(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-28
(54)【発明の名称】タンパク質ヒドロゲル、調製方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
C07K14/78
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021543522
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(85)【翻訳文提出日】2021-09-20
(86)【国際出願番号】 IB2020050867
(87)【国際公開番号】W WO2020161613
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521329800
【氏名又は名称】リアル リサーチ エスピー. ゼット オー.オー.
【氏名又は名称原語表記】REAL RESEARCH SP. Z O.O.
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】クレイコウスキー, マルシン プシェミスワウ
(72)【発明者】
【氏名】クレイコウスカ, レナタ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA60
4H045FA83
(57)【要約】
本発明は、低濃度成分:試薬A及び試薬Bに基づいて作製される新規のタンパク質ヒドロゲルと、タンパク質ヒドロゲルを調製する方法と、健康細胞及び新生細胞の両方、細胞株及び初代細胞の両方の、二次元及び三次元細胞培養物を含む細胞培養物のためのその使用と、に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン又はコラーゲンである試薬Aと、架橋剤でありGTAである試薬Bと、溶媒と、を含むタンパク質ヒドロゲルであって、試薬Aは0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在し、試薬Aと試薬Bとの比は前記ヒドロゲルの一部分において0.375~4.5mg対0.01~0.15mgであることを特徴とする、タンパク質ヒドロゲル。
【請求項2】
前記試薬Aの最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgであることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項3】
前記試薬Aの最終濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgであることを特徴とする、請求項2に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項4】
ゼラチンが、少なくとも225のブルーム値、好ましくは300のブルーム値のゼラチンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項5】
前記溶媒が、水溶液であり、より好ましくはdH
2O、PBS、HBSSの群からであり、最も好ましくはPBSであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項6】
請求項1~5で定義されるような前記タンパク質ヒドロゲルを生成する方法であって、
(a)ゼラチン又はコラーゲンである適切な量の試薬Aを水溶液に添加する工程であって、前記水溶液は好ましくはdH2O、PBS、HBSSの群から選択され、最も好ましくはPBSである、工程と、
(b)工程(a)の混合物を加熱して、ゲルを溶解させる工程と、
(c)必要に応じて、前記ゲルを初期に安定化させる工程と、
(d)架橋剤でありGTAである試薬Bを水溶液中に溶解し、冷却することによって、調製する工程と、
(e)工程(d)で調製した試薬Bを、工程(c)で調製した前記ゲルに添加する工程と、
(f)必要に応じて、得られた前記混合物を混合する工程と、
(g)架橋と
(h)必要に応じて、過剰な試薬Bの前記ヒドロゲルを精製する工程と、を含み、
前記試薬Aが0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在し、ここで前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.375~4.5mg対0.01~0.15mgであり、前記ゲルが温度0℃~12℃に達し、かつその持続時間が少なくとも約5分間である場合に、前記ゲルの前記初期安定化が起こり、工程(d)~工程(g)が約0℃~約12℃の低温で行われ、工程(g)では、前記架橋の持続時間が少なくとも12時間であることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記試薬Aの前記最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記試薬Aの前記最終濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記初期安定化の持続時間が、30分~48時間、最も好ましくは45分~24時間であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋の持続時間が、48時間超、最も好ましくは72時間超であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
工程(h)において前記ヒドロゲルの前記精製が行われる場合、水溶液、好ましくは細胞培養のための水溶液、好ましくはPBSですすぐことによって、又は中和試薬B、好ましくはL-リジンを添加することによって行われることを特徴とする、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養のための、請求項1~5に定義される前記タンパク質ヒドロゲルの使用。
【請求項13】
三次元細胞培養のための、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
工程(c)における前記初期安定化の前記持続時間が、10~90分、好ましくは15~60分、最も好ましくは40~55分であり、前記低温における前記架橋反応の前記持続時間が60時間を超え、前記試薬Aの前記最終濃度が約0.35~0.55重量%であり、ここで、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が、0.875~1.375mg対0.024~0.036mgである、血管新生アッセイを実施するための、請求項6に定義される前記方法によって生成される前記タンパク質ヒドロゲルの使用。
【請求項15】
前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が、1~1.25mg対0.027~0.033mgである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が、1~0.03mg対0.01~0.15mgであり、このような割合は、1mgの量の前記試薬Aの質量に対して0.03mgの前記試薬Bとなるように前記ヒドロゲルの一部分において維持される、請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質ヒドロゲルと、その調製方法と、健康細胞及び新生細胞の両方、細胞株及び初代細胞の両方の、二次元及び三次元細胞培養物を含む細胞培養物のためのその使用である、三次元条件におけるヒドロゲルでの遊走及び浸潤アッセイのための使用、血管新生アッセイの実施、及び大動脈発芽(aortic sprouting)アッセイの実施のための使用と、に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、三次元環境における細胞培養のための多くの異なるタイプの培地が存在する。これらは、一般的に、タンパク質ヒドロゲル、合成ヒドロゲル、足場、懸滴法等のいくつかのタイプに分けることができる。
【0003】
タンパク質ヒドロゲルの利点は、これらが細胞増殖のための生理学的環境に最も近いことである。現在、三次元条件における細胞培養で最も頻繁に使用される材料は、ヒドロゲルであり、その組成は細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)タンパク質で構成されている。とりわけ合成ペプチドから生成された他のヒドロゲルもまた入手可能であるが、これらはあまり一般的には使用されていない。一方で、コラーゲン及びゼラチンは、二次元細胞培養において培養表面をコーティングするために使用される。
【0004】
コラーゲンはまた、三次元培養にも使用される。典型的には、pH変化で架橋されたヒドロゲルが使用される。低pHでは、コラーゲン、例えばラット尾コラーゲンが溶解され、より中性pHの培養培地がそれに添加された後、コラーゲンがゲル化し、培養物をその上で増殖させることができる。ゼラチンはコラーゲン繊維の部分加水分解の生成物である。入手可能なゼラチン種のうち、2つの塩基性タイプ、つまり酸性タイプ、すなわち加水分解が酸性環境で起こるタイプと、アルカリタイプ、すなわち加水分解がアルカリ性環境で起こるタイプとを同定することができる。ゲル化の強度を決定する値に応じて、異なるブルーム値のゼラチンが同定される。ブルーム値が高いほど、ゲル化の強度が高くなる。
【0005】
現在、三次元細胞培養及び血管新生アッセイを可能にするヒドロゲルが市販されている。血管新生アッセイの実施を可能にする製品のいくつかの例のうちの1つは、Matrigel(登録商標)(及びその誘導体)である。Matrigelの主成分は、マウス新生物から抽出されたラミニン、IV型コラーゲン、プロテオグリカン、エンタクチン、及び増殖因子である、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)肉腫である。米国特許第4829000号は、細胞培養のための組成物、及び生物活性抽出物を生成する方法について開示している。また、Orciら、「Vascular outgrowths from tissue explants embedded in fibrin or collagen gels:a simple in vitro model of angiogenesis」、Cell Biology International Reports、第9巻第10号(1985年10月)から、血管新生アッセイを行うためのコラーゲンの使用が知られているが、このコラーゲンの使用は先行技術では、労働集約的であり、かつ再現性の低い結果を与えるものとして記載されている。基本的な建築材料が、ゼラチン、具体的にはメタクリル化ゼラチン(FastLink GelMA)であるヒドロゲルもまた市販されており、そのようなヒドロゲルの例示的な製造業者はStemorgan Inc.である。しかしながら、これらのヒドロゲルは、本発明で提案されるゼラチン濃度範囲を有意に超える約10%の濃度のゼラチンを使用する。その上、GelMA中のゼラチンは、UV照射の影響下においてフリーラジカルを生成する開始剤と架橋される。
【0006】
本発明の目的は、低濃度混合物に基づくヒドロゲルを提供することであり、これは、先行技術から知られている既存の問題を解決し、生産コストを削減し、生産効率を高めながらも、毒性がより低い。使用される成分のために、新規のヒドロゲルは、先行技術から知られているヒドロゲルと比較して有意に高い再現性をもたらす。この再現性は、新規のヒドロゲルの2つの基本的な特徴から生じる。まず、先行技術から知られているヒドロゲルと比較して、新規のヒドロゲルは増殖因子を実質的に含まない。これは次の2つの理由に起因する:第一に、ゼラチン生成技術は増殖因子の生存率を劇的に低下させ、第二に、グルタルアルデヒド(GTA)とのゼラチン架橋反応中に、増殖因子の可能な残留量が不活性化される。新規のヒドロゲルの再現性の第2の根拠は、その成分の濃度の再現性である。
【0007】
先行技術では、DOILLONら、「Three-dimensional Culture System as a Model for Studying Cancer Cell Invasion Capacity and Anticancer Drug Sensitivity」、Anticancer Research、第24巻第2169~2178頁(2004年)から、フィブリンを添加したコラーゲンを新生細胞培養物の三次元モデルの成分として使用することが知られている。加えて、Yamada及びEven-Ram、「Cell migration in 3D matrix」(2005年)から、ヒドロゲル内に浸潤及び遊走する新生細胞の可能性を試験するためのコラーゲン及びフィブリンに基づく使用である、三次元細胞培養の使用が知られている。
【0008】
先行技術では、MONTESANOら、「Vascular outgrowths from tissue explants embedded in fibrin or collagen gels:a simple in vitro model of angiogenesis」、Cell Biology International Reports、第9巻第10号(1985年10月)から、コラーゲン及びフィブリンに基づく使用であり、血管新生アッセイを行うことを可能にする、三次元内皮細胞培養物の使用もまた知られている。しかしながら、これらのヒドロゲルはGTAを含有しない。
【0009】
GTA(グルタルアルデヒド)は、特に、リジンの遊離アミノ基又はポリペプチド鎖のヒドロキシリジンのアミノ酸残基と、アルデヒド基との反応による、コラーゲン材料の非常に効果的な安定化のため、最も頻繁に使用される化学架橋剤の1つである。しかし、細胞培養にあっては、その欠点とは、非常に低い濃度ですら毒性であることである。Ou及びYang、「The micro patterning of glutaraldehyde(GA)-crosslinked gelatin and its application to cell-culture」、Lab on a Chip(2005年)に開示されているように、45%GTAで濡らした後、残留物を除去するためにヒドロゲルを水で洗浄することによって、この問題を解決しようと試みたが、追加のすすぎ工程の後でさえ、使用されたGTA濃度は非常に高く、開示された方法に従って生成されたヒドロゲルは本発明のヒドロゲルとは異なる品質を有する。
【0010】
対照的に、Bigiら、「Mechanical and thermal properties of gelatin films at different degrees of glutaraldehyde crosslinking」、Biomaterials、第22巻(2001年)第763~768頁は、GTA架橋ゼラチンを含有するヒドロゲル組成物が良好な安定性を特徴とすることを示している。0.1%~1%GTAの範囲で示された結果によれば、架橋の程度は60%~100%に増加し、それに応じて熱的特性及び機械的特性は異なり、このため、異なるGTA濃度を利用してフィルムの物理化学的特性を調節することが可能である。しかしながら、GTA濃度は、この様式で調製されたヒドロゲル上での細胞培養を無効とするには充分高い。
【0011】
文献第CN105316285号は三次元細胞培養のための培地の生成方法を開示しており、この方法は、コラーゲンを酢酸中に溶解し、キトサンを酢酸中に溶解し、それらを混合し、乾燥させ、次いでGTAを添加し、8~16時間放置して架橋させ、得られたヒドロゲルを精製することを含む。
【0012】
低濃度のGTAによるタンパク質の架橋によって作られるヒドロゲルは、現在、先行技術には存在しない。濃度を低下させると同時に、結合可能なリジンの量に対するGTAの割合を低下させることによって、より良好な物理化学的品質及びより低い毒性のヒドロゲルが得られ、これにより、本発明のヒドロゲルを、健康細胞及び新生細胞の両方の二次元及び三次元細胞培養物のためと、三次元条件におけるヒドロゲルでの遊走及び浸潤アッセイのためと、血管新生アッセイの実施又は大動脈発芽アッセイの実施のためと、に使用することが可能になった。
【0013】
しかしながら、例えば密度、硬度、及び弾性などの正確に選択された品質のヒドロゲルを開発する必要は依然として存在し、このようにして、例えば血管新生アッセイを実施するための試験で広く使用することができよう。本発明では、密度及び硬度パラメータの正確な選択は、ゼラチン又はコラーゲン及びGTA濃度の修正によって適切に行われる。弾性は、上記2つのパラメータが修正された結果であり、ヒドロゲルの生成方法である。架橋のレベルは最終生成物のパラメータを決定し、本発明者らによって記載された技術のみが、本発明のヒドロゲルのパラメータを得られるほど充分に低いレベルまで濃度を低下させることができる。
【0014】
本発明の別の目的は、血管新生アッセイ(血管新生アッセイ、インビトロ血管新生管腔形成アッセイ、内皮細胞管形成アッセイ)を実施する際に使用するためのヒドロゲルを提供することである。新規のヒドロゲルはまた、他の細胞培養物、例えば、新生細胞培養物、ラボ・オン・チップ(lab-on-a-chip)培養物、植物及び細菌細胞培養物、並びに流動培養物にも使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Orciら、「Vascular outgrowths from tissue explants embedded in fibrin or collagen gels:a simple in vitro model of angiogenesis」、Cell Biology International Reports、第9巻第10号(1985年10月)
【非特許文献2】DOILLONら、「Three-dimensional Culture System as a Model for Studying Cancer Cell Invasion Capacity and Anticancer Drug Sensitivity」、Anticancer Research、第24巻第2169~2178頁(2004年)
【非特許文献3】Yamada及びEven-Ram、「Cell migration in 3D matrix」(2005年)
【非特許文献4】MONTESANOら、「Vascular outgrowths from tissue explants embedded in fibrin or collagen gels:a simple in vitro model of angiogenesis」、Cell Biology International Reports、第9巻第10号(1985年10月)
【非特許文献5】Ou及びYang、「The micro patterning of glutaraldehyde(GA)-crosslinked gelatin and its application to cell-culture」、Lab on a Chip(2005年)
【非特許文献6】Bigiら、「Mechanical and thermal properties of gelatin films at different degrees of glutaraldehyde crosslinking」、Biomaterials、第22巻(2001年)第763~768頁
【発明の概要】
【0017】
本発明によって解決される更なる技術的問題は、GTAとゼラチンとの反応後に残る毒性の排除である。既に残留している本発明で使用されるGTAの量を除去することにより、生成されたヒドロゲルは、最も感受性の高い細胞でさえも増殖させることができる。
加えて、本発明の極めて重要な特徴は、経済的側面である。第一に、GTAをゼラチンと反応させて、このような低濃度でヒドロゲルを作製することが可能である。その上、本発明で使用される比較的安価な試薬は、コストを有意に削減する一方で、製造の効率及び費用対効果を高め、特許請求される製品をはるかに大規模に機能させることが可能である。
【0018】
極めて重要な側面は、このような様式で作製されたタンパク質ヒドロゲルが、今日市販されている同様の範囲の用途を有する製品よりも、細胞培養のためのはるかに再現性のある製品であるという事実である。本発明のタンパク質ヒドロゲルは、このクラスの唯一の製品であり、増殖因子を含まず、製品の再現性も有意に向上している。市販の各成分の製造は、それらの中に存在し得る残留増殖因子を不活性化し、その上、この増殖因子はGTAとの反応中に不活性化されるので、増殖因子を実質的に含まないか、又は含まない。本発明のタンパク質ヒドロゲル単独での高い再現性は、市販の成分から合成され、それによってそれらの濃度を最終生成物において非常に正確に選択及び制御することができるという事実に由来する。
【0019】
本発明の主題は、ゼラチン又はコラーゲンである試薬Aと、架橋剤でありGTA(グルタルアルデヒド)である試薬Bと、溶媒と、を含むタンパク質ヒドロゲルであって、試薬Aは0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在することを特徴とし、試薬Aと試薬Bとの比は該ヒドロゲルの一部分において0.375~4.5mg対0.01~0.15mgである、タンパク質ヒドロゲルである。
【0020】
好ましくは、試薬Aの最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、該ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgである。
【0021】
特に好ましくは、試薬Aの最終濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、該ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgである。
【0022】
好ましくは、本発明のタンパク質ヒドロゲルは、ゼラチンが、少なくとも225のブルーム値、好ましくは300のブルーム値のゼラチンであることを特徴とする。
【0023】
好ましくは、本発明のタンパク質ヒドロゲルは、溶媒が、水溶液であり、より好ましくはdH2O、PBS、HBSSの群から選択され、最も好ましくはPBSであることを特徴とする。
【0024】
本発明の別の主題は、本発明のタンパク質ヒドロゲルを生成する方法であって、以下の工程:
(a)好ましくはdH2O、PBS、HBSSの群から選択され、最も好ましくはPBSである、ゼラチン又はコラーゲンである適切な量の試薬Aを水溶液に添加することと、
(b)工程(a)の混合物を加熱して、ゲルを溶解させることと、
(c)必要に応じて、該ゲルを初期に安定化させることと、
(d)架橋剤でありGTAである試薬Bを水溶液中に溶解し、冷却することによって、調製することと、
(e)工程(d)で調製した試薬Bを、工程(c)で調製した該ゲルに添加することと、
(f)必要に応じて、得られた該混合物を混合することと、
(g)架橋と
(h)必要に応じて、過剰な試薬Bの該ヒドロゲルを精製することと、を含み、
試薬Aが0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在し、ここで該ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.375~4.5mg対0.01~0.15mgであって、該ゲルが温度0℃~12℃に達し、かつその持続時間が少なくとも約5分間である場合に、該ゲルの該初期安定化が起こり、工程(d)~工程(g)が約0℃~約12℃の低温で行われ、工程(g)では該架橋の持続時間が少なくとも12時間であることを特徴とする。
【0025】
工程(c)で調製したゲルへの工程(d)で調製した試薬Bの添加は、試薬Bをゲルに添加するか、又は試薬Bを既にゲル化したゲルに添加することによって行うことができる。
【0026】
好ましくは、試薬Aの最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、該ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgである。
【0027】
特に好ましくは、試薬Aの濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、該ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgである。
【0028】
好ましくは、初期安定化の持続時間が、30分~48時間、最も好ましくは45分~24時間である。
【0029】
好ましくは、架橋の持続時間は48時間超、最も好ましくは72時間超である。
【0030】
工程(h)において該ヒドロゲルの精製が行われる場合、水溶液、好ましくは細胞培養のための水溶液、好ましくはPBSですすぐことによって、又は中和試薬B、好ましくはL-リジンを添加することによって行われることが好ましい。
【0031】
本方法の上記工程(h)における過剰の試薬Bのヒドロゲルの任意の精製は、-CHO基と反応し、-CHO基を不活性化することができるあらゆる物質によって行われる。そのような物質の例はL-リジンであるが、リジンの非結合側鎖-NH2を含むタンパク質でもある。この物質は毒性架橋物質を中和するために使用される、例えば、2つの-CHO基を含むGTAである。この物質は、ヒドロゲルが生成されるときに添加される-CHO基のモル濃度の乗算である濃度で使用される。例えば、30μLの0.1%GTAを使用する場合、約0.6×10-3モルの-CHO基がそのような体積中に存在する。10×(10倍)濃度のL-リジンの使用は、ヒドロゲルを生成するために-CHO基を添加した場合よりも10倍モルが多いL-リジンを添加することを意味する。L-リジンは側鎖に-NH2基を1つのみ含み、該基は-CHO基に結合することができ、そして典型的には、ヒドロゲルの初期体積に等しい体積で添加される。
【0032】
本発明の別の主題は、細胞培養、好ましくは三次元細胞培養のための、本発明のタンパク質ヒドロゲルの使用である。
【0033】
本発明の更に別の主題は、工程(c)における初期安定化の持続時間が、10~90分、好ましくは15~60分、最も好ましくは40~55分であり、架橋反応の持続時間が60時間を超え、試薬Aの最終濃度が約0.35~0.55重量%であり、ここで、このような割合は、0.875~1.375mgの範囲である試薬Aの質量に対して0.024mg~0.036mgの試薬Bとなるようにヒドロゲルの一部分において維持される、血管新生アッセイを実施するための本発明の方法によって生成されたタンパク質ヒドロゲルにかかる使用である。
【0034】
好ましくは、このような割合は、1mg~1.25mgの範囲の試薬Aの質量に対して、0.027mg~0.033mgの試薬Bとなるようにヒドロゲルの一部分において維持される。
【0035】
特に好ましくは、このような割合は、1mgの量の試薬Aの質量に対して、0.03mgの試薬Bとなるように、ヒドロゲルの一部分において維持される。
【0036】
GTAが0.15%~1.5%の濃度のゼラチン(すなわち、それぞれ250μL又は300μLまで)に添加されているGTAの濃度を、0.15mg(すなわち、30μLで0.5%又は300μLで0.05%)未満の値に低下させることは、その毒性を低下させる(その後除去がより容易になる)のみならず、最も重要なことは、ヒドロゲルの弾性及び粘度を修正することを可能とし、したがって細胞増殖のパラメータに影響を及ぼし、完全に新しい機会を提供することである。
【0037】
本明細書で使用される用語は当技術分野で一般的に受け入れられている意味を有する。
【0038】
用語「低温」とは、約0℃~約12℃、好ましくは約0℃~約8℃、特に好ましくは氷上の範囲内の温度を意味し、「冷蔵庫温度」という表現と互換的に使用することができる。
【0039】
用語「約」とは、所与の数値が定義された値を有するが、しかしながら、10%の誤差が生じる可能性があることを示すことを意図する。
【0040】
用語「水溶液」とは、好ましくは細胞培養用の水溶液を意味し、好ましくはdH2O、PBS、HBSS、の群から選択され、特に好ましくはPBSを意味する。
【0041】
用語「架橋剤」、「試薬B」とは、2つ以上のタンパク質鎖を連結する機能を果たす化学化合物を意味する。タンパク質鎖はタンパク質の末端のアミノ酸側鎖又はアミノ酸によって連結されている。タンパク質の連結は、タンパク質鎖が連結された結果として、ヒドロゲルとも呼ばれるタンパク質のネットワークが形成される場合、架橋と呼ばれる。例示的なタンパク質架橋機構が列挙されている、Sungら、「Evaluation of gelatin hydrogel crosslinked with various crosslinking agents as bioadhesives:In vitro study」、Journal of biomedical materials Research(1999年)で示されるように、タンパク質架橋は、例として、-NH2又は-COOH官能基によって起こり得る。Bigiらに開示されているように、架橋剤は、好ましくはペンタン-1,5-ジーアル(グルタルアルデヒド、GTA)である。GTAは、タンパク質間で-NH2基を共有結合することによって、更には1つのタンパク質内のそれらの基を結合することによって、ゼラチン又はコラーゲンを架橋し、したがってそれらを安定化する。
【0042】
用語「タンパク質ヒドロゲル部分/ウェル」とは、特許請求の範囲に記載された割合を重視して作製された、例示的な部分を意味する。「部分」の2つの例を使用し、250μLのゲルに30μLのGTAを添加した(ゲル中に、その結果、目標体積は280μLのヒドロゲル)。部分の別の例は300μLのゲル部分であり、その表面に300μLのGTAが添加される。ここでは、ゲルの表面に添加されたGTAはゲル自体とは混合せず、したがって最終的に得られるヒドロゲルの体積は増加しないので、該部分は300μLのヒドロゲルに限定される。適用された試薬Bはこのような様式でゲル中に拡散し、そこで架橋反応が起こり、残りの過剰分がヒドロゲルの表面から吸引によって除去される。本発明の目的のために、上で記載され、実施形態で開示されたヒドロゲル部分の体積を提示した。しかしながら、この保護はまた、より少量及びより多量の試薬A及びBも対象とし、本明細書に記載されるような試薬Aと試薬Bの割合が重視される。
【0043】
「試薬A」とは、ゼラチン又はコラーゲンを意味するが、ゼラチン又はコラーゲンと同じ又は類似のアミノ酸配列の任意の他のタンパク質でもあって、生物から得られるタンパク質、及び組換えタンパク質、すなわち遺伝子組換え体での産生によって得られるタンパク質も意味する。
【0044】
本発明の主題は実施形態及び図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、ヒドロゲル上の管腔形成HUVEC内皮細胞を示す。この試験は血管の形成を例示するモデルアッセイである。血管新生促進試験及び抗血管新生試験が可能となる。
【
図2】
図2は、ヒドロゲル上で培養した4T1細胞を示し、この細胞は、3次元構造であるスフェロイドを形成する。長期培養の後、隣接するスフェロイド間を遊走する細胞が観察される。
図2Aは、播種から14日後の4T1細胞を示し、
図2Bは、播種から17日後の4T1細胞を示す。
【
図3】
図3は、注入したヒドロゲルと培養培地とで半分満たされた培養ウェルを示す。ヒドロゲルに応じた様々な種類の細胞増殖及び挙動が示されている。
図A及び
図Cは硬質で厚いヒドロゲル上における増殖及び遊走を示し、
図B及び
図Dは軟質で薄いヒドロゲル上における増殖及び遊走を示す。
図Aは、ヒドロゲルの表面上における細胞増殖を示す。これは三次元増殖であるが、ヒドロゲルの表面上の細胞増殖である。
図Bは、ヒドロゲルの内側への細胞増殖を示す。
図Cは、ヒドロゲルの表面上における遊走を示す。
図Dは、ヒドロゲル内に増殖した2つの塊、及びヒドロゲル内でそれらの間を遊走する細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
実施形態を以下に示すが、これらは本発明の例示にすぎず、限定する性質のものではない。
【0047】
実施例I-タンパク質ヒドロゲルの生成
0.4%の濃度の60個のヒドロゲル部分を生成するために、0.06gのA型ブルーム300ゼラチンを秤量し、14.94mLのPBS溶液中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.001gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。この様式で調製したゲルを、250μL/ウェルで48ウェルプレートにピペッティングし、冷蔵庫に入れて冷却し、次いで冷蔵庫で45分間安定化させた。残り12個のゲル部分は未使用のままであった。0.03mgのGTAを回収し、30μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.1%GTA溶液を先に調製し、冷蔵庫で30分間冷却した。冷却し安定化させたが、ゲル化していないゲルに、30μLのGTA溶液を添加した。GTAの添加は氷上で行った。各ヒドロゲル部分には約0.03mgのGTAが存在していた。次いで、GTAを添加したゲルを有するプレートを冷蔵庫に72時間入れた。その後、得られたヒドロゲルを、L-リジンを添加することによるヒドロゲル中和によって、過剰GTAから精製した。PBS中に10倍濃度で溶解したL-リジンを使用した。リジンをヒドロゲルと24時間インキュベートさせた。この様式で調製したヒドロゲルは更なる使用の準備ができている。
【0048】
実施例II-タンパク質ヒドロゲルの生成
0.7%の濃度の50個のヒドロゲル部分を生成するために、0.105gのA型ブルーム300ゼラチンを秤量し、14.895mLのPBS溶液中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.0021gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。ゲルを48ウェルプレートに300μL/ウェルでピペッティングした。残り2個のゲル部分は未使用のままであった。この様式で調製したプレートを冷蔵庫に2時間置いた。0.06mgのGTAを回収し、300μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.02%GTA溶液を先に調製し、冷蔵庫で最低でも30分間冷却した。ゲル化したゲルの表面に300μLのGTA溶液を静かに注ぎ、冷蔵庫に24時間置いた。GTAの添加は氷上で行った。各ヒドロゲル部分には約0.06mgのGTAが存在していた。その後、得られたヒドロゲルを、PBSで3回すすぐことによって過剰GTAから精製した。この様式で調製したヒドロゲルは更なる使用の準備ができている。
【0049】
実施例III
実施例Iで調製したヒドロゲル上に、内皮(HUVEC)細胞を48ウェルプレートの15,000細胞/ウェルの密度で播種した(特定の細胞株バッチ及び細胞分裂数に応じて、播種細胞の密度は48ウェルプレートの5,000細胞/ウェルから50,000細胞/ウェルまで変動し得る)。内皮細胞をEGM(商標)-2 BulletKit(商標)Lonza培地で培養した。実験結果は、内皮細胞によってヒドロゲルの表面に形成された管腔であった(
図1)。
【0050】
実施例IV
実施例IIで調製したヒドロゲル上に、新生物4T1(マウス乳がん)細胞を、48ウェルプレートの10,000細胞/ウェルの密度で播種した。細胞をRPMI+10%FBS培地で培養した。実験結果は、新生細胞によって形成されたスフェロイドであった(
図2)。
【0051】
実施例V(先行技術の濃度を用いた比較例)
ヒドロゲルを先行技術(Bigiら)に開示されている方法に従ってヒドロゲルを生成するアッセイを実施した。その目的のために、5%A型ブルーム300ゼラチン(質量)、及び表1~表8に記載された質量濃度のGTAの組成物のヒドロゲルを調製した。表1、表2、表3、及び表4に示した実験では、タンパク質ヒドロゲルを24時間乾燥させた(この乾燥はBigiらの刊行物の記載に従った)が、一方で表5、表6、表7、及び表8では、調製したタンパク質ヒドロゲルを24時間架橋させた。ここで、Aとはヒドロゲルをすすがなかったことを意味し、BとはdH2Oで5回すすいだことを意味し、CとはPBSで5回すすいだことを意味する。すすぎ工程は引用文献に記載されていない。実験後、得られた細胞を評価した:0-扁平細胞なし;おそらく全て死亡;1-扁平細胞が少数存在;2-扁平細胞が多数存在。以下の表は得られた結果を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
上記のデータは、先行技術によるより高濃度のヒドロゲル上では、細胞が増殖しないか又は扁平には増殖しないことを示している。HUVEC細胞株の場合、血管の形成、すなわち血管新生アッセイの実施が妨げられる。Panc_02細胞株の場合、これは、架橋剤が適切に除去/中和されている場合に細胞は増殖することができるが、この増殖は、標準的な二次元培養に典型的であるように、細胞が平坦となるように、硬質培地上で行われ得ることを意味する。
【0055】
実施例VI-dH2O溶媒によるタンパク質ヒドロゲルの生成
0.3%の濃度の50個のヒドロゲル部分(各300μL)を生成するために、0.045gのA型ブルーム300ゼラチンを秤量し、14.955mLのdH2O中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.0009gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で30分間加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。この様式で調製したゲルを、300μL/ウェルで48ウェルプレートにピペッティングした。2個の部分は廃棄するためピペッティングされずに残った。48個のゲル部分を有する48ウェルプレートを冷蔵庫に入れて冷却し、次いで冷蔵庫温度で23時間安定化させた。0.0105mgのGTAを回収し、300μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.0035%(質量)のGTA溶液を先に調製し、冷蔵庫内で最低でも30分間放置することによって、その温度を冷蔵庫温度まで下げた。冷却し、安定化し、ゲル化したゲルの表面に、冷却したGTA溶液300μLを添加した。GTAの添加は氷上で行った。次いで、GTAを注いだゲルを有するプレートを冷蔵庫に72時間入れた。各ヒドロゲル部分には約0.0105mgのGTAが存在していた。その後、得られたヒドロゲルを、PBSで3回すすぐことによって過剰GTAから精製した。この様式で調製したヒドロゲルは更なる使用の準備ができている。
【0056】
実施例VII-毒性GTAの残留物を除去する工程を実施する必要のない細胞培養物のためのヒドロゲル生成
0.6%の濃度の50個のヒドロゲル部分(各250μL)を生成するために、0.075gのA型ブルーム300ゼラチンを秤量し、12.425mLのPBS中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.0015gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で30分間加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。この様式で調製したゲルを、250μL/ウェルで48ウェルプレートにピペッティングした。2個の部分は廃棄するためピペッティングされずに残った。48個のゲル部分を有する48ウェルプレートを冷蔵庫に入れて冷却し、次いで冷蔵庫温度で60分間安定化させた。0.018mgのGTAを回収し、30μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.06%(質量)のGTA溶液を先に調製し、冷蔵庫内で最低でも30分間放置することによって、その温度を冷蔵庫温度まで下げた。冷却し安定化させたが、ゲル化していないゲルに、各30μLの冷却GTA溶液を添加した。GTAの添加は氷上で行った。次いで、GTAを添加したゲルを有するプレートを冷蔵庫に72時間入れた。各ヒドロゲル部分には約0.018mgのGTAが存在していた。この様式で調製したヒドロゲルは更なる使用の準備ができている。
【0057】
実施例VIII-B型ゼラチンを有するタンパク質ヒドロゲルの生成
0.4%の濃度の60個のヒドロゲル部分(各250μL)を生成するために、0.06gのB型ゼラチンを秤量し、14.940mLのPBS溶液中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.001gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で30分間加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。この様式で調製したゲルを、250μL/ウェルで48ウェルプレートにピペッティングした。12個の部分は廃棄するためピペッティングされずに残った。48個のゲル部分を有する48ウェルプレートを冷蔵庫に入れて冷却し、次いで冷蔵庫温度で50分間安定化させた。0.045mgのGTAを回収し、30μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.15%(質量)のGTA溶液を先に調製し、その温度を冷蔵庫温度まで下げた。冷却し、部分的に安定化させたが、ゲル化していないゲルに、30μLの冷却GTA溶液を添加した。GTAの添加は氷上で行った。各タンパク質ヒドロゲル部分には約0.045mgのGTAが存在していた。次いで、GTAを注いだゲルを有するプレートを冷蔵庫に72時間入れた。その後、得られたタンパク質ヒドロゲルを、PBSで3回すすぐことによって過剰GTAから精製した。この様式で調製したヒドロゲルは更なる使用の準備ができている。
【0058】
実施例IX-血管新生の再現性
0.4%の濃度の50個のヒドロゲル部分(各250μL)を生成するために、0.05gのA型ブルーム300ゼラチンを秤量し、12.45mLのPBS中に溶解した。各ヒドロゲル部分は0.001gのゼラチンを含有していた。溶液を37℃で30分間加熱してゲルを溶解し、次いで濾過によって滅菌した。この様式で調製したゲルを、250μL/ウェルで48ウェルプレートにピペッティングした。2個の部分は廃棄するためピペッティングされずに残った。48個のゲル部分を有する48ウェルプレートを冷蔵庫に入れて冷却し、次いで冷蔵庫温度で40分間安定化させた。0.03mgのGTAを回収し、30μLのdH2Oに補充することによって、dH2O中の0.1%(質量)のGTA溶液を先に調製し、冷蔵庫内で最低でも30分間放置することによって、その温度を冷蔵庫温度まで下げた。冷却し安定化させたが、ゲル化していないゲルに、各30μLの冷却GTA溶液を添加した。GTAの添加は氷上で行った。次いで、GTAを添加したゲルを有するプレートを冷蔵庫に72時間入れた。各ヒドロゲル部分には約0.03mgのGTAが存在していた。この様式で調製したタンパク質ヒドロゲルをPBSで3回すすいだ。タンパク質ヒドロゲルを10個の別々の生産バッチで調製し、毎回4度の複製を行った。
【0059】
このような様式で調製したタンパク質ヒドロゲル上に細胞を播種し、10時間のインキュベーション後、顕微鏡下において細胞を観察した。以下の表9はアッセイ結果を示す。
A-細胞は良好な形の管腔を形成する
B-細胞が管腔を形成し始める
【0060】
実験は、本開示の主題である方法の特徴の1つは結果の再現性が高いことを示している。全40回の試行において、血管新生アッセイは陽性の結果を返し、わずか2回だけ時間が遅れたが、これは統計誤差に起因し得る。上記の結果は、競合製品と比較して、血管新生アッセイの有効性の有意な改善を表す。
【0061】
本発明の主題であるタンパク質ヒドロゲルは、正確に選択されたパラメータ、例えばヒドロゲルの密度又は硬度を有する培地を得ることを可能にする。これらのパラメータは、細胞が自然に増殖する生理学的条件の再現に影響を及ぼす。これは次いで、ヒドロゲル内で遊走、スフェロイドを形成する能力等といったそれらの挙動に影響を及ぼす。
【手続補正書】
【提出日】2021-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンである試薬Aと、架橋剤でありGTAである試薬Bと、溶媒と、を含むタンパク質ヒドロゲルであって、試薬Aは0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在し、試薬Aと試薬Bとの比は前記ヒドロゲルの一部分において0.375~4.5mg対0.01~0.15mgであることを特徴
とし、前記溶媒がdH
2
OまたはPBSである、タンパク質ヒドロゲル。
【請求項2】
前記試薬Aの最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgであることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項3】
前記試薬Aの最終濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における試薬Aと試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgであることを特徴とする、請求項2に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項4】
ゼラチンが、少なくとも225のブルーム値、好ましくは300のブルーム値のゼラチンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質ヒドロゲル。
【請求項5】
請求項1~
4で定義されるような前記タンパク質ヒドロゲルを生成する方法であって、
(a)ゼラチンである適切な量の試薬Aを水溶液に添加する工程であって、前記水溶液はdH
2O
またはPBSから選択される、工程と、
(b)工程(a)の混合物を加熱して、ゲルを溶解させる工程と、
(c)前記ゲルを初期に安定化させる工程と、
(d)架橋剤でありGTAである試薬Bを水溶液中に溶解し、冷却することによって、調製する工程と、
(e)工程(d)で調製した試薬Bを、工程(c)で調製した前記ゲルに添加する工程と、
(f)必要に応じて、得られた前記混合物を混合する工程と、
(g)架橋と
(h)必要に応じて、過剰な試薬Bの前記ヒドロゲルを精製する工程と、を含み、
前記試薬Aが0.15重量%~1.5重量%の最終濃度で存在し、ここで前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.375~4.5mg対0.01~0.15mgであり、前記ゲルが温度0℃~12℃に達し、かつその持続時間が少なくとも約5分間である場合に、前記ゲルの前記初期安定化が起こり、工程(d)~工程(g)が約0℃~約12℃の低温で行われ、工程(g)では、前記架橋の持続時間が少なくとも12時間であることを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記試薬Aの前記最終濃度が0.25重量%~1重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.625~3mg対0.0135~0.075mgであることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記試薬Aの前記最終濃度が0.3重量%~0.8重量%であり、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が0.75~2.4mg対0.021~0.045mgであることを特徴とする、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記初期安定化の持続時間が、30分~48時間、最も好ましくは45分~24時間であることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項9】
前記架橋の持続時間が、48時間超、最も好ましくは72時間超であることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項10】
工程(h)において前記ヒドロゲルの前記精製が行われる場合、水溶液、好ましくは細胞培養のための水溶液、好ましくはPBSですすぐことによって、又は中和試薬B、好ましくはL-リジンを添加することによって行われることを特徴とする、請求項
5~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養のための、請求項1~
4に定義される前記タンパク質ヒドロゲルの使用。
【請求項12】
三次元細胞培養のための、請求項
11に記載の使用。
【請求項13】
工程(c)における前記初期安定化の前記持続時間が、10~90分、好ましくは15~60分、最も好ましくは40~55分であり、前記低温における前記架橋反応の前記持続時間が60時間を超え、前記試薬Aの前記最終濃度が約0.35~0.55重量%であり、ここで、前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が、0.875~1.375mg対0.024~0.036mgである、血管新生アッセイを実施するための、請求項
5に定義される前記方法によって生成される前記タンパク質ヒドロゲルの使用。
【請求項14】
前記ヒドロゲルの一部分における前記試薬Aと前記試薬Bとの比が、1~1.25mg対0.027~0.033mgである、請求項
13に記載の使用。
【請求項15】
割合は、1mgの量の前記試薬Aの質量に対して0.03mgの前記試薬Bとなるように前記ヒドロゲルの一部分において維持される、請求項
14に記載の使用。
【国際調査報告】