(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-25
(54)【発明の名称】T細胞の再生を増強する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220317BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220317BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220317BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220317BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20220317BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220317BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220317BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220317BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220317BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220317BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220317BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220317BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220317BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/545
A61K38/19
A61P43/00 105
C12N5/0783 ZNA
C12N5/077
C12N5/0775
C12N5/0735
C12N5/10
C07K14/47
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559052
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 US2020026170
(87)【国際公開番号】W WO2020205969
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スキャデン デヴィッド ティー.
(72)【発明者】
【氏名】グスタフソン カリン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA01
4C084DA12
4C084DB60
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB09
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4C084ZB26
4C084ZB32
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB61
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB32
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
その必要がある対象においてT細胞の産生を回復させるための方法が本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要がある対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための方法であって、
ペリオスチンおよびPdgfraを発現している間葉系間質細胞を含む組成物を、該対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内に投与する工程であって、それによって、該対象の該T細胞産生組織または該T細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させる、工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記間葉系間質細胞がCdh11およびCD248を発現していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記T細胞産生組織が胸腺である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記T細胞産生組織がリンパ球生成組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞産生体液が血液である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、Tリンパ球減少症に関連する状態、T細胞産生障害、T細胞機能障害、T細胞受容体を有する細胞のレパートリーの歪み、感染症、または腫瘍のうちの1つまたは複数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記間葉系間質細胞が、Flt3リガンド(fms関連受容体チロシンキナーゼ3リガンド)、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)、BMP2(骨形成タンパク質2)、BMP4(骨形成タンパク質4)、IL-15(インターロイキン15)、IL-12a(インターロイキン-12a)、Cxcl14(C-X-Cモチーフケモカインリガンド14)、Ccl11(C-Cモチーフケモカインリガンド11)、(Cxcl10、C-X-Cモチーフケモカインリガンド10)、またはIL-34(インターロイキン34)、およびこれらの組み合わせを発現している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記間葉系間質細胞が、Ccl19、Flt3リガンド、およびIL-15を発現しており、Cdh11およびCD248を発現していない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記間葉系間質細胞が、前記対象にとって自家である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記間葉系間質細胞が、間葉系幹細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記間葉系間質細胞が、胚性幹細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記間葉系間質細胞が、iPS細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
その必要がある対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための方法であって、
Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)を含む組成物を、該対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内に投与する工程であって、それによって、該対象の該T細胞産生組織または該T細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させる、工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記T細胞産生組織が胸腺である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記T細胞産生組織がリンパ球生成組織である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記T細胞産生体液が血液である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、Tリンパ球減少症に関連する状態、T細胞産生障害、T細胞機能障害、T細胞受容体を有する細胞のレパートリーの歪み、感染症、または腫瘍のうちの1つまたは複数を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
ペリオスチンおよびPdgfraを発現している単離された間葉系間質細胞を含む、組成物。
【請求項21】
前記間葉系間質細胞がCdh11およびCD248を発現していない、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記間葉系間質細胞が、Flt3リガンド(fms関連受容体チロシンキナーゼ3リガンド)、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)、BMP2(骨形成タンパク質2)、BMP4(骨形成タンパク質4)、IL-15(インターロイキン15)、IL-12a(インターロイキン-12a)、Cxcl14(C-X-Cモチーフケモカインリガンド14)、Ccl11(C-Cモチーフケモカインリガンド11)、(Cxcl10、C-X-Cモチーフケモカインリガンド10)、またはIL-34(インターロイキン34)、およびこれらの組み合わせを発現している、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記間葉系間質細胞が、Ccl19、Flt3リガンド、およびIL-15を発現しており、Cdh11およびCD248を発現していない、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
前記間葉系間質細胞が、間葉系幹細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
前記間葉系間質細胞が、胚性幹細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項20に記載の組成物。
【請求項26】
前記間葉系間質細胞が、iPS細胞またはその前駆細胞に由来する、請求項20に記載の組成物。
【請求項27】
ペリオスチンおよびPdgfraを発現している間葉系間質細胞へと分化することができる単離された幹細胞の集団。
【請求項28】
前記間葉系間質細胞がCdh11およびCD248を発現していない、請求項26に記載の単離された幹細胞の集団。
【請求項29】
対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための組成物であって、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究の下でなされた発明に対する権利の記載
本研究は、米国国立衛生研究所の助成金番号DK107784によって支援された。政府は本発明に対して一定の権利を有し得る。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月2日に出願された米国特許出願第62/828384号および2019年12月9日に出願された米国特許出願第62/945290号に関連し、これらの出願からの優先権を主張する。これらの出願の全開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
配列表
本出願はASCIIフォーマットで電子提出された配列表を含み、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。2020年3月31日に作成されたこのASCIIコピーは、51395-002WO3_Sequence_Listing_03.31.20_ST25という名称であり、87,125バイトのサイズである。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
T細胞の欠乏は、造血幹細胞移植(HSCT)の急性かつ致命的な合併症であり、加齢の一般的な進行性の特徴である。新たなT細胞の生成は、造血幹細胞/造血前駆細胞が胸腺に入りそこで成熟することに依存する。胸腺組織の再生および長期にわたるT細胞の再構成を増強する方法が非常に望まれる。
【発明の概要】
【0005】
一局面において、本発明は、その必要がある対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための方法を提供し、該方法は、ペリオスチンおよびPdgfraを発現している間葉系間質細胞を含む組成物を、該対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内に投与する工程であって、それによって、該対象の該T細胞産生組織または該T細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させる、工程を含む。
【0006】
一態様において、間葉系間質細胞はCdh11およびCD248を発現していない。
【0007】
別の態様において、T細胞産生組織は胸腺である。
【0008】
別の態様において、T細胞産生組織はリンパ球生成組織である。
【0009】
さらに別の態様において、T細胞産生体液は血液である。
【0010】
さらに別の態様において、対象は造血幹細胞移植を受けたことがある。
【0011】
さらに別の態様において、対象は、Tリンパ球減少症に関連する状態、T細胞産生障害、T細胞機能障害、T細胞受容体を有する細胞のレパートリーの歪み、感染症、または腫瘍のうちの1つまたは複数を有する。
【0012】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、Flt3リガンド(fms関連受容体チロシンキナーゼ3リガンド)、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)、BMP2(骨形成タンパク質2)、BMP4(骨形成タンパク質4)、IL-15(インターロイキン15)、IL-12a(インターロイキン-12a)、Cxcl14(C-X-Cモチーフケモカインリガンド14)、Ccl11(C-Cモチーフケモカインリガンド11)、(Cxcl10、C-X-Cモチーフケモカインリガンド10)、またはIL-34(インターロイキン34)、およびこれらの組み合わせを発現している。
【0013】
一態様において、間葉系間質細胞は、Ccl19、Flt3l、およびIL-15を発現している。
【0014】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、Flt3リガンド、Ccl19、IL-15を発現しており、Cdh11およびCD248を発現していない。
【0015】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、対象にとって自家である。
【0016】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、間葉系幹細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0017】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、胚性幹細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0018】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、iPS細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0019】
別の局面において、本発明は、その必要がある対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための方法を提供し、該方法は、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)を含む組成物を、該対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内に投与する工程であって、それによって、該対象の該T細胞産生組織または該T細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させる、工程を含む。
【0020】
一態様において、T細胞産生組織は胸腺である。
【0021】
別の態様において、T細胞産生組織はリンパ球生成組織である。
【0022】
さらに別の態様において、T細胞産生体液は血液である。
【0023】
さらに別の態様において、対象は造血幹細胞移植を受けたことがある。
【0024】
さらに別の態様において、対象は、Tリンパ球減少症に関連する状態、T細胞産生障害、T細胞機能障害、T細胞受容体を有する細胞のレパートリーの歪み、感染症、または腫瘍のうちの1つまたは複数を有する。
【0025】
さらに別の局面において、本発明は、ペリオスチンおよびPdgfraを発現している単離された間葉系間質細胞を提供する。
【0026】
一態様において、間葉系間質細胞はCdh11およびCD248を発現していない。
【0027】
別の態様において、間葉系間質細胞は、Flt3リガンド(fms関連受容体チロシンキナーゼ3リガンド)、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)、BMP2(骨形成タンパク質2)、BMP4(骨形成タンパク質4)、IL-15(インターロイキン15)、IL-12a(インターロイキン-12a)、Cxcl14(C-X-Cモチーフケモカインリガンド14)、Ccl11(C-Cモチーフケモカインリガンド11)、(Cxcl10、C-X-Cモチーフケモカインリガンド10)、またはIL-34(インターロイキン34)、およびこれらの組み合わせを発現している。
【0028】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、Ccl19、Flt3l、およびIL-15を発現している。
【0029】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、Ccl19、Flt3リガンド、およびIL-15を発現しており、Cdh11およびCD248を発現していない。
【0030】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、間葉系幹細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0031】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、胚性幹細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0032】
さらに別の態様において、間葉系間質細胞は、iPS細胞またはその前駆細胞に由来する。
【0033】
さらに別の局面において、本発明は、ペリオスチンおよびPdgfraを発現している間葉系間質細胞へと分化することができる単離された幹細胞の集団を提供する。
【0034】
一態様において、間葉系間質細胞はCdh11およびCD248を発現していない。
【0035】
さらに別の局面において、本発明は、対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内でのT細胞の産生を増加させるための組成物を提供し、該組成物はCcl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)を含む。
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。したがって、本発明の他の局面は、以下の開示に記載されかつ本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下の詳細な説明は、例として挙げられるが、本発明を記載された特定の態様に限定することを意図したものではなく、参照により本明細書に組み入れられる添付の図面と併せて理解することができる。
【0038】
【
図1A】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(A) ヒト胸腺試料の研究概要。
【
図1B】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(B) ヒトにおける主要な胸腺間質細胞型のアノテーションを示すtSNE。
【
図1C】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(C) scRNAseqおよびフローサイトメトリーによって決定された、ヒト胸腺における各集団中の細胞数。
【
図1D】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(D) ヒートマップとして示された、ヒト胸腺の間質区画における重要なリンパ球生成制御因子の発現。
【
図1E】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(E) マウス試料の研究概要。
【
図1F】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(F) マウスにおける主要な胸腺間質細胞型のアノテーションを示すtSNE。
【
図1G】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(G) scRNAseqおよびフローサイトメトリーによって決定された、マウス胸腺における各集団中の細胞数。
【
図1H】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(H) ヒートマップとして示された、ヒト胸腺の間質区画における重要なリンパ球生成制御因子の発現。
【
図1I】胸腺MSCが重要なリンパ球生成因子を発現することを示す。(I) マウス試料におけるすべての胸腺間質細胞型にわたるIl15、Ccl19、Flt3l、およびBmp4の発現の定量化。
【
図2A】ヒト胸腺間質細胞のフローサイトメトリー単離のためのゲーティング戦略。
【
図2B】ヒト胸腺処理のために2つの異なる消化プロトコールを用いた間質収量の比較。
【
図2C】造血細胞を含む、ヒト試料から配列決定されたすべての細胞を示すtSNE。
【
図2D】重要なマーカー遺伝子に基づくヒト造血細胞の定義。
【
図2E】ヒト試料中の主要な胸腺間質細胞クラスターのアノテーションを示すtSNE。
【
図2F】ヒトにおける主要な胸腺間質細胞クラスターのフロー検証のためのゲーティング戦略。
【
図2G】マウス胸腺間質細胞のフローサイトメトリー単離のためのゲーティング戦略。
【
図2H】マウス試料における細胞当たりのUMIおよび遺伝子の数。
【
図2I】造血細胞を含む、マウス試料から配列決定されたすべての細胞を示すtSNE。
【
図2J】T細胞発生の主要な段階は、重要なマーカー遺伝子の発現を通して追跡することができる。
【
図2K】マウス試料中の主要な胸腺間質細胞クラスターのアノテーションを示すtSNE。
【
図2L】マウス胸腺間質細胞の間で差次的に発現される上位遺伝子を示すヒートマップ。
【
図2M】ヒトにおける主要な胸腺間質細胞クラスターのフロー検証のためのゲーティング戦略。
【
図3A】ヒトおよびマウスの胸腺における胸腺MSCの3つのサブセットを示すtSNE。
【
図3B】異なるマウスMSCサブセットにおいて有意に差次的に発現される遺伝子のGO用語解析。
【
図3C】ヒトおよびマウスのMSCサブセットにおけるCl19、Flt3l、およびIL15の発現。
【
図4A】マウス胸腺MSCの間で差次的に発現される上位遺伝子を示すヒートマップ。
【
図4B】ヒトおよびマウスのMSCサブセットを定義するマーカー遺伝子の発現。
【
図4C】ヒトおよびマウスの試料における胸腺MSCサブセットの定量化。
【
図4D】Bornsteinらによる配列決定されたすべての間質細胞を示すtSNE。
【
図4E】胸腺MSCの3つのサブセットを示すtSNE。
【
図4F】BornsteinらのデータセットにおけるMSCサブセットマーカー遺伝子の発現。
【
図4G】マウスCD248 MSCにおいて有意に差次的に発現される遺伝子のGO用語解析。
【
図5A】放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失を示す。(A) 実験の概要。
【
図5B】放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失を示す。(B) 移植の3日後、放射線照射の4日後の組織に到着したGFP標識細胞を示す2光子顕微鏡像。
【
図5C】放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失を示す。(C) 非処置の対照マウス(対照)および放射線照射し移植したレシピエントマウス(移植)からの胸腺間質細胞を示すtSNE。
【
図5D】放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失を示す。(D) 放射線照射および移植後の胸腺MSC区画における組成変化。
【
図5E】放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失を示す。(E) 放射線照射および移植後の胸腺MSC集団のGO用語解析。
【
図6B】フローサイトメトリーによる、組織に到着したGFP標識細胞の定量化。
【
図6C】放射線照射および移植後の胸腺を示す2光子顕微鏡像。
【
図6D】移植の2日後、4日後、および5日後の組織におけるGFP+細胞の有無を示す2光子顕微鏡像。
【
図6E】放射線照射および移植後の胸腺間質区画における組成変化。
【
図6F】放射線照射および移植後のMSCサブセットにおける分泌因子、Flt3l、Ccl19、およびIL15の発現の変化。
【
図7A】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(A) 実験の概要。
【
図7B】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(B) 骨髄移植およびCD248- MSCの胸腺内移入の6日間での胸腺再生のフロー検証。
【
図7C】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(C) 骨髄移植およびMSCの胸腺内移入の6日間での胸腺再生に及ぼすMSC GFPおよびCcl19ノックアウトの効果のフロー検証。
【
図7D】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(D) 新規T細胞生成率を決定するための、骨髄移植およびMSCの胸腺内移入の1ヵ月間での胸腺におけるフロー検証およびsjTREC測定。
【
図7E】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(E) 骨髄移植およびMSCの胸腺内移入後のT細胞回復の16週間にわたる経過観察。
【
図7F】胸腺CD248- MSCの移入が、放射線前処置後のT細胞産生を促進することを示す。(F) 骨髄移植およびMSCの胸腺内移入から54日後のワクチン接種応答の推定により、新たに生成されたT細胞の機能性が実証される。
【
図8A】フローサイトメトリー単離のための汎MSCマーカーとしてのCD99l2およびItgb5の確立。
【
図8B】CD99l2+ Itgb5+胸腺MSCのコロニー形成能力。
【
図8C】MSCサブセット間を区別するためのフローサイトメトリーマーカーとしてのPdgfraおよびCD248の検証。
【
図8D】骨髄移植およびMSCの胸腺内移入の1ヵ月間での、異なるT細胞発達段階の解析。
【
図8E】骨髄移植およびMSCの胸腺内移入後の、B細胞および骨髄系細胞の回復の16週間にわたる経過観察。
【
図8F】移入の16週間後のレシピエントマウスの胸腺におけるGFP標識MSCの存在のフロー検証。
【
図9A】T細胞前駆細胞の動員を特異的に増強するペリオスチン+ MSCを示す。(A) 胸腺のtdTomato+ (Penk+) MSCおよびtdTomato- (Postn+) MSCのフローサイトメトリー単離のためのゲーティング戦略。
【
図9B】T細胞前駆細胞の動員を特異的に増強するペリオスチン+ MSCを示す。(B) 実験の概要。
【
図9C】T細胞前駆細胞の動員を特異的に増強するペリオスチン+ MSCを示す。(C) 骨髄移植ならびにtdTomato+ (Penk+) MSCおよびtdTomato- (Postn+) MSCの胸腺内移入の6日間での胸腺再生のフロー検証。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、別段の定義がない限り、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含め、本出願が優先される。
【0040】
「対象」とは、ヒト、飼育動物および家畜、ならびに動物園用、競技用、またはペット用動物、例えばマウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、および高等霊長類を含む哺乳綱の任意のメンバーを含む脊椎動物である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置すること」、「処置」などの用語は、障害および/またはそれに関連する症状を低減するまたは寛解させることを指す。除外するものではないが、障害または状態の処置は、障害、状態、またはそれらに関連する症状が完全に無くなることを必要としないことが認識されるであろう。
【0042】
「有効量」とは、所望の治療応答(すなわち、胸腺におけるT細胞の産生の増強)をもたらす間葉系細胞、幹細胞、または前駆細胞の量を意味する。
【0043】
「間葉系前駆細胞」とは、間葉系列にコミットされる可能性を有する多分化能細胞を意味する。
【0044】
「間葉系幹細胞」とは、複数の間葉系細胞型にコミットされる可能性を有するが、特定の細胞型を規定する遺伝子は発現していない多能性細胞を意味する。
【0045】
「単離された」とは、当該材料がその天然状態で見出されるときに通常それに付随している成分を、様々な程度に含まない材料を意味する。「単離する」とは、元の供給源または元の環境からの分離の程度を表す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「増加」とは、参照レベル(例えば、正常なT細胞産生を有する対象)と比較したT細胞産生量よりも少なくとも約0.05倍多い(例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1、5、10、25、50、100、1000、10,000倍またはそれ以上)T細胞産生量を指す。また、T細胞産生量に言及する場合の「増加した」も、参照レベル(例えば、正常なT細胞産生を有する対象)と比較したT細胞産生量よりも少なくとも約5%多い(例えば、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99、または100%多い)ことを意味する。量は、T細胞の量を決定するための当技術分野において公知の方法にしたがって測定することができる。
【0047】
本明細書で使用される場合、具体的記述がない限りまたは文脈から明らかでない限り、「約」なる用語は、当技術分野における通常の許容差の範囲内、例えば、平均の2標準偏差以内と理解される。「約」とは、記載された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内と理解される。文脈から別段の定めが明らかでない限り、本明細書で提供される数値はすべて、「約」なる用語によって修飾される。
【0048】
本明細書で提供される範囲は、この範囲内にあるすべての値の省略表現であると理解される。例えば、1~50という範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50(ならびに、文脈上別段の明確な定めがない限り、それらの分数)からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、または部分範囲を含むと理解される。
【0049】
本開示において、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含有する」、および「有する」等は、米国特許法においてそれらに与えられている意味を有することができ、「包含する(include)」、「包含する(including)」等を意味することができる。同様に、「~から本質的になる(consisting essentially of)」または「本質的になる(consist essentially)」は米国特許法において与えられている意味を有し、当該用語はオープンエンドであり、記載されたものの基本的または新規な特性が、記載されたもの以外の存在によって変化しない限り、記載されたもの以外の存在を許容するが、先行技術の態様は除外する。
【0050】
その他の定義は本開示全体を通して文脈中に示される。
【0051】
本発明の組成物および方法
胸腺由来の間葉系間質細胞の網羅的解析により、ペリオスチン陽性Pdgfra陽性の免疫表現型(ペリオスチン+Pdgfra+の免疫表現型)が同定された。現在この免疫表現型は、T細胞の産生に不可欠であることが判明している。胸腺などのT細胞産生組織またはT細胞産生体液へのこれらの細胞亜集団の養子細胞移入により、これらの細胞は、造血幹細胞移植(HSCT)の状況において、胸腺組織の再生および長期にわたるT細胞の再構成を増強できることが示された。ペリオスチン+Pdgfra+細胞の作製もしくは単離およびこれらの移入、ならびに/またはこれらの細胞が発現している特定の遺伝子もしくはタンパク質は、HSCTの環境において、または高齢を含む、T細胞の枯渇/欠乏もしくは機能不全が有害作用の一因となっている他の状況において、治療上の恩恵をもたらす。
【0052】
ペリオスチンは、例えば、GenBankアクセッション番号NM_001135934.2(SEQ ID NO: 1および2)によって記載されている。骨芽細胞特異的因子2とも呼ばれるペリオスチンは、分泌性細胞接着タンパク質であり、昆虫の細胞接着分子であるファシクリンIと相同性を有する。そのN末端領域は、その分泌のためのシグナルペプチド(SP)と、非還元条件において多量体の形成を促進するシステインリッチ領域(EMIドメイン)とを含む。SPおよびEMIドメインに隣接して、4つの内部相同性リピート(FASドメイン)が位置する。これらは、昆虫の細胞接着タンパク質であるファシクリンIと相同性であり、インテグリンのリガンドとして作用する。ペリオスチンのC末端領域は親水性ドメインからなる。ペリオスチンのN末端領域は高度に保存されているのに対し、当該タンパク質のC末端領域はアイソフォームによって異なる。N末端領域は、そのFASドメインを介して細胞の原形質膜においてインテグリンに結合することによって、細胞機能を制御する。当該タンパク質のC末端領域は、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、例えば、コラーゲンI/V、フィブロネクチン、テネイシンC、酸性ムコ多糖類、例えば、ヘパリン、およびペリオスチン自体に結合することによって、細胞・マトリックスの組織化および相互作用を制御する。
【0053】
ペリオスチンは、骨および歯の形成および維持、ならびに心臓の発生および治癒の重要な制御因子であることが示されている。また、ペリオスチンは、腫瘍の成長においても重要な役割を果たしており、多種多様ながん、例えば、結腸がん、膵がん、卵巣がん、乳がん、頭頸部がん、甲状腺がん、および胃がんにおいて、ならびに神経芽細胞腫において上方制御されている。インテグリンに結合したペリオスチンは、Akt/PKB媒介およびFAK媒介シグナル伝達経路を活性化し、これらのシグナル伝達経路は、がん細胞の細胞生存の増加、血管新生、浸潤、転移、および重要なことには、上皮間葉移行を導く。
【0054】
血小板由来増殖因子受容体アルファ、すなわちPdgfraは、血小板由来増殖因子ファミリーのメンバーに対する細胞表面チロシンキナーゼ受容体である。これらの増殖因子は、間葉由来の細胞の分裂促進因子である。Pdgfraは、器官の発生、創傷治癒、および腫瘍の進行において役割を果たすことが知られている。Pdgfraは、例えば、GenBankアクセッションNM_001347827.2(SEQ ID NO: 3および4)によって記載されている。Pdgfraは、典型的な受容体型チロシンキナーゼであり、細胞外リガンド結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内チロシンキナーゼドメインとからなる膜貫通タンパク質である。成熟したグリコシル化PDGFRαタンパク質の分子量はおよそ170 kDAである。
【0055】
ペリオスチン+Pdgfra+の免疫表現型によって同定されるペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞は、再生の表現型を促進する遺伝子を差異的に発現しており、これらの遺伝子には、Flt3リガンド(fms関連受容体チロシンキナーゼ3リガンド)、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)、BMP2(骨形成タンパク質2)、BMP4(骨形成タンパク質4)、IL-15(インターロイキン15)、IL-12a(インターロイキン-12a)、Cxcl14(C-X-Cモチーフケモカインリガンド14)、Ccl11(C-Cモチーフケモカインリガンド11)、Cxcl10(C-X-Cモチーフケモカインリガンド10)、およびIL-34(インターロイキン34)、ならびにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例示的な組み合わせは、Ccl19、Flt31、およびIL-15を含む。
【0056】
Flt3リガンドは、例えば、GenBankアクセッションNM_001204502.2(SEQ ID NO: 7および8)によって記載されており;Ccl19は、例えば、GenBankアクセッションNM_006274.3(SEQ ID NO: 9および10)によって記載されており;BMP2は、例えば、GenBankアクセッションNM_001200.4(SEQ ID NO: 11および12)によって記載されており;BMP4は、例えば、GenBankアクセッションNM_001202.6(SEQ ID NO: 13および14)によって記載されており;IL-15は、例えば、GenBankアクセッションNM_000585.5(SEQ ID NO: 15および16)によって記載されており;IL-12aは、例えば、GenBankアクセッションNM_000882.4(SEQ ID NO: 17および18)によって記載されており;Cxcl14は、例えば、GenBankアクセッションNM_004887.5(SEQ ID NO: 19および20)によって記載されており;Ccl11は、例えば、GenBankアクセッションNM_002986.3(SEQ ID NO: 21および22)によって記載されており;Cxcl10は、例えば、GenBankアクセッションNM_001565.4(SEQ ID NO: 23および24)によって記載されており;IL-34は、例えば、GenBankアクセッションNM_001172771.2(SEQ ID NO: 25および26)によって記載されている。本発明の間葉系間質細胞、またはその前駆細胞は、T細胞の産生を誘導するのに適したレベルでこれらおよび他の再生タンパク質を発現または過剰発現するように操作されてもよい。
【0057】
いくつかの態様において、ペリオスチン+Pdgfra+の免疫表現型によって同定される間葉系間質細胞は、Cdh11および/またはCD248を発現していない。
【0058】
Cdh11遺伝子は、カルシウム依存性細胞間接着を媒介するカドヘリンスーパーファミリー膜内在性タンパク質のII型古典的カドヘリンをコードしている。Cdh11は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_001308392.2(SEQ ID NO: 27および28)によって記載されている。成熟カドヘリンタンパク質は、大きなN末端細胞外ドメインと、単一の膜貫通ドメインと、高度に保存された小さなC末端細胞質ドメインとから構成されている。II型(非定型)カドヘリンは、I型カドヘリンに特有のHAV細胞接着認識配列の欠如に基づいて定義される。骨芽細胞株におけるこの特定のカドヘリンの発現、および分化時のその上方制御は、骨の発生および維持における一定の機能を示唆している。
【0059】
CD248は、腫瘍内皮マーカー1、tem1、およびエンドシアリン(endosialin)としても公知である。CD248は、例えば、GenBankアクセッション番号NM_020404.3(SEQ ID NO: 5および6)によって記載されている。CD248は膜貫通型受容体であり、その公知のリガンドはフィブロネクチンおよびI/IV型コラーゲンである。CD248は、胚期の間葉系細胞で広く発現しており、周皮細胞および線維芽細胞の増殖および遊走に必要とされる。
【0060】
本発明の間葉系間質細胞は、そのペリオスチン+Pdgfra+の免疫表現型にしたがって、ヒト組織(例えば、胸腺)から当技術分野において公知の方法を用いて取得することができる。細胞の精製方法および単離方法は当業者に公知であり、細胞表面マーカーの発現に基づく選別手法、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS選別)、陽性分離手法、および陰性分離、磁気分離、ならびにこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。当業者であれば、FACSなどの様々な周知の方法を用いて、集団内の間質細胞、幹細胞、またはそれらの前駆細胞の比率を容易に決定することができる。いくつかの態様において、最初に細胞を精製することが望ましい。間質細胞、幹細胞、またはそれらの前駆細胞は、約50~55%、55~60%、60~65%、および65~70%の純度を有する細胞の集団を構成していてもよい(例えば、非間質細胞、非幹細胞、および/または非前駆細胞が集団から除去されているか、または他の方法により集団に存在しない)。より好ましくは、純度は、約70~75%、75~80%、80~85%であり;最も好ましくは、純度は、約85~90%、90~95%、および95~100%である。間質細胞、幹細胞、またはそれらの前駆細胞の純度は、集団内の遺伝子マーカープロファイルにしたがって決定することができる。治療投与量は、当業者が容易に調整することができる(例えば、純度の低下により、投与量の増加が必要とされる場合がある)。
【0061】
他の態様において、本発明の間葉系間質細胞は、適切な幹細胞または前駆細胞に由来してもよい。本発明の幹細胞は、間葉系幹細胞を含む。間葉系幹細胞すなわち「MSC」は、当技術分野において周知である。MSCは、元々は胚性中胚葉に由来し、成体の骨髄から単離されるものであり、分化して、筋肉、骨、軟骨、脂肪、骨髄間質、および腱を形成することができる。胚発生時、中胚葉は、骨、軟骨、脂肪、骨格筋、および内皮を生成する組織である肢芽中胚葉へと成長する。中胚葉は内臓中胚葉へも分化し、これは、心筋、平滑筋、または内皮と造血前駆細胞とからなる血島を生み出すことができる。したがって、原始中胚葉またはMSCは、多数の細胞型および組織型の供給源を提供することができる。いくつかのMSCが単離されている。(例えば、Caplan, A., et al.の米国特許第5,486,359号;Young, H., et al.の米国特許第5,827,735号;Caplan, A., et al.の米国特許第5,811,094号;Bruder, S., et al.の米国特許第5,736,396号;Caplan, A., et al.の米国特許第5,837,539号;Masinovsky, B.の米国特許第5,837,670号;Pittenger, M.の米国特許第5,827,740号;Jaiswal, N., et al., (1997). J. Cell Biochem. 64(2):295-312;Cassiede P., et al., (1996). J Bone Miner Res. 9:1264-73;Johnstone, B., et al., (1998) Exp Cell Res. 1:265-72;Yoo, et al., (1998) J Bon Joint Surg Am. 12:1745-57;Gronthos, S., et al., (1994). Blood 84:4164-73;Pittenger, et al., (1999). Science 284:143-147を参照されたい。)
【0062】
間葉系幹細胞は、骨髄外へ遊走し、特定の組織に結合すると考えられている。インビトロまたはエクスビボにおいて間葉系幹細胞の増殖および維持を増強することにより、乳房組織、皮膚組織、筋組織、内皮組織、骨組織、呼吸器組織、泌尿生殖器組織、胃腸管結合組織、または線維芽細胞組織を含む組織を生成または再生するために使用することができる拡大集団がもたらされる。
【0063】
本発明の幹細胞はまた、胚性幹細胞を含む。胚性幹(ES)細胞は、無制限の自己複製能および多能性分化能を有する(Thomson, J. et al. 1995; Thomson, J.A. et al. 1998; Shamblott, M. et al. 1998; Williams, R.L. et al. 1988; Orkin, S. 1998; Reubinoff, B.E., et al. 2000)。これらの細胞は、着床前胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に由来するか(Thomson, J. et al. 1995; Thomson, J.A. et al. 1998; Martin, G.R. 1981)、または着床後の胚からの始原生殖細胞に由来してもよい(胚性生殖細胞またはEG細胞)。ES細胞および/またはEG細胞は、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタを含む多数の種から、より最近ではヒトおよびヒトおよび非ヒト霊長類から得られている(米国特許第5,843,780号および同第6,200,806号)。
【0064】
胚性幹細胞は当技術分野において周知である。例えば、米国特許第6,200,806号および同第5,843,780号は、ヒトを含む霊長類の胚性幹細胞について言及している。米国特許出願第20010024825号および同第20030008392号には、ヒト胚性幹細胞が記載されている。米国特許出願第20030073234号には、クローンヒト胚性幹細胞株が記載されている。米国特許第6,090,625号および米国特許出願第20030166272号には、多能性であると述べられている未分化細胞が記載されている。米国特許出願第20020081724号には、胚性幹細胞に由来する細胞培養物であると述べられているものが記載されている。
【0065】
本発明の幹細胞はまた、iPS細胞を含む。iPS細胞は、胚性幹細胞を特徴付ける特性を維持するのに重要な遺伝子および因子を発現させることによって、胚性幹細胞様状態となるように遺伝的にリプログラミングされた成熟細胞である。
【0066】
単離された間葉系間質細胞、ならびに適切な幹細胞または前駆細胞に由来する間葉系間質細胞は、細胞の遺伝物質の一過性および安定的変化を導入することが知られているすべての方法を含む、当技術分野において公知の方法により、所望の核酸を発現するように遺伝的に改変されてもよい。間葉系間質細胞、幹細胞、または前駆細胞の遺伝子改変は、外因性遺伝物質の追加を含む。外因性遺伝物質には、細胞に導入される天然または合成の核酸またはオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0067】
間葉系間質細胞、幹細胞、または前駆細胞の遺伝子改変を実現するために、遺伝子編集システムを用いることができる。例えば、CRISPR/Casシステムを用いて、CD248およびCdh11を含む1つまたは複数の核酸を不活性化することができる(Wiedenheft et al. (2012) Nature 482: 331-8)。CRISPR/Casシステムは、マウスまたは霊長類などの真核生物における遺伝子編集(特定の遺伝子のサイレンシング、増強、または変化)に使用するために改良されている。これは、例えば、特別に設計されたCRISPRと1つまたは複数の適当なCasとを含むプラスミドを真核細胞に導入することによって達成される。一般的に、真核細胞における遺伝子編集のためのCRISPR/Casシステムは、(1)標的指向配列(ゲノムDNAの標的配列にハイブリダイズすることができる)と、Cas、例えばCas9酵素に結合することができる配列とを含むガイドRNA分子(gRNA)、および(2)Casタンパク質、例えばCas9タンパク質を含む。標的指向配列、およびCas、例えばCas9酵素に結合することができる配列は、同じ分子または異なる分子上に配置されてもよい。異なる分子上に配置される場合、各分子は、例えばハイブリダイゼーションによってこれらの分子が会合することを可能にするハイブリダイゼーションドメインを含む。
【0068】
CRISPR座位と呼ばれることもあるCRISPR配列は、リピートとスペーサーを交互に含む。CRISPR座位からのRNAは恒常的に発現され、プロセシングされて低分子RNAとなる。これらは、リピート配列に隣接したスペーサーを含む。これらのRNAは、他のCasタンパク質を誘導して、外因性遺伝要素をRNAまたはDNAレベルでサイレンシングする。Horvath et al. (2010) Science 327: 167-170; Makarova et al. (2006) Biology Direct 1: 7。したがって、スペーサーは、siRNAと似たように、RNA分子の鋳型として機能する。Pennisi (2013) Science 341: 833-836。
【0069】
したがって、CRISPR/Casシステムを用いて、改変を行うこと、例えば、1つもしくは複数の核酸、例えばCD248、もしくはCD248の遺伝子制御エレメントを欠失させること、または、結果として機能的CD248の発現を減少させる未成熟終止を導入することができる。あるいは、CRISPR/CasシステムをRNA干渉のように用いて、CD248を可逆的にオフにすることができる。例えば、哺乳動物細胞において、前記RNAはCasタンパク質をCD248またはCdh11のプロモーターへと誘導し、RNAポリメラーゼを立体的に妨害することができる。
【0070】
別の態様において、CRISPR/Casシステムを用いて1つまたは複数の核酸を導入することができる。核酸、例えば、ペリオスチンおよびPdgfraをコードするDNAを、CRISPR/Casシステムと共に細胞内に導入することができる。このプロセスを用いて、例えば本明細書に記載されるような、ペリオスチンおよびPdgfraをコードするDNAを、CRISPR/Casシステムが標的とする部位またはその近くに組み込むことができる。
【0071】
他の態様において、外因性遺伝物質はまた、発現ベクター構築物においてプロモーターの機能的調節下に置かれた天然の遺伝子を含んでもよい。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んで送達することができる、コスミド、プラスミド(例えば、ネイキッドプラスミドまたはリポソーム内に含まれるプラスミド)、レトロトランスポゾン(例えば、ピギーバック(piggyback)、スリーピングビューティー(sleeping beauty))、ならびにウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などの、当技術分野において公知のすべての発現ベクターが含まれる。
【0072】
ウイルス発現ベクターを産生するための方法は当技術分野において公知である。一般的に、開示のウイルスは、従来の手法を用いて適切な宿主細胞株において産生され、これは、感染性ウイルス粒子の産生を可能にするために、トランスフェクションしたまたは感染させた宿主細胞を適切な条件下で培養することを含む。ウイルスの遺伝子をコードする核酸、ならびに/または、例えばペリオスチンおよびpdgfraをコードする配列は、プラスミドに組み込み、従来のトランスフェクション手法または形質転換手法により宿主細胞に導入することができる。開示のウイルスの産生に適した例示的な宿主細胞には、HeLa細胞、Hela-S3細胞、HEK293細胞、911細胞、A549細胞、HER96細胞、またはPER-C6細胞などのヒト細胞株が含まれる。具体的な産生条件および精製条件は、ウイルスおよび採用される産生系に依存して変化する。
【0073】
いくつかの実施形態においては、産生細胞を対象に直接投与してもよいが、他の実施形態においては、産生後、感染性ウイルス粒子を培養物から回収し、任意で精製する。典型的な精製工程は、プラークの精製、遠心分離、例えば、塩化セシウム勾配遠心分離、清澄化、酵素処理、例えば、ベンゾナーゼもしくはプロテアーゼ処理、クロマトグラフィー工程、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、または濾過工程を含み得る。
【0074】
特定の実施形態において、発現ベクターはウイルスベクターである。本明細書において、「ウイルス」なる用語は、タンパク質合成機構もエネルギー生成機構も有さない任意の偏性細胞内寄生体について言及するために使用される。例示的なウイルスベクターには、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ベクター、ポリオーマウイルスベクター(例えば、シミアン空胞化ウイルス40(SV40)ベクター)、ポックスウイルスベクター、およびシュードタイプウイルスベクターが含まれる。
【0075】
ウイルスは、RNAウイルス(RNAで構成されるゲノムを有する)またはDNAウイルス(DNAで構成されるゲノムを有する)であり得る。特定の実施形態において、ウイルスベクターはDNAウイルスベクターである。例示的なDNAウイルスには、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、アデノウイルス、アスファウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1および2(HSV-1およびHSV-2)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV))、パピローマウイルス(例えば、HPV)、ポリオーマウイルス(例えば、シミアン空胞化ウイルス40(SV40))、ならびにポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、天然痘ウイルス、鶏痘ウイルス、羊痘ウイルス、粘液腫ウイルス)が含まれる。特定の実施形態において、ウイルスベクターはRNAウイルスベクターである。例示的なRNAウイルスには、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コロナウイルス、エボラウイルス、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス)、インフルエンザウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス)、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ノロウイルス(例えば、ノーウォークウイルス)、ポリオウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、レトロウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1))、およびトロウイルスが含まれる。
【0076】
特定の実施形態において、発現ベクターは、例えばペリオスチンおよびpdgfraをコードする、外因性配列をコードするヌクレオチド配列に機能的に連結された制御配列またはプロモーターを含む。「機能的に連結される」なる用語は、機能的関係におけるポリヌクレオチド要素の連結を指す。ある核酸配列が、別の核酸配列と機能的関係になるように配置されているとき、この核酸配列は「機能的に連結され」ている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それらが遺伝子の転写に影響を及ぼす場合、この遺伝子に機能的に連結されている。通常、機能的に連結されたヌクレオチド配列は連続している。しかしながら、エンハンサーは一般的にプロモーターから数キロベース離れているときに機能しており、イントロン配列は多様な長さであってもよいことから、いくつかのポリヌクレオチド要素は、機能的に連結されていても直接隣接していないことがあり、異なるアレルまたは染色体からトランスで機能することさえある。
【0077】
採用され得るさらなる例示的なプロモーターとしては、レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、U6プロモーター、または任意の他のプロモーター(例えば、ヒストンプロモーター、pol IIIプロモーター、およびβ-アクチンプロモーターを含むがこれらに限定されない真核細胞プロモーターなどの、細胞プロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。採用され得る他のウイルスプロモーターとしては、アデノウイルスプロモーター、TKプロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。適切なプロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示から当業者には明らかであろう。
【0078】
特定の実施形態において、発現ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。AAVは、パルボウイルス科ディペンドパルボウイルス属の小さな非エンベロープ型正二十面体ウイルスである。AAVは、およそ4.7 kbの一本鎖線状DNAゲノムを有する。AAVは、いくつかの組織型の分裂細胞および静止細胞の両方に感染することができ、AAVの異なる血清型は、異なる組織指向性を呈する。HEK293細胞、COS細胞、HeLa細胞、BHK細胞、Vero細胞、ならびに昆虫の細胞を含む多くの細胞型が、AAVベクターの産生に適している(例えば、米国特許第6,156,303号、同第5,387,484号、同第5,741,683号、同第5,691,176号、同第5,688,676号、および同第8,163,543号、米国特許出願公開第20020081721号、ならびにPCT国際公開公報第00/47757号、国際公開公報第00/24916号、および国際公開公報第96/17947号を参照されたい)。一般的に、AAVベクターは、これらの細胞型において、ITRに隣接した発現カセットを含む1つのプラスミドと、追加のAAV遺伝子およびヘルパーウイルス遺伝子を提供する1つまたは複数の追加のプラスミドによって産生される。
【0079】
AAVベクターの非限定的な例には、pAAV-MCS(Agilent Technologies)、pAAVK-EF1α-MCS(System Bioカタログ番号AAV502A-1)、pAAVK-EF1α-MCS1-CMV-MCS2(System Bioカタログ番号AAV503A-1)、pAAV-ZsGreen1(Clontechカタログ番号6231)、pAAV-MCS2(Addgeneプラスミド番号46954)、AAV-Stuffer(Addgeneプラスミド番号106248)、pAAVscCBPIGpluc(Addgeneプラスミド番号35645)、AAVS1_Puro_PGK1_3xFLAG_Twin_Strep(Addgeneプラスミド番号68375)、pAAV-RAM-d2TTA::TRE-MCS-WPRE-pA(Addgeneプラスミド番号63931)、pAAV-UbC(Addgeneプラスミド番号62806)、pAAVS1-P-MCS(Addgeneプラスミド番号80488)、pAAV-Gateway(Addgeneプラスミド番号32671)、pAAV-Puro_siKD(Addgeneプラスミド番号86695)、pAAVS1-Nst-MCS(Addgeneプラスミド番号80487)、pAAVS1-Nst-CAG-DEST(Addgeneプラスミド番号80489)、pAAVS1-P-CAG-DEST(Addgeneプラスミド番号80490)、pAAVf-EnhCB-lacZnls(Addgeneプラスミド番号35642)、およびpAAVS1-shRNA(Addgeneプラスミド番号82697)が含まれる。これらのベクターは、治療的使用に適したものになるように改変されてもよい。例えば、関心対象の外因性核酸配列を多重クローニング部位に挿入することができ、選択マーカー(例えば、puro、もしくは蛍光タンパク質をコードする遺伝子)を除去するかまたはもう1つの(同じもしくは異なる)関心対象の外因性遺伝子で置換することができる。AAVベクターのさらなる例は、米国特許第5,871,982号、同第6,270,996号、同第7,238,526号、同第6,943,019号、同第6,953,690号、同第9,150,882号、および同第8,298,818号、米国特許出願公開第2009/0087413号、ならびにPCT国際公開公報第2017075335号A1、国際公開公報第2017075338号A2、および国際公開公報第2017201258号A1に開示されている。
【0080】
特定の実施形態において、ウイルスベクターはレトロウイルスベクターであってもよい。レトロウイルスベクターの例には、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、脾壊死ウイルスベクター、ならびにラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳房腫瘍ウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターが含まれる。レトロウイルスベクターは、真核細胞へのレトロウイルス媒介性遺伝子移入を媒介する作用物質として有用である。
【0081】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。特定の実施形態において、組換えレトロウイルスベクターは、2つ以上の最適なエピトープをコードする核酸配列を含むレンチウイルスベクターである。例示的なレンチウイルスベクターには、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス-2(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジュンブラナ(Jembrana)病ウイルス(JDV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)に由来するベクターが含まれる。
【0082】
レンチウイルスベクターの非限定的な例には、pLVX-EF1α-AcGFP1-C1(Clontechカタログ番号631984)、pLVX-EF1α-IRES-mCherry(Clontechカタログ番号631987)、pLVX-Puro(Clontechカタログ番号632159)、pLVX-IRES-Puro(Clontechカタログ番号632186)、pLenti6/V5-DEST(商標)(Thermo Fisher)、pLenti6.2/V5-DEST(商標)(Thermo Fisher)、pLKO.1(Addgeneプラスミド番号10878)、pLKO.3G(Addgeneプラスミド番号14748)、pSico(Addgeneプラスミド番号11578)、pLJM1-EGFP(Addgeneプラスミド番号19319)、FUGW(Addgeneプラスミド番号14883)、pLVTHM(Addgeneプラスミド番号12247)、pLVUT-tTR-KRAB(Addgeneプラスミド番号11651)、pLL3.7(Addgeneプラスミド番号11795)、pLB(Addgeneプラスミド番号11619)、pWPXL(Addgeneプラスミド番号12257)、pWPI(Addgeneプラスミド番号12254)、EF.CMV.RFP(Addgeneプラスミド番号17619)、pLenti CMV Puro DEST(Addgeneプラスミド番号17452)、pLenti-puro(Addgeneプラスミド番号39481)、pULTRA(Addgeneプラスミド番号24129)、pLX301(Addgeneプラスミド番号25895)、pHIV-EGFP(Addgeneプラスミド番号21373)、pLV-mCherry(Addgeneプラスミド番号36084)、pLionII(Addgeneプラスミド番号1730)、pInducer10-mir-RUP-PheS(Addgeneプラスミド番号44011)が含まれる。これらのベクターは、治療的使用に適したものになるように改変されてもよい。例えば、選択マーカー(例えば、puro、EGFP、もしくはmCherry)を除去するかまたは第二の関心対象の外因性核酸配列で置換することができる。レンチウイルスベクターのさらなる例は、米国特許第7,629,153号、同第7,198,950号、同第8,329,462号、同第6,863,884号、同第6,682,907号、同第7,745,179号、同第7,250,299号、同第5,994,136号、同第6,287,814号、同第6,013,516号、同第6,797,512号、同第6,544,771号、同第5,834,256号、同第6,958,226号、同第6,207,455号、同第6,531,123号、および同第6,352,694号、ならびにPCT国際公開公報第2017/091786号に開示されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクターはアデノウイルスベクターであってもよい。アデノウイルスは、ヌクレオカプシドと二本鎖線状DNAゲノムから構成される、中程度の大きさ(90~100nm)の非エンベロープ型(ネイキッド)正二十面体ウイルスである。「アデノウイルス」なる用語は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ブタ、マウス、およびサルのアデノウイルス亜属を含むがこれらに限定されないアデノウイルス属(genus Adenoviridiae)の任意のウイルスを指す。一般的に、アデノウイルスベクターは、例えば遺伝子移入のための、非天然核酸配列のアデノウイルスへの挿入を許容するために、アデノウイルスのアデノウイルスゲノムに1つまたは複数の変異(例えば、欠失、挿入、または置換)を導入することによって作製される。
【0084】
アデノウイルスベクターは、複製能を有するか、条件付き複製能を有するか、または複製欠損型であってもよい。複製能を有するアデノウイルスベクターは、典型的な宿主細胞、すなわち、アデノウイルスが一般的に感染することができる細胞内で複製することができる。条件付き複製型アデノウイルスベクターは、所定の条件下で複製するように操作されたアデノウイルスベクターである。例えば、複製に必須な遺伝子機能、例えばアデノウイルス初期領域によってコードされる遺伝子機能が、誘導性、抑制性、または組織特異的な転写調節配列、例えばプロモーターに機能的に連結されてもよい。条件付き複製型アデノウイルスベクターについては米国特許第5,998,205号にさらに記載されている。複製欠損型アデノウイルスベクターは、例えば複製に必須な1つまたは複数の遺伝子機能または遺伝子領域の欠損の結果として、複製に必要とされるアデノウイルスゲノムの1つまたは複数の遺伝子機能または遺伝子領域の補完を必要とするアデノウイルスベクターであり、そのため、このアデノウイルスベクターが典型的な宿主細胞、特に、このアデノウイルスベクターに感染したヒトの細胞内で複製することはない。
【0085】
本発明の複製欠損型アデノウイルスベクターは、高力価のウイルスベクターストックを作製するために、複製欠損型アデノウイルスベクター内には存在しないがウイルスの増殖に必要とされる遺伝子機能を提供する補完細胞株において、適当なレベルで産生されてもよい。このような補完細胞株は公知であり、293細胞(例えば、Graham et al. (1977) J. Gen. Virol. 36: 59-72に記載されている)、PER.C6細胞(例えば、PCT国際公開公報第1997/000326号、ならびに米国特許第5,994,128号および同第6,033,908号に記載されている)、および293-ORF6細胞(例えば、PCT国際公開公報第1995/034671号およびBrough et al. (1997) J. Virol. 71: 9206-9213に記載されている)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の複製欠損型アデノウイルスベクターを産生するのに適した他の補完細胞株には、その発現が宿主細胞内でのウイルスの成長を阻害する導入遺伝子をコードするアデノウイルスベクターを増殖させるよう作製された補完細胞が含まれる(例えば、米国特許出願公開第2008/0233650号を参照されたい)。さらなる適切な補完細胞は、例えば、米国特許第6,677,156号および同第6,682,929号、ならびにPCT国際公開公報第2003/020879号に記載されている。さらに、アデノウイルスベクターを含有する組成物のための製剤は、例えば、米国特許第6,225,289号および同第6,514,943号、ならびにPCT国際公開公報第2000/034444号に記載されている。
【0086】
さらなる例示的なアデノウイルスベクター、および/またはアデノウイルスベクターを作製もしくは増殖させるための方法は、米国特許第5,559,099号、同第5,837,511号、同第5,846,782号、同第5,851,806号、同第5,994,106号、同第5,994,128号、同第5,965,541号、同第5,981,225号、同第6,040,174号、同第6,020,191号、同第6,083,716号、同第6,113,913号、同第6,303,362号、同第7,067,310号、および同第9,073,980号に記載されている。
【0087】
市販のアデノウイルスベクターシステムとしては、Thermo Fisher Scientificから入手可能なViraPower(商標)アデノウイルス発現システム、Agilent Technologiesから入手可能なAdEasy(商標)アデノウイルスベクターシステム、およびTakara Bio USA, Inc.から入手可能なAdeno-X(商標)発現システム3が挙げられる。
【0088】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは単純ヘルペスウイルスプラスミドベクターであってもよい。単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、遺伝子治療に有用である可能性のある遺伝子送達ベクターシステムとして実証されている。HSV-1ベクターは、遺伝子を筋肉に移入するために使用されており、マウスの脳腫瘍の処置に使用されている。より簡単な操作およびより大きな挿入物(最大140 kb)の収容能力のために、ヘルパーウイルス依存性ミニウイルスベクターが開発されている。当技術分野において、複製能を有さないHSVアンプリコンが構築されている。これらのHSVアンプリコンは、外因性DNAを挿入するための場所を設けるために、HSVゲノムの大きな欠失を含む。一般的に、これらはHSV-1パッケージング部位、HSV-1「ori S」複製部位、およびIE 4/5プロモーター配列を含む。これらのビリオンは増殖をヘルパーウイルスに依存している。
【0089】
本発明の方法は、T細胞の量を増加させることが望ましい任意の疾患または障害を処置するために使用することができる。往々にして、本発明に係る処置方法を必要とする対象は、化学療法などの免疫細胞を枯渇させる処置を受けているかまたは受ける予定である対象である。ほとんどの化学療法剤は、細胞分裂を行っている細胞を全て死滅させることによって作用する。したがって、例えば、本発明の方法は、骨髄移植または造血幹細胞移植を必要としている患者、例えば化学療法および/または放射線療法を受けているがん患者を処置するために使用することができる。特に、本発明の方法は、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、または白血病を患っている患者を含む、がんのために化学療法または放射線療法を受けている患者の処置において有用である。
【0090】
本発明の方法によって処置される障害は、別の一次処置、例えば、放射線療法、化学療法、またはジドブジン(zidovadine)、クロラムフェニコール(chloramphenical)、もしくはガンシクロビル(gangciclovir)などの免疫抑制薬による処置の望ましくない副作用または合併症の結果であってもよい。このような障害には、好中球減少症、貧血、血小板減少症、および免疫機能障害が含まれる。
【0091】
正常な対象と比較して低減されたレベルの免疫機能は、白血病、腎不全に起因する免疫抑制状態;全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、自己免疫性甲状腺炎、強皮症、炎症性腸疾患を含むがこれらに限定されない自己免疫障害;様々ながんおよび腫瘍;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含むがこれに限定されないウイルス感染症;細菌感染症;ならびに寄生虫感染症を含む、種々の障害、疾患感染症、または状態によって生じ得、加齢の結果として起こる場合もある。
【0092】
したがって、本発明は、疾患および/もしくは障害またはそれらの症状を処置する方法を提供し、該方法は、本明細書に記載のペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞を含む組成物の治療有効量を対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与する工程を含む。したがって、1つの態様は、T細胞の欠如またはT細胞集団内のT細胞受容体の複雑性の変化を特徴とする疾患を有する対象を処置する方法である。前記方法は、疾患もしくは障害またはそれらの症状を処置するのに十分な治療量の、CCL19を発現しているペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞もしくは間葉系幹細胞、またはそのような細胞型を含む混合物、またはCCL19自体を、該疾患または障害が処置されるような条件下で前記対象に投与する工程を含む。このような処置を必要とする対象の同定は、対象または医療専門家の判断で行うことができ、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、検査もしくは診断法によって測定可能)であってもよい。
【0093】
ペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞は、当技術分野において公知の方法により投与される。このような組成物は、注射または時間をかけた段階的注入を含む、任意の従来の経路によって投与されてもよい。投与は、投与される組成物に応じて、例えば、胸腺内、経肺、静脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、または経皮であってもよい。ペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞は、「有効量」で、または単独でもしくはさらなる投薬と共に所望の治療応答をもたらす量で投与される。本発明の投与される細胞は、自家(「自己」)細胞または非自家(「非自己」、例えば、同種、同系、もしくは異種)細胞であってもよい。一般的に、細胞の投与は、処置後の短い期間内(例えば、処置後1、2、5、10、24、または48時間以内)に、およびそれぞれの所望の処置レジメンの要求にしたがって、行うことができる。例えば、投与前に放射線療法または化学療法が実施される場合、本発明の処置および細胞の移植は、治療の中断から約1ヶ月以内に最適に提供されるべきである。しかしながら、処置中止後のより遅い時点での移植は、誘導可能な臨床転帰を伴って行うことができる。
【0094】
ペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞は、投与前の細胞の保存および維持を向上させるために、当技術分野において公知の薬学的賦形剤と組み合わせることができる。いくつかの態様において、本発明の細胞組成物は、無菌液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、乳濁液、分散液、または粘性組成物として好都合に提供することができ、これらは、選択されたpHに緩衝化されてもよい。液体調製物は通常、ゲル、他の粘性組成物、および固体組成物よりも調製しやすい。さらに、液体組成物は、幾分ではあるが、特に注射によって投与するのにより好都合である。一方、粘性組成物は、特定の組織とのより長い接触期間を提供するために、適当な粘度の範囲内で製剤化することができる。液体組成物または粘性組成物は担体を含むことができ、この担体は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適切な混合物を含有する、溶媒または分散媒体であってもよい。
【0095】
無菌注射溶液は、所望の通りに、本発明の実施において利用される細胞を、必要量の適当な溶媒中に、様々な量の他の成分と共に組み入れることによって、調製することができる。このような組成物は、適切な担体、希釈剤、または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどとの混和物であってもよい。組成物はまた、凍結乾燥することもできる。組成物は、望ましい投与経路および調製に応じて、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化または粘性を高める添加物、保存料、香味剤、染料などの補助物質を含有することができる。過度の実験を行うことなく適切な調製物を調製するために、参照により本明細書に組み入れられる「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」,第17版,1985年などの標準的な教科書を参照してもよい。
【0096】
抗菌性保存料、抗酸化剤、キレート剤、および緩衝液を含む、組成物の安定性および無菌性を向上させる様々な添加物を添加することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって確実に行うことができる。
【0097】
組成物は等張性であってもよい。すなわち、組成物は、血液および涙液と同じ浸透圧を有することができる。本発明の組成物の望ましい等張性は、塩化ナトリウム、または他の薬学的に許容される剤、例えばデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、または他の無機溶質もしくは有機溶質を使用して達成されてもよい。特にナトリウムイオンを含有する緩衝液には、塩化ナトリウムが好ましい。
【0098】
その必要がある対象に細胞を導入する場合に細胞生存を潜在的に増加させる方法は、関心対象の細胞をバイオポリマーまたは合成ポリマーに組み込むことである。対象の状態によっては、注射部位が、瘢痕や他の障害物のために細胞の播種および成長に適さないと判明することがある。バイオポリマーの例としては、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、およびプロテオグリカンと混合した細胞が挙げられるが、これらに限定されない。これは、増殖因子もしくは分化因子を含めて、またはこれらを含めずに構築することができる。さらに、これらは懸濁液中にあってもよいが、流れに供される部位における滞留時間はわずかである。別の代替物は、細胞バイオポリマー混和物の間隙に細胞が封入されている三次元ゲルである。この場合も、増殖因子または分化因子を細胞と共に含めてもよい。これらは、本明細書に記載されている様々な経路を介する注射によって配置することができる。
【0099】
当業者であれば、組成物の構成要素は化学的に不活性であるように選択されるべきであり、本発明において記載されるような幹細胞またはその前駆細胞の生存率または有効性に影響を及ぼさないことを認識するであろう。このことは、化学原理および薬学原理に熟達した者にとっては問題にはならず、あるいは、本開示および本明細書で引用された文献から、標準的な教科書を参照することによりもしくは(過度の実験を含まない)簡単な実験により、問題を容易に回避することができる。
【0100】
細胞の治療的使用に関する考慮すべき事項の1つは、最適な効果を実現するのに必要な細胞の量である。異なる状況では、関心対象の組織に注射される細胞の量を最適化することが必要であり得る。したがって、投与される細胞の量は、処置されている対象により変化する。有効な用量であると考えられるものの正確な決定は、特定の患者の大きさ、年齢、性別、体重、および状態を含む、各患者に個別の要素に基づき得る。わずか100~1000個の細胞を、選択された患者において特定の所望の用途のために投与することができる。したがって、当業者であれば、本開示および当技術分野における知識から、投薬量を容易に確かめることができる。
【0101】
当業者であれば、本発明の組成物中にある、および本発明の方法において投与される、細胞ならびに任意選択的な添加物、ビヒクル、および/または担体の量を容易に決定することができる。したがって、当然のことながら、動物またはヒトに投与されるあらゆる組成物について、およびあらゆる特定の投与方法について、毒性(例えば、適切な動物モデル、例えばマウスなどの齧歯動物において、致死量(LD)およびLD50を決定することによって);ならびに、適切な応答を誘発する、組成物の投薬量、組成物中の構成要素の濃度、および組成物を投与するタイミングを決定することが好ましい。そのような決定には、当業者の知識、本開示、および本明細書で引用された文献により、過度の実験は必要でない。また、過度の実験を行うことなく、連続投与のための時間を確かめることができる。
【0102】
本発明はまた、疾患および/もしくは障害またはそれらの症状を処置する方法を提供し、該方法は、Ccl19(C-Cモチーフケモカインリガンド19)を含む組成物の治療有効量を、対象のT細胞産生組織またはT細胞産生体液内、例えば胸腺内に投与する工程を含む。Ccl19は、正常なリンパ球再循環およびホーミングにおいて役割を果しているサイトカインである。Ccl19はまた、胸腺におけるT細胞の輸送ならびに二次リンパ器官へのT細胞およびB細胞の遊走においても重要な役割を果たしている。Ccl19は、本発明のペリオスチン+Pdgfra+間葉系間質細胞で発現している。
【0103】
Ccl19は、当技術分野において公知である任意の適切な投与法(例えば、注射または注入)により、有効量で投与することができる。有効量は、投与法、処置される特定の状態、および所望の転帰に依存する。有効量はまた、当該状態の段階、対象の年齢および身体状態、ある場合は併用療法の性質、ならびに医師が周知している同様の要素に依存する場合もある。治療適用の場合、有効量とは、医学的に望ましい結果(T細胞産生の増加)を実現するのに十分な量である。一般的に、本発明の活性Ccl19ポリペプチド化合物の用量は、約0.01 mg/kg/日~約1000 mg/kg/日であろう。約50~約2000 mg/kgの範囲の用量が適切であると予想される。より低い用量は、静脈内投与などの特定の投与形態によりもたらされる。対象における応答が初期適用用量で不十分である場合には、より高い用量(または、より局所的な異なる送達経路による、より高い有効用量)を、患者の耐性が許す範囲で採用してもよい。本発明のCcl19組成物の適当な全身レベルを実現するために、一日に複数回の投薬が企図される。
【0104】
以下の例証のための非限定的な実施例を通して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明およびその多くの利点のより良い理解を提供する。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、本発明のいくつかの態様および局面を例証する。本発明の精神または範囲を変更することなく、様々な改変、追加、置換などを行うことができ、そのよう改変および変形が、以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内に包含されることは、関連する技術分野の当業者には明らかであろう。以下の実施例は決して本発明を限定しない。
【0106】
以下の実施例のアッセイを行うために用いられた材料および方法を、本明細書の以下に詳述する。
【0107】
動物:8週齢の雄および雌のC57Bl/6マウスを、すべての移植およびシーケンシング実験に使用した。B6.SJL-Ptprca Pepcb/BoyJ (CD45.1) およびC57BL/6-Tg(UBC-GFP)30Scha/Jマウスを、骨髄移植のドナーとして使用した。B6;129S-Penktm2(cre)Hze/JマウスをB6.Cg-Gt(ROSA)26Sortm14(CAG-tdTomato)Hze/Jと交配して、間葉系間質細胞 (MSC) 移入のためのドナーを作製した。マウスはすべてJackson Laboratoriesから入手し、動物実験はすべて、国および施設の指針に従って実施した。
【0108】
組織の採取および処理:ヒト組織標本はすべて、施設内審査委員会 (IRB) の承認を得て採取した。組織は、可能な限り最高の細胞品質を確実にするために、単離後直ちに処理した。マウス試料は、細かい断片に切断し、2% (v/v) ウシ胎仔血清(FBS、Gibco)、リベラーゼ(0.5WU/ml、Roche)、およびDNAse I(0.1 KU、Invitrogen)を含む培地199(M199、Gibco)中で、一定の撹拌下で37℃で3×15分間消化した。ヒト試料は、2% FBS、DNAse I (0.1 KU)、および2 mg/ml Stemxyme 1 (Worthington) を含むM199を用いて、一定の撹拌下で37℃で2×30分間消化することによって処理した。最後の30分間は、Stemxyme/DNAse Iカクテルと0.125%トリプシン (Gibco)を組み合わせて、試料を消化した。試料はすべて、RNase阻害剤(RNasin (Promega) およびRNase OUT (Invitrogen))の存在下で消化した。
【0109】
単一細胞RNAシーケンシングのためのFACS選別:抗ヒトCD16/32 Fc-block (BD Biosciences) で4℃で10分間ブロッキングした後、ヒト単一細胞懸濁液を、細胞系列カクテル-FITC、CD66b-FITC、CD45-BV711、CD235a-BV711、CD8a-APC/Cy7、およびCD4-BV605(すべてBD Biosciencesによる)で染色した。マウス試料もまた、抗マウスCD16/32 Fc-block (BD Biosciences) で4℃で10分間ブロックした後、CD45-PE/Cy7およびTer119-PE(いずれもBioLegendによる)で染色した。試料は、一定の撹拌下で4℃で45分間染色した。死細胞を検出するために、7-AAD (ThermoFisher) を解析の直前に試料に添加した。生存かつ非造血系の細胞(7-AAD、CD45-CD235a/Ter119- 細胞系列-)のフロー選別は、70umノズルを備えたBD FACS Aria III (BD Biosciences) で行った。
【0110】
胸腺間質細胞集団のFACS選別および解析:様々な胸腺間質細胞集団の解析のために、細胞系列カクテル-FITC、CD66b-FITC、CD45-BV711、CD235a-BV711、CD8a-APC/Cy7、およびCD4-BV605をCD326-BV421 (BD Bioscience) およびCD31-PE/Dazzle594 (BioLegend) と組み合わせて、ヒト試料を染色した。CD45-APC/Cy7およびTer119-APC/Cy7(いずれもBD Biosciencesによる)、ならびにCD31-BUV737、CD326-BV77、およびCD140a-BV785(すべてBD Biosciencesによる)の表面染色により、マウスの間質細胞型を特徴づけ、選別した。Itgb5、CD99l2、およびCD248 (R&D Systems) は、それぞれインハウスでPE/Cy7およびAPC (Abcam) にコンジュゲートし、同様に間質細胞選別の一部に使用した。
【0111】
単一細胞RNAシーケンシング:選別された胸腺間質細胞を、Chromium Controller (10X Genomics) を用いてエマルジョン液滴中にカプセル化した。続いて、Chromium単一細胞3' v2試薬キット (10X Genomics) を用いて、scRNAシーケンシングライブラリーを調製した。ライブラリーを4nMに希釈し、プールした後に、NextSeq 500シーケンシングシステム (Illumina) でシーケンシングを行った。
【0112】
骨髄、リンパ系前駆細胞、およびMSCの移植:8週齢のC57Bl/6マウスに、移植の12~24時間前に9.5 Greyの単一線量を与えた。リンパ系前駆細胞移植のために、C57BL/6-Tg(UBC-GFP)30Scha/Jドナーからの骨髄を、製造業者の説明書に従って系列枯渇させた (Miltenyi)。続いて、細胞をビオチン化細胞系列抗体(CD3e、B220、CD4、CD8a、Gr-1、Cd11b)、ckit-APC、およびCD135-BV421で、4℃で30分間染色した。その後、ストレプトアビジン-PE/Cy7と共に15分間インキュベートした。細胞系列- CD135+ cKit+GFP+リンパ系前駆細胞をBD FACS Aria IIIで選別し、細胞40 000個を、B6.SJL-Ptprca Pepcb/BoyJドナーからの有核全骨髄細胞106個と共に、致死的照射を受けた各レシピエントに注入した。MSCの養子移入の場合は、胸腺が胸腺内注入を可能にする大きさになることを確実にするために、移入の12時間前にレシピエントに放射線を照射した。2000~10 000個のMSC (CD45-Ter119-CD31-CD326-CD248+CD99l2+Itgb5+CD140+) を胸腺内に注入し、それと共にB6.SJL-Ptprca Pepcb/BoyJマウスからの有核全骨髄細胞106個を眼窩後に注入した。
【0113】
組織透明化および2光子イメージング:自然蛍光のイメージングのために、組織を、4%パラホルムアルデヒド(PFA、Electron Microscopy Sciences)を注入し、その後4% PFAと共にさらに6時間インキュベートすることによって、インビボで固定した。漸増濃度のtert-ブタノール溶液(Sigma、v/v、50%、70%、80%、90%、および100%)中での連続的なインキュベーション段階により、組織を脱水した。脂質は、ジクロルメタン (Sigma) に45分間曝露することによって除去した。最後に、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、およびジフェニルエーテル(BABB-D4、Sigma、26%:53%:20%)中でインキュベートすることにより、屈折率の一致を達成した。イメージングの前に、試料を2枚のカバーガラスの間にマウントし、BABB-D4中に浸漬した。画像は、Olympus FVMPE-RS多光子イメージングプラットフォーム (Olympus) で取得した。
【0114】
実施例1.ヒトおよびマウス胸腺の単一細胞シーケンシングにより、異なるT細胞支持特性を有する間葉系細胞サブセットが同定される
骨髄移植後の非効率的なT細胞再構成は、罹患率および死亡率の主要な原因である。T細胞媒介性免疫の再構築の成功は、次に胸腺の再生能力に完全に依存している。しかし、胸腺回復障害の根底にある機構は十分に解明されていない。特に、T細胞の発生を支持する間質細胞の再生は、まだ十分に理解されていない。胸腺微小環境の特徴を明らかにするために、CD45-CD235-CD45-Lin-胸腺間質細胞を単離し、1つのヒト胸腺試料について単一細胞RNAシーケンシングを行った(
図1A、
図2A)。最初の試みにより、ヒト組織から胸腺間質細胞をうまく単離するためには、消化条件が重要であることが実証された。より短時間の消化は、より長時間のプロトコールと比較して、間質細胞の不十分な濃縮および低い細胞型多様性をもたらした(
図2B)。非造血細胞のフロー選別では、常に血液細胞の混入が起こり(
図2CおよびD)、そのためPTPRCおよびCD3Eを発現しているすべての細胞をさらなる解析から除去した(
図2D)。
【0115】
間質細胞区画において、続いて、異なる発現パターンを有する6つの細胞集団が同定された:内皮細胞 (CDH5)、間葉系間質細胞 (PRRX1)、2種類の胸腺上皮細胞 (EPCAM)、および2種類の血管周囲細胞 (RGS5)。(
図1B、
図2E)。異なる集団の割合は試料間で類似しており、この観察結果はフローサイトメトリーによりほぼ確認された(
図1Cおよび
図2F)。興味深いことに、間質細胞のうちの最も大きな割合は、豊富であるにもかかわらず、胸腺におけるT細胞の発生という観点からはほとんど注目されていない細胞集団である、PRRX1を発現している間葉系間質細胞 (MSC) で構成されていることが判明した(
図1C)。
【0116】
胸腺間質細胞の主な機能は、造血前駆細胞を動員し、維持し、かつT細胞系列にコミットさせる因子を提供することである。この過程に関与する分子の多くが定義されている。どの細胞型がこれらのリンパ球生成因子を発現しているかを評価することにより、いくつかの予想される組み合わせが明らかになった。胸腺上皮 (TEC) は、T細胞前駆細胞を動員するケモカインであるCCL21およびCCL25が特に豊富であることが判明した(
図1D)。しかしながら、注目すべきことには、ヒト胸腺MSCは、FLT3LG、CCL19、およびIL15を含む、リンパ球系細胞発生のいくつかの十分に確立された制御因子を高レベルで発現すると考えられた(
図1D)。胸腺間葉系細胞の実質的なプールが、T細胞発生に寄与する重要なものであり得ることが示唆される。
【0117】
ヒトにおいて同定された集団をさらに理解し、その特徴を明らかにするために、8週齢マウスの静止状態の胸腺でscRNA-seqを行った(
図1Eおよび
図2G)。合計4つの試料を配列決定し、品質管理および造血細胞のフィルタリングの後、合計6491個のマウス間質細胞が得られた(
図2H、1I、および1J)。ヒトで見出された胸腺間質細胞集団はすべて、マウスにも同様に存在していた:それぞれ、内皮細胞 (Pecam1)、間葉系間質細胞 (Prrx1)、2種類の血管周囲細胞 (Rgs5)、および胸腺上皮細胞 (Epcam)(
図1F、
図2K、および2L)。加えて、マウス胸腺は、2つの他の間質サブセットを含む。最近記載された胸腺タフト(Tuft)細胞は、Trpm5およびIL25の発現によって定義された(
図1F、
図2K、および2L)。小さな細胞集団が、以前に中皮の幹細胞および前駆細胞と関連づけられたマーカーであるLrrn4を発現することもまた判明した(
図1F、F2K、および2L)。胸腺間質細胞の内容物におけるこれらの相違は、実際の種間差を反映している可能性があるが、試料調製および試料供給源における固有の違いに起因する可能性も十分にある。ほとんどのヒト試料は、例えば乳児に由来したのに対して、マウス組織は成体から単離された。それにもかかわらず、成体マウスを用いた研究が続けられたのは、これが胸腺再生を研究するのにより適切な集団であるからである。
【0118】
ヒト試料で見られたのと同様に、scRNAシーケンシングおよびフローサイトメトリー解析により判定して、マウスの間質細胞のうちの最も大きな割合がMSCであることが判明した(
図1G、
図2M)。重要な胸腺細胞支持因子が、マウスの胸腺MSCにおいて豊富であることもまた判明した(F1H)。実際に、IL-15、Flt3l、Ccl19、およびBmp4は、他のすべての間質細胞型と比較して、MSCサブセットにおいて有意により高いレベルで発現していた(
図1I)。したがって、T細胞支持性MSCは、ヒトおよびマウスの胸腺組織に存在すると考えられる。
【0119】
実施例2.ペリオスチン+胸腺MSCは、T細胞制御因子を優先的に発現する
MSC区画をさらに探索し、ヒトおよびマウス胸腺の両方において、3つの異なる亜集団が同定された(
図3A、
図4A)。両種とも、様々な頻度ではあるものの、CD248+およびPostn+のMSC集団を有することが判明した(
図3A、
図4B、および4C)。3番目のMSCサブセットは、ヒトではCDH11発現を特徴とするのに対して、マウス試料では、Cdh11およびPenkによって定義される細胞を特徴とすることが判明した(
図3A、
図4B、および4C)。以前に発表されたマウス胸腺間質のデータセットと比較したところ、3つのMSC亜集団の存在がさらに確認された(
図4Dおよび4E)。MSC全体および3つのサブタイプの相対的存在量は、異なることが判明した(
図4Dおよび4E)。しかしながら、胸腺上皮細胞がこの研究の主な焦点であったため、別の単離プロトコールが使用され、これによってこの違いが説明される可能性が高い。注目すべきことには、Cd248、Penk、およびPostnを発現するMSCもまた、このデータセットで見出された(
図4F)。
【0120】
マウス試料のGO用語解析により、MCサブタイプ間で潜在的に異なる機能がさらに明らかになった。CD248+ MSCは、主にタンパク質の翻訳および分泌に関わる用語に富むことが判明した(
図4G)。このことは、これらの細胞によって示される複数の細胞外マトリックス成分(Fn1およびOgn)の発現上昇と組み合わせて(
図4A)、これらの細胞の線維芽細胞機能を示唆している。一方、Penk+ Cdh11+ MCは、脂肪生成またはストレス応答に関連する用語によって特徴づけられることが判明した(
図3B)。このことは、加齢した胸腺の上皮区画が、未知の過程を経て徐々に脂肪細胞に置き換わっていることから、特に興味深い。Postn+ MSCにおける上皮制御プログラムの発現は(
図3B)、胚発生時の間葉系細胞が上皮前駆細胞の動員に関与しているという、胸腺MSCの機能についてこれまでに知られていることと一致している。Postn+細胞はまた、血管新生経路の著しい活性化を示し(
図3B)、これらの細胞が、他の胸腺間質細胞型を制御する上で重要な役割を果たし得ることが示唆された。しかしながら、最も重要なことには、Postn+ MSCは、T細胞の発生および分化の用語に著しく富むサブタイプであることが判明した(
図3B)。この観察結果は、ヒトおよびマウスの両方のPostn+ MSCが、他のMSC亜集団よりも有意に高いレベルで、リンパ球生成サイトカインCcl19、Flt3l、およびIL15を発現するという事実によって、さらに確認された(
図3C)。Postn+ MSCが、胸腺において発生するT細胞との相互作用の大部分を担っていることが示される。
【0121】
実施例3. 放射線前処置後のペリオスチン+ MSCの消失
胸腺の再生は骨髄移植の観点から特に興味深いため、本発明者らは、定常状態のscRNAシーケンシングを、細胞毒性の前処置および移植を受けた試料と比較したいと考えた。初期の胸腺再生における大きな障害は、骨髄からのT細胞前駆細胞の非効率的な動員である。この段階の微小環境において何が欠けているのかをよりよく理解するために、本発明者らは、移植後にT細胞前駆細胞が最初にその組織に播種される時点で胸腺間質を採取することを目指した。そのために、40 000個のGFP標識リンパ系前駆細胞(LPC、細胞系列-cKit+CD135+)を、100万個のヘルパー骨髄細胞と共に、致死的照射を受けたレシピエントマウスに移植し、フローサイトメトリーを用いて胸腺の播種を追跡しようと試みた(
図6AおよびB)。これは信頼性のないアプローチであることがわかった。GFP+細胞は骨髄で容易に見出されたが、胸腺では移植後の早い時点で、あったとしてもごくわずかしか検出され得なかった(
図6B)。加えて、細胞の多くが細胞系列定義マーカーについて陽性であり(
図6B)、それらは初期胸腺前駆細胞 (ETP) ではないことが示唆された。結果として、追跡を、組織透明化による最近の胸腺定着物に切り替えたが、これによって、物質の消失を最小限に抑えながら上から下までのイメージングが可能になるからである(
図5A、
図6C)。これにより、移植の3日後に、胸腺において稀なGFP+細胞が初めて検出され(
図5B、
図6D)、それ以降の段階では、組織は移行してきた細胞を豊富に含むことが判明した(
図6D)。したがって、胸腺の播種は移植後3日目に開始されると考えられ、これを胸腺間質細胞のscRNAシーケンシング解析の時点として選択した。
【0122】
定常状態の解析で行ったように、4日前に単回の致死量の放射線照射を受け、単離の3日前に40 000個のGFP+ LPCおよび非標識ヘルパー骨髄の骨髄移植を受けた8週齢のマウスから、CD45- Ter119-細胞を選別した(
図5A)。合計3つの試料を配列決定し、品質管理に合格した細胞8873個が得られ、これらはPtprcおよびCD3eについて陰性であることが判明した(
図5C)。放射線前処置によって、ある細胞型の完全な消失も新たなサブセットの出現も起こらなかった(
図5C、5D、および
図6E)。TEC Bおよび内皮細胞などの複数の細胞集団は、相対的存在量の大きな減少を示したが、これらは統計的有意性に達しなかった(
図6E)。しかしながら、MSC区画は大きな変化を示した(
図5C)。ストレス応答性Penk+ Cdh11+ MSCが有意に拡大されることが判明したのに対して、T細胞支持性Postn+ MSCの頻度は劇的に減少した(
図5D)。細胞毒性の前処置および骨髄移植後の非効率的なT細胞産生が、胸腺MSCサブセットにおいて観察されるこの不均衡に一部起因している可能性が示唆される。
【0123】
移植後のMSCの機能的特徴をさらに探索するために、有意に差次的に発現した遺伝子の別のGO用語解析を行った。注目すべきことには、Penk+ Cdh11+ MSCは、脂肪生成および様々なストレス要因に対する応答に関わる用語によって依然として特徴づけられたが、白血球増殖を阻害する経路についても有意に富んでいた(
図5E)。
【0124】
したがって、放射線前処置後のこれらの細胞の拡大により、T細胞の産生がさらに阻害される可能性がある。一方、Postn+ MSCは、依然としてT細胞および内皮細胞を支持することが判明したが(
図5Eおよび
図6F)、それらはまた脂肪生成活性の増大も示した。骨髄では、MSCが放射線照射に応答して脂肪細胞に分化することが十分に確証されている。骨髄脂肪細胞が造血を増強するのかまたは妨げるのかは、いまだに議論がなされている。しかしながら、胸腺脂肪細胞はT細胞の発生を支持することができず、放射線照射および骨髄移植後に観察されたMSCの変化のさらなる悪影響が示唆される。
【0125】
実施例4. CD248-胸腺MSCの移入は、放射線前処置後のT細胞産生を促進する
胸腺MSCの機能的意義を調べるために、個々の (induvial) MSCサブセットのフローサイトメトリー選別を容易にするために用いることができる潜在的な細胞表面マーカーについて、scRNAシーケンシングデータを照会した。残念ながら、Penk+ Cdh11+ MSCとPostn+集団の区別を可能にする適切なマーカーは存在しなかった。すべてのMSCを標識すると同時に、血管周囲細胞との重複をほとんど示さないと考えられる2つのマーカー、CD99l2およびItgb5が同定された(
図8A)。MSC区画におけるこれらのマーカーの特異性は、フローサイトメトリー解析、ならびにCD99l2+Itgb5+胸腺細胞の選別およびプレーティングによってさらに確認された(
図8Aおよび8B)。これらの細胞は、プラスチックに接着すること、およびコロニー形成能力が骨髄MSCと同等であることが判明した(
図8B)。加えて、Penk+ Cdh11+ MSCおよびPostn+ MSCは、Pdgfraを発現することが判明し、前述のように、これらの細胞はCd248について陰性であった(
図8C)。結果として、CD45-Ter119-CD31-CD326-CD248-CD99l2+Itgb5+Pdgfra+細胞を選別することによって、最もT細胞を支持するMSC(CD248- MSC)が濃縮される一方で、重要性が低いと考えられるCD248+ MSCは除外された。
【0126】
ユビキチン-GFPマウスをドナーとして使用して、CD248- MSCを単離し、放射線照射を受け骨髄移植も受けたレシピエントの胸腺内に注入した(
図7A)。MSC処置マウスと並行して、偽処置レシピエントには骨髄を注入したが、PBSを胸腺内に注入した(
図7B)。組織への細胞の導入を照合するために、胸腺の再生にこれまで関係づけられていない細胞集団である単独陽性CD8胸腺細胞の胸腺内注入を受けたマウスのコホートを含めた(
図7B)。移植の6日後、フローサイトメトリー解析により、GFP標識CD248- MSCが組織内に残存していることが実証された(
図7B)。移入されたMSCの存在はさらに、ETPおよび内皮細胞の両方の数の改善と関連していたが(
図7B)、MSCおよび上皮細胞の数(データは示されていない)は、偽処置マウスおよびCD8+ T細胞処置マウスと比較して変化していなかった。このことから、放射線前処置後に新鮮な胸腺CD248- MSCを注入することによって、胸腺の再生を改善することができることが示される。
【0127】
胸腺MSCにおいて有意に豊富な因子の1つであるCcl19は、以前にETPの動員と関係づけられている。MSCにおけるCcl19発現が、移植後に観察されたETP播種の改善に必要であるかどうかを判定するために、CD248- MSCをCas9-GFP発現マウスから単離した。続いて、これらの細胞を、Ccl19または対照遺伝子座GFPに向けられたガイドRNAを発現するレンチウイルスベクターに感染させた。これらの改変MSCを移植したところ、Ccl19のノックアウトによって、CD248 MSC処置後のETP動員の改善が無効になることが実証された(
図7C)。
【0128】
6日目の前駆細胞の流入の増加がT細胞の新規生成の増加をもたらすかどうかを判定するために、移植実験を繰り返した。今回は、4週間後に胸腺を解析した。GFP+ CD248- MSCは依然として組織内に存在することが判明し(
図7C)、胸腺の重量および細胞充実性は、MSC処置マウスにおいて有意により高かった(
図8D)。sjTREC解析により、CD248- MSCを注入したマウスでは、新たに再配列されたT細胞の産生が有意に改善されることがさらに実証された(
図7C)。このことは、T細胞発生のすべての段階で細胞数がより多いことによって、さらに裏付けられた(
図8D)。加えて、移植マウスの16週間の経過観察により、CD248- MSCレシピエントでは、CD4+ T
H細胞およびCD8+ T
CTL細胞の数が劇的に改善しており(
図7D)、B細胞にも骨髄系集団にも影響がない(
図8E)ことが示された。驚くべきことには、移植の16週間後の胸腺間質区画の解析により、GFP+ MSCが組織内でまだ生存していることが明らかになった(
図8F)。
【0129】
骨髄移植後にT細胞数を改善することの決定的な目的は、機能的な免疫を高めることである。そこで、移植レシピエントに、44日後にオボアルブミンに対するワクチンを接種した(
図7F)。再負荷後、CD248- MSC処置マウスは、オボアルブミン特異的CD8+ T
CTL細胞の数が増加し、IFNγを産生することによって明らかなように、免疫応答が著しく改善していることが判明した(
図7F)。このように、CD248- MSC移入後に見られた初期の胸腺再生の改善は、最終的に機能的T細胞の頑強な産生につながる。
【0130】
実施例5. ペリオスチン+ MSCは、T細胞前駆細胞の動員を特異的に増強する
Penk-CreマウスをRosa26-LSL-tdTomatoレポーターと交配して、Penk+ Cdh11+ MSCとPostn MSCを分離できるマウスを作製した。これらのマウスの最初のフローサイトメトリー解析により、CD45-Ter119-CD31-CD326-CD248-CD99l2+Itgb5+Pdgfra+サブセットが、異なるtdTomato+ (Penk+) 集団とtdTomato- (Postn+) 集団に分離することが示され(
図9A)、このレポーターがscRNAシーケンシングデータに忠実であることが示唆された。実際に、骨髄移植の状況下でtdTomato+細胞またはtdTomato-細胞を移入したところ、推定上のPostn+ MSCのレシピエントは、6日後にETPおよび内皮細胞の数が改善することが実証された(
図9B)。したがって、胸腺MSCによって媒介される効果は、Postn+ MSC集団に含まれていると考えられる。
【0131】
参考文献
本明細書において言及される特許、特許出願、および出版物はすべて、それぞれ個々の特許および出版物が具体的にかつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】