(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-28
(54)【発明の名称】トラックエッチングされた膜を用いた生物学的流体の濾過方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/08 20060101AFI20220318BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20220318BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220318BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20220318BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20220318BHJP
B01D 71/50 20060101ALI20220318BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20220318BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20220318BHJP
B01D 29/01 20060101ALI20220318BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220318BHJP
C12M 1/12 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
B01D63/08
B01D63/00 500
B01D63/00 510
B01D69/00
B01D71/34
B01D71/48
B01D71/50
B01D71/64
B01D39/16 C
B01D29/04 510D
B01D29/04 530A
C12M1/00 A
C12M1/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543358
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(85)【翻訳文提出日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 US2020015814
(87)【国際公開番号】W WO2020160220
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503393010
【氏名又は名称】レプリゲン・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Repligen Corporation
【住所又は居所原語表記】41Seyon Street,Building#1,Suite100,Waltham,Massachusetts02139,United StatesOfAmerica
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン、クレッグ
(72)【発明者】
【氏名】ベンガニ-ルッツ、プリティ
【テーマコード(参考)】
4B029
4D006
4D019
4D116
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB01
4B029HA06
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA41
4D006HA91
4D006JA05A
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4D006JA07A
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4D006JA23Z
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4D006JB06
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4D006KC16
4D006KC21
4D006KC23
4D006KD17
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4D006MA27
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4D006MC48
4D006MC49
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4D019AA03
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4D116KK04
4D116QA06C
4D116QA06D
4D116QA06E
4D116QB32
4D116RR01
4D116RR19
4D116VV30
(57)【要約】
濾過のためのトラックエッチングされた膜が提供される。また、このような膜を利用した濾過方法および細胞培養方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性隔離板と、
ガスケットおよび濾板の少なくとも1つと、
前記可撓性隔離板と前記ガスケットまたは前記濾板との間に配置され、少なくとも1つの膜、少なくとも1つの供給流路、および少なくとも1つの濾液流路を画定する、複数のインターリーブ層と
を備える接線流濾過カセットであって、
前記複数のインターリーブ層は、
1または複数の流体ポートを含み、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定する濾液流路スペーサと、
内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートを含む非可撓性の供給流路スペーサと、
前記濾液流路スペーサと前記供給流路スペーサとの間に配置された膜と、任意に、
前記膜と、前記濾液流路スペーサおよび前記供給流路スペーサの一方とを接着する感圧性接着剤であって、前記感圧性接着剤の薄膜は、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有する、感圧性接着剤と
を含み、
(a)前記可撓性隔離板は、可撓性ポリマーまたは熱可塑性エラストマーを含み、インターリーブスタックの第1表面に接着されており、(b)前記膜は、複数のトラックエッチングされた膜(TE膜)を含み、前記TE膜は複数の微細孔を含み、前記微細孔の孔径および前記微細孔の形状が均一である
接線流濾過(TFF)カセット。
【請求項2】
前記複数の微細孔は、直径、深さ、および/または経路長が均一である、請求項1に記載のTFFカセット。
【請求項3】
平均微細孔径が約100kD~約30ミクロンである、請求項1または2に記載のTFFカセット。
【請求項4】
前記TE膜が60ミクロンまでの厚さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項5】
前記トラックエッチングされた膜が、複数のポリカーボネート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、またはポリエステルのフラットシートからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項6】
前記複数の微細孔は、円筒形、円錐形、葉巻形、漏斗形および砂時計形のうちの1または複数の構造を有してよい、請求項1から5のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項7】
前記トラックエッチングされた膜が滑らかな表面を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項8】
前記接線流濾過カセットが入れ替わる接線流濾過に使用される、請求項1から7のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項9】
前記インターリーブスタックの第2表面にガスケットが接着されており、前記ガスケットは、供給流路と濾液流路のための別々の流体ポートを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項10】
前記ガスケットには濾板が接着されており、前記濾板は、前記濾板の供給ポートが前記ガスケットの供給ポートと整列し、前記濾板の濾液ポートが前記ガスケットの濾液ポートと整列する流体マニホールドを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項11】
在庫管理単位(SKU)番号、ロット番号、シリアル番号、容量、供給および/または濾液流路の数、および膜の数のうちの1または複数によって前記TFFカセットを識別するために、前記接線流濾過カセットの側壁にタブまたは刻印をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項12】
前記タブまたは刻印はバーコードからなる、請求項11に記載のTFFカセット。
【請求項13】
前記接線流濾過カセットが使用後に使い捨て可能である、請求項1から12のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項14】
前記TFFカセットが再使用可能である、請求項1から13のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項15】
前記TFFカセットが密封されたエッジを備える、請求項1から14のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項16】
前記少なくとも1つの供給流路は、前記供給流路スペーサによって画定される空間内に配置された供給スクリーンを備える、請求項1から15のいずれか一項に記載のTFFカセット。
【請求項17】
前記供給スクリーンが、織布、不織布または押出ポリマーメッシュからなる、請求項16に記載のTFFカセット。
【請求項18】
前記少なくとも1つの濾液流路は、前記濾液流路スペーサによって画定された空間内に配置された濾液スクリーンを備える、請求項16に記載のTFFカセット。
【請求項19】
前記濾液スクリーンが、織布、不織布、または押出ポリマーメッシュからなる、請求項18に記載のTFFカセット。
【請求項20】
カセットを使用する段階であって、
前記カセットは、
可撓性隔離板と、
ガスケットおよび濾板の少なくとも1つと、
前記可撓性隔離板と前記ガスケットまたは前記濾板との間に配置され、少なくとも1つの供給流路および少なくとも1つの濾液流路を画定する、複数のインターリーブ層と
を含み、
前記複数のインターリーブ層は、
1または複数の流体ポートを含み、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定する濾液流路スペーサと、
内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートを含む非可撓性の供給流路スペーサと、
前記濾液流路スペーサと前記供給流路スペーサとの間に配置された膜と、任意に、
前記膜と、前記濾液流路スペーサおよび前記供給流路スペーサの一方とを接着する感圧性接着剤であって、前記感圧性接着剤の薄膜は、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有する、感圧性接着剤と
を含み、
(a)前記可撓性隔離板は、可撓性ポリマーまたは熱可塑性エラストマーを含み、インターリーブスタックの第1表面に接着されており、(b)前記膜は、複数のトラックエッチングされた膜を含み、前記トラックエッチングされた膜は複数の微細孔を含み、前記微細孔の孔径および前記微細孔の形状が均一である、
接線流濾過カセットである
段階と、
カセットハウジングをプロセス容器に接続する段階と、
前記カセットハウジングを分離システムに接続する段階と、
前記トラックエッチングされた膜フィルタと前記分離システムに細胞培養物を循環させる段階と、
前記細胞培養物を前記膜フィルタで濾過する段階と、
得られた濾液を収集する段階と、
前記細胞培養物を前記プロセス容器に戻す段階と
を備える、細胞培養物を濾過する方法。
【請求項21】
前記細胞培養物が哺乳類の細胞培養物である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞培養物の循環が、入れ替わる接線流によって実行される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞培養物の循環が、接線流濾過によって実行される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接線流濾過システムにおけるトラックエッチングされた膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
濾過は、流体の溶液、混合物、または懸濁液を分離、明確化、修正、および/または濃縮するために使用される。バイオテクノロジ、医薬、医療業界による医薬品、診断薬、化学品の製造、加工、分析の段階で必要となることが多い。濾過は、例えば、溶液から目的の化合物を除去し、または副産物を除去して、より濃縮された培地を残すために使用される。これらのプロセスは、様々なフィルタ材料、微細孔径、および/またはその他のフィルタ変数を選択することで、適宜変更することができる。
【0003】
接線流濾過(TFF)は、クロスフロー濾過(CFF)としても知られており、流体の懸濁液や溶液を、そのサイズや電荷の差異に基づいて分離または精製するために、産業界で使用されている。TFFシステムにおいて、様々な分子種や粒子種を含む流体供給液が、半透膜の表面に平行な方向に向かって濾過容器に流入する。濾過容器の中で、供給液は2つのコンポーネントフローに分離される:膜を通過し、供給液からの特定の種を含む透過フロー(濾液とも呼ばれる)、および膜を通過せず、透過液に含まれない種を含む残余フローである。
【0004】
TFFとは異なり、従来のダイレクトフロー濾過システム(またはデッドエンド濾過システム)では、流体が膜の表面に対して垂直に流れるため、膜表面への滞留種の蓄積が急速に起こり、膜の汚れにつながる可能性がある。TFFシステムには、デッドエンドシステムに比べて、フィルタ表面への物質の蓄積が緩やかであることや、供給液が接線流によって押し流されるために汚れの発生率が低いなどの利点がある。これにより、TFFシステムは、バイオプロセスおよび医薬用途などの様々な応用で、高固形分高粘度の供給液の流れに特に適している。
【0005】
TFFシステムは一般的に、プレート・アンド・フレーム設計またはカセット設計で実装される。これらの設計は一般的に、外部フラットシートとマニホールドの間に配置された複数の平坦シート膜を内蔵する。使用時には、流体供給液は、マニホールドの入口から通過してカセットに入り、膜の第1(上)表面の接線方向に流れる。透過フローは、膜を通過した後、カセットを通ってマニホールドの透過液専用流路に入り、一方、残余フローは膜を通過せず、マニホールドの別の残余液流路に入る。
【0006】
従来のカセットは、感圧性接着剤(PSA)およびスクリーンメッシュを用いて複数の膜層を重ね合わせ、任意的に、例えば、シリコンまたはウレタンポリマーを用いたカプセル化などにより、一部または全部の層を固定して作られている。TFFカセットには、一般的にマニホールドとインタフェース接続するための開口部またはその他の特徴がある。カセットの設計では、層間またはマニホールドとのインタフェースで位置がずれてしまうと、リークが発生しやすくなる。そのため、使用時にはカセットをフラットシートまたはガスケットで挟んで、リークがないようにカセットを密閉することが多い。
【0007】
細胞培養を行う際には、培養した培地からの廃棄物を濾過する必要があることが多い。現在、生物学的製造プロセスの進歩により、細胞培養の大規模生産が可能になり、組換えタンパク質、ウイルス様粒子(VLP)、遺伝子治療粒子、およびワクチンの生産が、多くの場合、プロセスベッセル装置を用いることが可能になった。代謝廃棄物を除去し、追加した栄養分で培養をリフレッシュする細胞保持装置は広く普及している。一般的には、接線流濾過または入れ替わる接線流(ATF)濾過を用いた膜でプロセス容器の培地を灌流することで、この保持を実行する。
【0008】
膜は細胞培養の清澄化に使われることが多いが、細胞の破片で膜が汚れる可能性があるため、応用に応じて複雑化することがある。汚れが発生すると、膜が目的の生成物を通過させるのではなく、保持してしまうことがある。このような膜は、一般的に、限外濾過(UFおよび精密濾過(MF)で使用される750kDμmから0.65μmの大きなサイズの微細孔を有する。しかし、高固形分溶液の濾過を可能にしながら、汚れを起こさない膜の改良が継続的に必要とされている。さらに、従来の膜のもう一つの問題は、微細孔の目詰まりである。微細孔の形成方法のため、微細孔のサイズまたは分布が直線的でないこと、または、特に均等でないことが多い。そのため、濾液が微細孔を通過しようとする際に目詰まりを起こし、溶液のさらなる濾過を妨げてしまう。特に、微細孔の形成は予測不可能であり、曲がりくねった経路、可変の長さとサイズ、および様々な形状の微細孔が生じることが多い。
【0009】
また、モノクローナル抗体の濃縮、タンパク質の精製、その他の限外濾過・脱濾過の応用にも膜が使用されている。これらの応用では、偏光および膜の汚れ両方が問題となる。TE膜は均一な微細孔径と狭い微細孔径分布を持っているため、このような応用にも非常に役に立てる。
【0010】
濾過に適した素材としては、トラックエッチング(TE)膜が考えられる。一般的に、TE膜は薄すぎるため、TFFの組み立てまたは加工には適していない。この薄さのために、この種の分離に必要な動作圧力に耐えられない膜ができてしまった。しかし、TE膜の滑らかな表面、均一な微細孔径と経路長、一貫した空隙率は、その使用のための解決手段を見つけるインセンティブとなる。さらに、微細孔径と微細孔形状を自由に制御できるレベルも、そのインセンティブとなっている。
【0011】
これまでのTE膜のもう一つの潜在的な限界は、空隙率が低く、したがって透過性が低いことであった。しかし、添加剤を用いて膜の表面を修正し、親水性を高めることができる。これらの添加剤は、ポリビニルピロリドン、アミン基、または他の親水性基を含むことができる。
【0012】
膜カセットの化学的安定性は、カセットの安定性の重要な要因となることができる。水酸化ナトリウムは、(一般的には、単回使用の応用のための)保存液と(一般的には、再使用可能なカセットのための)洗浄液として使用されることが多い。膜を厚くし、化学的安定性を向上させることで、TE膜は単回使用と再使用可能な応用に両方とも使用することができる。
【発明の概要】
【0013】
本開示では、故障のリスクを低減し、ユーザの組み立てを減らすことができる、単回使用および再使用可能なTFFカセット、ならびにその製造および使用方法を提供する。本開示の一態様は、可撓性隔離板と、ガスケットおよび濾板の少なくとも一方と、可撓性隔離板とガスケットまたは濾板との間に配置された複数のインターリーブ層とを備え、これらの層が、少なくとも1つの膜、少なくとも1つの供給流路および少なくとも1つの濾液流路を画定する接線流濾過カセットに関する。前記複数のインターリーブ層は、1または複数の流体ポートを含み、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定する濾液流路スペーサと、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートを含む非可撓性供給流路スペーサと、前記濾液流路スペーサと前記供給流路スペーサとの間に配置された膜とを備えてよい。前記複数のインターリーブ層は、任意に、前記膜と、前記濾液流路スペーサおよび前記供給流路スペーサの一方とを接着する感圧性接着剤であって、前記感圧性接着剤の薄膜は、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有する、感圧性接着剤を備えてよい。前記可撓性隔離板は、可撓性ポリマーまたは熱可塑性エラストマーを含み、インターリーブスタックの第1表面に接着されてよい。前記膜は、複数のトラックエッチングされた(TE)膜を含み、前記TE膜は複数の微細孔を含み、前記微細孔径および前記微細孔の形状が均一であってよい。様々な実施形態において、前記複数の微細孔は、直径、深さ、および/または経路長が均一であってよい。平均微細孔径が約100kD~約30ミクロンであってよい。前記TE膜が60ミクロンまでの厚さを有してよい。前記TE膜が、複数のポリカーボネート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、またはポリエステルのフラットシートからなってよい。前記複数の微細孔は、円筒形、円錐形、葉巻形、漏斗形および砂時計形のうちの1または複数の構造を有してよい。前記TE膜が滑らかな表面を有してよい。前記カセットが入れ替わる接線流濾過に使用されてよい。前記インターリーブスタックの第2表面にガスケットが接着されており、前記ガスケットは、供給流路と濾液流路のための別々の流体ポートを備え、前記ガスケットには濾板が任意的に接着されており、前記濾板は、前記濾板の供給ポートが前記ガスケットの供給ポートと整列し、前記濾板のの濾液ポートが前記ガスケットの濾液ポートと整列する流体マニホールドを備えてよい。いくつかの実施形態において、在庫管理単位(SKU)番号、ロット番号、シリアル番号、容量、供給および/または濾液流路の数、および膜の数のうちの1または複数によって前記TFFカセットを識別するために、前記TFFカセットは、前記カセットの側壁にタブまたは刻印が施されてよい。前記タブまたは刻印はバーコードを含んでよい。いくつかの例において、前記TFFカセットが使用後に使い捨て可能であってよい。前記TFFカセットが再使用可能であってよい。前記TFFカセットが密封されたエッジを備えてよい。いくつかの場合において、前記供給流路および/または濾液流路は、前記供給流路スペーサによって画定される空間内に配置された供給スクリーンを備えてよい。前記供給スクリーンが、織布、不織布または押出ポリマーメッシュを含んでよい。前記少なくとも1つの濾液流路は、前記濾液流路スペーサによって画定された空間内に配置された濾液スクリーンを備えてよい。前記濾液スクリーンが、織布、不織布、または押出ポリマーメッシュからなってよい。
【0014】
いくつかの態様において、本開示は、カセットを用いる段階を備える細胞培養物を濾過する方法を記述してよい。前記カセットは、可撓性隔離板と、ガスケットおよび濾板の少なくとも1つと、前記可撓性隔離板と前記ガスケットまたは前記濾板との間に配置され、少なくとも1つの膜、少なくとも1つの供給流路、および少なくとも1つの濾液流路を画定する、複数のインターリーブ層とを含み、前記複数のインターリーブ層は、1または複数の流体ポートを含み、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定する濾液流路スペーサと、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートを含む非可撓性供給流路スペーサと、前記濾液流路スペーサと前記供給流路スペーサとの間に配置された膜と、任意に、前記膜と、前記濾液流路スペーサおよび前記供給流路スペーサの一方とを接着する感圧性接着剤であって、前記感圧性接着剤の薄膜は、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有する、感圧性接着剤とを含み、(a)前記可撓性隔離板は、可撓性ポリマーまたは熱可塑性エラストマーを含み、インターリーブスタックの第1表面に接着されており、(b)前記膜は、複数のトラックエッチングされた膜を含み、前記TE膜は複数の微細孔を含み、前記微細孔径および前記微細孔の形状が均一である、接線流濾過カセットである。さらに、前記方法は、前記カセットハウジングをプロセス容器に接続する段階と、前記カセットハウジングを分離システムに接続する段階と、前記トラックエッチングされた膜フィルタと前記分離システムに細胞培養物を循環させる段階と、細胞培養物を膜フィルタで濾過する段階と、得られた濾液を収集する段階と、細胞培養物をプロセス容器に戻す段階とを備えてよい。いくつかの実施形態において、前記細胞培養物が哺乳類の細胞培養物であってよい。前記細胞培養物の循環が、入れ替わる接線流によって実行されてよい。前記細胞培養物の循環が、接線流濾過によって実行されてよい。
【0015】
TE膜は、滑らかな表面、均一な微細孔径、一貫した空隙率、様々な微細孔径を持つことができるため、これらのカセットの濾過に適していることがわかった。最大60ミクロンの厚いTE膜を製造することで、システムの圧力に耐えうる堅牢性を備えているため、濾過に使用することができる。TE膜(it4ip社製など)は、プロセス容器や従来の分離システムと組み合わせてカセット内で使用することができる。上記システムが入れ替わる接線流濾過または接線流濾過に用いられる場合は、TE膜による濾液の濾過がより効果的に行われるため、残余液の濃度が高くなる。さらに、TE膜は、従来の膜材料よりもはるかに大きな微細孔(孔径が最大で30ミクロン)を持つ膜を作ることができるため、これらの濾過方法は、バイオプロセス以外の分野でも有用であると考えられる。一貫した円筒形(または同様の形状)の微細孔を作ることができるため、特定された濾液の微細孔内での移動が大きくなり、微細孔の目詰まりを防ぐことができる。従来の膜の微細孔は、サイズ、経路長および形状が不揃いで変化に富んでいるが、TE膜では、サイズ、形状および経路長が明確で、制御された意図的な微細孔を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】位相反転で作製した膜と、トラックエッチング加工で作製した膜の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【0017】
【
図2】TE膜と位相反転で作製したポリエーテルスルホン膜の容量を比較したデータの一例を示す図である。
【0018】
【
図3】本開示の一実施形態によるトラックエッチングされた膜のTEカセットの水流束対膜間圧力値を示す図である。
【0019】
【
図4】水酸化ナトリウムで洗浄する前後のTEカセットの水流束を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[概要]
TE膜は、細胞培養物の濾過およびその他の生物学的分離に適していることがここで判明した。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、これらの膜の性能は、汚れに対する耐性、および微細孔の形状とサイズを制御する能力によるものであり、その結果、効率的かつ効果的な分離が可能になると考えられている。これらの特性は、多くのバイオプロセス応用に有利であると考えられる。
【0021】
本開示は接線流濾過に注目している。これらの応用のために設計された例示的なシステムにおいて、接線流TE膜がフィルタカセット内に配置され、フィルタエレメントによって互いに分離された供給液/残余液および透過液(濾液とも呼ばれる)の流体流路を画定する。このシステムにおいて、供給液/残余液流路は、バイオリアクタまたは他のプロセス容器と流体連通しており、プロセス容器とフィルタハウジングの供給流路(流体の供給に対応)との間の流体継手と、任意に、フィルタハウジングの出口(残余液に対応)とプロセス容器との間の戻り継手と、によって構成されている。そのフィルタにTE膜を利用する本開示による濾過培養システムは、汚れを軽減した濾液のより効果的な濾過を提供し、残余液のより高い濃度につながる可能性がある。
【0022】
本開示のTE膜は、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび/またはポリエステルから作られていてもよい。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、これらの物質は、膜の滑らかな表面を形成し、これにより、表面上の汚れを防止することができる。これらの膜は、最大60ミクロンの厚さで、100kDから30ミクロンの範囲の微細孔径を有してよい。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、膜の厚さによって、膜はシステムの高い動作圧力に耐えることが可能になり得る。膜内の微細孔は、円筒形、円錐形、葉巻形、漏斗形、および砂時計形など、様々な形状のうち任意の形状をしてよい。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、微細孔の形状を制御する能力により、溶液をより大きく、より特異的に分離することが可能となり得る。また、微細孔は、開口径、経路長、形状、密度が均一であってよい。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、微細孔の開口径、経路長、形状、および密度が均一であることにより、従来の膜よりもより特異的な分離が可能になり、汚れが少なくなる可能性があり得る。トラックエッチングされた膜シートは、サイズと形状が一致した複数の微細孔を含んでおり、ここでは微細孔のサイズと形状が均一である。微細孔は、1ミクロンよりも大きくてもよい。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、より大きな微細孔径は、マクロレベルの濾過の実践を可能にすることができる。
【0023】
図1は、PES膜とTE膜の微細孔径と微細孔形状の差異を例示する図である。上段は、従来の位相反転方法で作製した2種類のPES膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(倍率はそれぞれ20000倍と5000倍)を示す。下段は、2種類のTE膜の表面のSEM画像(倍率はそれぞれ25000倍と500倍)を示す。
【0024】
濾液流路スペーサは、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートを含む。非可撓性の供給流路スペーサも、内周で囲まれた開放的な内部容積を画定し、1または複数の流体ポートをさらに含む。
【0025】
本開示の濾過カセットは、クロスフロー濾過を必要とする様々な小規模および大規模な応用で使用することができ、特に、ワクチン、モノクローナル抗体、および患者特異的治療法の製造を含むがこれらに限定されない小規模および大規模な医薬およびバイオ医薬品の濾過プロセスに適している可能性がある。
【0026】
本開示のカセットは、一般的に、可撓性隔離板と、ガスケットおよび濾板のいずれか一方または両方とを備える。可撓性隔離板と、ガスケットおよび/または濾板との間には、少なくとも1つの供給流路および少なくとも1つの濾液流路を形成する複数のインターリーブ層がある。複数のインターリーブ層は、濾液流路スペーサ、非可撓性供給流路スペーサ、濾液流路スペーサと供給流路スペーサの間の膜、および、膜と濾液流路スペーサおよび/または供給流路スペーサのいずれかを結合する潜在的な感圧性接着剤、を含む。感圧性接着剤は、隣接する流路の高さの50%未満の厚さを有している。可撓性隔離板は、可撓性ポリマーまたは熱可塑性エラストマーで作られており、インターリーブスタックの第1表面に接着されている。
【0027】
カセットでは、ガスケットがインターリーブスタックの第2表面に接着され、供給流路と濾液流路のための別々の流体ポートを構成してもよい。濾板がガスケットに接着されている場合、濾板は、濾板の供給ポートがガスケットの供給ポートと整列し、濾板の濾液ポートがガスケットの濾液ポートと整列する流体マニホールドとなる。
【0028】
カセットは、在庫管理単位(SKU)番号、ロット番号、シリアル番号、容量、供給および/または濾液流路の数、および膜の数によってカセットを識別するために、カセットの側壁にタブまたは刻印を有してもよい。このタブまたは刻印は、バーコードであってもよい。
【0029】
カセットは、使用後に使い捨て可能であり、また、密封されたエッジを有してよい。
【0030】
カセットの供給流路は、供給流路スペーサによって画定された空間内に供給スクリーンを有してよい。この供給スクリーンは、織られたまたは押し出されたポリマーメッシュであってもよい。濾液流路は、濾液流路スペーサによって画定された空間内の濾液スクリーンであってもよい。濾液スクリーンは、織られたまたは押し出されたポリマーメッシュであってもよい。
【0031】
本開示による濾過システムは、トラックエッチングされた膜、カセットハウジング、導管、および耐久性があり、滅菌(例えば、オートクレーブ処理、蒸気洗浄、ガンマ線照射、化学的滅菌など)できる他の要素、一般的に使用される化学試薬(水酸化ナトリウムなど)で洗浄でき、複数回再使用できる要素を含んでいてもよく、代わりに、1または複数の要素が単回使用であり、使用後に廃棄されてもよい。
【0032】
また、本開示では、TE膜フィルタを用いて溶液を濾過するシステムの使用方法についても記載している。一連の実施形態では、TE膜フィルタをカセットハウジングで使用することができる。ハウジングは、第1導管を介してプロセス容器に連結され、第2導管を介して濾液受け口に連結されてよい。ポンプがシステムに付いている場合もある。ポンプを作動させると、液体がTE膜フィルタカセットに引き込まれ、濾液が除去され、残余液が保持され得る。いくつかの実施形態において、溶液は生物学的溶液であり、他の実施形態では、溶液は細胞培養物である。細胞培養物は哺乳類であってもよく、循環は入れ替わる接線流または接線流濾過で行われてよい。
【0033】
[実施例]
本開示のある原則は、以下の実施例によってさらに説明される。
【0034】
[実施例1]
フラットシート状のTE膜を、「Eスクリーン」スペーサ(すなわち、ウォルサムMA、Repligen Corporation社製の粗い供給スペーサ)を用いて100cm2のカセットに作製した。カセットを純水で洗浄し、流路を空にして、カセットが一体化して使用に適しているかどうかを試験するために、一体性空気試験を実行した。MF膜の典型的な試験条件範囲である3psiでは、空気流は1.2ml/min未満であるため、カセットが一体化していることが分かった。
【0035】
[実施例2]
微細孔径0.2ミクロンのフラットシート状のTE膜を、「Eスクリーン」(すなわち、Repligen社製の粗い供給スペーサ)を用いて100cm
2のカセットに作製した(TE02)。その性能を、2種類のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養供給液の流れを用いて、0.2ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)位相反転膜をスキンアップ(PES02SU)およびスキンダウン(PES02SD)方向に使用したカセットと比較した。その結果、
図2のような良好な結果が得られた。TE膜は、同程度の微細孔径のPES膜と比較して、より高い透過性(LMH/psi)、より高い容量(L/m
2)およびより高い篩い分け性を示した。TE02膜のタンパク質の篩い分け率は有意に高く、78%で一定していた。PES02SUでは、開始時に68%だった篩い分け率が終了時には34%と、すなわちTE02カセットで得られた篩い分け率の半分以下にまで急激に低下した。
【0036】
位相反転膜(PES02SUおよびPES02SD)と比較して、TE02の圧力損失は最も低く、汚れに対する耐性が高いことを示している。開始時の圧力損失は3つの膜ともほぼ同じで、0.22~0.24psiであった。最終的には、TE02膜の圧力損失が0.88psiしかなかったのに対し、PES02SUの圧力損失は1.6psi(すなわち、2倍)となり、汚れの程度が大きいことが示されている。
【0037】
[実施例3]
TFF応用に必要な圧力にTE膜で作られたカセットが耐えられるかどうかを試験するために、100cm
2のTEカセットに水を通し、様々な膜間圧力(TMP)で水流束を測定した。試験は、TMP値を1~8.5psiのようにすなわち低い値から高い値へと段階的に増加させ、各TMPでの水流束を測定して行われた。高圧で試験しても膜が損傷しないように、TMPを8.5psiから2.2psiおよび1.2psiと高値から低値に下げて試験を実施した。
図3に示すように、どちらの方向に測定した水流束にも大きな差異はなく、圧力の安定性が強固であることが示されている。
【0038】
[実施例4]
TE膜を使用したカセットの化学的安定性を試験するため、100cm
2のカセットを0.2Nの水酸化ナトリウム溶液で、膜面積1m
2あたり2リットル使用して洗浄した。カセットを30分間洗浄し、3psiのTMPで前後の水流束を測定した。
図4に示すように、化学洗浄前後の水流束はほぼ同じであり、カセットの洗浄や保管に一般的に使用されている試薬に対する化学的安定性が高く、再使用可能なカセットの製造が可能であることを示している。
【国際調査報告】