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特表2022-519876対象となる導管を通る流体の流れを決定するシステムおよび方法
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  • 特表-対象となる導管を通る流体の流れを決定するシステムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-25
(54)【発明の名称】対象となる導管を通る流体の流れを決定するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B6/03 360G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546397
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(85)【翻訳文提出日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2019052954
(87)【国際公開番号】W WO2020160771
(87)【国際公開日】2020-08-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518297927
【氏名又は名称】チューリッヒ大学
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT ZURICH
【住所又は居所原語表記】Raemistrasse 71 8006 Zuerich Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・ブオーゾ
(72)【発明者】
【氏名】バルタン・クルトゥオグル
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA18
4C093DA02
4C093FD08
4C093FF22
4C093FF24
4C093FF42
(57)【要約】
患者の狭窄血管などの導管内の高速流体シミュレーションモデルを提供するモデル次数削減システム及び方法。導管7を流れる流体の特性を予測する低次元化モデル20を生成。基準セット内のサンプリング導管7のCT画像スキャンから幾何学的データ及び流体流動パラメータ導出。サンプリング導管の3Dモデル生成。幾何学的パラメータ、3Dモデル、および流体パラメータを用いて、サンプリング導管ごとに流体力学(ナビエ・ストークス方程式など)の解を生成。幾何学的パラメータ、流体パラメータ、および解からなる高次元モデルを作成。低次元化に、例えばPOD-DEIM、オフライン/オンライン分割を利用。オフライン特定係数(低次元化パラメータ)の重みに基づいて低次元化モデルのコンストラクタを定義。低次元化モデル20を用いて新患者の血管(7’)のナビエ・ストークス方程式の解を生成(オンライン)。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管の一部であって、所定の幾何学的タイプを有する血管部分における血流力学的圧力変動を計算するためのオンラインシステムであって、
前記血管部分の幾何学的タイプにおける血流のシミュレーションモデルを格納した第1データ記憶手段と、
患者の血管部分について得られた幾何学的特徴に関する臨床パラメータを記憶する第2データ記憶手段と、
前記血管部分の血流と血圧値とを比較するプログラムを格納した第3データ記憶手段と、
前記第3データ記憶手段に記憶されたプログラムを実行する演算手段と、
を備え、
前記シミュレーションモデルは、前記血管部分の幾何学的タイプにおける血流の事前計算された低次元化流体力学モデルを含み、
前記低次元化流体力学モデルは、前記部分に流入するまたは前記部分内の血流の圧力値、質量流量値および前記部分の幾何学的寸法のうちの1つ以上を含む複数の特徴付けパラメータと、前記特徴付けパラメータおよび前記患者の臨床データを用いて流体シミュレーションを実行するための複数の命令とを含み、
前記患者における前記血管部分の特徴付けパラメータの値を決定する命令を含む第1演算手段と、
前記特性化パラメータ値、前記実行命令、前記臨床データ、および前記第1データ記憶手段に記憶されたROMを用いて、患者の血管部分に流入する、流入する、または通過する血流の流体力学的値をシミュレーションする命令を含む第2演算手段と、
前記シミュレーションの結果を、前記オンラインシステムの第4のデータ記憶手段に格納するように構成された出力手段と、
をさらに備えたオンラインシステム。
【請求項2】
対象導管としての血管を流れる流体としての血液の流体流動特性をシミュレートするために請求項1に記載のオンラインシステムで使用される低次元化流体力学モデルを生成する方法であって、
所定の幾何学的分散範囲内の幾何学的特性を有する基準セットを形成する、複数のサンプリングされた導管のそれぞれについて幾何学的パラメータデータを提供する第1パラメータ化ステップと、
前記幾何学的パラメータデータから、前記各サンプル導管の壁の表面メッシュまたはスプラインデータ、前記サンプル導管のトポロジーデータの少なくとも1つを含む3次元モデルを生成する流体体積モデル生成ステップと、
基準セットのサンプリングされた導管のそれぞれについて、導管内の流体の圧力、導管内の流体の圧力分布、導管内の流体の粘度、導管内の流体の粘度分布、導管を介して流体を押し出すポンプの特性、流体の組成、導管の入口における流体フローの1つ以上の境界条件のうち、少なくとも1つを含む測定された流体フローパラメータデータを提供する第2パラメータ化ステップと、
各サンプル導管の幾何学的パラメータデータおよび流体流量パラメータデータを用いて、前記各サンプル導管を流れる流体の流体力学方程式の解を求める流体力学シミュレーションステップと、
前記基準セットの導管形状を特徴づける複数の幾何パラメータを決定し、前記基準セットの幾何パラメータデータを低次元化された複数の幾何パラメータにマッピングする第1モデル低次元化ステップと、
前記基準セットの導管形状を通る流体の流れを特徴付ける低次元化された複数の流体パラメータを決定し、基準セットの流体パラメータデータを、低次元化した複数の流体フローパラメータにマッピングする第2モデル低次元化ステップと、
前記基準セットのサンプリングされた導管の低次元化された複数の幾何学的パラメータおよび流体フローパラメータと、基準セットのサンプリングされた導管における流体フローの流体力学方程式の解とを含む前記低次元化流体力学モデルを生成するステップと、
を含むオフライン方法。
【請求項3】
前記第1パラメータ化ステップは、サンプリングされた導管の画像スキャンデータを取得し、画像データをセグメント化して、画像スキャンデータ内のサンプリングされた導管のジオメトリを分離することを含む請求項2に記載のオフライン方法。
【請求項4】
前記第1パラメータ化ステップは、サンプリングされた導管の流体流動特性を決定する、サンプリングされた導管の形状の幾何学的パラメータを自動的に特定する請求項3に記載のオフライン方法。
【請求項5】
基準セットの導管形状を最もよく特徴づける低次元化された複数の幾何学的パラメータを決定するステップ、および/または、基準セットの導管形状を通る流体の流れを最もよく特徴づける低次元化された複数の流体流れパラメータを決定するステップを含み、低次元化された複数のパラメータを決定するステップの一方または両方が、適切な直交分解操作を含む請求項2から4の1つに記載のオフライン方法。
【請求項6】
流体力学方程式が非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式からなることを特徴とする請求項2から5の1つに記載のオフライン方法。
【請求項7】
前記導管が狭窄を有する血管であり、前記幾何学的パラメータが前記狭窄の幾何学的パラメータを含む請求項2から6の1つに記載のオフライン方法。
【請求項8】
サンプリングされた導管の流体力学方程式の解から、特定のサンプリングされた導管の狭窄部を横切るフラクショナルフローリザーブ値を決定するステップをさらに含む、請求項6に記載のオフライン方法。
【請求項9】
システムがデスクトップコンピュータを含み、オフライン方法が、デスクトップコンピュータ上で実行するために低次元化モデルをコンパイルするステップをさらに含む、請求項2から8のいずれか1項に記載のオフライン方法。
【請求項10】
流体力学方程式が偏微分方程式であり、流体力学方程式の解が偏微分方程式の離散演算子からなることを特徴とする請求項2から9の1つに記載のオフライン方法。
【請求項11】
離散的な演算子を決定する離散的経験的補間ステップをさらに含む請求項10に記載のオフライン方法。
【請求項12】
請求項1のシステムで使用されるROMを生成するために、請求項2から11のいずれかに記載のオフライン方法を実行するための前記コンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項2から12の1つに記載のオフライン方法によって生成された低次元化モデルを使用して、対象の導管を流れる流体の流体-フローパラメータを予測するために、請求項1に記載のシステムを動作させるオンライン方法であって、
前記導管は、前記幾何学的分散範囲内の幾何学的パラメータを有し、
前記導管の幾何学的および流体の流れのパラメータデータを取得するステップと、
前記第1モデル低次元化ステップで決定された削減された複数の幾何学的パラメータに、前記導管の幾何学的パラメータデータをマッピングする第1マッピングステップと、
前記導管の流体流量パラメータデータを、前記第2モデル低次元化ステップで決定された削減された複数の流体流量パラメータにマッピングする第3パラメータ化ステップと、 前記導管の流体の流体力学的シミュレーションを、マッピングされた幾何学的パラメータおよび流れパラメータを有する低次元化モデルを用いて実行することにより、対象となる導管内の流体の前記流体力学方程式の解を決定するステップと、
を含むオンライン方法。
【請求項14】
前記導管は、狭窄を有する血管であり、前記幾何学的パラメータは、前記狭窄の幾何学的パラメータを含む請求項13に記載のオンライン方法。
【請求項15】
対象導管の流体力学方程式の前記解から、対象導管の狭窄部を横切るフラクショナルフローリザーブ値を決定するステップを含む請求項14に記載のオンライン方法。
【請求項16】
請求項1に記載のオンラインシステムの第3記憶手段にロードし、それによって請求項13から15の1つに記載のオンライン方法を実行するために、請求項1のオンラインシステムの第1および/または第2の計算手段によって実行するためのコンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管を通る血流のような、対象となる導管形状を通る流体の流れのモデリングに関するものである。特に、限定はされないが、本発明は、実際の患者の実際の血管の狭窄領域を横切るFFR(fractional flow reserve)などの圧力特性を計算するための一般的に適用可能なモデルを生成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動脈の狭窄は、その狭窄が患者さんに虚血を引き起こす可能性があるかどうかによって、臨床的または医学的な介入が必要になる。血行再建術などの臨床的介入は、患者にとって大きなリスクを伴うため、そのような治療は、虚血を引き起こす可能性のある狭窄の場合に限定することが重要である。狭窄した血管のCT画像データは、狭窄の物理的特徴を明らかにすることができるが、虚血の可能性を予測する信頼できる根拠とはならない。臨床的介入の必要性を評価するためには、狭窄部を通過する血行動態の流れの特性を分析する必要がある。狭窄部の圧力勾配、より具体的にはFFR(Fractional Flow Reserve)が、狭窄部の虚血を引き起こす特性の優れた指標となることがわかっている。簡単に言えば、FFRは狭窄部の存在による枝の血流減少を表している。FFRは、カテーテルで血管内に圧力計を挿入して測定することができるが、侵襲性が高いために費用がかかり、合併症のリスクもある。高解像度のCT画像データと血流の生理的境界条件を用いて、患者固有の詳細な3次元計算モデルを構築し、患者固有の血行動態をシミュレートすることで、最大充血状態をシミュレートしたときのFFRを計算で算出することができる。患者の狭窄部の詳細な解剖学的モデルを用いて、例えばNavier-Stokes方程式で表されるような質量・運動量保存則を適用することで、流れと圧力の計算が可能となる。しかし、有限体積法や有限要素法などの数値モデルから得られるような、3次元かつ時間的に忠実な従来の解法は、膨大な計算能力を必要とする。
【0003】
特許文献1,2では、患者固有のモデルを計算してFFR値を決定する方法が提案されている。特許文献3には、機械学習を用いて、以前にシミュレーションされた合成症例のデータベースに基づいて、分析中の新しい患者のFFRを予測する方法が記載されている。この方法は、トレーニング段階と、トレーニング段階で学習した予測を新しい症例に適用するプロダクション段階とからなる。この方法は、生産段階で高速に解を生成できるという利点があるが、結果として得られた解を調べることはできない。すなわち、予測は統計的な信頼性の範囲で提示され、例えば先験的または後験的に誤差を評価することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2012041318A1
【特許文献2】US2013246034A1
【特許文献3】US2014073967A1
【特許文献4】WO2016182508A1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Francesco Ballarinらによる「Fast simulations of patient-specific haemodynamics of coronary artery bypass graft based on a POD-Galerkin method and a vascular shape parameterization」と題された論文、Journal of Computational Physics Vol.315 (2016)、 pages 609-628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では、中心線の記述と分岐角によって血管の患者固有の解剖を理想化することで患者固有の低次元化モデルを生成し、この理想化された解剖モデルを用いて、流体力学方程式と選択された形状特徴をパラメータ化することが提案されている。その結果、より高速で低次のモデルが得られ、事前に選択したパラメトリック範囲で、より少ない数値処理で特定の選択された患者に対する「多数のクエリ」の調査が可能となる。しかし、この提案手法には、簡略化された患者固有のモデルを生成するために膨大な処理能力を必要とするという欠点がある。そのため、患者固有の低次元化モデルは、専門施設において、特定の患者の特定の血管からのCT画像データと境界条件情報を用いて「オフライン」で計算する必要がある。さらに、低次元化記述は患者固有のものであるにもかかわらず、解剖学的モデルの理想化された特徴に依存している。理想化は、患者の実際の血管形状との類似性を最大化するように選択することができるが、理想化のプロセスは必然的にモデルの精度を低下させる。僅かな違いであっても、流体力学方程式の解に大きな影響を与え、それによって狭窄が虚血を引き起こす可能性が高いかどうかの評価に影響を与える。
【0007】
一方、特許文献4には、狭窄した血管を健康な血管を参照してモデル化する方法が記載されている。この方法は、フロントエンド(臨床)処理を高速化することができるが、狭窄の経験的で抽象化されたモデルに依存しているため、患者固有の情報の少なくとも一部が捨てられてしまう。
【0008】
そのため、血管内の流体力学のシミュレーションを高速に行うことができ、データ処理の総量を減らすことができ、なおかつ血管の実際の患者固有の詳細(形状や流体の境界条件など)に忠実な方法が必要とされている。
【0009】
本発明の目的は、先行技術の上記欠点の少なくとも一部を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、請求項1に記載のシステム、請求項2に記載の方法(以下、オフライン方法またはモデル生成または開発方法と呼ぶ)、請求項13に記載の補完的な方法(以下、オンライン方法、生産方法または臨床方法と様々に呼ぶ)、および請求項12および請求項16に記載のコンピュータプログラム製品を想定している。本発明のさらなる変形例は、従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0011】
複数の類似した血管(例えば、他の患者の同じ幾何学的タイプの血管)について、オフラインで複数の高忠実度シミュレーションを行い、高次元のオフラインシミュレーション解を例えば線形結合することにより、高忠実度解からなる高次元空間が構築される。この高次元空間を低次元の部分空間にマッピングし、パラメータ化することで、部分空間内で特定の新規患者の血管の流体力学方程式を低計算コストで解くための汎用的な数値モデルとして利用可能な低次元化モデルを構築することができる。これにより、従来のようにオフラインでの計算を待つことなく、新しい患者の血管の高品質なシミュレーションをオンラインで、つまり臨床現場で行うことができる。
【0012】
本手法のオフライン部分とオンライン部分は相互に補完し合っており、合わせて「モデル低次元化法」と呼ばれている。オフライン法(高忠実度解の生成)は、非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式の有限体積離散化など、有限体積や有限要素を用いて離散化された流体力学方程式をもとにして実行される。結果として得られた記述は、低次元の部分空間に投影され、その基底は、例えば、適切な直交分解などの数学的手法を用いて得られる。オンライン法(高速汎用モデルを使用して、患者固有の狭窄血管などの対象コンジット内の流体の流れをシミュレーションする)では、離散経験的補間法(DEIM)などの超リダクション技術を使用して、オフライン法のパラメータ化ステップで決定された物理的および幾何学的パラメータの関数として、支配方程式および境界条件の適切な演算子を効率的に取得することができる。
【0013】
上述したように、本手法は、例えば有限体積法を用いた偏微分方程式の解法として、非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式のモデル低次元化に用いることができる。十分な計算能力があれば、乱流の解を計算することも可能である。この方法論は、パラメータ化された形状と、導管への流入時の流量などの境界条件を持つ導管モデルのモデル低次元化に適用される。数値計算の結果、流れを正しくシミュレートするために必要なモデルの状態数は非常に少なく、本手法のオンライン部分の計算コストを非常に小さくすることができる。
【0014】
ここでは、本発明のシステムおよび方法を、患者の血管を例示して説明する。しかし、本方法は、他の分野、特に、特定の種類の導管を通る流れを測定し、微分メトリクスを決定することが非現実的である分野にも適用できることに留意すべきである。
【0015】
本明細書では、特に、患者の血管の一部を流れる血流をシミュレートするための本発明の適用例に関連して、「パラメータ」という用語は、対象となる導管内の流体の流れを特徴づける生理学的パラメータおよび境界条件を指すことがある。血流の例では、パラメータには、平均血圧(収縮期および拡張期の平均)、心筋の質量、心拍数などの血行動態または心血管パラメータのほか、血管壁の3次元座標点の表面または分析対象組織の他の特徴などの幾何学的パラメータが含まれる。「パラメータ化」とは、データポイントの集団における幾何学的特性またはフロー特性の変動性を表現するプロセスを指す。これは、まず、利用可能なパラメータの中から特定の血管部分を表現するのに適した一連のパラメータ化パラメータを特定し、次に、(例えば、血行動態/心血管/幾何学的)パラメータを、第1段階で特定されたパラメータ化パラメータによって定義されるパラメータ化空間にマッピングするという、2段階のプロセスであってもよい。モデリング」とは、例えば方程式や偏微分など、流体の流れの数学的またはその他の機能的表現を生成するプロセスを指す。「シミュレーション」とは、特定のインスタンス(すなわち、特定の患者の特定の血管形状)についてモデルを解き、特定の患者の特定の血管内の血流を特徴づける数値を生成するプロセスを指す。「トランスフォーム」と「変換」は、あるパラメータ空間から別の異なるパラメータ空間へのデータポイントのマッピングを意味する。「モデル低次元化」とは、高次空間で記述された特徴を高次空間の部分空間にマッピングし(POD法など)、マッピングされた特徴パラメータの係数を調整し(DEIM法など)、マッピングを考慮するプロセスを意味する。「オンライン」および「オフライン」という用語は、例えば臨床現場におけるリアルタイムまたはそれに近い計算/シミュレーション施設から利用可能な小規模なオンデマンドの計算/シミュレーションリソース(オンライン)と、ROMの事前計算に使用される強力なオフサイトまたはバックグラウンドの計算/施設(オフライン)とを区別するために使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】流体の流れの特性を決定するための低次元化モデルを生成する先行技術の方法を示す図である。
図2】本発明によるモデル生成方法と、それに関連する本発明による予測方法からなるモデル低次元化法の一例を示す模式図である。
図3図2のモデル生成方法をより詳細に説明するための模式図である。
図4図2の予測方法をより詳細に説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態において、図面は、本発明の基礎となる特定の原理を理解するための参考資料として提供されているものである。これらの図面は、求められる保護の範囲を限定するものとみなされるべきではない。異なる図に同じ参照番号が使用されている場合、これらは同じまたは対応する特徴を示すことを意図している。ただし、異なる参照番号を使用しても、その番号が指す特徴の間に違いがあることを必ずしも示すものではない。
【0018】
以下、本発明を説明するために、本発明が非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式の有限体積離散化のパラメトリックなモデル低次元化のためのフレームワークを提供する実施例を説明する。適切な直交分解を用いて得られた低次の部分空間への投影に基づくモデル低次元化法は、オフライン/オンライン分解に基づいている。オンラインでは、離散的な経験的補間法を用いて、選択された物理的・幾何学的パラメータの関数として、非affine/非線形演算子と境界条件を取得することができる。この手法を、形状と質量の流れがパラメトリックに定義された導管(血管)モデルのモデル低次元化に適用した。数値計算の結果、脈動のある流れを正しくシミュレートするために必要なのは、次元の低いモデルの状態だけであり、オンライン(予測)法の計算コストを大幅に削減できることがわかった。
【0019】
図1は、上述のBallarinらの論文で言及されている方法を示している。この方法は、分析対象となる特定の患者の血管のCT画像データを取得する最初のステップ1で構成されている。ステップ2では、関心領域(例えば、狭窄や分岐のある血管)における画像データのセグメンテーションを行う。ステップ3では、血管の幾何学的記述を単純化するために、解剖学的特徴を抽象化(理想化)する。ステップ4では、限られた数のパラメータを用いてジオメトリを記述するために、中心線や分岐点の角度などを用いて解剖学的特徴をパラメータ化する。その結果、ステップ5では、適切な直交分解(POD-Galerkin)モデルなどの低次元化モデル(ROM:Reduced Order Model)を作成し、ステップ6では、血管の流体力学方程式を解くのに使用する。対象となる導管(対象となる血管領域)の境界条件が既知である場合、モデルは対象となる領域のみで構成される可能性があるが、実際には、境界条件は、流路系のより遠くの位置(例えば、患者の心臓の物理的および/またはポンピング特性など)で測定または導出されるため、モデルは通常、対象となる領域の流入時の流動条件を導出するために、対象となる領域の上流の流路系の十分な詳細を含むことができる。図1の先行技術の方法を使用して、特定の患者の特定の血管に関するナビエ・ストークス方程式を解くための、低次の(すなわち高速の)患者固有の低次元化モデル5を生成することができる。図2は、本実施形態にかかる方法のトップレベルの概略図である。第1(オフライン)方法10では、基準セット(スナップショットのセットとも呼ばれる)として機能する、複数の患者の、複数の類似した血管のそれぞれについて、CT画像データ7が取得される。CT画像データ7は、例えば、適切な直交分解や離散補間法などを用いて分割され、パラメータ化され、各血管のパラメータ化されたモデルは、共通の低次元化パラメータセットを用いて、低次元化モデル20にマッピングされる。低次元化モデル(ROM)20は、基準血管7の集合と十分な類似性を有する任意の血管の流体力学方程式を解くために使用することができ、ROMの低次元化パラメータセットを使用して記述することが可能な汎用モデルを表している。汎用モデルは、プリコンパイルされたソフトウェアの形で提供されてもよい。そして、プリコンパイルされたROMは、臨床環境にある標準的なデスクトップコンピュータ上で実行され、例えば非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式を解くことによって、新しい患者の新しい血管7’内の流体の流れの状態をシミュレートし、それによって、例えばFFR値を評価することができる。その後、各新患のスキャンからの幾何学的データを基準セットに追加し、それによってモデルを改善することができる。
【0020】
オフライン方法30によって生成されたROM20は、共通のパラメータ空間における低次元化された複数のパラメータの複数の値と、各サンプル血管に対して実施されたシミュレーションの結果得られた流体の解とを対応させて構成されている。この解は、例えば、非定常非圧縮性ナビエ・ストークス方程式などの流体力学方程式の流体状態変数および演算子として表すことができる。ここで、流体力学方程式とは、例えば、質量保存式、エネルギー保存式、運動量保存式などを一般的に指す言葉として用いられる。ここでは、CT画像データを用いた実装例を示したが、MRIなどの他の種類の画像データを用いることも可能である。
【0021】
上述したように、低次元化モデル20は、各新しい対象コンジットを基準セットに追加し、新しいコンジットの幾何学的データおよび流体の流れのデータを用いてモデルを再コンパイルまたは増分コンパイルすることによって改善することができる。代替的に、または追加的に、パラメトリック空間における追加の母集団点を計算することによって、モデルを改善することができる。
【0022】
図3は、オフライン方法10をより詳細に示したものである。破線内のステップは、ROM20を作成するために、サンプリングされた各導管(血管)7に対して実行される。ステップ1では、血管のCT画像データと計測された臨床データを取得する。ステップ11では、画像データのセグメンテーションを行い、対象となる血管を特定する。その後、特定の血管および/または患者の状態に関連する所定の幾何学的パラメータが特徴付けられる。例えば、異なる形状および/または患者の状態に対して、複数の低次元化モデルを準備することができる。幾何学的パラメータは、例えば、血管の特定の関心領域のトポロジー、分岐、線形寸法、導管の曲率、断面積、テーパーなどを含むことができる。ステップ13では、特定されたセグメント化された血管に対して3Dモデルを構築する。3Dモデルは、メッシュやその他の表現であってもよい。ステップ12では、拡張期および/または収縮期血圧、患者の心拍数、ヘマトクリット、粘度、流量、温度など、血管内の血流および血圧を定義するために使用できるパラメータを含む、流体データを取得する。
【0023】
ステップ14では、3次元幾何学モデルとステップ12で取得した流体流量パラメータに基づいて、流体力学(血行力学など)シミュレーションを行う。さらに、幾何学的モデルと計測された流体の流れのパラメータから、さらなる流体の流れのパラメータを導き出し、それらをシミュレーションに使用してもよい。
【0024】
シミュレーションには、例えば、流量や圧力分布などの境界条件や派生する流体の流れのパラメータが含まれていてもよい。また、シミュレーション結果は、ナビエ・ストークス方程式などの流体力学方程式の解として表されてもよい。この段階で、特定の血管7についてのシミュレーション結果は、任意に、ステップ15において、例えばFFR値を計算することにより、狭窄の重症度を評価してもよい。特定の患者/血管のFFR値を測定するために外科手術が行われた場合、ステップ15からのシミュレーションされたFFR値を測定値と比較し、不一致を考慮して幾何学的パラメータおよび/または流体フローパラメータを調整してもよい。
【0025】
ステップ16では、特定の容器の幾何学的パラメータ、3Dモデル、測定された流体の流れのパラメータ、および流体力学方程式の解をデータベースに追加する。このようにして、ステップ11から14および16が基準セットの各導管7について実施されたとき、データベースには、共通のパラメータ空間における測定パラメータ、導出パラメータおよびシミュレーションパラメータの高次元モデル(FOM:Full Order Model)が含まれる。ステップ17と18は、低次元の部分空間における患者固有の導管の形状と流れの記述を定義するモデル順序の削減に関するものである。低次元化されたパラメータとその基礎の選択は、例えば、適切な直交分解(POD)または貪欲なアルゴリズムなどの次元削減方法を用いて実施することができる。ステップ17では、高次元モデルの幾何学的パラメータ(セグメンテーション結果)と3Dモデルのパラメータから、幾何学的な低次元化パラメータを決定する。低次元化モデル20のパラメータ空間に対して、高次元幾何学データと低次元化された幾何学データの間のマッピング方法が特定され、記憶される。ステップ18では、高次元モデルの流体パラメータと流体力学方程式の解から、流体の低次元化パラメータを決定する。低次元化モデル20のパラメータ空間に対して、高次元の流体流量パラメータと低次元化された流体流量パラメータとの間のマッピング方法が定義され、記憶される。結果として得られたROM20は、基準セットの変動範囲にある幾何学的パラメータおよび流体流動パラメータを有する他の血管における流体流動をシミュレートするために、コンパイルされ、臨床の場で利用可能となる。
【0026】
図4は、オンライン方法30のより詳細を示している。ステップ1、31、32は、図3のステップ1、11、12と類似している。ステップ1では、新しい患者の血管について、CT画像データおよび他の測定臨床データが取得される。ステップ31では、画像データがセグメンテーションされ、関心のある血管の領域が特定される。そして、特定の血管や患者の状態に関連する所定の幾何学的パラメータが特徴付けられる。幾何学的パラメータには、例えば、血管の特定の関心領域のトポロジー、分岐、線形寸法、導管の曲率、断面積、テーパーなどが含まれる。
【0027】
有利なことに、オンライン法で使用される幾何学的パラメータおよび流体パラメータは、オフライン法のモデル低次元化ステップで決定されたものである。同様に、オフライン法で使用されるパラメータ化アルゴリズム(POD-DEIMなど)は、有利にはオフライン法で使用されるものである。
【0028】
ステップ32では、拡張期および/または収縮期の血圧、患者の心拍数、ヘマトクリット、粘度、流量、温度など、血流と圧力を定義するのに使用できるパラメータを含む、流体の流れのデータを取得する。新しい血管の幾何学的パラメータと流体の流れのパラメータがReduced Order Modelに入力される。ステップ17および18のマッピング関数と、ステップ15の幾何学的パラメータおよび流体パラメータを用いて、血管内の血流に対する流体力学的演算子、境界条件、方程式解が導出され、これを用いて、例えば狭窄部におけるFFR値を算出することができる。また、新しい患者の幾何学的および流体の流れのデータは、例えば、図3のステップ1~16および17、18を再実行し、ROM20を再コンパイルすることによって、基準セットに追加することができる。
【0029】
以下に、本発明の方法の実施例を数学的に説明する。
【0030】
一様な粘性を持つ非圧縮性のニュートン流体の場合、境界δΩを持つ領域Ωにおける運動方程式は次の通りである。
領域W内において
【数1】
ここで、u、p、vはそれぞれ流体の速度ベクトル、圧力、粘性を表し、utは速度の時間微分、nは境界の法線方向を表している。式1において、gとfはそれぞれ境界ΩpとdΩNにおけるディリクレ条件とノイマン条件を表している。
【0031】
上述の式1の有限体積(FV)離散化を考える場合、流体領域は個々の要素(セル)に分割され、方程式は対応する体積で積分され、次元Hの離散系が得られる。
【0032】
上述したように、パラメトリック化されたナビエ・ストークス方程式に対するReduced Basis(モデル低次元化)手法は、2つのステップに分けて計算を行うことを基本としている。最初のオフラインフェーズでは、投影空間の基底を計算し、離散的経験的補間法(DEIM)を用いて、高次元モデル(FOM)の流体力学方程式の離散的演算子をパラメトリックに記述する。このフェーズは、本手法の計算量の大部分を占めるが、一度しか実行されない。一方、オンラインフェーズは、ROMを使用して新しいシミュレーションを行うたびに実行されるが、FOMと比較して大幅に少ない計算量で済む。この段階では、選択したパラメータへの依存性が記述に導入される。オンラインフェーズの計算コストの削減により、実用的な計算の高速化が可能になる。
【0033】
この実装例では、問題を特徴づける物理的・幾何学的パラメータのランダムな組み合わせに対するFOMの解から計算されたPOD(Proper Orthogonal Decomposition)モードによって投影部分空間を構成している。時間依存の変数フィールドy(x,t)が、座標xのセルの中心で定義され、そのPODモードが相対的な振幅を持つφi(x)およびai(t)である場合、変数フィールドをそのPOD再構成yr(x, t)で次のように近似することができる。
【数2】
ここで、Nは選択されたPOD基底の数である。FOMで定義された演算子AHが与えられた場合、選択された低次元空間への投影は次のようになる。
AN=ΦTXHAHΦ
ここで、Φは、PODモードを列とするPOD部分空間への投影行列で、Φ=[φ1,φ2,...φN]である。XHは適切なノルムである。この場合、N<<Hであるため、投影される演算子の次元は非常に小さくなり、解答プロセスにおいて計算上の利点が得られる。
【0034】
非定常非圧縮性Navier-Stokes方程式を有限体積法で解く場合、φi(x)およびυi(x)で示される速度ベクトルおよび圧力ベクトルのPODモードをそれぞれ計算することができる。これらはスナップショット法を用いて計算することができる。
【0035】
さらに、DEIM(Discrete Empirical Interpolation Method)を用いれば、FOMでの計算に負担をかけることなく、低次元空間で離散的な演算子の行列を取り出すことができ、効率性を高めることができる。DEIMでは、各演算子は、パラメータに依存しない項の組み合わせとして表現され、付加的に計算された係数で重み付けされる。DEIMでは、選択されたパラメータに対する非線形依存性を考慮することができる。パラメータμ=[μ1,...,μk]の汎用演算子AH[μ]の関数を考えると、DEIMを用いて次のように表現できる。
【数3】
ここで、d(μ)は、Q=[p1,...,pM]で定義される低次元空間のパラメータ依存係数であり、その列piはμ-独立基底である。これらは、μのエントリのサンプリングされた組み合わせに対する演算子のスナップショットのセットにPODを適用することによって得られ、相対的な係数が決定される。オフラインフェーズでは、部分空間の基底が計算され、オンラインパートでは、新しいケースの幾何学的パラメータと流体の低次パラメータの値からd(μ)ベクトルの成分が計算される。これらの値を計算するには、通常、高次元の離散化モデルからセルのサブセットを定義する必要があり、これを「低次元化メッシュ」と呼ぶ。
【0036】
低次元化メッシュの効率的な生成は、本手法のオンラインフェーズを高速化するためのもう一つの重要な要素である。この作品では、モデルのトレーニングに使用された高忠実度ケースのメッシュ記述にPOD-DEIMを適用することで、オンラインフェーズのReduce Meshの再構築を行っている。これは、パラメータ化と次元削減のステップの結果である。そして、セグメント化された新しいジオメトリ上のサンプリングポイントの座標は、POD-DEIM法の重みとして使用され、モデル低次元化法のオンラインフェーズに必要なメッシュサブセットを再構築する。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】