、これは、組立の前に、一次チャンバ2の中に長手方向に挿入される。対照的に、
図2は、バッフル構造18が3-D印刷によって一次チャンバ2と共に一体的に形成された実施形態を示す。換言すると、渦巻状表面を形成する全ての要素22が、一次チャンバ2の対応する内壁領域24と一体型に接続している。
【0066】
図3に示される実施形態では、極低温維持装置は、一次チャンバ2のポット領域6を実質的に囲繞するように配置された放熱遮蔽体26を備える。放熱遮蔽体26は、バッフル構造18を囲繞する一次チャンバの外壁部分28との熱接触によって、冷却される。
【0067】
真空チャンバとの真空気密接続のためのフランジ30も、全ての図に示されている。
【0068】
一次チャンバの底面10は、典型的に、サンプル、または冷却されることとなる他の本体の取り付けのために使用される。
【0069】
図4は、さらなる実施形態を示し、極低温維持装置はさらに、ヘリウム-3を用いた動作のための二次チャンバ32と、ヘリウム-3のための二次入口手段34と、ヘリウム-3のための二次出口手段36とを備える。示される例では、極低温維持装置は、二次チャンバ32内の低減させられたヘリウム-3圧力での動作のために構成され、それによって、ガス状ヘリウム-3は、二次出口手段36を通して圧送される。具体的には、二次入口手段34は、カニューレ状輸送ライン38を備え、これは、バッフル構造の流路に実質的に追従するように形成された湾曲区分40によって、かつ液体ヘリウム-4槽内にあるカニューレ状輸送ラインの領域にあるカニューレ状輸送ライン中に形成された蛇行区分または渦巻区分42によって、供給されるガス状ヘリウム-3(
3He(g)として示される)を事前冷却するために構成される。サンプル(ここでは示されず)を保持するために二次チャンバ32の底部に配置された二次取付手段44も、
図4に示されている。
【0070】
本発明による、極低温維持装置の構築例が、
図5-
図7に示されている。同一参照番号は、
図1-
図4に関連して議論されるものと同じかまたは機能的に同等である特徴を示すために使用される。
【0071】
ヘリウム-4との使用のための極低温維持装置システムが、
図5および
図6に示されている。
図6の拡大図に示されるように、ポット領域6の真下の底部表面10は、サンプル48を保持するサンプルホルダ46を具備する。サンプルホルダ46は、矢印によって概略的に示される一次取付手段17を通して、底部表面10に取り付けられる。示される例では、サンプルホルダ46は、先端部品50と、基部部品52とを備え、基部部品52は、これに対応して構成された一次取付手段17の部分の中に差し込み可能である。
【0072】
ヘリウム4とヘリウム-3との使用のための極低温維持装置システムが、
図7に示されている。
図7に示される種々の構成要素は、
図1-
図4に関連してすでに説明されている。
図7a)は、デバイス全体を示している一方、
図7b)は、その下側部品を拡大図で示す。達成された小型化の程度を理解するために、
図7c)は、一次チャンバ2の一部を2ユーロコインと一緒に拡大図で示し、一次チャンバ2およびその中に含有される複雑な構造が、約25mmの外径を超えないことを示している。
【符号の説明】
【0073】
2 一次チャンバ
4 主要領域
6 ポット領域
8 液体ヘリウム-4槽
10 2の底部表面
12 一次入口手段
14 一次出口手段
16 輸送ライン
17 一次取付手段
18 バッフル構造
20a、b ガス状ヘリウム-4のための流路
22 18の経路要素
24 2の内壁領域
26 放熱遮蔽体
28 2の外壁部分
30 フランジ
32 二次チャンバ
34 二次入口手段
36 二次出口手段
38 輸送ライン
40 湾曲区分
42 蛇行または渦巻区分
44 二次取付手段
46 サンプルホルダ
48 サンプル
50 46の先端部分
52 46の基部部分
【国際調査報告】