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特表2022-520059CLDN6発現癌の治療のためのキメラ抗原受容体改変細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-28
(54)【発明の名称】CLDN6発現癌の治療のためのキメラ抗原受容体改変細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220318BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220318BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220318BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220318BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220318BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220318BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220318BHJP
   C12N 5/22 20060101ALI20220318BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220318BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220318BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220318BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00
C12N15/13
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61K45/00
A61K38/19
A61K39/00 H
A61K31/7088
A61K48/00
A61K31/7105
A61K31/711
A61K47/44
A61K9/127
A61K35/76
A61K35/761
A61P37/04
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N5/22
C12P21/02 C
A61K38/17
C07K14/705 ZNA
C12N5/0783
C12N15/88 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546261
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2020052867
(87)【国際公開番号】W WO2020161186
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/053156
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516294849
【氏名又は名称】バイオエヌテック セル アンド ジーン セラピーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH CELL & GENE THERAPIES GMBH
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】オーム, ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】レングストル, ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト, カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒェル, クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA19
4C076CC07
4C076CC27
4C076EE52
4C076FF43
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA03
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA01
4C084DA27
4C084MA02
4C084MA24
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C085AA16
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC03
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA24
4C086NA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BC83
4C087MA02
4C087MA24
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、CLDN6を発現する標的細胞の非常に特異的で高感度の認識、ならびにCAR T細胞の生存および反復刺激の高い可能性を示すキメラ抗原受容体(CAR)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)CLDN6抗原結合ドメイン;
ii)膜貫通ドメイン;ならびに
iii)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含むキメラ抗原受容体(CAR)分子。
【請求項2】
前記CLDN6抗原結合ドメインが、抗体、抗体断片、scFv、Fv、Fab、(Fab')2、単一ドメイン抗体(SDAB)、VHもしくはVLドメイン、またはラクダ科動物VHHドメインを含む、請求項1に記載のCAR分子。
【請求項3】
前記CLDN6抗原結合ドメインがscFvを含む、請求項1または2に記載のCAR分子。
【請求項4】
前記CLDN6抗原結合ドメインが、配列番号35のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項5】
前記4-1BB共刺激ドメインが、配列番号30のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項6】
さらなる共刺激ドメインを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項7】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、配列番号31のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインが、T細胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Ra、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDlld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDlla、LFA-1、ITGAM、CDllb、ITGAX、CDllc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAMl(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGLl、CDIOO(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびNKG2Cからなる群より選択されるタンパク質の膜貫通ドメイン、またはそれらの機能的変異体を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項9】
前記膜貫通ドメインがCD8α膜貫通ドメインを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項10】
前記膜貫通ドメインが、配列番号28のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項11】
前記抗原結合ドメインがヒンジドメインによって前記膜貫通ドメインに接続されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項12】
前記ヒンジドメインがCD8αヒンジドメインである、請求項11に記載のCAR分子。
【請求項13】
前記ヒンジドメインが、配列番号27のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項11または12に記載のCAR分子。
【請求項14】
i)CLDN6抗原結合ドメイン;
ii)CD8αヒンジドメイン;
iii)CD8α膜貫通ドメイン;ならびに
iv)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項15】
リーダー配列をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項16】
配列番号36のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のCAR分子。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載のCAR分子をコードする核酸。
【請求項18】
DNAまたはRNAである、請求項17に記載の核酸。
【請求項19】
請求項17または18に記載の核酸を含むベクター。
【請求項20】
DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびレトロウイルスベクターからなる群より選択される、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
プロモータをさらに含む、請求項19または20に記載のベクター。
【請求項22】
前記プロモータが、EF-1プロモータ、CMV IE遺伝子プロモータ、EF-1αプロモータ、ユビキチンCプロモータ、またはホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモータから選択される、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか一項に記載のCAR分子;
請求項17もしくは18に記載の核酸;または
請求項19~22のいずれか一項に記載のベクター
を含む免疫エフェクタ細胞。
【請求項24】
前記CARを発現するように遺伝子改変されている、請求項23に記載の免疫エフェクタ細胞。
【請求項25】
T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)からなる群より選択される、請求項23または24に記載の免疫エフェクタ細胞。
【請求項26】
CD8+T細胞である、請求項23~25のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞。
【請求項27】
ヒト細胞である、請求項23~26のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞。
【請求項28】
請求項23~27のいずれか一項に記載の複数の免疫エフェクタ細胞を含む免疫エフェクタ細胞の集団。
【請求項29】
機能的TCRまたは機能的HLAの発現を欠くかまたは発現が低い、請求項23~27のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞または請求項28に記載の免疫エフェクタ細胞の集団。
【請求項30】
前記CAR分子が発現されるような条件下で、請求項17もしくは18に記載の核酸または請求項19~22のいずれか一項に記載のベクターを免疫エフェクタ細胞に導入することを含む、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団を作製する方法。
【請求項31】
対象においてCLDN6を発現する標的細胞集団または組織に対する細胞媒介免疫応答を刺激するための方法であって、有効量の請求項23~27および29のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞または請求項28もしくは29に記載の免疫エフェクタ細胞の集団を前記対象に提供することを含む方法。
【請求項32】
CLDN6の発現に関連する疾患を有する対象を治療する方法であって、有効量の請求項23~27および29のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞または請求項28もしくは29に記載の免疫エフェクタ細胞の集団を前記対象に提供することを含む方法。
【請求項33】
CLDN6の発現に関連する前記疾患が、増殖性疾患、前癌状態、癌、およびCLDN6の発現に関連する非癌関連適応症からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記癌が、卵巣癌、肺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、黒色腫、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、腎細胞癌、および膀胱癌からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
対象に抗腫瘍免疫を提供する方法であって、有効量の請求項23~27および29のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞または請求項28もしくは29に記載の免疫エフェクタ細胞の集団を前記対象に提供することを含む方法。
【請求項36】
前記腫瘍がCLDN6発現腫瘍である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団が、前記対象に対して自家または同種異系である、請求項31~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団の有効性を高める薬剤を投与することをさらに含む、請求項31~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記薬剤が、
プロテインホスファターゼ阻害剤;
キナーゼ阻害剤;
サイトカイン;
免疫阻害分子の阻害剤;または
TREG細胞のレベルもしくは活性を低下させる薬剤
の1つ以上から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団を、前記CLDN6抗原結合ドメインに結合する同族抗原分子と接触させる工程をさらに含む、請求項31~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記同族抗原分子が、CLDN6もしくはその断片、またはCLDN6もしくはCLDN6断片の変異体からなる群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団の増殖および/または活性化が起こるような条件下で、前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団を前記同族抗原分子と接触させる、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団を前記同族抗原分子と接触させる工程がインビボまたはエクスビボで行われる、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記同族抗原分子またはそれをコードする核酸を前記対象に投与する工程を含む、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸が、前記対象の細胞で発現されて前記同族抗原分子を提供する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記同族抗原分子の発現が前記細胞表面においてである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸が、前記対象の細胞において一過性に発現される、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸がRNAである、請求項44~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記免疫エフェクタ細胞もしくは前記免疫エフェクタ細胞の集団および/または前記同族抗原分子もしくはそれをコードする核酸が全身投与される、請求項31~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸の全身投与後、脾臓における前記同族抗原分子をコードする前記核酸の発現が起こる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸の全身投与後、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞における前記同族抗原分子をコードする前記核酸の発現が起こる、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
前記抗原提示細胞が、樹状細胞、マクロファージおよびB細胞からなる群より選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸の全身投与後、肺および/または肝臓における前記同族抗原分子をコードする前記核酸の発現が全く起こらないかまたは本質的に起こらない、請求項49~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸の全身投与後、脾臓における前記同族抗原分子をコードする前記核酸の発現が肺における発現量の少なくとも5倍である、請求項49~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸が送達ビヒクルに製剤化される、請求項44~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記送達ビヒクルが粒子を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記送達ビヒクルが少なくとも1つの脂質を含む、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
前記少なくとも1つの脂質が少なくとも1つのカチオン性脂質を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記脂質が、前記同族抗原分子をコードする前記核酸と複合体を形成する、および/または前記核酸を封入する、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
前記脂質が、前記同族抗原分子をコードする前記核酸を封入する小胞に含まれる、請求項57~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記同族抗原分子をコードする前記核酸がリポソームに製剤化される、請求項44~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記免疫エフェクタ細胞または前記免疫エフェクタ細胞の集団が、CARを発現する免疫エフェクタ細胞またはCARを発現する免疫エフェクタ細胞の集団である、請求項23~27および29のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞、請求項28もしくは29に記載の免疫エフェクタ細胞の集団、または請求項30~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
医薬品として使用するための、請求項1~16のいずれか一項に記載のCAR分子、請求項17もしくは18に記載の核酸、請求項19~22のいずれか一項に記載のベクター、請求項23~27、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞、または請求項28、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞の集団。
【請求項64】
CLDN6を発現する疾患の治療に使用するための、請求項1~16のいずれか一項に記載のCAR分子、請求項17もしくは18に記載の核酸、請求項19~22のいずれか一項に記載のベクター、請求項23~27、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞、または請求項28、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞の集団。
【請求項65】
請求項1~16のいずれか一項に記載のCAR分子、請求項17もしくは18に記載の核酸、請求項19~22のいずれか一項に記載のベクター、請求項23~27、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞、または請求項28、29、および62のいずれか一項に記載の免疫エフェクタ細胞の集団を含むキット。
【請求項66】
前記CLDN6抗原結合ドメインに結合する同族抗原分子またはそれをコードする核酸をさらに含む、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
請求項30~62のいずれか一項に記載の方法で前記キットを使用するための説明書をさらに含む、請求項65または66に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
養子細胞移入(ACT)に基づく免疫療法は、低い前駆細胞頻度から臨床的に適切な細胞数までエクスビボで増殖させた後に非免疫レシピエントまたは自己宿主に移入される、以前に感作されたT細胞による受動免疫の一形態として広く定義することができる。定義された特異性の抗原標的受容体をT細胞に挿入するための遺伝子工学的アプローチの使用は、ACTの潜在的可能性を大きく拡大した。キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外抗原結合ドメイン、最も一般的にはモノクローナル抗体からの一本鎖可変断片(scFv)に融合した細胞内T細胞シグナル伝達ドメインで構成される抗原標的化受容体の一種である。CARは、MHC媒介提示とは無関係に、細胞表面抗原を直接認識する。
【0002】
遺伝子改変T細胞を使用して、CARの発現を介して腫瘍細胞上に発現される抗原を標的とすることによって癌を治療する試みは、非常に限られた成功しか収めていない。B細胞悪性腫瘍を有する患者における有意な応答にもかかわらず、様々な特異性を有するCAR T細胞を使用した固形腫瘍の標的化後の成功した臨床応答ははるかに限られている。
【0003】
固形腫瘍のためのCAR T細胞療法は、多くの課題に直面している。これらには、物理的障壁、免疫抑制性腫瘍微小環境、および重要なことに、真に特異的で安全な腫瘍標的の欠如が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、CARを使用して癌を治療するための有効な組成物および方法が当技術分野で緊急に必要とされている。本発明は、この必要性に対処する。
【0005】
固形癌の治療のためのCARベースの治療法を実施するために、本発明者らは、CARベースの治療法のための理想的な標的の全ての特徴を有する癌胎児性抗原CLDN6(クローディン6)を選択した。CLDN6は、器官形成中の原始密着結合の形成に関与するテトラスピン膜タンパク質であり、したがって、もっぱら胎児の発生中に有意なレベルで発現され、成体の健常組織には存在しないが、卵巣癌、子宮内膜癌、精巣癌および肺癌を含む様々な医学的必要性の高い癌において高度に過剰発現される。
【0006】
CLDN6は創薬可能な細胞外ループを有し、細胞表面レベルはCAR T細胞による認識を可能にするのに十分高い。さらに、CLDN6発現は、転移性病変および脱分化細胞においてより高い頻度で検出され得るため、疾患の進行と相関しており、発癌過程における役割を示唆する。CLDN6標的化の安全性は、進行卵巣癌患者における抗CLDN6モノクローナル抗体IMAB027を使用した臨床第I/II相試験(OVAR、NCT02054351)によって示唆されており、この試験でIMAB027関連の有害事象は検出されなかった。
【0007】
インビトロおよびインビボ実験の結果に基づいて、前臨床および臨床試験のためのリード構造として4-1BBドメインを有する第2世代CAR(CLDN6-CAR-CD8h-BBz)を選択した。本発明者らは、CLDN6を発現する標的細胞の非常に特異的で高感度の認識、ならびにCAR T細胞の生存および反復刺激の高い可能性を実証することができた。
【0008】
卵巣癌異種移植モデルを使用してCLDN6-CARのインビボ抗腫瘍能をさらに評価し、CLDN6-CAR形質導入T細胞の養子移入が進行腫瘍の完全な根絶をもたらすことを実証できた。さらに、これらの結果を、GMP施設で作製された凍結保存CAR T細胞を用いて再現することができた。
【0009】
過去に実証できたように、CAR T細胞療法の臨床成績は、体内に注入されたCAR T細胞の持続性と正の相関がある(Robbins et al.(2004)J Immunol.173(12):7125-30、Huang et al.(2005)28(3):258-67)ので、CLDN6-CAR療法を、CAR抗原をコードするリポソームに製剤化されたmRNAを使用する本発明者らの革新的なCARインビボ増殖概念(国際公開第2016/180778号)と組み合わせた。
【0010】
最後に、本発明者らは、様々な腫瘍モデルにおいて、養子移入されたCAR T細胞とRNA(LIP)ベースのワクチン接種との組合せが、進行中の抗腫瘍応答を加速し、不十分なCAR T細胞用量の抗腫瘍効果を回復することもできることを実証することができた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
i)CLDN6抗原結合ドメイン;
ii)膜貫通ドメイン;および
iii)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含む、キメラ抗原受容体(CAR)分子を提供する。
【0012】
一実施形態では、CLDN6抗原結合ドメインは、抗体、抗体断片、scFv、Fv、Fab、(Fab')2、単一ドメイン抗体(SDAB)、VHもしくはVLドメイン、またはラクダ科動物VHHドメインを含む。一実施形態では、CLDN6抗原結合ドメインはscFvを含む。一実施形態では、CLDN6抗原結合ドメインは、配列番号35のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0013】
一実施形態では、4-1BB共刺激ドメインは、配列番号30のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。一実施形態では、本発明のCAR分子はさらなる共刺激ドメインを含まない。
【0014】
一実施形態では、CD3ζシグナル伝達ドメインは、配列番号31のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0015】
一実施形態では、膜貫通ドメインは、T細胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Ra、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDlld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDlla、LFA-1、ITGAM、CDllb、ITGAX、CDllc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAMl(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGLl、CDIOO(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびNKG2Cからなる群より選択されるタンパク質の膜貫通ドメイン、またはそれらの機能的変異体を含む。
【0016】
一実施形態では、膜貫通ドメインはCD8α膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0017】
一実施形態では、抗原結合ドメインは、ヒンジドメインによって膜貫通ドメインに接続されている。一実施形態では、ヒンジドメインはCD8αヒンジドメインである。一実施形態では、ヒンジドメインは、配列番号27のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0018】
一実施形態では、本発明のCAR分子は、
i)CLDN6抗原結合ドメイン;
ii)CD8αヒンジドメイン;
iii)CD8α膜貫通ドメイン;ならびに
iv)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含む。
【0019】
一実施形態では、本発明のCAR分子はリーダー配列をさらに含む。
【0020】
一実施形態では、本発明のCAR分子は、配列番号36のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0021】
本発明はさらに、本発明のCAR分子をコードする核酸を提供する。一実施形態では、核酸はDNAまたはRNAである。
【0022】
本発明はさらに、本発明の核酸を含むベクターを提供する。一実施形態では、ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびレトロウイルスベクターからなる群より選択される。一実施形態では、ベクターはプロモータをさらに含む。一実施形態では、プロモータは、EF-1プロモータ、CMV IE遺伝子プロモータ、EF-1αプロモータ、ユビキチンCプロモータ、またはホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモータから選択される。
【0023】
本発明はさらに、
本発明のCAR分子;
本発明の核酸;または
本発明のベクター
を含む、免疫エフェクタ細胞を提供する。
【0024】
一実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、CARを発現するように遺伝子改変されている。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)からなる群より選択される。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞はCD8+T細胞である。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞はヒト細胞である。
【0025】
本発明はさらに、本発明の複数の免疫エフェクタ細胞を含む免疫エフェクタ細胞の集団を提供する。
【0026】
本発明の免疫エフェクタ細胞または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団の一実施形態では、細胞は、機能的TCRまたは機能的HLAの発現を欠くかまたは発現が低い。
【0027】
本発明はさらに、CAR分子が発現されるような条件下で、本発明の核酸または本発明のベクターを免疫エフェクタ細胞に導入することを含む、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団を作製する方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、対象においてCLDN6を発現する標的細胞集団または組織に対する細胞媒介免疫応答を刺激するための方法を提供し、この方法は、有効量の本発明の免疫エフェクタ細胞または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を対象に提供することを含む。免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、エクスビボで生成され、対象に投与され得るか、または免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、対象において生成され得る。
【0029】
本発明はさらに、有効量の本発明の免疫エフェクタ細胞または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を対象に提供することを含む、CLDN6の発現に関連する疾患を有する対象を治療する方法を提供する。免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、エクスビボで生成され、対象に投与され得るか、または免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、対象において生成され得る。一実施形態では、CLDN6の発現に関連する疾患は、増殖性疾患、前癌状態、癌、およびCLDN6の発現に関連する非癌関連適応症からなる群より選択される。一実施形態では、癌は、卵巣癌、肺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、黒色腫、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、腎細胞癌、および膀胱癌からなる群より選択される。
【0030】
本発明はさらに、有効量の本発明の免疫エフェクタ細胞または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を対象に提供することを含む、対象において抗腫瘍免疫を提供する方法を提供する。免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、エクスビボで生成され、対象に投与され得るか、または免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団は、対象において生成され得る。一実施形態では、腫瘍はCLDN6を発現する腫瘍である。
【0031】
本発明の方法の一実施形態では、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団は、対象に対して自家または同種異系である。
【0032】
本発明の方法の一実施形態では、本方法は、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団の有効性を高める薬剤を投与することをさらに含む。一実施形態では、前記薬剤は、
プロテインホスファターゼ阻害剤;
キナーゼ阻害剤;
サイトカイン;
免疫阻害分子の阻害剤;または
TREG細胞のレベルもしくは活性を低下させる薬剤
の1つ以上から選択される。
【0033】
本発明の方法の一実施形態では、本方法は、エクスビボまたは対象において、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団を、CLDN6抗原結合ドメインに結合する同族抗原分子と接触させる工程をさらに含む。一実施形態では、同族抗原分子は、CLDN6もしくはその断片、またはCLDN6もしくはCLDN6断片の変異体からなる群より選択される。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団の増殖および/または活性化が起こるような条件下で、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団を同族抗原分子と接触させる。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団を同族抗原分子と接触させる工程は、インビボまたはエクスビボで行われる。
【0034】
本発明の方法の一実施形態では、本方法は、同族抗原分子またはそれをコードする核酸を対象に投与する工程を含む。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸は、対象の細胞で発現されて同族抗原分子を提供する。一実施形態では、同族抗原分子の発現は細胞表面においてである。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸は、対象の細胞において一過性に発現される。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸はRNAである。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞もしくは免疫エフェクタ細胞の集団および/または同族抗原分子もしくはそれをコードする核酸は、全身投与される。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸の全身投与後、脾臓における同族抗原分子をコードする核酸の発現が起こる。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸の全身投与後、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞における同族抗原分子をコードする核酸の発現が起こる。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージおよびB細胞からなる群より選択される。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸の全身投与後、肺および/または肝臓における同族抗原分子をコードする核酸の発現は、全く起こらないかまたは本質的に起こらない。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸の全身投与後、脾臓における同族抗原分子をコードする核酸の発現は、肺における発現量の少なくとも5倍である。
【0035】
一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸は送達ビヒクルに製剤化される。一実施形態では、送達ビヒクルは粒子を含む。一実施形態では、送達ビヒクルは、少なくとも1つの脂質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの脂質は、少なくとも1つのカチオン性脂質を含む。一実施形態では、脂質は、同族抗原分子をコードする核酸と複合体を形成する、および/または前記核酸を封入する。一実施形態では、脂質は、同族抗原分子をコードする核酸を封入する小胞に含まれる。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸はリポソームに製剤化される。
【0036】
本発明の免疫エフェクタ細胞、本発明の免疫エフェクタ細胞の集団、または本発明の方法の一実施形態では、免疫エフェクタ細胞または免疫エフェクタ細胞の集団は、CARを発現する免疫エフェクタ細胞またはCARを発現する免疫エフェクタ細胞の集団である。
【0037】
本発明はさらに、医薬品として使用するための本発明のCAR分子、本発明の核酸、本発明のベクター、本発明の免疫エフェクタ細胞、または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を提供する。
【0038】
本発明はさらに、CLDN6を発現する疾患の治療に使用するための本発明のCAR分子、本発明の核酸、本発明のベクター、本発明の免疫エフェクタ細胞、または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を提供する。
【0039】
本発明はさらに、本発明のCAR分子、本発明の核酸、本発明のベクター、本発明の免疫エフェクタ細胞、または本発明の免疫エフェクタ細胞の集団を含むキットを提供する。一実施形態では、キットは、CLDN6抗原結合ドメインに結合する同族抗原分子またはそれをコードする核酸をさらに含む。一実施形態では、キットは、本発明の方法でキットを使用するための説明書をさらに含む。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載の方法で使用するための、本明細書に記載の免疫エフェクタ細胞などの薬剤および組成物を提供する。
【0041】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】(図1A)様々なCLDN6-CARの生成および特性評価を示す。CLDN6特異的抗体IMAB206-C46Sの重鎖(V)および軽鎖(V)の可変ドメインに基づいて、4つの異なるCLDN6標的化CARを設計し、生成した。IgG1ΔFc:Fcγ受容体(FcγR)を発現する自然免疫細胞による活性化を防ぐための変異したIgG FcγR結合部位を有するヒトIgG1ヒンジ-CH2-CH3 Fcドメイン(Hombach A.et al.,(2010)Gene Therapy 17,1206-1213);CD28ΔLck:腫瘍部位での望ましくないTreg細胞増殖を防ぐために、CAR係合時のIL-2誘導を無効にするCD28エンドドメインのLck結合部分への欠失を有するCD28膜貫通および細胞質ドメイン(Kofler D.M.et al.,(2011)Molecular Therapy 19(4),760-767);4-1BB:4-1BB共刺激エンドドメイン;CD3ζ:CD3ζシグナル伝達ドメイン;CD3ζ*:変異Q14→Kを有するCD3ζ;CD8α:ヒトCD8αヒンジドメイン。(図1B)様々なCLDN6-CARの生成および特性評価を示す。PA1-SC12-A2-eGFP腫瘍スフェロイドアッセイにおける様々なCLDN6-CARの機能試験を示す図である。腫瘍スフェロイドの溶解を、IncuCyte(登録商標)生細胞イメージングシステムを使用して、24時間の共培養(E:T=10:1)後のeGFP発現に基づいて分析した。ウェルの画像を、共培養の開始時(0時間)およびその24時間後に4倍対物レンズでスキャンし、テクニカルトリプリケートの腫瘍スフェロイド死滅を表している。
図2】(図2A)CLDN6を発現する標的細胞の用量依存的CAR媒介認識および溶解を示す。CLDN6-CAR-BBz表面発現を、蛍光色素結合IMAB206イディオタイプ特異的抗体で染色した後、形質導入したT細胞で分析した。形質導入していないT細胞を陰性対照とした。細胞を単一のCD4またはCD8リンパ球でゲートした。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。(図2B)CLDN6を発現する標的細胞の用量依存的CAR媒介認識および溶解を示す。滴定量のCLDN6-RNAでトランスフェクトしたColo699-N細胞でのCLDN6表面発現をフローサイトメトリによって分析した。(図2C)CLDN6を発現する標的細胞の用量依存的CAR媒介認識および溶解を示す。CLDN6-CAR-BBz形質導入T細胞によるRNAトランスフェクトColo699-N細胞の特異的溶解を、xCELLigence装置を使用して20:1のE:T比で12時間共培養した後に分析した。データをテクニカルトリプリケートの平均±SDとして提示する。
図3A図3(A~E)は、CLDN6を発現する腫瘍細胞株の特異的CLDN6-CAR媒介溶解を示す。 CLDN6-CAR-BBz形質導入ヒトT細胞をフローサイトメトリによって分析し、異なる起源のCLDN6陽性およびCLDN6陰性ヒト腫瘍細胞株のパネルと共培養した。(図3A)共培養を開始する前に、CAR表面発現をフローサイトメトリによって評価した。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。
図3B】10:1のE:T比を使用する。
図3C】特異的溶解を、12時間の共培養後にxCELLIigenceシステムを使用して、式%溶解=(CI eGFP-CIエフェクタ)/CI eGFP*100;CI:細胞指数に従って分析した。データは、テクニカルトリプリケートの平均±SDを表す。
図3D】CLDN6特異的抗体で染色した後、腫瘍細胞株でのCLDN6表面発現をフローサイトメトリによって分析した。親集団のパーセンテージを示す。
図3E】qRT-PCRによって評価した、(A~D)で使用した腫瘍細胞株における相対的CLDN6 mRNA発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子HPRT1に正規化した後に計算した。バーは、テクニカルトリプリケートの平均±SDを表す。
図4図4(A~C)は、CLDN6を発現する標的細胞に応答してCLDN6-CAR-BBzによって媒介される用量依存的増殖を示す。 CAR形質導入T細胞をCFSEで標識し、滴定量のCLDN6-RNAリポプレックス(RNA(LIP))でトランスフェクトした自己DCと共培養した。5日間の共培養ならびにCD4、CD8およびCARに対する蛍光色素結合抗体での染色後に、CFSEに基づいて増殖を分析した。 (図4A)共培養を開始する前に、CAR表面発現をフローサイトメトリによって評価した。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。 (図4B)トランスフェクトDCの表面でのCLDN6発現を、蛍光色素結合CLDN6特異的抗体を使用したフローサイトメトリによって評価した。 (図4C)特異的増殖を、CFSE増殖色素の希釈に基づくフローサイトメトリによって分析した。バーは、増殖中のCAR発現CD8およびCD4T細胞のパーセンテージを示す。
図5図5(A~D)は、進行卵巣癌(OV90)異種移植腫瘍モデルにおけるCLDN6-CAR-BBz形質導入T細胞の抗腫瘍活性を示す。 1×10個のi.v.投与したCLDN6-CAR-BBzまたはeGFP形質導入ヒトT細胞の単回用量の養子細胞移入(ACT)の25日前に、5×10個のOV90-SC12腫瘍細胞を皮下移植した(n=10匹/群)。T細胞処置のこの時点で、マウスは既に平均で170mmの進行腫瘍を示した。カリパスを使用して腫瘍体積を週に3回測定し、腫瘍の最大の長さおよび幅を用いて式V=1/2(長さ×幅)に従って計算した。腫瘍体積が1500mmを超えたとき、または腫瘍が潰瘍化したときは、動物を犠死させた。 (図5A)実施したマウス実験の概略図を示す。 (図5B)形質導入したヒトCD4およびCD8T細胞の導入遺伝子発現(GFPまたはCAR)を、ACTの日にフローサイトメトリによって分析した。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。 (図5C)ACT(点線で示す)後から44日目までのCLDN6-CAR-BBzおよびeGFP-T細胞で処置した動物における平均腫瘍体積を示す。データを全てのマウス/群の平均±SEMとして提示する。 (図5D)T細胞の持続性およびCAR表面発現を、フローサイトメトリを使用してACTの3週間後に末梢血中で分析した。代表的なドットプロットを示す。数字は親集団の頻度を示した。
図6図6(AおよびB)は、7日間および10日間培養したCLDN6-CAR T細胞による腫瘍スフェロイドの反復除去を示す。 それぞれ7日および10日以内に生成したCLDN6-CAR形質導入T細胞を、生細胞イメージングによって評価される、CLDN6およびeGFPを発現する腫瘍スフェロイドを繰り返し死滅させる能力について評価した。 (図6A)7日間および10日間培養したCLDN6-CAR T細胞のCAR表面発現を、蛍光色素結合IMAB206イディオタイプ特異的抗体で染色した後、形質導入T細胞で分析した。形質導入していないT細胞を陰性対照とした。細胞を単一のCD4またはCD8リンパ球でゲートした。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。 (図6B)PA1-SC12-A2-eGFP腫瘍スフェロイドアッセイを使用して、7日間および10日間培養したCLDN6-CAR T細胞の機能試験を実施した。腫瘍スフェロイドの溶解を、IncuCyte(登録商標)生細胞イメージングシステムを使用してeGFP発現に基づいて、合計10日間にわたって分析した。5日後、新しい腫瘍スフェロイドを添加した。値は、テクニカルトリプリケートの緑色物体積分強度を平均±SDとして表す。
図7図7(A~D)は、GMP製造CLDN6-CAR T細胞の抗腫瘍効果を示す。 1×10個のCLDN6-CAR-BBzまたは非形質導入ヒトT細胞i.v.の単回用量の養子移入の35日前に、5×10個のOV90-SC12腫瘍細胞を皮下移植した(n=12匹/群)。使用したT細胞産物は、GMP施設において標準的な方法(10日間インビトロ培養)または短縮製造手順(7日後に既に採取)のいずれかで製造した。形質導入T細胞と同じ方法で処理した非形質導入T細胞を陰性対照として使用した。示されているT細胞産物を解凍し、PBSで洗浄し、既に平均で160mmの進行腫瘍を示したマウスに直接注射した。カリパスを使用して腫瘍体積を週に3回測定し、腫瘍の最大の長さおよび幅を用いて式V=1/2(長さ×幅)に従って計算した。腫瘍体積が1500mmを超えたとき、または腫瘍が潰瘍化したときは、動物を犠死させた。 (図7A)実施したマウス実験の概略図を示す。 (図7B)形質導入したヒトCD4およびCD8T細胞でのCAR表面発現を、ACTの日にフローサイトメトリによって分析した。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。 (図7C)57日目までのCLDN6-CAR-BBzおよび対照T細胞処置動物における腫瘍体積を示す。データを全てのマウス/群の平均±SEMとして提示する。 (図7D)T細胞の持続性およびCAR表面発現を、フローサイトメトリを使用してACTの2週間後に末梢血中で分析した。代表的なドットプロットを示す。数字は親集団の頻度を示した。
図8図8(A~C)は、RNA(LIP)を介したインビボ増殖がCLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性の増強をもたらすことを示す。 2.5Gy照射した(XRAD320)C57BL/6BrdCrHsd-Tyrマウス(n=2~3匹/群)に、5×10個のCLDN6-CAR-BBz-Luc-GFP形質導入C57Bl/6-Thy1.1T細胞をi.v.移植した。ACTの8日後、マウスに、hCLDN6またはOvaI(対照RNA)をコードするmRNAリポプレックスワクチン接種(RNA(LIP);20μg、i.v.)を実施し、続いてマウスアルブミン(1μg/mRNA/マウス)をコードするヌクレオシド修飾製剤化RNAをi.p.投与した。ワクチン接種を15、22、50および85日目に繰り返した。ACT後1日目(ベースライン)から92日目までの増殖および持続性を監視するために、連続生物発光イメージングを実施した。 (図8A)実施したマウス実験の概略図を示す。 (図8B)ACT後および抗原RNA(LIP)による処置後の示されている時点での側臥位のマウスの生物発光イメージングの例。オフカラー画像は、グレースケール参照画像に重ね合わせた光の強度(黒色、最も弱い;白色から暗灰色、最も強い)を表す。 (図8C)示されているヌクレオシド修飾製剤化サイトカインRNAの存在下でのCLDN6-RNA(LIP)/対照RNA(LIP)による増殖ラウンド中および増殖ラウンド後の生物発光の定量化を示す(平均+/-s.e.m.)。灰色の縦線は、RNA(LIP)ワクチン接種の時点を示す。ACT:養子T細胞移入、TBI:全身照射、BLI:生物発光イメージング、Luc:有効ホタルルシフェラーゼ、BBz:4-1BB;z:CD3ζ。
図9図9(AおよびB)は、インビボで増殖させたCLDN6-CAR-BBz T細胞の抗腫瘍活性の改善を示す。 4Gyの全身照射の20日前および1×10個のCLDN6-CAR-BBzまたは対照CAR-BBzを形質導入したBalb/c-Thy1.1+T細胞i.v.の単回用量のACTの26日前に、5×10個のCT26腫瘍細胞をBalb/cマウスに皮下移植した(n=10匹/群)。T細胞処置の時点で、マウスは、平均で約80mmの確立された腫瘍を示した。カリパスを使用して腫瘍体積を週に3回測定し、腫瘍の最大の長さおよび幅を用いて式V=1/2(長さ×幅)に従って計算した。 (図9A)実施したマウス実験の概略図を示す。 (図9B)40日目までのCLDN6-CAR-BBzおよび対照CAR-BBz-T細胞処置動物における平均腫瘍体積を示す。データを全てのマウス/群の平均±SEMとして提示する。ACTを点線で示し、RNA(LIP)処置を灰色線として示す。
図10A図10(A~D)は、低用量のインビボで増殖させたCLDN6-CAR T細胞の抗腫瘍効果の回復を示す。 低用量(1×10個)または高用量(1×10個)のいずれかのCLDN6-CAR-BBzまたは1×10個の非形質導入ヒトT細胞i.v.の単回用量のACTの30日前に、5×10個のOV90-SC12腫瘍細胞を皮下移植した(n=9匹/群)。使用したT細胞産物は、GMP施設において短縮形質導入工程(7日後に既に採取)に従って製造した。形質導入T細胞と同じ方法で処理した非形質導入T細胞を陰性対照として使用した。示されているT細胞産物を解凍し、PBSで洗浄し、担癌マウスに直接注射した。さらに、低用量のCAR T細胞を投与したマウスに、示されているようにCLDN6または対照抗原のいずれかをコードする20μgのRNA(LIP)をさらにワクチン接種した。カリパスを使用して腫瘍体積を週に3回測定し、腫瘍の最大の長さおよび幅を用いて式V=1/2(長さ×幅)に従って計算した。腫瘍体積が1500mmを超えたとき、または腫瘍が潰瘍化したときは、動物を犠死させた。(図10A)実施したマウス実験の概略図を示す。
図10B】形質導入したヒトCD4およびCD8T細胞でのCAR表面発現を、養子移入の日にフローサイトメトリによって分析した。示されている数字は、親集団の頻度(%)を表す。
図10C】異なる用量のCLDN6-CAR-BBz+/-RNA(LIP)または対照T細胞で処置した動物の腫瘍増殖曲線。データを全てのマウス/群の平均±SEMとして提示する。ACTを点線で示し、RNA(LIP)処置を灰色線として示す。
図10D】T細胞の持続性およびCAR表面発現を、フローサイトメトリを使用してACTの2.5週間後に末梢血中で分析した。代表的なドットプロットを示す。数字は親集団の頻度を示した。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、固形腫瘍を含むがこれに限定されない癌を治療するための組成物および方法に関する。本発明は、CARを発現するように形質導入されたT細胞などの細胞の養子細胞移入の戦略に関する。CARは、好ましくは抗体ベースである所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する特異性とT細胞受容体活性化細胞内ドメインとを組み合わせて、特異的細胞性免疫活性(例えば、特異的抗腫瘍細胞性免疫活性)を示すキメラタンパク質を生成する分子である。好ましくは、細胞は、その表面上にCARを安定に発現するように遺伝子改変され得、MHC非依存性である新規の抗原特異性を付与する。本発明は、一般に、所望のCARを安定に発現するように遺伝子改変されたT細胞に関する。CARを発現するT細胞は、本明細書ではCAR T細胞またはCAR改変T細胞と称される。
【0044】
本発明のCARは、CLDN6抗原結合ドメイン、好ましくは特異的抗体のドメインと、4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζ鎖のドメインを含む細胞内ドメインとを組み合わせて単一のキメラタンパク質にする。一実施形態では、本発明のCARは、CLDN6抗原結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζ鎖のドメインを含む細胞内ドメインを含む。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR内のドメインの1つと天然には会合していない。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR内のドメインの1つと天然に会合している。一実施形態では、膜貫通ドメインは、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、アミノ酸置換によって修飾される。好ましくは、膜貫通ドメインはCD8αに由来する。
【0045】
本発明はさらに、CAR T細胞および養子療法のためのそれらの使用方法を提供する。一実施形態では、本発明のCAR T細胞は、所望のCAR、例えば、抗CLDN6、CD8αヒンジおよび膜貫通ドメインならびに4-1BBおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含むCARを含むレンチウイルスベクターなどのレトロウイルスを細胞に導入することによって生成することができる。本発明のCAR T細胞は、好ましくはインビボで複製することができ、持続的な腫瘍制御につながり得る長期持続性をもたらす。
【0046】
一実施形態では、本発明は、癌を有する患者または癌を有するリスクがある患者の治療のために、所望のCARを発現する遺伝子改変T細胞を投与することに関する。好ましくは、自己細胞が治療に使用される。一実施形態では、自己PBMCは、治療を必要とする患者から収集され、T細胞は、本明細書に記載され、当技術分野で公知の方法を使用して活性化および増殖され、次いで患者に注入して戻される。
【0047】
一実施形態では、本発明は、一般に、CLDN6を発現する癌を有するかまたはCLDN6を発現する癌を発症するリスクがある患者の治療に関する。本発明は、CD3ζおよび4-1BB共刺激ドメインの両方を含む抗CLDN6-CARを発現するT細胞を使用することを含む。本発明のCAR T細胞は、特にそれらの同族抗原と接触した場合に、強力なインビボT細胞増殖を受けることができ、長期間にわたって高レベルで持続することができる。場合によっては、患者に注入された本発明のCAR T細胞は、患者においてインビボで癌細胞を排除することができる。
【0048】
定義
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0049】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、それらは、さらなる実施形態を創出するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明確に記述される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に記述される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述される全ての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0050】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または等価の任意の方法および材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、好ましい材料および方法を本明細書で説明する。本発明の説明および特許請求において、以下の用語が使用される。
【0051】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述されるメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他のメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の排除も意味しないと理解され、しかしいくつかの実施形態では、そのような他のメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題は、記述されるメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の包含に存する。
【0052】
「1つの」という冠詞は、本明細書では、冠詞の文法的対象の1つまたは1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「1つの要素」は、1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0053】
量、持続時間などの測定可能な値に言及するときに本明細書で使用される「約」は、指定された値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なお一層好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0054】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗原と結合する、好ましくは特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然源または組換え源に由来する無傷の免疫グロブリンであり得、無傷の免疫グロブリンの免疫反応性部分または断片であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る(Harlow et al.,1999,In:Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlow et al.,1989,in:Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York;Houston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Bird et al.,1988,Science 242:423-426)。
【0055】
B細胞によって発現される抗体は、時にBCR(B細胞受容体)または抗原受容体と称されることもある。このクラスのタンパク質に含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgD、およびIgEである。IgAは、唾液、涙、母乳、胃腸分泌物ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物などの体分泌物中に存在する一次抗体である。IgGは、最も一般的な循環抗体である。IgMは、ほとんどの対象において一次免疫応答で産生される主要な免疫グロブリンである。これは、凝集、補体結合、および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御に重要である。IgDは、既知の抗体機能を有さない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として機能し得る。IgEは、アレルゲンへの曝露時に肥満細胞および好塩基球からのメディエータの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0056】
「抗体断片」という用語は、無傷の抗体の一部を指し、典型的には無傷の抗体の抗原決定可変領域を含む。
【0057】
抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片、線状抗体、scFv抗体、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書で使用される「抗体重鎖」は、天然に存在する立体配座で抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの大きい方を指す。
【0059】
本明細書で使用される「抗体軽鎖」は、天然に存在する立体配座で抗体分子に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの小さい方を指し、κ軽鎖およびλ軽鎖は、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプを指す。
【0060】
本明細書で使用される「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子として定義される。この免疫応答は、抗体産生、または特定の免疫適格細胞の活性化、またはその両方を含み得る。当業者は、実質的に全てのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として役立ち得ることを理解するであろう。さらに、抗原は、天然に存在する抗原または組換え抗原であり得る。
【0061】
本発明の文脈において、「腫瘍抗原」という用語は、癌などの特定の過剰増殖性障害に共通する抗原を指す。
【0062】
クローディンは、上皮と内皮の密着結合内に位置する内在性膜タンパク質である。クローディンは、4つの膜貫通セグメントと2つの細胞外ループ、および細胞質に位置するN末端とC末端を有すると予測されている。EC1またはECL1と称される最初の細胞外ループは平均53個のアミノ酸からなり、EC2またはECL2と称される2番目の細胞外ループは約24個のアミノ酸からなる。膜貫通タンパク質のクローディン(CLDN)ファミリーは、上皮および内皮の密着結合の維持に重要な役割を果たし、細胞骨格の維持および細胞シグナル伝達にも役割を果たす可能性がある。
【0063】
クローディン6(CLDN6)は、マウスおよびヒト幹細胞ならびに上皮細胞運命に関与する胚様体で発現される癌胎児性遺伝子である(Turksen,K.et al.(2001)Dev Dyn 222,292-300;Anderson WJ.et al.(2008)Dev Dyn 237,504-12;Turksen K.et al.(2002)Development,129,1775-84;Assou S.et al.(2007)Stem Cells 25,961-73)。腫瘍関連抗原として、CLDN6は、表皮分化およびバリア形成に重要である表皮形態形成の初期段階で発現するため、分化抗原として分類することができる。さらに、舌、皮膚、胃および乳房の上皮組織または新生児の正常上皮組織で発現が観察された(Abuazza G.et al.(2006),Am J Physiol Renal Physiol 291,1132-1141;Troy T.C.et al.(2007),Molecular Biotechnology 36,166-74;Zhao L.et al.(2008),Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 294,1856-1862)。それに加えて、本発明者らのデータは、ヒト胎盤、膀胱、子宮内膜、前立腺および末梢神経におけるCLDN6の低いまたは非常に低い発現、ならびに様々な癌におけるCLDN6の頻繁な過剰発現も明らかにする。CLDN6は、小児脳腫瘍、胃腺癌および生殖細胞腫瘍を含む腫瘍、ならびに卵巣癌などの内臓癌で過剰発現されることが実証されている。胃癌細胞でのCLDN6の過剰発現は、侵襲性、遊走および増殖の増加をもたらすことも実証されており、CLDN6が予後不良のマーカであり、悪性表現型の維持に潜在的な役割を果たし得ることを示唆する。さらに、CLDN6は、乳癌細胞株では細胞増殖の阻害およびアポトーシスの誘導を介して癌抑制因子として機能することが示されている。
【0064】
CLDN6は、例えば、卵巣癌、肺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、黒色腫、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、腎細胞癌、および膀胱癌において発現されることが認められている。CLDN6は、卵巣癌、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)を含む肺癌、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、特に悪性多形腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管癌、膀胱の癌、特に移行上皮癌および乳頭状癌、腎癌、特に腎明細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸癌、回腸の癌を含む小腸癌、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎児性癌、胎盤絨毛癌、子宮頸癌、精巣癌、特に精巣セミノーマ、精巣奇形腫および精巣胎児性癌、子宮癌、奇形癌または胎生期癌などの生殖細胞腫瘍、特に精巣の生殖細胞腫瘍、ならびにそれらの転移形態の予防および/または治療のための特に好ましい標的である。一実施形態では、CLDN6発現に関連する癌疾患は、卵巣癌、肺癌、転移性卵巣癌および転移性肺癌からなる群より選択される。好ましくは、卵巣癌は癌腫または腺癌である。好ましくは、肺癌は癌腫または腺癌であり、好ましくは細気管支癌腫または細気管支腺癌などの細気管支癌である。
【0065】
「CLDN6」という用語は、好ましくはヒトCLDN6、特に、配列表の配列番号1もしくは配列番号2のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。CLDN6の最初の細胞外ループは、好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列または配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸28~80、より好ましくはアミノ酸28~76を含む。CLDN6の2番目の細胞外ループは、好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列または配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸138~160、好ましくはアミノ酸141~159、より好ましくはアミノ酸145~157を含む。前記1番目および2番目の細胞外ループは、好ましくはCLDN6の細胞外部分を形成する。
【0066】
「細胞表面に発現される」または「細胞表面と会合した」という用語は、CLDN6などの分子が細胞の形質膜と会合して位置し、分子の少なくとも一部が前記細胞の細胞外空間に面しており、例えば、細胞の外側に位置する抗体によって前記細胞の外側からアクセス可能であることを意味する。この文脈において、一部とは、好ましくは少なくとも4個、好ましくは少なくとも8個、好ましくは少なくとも12個、より好ましくは少なくとも20個のアミノ酸である。会合は直接的または間接的であり得る。例えば、会合は、1つ以上の膜貫通ドメイン、1つ以上の脂質アンカーによるか、または他の任意のタンパク質、脂質、サッカリド、もしくは細胞の形質膜の外葉に認められ得る他の構造との相互作用によるものであり得る。例えば、細胞の表面と会合する分子は、細胞外部分を有する膜貫通タンパク質であり得るか、または膜貫通タンパク質である別のタンパク質と相互作用することによって細胞の表面と会合するタンパク質であり得る。
【0067】
「細胞表面」または「細胞の表面」は、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、したがって、タンパク質および他の分子による結合にアクセス可能な細胞の外側を含む。
【0068】
「細胞媒介性免疫」、「細胞性免疫」、「細胞性免疫応答」、または同様の用語は、抗原の発現を特徴とする、特にクラスIまたはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞応答を含むことが意図されている。細胞応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関連する。ヘルパーT細胞(CD4T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8T細胞またはCTLとも称される)は、癌細胞などの疾患細胞を死滅させ、さらなる疾患細胞の産生を防止する。
【0069】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち、免疫系によって認識される、すなわち結合される、例えば抗体またはCARによって認識される分子の一部または断片を指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の個別の三次元部位である。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、通常、特定の三次元構造特性および特定の電荷特性を有する。立体配座エピトープと非立体配座エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合が失われるが、後者への結合は失われないという点で区別される。好ましくは、エピトープは、抗原または抗原を発現する細胞に対する免疫応答を誘発することができる。好ましくは、この用語は抗原の免疫原性部分に関する。腫瘍抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25アミノ酸長であり、例えば、エピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。
【0070】
「抗原プロセシング」は、抗原の、前記抗原の断片であるプロセシング産物への分解(例えば、タンパク質のペプチドへの分解)、ならびに細胞による、好ましくは抗原提示細胞による特定のT細胞への提示のためのMHC分子とこれらの断片の1つ以上との会合(例えば、結合による)を指す。
【0071】
抗原提示細胞(APC)は、その表面に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に関連して抗原を表示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使用してこの複合体を認識し得る。抗原提示細胞は、抗原をプロセシングし、T細胞に提示する。本発明によれば、「抗原提示細胞」という用語は、プロフェッショナル抗原提示細胞および非プロフェッショナル抗原提示細胞を含む。
【0072】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、食作用または受容体媒介エンドサイトーシスのいずれかによって抗原を内在化し、次いでクラスII MHC分子に結合した抗原の断片をその膜上に表示するのに非常に効率的である。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原-クラスII MHC分子複合体を認識し、それと相互作用する。次いで、さらなる共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生成され、T細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特徴である。プロフェッショナル抗原提示細胞の主な種類は、最も広範囲の抗原提示を有し、おそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、および特定の活性化上皮細胞である。
【0073】
「マクロファージ」という用語は、単球の分化によって産生される食細胞のサブグループを指す。炎症、免疫サイトカインまたは微生物産物によって活性化されるマクロファージは、マクロファージ内に外来病原体を非特異的に飲み込み、病原体の分解をもたらす加水分解および酸化攻撃によって死滅させる。分解されたタンパク質からのペプチドは、T細胞によって認識され得るマクロファージ細胞表面に表示され、B細胞表面の抗体と直接相互作用して、T細胞およびB細胞の活性化と免疫応答のさらなる刺激をもたらすことができる。マクロファージは抗原提示細胞のクラスに属する。一実施形態では、マクロファージは脾臓マクロファージである。
【0074】
「樹状細胞」(DC)という用語は、抗原提示細胞のクラスに属する食細胞の別のサブタイプを指す。一実施形態では、樹状細胞は造血骨髄前駆細胞に由来する。これらの前駆細胞は、最初は未成熟な樹状細胞に変化する。これらの未成熟細胞は、高い食作用活性と低いT細胞活性化能を特徴とする。未成熟な樹状細胞は、ウイルスおよび細菌などの病原体の周囲環境を絶えずサンプリングしている。それらは、提示可能な抗原と接触すると、活性化されて成熟した樹状細胞になり、脾臓またはリンパ節に移動し始める。未成熟樹状細胞は病原体を貪食し、それらのタンパク質を小さな断片に分解し、成熟すると、MHC分子を使用してそれらの断片を細胞表面に提示する。同時に、CD80、CD86およびCD40などのT細胞活性化の共受容体として機能する細胞表面受容体を上方制御し、T細胞を活性化するそれらの能力を大幅に増強する。それらはまた、樹状細胞が血流を通って脾臓に、またはリンパ系を通ってリンパ節に移動するように誘導する走化性受容体であるCCR7を上方制御する。ここで、それらは抗原提示細胞として機能し、非抗原特異的共刺激シグナルと共に、抗原を提示することによってヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞を活性化する。したがって、樹状細胞は、T細胞またはB細胞関連の免疫応答を積極的に誘導することができる。一実施形態では、樹状細胞は脾臓樹状細胞である。
【0075】
本発明によれば、「CAR」(または「キメラ抗原受容体」)という用語は、癌細胞などの標的細胞上の標的構造(例えば抗原)を認識し、すなわち結合し(例えば標的細胞の表面に発現される抗原への抗原結合ドメインの結合によって)、細胞表面に前記CARを発現するT細胞などの免疫エフェクタ細胞に特異性を付与し得る、単一分子または分子の複合体を含む人工受容体に関する。好ましくは、CARによる標的構造の認識は、前記CARを発現する免疫エフェクタ細胞の活性化をもたらす。CARは、本明細書に記載の1つ以上のドメインを含む1つ以上のタンパク質ユニットを含み得る。「CAR」という用語は、T細胞受容体を含まない。
【0076】
キメラ抗原受容体を発現するCAR操作されたT細胞を用いる養子細胞移入療法は、CAR改変T細胞が実質的に任意の腫瘍抗原を標的とするように操作することができるので、有望な抗癌治療法である。例えば、患者のT細胞を、患者の腫瘍細胞上の抗原に特異的に向けられるCARを発現するように遺伝子操作(遺伝子改変)し、その後患者に注入して戻し得る。
【0077】
本明細書で使用される「抗腫瘍」という用語は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少、転移の数の減少、もともとの腫瘍の発生の防止、平均余命の延長、または癌性状態に関連する様々な生理学的症状の改善によって明らかにされ得る生物学的効果を指す。
【0078】
本明細書で使用される場合、「自家」という用語は、後で個体に再導入される同じ個体に由来する任意の物質を指すことが意図されている。
【0079】
「同種異系」は、同じ種の異なる動物に由来する移植片を指す。
【0080】
「異種」は、異なる種の動物に由来する移植片を指す。
【0081】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体または組織、すなわち同じ近交系の同一の双生児もしくは動物、またはそれらの組織に由来するものを表すために使用される。
【0082】
本明細書で使用される「癌」という用語は、異常な細胞の急速で制御されない増殖を特徴とする疾患として定義される。癌細胞は、局所的に、または血流およびリンパ系を介して身体の他の部分に広がることができる。様々な癌の例には、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳の癌、リンパ腫、白血病、肺癌などが含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は交換可能に使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基から構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに結合された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書で使用される場合、この用語は、例えば、当技術分野で一般にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短鎖と、当技術分野で一般にタンパク質と称されるより長い鎖の両方を指し、これらには多くの種類がある。「ポリペプチド」には、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組合せが含まれる。
【0084】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用される核酸およびポリヌクレオチドは交換可能である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、これを加水分解して単量体の「ヌクレオチド」にすることができるという一般的な知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解することができる。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドは、限定することなく、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを使用した組換えライブラリまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング、ならびに合成手段を含む、当技術分野で利用可能な任意の手段によって得られる全ての核酸配列を含むが、これらに限定されない。本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、広く解釈されるべきであり、修飾されたDNAおよびRNAを含む、DNAおよびRNAを含む。
【0085】
本開示では、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、RNAは、リボヌクレオチド残基の全てまたは大部分を含む。本明細書で使用される場合、「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを指す。RNAは、限定されることなく、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを包含する。そのような改変は、内部RNAヌクレオチドまたはRNAの末端(一方もしくは両方)への非ヌクレオチド物質の付加を指し得る。本明細書ではまた、RNA中のヌクレオチドは、化学的に合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドであり得ることが企図される。本開示では、これらの改変されたRNAは、天然に存在するRNAの類似体と見なされる。
【0086】
本開示の特定の実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA転写物に関連するメッセンジャーRNA(mRNA)である。当技術分野で確立されているように、mRNAは一般に、5'非翻訳領域(5'-UTR)、ペプチドコード領域および3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、インビトロ転写または化学合成によって生成される。一実施形態では、mRNAは、DNA鋳型を使用するインビトロ転写によって生成され、DNAは、デオキシリボヌクレオチドを含む核酸を指す。
【0087】
一実施形態では、RNAはインビトロ転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0088】
一実施形態では、RNAは、修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。修飾リボヌクレオチドの例には、限定されることなく、5-メチルシチジン、プソイドウリジンおよび/または1-メチルプソイドウリジンが含まれる。
【0089】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは5'キャップを含む。一実施形態では、本開示のRNAは、キャップされていない5'-三リン酸を有さない。一実施形態では、RNAは5'キャップ類似体によって修飾され得る。「5'キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に認められる構造を指し、一般に、5'-5'三リン酸結合によってmRNAに接続されたグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。RNAに5'キャップまたは5'キャップ類似体を提供することは、5'キャップがRNA鎖に共転写的に発現されるインビトロ転写によって達成され得るか、またはキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに結合され得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは、5'-UTRおよび/または3'-UTRを含む。「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子内の領域、またはmRNA分子などのRNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5'側(上流)(5'-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3'側(下流)(3'-UTR)に存在し得る。5'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の、5'末端に位置する。5'-UTRは5'キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5'キャップに直接隣接している。3'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終止コドンの下流の、3'末端に位置するが、「3'-UTR」という用語は、好ましくはポリ(A)尾部を含まない。したがって、3'-UTRはポリ(A)配列(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)配列に直接隣接している。
【0091】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは3'-ポリ(A)配列を含む。「ポリ(A)配列」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関する。本開示によれば、一実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約80個、または少なくとも約100個、および最大約500個、最大約400個、最大約300個、最大約200個、または最大約150個までのAヌクレオチド、特に約120個のAヌクレオチドを含む。
【0092】
「コードする」は、定義されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性、およびそれから生じる生物学的特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常は配列表に提供されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称され得る。
【0093】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織または系から、またはそれらの内部で産生される任意の物質を指す。
【0094】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織または系から導入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の物質を指す。
【0095】
本明細書で使用される「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義される。
【0096】
「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用性エレメントを含む;発現のための他の要素は、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給され得る。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば、裸のまたはリポソームに含まれる)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの当技術分野で公知の全てのものが含まれる。
【0097】
「相同」は、2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性または配列同一性を指す。2つの比較される配列の両方の位置が同じ塩基またはアミノ酸単量体サブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンによって占められている場合、分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同性のパーセントは、2つの配列によって共有される一致するまたは相同な位置の数を比較される位置の数で除して100を乗じた関数である。例えば、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致または相同である場合、2つの配列は60%相同である。一般に、比較は、2つの配列が最大の相同性を与えるように整列されている場合に行われる。相同な配列は、本開示によれば、アミノ酸またはヌクレオチド残基の少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98、または少なくとも99%の同一性を示す。
【0098】
アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)に関する「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわちN末端および/またはC末端で短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えばオープンリーディングフレームの3'末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得られる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、トランケートされたオープンリーディングフレームが翻訳を開始させるように働く開始コドンを含む限り、例えばオープンリーディングフレームの5'末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得られる。アミノ酸配列の断片は、例えばアミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。アミノ酸配列の断片は、好ましくはアミノ酸配列からの少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、または少なくとも100個の連続するアミノ酸を含む。
【0099】
本明細書における「変異体」または「変異体タンパク質」または「変異体ポリペプチド」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって親タンパク質とは異なるタンパク質を意味する。親ポリペプチドは、天然に存在するもしくは野生型(WT)ポリペプチドであり得るか、または野生型ポリペプチドの改変型であり得る。好ましくは、変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば親と比較して1~約20のアミノ酸修飾、好ましくは1~約10または1~約5のアミノ酸修飾を有する。
【0100】
本明細書で使用される「親ポリペプチド」、「親タンパク質」、「前駆体ポリペプチド」、または「前駆体タンパク質」とは、その後修飾されて変異体を生成する未修飾ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、野生型ポリペプチド、または野生型ポリペプチドの変異体もしくは操作型であり得る。
【0101】
本明細書における「野生型」または「WT」または「天然」とは、対立遺伝子変異を含む、自然界に見出されるアミノ酸配列を意味する。野生型タンパク質またはポリペプチドは、意図的に修飾されていないアミノ酸配列を有する。
【0102】
本開示の目的のために、アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。「変異体」という用語は、全ての変異体、スプライス変異体、翻訳後修飾変異体、立体配座変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体、および種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。
【0103】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に1個または2個以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1個以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列の特定の部位に挿入されるが、結果として生じる産物の適切なスクリーニングを伴うランダム挿入も可能である。アミノ酸付加変異体は、1個以上のアミノ酸、例えば1個、2個、3個、5個、10個、20個、30個、50個、またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合を含む。アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個以上のアミノ酸の除去、例えば1個、2個、3個、5個、10個、20個、30個、50個、またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失はタンパク質の任意の位置にあってよい。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。相同なタンパク質もしくはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列の位置にある修飾、および/またはアミノ酸を類似の性質を有する他のアミノ酸で置き換えることが好ましい。好ましくは、ペプチドおよびタンパク質変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち同様に荷電したアミノ酸または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化には、その側鎖が関連するアミノ酸のファミリーの1つの置換が含まれる。天然に存在するアミノ酸は、一般に、酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸の4つのファミリーに分けられる。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、時に芳香族アミノ酸として一緒に分類されることがある。一実施形態では、保存的アミノ酸置換には、以下の群内の置換が含まれる:
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セリン、トレオニン;
リジン、アルギニン;および
フェニルアラニン、チロシン。
【0104】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。類似性または同一性の程度は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約60個、少なくとも約80個、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のアミノ酸、好ましくは連続するアミノ酸について与えられる。好ましい実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野で公知のツールを用いて、好ましくは最適な配列アラインメントを使用して、例えばAlignを使用して、標準設定、好ましくはEMBOSS::ニードル、マトリックス:Blosum62、ギャップオープン10.0、ギャップ伸長0.5を使用して行うことができる。
【0105】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、これらの配列間で同一であるアミノ酸の割合を示す。
【0106】
「同一性パーセント」という用語は、最適なアラインメント後に得られる、比較する2つの配列間で同一であるアミノ酸残基の割合を示すことが意図されており、この割合は純粋に統計的であり、2つの配列間の相違はそれらの全長にわたってランダムに分布している。2つのアミノ酸配列間の配列比較は、従来、これらの配列を最適に整列させた後に比較することによって行われ、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するためにセグメントごとにまたは「比較ウィンドウ」ごとに行われる。比較のための配列の最適なアラインメントは、手作業に加えて、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを使用するコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成され得る。
【0107】
同一性パーセントは、比較する2つの配列間で同一の位置の数を決定し、この数を比較する位置の数で除し、得られた結果に100を乗じて、これら2つの配列間の同一性パーセントを得ることによって計算される。
【0108】
本明細書で使用される「機能的変異体」という用語は、親分子または配列のアミノ酸配列と比較して1つ以上のアミノ酸によって改変されたアミノ酸配列を含み、親分子または配列の1つ以上の機能、例えば、標的分子に結合することまたは標的分子への結合に寄与することを依然として実行することができる変異体分子または配列を指す。一実施形態では、機能的変異体は、単独でまたは他の要素と組み合わせて、標的分子への結合について親分子または配列と競合する。言い換えると、親分子または配列のアミノ酸配列における修飾は、分子または配列の結合特性に有意な影響を与えないまたは結合特性を変化させない。異なる実施形態では、機能的変異体の結合は減少し得るが、依然として有意に存在し得、例えば、機能的変異体の結合は、親分子または配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%であり得る。しかしながら、他の実施形態では、機能的変異体の結合は、親分子または配列と比較して増強され得る。
【0109】
指定されたアミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)に「由来する」アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)は、最初のアミノ酸配列の起源を指す。好ましくは、特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列またはその断片と同一、本質的に同一または相同であるアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列の変異体またはその断片であり得る。
【0110】
本明細書で使用される場合、「説明資料」または「説明書」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用することができる刊行物、記録、図、または任意の他の表現媒体を含む。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の組成物を含む容器に貼付され得るか、または組成物を含む容器と共に出荷され得る。あるいは、説明試料と組成物が受領者によって共同して使用されることを意図して、説明資料は容器とは別に出荷されてもよい。
【0111】
「単離された」は、天然状態から改変されたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離され」ていないが、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または、例えば宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。
【0112】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基についての以下の略語が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0113】
本明細書で使用される「レンチウイルス」は、レトロウイルス科(Retroviridae family)の属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できるという点でレトロウイルスの中でも独特である;それらは、宿主細胞のDNAに大量の遺伝情報を送達することができるため、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、およびFIVは全てレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子導入を達成する手段を提供する。
【0114】
「作動可能に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現をもたらす機能的連結を指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に置かれている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモータがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモータはコード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合、同じリーディングフレーム内にある。
【0115】
「過剰発現された」腫瘍抗原または腫瘍抗原の「過剰発現」という用語は、患者の特定の組織または器官内の固形腫瘍のような疾患領域由来の細胞における腫瘍抗原の発現レベルが、その組織または器官由来の正常細胞における発現レベルと比較して異常なレベルであることを示すことが意図されている。
【0116】
本明細書で使用される「プロモータ」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するのに必要とされる細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列として定義される。
【0117】
本明細書で使用される場合、「プロモータ/調節配列」という用語は、プロモータ/調節配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。いくつかの場合には、この配列はコアプロモータ配列であり得、他の場合には、この配列は、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサ配列および他の調節エレメントも含み得る。プロモータ/調節配列は、例えば、組織特異的方法で遺伝子産物を発現するものであり得る。
【0118】
「構成的」プロモータは、遺伝子産物をコードするまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、細胞のほとんどまたは全ての生理学的条件下で細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0119】
「誘導性」プロモータは、遺伝子産物をコードするまたは特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、実質的にプロモータに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合にのみ、細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0120】
「組織特異的」プロモータは、遺伝子をコードするかまたは遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、実質的に、細胞がプロモータに対応する組織型の細胞である場合にのみ細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0121】
本明細書で使用される「特異的に結合する」という用語は、特定の抗原を認識するが、試料中または対象中の他の分子を実質的に認識または結合しない抗体またはCARなどの分子を意味する。例えば、1つの種由来のある抗原に特異的に結合する抗体は、1つ以上の他の種由来のその抗原にも結合し得る。しかし、そのような種交差反応性は、それ自体で特異的としての抗体の分類を変化させることはない。別の例では、ある抗原に特異的に結合する抗体は、その抗原の異なる対立遺伝子型にも結合し得る。しかしながら、そのような交差反応性は、それ自体で特異的としての抗体の分類を変化させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合」という用語は、抗体、タンパク質、またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関して、相互作用が化学種の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するために使用することができる;例えば、抗体は、一般的にタンパク質ではなく特定のタンパク質構造を認識して結合する。ある抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識された「A」およびその抗体を含む反応において、エピトープAを含む分子(または遊離の非標識A)の存在は、その抗体に結合する標識されたAの量を減少させる。
【0122】
本明細書で使用される「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクトされた、形質転換された、または形質導入された細胞である。細胞は、初代対象細胞およびその子孫を含む。
【0123】
本明細書で使用される「転写制御下」または「作動可能に連結された」という語句は、プロモータが、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するためにポリヌクレオチドに関して正しい位置および配向にあることを意味する。
【0124】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる物質の組成物である。線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むがこれらに限定されない多数のベクターが当技術分野で公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどの、細胞への核酸の移入を促進する非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0125】
説明
本発明は、疾患の中でもとりわけ癌を治療するための組成物および方法を提供する。癌は、固形腫瘍、原発性または転移性腫瘍であり得る。一実施形態では、癌は、CLDN6を発現する癌である。一実施形態では、癌は、卵巣癌、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)を含む肺癌、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、特に悪性多形腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管癌、膀胱癌、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎臓癌、特に腎明細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸癌、回腸の癌を含む小腸癌、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎児性癌、胎盤絨毛癌、子宮頸癌、精巣癌、特に精巣セミノーマ、精巣奇形腫および精巣胚性癌、子宮癌、奇形癌または胎生期癌などの生殖細胞腫瘍、特に精巣の生殖細胞腫瘍、ならびにそれらの転移形態からなる群より選択される。一実施形態では、CLDN6発現に関連する癌疾患は、卵巣癌、肺癌、転移性卵巣癌および転移性肺癌からなる群より選択される。好ましくは、卵巣癌は癌腫または腺癌である。好ましくは、肺癌は癌腫または腺癌であり、好ましくは細気管支癌腫または細気管支腺癌などの細気管支癌である。
【0126】
本発明は、細胞外ドメインおよび細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。細胞外ドメインは、抗原結合部分またはドメインとも称される標的特異的結合エレメントを含む。細胞内ドメインまたは別の言い方では細胞質ドメインは、4-1BB共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζ鎖部分を含む。4-1BB共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子4-1BBの細胞内ドメインを含むCARの一部を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0127】
CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサドメインまたは領域が組み込まれ得る。実施形態では、スペーサドメインは抗原結合ドメインの柔軟性を提供する。本明細書で使用される場合、「スペーサドメイン」という用語は、一般に、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖の細胞外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかに連結する働きをする任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。スペーサドメインは、最大300個のアミノ酸、好ましくは10~100個のアミノ酸、最も好ましくは25~50個のアミノ酸を含み得る。実施形態では、スペーサドメインは、列挙される範囲のいずれかの終点間の任意の整数を含む、約10~300個のアミノ酸、約10~200個のアミノ酸、約10~175個のアミノ酸、約10~150個のアミノ酸、約10~125個のアミノ酸、約10~100個のアミノ酸、約10~75個のアミノ酸、約10~50個のアミノ酸、約10~40個のアミノ酸、約10~30個のアミノ酸、約10~20個のアミノ酸、または約10~15個のアミノ酸を有する。いくつかの実施形態では、スペーサドメインは、免疫グロブリン様分子のヒンジ領域に由来する。実施形態では、スペーサドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、またはヒトIgG4由来のヒンジ領域の全部または一部を含み、1つ以上のアミノ酸置換を含んでもよい。いくつかの実施形態では、スペーサドメインは、CD8αのヒンジ領域配列に由来する。
【0128】
一実施形態では、本発明は、抗腫瘍特性を示す、CARを発現するように操作された細胞(例えば、T細胞)を提供する。本発明のCARは、細胞内で発現された場合、CARの抗原結合特異性に基づいて抗原認識を再方向付けることができる。一実施形態では、CLDN6は、本明細書に開示される癌タイプの細胞上に発現される。CAR操作細胞は、その同族抗原に結合した場合、腫瘍細胞に影響を及ぼし、その結果、腫瘍細胞が成長できないか、死滅するように促されるか、またはそうでなければ患者における腫瘍負荷が減少もしくは排除されるように影響を受ける。
【0129】
本発明によれば、CLDN6抗原結合部分は、CD8αに由来するヒンジドメインを介して、4-1BB(CD137)シグナル伝達ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインの組合せを含む細胞内ドメインと融合される。4-1BB(CD137)シグナル伝達ドメインを含むことにより、4-1BB(CD137)を発現するように操作されていない他の点では同一のCAR T細胞と比較して、CAR T細胞の抗腫瘍活性およびインビボ持続性が有意に増加する(Milone M.C.et al.,(2009)Molecular Therapy 17(8),1453-1464)。
【0130】
抗原結合部分
本発明のCARは、一般にCARの細胞外ドメインの一部である、抗原結合部分または抗原結合ドメインとも称される標的特異的結合エレメントを含む。抗原結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞上の細胞表面マーカとして機能するリガンドを認識する。具体的には、本発明のCARは、腫瘍細胞上の腫瘍抗原CLDN6を標的とする。
【0131】
一実施形態では、本発明のCARにおけるCLDN6結合ドメインは、CLDN6に特異的に結合する。一実施形態では、本発明のCARにおけるCLDN6結合ドメインが結合するCLDN6は、癌細胞で発現される。一実施形態では、CLDN6は、癌細胞の表面に発現される。一実施形態では、CLDN6結合ドメインは、CLDN6の細胞外ドメインまたは細胞外ドメイン内のエピトープに結合する。一実施形態では、CLDN6結合ドメインは、生細胞の表面に存在するCLDN6の天然のエピトープに結合する。一実施形態では、CLDN6結合ドメインは、CLDN6の最初の細胞外ループ、好ましくはCLDN6のアミノ酸位置28~76、またはCLDN6の2番目の細胞外ループ、好ましくはCLDN6のアミノ酸位置141~159に結合する。特定の実施形態では、CLDN6結合ドメインは、CLDN9上には存在しないCLDN6上のエピトープに結合する。好ましくは、CLDN6結合ドメインは、CLDN4および/またはCLDN3上には存在しないCLDN6上のエピトープに結合する。最も好ましくは、CLDN6結合ドメインは、CLDN6以外のCLDNタンパク質上には存在しないCLDN6上のエピトープに結合する。CLDN6結合ドメインは、好ましくはCLDN6に結合するがCLDN9には結合せず、好ましくはCLDN4および/またはCLDN3には結合しない。好ましくは、CLDN6結合ドメインはCLDN6に特異的である。好ましくは、CLDN6結合ドメインは、細胞表面に発現されたCLDN6に結合する。
【0132】
本発明の一実施形態では、CLDN6抗原結合ドメインは、CLDN6に特異性を有する免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)およびCLDN6に特異性を有する免疫グロブリンの軽鎖の可変領域(VL)を含む。一実施形態では、前記重鎖可変領域(VH)および対応する軽鎖可変領域(VL)は、ペプチドリンカー、好ましくはアミノ酸配列(GGGGS)3を含むペプチドリンカーによって接続されている。
【0133】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、配列番号3、5、7および9からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0134】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0135】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号xのアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号x+1のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)
を含み、ここで、xは3、5、7および9から選択される。
【0136】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号3、5、7および9からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに
(ii)配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0137】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号5のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号4のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0138】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号5のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号23のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0139】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号5のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号24のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0140】
特定の好ましい実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、以下の可能性(i)~(xi)から選択される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む:
(i)VHは、配列番号3によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号4によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(ii)VHは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号6によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(iii)VHは、配列番号7によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号8によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(iv)VHは、配列番号9によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号10によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(v)VHは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号4によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(vi)VHは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号23によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む、
(vii)VHは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号24によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む。
【0141】
特に好ましい実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の以下の組合せを含む:
VHは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含み、VLは、配列番号24によって表されるアミノ酸配列もしくはその機能的変異体、または該アミノ酸配列もしくは該機能的変異体の断片を含む。
【0142】
「断片」という用語は、特に、重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つ以上、好ましくは少なくともCDR3可変領域を指す。一実施形態では、前記相補性決定領域(CDR)の1つ以上は、相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットから選択される。特に好ましい実施形態では、「断片」という用語は、重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を指す。
【0143】
一実施形態では、本明細書に記載の1つ以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組合せを含むCLDN6に対する結合ドメインは、それらの介在するフレームワーク領域と共に前記CDRを含む。好ましくは、この部分はまた、1番目および4番目のフレームワーク領域のいずれかまたは両方の少なくとも約50%を含み、50%は、1番目のフレームワーク領域のC末端の50%および4番目のフレームワーク領域のN末端の50%である。組換えDNA技術によって作製された結合ドメインの構築は、本明細書に記載の配列を含むさらなるタンパク質配列に可変領域を結合するためのリンカーの導入を含む、クローニングまたは他の操作工程を容易にするために導入されるリンカーによってコードされる可変領域のN末端側またはC末端側の残基の導入をもたらし得る。
【0144】
一実施形態では、本明細書に記載の1つ以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組合せを含む結合ドメインは、ヒト抗体フレームワーク内に前記CDRを含む。
【0145】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)、例えば、配列番号3、5、7および9からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0146】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、本明細書に記載の軽鎖可変領域(VL)、例えば、配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0147】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せ、例えば、VHが配列番号5によって表されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含み、VLが配列番号6によって表されるアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む組合せの重鎖可変領域(VH)のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せの軽鎖可変領域(VL)のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0148】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号xの重鎖可変領域(VH)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号x+1の軽鎖可変領域(VL)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む軽鎖可変領域(VL)
を含み、ここで、xは3、5、7および9から選択される。
【0149】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号5の重鎖可変領域(VH)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号6の軽鎖可変領域(VL)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0150】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、
(i)配列番号5の重鎖可変領域(VH)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む重鎖可変領域(VH)、および
(ii)配列番号4の軽鎖可変領域(VL)またはその機能的変異体のCDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てを含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0151】
「CDR配列の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全て」という用語は、好ましくは、任意でCDR1配列および/またはCDR2配列と組み合わせて、少なくともCDR3配列に関する。
【0152】
配列番号3、5、7および9からなる群より選択される重鎖可変領域(VH)のCDR1は、好ましくは、それぞれ配列番号3、5、7および9に示される配列のアミノ酸26~33を含む。配列番号3、5、7および9からなる群より選択される重鎖可変領域(VH)のCDR2は、好ましくは、それぞれ配列番号3、5、7および9に示される配列のアミノ酸51~58を含む。配列番号3、5、7および9からなる群より選択される重鎖可変領域(VH)のCDR3は、好ましくは、それぞれ配列番号3、5、7および9に示される配列のアミノ酸97~106を含む。
【0153】
配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択される軽鎖可変領域(VL)のCDR1は、好ましくは、それぞれ配列番号4、6、8、10、23および24に示される配列のアミノ酸27~31を含む。配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択される軽鎖可変領域(VL)のCDR2は、好ましくは、それぞれ配列番号4、6、8、10、23および24に示される配列のアミノ酸49~51を含む。配列番号4、6、8、10、23および24からなる群より選択される軽鎖可変領域(VL)のCDR3は、好ましくは、それぞれ配列番号4、6、8、10、23および24に示される配列のアミノ酸88~97を含む。
【0154】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3を含む重鎖可変領域(VH)を含み、ここで、Xaa1は任意のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸、より好ましくはPheまたはTyr、最も好ましくはTyrであり、Xaa2は任意のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸、より好ましくはPheまたはTyr、最も好ましくはTyrであり、およびXaa3は任意のアミノ酸、好ましくはLeuまたはPhe、より好ましくはLeuである。一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3またはXaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Aspを含む重鎖可変領域(VH)を含み、ここで、Xaa1、Xaa2およびXaa3は上記で定義された通りである。一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Aspを含む重鎖可変領域(VH)を含み、ここで、Xaa1、Xaa2およびXaa3は上記で定義された通りである。一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Ala Arg Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Asp Tyrを含む重鎖可変領域(VH)を含み、ここで、Xaa1、Xaa2およびXaa3は上記で定義された通りである。一実施形態では、前述の実施形態によるCLDN6に対する結合ドメインは、配列番号16に従うCDR1配列もしくはその機能的変異体および/または配列番号17に従うCDR2配列もしくはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0155】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Proを含む軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、Xaa1は任意のアミノ酸、好ましくはSerまたはAsn、最も好ましくはSerであり、Xaa2は任意のアミノ酸、好ましくはTyr、Ser、Ile、AsnまたはThr、より好ましくはTyr、SerまたはAsn、最も好ましくはAsnであり、およびXaa3は任意のアミノ酸、好ましくはSerまたはTyr、より好ましくはTyrである。一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Gln Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Pro Proを含む軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、Xaa1、Xaa2およびXaa3は上記で定義された通りである。一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CDR3配列Gln Gln Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Pro Pro Trp Thrを含む軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、Xaa1、Xaa2およびXaa3は上記で定義された通りである。一実施形態では、前述の実施形態によるCLDN6に対する結合ドメインは、配列番号21に従うCDR1配列もしくはその機能的変異体および/または配列番号22に従うCDR2配列もしくはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0156】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、以下を含む:
(i)Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3、Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3、Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Asp、Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Asp、およびAla Arg Asp Xaa1 Gly Xaa2 Val Xaa3 Asp Tyrからなる群より選択されるCDR3配列を含む重鎖可変領域(VH)、ここで、Xaa1は任意のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸、より好ましくはPheまたはTyr、最も好ましくはTyrであり、Xaa2は任意のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸、より好ましくはPheまたはTyr、最も好ましくはTyrであり、およびXaa3は任意のアミノ酸、好ましくはLeuまたはPhe、より好ましくはLeuである、ならびに
(ii)Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Pro、Gln Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Pro Pro、Gln Gln Arg Xaa1 Xaa2 Xaa3 Pro Pro Trp Thrからなる群より選択されるCDR3配列を含む軽鎖可変領域(VL)、ここで、Xaa1は任意のアミノ酸、好ましくはSerまたはAsn、最も好ましくはSerであり、Xaa2は任意のアミノ酸、好ましくはTyr、Ser、Ile、AsnまたはThr、より好ましくはTyr、SerまたはAsn、最も好ましくはAsnであり、およびXaa3は任意のアミノ酸、好ましくはSerまたはTyr、より好ましくはTyrである。
【0157】
一実施形態では、前述の実施形態によるCLDN6に対する結合ドメインは、(i)配列番号16に従うCDR1配列もしくはその機能的変異体および/または配列番号17に従うCDR2配列もしくはその機能的変異体を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに/あるいは(ii)配列番号21に従うCDR1配列もしくはその機能的変異体および/または配列番号22に従うCDR2配列もしくはその機能的変異体を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0158】
一実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、CLDN6結合について上記のCLDN6に対する結合ドメインと競合し、および/または上記のCLDN6に対する結合ドメインのCLDN6に対する特異性を有する。これらおよび他の実施形態では、CLDN6に対する結合ドメインは、上記のCLDN6に対する結合ドメインと高度に相同であり得る。CLDN6に対する好ましい結合ドメインは、上記のCLDN6に対する結合ドメインのCDR領域と同一または高度に相同なCDR領域を有することが企図される。「高度に相同な」とは、各CDR領域で1~5、好ましくは1~4、例えば1~3または1つもしくは2つの置換を行い得ることが企図される。
【0159】
「競合する」という用語は、標的抗原への結合についての2つの結合分子間の競合を指す。2つの結合分子が標的抗原への結合について互いにブロックしない場合、そのような結合分子は非競合的であり、これは、前記結合分子が標的抗原の同じ部分、すなわちエピトープに結合しないことの指標である。標的抗原への結合についての抗体などの結合分子の競合を試験する方法は、当業者に周知である。そのような方法の一例は、例えばELISAとしてまたはフローサイトメトリによって実施され得る、いわゆる交差競合アッセイである。例えば、ELISAベースのアッセイは、ELISAプレートのウェルを抗体の1つで被覆し、競合する抗体とHisタグ付き抗原/標的を添加し、添加した抗体が被覆抗体へのHisタグ付き抗原の結合を阻害したかどうかを、例えばビオチン化抗His抗体を添加し、続いてストレプトアビジン-ポリ-HRPを添加し、ABTSとの反応をさらに発展させ、405nmでの吸光度を測定して検出することによって実施し得る。例えば、フローサイトメトリアッセイは、抗原/標的を発現する細胞を過剰の非標識抗体とインキュベートし、細胞を最適以下の濃度のビオチン標識抗体とインキュベートし、続いて蛍光標識ストレプトアビジンとインキュベートし、フローサイトメトリで分析することによって実施し得る。
【0160】
2つの結合分子は、同じ抗原および同じエピトープに結合する場合、「同じ特異性」を有する。試験する分子が特定の結合分子と同じエピトープを認識するかどうか、すなわち、結合分子が同じエピトープに結合するかどうかは、例えば、同じエピトープに対する抗体などの結合分子の競合に基づいて、当業者に公知の様々な方法によって試験することができる。結合分子間の競合は、クロスブロッキングアッセイによって検出することができる。例えば、競合ELISAアッセイをクロスブロッキングアッセイとして使用し得る。例えば、標的抗原をマイクロタイタープレートのウェルに被覆し、抗原結合抗体と候補競合試験抗体を添加し得る。ウェル中の抗原に結合した抗原結合抗体の量は、同じエピトープへの結合について競合する候補競合試験抗体の結合能力と間接的に相関する。具体的には、同じエピトープに対する候補競合試験抗体の親和性が大きいほど、抗原被覆ウェルに結合する抗原結合抗体の量は少なくなる。ウェルに結合した抗原結合抗体の量は、検出可能または測定可能な標識物質で抗体を標識することによって測定できる。
【0161】
好ましくは、本発明のCARにおける抗原結合部分の部分は抗CLDN6 scFVであり、抗CLDN6 scFVは、好ましくは、配列番号35に示される配列またはその機能的変異体を含む。
【0162】
膜貫通ドメイン
本発明のCARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含むように設計される。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR内のドメインの1つと天然には会合していない。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR内のドメインの1つと天然に会合している。一実施形態では、膜貫通ドメインは、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、アミノ酸置換によって修飾される。膜貫通ドメインは、天然源または合成源のいずれかに由来し得る。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明において特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖またはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し得る(すなわち、その少なくとも1つの膜貫通領域を含む)。あるいは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に認められる。
【0163】
好ましくは、本発明のCARにおける膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインである。一実施形態では、CD8α膜貫通ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0164】
場合によっては、本発明のCARは、膜貫通ドメインと細胞外ドメインとの間に結合を形成するCD8αヒンジドメインを含む。一実施形態では、CD8αヒンジドメインは、配列番号27のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0165】
細胞質ドメイン
本発明のCARの細胞質ドメインまたは別の言い方では細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが配置されている免疫細胞の正常なエフェクタ機能の少なくとも1つの活性化を担う。「エフェクタ機能」という用語は、細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクタ機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達し、特殊な機能を果たすように細胞に指示するタンパク質の部分を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用することができるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮された部分が使用される範囲内で、そのような短縮部分は、それがエフェクタ機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに使用され得る。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の短縮部分を含むことが意図されている。
【0166】
TCRのみを介して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次シグナルまたは共刺激シグナルも必要であることが公知である。したがって、T細胞活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCRを介して抗原依存性一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)および抗原非依存的に作用して二次シグナルまたは共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言うことができる。
【0167】
本発明のCARは、CD3ζに由来する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。さらに、本発明のCARの細胞質ドメインは、4-1BBに由来する共刺激シグナル伝達領域と組み合わせたCD3ζシグナル伝達ドメインを含むように設計される。
【0168】
「4-1BB」という用語は、CD137とも称される膜受容体タンパク質を指し、これは、補助分子の一種として活性化T細胞の表面に発現される腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーのメンバーである。4-1BBは、55kDaの分子量を有し、ホモ二量体として見出される。
【0169】
T細胞受容体T3ζ鎖またはCD247としても公知のT細胞表面糖タンパク質CD3ζ鎖は、ヒトではCD247遺伝子によってコードされるタンパク質である。T細胞受容体ゼータ(ζ)は、T細胞受容体α/βおよびγ/δヘテロ二量体とCD3γ、δおよびεと一緒になって、T細胞受容体-CD3複合体を形成する。ζ鎖は、抗原認識をいくつかの細胞内シグナル伝達経路に結び付けるのに重要な役割を果たす。抗原の低発現は免疫応答の低下をもたらす。
【0170】
本発明のCARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムなまたは特定の順序で互いに連結され得る。任意で、好ましくは2~10アミノ酸長の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが結合を形成し得る。グリシン-セリンダブレットは特に適切なリンカーを提供する。
【0171】
したがって、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインおよび4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。一実施形態では、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ドメインおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、4-1BBのシグナル伝達ドメインは、配列番号30のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含み、CD3ζのシグナル伝達ドメインは、配列番号31のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0172】
一実施形態では、本発明のCARは、新生タンパク質を小胞体に向かわせるシグナルペプチドを含む。一実施形態では、シグナルペプチドは抗原結合ドメインに先行する。一実施形態では、シグナルペプチドは、IgGなどの免疫グロブリンに由来する。一実施形態では、シグナルペプチドは、配列番号25に従う配列またはその機能的変異体を含む。
【0173】
一実施形態では、本発明のCARは、以下の要素を以下の順序で含む:NH2-CLDN6抗原結合ドメイン-膜貫通ドメイン-4-1BB共刺激ドメイン-CD3ζシグナル伝達ドメイン-COOH。
【0174】
一実施形態では、本発明のCARは、以下の要素を以下の順序で含む:NH2-CLDN6抗原結合ドメイン-CD8αヒンジ-CD8α膜貫通ドメイン-4-1BB共刺激ドメイン-CD3ζシグナル伝達ドメイン-COOH。
【0175】
一実施形態では、本発明のCARは、配列番号36のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む。
【0176】
ベクター
本発明は、本発明のCARをコードする配列を含むDNA構築物などの核酸構築物を包含する。
【0177】
本発明はまた、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターは、導入遺伝子の長期的で安定な組み込みおよび娘細胞におけるその増殖を可能にするので、長期的な遺伝子導入を達成するための適切なツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞などの非増殖性細胞を形質導入することができるという点で、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターを上回る追加の利点を有する。それらはまた、低い免疫原性というさらなる利点も有する。
【0178】
簡単に言えば、CARをコードする天然または合成核酸の発現は、典型的には、CARポリペプチドまたはその一部をコードする核酸をプロモータに作動可能に連結し、構築物を発現ベクターに組み込むことによって達成される。ベクターは、真核生物における複製および組み込みに適し得る。典型的なクローニングベクターは、転写および翻訳ターミネータ、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモータを含む。
【0179】
本発明の核酸は、多くの種類のベクターにクローニングすることができる。例えば、核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、およびコスミドまたはトランスポゾンを含むがこれらに限定されないベクターにクローニングすることができる。特に興味深いベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、および配列決定ベクターが含まれる。さらに、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供され得る。ウイルスベクター技術は当技術分野で周知であり、例えば、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、ならびに他のウイルス学および分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。一般に、適切なベクターは、少なくとも1つの生物において機能性の複製起点、プロモータ配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つ以上の選択可能なマーカを含む(例えば、国際公開第01/96584号;国際公開第01/29058号;および米国特許第6,326,193号)。
【0180】
哺乳動物細胞への遺伝子導入のために、多くのウイルスベースのシステムが開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムのための便利なプラットフォームを提供する。当技術分野で公知の技術を使用して、選択した遺伝子をベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。次に、組換えウイルスを単離して、インビボまたはエクスビボのいずれかで対象の細胞に送達することができる。多くのレトロウイルスシステムが当技術分野で公知である。いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターが使用される。多くのアデノウイルスベクターが当技術分野で公知である。一実施形態では、レンチウイルスベクターが使用される。
【0181】
さらなるプロモータエレメント、例えばエンハンサは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、最近、多くのプロモータが開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが示されている。プロモータエレメント間の間隔はしばしば柔軟であるため、エレメントが互いに反転または移動した場合にプロモータ機能が維持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモータでは、活性が低下し始める前に、プロモータエレメント間の間隔を50bpまで広げることができる。プロモータに応じて、個々のエレメントは、転写を活性化するために協調的にまたは独立して機能することができるようである。適切なプロモータの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ配列である。このプロモータ配列は、それに作動可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することができる強力な構成的プロモータ配列である。適切なプロモータの別の例は、伸長成長因子1α(EF-1α)である。しかしながら、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモータ、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ロングターミナルリピート(LTR)プロモータ、MoMuLVプロモータ、トリ白血病ウイルスプロモータ、エプスタイン・バーウイルス前初期プロモータ、ラウス肉腫ウイルスプロモータ、ならびにアクチンプロモータ、ミオシンプロモータ、ヘモグロビンプロモータおよびクレアチンキナーゼプロモータなどであるがこれらに限定されないヒト遺伝子プロモータを含むがこれらに限定されない他の構成的プロモータ配列も使用し得る。さらに、本発明は、構成的プロモータの使用に限定されるべきではなく、誘導性プロモータも本発明の一部として企図される。誘導性プロモータの使用は、そのような発現が所望される場合にプロモータが作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにすることができ、または発現が所望されない場合に発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモータの例には、メタロチオネインプロモータ、グルココルチコイドプロモータ、プロゲステロンプロモータ、およびテトラサイクリンプロモータが含まれるが、これらに限定されない。
【0182】
CARポリペプチドまたはその一部の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターはまた、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を容易にするために、選択マーカ遺伝子またはレポータ遺伝子またはその両方を含むことができる。他の態様では、選択マーカは別個のDNA片上に担持されてもよく、同時トランスフェクション手順において使用され得る。選択マーカとレポータ遺伝子の両方に、宿主細胞での発現を可能にする適切な調節配列を隣接させ得る。有用な選択マーカには、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0183】
レポータ遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために使用される。一般に、レポータ遺伝子は、レシピエントの生物または組織には存在しないかまたは発現されず、その発現がいくつかの容易に検出可能な特性、例えば酵素活性によって明らかにされるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポータ遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入された後の適切な時点でアッセイされる。適切なレポータ遺伝子には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光タンパク質遺伝子が含まれ得る。適切な発現系は周知であり、公知の技術を用いて調製し得るか、または商業的に入手し得る。
【0184】
遺伝子を細胞に導入し、発現させる方法は、当技術分野で公知である。発現ベクターに関連して、ベクターは、当技術分野の任意の方法によって宿主細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母または昆虫細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に移入することができる。
【0185】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するための好ましい方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0186】
目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAおよびRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞に遺伝子を挿入するための最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。
【0187】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームなどの脂質ベースの系が含まれる。インビトロおよびインビボで送達ビヒクルとして使用するための好ましいコロイド系は、リポソーム(例えば人工膜小胞)である。
【0188】
細胞
本発明のCARシステムに関連して使用され、本発明のCARシステムをコードする核酸(DNAまたはRNA)が導入され得る細胞は、溶解能を有する任意の細胞、特にリンパ系細胞を含み、好ましくはT細胞、特に細胞傷害性リンパ球であり、好ましくは細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択される。活性化されると、これらの細胞傷害性リンパ球はそれぞれ標的細胞の破壊を引き起こす。例えば、細胞傷害性T細胞は、以下の手段のいずれかまたは両方によって標的細胞の破壊を引き起こす。まず、活性化すると、T細胞は、パーフォリン、グランザイム、およびグラニュライシンなどの細胞毒を放出する。パーフォリンおよびグラニュライシンは標的細胞に細孔を作り、グランザイムは細胞に進入し、細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する細胞質のカスパーゼカスケードを引き起こす。第2に、アポトーシスは、T細胞と標的細胞との間のFas-Fasリガンド相互作用を介して誘導され得る。細胞傷害性リンパ球は、好ましくは自家細胞であるが、異種細胞または同種異系細胞を使用することができる。
【0189】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。「抗原特異的T細胞」という用語または同様の用語は、T細胞が標的とする抗原を認識し、好ましくはT細胞のエフェクタ機能を発揮するT細胞に関する。T細胞が抗原を発現する標的細胞を死滅させる場合、T細胞は抗原に特異的であると見なされる。T細胞の特異性は、様々な標準的技術のいずれかを使用して、例えばクロム放出アッセイまたは増殖アッセイにおいて評価し得る。あるいは、リンホカイン(インターフェロンγなど)の合成を測定することができる。
【0190】
本明細書で使用される場合、「NK細胞」または「ナチュラルキラー細胞」という用語は、CD56またはCD16の発現およびT細胞受容体(CD3)の非存在によって定義される末梢血リンパ球のサブセットを指す。本明細書で提供されるように、NK細胞はまた、幹細胞または前駆細胞から分化させることもできる。
【0191】
本発明の文脈における「エフェクタ機能」という用語は、例えば腫瘍細胞などの疾患細胞の死滅、または腫瘍の播種および転移の抑制を含む腫瘍成長の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明の文脈におけるエフェクタ機能は、T細胞媒介エフェクタ機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4T細胞)の場合、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み、CTLの場合、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の除去、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解死滅を含む。
【0192】
本発明の文脈における「免疫エフェクタ細胞」または「免疫反応性細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクタ機能を発揮する細胞に関する。「免疫エフェクタ細胞」は、好ましくは、細胞の表面に発現される抗原などの抗原に結合し、免疫応答を媒介することができる。例えば、免疫エフェクタ細胞は、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞を含む。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫エフェクタ細胞」は、T細胞、好ましくはCD4および/またはCD8T細胞である。本発明によれば、「免疫エフェクタ細胞」という用語はまた、適切な刺激により免疫細胞(T細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞など)に成熟することができる細胞を含む。免疫エフェクタ細胞は、CD34造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞ならびに未成熟および成熟B細胞を含む。T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、抗原に曝露された場合、免疫系のクローン選択に類似する。
【0193】
好ましくは、「免疫エフェクタ細胞」は、特に癌細胞などの疾患細胞の表面に存在する場合、ある程度の特異性で抗原を認識する。好ましくは、前記認識は、抗原を認識する細胞が応答性または反応性であることを可能にする。細胞がヘルパーT細胞(CD4T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の除去を含み得る。本発明によれば、CTL応答性は、持続的なカルシウム流動、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカの上方制御、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解死滅を含み得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して判定し得る。抗原を認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。
【0194】
「リンパ系細胞」は、任意で適切な修飾後、例えばCARの移入後に、細胞性免疫応答などの免疫応答を生成することができる細胞、またはそのような細胞の前駆細胞であり、リンパ球、好ましくはTリンパ球、リンパ芽球、および形質細胞を含む。リンパ系細胞は、本明細書に記載されるような免疫エフェクタ細胞であり得る。好ましいリンパ系細胞は、細胞表面にCARを発現するように改変することができるT細胞である。一実施形態では、リンパ系細胞は、T細胞受容体の内因性発現を欠く。
【0195】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0196】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球のグループに属し、細胞性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるこれらの細胞表面上の特別な受容体の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他の種類のリンパ球と区別することができる。胸腺は、T細胞の成熟に関与する主要な器官である。それぞれ別個の機能を有する、T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されている。
【0197】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも特に、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するため、CD4+T細胞としても公知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原と共に提示された場合に活性化される。ひとたび活性化されると、これらは速やかに分裂し、能動免疫応答を調節または補助する、サイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0198】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞としても公知である。これらの細胞は、身体のほぼあらゆる細胞の表面に存在する、MHCクラスIに関連する抗原に結合することによってその標的を認識する。
【0199】
T細胞の大部分は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から産生され、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる2つの別個のペプチド鎖から構成される。γδ T細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。しかし、γδ T細胞では、TCRは一本のγ鎖と一本のδ鎖で構成される。このグループのT細胞は、αβ T細胞よりもはるかにまれである(全T細胞の2%)。
【0200】
全てのT細胞は、骨髄の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は胸腺に存在し、細胞分裂によって拡大して未成熟な胸腺細胞の大きな集団を生じる。最初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現しないため、二重陰性(CD4-CD8-)細胞として分類される。発達が進むにつれて、それらは二重陽性胸腺細胞(CD4+CD8+)になり、最終的に単一陽性(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟して、胸腺から末梢組織に放出される。
【0201】
T細胞は一般に、標準的な手順を用いて、インビトロまたはエクスビボで調製し得る。例えば、T細胞は、市販の細胞分離システムを使用して、患者などの哺乳動物の骨髄、末梢血または骨髄もしくは末梢血の画分から単離し得る。あるいは、T細胞は、関係のあるもしくは無関係なヒト、非ヒト動物、細胞株または培養物に由来し得る。T細胞を含む試料は、例えば、末梢血単核細胞(PBMC)であり得る。
【0202】
本発明に従って使用されるT細胞は、内因性T細胞受容体を発現してもよく、または内因性T細胞受容体の発現を欠いてもよい。
【0203】
「抗原を標的とするCAR」という用語は、T細胞などの免疫エフェクタ細胞上に存在する場合、免疫エフェクタ細胞が上記のように刺激、プライミングおよび/もしくは拡大されるか、または免疫エフェクタ細胞のエフェクタ機能を発揮するように、抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面などの抗原を認識するCARに関する。
【0204】
T細胞の供給源
本発明のT細胞の増殖および遺伝子改変の前に、対象からT細胞の供給源を得る。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含む多くの供給源から得ることができる。本発明の特定の実施形態では、当技術分野で利用可能な様々なT細胞株を使用し得る。本発明の特定の実施形態では、T細胞は、Ficoll(商標)分離などの当業者に公知の様々な技術を使用して、対象から採取された血液単位から得ることができる。好ましい一実施形態では、個体の循環血液由来の細胞はアフェレーシスによって得られる。アフェレーシス産物には、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、および血小板を含むリンパ球が含まれる。一実施形態では、アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して血漿画分を除去し、その後の処理工程のために細胞を適切な緩衝液または培地に入れることができる。本発明の一実施形態では、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄する。代替実施形態では、洗浄液はカルシウムを欠き、マグネシウムを欠いていてもよく、または全てではないにしても多くの二価カチオンを欠いていてもよい。繰り返しになるが、驚くべきことに、カルシウムの非存在下での初期活性化工程は、活性化の拡大につながる。当業者が容易に理解するように、洗浄工程は、半自動「フロースルー」遠心分離機(例えば、Cobe 2991細胞プロセッサ、Baxter CytoMate、またはHaemonetics Cell Saver 5)を製造者の指示に従って使用することなどの、当業者に公知の方法によって達成され得る。洗浄後、細胞を、例えば、Ca2+非含有、Mg2+非含有PBS、PlasmaLyte A、または緩衝液を含むもしくは含まない他の生理食塩水などの様々な生体適合性緩衝液に再懸濁し得る。あるいは、アフェレーシスサンプルの望ましくない成分を除去し、細胞を培地に直接再懸濁してもよい。
【0205】
別の実施形態では、T細胞を、例えばPERCOLL(商標)勾配による遠心分離または向流遠心溶出によって、赤血球を溶解し、単球を枯渇させることによって末梢血リンパ球から単離する。CD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、およびCD45ROT細胞などのT細胞の特定の亜集団は、陽性または陰性選択技術によってさらに単離することができる。例えば、一実施形態では、T細胞を、所望のT細胞の陽性選択に十分な時間、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 Tなどの抗CD3/抗CD28(すなわち、3×28)結合ビーズとのインキュベーションによって単離する。一実施形態では、期間は30分~36時間またはそれ以上の範囲である。当業者は、本発明の文脈において複数回の選択も使用できることを認識するであろう。
【0206】
陰性選択によるT細胞集団の濃縮は、陰性選択細胞に固有の表面マーカに対する抗体の組合せを用いて達成することができる。1つの方法は、陰性選択された細胞上に存在する細胞表面マーカに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用する、陰性磁気免疫接着またはフローサイトメトリによる細胞選別および/または選択である。例えば、陰性選択によってCD4細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。特定の実施形態では、典型的にはCD4、CD25、CD62Lhi、GITR、およびFoxP3を発現する制御性T細胞を濃縮するかまたは陽性選択することが望ましい場合がある。あるいは、特定の実施形態では、制御性T細胞を、抗CD25結合ビーズまたは他の同様の選択方法によって枯渇させる。
【0207】
非ウイルスベースのDNAトランスフェクション、トランスポゾンベースのシステム、ウイルスベースのシステムおよびRNAベースのシステムを含む様々な方法を使用して、CAR構築物をT細胞に導入し得る。非ウイルスベースのDNAトランスフェクションは、挿入突然変異誘発のリスクが低い。トランスポゾンベースのシステムは、組み込み要素を含まないプラスミドよりも効率的に導入遺伝子を組み込むことができる。ウイルスベースのシステムには、γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用が含まれる。γ-レトロウイルスは、T細胞を比較的容易に産生し、効率的かつ永続的に形質導入し、初代ヒトT細胞における組み込みの観点から安全であることが予め証明されている。レンチウイルスベクターも、T細胞を効率的かつ永続的に形質導入するが、製造コストがより高い。これらはまた、潜在的にレトロウイルスベースのシステムよりも安全である。
【0208】
本発明の一実施形態では、CARを発現するように遺伝子改変されたT細胞を提供するために、CARをコードする核酸で、エクスビボまたはインビボのいずれかでT細胞またはT細胞前駆体をトランスフェクトする。
【0209】
CAR T細胞は、T細胞を標的とするナノ粒子を使用して、インビボで、したがってほぼ瞬時に産生され得る。例えば、ポリ(β-アミノエステル)ベースのナノ粒子を、T細胞上のCD3に結合するために抗CD3e f(ab)断片に結合し得る。T細胞に結合すると、これらのナノ粒子はエンドサイトーシスされる。それらの内容物、例えば抗腫瘍抗原CARをコードするプラスミドDNAは、微小管関連配列(MTAS)および核局在化シグナル(NLS)を含むペプチドを含むため、T細胞核に向けられ得る。CAR遺伝子発現カセットに隣接する逆方向反復配列(IR)を有するトランスポゾンおよび高活性トランスポザーゼをコードする別個のプラスミドを含めることにより、染色体へのCARベクターの効率的な組み込みが可能になり得る。ナノ粒子注入後のCAR T細胞のインビボ産生を可能にするそのようなシステムは、Smith et al.(2017)Nat.Nanotechnol.12:813-820に記載されている。
【0210】
別の可能性は、CRISPR/Cas9法を使用して、CARコード配列を特定の遺伝子座に意図的に配置することである。例えば、既存のT細胞受容体(TCR)をノックアウトし、一方でCARをノックインし、それを、さもなければTCRの発現を抑える内因性プロモータの動的調節制御下に置くことができる;例えば、Eyquem et al.(2017)Nature 543:113-117参照。
【0211】
本発明の全ての態様の一実施形態では、CARを発現するように遺伝子改変されたT細胞は、CARをコードする核酸で安定にまたは一過性にトランスフェクトされる。したがって、CARをコードする核酸は、T細胞のゲノムに組み込まれるか、または組み込まれない。
【0212】
本発明の全ての態様の一実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象に由来する。本発明の全ての態様の一実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象とは異なる対象に由来する。
【0213】
本発明の全ての態様の一実施形態では、T細胞は、治療される対象に対して自家、同種異系または同系であり得る。T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにインビトロで遺伝子改変され得る。
【0214】
本発明の全ての態様の一実施形態では、CARを発現するように遺伝子改変されたT細胞は、内因性T細胞受容体および/または内因性HLAの発現のために不活性化される。
【0215】
T細胞の活性化および増殖
望ましいCARを発現するためのT細胞の遺伝子改変の前か後かにかかわらず、T細胞は、一般に当技術分野で公知の方法を用いて活性化および拡大させることができる。
【0216】
一般に、本発明のT細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤およびT細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドが付着した表面との接触によって拡大される。特に、T細胞集団は、例えば、表面に固定化された抗CD3抗体、もしくはその抗原結合断片、もしくは抗CD2抗体との接触によって、またはカルシウムイオノフォアと組み合わせたプロテインキナーゼC活性化因子(例えばブリオスタチン)との接触によって、本明細書に記載されるように刺激され得る。T細胞の表面上の補助分子の共刺激のために、補助分子に結合するリガンドが使用される。例えば、T細胞の集団を、T細胞の増殖を刺激するのに適切な条件下で抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。
【0217】
特定の実施形態では、T細胞の一次刺激シグナルおよび共刺激シグナルは、異なるプロトコルによって提供され得る。例えば、各シグナルを提供する薬剤は、溶液中にあってもよく、または表面に結合されていてもよい。表面に結合される場合、薬剤は、同じ表面(すなわち「シス」形成)または別個の表面(すなわち「トランス」形成)に結合され得る。あるいは、一方の薬剤を表面に結合させ、他方の薬剤を溶液中に存在させてもよい。一実施形態では、共刺激シグナルを提供する薬剤は細胞表面に結合しており、一次活性化シグナルを提供する薬剤は溶液中にあるかまたは表面に結合している。特定の実施形態では、両方の薬剤が溶液中に存在し得る。
【0218】
一実施形態では、2つの薬剤は、同じビーズ上に、すなわち「シス」で、または別個のビーズに、すなわち「トランス」で、ビーズ上に固定化される。例として、一次活性化シグナルを提供する薬剤は抗CD3抗体またはその抗原結合断片であり、共刺激シグナルを提供する薬剤は抗CD28抗体またはその抗原結合断片であり、両方の薬剤が同じビーズに共固定化される。一実施形態では、ビーズに結合したCD3:CD28抗体の比率は、100:1~1:100の範囲である。
【0219】
1:500~500:1の粒子対細胞の比率を使用して、T細胞または他の標的細胞を刺激し得る。当業者が容易に理解できるように、粒子対細胞の比率は、標的細胞に対する粒子サイズに依存し得る。例えば、小さなサイズのビーズは少数の細胞にしか結合することができないが、より大きなビーズは多くの細胞に結合することができる。特定の実施形態では、細胞対粒子の比率は1:100~100:1の範囲であり、さらなる実施形態では、比率は1:9~9:1を含む。
【0220】
T細胞培養に適した条件には、血清(例えば、ウシ胎仔血清またはヒト血清)、インターロイキン2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβおよびTNF-αを含む増殖および生存に必要な因子、または当業者に公知の細胞増殖のための任意の他の添加剤を含有し得る適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 15(Lonza))が含まれる。細胞の増殖のための他の添加剤には、界面活性剤、プラスマネート、ならびにN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールなどの還元剤が含まれるが、これらに限定されない。標的細胞は、増殖を支持するのに必要な条件下で、例えば、適切な温度(例えば37℃)および雰囲気(例えば空気プラス5%CO)下で維持される。
【0221】
治療用途
本発明は、例えば、本発明のCARをコードするレンチウイルスベクター(LV)などのレトロウイルスで形質導入された、本発明のCAR分子を含む細胞(例えばT細胞)を包含する。したがって、場合によっては、形質導入されたT細胞はCAR媒介T細胞応答を誘発することができる。
【0222】
本発明は、初代T細胞の特異性を腫瘍抗原CLDN6へと再方向付けるためのCARの使用を提供する。したがって、本発明はまた、本発明のCARを発現するT細胞を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介免疫応答を刺激するための方法を提供し、ここで、CARは、所定の標的としてCLDN6と特異的に相互作用する結合部分を含む。
【0223】
一実施形態では、本発明は、T細胞が本発明のCARを発現するように遺伝子改変され、CAR T細胞がそれを必要とするレシピエントに注入される、一種の細胞療法を含む。注入された細胞は、レシピエントにおいて腫瘍細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、CAR T細胞はインビボで複製することができ、持続的な腫瘍制御につながり得る長期持続性をもたらす。
【0224】
一実施形態では、本発明のCAR T細胞は、強力なインビボT細胞増殖を受けることができ、長期間持続することができる。別の実施形態では、本発明のCAR T細胞は、さらなる腫瘍形成または成長を阻害するために再活性化され得る特異的メモリーT細胞に進化する。
【0225】
治療し得る癌には、血管新生していない、またはまだ実質的に血管新生していない腫瘍、ならびに血管新生した腫瘍が含まれる。癌は固形腫瘍を含み得る。本発明のCARで治療される癌のタイプには、癌腫、芽細胞腫および肉腫、ならびに特定の白血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性腫瘍、例えば肉腫、癌腫および黒色腫が含まれるが、これらに限定されない。成体腫瘍/癌および小児腫瘍/癌も含まれる。
【0226】
固形腫瘍は、通常は嚢胞または液体領域を含まない組織の異常な塊である。固形腫瘍は良性または悪性であり得る。様々な種類の固形腫瘍が、それらを形成する細胞の種類にちなんで名付けられている(肉腫、癌腫、およびリンパ腫など)。肉腫および癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ系悪性腫瘍、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、髄様癌、気管支原性癌腫、腎細胞癌腫、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、およびCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫および混合神経膠腫など)、神経膠芽腫(多形性神経膠芽腫としても公知)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経芽腫、網膜芽腫および脳転移など)が含まれる。
【0227】
一実施形態では、治療し得る癌は、本明細書に記載されるようなCLDN6を発現する癌である。
【0228】
本発明の一実施形態では、細胞は哺乳動物(好ましくはヒト)から単離され、本明細書に開示されるCARを発現するベクターで遺伝子改変(すなわち、インビトロで形質導入またはトランスフェクト)される。CAR改変細胞は、治療上の利益を提供するために哺乳動物レシピエントに投与することができる。哺乳動物レシピエントはヒトであり得、CAR改変細胞はレシピエントに対して自家であり得る。あるいは、細胞は、レシピエントに対して同種異系、同系または異種であり得る。
【0229】
本発明のCAR改変細胞は、単独で、またはIL-2もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせて投与し得る。一実施形態では、本発明のCAR改変細胞を、同族抗原分子、または同族抗原分子をコードする核酸、特にRNAと組み合わせて投与する。同族抗原分子は、CLDN6、組換えCLDN6、CLDN6断片、または前述のいずれかの変異体であり得る。一実施形態では、同族抗原分子(例えば、CLDN6、組換えCLDN6、CLDN6断片、または前述のいずれかの変異体)をコードする核酸、特にRNAを投与する。好ましくは、同族抗原分子をコードする核酸は、本発明のCAR改変細胞が投与されている対象の細胞において発現され、同族抗原分子をコードする核酸は、CAR抗原結合ドメインによる結合のための同族抗原分子を提供する。一実施形態では、CAR抗原結合ドメインの同族抗原分子の発現は、細胞表面においてである。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸は、対象の細胞において一過性に発現される。一実施形態では、同族抗原分子をコードする核酸はRNAである。好ましくは、本発明のCAR改変細胞を同族抗原分子と接触させることは、細胞の増殖および/または活性化をもたらす。
【0230】
本発明による使用に適したペプチド抗原およびタンパク質抗原は、典型的には、本発明のCARのCLDN6抗原結合ドメインが結合するエピトープを含むペプチドまたはタンパク質を含む。ペプチドまたはタンパク質またはエピトープは、CLDN6に由来し得る。例えば、ペプチド抗原もしくはタンパク質抗原またはペプチド抗原もしくはタンパク質抗原内に含まれるエピトープは、CLDN6またはCLDN6の断片もしくは変異体であり得る。
【0231】
本発明に従って対象に提供されるペプチド抗原およびタンパク質抗原(ペプチド抗原およびタンパク質抗原、または前記ペプチド抗原およびタンパク質抗原をコードする核酸、特にRNAを投与することによる)、すなわちワクチン抗原は、好ましくは、CAR改変細胞および抗原または核酸が投与されている対象においてCAR改変細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。前記刺激された、プライミングされたおよび/または拡大されたCAR改変細胞は、好ましくは、CLDN6標的抗原、特に疾患細胞、組織および/または器官によって発現される標的抗原、すなわち疾患関連抗原に対して向けられる。したがって、ワクチン抗原は、疾患関連抗原、またはその断片もしくは変異体を含み得る。一実施形態では、そのような断片または変異体は、疾患関連抗原と免疫学的に等価である。本開示の文脈において、「抗原の断片」または「抗原の変異体」という用語は、CAR改変細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす薬剤を意味し、刺激、プライミングおよび/または拡大されたCAR改変細胞は、特に疾患細胞、組織および/または器官の表面に発現された場合、疾患関連抗原を標的とする。したがって、本開示に従って投与されるワクチン抗原は、疾患関連抗原に対応し得るかもしくはそれを含み得、疾患関連抗原の断片に対応し得るかもしくはそれを含み得、または疾患関連抗原もしくはその断片に相同である抗原に対応し得るかもしくはそれを含み得る。本開示に従って投与されるワクチン抗原が、疾患関連抗原の断片または疾患関連抗原の断片に相同であるアミノ酸配列を含む場合、前記断片またはアミノ酸配列は、疾患関連抗原のエピトープまたは疾患関連抗原のエピトープに相同である配列を含み得、ここで、CAR改変細胞は前記エピトープに結合する。したがって、本開示によれば、抗原は、疾患関連抗原の免疫原性断片、または疾患関連抗原の免疫原性断片に相同であるアミノ酸配列を含み得る。本開示による「抗原の免疫原性断片」は、好ましくは、CAR改変細胞を刺激、プライミングおよび/または拡大することができる抗原の断片に関する。ワクチン抗原(疾患関連抗原と同様)は、CAR改変細胞のCARに存在するCLDN6抗原結合ドメインによる結合のための関連エピトープを提供することが好ましい。ワクチン抗原(疾患関連抗原と同様)は、CARによる結合のための関連エピトープを提供するために、抗原提示細胞などの細胞の表面に発現されることも好ましい。本発明によるワクチン抗原は、組換え抗原であり得る。
【0232】
「免疫学的に等価」という用語は、免疫学的に等価なアミノ酸配列などの免疫学的に等価な分子が、同じもしくは本質的に同じ免疫学的特性を示し、および/または、例えば免疫学的作用の種類に関して、同じもしくは本質的に同じ免疫学的作用を発揮することを意味する。本開示の文脈において、「免疫学的に等価」という用語は、好ましくは、抗原または抗原変異体の免疫学的作用または特性に関して使用される。例えば、アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列、例えばCLDN6に結合するCAR改変細胞または参照アミノ酸配列を発現する細胞に曝露されたときに、参照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応、特にCAR改変細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大を誘導する場合、前記アミノ酸配列は参照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。したがって、抗原と免疫学的に等価である分子は、CAR改変細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大に関して、CAR改変細胞が標的とする抗原と同じもしくは本質的に同じ特性を示し、および/または同じもしくは本質的に同じ作用を発揮する。
【0233】
本明細書で使用される「活性化」または「刺激」は、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分に刺激されたT細胞の状態を指す。活性化はまた、サイトカイン産生の誘導および検出可能なエフェクタ機能に関連し得る。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞を指す。
【0234】
「プライミング」という用語は、T細胞がその特異的抗原と最初に接触し、エフェクタT細胞への分化を引き起こす過程を指す。
【0235】
「クローン拡大」または「拡大」という用語は、特定の実体が増加する過程を指す。本開示の文脈において、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖し、前記抗原を認識する特定のリンパ球が増幅される免疫学的応答の文脈で使用される。好ましくは、クローン拡大はリンパ球の分化をもたらす。
【0236】
本発明によれば、同族抗原は、抗原をコードするRNAの形態で投与されることが特に好ましい。RNAの投与後、RNAの少なくとも一部は標的細胞に送達される。一実施形態では、RNAの少なくとも一部は標的細胞のサイトゾルに送達される。一実施形態では、RNAは標的細胞によって翻訳されて、コードされたペプチドまたはタンパク質を産生する。いくつかの実施形態は、特定の組織へのRNAの標的化送達を含む。一実施形態では、送達は、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることを含む。一実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓におけるプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は脾臓の樹状細胞である。
【0237】
「リンパ系」は、循環系の一部であり、リンパを運ぶリンパ管のネットワークを含む免疫系の重要な部分である。リンパ系は、リンパ器官、リンパ管の伝導ネットワーク、および循環リンパからなる。一次または中枢リンパ器官は、未成熟な前駆細胞からリンパ球を生成する。胸腺および骨髄は一次リンパ器官を構成する。リンパ節および脾臓を含む二次または末梢リンパ器官は、成熟したナイーブリンパ球を維持し、適応免疫応答を開始する。
【0238】
RNAは、RNAがカチオン性脂質および任意でさらなる脂質またはヘルパー脂質を含むリポソームに結合して注射可能なナノ粒子製剤を形成する、いわゆるリポプレックス製剤によって脾臓に送達され得る。リポソームは、エタノール中の脂質の溶液を水または適切な水相に注入することによって得られ得る。RNAリポプレックス粒子は、リポソームをRNAと混合することによって調製され得る。脾臓標的化RNAリポプレックス粒子は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/143683号に記載されている。正味の負電荷を有するRNAリポプレックス粒子を使用して、脾臓組織または脾臓細胞、例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞を選択的に標的化し得ることが見出された。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現するために使用され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺および/または肝臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現は、全く起こらないかまたは本質的に起こらない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓内のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞においてRNAを発現するために使用され得る。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞および/またはマクロファージである。
【0239】
本開示の文脈において、「RNAリポプレックス粒子」という用語は、脂質、特にカチオン性脂質、およびRNAを含む粒子に関する。正に帯電したリポソームと負に帯電したRNAとの間の静電相互作用は、複合体化とRNAリポプレックス粒子の自発的形成をもたらす。正に帯電したリポソームは、一般に、DOTMAなどのカチオン性脂質とDOPEなどのさらなる脂質を使用して合成し得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子はナノ粒子である。
【0240】
本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」は、正味の正電荷を有する脂質を指す。カチオン性脂質は、静電相互作用によって負に帯電したRNAを脂質マトリックスに結合する。一般に、カチオン性脂質は、ステロール、アシルまたはジアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。カチオン性脂質の例には、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)-ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、l,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)が含まれるが、これらに限定されない。DOTMA、DOTAP、DODAC、およびDOSPAが好ましい。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、DOTMAおよび/またはDOTAPである。
【0241】
RNAリポプレックス粒子の正電荷と負電荷の全体的な比率および物理的安定性を調整するために、さらなる脂質を組み込んでもよい。特定の実施形態では、さらなる脂質は中性脂質である。本明細書で使用される場合、「中性脂質」は、ゼロの正味電荷を有する脂質を指す。中性脂質の例には、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、コレステロール、およびセレブロシドが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、さらなる脂質は、DOPE、コレステロールおよび/またはDOPCである。
【0242】
特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、カチオン性脂質およびさらなる脂質の両方を含む。例示的な実施形態では、カチオン性脂質はDOTMAであり、さらなる脂質はDOPEである。
【0243】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つのさらなる脂質とのモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、または約3:1~約1:1である。特定の実施形態では、モル比は、約3:1、約2.75:1、約2.5:1、約2.25:1、約2:1、約1.75:1、約1.5:1、約1.25:1、または約1:1であり得る。例示的な実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つのさらなる脂質とのモル比は、約2:1である。
【0244】
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、一実施形態では、約200nm~約1000nm、約200nm~約800nm、約250nm~約700nm、約400nm~約600nm、約300nm~約500nm、または約350nm~約400nmの範囲の平均直径を有する。特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約200nm、約225nm、約250nm、約275nm、約300nm、約325nm、約350nm、約375nm、約400nm、約425nm、約450nm、約475nm、約500nm、約525nm、約550nm、約575nm、約600nm、約625nm、約650nm、約700nm、約725nm、約750nm、約775nm、約800nm、約825nm、約850nm、約875nm、約900nm、約925nm、約950nm、約975nm、または約1000nmの平均直径を有する。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約250nm~約700nmの範囲の平均直径を有する。別の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約300nm~約500nmの範囲の平均直径を有する。例示的な実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約400nmの平均直径を有する。
【0245】
本開示のRNAリポプレックス粒子の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する電荷とRNAに存在する電荷との合計である。電荷比は、少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する正電荷とRNAに存在する負電荷の比である。少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する正電荷とRNAに存在する負電荷の電荷比は、以下の式によって計算される:電荷比=[(カチオン性脂質濃度(mol))*(カチオン性脂質中の正電荷の総数)]/[(RNA濃度(mol))*(RNA中の負電荷の総数)]。
【0246】
生理的pHでの本明細書に記載の脾臓標的化RNAリポプレックス粒子は、好ましくは、正電荷と負電荷の電荷比が約1.9:2~約1:2などの正味の負電荷を有する。特定の実施形態では、生理的pHでのRNAリポプレックス粒子における正電荷と負電荷の電荷比は、約1.9:2.0、約1.8:2.0、約1.7:2.0、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、または約1:2.0である。
【0247】
本明細書に記載されるCAR改変細胞およびさらなる薬剤は、治療的または予防的治療のための医薬組成物または医薬品で投与され得、任意の適切な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0248】
「医薬組成物」という用語は、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に、治療上有効な薬剤を含む製剤に関する。前記医薬組成物は、前記医薬組成物を対象に投与することによって疾患または障害を治療する、予防する、またはその重症度を軽減するのに有用である。医薬組成物は、当技術分野では医薬製剤としても公知である。
【0249】
本開示の医薬組成物は、1つ以上のアジュバントを含み得るか、または1つ以上のアジュバントと共に投与され得る。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長、増強または加速する化合物に関する。アジュバントは、油エマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、または免疫刺激複合体などの不均一な化合物の群を含む。アジュバントの例には、限定されることなく、LPS、GP96、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、成長因子、およびモノカイン、リンホカイン、インターロイキン、ケモカインなどのサイトカインが含まれる。ケモカインは、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL12、IFNα、IFNγ、GM-CSF、LT-aであり得る。さらなる公知のアジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント、またはMontanide(登録商標)ISA51などの油である。本開示で使用するための他の適切なアジュバントには、Pam3Cysなどのリポペプチドが含まれる。
【0250】
本開示による医薬組成物は、一般に「薬学的に有効な量」および「薬学的に許容される製剤」で適用される。
【0251】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0252】
「薬学的に有効な量」または「治療有効量」という用語は、単独でまたはさらなる用量と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を中断または逆転させることを含む。疾患の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の予防であり得る。本明細書に記載の組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書に記載の組成物の投与量は、そのような様々なパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0253】
本開示の医薬組成物は、塩、緩衝剤、防腐剤、および任意で他の治療薬を含み得る。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。
【0254】
本開示の医薬組成物で使用するための適切な防腐剤には、限定されることなく、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0255】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、本開示の医薬組成物中に存在し得るが、活性成分ではない物質を指す。賦形剤の例には、限定されることなく、担体、結合剤、希釈剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤、または着色剤が含まれる。
【0256】
「希釈剤」という用語は、希釈するおよび/または希薄にする薬剤に関する。さらに、「希釈剤」という用語には、流体、液体もしくは固体の懸濁液および/または混合媒体のいずれか1つ以上が含まれる。適切な希釈剤の例には、エタノール、グリセロールおよび水が含まれる。
【0257】
「担体」という用語は、医薬組成物の投与を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然、合成、有機、無機であり得る成分を指す。本明細書で使用される担体は、対象への投与に適した1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または封入物質であり得る。適切な担体には、限定されることなく、滅菌水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、滅菌塩化ナトリウム溶液、等張食塩水、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーが含まれる。一実施形態では、本開示の医薬組成物は等張食塩水を含む。
【0258】
治療的使用のための薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0259】
医薬担体、賦形剤または希釈剤は、意図される投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。
【0260】
一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内または筋肉内に投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、局所投与または全身投与用に製剤化される。全身投与は、胃腸管を介した吸収を含む経腸投与、または非経口投与を含み得る。本明細書で使用される場合、「非経口投与」は、静脈内注射などによる、胃腸管を介する以外の任意の方法での投与を指す。好ましい実施形態では、医薬組成物は全身投与用に製剤化される。別の好ましい実施形態では、全身投与は静脈内投与によるものである。組成物は、腫瘍またはリンパ節に直接注射され得る。
【0261】
本明細書で使用される「同時投与」という用語は、異なる化合物または組成物が同じ患者に投与されるプロセスを意味する。例えば、本明細書に記載されるCAR改変細胞および抗原またはそれをコードする核酸は、同時に、本質的に同時に、または連続的に投与され得る。投与が連続的に行われる場合、CAR改変細胞は、抗原またはそれをコードする核酸の投与の前または後に投与され得る。投与が同時に行われる場合、CAR改変細胞および抗原またはそれをコードする核酸は、同じ組成物内で投与される必要はない。CAR改変細胞および抗原またはそれをコードする核酸は、1回以上投与されてもよく、各成分の投与回数は同じであっても異なっていてもよい。さらに、CAR改変細胞および抗原またはそれをコードする核酸は、同じ部位に投与される必要はない。
【0262】
「疾患」という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候に関連する医学的状態として解釈される。疾患は、感染症などの外部からの要因によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの内部機能不全によって引き起こされ得る。ヒトでは、「疾患」はしばしば、罹患した個人に疼痛、機能障害、苦痛、社会的な問題、もしくは死を引き起こす、または個人と接触する人々に同様の問題を引き起こす状態を指すためにより広く使用される。このより広い意味では、疾患は時に、損傷、無力、障害、症候群、感染、孤発症状、逸脱した挙動、および構造と機能の非定型の変化を含むが、他の状況および他の目的では、これらは区別可能なカテゴリと見なされ得る。多くの疾患を患い、それと共に生活することは、人生観および人格を変える可能性があるため、疾患は通常、身体的だけでなく感情的にも個体に影響を及ぼす。
【0263】
本文脈において、「治療」、「治療する」または「治療的介入」という用語は、疾患または障害などの状態と闘うことを目的とした対象の管理およびケアに関する。この用語は、症状もしくは合併症を緩和するため、疾患、障害もしくは状態の進行を遅らせるため、症状および合併症を緩和もしくは軽減するため、ならびに/または疾患、障害もしくは状態を治癒もしくは除去するため、ならびに状態を予防するための治療上有効な化合物の投与などの、対象が罹患している所与の状態に対するあらゆる範囲の治療を含むことを意図しており、予防は、疾患、状態または障害と闘う目的での個体の管理およびケアとして理解されるべきであり、症状または合併症の発症を防止するための活性化合物の投与を含む。
【0264】
「治療的治療」という用語は、個体の健康状態を改善する、および/または寿命を延長(増加)させる任意の治療に関する。前記治療は、個体における疾患を排除し、個体における疾患の発症を停止もしくは遅延させ、個体における疾患の発症を阻害もしくは遅延させ、個体における症状の頻度もしくは重症度を低下させ、および/または現在疾患を有しているかもしくは以前に有していたことがある個体における再発を減少させ得る。
【0265】
「予防的治療」または「防止的治療」という用語は、個体において疾患が発生するのを防ぐことを目的とした任意の治療に関する。「予防的治療」または「防止的治療」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0266】
「個体」および「対象」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、疾患または障害(例えば癌)に罹患し得るかまたは罹患しやすいが、疾患または障害を有していてもよくまたは有していなくてもよいヒトまたは別の哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長動物)を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。特に明記されない限り、「個体」および「対象」という用語は特定の年齢を示すものではなく、したがって成人、高齢者、子供、および新生児を包含する。本開示の実施形態では、「個体」または「対象」は「患者」である。
【0267】
「患者」という用語は、治療のための個体または対象、特に罹患した個体または対象を意味する。
【0268】
癌治療における併用戦略は、結果として生じる相乗効果のために望ましい場合があり、これは、単剤療法アプローチの影響よりもかなり強力であり得る。一実施形態では、医薬組成物は免疫療法剤と共に投与される。本明細書で使用される場合、「免疫療法剤」は、特定の免疫応答および/または免疫エフェクタ機能(1つまたは複数)の活性化に関与し得る任意の薬剤に関する。本開示は、免疫療法剤としての抗体の使用を企図する。理論に拘束されることを望むものではないが、抗体は、アポトーシスを誘導する、シグナル伝達経路の成分をブロックする、または腫瘍細胞の増殖を阻害することを含む、様々な機構を通して癌細胞に対する治療効果を達成することができる。特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を介して細胞死を誘導し得るか、または補体タンパク質に結合して、補体依存性細胞傷害(CDC)として公知の直接的な細胞毒性をもたらし得る。本開示と組み合わせて使用し得る抗癌抗体および潜在的な抗体標的(括弧内)の非限定的な例には、アバゴボマブ(CA-125)、アブシキシマブ(CD41)、アデカツムマブ(EpCAM)、アフツズマブ(CD20)、アラシズマブペゴル(VEGFR2)、アルツモマブペンテテート(CEA)、アマツキシマブ(MORAb-009)、アナツモマブマフェナトクス(TAG-72)、アポリズマブ(HLA-DR)、アルシツモマブ(CEA)、アテゾリズマブ(PD-L1)、バビツキシマブ(ホスファチジルセリン)、ベクツモマブ(CD22)、ベリムマブ(BAFF)、ベバシズマブ(VEGF-A)、ビバツズマブメルタンシン(CD44 v6)、ブリナツモマブ(CD19)、ブレンツキシマブベドチン(CD30 TNFRSF8)、カンツズマブメルタンシン(ムチンCanAg)、カンツズマブラブタンシン(MUC1)、カプロマブペンデチド(前立腺癌細胞)、カルルマブ(CNT0888)、カツマキソマブ(EpCAM、CD3)、セツキシマブ(EGFR)、シタツズマブボガトクス(EpCAM)、シクスツムマブ(IGF-1受容体)、クローディキシマブ(クローディン)、クリバツズマブテトラキセタン(MUC1)、コナツムマブ(TRAIL-R2)、ダセツズマブ(CD40)、ダロツズマブ(インスリン様増殖因子I受容体)、デノスマブ(RANKL)、デツモマブ(Bリンパ腫細胞)、ドロジツマブ(DR5)、エクロメキシマブ(GD3ガングリオシド)、エドレコロマブ(EpCAM)、エロツズマブ(SLAMF7)、エナバツズマブ(PDL192)、エンシツキシマブ(NPC-1C)、エプラツズマブ(CD22)、エルツマキソマブ(HER2/neu、CD3)、エタラシズマブ(インテグリンανβ3)、ファルレツズマブ(葉酸受容体1)、FBTA05(CD20)、フィクラツズマブ(SCH 900105)、フィギツムマブ(IGF-1受容体)、フランボツマブ(糖タンパク質75)、フレソリムマブ(TGF-β)、ガリキシマブ(CD80)、ガニツマブ(IGF-I)、ゲムツズマブオゾガマイシン(CD33)、ゲボキズマブ(ILΙβ)、ギレンツキシマブ(炭酸脱水酵素9(CA-IX))、グレムバツムマブベドチン(GPNMB)、イブリツモマブチウキセタン(CD20)、イクルクマブ(VEGFR-1)、イゴボマ(CA-125)、インダツキシマブラブタンシン(SDC1)、インテツムマブ(CD51)、イノツズマブオゾガマイシン(CD22)、イピリムマブ(CD152)、イラツムマブ(CD30)、ラベツズマブ(CEA)、レクサツムマブ(TRAIL-R2)、リビビルマブ(B型肝炎表面抗原)、リンツズマブ(CD33)、ロルボツズマブメルタンシン(CD56)、ルカツムマブ(CD40)、ルミリキシマブ(CD23)、マパツムマブ(TRAIL-R1)、マツズマブ(EGFR)、メポリズマブ(IL5)、ミラツズマブ(CD74)、ミツモマブ(GD3ガングリオシド)、モガムリズマブ(CCR4)、モキセツモマブパスドトクス(CD22)、ナコロマブタフェナトクス(C242抗原)、ナプツモマブエスタフェナトクス(5T4)、ナマツマブ(RON)、ネシツムマブ(EGFR)、ニモツズマブ(EGFR)、ニボルマブ(IgG4)、オファツムマブ(CD20)、オララツマブ(PDGF-R a)、オナルツズマブ(ヒト散乱因子受容体キナーゼ)、オポルツズマブモナトクス(EpCAM)、オレゴボマブ(CA-125)、オキセルマブ(OX-40)、パニツムマブ(EGFR)、パトリツマブ(HER3)、ペムツモマ(MUC1)、ペルツズマ(HER2/neu)、ピンツモマブ(腺癌抗原)、プリツムマブ(ビメンチン)、ラコツモマブ(N-グリコリルノイラミン酸)、ラドレツマブ(フィブロネクチンエクストラドメインB)、ラフィビルマブ(狂犬病ウイルス糖タンパク質)、ラムシルマブ(VEGFR2)、リロツムマブ(HGF)、リツキシマブ(CD20)、ロバツムマブ(IGF-1受容体)、サマリズマブ(CD200)、シブロツズマブ(FAP)、シルツキシマブ(IL6)、タバルマブ(BAFF)、タカツズマブテトラキセタン(α-フェトプロテイン)、タプリツモマブパプトクス(CD19)、テナツモマブ(テネイシンC)、テプロツムマブ(CD221)、チシリムマブ(CTLA-4)、ティガツズマブ(TRAIL-R2)、TNX-650(IL13)、トシツモマブ(CD20)、トラスツズマブ(HER2/neu)、TRBS07(GD2)、トレメリムマブ(CTLA-4)、ツコツズマブセルモロイキン(EpCAM)、ウブリツキシマブ(MS4A1)、ウレルマブ(4-1BB)、ボロシキシマブ(インテグリンα5β1)、ボツムマブ(腫瘍抗原CTAA 16.88)、ザルツムマブ(EGFR)、およびザノリムマブ(CD4)が含まれる。
【0269】
本明細書で参照される文書および試験の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることの承認を意図するものではない。これらの文書の内容に関する全ての記述は、出願人が入手できる情報に基づいており、これらの文書の内容の正確さについての承認を構成するものではない。
【実施例
【0270】
本発明を、以下の実験例を参照してさらに詳細に説明する。これらの例は、例示のみを目的として提供されており、特に明記されない限り、限定することを意図しない。したがって、本発明は、決して以下の例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0271】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明および以下の例示的な例を使用して、本発明の化合物を作製および利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指し示すものであり、決して本開示の残りの部分を限定するものと解釈されるべきではない。
【0272】
(実施例1)
材料および方法
本明細書で使用される技術および方法は、本明細書に記載されているか、またはそれ自体公知の方法で、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載されているように実施される。キットおよび試薬の使用を含む全ての方法は、特に指示されない限り、製造者の情報に従って実施される。
【0273】
CAR構築物
γ-レトロウイルス自己不活性化(SIN)ベクターpES.12-6を使用して、内部真核生物プロモータである短いイントロンレス型のヒト伸長因子1αプロモータ(EFS-213/+31)の制御下で、ヒトT細胞においてCLDN6-CAR-BBzを安定に過剰発現させた。ベクター骨格は、5'-および3'-LTRにR領域およびU5領域のMLV野生型配列ならびにパッケージング領域(ψおよびψ+)を含む。3'-LTRのU3領域中のエンハンサエレメントを除去し(CAATボックスを含む)、TATAボックス配列を、転写開始を妨げるように変異させた。望ましくないウイルスタンパク質の発現を防ぐために、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)の転写後調節エレメント(PRE)の短縮型を使用する。
【0274】
CLDN6-CAR-BBzは、ヒトIgGのシグナル伝達ペプチドである、重鎖(VH)と軽鎖(V)の間に(GS)リンカーを有し、Vの46位(配列表に示すVの45位)にシステインからセリンへの置換を含むCLDN6特異的抗体IMAB206(Ganymed Pharmaceuticals)の一本鎖Fv断片を含む。scFv断片をヒトCD8αヒンジおよび膜貫通領域に融合し、続いてヒト4-1BBおよびヒトCD3ζ(Q14K)シグナル伝達部分に融合する。
【0275】
細胞株および試薬
ヒトCLDN6を発現する奇形腫細胞株PA-1-SC12_A0201_luc_gfpを、10%(v/v)FCS(Biochrom)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)、1mM MEM非必須アミノ酸溶液(Gibco)および2%(v/v)重炭酸ナトリウム溶液(Gibco)を添加したMEM-GlutaMAX培地で培養した。細胞株は、HLA-A*0201、ルシフェラーゼおよびGFPを過剰発現する。
【0276】
卵巣癌細胞株OV-90-SC12を、41.5%(v/v)MCDB 105培地(Sigma-Aldrich)、15%(v/v)FCSおよび2%(v/v)の7.5%重炭酸ナトリウム溶液を添加した41.5%(v/v)Medium 199(Sigma Aldrich)で培養した。
【0277】
ヒト黒色腫細胞株SK-MEL-37の培地は、10%(v/v)FCSを添加した90%DMEM GlutaMAX(商標)(Gibco)で構成される。
【0278】
MDA-MB-231の培地は、88%(v/v)RPMI 1640 GlutaMAX(商標)(Gibco)で構成され、これに10%FCS、1mMピルビン酸ナトリウム、1mM MEM非必須アミノ酸溶液を添加した。
【0279】
ヒト腺癌細胞株23132-87およびヒト黒色腫細胞株MEL-526を、10%(v/v)熱不活性化FCSを添加した90%(v/v)RPMI 1640 GlutaMAX(商標)(Gibco)で培養した。
【0280】
HEK-293の培地は、90%(v/v)イーグル最小必須培地(EMEM)(ATCC)および10%(v/v)FCSで構成された。
【0281】
SKOV-3を、10%(v/v)FCSを添加した90%(v/v)マッコイの5A培地(ATCC)で培養した。
【0282】
ヒト卵巣細胞株NIH-OVCAR-3を、20%(v/v)FCSおよび0.1%(w/v)インスリン(Sigma-Aldrich)を添加した80%(v/v)RPMI 1640 GlutaMAX(商標)(Gibco、カタログ番号61870)で培養した。
【0283】
ヒト腫瘍細胞株LCLC-103H、COLO-699-N、JARおよびNEC-8を、10%(v/v)FCSを添加した90%(v/v)RPMI 1640 GlutaMAX(商標)(Gibco)で培養した。
【0284】
細胞株の播種および/または分割は、2日または3日ごとに行った。
【0285】
末梢血単核細胞(PBMC)および樹状細胞(DC)
PBMCを、Ficoll(登録商標)-Hypaque(1.077g/mL Amersham Biosciences)密度勾配遠心分離によってバフィーコートから単離した。単球を抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で濃縮した。未成熟DC(iDC)を、1000U/mL h GM-CSF(Essex,Lucerne,Switzerland)および1000U/mL h IL-4(Strathmann Biotech,Hamburg,Germany)を添加した、RPMI 1640 GlutaMAX(商標)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1mMピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、および5%(v/v)熱不活性化ヒトAB血清(全てInvitrogen,Karlsruhe,Germanyより)からなるDC培地での培養によって分化させた。
【0286】
T細胞の形質導入
Dynabeads(登録商標)Human T-Expander CD3/CD28 CTSを使用したCD3/CD28high+T細胞の磁気分離によって、T細胞をPBMCから濃縮した。細胞を3対1のビーズ対CD3T細胞比でインキュベートし、CTS DynaMag磁石を使用して分離した。濃縮したT細胞を、450U/mL rh IL-7および50U/mL rh IL-15(両方ともMiltenyi Biotecより)の存在下で、5%(v/v)ヒト血清を添加したX-VIVO 15培地で培養した。3日後、磁石を使用してCD3/CD28ビーズを除去し、事前に活性化したT細胞に、最終濃度25μg/mLのProtransduzin(登録商標)-Aの存在下でレトロウイルスベクターを形質導入した。細胞を完全培地で7日目または10日目まで増殖させ、CAR表面発現、T細胞表現型およびエフェクタ機能を評価するために直接使用するか、または凍結保存した。
【0287】
インビトロ培養細胞でのフローサイトメトリ分析
形質導入したCARの細胞表面発現を、全てのCLDN6-CAR構築物に含まれるscFv断片を認識するAlexa-Fluor-647結合イディオタイプ特異的抗体(Ganymed Pharmaceuticals)を使用して分析した。標的細胞でのCLDN6表面発現を、Alexa-Fluor647結合CLDN6特異的抗体IMAB027(Ganymed Pharmaceuticals)で染色することによって分析した。フローサイトメトリ測定は、FACSCanto(商標)IIフローサイトメータでFACSDiva(商標)ソフトウェア(BD Biosciences)を使用して実施し、分析はFlowJo(登録商標)V10(treestar inc.)を使用して実施した。
【0288】
定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
RNeasy(登録商標)Mini Kit(QIAGEN)を使用して、示された細胞株から全RNAを単離した。qRT-PCR用のcDNAを得るためのRNAの逆転写のために、gDNA Eraser(TAKARA)を含むPrimeScript(商標)RT Reagent Kitを、1μgの全RNAから始めて使用した。定量的リアルタイムPCRを、以下のプライマー(5'-3')を用いて、QuantiTect SYBR(登録商標)Green PCRキット(QIAGEN)を使用して実施した:CLDN6-順方向:CTT ATC TCC TTC GCA GTG CAG、CLDN6-逆方向:AAG GAG GGC GAT GAC ACA GAG、HPRT 1-順方向:TGA CAC TGG CAA AAC AAT GCA、HPRT 1-逆方向:GGT CCT TTT CAC CAG CAA GCT(アニーリング温度:62℃)。
【0289】
xCELLigence細胞傷害性アッセイ
CAR媒介細胞傷害性の評価のために、xCELLigenceシステム(OMNI Life Science)を使用した。細胞指数(CI)インピーダンス測定は、供給者の指示に従って実施した。指数関数的増殖曲線をもたらす最適な細胞密度を各腫瘍細胞株について決定した。標的細胞をウェルあたり2~10細胞の濃度でEプレート96 PET(ACEA Biosciences Inc.)に播種した。24時間後、様々な数のCAR形質導入T細胞を最終容量200μLで添加し、xCELLigenceシステムによって最大48時間にわたって30分ごとにモニターした。
【0290】
特異的溶解パーセントを以下のように計算した:
(CI Lmin-CIsample)/CI Lmin×100
【0291】
標準偏差は以下のように計算した:
100×(CIsample/CI Lmin)×{√[(CIsampleのSTDEV/CIsample+(CI LminのSTDEV/CI Lmin]}
【0292】
最小溶解(Lmin)に対応する最大細胞指数を、標的細胞を対照抗原(例えばeGFP、対照CAR)を発現するエフェクタT細胞とインキュベートした後に評価した。
【0293】
CFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)増殖アッセイ
抗原特異的刺激後の増殖T細胞のパーセンテージを決定するために、CAR発現T細胞を1.6μMの蛍光色素カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で37℃(光から保護)にて10分間標識した。遊離色素を除去するために、純粋なFCSを細胞に添加し、さらに5分間インキュベートした。細胞を洗浄し、培養培地に再懸濁し、96ウェル丸底プレートにおいて総容量200μLのDC培地中で、異なるエフェクタ対標的(E:T)比を使用して標的細胞と共培養した。5日間の共培養後、細胞を、例えばCD4、CD8およびCARに対する蛍光色素結合抗体で染色した。増殖中のT細胞のパーセンテージを、BD FACSCanto(商標)IIフローサイトメータ(Becton Dickinson)を使用して、細胞分裂後の娘細胞内のCFSE蛍光の漸進的な半減に基づいてフローサイトメトリによって分析した。
【0294】
スフェロイドアッセイ(IncuCyte(登録商標))
腫瘍スフェロイドは、遠心分離後48時間、Corning(登録商標)Costar(登録商標)Ultra-Low Attachment 96丸底ウェルプレートにおいて10%(v/v)FCS、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウム、1%(v/v)MEM NEAAおよび2%(v/v)重炭酸ナトリウムを添加したMEM-GlutaMAX培地中で、ウェルあたり1×10個のPA1-SC12-A2-eGFP細胞を培養することによって生成した。CAR T細胞を添加し(1×10/ウェル)、eGFPを発現する腫瘍スフェロイドを4倍の倍率および300ミリ秒の露光時間で画像化して、IncuCyte Zoom Live-content imaging system(Essen Bioscience)において37℃、5%COで緑色蛍光を検出した。画像を10日間にわたって1時間ごとに取得した。IncuCyte分析ソフトウェアを使用してデータを分析して、総緑色対象積分強度(GCU×μm/画像)を検出および定量化した。IncuCyte分析ソフトウェアを使用して、各時点での緑色対象数の平均とSDをプロットした。
【0295】
インビトロ転写(IVT)mRNAの作製
抗原をコードするmRNAのインビトロ転写は、pST1-T7-GG-hAg-MCS-2hBg-A30LA70プラスミド骨格および派生DNA構築物に基づいた。これらのプラスミド構築物は、全長ORFの他に、5'ヒトαグロビン、2つの連続した3'ヒトβグロビンUTRおよび100ヌクレオチドのポリ(A)尾部を含み、70ヌクレオチド後にリンカーを有する。Holtkamp S.et al.(2006)Blood 108(13):4009-17に記載されているように、抗原をコードするmRNAをインビトロ転写によって生成した。記載されている全てのmRNA構築物のインビトロ転写は、BioNTech RNA Pharmaceuticals GmbHで実施された。
【0296】
リポソーム製剤化された抗原をコードするIVT RNA(RNA(LIP))の生成および樹状細胞のインビトロトランスフェクション
抗原をコードするIVT RNAとリポソームとの複合体化は、以前にKranz et al(2016)Nature 534(7607):396-401に記載された。カチオン性DOTMAとRNAの1.3対2の電荷比を使用した。DOTMAに加えて、脂質画分は、DOPEあたり2:1のDOTMAのモル比でヘルパー脂質DOPEを含む。
【0297】
動物実験技術
動物
9~21週齢の雌性免疫不全NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスをインビボ試験に使用した。繁殖ペアをJackson laboratory(Bar Harbour,ME,USA)から購入し、BioNTech AG,Germanyの動物施設で飼育した。C57BL/6BrdCrHsd-TyrマウスはEnvigo Labsから購入した。実験全体を通して、年齢(8~10週齢)および性別(雄性または雌性)が一致する動物を使用した。コンジェニックC57Bl/6-Thy1.1マウスをBioNTech AG,Germanyの動物施設で飼育した。全ての実験は、特定病原体除去(SPF)条件下でドイツの動物実験規則に従って実施した。
【0298】
腫瘍細胞の移植
5×10個のOV90-SC12または5×10個のCT26腫瘍細胞のいずれかをマウスの右背側腹部に皮下注射した(100μLのPBS中)。腫瘍成長モニタリングおよび体積計算をキャリパーを使用して決定し、式V=1/2(長さ×幅2)に挿入した。ヒトCAR操作T細胞の養子移入の前に、Daniels's XL Toolbox Add-in for Microsoft Excelを使用して担癌マウスを層別化して、異なる処置群間での膨大な腫瘍体積分布を実現した。
【0299】
ヒトT細胞の養子細胞移入(ACT)
異なる量のγ-レトロウイルスで形質導入された全ヒトT細胞(CARまたはGFP導入遺伝子を発現するT細胞の数および頻度をそれぞれの図に示す)を、200μLのPBS中で球後神経叢に静脈内注射した。実験設定に応じて、それぞれ、形質導入T細胞をインビトロ活性化および形質導入プロセス後に直接使用するか、または凍結保存した形質導入T細胞を解凍し、PBSで2回洗浄した後にマウスに直接養子移入した。実験で使用した全てのT細胞産物の生存率は>90%であった。
【0300】
血液中のインビボでのヒトCAR T細胞のモニタリング
示された時点で、眼窩後静脈から50μLの末梢血を回収し、ヘパリン含有反応チューブ(Sarstedt)に収集した。BD FACS溶解溶液(BD)を使用して赤血球を溶解した。移入されたヒトT細胞の表面でのCAR発現を、hCD45-PE-Cy7(HI30、BD)、hCD4-APC-Cy7(OKT4、BioLegend)、hCD8-BV421(RPA-T8、BD)およびAlexa-Fluor 647結合イディオタイプ特異的抗体(Ganymed Pharmaceuticals)を使用して分析した。7-AAD(Beckmann Coulter)を使用して死細胞を分析と区別した。フローサイトメトリ測定は、FACSCanto(商標)IIフローサイトメータでFACSDiva(商標)ソフトウェア(BD Biosciences)を使用して実施し、分析はFlowJo(登録商標)V10(Treestar inc.)を使用して実施した。
【0301】
レトロウイルス遺伝子操作および養子T細胞移入のためのCAR T細胞の調製
ナイーブC57Bl/6-Thy1.1+またはBalb/c-Thy1.1+のいずれかの脾細胞を単離し、5ng/mLの組換えヒト(rh)IL-7および5ng/mLのrh IL-15(Miltenyi Biotec)の存在下で、1:1のビーズ対T細胞比でDynabeads(商標)マウスTアクチベータCD3/CD28(Invitrogen)によって予備活性化した。マウス細胞の形質導入のために、MLV-E偽型レトロウイルス上清を、RetroNectin(2μg/cm)で被覆した非組織培養処理ウェルプレートに製造者の指示(Takara Bio Inc.,Otsu,Japan)に従って負荷し、結合を増加させるためにウイルス負荷および遠心分離(1,300×g、15℃、15分)のサイクルを3回繰り返した。予備活性化の24時間後、0.5~0.6×10細胞/cmをウイルス粒子被覆ウェル上にスピンダウンした(300xg、37℃、1時間)。一晩培養した後、新たにウイルス粒子で被覆したプレートを用いてスピンダウン形質導入を繰り返した。予備活性化の72時間後、Dynabeads(商標)マウスTアクチベータCD3/CD28を培養物から取り出し、5ng/mLのrh IL-7および5ng/mLのrh IL-15の存在下で細胞を増殖させた。フィコール洗浄後、細胞をPBSで2回洗浄して血清タンパク質を除去し、次いで、養子細胞移入(ACT)用に調製した。コードされたCLDN6-CAR-BBzならびに2Aスプライスエレメント(Szymczak et.AL,Nature Biotechnology,(2004)Nat Biotechnol.22(5):589-94)を使用して別々に発現させた増強ホタルルシフェラーゼ(effLuc;Rabinovich et al.BA,PNAS(2008)PNAS 105(38):14342-6)およびeGFP(増強緑色蛍光タンパク質)レポータ遺伝子を含むpES12.6ベースのレトロウイルスベクターを形質導入に使用した。
【0302】
マウスT細胞の養子T細胞移入およびRNA(LIP)ワクチン接種
γ-レトロウイルで形質導入されたCARコンジェニックThy1.1T細胞を、全身照射された(XRAD320)C57BL/6BrdCrHsd-TyrまたはBALB/cドナーマウスにそれぞれ静脈内(i.v.)移入した。その後、ACT後の様々な時点で、マウスに、1.3:2のF12:RNA比の抗原をコードするRNA(LIP)を静脈内(i.v.)ワクチン接種した。CARのインビボ増殖を全身生物発光イメージングによって分析し、抗腫瘍効果を腫瘍モニタリングによって分析した。
【0303】
インビボルシフェラーゼイメージング(BLI)
CAR-effLuc-GFP形質導入T細胞の増殖および分布を、IVIS Luminaイメージングシステム(Caliper Life Sciences)を使用したインビボ生物発光イメージングによって評価した。簡単に説明すると、形質導入したT細胞の養子移入後の示されている時点で、D-ルシフェリンの水溶液(80mg/kg体重;Perkin Elmer)をi.p.注射した。5分後、放出された光子を定量化した(積分時間1分、ビニング8)。関心領域(ROI)におけるインビボ生物発光を、IVIS Living Image 4.0ソフトウェアを使用して全光束(光子/秒)として定量化した。動物内のルシフェラーゼ発現細胞に由来する透過光の強度をグレースケール画像として表し、黒色が最も弱く、白色から暗灰色が最も強い生物発光シグナルである。マウスのグレースケール参照画像をLED低照度照明下で取得した。Living Image 4.0ソフトウェアを使用して画像を重ね合わせた。
【0304】
統計分析およびデータの描写
全ての結果は、テクニカルレプリケートの平均+/-SDまたはバイオロジカルレプリケートの平均+/-SEMで表されている。レプリケート試料の数は、各実験の図面の説明に記載されている。対応のない両側スチューデントt検定を、2つの群の曲線下面積(AUC)比較に使用した。全ての統計分析は、GraphPad PRISM 6.04を使用して実施した。***P≦0.001、****P≦0.0001。
【0305】
(実施例2)
CLDN6特異的CARの生成およびインビトロ特性評価
リード構造の選択のために、CLDN6特異的抗体IMAB206-C46Sに由来する同じscFv断片を全て共有するが、ヒンジドメインと共刺激ドメインが異なる様々なCAR骨格を生成した(図1A)。4-1BB共刺激はCAR T細胞の持続性および抗腫瘍効果を増加させることが示されているので、4-1BBエンドドメインを含む第2世代および第3世代のCAR骨格を含めた。あるいはまたはさらに、B7.1およびB7.2などのアゴニストCD 28リガンドの非存在下で操作されたT細胞にCD28媒介性共刺激を送達することが公知の、改変されたCD28ドメイン(Kofler D.M.et al.,(2011)Molecular Therapy 19(4),760-767)を組み込んだ。scFv断片を、修飾IgG Fc(Hombach A.et al.,(2010)Gene Therapy 17,1206-1213)またはCD8αヒンジ領域のいずれかを介して4-1BBまたはCD28共刺激ドメインに融合した。
【0306】
様々なCLDN6-CARを、CLDN6発現腫瘍細胞を高感度かつ特異的に認識し、死滅させる可能性についてインビトロで広範囲に特性付けた。他の実験の中でも特に、eGFPを発現するPA1腫瘍スフェロイドと組み合わせてCAR形質導入T細胞を使用して、腫瘍スフェロイドアッセイを実施した。実際に、CD28ドメインを有するCARと比較して、4-1BB含有CARによるCLDN6発現腫瘍スフェロイドの溶解加速を、IncuCyte(登録商標)リアルタイムイメージングを使用して検出することができた(図1B)。
【0307】
様々な機能的特性評価試験の結果の要約に基づいて、CLDN6の非常に特異的で高感度の認識、ならびに操作されたCAR T細胞の生存および反復刺激の高い可能性を実証することができたので、CLDN6-CAR-CD8h-BBzを前臨床および臨床試験のためのリード構造として選択した。重要なことに、このCAR骨格は、いくつかのCD19-CAR T細胞試験において既に成功裏に使用された。本発明者らのCLDN6-CARをT細胞ゲノムに安定に組み込むために、治療用CLDN6-CARをT細胞ゲノムに安定に組み込むためのγ-レトロウイルス自己不活性化(SIN)ベクターpES12.6を選択した(Loew et al.,Gene Therapy(2010)17,272-280)。
【0308】
(実施例3)
CLDN6-CAR-BBzの感受性
CAR媒介認識の感受性をより詳細に分析するために、CLDN6-RNA滴定実験を行った。この目的のために、CLDN6陰性肺癌細胞株Colo699-Nを滴定量のCLDN6-RNAでトランスフェクトし、CLDN6-CAR媒介標的細胞溶解をxCELLigence細胞傷害性アッセイによって評価した。形質導入されたT細胞でのCLDN6-CAR表面発現(図2A)およびトランスフェクトされたColo699-N細胞でのCLDN6タンパク質発現レベル(図2B)を、CLDN6-CAR特異的およびCLDN6特異的抗体で染色した後にフローサイトメトリによって評価した。CLDN6-CARを発現するT細胞によるCLDN6-RNAをトランスフェクトした標的細胞の特異的死滅が、フローサイトメトリによって評価されるように、標的細胞表面上のCLDN6分子の数と相関するColo699-N細胞のトランスフェクションに使用したCLDN6-RNA用量に依存して観察することができた(図2C)。わずか0.01μgのCLDN6-RNAのトランスフェクション後に標的細胞表面に非常に少数のCLDN6分子が発現された場合、CAR T細胞は溶解さえも媒介し、これはフローサイトメトリではほとんど検出できなかった。
【0309】
(実施例4)
CLDN6-CAR-BBzの安全性
CLDN6-CAR-BBzの安全性を評価するために、細胞株スクリーニングアッセイを実施した。この目的のために、CLDN6-CAR-BBzを形質導入したT細胞(図3A)を、異なる組織起源のCLDN6陽性およびCLDN6陰性腫瘍細胞株のパネルと共に培養し(図3B)、標的細胞の認識および溶解をxCELLigence細胞傷害性アッセイによって分析した(図3C)。並行して、標的細胞株におけるCLDN6-mRNAおよびタンパク質発現レベルを、それぞれqRT-PCRおよびフローサイトメトリによって評価した(図3D、3E)。標的細胞株の認識および溶解は、CLDN6 mRNAおよびタンパク質発現レベルと厳密に相関することが実証され得る。
【0310】
(実施例5)
CAR T細胞の増殖
CLDN6-CAR-BBz操作T細胞の抗腫瘍効果の必須の前提条件は、患者において増殖し、持続する能力である。CLDN6-CAR T細胞がiDCで異所的に発現されたCLDN6に応答して効率的に増殖するかどうかを分析するために、CFSEに基づくインビトロ共培養アッセイを実施した。CLDN6-CAR形質導入T細胞をCFSEで標識し、CLDN6または対照抗原のいずれかをコードする滴定量のRNAリポプレックス(RNA(LIP))でトランスフェクトした自己iDCと共培養した。T細胞でのCLDN6-CARおよび標的細胞でのCLDN6の表面発現をフローサイトメトリによって検証した(図4A、4B)。5日間の共培養後、CFSE標識CARを発現するCD4+およびCD8+T細胞の抗原特異的増殖をフローサイトメトリによって分析した(図4C)。
【0311】
CLDN6-CARは、トランスフェクトされたCLDN6-RNA(LIP)の量と相関する用量依存的増殖を媒介したが、iDCを対照RNA(LIP)でトランスフェクトした場合には、バックグラウンド増殖しか観察することができなかった。これらのデータは、CLDN6-CAR-BBz T細胞の効率的な抗原特異的増殖が抗原特異的刺激後に誘導されることを確認する。
【0312】
(実施例6)
CLDN6-CAR-BBzのインビボ抗腫瘍効果
エフェクタ機能のCAR媒介性抗原特異的誘導がインビトロで実証された後、ヒトCLDN6-CAR-BBz T細胞の治療可能性を進行した異種移植腫瘍モデルにおいてインビボで検討した。このために、免疫不全NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスに、内因性にCLDN6を発現するヒト卵巣癌細胞(OV90)を皮下移植した。次に、OV90腫瘍担持NSGマウスを、i.v.投与した1×10個のCLDN6-CARまたはeGFP形質導入T細胞(約5×10T細胞/kg)の単回用量で処置した(図5A)。CLDN6-CARは、ヒトCD4およびCD8T細胞の約16~18%で発現された(図5B)。注目すべきことに、CLDN6-CAR T細胞の養子移入は、養子移入の日に平均腫瘍体積が170mmであった大きな腫瘍の完全な退縮をもたらしたが、対照群では抗腫瘍効果は観察できなかった(図5C)。この有意な抗腫瘍効果は、処置マウスの末梢血中のCLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性と相関していた(図5D)。
【0313】
(実施例7)
短期および長期培養したCAR T細胞のインビトロ機能性
高品質の臨床グレードのCAR T細胞産物の再現性のある製造は臨床試験のための前提条件であるので、GMP製造プロセスを、CLDN6-CARを発現するT細胞の高い形質導入効率および十分な数と品質を達成するように最適化した。形質導入の数を2から1に減らし、エクスビボ培養時間を10日間から7日間に短縮することによって、形質導入手順も簡素化した。短期間培養したT細胞は、長期間増殖し、疲弊したT細胞と比較して改善された有効性を示すことが示されている(PMID:30030295)。したがって、培養時間の短縮は、時間とコストを節約するだけでなく、最も重要なことに、操作されたT細胞が患者において増殖し、持続する可能性の向上にもつながるはずである。
【0314】
短期(7日間)および長期(10日間)培養したCLDN6-CAR-BBz T細胞のインビトロ抗腫瘍効果を比較するために、長期スフェロイド実験を行った。フローサイトメトリによるCAR表面発現の評価は、ほぼ同等のCAR発現レベルを明らかにしたが、CAR陽性T細胞の頻度は、7日間培養したT細胞試料でわずかに低かった(図6A)。反復死滅の可能性を分析するために、CAR T細胞をCLDN6およびeGFPを発現するPA1-SC12-A2-eGFP腫瘍スフェロイドと共培養し、腫瘍スフェロイドの死滅を、IncuCyte(登録商標)システムを使用してeGFPシグナルに基づいてリアルタイムでモニターした。腫瘍スフェロイドの完全な根絶後、新しい腫瘍スフェロイドを添加した(図6B)。短期培養CAR T細胞は、長期培養T細胞と同等の反復死滅能を有することが実証され得る。
【0315】
(実施例8)
解凍したGMP製造CAR T細胞のインビボ機能性
臨床使用を目的としたGMP形質導入プロセスは、凍結保存されたCAR T細胞産物を生成するので、GMP施設で操作された解凍CLDN6-CAR-BBz T細胞の抗腫瘍能を検証することは非常に重要であった。さらに、最終的なGMP製造プロセスを短縮することができたので(10日目ではなく7日目に採取)、最終プロトコルのこの変更を、インビボ試験を行うことによって評価する必要があった。最も重要なことには、解凍したヒトCLDN6-CAR-BBz T細胞は、新たに生成されたCAR T細胞に匹敵する有意な抗腫瘍有効性を示し、卵巣癌異種移植モデルにおいて平均腫瘍体積が160mmの進行腫瘍を根絶した(図7A)。さらに、同様のCAR表面発現を示した7日目または10日目に採取したCAR T細胞(図7B)を、この実験でのそれらの抗腫瘍効果について比較した(図7C)。長期腫瘍スフェロイド実験の結果と相関して、両方のCAR T細胞産物は、同等の動態で完全な腫瘍拒絶反応を媒介した。両産物の抗腫瘍応答は、養子移入の2週間後の末梢血におけるCLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性と相関していた(図7D)。
【0316】
(実施例9)
CLDN6-CAR-BBz形質導入T細胞の持続性の増加
養子移入された腫瘍反応性T細胞療法の臨床的成功はまた、インビボでのそれらの細胞の持続性と正の相関がある(Robbins et al.(2004)J Immunol.173(12):7125-30、Huang et al.(2005)28(3):258-67)。そのため、インサイチュでの抗原曝露がインビボでCLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性を高めることができるかどうかを分析した。異種移植モデルは、マウス組織に対するヒトT細胞の移植片対宿主病および競合する内因性免疫細胞の欠如に起因して、CAR T細胞の長期持続性を検討するのに十分ではないため、CLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性試験をマウス同系マウスモデルで実施した。したがって、ルシフェラーゼを共発現するCLDN6-CAR-BBz CAR形質導入マウスT細胞を、軽度に刺激した(2.5Gy)マウスに養子移入し、続いて、CLDN6または対照抗原のいずれかをコードするRNA(LIP)を反復投与し、CAR T細胞集団の拡大を生物発光イメージングによって連続的にモニターした(図8A)。
【0317】
CLDN6-CAR-BBz T細胞は、インビボでリポソームに製剤化されたCAR抗原による反復ワクチン接種後にインビボで持続することができる(3ヶ月以上)。CAR T細胞は、対照群では経時的に消失するが、抗原特異的な再刺激されたCAR T細胞は、3回目および4回目のブーストラウンド後の3~4週間の処置休止後でも、各RNA(LIP)処置後に増殖する(図8Bおよび8C)。これらのデータは、BioNTechのRNA(LIP)技術が、インサイチュで天然の共刺激を提供することによって適切なCLDN6-CAR-BBz T細胞の活性化および増殖を支持し、これがまた、インビボで増殖したCLDN6-CAR-BBz T細胞の持続性の増加をもたらすことを実証する。
【0318】
(実施例10)
インビボで増殖したCLDN6-CAR-BBz T細胞の抗腫瘍活性の改善
CAR媒介抗原特異的増殖および持続性が実証された後、これらのインビボ増殖したCLDN6-CAR-BBz T細胞もまた、非増殖対応物と比較して増強された抗腫瘍能を示すかどうかという疑問が生じた。この目的のために、CLDN6dimを発現する結腸癌細胞株CT26を接種したBalb/cマウスを、中用量の1×10個のCLDN6-CAR-BBzまたは対照CAR-BBz形質導入マウスT細胞(3~4×10個のCAR発現T細胞)のいずれかで処置した。CAR T細胞のi.v.投与後、マウスに、全長CLDN6または全長対照抗原のいずれかをコードする20μgのRNA(LIP)による追加のワクチン接種を行った(図9A)。CLDN6-RNA(LIP)で処置した対照CAR-BBz処置動物では抗腫瘍効果は観察されず、マウスを非関連対照RNA(LIP)と組み合わせて中用量のCLDN6-CAR-BBz T細胞で処置した場合、わずかな腫瘍退縮しか達成できなかった。しかしながら、CLDN6-CAR-BBz T細胞のインビボ増殖を達成するために、CLDN6-RNA(LIP)ワクチン接種と中程度のCAR T細胞用量の組合せを投与したマウスは、著しく増強された腫瘍退縮を示した(図9B)。
【0319】
(実施例11)
低用量のインビボで増殖したCAR T細胞の抗腫瘍効果の回復
RNA(LIP)ベースのインビボCAR T細胞増殖が進行中の抗腫瘍応答を改善する可能性に加えて、この技術が不十分なCAR T細胞用量の抗腫瘍能を回復させるのによく適していることも示され得る。担癌マウスを、腫瘍拒絶反応に必要とされる用量の10分の1のCAR T細胞用量で処置した(図10A)。対照RNA(LIP)で処置したマウスでは腫瘍の増殖が観察されたが、最初の移植後にCAR抗原をコードするRNA(LIP)を投与された全ての動物は、腫瘍拒絶反応を示した(図10C)。したがって、末梢血中の移植されたCAR T細胞の頻度は、ワクチン接種後に著明に高かった(図10D)。移植後の不十分なCAR T細胞用量を、インビボ増殖を達成するためにRNA(LIP)による追加の処置によって補うことは、少なくとも2つの異なるシナリオ:1)GMP製造されたCAR T細胞産物の低い収率(例えば、最初のアフェレーシスにおけるリンパ球数の低さもしくは他の影響力のない理由に起因する)、または2)開始時のCAR T細胞用量を減少させることによるSAEの回避(特に、必要なCARが毒性を引き起こすことが公知である場合、もしくはヒト初回用量漸増試験の場合)のために非常に有用であり得る。
【0320】
本明細書で引用されるありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明を特定の実施形態を参照して開示してきたが、本発明の他の実施形態および変形が、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような全ての実施形態および等価な変形を含むと解釈されることを意図している。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
【配列表】
2022520059000001.app
【国際調査報告】